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審決分類 |
審判 全部申し立て 特174条1項 C23C 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C23C 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C23C |
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管理番号 | 1344882 |
異議申立番号 | 異議2018-700154 |
総通号数 | 227 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-11-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-02-23 |
確定日 | 2018-10-19 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6185047号発明「溶射用スラリー、及び溶射皮膜の形成方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6185047号の請求項1?15に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6185047号の請求項1?15に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、2014年3月7日(優先権主張2013年3月13日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成29年8月4日に特許権の設定登録がされ、同年8月23日に特許掲載公報が発行され、その後、平成30年2月23日付けで本件特許に対し、特許異議申立人である大島裕子(以下、「申立人」という。)により全請求項に対して特許異議の申立てがされ、当審において同年5月21日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年7月23日に意見書が提出されたものである。 第2 本件発明 本件特許の請求項1?15に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1?15」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?15に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 スラリーを溶射して溶射皮膜を形成するための溶射用スラリーであり、10質量%以上85質量%以下の量でセラミック粒子(酸化イットリウム粒子を除く)を含有し、1mPa・s以上且つ3000mPa・s以下の粘度を有する溶射用スラリーであって、 1Lの容積を有する高さ16.5cmの容器内に前記溶射用スラリーを700mL入れて室温下で一週間静置したときに沈殿を生じることを特徴とする溶射用スラリー。 【請求項2】 前記セラミック粒子が200nm以上5μm以下の平均粒子径を有する請求項1に記載の溶射用スラリー。 【請求項3】 凝集剤をさらに含有する請求項2に記載の溶射用スラリー。 【請求項4】 前記凝集剤は、アルミニウム系凝集剤、イソブチレン-マレイン酸共重合体、及びカルボキシビニルポリマーから選ばれる少なくとも一種である請求項3に記載の溶射用スラリー。 【請求項5】 分散剤をさらに含有する請求項1?4のいずれか一項に記載の溶射用スラリー。 【請求項6】 前記分散剤は、ポリカルボン酸系分散剤、ポリアルキレンポリアミン系分散剤、及びイミダゾリン系分散剤から選ばれる少なくとも一種である請求項5に記載の溶射用スラリー。 【請求項7】 粘度調整剤をさらに含有する請求項1?6のいずれか一項に記載の溶射用スラリー。 【請求項8】 前記粘度調整剤は、ポリエーテルである請求項7に記載の溶射用スラリー。 【請求項9】 前記溶射用スラリーのpHは、6?11である請求項1?8のいずれか一項に記載の溶射用スラリー。 【請求項10】 分散媒として水を含んだ請求項1?9のいずれか一項に記載の溶射用スラリーを高速フレーム溶射して溶射皮膜を形成する溶射皮膜の形成方法。 【請求項11】 分散媒として有機溶剤を含んだ請求項1?9のいずれか一項に記載の溶射用スラリーをプラズマ溶射して溶射皮膜を形成する溶射皮膜の形成方法。 【請求項12】 前記溶射用スラリーをアクシャルフィード方式で溶射装置に供給することを含む請求項10又は11に記載の溶射皮膜の形成方法。 【請求項13】 前記溶射用スラリーを、2つのフィーダーを用いて、両フィーダーからの溶射用スラリーの供給量の変動周期が互いに逆位相となるようにして溶射装置に供給することを含む請求項10又は11に記載の溶射皮膜の形成方法。 【請求項14】 前記溶射用スラリーをフィーダーから送り出して溶射装置の直前でタンクにいったん貯留し、自然落下を利用してそのタンク内の溶射用スラリーを溶射装置に供給することを含む請求項10又は11に記載の溶射皮膜の形成方法。 【請求項15】 導電性チューブを介して溶射装置へ溶射用スラリーを供給することを含む請求項10又は11に記載の溶射皮膜の形成方法。」 第3 当審の判断 1 取消理由通知に記載した取消理由について (1)特許異議申立書の第9頁下から第3行?第10頁下から第6行に記載の理由(特許法第36条第6項第2号及び同法第36条第4項第1号違反)について ア 取消理由の概要 本件特許の請求項1は、上記第2に示すように「溶射用スラリーであって、1Lの容積を有する高さ16.5cmの容器内に前記溶射用スラリーを700mL入れて室温下で一週間静置したときに沈殿を生じることを特徴とする溶射用スラリー」という発明特定事項を備えるものであるが、発明の詳細な説明には、「沈殿」が生じたか否かについての評価基準が何ら記載されておらず、客観的な基準が明らかでないため、本件発明1及びこれを引用する本件発明2?15が明確であるといえず、また、発明の詳細な説明が本件発明1及びこれを引用する本件発明2?15を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではないから、特許法第36条第6項第2号及び同法第36条第4項第1号の規定に違反してされたものであるとして、取消理由を通知したものである。 イ 取消理由についての判断 上記取消理由通知に対し、平成30年7月23日付けで提出された意見書によると、「沈殿」が生じたか否かについて、「乙1号証に示されるように、実施例7の溶射用スラリーは沈殿が生じていることが目視にて明確に確認することができる。つまり、溶液の上部に透明部分が生じており、スラリーが沈殿していることをはっきり確認することができる。一方、比較例1は、溶液の上部に透明部分がなく、沈殿が生じていないことは明白である。」(第2頁下から第9行?下から第5行)としており、溶液の上部に透明部分が生じるか否かが評価基準であって、このことは、本願出願時の技術常識に基づいても、妥当なものと認められる。 また、上記実施例7は、セラミック粒子の含有量が40質量%であるところ、本件発明における最大値である85質量%のセラミック粒子を含有する場合には、沈殿したスラリーの高さは、含有量が40質量%のときに比べて高くなるにしても、溶液の上部に透明部分が生じることは明らかである。 ウ 小括 したがって、沈殿が生じたか否かについて把握できるものとなったことから、上記の取消理由は解消し、特許法第36条第6項第2号及び同法第36条第4項第1号の規定に違反するものではないこととなった。 2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について (1) 特許異議申立書の第6頁第15行?第9頁第4行に記載の理由(特許法第17条の2第3項違反、以下、「申立理由1」という。)について ア 申立理由1の概要 本件特許の請求項1は、平成29年5月22日付け手続補正書による補正により「セラミック粒子(酸化イットリウム粒子を除く)」との発明特定事項を備えることになったが、これは、平成29年3月24日付け拒絶理由通知において引用された引用文献2(特開2010-150617号公報)に記載された発明との重複部分のみを除くものではないため、「除くクレーム」の要件を満足するものではなく、上記手続補正は、新規事項の追加である。 イ 申立理由1についての判断 そもそも、補正前の請求項に記載した事項の記載表現を残したままで、補正により当初明細書等に記載した事項を除外する「除くクレーム」は、除外した後の「除くクレーム」が新たな技術的事項を導入するものでない場合には、許されるものである(知財高裁大合議判決 平成18年(行ケ)10563号、審査基準 第IV部第2章 新規事項を追加する補正 3.3.1(4)除くクレームとする補正の場合 参照。)。 そして、本件発明についてみれば、本件出願の願書に最初に添付した明細書(以下、「本件当初明細書」という。)の【0017】には、セラミックス粒子として「酸化イットリウム」が例示されており、「セラミック粒子」を「セラミック粒子(酸化イットリウム粒子を除く)」とする補正は、本件当初明細書に記載されている酸化イットリウム粒子を除外したものにすぎないから、当該補正は、新たな技術的事項を導入するものではない。 また、当該特定事項が補正された経緯を見ても、平成29年3月24日付け拒絶理由通知において、平成29年5月22日付け手続補正書による補正前の請求項1に係る発明と引用文献2に記載された発明とは同一であるとの判断が示されたことから、両発明で重複する「酸化イットリウム」のみを削除する、すなわち、特許異議申立書第8頁第11行?第15行に記載されている申立人が認識する「スラリーを溶射して溶射皮膜を形成するための溶射用スラリーであり、10質量%以上85質量%以下の量で酸化イットリウム粒子を含有し、1mPa・s以上且つ3000mPa・s以下の粘度を有する溶射用スラリーであって、 1Lの容積を有する高さ16.5cmの容器内に前記溶射用スラリーを700mL入れて室温下で一週間静置したときに沈殿を生じることを特徴とする溶射用スラリー。」(以下、異議申立書のとおり(B)という。)の部分を除くことが意図されて上記特定事項が補正されたものであるにすぎず、新たな技術的事項を導入することが意図されたものではない。 したがって、本件発明の「セラミック粒子(酸化イットリウム粒子を除く)」という特定事項は、新たな技術的事項を導入するものではないく、新規事項を追加する補正として認められないものとすることはできない。 ウ 小括 よって、申立理由1は採用できない。 (2)特許異議申立書の第9頁第5行?下から第4行に記載の理由(特許法第36条第6項第1号及び同法第36条第4項第1号違反、以下、「申立理由2」という。)について ア 申立理由2の概要 本件特許の請求項1は、「セラミック粒子(酸化イットリウム粒子を除く)を含有し」との発明特定事項を備えるものであるが、本件特許明細書の発明の詳細な説明における実施例では、セラミック粒子として、酸化イットリウムを除けば、Al_(2)O_(3)、YSZ(イットリア安定化酸化ジルコニウム)、(La-Yb-Al-Si-Zn)O(ランタン、イッテルビウム、アルミニウム、シリコン及び亜鉛を含んだ複酸化物)、(La-Al-Si-Ca-Na-P-F-B)O(ランタン、アルミニウム、シリコン、カルシウム、ナトリウム、リン、フッ素及びホウ素を含んだ複酸化物)の4種のセラミックス粒子の態様しか示されておらず、セラミックス粒子の種別が異なれば、これを含む溶射用スラリーの分散安定性、沈降性、流動性などが異なることが明らかであるから、このような実施例の記載のみからは、出願時の技術常識を参酌しても、酸化イットリウム粒子を除く全てのセラミック粒子において、本件特許発明の効果が得られるとは認め難く、本件特許の発明の詳細な説明は、本件発明1?15について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されておらず、また、本件発明1?15まで、拡張できない。 イ 申立理由2についての判断 (ア)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)についての判断 本件発明が解決しようとする課題(以下、「課題」という。)は、本件特許明細書【0005】【発明が解決しようとする課題】に記載されているように「そこで本発明の目的は、セラミック溶射皮膜を良好に形成することの可能な溶射用スラリーを提供することにある。また、本発明の別の目的は、その溶射用スラリーを用いて形成される溶射皮膜の形成方法を提供することにある。」である。ここで、本件特許明細書の発明の詳細な説明の実施例には、特定のセラミック粒子を用いた態様についての開示にとどまるものの、実施例以外の発明の詳細な説明の記載【0006】、【0019】?【0020】、【0044】を考慮すると、上記課題解決にあたっては、溶射用スラリーのセラミックス粒子の含有量、その粘度、スラリーの経時特性が上記課題に直接的に関係するものと理解される。 そして、本件特許の請求項1は、「10質量%以上85質量%以下の量でセラミック粒子(酸化イットリウム粒子を除く)を含有」というセラミックス粒子の含有量、「1mPa・s以上且つ3000mPa・s以下の粘度を有する」という溶射用スラリーの粘度、「1Lの容積を有する高さ16.5cmの容器内に前記溶射用スラリーを700mL入れて室温下で一週間静置したときに沈殿を生じる」という溶射用スラリーに関する経時的特性に関する発明特定事項を備えるものであり、これらは、上記課題を解決するための必要な発明特定事項であると認められ、それらによって「セラミック粒子(酸化イットリウム粒子を除く)」が事実上限定されているものであり、さらに各発明特定事項は、発明の詳細な説明に記載されているものであるから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されているものといえる。また、本件発明1を引用する本件発明2?15についても同様の理由により、発明の詳細な説明に記載されているものといえる。 (イ)特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)についての判断 本件特許の発明の詳細な説明の実施例には、特定のセラミック粒子を用いた態様が開示されているし、それ以外のセラミック粒子については、当業者であれば、その他の発明の詳細な説明の記載と本願出願時の技術常識に基づき、溶射用スラリーを構成する成分を予め計量することで、本件特許の請求項1に記載される「10質量%以上85質量%以下の量でセラミック粒子(酸化イットリウム粒子を除く)を含有」というセラミックス粒子の含有量を設定し、溶射スラリーの粘度を計測して本件特許の請求項1に記載される「1mPa・s以上且つ3000mPa・s以下の粘度を有する」か否か把握し、また、「1Lの容積を有する高さ16.5cmの容器内に前記溶射用スラリーを700mL入れて室温下で一週間静置したときに沈殿を生じる」か否か把握して、本件発明1を実施できるものと認められる。 したがって、本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明2?15について、発明の詳細な説明は、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものである。 ウ 小括 よって、申立理由2は採用できない。 (3)特許異議申立書の第10頁下から第5行?下から第3行に記載の理由(特許法第36条第6項第2号違反、以下、「申立理由3」という。)について ア 申立理由3の概要 本件請求項1における「(酸化イットリウム粒子を除く)」という規定により除かれる範囲について、本件請求項1の記載からは、一義的な解釈ができず、本件請求項1の記載は不明確である。 イ 申立理由3についての判断 上記2(1)イにおいて検討したとおり、本件請求項1における「(酸化イットリウム粒子を除く)」という規定により除かれる範囲は、本件発明1において、セラミック粒子が酸化イットリウムである部分、すなわち、上記(B)の部分であると明確に把握することができる。 ウ 小括 よって、申立理由3は採用できない。 第4 むすび 以上のとおり、取消理由、特許異議の申立理由によっては、本件請求項1?15に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に、本件請求項1?15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2018-10-09 |
出願番号 | 特願2015-505436(P2015-505436) |
審決分類 |
P
1
651・
536-
Y
(C23C)
P 1 651・ 537- Y (C23C) P 1 651・ 55- Y (C23C) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 辰己 雅夫、祢屋 健太郎、印出 亮太 |
特許庁審判長 |
中澤 登 |
特許庁審判官 |
土屋 知久 亀ヶ谷 明久 |
登録日 | 2017-08-04 |
登録番号 | 特許第6185047号(P6185047) |
権利者 | 株式会社フジミインコーポレーテッド |
発明の名称 | 溶射用スラリー、及び溶射皮膜の形成方法 |
代理人 | 恩田 博宣 |
代理人 | 恩田 誠 |