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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F16H 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 F16H |
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管理番号 | 1345797 |
審判番号 | 不服2017-19082 |
総通号数 | 228 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-12-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-12-22 |
確定日 | 2018-11-27 |
事件の表示 | 特願2014-179409「車両制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 4月14日出願公開、特開2016- 53391、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成26年9月3日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。 平成28年 9月28日付け:拒絶理由通知書 平成28年11月22日 :意見書の提出 平成29年 4月17日付け:拒絶理由通知書 平成29年 5月29日 :意見書の提出 平成29年 9月28日付け:拒絶査定 平成29年12月22日 :審判請求書の提出 第2 原査定の概要 原査定(平成29年9月28日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。 1.本願請求項1-2、6に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 2.本願請求項1-2、6-7に係る発明は、以下の引用文献1に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献等一覧 1.特開2006-300253号公報 第3 本願発明 本願請求項1-7に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明7」という。)は、願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1-7に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりの発明である。 「【請求項1】 過給器を備えたエンジンと当該エンジンに連結された自動変速機とを備えた車両に搭載され、当該車両の動作を制御する車両制御装置であって、 変速線図に基づいて、前記自動変速機における変速比のアップシフトを実行するためのアップシフト条件が成立したか否かを判定し、 前記エンジンの空燃比をリーン空燃比よりもリッチ側の空燃比とする所定の燃焼モードから、前記過給器による過給を実行しながら前記エンジンの空燃比を前記リーン空燃比とする過給リーン燃焼モードへと切り替えるための切替条件が成立したか否かを判定し、 前記アップシフト条件及び前記切替条件の双方の条件が成立している場合には、前記変速比のアップシフトを実行しない ことを特徴とする車両制御装置。」 また、本願発明2-7は、本願発明1を減縮した発明である。 第4 引用文献1に記載された事項及び引用発明 原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審で付した。) 「【0015】 さらに機関負荷が高くなって機関高負荷時になると、希薄燃焼では十分な機関出力を発生させることができず、理論空燃比(又は理論空燃比よりリッチな空燃比)での均質燃焼が実施される。この理論空燃比の均質燃焼の排気ガスを浄化するために、機関排気系に三元触媒装置を配置するようにしても良い。以下、リーン空燃比での燃焼を第一燃焼とし、理論空燃比での燃焼を第二燃焼とする。第二燃焼において、第一燃料噴射弁11の燃料噴射割合を多くすると、気筒内での燃料気化に際して気筒内の吸気温度を低下させるために、吸気充填効率を高めることができる。 【0016】 本内燃機関1は、ターボチャージャ13を備えているために、その過給によって比較的多量の吸気を気筒内へ供給することができ、それにより、比較的多量の燃料が気筒内へ供給されても所望リーン空燃比での第一燃焼が可能となり、第一燃焼の運転領域を高負荷側へ拡大することができる。しかしながら、ターボチャージャ13の過給によっても、機関高負荷時に必要な燃料量に対して所望リーン空燃比を実現する吸気量を気筒内へ供給することはできず、この理由によっても、機関高負荷時には第二燃焼が実施されることとなる。 【0017】 こうして、比較的高負荷側の切換負荷を境に第一燃焼から第二燃焼へ切り換えられ、この時には、必要空気量が減少するために、アクセルペダルの踏み込み量が大きくても、スロットル弁5の開度を減少させなければならず、スロットル弁5は、アクセルペダルに機械的に連結されずに、別のアクチュエータによって自由に開度設定可能なものとされている。 【0018】 本内燃機関1には自動変速機が組み合わされて使用される。自動変速機の変速比マップは、例えば、アクセルペダルの踏み込み量と機関回転数との組み合わせによって変速比を決定するものである。高い出力が得られる第二燃焼と、それほど高い出力が得られない第一燃焼とでは、それぞれに適した異なる変速比マップが設定されている。 【0019】 ところで、前述したように、本内燃機関1にはターボチャージャ13が取り付けられており、過給が実施されるために、第一燃焼及び第二燃焼のそれぞれの変速比マップにおいては、アクセルペダルの踏み込み量と機関回転数との組み合わせに対応した過給、すなわち、これら組み合わせの定常時の過給が実施された時の機関出力に基づき変速比が設定されている。」 「【0022】 これに対して、第一燃焼の加速時におけるターボチャージャの応答遅れは顕著であり、第一燃焼時の変速比マップからのシフトアップ時期と同時に変速機のシフトアップが実施されると、シフトアップ後には、スロットル弁開度は増加されるが、不十分な過給による吸気不足によって、空燃比が所望リーン空燃比よりリッチ側となり、NO_(X)の生成量が急増してしまう問題が発生する。 【0023】 この問題を解決するために、本発明による制御装置は、図2に示すフローチャートに従って第一燃焼時の変速機のシフトアップを制限している。本フローチャートは、設定時間又は設定クランク角度毎に繰り返されるものである。先ず、ステップ101において、第一燃焼時において、アクセルペダルの踏み込み量と機関回転数との組み合わせに基づきシフトアップ要求があるか否かが判断される。この判断が否定される時にはそのまま終了するが、肯定される時には、ステップ102において、現在のスロットル弁開度TAが設定開度TA1以上であるか否かが判断される。この判断が否定される時には、ステップ105においてシフトアップが実施される。 【0024】 一方、現在のスロットル弁開度TAが設定開度TA1以上である時には、ターボチャージャ13により過給が実施される過給域である。この時には、ステップ103において、現在の過給圧Pが設定圧P1以下であるか否かが判断される。図3は、第一燃焼の加速時における過給圧Pの変化を示すタイムチャートである。前述したように、第一燃焼の加速時においては、ターボチャージャの顕著な応答遅れが発生するために、実際のアクセルペダルの踏み込み量及び機関回転数に基づき時刻t1にシフトアップ時期となっても、実際の過給圧はそれほど高くなっていない。 【0025】 この時刻t1において、シフトアップが実施されると、機関回転数は低下し、それに伴ってタービン回転数も低下するために、点線で示すように、過給圧Pはさらに低下してしまう。これでは、過給によって十分な吸気を気筒内へ供給することはできず、シフトアップ後の第一燃焼において、所望リーン空燃比を実現することはできず、機関出力が低下するだけでなく、所望リーン空燃比よりリッチな空燃比によってNO_(X)の生成量が急増してしまう。 【0026】 それにより、本フローチャートでは、現在のスロットル弁開度TAが設定開度TA1以上であって、現在の過給圧Pが設定圧P1以下である時には、ターボチャージャの応答遅れによって、マップ上のシフトアップ時期におけるアクセルペダル踏み込み量及び機関回転数にほぼ対応した過給圧が実現されていないとし、この時には、ステップ103の判断が肯定され、ステップ104においてシフトアップが禁止される。 【0027】 また、現在のスロットル弁開度TAが設定開度TA1以上であって、現在の過給圧Pが設定圧P1より高い時には、シフトアップ時期のアクセルペダル踏み込み量及び機関回転数にほぼ対応する過給圧が実現されており、この時には、ステップ103の判断が否定され、ステップ105においてシフトアップが実施される。 【0028】 こうして、実際的には、アクセルペダルの踏み込み量及び機関回転数に基づくシフトアップ時期である時刻t’より後に、過給圧Pが設定圧P1を超える時刻tとなってからシフトアップが実施されることとなる。シフトアップの直後には、機関回転数の低下に伴って過給圧Pも低下するが、スロットル弁の開度増加によって十分な吸気量を気筒内へ供給することができる。それにより、所望リーン空燃比での第一燃焼を実現することができ、機関出力の低下やNO_(X)の生成量の急増の問題が発生することはない。 【0029】 このように、本実施形態は、第一燃焼の運転領域における過給域でのシフトアップ時に、過給圧が十分に高まって設定圧となるまでシフトアップを禁止するものである。もちろん、この過給域で複数のシフトアップが設定されている場合には、それぞれのシフトアップに対して、シフトアップ時期にほぼ対応する過給圧が実現されるまでシフトアップを禁止することが好ましい。また、第二燃焼においても多少のターボチャージャの応答遅れがあるために、第二燃焼時の運転領域における過給域でのシフトアップ時期にほぼ対応する過給圧が実現されるまでシフトアップを禁止するようにしても良い。この場合において、ターボチャージャの応答遅れは、第二燃焼の方が短いために、シフトアップを禁止する時間は第一燃焼の方が長くなる。」 また、引用文献1に記載の内燃機関1と自動変速機はアクセルペダルの踏み込み量に応じて制御されるものであるから(段落【0017】、【0018】参照。)、技術常識に鑑みて、当該内燃機関1と自動変速機及びこれらを制御する制御装置(段落【0023】参照。)は車両に搭載されるものであると認められる。 したがって、引用文献1には、上記の記載事項及び認定事項によれば、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「ターボチャージャ13を備えた内燃機関1と当該内燃機関1に組み合わされた自動変速機とを備えた車両に搭載され、内燃機関1と自動変速機を制御する制御装置であって、 リーン空燃比での燃焼である第一燃焼時において、変速比マップに基づいて、自動変速機における変速比のシフトアップ要求があるか否かを判定し、 現在のスロットル弁開度TAが設定開度TA1以上であるか否かを判定し、現在のスロットル弁開度TAが設定開度TA1以上である時には、現在の過給圧Pが設定圧P1以下であるか否かを判定し、 シフトアップ要求があり、現在のスロットル弁開度TAが設定開度TA1以上であって、現在の過給圧Pが設定圧P1以下である時には、シフトアップを禁止する 制御装置。」 第5 対比・判断 1.本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。 ア 引用発明の「ターボチャージャ13」、「内燃機関1」、「組み合わされた」、「変速比マップ」、「シフトアップ」及び「シフトアップを禁止する」は、その意味または機能からみて、本願発明1の「過給器」、「エンジン」、「連結された」、「変速線図」、「アップシフト」及び「アップシフトを実行しない」にそれぞれ相当する。 イ 引用発明の「制御装置」は、内燃機関1と自動変速機を制御するものであり、これらを制御することで車両が加速等するのであるから、車両の動作を制御しているといえる。よって、引用発明の「内燃機関1と自動変速機を制御する制御装置」は、本願発明1の「車両の動作を制御する車両制御装置」に相当する。 ウ 引用発明において、「シフトアップ要求がある」ことは、シフトアップ(アップシフト)を実行するための条件が成立したことと同義であるから、本願発明1における「アップシフトを実行するためのアップシフト条件が成立」することに相当する。 エ 引用発明の「現在のスロットル弁開度TAが設定開度TA1以上であるか否かを判定し、現在のスロットル弁開度TAが設定開度TA1以上である時には、現在の過給圧Pが設定圧P1以下であるか否かを判定」することは、本願発明1の「エンジンの空燃比をリーン空燃比よりもリッチ側の空燃比とする所定の燃焼モードから、過給器による過給を実行しながらエンジンの空燃比をリーン空燃比とする過給リーン燃焼モードへと切り替えるための切替条件が成立したか否かを判定」することと、「エンジンに関連する所定の条件が成立したか否かを判定」することである限りにおいて一致する。 したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点及び相違点がある。 <一致点> 「過給器を備えたエンジンと当該エンジンに連結された自動変速機とを備えた車両に搭載され、当該車両の動作を制御する車両制御装置であって、 変速線図に基づいて、前記自動変速機における変速比のアップシフトを実行するためのアップシフト条件が成立したか否かを判定し、 エンジンに関連する所定の条件が成立したか否かを判定し、 アップシフト条件及び所定の条件が成立している場合には、変速比のアップシフトを実行しない 車両制御装置。」 <相違点> 「エンジンに関連する所定の条件」に関して、本願発明1は、「前記エンジンの空燃比をリーン空燃比よりもリッチ側の空燃比とする所定の燃焼モードから、前記過給器による過給を実行しながら前記エンジンの空燃比を前記リーン空燃比とする過給リーン燃焼モードへと切り替えるための切替条件」であって、「前記アップシフト条件及び前記切替条件の双方の条件が成立している場合」に変速比のアップシフトを実行しない構成であるのに対し、引用発明は、「現在のスロットル弁開度TAが設定開度TA1以上であるか否かを判定し、現在のスロットル弁開度TAが設定開度TA1以上である時には、現在の過給圧Pが設定圧P1以下である」ことであり、「シフトアップ要求があり、現在のスロットル弁開度TAが設定開度TA1以上であって、現在の過給圧Pが設定圧P1以下である時」に、シフトアップを禁止する構成である点。 (2)相違点についての判断 以下、相違点について検討する。 引用発明は、「第一燃焼時の変速比マップからのシフトアップ時期と同時に変速機のシフトアップが実施されると、シフトアップ後には、スロットル弁開度は増加されるが、不十分な過給による吸気不足によって、空燃比が所望リーン空燃比よりリッチ側となり、NO_(X)の生成量が急増してしまう問題」(段落【0022】参照。)を課題とし、第一燃焼(リーン空燃比での燃焼)における過給域において必要とされる過給圧が実現されていない場合にシフトアップを禁止するものであって、第一燃焼と第二燃焼(理論空燃比での燃焼)(段落【0015】参照。)の燃焼モードの切り替え時を想定したものではない。それゆえ、引用発明ではスロットル弁開度と過給圧を判定の条件として用いているのであり、燃焼モードの切り替えを判定する構成については、引用文献1に記載も示唆もされていない。 また、上記「第4」において摘記した引用文献1の記載事項に鑑みると、引用発明の内燃機関1も、本願発明1における「エンジンの空燃比をリーン空燃比よりもリッチ側の空燃比とする所定の燃焼モード」(第二燃焼の運転領域)と、「過給器による過給を実行しながらエンジンの空燃比をリーン空燃比とする過給リーン燃焼モード」(第一燃焼の運転領域における過給域)を有しているといえる。 しかしながら、引用文献1には、内燃機関1の切替負荷を境に第一燃焼と第二燃焼が切り替えられるということが記載されているのみであり(段落【0017】参照。)、各燃焼モードの具体的な切替条件については不明であるから、引用発明において、「現在のスロットル弁開度TAが設定開度TA1以上であって、現在の過給圧Pが設定圧P1以下である時」に、第二燃焼の運転領域から第一燃焼の運転領域における過給域へと燃焼モードが切り替わるための条件が成立したとみなすことはできない。 なお、引用文献1には、第二燃焼時にも引用発明と同様にシフトアップを禁止する制御を行うことは示唆されているものの(段落【0029】参照。)、引用発明は、あくまで第一燃焼の運転領域における過給域でのシフトアップ時の課題に着目したものであって、第二燃焼から第一燃焼への切り替え時の課題に着目した技術でないことは上記で述べたとおりであり、燃焼モードの切り替え時にシフトアップを禁止する制御を行うことまでは示唆されていないといえる。 これに対し、本願発明1は、「他の燃焼モードから過給リーン燃焼モードに切り替える際、自動変速機における変速比のアップシフトを実行した場合には、当該アップシフトの実行に伴ってエンジン回転数が減少するため、過給圧の上昇が遅れてしまう」(本願明細書の段落【0004】)という燃焼モードの切り替え時の課題を解決するために、アップシフト条件と燃焼モードの切替条件の双方の条件が成立している場合に変速比のアップシフトを実行しないものであり、想定している課題や制御が行われる前提条件が引用発明のものとは相違している。 よって、本願発明1が引用発明と同一であるということはできない。 また、引用文献1には、燃焼モード切替時のアップシフトに関する上記課題については記載も示唆もされていないことから、当業者といえども、引用発明に基いて相違点に係る本願発明1の構成を容易に想到することはできない。 2.本願発明2-7について 本願発明2-7も、本願発明1の「前記エンジンの空燃比をリーン空燃比よりもリッチ側の空燃比とする所定の燃焼モードから、前記過給器による過給を実行しながら前記エンジンの空燃比を前記リーン空燃比とする過給リーン燃焼モードへと切り替えるための切替条件が成立したか否かを判定し、前記アップシフト条件及び前記切替条件の双方の条件が成立している場合には、前記変速比のアップシフトを実行しない」という構成を備えるものであるから、本願発明1について上記1.(2)で述べたのと同様の理由により、引用発明と同一とはいえず、また、引用発明に基いて当業者が容易に発明できたものとはいえない。 第6 むすび 以上のとおり、本願発明1-7は、引用発明と同一とはいえず、当業者が引用発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2018-11-13 |
出願番号 | 特願2014-179409(P2014-179409) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
WY
(F16H)
P 1 8・ 121- WY (F16H) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 日下部 由泰 |
特許庁審判長 |
平田 信勝 |
特許庁審判官 |
内田 博之 藤田 和英 |
発明の名称 | 車両制御装置 |
代理人 | 特許業務法人酒井国際特許事務所 |