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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01M
管理番号 1345733
審判番号 不服2017-5597  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-04-19 
確定日 2018-11-06 
事件の表示 特願2014-559842「リチウム二次電池用電極の製造方法及びそれを用いて製造される電極」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月24日国際公開、WO2013/157806、平成27年 4月30日国内公表、特表2015-513182〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年4月16日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2012年4月16日 韓国(KR))を国際出願日とする出願であって、平成27年8月25日付けで拒絶理由が通知され、これに対し、同年11月27日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成28年4月21日付けで拒絶理由が通知され、これに対し、同年7月21日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年12月12日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成29年4月19日付けで拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年4月20日に手続補足書が受付られたものである。
その後、平成30年1月26日付けで当審から拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年4月26日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?11に係る発明は、平成30年4月26日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「【請求項1】
集電体に塗布されている電極活物質を含む二次電池用電極であって、
集電体が、表面全般にわたって0.1?1μmの大きさの表面粗さ(R_(a))を形成し、
集電体の表面に形成されている凹凸間の間隔が0.001?10μmであり、凹凸間の谷の深さが0.001?10μmであるモルフォロジーを有し、電極活物質と集電体との接着力を改善し、
前記電極は、正極及び負極のうち少なくとも1つであり、
前記正極は、正極活物質として、下記化学式1で表されるリチウム金属酸化物を含み、
前記負極は、負極活物質として、下記化学式3で表されるリチウム金属酸化物を含み、
Li_(x)M_(y)Mn_(2-y)O_(4-z)A_(z) (1)
上記式中、0.9≦x≦1.2、0<y<2、0≦z<0.2であり、
Mは、Al、Mg、Ni、Co、Fe、Cr、V、Ti、Cu、B、Ca、Zn、Zr、Nb、Mo、Sr、Sb、W、Ti及びBiからなる群から選択される一つ以上の元素であり、
Aは、-1または-2価の一つ以上のアニオンであり、
Li_(a)M’_(b)O_(4-c)A_(c) (3)
上記式中、M’は、Ti、Sn、Cu、Pb、Sb、Zn、Fe、In、Al及びZrからなる群から選択される一つ以上の元素であり、
a及びbは、0.1≦a≦4、0.2≦b≦4の範囲でM’の酸化数(oxidation number)によって決定され、
cは、0≦c<0.2の範囲でAの酸化数によって決定され、
Aは、-1または-2価の一つ以上のアニオンであり、
前記集電体にはパターンが形成されており、前記パターンの垂直断面は円形である、
二次電池用電極。」

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は、この出願の請求項1?11に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された引用例1?4に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

・引用例1:米国特許出願公開第2009/0098457号明細書
・引用例2:特開平5-74479号公報
・引用例3:特開平6-260168号公報
・引用例4:国際公開第2012/014793号

第4 引用例の記載事項
1 引用例1の記載事項
本願の優先日前に頒布された引用例1には、以下の事項が記載されている(当審注:下線は当審が付与した。また、「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)。
(1a) 「[0038] A method of manufacturing an electrode for a secondary battery according to an embodiment the present invention will now be described in detail.
[0039] First, an active material, a conductive agent, a binder, a dispersant, and a solvent were mixed to prepare ink as a composition for forming an active material layer. The ink preferably has a viscosity not exceeding 500 mPa・s, particularly ranging from 5 to 100 mPa・s.」
(当審訳:[0038] 本発明の実施の形態に係る二次電池用電極の製造方法について詳細に説明する。
[0039] まず、活物質、導電剤、バインダ、分散剤及び溶剤を混合して活物質層を形成するための組成物としてのインクを調製した。インクは、粘度が500mPa・sを超えない粘度が好ましく、特に5?100mPa・sの範囲である。」

(1b) 「[0040] Any oxide particulate material that is commonly used for the electrode active material for a secondary battery can be used as the active material.
[0041] Particular non-limiting examples of the active material include Li-Co composite oxides such as LiCoO_(2), Li-Ni composite oxides such as LiNiO_(2), Li-Mn composite oxides such as LiMn_(2)O_(4) or LiMnO_(2), Li-Cr composite oxides such as Li_(2)Cr_(2)O_(7) or Li_(2)CrO_(4), Li-Fe composite oxides such as LiFeO_(2) or LiFePO_(4), Li-V composite oxides, Li-Ti composite oxides such as Li_(4)Ti_(5)O_(12), transition metal oxides such as SnO_(2), In_(2)O_(3) or Sb_(2)O_(3), carbonaceous materials such as graphite, hard carbon, acetylene black or carbon black, and so on.」
(当審訳:[0040] 一般的に二次電池用電極活物質として使用されている任意の酸化物微粒子材料を活物質として用いることができる。
[0041] 活性材料の特定の非限定的な例としては、LiCoO_(2)等のLi-Ni複合酸化物、LiNiO_(2)等のLi-Ni複合酸化物、LiMn_(2)O_(4)又はLiMnO_(2)等のLi-Mn複合酸化物、Li_(2)Cr_(2)O_(7)又はLi_(2)CrO_(4)等のLi-Cr複合酸化物、LiFeO_(2)又はLiFePO_(4)等のLi-Fe複合酸化物、Li-V複合酸化物、Li_(4)Ti_(5)O_(12)等のLi-Ti複合酸化物、SnO_(2)、In_(2)O_(3)又はSb_(2)O_(3) 等の遷移金属酸化物、グラファイト、ハードカーボン、アセチレンブラック又はカーボンブラック等の炭素質材料が挙げられる。)

(1c) 「[0049] According to an embodiment of the present invention, in a state in which the current collector is adhered to a separate support body, ink is printed on the current collector and dried.」
(当審訳:[0049] 本願実施例によれば、集電体は、別個の支持体に接着された状態で、インクを集電体上に印刷し、乾燥させる。)

(1d) 「[0051] The current collector of the present invention, which has a surface roughness (Ra) in a range from about 0.025 to 1.0 μm can be obtained using various methods, for example, by polishing processing, processing using a press roll, etching, laser treatment, or sand blast processing to form surface unevenness. In addition, the current collector can be obtained by electroless plating, electrolytic plating, or printing, which is generally used in the art for the manufacturing of current collectors.
[0052] In the polishing processing, a surface of a current collector is roughened using an abrasive paper. In the processing using a press roll, concavities and convexities are formed on a current collector using surface-shaped concavities and convexities patterned on the press roll. In the etching, surface roughness of a current collector is controlled using an acidic etchant solution. In the laser treatment, laser is irradiated onto a surface of a current collector to form concavities and convexities thereon. In the sand blast processing, sand is sprayed on a surface of a current collector via compressed air so as to form concavities and convexities on the surface of the current collector.
[0053] In order to control the surface roughness of the current collector, the shapes or sizes of the concavities and convexities formed on the current collector are not particularly limited. Although the shapes of convex parts formed on the surface of the current collector are not particularly limited, a drill shape, for example, is preferred.」
(当審訳:[0051] 本発明の、約0.025?1.0μmの範囲の表面粗さ(Ra)を有する集電体は、表面凹凸を形成するための様々な方法、例えば、研磨加工、プレスロールを用いる加工、エッチング、レーザ加工、サンドブラスト加工を使用して得ることができる。また、集電体は、一般に集電体を製造するための当技術分野で用いられる、無電解めっき法、電解めっき法、又は印刷によって得ることができる。
[0052] 研磨処理において、集電体の表面を研磨紙を用いて粗面化する。プレスロールを用いる加工において、プレスロールの表面に形成された凹凸を用いて、集電体に凹凸が形成される。エッチングにおいて、酸性エッチング液溶液を用いて集電体の表面粗さを制御する。レーザ処理では、集電体の表面にレーザを照射して凹凸を形成する。サンドブラスト処理において、集電体の表面に圧縮空気を用いて砂を吹き付け、集電体表面に凹凸を形成する。
[0053] 集電体の表面粗さを制御するために、集電体上に形成された凹凸の形状や大きさは特に限定されない。集電体の表面に形成された凸部の形状は、特に限定されないが、例えば、錐状が好ましい。 )

(1e) 「[0059] The use of the electrode of the present invention improves the uniformity of the active material layer. Thus, a secondary battery having improved electrode capacity can be manufactured by employing the electrode, and such secondary battery can be used as a power supply for a portable device such as a mobile phone, PDA or PMP, a motor driving power supply for a high-power hybrid automobile or an electric automobile, a power supply for a flexible display device such as e-ink, electronic paper or E-pad, a micro-battery power supply for an IC mounted on a PCB board, and so on.」
(当審訳:[0059] 本発明の電極の使用は、活物質層の均一性を改善する。したがって、電極容量を改良された二次電池は、この電極を用いることによって製造することができ、また、このような二次電池は、携帯電話、PDAやPMP、高出力のハイブリッド自動車や電気自動車のモータ駆動用電源、電子インク、電子ペーパーやE-Pad等の可撓性表示装置用電源は、PCB基板上に実装されたICのマイクロバッテリー電源等のようなポータブル機器用の電源として使用することができる。)

(1f) 「[0060] The secondary battery of the present invention can be exemplified by a lithium secondary battery.」
(当審訳:[0060] 本発明の二次電池は、リチウム二次電池を挙げることができる。)

2 引用例2の記載事項
本願の優先日前に頒布された引用例2には以下の事項が記載されている。
(2a) 「【0007】
【発明が解決しようとする課題】上述のような生産効率の制約もなく、活物質粒子と金属箔との接着性を従来より格段に高めることを目的として、本発明者は種々検討を行った。
【0008】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明は、集電体としての金属箔の表面を0.1?0.9μmの範囲に粗くして用いることを特徴とする。」

(2b) 「【0031】
【発明の効果】本発明により、活物質粒子と金属箔との接着性を従来より格段に高めることができ、また生産効率を高めて、電極をつくることができる。更に、重負荷に耐える非水電池を提供できるようになる。」

3 引用例3の記載事項
本願の優先日前に頒布された引用例3には以下の事項が記載されている。
(3a) 「【0002】
【従来の技術とその課題】リチウム二次電池は、高エネルギー密度の新しい電池として期待されている。この電池は、負極の集電体として銅箔、ニッケル箔もしくはステンレス箔などリチウムと合金化しない金属箔を用いている。電気伝導性やコストの点では、銅箔がもっとも優れ、ステンレス箔が劣っている。従来のリチウム二次電池では、もっぱら圧延により製造した金属箔を用いて負電極を製造していた。
【0003】しかし、従来の圧延金属箔を負電極の集電体に用いたリチウム二次電池は、圧延金属箔の表面が極めて平滑であるために活物質層と集電体との接着が弱いという大きな欠点があった。

(3b) 「【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は、銅箔もしくはニッケル箔などの金属箔を負電極の集電体に用いたリチウム二次電池において、該金属箔として厚さ50μm以下であり、両面に0.1μm以上で20μm以下の凹凸を有する電解金属箔を用いることにより上記課題を解決するものである。」

4 引用例4の記載事項
本願の優先日前に公知となった引用例4には以下の事項が記載されている。
(4a) 「[0078] (実施例1?11、比較例1?7)
リチウムイオン二次電池を構成する正極活物質、負極活物質の組成をそれぞれ固定して、各々のリチウム化合物の比表面積を変えて電池を作製し、それぞれ実施例1?11及び比較例1?7とした。それらの容量維持率の評価結果を表1に示す。ここで正極活物質、負極活物質の組成はそれぞれ、LiNi_(0.5)Mn_(1.5)O_(4)、Li_(4/3)Ti_(5/3)O_(4)である。また、正極活物質、負極活物質の作製時に焼成温度を適宜調整することにより、所定の比表面積となるようにした。」

(4b) 「[0081] (実施例12?15、比較例8?11)
負極活物質の組成をLi_(4/3)Ti_(5/3)O_(4)とし、比表面積を5m^(2)g^(-1)とした。正極活物質の比表面積を0.5m^(2)g^(-1)に固定して、正極活物質のNi量のみを変えた電池を作製し、それぞれ実施例12?15及び比較例8?11とした。それらの容量維持率の評価結果を表2に示す。なお、比較として表2には前記実施例6を示している。
[0082]
[表2]



第5 引用例1に記載された発明
1 引用例1の前記(1a)、(1c)によれば、二次電池用電極は、活物質、導電剤、バインダ、分散剤及び溶剤を混合して活物質層を形成するための組成物としてのインクを集電体上に印刷し、乾燥させることにより形成されるものであるから、二次電池用電極は、集電体に印刷されている活物質を含んでいるといえる。また、二次電池用電極は、二次電池の負極及び正極のうち少なくとも一つであることは自明の事項である。

2 引用例1の前記(1d)によれば、集電体は、プレスロールを用いる加工による、約0.025?1.0μmの範囲の表面粗さ(R_(a))を有するものであり、当該プレスロールを用いる加工において、プレスロールの表面に形成された凹凸を用いて、集電体に凹凸が形成されるから、集電体は、プレスロールを用いる加工により形成された凹凸であって、約0.025?1.0μmの範囲の表面粗さ(R_(a))を有するものである。

3 引用例1の前記(1e)には、前記1における二次電池用電極を用いて二次電池を製造することが記載されており、同(1f)によれば、上記二次電池はリチウム二次電池である。

4 前記1?3の検討によれば、引用例1には、以下の発明が記載されていると認められる。

「集電体に印刷されている活物質を含む二次電池用電極であって、
前記集電体が、プレスロールを用いる加工により形成された凹凸であって、約0.025?1.0μmの範囲の表面粗さ(R_(a))を有し、
前記電極は、正極及び負極のうち少なくとも一つである二次電池用電極。」(以下、「引用発明」という。)

第6 対比・判断
1 本願発明と引用発明とを対比する。
(1) 引用発明の「集電体に印刷されている活物質」は、本願発明の「集電体に塗布されている電極活物質」に相当する。

(2) 集電体の表面粗さ(R_(a))について、本願発明と引用発明とは、0.1?1μmの範囲で重複している。
また、引用発明における「集電体」の「約0.025?1.0μmの範囲の表面粗さ(R_(a))を有」する「凹凸」は、「プレスロールを用いる加工により形成された」ものであるから、当該「集電体」の表面全般にわたって、「約0.025?1.0μmの範囲の表面粗さ(R_(a))を有」するモルフォロジーを有していると認められる。そして、引用発明における「集電体」の「プレスロールを用いる加工により形成された凹凸」は、パターンに他ならない。

(3) 以上から、本願発明と引用発明とは、「集電体に塗布されている電極活物質を含む二次電池用電極であって、
集電体が、表面全般にわたって0.1?1μmの大きさの表面粗さ(R_(a))を形成するモルフォロジーを有し、
前記電極は、正極及び負極のうち少なくとも1つであり、
前記集電体にはパターンが形成されている、
二次電池用電極。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:本願発明は、「集電体の表面に形成されている凹凸間の間隔が0.001?10μmであり、凹凸間の谷の深さが0.001?10μmである」のに対し、引用発明は、そのような特定がなされていない点
相違点2:本願発明は、「電極活物質と集電体との接着力を改善し」ているのに対し、引用発明は、そのような特定がなされていない点。
相違点3:本願発明は、「前記正極は、正極活物質として、下記化学式1で表されるリチウム金属酸化物を含み、前記負極は、負極活物質として、下記化学式3で表されるリチウム金属酸化物を含み、
Li_(x)M_(y)Mn_(2-y)O_(4-z)A_(z) (1)
上記式中、0.9≦x≦1.2、0<y<2、0≦z<0.2であり、
Mは、Al、Mg、Ni、Co、Fe、Cr、V、Ti、Cu、B、Ca、Zn、Zr、Nb、Mo、Sr、Sb、W、Ti及びBiからなる群から選択される一つ以上の元素であり、
Aは、-1または-2価の一つ以上のアニオンであり、
Li_(a)M’_(b)O_(4-c)A_(c) (3)
上記式中、M’は、Ti、Sn、Cu、Pb、Sb、Zn、Fe、In、Al及びZrからなる群から選択される一つ以上の元素であり、
a及びbは、0.1≦a≦4、0.2≦b≦4の範囲でM’の酸化数(oxidation number)によって決定され、
cは、0≦c<0.2の範囲でAの酸化数によって決定され、
Aは、-1または-2価の一つ以上のアニオンであ」るのに対し、引用発明はそのような特定がなされていない点。
相違点4:集電体に形成されている「パターンの垂直断面」の形状について、本願発明は、「円形である」のに対し、引用発明は不明である点。

2 前記相違点について検討する。
(1) 相違点1について
前記1(2)で検討したように、集電体の表面粗さ(R_(a))について、本願発明と引用発明とは、0.1?1μmの範囲で重複しているところ、表面粗さ(R_(a))が0.1?1μmの範囲である凹凸について、凹凸間の間隔が0.001?10μmであり、凹凸間の谷の深さが0.001?10μmであることは、通常取り得る範囲にすぎないから、相違点1は実質的な相違点ではない。
仮に、そうでないとしても、引用発明において、「プレスロールを用いる加工により形成された凹凸」であって、表面粗さ(R_(a))が0.1?1μmの範囲である凹凸について、凹凸間の間隔を0.001?10μm、凹凸間の谷の深さを0.001?10μmとすることは、当業者であれば適宜設定し得る程度の事項にすぎない。

(2) 相違点2について
集電体の表面に凹凸を形成すると、活物質と集電体の接着力が改善されることは、技術常識であるから(必要であれば、引用例2の前記(2a)、(2b)、引用例3の前記(3a)、(3b)参照。)、集電体の表面に凹凸が形成されている引用発明においても、当然に、活物質と集電体との接着力は改善されているものと認められる。
したがって、相違点2も実質的な相違点ではない。

(3) 相違点3について
本願発明において、「正極活物質」である「化学式1で表されるリチウム金属酸化物」はLiNi_(0.5)Mn_(1.5)O_(4)(x=1、y=0.5、z=0、MがNi)及びLiNi_(0.4)Mn_(1.6)O_(4)(x=1、y=0.6、z=0、MがNi)を含んでおり、また、「負極活物質」である「化学式3で表されるリチウム金属酸化物」はLi_(1.33)Ti_(1.67)O_(4)(M’がTi、a=1.33、b=1.67、c=0)を含んでいるところ、二次電池において、正極活物質の材料としてLiNi_(0.5)Mn_(1.5)O_(4)又はLiNi_(0.4)Mn_(1.6)O_(4)、及び、負極活物質の材料としてLi_(1.33)Ti_(1.67)O_(4)(Li_(4/3)Ti_(5/3)O_(4))は、いずれも周知の複合酸化物材料である(必要であれば、引用例4の前記(4a)、(4b)の実施例12参照。)。
そして、引用例1の前記(1b)には、活物質は、任意の酸化物微粒子材料が用いられることが記載されており、その例として、様々な複合酸化物が挙げられている。
そうすると、引用発明において、正極活物質及び負極活物質として上記周知の複合酸化物材料であるLiNi_(0.5)Mn_(1.5)O_(4)又はLiNi_(0.4)Mn_(1.6)O_(4)及びLi_(1.33)Ti_(1.67)O_(4)をそれぞれ用いることは、当業者であれば必要に応じて適宜なし得るものである。

(4) 相違点4について
平成30年4月26日付け手続補正書による手続補正により、本願の請求項1に係る発明における、集電体に形成されている「パターンの垂直断面」の形状は、「三角形、四角形、円形、楕円形、またはスリット状」から、「円形」へと補正された。
一方、前記1(2)で検討したように、引用発明における「集電体」の「プレスロールを用いる加工により形成された凹凸」は、パターンに他ならない。
そして、引用例1の前記(1d)の[0053]の「集電体の表面粗さを制御するために、集電体上に形成された凹凸の形状や大きさは特に限定されない」との記載によれば、引用発明の「プレスロールを用いる加工により形成された凹凸」であるパターンの垂直断面の形状については、特に限定されないものであり、その形状として、「三角形、四角形、円形、楕円形、またはスリット状」なる形状は、いずれも当業者であれば通常考え得る形状にすぎないから、引用発明において、「プレスロールを用いる加工により形成された凹凸」であるパターンの垂直断面の形状を、上記当業者であれば通常考え得る形状のうち、「円形」とすることは、当業者にとって格別困難なこととはいえない。
また、本件発明おいて、集電体に形成されている「パターンの垂直断面」の形状を「円形」としたことによる効果は、本願明細書には何ら記載も示唆もされていないから、当該「円形」の形状が格別の技術的意義を有するものであるとはいえない。
したがって、引用発明において、集電体に形成されているパターンの垂直断面の形状を「円形」とすることは、当業者であれば容易に想到し得るものである

3 本願発明の効果について
本願明細書の発明の詳細な説明の【0012】等の記載によれば、本願発明は、集電体と電極活物質との間の接着力を改善できるとの効果を奏するものであるところ、前記2(2)で検討したように、集電体の表面に凹凸が形成されている引用発明においても、当然に、活物質と集電体との接着力は改善されているものと認められるから、本願発明が奏する効果は格別なものではない。

4 請求人の主張について
(1) 請求人は、平成30年4月26日付け意見書の「【意見の内容】2.(3)本願発明と引用発明との対比の(a)」において、「本願の請求項1において、圧延された集電体表面に形成されたパターンが円形であると限定しましたが、これは、円形の垂直断面形状を有するローラを使用して、圧延によってパターン化することによって形成される特徴です(2017年4月19日(提出日)付けの実験結果に基づく)。対照的に、引用発明1?3で使用する他の方法によっては無秩序なパターンが形成されます。」と主張している。
しかし、請求項1には、集電体に形成されているパターンの垂直断面が円形であることは特定されているものの、そのパターンが、円形の垂直断面形状を有するローラを使用して、圧延によってパターン化することによって形成されるものであることは特定されていないから、請求人の上記主張は、請求項1の記載に基づくものではない。

(2) 請求人は、同意見書の「【意見の内容】2.(3)本願発明と引用発明との対比の(b)」において、「本願請求項1に係る発明は、『パターンの垂直断面』が、円形の形状を有します。このように、本願請求項に係る発明においては、集電体表面の構造が、一つの形状(円形)を有するパターンの垂直断面形状を有するように限定され、その結果、電極活物質と集電体との接着力が、集電体の全体にわたって均一となります。」と主張している。
しかし、本願発明が、「パターンの垂直断面」が「円形」の形状を有していることによって、電極活物質と集電体との接着力が、集電体の全体にわたって均一となるとの効果を奏することは、本願明細書には何ら記載も示唆もされていないし、本願明細書又は図面の記載から、当業者が上記効果を推論できるともいえない。そして、本願発明において、「円形」の形状が格別の技術的意義を有するものではない点は、前記2(4)のとおりである。

(3) したがって、請求人の意見書における主張は採用できない。

5 まとめ
よって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとの当審拒絶理由は妥当である。
したがって、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、この拒絶理由によって拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-06-05 
結審通知日 2018-06-11 
審決日 2018-06-22 
出願番号 特願2014-559842(P2014-559842)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 知絵  
特許庁審判長 千葉 輝久
特許庁審判官 河本 充雄
土屋 知久
発明の名称 リチウム二次電池用電極の製造方法及びそれを用いて製造される電極  
代理人 実広 信哉  
代理人 渡部 崇  

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