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審決分類 |
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載 F22B 審判 一部申し立て 2項進歩性 F22B |
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管理番号 | 1344853 |
異議申立番号 | 異議2018-700314 |
総通号数 | 227 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-11-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-04-17 |
確定日 | 2018-09-28 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6213214号発明「ボイラシステム」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6213214号の請求項1,6に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯の概略 特許第6213214号の請求項1,6に係る特許(以下「本件特許」という。)についての手続の経緯は,概ね,次のとおりである。すなわち,平成25年12月19日に出願され,平成29年9月29日に特許権の設定登録がされ,平成29年10月18日に特許掲載公報が発行されたところ,これに対し,平成30年4月17日に特許異議申立人高橋勇より,特許異議の申立てがなされた。平成30年6月25日付けで取消理由を通知したところ,平成30年8月22日に特許権者より意見書が提出された。 第2 本件発明 本件特許の請求項1,6に係る発明(以下,本件特許の請求項1,6に係る発明を,それぞれ,「本件発明1」,「本件発明6」という。)は,特許請求の範囲の請求項1,6に記載された事項により特定される,次のとおりのものである。 【請求項1】 脱塩部と脱気部とを有する純水供給源と, 揮発性アミンを含む薬剤を上記純水供給源からの脱気純水に注入にする薬剤注入装置と, 上記薬剤が注入された脱気純水が供給され,この脱気純水をボイラ給水として貯留する給水タンクと, 上記給水タンクから上記ボイラ給水が供給されるボイラと, 上記純水供給源からの脱気純水の流量に対して上記薬剤の注入量が比例するように,上記薬剤注入装置を制御する制御装置と を備え, 上記薬剤注入装置が上記純水供給源と上記給水タンクとの間の脱気純水に上記薬剤を注入することにより,上記薬剤が注入された脱気純水が流動中に撹拌されて,上記薬剤が均一に分布する脱気純水が上記ボイラ給水として上記給水タンク内に貯留されることを特徴とするボイラシステム。 【請求項6】 請求項1から5までのいずれか一項に記載のボイラシステムにおいて, 上記制御装置は,上記ボイラ水のpH値が9.0?10.3の範囲内に入るように,上記薬剤注入装置を制御することを特徴とするボイラシステム。 第3 取消理由についての判断 1 取消理由の概要 本件特許に対し通知した取消理由は,概ね,次のとおりである。すなわち,本件発明1,6は,本件特許の出願前に日本国内又は外国において,頒布された甲第1号証に記載された発明である,又は,頒布された甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証,甲第3号証に記載された事項に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって,特許法29条1項3号又は29条2項の規定により特許を受けることができないから,その発明に係る特許は取り消すべきものである。 なお,取消理由は本件特許異議の申立てにおける全ての申立理由(特許法29条1項3号,29条2項)を含んでいる。 2 証拠方法 特許異議申立人が提出した証拠方法は以下のとおりであり。以下,甲号証の番号に従い,「甲1」などという。 甲1:特開2007-209864号公報 甲2:島弘志編,“JIS B 8223:2006 ボイラの給水及びボイラ水の水質”,財団法人日本規格協会,平成18年10月20日,1刷,p.1,2,6,17 甲3:特開2012-21215号公報 甲4:特願2013-262624号(本件特許出願)に係る平成29年7月28日付け意見書 3 甲1について (1) 甲1に記載された事項 ・「【請求項1】 主液の液流中に薬液を注入する薬注装置であって, 主液の流量を検出して流量信号を発する主液流量計と, 比較的に大吐出量の流量可変薬注ポンプ(大流量ポンプ)と, 比較的に小吐出量の流量可変薬注ポンプ(小流量ポンプ)と, 前記主液流量計の発する流量信号を受けて前記大吐出量ポンプ及び小吐出量ポンプに吐出流量信号を与える制御部と, を備え, 前記主液流量が比較的大の領域では前記大流量ポンプを運転して薬注し, 前記主液流量が比較的小の領域では前記小流量ポンプを運転して薬注して薬注することを特徴とする薬注装置。 … 【請求項5】 前記主液が発電所ボイラー用の補給水であり,前記薬液が該補給水の水質をコントロールするための薬液であることを特徴とする請求項1?4いずれか1項記載の薬注装置。」 ・「【0001】 本発明は,主液の液流中に薬液を注入する薬注装置に関する。特には,発電所用のボイラー給水系統において,ボイラーへの補給水にpH調整などの水質コントロール用の薬液を注入する薬注装置に関する。」 ・「【0002】 発電所のボイラー給水系には,給水にpH調整剤(アミンなど)などの薬液を注入して水質をコントロールする薬注装置が備えられている。このような薬注装置においては,給水流路に,薬液タンクから延びる薬液流路が接続している。そして,薬液タンクからポンプで薬液を汲み上げ,薬液流路を通して給水流路に薬液を注入する。」 ・「【0003】 pH調整剤などの薬液の必要添加量は,補給水量に応じて変化する。… 【0004】 ところで,近年では,産業構造の変化に伴い,ボイラーのデマンド(稼動要求)が昼夜間で大きく異なってきた。例えば,ボイラー発生蒸気量が昼間で100%,夜間で30%と,差が極端に大きい場合もある。これにより,ボイラーのドレンの回収状況によっては,補給水量が昼夜間で100?10%と差が大きくなる場合もある。 【0005】 前述のように,補給水量の変動が大きい場合,補給水量に比例した薬液注入が必要になるため,補給水量の差が大きくなって,例えば,薬液の最大添加量が最小添加量の5倍を超えるような場合は,1台のポンプではそのような汲み上げ量の変動に対応できない。… 【0006】 さらに,1台のポンプでインバータ制御とプランジャーの可変ストロークを組み合わせて小容量域に対応する方法も知られているが,可変ストロークが可能なポンプは一般には高価で,構造も複雑であり,経済性・メンテナンス性の点で問題がある。 【0007】 ところで,濁水処理システム等においては,ポンプを2台使用して薬品を添加するという提案がなされている…。しかし,…2台のポンプは異なる薬液を注入するために使用されている。 … 【0009】 本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであって,薬液の注入量範囲を広くとることのできる薬注装置を提供することを目的とする。特には,補給水流量が少ないときにも薬液を補給水量にほぼ比例して注入できる,発電所ボイラー用の薬注装置を提供することを目的とする。」 ・「【0011】 本発明によれば,流量計で検知された流量に対して,薬液の要求注入量が比較的大(例えば,最大で100とした場合,要求量が約20?100)の場合は,大容量ポンプを稼動させて薬液を注入し,薬液の要求注入量が比較的小(例えば,約1?20)の場合は,小容量ポンプを稼動させて薬液を注入する。このように容量の異なる2種類のポンプを使用することにより,薬注量の高精度のコントロールを行える注入量範囲を広くとることができる。」 ・「【0017】 本発明においては, 前記主液が発電所ボイラー用の補給水であり,前記薬液が該補給水の水質をコントロールするための薬液であることがさらに好ましい。 【0018】 発電所ボイラーでは昼間と夜間で操業状態(発電量)の差が大きく,それに伴って補給水量の変動も大きい。従来使用されている中高圧ボイラーでは,小さい補給水比率(給水流量に対する補給水流量の比率)に適した量の薬液の注入ができなかったが,本発明においては,補給水比率が小さい場合には小容量ポンプを運転するので,常に適切な量の薬液を注入できる。このため,補給水比率にほぼ比例した量の薬液を注入できるので,補給水中の薬液濃度をほぼ一定に保つことができる。なお何らかの理由で補給水比率が100%を超えた場合でも,本発明においては大流量ポンプと小流量ポンプ共に稼動させることにより,対応可能となる。 【発明の効果】 【0019】 以上の説明から明らかなように,本発明によれば,薬液の注入量に応じて大容量ポンプと小容量ポンプを選択して使用するので,注入量の幅を広くとることができる。特に,発電所ボイラーの給水系統において,補給水比率に比例して薬液を注入することができ,給水の水質をほぼ一定に保つことができる。ひいては,鉄の腐蝕抑制,さらにはボイラーへの鉄スケールの付着が抑制されるので,省エネルギーや地球温暖化抑制につながる。」 ・「【0020】 … 図1は,本発明の実施の形態に係る薬液注入装置の構成を示す図である。 この例の薬液注入装置10は,ボイラー循環系統50において,ボイラー給水用の水が貯蔵された給水タンク51に補給水源55から水を補給する流路に設けられる。 【0021】 まず,ボイラー循環系統50について説明する。 給水タンク51からボイラー52に接続する給水流路には,図示されていないが,ポンプが設けられており,タンク51からボイラー52に給水される。なお,この給水流路には,エコノマイザ(図示されず)なども設けられている。ボイラー52から発生する蒸気は蒸気配管を通って蒸気溜め(図示されず)に滞留し,蒸気タービン(図示されず)に導入される。蒸気タービンから排出される蒸気は復水流路を通って,同流路に設けられている復水器(図示されず)により水に戻され,その復水が再び給水タンク51に還流される。ボイラー52の壁面には,排水口52aが設けられており,必要時にボイラー内の水の排水を行う。 【0022】 給水タンク51には,補給水源55からの補給水流路56が接続しており,同流路56にはポンプ57が設けられている。… 【0023】 本発明の薬液注入装置10は,この補給水流路56に設けられており,アミンなどのpH調整剤を補給水に注入して,補給される水のpHを調整する。 補給水流路56の,ポンプ57と給水タンク51との間には,流量計11が設けられている。この流量計11で,補給水流路56中の補給水流量が計測される。補給水流路56の流量計11の上流には,薬液タンク13から延びる2本の薬液注入流路21,31が接続している。一方の薬液注入流路21には大容量ポンプ22が設けられており,他方の薬液注入流路31には小容量ポンプ32が設けられている。なお,大容量ポンプ22と小流量ポンプ32は,どちらの薬液注入流路に設けられてもよい。 … 【0026】 流量計11は制御部12と電気的に接続されており,流量計11で検知された流量信号は,制御部12に入力される。また,大容量ポンプ22のモータ23,小容量ポンプ32のソレノイド33も制御部12に電気的に接続されており,制御部12は,流量信号に応じて,大吐出量ポンプ22及び小吐出量ポンプ32を制御する。 【0027】 例えば,流量計11で検知された流量に対する薬液の要求注入量を最大で100とした場合,要求量が約20?100の場合は,制御部12からモータ23に信号が送られ,大容量ポンプ22を稼動させて,薬液タンク13から注入流路21を通って補給水流路56に薬液を注入する。一方,要求量が約1?20の場合は,制御部12からソレノイド33に信号が送られ,小容量ポンプ32を稼動させて,薬液タンク13から注入流路31を通って補給水流路56に薬液を注入する。」 ・「【図1】 ![]() 」 (2) 以上の記載からすると,甲1には,次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。 (甲1発明) 「補給水源55と, pH調整剤(アミンなど)などの薬液を上記補給水源55からの補給水に注入する薬液注入装置10と, 上記薬液が注入された補給水が供給され,この補給水をボイラー給水として貯蔵する給水タンク51と, 上記給水タンク51から上記ボイラー給水が供給されるボイラー52と, 上記補給水源55からの補給水の流量に応じて上記薬液が注入されるように,上記薬液注入装置10を制御する制御部12と, を備え, 上記薬液注入装置10が上記補給水源55と上記給水タンク51との間の補給水に上記薬液を注入することにより,上記薬液が注入された補給水が上記ボイラー給水として上記給水タンク51内に貯蔵されるボイラー循環系統50。」 2 甲2,3について (1) 甲2に記載された事項 ・「 ![]() 」 ・「 ![]() 」 ・「 ![]() 」 ・「 ![]() 」 (2) 甲3に記載された事項 ・「【請求項1】 下記一般式(1)で表されるアミン化合物を含むことを特徴とするボイラ用防食剤。 NH_(2)-(CH_(2))_(m)-O-(CH_(2))_(n)-OH (1) (式中,m及びnは,それぞれ独立に1?3の整数を示す。) 【請求項2】 さらに脱酸素剤を含む,請求項1に記載のボイラ用防食剤。 … 【請求項5】 さらに,中和性アミン及び/又はアンモニアを添加してなる,請求項1?4のいずれかに記載のボイラ用防食剤。」 ・「【0001】 本発明は,ボイラ用防食剤に関し,詳しくは,主として過熱器や蒸気タービンを有するボイラに適した防食剤に関する。」 ・「【0002】 ボイラはボイラ水を高温にして蒸気を発生させる構造となっており,ボイラを構成する金属の腐食を防止するために防食剤が使用されている。特に,発電用ボイラやごみ焼却用ボイラなどの過熱器や蒸気タービンを有するボイラでは,補給水としてイオン交換水や脱塩水が主に使用されている。このため,これらボイラの水質管理項目の濃縮倍数は30?100倍程度で運転されているケースが多い。このようなボイラでは,苛性アルカリを用いずにりん酸塩を添加して,ボイラ水のpHを調整して腐食を抑制すると共に,中和性アミンやアンモニアを添加して給復水系のpHを上昇させて,鉄の溶出を抑制し,ボイラ缶内に持込まれる鉄を低減している。 【0003】 しかしながら,近年では,…ボイラ缶水のpHが低下するトラブルが多く発生している。これらの対策として,ボイラ水中のりん酸塩濃度を高くしたり,Na/PO_(4)のモル比が3以上のりん酸塩系清缶剤(りん酸ナトリウムと水酸化ナトリウムの混合品)が使用される場合があるが,この場合には,りん酸塩のハイドアウト現象やアルカリ腐食の発生が懸念されている。… 【0004】 このような系で使用されている代表的な給復水系の防食剤としては,2-アミノエタノ-ル(MEA)やモノイソプロパノールアミン(MIPA)が知られているが,ボイラ水のpHを上昇させる効果は十分ではない。 これらに替わるものとして,…メチルジエタノールアミン(MDEA)を含むボイラ用の防食剤が開示されている。…MDEAを用いると高温腐食環境におけるpHの上昇が容易であり,揮発性が低くて蒸気への移行が少ないので,反応系への影響が少ないうえ,脱酸素剤を併用する場合に脱酸素能力を高くすることができ,少ない添加量で高い防食効果が得られるとされている。 … 【0006】 しかしながら,…MDEAを含む防食剤は,給水への添加量を比較的多くする必要があるため,少量の添加で効果のある防食剤が求められている。 本発明は,このような状況下になされたもので,前記のボイラにおいて,りん酸塩を多量に添加したり,Na/PO_(4)のモル比を3より大きくすることなく,ボイラ水のpHをより効率的に維持し,ボイラ缶内だけでなく給復水系も含めたボイラ全系を防食できる防食剤を提供することを目的とする。」 ・「【0009】 本発明によれば,主として過熱器や蒸気タービンを有するボイラや,該ボイラと処理水とが混合するボイラ等において,りん酸塩を多量に添加したり,Na/PO_(4)のモル比を3より大きくすることなく,ボイラ水のpHをより効率的に維持し,ボイラ缶内だけでなく給復水系も含めたボイラ全系を防食できる防食剤を提供することができる。」 ・「【0013】 (脱酸素剤) 脱酸素剤としては,特に制限はなく,従来公知のものが使用できる。その好適例としては,ヒドラジン,カルボヒドラジド,ハイドロキノン,1-アミノピロリジン,1-アミノ-4-メチルピペラジン,N,N-ジエチルヒドロキシルアミン,イソプロピルヒドロキシルアミン,エルソルビン酸及びその塩,並びにアスコルビン酸及びその塩,アスコルビン酸及びその塩の中から選ばれる少なくとも一種が挙げられる。さらに,非ヒドラジン系の有機脱酸素剤と併用する場合には,ボイラのpHの低下を生じることなく十分量添加することができるので,有機物の流入に強く,ボイラの濃縮アップを実施することができる。脱酸素剤の添加量は,給水中の溶存酸素量に応じて必要量を添加する。脱気装置がある場合はその性能に応じて添加する。」 ・「【0015】 (防食剤I及びIIにおけるその他成分) …また,復水系の防食を目的として,所望によりアンモニア及び/又は中和性アミンを添加することができる。 【0016】 <中和性アミン> 中和性アミンとしては,例えば,モノエタノールアミン(MEA),シクロへキシルアミン(CHA),モルホリン(MOR),ジエチルエタノールアミン(DEEA),モノイソプロパノールアミン(MIPA),3-メトキシプロピルアミン(MOPA),2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール(AMP)等が挙げられる。」 ・「【0018】 … 本発明の防食剤(I)及び(II)を給水系に添加することにより,中和性アミンは給水のpHを所定の値に上昇させ,脱酸素剤は給水中の溶存酸素を除去することで,給水ラインから溶出してボイラに持込まれる鉄の濃度を低減する。給水とともにボイラに移行した前記アミン化合物はボイラ水のpHを所定の値に上昇させ,ボイラ缶内の腐食を抑制する。さらに,前記アミン化合物の一部や併用する中和性アミンは,蒸気に移行し,復水のpHを上昇させることで復水系を防食するとともに,復水から給水してボイラに持込まれる鉄や銅を低減する。」 ・「【0022】 実験2 試験用テストボイラに,純水(イオン変換水)を溶存酸素濃度0.010 mg/Lに脱気して補給しながら,圧力11MPa,ブロー率1%で復水回収を行わずに運転した。ここに比較例として,モノエタノールアミン(MEA),MIPA,MDEA,3-メトキシプロピルアミン(MOPA),を各々1.5mg/Lを添加しながら運転し,ボイラ水のpHを値が安定したところで,測定を実施した(比較例3?6)。次に,実施例として,化合物(A)又は(B)を1.5 mg/L添加して運転し,ボイラ水のpHを値が安定したところで測定した(実施例2?3)。結果を表2に示す。 この結果から,化合物(A)と(B)は比較例に比べて,ボイラ水のpH上昇効果が高いことが明らかになった。 【0023】 【表2】 ![]() 」 4 本件発明1について (1) 対比 ア 本件発明1と甲1発明とをその機能に照らして対比すると,甲1発明の「補給水源55」は,本件発明1の「純水供給源」と,給水源である点で共通しており,甲1発明の「pH調整剤(アミンなど)などの薬液」,「薬液注入装置10」,「給水タンク51」,「ボイラー52」,「制御部12」,「ボイラー循環系統50」は,それぞれ,本件発明1の「揮発性アミンを含む薬剤」,「薬剤注入装置」,「給水タンク」,「ボイラ」,「制御装置」,「ボイラシステム」に相当する。 イ 本件発明1は,「上記薬剤注入装置が上記純水供給源と上記給水タンクとの間の脱気純水に上記薬剤を注入することにより,上記薬剤が注入された脱気純水が流動中に撹拌されて,上記薬剤が均一に分布する脱気純水が上記ボイラ給水として上記給水タンク内に貯留される」ものであるが,これは,本件発明1が当該「純水供給源」,「薬剤注入装置」,「給水タンク」,「ボイラ」,「制御装置」を備えることによって発揮する作用をいうものと認められ,本件特許明細書の記載を参酌しても,さらに何らかの手段を備えていることを意味しているものとは認められない。 そして,甲1発明も,「上記薬剤注入装置10が上記補給水源55と上記給水タンク51との間の補給水に上記薬液を注入する」ものであるから,その結果,本件発明1と同様に,薬液が注入された補給水が流動中に撹拌されて,薬液が均一に分布する補給水となるものと認められる。 ウ そうすると,本件発明と甲1発明とは,以下の点で,一致し相違する。 (一致点) 「給水源と, 揮発性アミンを含む薬剤を上記給水源からの給水に注入する薬剤注入装置と, 上記薬剤が注入された給水が供給され,この給水をボイラ給水として貯留する給水タンクと, 上記給水タンクから上記ボイラ給水が供給されるボイラと, 上記給水源からの給水の流量に対して上記薬剤の注入量が比例するように,上記薬剤注入装置を制御する制御装置と を備え, 上記薬剤注入装置が上記給水源と上記給水タンクとの間の給水に上記薬剤を注入することにより,上記薬剤が注入された給水が流動中に撹拌されて,上記薬剤が均一に分布する給水が上記ボイラ給水として上記給水タンク内に貯留されるボイラシステム。」 (相違点) 本件発明1は,「脱塩部と脱気部とを有する純水供給源」からの「脱気純水」が給水として「給水タンク」に供給,貯留されるものであるのに対し,甲1発明はその点が不明である点。 (2) 判断 甲1発明は「薬液の注入量範囲を広くとることのできる薬注装置を提供することを目的とする。特には,補給水流量が少ないときにも薬液を補給水量にほぼ比例して注入できる,発電所ボイラー用の薬注装置を提供することを目的とする。」ものであるが(甲1【0009】),甲1には,ボイラ給水の脱塩,脱気に関する記載・示唆は特段ない。 ボイラ給水として,脱塩,脱気された純水を使用することは,通常行われていることであって(甲2,3),技術常識であると認められるが,脱塩部と脱気部とを有する純水供給源を給水源とする点については,いずれの証拠にも記載がない。 なお,甲1発明は,復水が給水タンク51に還流されることを想定していることからすると(同【0021】),復水の影響を考慮し,給水の処理を給水タンク51又は給水タンク51の下流側にて対応するとも解することができる。 そうすると,本件発明1は,甲1に記載された発明であるとは認められず,甲1発明及び甲2,3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとも認められない。 5 本件発明6について 本件発明6は,本件発明1を特定するための事項を全て含むものであるから,その余事項を検討するまでもなく,本件発明6は,本件発明1と同様の理由により,甲1に記載された発明であるとは認められず,甲1発明及び甲2,3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとも認められない。 第4 むすび 以上のとおり,本件の請求項1,6に係る特許は,特許法29条1項3号,29条2項の規定に違反してされたものとは認められないから,前記取消理由により取り消すことはできない。 また,他に本件の請求項1,6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2018-09-18 |
出願番号 | 特願2013-262624(P2013-262624) |
審決分類 |
P
1
652・
113-
Y
(F22B)
P 1 652・ 121- Y (F22B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 宮崎 賢司 |
特許庁審判長 |
紀本 孝 |
特許庁審判官 |
窪田 治彦 藤原 直欣 |
登録日 | 2017-09-29 |
登録番号 | 特許第6213214号(P6213214) |
権利者 | 三浦工業株式会社 |
発明の名称 | ボイラシステム |
代理人 | 田中 光雄 |
代理人 | 山尾 憲人 |
代理人 | 大畠 康 |
代理人 | 鮫島 睦 |
代理人 | 山崎 敏行 |