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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H02K 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02K 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 H02K 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02K |
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管理番号 | 1345358 |
審判番号 | 不服2017-7811 |
総通号数 | 228 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-12-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-05-31 |
確定日 | 2018-10-18 |
事件の表示 | 特願2015-111814「自動車用の電気機械および電気機械を冷却するための方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年12月24日出願公開、特開2015-233404〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成27年6月2日(パリ条約による優先権主張2014年6月10日(以下、「優先日」という。)、ドイツ国)の出願であって、平成28年5月25日付けの拒絶理由の通知に対し、同年8月31日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、平成29年1月27日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年5月31日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。 第2 平成29年5月31日にされた手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成29年5月31日にされた手続補正を却下する。 [理由](補正の適否の判断) 1.本件補正について(補正の内容) (1)平成29年5月31日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項8の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)。 「自動車(10)の2つの駆動輪18L、18Rのそれぞれに対応して接続されるよう対をなして設けられる電気機械(14、16)のそれぞれを冷却するための方法であって、前記電気機械(14、16)が、コイル装置と、前記コイル装置に対して回転可能に取り付けられた回転子とを有し、前記電気機械(14、16)を冷却するために、冷却液(36)が流体ラインを通して前記電気機械(14、16)に供給され、前記電気機械(14、16)を冷却するために、前記電気機械(14、16)のそれぞれに対応して1つずつ設けられたファン装置(30、32)によって冷却空気(42)を前記電気機械(14、16)に向けて供給することができ、前記ファン装置(30、32)および/または前記冷却液(36)の供給が、前記電気機械(14、16)の速度(n)および/またはトルク(M)に応じて制御される、方法。」 (2)本件補正前の特許請求の範囲 上記本件補正後の請求項8に記載される発明に対応する、本件補正前の、平成28年8月31日にされた手続補正による特許請求の範囲の請求項8の記載は次のとおりである。 「自動車(10)の電気機械(14、16)を冷却するための方法であって、前記電気機械(14、16)が、コイル装置と、前記コイル装置に対して回転可能に取り付けられた回転子とを有し、前記電気機械(14、16)を冷却するために、冷却液(36)が流体ラインを通して前記電気機械(14、16)に供給され、前記電気機械(14、16)を冷却するために、ファン装置(30、32)によって冷却空気(42)を前記電気機械(14、16)に供給することができ、前記ファン装置(30、32)および前記冷却空気供給が、前記電気機械(14、16)の速度(n)および/またはトルク(M)に応じて制御される、方法。」 2.補正の適否 (1)補正の目的について 上記本件補正は、補正前の請求項8に記載された発明を特定するために必要な事項である「前記ファン装置(30、32)および前記冷却空気供給が、前記電気機械(14、16)の速度(n)および/またはトルク(M)に応じて制御される」点について、「前記ファン装置(30、32)および/または前記冷却液(36)の供給が、前記電気機械(14、16)の速度(n)および/またはトルク(M)に応じて制御される」とする補正を含むものである。ここで、本件補正後の請求項8に記載された発明についてみると、この発明は、冷却液の供給のみ電気機械(14、16)の速度(n)および/またはトルク(M)に応じて制御されているものを含む発明であって、本件補正前の請求項8に記載された発明では特定されていた、ファン装置および冷却空気供給が、電気機械の速度および/またはトルクに応じて制御されることを特定しない発明を含むから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しない。また、同項1号の請求項の削除を目的とするものでもなく、補正前の「前記ファン装置(30、32)および前記冷却空気供給が、前記電気機械(14、16)の速度(n)および/またはトルク(M)に応じて制御される」という記載は、誤記を含むものではなく、明りょうでない記載でもないから、同項3号の誤記の訂正、同項4号の明りょうでない記載の釈明を目的とするものでもない。よって、本件補正は、特許法17条の2第5項各号のいずれを目的とするものでもない。 なお、補正前の請求項8に記載された「前記ファン装置(30、32)および前記冷却空気供給」が「前記ファン装置(30、32)および前記冷却液」の誤記であったとしても、この記載の「および」が「および/または」の誤記であったとまではいえず、本件補正前の請求項8に記載された発明は、ファン装置が「電気機械(14、16)の速度(n)および/またはトルク(M)に応じて制御される」のに対し、本件補正後の請求項8に記載された発明は、冷却液の供給のみ電気機械の速度および/またはトルクに応じて制御されて、ファン装置が、電気機械の速度および/またはトルクに応じて制御されることを特定しない発明を含むことに変わりはなく、特許法17条の2第5項各号のいずれを目的とするものでもない。 仮に本件補正が特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとして、本件補正後の請求項8に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が、同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か)について検討する。 (2)本件補正発明 本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。 (3)引用文献 ア 引用文献1 (ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2012-51386号公報(平成24年3月15日出願公開。以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある。(下線は、当審で付した。以下同じ。) 「【請求項1】 車両を電動駆動するための機器と、前記機器から吸収した熱を車室内空気へ輸送する熱輸送手段とを備えた電動車両の駆動装置であって、 前記機器から周囲空気への放熱量を調整する放熱調整手段を備えたことを特徴とする電動車両の駆動装置。」 「【0001】 本発明は、電動車両の駆動装置に関する。」 「【発明の効果】【0015】 本発明によれば、車室内の空気を暖房する場合には、機器から周囲空気への放熱が抑制され、機器から吸収した熱の車室内空気への放出を効率的に行うことができ、車室内の空気を暖房しない場合には、機器から周囲空気への放熱が促進され、機器の冷却を効率的に行うことができる。」 「【0017】 以下では、本発明の電動車両の駆動装置を電気自動車に適用した一実施の形態を説明する。なお、本発明は電気自動車に限定されず、ハイブリッド自動車、あるいは電気鉄道や建設車両などの電動車両に対しても適用することができる。また、この一実施の形態ではインバータにより駆動される交流モータを例に挙げて説明するが、本発明は交流モータに限定されず、例えばサイリスタレオナード装置などのコンバータにより駆動される直流モータ、あるいはチョッパ電源により駆動されるパルスモータなど、あらゆる種類の回転電機(モータ・ジェネレータ)に適用することができる。」 「【0022】 機器冷却回路91Bは、室内熱交換器7Aから流出された空気と熱交換する室内熱交換器7B,リザーバタンク6,機器冷却媒体41Bを循環させる循環ポンプ5B,冷却用熱交換器4B、およびモータ,インバータ,バッテリ等の発熱体9が順に環状に接続されている。また、機器冷却回路91Bには、室内熱交換器7Bの両端をバイパスするバイパス回路30が設けられている。バイパス回路30には二方弁25が設けられ、室内熱交換器7Bを通る主回路31には二方弁26が設けられている。これらの二方弁25,26の開閉動作により、機器冷却媒体41Bの流路を任意に構成することが可能となっている。 【0023】 (暖房運転) 本実施の形態では、暖房運転時に発熱体9の排熱を回収し、車室内暖房に利用する。この場合、暖房負荷が小さい時には、冷凍サイクル回路90を利用せずに発熱体9の排熱により暖房を行い、発熱体9の排熱だけでは暖房負荷に満たない場合には、冷凍サイクル回路90を併用する。 【0024】 発熱体9の排熱のみにより暖房を行う場合には、循環ポンプ5Bと室内ファン8を起動し、かつ二方弁26を開いて室内熱交換器7Bに機器冷却媒体41Bを導入する。機器冷却媒体41Bは発熱体9によって加熱されているので、室内熱交換器7Bにおいて室内吹出し空気へ放熱することによって、機器冷却媒体41Bは冷却され、室内吹出し空気が加熱される。 【0025】 一方、発熱体9からの排熱だけでは暖房負荷に満たない場合には、冷凍サイクル回路90を併用する。この場合、四方弁20が実線で示すように切り換えられ、圧縮機1の吐出配管10は空調用熱交換器4Aに接続され、吸込配管11は室外熱交換器2に接続される。すなわち、空調用熱交換器4Aを凝縮器、室外熱交換器2を蒸発器とするサイクルが形成される。 【0026】 圧縮機1で圧縮された冷媒40は、空調用熱交換器4Aで空調用冷却媒体41Aへ放熱することによって凝縮液化する。その後、膨張弁23で減圧された後、室外熱交換器2において室外空気との熱交換によって蒸発・ガス化して圧縮機1へと戻る。なお、膨張弁22Aは全開、膨張弁22Bは全閉となっており、冷却用熱交換器4Bは利用しない。 【0027】 循環ポンプ5Aを起動することにより、空調用熱交換器4Aで冷媒40の凝縮熱をもらって昇温された空調用冷却媒体41Aは室内熱交換器7Aへ流入し、室内熱交換器7Aにおいて室内吹出し空気へ放熱する。室内熱交換器7Aで加熱された空気は、空気の流れの下流側に配置された室内熱交換器7Bにおいて、発熱体9によって加熱された機器冷却媒体41Bから熱をもらい、さらに昇温されてから室内空間へ吹き出される。 【0028】 このように、室内吹出し空気は、冷凍サイクル回路90によって加熱された後に、発熱体9の排熱でさらに加熱される構成となっている。そのため、室内熱交換器7Aからの吹出し空気温度を、室内熱交換器7Bからの室内吹出し空気温度に対して低く保つことができる。すなわち、発熱体9からの排熱を暖房に利用することによって、エネルギー消費の少ない空調装置を構成することができる。」 「【0029】 (除霜運転) ところで、室外熱交換器2を蒸発器として用いる運転を継続すると、熱交換器の表面に霜が成長する場合があるので、霜を融かす除霜運転を行う必要がある。除霜運転時には、四方弁20および三方弁21を図4の実線で示すように切換える。そして、膨張弁22Aを全閉とし、室外熱交換器2を凝縮器、冷却用熱交換器4Bを蒸発器とするサイクルを形成する。一方、二方弁26を閉じて主回路31への流れを遮断し、バイパス回路30へ機器冷却媒体41Bを流す。 【0030】 空調用熱交換器4Aを蒸発器として利用すると、車室内に吹き出される空気の温度が低下しやすくなる。そこで、発熱体9からの排熱を熱源として利用することで、車室内の温度低下を防止するようにした。また、車室内へ吹き出される空気を熱源とする場合には、熱量が不足して除霜時間が長くなる可能性があるが、発熱体9が接続されて温度が高く保たれている機器冷却媒体41Bを除霜用の熱源として利用できるので、除霜用の熱源を確保することができ、除霜時間を短縮できるメリットが得られる。なお、除霜運転中は室内ファン8の風量を抑制もしくは停止することで、吹出し温度の低下を抑制することができる。」 「【0031】 (冷房運転) 図3は、冷房運転時の動作を説明する図である。ここで冷房運転とは、室外熱交換器2を凝縮器、空調用熱交換器4Aと冷却用熱交換器4Bを蒸発器として用いて、空調用回路91Aと機器冷却回路91Bを共に冷却可能とした運転モードであり、四方弁20を実線で示す状態とする。 【0032】 圧縮機1で圧縮された冷媒40は、室外熱交換器2で放熱することによって液化した後、レシーバ24によって空調用熱交換器4Aへ流れる冷媒と冷却用熱交換器4Bへ流れる冷媒とに分岐される。空調用熱交換器4Aに流れる冷媒は、減圧手段(膨張弁22A)で減圧されて低温・低圧となり、空調用熱交換器4Aにおいて空調用回路91Aの空調用冷却媒体41Aから吸熱することによって蒸発し、四方弁20を通って圧縮機1へ戻る。一方、冷却用熱交換器4Bへ流れる冷媒は、減圧手段(膨張弁22B)で減圧されて低温・低圧となり、冷却用熱交換器4Bにおいて機器冷却回路91Bの機器冷却媒体41Bから吸熱することによって蒸発し、三方弁21を通って圧縮機1へと戻る。 【0033】 空調用回路91Aに設けられた循環ポンプ5Aを駆動すると、空調用熱交換器4Aで冷却された空調用冷却媒体41Aが室内熱交換器7Aに供給される。そして、室内ファン8を駆動すると、室内熱交換器7Aで熱交換して冷却された空気が車室内へ吹き出される。また、機器冷却回路91Bに設けられた循環ポンプ5Bを駆動すると、発熱体9によって加熱された機器冷却媒体41Bが、冷却用熱交換器4Bにおける熱交換によって冷却される。なお、冷房運転時には主回路31の二方弁26は閉じられ、温度の高い機器冷却媒体41Bはバイパス回路30を流れる。」 「【0036】 [第1の放熱抑制構造] 図1は、放熱調整構造の第1の例を示す図であり、電気自動車に適用した場合を示す。図1は車体50のフロント部に駆動用のモータ53を搭載する場合の、各機器の配置を模式的に示したものである。車体50の空間51Aは、従来のエンジン自動車のエンジンルームに相当する空間である。以下では、この空間51Aのことをモータ収容室と称し、空間51Bを車室と称することにする。 【0037】 図1に示した各機器において、室内熱交換器7A,7Bおよび室内ファン8を除く他の機器は図2のモータ収容室51A内に配置される。図1では、それらの主要機器であるモータ53,モータ53を駆動制御するためのインバータ54,モータ53のトルクを増幅する減速機57,減速機からのトルクを車輪へ伝達するドライブシャフト58,冷却ユニット52,室外熱交換器2,室外ファン3を図示した。モータ53とインバータ54は減速機57に支持され、減速機57は図示しないマウント構造で、車体50に支持されている。このように、インバータ54が、モータ53が支持されている部材と同じ剛体(減速機57)に支持されることで、モータ53とインバータ54を近接配置でき、後述するように同一筺体で覆うことができる。このため、一括して、周囲空気への放熱を管理できるようになる。また、モータ53,インバータ54,減速機等の機器を、近接配置、または一体ケーシング構造することで、放熱面積を減らし、周囲空気への放熱を抑制できる。また、配管55の長さも短縮でき、周囲空気への放熱を抑制できる。 【0038】 冷却ユニット52には、図1に示した冷凍サイクル回路90に設けられた機器(圧縮機1,熱交換器4A,4B,弁20,21など)や、回路91A,91Bに設けられた循環ポンプ5A,5Bなども含まれる。図1に示した室内熱交換器7A,7Bおよび室内ファン8は車室51B内に配置される。なお、図1では、室内熱交換器7Aおよび室内ファン8の図示を省略した。図1では、モータ53,インバータ54,減速機57が図2の発熱体9に対応しており、機器冷却媒体41Bが流通する配管55で接続されている。 【0039】 図1に示すように、室外熱交換器2および室外ファン3は、外気との熱交換が効率良く行えるようにモータ収容室51Aの最前部(図示左側)に配置される。そして、冷却ユニット52やモータ53,インバータ54等は、室外熱交換器2および室外ファン3の後方に配置される。一般的に、モータ53やインバータ54は、金属製の機器筐体から周囲空気に放熱するような構造となっているため、機器筐体と周囲の空気との温度差や、機器筺体周辺の空気流速に応じて、熱が放出されている。 【0040】 冷却ユニット52,モータ53,インバータ54,配管55等が室外熱交換器2の後方 に配置されれば、車両走行や室外ファン3による風71は、室外熱交換器2を通過した後、その後方に配置された冷却ユニット52,モータ53,インバータ54,配管55等に吹き付けられることになる。冷凍サイクル回路90を併用して冷却ユニット52が暖房運転を行う場合には、室外熱交換器2からの冷風がこれら機器類に吹き付けられ、機器から周囲空気への放熱が増加してしまう。すなわち、発熱体9から室内の暖房に利用できる熱量が減少してしまうことになる。一方、冷却ユニット52が冷房運転を行う場合には、室外熱交換器2からの温風がこれら機器類に吹き付けられる。冷房運転する場合は、外気温度が比較的高いため、発熱体9から周囲空気への放熱を促進すべきであるが、温風により発熱体9の冷却能力が低下する恐れがある。 【0041】 そこで、第1の放熱抑制構造においては、発熱体であるモータ53,インバータ54,減速機57,温度の高い機器冷却媒体41Bが流れる配管55を、周囲空気への放熱を調整可能な筐体56内に収納し、発熱体からモータ収容室51A内の空気への放熱量を調整できるようにした。筐体56には、周囲空気への放熱を調整するための通風孔61Aと通風孔61Bが備わっている。通風孔61Aは、筺体56の車両前方側に配置され、通風孔61Aを通して周囲空気の外気が導入される。通風孔61Bは、筺体56の車両後方側に配置され、通風孔61Bを通して筺体56から空気が放出される。 【0042】 通風孔61Aには、電気的な制御によって通風量を調整可能な調整機構が備わり、モータ53,インバータ54,配管55,減速機57から空気への放熱量が制御される。この通風量の調整機構は、例えば電気的に角度を制御可能な空気制御弁62であり、筺体56と周囲環境との空気の出入りを抑制したいときには空気制御弁62を閉じる方向に制御され、空気の出入りを促進したいときには空気制御弁62を開ける方向に制御される。空気制御弁62は、駆動電流が通電されない場合には開弁状態となるように、バネ等で回転支持される。空気制御弁62の具体的な構造例としては、エンジンのスロットルバルブや、建築物の換気扇に用いられる電気式シャッターなどの構造が応用される。 【0043】 通風孔61Aは、図1に示すようにダクト形状となっており、発熱体9から離れた車両前方から空気を導入する構成となっている。これにより、モータ収容室51Aの外部から比較的低温の空気を取り込むことができ、効率良く発熱体9を冷却することができる。 【0044】 通風孔61Bには、通風孔61Bの出入り口の圧力差に応じて開口面積が機械的に変化する開口調整機構が備わる。開口調整機構は例えば、風圧式シャッター63であり、筺体56内の空気圧力が、周囲空気の外気圧力よりも開口し、筺体56内の空気が放出される。このように、筺体56の通風孔の一方に、通風孔前後の圧力差によって、機械的に開閉する開口調整機構を採用することで、空気制御弁62を新たに設置する必要がなく、簡素な放熱調整手段を提供することができる。 【0045】 通風孔61A(審決注:図1の記載からみて「61B」の誤記である。)には、さらに、筺体56への導入空気を圧送制御するための送風ファン64が備わる。送風ファン64は、モータ53,インバータ54から外気へ放熱すべき熱量、または暖房として回収すべき熱量に応じて回転数が制御される。 【0046】 制御装置65は、図示しない電線によって、冷却ユニット52,インバータ54,空気制御弁62,送風ファン64と電気的に接続されている。この制御装置65は、冷却ユニット52,モータ53,インバータ54の駆動状態や、車両の速度,周囲空気の温度,車室内空気の温度などの情報に基づいて、通風孔61Aと通風孔61Bに通すべき風量を演算し、空気制御弁62と送風ファン64の駆動状態を制御する。」 (イ)上記記載から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。 a. 段落【0017】、【0037】の記載から、モータ53のトルクは、減速機57で増幅されて、このトルクがドライブシャフト58により電気自動車の車輪へ伝達されることから、電気自動車の車輪に接続されるようモータ53は設けられている。 b. 引用文献1の段落【0023】ないし【0028】の記載より、車室の暖房運転時には、機器冷却媒体41Bは発熱体9によって加熱され(段落【0024】、【0027】)ていることから、熱が発熱体9から機器冷却媒体41Bに移動していることがわかり、これより、発熱体9は、機器冷却媒体41Bにより冷却されているといえる。 また、引用文献1の段落【0029】、【0030】の記載より、除霜運転時には、発熱体9からの排熱を熱源として利用するために、発熱体9が接続されている機器冷却媒体41Bの温度を高く保つことが記載されている。この記載より、機器冷却媒体41Bの温度を高く保つために、発熱体9から機器冷却媒体41Bへ熱が移動していることがわかるから、除霜運転時にも、発熱体9は、機器冷却媒体41Bにより冷却されているといえる。 さらに、引用文献1の段落【0031】ないし【0033】の記載より車室の冷房運転時には、機器冷却回路91Bに設けられた循環ポンプ5Bを駆動すると、発熱体9によって加熱された機器冷却媒体41Bが、冷却用熱交換器4Bにおける熱交換によって冷却される(段落【0033】)ことから、機器冷却媒体41Bへは、発熱体9から熱が移動していることがわかり、これより、発熱体9は、機器冷却媒体41Bにより冷却されているといえる。 そして、発熱体9に対応するものとして、引用文献1には、モータ53,インバータ54,減速機57が記載(段落【0038】)されている すなわち、車室の暖房運転時も除霜運転時、冷房運転時もモータ53,インバータ54,減速機57の発熱体9は、機器冷却媒体41Bにより冷却されている。また、モータ収容室51Aの外部から比較的低温の空気を取り込み発熱体9を冷却している(段落【0043】)。これらのことから、引用文献1には、モータ53を冷却するための方法が記載されているといえる。 c. 機器冷却回路91Bは、室内熱交換器7Aから流出された空気と熱交換する室内熱交換器7B,リザーバタンク6,機器冷却媒体41Bを循環させる循環ポンプ5B,冷却用熱交換器4B、およびモータ,インバータ,バッテリ等の発熱体9が順に環状に接続されていること(段落【0022】)から、機器冷却媒体41Bは、モータ53を冷却するために供給されているといえ、さらに、モータ53,インバータ54,減速機57の発熱体9が機器冷却媒体41Bが流通する配管55で接続されている(段落【0038】)ことから、機器冷却媒体41Bは、配管55を通してモータに供給されている。 d. 送風ファン64は、モータ53,インバータ54から外気へ放熱すべき熱量、または暖房として回収すべき熱量に応じて回転数が制御される(段落【0045】)ことから、送風ファン64は、モータ53を冷却するために通風孔61Bに備えられているといえる。通風孔61Aは、筺体56の車両前方側に配置され、通風孔61Aを通して周囲空気の外気が導入され、また、通風孔61Bは、筺体56の車両後方側に配置され、通風孔61Bを通して筺体56から空気が放出される(段落【0041】)ことと、通風孔61Bには、筺体56への導入空気を圧送制御するための送風ファン64が備わ(段落【0045】)り、発熱体であるモータ53等は、筐体56内に収納し(段落【0041】)ていることから、送風ファン64によって冷却のための空気をモータ53に向けて供給することができるといえる。 (ウ)上記(ア)、(イ)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。 「電気自動車の車輪に接続されるよう設けられるモータ53を冷却するための方法であって、前記モータ53を冷却するために、機器冷却媒体41Bが配管55を通して前記モータに供給され、前記モータ53を冷却するために、送風ファン64によって、冷却のための空気を前記モータ53に向けて供給することができ、前記送風ファン64が、モータ53の駆動状態に基づいて制御される、方法。」 イ 引用文献2 (ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開平1-174235号公報(平成1年7月10日出願公開。以下「引用文献2」という。)には、図面とともに、次の記載がある。(下線は、当審で付した。以下同じ。) a. 「2.特許請求の範囲 (1)ファンを内蔵し電機子巻線の温度が上昇したときにファンを回転させて冷却を行うモータ冷却制御装置であって、ファンを駆動するファン用モータとファンを回転部に連結する電磁係合手段を備え、電機子巻線の温度が上昇したときに回転速度を参照し、低速回転の場合にはファン用モータを起動し、高速回転の場合には電磁係合手段を作動させるように制御することを特徴とするモータ冷却制御装置。」(第1頁左下欄4行ないし同欄13行) b. 「〔産業上の利用分野〕 本発明は、ファンを内蔵し、モータの温度に応じてファンの回転速度を制御し冷却するモータ冷却制御装置に関する。 〔従来の技術〕 4輪駆動車において、前輪又は後輪の一方をエンジンで駆動し、他方をモータで駆動するハイブリッド車両に関して種々の提案がなされている。 第5図はハイブリッド車両の制御システム構成例を示す図、第6図は制御部の構成例を示す図である。図中、31はエンジン、32と36はコントローラ、33はバッテリー、34は充電量検出(バッテリー残量検出)装置、35は制御用コンピュータ、37と38はモータ、41は入力インターフェース、42はCPU、43はROM、44はRAM、45は出力インターフェイスを示す。 第5図において、エンジン31は前輪、モータ37、38は後輪を駆動するものであり、バッテリー33はモータ37、38の電源として使用するものである。充電量検出装置34は、例えばこのバッテリー33の電圧や電流から、或いは液の濃度や比重等からバッテリーの充電量を検出するものであり、その検出信号は制御用コンピュータに出力される。制御用コンピュータ35は、第6図に示すように例えばCPU42、ROM43、RAM44、入力インターフェイス41、出力インターフェイス45で構成し、アクセル開度、車速、シフトレバーの位置等から車両の駆動力を設定し、その車両の荷重配分に基づく前輪と後輪の各接地荷重から前輪と後輪のトルク配分値を設定する。そしてバッテリーの充電量が少ない場合にはモータへの配分値を減らし、その分エンジンへの配分値を増やすというように、充電量に応じてトルク配分値を補正してコントロール装置32、36にトルク配分値を出力する。エンジンのコントロール装置32は、トルク配分値に応じてスロットル開度、または燃料噴射量を制御することによりエンジンのトルクを制御するものであり、モータのコントロール装置36は、トルク配分値に応じてモータに流す電流を制御することによりモータのトルクを制御するものである。 車両の駆動用としてモータを利用した場合、バッテリーを電源とすることから当然上記のようにバッテリーの残量が問題になることは勿論、モータの温度上昇も大きな問題となる。この温度上昇は、その使用限界や寿命に影響する。特に、車両の場合には、運転時間や使用時間も長くなり、また、移動しているため、運転中にモータが使用不能になると、車両の走行ができなくなるということになる。そこで、従来より例えばモータのシャフトにファンを取り付けてモータの回転力を利用してファンを駆動し空冷する構造のものが採用される。」(第1頁右下欄6行ないし第2頁右上欄18行) c. 「第4図は本発明に係るモーター冷却制御装置を組み込んだモータの構造例を示す図であり、11は回転軸、12は電磁石コイル、13と20は永久磁石、14はロータコイル、15と23はエアフィルタ、16はファン、17は温度センサ、18はフレーム、19は電機子鉄心、21は電機子巻線、22はベアリング押さえ板、24はカップリング、25は位置センサ、D_(1)とD_(2)は円板を示す。 第4図において、電磁石コイル12は、フレーム18側に固定され、この電磁石コイル12に対向してディスクD_(1)とD_(2)が設けられる。ディスクD_(1)は、電磁石コイル12との間で一定の隙間を確保するように回転軸11に固定されている。ディスクD_(2)は、ファンのロータコイル14側にスライド可能なようにスプライン嵌合され、図示しないが例えばバネ等によってディスクD_(1)との間で一定の隙間を確保するような位置に保持されている。また、ファン16にはロータコイル14を設け、その内側対向面のフレーム側に永久磁石13を設ける。従って、ロータコイル14に通電すると、永久磁石13との間で回転トルクが発生して回転し、ファン16を回転させるので、電機子巻線21には、ファンから送風され、冷却される。」(第3頁左下欄13行ないし同頁右下欄17行) (イ) 以上のことから、引用文献2には、従来の技術として、前輪をエンジン31で駆動し、後輪をモータ37,38で駆動するハイブリッド車両であって、2つの後輪のそれぞれを2つのモータ37,38で駆動するものについて記載され、さらに、これらのモータの温度上昇が大きな問題となることが記載されており、これを解決する発明として、メインモータに冷却のためのファン16とこのファンを駆動するロータコイル14,永久磁石13をモータに組み込むことが記載されている。したがって、引用文献2には、「2つの駆動輪のそれぞれにモータが設けられており、さらに、これらのモータそれぞれに冷却のためのファンを設けること」(以下、「引用文献2に記載された技術」という。)が記載されているといえる。 (4)引用発明1との対比 ア 本件補正発明と引用発明1とを対比する。 引用発明1の「電気自動車」は、自動車の一種であるから、本件補正発明の「自動車」に相当し、引用発明の「車輪」は、モータからのトルクを受けて、電気自動車を駆動するものであるから、本件補正発明の「駆動輪」に相当する。また、引用発明1の「モータ53」、「配管55」、「送風ファン64」、「冷却のための空気」は、それぞれ本件補正発明の「電気機械」、「流体ライン」、「ファン装置」、「冷却空気」に相当する。 引用発明1の「機器冷却媒体41B」は、液体か気体かは不明であるが、本件補正発明の「冷却液」とは、熱を伝える「冷却媒体」である点で共通する。 引用発明1の「電気自動車の車輪に接続されるよう設けられるモータ53」と本願補正発明の「自動車(10)の2つの駆動輪18L、18Rのそれぞれに対応して接続されるよう対をなして設けられる電気機械(14、16)」とは、「自動車の駆動輪に接続されるよう設けられる電気機械」である点で共通する。 また、引用発明1の「前記送風ファン64が、モータ53の駆動状態に基づいて制御される」ことと、本願補正発明の「前記ファン装置(30、32)および/または前記冷却液(36)の供給が、前記電気機械(14、16)の速度(n)および/またはトルク(M)に応じて制御される」こととは、「前記ファン装置が、電気機械の駆動状態に応じて制御される」点で共通する。 イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明1との一致点及び相違点は、次のとおりである。 【一致点】 「自動車の駆動輪に接続されるよう設けられる電気機械を冷却するための方法であって、前記電気機械を冷却するために、冷却媒体が流体ラインを通して前記電気機械に供給され、前記電気機械を冷却するために、ファン装置によって、冷却空気を前記電気機械に向けて供給することができ、前記ファン装置が、電気機械の駆動状態に応じて制御される、方法。」 【相違点1】 冷却対象であって、駆動輪に接続される電気機械が、本件補正発明では、「2つの駆動輪18L、18Rのそれぞれに対応して接続されるよう対をなして設けられ」ており、さらに、「電気機械(14、16)のそれぞれに対応して1つずつ」ファン装置(30、32)が設けられているのに対し、引用発明1では、モータ53が「電気自動車の車輪に接続されるよう設けられ」、このモータ53に向けて送風ファン64によって、冷却のための空気を供給することができるものではあるものの、2つの駆動輪にそれぞれ接続される複数のモータを備えてはいない点。 【相違点2】 電気機械が、本件補正発明では、「コイル装置と、前記コイル装置に対して回転可能に取り付けられた回転子とを有」することが特定されているのに対し、引用発明1では、モータ53の構成が特定されていない点。 【相違点3】 電気機械を冷却する冷却媒体について、本件補正発明では、「冷却液」であるのに対し、引用発明1では、「機器冷却媒体」であるものの、液体であることは特定されていない点。 【相違点4】 ファン装置と冷却液の供給の制御について、本件補正発明では、「前記ファン装置(30、32)および/または前記冷却液(36)の供給が、前記電気機械(14、16)の速度(n)および/またはトルク(M)に応じて制御される」のに対し、引用発明1は、「送風ファン64は、モータ53の駆動状態に基づいて制御される」と特定されるにとどまる点。 (5)判断 以下、相違点について検討する。 ア 相違点1について まず、上記、(3)イ(イ)の通り、2つの駆動輪のそれぞれにモータが設けられており、さらに、これらのモータそれぞれに冷却のためのファンを設けることは引用文献2に記載された技術である。 また、左右駆動輪を独立した電動機で駆動すると共に、これらの電動機をそれぞれ冷却することは、本願の優先日前において周知技術(周知例として特開2008-195233号公報(【請求項1】(「左右に配置された車輪の各々に設けられたインホイールモータを搭載する車両であって、…上記左右のインホイールモータに、これらを冷却するオイルを供給するオイル供給手段と、…を備え、…」)、【図1】参照)、特開2010-195176号公報(【0017】(…車両1の左右方向で内燃機関2と右車輪3との間には、右電動機7が配置され、車両1の左右方向で内燃機関2と左車輪4との間には、左電動機8が配置されている。…右電動機7および左電動機8の動力が、前輪または後輪に伝達される構成である。また、内燃機関2の動力が、前輪または後輪に伝達される構成である。)、【0023】(…高温となった電動機に向けて、エアコン9から…冷風を供給し、その電動機を冷却する制御をおこなう。…この制御により、電動機7,8の温度を低下させることができ、電動機7,8の機能に悪影響を与えること(効率が低下すること)を防止できる。…)、【図1】参照)がある。)でもある。 ここで、引用発明1は左右の車輪を減速機等を介してモータ53で駆動するもの(段落【0037】及び【図7】参照)といえる。一方、左右の車輪をモータで駆動するために、個別に冷却することができる2つのモータによりこれらの車輪を駆動することは、上記のように引用文献2に記載されており、また周知技術でもある。 そして、引用発明1も引用文献2に記載された事項も、左右の車輪をモータで駆動するものである点で共通することから、左右の車輪を駆動する手段として、引用文献2に記載された2つの駆動輪をそれぞれのモータで駆動すると共に、これらのモータをそれぞれ冷却するようにして、上記相違点1の本件補正発明の構成を得ることは当業者が容易になし得たことである。 また、同様に、引用発明1も上記周知技術も左右の車輪をモータで駆動するものである点で共通することから、上記周知技術を引用発明1に適用して、左右の車輪を2つの電動機により駆動するようにし、周知技術の電動機を冷却する手段は、電動機それぞれに設けられていることから、これらの電動機をそれぞれ冷却するようにして、上記相違点1の本件補正発明の構成を得ることは当業者が容易になし得たことである。 イ 相違点2について 一般に、電気により駆動するモータは、コイル装置と、前記コイル装置に対して回転可能に取り付けられた回転子とを有しており(例えば、引用文献2の第4図参照。)、引用発明1のモータ53も引用文献1に明記はないが、コイル装置と、このコイル装置に対して回転可能に取り付けられた回転子とを有していると解され、相違点2は、実質的な相違点ではないといえるし、仮にそうでないとしても、コイル装置と、このコイル装置に対して回転可能に取り付けられた回転子とを有した電動機は文献を提示するまでもなく周知であるから、引用発明1に記載されたモータをこのように構成して、本件補正発明の相違点2に係る構成を得ることは当業者が適宜なし得た事項である。 ウ 相違点3について 自動車を駆動するモータの冷却のための冷却媒体を液体とすることは、本願の優先日前において周知技術(周知例として、特開2008-195233号公報(段落【0006】(「通常、トラクションモータの冷却は潤滑油と兼用のオイルによって行われる。…またそのオイル経路中にオイルを冷却するオイルクーラーを設け、冷却されたオイルをトラクションモータに供給することにより、効果的な冷却を図ることができる。」)参照)、特開2008-256313号公報(段落【0026】(…図1に示す回転電機システムは、回転電機16と、インバータ18と、回転電機16及びインバータ18を冷却する冷却システムと、を備える。図1に示す回転電機システムが備える冷却システムは、冷却液の循環路10、ウォータポンプ12、及びラジエータ14を含む。」)、参照)がある。)である。そして、引用発明1のモータ53等の発熱体9を冷却する機器冷却媒体41Bは、二方弁25,26、室内熱交換器7B、リザーバタンク6,循環ポンプ5Bを含む循環回路を流れることができる媒体(引用文献1の図2参照)であって、上記周知技術に示される冷却媒体は、オイルクーラーにより冷却ができ、またウォータポンプ及びラジエータを含む循環回路を流れることができる媒体であるから、引用発明1の機器冷却媒体を周知技術である液体の冷却媒体として、本件補正発明の相違点3に係る構成を得ることは当業者が容易になし得た事項である。 エ 相違点4について まず、本願補正発明の「前記ファン装置(30、32)および/または前記冷却液(36)の供給が」制御されることには、ファン装置が制御され、冷却液の供給についての制御は特定されていない発明が含まれることから、送風ファン64が制御されることが特定されている引用発明1と、この点において相違はない。 次に、モータの駆動状態とは、一般にモータの速度、トルク等をいい、モータの冷却のために用いられる駆動状態を表す量としてもモータの速度あるいはトルクが含まれることは周知技術(例えば、特開2011-130642号公報(【0026】(…モータ1の回転速度とトルクで決まる作動領域が、第一作動領域…に加えて、第二作動領域…を含むようにすることにより、運転領域を広げる。第一作動領域を、平坦路をほぼ一定の速度で走行するときなどの定常走行時に必要な軽負荷時の作動領域とするとともに、第二作動領域を、定常走行時よりも大きなトルクと出力が必要な発進時、加速時、登坂時などの重負荷時の作動領域とする。)及び【0028】(「また、この一実施の形態では、モータ1とインバータ装置2の冷却システムの冷却能力を上記図4に示すモータの回転速度-トルク特性に基づいて制御する。…上記第一作動領域と第二作動領域とを考慮して冷却能力を制御し、トルクと出力が大きな第二作動領域における冷却能力を第一作動領域における冷却能力よりも高くする。…」)参照。))である。引用発明1と周知技術とはモータの冷却制御に関する技術である点で共通するから、引用発明1のモータ53の駆動状態として、モータ53の速度又はトルクとし、上記相違点4に係る本件補正発明の構成を得ることは当業者が適宜なし得た事項である。 オ そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明1及び引用文献2に記載された技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。 カ したがって、本件補正発明は、引用発明及び引用文献2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3.補正の却下の決定のむすび 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項に規定する要件に違反するものであり、また、仮に、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当したとしても、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものである。したがって、本件補正は、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1.本願発明 平成29年5月31日付け手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項8に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成28年8月31日にされた手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項8に記載された、前記第2の[理由]1.(2)に記載のとおりのものであると認められる。 2.原査定における拒絶の理由 請求項8に対する原査定の拒絶の理由は、本願の優先権主張の日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 3.引用文献 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の記載事項は、前記第2 [理由]2.(3)ア.(ア)及び(イ)に記載した事項に加えて、次の事項も記載されている。 (1) 「冷却ユニット52,モータ53,インバータ54の駆動状態や、車両の速度,周囲空気の温度,車室内空気の温度などの情報に基づいて、通風孔61Aと通風孔61Bに通すべき風量を演算し、空気制御弁62と送風ファン64の駆動状態を制御」(段落【0046】)しており、空気制御弁62は、「筺体56と周囲環境との空気の出入りを抑制したいときには空気制御弁62を閉じる方向に制御され、空気の出入りを促進したいときには空気制御弁62を開ける方向に制御される」(段落【0042】)ものであって、これにより「通風量を調整可能な調整機構が備わり、モータ53,インバータ54,配管55,減速機57から空気への放熱量が制御される」(段落【0042】)から、冷却のための空気の通風量がモータ53の駆動状態に基づいて制御されているといえる。 (2)上記(1)及び、前記第2 [理由]2.(3)ア.(ア)及び(イ)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1’」という。)が記載されていると認められる。 「電気自動車のモータ53を冷却するための方法であって、 前記モータ53を冷却するために、機器冷却媒体41Bが配管55を通して前記モータに供給され、 前記モータ53を冷却するために、送風ファン64によって、冷却のための空気を前記モータ53に供給することができ、前記送風ファン64および前記冷却のための空気の通風量が、前記モータ53の駆動状態に基づいて制御される、方法。」 4.対比・判断 (1)本願発明と引用発明1’とを対比する。 引用発明1’の「電気自動車」は、自動車の一種であるから、本願発明の「自動車」に相当する。また、引用発明1’の「モータ53」、「配管55」、「送風ファン64」、「冷却のための空気」は、それぞれ本願発明の「電気機械」、「流体ライン」、「ファン装置」、「冷却空気」に相当する。 引用発明1’の「機器冷却媒体41B」は、液体か気体かは不明であるが、本願発明の「冷却液」と、熱を伝える冷却媒体である点で共通する。 引用発明1’の「前記送風ファン64および前記冷却のための空気の通風量が、前記モータ53の駆動状態に基づいて制御される」ことと、本願発明の「前記ファン装置(30、32)および前記冷却空気供給が、前記電気機械(14、16)の速度(n)および/またはトルク(M)に応じて制御される」こととは、「前記ファン装置(30、32)および前記冷却空気供給が、前記電気機械(14、16)の駆動状態に応じて制御される」ことで共通する。 イ 以上のことから、本願発明と引用発明1’との一致点及び相違点は、次のとおりである。 【一致点】 自動車の電気機械を冷却するための方法であって、前記電気機械を冷却するために、冷却媒体が流体ラインを通して前記電気機械に供給され、前記電気機械を冷却するために、ファン装置によって、冷却空気を前記電気機械に供給することができ、前記ファン装置および前記冷却空気の供給が、前記電気機械の駆動状態に応じて制御される、方法。 【相違点A】 電気機械が、本願発明では、「コイル装置と、前記コイル装置に対して回転可能に取り付けられた回転子とを有」することが特定されているのに対し、引用発明1’では、モータ53の構成が特定されていない点。 【相違点B】 電気機械を冷却する冷却媒体について、本願発明では、「冷却液」であるのに対し、引用発明1’では、「機器冷却媒体」であるものの、液体であることは特定されていない点。 【相違点C】 ファン装置および冷却空気供給が、本願発明では、「電気機械(14、16)の速度(n)および/またはトルク(M)に応じて制御される」のに対し、引用発明1’では、送風ファン64および冷却のための空気の通風量が、モータ53の駆動状態に基づいて制御されるものの、このモータ53の駆動状態が、モータ53の速度およびトルクであることを特定していない点。 (2)判断 上記相違点について判断する。 ア 相違点Aおよび相違点Bについて 上記相違点Aおよび相違点Bは、本件補正発明と引用発明1との相違点2および相違点3と実質的に同じであって、上記 第2[理由] 2.(5)イ 及び ウ に示した判断と同様の判断により、本願発明の相違点A及び相違点Bに係る構成を得ることは当業者が容易になし得た事項である。 イ 相違点Cについて モータの駆動状態とは、一般にモータの速度、トルク等をいい、モータの冷却のために用いられる駆動状態を表す量としてもモータの速度あるいはトルクが含まれることは周知技術(例えば、特開2011-130642号公報(【0026】(…モータ1の回転速度とトルクで決まる作動領域が、第一作動領域…に加えて、第二作動領域…を含むようにすることにより、運転領域を広げる。第一作動領域を、平坦路をほぼ一定の速度で走行するときなどの定常走行時に必要な軽負荷時の作動領域とするとともに、第二作動領域を、定常走行時よりも大きなトルクと出力が必要な発進時、加速時、登坂時などの重負荷時の作動領域とする。)及び【0028】(「また、この一実施の形態では、モータ1とインバータ装置2の冷却システムの冷却能力を上記図4に示すモータの回転速度-トルク特性に基づいて制御する。…上記第一作動領域と第二作動領域とを考慮して冷却能力を制御し、トルクと出力が大きな第二作動領域における冷却能力を第一作動領域における冷却能力よりも高くする。…」)参照。))である。引用発明1’と周知技術とはモータの冷却制御に関する技術である点で共通するから、引用発明1’のモータ53の駆動状態として、モータ53の速度又はトルクとし、上記相違点Cに係る本願発明の構成を得ることは当業者が適宜なし得た事項である。 ウ そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本願発明の奏する作用効果は、引用発明1’の奏する作用効果及び技術常識から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。 第4 むすび 上記のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
|
審理終結日 | 2018-05-21 |
結審通知日 | 2018-05-23 |
審決日 | 2018-06-05 |
出願番号 | 特願2015-111814(P2015-111814) |
審決分類 |
P
1
8・
57-
Z
(H02K)
P 1 8・ 575- Z (H02K) P 1 8・ 121- Z (H02K) P 1 8・ 121- Z (H02K) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 柿崎 拓、三澤 哲也、田村 耕作 |
特許庁審判長 |
藤井 昇 |
特許庁審判官 |
長馬 望 久保 竜一 |
発明の名称 | 自動車用の電気機械および電気機械を冷却するための方法 |
代理人 | 岡島 伸行 |