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審決分類 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  D06M
審判 一部申し立て 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降)  D06M
審判 一部申し立て 2項進歩性  D06M
管理番号 1344848
異議申立番号 異議2017-701239  
総通号数 227 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-11-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-12-27 
確定日 2018-09-06 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6154127号発明「補強用炭素繊維束の製造方法およびそれを用いた炭素繊維複合材料の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6154127号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔5-7〕、8、〔9-10〕、11、12、13、14について訂正することを認める。 特許第6154127号の請求項1、3、5?14に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6154127号の請求項1?10に係る出願は、平成24年12月20日に特許出願され、平成29年6月9日にその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人東レ株式会社(以下「本件申立人」という。)から、平成29年12月27日に請求項1、3、5?10に係る特許に対して特許異議の申立て(以下「本件申立て」という。)がされ、平成30年3月2日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年4月27日に意見書の提出及び訂正の請求がなされ、その訂正の請求(以下「本件訂正」という。本件訂正により、請求項の数は14になった。)に対して、同年6月13日に本件申立人から意見書の提出がなされたものである。

第2 本件訂正について
1 訂正事項(決定注:訂正箇所を示す下線は、当審で付した。)
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項5、第1行目に「超えるものである」とあるのを、「超えるものであり、サイジング液中の樹脂成分が共重合樹脂である」に訂正する(請求項5の記載を引用する請求項6、7も同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項6、第1行目に「以上である」とあるのを、「以上であり、炭素繊維束の長さが10?100mmである」に訂正する(請求項6の記載を引用する請求項7も同様に訂正する。)。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項7、第1、2行目に「高いものである」とあるのを、「高いものであり、炭素繊維束が抄紙用であることを除く」に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項8に「請求項1?7のいずれか1項記載の」とあるうち、請求項1を引用するものについて、当該請求項1の記載を引用しないものに改め、さらに「炭素繊維束にサイジング液を付与し加熱処理する炭素繊維束の製造方法であって、サイジング液が樹脂成分を含有し、当該樹脂成分が25℃では固体であって、加熱処理を行う温度においては、せん断速度1216s^(-1)の条件下における粘度が150Pa・s未満であり、サイジング液中の樹脂成分が共重合体樹脂である」に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項9、第1行目に「炭素繊維束が等方性の不連続繊維である請求項8記載の」とあるうち、訂正前の請求項8を引用するものについて、引用形式を書き下し、かつ訂正前に「請求項1?7」と引用していた引用請求項番号から、今回の訂正対象である「請求項5?7」を削除し、今回の訂正対象外の「請求項1?4」のみの引用に改め、さらに「請求項1?4のいずれか1項記載の製造方法により得られる炭素繊維束と樹脂を加熱して加圧成形する炭素繊維複合材料の製造方法であって、炭素繊維束が等方性の不連続繊維であり、炭素繊維束の長さが10?100mmである」に訂正する(請求項9の記載を引用する請求項10も同様に訂正する。)。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項8に「請求項1?7のいずれか1項記載の炭素繊維束と樹脂を」とあるうち、請求項1を引用する請求項3を引用するものについて、当該請求項3の記載を引用しないものに改め、さらに「炭素繊維束にサイジング液を付与し加熱処理する製造方法であって、サイジング液が樹脂成分を含有し、当該樹脂成分が25℃では固体であって、サイジング液中の樹脂成分が熱可塑性樹脂であり、加熱処理を行う温度においては、せん断速度1216s^(-1)の条件下における粘度が150Pa・s未満である製造方法により得られる炭素繊維束と樹脂をマット形状とし、その後加熱して加圧成形する」に訂正し、新たに請求項11とする。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項8に「請求項1?7のいずれか1項記載の」とあるうち、請求項1を引用する請求項5を引用するものについて、当該請求項5の記載を引用しないものに改め、さらに「炭素繊維束にサイジング液を付与し加熱処理する炭素繊維束の製造方法であって、サイジング液が樹脂成分を含有し、当該樹脂成分が25℃では固体であって、加熱処理を行う温度においては、せん断速度1216s^(-1)の条件下における粘度が150Pa・s未満であり、炭素繊維束に対するサイジング液の付着量が乾燥重量で0.1重量%を超えるものであり、サイジング液中の樹脂成分が共重合樹脂である製造方法により得られる炭素繊維束と樹脂を加熱して加圧成形する」に訂正し、新たに請求項12とする。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項8に「請求項1?7のいずれか1項記載の」とあるうち、請求項1を引用する請求項6を引用するものについて、当該請求項6の記載を引用しないものに改め、さらに「炭素繊維束にサイジング液を付与し加熱処理する炭素繊維束の製造方法であって、サイジング液が樹脂成分を含有し、当該樹脂成分が25℃では固体であって、加熱処理を行う温度においては、せん断速度1216s^(-1)の条件下における粘度が150Pa・s未満であり、加熱処理温度が120℃以上であり、炭素繊維束の長さが10?100mmである製造方法により得られる炭素繊維束と樹脂を加熱して加圧成形する」に訂正し、新たに請求項13とする。
(9)訂正事項9(当審注:訂正請求書と訂正特許請求の範囲が合致しないので、訂正特許請求の範囲の記載に合わせて訂正事項9を修正している。)
特許請求の範囲の請求項8に「請求項1?7のいずれか1項記載の製造方法により得られる炭素繊維束と樹脂を加熱して加圧成形する」とあるうち、請求項1を引用する請求項7を引用するものについて、当該請求項7の記載を引用しないものに改め、さらに、「炭素繊維束にサイジング液を付与し加熱処理する炭素繊維束の製造方法であって、サイジング液が樹脂成分を含有し、当該樹脂成分が25℃では固体であって、加熱処理を行う温度においては、せん断速度1216s^(-1)の条件下における粘度が150Pa・s未満であり、加熱処理温度が、サイジング液中の樹脂成分の融点よりも60度以上高いものである製造方法により得られる炭素繊維束と樹脂を加熱して加圧成形する(ただし抄紙工程を経るものを除く)」に訂正し、新たに請求項14とする。
2 訂正の理由、適合性
(1)一群の請求項についての説明
訂正事項1から9に係る訂正前の請求項5?10について、訂正前の請求項6?10はそれぞれその前に記載されたいずれかの請求項を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項5に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項5?10に対応する訂正後の請求項5?14は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
(2)訂正要件について
ア 独立特許要件について
上記訂正事項1?9は、いずれも、本件申立ての対象となった請求項についての訂正であるから、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する第126条第7項の独立特許要件は課されない。
イ 訂正事項1
(ア)訂正の目的について
訂正前の請求項5に係る特許発明は、サイジング液中の「樹脂成分」について特定されていない。
これに対して、訂正後の請求項5は「サイジング液中の樹脂成分が共重合樹脂である」との記載により、訂正後の請求項5に係る発明におけるサイジング液中の「樹脂成分」を具体的に特定し、限定するものである。すなわち、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記(ア)の理由から明らかなように、訂正事項1は、引用請求項に記載の「樹脂成分」との発明特定事項を限定的に減縮するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。
また、訂正事項1は、訂正前の請求項5の記載以外に、訂正前の請求項6、7の記載について訂正するものではなく、訂正後の請求項6、7のカテゴリーや対象目的を変更するものではない。
(ウ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項1は、願書に添付した明細書中の発明の詳細な説明に基づいて導き出される構成である。
具体的には明細書の段落【0016】、第5行目に「樹脂成分としては、共重合樹脂であることが好ましい。」との記載がされていることから、当該訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
ウ 訂正事項2
(ア)訂正の目的について
訂正前の請求項6に係る特許発明は、炭素繊維束の「長さ」について特定されていない。これに対して、訂正後の請求項6は「炭素繊維束の長さが10?100mmである」との記載により、訂正後の請求項6に係る発明における炭素繊維束の「長さ」を具体的に特定し、限定するものである。すなわち、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記(ア)の理由から明らかなように、訂正事項2は、引用請求項1に記載の「炭素繊維束」との発明特定事項を限定的に減縮するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。
また、訂正事項2は、訂正前の請求項6の記載以外に、訂正前の請求項7の記載について訂正するものではなく、訂正後の請求項7のカテゴリーや対象目的を変更するものではない。
(ウ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項2は、願書に添付した明細書中の発明の詳細な説明に基づいて導き出される構成である。
具体的には明細書の段落【0045】、第6、7行目に「本発明の炭素繊維束の平均繊維長としては、2?100mm以下が好ましく、さらには10?80mmであり、」との記載がされていることから、当該訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
エ 訂正事項3
(ア)訂正の目的について
本件発明の明細書には引用例1(特開2010-37669(甲1))及び引用例2(特開2011-168945(甲2))にて用いられている「抄紙」や「湿式(抄紙)」の用語は全く用いられていない。
訂正事項3は、請求項7に係る発明から、引用発明である引用例1及び2に記載の発明を明確に除外するために、「炭素繊維束が抄紙用であることを除く」との、いわゆる「除くクレーム」とする訂正を行うものである。
ここで「除くクレーム」とは、請求項に記載した事項の記載表現を残したままで、請求項に係る発明に包含される一部の事項のみをその請求項に記載した事項から除外することを明示した請求項をいう。
すなわち、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記aの理由から明らかなように、訂正事項3は、「除くクレーム」であり、発明特定事項を限定的に減縮するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。
(ウ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項3の「除くクレーム」は、訂正前の請求項に記載した事項の記載表現を残したままで、訂正により当初明細書等に記載した事項を除外するものである。そしてこの訂正は、引用発明の内容となっている特定の事項を除外するものの、訂正前の明細書等から導かれる技術的事項に何らかの変更を生じさせるものとはいえず、新たな技術的事項を導入しないものである。
すなわち当該訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
オ 訂正事項4
(ア)訂正の目的について
訂正事項4は、訂正前の請求項8が請求項1乃至7を引用する記載であるところ、請求項2及び4を引用しないものとした上で、請求項1を引用するものについて請求項間の引用関係を解消して、独立形式請求項へ改めるための訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正である。
さらに、訂正前の請求項8に係る特許発明は、サイジング液中の「樹脂成分」について特定されていない。
これに対して、訂正後の請求項8は「サイジング液中の樹脂成分が共重合樹脂である」との記載により、訂正後の請求項8に係る発明(以下、「訂正発明8」という。)におけるサイジング液中の「樹脂成分」を具体的に特定し、限定するものである。すなわち、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記(ア)の理由から明らかなように、訂正事項4において「樹脂成分」との発明特定事項を、「サイジング液中の樹脂成分が共重合樹脂である」へと訂正したことは、特定事項を限定的に減縮するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
また、同時に訂正事項4において「請求項1?7のいずれか1項記載」との発明特定要件を「請求項1記載」に減縮し、具体的には「炭素繊維束にサイジング液を付与し加熱処理する炭素繊維束の製造方法であって、サイジング液が樹脂成分を含有し、当該樹脂成分が25℃では固体であって、加熱処理を行う温度においては、せん断速度1216s^(-1)の条件下における粘度が150Pa・s未満であり」へと訂正したことは、請求項間の引用関係を解消し、請求項1を引用しないものとし、独立形式請求項へ改めるための訂正である。
したがって訂正事項4は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。
(ウ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項4において「樹脂成分」との発明特定事項を、「サイジング液中の樹脂成分が共重合樹脂である」へと訂正したことは、明細書第【0016】項、第4行目に「樹脂成分としては、共重合樹脂であることが好ましい。」との記載がされていることから、当該訂正事項は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
カ 訂正事項5
(ア)訂正の目的について
訂正前の請求項9に係る特許発明は、「等方性の不連続繊維」について、その詳細は特定されていない。
これに対して、訂正後の請求項9は「炭素繊維束が等方性の不連続繊維であり、炭素繊維束の長さが10?100mmである」との記載により、訂正後の請求項9に係る発明(以下、「訂正発明9」という。)における「等方性の不連続繊維」の長さを具体的に特定し、限定するものである。
さらに訂正事項5は、訂正前の請求項9が訂正前の請求項8を引用する記載であるところ、訂正前の請求項8が引用する「請求項1?7」から今回訂正事項1?4の対象である請求項5?7を削除し、さらにその請求項8が今回の訂正対象請求項であるので、引用する形式から引用しない形式に書き下す訂正である。
すなわち、訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
b 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記aの理由から明らかなように、訂正事項5において「等方性の不連続繊維」との発明特定事項を、「炭素繊維束が等方性の不連続繊維であり、炭素繊維束の長さが10?100mmである」へと訂正したことは、特定事項を限定的に減縮するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
また、同時に訂正事項5において「請求項8記載の」との発明特定要件を、「請求項1?4のいずれか1項記載の製造方法により得られる炭素繊維束と樹脂を加熱して加圧成形する炭素繊維複合材料の」へと訂正したことは、請求項8が今回の訂正対象請求項であるので、引用する形式から引用しない形式に書き下す訂正であり、同時に今回の訂正対象請求項である請求項5?7を引用しないものとするための訂正である。
したがって訂正事項5は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。
また、訂正事項5は、訂正前の請求項9の記載以外に、訂正前の請求項10の記載について訂正するものではなく、訂正後の請求項10のカテゴリーや対象目的を変更するものではない。
c 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項5において「等方性の不連続繊維」との発明特定事項を、「炭素繊維束が等方性の不連続繊維であり、炭素繊維束の長さが10?100mmである」へと訂正したことは、明細書第【0045】項、第6、7行目に「本発明の炭素繊維束の平均繊維長としては、2?100mm以下が好ましく、さらには10?80mmであり、」との記載がされていることから、当該訂正事項は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
キ 訂正事項6
(ア)訂正の目的について
訂正事項6は、訂正前の請求項8が請求項1乃至7を引用する記載であるところ、請求項2及び4を引用しないものとした上で、訂正前の請求項3のうち、訂正前の請求項1を引用する請求項3を引用するものについて請求項間の引用関係を解消して、独立形式請求項11へ改めるための訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正である。
さらに、訂正前の請求項8に係る特許発明は、加熱前の「炭素繊維束と樹脂」の形状については特定されていない。
これに対して、訂正後の請求項11は「炭素繊維束と樹脂をマット形状とし、その後」との記載により、訂正後の請求項11に係る発明(以下、「訂正発明11」という。)における加熱前の「炭素繊維束と樹脂」の形状を具体的に特定し、限定するものである。すなわち、訂正事項6は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記(ア)の理由から明らかなように、訂正事項6において加熱前の「炭素繊維束と樹脂」との発明特定事項を、「炭素繊維束と樹脂をマット形状とし、その後」へと訂正したことは、特定事項を限定的に減縮するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
また、同時に訂正事項6において「請求項1?7のいずれか1項記載の製造方法により得られる」との発明特定要件を「請求項1を引用する請求項3記載の製造方法により得られる」に減縮し、具体的には「炭素繊維束にサイジング液を付与し加熱処理する炭素繊維束の製造方法であって、サイジング液が樹脂成分を含有し、当該樹脂成分が25℃では固体であって、サイジング液中の樹脂成分が熱可塑性樹脂であり、加熱処理を行う温度においては、せん断速度1216s^(-1)の条件下における粘度が150Pa・s未満である製造方法により得られる」へと訂正したことは、請求項間の引用関係を解消し、請求項1及び請求項3を引用しないものとし、独立形式請求項へ改めるための訂正である。
したがって訂正事項6は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。
(ウ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項6において「炭素繊維束と樹脂」との発明特定事項を、「炭素繊維束と樹脂をマット形状とし、その後」へと訂正したことは、明細書第【0046】項、第1、2行目に「補強用の炭素繊維をランダムに配置されるためには、炭素繊維束を拡幅し不連続繊維にカットした後にマット形状としたものであることが好ましい。」との記載や、明細書第【0048】項、第1、2行目に「このような本発明の炭素繊維束を用いたランダムマットは、開繊されランダムに配向した炭素繊維束と熱可塑性樹脂からなるマット状の材料である。」との記載がされていることを根拠とし、当該訂正事項は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
ク 訂正事項7
(ア)訂正の目的について
訂正事項7は、訂正前の請求項8が請求項1乃至7を引用する記載であるところ、請求項2及び4を引用しないものとした上で、訂正前の請求項8のうち、訂正前の請求項1を引用する請求項5を引用するものについて請求項間の引用関係を解消して、独立形式請求項12へ改めるための訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正である。
さらに、訂正前の請求項8に係る特許発明は、サイジング液中の「樹脂成分」について特定されていない。
これに対して、訂正後の請求項12は「サイジング液中の樹脂成分が共重合樹脂である」との記載により、訂正後の請求項12に係る発明(以下、「訂正発明12」という。)におけるサイジング液中の「樹脂成分」を具体的に特定し、限定するものである。すなわち、訂正事項7は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
b 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記(ア)の理由から明らかなように、訂正事項7において「樹脂成分」との発明特定事項を、「サイジング液中の樹脂成分が共重合樹脂である」へと訂正したことは、特定事項を限定的に減縮するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
また、同時に訂正事項7において「請求項1?7のいずれか1項記載の」との発明特定要件を「請求項1を引用する請求項5記載の」に減縮し、具体的には「炭素繊維束にサイジング液を付与し加熱処理する炭素繊維束の製造方法であって、サイジング液が樹脂成分を含有し、当該樹脂成分が25℃では固体であって、加熱処理を行う温度においては、せん断速度1216s^(-1)の条件下における粘度が150Pa・s未満であり、炭素繊維束に対するサイジング液の付着量が乾燥重量で0.1重量%を超えるものであり」へと訂正したことは、請求項間の引用関係を解消し、請求項1及び請求項5を引用しないものとし、独立形式請求項へ改めるための訂正である。
したがって訂正事項7は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。
(ウ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項7において「樹脂成分」との発明特定事項を、「サイジング液中の樹脂成分が共重合樹脂である」へと訂正したことは、明細書第【0016】項、第4行目に「樹脂成分としては、共重合樹脂であることが好ましい。」との記載がされていることから、当該訂正事項7は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
ケ 訂正事項9
(ア)訂正の目的について
訂正事項9は、訂正前の請求項8が請求項1乃至7を引用する記載であるところ、請求項2及び4を引用しないものとした上で、訂正前の請求項8のうち、訂正前の請求項1を引用する請求項7を引用するものについて請求項間の引用関係を解消して、独立形式請求項14へ改めるための訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正である。
さらに、本件発明の明細書には引用例1(甲1)、及び引用例2(甲2)にて用いられている「抄紙」や「湿式(抄紙)」の用語は全く用いられていない。
訂正事項9は、訂正後の請求項14に係る発明から、引用発明である引用例1及び2に記載の発明を明確に除外するために、「(ただし抄紙工程を経るものを除く)」との、いわゆる「除くクレーム」とする訂正を行うものである。
ここで「除くクレーム」とは、請求項に記載した事項の記載表現を残したままで、請求項に係る発明に包含される一部の事項のみをその請求項に記載した事項から除外することを明示した請求項であって、訂正事項9は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと、および願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記(ア)の理由から明らかなように、訂正事項9は、「除くクレーム」であるから発明特定事項を限定的に減縮するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。
また、同時に訂正事項9において「請求項1?7のいずれか1項記載の」との発明特定要件を「請求項1を引用する請求項7記載の」に減縮し、具体的には「炭素繊維束にサイジング液を付与し加熱処理する炭素繊維束の製造方法であって、サイジング液が樹脂成分を含有し、当該樹脂成分が25℃では固体であって、加熱処理を行う温度においては、せん断速度1216s^(-1)の条件下における粘度が150Pa・s未満であり、加熱処理温度が、サイジング液中の樹脂成分の融点よりも60度以上高いものである」へと訂正したことは、請求項間の引用関係を解消し、請求項1及び請求項8を引用しないものとし、独立形式請求項へ改めるための訂正である。
したがって訂正事項9は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。
(ウ)また、当該訂正事項9における「加熱処理温度が、サイジング液中の樹脂成分の融点よりも60度以上高い」点は、本件明細書の段落【0008】に記載されており、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
(3)別の訂正単位とする求め
訂正後の請求項8?14については、訂正前の請求項5?7との引用関係の解消を目的とする訂正であるとして、訂正後の請求項8?14について訂正が認められる場合には、訂正前の請求項5?7とは別途訂正することが求められている。
(4)まとめ
上記(1)?(3)で検討したように、訂正事項1?9は、訂正要件に適合すると認められるから、訂正後の請求項〔5-7〕、8、〔9-10〕、11、12、13、14について訂正を認める。

第3 本件申立てについて
1 本件発明
上記第2において検討したように、本件訂正は認められるから、本件発明1?14は以下のとおりのものである。(決定注:訂正箇所に下線を付した)
「【請求項1】
炭素繊維束にサイジング液を付与し加熱処理する炭素繊維束の製造方法であって、サイジング液が樹脂成分を含有し、当該樹脂成分が25℃では固体であって、加熱処理を行う温度においては、せん断速度1216s^(-1)の条件下における粘度が150Pa・s未満であることを特徴とする炭素繊維束の製造方法。
【請求項2】
熱処理後の炭素繊維束の風合い値が70g以上200g以下である請求項1に記載の炭素繊維束の製造方法。
【請求項3】
サイジング液中の樹脂成分が熱可塑性樹脂である請求項1または2に記載の炭素繊維束の製造方法。
【請求項4】
サイジング液中の樹脂成分がポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂またはポリカーボネート樹脂である請求項1?3のいずれか1項に記載の炭素繊維束の製造方法。
【請求項5】
炭素繊維束に対するサイジング液の付着量が乾燥重量で0.1重量%を超えるものであり、サイジング液中の樹脂成分が共重合樹脂である請求項1?4のいずれか1項記載の炭素繊維束の製造方法。
【請求項6】
加熱処理温度が120 ℃以上であり、炭素繊維束の長さが10?100mmである請求項1?5のいずれか1項記載の炭素繊維束の製造方法。
【請求項7】
加熱処理温度が、サイジング液中の樹脂成分の融点よりも60度以上高いものであり、炭素繊維束が抄紙用であることを除く請求項1?6のいずれか1項記載の炭素繊維束の製造方法。
【請求項8】
炭素繊維束にサイジング液を付与し加熱処理する炭素繊維束の製造方法であって、サイジング液が樹脂成分を含有し、当該樹脂成分が25℃では固体であって、加熱処理を行う温度においては、せん断速度1216s^(-1)の条件下における粘度が150Pa・s未満であり、サイジング液中の樹脂成分が共重合体樹脂である製造方法により得られる炭素繊維束と樹脂を加熱して加圧成形する炭素繊維複合材料の製造方法。
【請求項9】
請求項1?4のいずれか1項記載の製造方法により得られる炭素繊維束と樹脂を加熱して加圧成形する炭素繊維複合材料の製造方法であって、炭素繊維束が等方性の不連続繊維であり、炭素繊維束の長さが10?100mmである炭素繊維複合材料の製造方法。
【請求項10】
炭素繊維束が、拡幅し不連続繊維にカットした後にマット形状としたものである請求項9記載の炭素繊維複合材料の製造方法。
【請求項11】
炭素繊維束にサイジング液を付与し加熱処理する製造方法であって、サイジング液が樹脂成分を含有し、当該樹脂成分が25℃では固体であって、サイジング液中の樹脂成分が熱可塑性樹脂であり、加熱処理を行う温度においては、せん断速度1216s^(-1)の条件下における粘度が150Pa・s未満である製造方法により得られる炭素繊維束と樹脂をマット形状とし、その後加熱して加圧成形する炭素繊維複合材料の製造方法。
【請求項12】
炭素繊維束にサイジング液を付与し加熱処理する炭素繊維束の製造方法であって、サイジング液が樹脂成分を含有し、当該樹脂成分が25℃では固体であって、加熱処理を行う温度においては、せん断速度1216s^(-1)の条件下における粘度が150Pa・s未満であり、炭素繊維束に対するサイジング液の付着量が乾燥重量で0.1重量%を超えるものであり、サイジング液中の樹脂成分が共重合樹脂である製造方法により得られる炭素繊維束と樹脂を加熱して加圧成形する炭素繊維複合材料の製造方法。
【請求項13】
炭素繊維束にサイジング液を付与し加熱処理する炭素繊維束の製造方法であって、サイジング液が樹脂成分を含有し、当該樹脂成分が25℃では固体であって、加熱処理を行う温度においては、せん断速度1216s^(-1)の条件下における粘度が150Pa・s未満であり、加熱処理温度が120℃以上であり、炭素繊維束の長さが10?100mmである製造方法により得られる炭素繊維束と樹脂を加熱して加圧成形する炭素繊維複合材料の製造方法。
【請求項14】
炭素繊維束にサイジング液を付与し加熱処理する炭素繊維束の製造方法であって、サイジング液が樹脂成分を含有し、当該樹脂成分が25℃では固体であって、加熱処理を行う温度においては、せん断速度1216s^(-1)の条件下における粘度が150Pa・s未満であり、加熱処理温度が、サイジング液中の樹脂成分の融点よりも60度以上高いものである製造方法により得られる炭素繊維束と樹脂を加熱して加圧成形する(ただし抄紙工程を経るものを除く)炭素繊維複合材料の製造方法。
2 当審が通知した取消理由の概要
取消理由の概要は以下のとおりである。なお、本件申立てにおける本件申立人の主張した取消理由は、全て通知された。
(1)証拠の一覧(本件申立人が提示した甲第1号証を「甲1」などという。)
甲1:特開2010-37669号公報
甲2:特開2011-168945号公報
甲3:実験成績証明書、平成29年12月8日、東レ株式会社作成(甲1製造例5で用いられたサイジング剤のテキサノールPE-10F等の物性を示す)
甲4:結果報告書(1)、平成29年11月27日、株式会社DJK作成(テキサノールPE-10Fの物性)
甲5:新版高分子辞典、初版、334頁(熱可塑性樹脂の項)
甲6:実験成績証明書、平成29年12月8日、吉村油化学株式会社作成(テキサノールPE-10Fの物性)
甲7:結果報告書(2)、平成29年12月13日、株式会社DJK作成(甲2実施例6のサイジング剤水溶液(a-6)の物性)
甲8:実験成績証明書、平成29年12月6日、吉村油化学株式会社作成(甲2実施例6のサイジング剤水溶液(a-6)の物性)
甲9:実験成績証明書、平成29年12月6日、吉村油化学株式会社作成(甲2実施例6のサイジング剤水溶液(a-6)の物性)
(2)根拠条文
ア 本件特許の請求項1、3、5?14に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された甲1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
イ 本件特許の請求項1、3、5?7に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された甲2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
ウ 本件特許の請求項10に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である甲1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
エ 本件特許の請求項8?14に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された刊行物である甲2に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
3 甲1及び甲2に記載された事項
(1)甲1について
甲1には、以下の記載がある。
ア 請求項1
「炭素繊維基材の製造方法であって、水溶性ポリウレタンおよび/または水溶性ポリアミドが0.1?10質量%付着した炭素繊維束を分散媒体に投入する工程(I)、前記炭素繊維束を構成する炭素繊維が前記分散媒体中に分散したスラリーを調製する工程(II)、前記スラリーを輸送する工程(III)及び前記スラリーより分散媒体を除去して抄造し炭素繊維基材を得る工程(IV)の少なくとも4つの工程を有する炭素繊維基材の製造方法。」
イ 明細書の段落【0009】?【0010】
「本発明は、抄造時の炭素繊維の分散性に優れ、成形品とした場合に力学特性に優れる炭素繊維基材を短時間で得ることのできる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
本発明者らは検討を重ねた結果、炭素繊維束に水溶性ポリウレタンや水溶性ポリアミドを付着させたものを用いて炭素繊維ウェブを製造することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。」
ウ 同段落【0015】
「水溶性ポリウレタン、水溶性ポリアミドとは、それぞれ、水溶性のポリウレタン、ポリアミドを意味する。ポリウレタンとは分子中にウレタン結合(-NH-COO-)を有する分子を意味する。ポリアミドとは分子中にアミド結合(-NH-CO-)を有する分子を意味し、各種のナイロンが例示される。水溶性とは水に可溶である性質を意味する。水溶性ポリウレタン及び水溶性ポリアミドの好ましい例としては、水への溶解速度が5分以内のものであることが好ましい。水への溶解速度の測定は、例えば、一定厚みと面積のフィルム状物の水に試料を接触させ撹拌し(撹拌条件:直径100mmの円柱型1000mlビーカーに400mlの水を用意し、厚み0.05mm、縦30mm×横30mmのフィルム状物を投入し、200回転/分の速度で撹拌する)、フィルム状物が消滅するまでの時間から得ることができる。」
エ 同【0027】
「炭素繊維束は、連続した強化繊維から構成されるもの、あるいは不連続な炭素繊維から構成されるもののどちらでも良いが、より良好な分散状態を達成するためには、不連続な炭素繊維束が好ましく、チョップド炭素繊維がより好ましい。
また、炭素繊維束を構成する単繊維の本数には、特に制限はないが、生産性の観点からは24,000本以上が好ましく、48,000本以上がさらに好ましい。単繊維の本数の上限については特に制限はないが、分散性や取り扱い性とのバランスも考慮して、300,000本程度もあれば生産性と分散性、取り扱い性を良好に保つことができる。」
オ 同段落【0066】
「製造例2(A2:PAN系炭素繊維)
アクリロニトリル(AN)99.4モル%とメタクリル酸0.6モル%からなる共重合体を用いて、乾湿式紡糸方法により単繊維デニール1d、フィラメント数12,000のアクリル系繊維束を得た。得られたアクリル系繊維束を240?280℃の温度の空気中で、延伸比1.05で加熱し、耐炎化繊維に転換し、次いで窒素雰囲気中300?900℃の温度領域での昇温速度を200℃/分とし10%の延伸を行った後、1,300℃の温度まで昇温し焼成した。さらに浸漬法によりサイジング剤を付与し、120℃の温度の加熱空気中で乾燥しPAN系炭素繊維を得た。
総フィラメント数 12,000本
単繊維直径 7μm
単位長さ当たりの質量 0.8g/m
比重 1.8g/cm3
引張強度(注1) 4.2GPa
引張弾性率(注2) 230GPa
サイジング種類 水溶性ポリウレタン樹脂(吉村油化学(株)製“テキサノール”PE-10F)ポリエチレングリコールユニット(分子量4000)
サイジング付着量(注3) 1.5質量%
O/C(注4) 0.05」
カ 同段落【0072】
「(注3)サイジング剤の付着量の測定条件
試料として、サイジング剤が付着している炭素繊維約5gを採取し、耐熱性の容器に投入した。次にこの容器を120℃で3時間乾燥した。吸湿しないようにデシケーター中で注意しながら室温まで冷却後、秤量した質量をW_(1)(g)とした。続いて、容器ごと、窒素雰囲気中で、450℃で15分間加熱後、同様にデシケーター中で吸湿しないように注意しながら室温まで冷却後、秤量した質量をW_(2)(g)とした。以上の処理を経て、炭素繊維へのサイジング剤の付着量を次の式により求めた。
(式)付着量(質量%)=100×{(W_(1)-W_(2))/W_(2)}
なお、測定は3回行い、その平均値を付着量として採用した。」
キ 同段落【0076】
「・成形品力学特性の評価
抄紙により得られた炭素繊維ウェブを200mm×200mmに切り出して、120℃で1時間乾燥させた。乾燥後の炭素繊維ウェブと、酸変性ポリプロピレン樹脂フィルムFを、樹脂フィルムF/炭素繊維ウェブ/樹脂フィルムFとなるように3層積層した。この積層物を温度200℃、圧力30MPaで5分間プレス成形し、圧力を保持したまま50℃まで冷却して厚み0.12mmの炭素繊維強化樹脂シートを作製した。この樹脂シートを8枚積層し、温度200℃、圧力30MPaで5分間プレス成形し、圧力を保持したまま50℃まで冷却して厚み1.0mmの炭素繊維強化樹脂成形品を得た。得られた成形品を用いて、ISO178法(1993)に従い、曲げ強度をn=10で評価した。なお、曲げ強度の評価結果は実施例1を100として相対値で記載した。」
ク 同段落【0078】?【0079】
「(実施例1)
炭素繊維A1をカートリッジカッターで6.4mmにカットし、チョップド炭素繊維(A1-1)を得た。
チョップド炭素繊維A1-1に水溶性ポリウレタンを1.5質量%付着させた。かかる水溶性ポリウレタンが付着した炭素繊維束から、炭素繊維基材を製造した。」
ケ 同段落【0080】
「製造には図9に示す装置03を用いた。製造装置03は、分散槽11としての直径300mmの円筒形状の容器、底部に幅200mmの抄紙面19を有するメッシュコンベア21を備える抄紙槽12、分散槽11と抄紙槽12とを接続する直線状の輸送部(傾斜角45°)13、メッシュコンベア21に接続し、炭素繊維ウェブ(炭素繊維基材)20を運搬可能なコンベア22炭素繊維ウェブを備えている。分散槽11は上面に2つの開口部(広口開口部23、狭口開口部24)を備える凹型形状をしており、撹拌機16が広口開口部23側に設置されており、狭口開口部24から炭素繊維束17および分散液(分散媒体)18を投入可能である。」
コ 同段落【0081】
「水と界面活性剤(ナカライテクス(株)製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(商品名))からなる濃度0.1質量%の分散液を作成した。分散槽内へ、前記分散液と前記繊維束の投入を開始した(工程(I))。製造中、分散槽中のスラリー中の炭素繊維濃度が一定濃度になるように、かつ、分散槽内のスラリーの液面の高さH1が一定となるように投入量を調整しながら、連続的に上記分散液とチョップド炭素繊維投入を継続した。容器への原料の投入開始とともに撹拌を開始し、スラリーを調製した(工程(II))。スラリーが40リットル溜まった時点で容器下部の開口コックを開放調整し、輸送部を介して抄紙槽に流し込んだ(工程(III))。このとき、分散槽内のスラリー液面の高さH1は抄紙槽内のスラリー液面H2よりも50cmだけ高い位置にあった。該スラリーから水を吸引して、10m/分の速度で引き取り、幅200mmの炭素繊維ウェブを連続的に得た(工程(IV))。炭素繊維ウェブの目付は20g/m^(2)であった。」
サ 同段落【0088】
「(実施例5)
炭素繊維A2をカートリッジカッターで6.4mmにカットし、チョップド炭素繊維(A2-1)を得た。
チョップド炭素繊維A1-1に代えてチョップド炭素繊維A2-1を用いたほかは、実施例1と同様に行った。実施条件および得られた炭素繊維ウェブの評価結果を、表1に示した。」
シ 同段落【0092】、表1



(2)甲2について
甲2には、次の記載がある。
ア 請求項1
「炭素繊維とサイジング剤を有してなる炭素繊維束において、前記サイジング剤は、ポリオキシアルキレンユニット73?98質量%、芳香族エステルユニット0.5?15質量%、芳香族ウレタンユニット1.5?10質量%含んでなるものでなり、該サイジング剤が前記炭素繊維に0.5?7質量%の割合で付着している炭素繊維束。」
イ 請求項8
「前記炭素繊維束が繊維長1?20mmのチョップド繊維である、請求項1?7のいずれかに記載の炭素繊維束。」
ウ 明細書段落【0014】
「本発明の目的は、繊維束を製造、加工する際の取り扱い性が良好であり、集束性に優れ、かつ高濃度でも水系分散媒中の開繊性に優れる炭素繊維束を提供することにある。」
エ 同段落【0050】
「本発明のサイジング剤が付着した炭素繊維束は、集束性および水系分散媒中での開繊性に優れているため、抄紙工程により単繊維レベルで均一に分散した炭素繊維シートを得ることができる。本炭素繊維シートは、電極材、面状発熱体、静電気除去シート等に好適に利用することができる。また、公知の樹脂を母材として、力学特性および導電特性に優れた炭素繊維複合材料を作ることができる。」
オ 同段落【0058】?【0060】
「参考例1 サイジング剤水溶液(a-1)の調製
エチレングリコール2モルとテレフタル酸1モルを180℃で加熱撹拌し、酸価が1以下になるまで脱水縮合し、テレフタル酸ビス(2-ヒドロキシエチル)(BHET)を得た。
ポリエチレングリコール(PEG)(重量平均分子量6200)96.2重量部、BHET 0.99重量部を120℃に加熱し、トリレンジイソシアネート(TDI)2.86重量部を加えて撹拌し、アルキレングリコール/芳香族エステル/芳香族ウレタン重付加体を得た。
得られた重付加体を水で濃度10%に薄めて、サイジング剤水溶液(a-1)を得た。」
カ 同段落【0065】
「参考例6 サイジング剤水溶液(a-6)の調製
PEG(重量平均分子量7000)90.3重量部、BHET 4.92重量部、TDI 4.76重量部を用いた以外は、参考例1と同様にしてサイジング剤水溶液(a-6)を得た。」
キ 同段落【0089】
「実施例1
参考例1のサイジング剤水溶液(a-1)を濃度3.5%に調整した水溶液に炭素繊維連続束(東レ(株)製T700S-12K)を浸漬してサイジング剤を付着させ、熱風乾燥機により210℃で1分間乾燥した。得られたサイジング剤を付着した炭素繊維束を6mm長にカットし、チョップド繊維を得た。得られた炭素繊維束は、ボビン巻き取り性や毛羽などに問題はなく、取り扱い性は良好であった。得られた炭素繊維束の特性評価はまとめて表1に示した。」
ク 同段落【0094】
「実施例6
サイジング剤水溶液として、参考例6のサイジング剤(a-6)を用いた以外は、実施例1と同様にしてチョップド繊維を得た。得られた炭素繊維束は、ボビン巻き取り性や毛羽などに問題はなく、取り扱い性は良好であった。得られた炭素繊維束の特性評価はまとめて表1に示した。」
ケ 同段落【0124】、表1



4 検討
(1)「樹脂成分」及び「熱処理」について
本件明細書には、樹脂成分及び熱処理に関して、以下の記載がある。
ア 段落【0004】
「・・・一般的な熱処理温度(80℃?200℃)・・・」
イ 段落【0014】
「本発明で用いられるサイジング液としては樹脂成分を含有することが必要である。さらには、この本発明に用いられるサイジング液中の樹脂成分としては熱可塑性樹脂であることが好ましい。特に樹脂成分が熱可塑性樹脂である場合には、コンポジット化した後でも再加熱などによりコンポジットの成形性が悪化しにくいことにより、リサイクル可能となる利点がある。具体的に好ましい樹脂を例示すると、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル-スチレン樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリル‐ブタジエン‐スチレン樹脂(ABS樹脂)、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ボリブチレンテレフタレート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリイミド樹脂、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。これらに示したものの共重合体や変性体、それらを含むものを2つ以上混合して使用してもよい。また特にこれらに示したものが、サイジング剤成分として、水中の分散体として存在することが好ましい。」
ウ 段落【0020】
「本発明では150Pa・s未満の低い粘度となる温度域での加熱処理を施しているため、繊維上にサイジング剤を構成する樹脂が濡れ拡がり、さらに後に複合体を作成する際に、マトリックス樹脂との含浸性が向上するという効果を有する。さらにこのような粘度であれば、繊維束の表面にて溶けたサイジング剤樹脂成分が各単繊維に付着することができ、繊維束の風合いを最適なものとすることが可能となる。ただし粘度が低すぎる場合には逆に薄く広がりすぎて風合いが柔らかくなり、好ましくない傾向にある。樹脂が濡れ拡がることで風合い値がやや低くなる場合には、サイジング剤の付着量を少し上げることで調整することが好ましい。」
エ 段落【0022】
「本発明の炭素繊維束の製造方法では、上記のように熱処理温度における樹脂粘度をせん断速度1216s^(-1)のときに150Pa・s未満とすることをその必須要件としており、例えば剤を構成する成分に共重合体を採用するなどして、樹脂の融点を低下させることが好ましい。本発明においては、このように低粘度となる熱処理温度で処理することにより、サイジング液中の剤固形分の繊維への濡れ性を、有効に調整しうるのである。」
オ 段落【0036】
「本発明の炭素繊維束の製造方法においては、繊維束表面にサイジング液を付与した後に炭素繊維束を乾燥させる。乾燥処理によって、サイジング液を付与した炭素繊維束から、水分を除去するのである。また乾燥処理の前の工程として、水分を一部除去するために、風乾、遠心分離などの工程を補助的に採用することも好ましい方法である。」
カ 段落【0037】
「本発明の炭素繊維束の製造方法では、乾燥処理工程として加熱処理工程を採用するが、この工程によりサイジング処理後の炭素繊維束から水分を除去することに加え、サイジング液中の樹脂成分によって炭素繊維の表面を均一に被覆し、剤成分を分散させることができるのである。または、本発明の加熱処理の具体的な加熱手段としては、例えば、熱風、熱板、加熱ローラー、赤外線ヒーターなどを使用することができる。このとき熱処理温度や熱処理時間を制御することにより、所望の範囲の水分量となる炭素繊維束が得られる。通常熱処理温度としては120℃?320℃程度であることが好ましい。・・・」
キ 段落【0038】
「なお、本発明の加熱処理前に物温60℃?170℃程度であらかじめ余分な水分等の溶媒を除去しておくことも好ましい。この温度域を採用することにより、サイジング液中の樹脂や炭素繊維束を何ら劣化させることなく予備処理することができる。この予備的な熱処理温度としては、使用するサイジング液中の剤の熱分解温度より低い温度であることが好ましい。本発明の製造方法では、加熱処理をこの予備処理後に行うことも好ましい態様の一つである。」
ク 段落【0070】
「[実施例1]
(サイジング液(1)の調整)
サイジング液中の樹脂成分として、粒径(D50)0.35μmの三元共重合ポリアミドを含有する水性分散液1を希釈し、最終的に水1000重量部に対して樹脂成分が18重量部(内エチレン-アクリル酸共重合体が1.6重量部)となるようにして攪拌し、サイジング液用のエマルジョン溶液を調製した。
得られたエマルジョン溶液に、ノニオン系界面活性剤を樹脂固形分を100としたときに5重量部となるように添加後、攪拌し、融点130℃、粒径(D50)0.35μmのポリアミド樹脂組成物を含有するサイジング液(1)とした。」
ケ 段落【0071】
「(炭素繊維束の作成)
得られたサイジング液(1)を、サイジング浴内で攪拌しながら、未サイジングの炭素繊維ストランド(東邦テナックス株式会社製、「テナックスSTS-24K N00」、直径7μm×24000フィラメント、繊度1.6g/m、引張強度4000MPa(408kgf/mm^(2))、引張弾性率238GPa(24.3ton/mm^(2)))を連続的に浸漬させ、フィラメント間にサイジング液を含浸させた。
これを乾燥および熱処理として、設定温度300℃の乾燥炉に約120秒間通し、幅約11mmの炭素繊維束を得た。
得られた炭素繊維束中の全サイジング液の固形分付着量は、炭素繊維100重量部に対して、0.65重量部であった。また、この炭素繊維束の風合い値を測定したところ、145gであった。
また、熱処理温度300℃でのキャピログラフを用いて測定したサイジング液中樹脂成分の粘度は、せん断速度1216s^(-1)のときに10Pa・s以下と測定限界以下であった。」
(2)本件明細書の上記(1)カ及びケにおいては、加熱処理によって乾燥と同時に加熱処理が行われるとしても、「乾燥処理」と「加熱処理」とが区別されていることがわかる。上記(1)オに記載のように「乾燥処理」は、水分を蒸発させる工程であり、上記(1)カに記載のように「加熱処理」は、炭素繊維上にサイジング剤を構成する樹脂が均一に濡れ拡がるための処理であると解することができる。
(3)これに対して、本件申立人が加熱処理であると主張する、甲1における上記3(1)オのサイジング剤付与後の120℃の温度の加熱空気中での乾燥及び甲2における上記3(2)キの熱風乾燥機による210℃、1分間の処理は、いずれもサイズ剤を乾燥させるための処理であると認められる。そうすると、甲1及び甲2においては、「乾燥処理」の記載はあっても、「加熱処理」については、記載されていないことになる。
(4)そうすると、甲1及び甲2からは、「加熱処理を行う温度」がそもそも認定できないことになる。
(5)本件申立人は、甲3により、甲1におけるテキサノールPE-10Fの120℃での粘度を実験により確認し、甲7により、甲2における実施例6のサイジング液中の樹脂成分の210℃での粘度を実験により確認しているが、これらの実験が正確であったとしても、これらの温度が、「加熱処理を行う温度」であるといえないから、本件発明1における「加熱処理を行う温度においては、せん断速度1216s^(-1)の条件下における粘度が150Pa・s未満である」樹脂の存在を立証できていない。したがって、本件発明1は、甲1または甲2に記載されたものではなく、また、甲1または甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
(6)本件発明3、5?14も、本件発明1と同様に「加熱処理を行う温度においては、せん断速度1216s^(-1)の条件下における粘度が150Pa・s未満である」樹脂を構成として含む以上、甲1、甲2に記載されたもの、または、甲1、甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
(7)以上から、本件発明1、3、5?14は、いずれも、特許法第29条第1項第3号に規定された発明に該当せず、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない発明ともいえないから、特許法第113条2号に該当せず、それらに係る特許を取り消すことはできない。

第4 むすび
したがって、請求項1、3、5?14に係る特許は、取消理由に記載した取消理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1、3、5?14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維束にサイジング液を付与し加熱処理する炭素繊維束の製造方法であって、サイジング液が樹脂成分を含有し、当該樹脂成分が25℃では固体であって、加熱処理を行う温度においては、せん断速度1216s^(-1)の条件下における粘度が150Pa・s未満であることを特徴とする炭素繊維束の製造方法。
【請求項2】
熱処理後の炭素繊維束の風合い値が70g以上200g以下である請求項1に記載の炭素繊維束の製造方法。
【請求項3】
サイジング液中の樹脂成分が熱可塑性樹脂である請求項1または2に記載の炭素繊維束の製造方法。
【請求項4】
サイジング液中の樹脂成分がポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂またはポリカーボネート樹脂である請求項1?3のいずれか1項に記載の炭素繊維束の製造方法。
【請求項5】
炭素繊維束に対するサイジング液の付着量が乾燥重量で0.1重量%を超えるものであり、サイジング液中の樹脂成分が共重合樹脂である請求項1?4のいずれか1項記載の炭素繊維束の製造方法。
【請求項6】
加熱処理温度が120℃以上であり、炭素繊維束の長さが10?100mmである請求項1?5のいずれか1項記載の炭素繊維束の製造方法。
【請求項7】
加熱処理温度が、サイジング液中の樹脂成分の融点よりも60度以上高いものであり、炭素繊維束が抄紙用であることを除く請求項1?6のいずれか1項記載の炭素繊維束の製造方法。
【請求項8】
炭素繊維束にサイジング液を付与し加熱処理する製造方法であって、サイジング液が樹脂成分を含有し、当該樹脂成分が25℃では固体であって、加熱処理を行う温度においては、せん断速度1216s^(-1)の条件下における粘度が150Pa・s未満であり、サイジング液中の樹脂成分が共重合樹脂である製造方法により得られる炭素繊維束と樹脂を加熱して加圧成形する炭素繊維複合材料の製造方法。
【請求項9】
請求項1?4のいずれか1項記載の製造方法により得られる炭素繊維束と樹脂を加熱して加圧成形する炭素繊維複合材料の製造方法であって、炭素繊維束が等方性の不連続繊維であり、炭素繊維束の長さが10?100mmである炭素繊維複合材料の製造方法。
【請求項10】
炭素繊維束が、拡幅し不連続繊維にカットした後にマット形状としたものである請求項9記載の炭素繊維複合材料の製造方法。
【請求項11】
炭素繊維束にサイジング液を付与し加熱処理する製造方法であって、サイジング液が樹脂成分を含有し、当該樹脂成分が25℃では固体であって、サイジング液中の樹脂成分が熱可塑性樹脂であり、加熱処理を行う温度においては、せん断速度1216s^(-1)の条件下における粘度が150Pa・s未満である製造方法により得られる炭素繊維束と樹脂をマット形状とし、その後加熱して加圧成形する炭素繊維複合材料の製造方法。
【請求項12】
炭素繊維束にサイジング液を付与し加熱処理する製造方法であって、サイジング液が樹脂成分を含有し、当該樹脂成分が25℃では固体であって、加熱処理を行う温度においては、せん断速度1216s^(-1)の条件下における粘度が150Pa・s未満であり、炭素繊維束に対するサイジング液の付着量が乾燥重量で0.1重量%を超えるものであり、サイジング液中の樹脂成分が共重合樹脂である製造方法により得られる炭素繊維束と樹脂を加熱して加圧成形する炭素繊維複合材料の製造方法。
【請求項13】
炭素繊維束にサイジング液を付与し加熱処理する製造方法であって、サイジング液が樹脂成分を含有し、当該樹脂成分が25℃では固体であって、加熱処理を行う温度においては、せん断速度1216s^(-1)の条件下における粘度が150Pa・s未満であり、加熱処理温度が120℃以上であり、炭素繊維束の長さが10?100mmである製造方法により得られる炭素繊維束と樹脂を加熱して加圧成形する炭素繊維複合材料の製造方法。
【請求項14】
炭素繊維束にサイジング液を付与し加熱処理する製造方法であって、サイジング液が樹脂成分を含有し、当該樹脂成分が25℃では固体であって、加熱処理を行う温度においては、せん断速度1216s^(-1)の条件下における粘度が150Pa・s未満であり、加熱処理温度が、サイジング液中の樹脂成分の融点よりも60度以上高いものである製造方法により得られる炭素繊維束と樹脂を加熱して加圧成形する(ただし抄紙工程を経るものを除く)炭素繊維複合材料の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-08-29 
出願番号 特願2012-278055(P2012-278055)
審決分類 P 1 652・ 121- YAA (D06M)
P 1 652・ 113- YAA (D06M)
P 1 652・ 832- YAA (D06M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 斎藤 克也  
特許庁審判長 渡邊 豊英
特許庁審判官 門前 浩一
蓮井 雅之
登録日 2017-06-09 
登録番号 特許第6154127号(P6154127)
権利者 帝人株式会社
発明の名称 補強用炭素繊維束の製造方法およびそれを用いた炭素繊維複合材料の製造方法  
代理人 細田 浩一  
代理人 為山 太郎  
代理人 為山 太郎  
代理人 伴 俊光  

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