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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G01R
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  G01R
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G01R
管理番号 1344863
異議申立番号 異議2018-700443  
総通号数 227 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-11-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-06-04 
確定日 2018-10-03 
異議申立件数
事件の表示 特許第6241502号発明「電気テスト用コンタクトおよびそれを用いた電気テスト用ソケット」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6241502号の請求項1及び請求項2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6241502号(以下、「本件特許」という。)の請求項1及び請求項2に係る発明(以下、「本件発明1」及び「本件発明2」といい、本件発明1及び本件発明2を併せて「本件発明」という。)は、平成25年6月25日(優先権主張 平成24年6月25日)を国際出願日とする出願である特願2014-522640号の一部を平成28年6月6日に新たな特許出願(特願2016-112968号)としたものに係る発明である。そして、平成29年11月17日にその特許権の設定登録がされ、同年12月6日にその特許掲載公報が発行された。

これに対して、平成30年6月4日に本件特許の全ての請求項について特許異議申立人海老原健雄による特許異議の申立てがされた。


第2 本件発明
本件発明1及び本件発明2は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
被検体の端子に接触する接触部と、テストボードに固定される端子部と、を備え、前記被検体の検査に用いられる電気テスト用コンタクトであって、
金属材料から成る基材と、該基材の表面に形成されたニッケルあるいはニッケル基合金から成る第1めっき層と、を有し、
前記接触部および前記端子部には、前記第1めっき層に接して金あるいは金基合金から成る第2めっき層が形成され、さらに前記接触部のみに前記第2めっき層に接するパラジウムまたはパラジウム基合金から成る第3めっき層と、該第3めっき層に接する銀あるいは銀基合金から成る第4めっき層と、が積層して形成され、
前記第2めっき層は、前記第1めっき層および第3めっき層間での応力緩和機能を果たすために、前記接触部において、0.05μm以上の厚さに形成されていることを特徴とする電気テスト用コンタクト。
【請求項2】
前記第2めっき層は、前記端子部において、前記第1めっき層の酸化防止機能を果たすために、0.3μm以下の厚さに形成されていることを特徴とする請求項1に記載の電気テスト用コンタクト。」


第3 特許異議申立ての理由の概要
1 理由1(進歩性欠如)
本件発明1及び本件発明2は、後記の甲第1号証に記載された発明と後記の甲第2号証ないし甲第10号証に記載された技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

すなわち、本件発明1及び本件発明2についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当する。

甲第1号証:国際公開第2007/034921号
甲第2号証:丸山清 毛利秀明、「機能めっき」、初版、日刊工業新聞社、昭和59年2月28日、第200-203頁
甲第3号証:特開平9-232057号公報
甲第4号証:岩波国語辞典、第5版、岩波書店、1997年12月18日、第1124頁
甲第5号証:特開2004-79486号公報
甲第6号証:プレーティング研究会、「絵とき 機能めっき 基礎のきそ」、初版、日刊工業新聞社、2007年12月28日、第24-25頁
甲第7号証:木名瀬隆、「白金族ルテニウムめっき」、表面技術、一般社団法人 表面技術協会、2005年9月5日、Vol.55、N0.10、第635-639頁
甲第8号証:岡村康弘、「設計現場で役立つ めっきの基礎とノウハウ」、初版、日刊工業新聞社、2009年2月20日、第118-127頁
甲第9号証:特開2007-271343号公報
甲第10号証:特開2008-63415号公報

2 理由2(サポート要件違反、実施可能要件違反)
(1)理由2-1
本件特許の請求項1には、接触部のめっき層について「前記第2めっき層は、・・・前記接触部において、0.05μm以上の厚さに形成されている」と記載されている。
しかし、本件特許の課題は、接触抵抗の上昇を抑制することにより、信頼性の向上および長寿命化を図り、且つ、低コスト化を実現することであり、これらの課題は、一体的な課題といえる。そうすると、このような一体的な課題を解決するにあたって、本件特許の発明の詳細な説明において、第2めっき層の厚さについて、下限のみを設定する事項が開示されているとはいえない。

(2)理由2-2
ア 本件特許の請求項1には、端子部の第2めっき層について、厚さは限定されていない。
本件特許の発明の詳細な説明によれば、端子部に関しても、特定の数値範囲とすることによって、信頼性、長寿命化及びコストという一体的な課題の解決を図っていると読み取れる。そうすると、このような一体的な課題を解決するにあたって、本件特許の詳細な説明において、端子部の厚みが任意であってもよいという事項が開示されているとはいえず、また、請求項2のように上限のみ設定する事項が開示されているともいえない。

イ 請求項2には、「第2のめっき層」について、「0.3μm以下の厚さに形成されている」と記載されている。この点について、明細書には、「0.30μm以下」という数値は記載されているが、「0.3μm以下」の記載はない。
「0.3μm」という数値は、明細書に裏付けのないものであり、また、その数値に臨界的意義を見いだすことができない。

(3)理由2-3
ア 本件特許の発明の詳細な説明においては、ニッケルとパラジウムとの組み合わせの場合においても、0.05μm以上の厚さの金めっき層であれば、層間の剥がれを防止出来ることについて、実証したデータの開示はなく、また、金属の性質との関係性に基づく論理的な説明も開示もされていない。

イ 応力緩和機能を発生する第2めっき層の厚みの臨界的意義について、それを裏付ける実験データの開示はなく、また、論理的な説明も開示されていない。

すなわち、本件発明1及び本件発明2についての特許は、特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当する。


第4 理由1(進歩性欠如)について
1 甲第1号証ないし甲第10号証に記載された発明等
(1)甲第1号証
ア 甲第1号証の記載
甲第1号証には、以下の記載がある。下線は、当審が付した。
「[0001]
この発明は、半導体装置(以下「ICパッケージ」という)等の電気部品に電気的に接続される電気接触子及び、この電気接触子が配設された電気部品用ソケットに関するものである。」

「 [0006]
そこで、この発明は、バーンイン試験を繰り返し行っても、電気抵抗値の上昇を抑制し、適切な試験が行える電気接触子及び電気部品用ソケットを提供することを課題としている。
課題を解決するための手段
[0007]
かかる課題を達成するために、本発明者らは鋭意検討した結果、以下のことを見出した。すなわち、従来では、コンタクトピンの最表層がAuメッキ層で、下地層がNiで成形されているため、鉛フリー半田の端子を有するICパッケージを対象としたバーンイン試験を繰り返すうちにAuが端子側に溶け込んでAuメッキ層が無くなり、下地層Niが露出するようになる。そして、Niが空気中で酸化し、比抵抗の大きい酸化被膜を作る。その結果、コンタクトピンの端子に対する接触部分の電気抵抗値が大きくなることを見出した。
[0008]
このことにより、本発明者らは、電気接触子側の最表層が電気部品端子側に溶け込まず、下地層Niが露出しないように、電気部品端子の半田中のSnがバーンイン環境(高温)下で、電気接触子側に転写するようにし、且つ、最表層中に拡散して表面にSnが酸化物として蓄積され難いようにすれば、繰り返して使用しても、接触部分の電気抵抗の早期の上昇が抑制されるものと考えた。」

「 [0042]
この実施の形態1の電気接触子は、ここでは、バーンイン試験用のICソケット(電気部品用ソケット)に配設されるコンタクトピン11で、このコンタクトピン11を介して、バーンイン試験時に、「電気部品」であるICパッケージと配線基板とを電気的に接続するようにしている。
[0043]
このICパッケージは、方形状のパッケージ本体の下面に多数の端子が設けられ、この端子は、主成分がSnで鉛を含まないいわゆる鉛フリー半田により成形されている。
[0044]
そのICソケットは、配線基板上に取り付けられるソケット本体を有し、このソケット本体に、複数のコンタクトピン11が配設されている。
[0045]
そのコンタクトピン11は、図1に示すように、基材12と、下地層13と、最表層14とから構成されている。その基材12は、導電性を有する材料から成形され、ここでは、リン青銅から成形されている。また、下地層13は、2?3μmのNiメッキにより成形されている。
[0046]
さらに、最表層14は、熱を加えることによりSnが溶け込む材料、ここでは、1μm程度のPd-Agメッキ層から構成され、PdとAgとの重量比は、Agが大きく設定されている。
[0047]
このPd-Agメッキ層は、例えばメッキによる製法又はイオンプレーティングによる製法により成形されている。
[0048]
そのメッキによる製法は、下地層13としてNiメッキ2?3μmを施し、その上に密着層としてストライクAuメッキをした上で、最表層14としてPdメッキ0.5μmとAgメッキ0.5μmを交互に重ねた後恒温槽にて所定の温度でPd及びAgを熱拡散させるものである。このときPdとAgとの重量比は、Pd:Ag=54:46であるが、この比は、Pdメッキ層及びAgメッキ層の膜厚を調整することで自由に変えることができる。
[0049]
また、イオンプレーティングによる製法は、下地層13としてNiメッキ2?3μmを施し、その上に最表層14としてPd及びAgをイオンプレーティングにより1μm付着させた。この場合、PdとAgとの重量比は、Pd:Ag=36:64で、Agの方が大きい。
[0050]
これによれば、かかるコンタクトピン11を、ICパッケージの端子に接触させ、バーンイン試験を繰り返し行うことにより、従来では、コンタクトピン11の電気抵抗値が早期に上昇していたが、この実施の形態では、電気抵抗値の上昇を抑制できて、バーンイン試験を適性に行うことができる。
[0051]
すなわち、従来では、コンタクトピン11の最表層14がAuメッキ層で、下地層13がNiで成形されているため、鉛フリー半田の端子を有するICパッケージを対象としたバーンイン試験を繰り返すうちにAuが端子側に溶け込んでAuメッキ層が無くなり、下地層13のNiが露出するようになる。そして、Niが空気中で酸化し、比抵抗の大きい酸化被膜を作る。その結果、コンタクトピン11の端子に対する接触部分の電気抵抗値が大きくなっていた。
[0052]
しかし、この実施の形態では、コンタクトピン11の最表層14にPdとAgからなるメッキ層を設けたため、バーンイン環境下(80℃?170℃)で、ICパッケージ端子の半田中のSnが、コンタクトピン11の最表層14に転写して拡散する。従って、PdとAgがICパッケージ端子側に溶け込むことなく、下地層13のNiが露出しないと共に、最表層14の表面にSnが酸化物として蓄積され難い。」

「[0083]
ここで、図11乃至図16には、それぞれ、発明の実施の形態1の異なる変形例を示す。
[0084]
図11に示すコンタクトピン11は、Pd-Agメッキ層14aと下地層13との間に、Pdメッキ層14bが形成され、図12に示すコンタクトピン11は、Pd-Agメッキ層14aと下地層13との間に、Agメッキ層14cが形成され、図13に示すコンタクトピン11は、Pd-Agメッキ層14aの上に、Pdメッキ層14bが形成され、図14に示すコンタクトピン11は、Pd-Agメッキ層14aの上に、Agメッキ層14cが形成され、図15に示すコンタクトピン11は、下地層13の上に、Pdメッキ層14bとAgメッキ層14cとが順に積層され、図16に示すコンタクトピン11は、下地層13の上に、Agメッキ層14cとPdメッキ層14bとが順に積層されている。
[0085]
このようなものにあっても、コンタクトピン11の最表層14にPdとAgからなるメッキ層を設けたため、バーンイン環境下(80℃?170℃)で、ICパッケージ端子の半田中のSnが、コンタクトピン11の最表層14に転写して拡散する。従って、PdとAgがICパッケージ端子側に溶け込むことなく、下地層13のNiが露出しないと共に、最表層14の表面にSnが酸化物として蓄積され難い。その結果、バーンイン試験を繰り返しても、コンタクトピン11の接触部分の電気抵抗の早期の上昇が抑制されることとなる。」

【図15】


イ 甲第1号証に記載された発明
上記アの記載によれば、以下のことが認められる。

(ア)甲第1号証には、バーンイン試験用のICソケットに配設されるコンタクトピン11の発明が記載されている。([0042])

(イ)甲第1号証の「コンタクトピン11」は、バーンイン試験用のICソケットのソケット本体であって、配線基板上に取り付けられるソケット本体に配設され、バーンイン試験時にICパッケージの端子に接触し、ICパッケージと配線基板とを電気的に接続する。([0042]、[0044]、[0050])

(ウ)甲第1号証の「コンタクトピン11」は、基材12と、下地層13と、最表層14とから構成されている。([0045])

(エ)甲第1号証の「基材12」は、導電性を有する材料であるリン青銅から成形されている。([0045])

(オ)甲第1号証の「下地層13」は、Niメッキにより成形されている。([0045])

(カ)甲第1号証の「最表層14」は、熱を加えることによりSnが溶け込む材料から構成されている。([0046])

(キ)甲第1号証の「最表層14」の一例は、下地層13の上に、Pdメッキ層14bとAgメッキ層14cを順に積層したものである。([0083]、[0085]、図15)

以上のことをまとめると、 甲第1号証には、図15に示された「変形例」として、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。

「バーンイン試験用のICソケットのソケット本体であって、配線基板上に取り付けられるソケット本体に配設され、バーンイン試験時にICパッケージの端子に接触し、ICパッケージと配線基板とを電気的に接続するコンタクトピン1であって、
基材12と、下地層13と、最表層14とから構成され、
基材12は、導電性を有する材料であるリン青銅から成形され、
下地層13は、Niメッキにより成形され、
最表層14は、下地層13の上に、熱を加えることによりSnが溶け込む材料であるPdメッキ層14bとAgメッキ層14cを順に積層したものである、
コンタクトピン11。」

(2)甲第2号証
甲第2号証には、接点として必要な部分だけをめっきする部分めっきが開発され、貴金属の節約によるコストダウンがなされているという技術事項が記載されている。

(3)甲第3号証
ア 甲第3号証の記載
甲第3号証には以下の記載がある。下線は、当審が付した。

「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ICパッケージを装着して、前記ICパッケージのリードとICパッケージの検査用回路との電気的接続をさせるためのICソケットに用いられるコンタクトピンに関する。」

「【0012】
【実施例】図1は、フラット型ICパッケージ用ICソケットに用いられるコンタクトピンの一例を示す正面図である。図中、1はコンタクトピンで、斜線部1aはICパッケージのリードと接触する接触部、斜線部1bはICパッケージの検査用回路基盤に半田付けされることによって接続される実装接続部である。
【0013】ます、ベリリウム銅をプレス加工することによって、図1に示すコンタクトピン1の形状に加工する。次に、コンタクトピン1全体をニッケルメッキし、さらにその上に金メッキを全体に施す。最後に、金メッキを施されたコンタクトピンの接触部1aの上のみ、または、コンタクトピンの実装接続部1bを除く部分全体に、半田濡れ性が悪く、しかも電気抵抗の低い物質、例えば、Ag-C,Au-Ni,Ni-B,Pd-P等の物質をメッキする。」

イ 甲第3号証に記載された技術事項

上記アの記載をまとめると、甲第3号証には、以下の技術事項が記載されている。

「ICパッケージのリードと接触する接触部1aと、ICパッケージの検査用回路基盤に半田付けされることによって接続される実装接続部1bと、を備えるフラット型ICパッケージ用ICソケットに用いられるコンタクトピン1であって、
コンタクトピン1は、ベリリウム銅をプレス加工したものであり、
コンタクトピン1全体はニッケルメッキされ、さらにその上に金メッキを全体に施され、
金メッキを施されたコンタクトピンの接触部1aの上のみ、例えばAg-C,Pd-P等の、半田濡れ性が悪く、しかも電気抵抗の低い物質がメッキされた、
フラット型ICパッケージ用ICソケットに用いられるコンタクトピン1。」

(4)甲第4号証
甲第4号証には、「密着」の用語について、「ぴったりと、くっつくこと」と記載されている。

(5)甲第5号証
甲第5号証には、以下の記載がある。下線は、当審が付した。

「【0010】
【発明の実施の形態】
<導電性基体>
本発明に用いられる導電性基体は、電気、電子製品や半導体製品等の接続用のコネクタや各種の基板における接続用のパターン等に用いられる従来公知の導電性基体であればいずれのものであっても用いることができる。たとえば、リン青銅、黄銅、ベリリウム銅等の銅合金系素材、鉄(Fe)、ステンレス鋼等の鉄系素材、その他ニッケル系素材や各種基板上の銅パターン等を挙げることができる。」

「【0011】
<ルテニウム層>
本発明のルテニウム層は、上記導電性基体上に形成されるものであって、金属ルテニウム(Ru)により構成されるものである。通常、ルテニウム層は0.05?1.5μm、好ましくは0.2?1.0μmの厚さとして金属ルテニウムを導電性基体上にめっきすることにより形成される。0.05μm未満の場合は、挿抜性の向上等本発明により得られる効果を十分に得ることができなくなる一方、1.5μmを超えるとルテニウム層自体の応力が大きくなり過ぎて導電性基体から剥離したりルテニウム層自体に亀裂が生じたりすることがあるため好ましくない。」

「【0013】
<下地層>
本発明の下地層は、導電性基体の種類により上記ルテニウム層が剥離し易くなる場合に必要に応じ形成されるものである。通常、該ルテニウム層は導電性基体がニッケル系の素材で構成されている場合には自己の応力により剥離することはほとんどないが、導電性基体がニッケル系素材以外の素材で構成されている場合には容易に剥離することがあり、このような場合に該下地層を形成させる必要がある。すなわち、該下地層は、ルテニウム層の剥離を防止する作用を有するものである。したがって、該下地層は、導電性基体とルテニウム層の間に(すなわち、ルテニウム層の下層として)形成され、Ni、Cu、Au、Agからなる群から選ばれた少なくとも一種の金属からなる層であって、少なくとも一層(すなわち、単層もしくは複数層として)形成される。該下地層を複数層として形成する場合は、ルテニウム層の厚さや導電性基体の種類を考慮してそれぞれの層を構成する金属の種類や厚さを決定することが好ましい。たとえば、導電性基体が銅合金系素材の場合には、導電性基体上に厚さ0.05?5μmのNiからなる第1の下地層を形成し、その上に厚さ0.05?1μmのAuまたはAgからなる第2の下地層を形成することが好ましい。また、導電性基体が鉄系素材や黄銅の場合には、導電性基体上に厚さ0.05?5μmのCuからなる第1の下地層を形成し、その上に厚さ0.05?2μmのNiからなる第2の下地層を形成することが好ましい。このように該下地層は、通常単層もしくは複数層としてその厚さが0.05?7μm、好ましくは0.8?4.0μmとなるようにそれぞれの金属を導電性基体上にめっきすることにより形成することができる。該下地層の厚さが0.05μm未満の場合は、ルテニウム層の剥離を防止することができなくなる場合がある一方、7μmを超えるとコストアップにつながり経済的に不利となるばかりか、経時的に厚みが変化し寸法安定性に欠けるとともに導電性基体自体のバネ性が喪失するため好ましくない。」

(6)甲第6号証
甲第6号証には、Au、Pd、Ni等の各種金属のめっき皮膜の硬さ(ビッカース硬度)が記載されている。

(7)甲第7号証
甲第7号証には、ルテニウムめっき皮膜とパラジウムめっき皮膜の硬さ(ビッカース硬度)が記載されている。

(8)甲第8号証
甲第8号証には、接合表面を担う代表的なめっきが金めっきであることと、その理由が記載されている。

(9)甲第9号証
ア 甲第9号証の記載
甲第9号証には、以下の記載がある。下線は、当審が付した。

「【0013】
(コンタクトプローブ)
本発明のカンチレバー型のコンタクトプローブを図1に例示する。図1(a)はコンタクトプローブの全体を示す平面図であり、図1(b)?図1(d)は先端部とその近傍の拡大図である。また、図1(b)は平面図であり、図1(c)は底面図であり、図1(d)は側面図である。図1(a)に示すように、このコンタクトプローブは、被測定面に接触する先端部1と、先端部1に接続するバネ部2と、バネ部2に接続して基板(図示していない。)上でバネ部2を支持する支持部3とを備える。先端部1とバネ部2と支持部3とは、支持部3を固定して先端部1を被測定面に押し当てると、先端部1が被測定面に当接したままバネ部2により、矢印に示す方向に弾性変形する。先端部1とバネ部2は、弾性変形する方向(矢印の方向)に沿って平面を有する板状構造体である。また、図1(d)に示すように、先端部1のうちバネ部2との接続部分が、バネ部2の平面2aに埋め込まれた構造を有することを特徴とする。
【0014】
コンタクトプローブは、検査を促進するため高温条件下で、十万回以上も被検査体である電極に圧接され、先端部1とバネ部2の界面に繰り返し荷重がかかるため、先端部1とバネ部2との間で層間剥離が生じやすい。しかし、本発明では、図1(d)に示すように、先端部1のうちバネ部2との接続部分が、バネ部2の平面2aに埋め込まれた構造を有するため、先端部をバネ部上に単に積層した構造に比べて、層間剥離による先端部の脱離を抑制する効果が大きい。また、図1(d)に示すように、先端部1の厚さt1を薄くすることにより、接触圧力を高め、電気抵抗を下げ、安定した導通を得ることが可能である。また、バネ部2の厚さt2を厚くすることによりバネ力が得られ、アセンブリが容易となる。本発明のコンタクトプローブにおける先端部1は、弾性変形する方向(矢印の方向)に沿って平面を有する板状構造体であるため、リソグラフィと電鋳により容易に製造することができ、形状を自在に実現できる。また、先端部に接触性のよい材料を用い、バネ部にバネ性の良好な材料を用いることで、高い特性のプローブを得ることができる。」

「【0016】
図9に、本発明のコンタクトプローブにおいて、先端部とバネ部との間に接合層93を有する態様を示す。図9(a)は底面図であり、図9(b)は側面図である。図9(b)に示すように、先端部91とバネ部92との間に接合層93を有すると、先端部91とバネ部92との密着性が高まり、層間剥離を抑制する効果を高めることができる点で好ましい。接合層としては、Au、Au-Sn、半田などからなる層であり、厚さは、0.5μm?3.0μmが好ましい。
【0017】
前述のとおり、検査を促進するために、コンタクトプローブは高温下で使用されることが多く、さらに、検査中は通電によりプローブの温度が上がるため、先端部とバネ部の熱膨張率の相違により、先端部とバネ部の界面に大きな応力が発生し、層間剥離が生じやすくなる。このため、層間剥離を抑制する点で、先端部とバネ部の接続面に、AuまたはCuなどからなる応力緩和層を有する態様が好ましく、応力緩和層の厚さは、0.5μm?10μmが好ましい。」

「【0021】
後述する製造方法によれば、コンタクトプローブの先端部と、バネ部および支持部は、別個の電鋳工程を経て形成することから、先端部の材質と、バネ部および支持部の材質とを異なるものとすることができる。したがって、先端部には、ロジウムまたはパラジウム系合金などを使用することにより電極への接触特性を高め、バネ部にはニッケルまたはニッケル系合金などの材質を採用することにより、バネ特性の優れたコンタクトプローブを提供することができる。」

イ 甲第9号証に記載の技術事項
上記アの記載をまとめると、甲第9号証には、以下の技術事項が記載されている。

「被測定面に接触する先端部1と、先端部1に接続するバネ部2と、バネ部2に接続して基板上でバネ部2を支持する支持部3とを備えるコンタクトプローブであって(【0013】)、
先端部1とバネ部2は、別個の電鋳工程を経て形成され(【0021】)、弾性変形する方向に沿って平面を有する板状構造体であり(【0013】)、
先端部には、ロジウムまたはパラジウム系合金などを使用することにより電極への接触特性を高め、バネ部にはニッケルまたはニッケル系合金などの材質を採用し(【0021】)、
先端部とバネ部の熱膨張率の相違により、先端部とバネ部の界面に大きな応力が発生し、層間剥離が生じやすくなるため、層間剥離を抑制する点で、先端部とバネ部の接続面に、AuまたはCuなどからなり、厚さは、0.5μm?10μmが好ましい応力緩和層を有する(【0017】)、コンタクトプローブ。」

(10)甲第10号証
甲第10号証には、酸化防止及び電気的接触性を高めるために、金等の貴金属又は貴金属の合金で被覆する技術事項が記載されている。

2 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、以下のとおりである。

ア 甲1発明の「ICパッケージ」及び「配線基板」は、それぞれ、本件発明1の「被検体」及び「テストボード」に相当する。

イ 上記アを踏まえると、甲1発明の「バーンイン試験時に」「ICパッケージと配線基板とを電気的に接続するコンタクトピン1」は、本件発明1の「被検体の検査に用いられる電気テスト用コンタクト」に相当する。

ウ 甲1発明の「コンタクトピン1」は、「バーンイン試験時に、ICパッケージの端子に接触し、ICパッケージと配線基板とを電気的に接続する」ものであるから、「ICパッケージの端子に接触」する部分と、「配線基板」に「電気的に接続」する部分があると認められる。
一方、本件発明1は、電気的にICパッケージをテストする「電気テスト用コンタクト」であることから、本件発明1の「テストボードに固定される端子部」は、「テストボード」と電気的に接続していることは明らかである。
よって、上記ア及びイを踏まえると、甲1発明の「バーンイン試験用のICソケットのソケット本体であって、配線基板上に取り付けられるソケット本体に配設され、バーンイン試験時に、ICパッケージの端子に接触し、ICパッケージと配線基板とを電気的に接続するコンタクトピン1」は、本件発明1の「被検体の端子に接触する接触部と、テストボードに固定される端子部と、を備え、前記被検体の検査に用いられる電気テスト用コンタクト」と、「被検体の端子に接触する接触部と、テストボードに電気的に接続される端子部と、を備え、前記被検体の検査に用いられる電気テスト用コンタクト」である点で共通する。

エ 甲1発明の「導電性を有する材料であるリン青銅から成形され」た「基材12」は、本件発明1の「金属材料から成る基材」に相当する。

オ 甲1発明の「Niメッキにより成形され」た「下地層13」は、本件発明1の「該基材の表面に形成されたニッケル」「から成る第1めっき層」に相当する。

カ 上記ウを踏まえると、甲1発明の、「ICパッケージの端子に接触」する部分と、「配線基板」に「電気的に接続」する部分がある「コンタクトピン11」の「最表層14」が、「Pdメッキ層14bとAgメッキ層14cを順に積層したものである」ことは、本件発明1の「電気テスト用コンタクト」が、「前記接触部のみに前記第2めっき層に接するパラジウムまたはパラジウム基合金から成る第3めっき層と、該第3めっき層に接する銀あるいは銀基合金から成る第4めっき層と、が積層して形成され」ていることと、「前記接触部において、パラジウムから成る第3めっき層と、該第3めっき層に接する銀から成る第4めっき層と、が積層して形成され」ている点で共通する。

(2)一致点及び相違点
上記(1)の対比の結果をまとめると、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

(一致点)
「被検体の端子に接触する接触部と、テストボードに電気的に接続される端子部と、を備え、前記被検体の検査に用いられる電気テスト用コンタクトであって、
金属材料から成る基材と、該基材の表面に形成されたニッケルから成る第1めっき層と、を有し、
前記接触部において、パラジウムから成る第3めっき層と、該第3めっき層に接する銀から成る第4めっき層と、が積層して形成されていることを特徴とする電気テスト用コンタクト。」

(相違点)
(相違点1)
本件発明1の「電気テスト用コンタクト」の「端子部」が、「テストボードに固定される」のに対し、甲1発明の「コンタクトピン11」の「配線基板」に「電気的に接続」する部分(本件発明1の「端子部」に相当)が、「配線基板」(本件発明1の「テストボード」に相当)に固定されるのか否か不明な点。

(相違点2)
本件発明1の「電気テスト用コンタクト」の「前記接触部および前記端子部」には、「前記第1めっき層に接して金あるいは金基合金から成る第2めっき層が形成され、」「前記第2めっき層は、前記第1めっき層および第3めっき層間での応力緩和機能を果たすために、前記接触部において、0.05μm以上の厚さに形成されている」のに対し、甲1発明の「コンタクトピン11」には、「Niメッキにより成形され」る「下地層13」(本件発明1の「第1めっき層」に相当)に接して金あるいは金基合金から成るめっき層が形成されているのか否か不明な点。

(相違点3)
本件発明1の「電気テスト用コンタクト」は、「前記接触部のみに前記第2めっき層に接するパラジウムまたはパラジウム基合金から成る第3めっき層と、該第3めっき層に接する銀あるいは銀基合金から成る第4めっき層と、が積層して形成され」ているのに対し、甲1発明の「コンタクトピン11」は、「Pdメッキ層14bとAgメッキ層14cを順に積層したものである」「最表層14」(本件発明1の「第3めっき層」及び「第4めっき層」に相当)が、「ICパッケージの端子に接触」する部分(本件発明1の「接触部」に相当)のみに成形されているのか否か不明な点。

(3)判断
事案に鑑み、相違点2について検討する。
ア 甲第1号証について
甲第1号証には、「最表層14」である「Pd-Agメッキ層」を成形する製法として、「メッキによる製法」及び「イオンプレーティングによる製法」が例示されている。つまり、

(ア)「メッキによる製法」により「Pd-Agメッキ層」を成形する場合は、下地層13としてNiメッキを施し、その上に密着層としてストライクAuメッキをした上で「Pd-Agメッキ層」を成形すること

(イ)「イオンプレーティングによる製法」により「Pd-Agメッキ層」を成形する場合は、下地層13としてNiメッキを施し、その上に最表層14としてPd及びAgをイオンプレーティングにより付着させること

が記載されている。(段落[0047]-[0049]参照。)

しかし、甲第1号証には、ストライクAuメッキの厚さについて記載されていないばかりではなく、「Niメッキにより成形され」た「下地層13」の上に「Pdメッキ層14b」が成形されている場合に、バーンインテストの繰り返しに伴い、「Pdメッキ層14b」中のSnが増加することによる体積増加や、昇降温による体積膨張および収縮等の原因により、両メッキ層の間に剥がれが生じやすいという課題があることも記載されていない。

したがって、甲1発明と甲第1号証の記載から、甲1発明において、「Pdメッキ層14bとAgメッキ層14cを順に積層したもの」である「最表層14」を、上記メッキによる製法により成形することとし、甲1発明の「Niメッキにより成形され」た「下地層13」と「Pdメッキ層14b」の間に、密着層としてストライクAuメッキを成形することを、当業者が容易に思い付くことができたとしても、さらに進んで、ストライクAuメッキに成形されるAuメッキ層を、例えば「Niメッキにより成形され」た「下地層13」と「Pdメッキ層14b」との間で剥がれが生じるという課題を解決するために、応力緩和機能を果たす厚さとすることまでは、当業者が容易に思い付くものであるということはできない。

イ 甲第3号証について
甲第3号証には、「ニッケルメッキ」と「Ag-C,Pd-P等の、半田濡れ性が悪く、しかも電気抵抗の低い物質」の間に金メッキを施すことが記載されているが、「ニッケルメッキ」とパラジウムめっきの間に剥がれが生じやすいこと、及び、前記剥がれが生じないように金メッキの厚さを決定することについては記載されていないから、相違点2に係る本件発明1の構成について記載も示唆もされていない。

ウ 甲第5号証について
(ア)甲第5号証の段落【0013】には、導電性基体上にルテニウム層を形成した場合、導電性基体の種類により上記ルテニウム層が剥離し易くなるため、導電性基体とルテニウム層の間にルテニウム層の剥離を防止する作用を有する下地層を形成するという技術事項が記載されており、一具体例として、「導電性基体が銅合金系素材の場合には、導電性基体上に厚さ0.05?5μmのNiからなる第1の下地層を形成し、その上に厚さ0.05?1μmのAuまたはAgからなる第2の下地層を形成する」と記載されている。
しかし、同段落【0013】に「下地層は、導電性基体の種類により上記ルテニウム層が剥離し易くなる場合に必要に応じ形成されるものである。」、及び「該下地層を複数層として形成する場合は、ルテニウム層の厚さや導電性基体の種類を考慮してそれぞれの層を構成する金属の種類や厚さを決定することが好ましい。」と記載されていることから、上記具体例におけるAuからなる第2の下地層の厚さの数値(0.05?1μm)は、導電性基体が銅合金系素材の上に銅合金系素材に対して剥離し易いルテニウム層を形成する場合であって、かつ、下地層を2つの層から形成する場合に適したものであると認められる。つまり、上記厚さの数値(0.05?1μm)は、Niからなる第1の下地層とルテニウム層との剥離を防止するためにAuからなる第2の下地層を設ける、という着想から決定された数値ではない。
よって、甲第5号証には、上記相違点2に係る本件発明1の構成である、「第2めっき層」(甲第5号証における「第2の下地層」に対応する。)は、「第1めっき層」(甲第5号証における「第1の下地層」に対応する。)および「第3めっき層」(甲第5号証における「ルテニウム層」に対応する。)間での「応力緩和機能を果たすために」、「0.05μm以上の厚さに形成されている」点について記載も示唆もされていない。

(イ)また、甲第5号証の段落【0010】には、導電性基体に用いられる銅合金系素材として「リン青銅、黄銅、ベリリウム銅等」が例示されている。
しかし、上記甲第5号証の上記(ア)の具体例には、「銅合金系素材」としてベリリウム銅を用いた場合に、下地層の層数や金属の種類、厚さをどのように決定するのか何ら記載されていない。また、甲1発明と異なって甲第5号証では「Pdメッキ層14b」ではなく「ルテニウム層」を用いており、甲第5号証には、「Pdメッキ層14b」が、導電性基体上に形成された「Niメッキ」(上記(ア)でいう第1の下地層)に対して剥離しやすいことを示唆する記載もないから、甲第5号証に記載された、銅合金形素材の導電性基体とルテニウム層の剥離防止ために例示された、2つの層(第1の下地層と第2の下地層)から形成された下地層の構成のうち、特に第2の下地層の構成(金属の種類と厚み)のみを、ベリリウム銅合金からなる導電性基体上に形成された「Niメッキ」(甲第5号証における「第1の下地層」に対応する。)と、(ルテニウム層とは異なる)パラジウム層との剥離防止のために、甲1発明に適用すべき動機付けを見いだすこともできない。

エ 甲第9号証について
甲第9号証には、ロジウムまたはパラジウム系合金などを使用する先端部と、ニッケルまたはニッケル系合金などの材質を採用したバネ部の界面が、先端部とバネ部の熱膨張率の相違により、先端部とバネ部の界面に大きな応力が発生し、層間剥離が生じやすくなるため、層間剥離を抑制するために、先端部とバネ部の接続面に、AuまたはCuなどからなり、厚さが0.5μm?10μmの応力緩和層を形成するという技術事項が記載されているが、上記「先端部」と「バネ部」は、別個の電鋳工程を経て形成された「板状構造体」であり、甲1発明のような導電性基体の上にめっきにより積層して形成された2層ではないから両者を同一視できると直ちに認めることはできない。
よって、甲第9号証に記載された技術事項は、甲1発明の「Pdメッキ層14b」が導電性基体上の「Niメッキ」に対して剥離しやすいこと、及び、その具体的な解決手段として「Pdメッキ層14b」と導電性基体上の「Niメッキ」との間に、Auからなる所定厚さの応力緩和層を形成することを示唆するものではない。

オ 甲第2、4、6ないし8、10号証について
甲第2、4、6ないし8、10号証には、相違点2に係る本件発明1の構成について、記載も示唆もされていない。

カ まとめ
以上のとおり相違点2に係る本件発明1の構成は、甲1発明、甲第1号証ないし甲第10号証に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に思い付くものであるということはできない。

(4)特許異議申立人の主張について
ア 甲第5号証について
特許異議申立人は、
「層と層との剥がれを防止するためのめっき層を形成する場合、その厚みを「0.05μm以上」に設定することは、当該技術分野の技術常識である。」と主張し(特許異議申立書、第25ページ下から4行目?下から1行目)、続けて
「iv)この点について、より詳細に説明する。」とし(特許異議申立書、第26ページ第3行)、
「しかしながら、甲第5号証において、第3めっき層の金属が本件発明1と相違すること、並びに、第4めっき層を有さないことは、重要ではない。甲第5号証は、密着機能および応力緩和機能のいずれを利用するにもかかわらず、層と層との剥離を防止するために、0.05?1μmの厚さの金めっき層が利用でき、その厚さが0.05μm未満であると剥離を防止できない、という公知技術を示す文献であるということが重要である。」と主張している。(特許異議申立書、第26ページ第15?21行)

しかし、上記(3)ウで述べたように、甲第5号証に記載されているAuからなる第2の下地層の厚さの数値(0.05?1μm)は、銅合金系素材からなる導電性基体の上に銅合金系素材に対して剥離し易いルテニウム層を形成する場合であって、かつ、下地層を2つの層から形成する場合についてのものである。つまり、上記厚さの数値(0.05?1μm)は、Niからなる第1の下地層とルテニウム層との剥離を防止するためにAuからなる第2の下地層を設ける、という着想から決定された数値ではない。よって、甲第5号証に、導電性基体上に形成されたNiメッキ層(つまり、第1の下地層)とPdメッキ層との剥離を防止するために、0.05?1μmの厚さの単層の金めっき層(つまり、第2の下地層)が利用でき、その厚さが0.05μm未満であると剥離を防止できないという技術事項が記載されているとは認められない。
よって、特許異議申立人の主張は、採用することができない。

イ 甲第9号証について
特許異議申立人は、
「つまり、甲第9号証には、本件特許発明1と同様に、ニッケルめっき層とパラジウムめっき層との間における剥離を防止するために、応力緩和機能を示す金めっき層を形成することが記載されているに他ならない。」と主張する。(特許異議申立書、第31ページ第7-10行)
しかし、上記(3)エで述べたように、甲第9号証に記載の「先端部」と「バネ部」は、別個の電鋳工程を経て形成された「板状構造体」であり、導電性基体上にめっきにより積層されたものではないから、ベリリウム銅からなる導電性基体上に積層されたニッケルめっき層とパラジウムめっき層との間における剥離を防止するために、応力緩和機能を果たす金めっき層を形成することが記載されているものではない。
よって、特許異議申立人の主張は、採用することができない。

(5)本件発明1についてのまとめ
上記(3)で述べたとおり、相違点2係る本件発明1の構成は、甲1発明と甲第1号証ないし甲第10号証に記載された事項とに基づいて当業者が容易に思い付くものであるということはできないから、相違点1及び3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証ないし甲10号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

したがって、本件発明1についての特許は、理由1によって取り消すべきであるということはできない。

3 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の構成を全て含むから、少なくとも本件発明1と甲1発明との相違点1ないし3において甲1発明と相違する。そして、上記2(3)のとおり、相違点2に係る本件発明1の構成は、甲1発明と甲第1号証ないし甲第10号証に記載された事項とに基づいて当業者が容易に思い付くものであるということはできない。

そうすると、本件発明2は、甲第1号証ないし甲第10号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

したがって、本件発明2についての特許は、理由1によって取り消すべきであるということはできない。


第5 理由2(サポート要件違反、実施可能要件違反)について
1 理由2-1について
本件特許の明細書の段落【0009】には「その電気テスト用コンタクトに要するコストと共に、上記対処に要するコスト(作業コストや交換コスト)も大幅に増大するようになる。」及び「上述した電気テスト用コンタクトの接触抵抗の上昇を抑制しその長寿命化が大きな課題になってきている。」と、解決するべき課題が複数記載されている。
このように、本件特許の明細書の記載から、複数の課題が把握できる場合、複数の課題のうちのいずれかの課題を解決するための手段が請求項に反映されていれば足りると解される。

そして、明細書段落【0025】には、「ここで、第2めっき層13は、その厚さが0.05μm未満になると、第1めっき層12と第3めっき層14の間での剥がれを生じ易くする。」と記載され、段落【0041】には、「また、第2めっき層13は第3めっき層14の剥がれを防止する機能を有している。この第2めっき層13が介挿されない場合には、例えばバーンインテストにおける昇降温により生じる第1めっき層12および第3めっき層14の体積膨張および収縮に起因して、それ等の間における剥がれが起こり易い。更に、バーンインテストの繰り返し回数が増えてくると、第3めっき層14の体積増加に起因する剥がれも生じてくるようになる。第2めっき層13は第1めっき層12、第3めっき層14および第3めっき混合層14aに較べて軟質であるので、その応力緩和の作用により上述したような剥がれを防止する。」と記載されており、これらの記載から、本件発明1が「前記第2めっき層は、前記第1めっき層および第3めっき層間での応力緩和機能を果たすために、前記接触部において、0.05μm以上の厚さに形成されている」ことにより、「第1めっき層12と第3めっき層14」の間での剥がれが生じやすいという課題を解決していることは明らかである。
そして、当該課題を解決することにより、上記複数の課題の内の一つである「電気テスト用コンタクト」の「長寿命化」という課題が解決されることは明らかである。

特許異議申立人は、発明の詳細な説明には、第2めっき層13の厚みの下限値とともに上限値が定められており、下限値のみを設定する事項は開示されていないと主張するが、第2めっき層13の厚さの上限値について、明細書段落【0025】に「また、その厚さが0.30μm超となると、テストボードのランド等との端子部10bの半田接合の信頼性が低下するようになる。」と記載されていることから、厚さの上限値は、「端子部10b」において半田接合の信頼性が低下しないようにするという、上記「電気テスト用コンタクト」の「長寿命化」とは異なる課題を解決するために決定されたものと認められる。よって、第2めっき層の厚さの上限値が記載されていないからといって、本件特許の請求項1及び2に課題を解決するための手段が反映されていないということにはならない。

また、特許異議申立人は、「そして、本件特許の課題は、接触抵抗の上昇を抑制することにより、信頼性の向上および長寿命化を図り、且つ、低コスト化を実現することがであり、これらの課題は、一体的な課題といえる。」と主張するが(特許異議申立書、第34ページ第15-17行)、上記複数の課題が一体的な課題であり、当該一体的な課題を同時に解決する発明のみが、発明の詳細な説明に記載されているとは認められない。
よって、特許異議申立人の主張は、採用することができない。

以上により、本件特許の請求項1及び2には、課題を解決するための手段が反映されているから、本件特許の請求項1及び2は、発明の詳細な説明に記載したものである。

2 理由2-2について
(1) 理由2-2のアについて
上記1で述べたとおり、本件特許の請求項1及び2には、「第1めっき層12と第3めっき層14」の間での剥がれが生じやすいという課題を解決することにより「電気テスト用コンタクト」の「長寿命化」という課題を解決する手段が反映されている。
よって、 本件特許の請求項1及び2は、発明の詳細な説明に記載したものである。

特許異議申立人は、請求項1及び2に「端子部」における「第2めっき層13」の厚さが記載されていない、又は、厚さの上限のみしか記載されていないと主張するが、上記「第1めっき層12と第3めっき層14」の間での剥がれが生じやすいという課題は、「第1めっき層12と第3めっき層14」が形成されている「接触部」においてのみ生じる課題であるから、請求項1及び2に「端子部」における「第2めっき層13」の厚さが記載されていない、又は、厚さの上限のみしか記載されていないからといって、本件特許の請求項1及び2に課題を解決するための手段が反映されていないということにはならない。
よって、特許異議申立人の主張は採用できない。

(2) 理由2-2のイについて
請求項2に記載された第2めっき層13の厚さの上限値(0.3μm)は、明細書段落【0025】に「その厚さが0.30μm超となると、テストボードのランド等との端子部10bの半田接合の信頼性が低下するようになる。」と記載されているとおり、端子部10bにおいて半田接合の信頼性が低下しない範囲に定められたものである。
よって、「第2のめっき層」について、「0.3μm以下の厚さに形成されている」ことは、発明の詳細な説明に記載されているから、本件特許の請求項1及び2は、発明の詳細な説明に記載したものである。
特許異議申立人は「有効数字が極めて重要である。」(特許異議申立書、第35ページ第14行)とし、明細書には「0.30μm以下」との記載はあるが、「0.3μm」という数字は記載されていないと主張している。しかし、一般的に有効数字は測定値を表記する際に考慮されるものであり、明細書における「0.30μm」の記載は、有効数字を考慮した測定値の数値表現の1例にすぎないものである。よって、特許請求の範囲における数値表現と明細書における数値表現とが異なっているからといって、本件発明1及び本件発明2が、明細書に記載されていないということにはならない。
したがって、特許異議申立人の主張は採用できない。

3 理由2-3のア及びイについて
上記1で述べたように、「第1めっき層12と第3めっき層14」の間での剥がれを生じにくくするために、「0.05μm以上」と「第2めっき層13」の厚さの下限を定めたことが明らかであり、応力緩和により剥がれを防止する機能が、厚さが厚くなるに従い連続的に変化するものであるか、ある厚さを境に急激に向上するものであるかはともかくとして、上記「0.05μm」という下限値が、所望の応力緩和機能、すなわち、所望の剥がれ防止機能に従い決定した値であることは明らかである。
よって、「第2めっき層13」を「0.05μm以上」とすることにより、所望の応力緩和機能、すなわち所望の剥がれ防止機能が得られ、本件発明の「電気テスト用コンタクト」の「長寿命化」という課題を解決できることは明らかであるから、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されている。

4 小括
上記1ないし3で述べた理由により、本件発明1及び本件発明2についての特許は、理由2によって取り消すべきであるということはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由によっては、本件発明1及び本件発明2についての特許を取り消すべきであるということはできない。

また、他に、本件発明1及び本件発明2についての特許を取り消すべきであるとする理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-09-21 
出願番号 特願2016-112968(P2016-112968)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (G01R)
P 1 651・ 536- Y (G01R)
P 1 651・ 537- Y (G01R)
最終処分 維持  
前審関与審査官 名取 乾治  
特許庁審判長 清水 稔
特許庁審判官 ▲うし▼田 真悟
小林 紀史
登録日 2017-11-17 
登録番号 特許第6241502号(P6241502)
権利者 山一電機株式会社
発明の名称 電気テスト用コンタクトおよびそれを用いた電気テスト用ソケット  
代理人 特許業務法人 谷・阿部特許事務所  

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