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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F01M
管理番号 1345807
審判番号 不服2018-3079  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-03-05 
確定日 2018-11-27 
事件の表示 特願2013-268412「オイルパン」拒絶査定不服審判事件〔平成27年7月6日出願公開、特開2015-124647、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年12月26日の出願であって、平成29年8月23日付け(発送日:同年8月29日)で拒絶理由通知がされ、同年10月23日に手続補正がされ、同年12月27日付け(発送日:平成30年1月9日)で拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、同年3月5日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。


第2 原査定の概要
原査定(平成29年12月27日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.米国特許出願公開第2012/0251788号明細書
2.特開2012-154298号公報
3.特開2013-107474号公報
4.実願昭62-176041号(実開平1-80581号)のマイクロフィルム


第3 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成29年10月23日の手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定された以下のとおりのものである(以下、「本願発明」という。)。
「【請求項1】
車両下部に配置された樹脂材料からなるオイルパンにおいて、
上記オイルパンの底壁は、車両前方側の前方壁部と、上記前方壁部に対して所定の角度をなすとともに、当該前方壁部よりも車両後方側に位置し、上記前方壁部と連続する水平な後方壁部と、を有し、
上記前方壁部は、車両後方側ほど車両上下方向で下方側に位置するように傾いているとともに、当該前方壁部に入力される外力を緩和吸収する外力吸収手段を備え、
上記外力吸収手段は、車両前後方向に沿って延びるように上記前方壁部の外壁面から突出した樹脂製の複数の縦リブであり、
上記縦リブは、車両後方側が相対的に厚肉となり、かつその先端が車両前方側ほど相対的に薄肉となるよう形成されていることを特徴とするオイルパン。」


第4 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(米国特許出願公開第2012/0251788号明細書)には、「耐衝撃表面を持った物品」に関し、図面(特に、FIG.1ないし5を参照)とともに次の事項が記載されている。(下線は、理解の一助のために当審が付与した。以下同様。)
(1)「[0003]The subject invention generally relates to an article having an impact resistant surface for preventing damage to the article upon impact by an object. 」
(当審仮訳)
本発明は、一般に、物体による衝撃を受けた際に物品の損傷を防止するための耐衝撃性を有する表面を有する物品に関する。

(2)「[0032]Referring to the Figures, wherein like numerals indicate corresponding parts throughout the several views, an article is shown generally at 20. Preferably, the article 20 is manufactured from a polymeric material, i.e., a plastic material. In the context of the present invention, it should be understood that the polymeric material can be neat, i.e., virgin, uncompounded resin, or that the polymeric material can be an engineered product where the resin is compounded with other components, for example with select additives to improve certain physical properties. Such select additives include, but are not limited to, lubricants, non-fiber impact modifiers, fiber-based impact resistance additives, coupling agents, and colorants, such as pigments and the like.」
(当審仮訳)
図面を参照すると、20として示される物品では、同じ番号は、複数の図面において、対応する部品を示している。物品20は、重合体材料、すなわちプラスチック材料から製造される。本発明の文脈では、重合体材料は、純粋であること、すなわち、バージンの非配合樹脂であるか、または、重合体材料は、その中の樹脂が他の成分、例えば、特定の物理的特性を向上させるために選択された添加剤を配合した工学的生産物であってもよいことが理解されるべきである。このような選択された添加剤として、限定されないが、潤滑剤、非繊維耐衝撃性改良剤、繊維ベースの耐衝撃添加剤、カップリング剤、着色剤、顔料等が挙げられる。

(3)「[0040]As shown in FIG. 1, the article 20 may be formed as a fluid reservoir, and more specifically, the article 20 may be formed as an oil pan for an engine of a vehicle such as an internal combustion engine. It should be understood that the article 20 may be formed into something other than the fluid reservoir and still fall within the scope of the disclosure, such as a gas tank, an engine coolant overflow tank, power steering fluid reservoir, etc. Additionally, it should be understood that the article 20 may be for any type of vehicle, such as an automobile, a boat, a plane, a tractor, etc. Depending upon the specific use of the article 20, the article 20 may have to meet specific impact resistance design requirements. In other words, the article 20 may need to include an impact resistance capable of absorbing a predetermined force. For example, the article 20 should be able to absorb an impact force transferred to the article 20 from the impact force of the object that is below the predetermined force without failing.」
(当審仮訳)
図1に示すように、物品20は、流体リザーバとして形成されてもよく、より具体的には、物品20は、内燃機関等の車両エンジン用のオイルパンとして形成されてもよい。物品20は、流体リザーバ以外の、ガスタンク、エンジン冷却剤オーバーフロータンク、パワーステアリング流体リザーバ等のような何か形成し得ることも、本開示の範囲内に含まれることが理解されるべきである。さらには、物品20は任意のタイプの車両、自動車、ボート、飛行機、トラクタ、などであってもよいことが理解されるべきである。物品20の特定の用途に依存して、物品20は、特定の耐衝撃設計要件を満たさなければならないことがある。言い換えれば、物品20は、所定の力を吸収することが可能な耐衝撃性を有する必要がある。例えば、物品20は、それに加えられる衝撃力が所定値より小さい場合は確実にその衝撃力が吸収されるべきである。

(4)「[0041]The article 20 includes at least one exterior surface 24 having an impact portion 50 disposed between a leading portion 52 and a trailing portion 54. Additionally, the exterior surface may include a planar portion such that any of the impact portion 50, leading portion 52, and trailing portion 54 may include the planar portion. Generally, when the article 20 is coupled to the vehicle, the leading portion 52 faces a front of the vehicle and the trailing portion 54 faces a rear of the vehicle. The leading portion 52 includes a wall 56 coupled to the impact portion 50 of the exterior surface 24 for coupling the article 20 to the vehicle. The wall 56 spaces the impact portion 50 of the exterior surface 24 from the vehicle when the article 20 is mounted to the vehicle. Typically, the wall 56 has a length L of from about 1 to about 400 and more typically of from about 50 to about 250 mm. The trailing portion 54 includes a reservoir portion 58 defining a depth D of the article that is greater than the length L of the wall 56. The impact portion 50 is coupled to the reservoir portion 58 and the wall 56 for providing a transition between the leading portion 52 and the trailing portion 54. As the transition between the leading and trailing portions 52, 54 of the article, the impact portion 50 of the exterior surface 24 is the most likely portion of the exterior surface 24 to be impacted by the object. As such, it is advantageous to provide the impact portion 50 with increased impact resistance.」
(当審仮訳)
物品20は、前縁部分52および後縁部分54との間に配置された衝撃部分50を有する少なくとも1つの外部表面24を含んでいる。加えて、衝撃部分50、前縁部分52及び後縁部分54のいずれかが平面状の部分を含むように、外部表面が平坦部を含んでいてもよい。一般に、物品20は、車両に連結されると、前縁部分52は、車両の前方を向き、後縁部分54は車両の後方を向く。前縁部分52は、物品20を車両に結合するための外部表面24の衝撃部分50に結合された壁56とを備えている。壁56は、物品20が車両に取り付けられたとき、外部表面24の衝撃部分50と車両とを隔てている。典型的には、壁56は、約1mmから約400mmまで、より典型的には約50mmから約250mmまでの長さLを有している。後縁部分54は、壁56の長さLよりも大きい物品の深さDを画成するリザーバ部分58を含んでいる。衝撃部分50は前縁部分52と後縁部分54との間の遷移を提供するためのリザーバ部分58および壁56に接続されている。物品の前縁部分52及び後縁部分54の間の中で、外部表面24の衝撃部分50は、最も物体に衝突されやすい部分である。このように、衝撃部分50の耐衝撃性の増大を提供することが有利である。

(5)「[0045]A plurality of ribs 26 extend from the exterior surface 24. It is to be appreciated that the ribs 26 may be disposed over the entire exterior surface 24 and may be disposed over only a portion of the exterior surface 24 and still fall within the scope of the invention. Each of the ribs 26 includes a pair of side surfaces 28 in spaced parallel relationship and perpendicular to the exterior surface 24. Each of the ribs 26 also includes a top surface 30 spaced from the exterior surface 24 and extending between the pair of side surfaces 28.」
(当審仮訳)
複数のリブ26は、外部表面24から延びている。リブ26は、外部表面24全体にわたって配置されてもよいことを理解すべきであり、そして外面24の一部の上にのみ配置されてもよく、これも本発明の範囲に入る。リブ26の各々は、間隔をあけて平行に配置された一対の側面28を有し、外部表面24に対して垂直である。各リブ26は、また、外部表面24から離間した、一対の側面28の間に延在する頂面30を有している。

(6)「[0046]Referring to FIGS. 4 and 5, a fillet 32 interconnects the exterior surface 24 and each of the side surfaces 28 of the ribs 26. The fillet 32 has a fillet radius 34, which interconnects the side surfaces 28 of the ribs 26 and the exterior surface 24 for spreading the impact force of the impact of the object with the ribs 26 over a larger area of the exterior surface 24. Spreading the impact force over a larger area minimizes the impact force per square millimeter acting on the exterior surface 24 thereby increasing the impact resistance of the article 20. Typically, the fillet radius 34 is less than 2.00 mm, and more typically in the range of 0.75 mm to 2.00 mm. In one embodiment, the fillet radius 34 is equal to 1.5 mm. In another embodiment, the fillet radius 34 is less than 0.75 mm. However, it should be appreciated that the fillet radius 34 may vary from the preferred range and still fall within the scope of the invention.」
(当審仮訳)
図4及び図5を参照すると、フィレット32は、外部表面24と、リブ26の側面28の各々を相互接続する。フィレット32はリブ26の側面28と外部表面24を接続するフィレット半径34を有し、外部表面24の広い範囲に衝撃力を拡散させる。広い範囲への衝撃力の拡散は、外部表面24に作用する平方ミリメートル当たりの衝撃力を最小化し、それにより物品20の耐衝撃性を増加させる。一般に、フィレット半径34が2.00mm以下、より典型的には0.75mmから2.00mmの範囲である。一実施形態では、フィレット半径34は、1.5mmに等しい。別の実施形態では、フィレット半径34は、0.75mm未満である。しかし、フィレット半径34は、好ましい範囲から変化してもよく、これも、依然として本発明の範囲内であることを理解されたい。

(7)「[0050]The side surfaces 28 of the ribs 26 are spaced apart from each other to define a width W. The width W is preferably in the range of 2.00 mm and 3.00 mm. More preferably, the width W is equal to 2.20 mm. However, it should be appreciated that the width W may vary from the preferred range and still fall with in the scope of the invention.」
(当審仮訳)
リブ26の側面28は、互いに離間して幅Wを規定し、幅Wは2.00mmから3.00mmの範囲であることが好ましい。より好ましくは、幅Wは、2.20mmに等しい。しかしながら、幅Wは好適な範囲から変化してもよく、これも、依然として本発明の範囲内であることを理解されたい。

(8)上記(4)並びにFIG.1及び2の図示内容から、オイルパンの底壁は、車両前方側の前方壁部と、上記前方壁部に対して所定の角度をなすとともに、当該前方壁部よりも車両後方側に位置し、上記前方壁部と連続する水平な後方壁部と、を有しているといえる。また、上記前方壁部は、車両後方側ほど車両上下方向で下方側に位置するように傾いているといえる。

(9)上記(3)及び(6)並びにFIG.1ないし3の図示内容から、リブ26は、前方壁部に入力される外力を緩和吸収する外力吸収手段であるといえる。

(10)上記(2)の「物品20は、重合体材料、すなわちプラスチック材料から製造される。」の記載、上記(4)の「物品20は、前縁部分52および後縁部分54との間に配置された衝撃部分50を有する少なくとも1つの外部表面24を含んでいる。」の記載及び上記(5)の「複数のリブ26は、外部表面24から延びている。」の記載並びにFIG.1ないし5の図示内容から、リブ26はプラスチック材料製であるといえる。

上記記載事項及び認定事項並びにFIG.1ないし5の図示内容からみて、引用文献1には次の発明及び事項(以下、「引用発明1」及び「引用文献1記載事項」という。)が記載されていると認められる。
[引用発明1]
「車両エンジン用のプラスチック材料から製造されるオイルパンにおいて、
上記オイルパンの底壁は、車両前方側の前方壁部と、上記前方壁部に対して所定の角度をなすとともに、当該前方壁部よりも車両後方側に位置し、上記前方壁部と連続する水平な後方壁部と、を有し、
上記前方壁部は、車両後方側ほど車両上下方向で下方側に位置するように傾いているとともに、当該前方壁部に入力される外力を緩和吸収する外力吸収手段を備え、
上記外力吸収手段は、車両前後方向に沿って延びるように上記前方壁部の外部表面24から突出したプラスチック材料製の複数のリブ26であるオイルパン。」

[引用文献1記載事項]
「リブ26の幅Wは2.00mm?3.00mmの範囲であることが好ましく、より好ましくは、2.20mmに等しいが、幅Wは好適な範囲から変化してもよいこと。」

2.引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開2012-154298号公報)には、「衝撃吸収構造」に関し、図面(特に、図1ないし4を参照)とともに、次の事項が記載されている。

(1)「【背景技術】
【0002】
一般に、自動車にはエンジンやモータ等のパワーユニットが搭載されるが、走行中に車両下方から飛び石等がパワーユニットに衝突して、パワーユニットが破損する虞がある。
【0003】
そこで、従来、エンジン下部に設置されるオイルパンなどでは、衝撃を吸収する保護パネルを設置して、オイルパン表面に割れ等の破損が生じないようにしている。例えば、下記特許文献1には、樹脂製のオイルパンに割れが生じないように、オイルパンの前方から下方に亘り保護カバーを設置するものが記載されている。」

(2)「【0034】
図1は、本発明の実施形態1の衝撃吸収構造を底部に採用したオイルパン1を示す図である。
【0035】
まず、この図1でオイルパン1の構造について説明する。オイルパン1は、図示しないエンジンのシリンダーブロックの下方に設置されており、周知のようにエンジンオイルEを内部に貯留している。
【0036】
このオイルパン1は、異形の略矩形有底筒体で構成した樹脂製の射出成形品であり、図1において右側で大きく膨出した底壁部11と、この底壁部11の周縁から上方に立ち上がる前壁部12と、同じく上方に立ち上がる側壁部13と、上方に立ち上がる後壁部14(図4参照)とをそれぞれ備えて構成している。なお、ここで、前、後及び側方とは、自動車に設置した状態での前、後及び側方を意味する。」

(3)「【0041】
オイルパン1の前壁部12の前面12a(外側面)、及び底壁部11の下面11a(外側面)には、衝撃吸収インナリブ2を、上部から下部に亘って直線状に前後方向に延びるように設けている。この衝撃吸収インナリブ2は、後述するように前方及び下方から大きな衝撃荷重を受けた際に、座屈変形して衝撃エネルギーを吸収するものである。
【0042】
また、この衝撃吸収インナリブ2…を複数設けることで、飛び石等との接触により衝撃を受けた際でも、荷重集中が生じないため、オイルパン1にクラック等の割れが生じるのを防止している。
【0043】
なお、この衝撃吸収インナリブ2は、例えば、左右方向に14条が並列に並ぶように設けている。そして、その間隔(ピッチ)pは、後述のように所定の値に設定している。
【0044】
このように構成されるオイルパン1に対して、その前壁部12の前方から底壁部11の下方にかけて、プロテクターカバー3を取り付けている。次に、このプロテクターカバー3について、図1乃至図3を使って説明する。
【0045】
プロテクターカバー3は、図1及び図2に示すように、前端3aが、前壁部12上端に設けた取付ボス12bに対して樹脂製クリップピン31によって固定されて、後端3bが、底壁部11下面に設けた断面略T字状のT形係止部11b,11bにスライド自在に差込固定される。
【0046】
このプロテクターカバー3も、射出成形によって形成される樹脂製の射出成形品であり、図3に示すように、略矩形形状の平板プレート状で形成して、自動車に設置した状態で上側が上方に湾曲して反るように形成している(なお、矢印は自動車に設置した状態での方向を示す)。
【0047】
そして、その表面側(外方側)には、上方から下方に亘って前後方向に延びる衝撃吸収アウタリブ4を設けている。この衝撃吸収アウタリブ4も、所定の間隔(ピッチ)p´で平板プレート状の基部32から突出して、例えば、左右方向(図1参照)に15条が並列に並ぶように設けている。
【0048】
但し、この衝撃吸収アウタリブ4はプロテクターカバー3全域に設けるのではなく、プロテクターカバー3の前端3aと後端3bには、衝撃吸収アウタリブ4を設けていない平坦領域33,33を設けている。この平坦領域33,33を設けることにより、プロテクターカバー3の前端3aと後端3bの剛性を低下させて、衝撃荷重を受けた際にはこの平坦領域33,33が撓んで衝撃荷重を吸収して、T形係止部11b,11bやクリップピン31に過大な衝撃荷重が作用しないようにしている。こうすることで、T形係止部11b,11bやクリップピン31が破損するのを防止している。」

(4)図4の図示内容から、オイルパン1の底壁部11は、車両前方側の底壁部11前方部分と、上記底壁部11前方部分に対して所定の角度をなすとともに、当該底壁部11前方部分よりも車両後方側に位置し、上記底壁部11前方部分と連続する底壁部11後方部分と、を有しているといえる。また、上記底壁部11前方部分は、車両後方側ほど車両上下方向で下方側に位置するように傾いているといえる。

(5)上記(1)の「オイルパン1は、異形の略矩形有底筒体で構成した樹脂製の射出成形品であり」の記載、上記(2)の「オイルパン1の前壁部12の前面12a(外側面)、及び底壁部11の下面11a(外側面)には、衝撃吸収インナリブ2を、上部から下部に亘って直線状に前後方向に延びるように設けている。」の記載、上記(2)の「プロテクターカバー3も、射出成形によって形成される樹脂製の射出成形品であり、」の記載及び上記(2)の「その表面側(外方側)には、上方から下方に亘って前後方向に延びる衝撃吸収アウタリブ4を設けている。」の記載から、衝撃吸収インナリブ2及び衝撃吸収アウタリブ4は樹脂製であるといえる。

上記記載事項及び認定事項並びに図1ないし4の図示内容からみて、引用文献2には次の技術(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「車両下部に配置された樹脂製のオイルパン1において、
上記オイルパン1の底壁部11は、車両前方側の底壁部11前方部分と、上記底壁部11前方部分に対して所定の角度をなすとともに、当該底壁部11前方部分よりも車両後方側に位置し、上記底壁部11前方部分と連続する底壁部11後方部分と、を有し、
上記底壁部11前方部分は、車両後方側ほど車両上下方向で下方側に位置するように傾いているとともに、衝撃吸収構造を備え、
上記衝撃吸収構造は、前後方向に延びる樹脂製の衝撃吸収インナリブ2及びその表面側に設けられ前後方向に延びる樹脂製の衝撃吸収アウタリブ4である、オイルパン1。」

3.引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3(特開2013-107474号公報)(特に、段落【0029】及び図1を参照。)には、「車両下部構造」に関し、次の事項が記載されている。(以下、「引用文献3記載事項」という。)
「整流フィン50の車幅方向右側の端面50B及び車幅方向左側の端面50Cが該整流フィン50の前端部から後端部にかけて互いに離間する方向へ末広がりとなるように配置された車両下部構造。」

4.引用文献4について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4(実願昭62-176041号(実開平1-80581号)のマイクロフィルム)(特に、明細書第4ページ第1ないし7行及び第7ページ第20行ないし第8ページ第6行並びに第4及び5図を参照。)には、「自動車のアンダーカバー構造」に関し、次の事項が記載されている。(以下、「引用文献4記載事項」という。)
「後端側ほど高さが大となり幅が小となる突条34、35、36又は37を取付けて、各突条の間に、深さ及び幅が後端側ほど大となる溝35A、36A、37Aを形成し、渦流発生部14とした自動車のアンダーカバー構造。」


第5 対比・判断
1.引用発明1との対比・判断
(1)対比
本願発明と引用発明1とを対比する。
引用発明1における「プラスチック材料から製造されるオイルパン」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本願発明の「樹脂材料からなるオイルパン」に相当し、同様に、「プラスチック材料の複数のリブ26」は「樹脂製の複数の縦リブ」に、相当する。
また、「車両エンジン用」の「オイルパン」が、車両下部に配置されることは技術常識であるから、引用発明1における「車両エンジン用のプラスチック材料から製造されるオイルパン」は、本願発明の「車両下部に配置された樹脂材料からなるオイルパン」に相当する。

したがって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。
[一致点]
「車両下部に配置された樹脂材料からなるオイルパンにおいて、
上記オイルパンの底壁は、車両前方側の前方壁部と、上記前方壁部に対して所定の角度をなすとともに、当該前方壁部よりも車両後方側に位置し、上記前方壁部と連続する水平な後方壁部と、を有し、
上記前方壁部は、車両後方側ほど車両上下方向で下方側に位置するように傾いているとともに、当該前方壁部に入力される外力を緩和吸収する外力吸収手段を備え、
上記外力吸収手段は、車両前後方向に沿って延びるように上記前方壁部の外壁面から突出した樹脂製の複数の縦リブであるオイルパン。」

[相違点1]
本願発明においては、縦リブが「車両後方側が相対的に厚肉となり、かつその先端が車両前方側ほど相対的に薄肉となるよう形成されている」のに対して、引用発明においては、リブ26がそのような構成になっていない点。

(2)判断
上記相違点1について検討する。
引用文献1記載事項は、「リブ26の幅Wは2.00mm?3.00mmの範囲であることが好ましく、より好ましくは、2.20mmに等しいが、幅Wは好適な範囲から変化してもよいこと」というものであるが、該記載事項は、リブ26を「車両後方側が相対的に厚肉となり、かつその先端が車両前方側ほど相対的に薄肉となるよう形成」することまで、開示ないし示唆するものではない。
また、引用文献3記載事項は「整流フィン50の車幅方向右側の端面50B及び車幅方向左側の端面50Cが該整流フィン50の前端部から後端部にかけて互いに離間する方向へ末広がりとなるように配置された車両下部構造」というものであり、引用文献4記載事項は「後端側ほど高さが大となり幅が小となる突条34、35、36又は37を取付けて、各突条の間に、深さ及び幅が後端側ほど大となる溝35A、36A、37Aを形成し、渦流発生部14とした自動車のアンダーカバー構造」というものであるが、これらはいずれも車両下部の空気の流れを制御することを目的としたものであり、外力吸収手段に関するものではない。
さらに、引用文献4記載事項は、突条34、35、36又は37が、後端側ほど高さが大となり幅が小となるものであって、本願発明の縦リブのように、車両後方側が相対的に厚肉となり、かつその先端が車両前方側ほど相対的に薄肉となるよう形成されたものではない。
そうすると、引用発明1に引用文献1記載事項、引用文献3記載事項及び引用文献4記載事項を適用しても、上記相違点1に係る本願発明の構成とすることはできない。
したがって、本願発明は、引用発明1、引用文献1記載事項、引用文献3記載事項及び引用文献4記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2.引用発明2との対比・判断
(1)対比
本願発明と引用発明2とを対比する。
引用発明2における「樹脂製の」は、その機能、構成及び技術的意義から本願発明の「樹脂材料からなる」に相当し、以下同様に、「オイルパン1」は「オイルパン」に、「底壁部11」は「底壁」に、「底壁部11前方部分」は「前方壁部」に、「底壁部11後方部分」は「後方壁部」に、「衝撃吸収構造」は「当該前方壁部に入力される外力を緩和吸収する外力吸収手段」に、それぞれ相当する。
また、引用発明2における「衝撃吸収構造は、前後方向に延びる樹脂製の衝撃吸収インナリブ2及びその表面側に設けられ前後方向に延びる樹脂製の衝撃吸収アウタリブ4であ」ると、本願発明の「外力吸収手段は、車両前後方向に沿って延びるように上記前方壁部の外壁面から突出した樹脂製の複数の縦リブであ」りとは、「外力吸収手段は、車両前後方向に沿って延びるように上記前方壁部の外壁面から突出した樹脂製の複数の縦リブを含む」という限りにおいて一致している。

したがって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。
[一致点]
「車両下部に配置された樹脂材料からなるオイルパンにおいて、
上記オイルパンの底壁は、車両前方側の前方壁部と、上記前方壁部に対して所定の角度をなすとともに、当該前方壁部よりも車両後方側に位置し、上記前方壁部と連続する後方壁部と、を有し、
上記前方壁部は、車両後方側ほど車両上下方向で下方側に位置するように傾いているとともに、当該前方壁部に入力される外力を緩和吸収する外力吸収手段を備え、
上記外力吸収手段は、車両前後方向に沿って延びるように上記前方壁部の外壁面から突出した樹脂製の複数の縦リブを含むオイルパン。」

[相違点2]
「後方壁部」が、本願発明においては、前方壁部と連続する「水平な」ものであるのに対して、引用発明2においては、底壁部11前方部分と連続するが水平であるか不明な点。

[相違点3]
「縦リブ」が、本願発明においては、「車両後方側が相対的に厚肉となり、かつその先端が車両前方側ほど相対的に薄肉となるよう形成されている」のに対して、引用発明2においては、衝撃吸収インナリブ2及び衝撃吸収アウタリブ4が、そのような構成となっているか不明な点。

(2)判断
事案に鑑み、上記相違点3について検討する。
引用文献1記載事項は、「リブ26の幅Wは2.00mm?3.00mmの範囲であることが好ましく、より好ましくは、2.20mmに等しいが、幅Wは好適な範囲から変化してもよいこと」というものであるが、リブ26を「車両後方側が相対的に厚肉となり、かつその先端が車両前方側ほど相対的に薄肉となるよう形成」することまで、開示ないし示唆するものではない。
また、引用文献3記載事項は「整流フィン50の車幅方向右側の端面50B及び車幅方向左側の端面50Cが該整流フィン50の前端部から後端部にかけて互いに離間する方向へ末広がりとなるように配置された車両下部構造」というものであり、引用文献4記載事項は「後端側ほど高さが大となり幅が小となる突条34、35、36又は37を取付けて、各突条の間に、深さ及び幅が後端側ほど大となる溝35A、36A、37Aを形成し、渦流発生部14とした自動車のアンダーカバー構造」というものであるが、これらはいずれも車両下部の空気の流れを制御することを目的としたものであり、外力吸収手段に関するものではない。
さらに、引用文献4記載事項は、突条34、35、36又は37が、後端側ほど高さが大となり幅が小となるものであって、本願発明の縦リブのように、車両後方側が相対的に厚肉となり、かつその先端が車両前方側ほど相対的に薄肉となるよう形成されたものではない。
そうすると、引用発明2に、引用文献1記載事項、引用文献3記載事項及び引用文献4記載事項を適用しても、上記相違点3に係る本願発明の構成とすることはできない。
したがって、本願発明は、引用発明2、引用文献1記載事項、引用文献3記載事項及び引用文献4記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。


第6 原査定について
本願発明は、「縦リブは、車両後方側が相対的に厚肉となり、かつその先端が車両前方側ほど相対的に薄肉となるよう形成されている」という発明特定事項を有するものであるから、上記「第5」で検討したとおり、当業者であっても原査定で引用された引用文献1ないし4に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。


第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-11-12 
出願番号 特願2013-268412(P2013-268412)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F01M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 西中村 健一  
特許庁審判長 冨岡 和人
特許庁審判官 鈴木 充
粟倉 裕二
発明の名称 オイルパン  
代理人 富岡 潔  
代理人 小林 博通  

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