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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12N
管理番号 1345286
審判番号 不服2017-609  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-01-16 
確定日 2018-10-15 
事件の表示 特願2015-503768「突然変異アセトヒドロキシ酸合成酵素タンパク質のラージサブユニットをコードする突然変異ポリヌクレオチドを有し、除草剤耐性が増大したソルガム植物」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月10日国際公開、WO2013/149674、平成27年 4月30日国内公表、特表2015-512640〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯、本願発明
本願は、平成24年4月5日を国際出願日とする出願であって、平成29年1月16日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同年10月20日付けで当審より拒絶理由が通知され、これに対して平成30年4月24日に意見書および同日付の手続補正書が提出されたものである。
本願の請求項1?16に係る発明は、平成30年4月24日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?16に記載の事項により特定されるものであり、そのうち、請求項13に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものと認める。

「【請求項13】
イミダゾリノン群中の、有効量の除草剤を雑草およびソルガム植物に施用するステップを含む、ソルガム植物のごく近くにある雑草を防除する方法であって、前記ソルガム植物が、
a)ソルガムAHASタンパク質の位置93にアラニンからトレオニンへの置換である単一の変異を有するポリペプチドをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドをそのゲノム中に含むソルガム植物であって、野生型ソルガム植物と比較して前記イミダゾリノン除草剤群中の1つまたは複数の除草剤に対する耐性が増大した前記植物であって、コードされる前記ポリペプチドが配列番号2を含む、植物、
b)受託番号NCIMB41870の下でNCIMBコレクションに寄託されたAHAS遺伝子中に突然変異を含むソルガム植物、
c)受託番号NCIMB41870の下でNCIMBコレクションに寄託された植物が示す耐性と同じ、イミダゾリノン除草剤群中の1つまたは複数の除草剤に対する増大した耐性形質を含むソルガム植物、
d)ソルガム植物a)?c)の植物、子孫、誘導体または突然変異体
からなる群から選択される、方法。」


第2 平成29年10月20日付けの当審拒絶理由
当審拒絶理由は、この出願の請求項に係る発明は、引用例1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。


第3 当審の判断
1.引用例、引用発明
(1)当審拒絶理由で引用例1として示された特表2010-523123号公報には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審が付したものである。以下も同様である。
(1-1)「【請求項1】
次のポリペプチドからなる群より選択されるアセトヒドロキシ酸合成酵素大サブユニット(AHAS)二重変異体ポリペプチドをコードする、単離されたポリヌクレオチド:
a)配列番号1の122位もしくは配列番号2の90位に対応する位置においてバリン、トレオニン、グルタミン、システインまたはメチオニンおよび配列番号1の653位もしくは配列番号2の621位に対応する位置においてフェニルアラニン、アスパラギン、トレオニン、グリシン、バリンまたはトリプトファンを有するポリペプチド;
・・・・
【請求項5】
請求項1に記載の単離されたポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
・・・・
【請求項7】
請求項5に記載の発現ベクターを含むトランスジェニック植物。
・・・・
【請求項10】
植物がシロイヌナズナ、トウモロコシ、コムギ、ライムギ、オートムギ、ライコムギ、イネ、オオムギ、モロコシ、雑穀、サトウキビ、ダイズ、サトウダイコン、ピーナッツ、ワタ、アブラナ、キャノーラ、アブラナ属、トロアオイ、コショウ、ヒマワリ、マリーゴールド、ナス科植物、ジャガイモ、タバコ、ナス、トマト、ソラマメ属、エンドウマメ、アルファルファ、コーヒー、カカオ、チャ、ヤナギ属、オイルパーム、ココナッツ、多年生イネ科植物および飼料植物からなる群より選択される、請求項7に記載のトランスジェニック植物。
【請求項11】
種子が前記単離されたポリヌクレオチドを含む、請求項7に記載のトランスジェニック植物により作製された植物種子。
・・・・
【請求項36】
作物植物の周辺の雑草を防除する方法であって、
i)請求項11、18、29、および35のいずれか1項の種子;または請求項7?10、14?17、19、25?28、および31?34のいずれか1項の植物により作製された種子を圃場に植え付けるステップ;および
ii)イミダゾリノン系除草剤、スルホニルウレア系除草剤、またはそれらの混合物の有効量を、圃場の雑草および作物植物に施用して雑草を防除するステップを含んでなる前記方法。」(特許請求の範囲)

(1-2) 「【0011】
除草剤に対する耐性または抵抗性を与える、いくつものAHAS大サブユニットにおける単一突然変異が公知である(Dugglebyら (2000) Journal of Biochem and Mol. Bio. 33:1-36; Janderら (2003) Plant Physiology 131:139-146)。例えば、シロイヌナズナAHASLの122位におけるアラニンのバリンへの置換(またはオオモミ(キク科植物)AHASLの対応する100位におけるアラニンのトレオニンへの置換)はイミダゾリノンおよびスルホニルウレアに対する耐性を与える。」

(1-3)「【0028】
・・・・
【図3ー1】シロイヌナズナ(Arabidopsis)AHAS大サブユニットタンパク質(AtAHASL、配列番号1)と本発明の二重および三重突然変異を行うことができる次の多数の種のAHAS大サブユニットタンパク質との対応位置のアラインメントであり、配列番号1の置換位置に対応する置換位置を示す:Amaranthus sp.(AsAHASL 配列番号9)、Brassica napus(BnAHASL1A 配列番号3、BnAHASL1C 配列番号10、BnAHASL2A 配列番号11)、Camelina microcarpa(CmAHASL1 配列番号12、CmAHASL2 配列番号13)、Solanum tuberosum(StAHASL1 配列番号16、StAHASL2 配列番号17)、Oryza sativa(OsAHASL 配列番号4)、Lolium multiflorum(LmAHASL 配列番号20)、Solanum ptychanthum(SpAHASL 配列番号14)、Sorghum bicolor(SbAHASL 配列番号15)、Glycine max(GmAHASL 配列番号18)、Helianthus annuus(HaAHASL1 配列番号5、HaAHASL2 配列番号6、HaAHASL3 配列番号7)、Triticum aestivum(TaAHASL1A 配列番号21、TaAHASL1B 配列番号22、TaAHASL1D 配列番号23)、Xanthium sp.(XsAHASL 配列番号19)、Zea mays(ZmAHASL1 配列番号8、ZmAHASL2 配列番号2)、Gossypium hirsutum(GhAHASA5 配列番号24、GhAHASA19 配列番号25)、およびE.coli(ilvB 配列番号26、ilvG 配列番号27、ilvI 配列番号28)。」

(1-4)「【0171】
ベクターAP1(図5)は植物形質転換ベクターであり、単一S653N突然変異を伴うAtAHASL遺伝子(配列番号34)を含む。配列番号34に示したDNA断片をAP1中に逆相補配向でクローニングした。ベクターAP2?AP7は、AP1とAEプラスミドから標準のクローニング手順を用いて作製し、表1に示した突然変異だけが異なる。クローニングの便宜のために、AP2?AP5と比較して異なる断片を用いてAP6とAP7を作製した。従って、AP6とAP7はAP1?AP5より47塩基対だけ短い。この相異はプラスミド骨格にあるのであって、Arabidopsis thalianaゲノム断片には存在しない。」

(1-5)「【0187】
(実施例5)
植物形質転換
APベクターをシロイヌナズナ(A. thaliana)生態型Col-2中に形質転換した。T1種子を、100nM Persuit(登録商標)を選択剤として用いてプレート上で形質転換について選択した。ほぼ20の独立した形質転換事象(系統)から得たT2種子を、増加するPersuit濃度のMS寒天上にプレーティングし、AP1と比較して耐性増加のスコアを求めた。可視検査により実生の無阻害生長を有するPursuit(登録商標)の最高濃度の比較により、ベクターのスコアを求めた。シロイヌナズナ形質転換実験の結果を表1に示した。
・・・・
【0189】
ZP構築物をトウモロコシ未成熟胚中にアグロバクテリウムが介在する形質転換を経由して導入した。形質転換された細胞を、0.75μM Pursuit(登録商標)を補充した選択培地で3?4週間選択した。トランスジェニック小植物を、0.75μM Pursuit(登録商標)を補充した植物再生培地で再生した。トランスジェニック小植物は、0.5μM Pursuit(登録商標)の存在のもとで根付いた。トランスジェニック植物をトランスジーンの存在についてTaqMan 分析にかけた後に、鉢植え混合物に移植し、温室で成熟まで生長させた。トウモロコシ形質転換実験の結果を表2に示した。ZP構築物で形質転換したトウモロコシ植物に様々な施用率のイマザモックスを、いくつかの野外立地においておよび温室内でスプレーした。ZP構築物の全植物試験データの相対評価を表2に総括した。

(1-6)「表1



(1-7)「表2



(2)引用例2
当審拒絶理由で引用例2として示された特表2010-523103号公報には、以下の事項が記載されている。
(2-1)「【請求項1】
除草剤抵抗性のAHASLポリペプチドをコードするアセトヒドロキシ酸シンターゼ大サブユニット(AHASL)ポリヌクレオチドの少なくとも1つのコピーをそのゲノム中に含むアブラナ属植物であって、前記AHASLポリペプチドは、
a)配列番号1の位置653または配列番号2の位置638または配列番号3の位置635に対応する位置にアスパラギンを有するポリペプチド、
b)配列番号1の位置122または配列番号4の位置107または配列番号5の位置104に対応する位置にトレオニンを有するポリペプチド、および
c)配列番号1の位置574または配列番号6の位置557に対応する位置にロイシンを有するポリペプチド
からなる群から選択されるアブラナ属植物。」(特許請求の範囲)
(2-2)「【図面の簡単な説明】
【0019】
・・・・
【図2】シロイヌナズナからの野生型AHASL遺伝子(AtAHASL、配列番号1)、・・・」

(3)引用例3
当審拒絶理由で引用例3として示された特表2009-504137号公報には、以下の事項が記載されている。
(3-1)「【請求項1】
ゲノム中に少なくとも一種のアセトヒドロキシ酸シンターゼ大サブユニット(AHASL)ポリヌクレオチドを少なくとも一コピー有するヒマワリ植物であって、前記AHASLポリヌクレオチドが、位置107又はそれに相当する位置にトレオニンを有する除草剤耐性AHASLタンパク質をコードし、前記植物の少なくとも一種の除草剤に対する耐性が、野生型ヒマワリ植物と比較して増加していることを特徴とするヒマワリ植物。」(特許請求の範囲)

(3-2)「【0184】
S4897、BTK47、及びオオオナモミsp.のAHASL1核酸配列から予想されるアミノ酸配列のアラインメントを図2に示す。BTK47のAHASL1アミノ酸配列と較べると、S4897のAHASL1アミノ酸配列では、アミノ酸位置7(配列番号2)でアラニンからトレオニンへの置換が起こっている。配列番号2のこのアミノ酸位置は、ジェンバンク登録番号AY541451(配列番号4)のヒマワリAHASL1核酸配列でコードされた完全長アミノ酸配列のアミノ酸位置107に相当し、ジェンバンク登録番号X51514のシロイヌナズナAHASL核酸配列でコードされる完全長アミノ酸配列のアミノ酸位置122に相当する。」

(4)引用発明
引用例1は、植物の除草剤に対する耐性を向上させることに関する文献であり、上記(1-1)のとおり、引用例1の特許請求の範囲には、請求項10に列挙されるような各種の植物からの、各種のトランスジェニック植物におけるAHASLの変異について、シロイヌナズナAHASLの122位に対応する位置および653位に対応する位置の2つの位置での特定のアミノ酸置換など、請求項1に列挙される変異が記載されていると認められる。
そして、上記(1-4)?(1-7)のとおり、引用例1には、形質転換ベクターAP2(A122TおよびS653N)を用いてシロイヌナズナを形質転換したこと(表1)、形質転換ベクターZP2(A902TおよびS621N)を用いてトウモロコシを形質転換したこと(表2)が記載されているから、引用例1には、シロイヌナズナのAHASLの122位のアラニンをトレオニン、653位のセリンをアスパラギンに置換した、シロイヌナズナのAHASL二重変異体ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドをゲノム中に含むトランスジェニックシロイヌナズナ植物や、トウモロコシAHASLの90位(シロイヌナズナAHASLの122位に対応する位置)のアラニンをトレオニン、621位(シロイヌナズナAHASLの653位に対応する位置)のセリンをアスパラギンに置換した、トウモロコシのAHASL二重変異体ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドをゲノム中に含むトランスジェニックトウモロコシ植物などが作出されたことが記載されていると認められる。表1、2には、これらのトランスジェニック植物が向上した除草剤耐性を有していることも記載されている。
また、引用例1の図3(摘記せず)には、AHASLのアミノ酸配列について、シロイヌナズナ(Arabidopsis 配列番号1)と各種の植物とのアライメントが示されており、各種の植物の一つとしてソルガム(Sorghum Bicolor 配列番号15)も記載されており、この図3から、広範な植物種において、シロイヌナズナAHASLの122位に対応する位置のアラニン、653位に対応する位置のセリンが、それぞれ保存されていることが見て取れる。
さらに、引用例1の請求項36には、トランスジェニック植物の種子を用いて、作物植物の周辺の雑草を防除する方法が記載されている。

そうすると、引用例1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「作物植物の周辺の雑草を防除する方法であって、
i)シロイヌナズナAHASLの122位に対応する位置にアラニンからトレオニン、および653位に対応する位置にセリンからアスパラギンという、2つアミノ酸置換の変異を有する植物AHASLをコードするポリヌクレオチドを含むトランスジェニック植物により作製された種子を圃場に植え付けるステップ;および
ii)イミダゾリノン系除草剤、スルホニルウレア系除草剤、またはそれらの混合物の有効量を、圃場の雑草および作物植物に施用して雑草を防除するステップを含んでなる前記方法。」

2.対比
本願発明のうち、ソルガム植物として「a)ソルガムAHASタンパク質の位置93にアラニンからトレオニンへの置換である単一の変異を有するポリペプチドをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドをそのゲノム中に含むソルガム植物であって、野生型ソルガム植物と比較して前記イミダゾリノン除草剤群中の1つまたは複数の除草剤に対する耐性が増大した前記植物であって、コードされる前記ポリペプチドが配列番号2を含む、植物」を選択する場合の発明と、引用発明を対比する。
なお、本願発明において「ソルガムAHASタンパク質の位置93」が「ソルガムAHASタンパク質のラージサブユニット(AHASL)の位置93」を意味することは、請求項1や発明の詳細な説明(例えば段落【0015】)の記載から明らかである。
引用発明の「作物植物の周辺の雑草を防除する方法であって」、「ii)イミダゾリノン系除草剤、スルホニルウレア系除草剤、またはそれらの混合物の有効量を、圃場の雑草および作物植物に施用して雑草を防除するステップを含んでなる前記方法。」は、本願発明の「イミダゾリノン群中の、有効量の除草剤を雑草および・・・植物に施用するステップを含む、・・・植物のごく近くにある雑草を防除する方法」に相当すると認められる。
また、引用例1の図3(特に3-2)によれば、シロイヌナズナのAHASLの122位は、ソルガム(Sorghum Bicolor)のAHASL(配列番号15)の93位に対応する位置である。
さらに、引用発明の「トランスジェニック植物」は、野生型の植物よりも除草剤に対する耐性が増大していると認められる。

したがって、両者は、
「イミダゾリノン群中の、有効量の除草剤を雑草および植物に施用するステップを含む、植物のごく近くにある雑草を防除する方法であって、前記植物が
a)AHASタンパク質において、ソルガムAHASタンパク質の位置93に対応する位置にアラニンからトレオニンへの置換である変異を有するAHASポリペプチドをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドをそのゲノム中に含む植物であって、野生型植物と比較して前記イミダゾリノン除草剤群中の1つまたは複数の除草剤に対する耐性が増大した前記植物である、方法。」である点で一致し、以下の点で相違すると認められる。

(相違点)
本願発明では植物がソルガム植物であり、そのAHASタンパク質(AHASL)は、配列番号2を含み、位置93(シロイヌナズナAHASLの122位に対応する位置)における単一の変異しか有さないのに対して、
引用発明では植物は特定されておらず、そのAHASLは、シロイヌナズナAHASLの653位に対応する位置にセリンからアスパラギンへの変異という、2つめの変異も有する点。

3.判断
(相違点)について
上記(1-2)のとおり、引用例1には、オナモミ(キク科植物)(当審注:「オオモミ」は「オナモミ」の誤記と認める。)のAHASLの100位(シロイヌナズナAHASLの122位に対応する位置)におけるアラニンからトレオニンへの置換という単一の変異が、イミダゾリノンおよびスルホニルウレアに対する耐性を与えることが記載されており、上記(1-7)のとおり、引用例1の表2には、AHASLにおいてA90T変異(シロイヌナズナAHASLの122位に対応する位置の変異)という単一の変異を有するトウモロコシ/ZP7ベクター変異体の耐性が、A90TとS621Nという2つの変異を有するトウモロコシ/ZP2ベクター変異体の耐性と同じく[+++]であることが記載されている。また、引用例2、3にも、シロイヌナズナのようなアブラナ科植物やヒマワリにおいて、AHASLのシロイヌナズナの122位に対応する位置にアラニンからトレオニンへの置換を有する植物は、除草剤耐性であることが記載されている。
そうすると、引用例1?3の記載から、各種の植物のAHASLにおいて、シロイヌナズナAHASLの122位に対応する位置へアラニンからトレオニンへの置換という単一の変異を導入することにより、各種の植物の除草剤耐性が向上することが理解される。
そして、植物の遺伝子改変において、遺伝子への複数の変異の導入よりも単一の変異の導入の方が簡便であることは明らかあり、「シロイヌナズナAHASLの122位に対応する位置へアラニンからトレオニンへの置換」の場合、単一の変異だけでも除草剤耐性の向上があることから、複数の変異を有する植物だけでなく、単一の変異を有する植物も作出しようとすることは、当業者が容易に想到することである。
そうすると、引用発明のトランスジェニック植物について、2つめの変異も有する植物に代えて、単一の変異のみを有する植物を用いることは、当業者が容易になし得ることであり、また、引用例1の(1-1)や(1-3)の記載からみて(モロコシはソルガムの別名である)、植物としてソルガム(Sorghum bicolor)を用いることも当業者が適宜なし得ることである。
したがって、引用発明において、トランスジェニック植物として、シロイヌナズナAHASLの653位に対応する位置には変異を有さず、122位に対応する位置に変異を有するもの、すなわち、ソルガムAHASLの93位に単一の変異のみを有するAHASL変異体ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む植物を用いることは、当業者が容易になし得ることである。
そして、ソルガムAHASLポリペプチドである引用例1の配列番号15において、93位のアラニンをトレオニンに置換したアミノ酸配列は、本願の配列番号2のアミノ酸配列である。
よって、上記相違点は当業者が容易になし得ることである。

そして、本願発明において、ソルガム植物が含むAHASLについて、93位にアラニンからトレオニンへの置換を有する配列番号2のポリペプチドを特定したことによって、引用例1?3の記載から予測できない効果が奏されたとも認められない。

以上のとおり、本願発明は引用例1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.審判請求人の主張について
審判請求人は平成30年4月24日付け意見書において、概ね以下A?Cの点を主張している。
[主張A]
引用文献2の段落0005に、イミダゾリノン除草剤に対する感受性は植物の種類により異なるが、このような差異は植物の代謝、吸収、転流のような植物の生理学的な違いが影響することが記載されていること(1)、
引用文献1に、シロイヌナズナAHASLの122位におけるアラニンのバリンへの置換やオナモミ(キク科植物)AHASLの対応する100位におけるアラニンのトレオニンへの置換は、イミダゾリノンおよびスルホニルウレアに対する耐性を与えることが開示されているが、本願発明におけるソルガムAHASの93位におけるアラニンのトレオニンへの置換は、イミダゾリノンに対してのみ耐性を与えること(2)
引用文献1の表1のシロイヌナズナにおける<A122TおよびS653N突然変異>のスコアが++であり、これに対応する表2のトウモロコシにおける<A90T、S621N突然変異>のスコアが+++であることから、ある植物における変異の組み合わせによる効果が、他の植物における対応する位置における変異の組み合わせによる効果とは一致しないこと(3)
という(1)?(3)を根拠として、「A122T置換が、ある特定の植物において除草剤に対する耐性を増大させたからといって、対応する同じ置換がほかの植物においても同じ結果をもたらすとは限らないこと」を主張している。

[主張B]
引用文献1の表1の結果は、当業者に二重変異もしくは三重変異を選択する動機づけを与えることはあっても、単一変異を選択しようとする動機づけを与えることはないと主張している。

[主張C]
参考資料1を示して、本願のソルガム植物のイミダゾリノン除草剤耐性と、AHASタンパク質の対応する位置に同じ変異を有する他の作物のイミダゾリノン除草剤耐性とを比較し、本願のソルガム植物が優れた除草剤耐性を示すことを主張している。

[主張A]について
引用例1?3には、シロイヌナズナのA122T置換に対応する単一の置換が、シロイヌナズナを始めとするアブラナ属植物だけでなくトウモロコシ、ヒマワリ、オナモミにおいてもイミダゾリノン除草剤に対する耐性を増大させることが記載されている。そのうえ、ソルガムを含む多くの植物種において、シロイヌナズナAHASLの122位に対応する位置はアラニンに保存されているから、この位置のトレオニンへの変異が共通した表現型(機能)に結びつくと考えるのが自然であって、ソルガムにおいても該置換によってイミダゾリノン除草剤に対する耐性が野生型よりも増大することを当業者は期待するといえる。
上記(1)の点に異論はないが、上記のような当業者の期待があることから、該置換を有するソルガムがイミダゾリノン除草剤に対して耐性を有することは、引用例1?3の記載から当業者が予期することある。
また、本願明細書の段落0015には「本発明のソルガム植物は、野生型ソルガム植物と比較して、除草剤、例えば、AHAS酵素を標的とする除草剤、特に、イミダゾリノンおよびスルホニルウレアに対する改善された耐性を示す。」と記載されている一方、本願発明において、ソルガムAHASの93位におけるアラニンのトレオニンへの置換がイミダゾリノンに対してのみ耐性を与えることは記載されていないから、上記(2)の点は明細書に基づかない主張である。
さらに、上記(3)については、植物の種類によって、イミダゾリノン除草剤に対する耐性増大効果が全く同じにはならないかもしれないが、該置換を有さない野生型より耐性が増大する点において同じ効果が期待されるといえる。

[主張B]について
引用例1?3には、シロイヌナズナAHAS大サブユニットの122位に対応する位置にアラニンからトレオニンへの置換の単一変異を有する植物が、該植物の野生型と比較して除草剤に対する耐性が増大することが示されており、このことはソルガムでも同様であることが期待される。そして、当業者はそのような有用な単一変異を有する植物を作出することを容易に想到するといえる。

[主張C]について
参考資料1の実験の結果では、A122T置換変異について、ソルガム(S-M1)だけでなく、ヒマワリ(H-M1)、コメ(C-M)、トウモロコシ(Z-M)についても除草剤耐性となっており、このような結果は引用例1?3の記載と矛盾するものではない。

5.小括
本願発明は、引用例1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


第4 むすび
以上のとおり、この出願の請求項13に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について言及するまでもなく、この出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-05-24 
結審通知日 2018-05-25 
審決日 2018-06-05 
出願番号 特願2015-503768(P2015-503768)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小金井 悟山本 匡子  
特許庁審判長 長井 啓子
特許庁審判官 中島 庸子
小暮 道明
発明の名称 突然変異アセトヒドロキシ酸合成酵素タンパク質のラージサブユニットをコードする突然変異ポリヌクレオチドを有し、除草剤耐性が増大したソルガム植物  
代理人 奥山 尚一  
代理人 森本 聡二  
代理人 有原 幸一  
代理人 松島 鉄男  
代理人 中村 綾子  

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