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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  F04D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  F04D
審判 全部申し立て 特174条1項  F04D
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  F04D
管理番号 1344877
異議申立番号 異議2018-700471  
総通号数 227 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-11-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-06-11 
確定日 2018-10-17 
異議申立件数
事件の表示 特許第6244547号発明「片吸込み型遠心送風機」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6244547号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1.手続の経緯
特許第6244547号の請求項1?6に係る特許についての出願は,平成25年 9月24日の特許出願であって,平成29年11月24日にその特許権の設定登録がされた。その特許について,平成30年 6月11日付けで特許異議申立人 特許業務法人虎ノ門知的財産事務所により特許異議の申立てがされ,当審は,同年 8月24日付けで審尋を通知した。特許権者は,その指定期間内である平成30年 9月12日付けで回答書を提出した。

第2.本件発明
特許第6244547号の請求項1?6の特許に係る発明は,それぞれ,その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
モータと,
渦巻状のスクロールを備えたケーシングと,
前記ケーシングに内蔵した複数のブレードを具備した羽根車と,
前記羽根車には前記ブレードを固定する羽根車主板とを備え,
前記ケーシングは,吸込口を有した吸込側板と,前記モータを固定したモータ固定側板を備え,
前記モータに前記羽根車主板の中心部を固定した片吸込み型遠心送風機であって,
前記羽根車主板は前記ブレードと前記中心部との間に主板開口を備え,
前記モータ固定側板側にある前記ブレードの端部を通る平面であって,前記モータの回転軸に垂直な平面をブレード端部仮想平面として仮想し,前記ブレード端部仮想平面と前記モータ固定側板との前記回転軸に平行な方向における距離が,前記主板開口と前記ブレードとの間で狭くなる狭窄部を備え,
前記狭窄部は,
前記モータ固定側板の一部を突部曲げ加工により前記ブレード端部仮想平面の方向に突出させることによってこの突出の先端と前記羽根車主板との間に設けられ,
前記狭窄部から前記モータ固定側板の方向に向けて前記モータの回転軸を囲むように設けられ,前記狭窄部を通じて前記ケーシングとつながり,前記主板開口を通じて前記羽根車の内部とつながる空間を備え,
前記空間は,
前記片吸込み型遠心送風機に高い静圧が加わった場合には前記ケーシング内の気体を前記狭窄部を通して導き入れるとともに,前記空間内の気体を前記主板開口を通して前記羽根車内に流入させることを特徴とする片吸込み型遠心送風機。
【請求項2】
前記羽根車主板に前記モータ固定側板側から前記吸込口側に向かって突出する羽根車主板凸部を設け,
前記羽根車主板の前記中心部は,前記羽根車主板凸部に設けられ,
前記羽根車主板凸部は前記モータ固定側板側から前記吸込口側に向かって断面積を徐々に小さくしていく凸形状とし,
前記凸形状の傾斜部に前記主板開口を設けたことを特徴とする請求項1に記載の片吸込み型遠心送風機。
【請求項3】
前記凸形状は,円錐形状であることを特徴とする請求項2に記載の片吸込み型遠心送風機。
【請求項4】
前記主板開口はモータの回転軸を中心とした円周上に等配分されていることを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載の片吸込み型遠心送風機。
【請求項5】
前記狭窄部は前記ブレードの前記端部の近傍に設けられたことを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載の片吸込み型遠心送風機。
【請求項6】
前記狭窄部の前記回転軸に平行な方向における距離が1?10mmであることを特徴とする請求項1?5のいずれか1項に記載の片吸込み型遠心送風機。」

第3.申立理由の概要
特許異議申立人は,証拠として特開2008-267238号公報(以下「甲第1号証」という。)を提出し,請求項1に係る発明は,特許法第29条第1項第3号に該当する発明であるから,請求項1に係る特許を取り消すべきものである旨主張し,また,特許異議申立人は,請求項1,4?6に係る特許は,甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,同法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから,請求項1,4?6に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。
特許異議申立人は,主たる証拠として甲第1号証及び従たる証拠として特開2012-140884号公報(以下「甲第2号証」という。),特開2012-13090号公報(以下「甲第3号証」という。),特開2003-214386号公報(以下「甲第4号証」という。),特開2009-95413号公報(以下「甲第5号証」という。)を提出し,請求項2?4に係る特許は,甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,同法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから,請求項2?4に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。
また,特許異議申立人は,本件特許請求の範囲の記載についてした補正には不備があり,請求項1?6に係る特許は,同法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正がなされた出願に対してなされたものであるから,請求項1?6に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。
さらに,本件特許請求の範囲の記載には不備があり,請求項1?6に係る特許は,同法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものであるから,請求項1?6に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。

第4.文献の記載
(1)甲第1号証
甲第1号証には,以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる(特に,請求項1,段落【0008】,【0010】,【0011】,【0019】,図1を参照のこと。)。
「モータ5と,
蝸牛状を成すケーシング2と,
前記ケーシング2に内装されて複数の主翼を備える多翼羽根車3と,
前記多翼羽根車3には前記主翼を植設された,環状のハブと一体を成す回転子ボス4とを備え,
前記ケーシング2は,吸込口を有した側面と,前記モータ5を固定した側面(以下,「モータ固定側面」という。)を備え,
前記モータ5に前記環状のハブと一体を成す回転子ボス4の中心部を固定した片吸込みの遠心ファン1であって,
前記環状のハブと一体を成す回転子ボス4は前記主翼と前記中心部との間に通気孔4-1を備え,
前記モータ固定側面側にある前記主翼の端部を通る平面であって,前記モータ5の回転軸に垂直な平面を主翼端部仮想平面として仮想し,前記主翼端部仮想平面と前記モータ固定側面との前記回転軸に平行な方向における距離が,前記通気孔4-1と前記主翼の間で狭くなる狭窄部を備え,
前記狭窄部は,前記モータ固定側面の一部を前記主翼端部仮想平面の方向に段差状に突出させることによって,段差状に突出した部分と前記環状のハブと一体を成す回転子ボス4との間に設けられ,
前記狭窄部から前記モータ固定側面の方向に向けて前記モータ5の回転軸を囲むように設けられ,前記狭窄部を通じて前記ケーシング2とつながり,前記通気孔4-1を通じて前記多翼羽根車3の内部とつながる空間を備え,
前記ケーシング2内が正圧であり,前記多翼羽根車3内及び前記空間内が負圧である場合に,前記空間は,前記ケーシング2内の気体を前記狭窄部を通して導き入れるとともに,前記空間内の気体を前記通気孔4-1を通して前記多翼羽根車3内に流入させる,
片吸込みの遠心ファン1。」

(2)甲第2号証
甲第2号証には,図2の記載とともに以下の事項が記載されている。
・「【技術分野】
【0001】
本発明は,多翼送風機に関するものである。」
・「【0023】
ケーシング12は,羽根車14を収容するケーシング本体21と,このケーシング本体21から空気の吐出方向Tに突出する吐出管部22とを有している。吐出管部22は,ケーシング本体21と連通しており,空気の吐出方向Tの端部に吐出口23を有している。ケーシング12は,吸入口24を有する正面部としての正面板12aと,この正面板12aに対向するように配置された背面部としての背面板12bと,これら正面板12a及び背面板12bの間に配設された胴板12cとを有している。」
・「【0027】
電動機18は,ケーシング12の背面板12bに固定されている。」
・「【0028】
羽根車14は,円盤状の主板31と,主板31の外周部に設けられ,回転方向Dに沿って配列された多数の羽根32と,これらの羽根32の正面F側の端部に連結されたリング部33とを有している。リング部33は,各羽根32をつなぐ環状の部材である。」
・「【0030】
主板31は,電動機18の駆動軸18aに支持される肉厚のハブ31aと,このハブ31aよりも薄肉でハブ31aに対して傾斜した方向に延びる傾斜部31bと,傾斜部31bの外端部につながり多数の羽根32が設けられた外周部31cと,を有する。ハブ31aは,駆動軸18aと垂直な方向に広がる形状となっている。また,外周部31cはハブ31aと平行な方向に広がる形状となっている。
【0031】
傾斜部31bは,外周に向かうほどケーシング12の背面板12bに近づくように傾斜している。・・・傾斜部31bには,主板31の正面側の空間と背面側の空間とを連通させる通気孔31dが形成されている。」
・「【0038】
図2に示すように,本実施形態に係る多翼送風機10には,ケーシング12内で逆流が生ずるのを抑制するための抑制部材45,46が設けられている。この抑制部材45,46は,羽根車14から吹き出された空気の一部が向きを変えて羽根車14とケーシング12の背面板12bとの間に流れ込む逆流を減らすためのものであり,背面板12bにおける内面に固定されている。
【0039】
抑制部材45,46は,断面矩形状で且つ環状に形成されており,羽根車14と同心状に配置されている。抑制部材45,46は,合成樹脂,金属等によって形成することができ,抑制部材45,46が合成樹脂によって形成される場合には,抑制部材45,46をケーシング12と一体的に成型してもよい。なお,抑制部材45,46は,接着剤によってケーシング12に接合される態様としてもよい。
【0040】
本実施形態では,抑制部材45,46は,羽根32よりも内周側に配置される(内側抑制部材45)とともに,羽根32の外周側にも配置されている(外側抑制部材46)。」
・「【0045】
以上のように構成された多翼送風機10においては,電動機18が駆動して羽根車14が回転すると,空気はベルマウス28を通してケーシング12内に吸い込まれる。この吸い込まれた空気は,正面F側から羽根車14の軸方向に沿って羽根車14内に流入するが,その一部は,主板31の正面側を流れて正面翼部35同士の隙間を通過し,半径方向外側に吹き出される。また,羽根車14内に流入した空気の他部は,主板31の通気孔31dを通して主板31の背面側へと流れ込み,背面翼部36同士の隙間を通過して,半径方向外側に吹き出される。これら羽根車14から吹き出された空気は,ケーシング12の内部を回転方向Dに沿って移動し,吐出管部22の吐出口23から吹き出される。」

(3)甲第3号証
甲第3号証には,図7,図8の記載とともに以下の事項が記載されている。
・「【技術分野】
【0001】
本発明は,送風装置に関し,特に遠心ファンロータを用いた送風装置に関する。
【背景技術】
【0002】
空気の吸い込み側と反対側にモータが取り付けられる構造のファンロータを備えた送風装置では,モータを冷却するために,モータ外周を覆うように囲むハブ部とモータ外周との間に吹き出し空気の一部が戻る仕組みになっている。その仕組みについて,図7及び図8を参照しながら説明する。
【0003】
図7は,従来の送風装置の断面図である。また,図8は,図7におけるファンロータの正面図である。図7及び図8において,ファンロータ120が回転することによって,羽根126の内側から外側に向かって空気が流れ,ハブ部125の表面が負圧となる。また,ハブ部125には予め開口124aが設けられており,ハブ部125の表面が負圧になることによって,ハブ部125とモータ30の外周との間にある空気は,その開口124aから出て行き,それを補うように吹き出し空気の一部がハブ部125とモータ130の外周との間に戻る。」

(4)甲第4号証
甲第4号証には,図3,図4の記載とともに以下の事項が記載されている。
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,主として建物の換気機器,空気調和機器に使用される遠心羽根車に関する。
【0002】
【従来の技術】従来の遠心羽根車について図3,4を参照しながら説明する。
【0003】遠心羽根車101は回転動力を供するモーター106と共に使用されるが,遠心羽根車101とモーター106を合わせた回転軸方向の総合高さHt0を小さくするために,主板102をコーン状にし,モーター106をコーン状の主板内部に配置させる場合があり,その頂上面103の高さH0はブレード高さHb0よりも低くしていた。
【0004】また主板102には回転軸104の周囲に穴105が設けられ,その穴105には,気流が通過することによるモーター冷却効果や,主板102の裏表の圧力差で軸方向の力が発生し,モーター106のシャフトに負荷がかかることに起因するモーター異音の発生を防止する効果がある。
【0005】従来コーン状の主板102を持つ遠心羽根車101においては,頂上面103の面積が小さく,十分な大きさの穴を設けることができないため,頂上面103からふもと部にわたっての斜面110に大きく穴が開けられる場合があった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】このような従来の遠心羽根車101では,頂上面103の高さH0がブレード高さHb0よりも低いため,穴105はブレード109近傍に位置し,羽根車の吸込口からの流れ107と穴105からの流れ108がブレード109の直前で合流し,穴105に面するブレード109に流入する流れに乱れが生じ,効率の低下や騒音の増加が起きるという課題があり,また,穴105が斜面110のふもと部近くにあると,ブレード109に流入する流れに生じる乱れがさらに大きくなるという課題があった。」

(5)甲第5号証
甲第5号証には,図2,図3の記載とともに以下の事項が記載されている。
・「【技術分野】
【0001】
本発明は,空気調和機に関し,特に空気とともにイオンを送出するイオン発生装置付きの空気調和機に関するものである。」
・「【0021】
送風機8は,吸込口3aおよび側面吸込口3bの各々から空気を取り込んで主吹出経路9bと副吹出経路9aとの各々へ送出するために設けられている。この送風機8は,フィルターユニット7の吸込空気流の下流側に配置されている。送風機8は,たとえばシロッコファンなどのファンと,そのシロッコファンを回転駆動させるためのたとえばモータなどの駆動源とを有している。」

第5.当審の判断
1.特許法第29条第1項第3号,特許法第29条第2項について
(1)請求項1に係る発明について
請求項1に係る発明と引用発明とを対比すると,後者の「蝸牛状を成すケーシング2」は前者の「渦巻き状のスクロールを備えたケーシング」に相当し,以下同様に,「内装されて」は「内蔵した」に,「主翼」は「ブレード」に,「備える」は「具備した」に,「多翼羽根車3」は「羽根車」に,「植設された」は「固定する」に,「環状のハブと一体を成す回転子ボス4」は「羽根車主板」に,「吸込口を有した側面」は「吸込口を有した吸込側板」に,「モータ固定側面」は「モータ固定側板」に,「片吸込みの遠心ファン1」は「片吸込み型遠心送風機」に,「通気孔4-1」は「主板開口」に,「主翼端部仮想平面」は「ブレード端部仮想平面」に,それぞれ相当する。
後者の「前記狭窄部は,前記モータ固定側面の一部を前記主翼端部仮想平面の方向に段差状に突出させることによって,段差状に突出した部分と前記環状のハブと一体を成す回転子ボス4との間に設けられ」ることと,前者の「前記狭窄部は,前記モータ固定側板の一部を突部曲げ加工により前記ブレード端部仮想平面の方向に突出させることによってこの突出の先端と前記羽根車主板との間に設けられ」ることとは,「前記狭窄部は,前記モータ固定側板の一部を突出させることによって,突出した部分と前記羽根車主板との間に設けられ」ることで共通する。
後者の「前記ケーシング2内が正圧であり,前記多翼羽根車3内及び前記空間内が負圧である場合に,前記空間は,前記ケーシング2内の気体を前記狭窄部を通して導き入れるとともに,前記空間内の気体を前記通気孔4-1を通して前記多翼羽根車3内に流入させる」ことと,前者の「前記空間は,前記片吸込み型遠心送風機に高い静圧が加わった場合には前記ケーシング内の気体を前記狭窄部を通して導き入れるとともに,前記空間内の気体を前記主板開口を通して前記羽根車内に流入させる」こととは,「前記空間は,所定の場合には前記ケーシング内の気体を前記狭窄部を通して導き入れるとともに,前記空間内の気体を前記主板開口を通して前記羽根車内に流入させる」ことにおいて共通する。
そうすると,両者は,
「モータと,
渦巻状のスクロールを備えたケーシングと,
前記ケーシングに内蔵した複数のブレードを具備した羽根車と,
前記羽根車には前記ブレードを固定する羽根車主板とを備え,
前記ケーシングは,吸込口を有した吸込側板と,前記モータを固定したモータ固定側板を備え,
前記モータに前記羽根車主板の中心部を固定した片吸込み型遠心送風機であって,
前記羽根車主板は前記ブレードと前記中心部との間に主板開口を備え,
前記モータ固定側板側にある前記ブレードの端部を通る平面であって,前記モータの回転軸に垂直な平面をブレード端部仮想平面として仮想し,前記ブレード端部仮想平面と前記モータ固定側板との前記回転軸に平行な方向における距離が,前記主板開口と前記ブレードとの間で狭くなる狭窄部を備え,
前記狭窄部は,
前記モータ固定側板の一部を前記ブレード端部仮想平面の方向に突出させることによってこの突出した部分と前記羽根車主板との間に設けられ,
前記狭窄部から前記モータ固定側板の方向に向けて前記モータの回転軸を囲むように設けられ,前記狭窄部を通じて前記ケーシングとつながり,前記主板開口を通じて前記羽根車の内部とつながる空間を備え,
前記空間は,
所定の場合には前記ケーシング内の気体を前記狭窄部を通して導き入れるとともに,前記空間内の気体を前記主板開口を通して前記羽根車内に流入させる,
片吸込み型遠心送風機。」
で一致し,以下の各点で相違する。
<相違点1>
前記狭窄部は,前記モータ固定側板の一部を前記ブレード端部仮想平面の方向に突出させることによってこの突出した部分と前記羽根車主板との間に設けられることに関して,請求項1に係る発明では,「突部曲げ加工により」突出させるものであり,引用発明では,「段差状に」突出させるものであり,突出した部分が,請求項1に係る発明では,「この突出の先端」であるのに対して,引用発明では,「段差状に」突出した部分である点。
<相違点2>
前記空間は,所定の場合には前記ケーシング内の気体を前記狭窄部を通して導き入れるとともに,前記空間内の気体を前記主板開口を通して前記羽根車内に流入させることに関して,所定の場合が,請求項1に係る発明では,「前記片吸込み型遠心送風機に高い静圧が加わった場合」であるのに対して,引用発明では,「前記ケーシング2内が正圧であり,前記多翼羽根車3内及び前記空間内が負圧である場合」である点。

上記<相違点1>について検討する。
請求項1に係る発明の「突部曲げ加工」という文言は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲に記載されていないが,特許権者は,平成30年8月24日付け審尋に対する平成30年9月12日付け回答書において,特許明細書の段落【0045】の「凸部曲げ加工」と同じ概念である旨述べ,その根拠として,平成29年6月20日付け意見書の「3.補正の根拠の記載の提示」において当初明細書における段落【0045】の「また,本実施の形態では狭窄部21をモータ固定側板9に凸部曲げ加工を設けることで形成している」の記載を明記していることや,同意見書の「4.本願発明について」において補正後の請求項1の効果を述べていることを挙げている。
同意見書の「4.本願発明について」には,「ところで,このような構成では,空間の利用においてメリットがあります。通常,気流は壁に沿って方向を変えます。図1の右図を用いて説明すると,本願に係る片吸込み型遠心送風機では,ケーシング内の気流は,右図上方のスクロールに沿って紙面前後方向に流れますが,この際,一部の気流は右図の右端にあるモータ固定側板に衝突して右図下方に方向を変えます。右図下方に方向を変えた気流は,さらに前述の突出した壁に衝突して右図右端を起点として右図左方向に方向を変えます。つまり,突出した壁が,気流の流れによる空間内への進入を防止しているといえます。そして,右図左方向に方向を変えた気流は,羽根車主板に衝突します。この際,狭窄部は小さいため,気流の流れによって狭窄部から空間に入るのは気流の一部です。ただし,空間内の気圧がマイナス圧となっていますので,このマイナス圧によって狭窄部から空間に一部の気流が流れ込みます。他の大部分はブレードの外周方向,つまり右図の上方に向かって流れます。」と記載されており,願書に添付した明細書,特許請求の範囲及び図面(以下,「特許明細書等」という。)の図1の右図の気流の流れを示すものであって,「凸部曲げ加工」を設けることで形成した狭窄部21が奏する効果であると認めることができる。
そして,このような気流の流れは曲げ加工部24を説明した特許明細書等の図2には当てはまらないので,「突部曲げ加工」すなわち「凸部曲げ加工」は「曲げ加工部24」を含んでいない旨の主張は妥当である。
以上のとおりであるから,請求項1に係る発明の「突部曲げ加工」は「凸部曲げ加工」と同じ概念であると認められる。
そして,請求項1に係る発明の「モータ固定側板の一部を凸部曲げ加工によりブレード端部仮想平面の方向に突出させ」た構造は,図1(b)のように平坦なモータ固定側板9から突出する凸部が曲げによって形成された構造であることは明らかである。
さらに,請求項1に係る発明の狭窄部は「この突出の先端と前記羽根車主板との間に設けられ」るから,狭窄部21は凸部の先端と羽根車主板13との間に設けられるものである。
そうすると,相違点1に係る請求項1に係る発明の構成は,狭窄部は,平坦なモータ固定側板から突出する凸部が曲げによって形成された構造によりこの凸部の先端と羽根車主板との間に設けられるものであり,特許明細書等には,それによって,突出した壁が,気流の流れによる空間内への進入を防止する効果を奏する旨記載されている。
それに対して,引用発明の「段差状に」突出させた構造では,特許明細書等の図2の曲げ加工部24と同様に図1(b)(右図)の気流の流れを得ることはできないことは明らかである。
してみれば,相違点1は,実質的な相違点であって,請求項1に係る発明は,引用発明であるとはいえない。
甲第2号証から甲第5号証の記載を検討する。
甲第2号証には,モータ固定側板に相当するケーシングの背面部12bに抑制部材45,46(凸部)を形成したものが開示されているが,抑制部材45,46は羽根車14から吹き出された空気の一部が向きを変えて羽根車14とケーシング12の背面板12bとの間に流れ込む逆流を減らすためのものであって,段落【0045】に記載されるように,「電動機18が駆動して羽根車14が回転すると,空気はベルマウス28を通してケーシング12内に吸い込まれる。この吸い込まれた空気は,正面F側から羽根車14の軸方向に沿って羽根車14内に流入するが,その一部は,主板31の正面側を流れて正面翼部35同士の隙間を通過し,半径方向外側に吹き出される。また,羽根車14内に流入した空気の他部は,主板31の通気孔31dを通して主板31の背面側へと流れ込み,背面翼部36同士の隙間を通過して,半径方向外側に吹き出される。」という気流の流れは,引用発明の羽根板主板の背面側の空間に多翼羽根車3の外側の空間から気体を積極的に導入するものとは,逆の流れとなっており,引用発明に,甲第2号証の抑制部材45,46(凸部)の構成を適用する動機付けは生じ得ない。
よって,引用発明に甲第2号証に記載された事項を適用して,上記相違点1における請求項1に係る発明の発明特定事項とすることはできない。
また,甲第3号証ないし甲第5号証には,モータ固定側板に固定された凸部により狭窄部を形成することは,全く開示されていないから,引用発明に甲第3号証ないし甲第5号証に記載された事項を適用しても,上記相違点1における請求項1に係る発明の発明特定事項とすることはできない。
そして,請求項1に係る発明は,気流の流れ方向に起因するスクロール内から空間内への気流の流れ(侵入)を抑制しつつも,圧力差によってスクロール内から空間内への気流の進入をコントロールするという,格別の作用効果を有するものである。
したがって,上記相違点2を検討するまでもなく,請求項1に係る発明は,引用発明に基いて,又は,引用発明に甲第2号証ないし甲第5号証に記載された事項を適用することにより当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)請求項2?6に係る発明について
請求項2?請求項6に係る発明は,請求項1の発明特定事項のすべてを直接的又は間接的に引用するものであって,さらに他の発明特定事項を付加するものであるから,上記(1)で検討したのと同様の理由により,引用発明に基いて,又は,引用発明に甲第2号証ないし甲第5号証に記載された事項を適用することにより当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2.特許法第17条の2第3項について
上記1.(1)で述べたように,請求項1に係る発明の「突部曲げ加工」は「凸部曲げ加工」と同じ概念であると認められるから,「前記狭窄部は,前記モータ固定側板の一部を突部曲げ加工により前記ブレード端部仮想平面の方向に突出させることによってこの突出の先端と前記羽根車主板との間に設けられ,」とした補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲,及び図面の範囲内においてしたものである。
そうすると,「突部曲げ加工」との用語を追加する補正は,新たな技術的事項を導入するものであるとして,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たさないとした異議申立ての理由は成り立たない。

3.特許法第36条第6項第2号について
(1)物の発明である請求項1に係る発明においてその物の製造方法が記載されていることとの異議申立人の主張について
請求項1には,「前記狭窄部は,前記モータ固定側板の一部を突部曲げ加工により前記ブレード端部仮想平面の方向に突出させることによってこの突出の先端と前記羽根車主板との間に設けられ,」と記載され,狭窄部がモータ固定側板の一部を突部曲げ加工により形成されることが規定されており,片吸込み型遠心送風機という物の発明においてその物の製造方法が記載されている旨異議申立人は主張する。
しかしながら,上記1.(1)で述べたように,請求項1に係る発明の「突部曲げ加工」は「凸部曲げ加工」と同じ概念であると認められ,「モータ固定側板の一部を凸部曲げ加工によりブレード端部仮想平面の方向に突出させ」た構造は,図1(b)のように平坦なモータ固定側板9から突出する凸部が曲げによって形成された構造であることは明らかであるから,異議申立人の主張に係る,請求項1の前記記載は,請求項1に係る発明である片吸込み型遠心送風機のどのような構造若しくは特性を表しているのかが明らかであるといえ,異議申立人が主張する前記理由によっては明確性要件違反とすることはできない。
(2)「突部曲げ加工」及び「突部曲げ加工」により形成された「狭窄部」が明確でないとの異議申立人の主張について
上記1.(1)で述べたように,請求項1に係る発明の「突部曲げ加工」は「凸部曲げ加工」と同じ概念であると認められ,「モータ固定側板の一部を凸部曲げ加工によりブレード端部仮想平面の方向に突出させ」た構造は,図1(b)のように平坦なモータ固定側板9から突出する凸部が曲げによって形成された構造であることは明らかである。
さらに,請求項1に係る発明の狭窄部は「この突出の先端と前記羽根車主板との間に設けられ」るから,狭窄部21は凸部の先端と羽根車主板13との間に設けられるものである。
よって,請求項1の「突部曲げ加工」及び「突部曲げ加工」により形成された狭窄部の記載は,明確であり,異議申立人の主張する前記理由は成り立たない。
(3)「高い静圧」によって規定される静圧の範囲が明確でないとの異議申立人の主張について
請求項1には,「前記空間は,前記片吸込み型遠心送風機に高い静圧が加わった場合には前記ケーシング内の気体を前記狭窄部を通して導き入れるとともに,前記空間内の気体を前記主板開口を通して前記羽根車内に流入させること」との記載があり,「片吸込み型遠心送風機に高い静圧が加わった場合」の「高い静圧」によって規定される静圧の範囲が明確でないとの異議申立人は主張する。
しかしながら,特許明細書の段落【0015】,【0039】には,「機器に高い静圧が加わった場合,すなわち性能(PQ)曲線の締め切り側で使用された場合」と記載されているとともに,図3にPQ(静圧-風量)特性の比較が開示されている。
したがって,「高い静圧」が加わった場合とは,性能(PQ)曲線の締め切り側で使用された場合であることは明らかであるから,請求項1の当該記載は明確でないとはいえず,異議申立人の主張する前記理由は成り立たない。

第4.むすび
以上のとおりであるから,特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,本件請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に本件請求項1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-10-05 
出願番号 特願2013-196437(P2013-196437)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (F04D)
P 1 651・ 121- Y (F04D)
P 1 651・ 55- Y (F04D)
P 1 651・ 537- Y (F04D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 松浦 久夫  
特許庁審判長 久保 竜一
特許庁審判官 藤井 昇
矢島 伸一
登録日 2017-11-24 
登録番号 特許第6244547号(P6244547)
権利者 パナソニックIPマネジメント株式会社
発明の名称 片吸込み型遠心送風機  
代理人 前田 浩夫  
代理人 鎌田 健司  

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