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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C08L |
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管理番号 | 1344857 |
異議申立番号 | 異議2018-700590 |
総通号数 | 227 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-11-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-07-17 |
確定日 | 2018-09-26 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6263234号発明「熱可塑性樹脂組成物およびこれを用いた成形品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6263234号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 1.本件特許の設定登録までの経緯 本件特許第6263234号に係る出願(特願2016-128681号、以下「本願」ということがある。)は、平成23年12月22日(パリ条約に基づく優先権主張:平成23年11月24日、大韓民国(KR))の国際出願日に出願人チェイル インダストリーズ インコーポレイテッドによりされたものとみなされる国際特許出願(特願2014-543398号)の一部を平成28年6月29日に新たな特許出願としたものであり、平成29年2月20日にロッテ アドバンスト マテリアルズ カンパニー リミテッド(以下「特許権者」ということがある。)に出願人名義変更がされた後、平成29年12月22日に特許権の設定登録(請求項の数11)がされ、平成30年1月17日に特許公報が発行されたものである。 2.本件異議申立の趣旨 本件特許につき平成30年7月17日に特許異議申立人赤松智信(以下「申立人」という。)により「特許第6263234号の特許請求の範囲の全請求項に記載された発明についての特許を取消すべきである。」という趣旨の本件異議申立がされた。 第2 本件特許の特許請求の範囲に記載された事項 本件特許の特許請求の範囲には、請求項1ないし請求項11が記載されており、そのうち請求項1には、以下のとおりの記載がある。 「グラフトアクリル系共重合体(A); 芳香族ビニル-シアン化ビニル系共重合体(B);および ポリアルキル(メタ)アクリレート樹脂(C)を含み、 前記芳香族ビニル-シアン化ビニル系共重合体(B)は、5?25重量%のシアン化ビニル化合物から誘導されるユニットを含み、 前記グラフトアクリル系共重合体(A)は、アクリル系ゴム状重合体に、芳香族ビニル系単量体、芳香族ビニル系単量体と共重合可能な単量体、またはこれらの組み合わせがグラフト重合されてなる共重合体であり、 前記アクリル系ゴム状重合体は、二重層であるコア構造を有することを特徴とする、熱可塑性樹脂組成物。」 (以下、上記請求項1に記載された事項で特定される発明を「本件発明」ということがある。) 第3 申立人が主張する取消理由 申立人は、本件異議申立書(以下、「申立書」という。)において、下記甲第1号証及び甲第2号証を提示し、具体的な取消理由として、以下の理由が存するとしている。 ・本件特許の請求項1ないし11に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである。 ・申立人提示の甲号証 甲第1号証:特開2008-291158号公報 甲第2号証:特開2006-233013号公報 (以下、「甲第1号証」及び「甲第2号証」をそれぞれ「甲1」及び「甲2」と略していう。) 第4 当審の判断 当審は、 申立人が主張する上記取消理由につき理由がないから、本件の請求項1及び同項を引用する請求項2ないし11に係る発明についての特許はいずれも維持すべきもの、 と判断する。以下、詳述する。 1.各甲号証の記載事項及び記載された発明 上記取消理由は、本件特許が特許法第29条に違反してされたものであることに基づくものであるから、当該理由につき検討するにあたり、申立人が提示した甲1及び甲2に記載された事項の摘示及び当該各事項に基づく甲1及び甲2に係る引用発明の認定を行う。 なお、各記載事項に付された下線は当審が付したものである。 (1)甲1の記載事項及び甲1に記載された発明 ア.甲1の記載事項 甲1には、申立人が申立書第8頁第5行?第13頁第11行で主張するとおりの事項を含めて、以下の事項が記載されている。 (a-1) 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 ゴム質重合体に芳香族ビニル系単量体およびシアン化ビニル系単量体をグラフト重合してなるグラフト共重合体(A)と芳香族ビニル系単量体およびシアン化ビニル系単量体からなる単量体を共重合してなる共重合体(B)とメタクリル酸メチル単量体およびアクリル酸メチル単量体を共重合してなる共重合体(C)からなる樹脂組成物(I)であり、(A)成分と(B)成分からなる組成物(II)の可溶成分の還元粘度(ηsp/c)が0.60?1.20dl/gであって、樹脂組成物(I)におけるゴム質重合体の割合が8?13質量%、共重合体(C)の割合が40?65質量%であり、かつ共重合体(C)に於いて、アクリル酸メチルを8?20質量%含む共重合体(C’)を共重合体(C)中に30?70質量%含むことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。 【請求項2】 請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物からなることを特徴とする成形品。」 (a-2) 「【技術分野】 【0001】 本発明は、成形性、耐傷付性、意匠性及び耐衝撃性に優れる熱可塑性樹脂組成物、およびその成形品に関するものである。」 (a-3) 「【発明が解決しようとする課題】 【0007】 本発明は、成形性、耐傷付性、意匠性に優れ、かつ耐衝撃強度を実用上有用な強度を有する熱可塑性樹脂組成物及びその成形品を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0008】 本発明者らは、上述の問題を解決するために鋭意検討した結果、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン系樹脂とメタクリル酸メチル-アクリル酸メチル系樹脂に於いて、ある特定の範囲のアクリル酸メチルを含むメタクリル酸メチル-アクリル酸メチル共重合体を特定量配合することにより課題を解決できることを見出し本発明に到達した。 即ち本発明は、以下に記載するとおりの熱可塑性樹脂組成物及びその成形品に係るものである。 ・・(中略)・・ 【発明の効果】 【0010】 本発明により、高い耐傷付性、意匠性、耐衝撃性、成形性を有する熱可塑性樹脂組成物、および成形品を得ることが出来る。」 (a-4) 「【0012】 <グラフト共重合体(A)> グラフト共重合体(A)は、ゴム質重合体に芳香族ビニル系単量体およびシアン化ビニル系単量体をグラフト重合して得られる。 グラフト共重合体(A)に用いられるゴム質重合体としては、ポリブタジエン、ブタジエン-スチレン共重合体、ブタジエン-アクリロニトリル共重合体、ブタジエン-アクリル共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、ポリイソプレン、スチレン-イソプレン共重合体等の共役ジエン系ゴム、およびこれらの水素添加物、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等のアクリル系ゴム、エチレン-α-オレフィン-ポリエン共重合体、エチレン-α-オレフィン共重合体、シリコーンゴム、シリコーン-アクリルゴム等が挙げられ、これらは単独または二種以上を組み合わせて使用することが出来る。この中で特に好ましいのは、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ブタジエン-スチレン共重合体、ブタジエン-アクリロニトリル共重合体、ブタジエン-アクリル共重合体、アクリル系ゴム、エチレン-α-オレフィン-ポリエン共重合体、エチレン-α-オレフィン共重合体、シリコーンゴム、シリコーン-アクリルゴムである。」 (a-5) 「【0018】 <共重合体(B)> 共重合体(B)は、芳香族ビニル系単量体およびシアン化ビニル系単量体からなる。 芳香族ビニル系単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、エチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、ビニルナフタレンが挙げられ、これらは単独または二種以上を組み合わせて使用することが出来る。この中で特に好ましいのは、スチレン、およびα-メチルスチレンである。 シアン化ビニル系単量体としては、アクリロニトリル、メタアクリロニトリルが挙げられ、この中で特に好ましいのはアクリロニトリルである。 共重合体(B)におけるシアン化ビニル系単量体の含有量は15?27質量%が好ましい。これがこの範囲にあると、特に意匠性、および耐衝撃性に優れる。」 (a-6) 「【0020】 <共重合体(C)> 共重合体(C)は、メタクリル酸メチル単量体およびアクリル酸メチル単量体からなる。 また、共重合体(C)において、メタクリル酸メチル単量体及びアクリル酸メチル単量体の他に共重合可能な単量体を共重合することが出来る。共重合可能な単量体として、スチレン、α-メチルスチレン等の芳香族ビニル系単量体、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6-ペンタヒドロキシヘキシルおよび(メタ)アクリル酸2,3,4,5-テトラヒドロキシペンチル等の不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体が挙げられ、これらを含めて共重合した組成物を使用することが出来る。」 (a-7) 「【0026】 本発明においては公知の添加剤、例えば、可塑剤、滑剤(例えば、高級脂肪酸、およびその金属塩、高級脂肪酸アミド類等)、熱安定化剤、酸化防止剤(例えば、フェノール系、フォスファイト系、チオジブロプロピオン酸エステル型のチオエーテル等)、耐候剤(例えば、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリシレート系、シアノアクリレート系、蓚酸誘導体、ヒンダードアミン系等)、難燃助剤(例えば、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン等)、帯電防止剤(例えば、ポリアミドエラストマー、四級アンモニウム塩系、ピリジン誘導体、脂肪族スルホン酸塩、芳香族スルホン酸塩、芳香族スルホン酸塩共重合体、硫酸エステル塩、多価アルコール部分エステル、アルキルジエタノールアミン、アルキルジエタノールアミド、ポリアルキレングリコール誘導体、ベタイン系、イミダゾリン誘導体等)、抗菌剤、抗カビ剤、摺動性改良剤(例えば、低分子量ポリエチレン等の炭化水素系、高級アルコール、多価アルコール、ポリグリコール、ポリグリセロール、高級脂肪酸、高級脂肪酸金属塩、脂肪酸アミド、脂肪酸と脂肪族アルコールとのエステル、脂肪酸と多価アルコールとのフル、あるいは部分エステル、脂肪酸とポリグリコールとのフル、あるいは部分エステル、シリコーン系、フッ素樹脂系等)等をその目的に合わせて任意の割合で配合することが出来る。 【0027】 また、意匠性を付与する目的で、公知の着色剤、例えば無機顔料、有機系顔料、メタリック顔料、染料を添加することが出来る。 無機顔料としては、例えば酸化チタン、カーボンブラック、チタンイエロー、酸化鉄系顔料、群青、コバルトブルー、酸化クロム、スピネルグリーン、クロム酸鉛系顔料、カドミウム系顔料などが挙げられる。」 (a-8) 「【実施例】 【0031】 以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明する。また、実施例における評価は以下の方法に従って行った。 ・・(中略)・・ (4)全光線透過率 射出成形機を用いて、シリンダー温度=240℃、金型温度=60℃にて5cm×9cm、厚み2.5mmの平板を射出成形した。この平板を用いて、ASTM D1003に準じて評価した。75%以上を合格とした。 (5)鉛筆硬度 (4)と同様にして平板を作成し、JIS K5400 鉛筆ひっかき値に準じて評価した。(鉛筆:JIS S6006規定、重り:1.0kg、試験片と鉛筆の芯の角度45°) 鉛筆硬度は、2B、B、HB、F、H、2H、3Hの順に硬くなり、傷付きにくくなる。鉛筆硬度がFよりも硬いものを合格とした。 【0032】 [製造例1] (グラフト共重合体(A-1)の製造) ポリブタジエンゴムラテックス(日機装(株)社製マイクロトラック粒度分析計「nanotrac150」にて測定した体積平均粒子径=0.25μm、固形分量=45質量%)100質量部に、ターシャリードデシルメルカプタン0.1質量部、および脱イオン水45質量部を加え、気相部を窒素置換した後、55℃に昇温した。続いて、1.5時間かけて70℃まで昇温しながら、アクリロニトリル11質量部、スチレンを44質量部、ターシャリードデシルメルカプタン0.5質量部、クメンハイドロパーオキシド0.15質量部よりなる単量体混合液、および脱イオン水22質量部にナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.2質量部、硫酸第一鉄0.004質量部、エチレンジアミンテトラ酢酸2ナトリウム塩0.04質量部を溶解してなる水溶液を4時間にわたり添加した。添加終了後1時間、反応槽を70℃に制御しながら重合反応を完結させた。 【0033】 このようにして得られたABSラテックスに、シリコーン樹脂製消泡剤、およびフェノール系酸化防止剤エマルジョンを添加した後、硫酸アルミニウム水溶液を加えて凝固させ、さらに、十分な脱水、水洗を行った後、乾燥させてグラフト共重合体(A-1)を得た。該共重合体の組成比は、フーリエ変換赤外分光光度計(FR-IR)(日本分光(株)製)を用いた組成分析の結果、アクリロニトリル10.9質量%、ブタジエン45.5質量%、スチレン43.6質量%であった。またグラフト率は40質量%、非グラフト成分(アセトン可溶分)の還元粘度(0.50g/100ml、2-ブタノン溶液中、30℃測定)は0.33dl/gであった。 【0034】 [製造例2] (共重合体(B-1)の製造) 特公平6-96625公報の実施例1に記載の方法にて、アクリロニトリル、およびスチレンを、溶媒としてセカンダリーブチルアルコールを用い、重合反応器に上記混合液を連続的に添加し、重合計の温度を140から160℃にコントロールして重合反応を行った。その後、未反応のモノマーを真空下にて除去し、共重合体(B-1)の固形粉末を得た。該共重合体の組成は、フーリエ変換赤外分光光度計(FR-IR)(日本分光(株)製)を用いた組成分析の結果、アクリロニトリル20.8質量%、スチレン79.2質量%であった。また、還元粘度は0.67dl/gであった。 ・・(中略)・・ 【0038】 [製造例6] <共重合体(C-1)の製造> メタクリル酸メチル68.6質量%、アクリル酸メチル1.4質量%、エチルベンゼン30質量%からなる単量体混合物に、1,1-ジ-t-ブチルパーオキシ-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン150ppm、およびn-オクチルメルカプタン1500ppmを添加し、均一に混合した。この溶液を内容積10リットルの密閉式耐圧反応器に連続的に供給し、攪拌下に平均温度135℃、平均滞留時間2時間で重合した後、反応器に接続された貯槽に連続的に送り出し、減圧下に揮発分を除去し、さらに押出機に連続的に溶融状態で移送した。ここで、押出機に接続した添加剤投入口からラウリン酸とステアリルアルコールを90℃で溶融した状態で定量的に供給して、共重合体(C-1)のペレットを得た。この共重合体の還元粘度は、0.35dl/gであり、熱分解ガスクロ法を用いて組成分析したところ、メタクリル酸メチル単位/アクリル酸メチル単位=98.0/2.0(重量比)の結果を得た。さらに、樹脂組成物中のラウリン酸とステアリルアルコールを定量したところ、樹脂組成物100質量部当たり、それぞれ0.03および0.1質量部との結果を得た。 ・・(中略)・・ 【0043】 [実施例1] 充分に乾燥し、水分除去を行ったグラフト共重合体(A-1)20質量部、共重合体(B-1)30質量部、共重合体(C-1)25質量部、共重合体(C-2)25質量部を混合した後、これをホッパーに投入し、二軸押出機(PCM-30、L/D=28、池貝鉄工(株)製)を使用して、シリンダー設定温度250℃、スクリュー回転数150rpm、混練樹脂の吐出速度15kg/hrの条件で混練して樹脂ペレットを得、各特性の評価を行った。評価結果を表1に示す。 [実施例2?7、比較例1?8] 表1、2に示す組成割合で各成分を配合し、実施例1と同様にして樹脂ペレットを得、評価を行った。評価結果を表1?2に示す。 【0044】 【表1】 【0045】 【表2】 【0046】 実施例1?7は、耐衝撃性(シャルピー衝撃強度)、耐熱性(荷重たわみ温度)等の機械的物性と成形性(メルトボリュームフローレイト)、耐傷付性(鉛筆硬度)のバランスに優れ、さらに高い光透過性(全光線透過率)を有していることから鮮やかな色や深みのある色への着色も可能である。 一方、比較例1はグラフト共重合体(A)におけるゴム質重合体の量が本発明で規定する数値範囲未満であるため耐衝撃性が適合しない。 比較例2はグラフト共重合体(A)におけるゴム質重合体の量が本発明で規定する数値範囲を超えるため耐傷付性が適合しない。 比較例3は組成物(II)の還元粘度が本発明で規定する範囲を下回っているため、耐衝撃性が適合しない。 比較例4は共重合体(C’)の成分を含んでいないため耐熱性が適合しない。 比較例5は共重合体(C)に於ける共重合体(C’)の成分の割合が本発明で規定する数値範囲を超えるため耐衝撃性が適合しない。 比較例6は共重合体(C)に於ける共重合体(C’)の成分の割合が本発明で規定する数値範囲を下回るため成形性が適合しない。 比較例7は共重合体(C’)成分を含んでおらず、かつアクリル酸メチルの量が少ないため成形性が適合しない。 比較例8は共重合体(C)の割合が本発明で規定する数値範囲を超えるため光透過性が適合せず意匠性や外観に問題が生じる可能性がある。」 イ.甲1に記載された発明 上記甲1には、上記(a-1)ないし(a-8)の各記載(特に下線部参照)からみて、 「アクリル系ゴムを含むゴム質重合体に芳香族ビニル系単量体およびシアン化ビニル系単量体をグラフト重合してなるグラフト共重合体(A)と芳香族ビニル系単量体およびシアン化ビニル系単量体からなる単量体を共重合してなる共重合体(B)とメタクリル酸メチル単量体およびアクリル酸メチル単量体を共重合してなる共重合体(C)からなる熱可塑性樹脂組成物であって、共重合体(B)におけるシアン化ビニル系単量体の含有量が15?27質量%である熱可塑性樹脂組成物。」 に係る発明(以下「甲1発明」という。)及び 「甲1発明の熱可塑性樹脂組成物からなる成形品。」 に係る発明が記載されているといえる。 (2)甲2の記載事項及び甲2に記載された発明 ア.甲2の記載事項 甲2には、申立人が申立書第13頁第22行?第20頁上段(【図1】及び【図2】)で主張するとおりの事項を含めて、以下の事項が記載されている。 (b-1) 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 下記成分(A)からなり且つ重量平均粒子径が50nm以下である樹脂粒子と、該樹脂粒子の表面の少なくとも一部に形成され且つ下記成分(B)からなる被覆部とを備え、1つの屈折率を有し、重量平均粒子径が5?3000nmであることを特徴とする複合ゴム粒子。 成分(A);多官能性単量体(a1)0.01?5質量%及び他のビニル系単量体(a2)95?99.99質量%からなる単量体〔但し、(a1)+(a2)=100質量%である。〕の重合体であり、且つ、ガラス転移温度が0℃以上である樹脂。 成分(B);多官能性単量体(b1)0.01?5質量%及び他の単量体(b2)95?99.99質量%からなる単量体〔但し、(b1)+(b2)=100質量%である。〕の重合体であり、ガラス転移温度が0℃未満であり、且つ、屈折率が上記成分(A)より低いゴム質重合体。 【請求項2】 請求項1に記載の複合ゴム粒子であって、重量平均粒子径が30?3000nmである複合ゴム粒子の存在下に、ビニル系単量体(c)を重合して得られ、且つ、上記複合ゴム粒子の屈折率と、該ビニル系単量体(c)の(共)重合体の屈折率との差が0.02以下であることを特徴とする複合ゴム強化ビニル系樹脂。 【請求項3】 請求項2に記載の複合ゴム強化ビニル系樹脂と、他の熱可塑性樹脂とを含有する組成物であって、該複合ゴム強化ビニル系樹脂の屈折率と、該熱可塑性樹脂の屈折率との差が0.02以下であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。」 (b-2) 「【技術分野】 【0001】 本発明は、複合ゴム粒子、複合ゴム強化ビニル系樹脂及び熱可塑性樹脂組成物に関し、更に詳しくは、透明性に優れる複合ゴム粒子、この複合ゴム粒子を用いてなる複合ゴム強化ビニル系樹脂、並びに、光の透過性、透明性及び力学的強度に優れ、着色剤を含む場合には着色鮮映性に優れた成形品とすることができる熱可塑性樹脂組成物に関する。 【背景技術】 【0002】 従来、ゴム成分を含む熱可塑性樹脂としては、ジエン系ゴム質重合体を用いたABS樹脂、アクリル系ゴム質重合体を使用したASA樹脂等が広く知られている。 これらのABS樹脂及びASA樹脂は、ゴム成分の屈折率と、ゴム成分以外の重合体からなるマトリックス成分の屈折率との差が大きいため、成形品とした場合、本質的に光線透過率の低い且つ不透明な成形品となる。そのため、これらの樹脂が、着色剤を含有した場合には、得られる成形品の着色鮮映性に劣ることとなる。従って、これらの樹脂を用いた成形品に、優れた着色鮮映性、外観性を付与させるためには、成形品の表面に塗装を施さなければならなかった。尚、優れた着色鮮映性を備えた成形品を得るためには、一般に、樹脂自体の全光線透過率が50%以上であることが求められ、全光線透過率が30%未満の場合には、着色鮮明性が十分ではないのが実情である。 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0003】 本発明の目的は、透明性に優れる複合ゴム粒子、この複合ゴム粒子を用いてなる複合ゴム強化ビニル系樹脂、並びに、光の透過性、透明性及び力学的強度に優れ、着色剤を含む場合には着色鮮映性に優れた成形品とすることができる熱可塑性樹脂組成物を提供することにある。 ・・(中略)・・ 【発明の効果】 【0005】 本発明の複合ゴム粒子は、特定の成分からなり且つ重量平均粒子径が50nm以下である樹脂粒子と、該樹脂粒子の表面の少なくとも一部に形成され且つ特定の成分からなる被覆部とを備え、即ち、樹脂粒子及び被覆部によるコアシェル構造を有し、1つの屈折率を有し、重量平均粒子径が5?3000nmであることから、高い光線透過率を有し、透明性及び力学的強度に優れる。 本発明の複合ゴム強化ビニル系樹脂は、特定の重量平均粒子径を有する複合ゴム粒子の存在下に、ビニル系単量体(c)を重合して得られたものであることから、高い光線透過率を有し、透明性及び力学的強度に優れた成形品を得ることができる。 また、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、上記複合ゴム強化ビニル系樹脂と、他の熱可塑性樹脂とを含有することから、光の透過性、透明性及び力学的強度に優れ、着色剤を含む場合には着色鮮映性に優れた成形品とすることができる。」 (b-3) 「【0007】 1.複合ゴム粒子 本発明の複合ゴム粒子は、下記成分(A)からなり且つ重量平均粒子径が50nm以下である樹脂粒子と、該樹脂粒子の表面の少なくとも一部に形成され且つ下記成分(B)からなる被覆部とを備え、1つの屈折率を有し、重量平均粒子径が5?3000nmである。 成分(A)は、多官能性単量体(a1)0.01?5質量%及び他のビニル系単量体(a2)95?99.99質量%からなる単量体〔但し、(a1)+(a2)=100質量%である。〕の重合体であり、且つ、ガラス転移温度が0℃以上である樹脂であり、成分(B)は、多官能性単量体(b1)0.01?5質量%及び他の単量体(b2)95?99.99質量%からなる単量体〔但し、(b1)+(b2)=100質量%である。〕の重合体であり、ガラス転移温度が0℃未満であり、且つ、屈折率が上記成分(A)より低いゴム質重合体である。 【0008】 尚、本発明において、「複合ゴム粒子」とは、成分(A)からなる樹脂粒子と、この樹脂粒子の表面に形成された被覆部とを有する複合体であることから、この複合体1個のみ、及び/又は、この複合体の2個以上が凝集してなる肥大化複合ゴム粒子を意味する。また、樹脂粒子及び複合ゴム粒子の重量平均粒子径は、レーザー回折・散乱法等により測定することができ、例えば、HONEYWELL社製の「マイクロトラックUPA150型」等を用いることができる。更に、屈折率は、アッベの屈折率計等により測定されたものである。」 (b-4) 「【0009】 1-1.樹脂粒子 この樹脂粒子は、ガラス転移温度が0℃以上の樹脂(成分(A))からなり、且つ、重量平均粒子径が50nm以下である。この成分(A)は、多官能性単量体(a1)0.01?5質量%及び他のビニル系単量体(a2)95?99.99質量%からなる単量体混合物(I)を重合することにより得ることができる。 ・・(中略)・・ 【0011】 他のビニル系単量体(a2)としては、多官能性単量体(a1)と共重合可能なものであれば、特に限定されない。また、このビニル系単量体(a2)は、単官能性化合物であることが好ましく、芳香族ビニル化合物;(メタ)アクリル酸及びそのエステル;シアン化ビニル化合物;マレイミド化合物等が挙げられる。これらは、成分(A)のガラス転移温度が0℃以上となるように選択されて、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。 【0012】 芳香族ビニル化合物としては、・・(中略)・・スチレン、α-メチルスチレンが好ましい。 【0013】 (メタ)アクリル酸及びそのエステルとしては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、メタクリル酸メチルが好ましい。 【0014】 シアン化ビニル化合物としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。 ・・(中略)・・ 【0015】 単量体混合物(I)を構成する、多官能性単量体(a1)及びビニル系単量体(a2)の各含有量は、それぞれ、0.01?5質量%及び95?99.99質量%であり、好ましくは0.05?3質量%及び97?99.95質量%、更に好ましくは0.1?2質量%及び98?99.9質量%である。 上記多官能性単量体(a1)の含有量が少なすぎる場合(上記ビニル系単量体(a2)の含有量が多すぎる場合)、成分(A)の架橋度が低くなり、樹脂粒子としての形状の保持が困難となり、更に、後に被覆部を形成するための反応起点が少なくなり、本発明の複合ゴム粒子におけるコアシェル型構造が得られない場合がある。また、得られる複合ゴム粒子の透明性が十分でない場合がある。 一方、上記多官能性単量体(a1)の含有量が多すぎる場合(上記ビニル系単量体(a2)の含有量が少なすぎる場合)、樹脂粒子の表面において、後に被覆部を形成するための反応起点が多すぎるため、分子鎖の短い成分(B)が多量に生成してなる被覆部を形成するため、成分(B))のゴム弾性を損なうこととなる。従って、被覆部が硬くなるため、最終的に得られる樹脂組成物の力学的強度が低下する。 【0016】 上記成分(A)のガラス転移温度(以下、「Tg」という。)は0℃以上であり、好ましくは50℃以上、更に好ましくは70℃以上である。但し、上限は、通常、250℃である。このTgが高いほど、透明性に優れる。 【0017】 上記成分(A)の屈折率は、特に限定されないが、後述する成分(B)の屈折率よりも大きい。即ち、上記成分(A)の屈折率は、好ましくは1.470?1.600、より好ましくは1.480?1.600、更に好ましくは1.489?1.600である。」 (b-5) 「【0027】 1-2.被覆部 この被覆部は、ガラス転移温度が0℃未満のゴム質重合体(成分(B))からなる。この成分(B)は、多官能性単量体(b1)0.01?5質量%及び他の単量体(b2)95?99.99質量%からなる単量体混合物(II)を重合することにより得ることができる。 【0028】 多官能性単量体(b1)としては、上記成分(A)の形成に用いた多官能性単量体(a1)を用いることができる。この多官能性単量体(b1)は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。 上記多官能性単量体(b1)のうち、メタクリル酸アリル、エチレングリコールジメタクリレート及びトリアリルシアヌレートが好ましく、メタクリル酸アリルが特に好ましい。 【0029】 他の単量体(b2)としては、多官能性単量体(b1)と共重合可能なものであれば、特に限定されない。このビニル系単量体(b2)は、単官能性化合物であることが好ましく、芳香族ビニル化合物;(メタ)アクリル酸及びそのエステル;シアン化ビニル化合物;マレイミド化合物;ジエン系化合物;シリコーン系化合物等が挙げられる。これらは、成分(B)のガラス転移温度が0℃未満となるように選択されて、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。 【0030】 芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物並びにマレイミド化合物としては、上記成分(A)の形成に用いたビニル系単量体(a2)より、適宜、選択して用いることができる。 (メタ)アクリル酸のエステルとしては、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n-ペンチル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸n-ヘキシル、アクリル酸2-メチルペンチル、アクリル酸n-オクチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸n-デシル、アクリル酸n-ドデシル、アクリル酸n-オクタデシル等が好ましい。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。 ジエン系化合物としては、1,3-ブタジエン、イソプレン、2-クロロ-1,3-ブタジエン、クロロプレン等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。 上記単量体(b2)としては、アクリル酸エステル及び/又はジエン系化合物を主とする単量体が好ましく、アクリル酸エステルが特に好ましい。このアクリル酸エステルを用いることにより、Tgの低い成分(B)が得られやすく、そして、複合ゴム粒子、複合ゴム強化ビニル系樹脂の熱劣化安定性、耐薬品性、耐候性等に優れる。 【0031】 単量体混合物(II)を構成する、多官能性単量体(b1)及び単量体(b2)の各含有量は、それぞれ、0.01?5質量%及び95?99.99質量%であり、好ましくは0.05?3質量%及び97?99.95質量%、更に好ましくは0.1?2質量%及び98?99.9質量%である。 上記多官能性単量体(b1)の含有量が少なすぎる場合(上記単量体(b2)の含有量が多すぎる場合)、被覆部を形成する際に、樹脂粒子に対する反応起点が少なくなり、コアシェル型構造の形成が不十分となる場合がある。また、成分(B)の架橋度が低くなり、被覆部のゴム弾性が小さくなるため、そのような複合ゴム粒子を用いて、複合ゴム強化ビニル系樹脂、更には、熱可塑性樹脂組成物を形成し、成形品を製造したとき、成形品の中で複合ゴム粒子の変形が著しく、力学的強度が低下することがあり、また、成形品に異方性を生じることがある。 一方、上記多官能性単量体(b1)の含有量が多すぎる場合(上記単量体(b2)の含有量が少なすぎる場合)、成分(B)の架橋度が高くなり過ぎ、ゴム弾性を失って硬くなることがある。このような、硬い被覆部を有する複合ゴム粒子を用いて、複合ゴム強化ビニル系樹脂、更には、熱可塑性樹脂組成物を形成すると、力学的強度が低下することがある。 【0032】 上記成分(B)のガラス転移温度(Tg)は0℃未満であり、好ましくは-10℃以下である。但し、下限は、通常、-90℃である。このTgが高すぎると、得られる組成物の力学的強度が低下する傾向にある。 【0033】 上記成分(B)の屈折率は、特に限定されないが、上記成分(A)の屈折率よりも小さく、好ましくは1.465?1.594、より好ましくは1.475?1.587、更に好ましくは1.485?1.580である。 【0034】 上記成分(B)からなる被覆部は、樹脂粒子表面の一部にあってよいし、全面にあってもよい。通常、この被覆部は、樹脂粒子の全表面にある。 また、この被覆部の厚さは、好ましくは75nm以下、より好ましくは50nm以下、更に好ましくは30nm以下である。但し、下限は、通常、5nmである。ここで、「被覆部の厚さ」とは、本発明の複合ゴム粒子の重量平均粒子径と、樹脂粒子の重量平均粒子径との差の半分の値として得られる。上記被覆部の厚さが上記範囲であれば、複合ゴム粒子が、より均一で且つ透明なものとなる。尚、上記厚さが厚すぎると、透明性が不十分となる場合がある。また、薄すぎると、十分なゴム弾性が得られず、本発明の複合ゴム粒子や、複合ゴム強化ビニル系樹脂、更には、熱可塑性樹脂組成物の力学的強度が低下する場合がある。 【0035】 本発明の複合ゴム粒子を構成する樹脂粒子及び被覆部の各含有量の割合(A)/(B)は、これらの合計を100質量%とした場合、好ましくは5?95質量%/95?5質量%、より好ましくは10?90質量%/90?10質量%、更に好ましくは15?85質量%/85?15質量%である。上記樹脂粒子の割合が大きすぎると、本発明の複合ゴム粒子を用いて得られる複合ゴム強化ビニル系樹脂、熱可塑性樹脂組成物、更には、成形品の力学的強度が劣る傾向にある。一方、その割合が小さすぎると、該成形品の透明性が十分でない場合がある。」 (b-6) 「【0046】 2.複合ゴム強化ビニル系樹脂 本発明の複合ゴム強化ビニル系樹脂は、重量平均粒子径が30?3000nmである複合ゴム粒子の存在下に、ビニル系単量体(c)を重合して得られたものである。 ビニル系単量体(c)としては、(メタ)アクリル酸エステル;芳香族ビニル化合物;シアン化ビニル化合物;マレイミド系化合物;不飽和酸;酸無水物;官能基を有する化合物等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。 【0047】 (メタ)アクリル酸エステルとしては、上記樹脂粒子の形成に用いるビニル系単量体(a2)として例示したものに加え、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸n-ペンチル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-メチルペンチル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-デシル、(メタ)アクリル酸n-ドデシル、(メタ)アクリル酸n-オクタデシル等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。尚、これらのうち、メタクリル酸メチルが好ましい。 【0048】 芳香族ビニル化合物としては、上記樹脂粒子の形成に用いるビニル系単量体(a2)として例示したものを、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、スチレン、α-メチルスチレンが好ましい。 シアン化ビニル化合物としては、上記樹脂粒子の形成に用いるビニル系単量体(a2)として例示したものを、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、アクリロニトリルが好ましい。 ・・(中略)・・ 【0055】 上記ビニル系単量体(c)として、その(共)重合体の屈折率と、上記複合ゴム粒子の屈折率との差(の絶対値)が0.02以下となるように、更に好ましくは0.01以下となるような化合物を特定の割合で用いる。 【0056】 上記各化合物の使用量は、下記のとおりである。但し、ビニル系単量体(c)の全量を100質量%とする。 (メタ)アクリル酸エステルを使用する場合には、好ましくは1?95質量%、更に好ましくは5?95質量%である。この範囲にあると、着色性及び成形加工性の物性バランスに優れる。 芳香族ビニル化合物の使用量は、好ましくは1?95質量%、更に好ましくは5?95質量%である。この範囲にあると、成形加工性及び力学的強度の物性バランスに優れる。 ・・(中略)・・ 【0062】 本発明の複合ゴム強化ビニル系樹脂のグラフト率は、好ましくは10?200%、より好ましくは15?150%、更に好ましくは20?100%である。上記グラフト率が10%未満では、本複合ゴム強化ビニル系樹脂又は本複合ゴム強化ビニル系樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物からなる成形品の外観性、力学的強度等が低下する場合がある。一方、200%を超えると、成形加工性が劣る場合がある。 ここで、グラフト率とは、複合ゴム強化ビニル系樹脂1グラム中の複合ゴム粒子をxグラム、複合ゴム強化ビニル系樹脂1グラムをアセトンに溶解させた際の不溶分をyグラムとしたときに、次式により求められる値である。 グラフト率(%)={(y-x)/x}×100 【0063】 また、本発明の複合ゴム強化ビニル系樹脂のアセトン可溶分の極限粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃で測定)は、好ましくは0.1?1.0dl/g、より好ましくは0.2?0.9dl/g、更に好ましくは0.3?0.7dl/gである。この範囲とすることにより、本複合ゴム強化ビニル系樹脂又は本複合ゴム強化ビニル系樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物の成形加工性及び力学的強度の物性バランスがより優れる。 尚、上記のグラフト率及び極限粘度[η]は、複合ゴム強化ビニル系樹脂を製造する際に用いる、乳化剤、重合開始剤、連鎖移動剤、溶媒等の種類・量、更には重合時間、重合温度等を選択することにより、容易に制御することができる。 【0064】 本発明の複合ゴム強化ビニル系樹脂は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用い、成形品とすることができる。その際には、後述する熱可塑性樹脂組成物において例示する、各種添加剤を含有させることもできる。 特に、着色剤を含む複合ゴム強化ビニル系樹脂は、着色鮮映性に優れ、例えば、着色剤としてカーボンブラックを配合した場合には、漆黒性に優れた成形品とすることができる。」 (b-7) 「【0065】 3.熱可塑性樹脂組成物 本発明の熱可塑性樹脂組成物は、上記の複合ゴム強化ビニル系樹脂と、他の熱可塑性樹脂(以下、「成分(D)」ともいう。)とを含有する。 成分(D)としては、特に限定されないが、複合ゴム強化ビニル系樹脂の屈折率と、成分(D)の屈折率の差(の絶対値)が0.02以下となるように、更に好ましくは0.01以下となるような物質を用いる。 【0066】 従って、成分(D)としては、ゴム質重合体の非存在下に、ビニル系単量体を重合して得られたビニル系樹脂;・・(中略)・・が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、ビニル系樹脂、ゴム質重合体強化ビニル系樹脂が好ましく、ビニル系樹脂が特に好ましい。 【0067】 上記のビニル系樹脂及びゴム質重合体強化ビニル系樹脂の形成に用いるビニル系単量体(以下、「ビニル系単量体(d)」という。)としては、(メタ)アクリル酸エステル;芳香族ビニル化合物;シアン化ビニル化合物;マレイミド系化合物;不飽和酸;酸無水物;官能基を有する化合物等が挙げられる。これらの化合物は、上記ビニル系単量体(c)として例示した化合物を用いることができる。このビニル系単量体(d)は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。 【0068】 上記各化合物の使用量は、下記のとおりである。但し、ビニル系単量体(d)の全量を100質量%とする。 (メタ)アクリル酸エステルを使用する場合には、好ましくは1?95質量%、更に好ましくは5?95質量%である。この範囲にあると、着色性及び成形加工性の物性バランスに優れる。 芳香族ビニル化合物の使用量は、好ましくは1?95質量%、更に好ましくは5?95質量%である。この範囲にあると、成形加工性及び力学的強度の物性バランスに優れる。 シアン化ビニル化合物を使用する場合には、好ましくは0.5?50質量%、更に好ましくは1?45質量%である。この範囲にあると、耐薬品性、色調及び成形加工性の物性バランスに優れる。 ・・(中略)・・ 【0070】 上記ビニル系単量体(c)として、これらの化合物の種類・量を適宜、選択することにより、目的とする屈折率を有するビニル系樹脂及びゴム質重合体強化ビニル系樹脂を得ることができる。 上記ビニル系単量体(c)として、好ましくは、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル(なかでも、メタクリル酸メチル)及びマレイミド化合物から選ばれた少なくとも2種であり、更に好ましくは、少なくとも3種である。」 (b-8) 「【実施例】 【0079】 以下に、例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。尚、下記において、「部」及び「%」は、特に断らない限り、質量基準である。また、下記の例における評価は、以下の項目であり、その評価方法を示す。 ・・中略)・・ (3)屈折率 アッベの屈折計にてd線の25℃で測定した。 【0080】 (4)複合ゴム粒子、肥大化複合ゴム粒子及び複合ゴム強化ビニル系樹脂の透明性 熱プレス成形によりフィルム化(厚さ50μm)し、以下の基準にて評価した。 ○:目視で透明である。 △:目視で半透明である。 ×:目視で不透明である。 (5)複合ゴム強化ビニル系樹脂、熱可塑性樹脂組成物の力学的強度 熱プレス成形によりシート化(厚さ100μm)し、手で折り曲げ、以下の基準にて評価した。 ◎:折り曲げにより延性的に変形し、1回の折り曲げでは破壊しなかった。 ○:折り曲げにより延性的に破壊した。 △:試験片によっては、一部に延性的に破壊するものもあった。 ×:折り曲げにより脆性的に破壊した。 (6)全光線透過率 射出成形により試験片(縦80mm、横40mm、厚さ3.2mm)を作製し、ASTM D1003に準拠して測定した。単位は%である。 【0081】 1.樹脂粒子の製造及び評価 製造例1 先ず、スチレン98部及びメタクリル酸アリル2部を混合し、単量体混合物(I)を調製した。その後、反応原料及び助剤添加装置、攪拌装置、温度計、加熱装置等を備えた、容量10リットルのガラス製反応器に、水240部、乳化剤として高級脂肪酸ナトリウム石鹸5部及びアルケニルコハク酸カリウム石鹸5部を仕込み、窒素ガス気流下、撹拌しながら、内温を75℃まで昇温した。75℃に達した時点で、50部の水に過硫酸カリウム(以下、「KPS」と略記する。)1部を溶解した水溶液を反応系に添加した。その直後に、単量体混合物(I)100部を、3時間にわたって連続添加し、重合反応を進めた。単量体混合物(I)の連続添加が終了して1時間の間は、反応系の温度を75℃に保持したまま攪拌した。 次いで、10部の水にKPS0.2部を溶解した水溶液を反応器に添加し、更に1時間、反応系温度を75℃に保持して重合反応を終了し、樹脂粒子(A-1)を含むラテックスを得た。このときの重合転化率は98%であった。 得られた樹脂粒子(A-1)の重量平均粒子径は10nm、ガラス転移温度は100℃、屈折率は1.592であった(表1参照)。 ・・(中略)・・ 【0084】 【表1】 【0085】 2.複合ゴム粒子の製造及び評価 上記で得た樹脂粒子を用い、該樹脂粒子の存在下に、下記の単量体混合物(II)を重合して複合ゴム粒子を製造し、各種評価を行った。 【0086】 実施例1-1 先ず、アクリル酸n-ブチル59.9部及びメタクリル酸アリル0.1部を混合し、単量体混合物(II)を調製した。一方、20部の水に、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(以下、「EDTA」と略記する。)0.2部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(以下、「SFS」と略記する。)0.8部及び硫酸第一鉄0.06部を溶解した水溶液(以下、「RED水溶液(I)」と略記する。)を調製した。更に、20部の水に、アルケニルコハク酸カリウム石鹸1部及びキュメンハイドロパーオキサイド(以下、「CHP」と略記する。)0.015部を溶解した水溶液(以下、「OXI水溶液(I)」と略記する。)を調製した。 その後、製造例1において使用したガラス製反応器に、樹脂粒子(A-1)40部を含むラテックス160部、水20部及びアルケニルコハク酸カリウム石鹸2部を仕込み、窒素ガス気流下、撹拌しながら、内温を60℃まで昇温した。60℃に達した時点で、RED水溶液(I)の全量を反応系に添加した。その直後に、単量体混合物(II)60部及びOXI水溶液(I)の全量を、それぞれ、5時間にわたって連続添加し、重合反応を進めた。尚、反応系の温度は、60℃で保持した。単量体混合物(II)及びOXI水溶液(I)の連続添加が終了して1時間の間は、反応系の温度を60℃に保持した。その後、重合反応を終了し、複合ゴム粒子(B-1)を含むラテックスを得た。このときの重合転化率は95%であった。 得られた複合ゴム粒子(B-1)の重量平均粒子径は12nmであった(表2参照)。また、屈折率及び透明性の評価結果についても表2に併記した。尚、屈折率及び透明性の評価は、ラテックスを凝固し、更に、水洗、乾燥することにより単離した複合ゴム粒子を用いて測定した。 【0087】 また、複合ゴム粒子(B-1)における、樹脂粒子(A-1)を被覆する部分のみの重合体成分のTg及び屈折率については、上記の複合ゴム粒子(B-1)と同じ手法で、樹脂粒子(A-1)を用いずに単量体混合物(II)のみからなる重合体を製造し、上記と同様の方法で単離した後、測定した(表2参照)。 【0088】 実施例1-2 樹脂粒子(A-1)の存在下に、表2に示す各単量体混合物(II)を用いて重合した以外は、実施例1-1と同様にして、複合ゴム粒子(B-2)を含むラテックスを製造した。重合時の重合転化率、並びに、得られた複合ゴム粒子の重量平均粒子径、屈折率及び透明性は、表2に併記した。また、単量体混合物(II)のみからなる重合体の評価結果も表2に併記した。 【0089】 比較例1-1?1-3 樹脂粒子(A-1)に代えて、樹脂粒子(A-2)又は(A-3)を用いた以外は、実施例1-1と同様にして、複合ゴム粒子(B-3)及び(B-4)並びにゴム質重合体粒子(B-5)を含むラテックスを製造した。重合時の重合転化率、並びに、複合ゴム粒子(B-3)及び(B-4)並びにゴム質重合体粒子(B-5)の重量平均粒子径、屈折率及び透明性は、表2に併記した。また、単量体混合物(II)のみからなる重合体の評価結果も表2に併記した。 【0090】 【表2】 【0091】 3.肥大化複合ゴム粒子の製造及び評価 上記で得た複合ゴム粒子等を用い、下記の方法により肥大化複合ゴム粒子を製造し、各種評価を行った。 【0092】 実施例2-1 製造例1において使用したガラス製反応器に、複合ゴム粒子(B-1)100部を含むラテックス280部及び水20部を仕込み、撹拌しながら、内温を40℃まで昇温した。40℃に達した時点で、60部の水に、無水酢酸2.5部をホモジナイザーで分散させた懸濁溶液を反応系に添加した。次いで、反応系を40℃に保持しながら、撹拌を停止して粒径肥大化処理を30分間行った。この粒径肥大化処理の後、47.5部の水に、水酸化カリウム2.5部を溶解した水溶液と、9部の水に、β-ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩1部を溶解した水溶液とを、反応系に添加し、撹拌した。その後、肥大化処理を終了し、肥大化複合ゴム粒子(C-1)を含むラテックスを得た。得られた肥大化複合ゴム粒子(C-1)の重量平均粒子径は340nmであった(表3参照)。また、屈折率及び透明性の評価結果についても表3に併記した。肥大化複合ゴム粒子(C-1)の単離方法は、実施例1-1と同様である。 【0093】 実施例2-2?2-4及び比較例2-1?2-3 表3に示す肥大化処方とした以外は、実施例2-1と同様にして、肥大化複合ゴム粒子(C-2)?(C-6)を含む各ラテックスを得た。得られた肥大化複合ゴム粒子の重量平均粒子径、屈折率及び透明性は、表3に併記した。 【0094】 【表3】 【0095】 表3より、実施例2-1?2-4の肥大化複合ゴム粒子は、本発明の粒子であり、透明性に優れる。また、比較例2-1?2-2は、本発明の範囲外の粒子であり、透明性に劣る。 【0096】 4.複合ゴム強化ビニル系樹脂の製造及び評価 上記で得た肥大化複合ゴム粒子等を用い、下記の方法により複合ゴム強化ビニル系樹脂を製造し、各種評価を行った。 【0097】 実施例3-1 先ず、メタクリル酸メチル92部、スチレン33部及びアクリロニトリル25部からなるビニル系単量体と、分子量調節剤としてのt-ドデシルメルカプタン0.5部とを混合し、単量体混合物(III)を調製した。一方、90部の水に、EDTA0.08部、SFS0.4部及び硫酸第一鉄0.008部を溶解した水溶液(以下、「RED水溶液(II)」と略記する。)を調製した。更に、45部の水に、アルケニルコハク酸カリウム石鹸7.5部及びt-ブチルハイドロパーオキサイド0.55部を溶解した水溶液(以下、「OXI水溶液(II)」と略記する。)を調製した。 その後、製造例1において使用したガラス製反応器に、肥大化複合ゴム粒子(C-1)100部を含むラテックス300部を仕込み、窒素気流下、撹拌しながら、内温を40℃まで昇温した。40℃に達した時点で、RED水溶液(II)のうちの85%相当量を反応系に添加した。その直後に、単量体混合物(III)及びOXI水溶液(II)の85%相当分を、それぞれ、5時間にわたって連続添加し、重合反応を進めた。尚、反応系の温度は、重合開始から60℃まで昇温した後、この温度で保持した。 重合開始から5時間経過後、RED水溶液(II)の残り15%相当分及びOXI水溶液(II)の残り15%相当分を反応系に添加し、60℃で1時間保持した。その後、重合反応を終了し、複合ゴム強化ビニル系樹脂(R-1)を含むラテックスを得た。このときの重合転化率は94%であった。 得られた複合ゴム強化ビニル系樹脂(R-1)について、屈折率、透明性及び力学的強度の評価を行った。その結果を表4に示す。尚、これらの評価は、上記複合ゴム粒子等と同様、ラテックスを凝固し、更に、水洗、乾燥することにより単離した後、測定した。 ・・(中略)・・ 【0099】 実施例3-2?3-5及び比較例3-1?3-6 表4及び表5に示す重合処方を用いた以外は、実施例3-1と同様にして、複合ゴム強化ビニル系樹脂(R-2)?(R-11)を含む各ラテックスを得た。得られた複合ゴム強化ビニル系樹脂の評価結果は、表4及び表5に併記した。 【0100】 【表4】 【0101】 【表5】 【0102】 表4より、実施例3-1?3-5は、本発明の範囲内の複合ゴム強化ビニル系樹脂であり、透明性、力学的強度に優れる。一方、表4及び表5より、比較例3-1?3-6は、本発明の範囲外の複合ゴム強化ビニル系樹脂であり、比較例3-1、3-4及び3-5は、力学的強度に劣り、比較例3-3及び3-6は、透明性に劣り、比較例3-2は、透明性及び力学的強度の両方に劣る。 【0103】 5.熱可塑性樹脂組成物の製造及び評価 上記で得た複合ゴム強化ビニル系樹脂等を用い、下記の方法により熱可塑性樹脂組成物を製造し、全光線透過率、着色鮮映性及び力学的強度の評価を行った。尚、着色鮮映性については、以下の方法で平板状試験片を作製し、目視評価した。 溶融混練時に、カーボンブラック(デグサ社製)及びステアリン酸カルシウムを、樹脂成分100部に対して、それぞれ、0.5部及び0.3部配合して、黒色系樹脂組成物を製造し、射出成形により、試験片を得た。評価基準は下記の通りである。 ○;漆黒性に優れている。 △;少し漆黒性に欠ける。 ×;明らかに漆黒性に劣る。 ・・(中略)・・ 【0107】 実施例4-6 複合ゴム強化ビニル系樹脂(R-1)100部と、他の熱可塑性樹脂(S-1)として、屈折率が1.517であるメタクリル酸メチル・スチレン・アクリロニトリル共重合体(重合比60/20/20)100部とを、ミキサーにより5分間混合した後、単軸押出機を用い、シリンダー設定温度180?220℃で溶融混練押出し、ペレット(熱可塑性樹脂組成物)を得た。このペレットを用いて、各種評価を行った。その結果を表7に示す。 【0108】 実施例4-7 熱可塑性樹脂(S-1)に代えて、熱可塑性樹脂(S-2)、即ち、屈折率が1.536であるメタクリル酸メチル・スチレン・アクリロニトリル共重合体(重合比44/40/16)を用いた以外は、実施例4-1と同様にしてペレットを得た。その評価結果を表7に併記した。 【0109】 比較例4-5 複合ゴム強化ビニル系樹脂(R-1)に代えて、複合ゴム強化ビニル系樹脂(R-10)を用いた以外は、実施例4-7と同様にしてペレットを得た。その評価結果を表7に併記した。 【0110】 比較例4-6 複合ゴム強化ビニル系樹脂(R-1)に代えて、複合ゴム強化ビニル系樹脂(R-11)を用いた以外は、実施例4-6と同様にしてペレットを得た。その評価結果を表7に併記した。 【0111】 【表7】 【0112】 表6及び表7より、実施例4-1?4-5は、本発明の範囲内の複合ゴム強化ビニル系樹脂を用いた例、実施例4-6?4-7は、本発明の範囲内の組成物の例であり、透明性、着色鮮映性及び力学的強度に優れる。また、比較例4-1?4-6は、本発明の範囲外であり、比較例4-1及び4-4は、力学的強度に劣り、比較例4-2?4-3は、着色鮮映性に劣り、比較例4-3は、透明性、着色鮮映性及び力学的強度のすべてに劣り、比較例4-4は、透明性及び着色鮮映性に劣る。 【産業上の利用可能性】 【0113】 本発明の複合ゴム粒子を用いてなる複合ゴム強化ビニル系樹脂及び該樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物は、光の透過性、透明性及び力学的強度に優れることから、容易に透明な成形品とすることができる。その成形品は、フィルム、シート等の薄膜体;不定形状の中実体等の各種成形品とすることができ、良好な表面外観の要求されるOA・家電製品、電気・電子分野、サニタリー分野、車輌用途等の各種パーツ、シャーシ、ハウジング、雑貨類等に好適できる。」 (b-9) 「【図面の簡単な説明】 【0114】 【図1】本発明の複合ゴム粒子を示す概略模式図である。 【図2】本発明の複合ゴム粒子が肥大化されてなる肥大化複合ゴム粒子を示す概略模式図である。 【符号の説明】 【0115】 1;複合ゴム粒子、1’;肥大化複合ゴム粒子、11;樹脂粒子、12;被覆部。 」 イ.甲2に記載された発明 上記甲2には、上記(b-1)ないし(b-9)の各記載(特に下線部参照)からみて、 「下記成分(A)からなる樹脂粒子と、該樹脂粒子の表面の少なくとも一部に形成され且つ下記成分(B)からなる被覆部とを備える複合ゴム粒子の存在下に、スチレンを含むビニル系単量体(c)を重合して得られる複合ゴム強化ビニル系樹脂と、他の熱可塑性樹脂とを含有する熱可塑性樹脂組成物。 成分(A);多官能性単量体(a1)0.01?5質量%及び他のビニル系単量体(a2)95?99.99質量%からなる単量体〔但し、(a1)+(a2)=100質量%である。〕の重合体であり、且つ、ガラス転移温度が0℃以上である樹脂。 成分(B);多官能性単量体(b1)0.01?5質量%及び他の単量体(b2)95?99.99質量%からなる単量体〔但し、(b1)+(b2)=100質量%である。〕の重合体であり、ガラス転移温度が0℃未満であり、且つ、屈折率が上記成分(A)より低いゴム質重合体。」 に係る発明(以下「甲2発明」という。)及び 「甲2発明の熱可塑性樹脂組成物からなる成形品。」 に係る発明が記載されているといえる。 2.対比・検討 以下、本件発明と甲1発明又は甲2発明とそれぞれ対比・検討する。 (1)甲1発明に基づく検討 ア.対比 本件発明と上記甲1発明とを対比すると、甲1発明における「アクリル系ゴムを含むゴム質重合体に芳香族ビニル系単量体およびシアン化ビニル系単量体をグラフト重合してなるグラフト共重合体(A)」は、アクリル系ゴムに対して芳香族ビニル系単量体を含む単量体をグラフト重合しているのであるから、本件発明における「アクリル系ゴム状重合体に、芳香族ビニル系単量体、芳香族ビニル系単量体と共重合可能な単量体、またはこれらの組み合わせがグラフト重合されてなる共重合体であ」る「グラフトアクリル系共重合体(A)」に相当する。 また、甲1発明における「シアン化ビニル系単量体の含有量が15?27質量%である」「芳香族ビニル系単量体およびシアン化ビニル系単量体からなる単量体を共重合してなる共重合体(B)」及び「メタクリル酸メチル単量体およびアクリル酸メチル単量体を共重合してなる共重合体(C)」は、それぞれ、本件発明における「5?25重量%のシアン化ビニル化合物から誘導されるユニットを含」む「芳香族ビニル-シアン化ビニル系共重合体(B)」及び「ポリアルキル(メタ)アクリレート樹脂(C)」に相当し、さらに、甲1発明における「熱可塑性樹脂組成物」は、本件発明における「熱可塑性樹脂組成物」に相当することも明らかである。 してみると、本件発明と甲1発明とは、 「グラフトアクリル系共重合体(A); 芳香族ビニル-シアン化ビニル系共重合体(B);および ポリアルキル(メタ)アクリレート樹脂(C)を含み、 前記芳香族ビニル-シアン化ビニル系共重合体(B)は、5?25重量%のシアン化ビニル化合物から誘導されるユニットを含み、 前記グラフトアクリル系共重合体(A)は、アクリル系ゴム状重合体に、芳香族ビニル系単量体と共重合可能な単量体の組み合わせがグラフト重合されてなる共重合体であることを特徴とする、熱可塑性樹脂組成物。」 の点で一致し、下記の点で相違するものといえる。 相違点1:本件発明では「アクリル系ゴム状重合体は、二重層であるコア構造を有する」のに対して、甲1発明では「アクリル系ゴムを含むゴム質重合体」が「二重層であるコア構造を有する」か否か明らかでない点 イ.相違点1についての検討 上記相違点1につき検討すると、上記甲2にも記載されている(摘示(b-1)及び(b-2)等参照)とおり、スチレン、メタクリル酸メチルなどの単量体からなる高Tg重合体からなる樹脂粒子に対して、アクリル酸n-ブチルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体からなる低Tg重合体からなる被覆部を設けてなる複合ゴム粒子、すなわち、二重層であるコア(シェル)構造を有するアクリル系ゴム粒子の存在下に、さらに、芳香族ビニル系単量体及びシアン化ビニル系単量体を共重合して得られる複合ゴム強化ビニル系樹脂を、他のビニル系樹脂と組み合わせて、光透過性、透明性、着色鮮映性と力学的強度とに優れた熱可塑性樹脂組成物及びその成形品を構成することは、少なくとも本願出願前公知の技術であるものとはいえる。 しかしながら、甲1発明においては、甲1の記載(摘示(a-2)、(a-3)及び(a-8)参照)からみて、高い耐傷付性、耐衝撃性、成形性を有するとともに意匠性、すなわち、透明性、光透過性及び着色(鮮映)性に優れた熱可塑性樹脂組成物及びその成形品が既に提供されているものと認められるから、甲1発明における「アクリル系ゴムを含むゴム質重合体」につき、甲2の記載の上記公知技術を組み合わせて「二重層であるコア(シェル)構造を有するアクリル系ゴム粒子」に代えるべきことを動機付ける事項が存するものとは認められない。 してみると、甲1発明において、甲2の記載の上記公知技術を組み合わせて、「アクリル系ゴムを含むゴム質重合体」につき「二重層であるコア(シェル)構造を有するアクリル系ゴム粒子」に代えることは、当業者が適宜なし得ることということはできない。 したがって、相違点1は、甲1発明において、当業者が適宜なし得ることではない。 ウ.小括 以上のとおりであるから、本件発明は、甲1発明、すなわち甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)甲2発明に基づく検討 申立書における申立人の主張(第20頁?第26頁)からみて、申立人が主張する上記取消理由は、専ら、甲1発明を主たる引用発明とし、甲2に記載された事項を組み合わせて、本件発明の進歩性が欠如しているとするものと認められるところ、念のため、職権に基づき、甲2発明を主たる引用発明とする進歩性の有無についても以下検討する。 ア.対比 本件発明と上記甲2発明とを対比すると、甲2発明における「成分(A)からなる樹脂粒子と、該樹脂粒子の表面の少なくとも一部に形成され且つ・・成分(B)からなる被覆部とを備える複合ゴム粒子」は、甲2の記載(摘示(b-4)及び(b-5))からみて、スチレン、メタクリル酸メチルなどの高Tg重合体である「成分(A)」からなる樹脂粒子とアクリル酸n-ブチルなどの低Tg重合体である「成分(B)」からなる被覆部とを備える、二重層であるコア(シェル)構造を有するものであるから、本件発明における「二重層であるコア構造を有する」「アクリル系ゴム状重合体」に相当する。 また、甲2発明における「複合ゴム粒子の存在下に、スチレンを含むビニル系単量体(c)を重合して得られる複合ゴム強化ビニル系樹脂」は、本件発明における「二重層であるコア構造を有する」「アクリル系ゴム状重合体」に相当する甲2発明における「複合ゴム粒子」に対してスチレンを含むビニル系単量体(c)をグラフト重合することと実質的に同様の反応操作であることが当業者に自明であるから、本件発明における「アクリル系ゴム状重合体に、芳香族ビニル系単量体、芳香族ビニル系単量体と共重合可能な単量体、またはこれらの組み合わせがグラフト重合されてなる共重合体であ」る「グラフトアクリル系共重合体(A)」に相当する。 さらに、本件発明における「5?25重量%のシアン化ビニル化合物から誘導されるユニットを含」む「芳香族ビニル-シアン化ビニル系共重合体(B)」及び「ポリアルキル(メタ)アクリレート樹脂(C)」は、いずれも熱可塑性樹脂の一種であることが当業者に自明であり、甲2発明における「他の熱可塑性樹脂」の範ちゅうに入るものであるとともに、甲2発明における「熱可塑性樹脂組成物」は、本件発明における「熱可塑性樹脂組成物」に相当する。 してみると、本件発明と甲2発明とは、 「グラフトアクリル系共重合体(A);および 他の熱可塑性樹脂を含み、 前記グラフトアクリル系共重合体(A)は、アクリル系ゴム状重合体に、芳香族ビニル系単量体、芳香族ビニル系単量体と共重合可能な単量体、またはこれらの組み合わせがグラフト重合されてなる共重合体であり、 前記アクリル系ゴム状重合体は、二重層であるコア構造を有することを特徴とする、熱可塑性樹脂組成物。」 の点で一致し、下記の点で相違するものといえる。 相違点2:本件発明では「芳香族ビニル-シアン化ビニル系共重合体(B);およびポリアルキル(メタ)アクリレート樹脂(C)を含み、前記芳香族ビニル-シアン化ビニル系共重合体(B)は、5?25重量%のシアン化ビニル化合物から誘導されるユニットを含」むのに対して、甲2発明では「他の熱可塑性樹脂を含」む点 イ.相違点2についての検討 上記相違点2につき検討すると、上記甲1にも記載されている(摘示(a-4)、(a-5)及び(a-8)等参照)とおり、「ゴム質重合体に芳香族ビニル系単量体およびシアン化ビニル系単量体をグラフト重合してなるグラフト共重合体(A)」に対して「シアン化ビニル系単量体の含有量は15?27質量%である芳香族ビニル系-シアン化ビニル系共重合体(B)」と「メタクリル酸メチル単量体およびアクリル酸メチル単量体を共重合してなる共重合体(C)」とを組み合わせて、成形性、耐傷付性、意匠性及び耐衝撃性に優れる熱可塑性樹脂組成物及びその成形品を構成することは、少なくとも本願出願前公知の技術であるものとはいえる。 しかしながら、甲2発明においては、甲2の記載(摘示(b-2)及び(b-8)参照)からみて、光の透過性、透明性及び力学的強度に優れ、着色剤を含む場合には着色鮮映性に優れた成形品とすることができる熱可塑性樹脂組成物及びその成形品が既に提供されているものと認められるから、甲2発明における「他の熱可塑性樹脂」として、甲1の記載の上記公知技術を組み合わせて「シアン化ビニル系単量体の含有量は15?27質量%である芳香族ビニル系-シアン化ビニル系共重合体(B)」と「メタクリル酸メチル単量体およびアクリル酸メチル単量体を共重合してなる共重合体(C)」とを選択して併用すべきことを動機付ける事項が存するものとは認められない。 してみると、甲2発明において、甲1の記載の上記公知技術を組み合わせて、「他の熱可塑性樹脂」として、「シアン化ビニル系単量体の含有量は15?27質量%である芳香族ビニル系-シアン化ビニル系共重合体(B)」と「メタクリル酸メチル単量体およびアクリル酸メチル単量体を共重合してなる共重合体(C)」とを選択して併用することは、当業者が適宜なし得ることということはできない。 したがって、相違点2は、甲2発明において、当業者が適宜なし得ることではない。 ウ.小括 以上のとおりであるから、本件発明は、甲2発明、すなわち、甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)まとめ 以上のとおりであるから、本件発明は、甲1に記載された発明及び甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるということはできない。 3.他の請求項に係る発明について 本件特許の請求項2ないし11に係る発明は、いずれも請求項1に係る本件発明を直接または間接に引用して記載しているものであるところ、上記2.で説示したとおりの理由により、本件発明は、甲1に記載された発明及び甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるということはできない。 したがって、本件特許の請求項2ないし11に係る発明についても、甲1に記載された発明及び甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるということはできない。 4.当審の判断のまとめ 以上のとおり、本件の請求項1ないし11に係る発明は、いずれも、甲1に記載された発明及び甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるということはできない。 よって、本件の請求項1ないし11に係る発明についての特許は、いずれも特許法第29条の規定に違反してされたものということはできないから、上記取消理由は、理由がなく、本件の請求項1ないし11に係る発明についての特許を取り消すことはできない。 第5 むすび 以上のとおり、本件異議申立において特許異議申立人が主張する取消理由は理由がなく、本件の請求項1ないし11に係る発明についての特許は、取り消すことができない。 ほかに、本件の請求項1ないし11に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2018-09-12 |
出願番号 | 特願2016-128681(P2016-128681) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(C08L)
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最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 横山 法緒 |
特許庁審判長 |
大熊 幸治 |
特許庁審判官 |
海老原 えい子 橋本 栄和 |
登録日 | 2017-12-22 |
登録番号 | 特許第6263234号(P6263234) |
権利者 | ロッテ アドバンスト マテリアルズ カンパニー リミテッド |
発明の名称 | 熱可塑性樹脂組成物およびこれを用いた成形品 |
代理人 | 八田国際特許業務法人 |