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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 A21D 審判 全部申し立て 2項進歩性 A21D 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A21D |
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管理番号 | 1345835 |
異議申立番号 | 異議2018-700017 |
総通号数 | 228 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-12-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-01-10 |
確定日 | 2018-09-28 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6162343号発明「ドーナツ類及びその製造方法」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6162343号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり,訂正後の〔3,4,6〕について訂正することを認める。 特許第6162343号の請求項1?7に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯の概略 特許第6162343号の請求項1?7に係る特許(以下「本件特許」という。)についての手続の経緯は,概ね,次のとおりである。 2014年 9月26日 国際出願 平成29年 6月23日 特許権の設定登録 平成29年 7月12日 特許掲載公報 平成30年 1月10日 特許異議の申立て (特許異議申立人:根岸達郎) 平成30年 3月13日 取消理由通知書 平成30年 6月 7日 意見書(特許権者)及び訂正請求書 平成30年 7月18日 意見書(特許異議申立人) 以下,平成30年6月7日付けの訂正請求書に係る訂正を「本件訂正」という。 第2 本件訂正の適否 1 本件訂正の内容 本件訂正の請求は,本件特許の明細書及び特許請求の範囲を,訂正請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項3,4,6について訂正することを求めるものであって,その訂正の内容は次のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。 (1) 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項3に,「ワキシータピオカでん粉,ヒドロキシプロピルでん粉及び/又はアセチルでん粉から選択される1又は2以上のでん粉である」と記載されているのを,「ワキシータピオカでん粉,ヒドロキシプロピルでん粉又はアセチルでん粉から選択されるでん粉である」に訂正する。 (2) 訂正事項2 明細書の【0017】に「(3)糊化開始温度が49.4℃以上62.6℃以下のでん粉が,ワキシータピオカでん粉,ヒドロキシプロピルでん粉及び/又はアセチルでん粉から選択される1又は2以上のでん粉であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の吸油量の低減とモチ食感を付与したドーナツ類の製造方法や」と記載されているのを,「(3)糊化開始温度が49.4℃以上62.6℃以下のでん粉が,ワキシータピオカでん粉,ヒドロキシプロピルでん粉又はアセチルでん粉から選択されるでん粉であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の吸油量の低減とモチ食感を付与したドーナツ類の製造方法や」に訂正する。 2 本件訂正の適否について (1) 訂正事項1 前記訂正事項1は,本件訂正後の請求項3に係る発明の「でん粉」について,「ワキシータピオカでん粉,ヒドロキシプロピルでん粉又はアセチルでん粉から選択されるでん粉である」であると選択肢を限定するものであるから,前記訂正事項1に係る本件訂正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。 そして,本件訂正前の請求項3に「ワキシータピオカでん粉,ヒドロキシプロピルでん粉及び/又はアセチルでん粉から選択される1又は2以上のでん粉である」と記載され,本件特許明細書に「(3)糊化開始温度が49.4℃以上62.6℃以下のでん粉が,ワキシータピオカでん粉,ヒドロキシプロピルでん粉及び/又はアセチルでん粉から選択される1又は2以上のでん粉である」(【0017】)と記載されている。 よって,前記訂正事項1に係る本件訂正は,新規事項を追加するものではなく,カテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。 (2) 訂正事項2 前記訂正事項2は,前記訂正事項1に係る本件訂正に伴って,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載の整合を図るための訂正であるから,前記訂正事項2に係る本件訂正は,明瞭でない記載の釈明を目的とするものと認められる。 よって,前記訂正事項2に係る本件訂正は,新規事項を追加するものではなく,カテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。 (3) さらに,本件訂正は一群の請求項ごとに請求されたものである。 (4) 以上のとおりであるから,本件訂正は特許法120条の5第2項ただし書1号及び3号に掲げる事項を目的とするものであって,本件訂正の請求は同条4項,同条9項において準用する同法126条4項?6項の規定に適合するので,訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔3,4,6〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 前記第2のとおり,本件訂正は認められるから,本件特許の請求項1?7に係る発明は,訂正特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される,次のとおりのものである。以下,本件特許に係る発明を請求項の番号に従って「本件発明1」などといい,総称して「本件発明」という。 【請求項1】 でん粉質原料として,小麦粉とでん粉を含むドーナツ類において,該でん粉質原料が,小麦粉と,糊化開始温度が49.4℃以上62.6℃以下であるでん粉及び/又は加工でん粉からなり,小麦粉とでん粉の合計100重量部のうち,糊化開始温度が49.4℃以上62.6℃以下であるでん粉及び/又は加工でん粉を5重量部以上90重量部以下含ませることを特徴とする吸油量の低減とモチ食感を付与したドーナツ類の製造方法。 【請求項2】 でん粉質原料として,小麦粉とでん粉を含むドーナツ類において,該でん粉質原料が,小麦粉と,糊化開始温度が49.4℃以上62.6℃以下であるでん粉及び/又は加工でん粉からなり,小麦粉とでん粉の合計100重量部のうち,糊化開始温度が49.4℃以上62.6℃以下のでん粉及び/又は加工でん粉の含有量が,15重量部以上70重量部以下であることを特徴とする請求項1に記載の吸油量の低減とモチ食感を付与したドーナツ類の製造方法。 【請求項3】 糊化開始温度が49.4℃以上62.6℃以下のでん粉が,ワキシータピオカでん粉,ヒドロキシプロピルでん粉又はアセチルでん粉から選択されるでん粉であることを特徴とする請求項1又は2に記載の吸油量の低減とモチ食感を付与したドーナツ類の製造方法。 【請求項4】 ヒドロキシプロピルでん粉が,置換度0.06以上0.12以下のヒドロキシプロピルタピオカでん粉であることを特徴とする請求項3に記載の吸油量の低減とモチ食感を付与したドーナツ類の製造方法。 【請求項5】 でん粉質原料として,小麦粉とでん粉を含むドーナツ類の製造において,該でん粉質原料が,小麦粉と,糊化開始温度が49.4℃以上62.6℃以下であるでん粉及び/又は加工でん粉からなり,小麦粉とでん粉の合計100重量部のうち,糊化開始温度が49.4℃以上62.6℃以下のでん粉及び/又は加工でん粉の含有量を,5重量部以上90重量部以下に調整することにより,製造したドーナツ類の吸油量の低減とモチ食感とを付与する方法。 【請求項6】 請求項1?4のいずれかに記載のドーナツ類の製造方法又は請求項5に記載のドーナツ類の吸油量の低減とモチ食感とを付与する方法により製造された吸油量の低減とモチ食感を付与したドーナツ類。 【請求項7】 でん粉質原料として,小麦粉とでん粉を含むドーナツ類製造用プレミックスにおいて,該でん粉質原料が,小麦粉と,糊化開始温度が49.4℃以上62.6℃以下であるでん粉及び/又は加工でん粉からなり,小麦粉とでん粉の合計100重量部のうち,糊化開始温度が49.4℃以上62.6℃以下であるでん粉及び/又は加工でん粉を5重量部以上90重量部以下含ませるように配合したことを特徴とする吸油量の低減とモチ食感を付与したドーナツ類製造用のプレミックス。 第4 取消理由についての判断 1 取消理由の概要 本件訂正前の本件特許に対し通知した取消理由は,概ね,次のとおりである。なお,下記取消理由は本件特許異議の申立てにおける全ての申立理由(特許法29条1項3号,29条2項,36条6項1号,36条6項2号)を含んでいる。 (1) 取消理由1 本件発明は,本件特許の出願前に日本国内又は外国において,頒布された甲第1号証に記載された発明であって,特許法29条1項3号の規定により特許を受けることができないから,その発明に係る特許は取り消すべきものである。 (2) 取消理由2 本件発明は,ア 本件特許の出願前に日本国内又は外国において,頒布された甲第1号証に記載された発明及び甲第4号証の1,甲第4号証の2,甲第5号証に記載された事項に基いて,イ 本件特許の出願前に日本国内又は外国において,頒布された甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証,甲第4号証の1,甲第4号証の2,甲第5号証に記載された事項に基いて,ウ 本件特許の出願前に日本国内又は外国において,頒布された甲第3号証に記載された発明及び甲第1号証,甲第4号証の1,甲第4号証の2,甲第5号証に記載された事項に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,その発明に係る特許は取り消すべきものである。 (3) 取消理由3 本件特許は,特許請求の範囲の記載が次の点で不備のため,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり,取り消すべきものである。すなわち,請求項3に「糊化開始温度が49.4℃以上62.6℃以下のでん粉が,ワキシータピオカでん粉,ヒドロキシプロピルでん粉及び/又はアセチルでん粉から選択される…2以上のでん粉である」と記載されているが,発明の詳細な説明には,2種以上のでん粉が同時に使用されている実施例が記載されていないから,本件発明3,4,6は,発明の詳細な説明に記載したものではない。 (4) 取消理由4 本件特許は,特許請求の範囲の記載が次の点で不備のため,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり,取り消すべきものである。すなわち,請求項1?3,5,7に「糊化開始温度」と記載されているが,その意味するところが不明確であるから,本件発明が明確でない。 2 証拠方法 異議申立人が提出した証拠方法(甲第1号証?甲第7号証)は以下のとおりである。以下,各号証を証拠の番号に従って「甲1」などという。 甲第1号証:特開2004-254520号公報 甲第2号証:特開平10-313787号公報 甲第3号証:特開2012-100559号公報 甲第4号証の1:菅野祥三,“加工でん粉の基礎知識と現状について”,でん粉情報,独立行政法人農畜産業振興機構調査情報部情報課,平成22年3月5日,2010年3月号,No.30,p.1-6 甲第4号証の2:菅野祥三,“加工でん粉の基礎知識と現状について”,[online],2010年3月,独立行政法人農畜産業振興機構調査情報部情報課,[平成30年1月3日検索],インターネット <URL:http://www.alic.go.jp/starch/japan/wadai/201003-01.html> 甲第5号証:高橋禮治,“でん粉製品の知識”,初版第2刷,株式会社幸書房,2000年2月5日,p.56-65,108-115 甲第6号証:小倉徳重,“でん粉と食品適性”,調理科学,調理科学研究会,1973年,Vol.6,No.2,p.76-87 3 取消理由1(29条1項3号)及び取消理由2(29条2項)について (1) 甲1について ア 甲1に記載された事項 ・「【請求項1】 β-澱粉50?80質量部,α-澱粉6?25質量部,小麦粉7?30質量部,及び糖質7?25質量部からなる原料粉を使用してなるゴマダンゴ風ドーナツ。」 ・「【発明の属する技術分野】 本発明は,保存性に優れたゴマダンゴ風ドーナツ,製造用の生地及びその製造方法に関する。」 ・「【0005】 【発明が解決しようとする課題】 本発明の目的は,外観的にドーナツと同様であって,ゴマダンゴの様なもちもちした食感を有し,且つ,その食感が経時安定性に優れたドーナツを提供することである。 本発明の他の目的は上記ドーナツの製造用の生地を提供することである。 本発明のさらに他の目的は上記ドーナツの製造方法を提供することである。」 ・「【0007】 【発明の実施の形態】 本発明は,β-澱粉50?80質量部,α-澱粉6?25質量部,小麦粉7?30質量部,及び糖質7?25質量%からなる原料粉を使用してなるゴマダンゴ風ドーナツ,その製造用の生地及びその製造方法を提供するものである。 この明細書において「ゴマダンゴ風」とは,ゴマダンゴ様のもちもちした食感を有することを意味する。従って,「ゴマダンゴ風ドーナツ」とは,ゴマダンゴの様なもちもちした食感を有するドーナツを意味する。また,「ドーナツ」とは,生地中にイーストを添加して醗酵させ所望の形状に成形してフライしたイーストドーナツ,ベーキングパウダーを含有する生地を所望の形状に成形してフライしたケーキドーナツの他,チュロスのようにイーストやベーキングパウダーを使用しないものドーナツも包含する。また,その形状も限定されず,リング状,ボール状,棒状,俵状やツイストしたものなど,所望の形状にすることができる。 【0008】 本発明に使用する「原料粉」は,β-澱粉,α-澱粉,小麦粉,及び糖質を含む。原料粉の成分は予め混合してプレミックスとしてもよいし,或は生地調製時にそれぞれを投入して配合するなどの何れかの方法で生地に含有させればよい。尚,β-澱粉,α-澱粉,小麦粉,及び糖質が後述する割合を維持する限りにおいて,米粉,ソバ粉,コーンフラワー,ライ麦粉などを所望に応じて一部使用することも可能である。 本発明に使用する「β-澱粉」は,α-化されていない澱粉,即ち偏光顕微鏡で澱粉粒子を観測するとその殆どが偏光十字を示す澱粉を指称し,具体的には馬鈴薯澱粉,甘薯澱粉,タピオカ澱粉,ワキシーコーンスターチ,小麦澱粉,米澱粉など市販の各種澱粉及びそれらの加工澱粉,例えば漂白澱粉,エステル澱粉,エーテル澱粉などがあげられる。これらの中でも,タピオカ澱粉,ワキシーコーンスターチ,糯米澱粉,より好ましくはそれらのアセチル澱粉及び/またはヒドロキシプロピル澱粉を使用するともちもち感を強めたり,食感が持続しやすくなる。 【0009】 アセチル澱粉は澱粉に無水酢酸又は酢酸ビニルモノマーを,ヒドロキシプロピル澱粉は澱粉にプロピレンオキサイドを反応させて得られる。それらの反応の程度を置換度(澱粉のグルコース単位あたりの置換基の数)で表すと0.05?0.18程度が好ましい。置換度が0.05未満では加工していない澱粉と大差なく,0.18を越えるともちもち感はあるが,弾力が弱くなる傾向にある。 食品の食感に対する嗜好には個人差があり,本発明のドーナツにおいてもタピオカ澱粉,もち米澱粉,ワキシーコーンスターチ及びそれらのアセチル澱粉やヒドロキシプロピル澱粉を使用することでもちもち感があって,適度に弾力を与えることができるが,より強い弾力を求める時には,架橋澱粉,架橋エーテル澱粉,架橋エステル澱粉などとの併用も可能である。」 ・「【0011】 本発明に使用する「小麦粉」は,特に限定されず市販されている薄力粉,中力粉,強力粉,全粒粉など何れも使用可能であるが,グルテン含量により,弾力性が多少異なるもちもち感になるので好みにより選択する。さらに,弾力の強いものを所望なら活性グルテンを添加することもできるし,よりソフトなもちもち感を望む場合にはβ-アミラーゼを添加することもできる。 【0012】 本発明は,ゴマダンゴのようなもちもち感を有し,しかもその食感が持続するゴマダンゴ風ドーナツである。かかる特性を有するドーナツは,上述のβ-澱粉,α-澱粉,小麦粉,糖質を,β-澱粉50?80質量部,α-澱粉6?25質量部,小麦粉7?30質量部,糖質7?25質量部の割合で含む原料粉を用いて得られる。」 ・「【0016】 生地調製時にイーストを添加して,醗酵時間を1時間程度とることでよりソフトでもちもち感のあるドーナツが得られ,フライ時にドーナツを短時間で浮上させることができる。特に連続式フライヤーでは油の上層部にヒーターが装填されており,それだけ油の上層部の温度が高く,ドーナツを効率よく生産するにはドーナツをできるだけ早く浮上させることが必要とされる。その際,具材を使用しないタイプではイーストを使用しなくてもさほど問題なくドーナツを浮上させることはできるが,具材を包あんするタイプのドーナツでは,イースト醗酵をしないとドーナツの浮上に時間がかかるのでイースト醗酵することは具材を包あんするタイプのドーナツにより効果的である。 【0017】 生地を調製する際の混捏は,縦型ミキサー,横型ミキサー,ニーダーなど通常菓子やパンの製造に使用される混合攪拌機が使用できる。また,ボールの中で手で捏ね混ぜ合わせてもよい。生地を製造する際の材料の添加順序は特に限定されることはないが,呈味成分に粉体のものがあれば原料粉にこれらを加えて混合し,次いで油脂類を混合し,次に牛乳,生卵,水などの水系のものを加えて混捏するのが均一な生地になり易くて好ましい。 【0018】 このようにして得られた生地を所望の形状に成形し,概ね170?190℃程度のオイルバスで,生地のおおきさにもよるが2?10分間程度フライする。 かくして得られた本発明のドーナツは,もち様のもちもちした食感を有し,外観的には従来のドーナツと変わらないものから好みに応じて新規な形状まで種々のバリエーションを楽しむことができる。また,このもちもちした食感は常温で2?3日後も維持され,電子レンジなどで再加熱して暖めれば,フライ直後と変わらぬ食感,風味を楽しむことができる。」 ・「【0020】 参考例1 水130部に硫酸ナトリウム20部を溶解し,これにタピオカ澱粉100部を分散した澱粉懸濁液を3点用意し,それぞれに3%ナトリウム水溶液35部とプロピレンオキサイド3.5部,7.5部,11部を添加して39℃で22時間反応後,塩酸で中和し,水洗,脱水,乾燥して試料No.1(置換度0.060),試料No.2(置換度0.119),試料No.3(置換度0.165)のヒドロキシプロピルタピオカ澱粉を調製した。 【0021】 参考例2 参考例1において,使用する水の量を150部とし,用いる澱粉をもち米澱粉及びワキシーコーンスターチとし,プロピレンオキサイドの添加量を7.5部とした以外は同様に処理して,試料No.4(置換度0.117のヒドロキシプロピルもち米澱粉),試料No.5(置換度0.124のヒドロキシプロピルワキシーコーンスターチ)を調製した。 【0022】 参考例3 参考例1において,用いる澱粉を馬鈴薯澱粉とし,プロピレンオキサイドの添加量を7部とした以外は同様に処理をして試料No.6(置換度0.122のヒドロキシプロピル馬鈴薯澱粉)を調製した。 【0023】 参考例4 水150部にタピオカ澱粉100部を分散させ,3%ナトリウム水溶液を添加してpH8?9.5に維持しながら無水酢酸7.5部を添加してアセチル化した後,塩酸で中和し,水洗,脱水,乾燥して試料No.5(置換度0.074のアセチル澱粉を調製した。 上記参考例1?4で調製したβ-澱粉をまとめて表1に示す。 【0024】 【表1】 【0025】 実施例1 β-澱粉として試料No.2のヒドロキシプロピルタピオカ澱粉,α-澱粉としてマツノリンM-22(商品名,松谷化学工業株式会社製のα-化タピオカ澱粉),小麦粉として強力粉,糖質としてTK-16(商品名,松谷化学工業株式会社製のDE16のマルトデキストリン)を用い,表2に示す原料粉を調製した。 【0026】 【表2】 【0027】 得られた原料粉100部を ホバートミキサー(ホバート社,カナダ)に投入し,食塩1部,脱脂粉乳1部を添加して低速で3分間混合し,ショートニング20部を添加して低速で3分間混合し,全卵10部,用いる原料粉によって水の量を40?60部の間で耳たぶ程度になるように調節しながら投入し,低速で3分間,高速で4分間の混合を行った後,フロアータイムを15分間取り,30gづつに分割した。分割した生地を円型に成形し,180℃で4分間フライしてドーナツを製造した。得られたドーナツを下記の評価基準に従って評価し,その結果を表3に示した。 【0028】 <評価基準> 生地状態 ◎ べとつきがなくてまとまりもよく,成形も良好。 ○ べとつきが殆どなくて,成形しやすい。 △ べとつきがある,或いはまとまりがやや悪く,成形がやや困難。 × べとつきが強い或いはまとまりが悪く,成形が困難。 【0029】 外観 ◎ 膨化が均一で,表面の色調も一様な揚げ色をしている。 ○ 膨化が比較的均一で,表面の色調も比較的一様である。 △ 膨化がやや不均一,または表面の色調がやや一様でない。 × 膨化が不均一または表面の色調が一様でない。 【0030】 食感 ◎ もち様のもちもち感が非常に強い。 ○ もち様のもちもち感が強い。 △ もち様のもちもち感がやや弱く,ややぼそつく。 × もち様のもちもち感が弱く,ぼそつく。 【0031】 食感の経時変化(製造したドーナツを密封して室温に保存し,経時的に電子レンジ(500W)で20秒加熱して製造直後のものと比較) ◎ 3日後も食感が殆ど変わらず。 ○ 2日後も食感が殆ど変わらず。 △ 2日後に食感の変化がみられる。 × 1日後に食感の変化がみられる。 【0032】 【表3】 【0033】 実施例2 実施例1において,原料粉3,4,10,13を用いて同様に生地を調製し,分割した生地30部を用いて餡15部を包あんし,180℃で5分間フライして餡入りドーナツを製造した。 原料粉中の糖質の量が15質量部を越える原料粉3(糖質17部),原料粉13(糖質22部)を使用した場合には,ドーナツに破裂がなく,しっかりと餡が包あんされていた。また,外観,食感,食感の経時変化については,包あんしない場合とほぼ同様の傾向を示した。 一方,原料粉中の糖質の量が15質量部未満の原料粉10(糖質13部)では,僅かながら破裂部分が見られ,原料粉4(糖質8部)ではかなりの程度に破裂がおこり,餡の流出が見られた。 【0034】 実施例3 実施例1の原料粉3において,β-澱粉と糖質として表4に示す材料を用いた他は,実施例1と同様にしてドーナツを製造し,同様に評価してその結果を表4に合わせて示す。尚表4において,PDX#3はパインデックス#3(商品名,松谷化学工業株式会社製のDE25.2のマルトデキストリン),PDX#2はパインデックス#2(松谷化学工業株式会社製のDE10.5のマルトデキストリン),タピオカ澱粉は未処理のタピオカ澱粉を意味する。また,糖質の蘭でTK-16と上白(砂糖)の併用は,TK-16を10部と上白(砂糖)を7部用いている。 【0035】 【表4】 【0036】 実施例4 β-澱粉として試料No.3を60部,α-澱粉としてマツノリンW(商品名,松谷化学工業株式会社製のα-化小麦澱粉)を15部,小麦粉として強力粉を9部,糖質としてTK-16を16部よりなる原料粉を調製した。 ホバートミキサーにこの原料粉100部を投入し,食塩1部,脱脂粉乳1部を添加して低速で3分間混合し,ショートニング10部とパルメザンチーズ10部を添加して低速で3分間混合し,全卵10部,水55部を添加し,低速で3分間,高速で4分間の混合を行った後,30gずつに分割し,チーズ風味の具材15gを包あんした。 一方,これとは別に同じ原料粉を用い,イースト3部を全卵,水とともに投入し,他は上記と同様にして生地を調製し,醗酵時間を50分間取った後,30gずつに分割し,チーズ風味の具材15gを包あんし,ホイロを30分(38℃)取った。 上記のようにして得られたフライ前の具材入りドーナツを,180℃の温度で5分間フライした。 イースト醗酵したドーナツは約1分後に油の表面に浮上したが,イースト醗酵しないドーナツでは約4分を要した。 また,イースト醗酵したドーナツは,均一な揚げ色を呈し,イースト醗酵しないドーナツに比べてややソフトでもちもちとした食感を有し,ボリュームも大きく,室温に3日間保存しても電子レンジで再加熱すると製造直後と殆ど変わらない食感を有していた。 【0037】 実施例5 β-澱粉として試料No.3のヒドロキシプロピルタピオカ澱粉35部,試料No.5のヒドロキシプロピルワキシーコーンスターチ18部,α-澱粉としてマツノリンM-22を12部,小麦粉として薄力粉を15部,糖質としてTK-16を20部からなる原料粉100部,及び食塩1部とTOP BP デラックス(商品名,奥野製薬工業株式会社製の膨張剤)2部を添加して低速で3分間混合し,ショートニング15部を添加して3分間混合した。次いで,全卵30部,加糖練乳5部,水40部を加えて低速で1分間混捏して生地を調製した。この生地を12切#10(直径28mm)の絞り口金を用いて菊型棒状に成形し,-40℃で急速冷凍した。これを-20℃で10日間保存後,解凍することなく185℃で3分間フライし,表面にシナモンシュガーをふりかけてチュロス風のドーナツを得た。 このチュロス風ドーナツはもちもちした食感を有し,密封して室温で3日間保存後も製造直後と大差ない食感を有していた。」 イ 以上の記載からすると,甲1には原料粉1,2,7,8,10?12(【表2】)に関し,以下の発明が記載されているといえる(以下,それぞれ「甲1発明の1」,「甲1発明の2」,「甲1発明の3」という。)。 (甲1発明の1) 「でん粉質原料として,小麦粉とでん粉を含むゴマダンゴ風ドーナツにおいて,該でん粉質原料が,β-澱粉(ヒドロキシプロピルタピオカ澱粉)と,α-澱粉と,小麦粉とからなり,小麦粉とでん粉の合計100重量部のうち,β-澱粉(ヒドロキシプロピルタピオカ澱粉)を約56重量部(原料粉11)以上約68重量部(原料粉12)以下含ませた,外観的にドーナツと同様であって,ゴマダンゴの様なもちもちした食感を有し,且つ,その食感が経時安定性に優れたゴマダンゴ風ドーナツの製造方法。」 (甲1発明の2) 「でん粉質原料として,小麦粉とでん粉を含むゴマダンゴ風ドーナツの製造において,該でん粉質原料が,β-澱粉(ヒドロキシプロピルタピオカ澱粉)と,α-澱粉と,小麦粉とからなり,小麦粉とでん粉の合計100重量部のうち,β-澱粉(ヒドロキシプロピルタピオカ澱粉)の含有量を,約56重量部(原料粉11)以上約68重量部(原料粉12)以下に調整することにより,製造したゴマダンゴ風ドーナツに,ドーナツと同様の外観,ゴマダンゴの様なもちもちした食感,その食感の優れた経時安定性とを付与する方法。」 (甲1発明の3) 「でん粉質原料として,小麦粉とでん粉を含むゴマダンゴ風ドーナツ製造用プレミックスにおいて,該でん粉質原料が,β-澱粉(ヒドロキシプロピルタピオカ澱粉)と,α-澱粉と,小麦粉とからなり,小麦粉とでん粉の合計100重量部のうち,β-澱粉(ヒドロキシプロピルタピオカ澱粉)を約56重量部(原料粉11)以上約68重量部(原料粉12)以下含ませるように配合した,外観的にドーナツと同様であって,ゴマダンゴの様なもちもちした食感を有し,且つ,その食感が経時安定性に優れたゴマダンゴ風ドーナツ製造用のプレミックス。」 (2) 甲2について ア 甲2に記載された事項 ・「【請求項1】 タピオカ澱粉または加工タピオカ澱粉の単独または混合した材料を主材料として含む材料粉を加水,混合,成形した生地をフライし,フライ後の吸油率が1?10%(重量)とすることを特徴とした餅様フライ食品の製造方法。」 ・「【0001】 【発明の属する技術分野】この発明は,糯米を使用することなく,餅様フライ食品を製造することを目的とした餅様フライ食品の製造方法及びフライ食品用冷凍生地並びにフライ食品用プレミックス粉に関するものである。」 ・「【0008】 【課題を解決する為の手段】この発明は,タピオカ澱粉または加工タピオカ澱粉を主材料とし,吸油率を制限することにより,餅様の食感を有する新規なフライ食品を簡単な設備で,比較的短かい時間に製造することに成功したのである。 【0009】即ち方法の発明は,タピオカ澱粉または加工タピオカ澱粉の単独または混合した材料を主材料として含む材料粉を加水,混合,成形した生地をフライし,フライ後の吸油率が1?10%(重量)とすることを特徴とした餅様フライ食品の製造方法であり,主材料にチーズを混合することとし,吸油率を1.5?5%(重量)としたものである。」 ・「【0011】次にプレミックス粉の発明は,タピオカ澱粉または加工タピオカ澱粉の単独または混合した材料を主材料として含む材料粉に,小麦粉等,ベーキングパウダー,乳化剤,その他必要な材料を混合したことを特徴とする餅様フライ食品用プレミックス粉であり,主材料にチーズを加入するものである。」 ・「【0013】この発明においては,従来から知られている加工タピオカ澱粉(エーテル化,エステル化,酸化,架橋)が使用できる。更にエーテル化タピオカ澱粉はモチモチさを出すのに有効であり,架橋タピオカ澱粉はサク味を出すので,エーテル化タピオカ澱粉を主体とし,これに架橋タピオカ澱粉を組み合わせた澱粉,あるいはエーテル化処理を主体として,これに架橋処理を併用して行ったタピオカ澱粉を使用することが好ましい。」 ・「【0016】この発明においては,タピオカ澱粉または加工タピオカ澱粉の単独または混合した材料を主材料とするものであるが,その他の粉類として,小麦粉,馬鈴薯澱粉その加工粉,その他の食用粉を混合することができると共に,チーズを混入することもできる。 【0017】この発明の標準的材料配合は次の通りである。 【0018】 配合材料 A 加工タピオカ澱粉(またはタピオカ澱粉) 100に対し 小麦粉 50? 80% ベーキングパウダー 0.5? 4% 乳化剤 0.5? 4% 糖類 0.1?100% B チーズ(またはクリームチーズ) 10? 60% 油脂 8? 20% 水 40?160% 糖類 0.1?100% 【0019】前記材料配合例においては,A材料を予め混合し,ついでミキサーに予め混合したA及びBを投入して1?5分間ミキシングする。 【0020】前記において,加水量,油脂量等の含量により,流動的でべたつきのある生地の場合は,生地の成形にドーナツ生地用のデポジッターを用いる。この場合,デポジッターからフライヤーに直接生地を落とし込み,170?190℃で2?5分間フライする方が良い場合もある。 【0021】ドーナツ生地様のデポジッターには,例えばベルショウー社製の「Fカッター」があり,使用する「プランジャーカッター」は「フレンチクルーラー用」を用いると,できた製品は火ぶくれが起こらず,保形性が良い。 【0022】生地に流動性が無く,べたつきの少ない場合にはシート成形に適する。この場合,シート成形後の生地をフライヤーに投入し,2?5分間フライする。次にシート成形済の時点で冷凍生地にすることもできるが,冷凍生地の場合には3?6分と長めにフライすれば良い。またこの生地を用いて包餡機で餡やフィリングを包み,大福様の菓子を作ることもできる。」 ・「【実施例3】 安倍川餅風ドーナツの製造法 配合材料 A 加工タピオカ澱粉 100% 小麦粉 70 クリームチーズパウダー 20 ベーキングパウダー 2 食塩 1 乳化剤 1 B 水 130 油脂 70 ミキシング 原材料Aを予め混合しておく。 ミキサーに原材料A及びBを投入し,3分間ミキシングする 。 成形 ベルショー社製Fカッター(ドーナツ生地デポシッター)で 生地をカッティングし,生地を直接フライヤーに落とし込む 。 ブランジャーカッターは径13/4インチのフレンチクルー ラー用を用いる。 フライ 180℃で片面75秒(反転式) トッピング きな粉砂糖をまぶす。 【0031】出来上がった製品は,フレンチクルーラードーナツの形をしているが,風味,食感は安倍川餅と同様で,翌日も食感のモチモチ感が持続する。この場合に,生地の吸油率は,2%(重量)であった。」 ・「【0033】 【実施例5】実施例3と同様の安倍川餅風ドーナツをミックス粉を用いて製造する方法を説明する。 【0034】 (1)プレミックス粉の製造法 配合材料 A 加工タピオカ澱粉(またはタピオカ澱粉) 100% 小麦粉 70 クリームチーズパウダー 20 ベーキングパウダー 2 食塩 1 乳化剤 1 B 油脂 70 ミキシング 配合Aをミキサーにて3分間ミキシングする。 ついで配合Bを加え,4分間ミキシングする。 【0035】(2)製品製造方法 ミキシング ミックス粉,水を下記の比率で3分間ミキシングする。 【0036】 ミックス粉 264% 水 130% 【0037】以下は実施例3と同様に行なう。」 イ 以上の記載からすると,甲2には実施例3,5に関し,以下の発明が記載されているといえる(以下,それぞれ「甲2発明の1」,「甲2発明の2」,「甲2発明の3」という。)。 (甲2発明の1) 「でん粉質原料として,小麦粉とでん粉を含む安倍川餅風ドーナツにおいて,該でん粉質原料が,小麦粉と,加工タピオカ澱粉又はタピオカ澱粉からなり,小麦粉とでん粉の合計100重量部のうち,加工タピオカ澱粉又はタピオカ澱粉を約59重量部含ませた,吸油率の制限と安倍川餅の食感を付与した安倍川餅風ドーナツの製造方法。」 (甲2発明の2) 「でん粉質原料として,小麦粉とでん粉を含む安倍川餅風ドーナツの製造において,該でん粉質原料が,小麦粉と,加工タピオカ澱粉又はタピオカ澱粉からなり,小麦粉とでん粉の合計100重量部のうち,加工タピオカ澱粉又はタピオカ澱粉の含有量を約59重量部に調整することにより,製造した安倍川餅風ドーナツの吸油率の制限と安倍川餅風の食感とを付与する方法。」 (甲2発明の3) 「でん粉質原料として,小麦粉とでん粉を含む安倍川餅風ドーナツ製造用プレミックスにおいて,該でん粉質原料が,小麦粉と,加工タピオカ澱粉又はタピオカ澱粉からなり,小麦粉とでん粉の合計100重量部のうち,加工タピオカ澱粉又はタピオカ澱粉を約59重量部含ませるように配合した,吸油率の制限と安倍川餅の食感を付与した安倍川餅風ドーナツ製造用のプレミックス。」 (3) 甲3について ア 甲3に記載された事項 ・「【請求項1】 α化タピオカデンプンおよび/または加工タピオカデンプンを含有することを特徴とする,アレンジミックス。」 ・「【0001】 本発明は,ホットケーキミックスに加えることによって,メロンパン,ラスク,または,ドーナッツに適した生地を,ホットケーキミックスから作ることが可能となるアレンジミックスに関する。さらには,メロンパン,ラスク,または,ドーナッツに適した生地を作ることができる,メロンパンミックス,ラスクミックス,および,ドーナッツミックスに関する。」 ・「【0004】 そこで本発明は,各家庭などに広く普及しているホットケーキミックスと混ぜて用いることによって,ホットケーキミックスをホットケーキ以外の他の食品を作るのに適した生地を簡便につくることができる,アレンジミックスを提供することを目的とする。さらに,本発明は,このアレンジミックスを含有する,新規なメロンパンミックス,ラスクミックス,および,ドーナッツミックスを提供することを目的とする。」 ・「【0012】 本発明によって,ホットケーキミックスと混ぜて用いることによって,ホットケーキミックスをホットケーキ以外の他の食品を作るのに適した生地を簡便につくることができる,アレンジミックスと,このアレンジミックスを含有する,新規メロンパンミックス,ラスクミックス,および,ドーナッツミックスとを提供することができるようになった。」 ・「【0014】 ==アレンジミックス== 本明細書において,アレンジミックスという場合,市販あるいはホームメイドのホットケーキミックスと混ぜて用いることによって,ホットケーキミックスをホットケーキ以外の他の食品を作るのに適した生地,または,材料とすることができるものをいう。このアレンジミックスを用いることによって,目的とする食品の材料を一からそろえなくても,家庭などに広く普及しているホットケーキミックスから,さまざまな食品を,その食品の本来の味や食感を供えた状態で,または,これに近い状態で,非常に簡便に作ることが可能となる。例えば,メロンパン製造用アレンジミックスという場合,ホットケーキミックスとメロンパン製造用アレンジミックスとを混ぜて生地を作ることによって,ホットケーキミックスから,メロンパンを作るのに適した生地を簡便に作ることができる。このようにして作った生地を焼成することで,メロンパン製造用アレンジミックスを含まないホットケーキミックスから作った生地を焼成した場合よりも,ホットケーキミックスを使用しない,本来の方法で作ったメロンパンに近い,保型性,しっとり感,および,甘味と色味のバランスに優れたメロンパンを作ることができる。 なお,ホットケーキミックスとは,小麦粉や米粉などの穀物粉を主原料とし,膨張剤などを含む,ホットケーキの製造に適するように調製された粉末状の食品組成物をいう。この場合,小麦粉は,薄力粉であることが好ましい。また,膨張剤は,ベーキングパウダーや重曹であることが好ましい。 【0015】 本発明に係るアレンジミックスは,α化タピオカデンプンおよび/または加工タピオカデンプンを含有することを特徴とする。ここで,「α化タピオカデンプンおよび/または加工タピオカデンプンを含有する」とは,α化タピオカデンプンと加工タピオカデンプンとのいずれか一方を含んでいても良く,また,両方を含んでいても良い。なお,加工タピオカデンプンにおける加工の種類は限定されないが,例えば,タピオカデンプンに,エーテル化,エステル化,置換処理または架橋化などの処理をしたものを,加工タピオカデンプンとして使用することができる。 以下に,各アレンジミックスについて,用途別に詳述する。」 ・「【0027】 <ドーナッツ製造用アレンジミックス> ドーナッツ製造用アレンジミックスは,α化タピオカデンプンおよび/または加工タピオカデンプンを,ドーナッツ製造用アレンジミックス全体に対して,90重量%?100重量%含有することが好ましい。この際,α化タピオカデンプンを45重量%?100重量%,および/または,加工タピオカデンプンを0重量%?50重量%含有することが好ましく,α化タピオカデンプンを55重量%?95重量%,および/または,加工タピオカデンプンを0重量%?40重量%含有することがより好ましく,α化タピオカデンプンを60重量%?95重量%,および/または,加工タピオカデンプンを0重量%?35重量%含有することが特に好ましい。この範囲のα化タピオカデンプンおよび/または加工タピオカデンプンを含有することによって,ドーナッツ製造用アレンジミックスをホットケーキミックスに加えて作った生地からドーナッツを製造した時に,ドーナッツの食感が改善され,もちもちしたドーナッツを作ることができる。 【0028】 ドーナッツ製造用アレンジミックスは,乳化剤を含んでいても良く,その含有量は,ドーナッツ製造用アレンジミックス全体に対して,0重量%?10重量%であることが好ましい。乳化剤を含有することによって,油で揚げたあとの油切れが良く,外側の食感がさくさくしたドーナッツを作ることができる。また,ドーナッツ製造用アレンジミックスは,食塩を含んでいても良く,その含有量は,ドーナッツ製造用アレンジミックス全体に対して,0重量%?1重量%であることが好ましい。食塩を含有することによって,甘味がより向上したドーナッツを作ることができる。 【0029】 ドーナッツ製造用アレンジミックスを,市販のホットケーキミックスと混ぜて用いる量は,当業者や各家庭などの実際の作り手によって適宜調整することができるが,例えば,ホットケーキミックス150gに対して,16g?20gであることが好ましく,17g?19gであることがより好ましく,18gであることが特に好ましい。ホットケーキミックスの代わりに,家庭で作った小麦粉と膨張剤との混合物を用いる場合には,用いるドーナッツ製造用アレンジミックスの量は,当業者や各家庭などの実際の作り手によって適宜調整することができるが,例えば,小麦粉113gに対して,16g?20gであることが好ましく,17g?19gであることがより好ましく,18gであることが特に好ましい。 【0030】 ドーナッツ製造用アレンジミックスを用いることによって,ホットケーキミックスから,もちもちとした食感のドーナッツを作るのに適した生地を簡便に作ることができる。このようにして作った生地を油で揚げるなどの方法で加熱することで,ドーナッツ製造用アレンジミックスを含まないホットケーキミックスから作った生地を加熱した場合よりも,ドーナッツ製造用アレンジミックスを用いて製造したドーナッツ特有の食感である,もちもち感,および,油切れとさくさく感に優れたドーナッツを製造することができる。 【0031】 なお,ドーナッツ製造用アレンジミックスは,上述のように,ドーナッツを作る直前にホットケーキミックスと混ぜ合わせても良いが,あらかじめ小麦粉および膨張剤と混合しておくことによって,ドーナッツミックスとしても良い。ここで,ドーナッツミックスとは,別途ホットケーキミックスを添加せずにドーナッツに適した生地または材料を作ることができる混合物をいう。」 ・「【0065】 [実施例3] ドーナッツ製造用アレンジミックス 様々な組成のドーナッツ製造用アレンジミックスを調製し,各種ドーナッツ製造用アレンジミックスとホットケーキミックスとを用いて,ドーナッツを製造した。これにより,本願発明に係るドーナッツ製造用アレンジミックスが特に優れていることを,以下に示す。 【0066】 ドーナッツ製造のために用いた材料および製造方法は,次の通りである。 ==材料== ドーナッツ製造用アレンジミックス 18g ホットケーキミックス(森永製菓株式会社,小麦粉含有量約75%) 150g 沸騰したお湯 150cc グラニュー糖 適量(飾り用) 揚げ油 適量 ==製造方法== 1.電子レンジに使用できる耐熱性のボールに,ドーナッツ製造用アレンジミックス18gとホットケーキミックス大さじ2杯を入れ,泡だて器を用いて良く混ぜ合わせ,目視で均一な状態にした。 2.1.のボールに沸騰したお湯150ccを加え,泡だて器を用いて良く混ぜ合わせた。 3.2.のボールを,500Wの電子レンジで40秒間加熱した。加熱したボールを電子レンジから取り出し,泡だて器を用いて約1分間良く混ぜ合わせた。 4.3.のボールに,残りのホットケーキミックスを加え,ゴムベラを用いて,粉が見えなくなるまで切るようにして良く混ぜ合わせることによって,ドーナッツの生地を作った。 5.4.で作った生地を,絞り袋に入れ,丸型の絞り口からクッキングシートに直線状に搾り出した。 6.5.で搾り出した生地を,クッキングシートごと180℃の揚げ油に入れた。途中ではがれてきたクッキングシートは揚げ油から取り除き,残った生地をさらにこんがり色がつくまで揚げた。 7.揚げ上がった生地を揚げ油から取り出し,油切り網の上に乗せて過剰な油を切った後,生地が暖かいうちにグラニュー糖をまぶすことによって,ドーナッツを製造した。 【0067】 このようにして製造した各ドーナッツについて,5人のパネラーにより,内側の食感がもちもちしているか(もちもち感),および,油にじみが少なく,外側の食感がさくさくしているか(油切れとさくさく感)の2項目にについて評価した。なお,ここでのもちもち感とは,糯米が原料の切り餅のような弾力のある食感をさす。各項目の具体的な評価定基準は,次の通りである。 【0068】 ==もちもち感== ◎:とてももちもちする ○:もちもちする △:あまりもちもちしない ×:全くもちもちしない ==油切れとさくさく感== ◎:油にじみがなく,さくさくしている ○:油にじみがさほどなく,ややさくさくしている △:油にじみがややあり,あまりさくさくしていない ×:油にじみがあり,さくさくしていない 【0069】 用いたドーナッツ製造用アレンジミックスの配合と,上記官能試験の結果とを,表5に示す。 【0070】 【表5】 」 ・「【0076】 なお,市販のホットケーキミックスの代わりに,小麦粉と膨張剤とを用いることもできる。この場合には,用いる小麦粉の重量を基準として,適切な量および配合のドーナッツ製造用アレンジミックスを使用することが好ましい。 この適切な量および配合は,先ほどの表5を,小麦粉100重量部に対する添加量(重量部)に算出し直した下記表6から求めることができる。 【0077】 【表6】 【0078】 即ち,小麦粉100重量部に対する,α化タピオカデンプンおよび加工タピオカデンプンの添加量の合計は,14重量部?16重量部であることが好ましい。この際の,α化タピオカデンプンの添加量は,7.0重量部?16重量部であることが好ましく,10重量部?16重量部であることがより好ましく,また,加工タピオカデンプンの添加量は,0重量部?8.0重量部であることが好ましく,0重量部?6.4重量部であることがより好ましい。また,小麦粉100重量部に対する,乳化剤の添加量は,0重量部?1.6重量部が好ましい。 さらに,小麦粉100重量部に対する,食塩の添加量は,0重量部?0.16重量部が好ましい。」 イ 以上の記載からすると,甲3には「サンプル2」(【表6】)に関し,以下の発明が記載されているといえる(以下,それぞれ「甲3発明の1」,「甲3発明の2」,「甲3発明の3」という。)。 (甲3発明の1) 「でん粉質原料として,小麦粉とでん粉を含むドーナッツにおいて,該でん粉質原料が,小麦粉と,加工タピオカデンプンからなり,小麦粉とでん粉の合計100重量部のうち,加工タピオカデンプンを約14重量部含ませた,もちもち感を付与したドーナッツの製造方法。」 (甲3発明の2) 「でん粉質原料として,小麦粉とでん粉を含むドーナッツの製造において,該でん粉質原料が,小麦粉と,加工タピオカデンプンからなり,小麦粉とでん粉の合計100重量部のうち,加工タピオカデンプンの含有量を約14重量部に調整することにより,製造したドーナッツにもちもち感を付与する方法。」 (甲3発明の3) 「でん粉質原料として,小麦粉とでん粉を含むドーナッツ製造のために用いた材料において,該でん粉質原料が,小麦粉と,加工タピオカデンプンからなり,小麦粉とでん粉の合計100重量部のうち,加工タピオカデンプンを約14重量部含ませるように配合した,もちもち感を付与したドーナッツ製造のために用いた材料。」 (4) 甲4の1,甲4の2,甲5について ア 甲4の1,甲4の2 甲4の1,甲4の2には,以下の事項が記載されている。 ・「○3(注:原文は○付き数字)ヒドロキシプロピルデンプン でん粉を酸化プロピレンでエーテル化して得られる。でん粉へのヒドロキシプロピル基の導入・付加により親水性が増大し,糊化開始温度が低下する。老化耐性に優れ,冷蔵安定性や凍結融解にも優れる特徴を持つ。図5は,ヒドロキシプロピルデンプン(原料:タピオカでん粉)のアミログラムで,官能基付加の程度(DS:置換度)が高くなるに連れて糊化開始温度が5?10度低下し,最高粘度が上昇することが分かる。 食品へは,食感改良や物性改良,老化耐性の付与を中心に,冷凍食品やベーカリー食品の経時安定性向上など広範に利用される。」(甲4の1・3頁右欄下から3行?5頁左欄12行,甲4の2・5頁下から6行?6頁2行) ・「 」 イ 甲5 甲5には,以下の事項が記載されている。 ・「すなわち糊化温度の低下,糊液の透明性の向上や造膜性の改善などである.これらの性質は付加される官能基の種類と官能基付加の程度(一般にグルコース残基当りの置換基の数,degree of substitutionの略DSを用いる.したがってDSは3まで可能であるが,実用化しているものはほとんど0.01?0.1,すなわち100個のグルコースに1個から10個の官能基が付加している程度)で異なる.」(110頁12?18行) ・「アセチル基2.5%はDSで約0.1に当る.コーンスターチのDS0.04の場合,糊化温度は約6℃,0.08で約14℃低下し,DSが高くなるにつれてその効果は顕著になる.使用目的によって必ずしもDSが高いほど好ましいとは限らない.例えば適度な粘弾性を必要とする場合には,DSが高くなると弾力が減少して粘着性が強くなるので,用途や使用目的によってDSは選択される.」(111頁下から5行?112頁1行) ・「でん粉へのヒドロキシプロピル基の導入,付加により親水性が増大するので,DS0.1で糊化温度は約10℃低下する.」(114頁下から10?9行) (4) 甲1に基づく検討 ア 本件発明1について (ア) 対比 本件発明1と甲1発明の1とを,その機能に照らして対比すると,甲1発明の1の「でん粉質原料として,小麦粉とでん粉を含むゴマダンゴ風ドーナツ」は,本件発明1の「でん粉質原料として,小麦粉とでん粉を含むドーナツ類」に相当する。 また,甲1発明の1の「小麦粉」は本件発明1の「小麦粉」に相当し,甲1発明の1の「β-澱粉(ヒドロキシプロピルタピオカ澱粉)」及び「α-澱粉」は,本件発明1の「でん粉」に相当するから,甲1発明の1は本件発明1と,「でん粉質原料が,小麦粉と,でん粉及び/又は加工でん粉からな(る)」点で共通する。 そして,甲1発明の1は,「ゴマダンゴの様なもちもちした食感を有(する)」「ゴマダンゴ風ドーナツ」の製造方法であるから,本件発明1と,「モチ食感を付与したドーナツ類の製造方法」である点で共通する。 そうすると,本件発明1と甲1発明の1とは,以下の点で一致し,相違する。 (一致点) 「でん粉質原料として,小麦粉とでん粉を含むドーナツ類において,該でん粉質原料が,小麦粉と,でん粉及び/又は加工でん粉からなる,モチ食感を付与したドーナツ類の製造方法。」 (相違点1の1) 本件発明1は,「でん粉質原料が,小麦粉と,糊化開始温度が49.4℃以上62.6℃以下であるでん粉及び/又は加工でん粉からなり,小麦粉とでん粉の合計100重量部のうち,糊化開始温度が49.4℃以上62.6℃以下であるでん粉及び/又は加工でん粉を5重量部以上90重量部以下含ませる」「吸油量の低減とモチ食感を付与したドーナツ類の製造方法」であるのに対し,甲1発明の1は,「でん粉質原料が,β-澱粉(ヒドロキシプロピルタピオカ澱粉)と,α-澱粉と,小麦粉とからなり,小麦粉とでん粉の合計100重量部のうち,β-澱粉(ヒドロキシプロピルタピオカ澱粉)を約56重量部(原料粉11)以上約68重量部(原料粉12)以下含ませた」「外観的にドーナツと同様であって,ゴマダンゴの様なもちもちした食感を有し,且つ,その食感が経時安定性に優れたゴマダンゴ風ドーナツの製造方法」である点。 (イ) 判断 a 本件発明1は,請求項1の記載からすると,「でん粉質原料が,小麦粉と,糊化開始温度が49.4℃以上62.6℃以下であるでん粉及び/又は加工でん粉からなり」,「小麦粉とでん粉の合計100重量部のうち,糊化開始温度が49.4℃以上62.6℃以下であるでん粉及び/又は加工でん粉を5重量部以上90重量部以下含ませる」,すなわち,でん粉質原料を,小麦粉と,糊化開始温度が所定の範囲内にある特定のでん粉,加工でん粉とから構成し,小麦粉と当該特定のでん粉,加工でん粉とを特定の配合割合で配合したものであって,でん粉質原料にはその他のものは含まないものであると認められる。 α化でん粉の糊化開始温度は一般的に30℃未満であるから(本件訂正明細書【0022】),α化でん粉は当該特定のでん粉,加工でん粉とは認められないことからすると,本件発明1はα化でん粉を含まないものと認められる。 この点に関し,発明の詳細な説明には,従来の技術に関し「α化でん粉を含んだ油ちょう食品では,ドーナッツ等の油ちょう食品において望まれる食味,食感,例えば,喫食時のもちもちとした食感を得ることは難しく,油ちょう食品における食味,食感を直接改善するものとはなっていない。また,油ちょう時の吸油低減のためにα化でん粉を多く使用するとドーナツ形状が安定せず,均一なドーナツを得ることが困難であった。」(【0007】)と記載され,こうした従来の技術を踏まえ「本発明の課題は,ドーナツ類のような油ちょう食品の製造に際して,健康志向から,できるだけ油の含有量を低減した製品が志向される中で,ドーナツ類製造に際して,油ちょう時の吸油量を低減させるとともに,ドーナツ類本来の味覚及び風味が保持され,且つソフトな,もち食感が付与された,吸油含量の低減と,食味,食感において,嗜好性に優れたドーナツ類及びその製造方法を提供することにある。」(【0010】)と記載されるとともに,実施例として具体的に開示されているのは,でん粉質原料が小麦粉と当該特定のでん粉,加工でん粉からなるもののみで,でん粉質原料としてα化でん粉を含むものについては開示がない。このように,発明の詳細な説明の記載は,本件発明1について上記のように理解することと整合している。 これに対し,甲1発明の1は,「でん粉質原料が,β-澱粉(ヒドロキシプロピルタピオカ澱粉)と,α-澱粉と,小麦粉とからな(る)」ものであって,でん粉質原料にα-澱粉を含むものであり,甲1には油ちょう時の吸油量の低減に関し特段記載はない。 なお,特許権者は,甲1発明の1がα-澱粉を有することを理由に,本件発明1は甲1発明の1と相違する旨主張している(意見書(特許権者)8?11頁)。 そして,本件発明1は相違点1の1に係る構成を有することにより,「油ちょう時の吸油量を低減させるとともに,ドーナツ類本来の味覚及び風味が保持され,且つソフトな,もち食感が付与された,吸油含量の低減と,食味,食感において,嗜好性に優れたドーナツ類及びその製造方法を提供する。」(【0019】)といった顕著な効果を奏するものであるから,相違点1の1は実質的なものである。 そうすると,本件発明1は甲1に記載された発明であるとは認められない。 b 甲1の記載からすると,甲1発明の1において,でん粉質原料にα-澱粉を含むことは必須の構成と認められるから,甲1発明の1においてでん粉質原料からα-澱粉を除くことは困難である。 また,甲1には油ちょう時の吸油量の低減に関し特段記載はなく,甲4の1,4の2,5に記載された事項を踏まえても,甲1発明の1において,相違点1の1に係る本件発明1の構成とすることの動機付けは認められない。 これに対し,本件発明1は上記のような顕著な効果を奏するものである。 そうすると,甲1発明の1において,相違点1の1に係る本件発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到することができたものとは認められない。 よって,本件発明1は,甲1発明の1及び甲4の1,4の2,5に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。 (ウ) 以上のとおり,本件発明1は,甲1に記載された発明であるとは認められず,甲1発明の1及び甲4の1,4の2,5に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。 イ 本件発明2?4について 本件発明2?4は,本件発明1を特定するための事項を全て含むものであるから,その余の事項を検討するまでもなく,同様の理由により,甲1に記載された発明であるとは認められず,甲1発明の1及び甲4の1,4の2,5に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。 ウ 本件発明5について (ア) 対比 本件発明1と甲1発明の1との関係を参考に,本件発明5と甲1発明の2とを,その機能に照らして対比すると,本件発明5と甲1発明の2とは,以下の点で一致し,相違する。 (一致点) 「でん粉質原料として,小麦粉とでん粉を含むドーナツ類の製造において,該でん粉質原料が,小麦粉と,でん粉及び/又は加工でん粉からなることにより,製造したドーナツ類にモチ食感を付与する方法。」 (相違点1の2) 本件発明5は,「でん粉質原料が,小麦粉と,糊化開始温度が49.4℃以上62.6℃以下であるでん粉及び/又は加工でん粉からなり,小麦粉とでん粉の合計100重量部のうち,糊化開始温度が49.4℃以上62.6℃以下のでん粉及び/又は加工でん粉の含有量を,5重量部以上90重量部以下に調整することにより」「製造したドーナツ類の吸油量の低減とモチ食感とを付与する方法」であるのに対し,甲1発明の2は,「でん粉質原料が,β-澱粉(ヒドロキシプロピルタピオカ澱粉)と,α-澱粉と,小麦粉とからなり,小麦粉とでん粉の合計100重量部のうち,β-澱粉(ヒドロキシプロピルタピオカ澱粉)の含有量を,約56重量部(原料粉11)以上約68重量部(原料粉12)以下に調整することにより」「製造したゴマダンゴ風ドーナツに,ドーナツと同様の外観,ゴマダンゴの様なもちもちした食感,その食感の優れた経時安定性とを付与する方法」である点。 (イ) 判断 相違点1の2は,前記相違点1の1と実質的に同じであるから,本件発明1について検討したと同様の理由により,本件発明5は,甲1に記載された発明であるとは認められず,甲1発明の2及び甲4の1,4の2,5に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。 エ 本件発明6について 本件発明6は,本件発明1,5を特定するための事項を全て含むものであるから,その余の事項を検討するまでもなく,同様の理由により,甲1に記載された発明であるとは認められず,甲1発明の1又は甲1発明の2,及び甲4の1,4の2,5に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。 オ 本件発明7について (ア) 対比 本件発明1と甲1発明の1との関係を参考に,本件発明7と甲1発明の3とを,その機能に照らして対比すると,本件発明7と甲1発明の3とは,以下の点で一致し,相違する。 (一致点) 「でん粉質原料として,小麦粉とでん粉を含むドーナツ類製造用プレミックスにおいて,該でん粉質原料が,小麦粉と,でん粉及び/又は加工でん粉からなるようにしたモチ食感を付与したドーナツ類製造用のプレミックス。」 (相違点1の3) 本件発明7は,「でん粉質原料が,小麦粉と,糊化開始温度が49.4℃以上62.6℃以下であるでん粉及び/又は加工でん粉からなり,小麦粉とでん粉の合計100重量部のうち,糊化開始温度が49.4℃以上62.6℃以下のでん粉及び/又は加工でん粉の含有量を,5重量部以上90重量部以下含ませるように配合した」「吸油量の低減とモチ食感を付与したドーナツ類製造用のプレミックス」であるのに対し,甲1発明の3は,「でん粉質原料として,小麦粉とでん粉を含むゴマダンゴ風ドーナツ製造用プレミックスにおいて,該でん粉質原料が,β-澱粉(ヒドロキシプロピルタピオカ澱粉)と,α-澱粉と,小麦粉とからなり,小麦粉とでん粉の合計100重量部のうち,β-澱粉(ヒドロキシプロピルタピオカ澱粉)を約56重量部(原料粉11)以上約68重量部(原料粉12)以下含ませるように配合した」「外観的にドーナツと同様であって,ゴマダンゴの様なもちもちした食感を有し,且つ,その食感が経時安定性に優れたゴマダンゴ風ドーナツ製造用のプレミックス」である点。 (イ) 判断 相違点1の3は,前記相違点1の1と実質的に同じであるから,本件発明1について検討したと同様の理由により,本件発明7は,甲1に記載された発明であるとは認められず,甲1発明の3及び甲4の1,4の2,5に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。 (5) 甲2に基づく検討 ア 本件発明1について (ア) 対比 本件発明1と甲2発明の1とを,その機能に照らして対比すると,甲2発明の1の「でん粉質原料として,小麦粉とでん粉を含む安倍川餅風ドーナツ」は,本件発明1の「でん粉質原料として,小麦粉とでん粉を含むドーナツ類」に相当する。 また,甲2発明の1の「小麦粉」は本件発明1の「小麦粉」に相当し,甲2発明の1の「加工タピオカ澱粉又はタピオカ澱粉」は,本件発明1の「でん粉」,「でん粉及び/又は加工でん粉」に相当する。 そして,甲2発明の1は「小麦粉とでん粉の合計100重量部のうち,加工タピオカ澱粉又はタピオカ澱粉を約59重量部含ませた」ものであるから,本件発明1と,「小麦粉とでん粉の合計100重量部のうち」,「でん粉及び/又は加工でん粉を5重量部以上90重量部以下含ませる」点で共通する。 さらに,甲2発明の1は「吸油率の制限と安倍川餅の食感を付与した安倍川餅風ドーナツの製造方法」であるから,本件発明1と同様に,「吸油量の低減とモチ食感を付与したドーナツ類の製造方法」である。 そうすると,本件発明1と甲2発明の1とは,以下の点で一致し,相違する。 (一致点) 「でん粉質原料として,小麦粉とでん粉を含むドーナツ類において,該でん粉質原料が,小麦粉と,でん粉及び/又は加工でん粉からなり,小麦粉とでん粉の合計100重量部のうち,でん粉及び/又は加工でん粉を5重量部以上90重量部以下含ませる吸油量の低減とモチ食感を付与したドーナツ類の製造方法。」 (相違点2の1) 本件発明1は,「でん粉及び/又は加工でん粉」の「糊化開始温度が49.4℃以上62.6℃以下である」のに対し,甲2発明の1は,「加工タピオカ澱粉又はタピオカ澱粉」の糊化開始温度が不明である点。 (イ) 判断 甲2には,加工タピオカ澱粉又はタピオカ澱粉の糊化開始温度に関する記載は特段ない。甲1,4の1,4の2,5に記載された事項を踏まえても,甲2発明の1において,所定の糊化開始温度を有する特定の加工タピオカ澱粉又はタピオカ澱粉を採用することについて,動機付けは認められない。 これに対し,本件発明1は,相違点2の1に係る構成を有することにより顕著な効果を奏するものである(前記(4)ア)。 そうすると,甲2発明の1において,相違点2の1に係る本件発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到することができたものとは認められない。 (ウ) よって,本件発明1は,甲2発明の1及び甲1,4の1,4の2,5に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。 イ 本件発明2?4について 本件発明2?4は,本件発明1を特定するための事項を全て含むものであるから,その余の事項を検討するまでもなく,同様の理由により,甲2発明の1及び甲1,4の1,4の2,5に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。 ウ 本件発明5について (ア) 対比 本件発明1と甲2発明の1との関係を参考に,本件発明5と甲2発明の2とを,その機能に照らして対比すると,本件発明5と甲2発明の2とは,以下の点で一致し,相違する。 (一致点) 「でん粉質原料として,小麦粉とでん粉を含むドーナツ類の製造において,該でん粉質原料が,小麦粉と,でん粉及び/又は加工でん粉からなり,小麦粉とでん粉の合計100重量部のうち,でん粉及び/又は加工でん粉の含有量を,5重量部以上90重量部以下に調整することにより,製造したドーナツ類の吸油量の低減とモチ食感とを付与する方法。」 (相違点2の2) 本件発明5は,「でん粉及び/又は加工でん粉」の「糊化開始温度が49.4℃以上62.6℃以下である」のに対し,甲2発明の2は,「加工タピオカ澱粉又はタピオカ澱粉」の糊化開始温度が不明である点。 (イ) 判断 相違点2の2は,前記相違点2の1と実質的に同じであるから,本件発明1について検討したと同様の理由により,本件発明5は,甲2発明の2及び甲1,4の1,4の2,5に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。 エ 本件発明6について 本件発明6は,本件発明1,5を特定するための事項を全て含むものであるから,その余の事項を検討するまでもなく,同様の理由により,甲2発明の1又は甲2発明の2,及び甲1,4の1,4の2,5に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。 オ 本件発明7について (ア) 対比 本件発明1と甲2発明の1との関係を参考に,本件発明7と甲2発明の3とを,その機能に照らして対比すると,本件発明7と甲2発明の3とは,以下の点で一致し,相違する。 (一致点) 「でん粉質原料として,小麦粉とでん粉を含むドーナツ類製造用プレミックスにおいて,該でん粉質原料が,小麦粉と,でん粉及び/又は加工でん粉からなり,小麦粉とでん粉の合計100重量部のうち,でん粉及び/又は加工でん粉を5重量部以上90重量部以下含ませるように配合した吸油量の低減とモチ食感を付与したドーナツ類製造用のプレミックス。」 (相違点2の3) 本件発明7は,「でん粉及び/又は加工でん粉」の「糊化開始温度が49.4℃以上62.6℃以下である」のに対し,甲2発明の3は,「加工タピオカ澱粉又はタピオカ澱粉」の糊化開始温度が不明である点。 (イ) 判断 相違点2の3は,前記相違点2の1と実質的に同じであるから,本件発明1について検討したと同様の理由により,本件発明7は,甲2発明の3及び甲1,4の1,4の2,5に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。 (6) 甲3に基づく検討 ア 本件発明1について (ア) 対比 本件発明1と甲3発明の1とを,その機能に照らして対比すると,甲3発明の1の「でん粉質原料として,小麦粉とでん粉を含むドーナッツ」は,本件発明1の「でん粉質原料として,小麦粉とでん粉を含むドーナツ類」に相当する。 また,甲3発明の1の「小麦粉」は本件発明1の「小麦粉」に相当し,甲3発明の1の「加工タピオカデンプン」は,本件発明1の,「でん粉」,「でん粉及び/又は加工でん粉」に相当する。 そして,甲3発明の1は「小麦粉とでん粉の合計100重量部のうち,加工タピオカデンプンを約14重量部含ませた」ものであるから,本件発明1と「小麦粉とでん粉の合計100重量部のうち」,「でん粉及び/又は加工でん粉を5重量部以上90重量部以下含ませる」点で共通する。 さらに,甲3発明の1は「もちもち感を付与したドーナッツの製造方法」であるから,本件発明1と「モチ食感を付与したドーナツ類の製造方法」である点で共通する。 そうすると,本件発明1と甲3発明の1とは,以下の点で一致し,相違する。 (一致点) 「でん粉質原料として,小麦粉とでん粉を含むドーナツ類において,該でん粉質原料が,小麦粉と,でん粉及び/又は加工でん粉からなり,小麦粉とでん粉の合計100重量部のうち,でん粉及び/又は加工でん粉を5重量部以上90重量部以下含ませるモチ食感を付与したドーナツ類の製造方法。」 (相違点3の1) 本件発明1は,「でん粉質原料が,小麦粉と,糊化開始温度が49.4℃以上62.6℃以下であるでん粉及び/又は加工でん粉からな(る)」「吸油量の低減とモチ食感を付与したドーナツ類の製造方法」であるのに対し,甲3発明の1は,「でん粉質原料が,小麦粉と,加工タピオカデンプンからな(る)」,「もちもち感を付与したドーナッツの製造方法」であって,「加工タピオカデンプン」の糊化開始温度も不明である点。 (イ) 判断 甲3には,加工タピオカデンプンの糊化開始温度に関する記載は特段なく,油ちょう時の吸油量の低減についても特段記載はない。甲1,4の1,4の2,5に記載された事項を踏まえても,甲3発明の1において,所定の糊化開始温度を有する特定の加工タピオカデンプンを採用することについて,動機付けは認められない。 これに対し,本件発明1は,相違点3の1に係る構成を有することにより顕著な効果を奏するものである(前記(4)ア)。 そうすると,甲3発明の1において,相違点3の1に係る本件発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到することができたものとは認められない。 (ウ) よって,本件発明1は,甲3発明の1及び甲1,4の1,4の2,5に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。 イ 本件発明2?4について 本件発明2?4は,本件発明1を特定するための事項を全て含むものであるから,その余の事項を検討するまでもなく,同様の理由により,甲3発明の1及び甲1,4の1,4の2,5に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。 ウ 本件発明5について (ア) 対比 本件発明1と甲3発明の1との関係を参考に,本件発明5と甲3発明の2とを,その機能に照らして対比すると,本件発明5と甲3発明の2とは,以下の点で一致し,相違する。 (一致点) 「でん粉質原料として,小麦粉とでん粉を含むドーナツ類の製造において,該でん粉質原料が,小麦粉と,でん粉及び/又は加工でん粉からなり,小麦粉とでん粉の合計100重量部のうち,でん粉及び/又は加工でん粉の含有量を,5重量部以上90重量部以下に調整することにより,製造したドーナツ類のモチ食感を付与する方法。」 (相違点3の2) 本件発明5は,「でん粉質原料が,小麦粉と,糊化開始温度が49.4℃以上62.6℃以下であるでん粉及び/又は加工でん粉からな(る)」製造したドーナツ類の吸油量の低減とモチ食感とを付与する方法」であるのに対し,甲3発明の2は「でん粉質原料が,小麦粉と,加工タピオカデンプンからな(る)」「製造したドーナッツにもちもち感を付与する方法」であって,「加工タピオカデンプン」の糊化開始温度も不明である点。 (イ) 判断 相違点3の2は,前記相違点3の1と実質的に同じであるから,本件発明1について検討したと同様の理由により,本件発明5は,甲3発明の2及び甲1,4の1,4の2,5に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。 エ 本件発明6について 本件発明6は,本件発明1,5を特定するための事項を全て含むものであるから,その余の事項を検討するまでもなく,同様の理由により,甲3発明の1又は甲3発明の2,及び甲1,4の1,4の2,5に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。 オ 本件発明7について (ア) 対比 本件発明1と甲3発明の1との関係を参考に,本件発明7と甲3発明の3とを,その機能に照らして対比すると,本件発明7と甲3発明の3とは,以下の点で一致し,相違する。 (一致点) 「でん粉質原料として,小麦粉とでん粉を含むドーナツ類製造用プレミックスにおいて,該でん粉質原料が,小麦粉と,でん粉及び/又は加工でん粉からなり,小麦粉とでん粉の合計100重量部のうち,でん粉及び/又は加工でん粉を5重量部以上90重量部以下含ませるように配合したモチ食感を付与したドーナツ類製造用のプレミックス。」 (相違点3の3) 本件発明7は,「でん粉質原料が,小麦粉と,糊化開始温度が49.4℃以上62.6℃以下であるでん粉及び/又は加工でん粉からな(る)」「吸油量の低減とモチ食感を付与したドーナツ類製造用のプレミックス」であるのに対し,甲3発明の3は「でん粉質原料が,小麦粉と,加工タピオカ澱粉又はタピオカで澱粉からな(る)」「もちもち感を付与したドーナッツ製造のために用いた材料」であって,「加工タピオカデンプン」の糊化開始温度も不明である点。 (イ) 判断 相違点3の3は,前記相違点3の1と実質的に同じであるから,本件発明1について検討したと同様の理由により,本件発明7は,甲3発明の3及び甲1,4の1,4の2,5に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。 4 取消理由3(36条6項1号)について 本件訂正前の請求項3は「糊化開始温度が49.4℃以上62.6℃以下のでん粉が,ワキシータピオカでん粉,ヒドロキシプロピルでん粉及び/又はアセチルでん粉から選択される…2以上のでん粉である」と記載されていたのに対し,発明の詳細な説明には,2種以上のでん粉が同時に使用されている実施例が記載されていないため,本件訂正前の本件発明3,4,6は,発明の詳細な説明に記載したものとは認められないものであった。 そして,こうした取消理由を解消するために,本件訂正により,「でん粉が,ワキシータピオカでん粉,ヒドロキシプロピルでん粉又はアセチルでん粉から選択されるでん粉である」と特定されたもので(意見書(特許権者)33?34頁),これにより,本件訂正後の本件発明3,4,6において,2種以上のでん粉を組み合わせたものは除外された。 よって,取消理由3は解消した。 5 取消理由4(36条6項2号)について 「糊化開始温度」はでん粉の特性を表す値として広く知られ(甲4の1,4の2,5,6),その技術的な意味は当業者であれば理解できるものと認められる。 そして,発明の詳細な説明【0034】には,本件発明の「糊化開始温度」を「ブラベンダービスコグラフ」により測定したことが具体的に記載されている(意見書(特許権者)34頁)。なお,当該測定方法は,甲5(57?60頁),甲6(79頁)に記載されているようによく知られたものである。 そうすると,本件発明が「糊化開始温度」に関し明確でないとは認められない。 第5 むすび 以上のとおり,本件の請求項1?7に係る特許は,特許法29条1項3号,29条2項の規定に違反してされたものとは認められず,同法36条6項1号,36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとは認められないから,前記取消理由により取り消すことはできない。 また,他に本件の請求項1?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 ドーナツ類及びその製造方法 【技術分野】 【0001】 本発明は、ドーナツ類製造に際しての吸油量が低減され、しかも、ソフトな、もちもち感が付与されたドーナツ類及びその製造方法に関する。 【背景技術】 【0002】 ドーナツ類は、世界中で老若男女を問わず好まれている食品の1つであり、日本国内においても種々のドーナツ類が販売されている。例えばケーキドーナツ、フレンチドーナツ、イーストドーナツなどがある。これらは、いずれも小麦粉等の原料生地を混練し、これを成型して、油で揚げる(油ちょう)ことで最終製品となる。該ドーナツ類の製造においては、通常、生地を油で揚げる際に原料の膨張により組織が多孔質状に変っており、油を吸収しやすく、最終製品には大量の油が含まれている。 【0003】 近年、健康志向の高まりの中で、食物からの油の摂り過ぎにより体内のコレステロールの蓄積が助長されることが明らかになっている。その弊害が強調されるところとなり、日常の食生活における油脂の摂取を抑制しようとする機運が高まっている。このため、ドーナツ類などの油ちょう食品についても、できるだけ油の含有量を低減した製品が志向されるようになっている。 【0004】 油の含有量を低減した製品の志向が高まる中で、従来よりドーナツ類のような油ちょう食品の製造に際して、できるだけ油の含有量を低減した製品を得る方法が種々提案されている。例えば、油ちょう食品の製造に際して、各種添加成分を添加して、油ちょうにおける吸油含量を低減する方法として、特開昭60-130353号公報には、炭酸カルシウムや、酢酸カルシウムのようなカルシウム剤を生地に添加する方法が、特開平3-143344号公報には、生地におからを加える方法が、特開2000-210026号公報には、生地中にラクトアルブミンを添加する方法が、特開2002-125579号公報には、ドーナッツ生地中にペクチンとバイタルグルテンを添加する方法が開示されている。 【0005】 また、特開2003-210118号公報には、原料小麦粉等に、ジェットミル等で粉砕した多糖類を添加する方法が、特開2005-58082号公報には、ドーナッツ生地中にペクチンとグルコースオキシダーゼを添加する方法が、特開2005-80583号公報、特開2005-80584号公報には、乾燥酵母、或いはグルタチオン高含有酵母を吸油抑制剤として用いる方法が、特開2005-192506号公報には、鶏肉、豚肉、牛肉のような動物性タンパク質を生地改質組成物として用いる方法が、特開2010-268693号公報には、水溶性セルロースエーテルの水溶液と穀粉類とを含む油ちょう用ドウ組成物を用いる方法が開示されている。これらの開示の方法は、ドーナツ類のような油ちょう食品の製造に際して、油ちょうにおける吸油含量を低減する方法として開示されているものであるが、該方法のものは、添加成分の油ちょう食品における味覚、食感や風味への影響が避けられず、油ちょう食品の吸油量の改善を図ることはできるが、ドーナツ類のような油ちょう食品の味覚や食感において、嗜好性に優れた製品を提供する点では満足のいくものとはなっていない。 【0006】 ドーナツ類のような油ちょう食品の製造に際して、油ちょうにおける吸油量を低減し、油の含有量を低減した製品を得る方法として、でん粉類を用いる方法も開示されている。例えば、特開2001-333691号公報には、ドーナッツ等の油ちょう品の製造に用いられるベーキングパウダーに、速効性の酸性剤と中速効性の酸性剤からなる膨張剤、重曹からなる膨張剤と、α化でん粉とを含有させ、油ちょう品の油の吸収量を低減させる方法が、特開2004-33139号公報には、原料玄米に、部分α化処理し、乾燥、粉砕した玄米粉を含有させた揚げ物用粉を用いて、吸油量の低減された、サクサクした食感の油ちょう食品を製造する方法が開示されている。 【0007】 また、特開2004-73140号公報には、でん粉スラリーを油脂の共存化で加熱して調製された油脂α化でん粉質を主原料に配合することにより、油の吸収量を低減したドーナッツ類を製造する方法が、特表2009-537136号公報には、アルキルコハク酸でん粉或いはアルケニルコハク酸でん粉のような疎水性でん粉により、食品材料中のクックアップでん粉或いはインスタントスターチを部分的に置換し、油ちょう食品の吸油量を低減する方法が開示されている。これらの開示のものも、ドーナッツ等の油ちょう食品の製造に際して、油の吸収量の低減を図るものであるが、これらのα化でん粉を含んだ油ちょう食品では、ドーナッツ等の油ちょう食品において望まれる食味、食感、例えば、喫食時のもちもちとした食感を得ることは難しく、油ちょう食品における食味、食感を直接改善するものとはなっていない。また、油ちょう時の吸油低減のためにα化でん粉を多く使用するとドーナツ形状が安定せず、均一なドーナツを得ることが困難であった。 【0008】 ドーナツ類のような油ちょう食品においては、嗜好性の多様化もあって、ドーナツ類にサクサク感だけでなく、もちもちとした食感(以下、もち食感)を好む消費者が多くなっている。これらの嗜好性を踏まえ、フライ食品に餅様食感を付与したフライ食品の製造方法も開示されている。例えば、特開平10-313787号公報には、タピオカでん粉或いは加工タピオカでん粉(エーテル化、エステル化、酸化、架橋)を主材料として含有し、チーズを混合した原料粉を特に冷凍生地の調製に用いて、吸油率を1.5?5%(重量)とした餅様食感するフライ食品が開示されている。この開示のものは、特に、冷凍生地を用いたフライ食品の製造に向けられたものであり、生地原料に配合するでん粉類として、タピオカでん粉や、加工タピオカでん粉が使用されているが、該開示の方法を、ドーナツ類のような油ちょう食品の製造に適用したとしても、油ちょう食品の本来の食味、風味を保持した、ソフトなもち食感の油ちょう食品を得ることはできない。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0009】 【特許文献1】特開昭60-130353号公報 【特許文献2】特開平3-143344号公報 【特許文献3】特開平10-313787号公報 【特許文献4】特開2000-210026号公報 【特許文献5】特開2001-333691号公報 【特許文献6】特開2002-125579号公報 【特許文献7】特開2003-210118号公報 【特許文献8】特開2004-33139号公報 【特許文献9】特開2004-73140号公報 【特許文献10】特開2005-58082号公報 【特許文献11】特開2005-80583号公報 【特許文献12】特開2005-80584号公報 【特許文献13】特開2005-192506号公報 【特許文献14】特開2010-268693号公報 【特許文献15】特表2009-537136号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0010】 本発明の課題は、ドーナツ類のような油ちょう食品の製造に際して、健康志向から、できるだけ油の含有量を低減した製品が志向される中で、ドーナツ類製造に際して、油ちょう時の吸油量を低減させるとともに、ドーナツ類本来の味覚及び風味が保持され、且つソフトな、もち食感が付与された、吸油含量の低減と、食味、食感において、嗜好性に優れたドーナツ類及びその製造方法を提供することにある。 【課題を解決するための手段】 【0011】 本発明者らは、前記課題を解決するために、ドーナツ類の製造における吸油含量の低減と、ドーナツ類本来の味覚及び風味の保持、及び、ドーナツ類の志向される食感を得る方法について鋭意検討する中で、特定のでん粉及び/又は加工でん粉を、小麦粉及びでん粉を含むドーナッツ原料に特定量含有させることにより、油ちょう時の吸油量を低減し、且つソフトなもち食感を付与することが可能であり、しかも、ドーナツ類本来の味覚及び風味を保持した吸油含量の低減と、食味、食感において、嗜好性に優れたドーナツ類を製造することが可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。 【0012】 すなわち、本発明は、小麦粉とでん粉を含むドーナツ類において、小麦粉とでん粉の合計100重量部のうち、糊化開始温度が30℃以上63℃以下、特に、糊化開始温度が49.4℃以上62.6℃以下であるでん粉及び/又は加工でん粉を5重量部以上90重量部以下含ませることを特徴とする吸油量の低減とモチ食感を付与したドーナツ類の製造方法からなる。 【0013】 本発明のドーナツ類の製造方法において、小麦粉及びでん粉を含むドーナッツ原料に配合されるでん粉及び/又は加工でん粉としては、糊化開始温度が30℃以上63℃以下のものが用いられるが、好ましくは、49℃以上63℃以下、特に好ましくは49.4℃以上62.6℃以下のものを用いることができる。また、本発明のドーナツ類の製造方法において、小麦粉及びでん粉を含むドーナッツ原料に配合される糊化開始温度が30℃以上63℃以下、特に好ましくは49.4℃以上62.6℃以下のでん粉及び/又は加工でん粉は、小麦粉とでん粉の合計100重量部のうち、該でん粉及び/又は加工でん粉を5重量部以上90重量部以下の割合で配合することができるが、特に、好ましくは、該でん粉及び/又は加工でん粉の含有量が、15重量部以上70重量部以下となるように配合することができる。 【0014】 本発明のドーナツ類の製造方法において、小麦粉及びでん粉を含むドーナッツ原料に配合される糊化開始温度が30℃以上63℃以下、特に好ましくは49.4℃以上62.6℃以下のでん粉及び/又は加工でん粉としては、糊化開始温度が30℃以上63℃以下、特に好ましくは49.4℃以上62.6℃以下のワキシータピオカでん粉、ヒドロキシプロピルでん粉及び/又はアセチルでん粉から選択される1又は2以上のでん粉を挙げることができる。該ヒドロキシプロピルでん粉としては、置換度0.06以上0.12以下のヒドロキシプロピルタピオカでん粉を挙げることができる。 【0015】 本発明は、小麦粉とでん粉を含むドーナツ類の製造において、小麦粉とでん粉の合計100重量部のうち、糊化開始温度が30℃以上63℃以下、特に好ましくは49.4℃以上62.6℃以下のでん粉及び/又は加工でん粉の含有量を、15重量部以上70重量部以下に調整することにより、製造したドーナツ類の吸油量の低減とモチ食感とを付与する方法の発明を包含する。 【0016】 また、本発明は、本発明のドーナツ類の製造方法又はドーナツ類の吸油量の低減とモチ食感とを付与する方法により製造された吸油量の低減とモチ食感を付与したドーナツ類自体の発明を包含する。更に、本発明は、小麦粉とでん粉を含むドーナツ類製造用プレミックスにおいて、小麦粉とでん粉の合計100重量部のうち、糊化開始温度が30℃以上63℃以下、特に好ましくは49.4℃以上62.6℃以下であるでん粉及び/又は加工でん粉を5重量部以上90重量部以下含ませるように配合した吸油量の低減とモチ食感を付与したドーナツ類製造用のプレミックスの発明を包含する。 【0017】 すなわち、本発明は具体的には、 (1)小麦粉とでん粉を含むドーナツ類において、小麦粉とでん粉の合計100重量部のうち、糊化開始温度が49.4℃以上62.6℃以下であるでん粉及び/又は加工でん粉を5重量部以上90重量部以下含ませることを特徴とする吸油量の低減とモチ食感を付与したドーナツ類の製造方法や、 (2)小麦粉とでん粉を含むドーナツ類において、小麦粉とでん粉の合計100重量部のうち、糊化開始温度が49.4℃以上62.6℃以下のでん粉及び/又は加工でん粉の含有量が、15重量部以上70重量部以下であることを特徴とする上記(1)に記載の吸油量の低減とモチ食感を付与したドーナツ類の製造方法や、 (3)糊化開始温度が49.4℃以上62.6℃以下のでん粉が、ワキシータピオカでん粉、ヒドロキシプロピルでん粉又はアセチルでん粉から選択されるでん粉であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の吸油量の低減とモチ食感を付与したドーナツ類の製造方法や、 (4)ヒドロキシプロピルでん粉が、置換度0.06以上0.12以下のヒドロキシプロピルタピオカでん粉であることを特徴とする上記(3)に記載の吸油量の低減とモチ食感を付与したドーナツ類の製造方法、からなる。 【0018】 また、本発明は、 (5)小麦粉とでん粉を含むドーナツ類の製造において、小麦粉とでん粉の合計100重量部のうち、糊化開始温度が49.4℃以上62.6℃以下のでん粉及び/又は加工でん粉の含有量を、5重量部以上90重量部以下に調整することにより、製造したドーナツ類の吸油量の低減とモチ食感とを付与する方法や、 (6)上記(1)?(4)のいずれかに記載のドーナツ類の製造方法又は請求項5に記載のドーナツ類の吸油量の低減とモチ食感とを付与する方法により製造された吸油量の低減とモチ食感を付与したドーナツ類や、 (7)小麦粉とでん粉を含むドーナツ類製造用プレミックスにおいて、小麦粉とでん粉の合計100重量部のうち、糊化開始温度が49.4℃以上62.6℃以下であるでん粉及び/又は加工でん粉を5重量部以上90重量部以下含ませるように配合したことを特徴とする吸油量の低減とモチ食感を付与したドーナツ類製造用のプレミックス、からなる。 【発明の効果】 【0019】 本発明は、ドーナツ類のような油ちょう食品の製造に際して、健康志向及び嗜好性からの要望を満足する、油ちょう時の吸油量を低減させるとともに、ドーナツ類本来の味覚及び風味が保持され、且つソフトな、もち食感が付与された、吸油含量の低減と、食味、食感において、嗜好性に優れたドーナツ類及びその製造方法を提供する。また、本発明のドーナツ類の製造方法は、本発明の小麦粉とでん粉を含むドーナツ類製造用プレミックスを用いることにより、均一な形状をしたドーナツ類を安定的に製造できる方法を提供する。 【発明を実施するための形態】 【0020】 本発明は、小麦粉とでん粉を含むドーナツ類において、小麦粉とでん粉の合計100重量部のうち、糊化開始温度が30℃以上63℃以下、特に好ましくは、49.4℃以上62.6℃以下であるでん粉及び/又は加工でん粉を5重量部以上90重量部以下含ませることで、油ちょう時の吸油量が低減され、モチモチした食感に優れたドーナツ類、及び該ドーナツ類を製造する方法からなる。 【0021】 本発明において、ドーナツ類とは、ベーキングパウダーで膨らませたケーキ生地を油で揚げたケーキドーナツ、イーストで発酵させたパン生地を油で揚げたイーストドーナツ、卵を多量に加えて柔らかい生地をつくり、それを絞り袋につめて輪型にしぼり、油で揚げたフレンチドーナツなどをいう。 【0022】 本発明では、加工処理を施していないでん粉をでん粉又は生でん粉というのに対し、化学的処理及び/又は物理的処理を施したでん粉を加工でん粉という。一般的な加工でん粉としては、ヒドロキシプロピル化、アセチル化、架橋、酸化及び酸浸漬処理でん粉が挙げられる。ここで、ヒドロキシプロピル化とは、でん粉にプロピレンオキサイドを反応させる処理を指し、アセチル化とは、でん粉に無水酢酸又は酢酸ビニールモノマー等を反応させる処理を指し、常法に従って実施できる。架橋とは、でん粉にメタリン酸塩、オキシ塩化リンなどの架橋剤を加え反応させる等の処理を指し、常法に従って実施できる。酸化とは、でん粉に次亜塩素酸Naを作用させる処理を指し、酸浸漬とはでん粉に硫酸を作用させる処理を指し、いずれも常法に従って実施できる。また、でん粉を水の存在下、ドラムドライヤー、エクストルーダー、スプレードライヤーなどを用いて加熱し、でん粉を一旦糊化させ、その後乾燥することで粉末状にしたでん粉をα化でん粉という。α化でん粉の糊化開始温度は一般に30℃未満である。 【0023】 でん粉の糊化とは、でん粉粒が水中で急激に吸水し、粘性の強い液となる現象をいう。糊化が始まる温度を糊化開始温度という。糊化開始温度は、例えばブラベンダービスコグラフ(ブラベンダー社製)により測定することができる。 【0024】 本発明において、糊化開始温度が30℃以上63℃以下の加工でん粉としては、化学的処理により糊化開始温度が30℃以上63℃以下となるように調製したでん粉を挙げることができる。該でん粉類の糊化開始温度において、特に好ましい糊化開始温度のでん粉類としては、49℃以上63℃以下のものを挙げることができる。好ましい加工でん粉としては、ヒドロキシプロピル化でん粉及び/又はアセチル化でん粉を挙げることができる。このような加工でん粉の原料としては、コーンでん粉、ワキシコーンでん粉、馬鈴薯でん粉、ワキシーポテトでん粉、小麦でん粉、もち種小麦でん粉、タピオカでん粉、ワキシータピオカでん粉、サゴでん粉、緑豆でん粉、えんどう豆でん粉、米でん粉、もち米でん粉および甘藷でん粉などのでん粉を挙げることができる。 【0025】 本発明において、糊化開始温度が30℃以上63℃以下、特に好ましくは、49.4℃以上62.6℃以下の加工でん粉として用いられるヒドロキシプロピル化でん粉及び/又はアセチル化でん粉において、ヒドロキシプロピル化でん粉のヒドロキシプロピル基の置換割合、アセチル化でん粉のアセチル基の割合を示す指標に置換度(でん粉の無水グルコース残基当たりの置換基のモル数で表す)がある。本発明において好ましい置換度は0.02以上0.20以下であり、より好ましい置換度は0.06以上0.15以下である。この範囲において糊化開始温度が30℃以上63℃以下であれば、油ちょう時の吸油量が低減でき、且つ、もちもちした食感が好ましいものとなる。置換度の測定方法はでん粉・関連糖質実験法(中村,貝沼編,学会出版センター)に記載の方法に準じて測定することができる。 【0026】 本発明において、糊化開始温度が30℃以上63℃以下、特に好ましくは、49.4℃以上62.6℃以下の生でん粉としては、ワキシータピオカでん粉を用いることができる。 【0027】 本発明によれば、小麦粉とでん粉を含むドーナツ類に、糊化開始温度が30℃以上63℃以下、特に好ましくは、49.4℃以上62.6℃以下のでん粉及び/又は加工でん粉を、小麦粉とでん粉の合計100重量部のうち5重量部以上90重量部以下、より好ましくは、15重量部以上70重量部以下を含ませることで、油ちょう時の吸油量を低減でき、もちもちした食感のドーナツ類を得ることができる。糊化開始温度が30℃以上63℃以下、特に好ましくは、49.4℃以上62.6℃以下のでん粉及び/又は加工でん粉が90重量部を超えた場合、吸油量については低減できるものの得られるドーナツ類は固くなってしまい好ましくない。糊化開始温度が30℃以上63℃以下、特に好ましくは、49.4℃以上62.6℃以下のでん粉及び/加工でん粉が5重量部未満では、吸油低減効果及びモチモチした食感が不十分となる。 【0028】 本発明のドーナッツ類の製造方法においては、小麦粉とでん粉を含むドーナッツ類の製造原料において、小麦粉と糊化開始温度30℃以上63℃以下、特に好ましくは、49.4℃以上62.6℃以下のでん粉を、本発明の配合割合に従い、ドーナツ類の製造時に混合することにより行うことができるが、該ドーナッツ類の製造原料を、本発明の配合割合により、プレミックスとして調製することができ、本発明のドーナッツ類の製造方法においては、該あらかじめ混合し、調製したプレミックス粉をドーナツの製造原料に用いて行うこともできる。 【0029】 本発明のドーナッツ類の製造方法においては、上記小麦粉とでん粉原料以外に、必要に応じて、イースト及び/又はベーキングパウダー等の発酵剤及び/又は膨張剤、砂糖、水、更に必要に応じて副原料等を用いることができる。 【0030】 本発明のドーナッツ類の製造方法において用いることができる副原料としては、例えば、バター、マーガリン、ラード、ショートニング、コーン油、オリーブオイル、サラダオイル、パームオイル、粉末油脂などの動植物油脂、牛乳、生クリーム、濃縮乳、加糖練乳、粉末牛乳、脱脂粉乳、ヨーグルト、チーズ、液状チーズなどの乳製品、ハム、ソーゼージ、ベーコン、ミンチ肉などの畜肉製品、生卵、乾燥卵、乾燥卵白、乾燥卵黄などの卵製品、イチゴ、トマト、キャロット、オニオン、ホウレンソウ、リンゴ、ミカン、ピーチ、パイナップル、レーズンなどの野菜や果物及びそれらのピューレや乾燥品、くるみ、カシューナッツ、ピーナツ、アーモンドなどのナッツ類、ブランデー、リキュール、ラム酒などの洋酒類、シュリンプ、たら子、オキアミ、ワカメなどの海産物、ゴマ、ヒマワリの種、マツの実などの種子類、ペパー、シナモン、ガーリック、カレー粉などの香辛料の他、食塩、チョコレート、ココア、コンソメ、醤油、カスタードクリーム、餡、各種香料、などが挙げられ、これらに限らず、味つけする上で有用な成分は好みに応じていずれも用いることができる。これらの調味成分は、生地に練り込む、中華饅頭や餃子のように具材として包みこむ、表面にトッピングする、或いはこれらを併用して、本発明のドーナツ類に含有させることができる。 【0031】 本発明のドーナツ類の製造方法は、原料として用いる小麦粉とでん粉の特徴以外に、一般的なドーナツの製造方法を適用することができる。例えば、イーストドーナツは一般に小麦粉及びでん粉を主体とする穀粉類に、イーストと共に食塩、砂糖、その他の副資材および水を加えて混捏し、次いで発酵、成形、ホイロ、油揚げの各工程を経て製造される。ケーキドーナツは、小麦粉及びでん粉を主体とする穀粉類に、ベーキングパウダー、砂糖、その他の副資材および水を加えて混捏し、成形、油揚げの各工程を経て製造される。 【0032】 以下に、試験例及び実施例により本発明を具体的に説明するが、これらによって本発明が限定されるものではない。 【実施例】 【0033】 (加工でん粉の製造と評価) 市販の小麦でん粉、馬鈴薯でん粉、コーンでん粉、ワキシーコーンでん粉、タピオカでん粉、ワキシータピオカでん粉を準備した。公知の方法により各種加工でん粉を製造し、必要に応じて加工でん粉の置換度及び/又は架橋度を常法により測定した。 【0034】 (糊化開始温度の測定) 各でん粉の糊化開始温度をブラベンダービスコグラフ(ブラベンダー社製)により測定した。蒸溜水450mlを含んだビーカー中に30?40gのでん粉(でん粉度6?8%)を投入、攪拌したのち、でん粉溶液を装置付属の金属製円筒容器に移した。装置付属の撹拌棒を75回転/分で回転させながらでん粉溶液を加熱し、30℃で安定させた。その後、1分間に1.5℃ずつ温度を上昇させながらでん粉溶液の粘度を測定した。でん粉溶液の粘度が増加し始める温度を糊化開始温度とした。この時点ですでに糊化されているでん粉の場合、糊化開始温度を30℃未満とした。 【0035】 (ドーナツの製造) 表1に示す工程でドーナツを製造した。なお、原料配合は後述の各配合割合に従った。 【0036】 【表1】 【0037】 製造したドーナツを以下のように評価した。 【0038】 (ドーナツの吸油率の測定) 油ちょう直前のフライ油の重量をW1、油ちょう直後のフライ油の重量をW2とし、油ちょう前後でのフライ油の重量変化からドーナツの吸油量を算出した。ドーナツの吸油率は、ドーナツの吸油量/ドーナツ生地重量×100で算出した。 吸油評価は基準との吸油率との差について以下のように判定した。 ×:吸油率が増加。 △:吸油率の減少が0%以上?1%未満。 ○:吸油率の減少が1%以上?3%未満。 ◎:吸油率の減少が3%以上。 【0039】 (ドーナツの食感評価) よく訓練されたパネラー5名で得られたドーナツの食感を評価した。評価項目を以下に示す。なお、評価結果には5名の平均点を示す。 【0040】 <もちもちとした食感(基準と比較した場合)> 5点:非常にもちもちとしている。 4点:もちもちとしている。 3点:基準と同程度である。 2点:もちもち感が弱い。 1点:もちもち感が非常に弱い。 【0041】 <ソフトな食感(基準と比較した場合)> 5点:非常にソフトである。 4点:ソフトである。 3点:基準と同程度である。 2点:少し硬い。 1点:硬い。 【0042】 <実際の喫食時に感じる油っぽさ(基準と比較した場合)> 5点:油っぽさは感じない。 4点:少し油っぽさがなくなっている。 3点:基準と同程度である。 2点:少し油っぽく感じる。 1点:油っぽく感じる。 【0043】 <食感評価は点数に対して以下のように判定した。> ×:2点未満。 △:2点以上3点未満。 ○:3点以上4点未満。 ◎:4点以上。 【0044】 [試験1:未加工でん粉を用いたドーナツの評価:実施例1、比較例1?5] 【0045】 (ドーナツの作製) 表2に示すドーナツの原料配合で、穀粉類として薄力粉のみで作製したドーナツ(基準)と穀粉類のうち、でん粉を20質量%含有したドーナツを作製した。でん粉の種類を表3に示す。 【0046】 【表2】 【0047】 【表3】 【0048】 (試験1のドーナツ評価) 試験1で作製したドーナツの評価結果を表4に示す。表4に示すように、未加工でん粉の場合、糊化開始温度が30℃以上63℃以下であるワキシータピオカでん粉を用いたときだけ吸油率は基準に比べて顕著に抑制された。また、モチ食感も好ましかった。 【0049】 【表4】 【0050】 [試験2:加工タピオカでん粉を用いたドーナツの評価:実施例2?7、比較例6?8] 【0051】 (ドーナツの作製) 表5に示すドーナツの原料配合で、穀粉類として小麦粉のみで作製したドーナツ(基準)と穀粉類のうちでん粉を20質量%含有したドーナツを作製した。使用した小麦粉及び加水量に関しては試験1と同様である。加工タピオカでん粉の加工の種類を表6に示す。 【0052】 【表5】 【0053】 【表6】 【0054】 (試験2のドーナツ評価) 試験2で作製したドーナツの評価結果を表7に示す。試験1の比較例5に示すように未加工のタピオカでん粉では基準に比べて吸油率が増大したが、特定の加工を施して糊化開始温度が30℃以上63℃以下になった加工タピオカでん粉は吸油率が基準に比較して減少した。特に、ヒドロキシプロピルでん粉については、置換度が0.06以上0.12以下の場合、吸油率が減少し、且つモチ食感がより好ましいものとなった。糊化開始温度が63℃を超える加工タピオカでん粉では、吸油率が基準に比較して増大した。特に、架橋処理単独の加工タピオカでん粉では喫食時に油っぽさが強く感じられた。なお、α化タピオカでん粉(糊化開始温度=30℃未満)を用いた場合、形状が均一に製造できず、またモチ食感も十分ではなかった。 【0055】 【表7】 【0056】 [試験3:原料穀粉中のでん粉の含有量を変化させたドーナツの評価:実施例8?13、比較例9] 【0057】 (ドーナツの作製) 表8に示すドーナツの原料配合で、穀粉類として薄力粉のみで作製したドーナツ(基準)と穀粉類のうちヒドロキシプロプルタピオカでん粉をX質量%含有したドーナツを作製した。使用した小麦粉及び加水量については試験1と同様である。でん粉の配合量を表9に示す。 【0058】 【表8】 【0059】 【表9】 【0060】 (試験3のドーナツ評価) 試験3で作製したドーナツの評価結果を表10に示す。ヒドロキシプロピルタピオカでん粉を穀粉類のうち5質量%以上配合した場合、基準と比較して吸油率が1%以上低減された。また、ヒドロキシプロピルタピオカでん粉の含有量が90質量%を超えると、得られたドーナツの吸油率は低減されるものの油ちょう中にドーナツ形状が崩れやすかった。均一な形状が得られる範囲において、吸油率を抑制できることからヒドロキシプロピルタピオカでん粉の含有量は5%?90%がよかった。ドーナツの吸油率がより抑制でき、モチ食感も好ましいという観点から、原料穀粉中のヒドロキシプロピルタピオカでん粉の配合は15質量%?70質量%がより好ましことがわかった。 【0061】 【表10】 【0062】 [試験4:タピオカでん粉以外の加工でん粉を用いたドーナツの評価:実施例14?19、比較例10] 【0063】 (ドーナツの作製) 表11に示すドーナツの原料配合で、穀粉類として小麦粉のみで作製したドーナツ(基準)と穀粉類のうちでん粉を20質量%含有したドーナツを作製した。使用した小麦粉、加水量については試験1と同様である。加工でん粉に使用したでん粉の種類および加工の種類を表12に示す。 【0064】 【表11】 【0065】 【表12】 【0066】 (試験4のドーナツ評価) 試験4で作製したドーナツの評価結果を表13に示す。馬鈴薯でん粉やワキシータピオカでん粉およびコーンでん粉においても、特定の加工を施して糊化開始温度が30℃以上63℃以下になった加工でん粉は吸油率が基準に比較して減少した。特にヒドロキシプロピル馬鈴薯でん粉やヒドロキシプロピルワキシータピオカでん粉は吸油減少効果が大きかった。 【0067】 【表13】 【産業上の利用可能性】 【0068】 本発明は、ドーナツ類のような油ちょう食品の製造に際して、健康志向及び嗜好性からの要望を満足する、油ちょう時の吸油量を低減させるとともに、ドーナツ類本来の味覚及び風味が保持され、且つソフトな、もち食感が付与された、吸油含量の低減と、食味、食感において、嗜好性に優れたドーナツ類及びその製造方法を提供する。 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 でん粉質原料として、小麦粉とでん粉を含むドーナツ類において、該でん粉質原料が、小麦粉と、糊化開始温度が49.4℃以上62.6℃以下であるでん粉及び/又は加工でん粉からなり、小麦粉とでん粉の合計100重量部のうち、糊化開始温度が49.4℃以上62.6℃以下であるでん粉及び/又は加工でん粉を5重量部以上90重量部以下含ませることを特徴とする吸油量の低減とモチ食感を付与したドーナツ類の製造方法。 【請求項2】 でん粉質原料として、小麦粉とでん粉を含むドーナツ類において、該でん粉質原料が、小麦粉と、糊化開始温度が49.4℃以上62.6℃以下であるでん粉及び/又は加工でん粉からなり、小麦粉とでん粉の合計100重量部のうち、糊化開始温度が49.4℃以上62.6℃以下のでん粉及び/又は加工でん粉の含有量が、15重量部以上70重量部以下であることを特徴とする請求項1に記載の吸油量の低減とモチ食感を付与したドーナツ類の製造方法。 【請求項3】 糊化開始温度が49.4℃以上62.6℃以下のでん粉が、ワキシータピオカでん粉、ヒドロキシプロピルでん粉又はアセチルでん粉から選択されるでん粉であることを特徴とする請求項1又は2に記載の吸油量の低減とモチ食感を付与したドーナツ類の製造方法。 【請求項4】 ヒドロキシプロピルでん粉が、置換度0.06以上0.12以下のヒドロキシプロピルタピオカでん粉であることを特徴とする請求項3に記載の吸油量の低減とモチ食感を付与したドーナツ類の製造方法。 【請求項5】 でん粉質原料として、小麦粉とでん粉を含むドーナツ類の製造において、該でん粉質原料が、小麦粉と、糊化開始温度が49.4℃以上62.6℃以下であるでん粉及び/又は加工でん粉からなり、小麦粉とでん粉の合計100重量部のうち、糊化開始温度が49.4℃以上62.6℃以下のでん粉及び/又は加工でん粉の含有量を、5重量部以上90重量部以下に調整することにより、製造したドーナツ類の吸油量の低減とモチ食感とを付与する方法。 【請求項6】 請求項1?4のいずれかに記載のドーナツ類の製造方法又は請求項5に記載のドーナツ類の吸油量の低減とモチ食感とを付与する方法により製造された吸油量の低減とモチ食感を付与したドーナツ類。 【請求項7】 でん粉質原料として、小麦粉とでん粉を含むドーナツ類製造用プレミックスにおいて、該でん粉質原料が、小麦粉と、糊化開始温度が49.4℃以上62.6℃以下であるでん粉及び/又は加工でん粉からなり、小麦粉とでん粉の合計100重量部のうち、糊化開始温度が49.4℃以上62.6℃以下であるでん粉及び/又は加工でん粉を5重量部以上90重量部以下含ませるように配合したことを特徴とする吸油量の低減とモチ食感を付与したドーナツ類製造用のプレミックス。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2018-09-20 |
出願番号 | 特願2016-549663(P2016-549663) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(A21D)
P 1 651・ 113- YAA (A21D) P 1 651・ 537- YAA (A21D) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 吉門 沙央里 |
特許庁審判長 |
山崎 勝司 |
特許庁審判官 |
莊司 英史 窪田 治彦 |
登録日 | 2017-06-23 |
登録番号 | 特許第6162343号(P6162343) |
権利者 | サイアムモディファイドスターチカンパニーリミテッド サイアムクオリティスターチカンパニーリミテッド 松谷化学工業株式会社 |
発明の名称 | ドーナツ類及びその製造方法 |
代理人 | 廣田 雅紀 |
代理人 | 小澤 誠次 |
代理人 | 廣田 雅紀 |
代理人 | 廣田 雅紀 |
代理人 | 小澤 誠次 |
代理人 | 廣田 雅紀 |
代理人 | 小澤 誠次 |
代理人 | 小澤 誠次 |