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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1345195
審判番号 不服2016-13576  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-09-09 
確定日 2018-10-11 
事件の表示 特願2015-534306「偏光板」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 1月14日国際公開、WO2016/006384〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、2015年6月11日(優先権主張 平成26年7月10日(以下、「優先日」という。))を国際出願日とする出願であって、平成27年10月15日付けで拒絶理由が通知され、同年12月7日付けで意見書が提出され、平成28年2月25日付けで拒絶理由が通知され、同年4月19日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年6月21日付けで拒絶査定がなされ、同年9月9日付けで本件拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正書が提出されたものである。
その後、当審において平成29年8月2日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由1」という。)が通知され、同年10月10日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成30年2月13日付けで、当審拒絶理理由1についての判断を留保した上で、拒絶理由(以下、「当審拒絶理由2」という。)が通知され、同年4月23日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年4月24日に同月23日付け物件提出書が提出された。

第2 本件発明
本件出願の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、平成30年4月23日付けの手続補正書により補正(以下、当該手続補正書による補正を「本件補正」という。)された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
偏光子と、その一方の面に第1接着剤層を介して積層される第1保護フィルムとを含み、
第1接着剤層は、活性エネルギー線硬化性接着剤の硬化物からなる屈折率1.49以上1.53以下の層であり、かつ、偏光子の前記一方の面に接して積層されており、
偏光子の屈折率と第1接着剤層の屈折率との差が、絶対値で0.07以下であり、
偏光子における第1保護フィルムを有する側とは反対側の表面を、蛍光灯下において目視で観察したときに、活性エネルギー線硬化性接着剤の硬化収縮による表面凹凸を有する、偏光板。」

第3 当審拒絶理由1及び当審拒絶理由2の概要
1 当審拒絶理由1
当審拒絶理由2の通知時にその判断を留保していた当審拒絶理由1のうち、本件補正前の請求項1に対する拒絶理由は、概略以下のとおりである。

本件出願の請求項1に係る発明は、その優先日前に日本国内または外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(引用例等一覧)
引用例1:特開2010-230806号公報
引用例2:特開2013-125077号公報
引用例7:特表2013-537639号公報(段落【0038】等)
引用例8:国際公開第2010/150615号(段落[0152]等)
引用例9:特開2001-350016号公報(段落【0065】等)

2 当審拒絶理由2
当審拒絶理由2は概略以下のとおりである。

本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

請求項1の「目視で視認できる」に関し、表面凹凸がどのように観察(視認)され、どのように、あるいはどの程度観察(視認)できれば「目視で視認できる」というのかなど、その定義が不明である。
よって、請求項1に係る発明、請求項1の記載を直接的・間接的に引用する請求項2?6に係る発明は明確でない。

第4 当審拒絶理由2についての判断
1 本件発明は、「偏光子における第1保護フィルムを有する側とは反対側の表面を、蛍光灯下において目視で観察したときに、活性エネルギー線硬化性接着剤の硬化収縮による表面凹凸を有する」との発明特定事項を有している。

2 前記発明特定事項に関して、本件明細書段落【0123】には、「黒色アクリル板を用意し、これに上記片面保護フィルム付偏光板を、その保護フィルムA側で粘着剤層を用いて貼合した。蛍光灯下で、得られた片面保護フィルム付偏光板の偏光子表面(保護フィルムAが貼合されている面とは反対側の面)を目視で観察したところ、表面凹凸、具体的には、紫外線硬化性接着剤の硬化収縮によって生じた肌不良が顕著に認められた。」との記載がある。また、当該記載中の「肌不良」に関して、本件明細書段落【0005】には、「活性エネルギー線硬化性接着剤を用いて偏光子と保護フィルムとを貼合する場合、偏光子表面に、ゆず肌状の微小な表面凹凸が生じる。以下、本明細書において、このゆず肌状の表面凹凸を「肌不良」と呼ぶ。肌不良は、活性エネルギー線の照射による急激な硬化に伴う接着剤層の硬化収縮や、活性エネルギー線光源から急激な熱量が加えられることによって生じる偏光子表面の歪みに起因するものであり、偏光子表面にもともと存在する微小
な凹凸が硬化収縮や熱による歪みによって強調される結果、肌不良が起こる。偏光子の片面に活性エネルギー線硬化性接着剤を用いて保護フィルムを貼合した場合、その接着剤層側に肌不良が生じるが、その反対側(保護フィルムが貼合されていない偏光子表面)にも偏光子の歪みに起因して肌不良が観察される。」と説明されている。
本件明細書のこれらの記載からは、請求項1に記載された「蛍光灯下において目視で観察したときに、活性エネルギー線硬化性接着剤の硬化収縮による表面凹凸」とは、蛍光灯下における目視により確認(観察)される「肌不良」(ゆず肌状の微小な表面凹凸)のことと解される。
しかしながら、偏光子の表面がどのような状態であれば「肌不良」が目視により確認されたと判定し、どのような状態であれば「肌不良」が目視により確認できないと判定するのか、その判定基準について、本件明細書には一切説明がないし、本件出願の出願当時に、当該判定基準が当業者における技術常識として存在していたと認めることもできない。
しかるに、偏光子の表面における凹凸の状態には、誰しもが「肌不良」が確認できないと判定するような滑らかなものや、誰しもが「肌不良」が確認されたと判定するような粗いものばかりでなく、それらの中間の状態のものも存在することが、技術的にみて明らかであるが、判定基準が明確でなければ、そのような中間の状態のものに対して「肌不良」の目視確認の有無を一律に判定することができないことは明らかである。
そうすると、たとえ、本件明細書の記載や本件出願の出願当時の技術常識等を参酌しても、判定対象となる偏光子について、「蛍光灯下において目視で観察したときに、活性エネルギー線硬化性接着剤の硬化収縮による表面凹凸を有する」ものであるのか否かを、明確に決定できないといわざるを得ないから、当該「蛍光灯下において目視で観察したときに、活性エネルギー線硬化性接着剤の硬化収縮による表面凹凸を有する」ことを発明特定事項とする本件発明は明確でないというほかない。

3 請求人は、平成30年4月23日付けで意見書を提出するとともに、物件提出書を提出し、同意見書2頁「3.意見」「(2)ご指摘イ.に対して」において、「偏光子における第1保護フィルムを有する側とは反対側の表面に表面凹凸が存在するか否かは、蛍光灯下で観察する場合、目視で容易に判別することができます。このことを、本意見書と同日付で提出する物件提出書を用いて説明致します。」、「物件提出書には、2つのカラー写真(画像)が示されています。いずれの写真も、偏光子の片側に保護フィルムを有する偏光板に対して、保護フィルム面に粘着剤層を形成し、当該粘着剤層を介して偏光板を黒色アクリル板に貼合した場合における偏光子の保護フィルムを有する側とは反対側の表面を蛍光灯下で観察した写真です。白く見える部分は、蛍光灯の映り込み像です。下の写真が上記表面に凹凸がないときの写真であり、上の写真が表面に凹凸が存在するときの写真です。」、「両写真から明らかなとおり、下の写真では、蛍光灯の映り込み像の輪郭がはっきりしている一方、上の写真では、輪郭がもやもやとしてぼやけていることがわかります。このような両者の違いは、目視観察者の人数や視力によらず容易に認識できると考えます。そして、蛍光灯の映り込み像から表面凹凸の有無を判断することは、裏面に黒色アクリル板を配置したうえで蛍光灯下で目視観察を行うことを開示している本願明細書[0123]の記載から当業者は把握することができ、蛍光灯下でのより具体的な目視確認手法は、当業者にとっての常識の範囲内である限り制限されるものではありません。」、「以上のとおり、目視観察を蛍光灯下で実施することを特定した補正後の本願発明について、ご指摘イ.はもはや当たらないと考えます。」と主張している。
物件提出書により提出されたカラー写真(画像)は次のとおりである。

(当合議体注:物件提出書の説明によれば、上側のカラー写真(画像)は、「偏光子における保護フィルムを有する側とは反対側の表面に凹凸が存在するときの写真(画像)」であり、下側のカラー写真(画像)は、「偏光子における保護フィルムを有する側とは反対側の表面に凹凸がないときの写真(画像)」である。)

4 仮に、請求人が主張するように、物件提出書により提出されたカラー写真画像(画像)により示された偏光子の表面における2つの状態に対して、「肌不良」の目視確認の有無の判定ができるとしても(要するに、一方の状態は「肌不良」が確認できないものであり、他方の状態は「肌不良」が確認されたものであると、誰しもが判定できるのだとしても)、判定対象となる偏光子の表面の状態には、前記カラー写真(画像)により示された偏光子の表面における2つの状態の中間の状態のものも存在することは明らかであって、このような中間の状態のものに対して「肌不良」の目視確認の有無を一律に判定することができないことは、前記2で述べたとおりである。
よって、請求人の主張は採用できない。

5 以上のとおりであって、本件発明は明確でないから、本件出願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

第5 当審拒絶理由1についての判断
1 引用例に記載された事項
(1) 引用例1
引用例1には以下の事項が記載されている(下線は、当合議体が付与した。以下、同様。)。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂からなる保護フィルム、または、ヨウ素または二色性染料が吸着配向された一軸延伸ポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光フィルムの片面に、紫外線硬化型接着剤を塗布して接着剤層を形成する工程と、
前記接着剤層を介して、前記保護フィルムと前記偏光フィルムとを貼合することにより積層フィルムを得る工程と、
前記積層フィルムに紫外線を照射する工程と、
を含む偏光板の製造方法であって、
前記紫外線を照射する工程より前に、前記保護フィルムまたは前記紫外線硬化型接着剤の少なくとも一方を加熱する工程をさらに備える偏光板の製造方法。
【請求項2】
・・・略・・・
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂は、アクリル系樹脂である請求項1?4のいずれかに記載の偏光板の製造方法。
【請求項6】
・・・略・・・
【請求項7】
請求項1?6のいずれかに記載の製造方法により得られる偏光板。」

イ 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光板の製造方法、当該製造方法により得られる偏光板、ならびに当該偏光
板を用いた液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置、有機EL表示装置、プラズマディスプレイパネル(PDP)等の画像表示装置などには、偏光フィルム、保護フィルム、位相差フィルム等の光学フィルムが用いられている。光学フィルムには、その用途によって様々な光学的特性や機械的強度、透明性、耐熱性、耐湿性等が要求される。特に近年、液晶ディスプレイの大型化に適した光学フィルムの開発、モバイル機器に用いられる薄型ディスプレイの大型化に適した光学フィルムの開発、モバイル機器に用いられる薄型光学フィルムの開発などが求められている。
【0003】
光学フィルムは、一種のフィルムが単独で使用される場合もあるが、他の光学フィルムと貼り合わせ、複合化して使用される場合が多い。この複合化のための他の光学フィルムとの貼合は、接着剤を用いて行なわれることが一般的である(特許文献1および2参照)。たとえば、液晶表示装置等の光学部材である偏光板は、通常、偏光フィルムの片面または両面に、接着剤を用いて保護フィルムを貼合することにより製造される。しかし、光学フィルムの種類または接着剤の種類によっては、接着剤を用いた貼合により十分な密着強度が得られず、剥がれ等の問題が生じる場合がある。
・・・略・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、偏光フィルムと保護フィルムとの密着性に優れた偏光板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、熱可塑性樹脂からなる保護フィルム、または、ヨウ素または二色性染料が吸着配向された一軸延伸ポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光フィルムの片面に、紫外線硬化型接着剤を塗布して接着剤層を形成する工程と、該接着剤層を介して、保護フィルムと偏光フィルムとを貼合することにより積層フィルムを得る工程と、該積層フィルムに紫外線を照射する工程とを含み、該紫外線を照射する工程より前に、保護フィルムまたは紫外線硬化型接着剤の少なくとも一方を加熱する工程をさらに備える偏光板の製造方法を提供する。
【0007】
・・・略・・・
【0010】
保護フィルムを構成する熱可塑性樹脂は、アクリル系樹脂であることが好ましい。
・・・略・・・
【0011】
また、本発明によれば、上記本発明の製造方法により得られる偏光板および当該偏光板を備える液晶表示装置が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、偏光フィルムと保護フィルムとの密着性に優れる偏光板を提供することができる。また、この偏光板と画像表示素子とを備える画像表示装置も提供することができる。本発明の偏光板は、液晶表示装置に好適に用いることができる。」

ウ 「【発明を実施するための形態】
【0013】
<偏光フィルムの製造方法>
本発明の偏光フィルムの製造方法は、下記工程を備えることを特徴とするものである。
(a)保護フィルムまたは偏光フィルムの片面に、紫外線硬化型接着剤を塗布して接着剤層を形成する工程(接着剤層形成工程)、
(b)接着剤層を介して、保護フィルムと偏光フィルムとを貼合することにより積層フィルムを得る工程(フィルム積層工程)、
(c)積層フィルムに紫外線を照射する工程(紫外線照射工程)、および、
(d)保護フィルムまたは紫外線硬化型接着剤の少なくとも一方を加熱する工程(加熱工程)。
【0014】
上記加熱工程(d)は、紫外線照射工程(c)より前のいずれかの段階で行なわれる。以下の各工程について詳細に説明する。
【0015】
(a)接着剤層形成工程
本工程は、保護フィルムまたは偏光フィルムの片面に、紫外線硬化型接着剤を塗布して接着剤層を形成する工程である。まず、本工程で用いる偏光フィルム、保護フィルムおよび紫外線硬化型接着剤について詳細に述べる。
【0016】
(偏光フィルム)
本発明に用いられる偏光フィルムは、具体的には、一軸延伸したポリビニルアルコール系樹脂フィルムに二色性色素を吸着配向させたものである。ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを構成するポリビニルアルコール系樹脂としては、ポリ酢酸ビニル系樹脂をケン化したものを用いることができる。
・・・略・・・
【0018】
このようなポリビニルアルコール系樹脂を製膜したものが、偏光フィルムの原反フィルムとして用いられる。ポリビニルアルコール系樹脂を製膜する方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の適宜の方法で製膜することができる。ポリビニルアルコール系樹脂からなる原反フィルムの膜厚は特に限定されるものではないが、たとえば10?150μm程度である。
【0019】
・・・略・・・
【0026】
こうして、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに、一軸延伸、二色性色素による染色、ホウ酸処理および水洗処理を施して、偏光フィルムが得られる。この偏光フィルムの厚みは、通常、5?40μmの範囲内である。本発明の製造方法においては、たとえば、以上のようにして得られる長尺状の偏光フィルムを巻き回してなるロール状偏光フィルムが用いられる。
【0027】
(保護フィルム)
本発明に用いられる保護フィルムは、偏光フィルムを物理的・化学的に保護するためのフィルムであり、熱可塑性樹脂からなるものである。保護フィルムを構成する熱可塑性樹脂としては、たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル等のオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ノルボルネン系樹脂等のシクロオレフィン系樹脂;ポリウレタン系樹脂;ポリアクリレート、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂;ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース(TAC)等のセルロース系樹脂などの透明高分子材料が挙げられる。
・・・略・・・
【0038】
保護フィルムの厚みは特に限定されないが、偏光板の薄型軽量化の観点から、20μm以上200μm以下程度であることが好ましく、30μm以上100μm以下であることがより好ましい。本発明の製造方法においては、たとえば、長尺状の保護フィルムを巻き回してなるロール状保護フィルムが用いられる。
【0039】
(紫外線硬化型接着剤)
保護フィルムまたは偏光フィルムの片面に接着剤層を形成するために用いられる接着剤は、紫外線硬化型接着剤である。紫外線硬化型接着剤を用いることにより、保護フィルムと偏光フィルムとを高い接着強度で接着することができる。
【0040】
紫外線硬化型接着剤としては、その硬化の様式により分類すると、ラジカル重合型接着剤、カチオン重合型接着剤などが挙げられ、接着剤成分の化学種により分類すると、アクリル樹脂系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤などが挙げられる。
・・・略・・・
【0041】
紫外線硬化型接着剤に含有されるエポキシ樹脂としては、耐候性、屈折率およびカチオン重合性などの観点から、分子内に芳香環を含まないエポキシ樹脂が好適に用いられる。分子内に芳香環を含まないエポキシ樹脂としては、水素化エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0042】
・・・略・・・
【0086】
紫外線硬化型接着剤は、保護フィルムと偏光フィルムとの接着に用いられる接着剤である。紫外線硬化型接着剤を塗布し、接着剤層を形成する面は、保護フィルムにおける偏光フィルムとの貼合面であってもよく、偏光フィルムにおける保護フィルムとの貼合面であってもよく、その双方であってもよい。好ましくは、保護フィルムの偏光フィルムとの貼合面に接着剤層が形成される。
・・・略・・・
【0087】
保護フィルムは、偏光フィルムの片面のみに貼合されてもよいし、偏光フィルムの両面に貼合されてもよい。偏光フィルムの両面に保護フィルムが積層される場合において、2つの接着剤層は、同じ紫外線硬化型接着剤であることが好ましい。
【0088】
また、偏光フィルムの片面のみに保護フィルムが積層される場合において、偏光フィルムにおける保護フィルムが貼合される面とは反対側の面に、光学補償フィルムを積層してもよい。偏光フィルムと光学補償フィルムとを貼合するための接着剤は、たとえば接着剤成分としてポリビニルアルコール系樹脂またはウレタン樹脂を含有する水系接着剤等の紫外線硬化型接着剤とは異種の接着剤であってもよいし、紫外線硬化型接着剤であってもよい。偏光フィルムと保護フィルムとの貼合に用いる紫外線硬化型接着剤と同じ接着剤を用いると、生産効率の向上および原材料種の削減を図ることができる。
【0089】
・・・略・・・
【0095】
(b)フィルム積層工程
本工程は、接着剤層を介して、保護フィルムと偏光フィルムとを貼合することにより積層フィルムを得る工程である。積層フィルムは、偏光フィルムの片面または両面に積層された保護フィルムを有していてもよい。あるいは、積層フィルムは、偏光フィルムの一方の面に積層された保護フィルムと、偏光フィルムの他方の面に積層された光学補償フィルムを有していてもよい。
【0096】
(c)紫外線照射工程
・・・略・・・
【0098】
紫外線照射による接着剤層の硬化は、偏光フィルムの偏光度、透過率および色相、ならびに保護フィルムおよび光学補償フィルムの透明性といった偏光板の諸機能が低下しない条件で行なうことが好ましい。硬化後の接着剤層の厚みは、通常50μm以下であり、好ましくは20μm以下、さらに好ましくは10μm以下である。
【0099】
(d)加熱工程
・・・略・・・
【0111】
本発明の偏光板は、上記本発明の製造方法により得られる偏光板であり、偏光フィルムの片面または両面に保護フィルムを備えるものである。」

エ 上記アより、請求項1に記載された偏光板の製造方法により得られた偏光板として、引用例1には、以下の発明が記載されているものと認められる(以下、「引用発明」という。)。

「熱可塑性樹脂からなる保護フィルム、または、ヨウ素または二色性染料が吸着配向された一軸延伸ポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光フィルムの片面に、紫外線硬化型接着剤を塗布して接着剤層を形成する工程と、
前記接着剤層を介して、前記保護フィルムと前記偏光フィルムとを貼合することにより積層フィルムを得る工程と、
前記積層フィルムに紫外線を照射する工程と、
を含む偏光板の製造方法であって、
前記紫外線を照射する工程より前に、前記保護フィルムまたは前記紫外線硬化型接着剤の少なくとも一方を加熱する工程をさらに備える偏光板の製造方法により得られた偏光板。」

(2) 引用例2
引用例2には以下の事項が記載されている
ア 「【0010】
すなわち本発明は、偏光子の少なくとも片面に透明保護フィルムを設けるために用いる偏光板用接着剤であって、
前記偏光板用接着剤は、ポリビニルアルコール系樹脂と、第1架橋剤であるメチロール基含有化合物及び第2架橋剤であるオキシジルコニウム塩を含有し、かつ
前記メチロール基含有化合物及びオキシジルコニウム塩は、それぞれポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対して10重量部未満の割合で配合されていることを特徴とする偏光板用接着剤、に関する。
【0011】
・・・略・・・
【0019】
また、第2架橋剤であるオキシジルコニウム塩は得られる接着剤層の屈折率を高くするが、本発明の偏光板用接着剤は、オキシジルコニウム塩の配合量を所定の範囲未満としており、得られる接着剤層の屈折率が高くなるのを抑えている。これにより、接着剤層の屈折率を偏光子や透明保護フィルムと屈折率により近く設計することができ、偏光子や透明保護フィルムとの各層間で光の界面反射が起こりにくくすることで、偏光特性等の光学特性を満足させることができる。」

イ 「【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の偏光板用接着剤は、ポリビニルアルコール系樹脂と、第1架橋剤であるメチロール基含有化合物及び第2架橋剤であるオキシジルコニウム塩を含有する。
【0021】
・・・略・・・
【0037】
前記接着剤層の屈折率は1.47?1.53であることが好ましい。前記範囲外の場合には、接着剤層の屈折率が低く又は高くなりすぎるため偏光子と接着剤層の間および透明保護フィルムと接着剤層の間の各層間で光の界面反射が起こりやすくなり、偏光板の偏光特性等の光学特性が低下する傾向にある。」

ウ 「【0062】
実施例及び比較例で得られた接着剤水溶液及び偏光板について下記評価を行った。結果を表1に示す。
【0063】
<接着剤層の屈折率>
調製した接着剤水溶液を、離型処理された透明フィルムの上にアプリケーターで塗布し、70℃で10分間乾燥して厚さ5μmの接着剤層を形成した。その後、接着剤層を前記透明フィルムから剥離し、当該接着剤層の屈折率をプリズムカプラー(Sairon Technology,Inc.、SPA-4000)を用いて測定した。
【0064】
・・・略・・・
【0066】
【表1】



2 対比
本件発明と引用発明とを対比する。
(1) 引用発明の「熱可塑性樹脂からなる保護フィルム」は、その機能・構成からみて、本件発明の「第1保護フィルム」に相当する。

(2) 引用発明の「ヨウ素または二色性染料が吸着配向された一軸延伸ポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光フィルム」は、その機能・構成からみて、本件発明の「偏光子」に相当する。

(3) 引用発明は、「偏光フィルムの片面に」「紫外線硬化型接着剤を塗布して」「形成」された「接着剤層を介して、前記保護フィルムと前記偏光フィルムとを貼合することにより積層フィルムを得」て、「積層フィルムに紫外線を照射する」方法によって得られた偏光板であるから、引用発明においては、「紫外線を照射する」ことにより、「接着材層」の「紫外線硬化型接着剤」に紫外線が照射されて、「紫外線硬化型接着剤」の硬化物からなる層が形成されることになる。
そうすると、引用発明は、「保護フィルム」、「紫外線硬化型接着剤」の硬化物からなる層、「偏光フィルム」がこの順で積層されたものであることは明らかである。

(4) 上記(3)の積層構造より、引用発明は、「偏光フィルム」と、その一方の面に「紫外線硬化型接着剤」の硬化物からなる層を介して積層される「保護フィルム」とを含んでいるということができる。
引用発明の「紫外線硬化型接着剤」は、本件発明の「活性エネルギー線硬化性接着剤」に対応する。また、引用発明の「紫外線硬化型接着剤の硬化物からなる層」は、本件発明の「活性エネルギー線硬化性接着剤の硬化物からなる」「層」及び「第1接着剤層」に対応する。
そうすると、上記(1)と(2)より、引用発明は、本件発明の「偏光子と、その一方の面に第1接着材層を介して積層される第1保護フィルムとを含み」という事項を備えているということができる。
また、引用発明は、本件発明の、「第1接着剤層」は「活性エネルギー線硬化性接着剤の硬化物からなる」「層」であるという事項、及び、「第1接着剤層」は「偏光子の前記一方の面に接して積層されており」という事項を備えているということができる。

(5) 上記(1)?(4)より、引用発明の「偏光板」は、本件発明の「偏光板」に相当する。

(6) 上記(1)?(5)より、本件発明と引用発明は、
「偏光子と、その一方の面に第1接着剤層を介して積層される第1保護フィルムとを含み、
第1接着剤層は、活性エネルギー線硬化性接着剤の硬化物からなり、かつ、偏光子の前記一方の面に接して積層されている、偏光板。」で一致し、以下の相違点で相違する。

(相違点1)
本件発明においては、「第1接着剤層」は、「屈折率1.49以上1.53以下の層であり」、「偏光子の屈折率と第1接着剤層の屈折率との差が、絶対値で0.07以下であ」るのに対して、
引用発明においては、接着剤層(第1接着材層)の屈折率が、1.49以上1.53以下であり、偏光フィルム(偏光子)の屈折率と接着剤層(第1接着剤層)の屈折率との差が、絶対値で0.07以下であるのかどうか明らかでない点。

(相違点2)
本件発明は、「偏光子における第1保護フィルムを有する側とは反対側の表面を、蛍光灯下において目視で観察したときに、活性エネルギー線硬化性接着剤の硬化収縮による表面凹凸を有する」のに対して、
引用発明は、このような構成となっているのかどうか明らかでない点。

3 相違点についての判断
(1) 相違点1について
ア 引用例2の段落【0019】,【0037】及び【0066】【表1】には、偏光板において、偏光子と保護フィルムとを接着するための接着剤層の屈折率を、偏光子の屈折率に近い値に設定することによって、偏光子と接着剤層との間の層間での光の界面反射を起こりにくくすることができ、偏光板の光学特性を向上することができることが記載されている。

イ 引用発明においては、偏光子としてポリビニルアルコール系偏光子を用いており、その屈折率は1.5程度であると考えられるところ(例えば、引用例7の段落【0038】、引用例8の段落[0152]及び引用例9の段落【0065】等参照。)、引用例2に記載された上記の技術的事項に基づいて、第1接着剤層の屈折率を偏光子の屈折率である1.5程度に設計して、偏光子と第1接着剤層の間の層間での光の界面反射が起こりにくくすることで、偏光板の光学特性を向上させることは、当業者であれば容易に想到できることである。なお、1.49以上1.53以下という第1接着剤層の屈折率の数値範囲や、0.07以下という第1接着剤層の屈折率と偏光子の屈折率との差の絶対値の数値範囲は、単なる数値範囲の最適化にすぎない。

ウ してみると、引用発明において、上記相違点1に係る本件発明の構成とすることは、引用例2に記載された事項に基づいて、当業者が容易になし得たことである。

(2) 相違点2について
ア 偏光子の製造過程において、偏光子の両側表面に微小な凹凸が生じてしまうことは避けられないことは技術常識であるから、引用発明の偏光板も、偏光子における第1保護フィルムを有する側とは反対側の表面に微小な凹凸が存在していることは明らかである。
ここで、当該微小な凹凸のサイズについては定かでないものの、前記第4 1ないし5で述べたように、相違点2に係る本件発明の「偏光子における第1保護フィルムを有する側とは反対側の表面を、蛍光灯下において目視で観察したときに、活性エネルギー線硬化性接着剤の硬化収縮による表面凹凸を有する」との発明特定事項は、当該発明特定事項を具備するものであるのか否かを明確に決定することのできない事項であるのだから、引用発明の偏光子における第1保護フィルムを有する側とは反対側の表面に存在する前記微小な凹凸については、前記発明特定事項に相当する構成と解するのが相当である。
したがって、上記相違点2は実質的な相違点ではない。

イ あるいは、次の理由から、引用発明を、上記相違点2に係る本件発明の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは、当業者が容易になし得たことともいえる。

すなわち、偏光板の技術分野において、その薄型化が求められ、そのために偏光子や保護フィルムの薄型化が求められていることは周知の技術的事項であるところ、引用例1の段落【0026】等には、偏光子の厚みは通常5?40μmの範囲内であることが記載されている。
そうすると、引用発明において、偏光子の厚みを、5μm程度と十分に薄いものとすることは、偏光板の薄型化のために偏光子や保護フィルムの薄型化を試みる当業者が容易になし得たことである。そして、このような偏光板は、本件明細書の段落【0045】の「近年、液晶表示装置をはじめとする画像表示装置及びこれを構成する偏光板に対しては著しい薄型化の要求があるが、この要求に答えるために偏光板を構成する偏光子や保護フィルムの厚みを小さくし、これに伴って偏光子や保護フィルムの剛性が低くなると、肌不良の問題がさらに顕在化する。」との記載や、本件明細書の段落【0122】に記載された偏光子の厚みが5.4μmであることを参酌すると、「偏光子における第1保護フィルムを有する側とは反対側の表面を、蛍光灯下において目視で観察したときに、活性エネルギー線硬化性接着剤の硬化収縮による表面凹凸を有する」構成を有していると強く推認される。
したがって、引用発明において、上記相違点2に係る本件発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

(3) 本件発明の作用・効果について
接着剤層の屈折率と偏光子の屈折率が近くなれば、界面、あるいは界面の凹凸による反射・散乱が少なくなることや界面あるいは界面の凹凸が視認されにくくなることは、当業者にとって明らかなことである。
また、本件発明の第1接着剤層の屈折率の具体的な範囲及び偏光子の屈折率と第1接着剤層の屈折率との差の絶対値の上限値を特定したことによる予測し得ない顕著・格別な作用効果も認められない。

(4) 小括
以上のとおりであるから、本件発明は、引用発明及び引用例2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 まとめ
以上のとおり、本件発明は、引用発明及び引用例2に記載された事項に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
また、本件出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-08-03 
結審通知日 2018-08-07 
審決日 2018-08-27 
出願番号 特願2015-534306(P2015-534306)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (G02B)
P 1 8・ 121- WZ (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤岡 善行  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 清水 康司
河原 正
発明の名称 偏光板  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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