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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F04D
管理番号 1345199
審判番号 不服2017-8111  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-06-06 
確定日 2018-10-11 
事件の表示 特願2015-126241「真空チャンバへの注気のための方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 1月18日出願公開、特開2016- 8612〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成27年6月24日(パリ条約に基づく優先権主張、2014年6月26日:ドイツ)を出願日とする出願であって、平成28年5月30日付で拒絶の理由が通知され(発送日:平成28年6月8日)、これに対し、平成28年10月31日付で意見書及び手続補正書が提出されたが、平成29年3月10日付で拒絶査定がなされ(発送日:平成29年3月15日)、これに対し、平成29年6月6日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正書(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)が提出され、平成29年8月10日に前置報告がなされ、平成29年11月1日付で上申書が提出されたものである。

2.本件補正
本件補正は、図面の簡単な説明の欄の明細書【0028】記載の「実践」を「実線」とするものであり、当該記載は図面のグラフについて説明するものであるから、誤記の訂正であり、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
したがって、本件補正は適法になされたものである。


3.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成28年10月31日付の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
真空ポンプ(12)に接続された真空チャンバ(14)への注気のための方法であって、前記真空チャンバ(14)への注気と同時に1つのロータ及び1つのステータを含む前記真空ポンプ(12)も注気される前記方法において、
注気が前記ポンプロータのそれぞれの遮断直後になされ、前記真空ポンプにおける圧力があらかじめ設定可能な限界値(pG)に到達するとすぐに、注気率がそれぞれの注気過程中に高められることを特徴とする方法。」


4.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概要は以下のとおりである。
「この出願の請求項1に係る発明は、その出願(本願の優先権主張の日)前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1:実願昭59-056406号(実開昭60-167192号)のマイクロフィルム
引用文献2:特開平04-232397号公報」


5.引用文献
これに対して、原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1には、図面とともに、以下の事項が記載されている。

a「真空容器に接続されたターボ分子ポンプと、該ターボ分子ポンプを駆動する駆動電源と、該真空容器に取付けられたコンダクタンス可変のリーク手段と、該リーク手段を駆動するバルブ駆動手段と、前記ターボ分子ポンプの回転速度に対応した信号を発生する信号発生手段と、該信号発生手段よりの信号と前記駆動電源への停止信号に基づいて、前記リーク手段のコンダクタンスを順次増大させるように前記バルブ駆動手段を制御する制御手段とを設けたことを特徴とするターボ分子ポンプを用いた排気系。」(実用新案登録請求の範囲)

b「この様な装置では、試料交換のために試料室をできるだけ短時間に大気圧にリークできることが要求される。そのため、試料室とTMPの間に仕切弁を設けると共に試料室及びTMPにリークバルブを設けて、該試料室をリークして試料交換を行なっている。この様な方式では、排気系が複雑化し高価になるため、従来の排気系では試料室とTMPの間に仕切弁を設けることなく接続して、試料室にリークバルブを設けてTMPも同時にリークして試料交換する形式のものが使用されている。」(明細書2頁3-13行)

c「ところで、TMPはその動作中は例えば60000rpmと高速で回転しているため、該TMPの電源をオフにしてもしばらくは高速で回転し続ける。一方、TMPの回転は数Torr位までリークすると急激に回転が低下し、回転が低下した後は大気を急激に導入しても問題はない。
しかし乍ら、TMPの電源がオフされた直後に試料室をリークしてTMPを急激に大気圧付近まで上昇させることは、TMPに負担がかり、TMPに使用されている軸受油を試料室内へ流出させると共にベアリング等の寿命を短くする。又、TMPは電源をオフにしても高速で回転しているため完全に回転が停止するまでは時間がかかり、該TMPの回転が完全に停止するまで試料室をリークしないとすると試料交換に非常に時間を要するという欠点があった。」(明細書2頁14行-3頁9行)

d「第1図は本考案の一実施例装置を示す構成図である。図において、1は真空に保たれる例えば走査電子顕微鏡の試料室であり、該試料室1にはTMP2が接続されている。3はTMP2に接続された油回転ポンプ(以下RPと略す)である。4はTMP2及びRP3を駆動するための駆動電源であり、該駆動電源4には該駆動電源4を介してTMP2の回転数を検出する回転検出手段5が接続されている。6は外部信号S及び回転検出手段5よりの信号により駆動電源4及びバルブ駆動回路7を制御する制御回路である。8はバルブ駆動回路7よりの信号によって試料室1及びTMP2を徐々にリークする第1リークバルブであり、該第1リークバルブ8は該バルブを開状態にしてもTMP2の軸受に過負荷がかからない程度のコンダクタンスにより形成されている。9は試料室を比較的急速にリークする第2リークバルブである。10は試料室1の圧力を検出する真空計である。
以上の様に構成された装置において、以下試料室1をリークする場合について説明する。先ず、制御回路6にストップ信号Sが入力されると、該制御回路6は駆動電源4を制御してTMP2に供給している電源をオフにする。このTMPの電源オフにより、それまで高速で回転していたTMPの回転は徐々に低下し、この回転数Mは逐次回転検出手段5により検出され、この信号は制御回路6に入力される。ところで、制御回路6には、予めTMPの回転数が低下した場合に、第1バルブ8を開状態にする回転数n及び第2バルブ9を開状態にする回転数Nが設定(又は記憶)されている。そのため、該TMPの回転数が徐々に低下し、該回転検出手段5で検出される回転数mと設定された回転数nが一致すると、制御回路6はバルブ駆動回路7を制御して第1リークバルブ8を開状態とする。第1リークバルブ8が開状態になると試料室1は徐々にリークされ圧力は徐々に上昇する。そして、試料室1の圧力が徐々に上昇すると、TMP2の回転数は圧力による制動効果のため更に回転数を低下させる。そして、試料室1内が0.1Torr?10Torr程度迄リークされると、TMP2の回転数は比較的急激に低下し、やがて第2バルブ9を開状態にする回転数Nと一致する回転数Mまで低下する。ここで、制御回路6はバルブ駆動回路7を制御して第2バルブ9を開状態にして試料室1を大気圧にリークする。そのため、TMPに負担をかけたり、TMPに使用されている軸受油を試料室内へ流出させることはなく、又従来装置の様にTMP2の回転が完全に停止するまで待つことなく試料室1を徐々にリークしてTMP2の回転数を低下させるため、TMPの回転は従来装置に比較して短時間で停止し試料交換に要する時間が大幅に短縮される。」(明細書4頁2行-6頁13行)

e「第2図は本考案の他の実施例を示す構成図であり、第1図の排気系では回転検出手段5よりの回転数によって第1リークバルブ及び第2リークバルブを開状態にしたが、TMPの回転を直接検出するのではなく、真空計10又はタイマー11よりのTMPの回転に対応した信号により夫々のリークバルブを開状態にしても良く」(明細書6頁14-20行)

f「以上の様に本考案は、真空容器をTMPにより排気する排気系において、該真空容器の大気圧までリークする時間を短縮させたTMPを用いた排気系を提供する。」(明細書7頁2-5行)

上記記載及び図面を参照すると、引用文献1には、TMPに接続された試料室をリークするための方法が示されている。
上記記載及び図面を参照すると、引用文献1に示された上記方法は、TMPと試料室の間に仕切弁を設けず試料室にリークバルブを設けてTMPも同時にリークして試料交換する形式のものが前提であるから、試料室のリークと同時にTMPもリークされ、且つ、ターボ分子ポンプは、当然、1つのロータ及び1つのステータを含んでいる。
上記記載及び図面を参照すると、TMPの電源をオフ後、TMPの回転数がnと一致すると第1リークバルブを開状態としており、TMPの回転数を直接検出するものでない真空計よりのTMPの回転に対応した信号でリークバルブを開状態にしても良いことも示されているから、引用文献1には、リークが、TMPの電源オフ後試料室の圧力がTMPの回転数がnに対応した圧力に一致すると第1リークバルブを開状態とすることが示されている。
上記記載及び図面を参照すると、第1リークバルブを開状態とした後、TMPの回転数がNと一致すると第2リークバルブを開状態としており、真空計よりのTMPの回転に対応した信号でリークバルブを開状態にしても良いことも示されているから、引用文献1には、試料室の圧力がTMPの回転数がnより小さいNに対応した圧力に一致すると、第1リークバルブより比較的急速にリークする第2リークバルブを開状態にすることが示されている。

上記記載事項からみて、引用文献1には、
「TMPに接続された試料室をリークするための方法であって、前記試料室のリークと同時に1つのロータ及び1つのステータを含む前記TMPもリークされる前記方法において、
前記TMPの電源オフ後前記試料室の圧力が前記TMPの回転数がnに対応した圧力に一致すると第1リークバルブを開状態とし、前記試料室の圧力が前記TMPの回転数がnより小さいNに対応した圧力に一致すると、第1リークバルブより比較的急速にリークする第2リークバルブを開状態にする方法。」との発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

同じく、原査定の拒絶の理由で引用された引用文献2には、図面とともに、以下の事項が記載されている。

g「ターボ分子ポンプは、その選択的なポンプ作用によって、油の蒸気を発生させずに済むポンプ方式を可能にしている。しかしながら、ターボ分子ポンプの運転を停止したときには、油の蒸気やその他の汚染物質が、低真空側から高真空側へ移動して、そこにかなりの量の汚染物質が蓄積するおそれがあり、蓄積した汚染物質は、ポンプを再始動したときに、初期汚染という重大な不都合を発生させることになる。特に油の飛沫等の汚染物質が存在していると、ポンプによる排気時間を著しく延長する必要が生じる。斯かる事態を防止するには、運転を停止した直後にターボ分子ポンプへ注気するようにすれば良い。これによって、ポンプ並びに排気容器の内面へ、注気した気体が吹き込まれるため、再始動後の排気時間を大幅に短縮することが可能となる。更には、この注気によって、ロータが回転運動を停止するまでの時間も短縮することができ、この回転運動を停止するまでの時間は、特に磁気ベアリングで支持したポンプの場合には摩擦が殆ど作用しないことから、重要な性能判断基準の1つとされるものである。
注気装置を備えたターボ分子ポンプは、西ドイツ特許公報第1809902号(DE PS 18 09 902)、並びに、定期刊行物「真空技術」(Vakuumtechnik)の第20巻(1971年)、第7号、第201頁以降に記載されている。」(【0003】-【0004】)


6.対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「TMP」、「試料室」、「リーク」、「電源オフ」は、それぞれ本願発明の「真空ポンプ」、「真空チャンバ」、「注気」、「遮断」に相当する。
引用発明の「TMPに接続された試料室をリークするための方法」は、本願発明の「真空ポンプに接続された真空チャンバへの注気のための方法」に相当する。
引用発明の「前記TMPの電源オフ後前記試料室の圧力が前記TMPの回転数がnに対応した圧力に一致すると第1リークバルブを開状態とし」と、本願発明の「注気が前記ポンプロータのそれぞれの遮断直後になされ」は、「注気が所定のタイミングになされ」の点で一致する。
引用発明は、上記したとおり、TMPと試料室の間の仕切弁を設けない形式のものを前提としているから、引用発明の「試料室の圧力」は、本願発明の「真空ポンプにおける圧力」は、少なくとも「真空ポンプにおける圧力と相関する圧力」である点で一致する。そうすると、引用発明の「前記試料室の圧力が前記TMPの回転数がnより小さいNに対応した圧力に一致すると、第1リークバルブより比較的急速にリークする第2リークバルブを開状態にする」と、本願発明の「前記真空ポンプにおける圧力があらかじめ設定可能な限界値(pG)に到達するとすぐに、注気率がそれぞれの注気過程中に高められる」は、「前記真空ポンプにおける圧力と相関する圧力が所定値に到達するとすぐに、注気率がそれぞれの注気過程中に高められる」点で一致する。

したがって、両者は、
「真空ポンプに接続された真空チャンバへの注気のための方法であって、前記真空チャンバへの注気と同時に1つのロータ及び1つのステータを含む前記真空ポンプも注気される前記方法において、
注気が所定のタイミングになされ、前記真空ポンプにおける圧力と相関する圧力が所定値に到達するとすぐに、注気率がそれぞれの注気過程中に高められる方法。」の点で一致し、以下の点で相違している。

〔相違点1〕
注気の所定のタイミングに関し、本願発明は、ポンプロータのそれぞれの遮断直後になされるのに対し、引用発明は、TMPの電源オフ後試料室の圧力を検出する真空計が示す圧力がTMPの回転数がnに対応した圧力で第1リークバルブによりなされる点。
〔相違点2〕
真空ポンプにおける圧力と相関する圧力の所定値に関し、本願発明は、真空ポンプにおける圧力と相関する圧力が真空ポンプにおける圧力自体であって、且つその値があらかじめ設定可能な限界値であるのに対し、引用発明は、真空ポンプにおける圧力と相関する圧力が試料室の圧力であって、その値がTMPの回転数がnより小さいNに対応した圧力である点。


7.判断
相違点1について
引用例1において、ターボ分子ポンプを用いた排気系では、試料室をできるだけ短時間に大気圧にリークできることが要求されており(b参照)、又、引用例2には、ターボ分子ポンプの注気において、初期汚染という重大な不都合を防止するには、運転を停止した直後にターボ分子ポンプへ注気するようにすれば良い旨(g参照)が示されている。更に、第1リークバルブは、該バルブを開状態にしてもTMPの軸受に過負荷がかからない程度のコンダクタンスにより形成されている(d参照)から、第1リークバルブをどのタイミングで開状態としてもTMPに過負荷はかかることはない。
そうであれば、引用発明において、注気のタイミングを、TMPの回転数がnに対応した圧力とすることに代えて、ポンプロータのそれぞれの遮断直後とすることにより、相違点1における本願発明の構成とすることは当業者が容易に考えられることと認められる。

相違点2について
引用発明は、上記したとおり、TMPと試料室の間の仕切弁を設けない形式のものを前提としているから、試料室の圧力はTMPの試料室側圧力と等しくなる。そして、本願請求項1には、「真空ポンプにおける圧力」と記載があるだけで真空ポンプのどの部分の圧力であるのか特定がないから、本願発明の「試料室の圧力」は、実質的に本願発明の「真空ポンプにおける圧力
」に相当する。
本願発明において、限界値は、まだ回転している遮断されたポンプロータへもはや少なくとも本質的に力が作用しないような値(【0021】)である。
引用発明において、真空計が示す圧力がTMPの回転数がnより小さいNに対応した圧力は、TMPの回転数がnに対応した圧力よりも高い圧力である。第1リークバルブは、該バルブを開状態にしてもTMPの軸受に過負荷がかからない程度のコンダクタンスにより形成され、又、第2リークバルブは開状態にすると、第1リークバルブより比較的急速にリークするが、試料室の圧力がTMPの回転数がnより小さいNに対応した圧力に一致した時点で開状態にするために、TMPに負担をかけたり、TMPに使用されている軸受油を試料室内へ流出させることはない(d参照)。また、引用例1には、従来の問題点として、「TMPの電源がオフされた直後に試料室をリークしてTMPを急激に大気圧付近まで上昇させることは、TMPに負担がかり、TMPに使用されている軸受油を試料室内へ流出させると共にベアリング等の寿命を短くする」(c参照)との記載がある。
そうすると、引用発明において、注気を行ってTMPを損傷させない、即ち本質的に力が作用しないようにするには、第2リークバルブを開状態にしたときの圧力がTMPを損傷させない状態になければならず、一方で上記したように、試料室をできるだけ短時間に大気圧にリークできることが要求されているから、TMPの回転数がnより小さいNに対応した圧力をあらかじめ設定可能な限界値とすることは当業者が適宜なし得ることと認められる。

そして、本願発明の作用効果も、引用発明及び引用文献2に記載された事項が奏する作用効果から当業者が予測できる範囲のものである。
したがって、本願発明は、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


8.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると、他の請求項を検討するまでもなく本願を拒絶すべきであるとした原査定は維持すべきである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-05-02 
結審通知日 2018-05-09 
審決日 2018-05-30 
出願番号 特願2015-126241(P2015-126241)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F04D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 冨永 達朗原田 愛子松浦 久夫  
特許庁審判長 久保 竜一
特許庁審判官 堀川 一郎
藤井 昇
発明の名称 真空チャンバへの注気のための方法及び装置  
代理人 江崎 光史  
代理人 中村 真介  
代理人 篠原 淳司  
代理人 鍛冶澤 實  
代理人 清田 栄章  

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