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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C03C 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C03C |
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管理番号 | 1345838 |
異議申立番号 | 異議2017-701155 |
総通号数 | 228 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-12-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-12-07 |
確定日 | 2018-09-26 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6143706号発明「光学ガラス、光学素子及びプリフォーム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6143706号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-11〕について訂正することを認める。 特許第6143706号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1.手続の経緯 特許第6143706号は、平成26年 4月25日に出願された特願2014-91548号について、平成29年 5月19日に設定登録がされたものであり、その後、その請求項1?11に係る特許に対し、平成29年12月 7日付けで特許異議申立人 星 正美により特許異議の申立てがされ、平成30年 2月26日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成30年 4月26日付けで意見書の提出及び訂正の請求がされ、平成30年 6月 7日付けで特許異議申立人より意見書の提出がなされ、平成30年 6月27日付けで特許異議申立人への審尋がされ、平成30年 8月10日付けで特許異議申立人より回答書の提出がなされたものである。 第2.訂正の適否についての判断 1.訂正の内容 平成30年 4月26日付け訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、次の訂正事項1よりなる。 (ア)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に、「屈折率(nd)が1.50?1.80であり、アッベ数(νd)が70?80である」と記載されているのを、「屈折率(nd)が1.50?1.60であり、アッベ数(νd)が70?77である」に訂正する。 2.訂正の適否 (ア)訂正事項1 訂正前の請求項1に係る発明では、屈折率(nd)が1.50?1.80であり、アッベ数(νd)が70?80である。これに対して、訂正後の請求項1に係る発明では、屈折率(nd)が1.50?1.60であり、アッベ数(νd)が70?77である。したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、当該訂正事項1は、明細書等に記載した事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであり、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。 さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。 3.一群の請求項について 訂正前の請求項1?11について、請求項2?11はそれぞれ請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1?11に対応する訂正後の請求項1?11は、一群の請求項である。 したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第4項に規定するこれら一群の請求項について請求するものである。 4.むすび 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とし、同条第4項及び第9項の規定によって準用する第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?11〕について訂正を認める。 第3.特許異議の申立てについて 1.本件発明 上記「第2.」のとおり、本件訂正請求による訂正が認められるから、本件訂正請求により訂正された訂正後の請求項1?11に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明11」という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定される次のとおりのものと認められる。 「【請求項1】 カチオン%(モル%)表示で、 P^(5+)を20.0?40.0%、 Al^(3+)を15.0?40.0%、 Sr^(2+)を5.0?30.0%、 Ba^(2+)を25.0?31.0%、 Mg^(2+)を1.6?4.1%、 Ca^(2+)を0?5%、 Gd^(3+)の含有率が0?8.0%及び Yb^(3+)の含有率が0?8.0% 含有し、 カチオン%(モル%)表示で、Ba^(2+)含有率及びMg^(2+)含有率の比Ba^(2+)/Mg^(2+)が7.56以上16.63以下であり、 アニオン成分としてO^(2-)及びF^(-)を含有し、屈折率(nd)が1.50?1.60であり、アッベ数(νd)が70?77である光学ガラス。 【請求項2】 Li^(+)+Na^(+)+K^(+)の合計含有量が2.0%以下である、請求項1に記載の光学ガラス。 【請求項3】 カチオン%(モル%)表示で、Al^(3+)及びBa^(2+)含有率の合計量(カチオン%)Al^(3+)+Ba^(2+)が40.0%以上60.0%以下である請求項1又は2記載の光学ガラス。 【請求項4】 カチオン%(モル%)表示で、P^(5+)、Al^(3+)及びBa^(2+)含有率の合計量(カチオン%)P^(5+)+Al^(3+)+Ba^(2+)が60.0%以上90.0%以下である請求項1から3のいずれか記載の光学ガラス。 【請求項5】 カチオン%(モル%)表示で、Ba^(2+)含有率及びAl^(3+)含有率とMg^(2+)含有量の比(Ba^(2+)+Al^(3+))/Mg^(2+)が12.95以上32.0以下である請求項1から4のいずれか記載の光学ガラス。 【請求項6】 カチオン%(モル%)表示で、 La^(3+)の含有率が0?10.0%、 Y^(3+)の含有率が0?10.0%及び、 Lu^(3+)の含有率が0?10.0% 含有する請求項1?5のいずれかに記載の光学ガラス。 【請求項7】 カチオン%(モル%)表示で、La^(3+)、Gd^(3+)、Y^(3+)、Yb^(3+)及びLu^(3+)の合計含有率(Ln^(3+):カチオン%)が20.0%以下である請求項1から6のいずれか記載の光学ガラス。 【請求項8】 アニオン%(モル%)表示で、 O^(2-)を50.0?70.0% F^(-)を30.0?50.0% 含有する請求項1から7のいずれか記載の光学ガラス。 【請求項9】 比重が3.00?4.50である請求項1から8のいずれか記載の光学ガラス。 【請求項10】 請求項1から9のいずれか記載の光学ガラスからなる光学素子。 【請求項11】 請求項1から10のいずれか記載の光学ガラスからなる研磨加工用及び/又は精密プレス成形用のプリフォーム。」 2.取消理由について (1)取消理由の要旨 訂正前の請求項1?11に係る特許に対して、平成30年 2月26日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 ア)取消理由1 本件特許権者たる株式会社オハラのウェブサイト(http://www.ohara-inc.co.jp/jp/product/optical/dl/data/sl_ndvdmap.pdf)から得られる光学ガラス一覧図によれば、アッベ数(νd)が70以上の場合には、屈折率(nd)は1.60未満の範囲でのみ、光学ガラスが存在すると推認できるものの、アッベ数(νd)が70?80であり、屈折率(nd)が1.60以上1.80以下の範囲には光学ガラスが存在しないと認められる。 また、本件特許明細書の実施例には、屈折率(nd)については1.55247まで、アッベ数(νd)については74.7までの例しか記載されていない。 してみれば、本件特許明細書の記載を参酌しても、どのようにすればアッベ数が70以上でありながら屈折率が1.55247を大きく超える光学ガラスを得ることができるのか、または、屈折率が1.50以上でありながら、アッベ数が74.7を大きく超える光学ガラスを得ることができるのか理解できないことから、本件特許明細書は、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。 よって、訂正前の請求項1?11に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものである。 イ)取消理由2 本件特許明細書の実施例には、訂正前の請求項1?11に係る発明で規定する組成範囲に比べ、限られた組成範囲の例しか開示されておらず、訂正前の請求項1?11に係る発明で規定する組成範囲についてまで、課題を解決できると当業者が認識できる程度に具体例又は説明が記載されていないことから、訂正前の請求項1?11に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。 よって、訂正前の請求項1?11に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明とはいえず、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものである。 (2)当審の判断 ア)取消理由1について 訂正によって、本件発明1?11は、実施例付近の物性である屈折率(nd)が1.50?1.60であり、アッベ数(νd)が70?77である光学ガラスに限定され、実施例に記載された光学ガラスの屈折率及びアッベ数を大きく超えるものではなくなったことから、本件特許明細書の記載を参酌すれば、本件発明1?11の光学ガラスを得ることができ、本件特許明細書は、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものといえる。 よって、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。 イ)取消理由2について 訂正によって、本件発明1?11は、実施例付近の物性である屈折率(nd)が1.50?1.60であり、アッベ数(νd)が70?77である光学ガラスに限定されたことから、本件特許明細書の段落【0027】?【0059】における、各ガラス構成成分の屈折率及びアッベ数への寄与に関する記載を参酌すれば、当業者であれば、本件特許明細書に記載の実施例を基本とし、各ガラス構成成分の屈折率およびアッベ数への寄与を考慮して、当業者が通常行う試行錯誤的な組成調整により、本件発明1?11で規定する組成範囲まで上記物性が得られ、その課題を解決できると当業者が認識できる。 よって、本件発明1?11は、特許法第36条第6項第1号の規定する要件を満たしていないとはいえない。 (3)申立人の主張について ア)申立人の主張の要旨 これらの点について、申立人は意見書において、依然として、本件発明1?11における屈折率、アッベ数の範囲は、実施例で示されている値に比べ広いものであり、「屈折率およびアッベ数の範囲を実施例付近まで減縮」したという主張は、事実に反し、考慮されるべきではなく、光学ガラス一覧図には、屈折率1.56以上、アッベ数70以上の範囲では光学ガラスが存在していないから、本件特許明細書は、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではなく、また、本件特許明細書の実施例における各成分の含有量と屈折率及びアッベ数との関係から、最小二乗法により求めた回帰直線を得て、(該回帰直線の傾き)×(当該成分の変化量)より、当該物性値の変化量を予測すると、本件特許明細書の教示する範囲では、本件発明1?11で規定する屈折率1.56以上かつアッベ数70以上の光学ガラスを得ることができないものであるから、本件発明1?11の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるものではない旨主張している。 イ)当審の判断 本件発明1?11における屈折率、アッベ数の範囲は、実施例で示されている値に比べて広いものの、本件発明は実施例に記載されたものに限定されるものではないし、光学ガラス一覧図に屈折率1.56以上、アッベ数70 以上の光学ガラスが記載されていないことは、当該物性を有する光学ガラスが市販されていないことを示すだけであって、本件発明を実施できないことを意味するものではない。 したがって、一覧図を根拠にして本件特許明細書は、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないとまではいえない。 また、本件特許明細書の実施例のデータに基づく最小二乗法により求めた回帰直線から予測値は、あくまで予測値に過ぎないし、また、本件特許明細書の実施例という限られたデータに基づいた予測値は、そのデータのバラツキからみて十分な信頼性があるものともいえないから、上記予測値をもって、本件発明1?11の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できないとまではいえない。 (4)まとめ 以上のとおりであるから、本件特許は、特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものでない。 3.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由はない。 第6.むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由(特許異議申立書に記載した特許異議申立理由)によっては、本件請求項1?11に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1?11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 カチオン%(モル%)表示で、 P^(5+)を20.0?40.0%、 Al^(3+)を15.0?40.0%、 Sr^(2+)を5.0?30.0%、 Ba^(2+)を25.0?31.0%、 Mg^(2+)を1.6?4.1%、 Ca^(2+)を0?5%、 Gd^(3+)の含有率が0?8.0%及び Yb^(3+)の含有率が0?8.0% 含有し、 カチオン%(モル%)表示で、Ba^(2+)含有率及びMg^(2+)含有率の比Ba^(2+)/Mg^(2+)が7.56以上16.63以下であり、 アニオン成分としてO^(2-)及びF^(-)を含有し、屈折率(nd)が1.50?1.60であり、アッベ数(νd)が70?77である光学ガラス。 【請求項2】 Li^(+)+Na^(+)+K^(+)の合計含有量が2.0%以下である、請求項1に記載の光学ガラス。 【請求項3】 カチオン%(モル%)表示で、Al^(3+)及びBa^(2+)含有率の合計量(カチオン%)Al^(3+)+Ba^(2+)が40.0%以上60.0%以下である請求項1又は2記載の光学ガラス。 【請求項4】 カチオン%(モル%)表示で、P^(5+)、Al^(3+)及びBa^(2+)含有率の合計量(カチオン%)P^(5+)+Al^(3+)+Ba^(2+)が60.0%以上90.0%以下である請求項1から3のいずれか記載の光学ガラス。 【請求項5】 カチオン%(モル%)表示で、Ba^(2+)含有率及びAl^(3+)含有率とMg^(2+)含有量の比(Ba^(2+)+Al^(3+))/Mg^(2+)が12.95以上32.0以下である請求項1から4のいずれか記載の光学ガラス。 【請求項6】 カチオン%(モル%)表示で、 La^(3+)の含有率が0?10.0%、 Y^(3+)の含有率が0?10.0%及び、 Lu^(3+)の含有率が0?10.0% 含有する請求項1?5のいずれかに記載の光学ガラス。 【請求項7】 カチオン%(モル%)表示で、La^(3+)、Gd^(3+)、Y^(3+)、Yb^(3+)及びLu^(3+)の合計含有率(Ln^(3+):カチオン%)が20.0%以下である請求項1から6のいずれか記載の光学ガラス。 【請求項8】 アニオン%(モル%)表示で、 O^(2-)を50.0?70.0% F^(-)を30.0?50.0% 含有する請求項1から7のいずれか記載の光学ガラス。 【請求項9】 比重が3.00?4.50である請求項1から8のいずれか記載の光学ガラス。 【請求項10】 請求項1から9のいずれか記載の光学ガラスからなる光学素子。 【請求項11】 請求項1から10のいずれか記載の光学ガラスからなる研磨加工用及び/又は精密プレス成形用のプリフォーム。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2018-09-10 |
出願番号 | 特願2014-91548(P2014-91548) |
審決分類 |
P
1
651・
536-
YAA
(C03C)
P 1 651・ 537- YAA (C03C) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 吉川 潤 |
特許庁審判長 |
豊永 茂弘 |
特許庁審判官 |
山崎 直也 大橋 賢一 |
登録日 | 2017-05-19 |
登録番号 | 特許第6143706号(P6143706) |
権利者 | 株式会社オハラ |
発明の名称 | 光学ガラス、光学素子及びプリフォーム |
代理人 | 右田 俊介 |
代理人 | 右田 俊介 |
代理人 | 高橋 政治 |
代理人 | 高橋 政治 |