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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G01R
管理番号 1344878
異議申立番号 異議2018-700544  
総通号数 227 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-11-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-07-06 
確定日 2018-10-17 
異議申立件数
事件の表示 特許第6256962号発明「磁気式の方位・位置測定装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6256962号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6256962号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし7に係る特許についての出願は、平成29年9月7日(優先権主張 平成29年6月21日)に特許出願され、平成29年12月15日に特許権の設定登録がされ、平成30年1月10日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対して、平成30年7月6日に特許異議申立人西川晶子により特許異議の申立てがなされ、平成30年9月21日に特許権者より上申書が提出されたものである。

2 本件特許発明
本件特許の請求項1-7の特許に係る発明(以下、「本件特許発明1」-「本件特許発明7」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1-7に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
一様磁界と傾斜磁界を所定の3次元空間内に、X軸、Y軸、Z軸に沿って磁界を発生することができる3次元磁界発生装置と、
前記磁界の強度を測定する一軸の磁界センサと、
前記磁界センサの前記3次元空間内における位置と方位を算出する演算装置からなることを特徴とする磁気式の方位・位置測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気式の方位・位置測定装置において、
前記一軸の磁界センサは、磁性ワイヤとその周りに巻き付けた検出コイルからなる磁気検出素子と検出したコイル電圧を磁界強度に変換する信号処理回路とからなり、標準誤差1mG以下で磁界を測定する性能を有し、
その測定値を磁界空間の外部に設置した演算装置に転送し、
そこで前記磁界センサの前記3次元空間内における位置を空間分解能20μm以下で100μm以下の精度で、かつ前記3次元空間の方位を方位分解能0.2度以下で1度以下の精度で算出することを特徴とする磁気式の方位・位置測定装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の磁気式の方位・位置測定装置において、
前記3次元傾斜磁界発生装置は、前記X軸、前記Y軸、前記Z軸の少なくとも1つの軸は平行四線型コイルからなることを特徴とする磁気式の方位・位置測定装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3に記載の磁気式の方位・位置測定装置において、
前記3次元磁界発生装置は、傾斜磁界を形成するコイルと一様磁界を発生させるヘルムホルツコイルとの二つのタイプのコイルからなることを特徴とする磁気式の方位・位置測定装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の磁気式の方位・位置測定装置において、
前記3次元磁界発生装置を用いて基準となる一様磁界を、X軸、Y軸、Z軸と順次に発生させて、その値を前記磁界センサで計測し、それらの3つの測定値から前記磁界センサの前記3次元空間(O-XYZ空間)内における方位ベクトルと前記磁界センサの各軸に対する方向余弦を求め、次に前記方位に前記磁界センサの方位を保持した状態で、前記傾斜磁界をX軸、Y軸、Z軸と順次に発生させて、所定の位置にある前記磁界センサでその値を計測し、それらの3つの測定値および前記磁界センサの各軸に対する方向余弦から前記磁界センサの所定の位置を求めることを特徴とする磁気式の方位・位置測定装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の磁気式の方位・位置測定装置において、
外部磁界を前記3次元磁界発生装置でキャンセルして測定開始前における前記3次元空間の外部磁界をゼロに維持することを特徴とする磁気式の方位・位置測定装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の磁気式の方位・位置測定装置において、
ある軸の前記方向余弦がゼロとなった場合、最も大きな値を持つ特定軸と前記方向余弦がゼロの値となった軸とが作る面に対して垂直である残りの軸を回転軸として所定の角度だけ発生磁界空間を回転させて、各軸に対する前記方向余弦の値がゼロとならないようにすることを特徴とする磁気式の方位・位置測定装置。」

3 申立理由の概要
特許異議申立人は、主たる証拠として甲第1号証及び従たる証拠として甲第2号証-甲第10号証を提出し、請求項1-7に係る特許は第29条第2項の規定に違反してなされたものであるため、同法第113条第2号により取り消されるべきである旨主張している。

<証拠方法>
甲第1号証:特表平9-503410号公報
甲第2号証:再公表特許第2008/032815号
甲第3号証:米国特許第6288785号明細書
甲第4号証:「カテーテル先端の位置・姿勢を検出する磁気センサシステム」、電気学会論文誌E(センサ・マイクロマシン部門誌)120巻(2000)5号 P.211-218
甲第5号証:特許第4875110号公報
甲第6号証:特開昭63-216552号公報
甲第7号証:特開昭63-125245号公報
甲第8号証:特開2003-10147号公報
甲第9号証:特開2002-94280号公報
甲第10号証:特開2013-178153号公報

4 文献の記載
(1)甲第1号証には、以下の事項が記載されている。(下線は、当審で付与したものである。以下同様。)
a 「本発明は、磁場により対象の位置および配向を測定する装置および方法に関するものであり、磁場により医療患者の身体内のプローブの位置を監視する装置および方法を含むものである。」(第14頁第4-6行)

b 「本発明の装置はまた、所定のシーケンスで異なる場を発生するように磁石手段を作動させる制御手段と、検出空間内の監視されるべき対象とともに動くことができるように対象に接続されたセンサとを有する。」(第16頁最終行-第17頁第2行)

c 「本発明の別の観点に係る装置は、少なくとも2対のヘルムホルツコイルを有する磁石構造体を備え、かかる各対のコイルは互いに略共軸をなすとともに、対軸線(pair axis)を画成する。かかる各対のコイルは、種々の対のコイルの軸線と互いに略直交するように、検出空間の対向側部に配置される。装置はまた、対をなす双方のコイルにおいて対軸線を中心とする同方向の電流が流れる均質な場状態において前記各対をなすヘルムホルツコイルを作動させることにより、対軸線と平行をなしかつ検出空間内に略均一な強度を有する磁場を発生する。制御手段はまた、対軸線と平行をなしかつ検出空間に略線形のグラジェントの大きさをもつ成分を有する磁場を発生させるように、対のコイルに逆方向に電流が流れるグラジェント場状態で各対をなすヘルムホルツコイルを作動させるように動作を行なう。」(第18頁第16-26行)

d 「本発明の一の実施例に係る装置は、検出即ち患者収容空間を実質上包囲するフレーム構造体30を備えている。フレーム構造体30は、3対のヘルムホルツコイル34、36および38がそれぞれ互いに直交する3つの対軸線X、YおよびZに互いに軸線を共通にして即ち共軸をなして配置されるように、これらのコイルを支持している。かくして、交差するこれらの対軸線は、検出空間の中心に原点39を有し、かつ、X、YおよびZ軸のそれぞれに沿って原点から正および負の方向を有する通常の直角座標を画成している。各対をなすコイルは、検出空間32の対向する側に配置されている。」(第24頁第22行-第25頁第1行)

e 「センサ60は、先端部56に隣接してプローブ本体52に取着されている。図2に明瞭に示すように、センサ60は、複数の平面検出素子62、64および66を有している。素子62は、共通のセンサ軸線X’と直交して配置されている。かくして、センサのX’軸上を延びる図2に示すベクトルX’は、平面検出素子62と直交している。同様に、素子64はセンサのY’方向と直交し、素子66はZ’方向と直交している。方向X’、Y’およびZ’は、互いに直交し、従って、素子62、64および66の面も互いに直交している。各検出素子は、この検出素子が該特定の検出素子の面と直交するセンサに近接する磁場の成分と比例する出力電圧を発生するように、ホール効果を有する材料を内蔵している。」(第26頁第27行-第27頁第6行)

f 「本方法の次の段階において、患者の身体は検出空間32内に配置される。プローブ50は、医療技術の分野の通常の技術を使用して患者の身体の中へ挿入される。コンピュータ46は、コイルを所定の繰返しシーケンスで動作させるようにコイルドライバ48を作動させる。シーケンスは、全てのコイルがオフされ、かつ、検出空間32の磁場が地球の磁場、付近の物体からの漂遊磁場などのような外部源により導入される磁場である場合の空(null)状態を含む。更に、シーケンスは、各組のコイルについての順段階即ち均質場段階を含む。各セットのコイルが双方のコイルに同方向の電流が流れる上記した直列援用形態において順段階で駆動されている場合には、このセットはその軸線に沿って配向される実質上均質な単方向の磁場を提供する。例えば、順状態にあるX方向のコイル34は、検出空間の中心位置即ちX、YおよびZ軸の原点即ち交点39に隣接して、X軸と平行する方向をなしかつ検出空間32の中央領域を通して略同等の大きさを有する束から実質上なる場を提供する。多くの場合、場は、原点から延びかつコイル間の距離の約62%を包囲するとともに、コイルの直径の約25%に等しい距離だけ軸線から側部外方へ延びる領域に亘って約1%以内に均質である。これら3つのコイルは、かかるシーケンスにおいて異なる時間に別々に作動されるので、所定の時間では、1つのコイルセットだけが順モードで活動状態にある。
シーケンスはまた、各コイルセットのグラジェント形態即ち逆形態の作動モードを含む。逆モード即ちグラジェントモードにおいては、電流が各セットの2つのコイルに逆方向に流れ、各コイルセットが発生する場は、コイル間を軸線に沿って方向づけられ、かつ、この軸線に沿って略線形の均一なグラジェントを有する成分を含む。例えば、X方向のコイル34がグラジェントモードで作動される場合には、場は、図3、4および5に示す形態を有する。図3において、Rxは、X方向即ちX軸と平行をなす逆即ちグラジェント磁場の成分である。図3に示すように、この成分は、検出空間の一方の端部に低い負の値を有する。X方向の成分Rxは、Xの値の増加とともに単調にかつ直線状に増加し、X=0即ち原点39において0を通過する。X軸に沿った所定の位置におけるX方向の成分の値即ち大きさは、YおよびZの場合と同じである。RxはかくしてXだけの関数であり、YおよびZに対して一定である。」(第30頁第6行-第31頁第5行)

g 「コイルは繰り返し作動されるが、信号はセンサ60および80から得られ、増幅され、デジタル化されて、コンピュータ46に供給される。この信号は、X、YおよびZ座標系の検出空間32内において、センサおよび取着プローブの配向および位置を確認するのに使用される。」(第33頁第11-15行)

h 「かくして、コイルが空、均質およびグラジェント状態を循環するたびに、コンピュータ46は、センサ60の位置と配向を再計算する。センサ60がプローブ本体52の先端チップ(tip)56に取着されているので、これらの計算により、プローブ本体の先端チップの位置および配向がわかる。」(第39頁第9-12行)


図1


図2

上記の記載事項を総合すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる(括弧内は、甲第1号証の記載箇所を示す。)。
「3対のヘルムホルツコイル34、36および38がそれぞれ互いに直交する3つの対軸線X、YおよびZに互いに軸線を共通に、検出空間32の対向する側に配置され(上記d)、
各セットのコイルが双方のコイルに同方向の電流が流れる場合には、このセットはその軸線に沿って配向される実質上均質な単方向の磁場を検出空間に提供し、
各コイルセットにおいて、電流が各セットの2つのコイルに逆方向に流れ、各コイルセットが検出空間に発生する磁場は、コイル間を軸線に沿って方向づけられ、かつ、この軸線に沿って略線形の均一なグラジェントを有する成分を含み(上記c、f)、
検出空間内にセンサを有し(上記b)、
センサ60は、複数の平面検出素子62、64および66を有し、素子62、64および66の面は互いに直交し、各検出素子は、検出素子が該特定の検出素子の面と直交するセンサに近接する磁場の成分と比例する出力電圧を発生するように、ホール効果を有する材料を内蔵しており(上記e)
センサ60から得られる信号は、コンピュータ46に供給され、この信号は、X、YおよびZ座標系の検出空間32内において、センサの配向および位置を確認するのに使用され(上記g)、
コイルが空、均質およびグラジェント状態を循環するたびに、コンピュータ46が、センサ60の位置と配向を再計算する(上記h)、
磁場により対象の位置および配向を測定する装置(上記a)。」

(2)甲第2号証には、以下の事項が記載されている。
「【0022】
図3には、本実施形態に係るカプセル医療装置のブロック図が示され、図4には、図3のカプセル医療装置の縦断面図が示されている。
カプセル医療装置(医療装置)3は、図3および図4に示されるように、内部に各種の機器を収納する外装7と、体腔内の画像(生体情報)を取得する撮像部(生体情報取得部)9と、外装7内部の各種機器に動力を供給する電源部11と、磁界M2に応じて検出信号を発生する磁気センサ(磁界検出部)13と、検出信号を濾波するセンサフィルタ15と、磁界M1,M2に応じて誘導信号を発生する磁界センサコイル(以下、単にコイルと表記する。)17と、誘導信号を濾波するコイルフィルタ19と、誘導信号および検出信号を処理する磁界受信部21と、処理された誘導信号および検出信号を体外に向けて送信する無線送信機23と、電源部11、撮像部9、誘導信号処理部9および無線送信機23を制御する制御部25と、磁界M1,M2に応じて駆動力を発生する永久磁石(磁石)27とを備えている。」

「【0026】
磁気センサ13は外部装置5から受ける磁界M2に応じて検出信号を発生するセンサであり、コイル17の内部に配置され、感度軸が長手軸Rに対して直交方向(例えば、図における上下方向)に沿うように配置されている。そのため、磁気センサ13は感度軸が永久磁石27の磁化方向に沿うように配置されている。磁気センサの検出信号は、センサフィルタ15に入力される。」

「【0072】
具体的には、磁界-磁化方向角度差算出部93は、下記の式(1)に基づいて、ガイダンス用磁界M1の磁界方向と永久磁石27の磁化方向とのなす角θを算出する。
BSENCE=Bint+Bextcosθ ・・・(1)
ここで、Bintは、永久磁石27が医療装置1の位置に形成する磁界の磁界強度である。Bextは、カプセル医療装置3の位置におけるガイダンス用磁界M1の磁界強度であり、θは、磁気センサ13の感度軸の方向とガイダンス用磁界M1の磁界方向とのなす角であるため、Bextcosθは、磁気センサ13により検出されるガイダンス用磁界M1の磁界強度成分である。」


図4

上記記載より甲第2号証には、次の技術が記載されている。
「カプセル医療装置3に、感度軸が長手軸Rに対して直交方向に沿うように配置されている磁気センサ13を設け、磁気センサ13の感度軸の方向とガイダンス用磁界Mlの磁界方向とのなす角を算出する技術。」

(3)甲第3号証には、以下の事項が記載されている。(翻訳文は、異議申立人が代用翻訳文として提出した、甲第3号証の日本語ファミリー文献である特開2001-201316号公報に拠るものである。)
「Referring now in more detail to FIG. 1, the hybrid, optical/non-optical, tracking system 10 is shown. Here, the non-optical subsystem 12 is, as noted above, a magnetic position tracking system. The non-optical subsystem 12 is coupled to an optical subsystem 14 of the tracking system through the processor 26 and, as noted above, through the optical link between the non-optical subsystem light sources 24 and the sensor 20. Magnetic tracking systems are well known, and several variants have been developed. For illustrative purposes, here the non-optical, here magnetic, subsystem 12 of the tracking system 10 includes a magnetic field generator 28 comprised of suitably arranged electromagnetic inductive coils, not shown, that serve as the spatial magnetic reference frame (i.e., is fixed relative to the non-optical subsystem coordinate system X_(M), Y_(M), Z_(M)). The non-optical subsystem 12 includes small mobile inductive sensor coils 30, which are attached to the object 22 being tracked. It should be understood that other variants could be easily accommodated. The non-optical subsystem 12 also includes a magnetic system control unit 32 that is coupled to the processor 26, magnetic field generator 28 and coils 30, as indicated.
More particularly, the magnetic field generator 28, defines the magnetic coordinate reference frame (X_(M), Y_(M), Z_(M)) The generator 28 includes a sufficient number of coils suitably arranged to generate the source magnetic field. A small sensor coil 30 is attached to the object 22, here a flexible element (such a device could be inserted into a catheter). The position and angular orientation of the coil 30 (i.e., pose) are determined from its magnetic coupling to the source field produced by magnetic field generator 28. The magnetic system control unit 32 manages the magnetic field generator 28 and receives signals from the magnetic sensors, here the coil 30.
It is noted that the magnetic field generator 28 generates a sequence, or set, of here 6, different spatial magnetic field shapes, or distributions, each of which is sensed by the sensor coil 30. Each sequence enables a sequence of signals to be produced by the coil 30. Processing of the sequence of signals enables determination of the pose of the coil 30, and hence the pose of the object 22 to which the coil 30 is mounted relative the magnetic (non-optical) coordinate reference frame X_(M), Y_(M), Z_(M) which is in fixed relationship to the magnetic field generator 28. As noted above, a plurality of non-optical subsystem light sources 24 (i.e., emitters) is mounted to, i.e, fixed to, the magnetic field generator 28, and hence, in fixed relationship to the magnetic (non-optical)coordinate reference frame X_(M), Y_(M), Z_(M).」(第5欄第32行-第6欄第13行)
(翻訳文:【0019】これから、より詳細に図1、2、3を参照して、光学式/非光学式ハイブリッド追跡システム10を示す。ここで、非光学式サブシステム12は、上に言及したように、磁気式位置追跡システムである。非光学式サブシステム12は、プロセッサ26を介して、また上に言及したように、非光学式サブシステム光源24とセンサ20の間の光リンクを介して、追跡システムの光学式サブシステム14に結合されている。磁気式追跡システムはよく知られており、いくつかの変形態が開発されている。説明のために、追跡システム10の、ここでは非光学式の、この場合は磁気式のサブシステム12は、図示しない適当に配列された電磁誘導コイルで構成される磁界発生器28を含み、この電磁誘導コイルが空間的な磁気基準フレームとして働く(すなわち、非光学式サブシステム座標系X_(M)、Y_(M)、Z_(M)に対して固定されている)。非光学式サブシステム12は、追跡される物体22に取り付けられた小さな移動可能な誘導センサコイル30を含む。理解すべきことであるが、他の変形態を容易に含むことができる。また、非光学式サブシステム12は、磁気システム制御ユニット32を含み、その制御ユニット32は、図示のように、プロセッサ26、磁界発生器28およびコイル30に結合されている。
【0020】より詳細には、磁界発生器28は、磁気座標基準フレーム(X_(M)、Y_(M)、Z_(M))を定義する。発生器28は、ソース磁界を生成するように適当に配列された多数のコイルを含む。小さなセンサコイル30は、ここではフレキシブル要素(カテーテルに挿入できるような装置)である物体22に取り付けられている。コイル30の位置および角度方向(すなわち、姿勢)は、磁界発生器28で生成されるソース磁界に対するコイルの磁気結合から求められる。磁気式システム制御ユニット32は、磁界発生器28を管理し、磁気センサから、ここではコイル30から、信号を受け取る。
【0021】留意すべきことであるが、磁界発生器28は、一連または一組の、ここでは6個の、異なる空間磁界の形状または分布を生成し、その各々の分布をセンサコイル30が検出する。各一連の分布によって、コイル30で一連の信号が生成されるようになる。その一連の信号を処理することで、コイル30の姿勢を決定することができるようになる。したがって、磁界発生器28に対して固定された関係にある磁気(非光学式)座標基準フレームX_(M)、Y_(M)、Z_(M)を基準として、コイル30が取り付けられている物体22の姿勢を決定することができるようになる。上に言及したように、複数の非光学式サブシステム光源24(すなわち、放射源)は、磁界発生器28に取り付けられており、すなわち固定されているので、磁気(非光学式)座標基準フレームX_(M)、Y_(M)、Z_(M)に対して固定された関係にある。)


図1

上記記載より甲第3号証には、次の技術が記載されている。
「追跡される物体22に、小さな移動可能な誘導センサコイル30を取り付け、磁界発生器28が6個の、異なる空間磁界の形状または分布を生成し、その各々の分布をセンサコイル30が検出することで、コイル30の姿勢を決定する技術。」

(4)甲第4号証には、以下の事項が記載されている。
「一方,アモルファスワイヤ磁気インピーダンス素子による2mm角の高感度3軸磁界センサが開発されており,今回この磁気インピーダンス効果センサ(Magneto-Impedance effect sensor,以下MIセンサ)を用いて,カテーテルに搭載可能な大きさ1.5mm角のセンサを作製すると同時に,配線を含めてカテーテルに装着する技術を開発した.また,新たに地磁気と交流磁界を用いた位置・姿勢検出のアルゴリズムを考案し,作製したMIセンサによってカテーテル先端の位置・姿勢を検出できることを確かめた.」(第211頁右下欄第11行-第212頁左欄第6行)

「6.位置・姿勢の検出
2mm角の木材に3個のMIセンサを,それぞれ直交するように配置した3軸センサを作製した(図8).」(第216頁右欄第1-3行)

(5)甲第5号証には、以下の事項が記載されている。
「【0055】
この方位角センサ20aは、x軸磁気センサ21aとy軸磁気センサ21bとz軸磁気センサ21cとの3軸の磁気センサ21と、この3軸の磁気センサ21を選択して選択された軸の磁気センサからの出力信号を取得するマルチプレクサ部22と、このマルチプレクサ部22を介して磁気センサ21を駆動する磁気センサ駆動部23と、マルチプレクサ部22からの出力信号を増幅する信号増幅部24と、この信号増幅部24からの増幅信号をA/D変換するA/D変換部25とから構成されている。データ送信部26は、A/D変換部25で変換された信号を演算部3に送信する。」

(6)甲第6号証には、以下の事項が記載されている。
「このようにMRI装置に用いられる傾斜磁場コイルとしては平行四線形とくら形とがあるが、効率の良いくら形コイルを用いることが望ましい。」(第1頁右下欄第19行-第2頁左上欄第1行)

(7)甲第7号証には、以下の事項が記載されている。
「この傾斜磁場形成手段20は、第2図に詳図するように、静磁場Hoが形成される方向で離間して対向配置された一対の円形コイル21,21と、この静磁場Hoが形成される方向についてそれぞれ直交する方向に沿って配置された2組の平行四線コイル22,23とから構成されている。そして、前記天板13上に配置された被検体1の体軸方向をz方向(第1図の紙面より手前に向かう方向)、体厚方向をy方向、体幅方向をx方向としたとき、前記円形コイル21はX方向傾斜磁場コイルとなり、前記平行四線コイル22はy方向傾斜磁場コイルとなり、前記平行四線コイル23はz方向傾斜磁場コイルとなる。」(第3頁右上欄第3-15行)

(8)甲第8号証には、以下の事項が記載されている。
「【請求項8】 MRI装置のマグネットを構成するヨークに磁界補正コイルを付設し、請求項1から請求項7のいずれかの外部磁界測定方法により測定した外部磁界に基づく補正電流を前記磁界補正コイルに流して補正磁界を発生させ、静磁界を補正することを特徴とする静磁界補正方法。」

(9)甲第9号証には、以下の事項が記載されている。
「【0003】 この問題を解決するため、アクティブシールド装置が考案されている。この装置は、図5に示すように、磁界の3方向成分(すなわち磁界の大きさと向き)を測定する磁気センサ1を、磁気遮蔽体3の磁化による磁界を検出しない程度に十分離れた場所に設置し、この磁気センサ1により測定された外部磁界と大きさが同じで向きが逆方向の磁界を、制御装置2により磁気遮蔽体3に巻かれたコイル4に流す電流により発生させて、前記外部磁界を打ち消すという考え方に基づくものである。」

(10)甲第10号証には、以下の事項が記載されている。
「【0033】
以上のような本発明によれば、磁気分光測定などで必要とされる試料への磁場印加を効果的になせるような磁場の発生を可能としつつ、発生磁場の自由な角度制御を可能とし、さらに小型化も可能とする磁場発生装置が得られる。」

5 当審の判断
(1)本件特許発明1について
ア 対比
(ア)引用発明は「それぞれ互いに直交する3つの対軸線X、YおよびZに互いに軸線を共通に、検出空間32の対向する側に配置され」た「3対のヘルムホルツコイル34、36および38」が、「各セットのコイルが双方のコイルに同方向の電流が流れる場合には、このセットはその軸線に沿って配向される実質上均質な単方向の磁場を検出空間に提供」しているので、「3対のヘルムホルツコイル34、36および38」が、「対軸線X、YおよびZ」の「軸線に沿って配向される実質上均質な単方向の磁場を検出空間に提供」しているといえる。
そして、引用発明の「実質上均質な単方向の磁場」は、本件特許発明1の「一様磁界」に相当するので、引用発明の「3対のヘルムホルツコイル34、36および38」は、本件特許発明1の「一様磁界」「を所定の3次元空間内に、X軸、Y軸、Z軸に沿って磁界を発生することができる3次元磁界発生装置」に相当する。

(イ)引用発明は「それぞれ互いに直交する3つの対軸線X、YおよびZに互いに軸線を共通に、検出空間32の対向する側に配置され」た「3対のヘルムホルツコイル34、36および38」が、「各コイルセットにおいて、電流が各セットの2つのコイルに逆方向に流れ、各コイルセットが検出空間に発生する磁場は、コイル間を軸線に沿って方向づけられ、かつ、この軸線に沿って略線形の均一なグラジェントを有する成分を含」むので、「3対のヘルムホルツコイル34、36および38」が、「検出空間に」「対軸線X、YおよびZ」の「軸線に沿って略線形の均一なグラジェント有する成分を含」む「磁場」を「発生」しているといえる。
そして、引用発明の「略線形の均一なグラジェント有する成分を含」む「磁場」は、本件特許発明1の「傾斜磁界」に相当するので、引用発明の「3対のヘルムホルツコイル34、36および38」は、本件特許発明1の「傾斜磁界を所定の3次元空間内に、X軸、Y軸、Z軸に沿って磁界を発生することができる3次元磁界発生装置」にも相当する。

(ウ)引用発明の「複数の平面検出素子62、64および66を有し、素子62、64および66の面は互いに直交し、各検出素子は、検出素子が該特定の検出素子の面と直交するセンサに近接する磁場の成分と比例する出力電圧を発生するように、ホール効果を有する材料を内蔵して」いる「検出空間内」の「センサ60」と、本件特許発明1の「前記磁界の強度を測定する一軸の磁界センサ」とは、「前記磁界の強度を測定する磁界センサ」である点で共通する。

(エ)引用発明の「コイルが空、均質およびグラジェント状態を循環するたびに、」「検出空間32内」の「センサ60の位置と配向を再計算する」「コンピュータ46」は、本件特許発明1の「前記磁界センサの前記3次元空間内における位置と方位を算出する演算装置」に相当する。

(オ)引用発明の「磁場により対象の位置および配向を測定する装置」は、本件特許発明1「磁気式の方位・位置測定装置」に相当する。

したがって、本件特許発明1と引用発明とは、次の一致点、相違点を有する。
(一致点)
「一様磁界と傾斜磁界を所定の3次元空間内に、X軸、Y軸、Z軸に沿って磁界を発生することができる3次元磁界発生装置と、
前記磁界の強度を測定する磁界センサと、
前記磁界センサの前記3次元空間内における位置と方位を算出する演算装置からなることを特徴とする磁気式の方位・位置測定装置。」

(相違点)
磁界センサが、本件特許発明1は、「一軸の磁界センサ」であるのに対して、引用発明は、「複数の平面検出素子62、64および66を有し、素子62、64および66の面は互いに直交し、各検出素子は、検出素子が該特定の検出素子の面と直交するセンサに近接する磁場の成分と比例する出力電圧を発生する」、三軸の「センサ60」である点。

イ 判断
上記相違点について検討する。
甲第2号証には、カプセル医療装置3に、感度軸が長手軸Rに対して直交方向に沿うように配置されている磁気センサ13を設け、磁気センサ13の感度軸の方向とガイダンス用磁界Mlの磁界方向とのなす角を算出する技術が記載されている。(上記「4 (2)」)
ここで、磁気センサ13は、感度軸が長手軸Rに対して直交方向に沿うように配置されているので、一軸の磁界センサであるといえる。
しかしながら、引用発明は、三軸の「センサ60」を用いて、「対軸線X、YおよびZ」の「軸線」に沿った、「実質上均質な単方向の磁場」(一様磁界)と「略線形の均一なグラジェント有する成分を含」む「磁場」(傾斜磁界)から「位置および配向を測定する装置」であり、一様磁界と傾斜磁界から、「センサ60」の「位置および配向」を求めるために、三軸の「センサ60」を用いるのであるから、甲第2号証記載の「磁気センサ13」と「ガイダンス用磁界Ml」「とのなす角」を算出するための、一軸である「磁気センサ13」を、引用発明に適用する動機付けは認められない。

また、甲第3号証には、追跡される物体22に、小さな移動可能な誘導センサコイル30を取り付け、磁界発生器28が6個の、異なる空間磁界の形状または分布を生成し、その各々の分布をセンサコイル30が検出することで、コイル30の姿勢を決定する技術が記載されているが(上記「4 (3)」)、磁界センサは「小さな移動可能な誘導センサコイル30」と記載されているだけであり、その形状、構造などは明らかでない。

さらに、甲第4-10号証には、一様磁界と傾斜磁界から、「一軸の磁界センサ」を用いて、磁界センサの位置と方位を算出することは記載されていない。

したがって、上記相違点に係る本件特許発明1の構成は、当業者が容易になし得たこととはいえない。

よって、本件特許発明1は、引用発明、甲第2号証-甲第10号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たものとすることができない。

(2)本件特許発明2-7について
本件特許発明1を、直接又は間接的に引用する本件特許発明2-7は、本件特許発明1をさらに減縮したものであるから、上記本件特許発明1についての判断と同様の理由により、引用発明、甲第2号証-甲第10号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たものとすることができない。

(3) まとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明1-7は、いずれも、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるということができず、同法第113条第2号により取り消すことができない。

6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-10-05 
出願番号 特願2017-172549(P2017-172549)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (G01R)
最終処分 維持  
前審関与審査官 菅藤 政明  
特許庁審判長 中塚 直樹
特許庁審判官 須原 宏光
清水 稔
登録日 2017-12-15 
登録番号 特許第6256962号(P6256962)
権利者 朝日インテック株式会社
発明の名称 磁気式の方位・位置測定装置  
代理人 高橋 良文  

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