• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 H04W
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H04W
管理番号 1345788
審判番号 不服2017-4930  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-04-06 
確定日 2018-11-07 
事件の表示 特願2014- 85487「チャネル推定を向上させるための無線送受信ユニット(WTRU)に特有なパイロット信号の送信および無線送受信ユニット(WTRU)に特有なパイロット信号の電力の増大の方法および装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年10月 2日出願公開,特開2014-187696〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2009年(平成21年)10月14日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2008年10月16日 米国)を国際出願日とする出願である特願2011-532194号の一部を,平成26年4月17日に新たな特許出願としたものであって,平成26年5月19日に手続補正がされ,平成27年2月9日付けで拒絶理由が通知され,同年8月14日に意見書及び手続補正書が提出され,同年12月25日付けで最後の拒絶理由が通知され,平成28年6月27日に意見書及び手続補正書が提出されたところ,同年11月29日付けで平成28年6月27日にされた手続補正についての補正の却下の決定がされ,同日付けで拒絶査定がされ,これに対し,平成29年4月6日に拒絶査定不服審判が請求され,同時に手続補正がされたものである。その後,審査官が同年6月1日付けで作成した前置報告書に対して,同年8月16日に上申書が提出された。



第2 平成29年4月6日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成29年4月6日にされた手続補正(以下,「本件補正1」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正1の概要
本件補正1は,平成27年8月14日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された
「特有の参照信号を処理するevolved Node B(eNB)によって実行される方法であって,前記方法は,
物理ダウンリンク制御チャネル(PDCCH)を構成する複数の時間/周波数リソース要素(RE)を含むLTE(Long Term Evolution)直交周波数分割多元接続(OFDMA)信号を生成することであって,前記PDCCHは,共通参照信号(CRS)および個別参照信号(DRS)とともに時間および周波数多重化される,ことと,
前記LTE OFDMA信号を送信することと
を備え,
前記DRSは,無線送受信ユニット(WTRU)特有の参照信号であり,同じプレコーディングは,前記DRSに,および前記PDCCHに適用される,方法。」

「特有の参照信号を処理するevolved Node B(eNB)によって実行される方法であって,前記方法は,
物理ダウンリンク制御チャネル(PDCCH)を構成する複数の時間/周波数リソース要素(RE)を含むLTE(Long Term Evolution)直交周波数分割多元接続(OFDMA)信号を生成することであって,前記REの一部は,無線送受信ユニット(WTRU)特有の参照信号を伝達するために割り当てられ,前記PDCCHは,共通参照信号(CRS)および個別参照信号(DRS)とともに時間および周波数符号分割多重化される,ことと,
前記LTE OFDMA信号を送信することと
を備え,
前記DRSは,WTRU特有の参照信号であり,同じプレコーディングは,前記DRSに,および前記PDCCHに適用される,方法。」([当審注]:下線部は補正箇所を示す。)
とすることを含むものである。


2 補正の適否
まず,新規事項の有無について検討する。

[明示的な記載の有無]
本件補正1により「前記PDCCHは,共通参照信号(CRS)および個別参照信号(DRS)とともに時間および周波数多重化される,」が「前記PDCCHは,共通参照信号(CRS)および個別参照信号(DRS)とともに時間および周波数符号分割多重化される,」とされたが,PDCCHが時間および周波数符号分割多重化されることについて,出願当初の明細書等(以下,「当初明細書等」という。)には明示的な記載はない。

[符号分割多重化について]
当初明細書等には,符号分割多重化については以下の記載があるのみである。
「【請求項1】
(中略)
前記WTRUに特有な参照信号は,符号分割多重化を使用して多重化されることを特徴とする方法。」,
「【0012】
ERS(拡張参照信号)は,時間-周波数および/または拡散符号分割(spreading code division)を確実にするために配置される。」,
「【0015】
(中略)直交性は,異なったRE上では時間および/または周波数多重化の使用を通してこれらのERSを送信し,同一のRE上では符号分割多重化の使用を通してこれらのERSを送信し,またはこれらの技法の組み合わせを使用することによって,達成することができる。
【0016】
図2において,4レイヤまでに対するERSパターンが示される1つのサンプル構成設定が例証される。レイヤ1およびレイヤ2に対して構成設定されたERSは,レイヤ3およびレイヤ4に対するERSと同様に,符号分割多重化される(直交拡散符号により2つのレイヤに対するERSを2つのREに亘って拡散することによる)。」,
「【0030】
複数のレイヤに対するパターンにてWTRUに特有な参照信号を構成設定することができる。レイヤの特定の1つに対して構成設定されるWTRUに特有な参照信号は,時分割多重化,周波数分割多重化,または符号分割多重化の内の少なくとも1つを使用して多重化することができる。」,
「【0046】
11.前記レイヤの特定の1つに対して構成設定されたWTRUに特有な参照信号が,時分割多重化,周波数分割多重化,または符号分割多重化の内の少なくとも1つを使用して多重化されることを特徴とする実施形態10に記載の方法。」,
「【0064】
29.前記レイヤの内の特定の1つに対して構成設定されるWTRUに特有な参照信号が,時分割多重化,周波数分割多重化,または符号分割多重化の内の少なくとも1つを使用して多重化されることを特徴とする実施形態28に記載のWTRU。」

これらの記載から明らかなように,符号分割多重化されるのはWTRUに特有な参照信号である。
そして,上記【0016】の記載及び図2及び当業者の技術常識によれば,レイヤ1及びレイヤ2に対して構成設定されたERSと,レイヤ3及びレイヤ4に対するERSとは,それぞれリソース・ブロックにおける異なるREセット(図2の「L1/L2拡張参照信号(ERS)リソース要素(RE)」,「L3/L4拡張参照信号(ERS)RE」)にマッピングされる(すなわち,時間および周波数多重化される)ことがみてとれる。そして,レイヤ1に対して構成設定されたERSとレイヤ2に対して構成設定されたERSとは同じREセット(図2の「L1/L2拡張参照信号(ERS)リソース要素(RE)」)にマッピングされることから,これらを識別可能とするために,時間方向に隣り合う2つのREに対して長さ2の直交拡散符号を適用することにより符号分割多重化することが読み取れる。同様に,レイヤ3に対して構成設定されたERSとレイヤ4に対して構成設定されたERSとは同じREセット(図2の「L3/L4拡張参照信号(ERS)RE」)にマッピングされることから,これらを識別可能とするために時間方向に隣り合う2つのREに対して長さ2の直交拡散符号を適用することにより符号分割多重化することが読み取れる。
したがって,当初明細書等に記載された「符号分割多重化」は,同じREセットにマッピングされた2つのWTRUに特有な参照信号を識別可能とするために,時間方向に隣り合う2つのREに対して長さ2の直交拡散符号を適用することと認められる。

[PDCCHについて]
一方,当初明細書等には,PDCCHについて以下の記載がある。
「【0017】
ERSを送るための別の方法は,特定のWTRUのPDCCHに対して使用されるREをパンクチャーする(puncture)ことである。この場合には,制御チャネル・データを復号しようとしている間にWTRUがこれらのREを無視可能なように,パンクチャリング・パターンはWTRUにとって既知である。追加的ERSを必要とするWTRUの制御チャネルのみがパンクチャーされる。これらのWTRUはERSとして使用されるREを無視し,そして制御チャネル中に残存するREを使用することによって,制御データを復号することになる。あるWTRUに対して使用される制御チャネルを残存するWTRUが復号することはできない(パンクチャーされているか否かにかかわらず)ため,これは他のWTRUにとってはトランスペアレントである。ERSの数,送信電力,および時間-周波数位置は,ブロードキャスト,L2/L3信号方式,またはそれらの組み合わせにより信号送出することが可能である。」

当該記載によれば,特定のWTRUに対するPDCCHに対して使用されるREをパンクチャー(puncture)して,そのREに当該WTRUに特有な参照信号(ERS)をマッピングすることが読み取れる。しかしながら,パンクチャーされずに残った特定のWTRUに対するPDCCHが符号分割多重化されることは記載も示唆もされていない。そして,PDCCHに関して同じREセットに複数の信号がマッピングされることも記載されていないから,PDCCHを符号分割多重化する必然性も見出せない。

[請求人の主張について]
請求人は,審判請求書にて,本件補正1後の発明は【0010】?【0012】,【0024】,【0025】の記載によってサポートされている旨主張しているので,当該箇所の記載についても検討する。

当初明細書等の当該箇所の記載は以下のとおりである。
「【0010】
改良されたチャネル推定を必要とするWTRU(例えばセルの縁のWTRU)に対する機構が提供され,それによりWTRUに特有な参照信号/パイロットとして追加的REが割り当てられる。これらの追加的REは,ERS(Expanded Reference Signal:拡張参照信号)と定義することが可能である。R8においては,WTRUに特有なRSはただ一つの転送モード(モード7)に対してのみ使用され,そしてデータ送信の1つのレイヤのみを支援する(単一レイヤ・ビーム形成)。これらのパイロットは,DRS(Dedicated Reference Signal:個別参照信号)であり,そしてポート5を介して送信され(,そしてデータと同一な方法にてビーム形成され)る。簡単にいえば,R8においてWTRUに特有なRSとして定義されるREのいくつかまたは全てをERSとして使用可能である。
【0011】
R8においては,データ復調は共通RSにより達成される。Rl0およびその後のリリースにおいては,ただ一つの送信モードに対してではなく,全てのMIMO転送モードおよび他のタイプの転送モードに対しても,WTRUに特有なRSによりデータ復調を達成することができる。これらの新しいWTRUに特有なRS(すなわち,ERS)は,単独にてまたはCRSに追加して送信することができ,そしてPDSCHと同一の方法にてプレコードされる(precoded)場合があり,または全くプレコードされない場合がある。
【0012】
ERS(拡張参照信号)は,時間-周波数および/または拡散符号分割(spreading code division)を確実にするために配置される。ERSに対する電力レベルは,それらが他のWTRUによって使用されることにならないため,CRSと同一電力である必要はない。ERSの電力は,P_(A)および/またはP_(B),または他の新しい固定的,セルに特有の,またはWTRUに特有のパラメータにより決定することができる。ERSの数,送信電力,および時間-周波数位置は,固定的であるか,またはブロードキャスト,L2(レイヤ2)/L3(レイヤ3)信号方式,L1(レイヤ1)信号方式,またはその組み合わせにより,信号送出することができる。例えばERSの可能な位置は,固定的であるか,またはブロードキャスト・チャネルを介して半静的に更新可能であるかの何れかである。」,
「【0024】
ダウンリンク(DL)に対しては,eノードB300における処理装置315が,WTRUに特有な参照信号を生成し,そして参照信号を伝達するために割り当てられるREに生成した信号をマッピングするように構成設定される。処理装置はまた,WTRUに特有な参照信号をプレコードすることができる。eノードB300における送信機320は,PDSCHまたはPDCCHを構成する複数の時間/周波数REを含むOFDMA信号を送信するように構成設定され,そこではプレコードされたWTRUに特有な参照信号を伝達するためにREの一部が割り当てられる。
【0025】
アップリンク(UL)に対しては,eノードB300における受信機310が,PUSCH(Physical Uplink Shared Channel)またはPUCCH(Physical Uplink Control Channel)を構成する複数の時間/周波数REを含む少なくとも1つのWTRUからのOFDMA信号を受信するように構成設定され,そこではまたプレコードされる場合があるWTRUに特有な参照信号を伝達するためにREの一部が割り当てられる。eノードB300における処理装置315は,WTRUに特有な参照信号に基づきチャネル推定を実行するように構成設定することができる。」

これらの記載をみても,PDCCHが時間および周波数符号分割多重化されることは,記載も示唆もされておらず,自明でもない。したがって,請求人の主張は採用できない。

[小括]
以上のとおり,「PDCCHが時間および周波数符号分割多重化される」ことは当初明細書等には記載も示唆もされておらず,当初明細書等に記載された「符号分割多重化」の内容とも整合しないものである。したがって,本件補正1は,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものである。


なお,請求人は,審査官が平成29年6月1日付けで作成した前置報告書に対して同年8月16日に上申書を提出して補正案を提示しているが,当該補正案の請求項1に記載中の「前記PDCCHは,符号分割多重化を使用して共通参照信号(CRS)および前記DRSとともに時間および周波数多重化され,」との補正事項についても,PDCCHが符号分割多重化を使用することは出願当初の明細書等に記載されておらず,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものである。したがって,当該補正案は採用できない。


3 結語
以上のとおり,平成29年4月6日にされた手続補正(本件補正1)は,特許法第17条の2第3項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。



第3 本願発明について
1 本願発明
平成29年4月6日にされた手続補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1?14に係る発明は,平成27年8月14日にされた手続補正(以下,「本件補正2」という。)により補正された特許請求の範囲の請求項1?14に記載されたとおりものと認められる。

そして,本件補正2は,平成26年5月19日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された
「特有の参照信号を処理するevolved Node B(eNB)によって実行される方法であって,前記方法は,
物理ダウンリンク共有チャネル(PDSCH)を構成する複数の時間/周波数リソース要素(RE)を含む直交周波数分割多元接続(OFDMA)信号を送信するステップであって,前記REの一部は,WTRUに特有の参照信号を伝達するために割り当てられる,ステップと,
前記WTRUに特有の参照信号を異なるレイヤ上で受信するステップであって,前記WTRUに特有の参照信号は相互に直交である,ステップと
を備え,
前記WTRUに特有の参照信号に割り当てられるREの位置および量は,送信のために使用されるレイヤの数に基づいて決定され,
前記WTRUに特有の参照信号は,符号分割多重化を使用して多重化されることを特徴とする方法。」

「特有の参照信号を処理するevolved Node B(eNB)によって実行される方法であって,前記方法は,
物理ダウンリンク制御チャネル(PDCCH)を構成する複数の時間/周波数リソース要素(RE)を含むLTE(Long Term Evolution)直交周波数分割多元接続(OFDMA)信号を生成することであって,前記PDCCHは,共通参照信号(CRS)および個別参照信号(DRS)とともに時間および周波数多重化される,ことと,
前記LTE OFDMA信号を送信することと
を備え,
前記DRSは,無線送受信ユニット(WTRU)特有の参照信号であり,同じプレコーディングは,前記DRSに,および前記PDCCHに適用される,方法。」([当審注]:下線部は,補正箇所を示す。)
と補正することを含むものである。


2 拒絶査定の理由
拒絶査定の理由は,平成27年8月14日付けでした手続補正は,その補正後の下記の請求項に係る発明が以下の点で,その補正前に受けた拒絶理由通知において特許をすることができないものか否かについての判断が示された発明と,特許法第37条の発明の単一性の要件を満たす一群の発明に該当するものではないから,同法第17条の2第4項に規定する要件を満たしていないというものである。

具体的には,
平成27年2月9日付け拒絶理由通知書においては,補正前の請求項1に係る発明に「特別な技術的特徴」(引用文献1(国際公開第2008/103317号)との相違点)が発見されたことが記載されている。一方,請求項1-14に係る発明は,補正前の請求項1に係る発明と,「特有の参照信号を処理するevolved Node B(eNB)によって実行される方法であって,前記方法は,複数の時間/周波数リソース要素(RE)を含む直交周波数分割多元接続(OFDMA)信号を送信する」という共通の技術的特徴を有している。しかしながら,当該技術的特徴は,国際公開第2008/103317号の開示内容(平成27年2月9日付け拒絶理由通知書を参照されたい)に照らして,先行技術に対する貢献をもたらすものではないから,特別な技術的特徴であるとはいえない。また,補正前の請求項1に係る発明と,請求項1-14に係る発明との間に,他に同一の又は対応する特別な技術的特徴は存在しない。


3 当審の判断
[特許法の規定]
特許法第17条の2第4項には以下のとおり規定されている。
「前項に規定するもののほか,第一項各号に掲げる場合において特許請求の範囲について補正をするときは,その補正前に受けた拒絶理由通知において特許をすることができないものか否かについての判断が示された発明と,その補正後の特許請求の範囲に記載される事項により特定される発明とが,第三十7条の発明の単一性の要件を満たす一群の発明に該当するものとなるようにしなければならない。」
そして,特許法第37条の規定は以下のとおりである。
「二以上の発明については,経済産業省令で定める技術的関係を有することにより発明の単一性の要件を満たす一群の発明に該当するときは,一の願書で特許出願をすることができる。」
そして,上記「経済産業省令で定める技術的関係」について,特許法施行規則第25条の8には以下のとおり規定されている。
「特許法第三十7条の経済産業省令で定める技術的関係とは,二以上の発明が同一の又は対応する特別な技術的特徴を有していることにより,これらの発明が単一の一般的発明概念を形成するように連関している技術的関係をいう。
2 前項に規定する特別な技術的特徴とは,発明の先行技術に対する貢献を明示する技術的特徴をいう。
3 第一項に規定する技術的関係については,二以上の発明が別個の請求項に記載されているか単一の請求項に択一的な形式によって記載されているかどうかにかかわらず,その有無を判断するものとする。」

そうすると,特許法第17条の2第4項の規定を満たしているといえるためには,補正前に受けた拒絶理由通知において特許をすることができないものか否かについての判断が示された発明と,その補正後の特許請求の範囲に記載される事項により特定される発明とが,同一の又は対応する,「発明の先行技術に対する貢献を明示する技術的特徴」である「特別な技術的特徴」を有している必要がある。言い換えれば,両者に共通する技術的特徴が,「発明の先行技術に対する貢献を明示する技術的特徴」(「特別な技術的特徴」)である必要がある。

[法の趣旨]
特許法第17条の2第4項の規定が設けられた趣旨は,発明の特別な技術的特徴を変更する補正がされると,審査官がそれまでになされた先行技術調査,審査の結果を有効に活用することができなくなる場合があり,その場合は,審査官が先行技術調査,審査をやり直すこととなるため,迅速・的確な権利付与に支障が生じ,また,出願間の取扱いの公平性も,十分に確保されなくなるためである。

[本件補正2についての当てはめ]
本件補正2前の請求項1に係る発明は,上記1の前段のとおり,
「特有の参照信号を処理するevolved Node B(eNB)によって実行される方法であって,前記方法は,
物理ダウンリンク共有チャネル(PDSCH)を構成する複数の時間/周波数リソース要素(RE)を含む直交周波数分割多元接続(OFDMA)信号を送信するステップであって,前記REの一部は,WTRUに特有の参照信号を伝達するために割り当てられる,ステップと,
前記WTRUに特有の参照信号を異なるレイヤ上で受信するステップであって,前記WTRUに特有の参照信号は相互に直交である,ステップと
を備え,
前記WTRUに特有の参照信号に割り当てられるREの位置および量は,送信のために使用されるレイヤの数に基づいて決定され,
前記WTRUに特有の参照信号は,符号分割多重化を使用して多重化されることを特徴とする方法。」(再掲)である。

これに対し,本件補正2後の請求項1に係る発明は,上記1の後段のとおり,
「特有の参照信号を処理するevolved Node B(eNB)によって実行される方法であって,前記方法は,
物理ダウンリンク制御チャネル(PDCCH)を構成する複数の時間/周波数リソース要素(RE)を含むLTE(Long Term Evolution)直交周波数分割多元接続(OFDMA)信号を生成することであって,前記PDCCHは,共通参照信号(CRS)および個別参照信号(DRS)とともに時間および周波数多重化される,ことと,
前記LTE OFDMA信号を送信することと
を備え,
前記DRSは,無線送受信ユニット(WTRU)特有の参照信号であり,同じプレコーディングは,前記DRSに,および前記PDCCHに適用される,方法。」(再掲)である。

両者を対比すると,
送信される信号が,本件補正2前は「物理ダウンリンク共有チャネル(PDSCH)を構成する複数の時間/周波数リソース要素(RE)を含む直交周波数分割多元接続(OFDMA)信号」であって「前記REの一部は,WTRUに特有の参照信号を伝達するために割り当てられる」のに対し,本件補正2後は「物理ダウンリンク制御チャネル(PDCCH)を構成する複数の時間/周波数リソース要素(RE)を含むLTE(Long Term Evolution)直交周波数分割多元接続(OFDMA)信号」であって「前記PDCCHは,共通参照信号(CRS)および個別参照信号(DRS)とともに時間および周波数多重化される」ものである。
ここで,LTE OFDMA信号の物理ダウンリンク・チャネルのサブフレームは,サブフレームの最初の数OFDMシンボルからなる制御領域であるPDCCHと,サブフレームの残りの部分から構成されるデータ領域であるPDSCHを含むことが技術常識である。したがって,送信される信号に関する技術的特徴が,本件補正2前がPDSCHであるといえるのに対し,本件補正2後はPDSCH以外の部分からなるPDCCHであるといえる。
とはいえ,PDCCH,PDSCHは,いずれも物理ダウンリンク・チャネルのサブフレームの一部を構成するものであるから,本件補正2前後の請求項1に係る発明は,「物理ダウンリンク・チャネルを構成する複数の時間/周波数リソース要素(RE)を含む直交周波数分割多元接続(OFDMA)信号を送信する」点では共通しているということができる。

そして,本件補正2前は「前記WTRUに特有の参照信号を異なるレイヤ上で受信するステップであって,前記WTRUに特有の参照信号は相互に直交である,ステップ」を備え,「前記WTRUに特有の参照信号に割り当てられるREの位置および量は,送信のために使用されるレイヤの数に基づいて決定され」,「前記WTRUに特有の参照信号は,符号分割多重化を使用して多重化される」との技術的特徴を有しているのに対し,本件補正2後は「WTRUに特有の参照信号」が「個別参照信号(DRS)」に限定された上で「前記PDCCHは,共通参照信号(CRS)および個別参照信号(DRS)とともに時間および周波数多重化される」,「同じプレコーディングは,前記DRSに,および前記PDCCHに適用される」との技術的特徴を有している。
当該本件補正2前の技術的特徴は本件補正2後には存在せず,また,当該本件補正2後の技術的特徴は本件補正2前には存在しなかったものである。
とはいえ,本件補正2前の「前記REの一部は,WTRUに特有の参照信号を伝達するために割り当てられる」と,本件補正2後の「前記PDCCHは,共通参照信号(CRS)および個別参照信号(DRS)とともに時間および周波数多重化される」,「前記DRSは,無線送受信ユニット(WTRU)特有の参照信号であり」とは,「送信する信号にはWTRUに特有の参照信号が含まれる」点では共通しているということができる。

したがって,本件補正2前後の発明に共通する技術的特徴は以下のとおりである。
「特有の参照信号を処理するevolved Node B(eNB)によって実行される方法であって,前記方法は,
物理ダウンリンク・チャネルを構成する複数の時間/周波数リソース要素(RE)を含む直交周波数分割多元接続(OFDMA)信号を送信する,ここで,送信する前記信号にはWTRUに特有の参照信号が含まれる,方法。」

ここで,請求項1についての平成27年2月9日付けの拒絶理由は,請求項1に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において頒布された引用文献1-3に記載された発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものであり,引用文献1(国際公開第2008/103317号)には,”dedicated reference signal”(すなわち,「WTRUに特有の参照信号」。)が,OFDMブロックに含まれるサブキャリアに割り当てられること(段落[0054]等参照),リソース割り当て情報がWTRUに送信されること(段落[0034]等参照),WTRUが,プレコードされたパイロットについての情報を取り出すこと(段落[0035]等参照),MデータストリームまたはMレイヤーについて,Mプレコーディングベクトルと”M dedicated RSs”が必要であること(段落[0032]等参照),プレコードされたパイロットが,OFDMブロックの”WTRU dedicated reference signal”を用いてWTRUへ送信されること(段落[0026]-[0029],[0048]等参照),及び,WTRUが,データシンボル及びプレコードされたパイロットを含むOFDMブロックを受信すること(段落[0049]等参照)が記載されていることが指摘されている。
そうすると,上記共通する技術的特徴は,引用文献1(国際公開第2008/103317号)に記載されているので,引用文献1(国際公開第2008/103317号)の開示内容に照らして,先行技術に対する貢献を明示する技術的特徴ではないから,「特別な技術的特徴」であるとはいえない。したがって,本件補正2前後の発明が同一の又は対応する特別な技術的特徴を有していることにより,これらの発明が単一の一般的発明概念を形成するように連関している技術的関係を有しているとはいえない。

(なお,国際公開第2008/103317号に開示された先行技術に照らせば,本件補正2前の発明の特別な技術的特徴は,「前記WTRUに特有の参照信号は相互に直交である」点,「前記WTRUに特有の参照信号に割り当てられるREの位置および量は,送信のために使用されるレイヤの数に基づいて決定され,前記WTRUに特有の参照信号は,符号分割多重化を使用して多重化される」点であったといえる。そして,当該特別な技術的特徴は本件補正2後の請求項1には存在しない。)

[法の趣旨との関係について]
上記[法の趣旨]の観点を本件補正2についてみると,本件補正2前の発明の特別な技術的特徴は本件補正2後の請求項1には存在せず,本件補正2後の請求項1は,本件補正2前には存在しなかった,送信されるOFDMA信号がPDCCHを構成する複数の時間/周波数リソース要素(RE)を含むLTE OFDMA信号であって,PDCCHはCRSおよびDRSとともに時間および周波数多重化される点,同じプレコーディングがDRSおよびPDCCHに適用される点を技術的特徴とするものである。そうすると,本件補正2後の請求項1の上記技術的特徴について,審査官はそれまでになされた先行技術調査,審査の結果を有効に活用することができず,審査官が先行技術調査,審査をやり直すことが必要であり,迅速・的確な権利付与に支障が生じ,また,出願間の取扱いの公平性も十分に確保されなくなることは明らかである。
したがって,特許法第17条の2第4項の趣旨に照らして,本件補正2を認めることはできない。

[小括]
したがって,本件補正2後の請求項1に係る発明は,本件補正2前に受けた拒絶理由通知において特許をすることができないものか否かについての判断が示された発明と,特許法第37条の発明の単一性の要件を満たす一群の発明に該当するものではない。このため,本件補正2は,特許法第17条の2第4項の規定を満たしていない。


[付言]
なお,平成29年8月16日提出の上申書に提示されている補正案が新規事項を含むため採用できないことは上記「第2 2」のなお書きで述べたとおりであるが,当該補正案に基づく請求人の主張についても検討する。
請求人は上記上申書にて,引用文献1(国際公開第2008/103317号)は物理ダウンリンク共有チャネル(PDSCH)について何ら開示も示唆もしておらず,PDSCHを構成する複数の時間/周波数リソース要素(RE)を含むOFDMA信号についても何ら開示も示唆もしていないから,当該補正案と平成26年5月19日付け手続補正書の請求項1に係る発明に共通する特徴は,引用文献1の開示内容に照らして先行技術に対する貢献をもたらすものであり,特別な技術的特徴であると言える旨主張している。
しかしながら,引用文献1(国際公開第2008/103317号)は,その図4に関して[0039]に「It should be noted that D may include data or a control channel. For example, in the first three OFDM symbols (i.e., first three rows in time in Figure 4) a portion of the Ds can be control channels.」([当審仮訳]:なお,Dは,データ又は制御チャネルを含む。例えば,Dの一部である最初の3個のOFDMシンボル(すなわち,図4の時間軸における最初の3列)は制御チャネルとすることができる。)と記載されており,図4は複数の時間/周波数リソース要素(RE)を含むOFDMA信号を示しており,「PDSCH」なる表現は用いられていないものの,図4の4番目以降のOFDMシンボル上の「D」で表されるデータチャネルが本願の「物理ダウンリンク共有チャネル(PDSCH)」に相当するものであることは当業者に自明である。したがって,上記主張は採用できない。


4 むすび
以上のとおり,平成27年8月14日にされた手続補正(本件補正2)は,特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たしていないから,本件出願は特許を受けることができない。

よって,結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-06-07 
結審通知日 2018-06-12 
審決日 2018-06-28 
出願番号 特願2014-85487(P2014-85487)
審決分類 P 1 8・ 561- Z (H04W)
P 1 8・ 57- Z (H04W)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石原 由晴久慈 渉  
特許庁審判長 中木 努
特許庁審判官 菅原 道晴
海江田 章裕
発明の名称 チャネル推定を向上させるための無線送受信ユニット(WTRU)に特有なパイロット信号の送信および無線送受信ユニット(WTRU)に特有なパイロット信号の電力の増大の方法および装置  
代理人 特許業務法人 谷・阿部特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ