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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B23B
管理番号 1345309
審判番号 不服2017-3363  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-03-07 
確定日 2018-10-17 
事件の表示 特願2014-18678「回折機構を伴う機械加工された工具先端を1つ以上使用する切削工具」拒絶査定不服審判事件〔平成26年7月10日出願公開、特開2014-128874〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本件審判請求に係る出願(以下、「本願」という。)は、2008年10月17日(パリ条約による優先権主張外国庁受理、2007年10月29日 米国)を国際出願日とする出願である特願2010-532126号の一部を新たな出願としたものであって、
平成26年3月5日に審査請求及び手続補正がなされると共に、上申書の提出がなされ、
平成27年1月22日付けで拒絶理由通知及び同一出願人による同日出願通知(同年同月27日発送)がなされ、
これに対して同年7月16日付けで意見書が提出され、
同年12月2日付けで2回目の拒絶理由通知(同年同月8日発送)がなされ、
これに対して平成28年6月3日付けで意見書及び手続補正書が提出され、
同年11月1日付けで上記平成27年12月2日付けの拒絶理由通知書に記載した理由2(特許法第29条第2項)によって拒絶査定(同年同月8日謄本発送・送達)がなされたものである。

これに対して、「原査定を取り消す。本願の発明は特許すべきものとする、との審決を求める。」ことを請求の趣旨として平成29年3月7日付けで審判請求がなされたものである。


第2 本願発明

本件の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成28年6月3日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

(本願発明)
「 円筒形の加工物を機械加工するための装置であって、
機械加工される表面を有し、回転運動のために装着された、実質的に円筒形の加工物と、
前記加工物を回転させるために前記加工物に取り付けられた駆動装置と、
前記機械加工される加工物の表面と実質的に平行に動くようにトラックに装着された刃物台と、
工具先端を装着するための表面を有する、前記刃物台に固定された軸部と、
前記軸部の表面に装着され、単数もしくは複数の溝を有する複数の工具先端と、
コントローラーであって、前記駆動装置による前記加工物に相対的な前記工具先端の動きをコントロールするため、及び機械加工中、前記工具先端が前記機械加工される加工物の表面と接触する、前記刃物台の前記機械加工される加工物の表面と平行な動きをコントロールするため、前記駆動装置及び前記刃物台に取り付けられたコントローラーと、
を含み、前記複数の工具先端の寸法及び形状、この工具先端に設けられた溝の寸法及び形状、前記溝が複数である場合のこの複数の溝の間の間隔、並びに前記複数の工具先端の間の間隔が、この装置により機械加工された加工物から形成される光学フィルムに形成される複数の回折機構の寸法及び形状、前記光学フィルムに形成される複数の回折機構に設けられるミクロ構造の寸法及び形状、このミクロ構造の間の間隔、並びに前記光学フィルムに形成される複数の回折機構の間の間隔に対応する装置。」


第3 引用文献・引用発明
1.引用文献1の摘記事項及び引用発明
本願の優先日前に頒布され、上記平成27年12月2日付けの拒絶理由通知において引用した、特表2002-536702号公報(公表日:平成14年10月29日、以下、「引用文献1」という。)には、関連する図面とともに、以下の事項が記載されている。
(下線は、当審にて付した。)

A
「 【0033】
ウェットアウト防止面に用いることができる構造を有する別のタイプのフィルムが、図4Cに示されている。フィルム440は、上面445にフレネル構造444を有するフレネルレンズである。下面442は、ウェットアウト防止面である。」

B
「 【0047】
光学フィルムは、型押、押出、流延および硬化、圧縮成形および射出成形をはじめとするさまざまな異なる方法によって一般に作製される。これらの方法は、フィルムにウェットアウト防止面を形成する場合に適している。たとえば、フィルム602が押出ローラ604によってダイ600を通って、貯槽601から引っ張り出される場合には、フィルムは、図6に示されているように、一定の寸法だけ離隔された1組のローラの間で流延されてもよい。フィルム602は、押出ローラ604と第2のローラ606の間で挟み込まれる。フィルム602が面構造を有する場合には、第2のローラ606は、フィルム602の上にパターンを型押しするための規定の面を備えたパターンローラであってもよい。たとえば、フィルム602は、図4Aに示されているように輝度強化フィルムとして作製される場合に、第2のローラ606はその面の周囲に、フィルム602の上面612に相補的なくぼみを形成する複数のプリズム構造608を具備する。パターンローラの直径の値は15cm?60cmの範囲にあってもよい。押出ローラ604はまた、フィルムの下面618の上にパターンを型押しするために用いられる型押しパターンを具備してもよい。ローラ604,606の間を通過した後、フィルム602は、たとえば冷却気620の中で冷却され、ローラ604,606によってその上に型押しされたパターンを保持する。示された特定の実施形態において、フィルム618の下面にウェットアウト防止面を型押しするために、押出ローラ604は、高さが不規則に変化する面616を有する。
【0048】
上部ローラ606は、さまざまな異なるタイプの型押しパターンを具備することができる。上部ローラ606に用いられることができる型押しパターンの例には、輝度強化フィルム用のプリズムパターン、レンチキュラーフィルム用のレンチキュラーパターン、フレネルレンズ用のフレネルパターンが挙げられる。」

C
「 【0056】
プリズム状フィルム、レンチキュラーフィルム、フレネルレンズを有するフィルムなどの構造を備えたフィルムを作製するために用いられるツールの原型は、ダイヤモンドターニング技術によって製作されることができる。これらの原型は、押出工程または流延および硬化工程によってフィルムを作製するために用いることができる。一般に、直線パターン用のツールは、ダイヤモンドターニングによってロールなどで知られる円筒ブランクに製作される。他の材料も用いることができるが、ロールの面は一般に、硬質銅から構成される。構造は、ロールの外周に連続パターンで形成される。特定の一実施形態において、ダイヤモンドツールがターニングロールを横断する方向に移動している間に、構造は、単独の連続切削がロールに施されるねじ切りとして公知である技術によって機械加工されることができる。形成されるべき構造が一定のピッチを備えている場合には、ツールは、ロールに沿って一定の速度で移動する。一般的なダイヤモンドターニング機は、ツールがロールを貫通する深さ、ツールがロールに対して形成する水平方向ならびに垂直方向の角度、ツールの横断速度の独立制御を行ってもよい。さらに、ダイヤモンドターニング機は、ロールの回転速度を制御することができる。同様の技術は、ウェットアウト防止型押ロールを製作するために適応させることができる。
【0057】
ウェットアウト防止面を型押しするためのロールを製作する方法が、図7に示されている。ドラム700は、ドラムドライブ704によって軸702を中心にして回転される。コンピュータ706は、ドラムドライブ704を制御し、ドラム700の現在の角度位置Ψを監視することもできる。制御コンピュータ706はまた、ダイヤモンド切削ツール708の移動および動作を制御する。コンピュータ706は、軸702に平行なz方向および軸702に向かって放射方向に向けられるx方向における移動のために切削ツールホルダに制御信号を送信する。コンピュータ706はまた、ツール708とドラム700の面との間の角度Πのための制御信号を送信することもできる。切削ツールのサイズおよび形状は、ロール700が作製に用いられる特定のタイプのフィルムに応じて選択される。
【0058】
一般に、コンピュータ706は、回転ドラム700に沿って移動するために、z方向に裁断ツール708を移動させる。x方向における切削ツール708の制御は、ドラム700の面に切削される深さを制御する。ダイヤモンド切削ツール708は、マウント712に接着される高速サーボ装置710に保持されることができる。マウント712は一般に、コンピュータ706による制御下で、x方向およびz方向に並進可能である。高速サーボ装置710はまた、x方向に切削ツール708を並進する。しかし、切削ツール708は、通常の機械加工ツールマウントでは通常得ることができない周波数で作動する。高速サーボ装置の応答の上限周波数は、数kHz?数十kHzの範囲にある可能性があるが、通常の機械加工ツールマウントは一般に5Hz以下である。高速サーボ装置710がx方向に生じるストロークの長さは一般に短く、50μm未満であり、20μm未満である場合もある。ストロークの長さと上限周波数応答との間に相殺関係があってもよいことを十分に理解されたい。一般に、高速サーボ装置710は、x方向において切削ツール708の短距離の高速の往復運動を行うために用いられるのに対し、マウント712は、x方向において切削ツール708の長めの距離であるが、低速の往復運動を行うために用いられる。ウェットアウト防止面パターンは、ドラムに浅い溝をねじ切りすることによってドラムに切削される。すなわち、ドラム700の面に切削が施されている間に、切削ツール708はz方向に並進する。マウント712は、高速サーボ装置710より低い周波数帯に作動する第2のサーボ装置であってもよい。」

D
「 【0073】
切削ツールを保持するための高速サーボ装置の特定の一実施形態が、図10に示されている。高速サーボ装置1000は、壁1006および背面1008を有するケース1004から延在する切削ツール1002を含む。切削ツール1002は、両面に圧電素子1010のスタックによって支持される。圧電スタック1010が高速に変化する電気信号によって励起されるとき、切削ツール1002は、ケース1004から延在する距離がわずかだけ変化するように移動させられる。圧電スタック1010は、一定のプログラムされた周波数の信号または不規則な周波数の信号によって励起されることができる。しかし、高さが不規則に変化するロール800に面を形成するために、圧電スタック1010に印加される信号は一般に、ランダムまたは擬似ランダムである。本願明細書で用いられるように、ランダムなる語は、擬似ランダムを含むことを理解されたい。」

上記摘記事項A?Dより、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

(引用発明)
「円筒形のドラム700を、ダイヤモンド切削ツール708がターニングロールを横断する方向に移動している間に単独の連続切削によって機械加工する装置であって、
前記ドラム700を回転するドラムドライブ704と、
前記ダイヤモンド切削ツール708を、軸702に平行なz方向および軸702に向かって放射方向に向けられるx方向における移動させる、マウント712及び高速サーボ装置710からなる切削ツールホルダと、
前記切削ツールホルダに固定される前記ダイヤモンド切削ツール708と、
前記ドラムドライブ704の回転制御、及び、前記切削ツール708のz方向及びx方向の移動のために前記マウント712及び前記高速サーボ装置710の移動制御とを行う制御コンピュータ706と、
を含み、
前記装置は、フレネルレンズを有するフィルムなどの構造を備えた光学フィルムを作製するために用いられるツールの原型を前記円筒形のドラム700ロールの外周に連続パターンで機械加工により形成するものである装置。」

2.引用文献2の摘記事項
本願の優先日前に頒布され、上記平成27年12月2日付けの拒絶理由通知において引用した、特表2005-527394号公報(公表日:平成17年9月15日、以下、「引用文献2」という。)には、関連する図面とともに、以下の事項が記載されている。
(下線は、当審にて付した。)

E
「【背景技術】
【0002】
微細複製工具などの多様なワークピースを作製するために、ダイヤモンド加工技術を用いることができる。微細複製工具は一般に、微細複製構造を作製するために押出法または射出成形法に用いられる。微細複製構造は光学フィルム、自己噛合輪郭を有する機械的留め具、または1000ミクロン未満の寸法など比較的小さな寸法の微細複製特徴群を有する任意の成形または押出し部品を含み得る。
【0003】
微細複製工具には、キャスティング・ベルト、キャスティング・ローラ、射出成形金型、押出または形押工具等がある。微細複製工具はダイヤモンド加工プロセスで作製することが多く、ダイヤモンド工具を用いて微細複製工具に溝または他の特徴群を切削する。」

F
「【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0005】
一般に本発明は、微細複製工具または他の被加工物(ワークピース)を作製する際に用いられるマルチチップダイヤモンドを含むダイヤモンド工具を対象とする。ダイヤモンド工具の多数のチップを用いることにより、微細複製工具に多数の溝または他の特徴群を同時に形成することができる。このダイヤモンド工具は、工具シャンクなどの取付構造と、その取付構造に取り付けられた、複数のチップを備えるマルチチップダイヤモンドとを含む。ダイヤモンドの異なるチップが微細複製工具に形成される異なる溝に対応し得る。」

G
「【0013】
ダイヤモンド12は多数のチップ16を画定する。各チップ16は、作製される微細複製工具の溝などのワークピースの個別の特徴群の形成に対応する別個の切削機構を画定する。図1に図示された実施形態においてダイヤモンド12は2つのチップ16Aおよび16Bを含むが、様々な実施形態用に対して任意の数のチップを形成し得る。チップ16Aおよび16Bは互いに隣接しているとともに、チップの間に谷17を形成している。集束イオンビームミリングプロセスを用いてチップ16Aおよび16Bを形成することができるとともに、効果的ダイヤモンド加工のために必要な特性を画定する谷17も形成し得る。例えば集束イオンビームミリングを用いてチップ16Aおよび16Bの内面18Aおよび18Bを共通軸19に沿って接するようにして谷17の底を形成することができる。また集束イオンビームミリングを用いて、凹状または凸状円弧楕円、放物線、数学的画定表面パターン、もしくはランダムまたは擬似ランダムパターンなどの特徴群を谷17内に形成することができる。
【0014】
谷17が微細複製工具に形成される突起を画定できるため、谷17を高精細に作製することは非常に重要であり得る。例えば谷17は外部基準点に対して画定された半径を有する凹状または凸状円弧を画定し、または隣接表面18Aおよび18Bの間の角度を画定し得る。谷17の多様な他の形状も形成可能である。いずれの場合も微細複製工具内に作製された溝および突起は、微細複製工具が微細複製構造を形成する際に有効であるように精密な仕様と一致する必要がある。さらに多数のチップ17を単一ダイヤモンド上に形成するため、単一工具内で別個のダイヤモンドを使用することに関連する位置合わせ問題が回避できる。
【0015】
図2Aおよび2Bは、本発明の一実施形態に係る、2つのチップを備えたイオンビームミリングされたダイヤモンド12の斜視図である。図示のようにダイヤモンド12は厚さXを画定し得る。谷17の底は厚さXに沿って実質距離Y延在し得る。YはX以下であり得る。図示のようにダイヤモンド12の上面は距離Yに沿って先細りになっているか、代替的には一定の高さを画定し得る。一例として厚さXはおよそ0.5ミリメートルと2ミリメートルの間であり、距離Yはおよそ0.001ミリメートルと0.5ミリメートルの間であり得るが、本発明は必ずしもこれらに限定されない。
【0016】
図3は、微細複製工具32の作製時に2つの溝を同時に切削するのに用いられる、2つのチップを備えた2チップダイヤモンド工具10の概念斜視図である。図3の例では微細複製工具32はキャスティングロールを含んでいるが、キャスティング・ベルト、射出成形用金型、押出または型押工具、もしくは他のワークピースなどにおける他の微細複製工具もダイヤモンド工具10を用いて作製することができる。ダイヤモンド工具10はダイヤモンド工作機34に固定可能であり、ダイヤモンド工作機34は微細複製工具32に対してダイヤモンド工具10を位置付けして、ダイヤモンド工具10を例えば微細複製工具32に対して横方向(矢印で示すように)に移動させる。同時に微細複製工具32は軸を中心に回転可能である。ダイヤモンド工作機34は、プランジャまたはねじ切り技術によりダイヤモンド工具10を回転微細複製工具32内に通過させて微細複製工具32内に溝を切削するように構成し得る。代替的にはダイヤモンド工作機34は、ダイヤモンド工具10が微細複製工具32に近接した軸を中心に回転して微細複製工具32に溝または他の特徴群を切削するフライカッティング用に構成し得る。またダイヤモンド工作機34はスクライビングまたは刻線用に構成可能であり、その場合ダイヤモンド工具10はワークピース全体に非常にゆっくりと移動させられる。いずれの場合も溝を切削可能であるとともに、ワークピース上に突起を形成可能である。形成された溝および突起は、例えば押出しプロセス時に微細複製工具32を用いて形成した微細複製構造の最終形状を画定し得る。代替的には、形成された溝および突起は、微細複製工具以外のワークピース内の材料の移動により特徴群を形成し得る。」

H
「【0022】
チップ16は多様な大きさも取り得る。チップの大きさは図7に図示するように、高さ(H)、幅(W)、およびピッチ(P)を含む1つ以上の変数により画定し得る。高さ(H)は谷の底部からチップの上部までの最大距離を指す。幅(W)は平均幅として、または図7に符号表示するようにチップの最大幅として画定し得る。ピッチ(P)は隣接チップ間の距離を指す。チップの大きさを画定するのに用いることができる他の数量はアスペクト比という。アスペクト比は幅(W)対高さ(H)の比である。集束イオンビームミリングプロセスにより作製した実験的なダイヤモンド工具は様々な高さ、幅、ピッチおよびアスペクト比の達成を立証した。」

I
「【0037】
図21は、チップ211がチップ212の側部上に形成されたダイヤモンドを図示する。図22は、チップ221および222が可変の異なる高さを画定するダイヤモンドを図示する。可変の谷、可変の内壁角度、および/または隣接チップ間の可変のピッチ間隔も画定し得る。
【0038】
図23は、チップが凸半径(R)を有する谷を画定するダイヤモンドを図示する。図24は、多数の周期的正弦状チップがダイヤモンドの円弧形状表面に沿っているダイヤモンドを図示する。本発明のこれらおよび多数の他の変形例は請求の範囲内にある。」


第4 対比

本願発明と引用発明とを対比する。

引用発明の「円筒形のドラム700」、「ターニングロールを横断する方向に移動している間に単独の連続切削によって機械加工する」は、各々本願発明の「円筒形の加工物」、「機械加工する」に相当する。よって、引用発明の「円筒形のドラム700を、ダイヤモンド切削ツール708がターニングロールを横断する方向に移動している間に単独の連続切削によって機械加工する装置」と本願発明の「円筒形の加工物を機械加工するための装置」とは、前提において一致している。
また、引用発明の装置が「前記ドラム700を回転するドラムドライブ704」、「前記ダイヤモンド切削ツール708を、軸702に平行なz方向および軸702に向かって放射方向に向けられるx方向における移動させる、マウント712及び高速サーボ装置710からなる切削ツールホルダ」、「前記切削ツールホルダに固定される前記ダイヤモンド切削ツール708」、「前記ドラムドライブ704の回転制御、及び、前記切削ツール708のz方向及びx方向の移動のために前記マウント712及び前記高速サーボ装置710の移動制御とを行う制御コンピュータ706」を含むことは、本願発明の装置が「前記加工物を回転させるために前記加工物に取り付けられた駆動装置」、「前記機械加工される加工物の表面と実質的に平行に動くようにトラックに装着された刃物台」、「工具先端」、「前記駆動装置による前記加工物に相対的な前記工具先端の動きをコントロールするため、及び機械加工中、前記工具先端が前記機械加工される加工物の表面と接触する、前記刃物台の前記機械加工される加工物の表面と平行な動きをコントロールするため、前記駆動装置及び前記刃物台に取り付けられたコントローラー」を含むことに相当し、
さらに、引用発明の「前記装置は、フレネルレンズを有するフィルムなどの構造を備えた光学フィルムを作製するために用いられるツールの原型を前記円筒形のドラム700ロールの外周に連続パターンで機械加工により形成するものである」は、本願発明の「この装置により機械加工された加工物から」「光学フィルム」が「形成される」ことに相当する。

以上から、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致し、かつ相違する。

(一致点)
「円筒形の加工物を機械加工するための装置であって、
機械加工される表面を有し、回転運動のために装着された、実質的に円筒形の加工物と、
前記加工物を回転させるために前記加工物に取り付けられた駆動装置と、
前記機械加工される加工物の表面と実質的に平行に動くようにトラックに装着された刃物台と
工具先端と、
コントローラーであって、前記駆動装置による前記加工物に相対的な前記工具先端の動きをコントロールするため、及び機械加工中、前記工具先端が前記機械加工される加工物の表面と接触する、前記刃物台の前記機械加工される加工物の表面と平行な動きをコントロールするため、前記駆動装置及び前記刃物台に取り付けられたコントローラーと、
を含み、
この装置により機械加工された加工物から光学フィルムが形成される、装置。」

(相違点1)
本願発明の装置は、「工具先端を装着するための表面を有する、前記刃物台に固定された軸部」を含むとしているのに対して、引用発明では、「工具先端を装着するための表面を有する、前記刃物台に固定された軸部」を含むか否かが直接的には明らかでない点。
(相違点2)
「工具先端」に関し、本願発明では「前記軸部の表面に装着され、単数もしくは複数の溝を有する」との事項、及び、「工具先端」が「複数」であるとの事項を備えるのに対して、引用発明の対応する「ダイヤモンド切削ツール708」は、複数であるとの直接的な特定はなされておらず、また、装着箇所は「切削ツールホルダに固定される」とされており、さらに「単数もしくは複数の溝を有する」とされていない点。
(相違点3)
本願発明では、「工具先端」と、機械加工された加工物から形成される光学フィルムとの間に、「前記複数の工具先端の寸法及び形状、この工具先端に設けられた溝の寸法及び形状、前記溝が複数である場合のこの複数の溝の間の間隔、並びに前記複数の工具先端の間の間隔が、この装置により機械加工された加工物から形成される光学フィルムに形成される複数の回折機構の寸法及び形状、前記光学フィルムに形成される複数の回折機構に設けられるミクロ構造の寸法及び形状、このミクロ構造の間の間隔、並びに前記光学フィルムに形成される複数の回折機構の間の間隔に対応する」との事項が成立するとしているのに対して、引用発明では「フレネルレンズを有するフィルムなどの構造を備えた光学フィルムを作製するために用いられるツールの原型を前記円筒形のドラム700ロールの外周に連続パターンで機械加工により形成する」としている点。

第5 判断

上記相違点1ないし3について検討する。

(相違点1について)
溝加工用のダイヤモンドツールを、軸の形態であるシャンクと、該シャンクの先端の取付座にチップ形態とされたダイヤモンドチップをロウ付けなどで固定させることによってなすこと、すなわち、上記相違点1に係る本願発明の特定事項(対応する本件明細書の【0020】の記載とも照合されたい)は、本件の優先日以前に同一出願人によって公開された公知の態様である(要すれば、米国特許出願公開第2007/0084315号明細書の[0035]、FIG.2や、特表2005-537944号公報の【0021】、【図2】を参照ありたい)。加えて、切削ツールの常識的な構造として、加工に供される先端部分のみをチップにより構成し、本体の通常シャンクと呼ばれる軸部分は別の材料で作り、シャンクにチップを接合等で固定して作ることは当業者にとり周知慣用の態様でもある。
よって、当業者であれば、引用発明の「前記切削ツールホルダに固定される前記ダイヤモンド切削ツール708」を、上記公知もしくは周知慣用の態様に倣って、シャンク様の軸部と、軸部先端の取付座(工具先端を装着するための表面)にダイヤモンドチップを固定した態様を選ぶことは、容易になし得たものと認められる。
(相違点2について)
相違点2に係る本願発明が採用した発明特定事項、すなわち、刃物台に装着する工具先端及び軸部の個数が複数とされる点や、個々の工具先端に単数もしくは複数の溝を有する点は、前者が上記「第3 引用文献・引用発明」の「2.引用文献2の摘記事項」の摘記事項F及びG(複数、2個)に示され、後者が同じく摘記事項Iに示されている公知の技術的事項である。
そして、引用文献2は、図3の装置の図示が、引用文献1に記載の装置と略一致し、また、引用文献2の摘記事項Eから見て、光学フィルムを微細複製するための成形または押出し部品を作製するために使用するダイヤモンド工具及び装置に関する技術であって、引用発明と目的が一致している。
そうすると、引用発明と引用文献2に記載の公知技術とは、同一の技術分野に属し、かつ、光学フィルムを製造するための型を機械加工で得るとする目的面でも一致が確認できるため、当該技術分野の当業者が、引用発明に対して適用を試みようとする公知技術に、引用文献2に記載の技術が該当するとした、十分な動機づけがあるといえる。
そして、引用発明に対して、引用文献2に記載された摘記事項を適用したものは、本願発明の相違点2に係る構成となることが明らかであるから、相違点2に係る相違は、当業者が容易に想到できたものと認められる。
(相違点3について)
相違点3は、本願発明の特定事項が、「工具先端」と、「機械加工された加工物」から形成される「光学フィルム」の「複数の回折機構」との関係を定めているのに対し、引用発明は、「ツールの原型」と、「光学フィルム」の「フレネルレンズなどの構造」との関係を定めている違いと集約される。
そして、引用発明の光学フィルムのフレネルレンズは、回折を利用した複数の微細な溝で作られるものなので、明らかに本願発明の「複数の回折構造」を有する「光学フィルム」に該当する。また、引用発明の「ツールの原型」から「フレネルレンズなどの構造」を有する「光学フィルム」が作られることは、本願発明の「機械加工された加工物」から「複数の回折機構」を有する「光学フィルム」が形成される点とも一致している。
そうすると、相違点3は、本願発明が「工具先端」が「光学フィルム」の「複数の回折機構」に対応するのに対して、引用発明は「工具先端」により加工された「原型」が「光学フィルム」のフレネルレンズ形状に対応するとした点で相違することとなるので、両者が実質的に相違するか否かは、「機械加工された加工物」の加工形状が「工具先端」の諸形状と対応関係にあるか否かで決せられる。
そして、引用発明において、ダイヤモンド切削ツール708の形状と、当該ツール708により切削加工される円筒形のドラム700とがどのような関係にあるかを見ると、引用発明における「円筒形のドラム700を、ダイヤモンド切削ツール708がターニングロールを横断する方向に移動している間に単独の連続切削によって機械加工する」とした事項から、ダイヤモンド切削ツール708は、円筒形のドラム700の表面からツール708の先端形状と重なり合う部分を除去することで、切削が果たされるのであるから、ダイヤモンド切削ツールが複数あればその間隔どおりに切削加工され、ダイヤモンド切削ツールの先端形状に何らかの特別な形状修飾があればその形状修飾のとおりの切削形状がドラム700の表面に形成されるものということができる。
そうすると、上記相違点2に係る検討で示したとおり、当業者が引用発明から容易想到とした、複数の切削ツールを持ち、個々の切削ツールが単数もしくは複数の溝を有するようなダイヤモンド切削ツールとすることにより切削加工を行うことを前提とするならば、引用文献2の摘記事項Hで示すピッチPは、摘記事項Gの【0013】に記載のとおり、「作製される微細複製工具の溝などのワークピースの個別の特徴群の形成に対応する」関係を示すのであるから、引用発明においても、形成すべきフレネルレンズの諸形状に合わせて、ダイヤモンド切削ツール708の諸形状を選ぶことは当然になされるというべきであり、引用発明においても、ダイヤモンド切削ツール708の形状は、形成すべきフレネルレンズの形状に対応することと見て差し支えない。
よって、相違点3は、相違点2の検討のごとく溝を有する工具先端を複数備えるように引用発明がなされた場合、適用後の引用発明の工具先端形状と形成すべきフレネルレンズの諸形状とは対応関係を有するといえることから、なんら実質的に相違するところがないことになるので、結果として同様に当業者が容易に想到し得たと認められる。

上記で検討したごとく、上記相違点1ないし3はいずれも格別のものではなく、そして、本願発明の奏する作用効果は、上記引用発明及び公知の技術的事項の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

したがって、本願発明は、引用文献1に記載の発明及び引用文献2に記載の公知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明できたものである。

なお、請求人は平成29年4月19日付け手続補正書により補正された同年3月7日付け審判請求書の【本願発明が特許されるべき理由】にて、引用文献1、3(上記第3にて示した2つの文献と同じ)に基づいて当業者が容易に発明できたとする拒絶理由及び拒絶査定に対して以下の意見を述べている。
「本願発明と引用文献1に記載の発明とを比較すると、引用文献1には、今回の補正によって明確とされた要件、すなわち『前記複数の工具先端の寸法及び形状、この工具先端に設けられた溝の寸法及び形状、前記溝が複数である場合のこの複数の溝の間の間隔、並びに前記複数の工具先端の間の間隔が、この装置により機械加工された加工物から形成される光学フィルムに形成される複数の回折機構の寸法及び形状、前記光学フィルムに形成される複数の回折機構に設けられるミクロ構造の寸法及び形状、このミクロ構造の間の間隔、並びに前記光学フィルムに形成される複数の回折機構の間の間隔に対応する』、については教示も示唆もされていません。
審査官殿は、引用文献1において『工具先端』の形状が不明である点で本願発明と引用文献1に記載の発明とは相違するが、引用文献3には、工具先端の回折機構にミクロ構造の溝を複数設けることが記載されているから、本願発明は引用文献1及び引用文献3を組み合わせることにより容易になし得るものである、との御見解であります。
引用文献3に記載の発明は、被加工物に溝を形成するために用いられる工具であって、取付構造と、前記取付構造に取り付けられた、複数のチップを備えるマルチチップダイヤモンドとを含み、前記ダイヤモンドの異なるチップが前記被加工物に形成される異なる溝に相当するとともに、隣接チップ間に被加工物に形成される突起に相当する谷を画定する工具が記載されています(請求項1)。
しかしながら、引用文献3には、回折機構を設けた光学フィルムを形成するための加工物を形成するためにマルチチップダイヤモンドを備えた工具を用いることはまったく記載されていません。
本願発明により、溝を設けた工具先端を用いて加工物を加工し、この加工物を用いてフィルムを製造することにより、溝を設けた回折機構を備えた光学フィルムが得られ、一方、引用文献3には微細複製工具に溝を形成するために用いる工具については記載されているものの、この溝が回折機構に相当するものであることは記載されておらず、たとえ当業者といえども、引用文献3を参照しても、溝を設けた回折機構を備えた光学フィルムを得るための加工物の加工に溝を設けた工具先端を用いることは、容易に想到できるものではありません。
審査官殿は、引用文献3の段落0002の記載を参照し、光学フィルムの微細加工にダイヤモンド加工技術を用いることが記載されているから、上記主張は首肯できない、との御見解でありますが、引用文献3の段落0002の記載は単なる一般的な従来技術の記載であり、マルチチップダイヤモンドを用いて回折機構を設けた光学フィルムを形成するための加工物をいかに形成するかについては具体的に記載されておらず、引用文献3を参照しても、本願発明は容易に想到できるものではありません。」
しかしながら、請求人が主張する、“引用文献3には、回折機構を設けた光学フィルムを形成するための加工物を形成するためにマルチチップダイヤモンドを備えた工具を用いることはまったく記載されていません”としたことを根拠とする、容易想到性の否定は、上記「(相違点2について)」で説示したとおりであるから、十分な動機づけがあり得るため、採用できない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、その出願に係る優先日前に日本国内又は外国において頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載の発明及び引用文献2に記載の公知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、上記結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-05-21 
結審通知日 2018-05-22 
審決日 2018-06-07 
出願番号 特願2014-18678(P2014-18678)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B23B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 足立 俊彦村上 哲  
特許庁審判長 栗田 雅弘
特許庁審判官 中川 隆司
西村 泰英
発明の名称 回折機構を伴う機械加工された工具先端を1つ以上使用する切削工具  
代理人 出野 知  
代理人 青木 篤  
代理人 高橋 正俊  
代理人 古賀 哲次  
代理人 石田 敬  

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