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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41N
管理番号 1345367
審判番号 不服2017-15333  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-10-16 
確定日 2018-10-18 
事件の表示 特願2016-524476「ネガ型感熱性平版印刷版前駆体」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 5月14日国際公開、WO2015/067581、平成28年12月22日国内公表、特表2016-539821〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年11月4日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2013年11月7日、欧州)を国際出願日とする出願であって、平成28年4月18日付け、及び平成29年6月15日付けで手続補正書が提出され、同年7月3日付けで拒絶の査定がなされ、これに対し、同年10月16日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。


第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、上記平成29年6月15日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認められる。(以下「本願発明」という。)

「-砂目処理および陽極酸化処理された支持体、および
-その上に備えられたコーティング、該コーティングは疎水性の熱可塑性ポリマー粒子、結合剤および赤外線吸収染料を含んでなる画像記録層を含む
を含み、支持体の砂目処理そして陽極酸化処理された表面が55から75の間のCIE1976L^(★)-値を有することを特徴とする感熱性ネガ型平版印刷版前駆体。」


第3 引用刊行物
1.刊行物1
原査定の拒絶理由で引用された、本願の優先日前である2009年6月24日に頒布された刊行物である欧州特許出願公開第2072570号明細書(以下「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。(なお、括弧内の訳文は、当審が作成した。また、下線は審決で付した。以下同じ。)
(1)「[0001] The present invention relates to a heat-sensitive, negative-working lithographic printing plate precursor.」
([0001] 本発明は、感熱性、ネガ作用性の平版印刷版前駆体に関する。)
(2)「[0009] However, it has been observed that a disadvantage of precursors comprising such IR-dyes may be a poor stability when stored under daylight conditions. It seems that such IR-dyes may be oxidised when the precursors are stored under daylight. This instability may result in a loss of sensitivity, a worsening of the clean-out behaviour, i.e. removal of the non-image areas during development, and a change of colour of the precursor. These phenomena become more pronounced under prolonged storage under daylight conditions. Exposure to daylight may occur, for example, for the uppermost precursor of a stack of precursors loaded in a platesetter. It has been observed that, when the platemaking process is resumed, for example after a couple of days, the lithographic properties of such an uppermost precursor of a stack of precursors may have changed compared with the other precursors of the stack.」
([0009] しかしながら、そのようなIR-染料を含む前駆体の欠点は、昼光条件下で保存された場合の安定性が低いことがあることが観察されている。このようなIR染料は、前駆体が昼光下で保存されると酸化されるようである。この不安定性は、感度の低下、クリーンアウト挙動の悪化、すなわち現像中の非画像領域の除去、および前駆体の色の変化をもたらし得る。これらの現象は、昼間の条件下での長期保存下でより顕著になる。昼光への曝露は、例えば、プレートセッターに装填された前駆体のスタックの最上部の前駆体について起こり得る。例えば数日後に、製版プロセスが再開されるとき、前駆体のスタックのこのような最上部の前駆体のリソグラフィ特性は、スタックの他の前駆体と比較して変化している可能性があることが観察されている。)
(3)「[0013] Infrared radiation absorbing dye (IR-dye)」
([0013] 赤外線吸収染料(IR染料))
(4)「[0027] …The amount of thermoplastic polymer particles is preferably at least 50, more preferably at least 60, most preferably at least 70 % by weight relative to the total weight of all the ingredients in the image-recording layer.…」
([0027] …熱可塑性ポリマー粒子の量は、好ましくは画像記録層中の全成分の全重量に対して少なくとも50重量%、より好ましくは少なくとも60重量%、最も好ましくは少なくとも70重量%である。…)
(5)「[0034] The image-recording layer may further comprise a hydrophilic binder. Examples of suitable hydrophilic binders are homopolymers and copolymers of vinyl alcohol, (meth)acrylamide, methylol (meth)acrylamide, (meth)acrylic acid, hydroxyethyl (meth)acrylate, maleic anhydride/vinylmethylether copolymers, copolymers of (meth)acrylic acid or vinylalcohol with styrene sulphonic acid. Preferably, the hydrophilic binder comprises polyvinylalcohol or polyacrylic acid.」
([0034] 画像記録層は親水性バインダーをさらに含んでいてもよい。好適な親水性バインダーの例は、ビニルアルコール、(メタ)アクリルアミド、メチロール(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートの単独重合体または共重合体、無水マレイン酸/ビニルメチルエーテル共重合体、(メタ)アクリル酸またはビニルアルコールとスチレンスルホン酸との共重合体である。好ましくは、親水性バインダーは、ポリビニルアルコールまたはポリアクリル酸を含む。)
(6)「[0051] It has been observed that when using the IR-dyes according to the present invention, a grained and anodized aluminum support without any post-anodic treatment may also be used. It has been observed that when using such a support a higher sensitivity of the precursor and especially a higher press run length with the obtained plate may be realized. When using such a support without any post-anodic treatment, it is preferred to develop the exposed precursor in an alkaline aqueous solution to ensure a sufficient clean-out behaviour.」
([0051] 本発明によるIR-染料を使用する場合には、ポストアノード処理をしない、砂目立ておよび陽極酸化されたアルミニウム支持体を使用することもできることが観察された。このような支持体を使用する場合、前駆体のより高い感度、特に得られるプレートによるより高いプレスラン長さが実現され得ることが観察された。ポストアノード処理を行わずにこのような支持体を使用する場合、十分なクリーニング挙動を確保するために、露出した前駆体をアルカリ性水溶液中で現像することが好ましい。)
(7)「Claims
1. A lithographic printing plate precursor comprising a coating provided on a support having a hydrophilic surface, the coating containing thermoplastic polymer particles and an IR-dye characterized in that the IR-dye contains a structural element according to Formula I,


wherein
A represents hydrogen, halogen or a monovalent organic group;
Y and Y' independently represent -CH- or -N-;
R^(1) and R^(2) independently represent hydrogen, an optionally substituted alkyl or aryl group or represent the necessary atoms to form a ring;
* represent the linking positions to the rest of the molecule.」
(特許請求の範囲
1.親水性表面を有する支持体上に設けられたコーティングを含む平版印刷版前駆体であって、コーティングは熱可塑性ポリマー粒子および式Iの構造要素を含むことを特徴とするIR染料を含む平版印刷版前駆体。

Aは、水素、ハロゲン又は1価の有機基を表す。
YおよびY’は独立して-CH-又は-N-を表し;
R^(1)およびR^(2)は、独立して、水素、置換されていてもよいアルキルまたはアリール基、または環を形成するのに必要な原子を表す。
^(*)は分子の残りの部分への結合位置を表す。)
(8)上記(4)、(5)、及び(7)より、特許請求の範囲の「コーティング」は、「画像記録層」を含み、該「画像記録層」は、親水性バインダー、熱可塑性ポリマー粒子および式Iの構造要素を含む赤外線吸収染料が含まれるといえる。

上記の記載事項から、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「親水性表面を有する砂目立ておよび陽極酸化されたアルミニウム支持体上に設けられたコーティングを含む平版印刷版前駆体であって、コーティングは、親水性バインダー、熱可塑性ポリマー粒子および式Iの構造要素を含む赤外線吸収染料を含む画像記録層、を含む、感熱性、ネガ作用性の平版印刷版前駆体。

Aは、水素、ハロゲン又は1価の有機基を表す。
YおよびY’は独立して-CH-又は-N-を表し;
R^(1)およびR^(2)は、独立して、水素、置換されていてもよいアルキルまたはアリール基、または環を形成するのに必要な原子を表す。
^(*)は分子の残りの部分への結合位置を表す。)」

2.刊行物2
原査定の拒絶理由で引用された、本願の優先日前である平成12年2月29日に頒布された刊行物である特開2000-62333号公報(以下「刊行物2」という。)には、次の事項が記載されている。
(1)「【請求項1】 表面再結晶粒の圧延方向と直交する方向における長さが3?60μmで、その99wt%以上がアルミニウムからなり、かつ表面粗さRa:0.2?0.4μm及びSm:20?70μmで、陽極酸化後におけるCIELAB空間で表されるL^(*) (メトリック明度)が40?70の粗面を有し、蛍光X線測定によるS含有量が1500?1500000CPSからなる陽極酸化膜を設けてなる支持体上に赤外線レーザー用感光材料が塗設されているとともに、レーザー露光、現像処理した後の表面Si量が1?25atm.%であることを特徴とする平版印刷版。」
(2)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、平版印刷版に関するもので、特にアルミニウム支持体上の記録材料にコンピューター等のデジタル信号から赤外線レーザーを用いて直接画像を形成することができるダイレクト製版可能な平版印刷版に関するものである。」
(3)「【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解決し、高感度で優れた画像再現性、解像力を実現し、優れた感光層との密着性、耐刷性、汚れにくさ、親水性、保水性を維持しつつ、安定に製造できる、赤外線レーザーにより直接製版可能な平版印刷版を提供することである。さらに、ネガ型レーザー記録材料としては、高感度で画像部の強度が高く、耐キズ性を有し、指紋跡汚れなどを発生しない平版印刷版を提供することである。また、ポジ型レーザー記録材料としては、耐アルカリ性及び現像性に優れた印刷汚れを発生しない平版印刷版を提供することである。」
(4)「【0009】
【発明の実施の形態】…この様に調整したアルミニウム板を用いることで、後述される表面処理(砂目立て処理、アルカリエッチング処理や陽極酸化処理)により、均一でムラのない、レーザー照射に適した表面を得ることが可能になる。」
(5)「【0013】しかし、本発明において好ましい表面はRaが0.2?0.4μm、Rzが2?5μm、Rmaxが2?5μm、Rpが0.5?1.5μm、Smが20?70μmである。この範囲に砂目の形状を制御することで、ハレーション防止が有効であった。また、ハレーション防止には、砂目の凹凸が少ない方が良好で、この表面は特開昭62-94391号公報に開示されている中心線表面粗さRaの3倍のカッティング深さCvにおけるアッボット曲線による非空隙率(%)が15%?35%であることが重要である。また、特開昭62-150353号公報に開示されている中心線平均粗さ(Ra)の3倍の切断深さにおけるベアリング当たり面積(tpmi)は10?50%の粗面が好ましい。これらの表面形状を規定するファクターのうち、特にRa値とSm値がある関係になっていることが、赤外線レーザー光のハレーション防止に有効であることを見い出し、本発明をなすに至った。本発明において、特に好ましいRaは0.25?0.35μmであり、Smは30?60μmである。」
(6)「【0020】〔ネガ型赤外線レーザー記録材料〕有用なネガ型赤外線レーザー露光可能な刷版材料として、(A)光または熱により分解して酸を発生する化合物、(B)酸により架橋する架橋剤、(C)アルカリ可溶性樹脂、(D)赤外線吸収剤、(E)一般式(R1?X)n?Ar?(OH)mで表される化合物{R1:C6?C32のアルキル基またはアルケニル基;X:単結合、O、S、COO、CONH;Ar:芳香族炭化水素基、脂肪式炭化水素基または複素環基;n=1?3、m=1?3}からなる組成物が有用である。このネガ型版材は現像後に指紋が付きやすく、画像部の強度が弱いという欠点の解決が望まれていたが、本発明によりこの欠点が解消される。以下に、このネガ型版材の構成成分について詳述する。
(A)光または熱により分解して酸を発生する化合物としては、特願平3-140109号明細書に記載されているイミノスルフォネート等に代表される、光分解してスルホン酸を発生する化合物が挙げられ、200?500nmの波長の照射又は100℃以上の加熱により酸を発生する化合物を指す。好適な酸発生剤としては、光カチオン重合開始剤、光ラジカル重合の開始剤、色素類の光消色剤、光変色剤などが用いられる。これらの酸発生剤は、画像記録材料全固形分に対して0.01?50wt%添加される。
(B)酸により架橋する架橋剤としては(i)アルコキシメチル基、若しくはヒドロキシル基で置換された芳香族化合物、(ii)N-ヒドロキシメチル基、N-アルコキシメチル基、若しくはN-アシルオキシメチル基を有する化合物、(iii)エポキシ化合物が好ましい。
(C)アルカリ可溶性樹脂としては、ノボラック樹脂や側鎖にヒドロキシアリール基を有するポリマーが挙げられる。
(D)赤外線吸収剤からなる組成物としては、760?1200nmの赤外線を有効に吸収するアゾ染料、アントラキノン染料、フタロシアニン染料などの市販染料又はカラーインデックスに記載されている黒色顔料、赤色顔料、金属粉顔料、フタロシアニン系顔料である。また、画像の見やすさを向上させるためにオイルイエロー、オイルブルー#603などの画像着色剤を添加することが好ましい。また、塗膜の柔軟性改善のため、ポリエチレングリコールやフタル酸エステルのような可塑剤を添加することができる。」
(7)「【0037】〔実施例2〕実施例1と同様に表面再結晶粒の幅が30μmとなるように調整したJIS1050A-H18アルミニウム表面(Fe固溶量17ppm、Si析出量12ppm)を1%硝酸電解液中で500C/dm^(2) の陽極時電気量で、交番波形を用いて砂目立てをした。この時のアルミニウム表面はRa0.27μm、Rmax2.6μm、Rz2.3μm、Rp1.0μm、Sm48.3μmであった。引き続き表面をアルカリで0.5g/m^(2)溶解し、硫酸で中和した後、硫酸電解で表面にS含有有量が65000cpsとなるように酸化膜を設けた。表面のL^(*) は55であった。上記アルミニウム板上に下記の下塗り層を設けた後、下記のネガ型赤外レーザー露光可能な刷版用感光層を設けた。
【0038】
〔下塗り液〕
・β-アラニン ・・・ 0.1g
・フェニルホスホン酸 ・・・ 0.05g
・メタノール ・・・ 40g
・純水 ・・・ 60g
乾燥後の下塗り液の塗布量は11mg/m^(2)であった。引き続き感光層を設けるのであるが、その前に、下記の架橋剤を製造した。
〔架橋剤Aの製造〕1-{α-メチルーα?(4?ヒドロキシフェニル)エチル}?4-{α、α-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エチル}ベンゼンを水酸化カリウム水溶液中でホルマリンと反応させた。反応液を硫酸酸性とし、晶析させ、92%純度の架橋剤Aを得た。次に、下記感光材を調製し、この溶液を、上記の下塗り済みのアルミニウム板にワイヤーバーを用いて塗布し、100℃で1分間乾燥してネガ型平版印刷版を得た。乾燥後の被覆量は1.5g/m^(2)であった。
【0039】
〔ネガ型レーザー記録材料用感光材〕
・ノニルフェノール ・・・ 0.05g
・2,4,6-トリメトキシジアゾニウム2,6-ジメ
チルベンゼンスホネート ・・・ 0.3g
・架橋剤A ・・・ 0.5g
・ポリ(p-ヒドロキシスチレン)マルカリンカーMS
-4P(商品名、丸善石油(株)製) ・・・ 1.5g
・2,6ヂメチレン-(4,5-ナフタレンー1,3,
3-トリメチルピロール)-4-モノクロロ-5,6
-プロパン-ヘプテン-メチルベンゼンスルホネート
(シアニン色素) ・・・ 0.07g
・アイゼンスピロンブルーC-RH(保土ヶ谷化学(株
)製) ・・・0.035g
・メガファックF-177(大日本インキ化学工業(株
)製) ・・・ 0.01g
・メイルエチルケトン ・・・ 12g
・メチルアルコール ・・・ 10g
・1-メトキシー2-プロパノール ・・・ 8g」
(8)上記(4)、及び(5)より、アルミニウムの粗面化は、砂目立て処理によるものといえる。
(9)上記(1)、(6)及び(7)より、【請求項1】の「赤外線レーザー用感光材料」は、760?1200nmの赤外線を有効に吸収するアゾ染料を構成成分とし、ポリエチレングリコール可塑剤が添加されているものであって、表面のL^(*) は55であるといえる。

上記(1)乃至(9)から、刊行物2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。
「表面再結晶粒の圧延方向と直交する方向における長さが3?60μmで、その99wt%以上がアルミニウムからなり、かつ砂目立て処理による表面粗さRa:0.2?0.4μm及びSm:20?70μmで、陽極酸化後におけるCIELAB空間で表されるL^(*) (メトリック明度)が55の粗面を有し、蛍光X線測定によるS含有量が1500?1500000CPSからなる陽極酸化膜を設けてなる支持体上に、760?1200nmの赤外線を有効に吸収するアゾ染料を構成成分とし、ポリエチレングリコール可塑剤が添加されている赤外線レーザー用感光材料が塗設されているとともに、レーザー露光、現像処理した後の表面Si量が1?25atm.%である平版印刷版。」


第4 対比
そこで、本願発明と引用発明1とを対比すると、
後者の「砂目立て」、「陽極酸化」、「アルミニウム支持体」、「(アルミニウム支持体の)上に備えられたコーティング」、「親水性バインダー、熱可塑性ポリマー粒子および式Iの構造要素を含む赤外線吸収染料を含む画像記録層」、及び「感熱性、ネガ作用性の平版印刷版前駆体」は、それぞれ、前者の「砂目処理」、「陽極酸化(処理)」、「支持体」、「(支持体の)上に備えられたコーティング」、「疎水性の熱可塑性ポリマー粒子、結合剤および赤外線吸収染料を含んでなる画像記録層」、及び「感熱性ネガ型平版印刷版前駆体」に相当する。

したがって、両者は、
「-砂目処理および陽極酸化処理された支持体、および
-その上に備えられたコーティング、該コーティングは疎水性の熱可塑性ポリマー粒子、結合剤および赤外線吸収染料を含んでなる画像記録層を含む、感熱性ネガ型平版印刷版前駆体。」
の点で一致し、以下の点で一応相違する。

[相違点]
本願発明が、支持体の「表面が55から75の間のCIE1976L^(★)-値を有する」のに対し、引用発明1は、その点が明らかでない点。


第5 判断
上記相違点について以下検討する。
引用発明2の「砂目立て処理」、「陽極酸化」、「支持体」、「赤外線レーザー用感光材料」、「ポリエチレングリコール可塑剤」、及び「赤外線を有効に吸収するアゾ染料」は、それぞれ、本願発明の「砂目処理」、「陽極酸化(処理)」、「支持体」、「コーティング」、「疎水性の熱可塑性ポリマー粒子」、及び「赤外線吸収染料」に相当する。
引用発明2の「平版印刷版」は、支持体上に赤外線レーザー用感光材料が塗設されているものであるから、「感熱性平版印刷版前駆体」といえる。
引用発明2の「支持体」は、CIELAB空間で表されるL^(*) (メトリック明度)が55の粗面を有すから、本願発明の「表面が55から75の間のCIE1976L^(★)-値を有する」に包含される。
そうすると、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項は、引用発明2に示されているといえる。
そして、引用発明1と引用発明2とは、平版印刷版前駆体という技術分野に属する点で共通する。
また、引用文献1には、上記「第3 1. (2)」に示されているように、感熱印刷版前駆体の感度の低下、すなわち、感光性の低下を懸念していることから、高感度の印刷版を提供することであり、引用発明2は、上記「第3 2. (3)」に示されているように、高感度で優れた画像再現性を実現した平板印刷板を提供することであるから、両者は、共通の課題を有するものといえる。
そうすると、引用発明1において、引用発明2を適用することは、当業者が容易に想到し得るものである。
したがって、引用発明1において、引用発明2を適用することにより、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。

そして、本願発明の発明特定事項によって奏される効果も、引用発明1、及び引用発明2から、当業者が予測しうる範囲内のものである。

よって、本願発明は、引用発明1、及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


第6 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明1、及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項に該当し、特許を受けることができない。


よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-05-17 
結審通知日 2018-05-23 
審決日 2018-06-05 
出願番号 特願2016-524476(P2016-524476)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中澤 俊彦  
特許庁審判長 黒瀬 雅一
特許庁審判官 藤本 義仁
森次 顕
発明の名称 ネガ型感熱性平版印刷版前駆体  
代理人 特許業務法人小田島特許事務所  

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