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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A23L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A23L
管理番号 1345203
審判番号 不服2017-11583  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-08-03 
確定日 2018-10-11 
事件の表示 特願2013-13481号「調味野菜の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年8月14日出願公開、特開2014-143937号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年1月28日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成28年10月24日付け:拒絶理由通知書
平成28年12月27日 :意見書及び手続補正書
平成29年 4月19日付け:拒絶査定
平成29年 8月 3日 :審判請求書及び手続補正書
平成29年12月18日 :上申書

第2 平成29年8月3日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成29年8月3日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正後の特許請求の範囲
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)。
「【請求項1】
生野菜に味付けするための調味液を準備するステップと、
前記生野菜が大気圧を基準として-0.101MPa以上-0.09MPa以下の減圧下又は前記大気圧を基準として1.0MPa以上100MPa以下の加圧下において前記調味液に浸漬された状態を20分よりも長く、かつ、40分以下の時間維持するステップと、
前記調味液から取り出した野菜を100℃?200℃の過熱水蒸気を用いて5分よりも長く、かつ、40分以下の時間で加熱するステップと、
を備え、
前記過熱水蒸気により加熱された野菜の硬度が、56dyn/cm^(2)以上69dyn/cm^(2)以下である、調味野菜の製造方法。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の平成28年12月27日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1は次のとおりである。
「【請求項1】
生野菜、及び前記生野菜に味付けするための調味液を準備するステップと、
前記生野菜が大気圧を基準として-0.101MPa以上-0.09MPa以下の減圧下又は前記大気圧を基準として1.0MPa以上100MPa以下の加圧下において前記調味液に浸漬された状態を20分よりも長く、かつ、40分以下の時間維持するステップと、
前記調味液から取り出した野菜を100℃?200℃の過熱水蒸気を用いて5分よりも長く、かつ、40分以下の時間で加熱するステップと、
を備える、調味野菜の製造方法。」

2 本件補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「野菜」について、「過熱水蒸気により加熱された野菜の硬度が、56dyn/cm^(2)以上69dyn/cm^(2)以下である」という事項を付加して限定するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が、同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された特開2008-295337号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている(「・・・」は記載の省略を意味する。)。
「【0020】
本発明の調理方法は、過熱水蒸気の特性(焼成、脱脂、減塩、殺菌、乾燥)を利用した加熱処理に緩慢冷却処理を併せて施すことにより、食品の調理のみならず、過熱水蒸気の特性を長時間維持した状態で、保存性が良好で、歩留まりが向上し、調理後の食味や食感に優れた食品を効率良く調理する方法を提供することを目的とするものである。
【0021】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意研究した結果、過熱水蒸気の加熱処理に加えて、緩慢冷却することにより、過熱水蒸気の特性を長時間維持した状態で、保存性が良好で、歩留まりが向上し、調理後の優れた食味や食感が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。」
「【0025】
本発明で用いる食品は、5訂増補 日本食品標準成分表で分類されている(1)穀類、(2)芋及びでん粉類、(3)豆類、(4)種実類、(5)野菜類、(6)果実類、(7)きのこ類、(8)魚介類、(9)肉類、(10)卵類、(11)乳類、(12)調味料及び香辛料類、(13)調理加工食品類から選ばれる。」
「【0044】
(実施例1)
(食材の選別工程)
キャベツの選別、鮮度をチェックした後、キャベツの可食分と不可食分を選別する。
・・・
【0049】
(並べる工程)
キャベツを調味液に浸漬させない場合は、通常使用される加熱工程用ステンレス製トレイに、キャベツを調味液に浸漬させる場合は、深いトレイにキャベツを並べる。
【0050】
(調味工程)
キャベツを塩、胡椒、スパイス等で調味する。(調味液に浸漬し、浸透させる場合は、調味液を必要な味に仕上げたもの(和風、洋風、中華味等)を使用する。食材を深いトレイに浸漬した後、加熱工程を施し、そのまま緩慢冷却を施す。そして、食材と調味液と共にパック詰めするか、又は加熱食材のみをパック詰めする。
【0051】
(加熱工程)
加熱工程において、蒸気圧0.055MPa、蒸気流量12.5?17kg/5?7分、ファンダンバー開度上下各50%、過熱水蒸気の加熱温度を130℃、加熱時間を3分間に設定された調理機(アサヒ装設(株)製ハイコック ディブクッキングシステム)内にカットしたキャベツ1kgを投入し、加熱した。キャベツを過熱水蒸気の加熱温度100?170℃、加熱時間1?4分間に設定された調理機で加熱することにより、調理機内は、低酸素状態になり、キャベツの加熱による酸化が抑制された。したがって、キャベツの変色、旨味成分、香り等の流出を防ぐことができた。好ましくは、過熱水蒸気の加熱温度は、100?170℃、加熱時間は、1?4分間にすることが望ましい。過熱水蒸気の加熱温度が100℃未満の加熱では、旨味、色、水分等が得られない。また、170℃を超えて加熱した場合には、乾き、焦げができてしまう。」

(イ)上記記載から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「キャベツに調味するために調味液を準備する工程と、
キャベツを調味液に浸漬する工程と、
調理機内にキャベツを投入し、キャベツを過熱水蒸気の加熱温度100?170℃、加熱時間1?4分間に設定された調理機で加熱する加熱工程を備えた調理方法。」

イ 引用文献2(当審注:査定時の引用文献3)
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された特開平2-84131号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
「2.特許請求の範囲
生野菜あるいは塩漬野菜等を減圧下に置き、これに減圧状態のまま調味液を加えた後、炭酸ガスあるいは窒素ガス等不活性ガスで復圧し、密封のまま攪拌操作を行なうことを特徴とする漬物類の調味方法。」
「あらかじめ原料野菜を十分洗浄あるいは脱塩し、場合によってはオゾン水や次亜塩素酸ソーダ含有水で減殺菌を行なった後、刻み漬類であれば圧搾の後に耐減圧性容器に投入する。次に、原料の性状によって処理条件は多少異なるものの、おおよそ60Torr以下の減圧で10分間位保ち、野菜組織中の気体の除去を行う。この操作によって調味液の浸透が促進される。この時、調味液はあらかじめ野菜と共に容器に入れて置いても良いが、大量処理の場合は野菜だけを先ず入れ、減圧操作の終わりに、減圧しながら差圧を利用して調味液の適量を注入する。」(2頁右上欄1?12行)
(イ)上記記載を整理すると、引用文献2には次の事項が記載されていると認められる。
a 生野菜を調味液と共に容器に入れ、おおよそ60Torr(当審注:約0.008MPa)以下の減圧で10分間位保つ調味方法。

ウ 引用文献3(当審注:査定時の引用文献4)
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された特開2003-174850号公報(以下、「引用文献3」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】食品を、減圧処理した後または減圧状態で、液体成分と接触させて、食品中に液体成分を含浸させることを特徴とする食品の含浸処理方法。
【請求項2】含浸を、食品を減圧処理し、減圧状態に保ちながら液体成分と接触し、次いで昇圧して行う、請求項1に記載の食品の含浸処理方法。
【請求項3】含浸を、食品を液体成分と接触し、減圧処理し、次いで昇圧して行う、請求項1に記載の食品の含浸処理方法。
・・・
【請求項7】減圧処理または減圧状態の圧力が、10?50,000Paである、請求項1?6のいずれかに記載の食品の含浸処理方法。」
「【0007】本発明者は、このような状況に鑑みて鋭意研究したところ、食品を減圧処理し、液体または気体と接触させることにより、食品の組織内部に液体または気体を短時間で好適に含浸し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。」
「【0022】減圧処理および減圧状態における圧力条件は、大気圧よりも低い圧力であればよく、減圧状態では、減圧処理による減圧度をできるだけ保持した圧力条件であるのが好ましく、通常10?50,000Pa、好ましくは100?10,000Pa、特に好ましくは、含浸する液体成分が水または水溶液の場合で1,000?10,000Pa、含浸する液体成分が油または油溶液の場合で100?5,000Pa程度の圧力条件であるのが望ましい。
【0023】このようにして減圧処理した食品を、減圧状態に保ちながら液体成分と接触した後、減圧装置内の圧力を昇圧することによって、液体成分が食品中に含浸される。昇圧は、液体成分と接触した食品の雰囲気圧力が、通常10,000Pa?1.1MPa、好ましくは0.1MPa(大気圧)?0.9MPa程度の圧力まで上昇する条件で行うのが望ましい。 」
「【0043】
【発明の効果】本発明によれば、簡素な方法により、食品に液体成分あるいは気体成分を短時間で含浸することができる。また、加熱あるいは冷却をせずに常温で含浸処理することもできるため、食品の食感、形状、硬度などを損なわずに含浸処理を施すことができる。さらに本発明によれば、漬物や煮物用の食材の味付けを、高速で行うことができ、工業規模での食品加工に有効な食品の含浸処理方法を提供することができる。」
「【0056】
【実施例4】約1mm厚さで皮をむき、輪切り状および扇型状に切断し、表2に示す形状に切断した生大根をそれぞれ試料とした。4リットルのガラスビーカーの底にポリ網を置き、各試料を入れて実施例1で用いたのと同じ真空-加圧含浸タンク内に設置した。
【0057】次いで真空引き(ドライバキューム)を行い、真空-加圧含浸タンク内を1000Paまで減圧した後、10分間真空引きを継続した。続いて、ビーカー内の各資料が完全に浸漬されるまで、キムチ浅漬けの素(販売者:エバラ食品工業株式会社)または、つゆ((株)ミツカンT製、煮物用)原液1に対して水5の割合で混合した希釈つゆを注入し、さらに真空引き(ウェットバキューム)を10分間行った。なお、用いたキムチ浅漬けの素は、調味料溶液に細砕状の唐辛子などが懸濁されたものであった。
【0058】その後、真空-加圧含浸タンク内をエアパージし、続いて圧搾空気を導入してタンク内を加圧して、0.6MPaで10分間保持した後エアパージした。試料をビーカーから取り出し、表面に付着した浅漬けの素または希釈つゆをスクレーパーで除去して各生大根試料の含浸物を得た。」
「【0061】
【実施例5】表3に示す重量の生卵(殻が白色の鶏卵)を試料とし、2000mlのガラスビーカー内に入れ、上に重しとして金属網を載せて、このビーカーを実施例1で用いたのと同じ真空-加圧含浸タンク内に設置した。次いで真空引き(ドライバキューム)を行い、真空-加圧含浸タンク内を1300Paまで減圧した後、10分間真空引きを継続した。
【0062】続いて試料が完全に浸漬されるまでビーカー内に醤油(希釈なし、キッコーマン(株)製、キッコーマンしょう油)を注入し、さらに真空引き(ウェットバキューム)を10分間行った。その後、真空-加圧含浸タンク内をエアパージし、続いて圧搾空気を導入してタンク内を加圧して、0.6MPaで10分間保持した後エアパージした。」
「【0067】
【実施例7】実施例5において、生卵を用いる代わりに、皮をむいた生ジャガイモを試料としたことの他は、実施例5と同様にして醤油の含浸処理を行い、醤油含浸生ジャガイモを得た。得られた醤油含浸生ジャガイモは、表面が醤油の含浸によりコーヒー色を呈しており、これを切断して観察したところ、図3に示すように、断面全体がコーヒー色を呈し、中心部までほぼ均一に醤油が含浸されていることが確認された。また、これを試食したところ、内部まで醤油の風味を有することが確認された。」

(イ)上記記載を整理すると、引用文献3には次の事項が記載されていると認められる。
a 減圧に係る圧力範囲(【請求項1】ないし【請求項3】及び【請求項7】)について
食品を減圧状態で液体成分と接触させ、減圧状態の圧力を10?50,000Paとする食品の含浸処理方法。

b 実施例4(【0056】ないし【0058】)について
生大根を真空-加圧含浸タンク内に設置し、1000Paまで減圧し、10分間真空引きを継続し、続いて、キムチ浅漬けの素または希釈つゆを注入し、さらに真空引きを10分間行い、その後、タンク内を加圧して、0.6MPaで10分間保持する食品の含浸処理方法。

c 実施例7(【0061】、【0062】及び【0067】)について
生ジャガイモを真空-加圧含浸タンク内に設置し、1300Paまで減圧し、10分間真空引きを継続し、続いて、醤油を注入し、さらに真空引きを10分間行い、その後、タンク内を加圧して、0.6MPaで10分間保持する食品の含浸処理方法。

エ 引用文献4(当審注:査定時の引用文献5)
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された特開平6-30693号公報(以下、「引用文献4」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 産地畑から採取した生大根を、耐圧容器に入れて任意濃度の塩水に浸漬させると共に、該耐圧容器内を加圧して所要時間保持し、生大根へ塩分を滲透させて塩処理大根になし、該塩処理大根を沢庵となすことを特徴とする沢庵の製造方法。
【請求項2】 加圧保持前または加圧保持後に、耐圧容器内を大気圧より減圧して所要時間保持する請求項1の沢庵の製造方法。」
「【0009】詳しくは、以上の本発明の沢庵の製造方法と野菜漬の製造方法における塩水浸漬加圧処理は、生大根・生野菜の脱水をできるだけ抑止して塩分を滲透させ、その生大根・生野菜を塩処理にするのが目的であり、その目的を達し得る範囲内での「圧力・加圧時間・塩分濃度」の組合せ処理条件が採択される。即ち、この塩処理条件は「圧力・加圧保持時間・塩分濃度」の3要件が相関するので、対象となる生大根等のサイズ・形状(自然の形状か縦半割か、或は輪切りしたか、短冊カットしたかの形状)と、対象物および滲透させる塩分濃度を考量して、「概ね8気圧以内の圧力条件と、概ね15分?180分の加圧保持時間と、概ね5%?飽和塩水の濃度」の範囲内において、個々の処理ごとに組合せ採択される。
【0010】そして、以上の加圧処理の態様として、加圧処理の前・後に、マイナス1.0?0.5気圧程度の減圧処理を施して、塩分滲透の一般の促進を図ると共に、生大根中の空気を脱気させたり、加圧容器内の塩水に調味料を添加して、塩分滲透と同時に調味料を滲透させ、後工程の調味処理を省略したり、或は、生大根への塩分滲透を効率化させるために、生大根の表面に任意深さの針孔(釘または細棒をさして抜いた後に生ずる小孔)を密に形成したり、生大根を「縦半割りカット・輪切りカット・短冊カット」して形状の小形化と表面積の拡大を図ることがある。」
「【0015】つぎに、本発明の沢庵の製造方法の他の実施例として、前記の針孔を設けた生大根を圧力容器に入れて25%濃度の塩水に浸漬し、5気圧加圧30分の後、マイナス0.6気圧の減圧20分の加圧減圧処理を2回反復した結果、前記第一実施例と概ね同一の性状を有し、かつ、脱気した大根生地の塩処理大根が生成された。この加圧減圧処理をなすと、減圧による脱気によって大根が「しなやか」になり、従来の塩押し大根と類似した性状を呈すると共に、加圧減圧の反復によって塩分滲透が一段と促進できる。」
(イ)上記記載を整理すると、引用文献4には次の事項が記載されていると認められる。
a 加圧処理及び減圧処理に係る圧力範囲及び処理時間について
塩水浸漬加圧処理については、生大根等のサイズ・形状と、対象物および滲透させる塩分濃度を考量して、「概ね8気圧以内の圧力条件と、概ね15分?180分の加圧保持時間と、概ね5%?飽和塩水の濃度」の範囲とし、加圧処理の前・後に、マイナス1.0?0.5気圧程度の減圧処理を施す。

b 実施例について
生大根を圧力容器に入れて25%濃度の塩水に浸漬し、5気圧加圧30分の後、マイナス0.6気圧の減圧20分の加圧減圧処理を2回反復する。

(3)対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
本件補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「キャベツに調味するために調味液を準備する工程」は、その技術的意義からみて、本件補正発明の「生野菜に味付けするための調味液を準備するステップ」に相当し、以下同様に、「調理機内にキャベツを投入し、キャベツを過熱水蒸気の加熱温度100?170℃」「に設定された調理機で加熱する加熱工程」は「調味液から取り出した野菜を100℃?200℃の過熱水蒸気を用いて」「加熱するステップ」に、「調理方法」は「調味野菜の製造方法」に、それぞれ相当する。
そして、引用発明の「キャベツを調味液に浸漬する工程」と、本件補正発明の「前記生野菜が大気圧を基準として-0.101MPa以上-0.09MPa以下の減圧下又は前記大気圧を基準として1.0MPa以上100MPa以下の加圧下において前記調味液に浸漬された状態を20分よりも長く、かつ、40分以下の時間維持するステップ」とは、生野菜を調味液に浸漬するステップであることで技術が共通する。
イ 以上から、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
[一致点]
「生野菜に味付けするための調味液を準備するステップと、
生野菜を調味液に浸漬するステップと、
調味液から取り出した野菜を100℃?200℃の過熱水蒸気を用いて加熱するステップと、
を備えた調味野菜の製造方法。」
[相違点1]
生野菜を調味液に浸漬するステップについて、本件補正発明においては、「前記生野菜が大気圧を基準として-0.101MPa以上-0.09MPa以下の減圧下又は前記大気圧を基準として1.0MPa以上100MPa以下の加圧下において前記調味液に浸漬された状態を20分よりも長く、かつ、40分以下の時間維持するステップ」であるのに対し、引用発明においては、浸漬に係る圧力及び時間が不明である点。
[相違点2]
加熱水蒸気による加熱のステップにおける加熱時間について、本件補正発明では、「5分よりも長く、かつ、40分以下の時間」であるのに対し、引用発明では、「1?4分間」である点。
[相違点3]
過熱水蒸気により加熱された野菜について、本件補正発明においては、「野菜の硬度が、56dyn/cm^(2)以上69dyn/cm^(2)以下である」のに対し、引用発明は、野菜の硬度が不明である点。

(4)判断
以下、相違点について検討する。
ア 相違点1について
野菜を調味液に浸漬する際に、減圧下及び/又は加圧下において調味液に浸漬された状態を適宜所定時間維持して野菜に調味液の浸漬を促進させることは周知技術である(引用文献2ないし4参照。以下、「周知技術」という。)。
そして、引用発明のキャベツを他の野菜に変更することは、引用文献1に示唆されているといえ、調味液の浸透を促進させることは、引用発明においても当然に採用し検討し得る技術課題であるから、引用発明のキャベツを調味液に浸漬するステップにおいて、上記周知技術を採用し、キャベツにおける適宜設定を含め他の野菜に応じた浸漬時間並びに減圧及び加圧に係る圧力範囲を適宜設定することは、当業者が容易に想到し得るものである。
特に、本件補正発明の「大気圧を基準として-0.101MPa以上-0.09MPa以下の減圧下」(当審注:0MPa以上0.011MPa以下の減圧下)は、引用文献2ないし4に記載される圧力から理解できるとおり、当業者が通常採用し得る範囲の圧力であるから、本件補正発明の減圧に係る圧力範囲設定に技術的に格別のものはない。
したがって、相違点1に係る本件補正発明の構成は、引用発明及び周知技術に基づき、当業者が容易に想到し得たものである。

イ 相違点2について
引用文献1には、キャベツの品質確認工程において、キャベツの形、色、味などに加えて、硬さについての品質を確認することが記載されている(【0055】)。そして、加熱時間を長くすることによりキャベツは硬さが変化して柔らかくなるものであり、野菜の硬さは食味にも関係する品質項目であるところ、他の品質項目との優先関係を適宜考慮して、硬さの品質項目については柔らかめを選択し「1?4分間」以上の5分よりも長い時間を設定して調理・製造することは、当業者が容易になし得る設計事項である。
また、本件補正発明が特定する食材は「生野菜」であるところ、キャベツ以外の他の野菜(ジャガイモ等を含む)に応じて、加熱時間や仕上がりの硬さなどの各項目を適宜設定することは、当業者が容易になし得る設計事項である。
したがって、相違点2に係る本件補正発明の構成は、引用発明に基づき、当業者が容易に想到し得たものである。

ウ 相違点3について
上記イでも述べたとおり、引用文献1には、硬さについての品質を確認することが記載されている(【0055】)。
そうすると、引用発明において、野菜の硬さの程度や度合い、すなわち硬度について、適宜値を設定し、その設定値内の調理・製造とすることは、当業者が容易になし得る設計事項である。
したがって、相違点3に係る本件補正発明の構成は、引用発明に基づき、当業者が容易に想到し得たものである。

エ そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものに過ぎず、格別顕著なものということはできない。

オ したがって、本件補正発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法17条の2第6項で準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成29年8月3日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成28年12月27日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1ないし4及びその記載事項は、上記第2[理由]2(2)に記載のとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、上記第2[理由]2で検討した本件補正発明から、上記第2[理由]2に記載した限定する事項を省くことに加え、本件補正発明においては「生野菜に味付けするための調味液を準備するステップ」という記載が、本願発明では「生野菜、及び前記生野菜に味付けするための調味液を準備するステップ」と記載されており、本願発明は「生野菜」を準備するという自明のステップが追加されるものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を実質的に全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、上記第2の[理由]2(3)及び(4)に記載したとおり、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-08-06 
結審通知日 2018-08-07 
審決日 2018-08-21 
出願番号 特願2013-13481(P2013-13481)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A23L)
P 1 8・ 121- Z (A23L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 濱田 光浩北村 悠美子  
特許庁審判長 山崎 勝司
特許庁審判官 紀本 孝
藤原 直欣
発明の名称 調味野菜の製造方法  
代理人 坂根 剛  

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