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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C09J
審判 全部申し立て 特29条の2  C09J
管理番号 1345846
異議申立番号 異議2017-700876  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-09-15 
確定日 2018-09-28 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6094226号発明「保護粘着フィルム、スクリーンパネル及びタッチパネル」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6094226号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?11〕について訂正することを認める。 特許第6094226号の請求項1、3?11に係る特許を維持する。 特許第6094226号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯等

1 本件特許異議の申立てに係る特許
本件特許異議の申立ての対象とされた、特許第6094226号の請求項1ないし11に係る特許は、特許権者であるDIC株式会社より、平成25年1月9日に特許出願され、特願2013-1966号として審査され、平成29年2月24日に特許権の設定登録を受け、同年3月15日にその特許公報が発行されたものである。

2 手続の経緯
本件特許異議の申立てにおける手続の経緯は、次のとおりである。
平成29年 9月15日 高橋麻衣子より特許異議の申立て
同年11月13日付 取消理由通知
平成30年 1月16日 意見書及び訂正請求書の提出(特許権者)
同年 2月28日 意見書の提出(特許異議申立人)
同年 4月11日付 取消理由通知(決定の予告)
同年 6月15日 意見書及び訂正請求書の提出(特許権者)
同年 7月18日 意見書の提出(特許異議申立人)

第2 本件訂正の適否

1 訂正事項
平成30年6月15日になされた、特許請求の範囲についてする訂正(以下、「本件訂正」という。)の請求は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項1?11について訂正することを求めるものであり、その内容(訂正事項1?5)は次のとおりである。
なお、同年1月16日になされた訂正の請求は、同法同条第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、「フィルム基材の一方の面にハードコート層を有し、もう一方の面に粘着剤層が設けられた保護粘着フィルムであって、前記ハードコート層表面の表面粗さSRaが1?15nmであり、」と記載されているのを、「フィルム基材の一方の面にハードコート層を有し、もう一方の面に粘着剤層が設けられた保護粘着フィルムであって、前記ハードコート層表面の表面粗さSRaが1?15nmであり、前記ハードコート層が平均粒径0.5μm以下の無機粒子を含有し、前記ハードコート層を形成するハードコート剤がウレタン(メタ)アクリレート、及び、ベンゾフェノン、ベンジル、ミヒラーケトン、チオキサントン、アントラキノン、ベンゾイン、ジアルコキシアセトフェノン、アシルオキシムエステル、ベンジルケタール及びハロゲノケトンからなる群より選ばれる光重合開始剤を含有する活性エネルギー線硬化型樹脂組成物であり、」に訂正する。
当該請求項1を直接又は間接的に引用する請求項についても同様に訂正する。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に、「請求項1又は2に記載の」とあるのを、「請求項1に記載の」と訂正する。
(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に、「請求項1?3のいずれかに記載の」とあるのを、「請求項1又は3に記載の」と訂正する。
(5) 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6に、「請求項1?5のいずれかに記載の」とあるのを、「請求項1、3?5のいずれかに記載の」と訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1について
前記訂正事項1は、特許請求の範囲の請求項2の記載に基づいて、特許請求の範囲の請求項1に記載されたハードコート層を、平均粒径0.5μm以下の無機粒子を含有するものに限定し、また、明細書の【0019】?【0021】の記載に基づいて、当該請求項1に、当該ハードコート層を形成するハードコート剤に関する技術的事項を発明特定事項として付加するものである。
当該請求項1を直接又は間接的に引用する請求項についても同様である。
したがって、当該訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされた、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であるといえる。
また、当該訂正事項1が、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことも明らかである。
よって、当該訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものと認められる。
(2) 訂正事項2?5について
前記訂正事項2は、特許請求の範囲の請求項2を削除するものであり、また、前記訂正事項3?5は、当該請求項2の削除に伴い、当該請求項2を直接引用する請求項3、4、6の引用請求項の一部を削除するものである。
したがって、当該訂正事項2?5は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であるといえ、また、これらの訂正が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことも明らかである。
よって、当該訂正事項2?5は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものと認められる。

3 小括
前記「1」のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項1ないし11について訂正を求めるものであり、前記「2」のとおり、その訂正事項1?5は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、本件訂正後の請求項〔1?11〕について訂正することを認める。

第3 本件特許請求の範囲の記載

前記「第2」のとおり、本件訂正は認容し得るものであるから、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1、3?11の記載は、次のとおりである(以下、各請求項に記載された事項により特定される発明をそれぞれ「本件発明1」ないし「本件発明11」という。なお、請求項2は、本件訂正により削除された。)。
「【請求項1】
フィルム基材の一方の面にハードコート層を有し、もう一方の面に粘着剤層が設けられた保護粘着フィルムであって、前記ハードコート層表面の表面粗さSRaが1?15nmであり、前記ハードコート層が平均粒径0.5μm以下の無機粒子を含有し、前記ハードコート層を形成するハードコート剤がウレタン(メタ)アクリレート、及び、ベンゾフェノン、ベンジル、ミヒラーケトン、チオキサントン、アントラキノン、ベンゾイン、ジアルコキシアセトフェノン、アシルオキシムエステル、ベンジルケタール及びハロゲノケトンからなる群より選ばれる光重合開始剤を含有する活性エネルギー線硬化型樹脂組成物であり、波長380?780nmの光透過率が90%以上、ヘイズが1以下であることを特徴とする保護粘着フィルム。
【請求項3】
前記ハードコート層の厚みが1?10μmである請求項1に記載の保護粘着フィルム。
【請求項4】
タッチパネルの画像表示装置の表層と対向して配置される用途に使用する請求項1又は3のいずれかに記載の保護粘着フィルム。
【請求項5】
前記画像表示装置が表層に偏光フィルムが設けられた画像表示装置である請求項4に記載の保護粘着フィルム。
【請求項6】
画像表示装置の上部に設けられるスクリーンパネルであって、透明パネルの一面に、請求項1、3?5のいずれかに記載の保護粘着フィルムが貼付されたスクリーンパネル。
【請求項7】
画像表示部の大きさが対角7インチ以上であり、総厚みが2.0mm以下である請求項6に記載のスクリーンパネル。
【請求項8】
透明パネルの一面に導電層を有する請求項6又は7に記載のスクリーンパネル。
【請求項9】
透明パネルがガラスまたはプラスチックである請求項6?8のいずれかに記載のスクリーンパネル。
【請求項10】
請求項6?9のいずれかに記載のスクリーンパネルと、画像表示装置とを有し、前記スクリーンパネルに貼付された保護粘着フィルムのハードコート層表面と、画像表示装置の表層とが対向して配置されていることを特徴とするタッチパネル。
【請求項11】
前記画像表示装置が表層に偏光フィルムが設けられた画像表示装置である請求項10に記載のタッチパネル。」

第4 平成30年4月11日付け取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について

標記取消理由は、平成30年1月16日になされた訂正後の特許請求の範囲に記載された発明(以下、本件発明1などと区別するために、「本件訂正前の本件発明1」などという。)に対して通知されたものであり、その概要は以下のとおりである。
なお、当該取消理由は、特許異議申立書に記載された申立理由と同旨である。

1 (拡大先願)本件訂正前の本件発明1?11は、その出願の日前の日本語特許出願であって、その出願後に特許掲載公報の発行又は国際公開がされた下記の日本語特許出願の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の日本語特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記日本語特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない(同法第184条の13参照)。
・日本語特許出願:PCT/JP2012/078841
(特許第5440747号公報、国際公開第2013/069683号参照)
・以下、当該日本語特許出願を「甲1出願」といい、その国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面を「甲1明細書等」という。
・なお、特許異議申立人が甲第1号証として提出した「特許第5440747号公報」と「国際公開第2013/069683号」とは、請求項に付す番号、段落番号等も含めて、記載内容に実質的な違いはない(甲1明細書等からの変更はない)ので、以下において、甲1明細書等の記載を摘記する際は、甲第1号証の該当箇所を示した。

2 (拡大先願)本件訂正前の本件発明1?11は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた下記の特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。
・特許出願:特願2012-136859号
(特許第5610592号公報、特開2014-2520号公報参照)
・以下、当該特許出願を「甲2出願」といい、その願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面を「甲2明細書等」という。
・なお、特許異議申立人が甲第2号証として提出した「特許第5610592号公報」と「特開2014-2520号公報」とは、請求項に付す番号、段落番号等も含めて、記載内容に違いはない(甲2明細書等からの変更はない)ので、以下において、甲2明細書等の記載を摘記する際は、甲第2号証の該当箇所を示した。

第5 取消理由1についての当審の判断

1 甲1明細書等の記載
(1) 甲1明細書等の【請求項1】、【請求項4】には、次の記載がある。
・「【請求項1】
表示装置と、前記表示装置の前面側に、前記表示装置との間に隙間を設けて配置され、外縁部が粘着剤層で前記表示装置に固定された静電容量式タッチパネルとを備える静電容量式タッチパネル付き表示装置であって、
前記静電容量式タッチパネルは、1枚の透明基板と、前記透明基板の前記表示装置側に設けられた導電層と、前記導電層上に粘着剤層を介して積層された保護シートとを備え、
前記保護シートは、前記表示装置と対向する面の表面粗さが1.5nm以上400nm以下である、静電容量式タッチパネル付き表示装置。」
・「【請求項4】
表示装置の前面側に、前記表示装置との間に隙間を設けて配置され、外縁部が粘着剤層で前記表示装置に固定される静電容量式タッチパネルであって、
前記静電容量式タッチパネルは、1枚の透明基板と、前記透明基板の前記表示装置側に設けられた導電層と、前記導電層上に粘着剤層を介して積層された保護シートとを備え、
前記保護シートは、前記表示装置と対向する面の表面粗さが1.5nm以上400nm以下である、静電容量式タッチパネル。」
(2) さらに、甲1明細書等には、前記「静電容量式タッチパネル付き表示装置」及び「静電容量式タッチパネル」、並びに、これらにおいて使用されている「保護シート」の詳細に関して、次の事項が記載されている。
・【0004】:「タッチパネルは、通常、粘着剤を用いて表示装置の前面に取り付けられるが、特に表示装置が大型の場合、コストの点から、タッチパネルの外縁部のみを液晶ディスプレイ等の他の部材に粘着剤で固定することがある」こと
・【0014】:「静電容量式タッチパネル付き表示装置101は、最前面に偏光板12が配置された液晶ディスプレイ11と、静電容量式タッチパネル(以下、単に「タッチパネル」という。)21を備え」ていること
・【0017】:「透明基板1は所定強度以上を有する材質であれば特に限定されるものではないが、ポリエチレンテレフタレート(PET)、・・・ガラス又は強化ガラスなどで形成することが好ましい」こと、及び「透明基板1の厚さの範囲は、0.1mm以上3mm以下が好ましく、0.2mm以上2mm以下がより好ましい」こと
・【0021】:「粘着剤層3、31を構成する粘着剤としては、・・・透明度、耐候性、耐久性、又はコスト等の観点から、アクリル系粘着剤、特に溶剤系のものが好ましい」こと
・【0022】:「保護シート4は、液晶ディスプレイ11と対向する面が、微細な凹凸を有する凹凸面となっており、前記凹凸面の表面粗さが1.5nm以上400nm以下である。
液晶ディスプレイ11と対向する面が、1.5nm以上の表面粗さを有する凹凸面であることで、凹凸がない又は凹凸が小さい場合に比べて、透明基板1が液晶ディスプレイ11方向にたわんで対向する偏光板12前面に接触したときの接触面積が小さく、離れやすいため、優れたアンチニュートンリング効果が発揮されることに加え、偏光板12への付着を防止若しくは軽減することができる。前記表面粗さは、2nm以上が好ましく、3nm以上がより好ましい。
一方、前記表面粗さが400nm以下であれば、保護シート4のヘイズが小さく、透明性が高いため、タッチ面の明るさを損ないにくい。前記表面粗さは、200nm以下が好ましく、100nm以下がより好ましい」こと
・【0023】:「保護シート4は、基材41と、基材41の片面の設けられたハードコート層42から構成される。ハードコート層42は、基材41側とは反対側の表面が凹凸を有する凹凸面42aとなっており、前記凹凸面42aの表面粗さが1.5nm以上400nm以下である。保護シート4は、基材41側を透明基板1側に向けて配置される」こと
・【0024】:「基材41としては、ポリエチレンテレフタレートフィルム・・・等が挙げられる」こと
・【0026】:「凹凸を形成する方法として具体的には、ハードコート層形成用材料に粒子を配合する方法、・・・等が挙げられる。
ハードコート層形成用材料に粒子を配合する方法は、粒子の粒子径や添加量によって表面粗さを容易に調整できる」こと
・【0034】:「ハードコート層形成用組成物(A)が含有する粒子は無機粒子でも・・・よい」こと、「無機粒子としては、硬度が高いものが好ましく、例えば、二酸化ケイ素粒子・・・などの無機酸化物粒子を用いることができる」こと
・【0036】:「粒子の粒子径は、所望の表面粗さ、又は形成しようとするハードコート層の厚み等を考慮して設定すればよく、特に限定されないが、通常、10nm?10μmの範囲内、好ましくは30nm?5μmの範囲内のものが用いられる。・・・前記粒子径は、透過型電子顕微鏡を用いて、・・・100個の粒子について粒子径を測定し、その算術平均値を平均粒子径とする」こと
・【0041】:「ハードコート層42の厚みは、1?10μmであることが好ましく、2?8μmであることがより好ましい」こと
・【0043】:「保護シート4は、全光線透過率が90%を超え、ヘイズが1%未満であることが好ましい。これらの要件を満たすと、タッチパネルや表示装置用の保護シートとして有用である」こと
・【0068】【0069】:実施例1のハードコートフィルムとして、次のものを得たこと
「(ハードコート層形成用組成物の調製)
・・・アンチブロッキング剤として粒子径100nmのコロイダルシリカ分散液(商品名SIRMIBK15WT%-E65、CIKナノテック(株)製)を2.5質量部・・・混合してハードコート層形成用組成物(A1)を調製した。・・・
(保護シートの作製)
基材として、厚さ50μmのPETフィルム(商品名A4300、東洋紡績(株)製)を用い、この基材上に、ハードコート層形成用組成物(A1)をバー塗工した。その後、・・・厚さ3μmのハードコート層を硬化形成することによって、ハードコートフィルムを得た。」
・【0074】:光学物性の評価において、「アクリル系接着剤(商品名SKダイン1811L、綜研化学(株)製)を100質量部、イソシアネート系架橋剤(商品名L-45、綜研化学(株)製)を1質量部、希釈溶剤としての酢酸エチルを67.4質量部混合して粘着剤を調製した。
この粘着剤を、得られたハードコートフィルムのハードコート層と反対側の基材面に、乾燥後の膜厚が25μmとなるようにアプリケータ塗工した。その後、100℃120秒間加熱乾燥し、セパレートフィルム(商品名38RL-07(2)、王子特殊紙(株)製)と貼り合わせ、23℃、相対湿度50%の環境下で1週間の架橋反応エージングを行って粘着フィルムを得た。
得られた粘着フィルムのセパレートフィルムをはがして粘着層を露出させ、前記粘着層を介してハードコートフィルムを検査用ガラス板に、空気やゴミが入らないように貼付した。
検査用ガラス板に貼付されたハードコートフィルムの全光線透過率及びヘイズをそれぞれJIS K7361-1及びJIS K7136に準拠した方法で、日本電色社製のNDH5000を用いて測定した。全光線透過率が90%を超え、ヘイズが1%未満であれば、光学用途に適用できる」こと
・【0015】【0075】:「「表面粗さ」は算術平均粗さを指す」こと、及び、凹凸面の表面粗さの測定方法は、「走査プローブ顕微鏡(Veeco社製Nanoscopel IV及びNanoscope IIIa)を用い、プローブとしてSi単結晶プローブを使用し、測定モードをTappingモードとし、測定エリアを10μm×10μmとして画像の取り込みを行った。得られた画像について、前記走査プローブ顕微鏡に付属の解析ソフトウェアを用いて、うねりを除去するための加増処理としてFlatten処理(0次)を1回、及びPlanefit処理(XY)を1回行った後、表面粗さを算出した」こと
・【0083】【表1】:


・【図1】


・【図2】:



2 甲1明細書等に記載された発明
(1) 甲1記載の保護シート
甲1明細書等に記載された保護シート4は、【0023】の記載から、基材41と、その片面に設けられたハードコート層42から構成され、当該ハードコート層42の基材41側とは反対側の表面が凹凸を有する凹凸面42aとなっており、当該凹凸面の表面粗さが1.5nm以上400nm以下であることが分かる。
そして、当該基材41は、保護シート4の主体となることから、シート状であることは明らかであり、【0024】には、基材41としては、ポリエチレンテレフタレートフィルム等が挙げられることが記載されているから、フィルム状であるということもできる。
また、当該ハードコート層42は、【0041】の記載から、厚みが1?10μmであり、【0043】、【0083】【表1】の実施例1?4に関する記載から、全光線透過率が90%を超え、ヘイズが1%未満であり、【0026】、【0034】、【0036】、【0068】、【0069】の記載から、ハードコート層形成用材料に、平均粒子径10nm?10μm(具体例として100nmを含む)の無機粒子を配合してその凹凸を形成することが想定されたものであるといえる。
さらに、当該保護シート4は、【0021】、【0074】の記載からみて、前記「静電容量式タッチパネル付き表示装置」及び「静電容量式タッチパネル」において使用するに際しては、当該保護シート4(ハードコートフィルム)のハードコード層42とは反対側の基材面に、アクリル系粘着剤層3を設けて用いることが予定されたものということができる。
以上を総合すると、甲1明細書等には、保護シート4に関する、次の発明(以下、「甲1記載の保護シート」という。)が記載されているに等しいといえる。
「フィルム状の基材の片面にハードコート層を有し、前記ハードコード層とは反対側の基材面にアクリル系粘着剤層が設けられた保護シートであって、以下の事項を具備するもの。
・前記ハードコート層の基材側とは反対側の表面が凹凸面となっており、前記凹凸面の表面粗さが1.5nm以上400nm以下である。
・前記ハードコート層の厚みが1?10μmである。
・前記ハードコート層は平均粒子径10nm?10μmの無機粒子を配合して得たものである。
・全光線透過率が90%を超え、ヘイズが1%未満である。
・後記『甲1記載の静電容量式タッチパネル付き表示装置』及び後記『甲1記載の静電容量式タッチパネル』において使用されるものである。」
(2) 甲1記載の静電容量式タッチパネル
甲1明細書等の【請求項4】には、表示装置の前面側に、前記表示装置との間に隙間を設けて配置され、外縁部が粘着剤層で前記表示装置に固定される静電容量式タッチパネルであって、前記静電容量式タッチパネルは、1枚の透明基板と、前記透明基板の前記表示装置側に設けられた導電層と、前記導電層上に粘着剤層を介して積層された保護シートとを備え、前記保護シートは、前記表示装置と対向する面の表面粗さが1.5nm以上400nm以下であることが記載されているところ、【0004】の記載から、その表示装置は大型のものが、【0014】の記載から、その表示装置の最前面には偏光板が配置されたものが、【0017】の記載から、その透明基板はポリエチレンテレフタレート(PET)やガラスなどで形成され、その厚さの範囲が0.1mm以上3mm以下であるものが、それぞれ予定されていることが分かる。
そうすると、甲1明細書等には、静電容量式タッチパネルとして、次の発明(以下、「甲1記載の静電容量式タッチパネル」という。)が記載されているといえる。
「最前面に偏光板が配置された大型の表示装置の前面側に、前記表示装置との間に隙間を設けて配置され、外縁部が粘着剤層で前記表示装置に固定される静電容量式タッチパネルであって、
前記静電容量式タッチパネルは、PETやガラスなどで形成され、その厚さが0.1mm以上3mm以下である1枚の透明基板と、前記透明基板の前記表示装置側に設けられた導電層と、前記導電層上に粘着剤層を介して積層された保護シートとを備え、
前記保護シートは、前記表示装置と対向する面の表面粗さが1.5nm以上400nm以下であり、
前記保護シートが『甲1記載の保護シート』である、静電容量式タッチパネル。」
(3) 甲1記載の静電容量式タッチパネル付き表示装置
前記(2)と同様、甲1明細書等の【請求項1】などには、静電容量式タッチパネル付き表示装置として、次の発明(以下、「甲1記載の静電容量式タッチパネル付き表示装置」という。)が記載されているといえる。
「最前面に偏光板が配置された大型の表示装置と、前記表示装置の前面側に、前記表示装置との間に隙間を設けて配置され、外縁部が粘着剤層で前記表示装置に固定された『甲1記載の静電容量式タッチパネル』とを備える静電容量式タッチパネル付き表示装置。」

3 本件発明1について
(1) 対比
本件発明1と前記「甲1記載の保護シート」とを対比すると、当該「甲1記載の保護シート」における「フィルム状の基材」、「片面」、「ハードコート層」、「ハードコート層とは反対側の基材面」、「アクリル系粘着剤層」、「保護シート」、「凹凸面の表面粗さ」、「平均粒子径」、「無機粒子」、「全光線透過率」、「ヘイズ」は、それぞれ、本件発明1における「フィルム基材」、「一方の面」、「ハードコート層」、「もう一方の面」、「粘着剤層」、「保護粘着フィルム」、「ハードコート層表面の表面粗さSRa」、「平均粒径」、「無機粒子」、「波長380?780nmの光透過率」、「ヘイズ」に相当するものと認められる。
また、「甲1記載の保護シート」は、「全光線透過率が90%を超え、ヘイズが1%未満である」から、本件発明1とは、波長380?780nmの光透過率が90%を超え、ヘイズが1未満である点で一致し、さらに、両者は、ハードコート層表面の表面粗さSRaを特定の範囲に規定するとともに、ハードコート層が含有する無機粒子の平均粒径を特定の範囲に規定する点で共通する。
なお、平成30年6月15日に提出された意見書には、上記相当関係に対する特許権者からの異論はなかった。
そうすると、本件発明1と「甲1記載の保護シート」との間には、次の一致点及び相違点が存するものといえる。
・一致点:フィルム基材の一方の面にハードコート層を有し、もう一方の面に粘着剤層が設けられた保護粘着フィルムであって、前記ハードコート層表面の表面粗さSRaが特定の範囲であり、前記ハードコート層が特定の範囲の平均粒径の無機粒子を含有し、波長380?780nmの光透過率が90%を超え、ヘイズが1未満である、保護粘着フィルムである点。
・相違点:本件発明1は、(i)前記ハードコート層表面の表面粗さSRaが1?15nmであり、(ii)前記ハードコート層が平均粒径0.5μm以下の無機粒子を含有し、(iii) 前記ハードコート層を形成するハードコート剤がウレタン(メタ)アクリレート、及び、ベンゾフェノン、ベンジル、ミヒラーケトン、チオキサントン、アントラキノン、ベンゾイン、ジアルコキシアセトフェノン、アシルオキシムエステル、ベンジルケタール及びハロゲノケトンからなる群より選ばれる光重合開始剤(以下、当該光重合開始剤を「特定の光重合開始剤」ということがある。)を含有する活性エネルギー線硬化型樹脂組成物であるのに対して、「甲1記載の保護シート」は、(i)凹凸面の表面粗さが1.5nm以上400nm以下であり、(ii)平均粒子径10nm?10μmの無機粒子を配合したものであり、(iii) ハードコート層形成用材料に関する明示はない点。
(2) 相違点についての検討
事案に鑑み、はじめに相違点(iii)について検討する。
ア 甲1明細書等に記載されたハードコート層形成用材料に関する記載
ハードコート層形成用材料に着目して、再度、甲1明細書等を仔細にみると、そこには、次の記載を認めることができる。
・「【0026】
・・・通常、ハードコート層は、熱硬化性又は活性エネルギー線硬化性の樹脂成分を含有するハードコート層形成用の塗工液を基材上に塗工して塗膜を形成し、前記塗膜を硬化させることにより形成されている。・・・
熱硬化性の樹脂成分としては、例えば、フェノール樹脂、尿素樹脂、ジアリルフタレート樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アミノアルキッド樹脂、珪素樹脂、又はポリシロキサン樹脂等が挙げられる。
活性エネルギー線硬化性の樹脂成分としては、活性エネルギー線の照射により重合可能な重合性不飽和基(たとえばエチレン性二重結合等の重合性不飽和結合を含む基)を有するモノマーを含有するものが挙げられる。活性エネルギー線硬化性の樹脂成分には、所望により、光重合開始剤等が配合される。」
・「【0027】
ハードコート層42は、特に、多官能(メタ)アクリルモノマー及び粒子を含有するハードコート層形成用組成物(以下、ハードコート層形成用組成物(A)という。)を活性エネルギー線で硬化した硬化物であることが好ましい。また、必要に応じて単官能(メタ)アクリルモノマーを使用することができる。」
・「【0028】
「多官能」は、重合性不飽和基を2つ以上有することを意味し、「(メタ)アクリルモノマー」は、重合性不飽和基として少なくとも(メタ)アクリロイル基を有する化合物である。「(メタ)アクリロイル基」は、アクリロイル基又はメタクリロイル基であることを示す。
多官能(メタ)アクリルモノマーとしては、例えば・・・等が挙げられる。」
・「【0029】
「単官能」は、重合性不飽和基を1つ有することを意味する。単官能(メタ)アクリルモノマーとしては、例えば・・・等が挙げられる。」
・「【0032】
前記ハードコート層形成用組成物(A)は、少なくとも2つの異なる組成物の混合物であってもよい。前記混合物は、多官能(メタ)アクリルモノマー(a1)又は単官能(メタ)アクリルモノマー(a2)を含む組成物(A1)と、多官能(メタ)アクリルモノマー(b1)又は単官能(メタ)アクリルモノマー(b2)を含む組成物(B1)の混合物が好ましい。」
・「【0033】
ハードコート層形成用組成物(A)は必要に応じてオレフィン樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリシロキサン樹脂、ポリシラン樹脂、ポリイミド樹脂又はフッ素樹脂を骨格構造に含む樹脂などを用いることができる。これらの樹脂は、低分子量であるいわゆるオリゴマーであってもよい。」
・「【0037】
ハードコート層形成用組成物(A)は、硬化を促進させるために、前記多官能(メタ)アクリルモノマー及び粒子とともに、光重合開始剤を含有することが好ましい。
光重合開始剤としては、公知のものが使用でき、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾイン-n-ブチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、アセトフェノン、ジメチルアミノアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、2,2-ジエトキシ-2-フェニルアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノ-プロパン-1-オン、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル-2(ヒドロキシ-2-プロプル)ケトン、ベンゾフェノン、又はp-フェニルベンゾフェノン、4,4’-ジエチルアミノベンゾフェノン、プロピオフェノン、ジクロロベンゾフェノン、2-メチルアントラキノン、2-エチルアントラキノン、2-ターシャリーブチルアントラキノン、2-アミノアントラキノン、2-メチルチオキサントン、2-エチルチオキサントン、2-クロロチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、ベンジルジメチルケタール、アセトフェノンジメチルケタール、p-ジメチルアミン安息香酸エステルなどが挙げられる。」
・「【0068】
<実施例1>
(ハードコート層形成用組成物の調製)
多官能(メタ)アクリレートとして、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(6官能アクリレート、商品名DPHA、ダイセル・サイテック(株)製)を35質量部、ジエチレングリコールジアクリレート(2官能アクリレート、商品名SR230、サートマー社製)を65質量部、アンチブロッキング剤として粒子径100nmのコロイダルシリカ分散液(商品名SIRMIBK15WT%-E65、CIKナノテック(株)製)を2.5質量部、光重合開始剤(商品名IRGACURE184、BASF社製)を4質量部、光安定化剤(商品名TINUVIN152、BASF社製)を4質量部、希釈溶剤としてメチルエチルケトンとシクロヘキサノンとを1:1(質量比)で混合した混合溶剤を、固形分が50質量%となるように混合してハードコート層形成用組成物(A1)を調製した。
上記のうち、溶剤以外の各成分の配合量は固形分としての配合量を示した。以下においても同様である。
・・・
【0070】
(評価)
得られたハードコートフィルムについて、以下の評価を行った。結果を表1(当審注:表1は、前記「1(2)」において摘記したとおり。以下同じ。)に示した。
・・・
【0078】
<実施例2>
アンチブロッキング剤であるコロイダルシリカ分散液(商品名SIRMIBK15WT%-E65、CIKナノテック(株)製)の配合量を2.5質量部から5.5質量部に変更した以外は実施例1の(ハードコート層形成用組成物の調製)と同様にして、ハードコート層形成用組成物(A2)を調製した。このハードコート層形成用組成物(A2)をハードコート層形成用組成物(A1)の代わりに使用した以外は、実施例1と同様にしてハードコートフィルムを作製し、評価を行った。結果を表1に示した。
【0079】
<実施例3>
実施例1で得られたハードコートフィルムのハードコート層上に、反射防止層形成用材料(商品名TU2205、JSR(株)製、屈折率:1.35、溶媒:メチルイソブチルケトン)を、乾燥後の膜厚が100nmとなるようにバーコーターを用いて塗工した。その後、80℃60秒間乾燥し、高圧水銀ランプ紫外線照射機(フュージョン社製)を用いて、240W/cm、ランプ高さ10cm、ベルトスピード10m/min、2pass、窒素雰囲気下で紫外線照射して硬化形成することによって、低反射フィルムを得た。
得られた低反射フィルムについて、実施例1と同様の評価(ただし、反射防止層側の表面をハードコート層側の表面(凹凸面)とした)を行った。結果を表1に示した。
【0080】
<実施例4>
単官能アクリレートとして、シクロヘキシルメタクリレート(商品名ライトエステルCH、共栄社化学(株)製)90.0質量部、n-ブチルメタクリレート(商品名ライトエステルNB、共栄社化学(株)製)1.3質量部、メタクリル酸(商品名ライトエステルA、共栄社化学(株)製)4.7質量部及び分子量調整剤としてn-ドデシルメルカプタン(商品名チオカルコール20花王(株)製)3.7質量部、重合開始剤として2,2´-アゾビスイソブチロニトリル(東京化成工業(株)製)0.3部、溶剤としてプロピレングリコールモノメチルエーテル286質量部を窒素ガス導入缶と攪拌装置と温度計とを備えた反応容器に仕込み、窒素ガスを流通させながら、反応混合物を攪拌して80℃に加温し、重量平均分子量7200のアクリル系ポリマー(C1)を得た。このアクリル系ポリマー(C1)のSP値は10.0、Tg:65℃であった。
得られたアクリル系ポリマーC1を0.5質量部と4官能アクリレートとしてペンタエリスリトールトリアクリレート(商品名M-305、東亞合成(株)製 SP値12.7、Tg250℃)91.5質量部、光重合開始剤(商品名IRGACURE184、BASF社製)を4質量部、光安定剤(商品名TINUVIN152、BASF社製)を4質量部、希釈溶剤としてイソプロピルアルコールとイソブチルアルコールとを1:1(質量比)で混合した混合溶剤を、固形分が40質量%となるように混合してハードコート層形成用組成物(A3)を調製した。このハードコート層形成用組成物(A3)をハードコート層形成用組成物(A1)の代わりに使用した以外は、実施例1と同様にしてハードコートフィルムを作成し、評価を行った。結果を表1に示した。
【0081】
<比較例1>
アンチブロッキング剤を添加しなかった以外は実施例1の(ハードコート層形成用組成物の調製)と同様にして、ハードコート層形成用組成物(B1)を調製した。このハードコート層形成用組成物(B1)をハードコート層形成用組成物(A1)の代わりに使用した以外は実施例1と同様にしてハードコートフィルムを作製し、評価を行った。結果を表1に示した。
【0082】
<比較例2>
アンチブロッキング剤の代わりに粒子径1.4μmのシリカ粒子(商品名サイリシア310、富士シリシア化学(株)製)3質量部を添加した以外は実施例1の(ハードコート層形成用組成物の調製)と同様にして、ハードコート層形成用組成物(B2)を調製した。このハードコート層形成用組成物(B2)をハードコート層形成用組成物(A1)の代わりに使用した以外は実施例1と同様にしてハードコートフィルムを作製し、評価を行った。結果を表1に示した。」
イ 前記「ア」の記載事項をみても、ハードコート層形成用材料として、ウレタン(メタ)アクリレートと前記「特定の光重合開始剤」の両者を含有する活性エネルギー線硬化型樹脂組成物についての記載は認められない。また、特許異議申立人が平成30年7月18日に提出した意見書に添付された参考資料(参考資料1:特開2010-168419号公報、参考資料2:特開2010-222524号公報)には、当該ウレタン(メタ)アクリレートと「特定の光重合開始剤」の各々について記載され、当該記載は、外形上、両者の組合せを概念的に包含する記載ぶりとなっているものの、当該組合せに係る具体的な記載(具体例)までは記載されていないから(特に、参考資料1の【請求項1】、【0065】、【0080】、【0122】?【0125】、【0141】、【0149】、【0160】、参考資料2の【請求項8】、【0013】、【0057】、【0058】、【0087】?【0091】、【0095】、【0103】を参照した。)、ハードコート層形成用材料として、両者を含有する活性エネルギー線硬化型樹脂組成物が、周知・慣用の技術的事項であると認めることはできない。
ウ そうすると、前記相違点(iii)に係る技術的事項は、甲1明細書等に記載された事項であるとも、周知・慣用技術であるということはできないから、当該技術的事項を具備する本件発明1は、「甲1記載の保護シート」と同一ないし実質同一のものとはいえない。

4 本件発明3?11について
本件発明3?11も、前記相違点(iii)に係る技術的事項を具備することから、本件発明3?11も同様の理由により、甲1明細書等に記載された発明と同一ないし実質同一であるということはできない。

5 小括
以上のとおりであるから、本件発明1、3?11に係る特許を、取消理由1を理由に取り消すことはできない。

第6 取消理由2についての当審の判断

1 甲2明細書等の記載
(1) 甲2明細書等には、下記【請求項1】?【請求項4】に記載されるような、タッチパネル及びフィルム体に関する発明が記載されている。
「【請求項1】
表示装置のディスプレイ部の表面との間に所定間隔のエアーギャップを設けて配置される透明タッチパネルであって、
前記ディスプレイ部の表面に対向する透明タッチパネルの裏面には、前記ディスプレイ部の表面側に向けて突出する微細な突部が分散して複数形成される突部形成層が設けられており、
前記突部形成層の表面は、
平均凹凸高さ(Ra)が、0.01μm以上0.06μm以下となるように、最大凹凸高さ(Ry)が0.15μm以上0.70μm以下となるように構成されており、
0.1μm以上の高さを有する前記突部が、1mm^(2)あたり100個以上180個以下で分散していることを特徴とする透明タッチパネル。
【請求項2】
前記突部形成層は、平均粒径が1.5μm以上3.5μm以下である微粒子を含有する樹脂組成物を塗工することにより形成されることを特徴とする請求項1に記載の透明タッチパネル。
【請求項3】
透明タッチパネルに設置されるフィルム体であって、
透明なフィルム基材と、前記フィルム基材の一方面に形成される突部形成層とを備えており、
前記突部形成層の表面は、
平均凹凸高さ(Ra)が、0.01μm以上0.06μm以下となるように、最大凹凸高さ(Ry)が0.15μm以上0.70μm以下となるように構成されており、
0.1μm以上の高さを有する微細な突部が、1mm^(2)あたり100個以上180個以下で分散していることを特徴とするフィルム体。
【請求項4】
ヘイズ値が0.3%以上1.0%以下であることを特徴とする請求項3に記載のフィルム体。」
そして、【0029】には、請求項1の「突部形成層」を形成する際に含有される請求項2の「微粒子」について、「このような突部形成層62は、透明なフィルム基材61の一方面に、所定の樹脂組成物を塗工することにより形成される。・・・フィルム基材61に塗工される樹脂組成物としては、平均粒径が1.5μm以上3.5μm以下の微粒子およびバインダー樹脂成分を含有する樹脂組成物を好適に例示することができる。なお、平均粒径は、レーザー回折法(測定機器:HORIBA社LA-920)により計測する。・・・バインダー樹脂として紫外線硬化性樹脂を用いる場合、紫外線硬化性樹脂をフィルム基材61に塗工し、所定時間乾燥させた後、紫外線を照射して硬化させることにより、突部形成層62を形成することができる。フィルム基材61に塗工される紫外線硬化性樹脂の厚みは、例えば2μm以上10μm以下の範囲となるように設定することが好ましい。突部形成用の微粒子としては、シリカフィラーやアクリルビーズ、アルミナフィラー等を例示することができる」と記載されている。
(2) 前記【請求項2】や【0029】には、「微粒子」の平均粒径の好適なものとして、平均粒径が1.5μm以上3.5μm以下のものが記載されているが、甲2明細書等には、当該平均粒径の数値範囲から外れる微粒子を含有する突部形成層を備えるフィルム体の態様として、「サンプル2」(甲2明細書等において比較例として記載されたもの)が記載されているところ、その内容は次のとおりである。
「【0032】
本発明者らは、上述のフィルム体6についてのサンプルを作成して、厚み0.7mmのガラス板に貼り付けたものを、液晶表示装置(電源はOFFの状態)のディスプレイ部上に、突部62aを液晶表示装置側にして設置し、所謂ウォーターマークが発現するか否かの確認試験を行った。
【0033】
作成したサンプルは、5種類(サンプル1?サンプル5)である。個々のサンプルについて説明すると、まず、サンプル1は、厚み50μmのPET製のフィルム基材61の一方面に、突部形成用の微粒子を含有しないハードコート材を3.0μmの厚み(硬化後の厚み)でバーコーターを用いて形成した。ハードコート材は、アクリル系紫外線硬化性樹脂(100重量部)、光重合開始剤(4重量部)を所定量の有機溶剤(メチルエチルケトン(MEK)及びメチルイソブチルケトン(MIBK)を混合した溶剤)に溶解させて作成した。ここで、アクリル系紫外線硬化性樹脂としては、ペンタエリスリトールトリアクリレートを使用した。また、光重合開始剤としては、BASF社のイルガキュア184を使用した。なお、フィルム基材61の一方面にハードコート材を塗工した後、60度?100度の温度範囲で2分間熱風乾燥させ、乾燥工程終了後に、紫外線を照射することによりハードコート材を硬化させた。紫外線の積算光量は、400mJ/cm^(2)である。
【0034】
サンプル2については、サンプル1におけるハードコート材に、突部形成用の微粒子を含有させて作成した。ハードコート材に含有される微粒子は、平均粒径が0.1μmであるシリカフィラーを用いた。また、この微粒子は、アクリル系紫外線硬化性樹脂(バインダー樹脂成分):100重量部に対して、5重量部となるように、アクリル系紫外線硬化性樹脂に含有した。サンプル2については、平均粒径が0.1μmの微粒子を、上述のように、アクリル系紫外線硬化性樹脂:100重量部に対して、5重量部となるように追加した以外は、サンプル1と同様にして形成した。なお、微粒子を含有するハードコート材により形成される層が、突部形成層62に相当する。
・・・
【0038】
上述のようにして作成したサンプル1?サンプル5のそれぞれについて、表示装置のディスプレイ部に見立てたガラス板上に設置し、指で各サンプルを押圧した場合のウォーターマークの発現状況を目視にて確認した。なお、各サンプルは、ガラス板との間にエアーギャップG(クリアランス)を設けずに設置した。確認結果を表1に示す。ここで、表1においては、ウォーターマークが発現しなかったサンプルに対しては○とし、目視にて僅かに確認できるウォーターマークが発現したサンプルに対しては△とした。また、目視にて十分判別可能な大きさのウォーターマークが発現したサンプルに対しては×とした。また、表1中に、各サンプルにおける突部62aの平均凹凸高さ(Ra)、突部62aの最大凹凸高さ(Ry)、突部62aの凹凸間平均距離(Sm)、及び、1mm^(2)あたりの突部62aの個数(任意に選んだ3つの領域(領域A、領域B及び領域C)における突部62aの個数、及び、それらの平均個数)を併せて示す。突部62aの平均凹凸高さ(Ra)、突部62aの最大凹凸高さ(Ry)、及び、突部62aの凹凸間平均距離(Sm)は、株式会社キーエンス製VK-X100を使用して測定し、10箇所測定の平均値とした。また、測定方法は、JISB0601(1994)に準拠している。また、1mm^(2)あたりの突部62aの個数については、株式会社キーエンス製VK-X100を用い、倍率400倍で、0.5mm×0.7mmの領域で突部と認められる点(およそ0.1μm以上のもの)を目視で計数し、3箇所測定の平均値を算出した上で、1mm^(2)あたりの個数に補正して求めた。
【0039】
また、各サンプル1?5について、フィルムに可視光を照射したときの全透過光に対する拡散透過光の割合であるヘイズ値(%)、可視光の透過率(%)を測定し、各サンプルの光学特性についても確認した。各値の測定結果を表2に示す。ヘイズ値は、フィルムの透明性に関わるパラメータであることから、1.0%以下のヘイズ値を有する場合に、良好なヘイズ値であるとして評価を○とし、1.0%より大きく2.0%より小さいヘイズ値を△、2.0%より大きいヘイズ値を×とした。透過率については、90%以上の透過率を有する場合に、良好な透過率であるとして評価を○とし、90%未満のものを△とした。ここで、ヘイズ値及び透過率は、日本電色工業株式会社製NDH5000により測定した結果である。なお、ヘイズ値測定においてはJISK7136に準拠し、透過率測定においてはJISK-7361-1に準拠して測定を行った。また、表2中には、液晶ディスプレイ(LCD)上に各サンプルを設置した場合のぎらつきについての目視評価結果も併せて示している。ぎらつきについては、ぎらつきが気にならないものを○と評価し、僅かなぎらつきが認められるものを△、ぎらつきの度合いが高く気になるものを×と評価した。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】


(3) また、甲2明細書等には、タッチパネルに関する前記【請求項1】、【請求項2】、【0029】の記載のほか、【図1】、【図6】などには、さらに表示装置を具備するものについて、次の事項が記載されている。
・【0017】:「図1は、本発明の一実施形態に係る透明タッチパネルの概略構成断面図である。この透明タッチパネル101は、静電容量式のタッチパネルであり、タッチパネル本体100と、フィルム体6とを備えている。タッチパネル本体100は、第1透明面状体1と第2透明面状体2とを備えており、第1透明面状体1は、透明基板11と、当該透明基板11の一方面側にパターニングされた透明導電膜12とを備えている。第2透明面状体2は、第1透明面状1と同様な構成を備えており、透明基板21と、当該透明基板21の一方面側にパターニングされた透明導電膜22とを備えている」こと
・【0018】:「フィルム体6は、粘着層7を介して、第2透明面状体2における透明基板21の他方面(透明導電膜22が形成されていない面)に貼着されている。・・・第1透明面状体1および粘着層4を設けずに、第2透明面状体2における透明基板21上に透明導電膜12、22のパターンを設ける構成(1層の透明導電膜において、X方向およびY方向のパターンを形成)なども可能である」こと
・【0019】:「透明基板11,21の厚みは、特に限定されないが、例えば、合成樹脂製の可撓性フィルムにより透明基板11,21を構成する場合には、10μm?500μm程度とすることが好ましく、20μm?250μm程度とすることがさらに好ましい。また、ガラス板により透明基板11,21を構成する場合には、20μm?1000μm程度とすることが好ましい」こと
・【0027】:「粘着層4,5,7は、エポキシ系やアクリル系など、一般的な透明接着剤(粘着剤を含む)を用いることができ」ること
・【0028】:「フィルム体6は、図6に示すように、フィルム基材61と、当該フィルム基材61の少なくとも一方面に形成される突部形成層62とを備えている。フィルム基材61は、突部形成層62が表示装置9側になるように、粘着層7を介して第2透明面状体2に貼着される。突部形成層62の露出面には微細な突部62aが複数形成されており、表面粗さ規格であるJISB0601(1994)における平均凹凸高さ(Ra)が、0.01μm以上0.06μm以下となるように構成されている」こと
・【図1】:

・【図6】:


2 甲2明細書等に記載された発明
(1) 甲2記載のフィルム体
前記「1(2)」のとおり、甲2明細書等には、比較例としてではあるが、前記サンプル2のフィルム体(平均凹凸高さ(Ra):0.01μm(10nm)、シリカフィラーの平均粒径:0.1μm、ヘイズ値:0.3%、可視光の透過率:91.3%)が記載され、その使用形態(用途)は、【0032】の記載を斟酌すると、実施例にあたるフィルム体(【請求項3】などに記載されているフィルム体)と同様であると解される。また、当該フィルム体のフィルム基材は、【0018】、【0028】、【図1】、【図6】に記載されるとおり、前記突部形成層62が表示装置9側になるように、前記粘着層7を介して、透明タッチパネル101の第2透明面状体2における透明基板21の他方面(透明導電膜22が形成されていない面)に貼着されるものであるから、当該フィルム体6は、透明なフィルム基材61と、前記フィルム基材の一方面に突部形成層62を、他方面に粘着層7を備えたものと解することができる。そして、当該粘着層7は、【0027】の記載によると、エポキシ系やアクリル系など、一般的な透明接着剤(粘着剤を含む)を用いることを予定したものであることが分かる。
そうすると、当該甲2明細書等には、サンプル2のフィルム体に関する、次の発明(以下、「甲2記載のフィルム体」という。)が記載されているといえる。
「透明タッチパネルに設置されるフィルム体であって、
透明なフィルム基材と、前記フィルム基材の一方面に突部形成層を、他方面にエポキシ系やアクリル系などの一般的な透明接着剤を用いた粘着層を備えており、以下の事項を具備するもの。
・前記突部形成層の表面は、平均凹凸高さ(Ra)が、10nmである。
・前記突部形成層は、平均粒径が0.1μmであるシリカフィラーを含有する樹脂組成物を塗工することにより形成されるものである。
・ヘイズ値が0.3%、可視光の透過率が91.3%である。
・後記『甲2記載のタッチパネル』及び後記『甲2記載のタッチパネル・表示装置』において使用されるものである。」
(2) 甲2記載のタッチパネル
甲2明細書等には、【請求項1】に、表示装置のディスプレイ部の表面との間に所定間隔のエアーギャップを設けて配置される透明タッチパネルであって、前記ディスプレイ部の表面に対向する透明タッチパネルの裏面には、前記ディスプレイ部の表面側に向けて突出する微細な突部が分散して複数形成される突部形成層が設けられた透明タッチパネルが記載され、【0017】には、当該透明タッチパネル101は、タッチパネル本体100と、フィルム体6とを備えており、タッチパネル本体100は、第1透明面状体1と第2透明面状体2とを備えており、第1透明面状体1及び第2透明面状体2は、透明基板11、21と透明導電膜12、22とを備えていることが記載され、【0019】には、透明基板11、21の厚みは、合成樹脂製の可撓性フィルムにより構成する場合には、10μm?500μm程度とし、ガラス板により構成する場合には、20μm?1000μm程度とすることが好ましいことが記載されている。そして、前記「甲2記載のフィルム体」は、使用形態(用途)として、当該透明タッチパネルのような構成を予定したものである。
そうすると、甲2明細書等には、前記「甲2記載のフィルム体」を用いた、次の透明タッチパネルの発明(以下、「甲2記載のタッチパネル」という。)が記載されているといえる。
「表示装置のディスプレイ部の表面との間に所定間隔のエアーギャップを設けて配置される透明タッチパネルであって、
前記ディスプレイ部の表面に対向する透明タッチパネルの裏面には、前記ディスプレイ部の表面側に向けて突出する微細な突部が分散して複数形成される突部形成層が設けられた『甲2記載のフィルム体』を有し、
前記透明タッチパネルは、タッチパネル本体と、フィルム体とを備えており、タッチパネル本体は、第1透明面状体と第2透明面状体とを備えており、第1透明面状体及び第2透明面状体は、それぞれ透明基板と透明導電膜とを備えており、透明基板の厚みは、合成樹脂製の可撓性フィルムにより構成する場合には、10μm?500μm程度とし、ガラス板により構成する場合には、20μm?1000μm程度である透明タッチパネル。」
(3) 甲2記載のタッチパネル・表示装置
甲2明細書等には、前記「甲2記載のタッチパネル」と表示装置を組み合わせたものについても記載されているから、次の発明(以下、「甲2記載のタッチパネル・表示装置」)が記載されているといえる。
「『甲2記載のタッチパネル』と表示装置からなるもの。」

3 本件発明1について
(1) 対比
本件発明1と前記「甲2記載のフィルム体」とを対比する。
「甲2記載のフィルム体」の「突起形成層」は、甲2明細書等の【0034】に記載されるように、微粒子を含有するハードコート材により形成される層である上、「前記突部形成層は、平均粒径が0.1μmであるシリカフィラーを含有する樹脂組成物を塗工することにより形成されるものである」から、本件発明1における「ハードコート層」に相当するものである上、当該ハードコート層が平均粒径0.1μmの無機粒子を含有する点で一致する。
また、「甲2記載のフィルム体」は、「透明なフィルム基材と、前記フィルム基材の一方面に突部形成層を、他方面にエポキシ系やアクリル系などの一般的な透明接着剤を用いた粘着層を備え」るものであるから、本件発明1における「フィルム基材の一方の面にハードコート層を有し、もう一方の面に粘着剤層が設けられた保護粘着フィルム」に相当するものということができる。
そして、「甲2記載のフィルム体」における、上記突起形成層の表面の「平均凹凸高さ(Ra)」、「ヘイズ値」、「可視光の透過率」の数値と、本件発明1における「ハードコート層表面の表面粗さSRa」、「ヘイズ」、「波長380?780nmの光透過率」の数値とは、具体的な測定条件の違いを考慮してもほぼ同様になるものと推測できることから、「甲2記載のフィルム体」のこれらの数値は、本件発明1における当該数値の規定を満足するものと解するのが合理的である。すなわち、両者の「ハードコート層表面の表面粗さSRa」、「ヘイズ」、「波長380?780nmの光透過率」の数値は、それぞれ「10nm」、「0.3」、「91.3%」において一致しているということができる。
なお、平成30年6月15日に提出された意見書には、上記相当関係に対する特許権者からの異論はなかった。
そうすると、本件発明1と「甲2記載のフィルム体」との間には、次の一致点及び相違点が存するものといえる。
・一致点:フィルム基材の一方の面にハードコート層を有し、もう一方の面に粘着剤層が設けられた保護粘着フィルムであって、前記ハードコート層表面の表面粗さSRaが10nmであり、前記ハードコート層が平均粒径0.1μmの無機粒子を含有し、波長380?780nmの光透過率が91.3%以上、ヘイズが0.3である、保護粘着フィルムである点。
・相違点(iv):本件発明1は、ハードコート層を形成するハードコート剤がウレタン(メタ)アクリレート、及び、ベンゾフェノン、ベンジル、ミヒラーケトン、チオキサントン、アントラキノン、ベンゾイン、ジアルコキシアセトフェノン、アシルオキシムエステル、ベンジルケタール及びハロゲノケトンからなる群より選ばれる光重合開始剤を含有する活性エネルギー線硬化型樹脂組成物であるのに対して、「甲2記載のフィルム体」は、突部形成層(本件発明1におけるハードコート層)を形成する材料(ハードコート材)に関する明示はない点。
(2) 相違点についての検討
前記相違点(iv)について検討する。
ア 甲2明細書等に記載されたハードコート材に関する記載
ハードコート材に着目して、再度、甲2明細書等を仔細にみると、そこには、次の記載を認めることができる。
・「【0029】
このような突部形成層62は、透明なフィルム基材61の一方面に、所定の樹脂組成物を塗工することにより形成される。・・・フィルム基材61に塗工される樹脂組成物としては、平均粒径が1.5μm以上3.5μm以下の微粒子およびバインダー樹脂成分を含有する樹脂組成物を好適に例示することができる。・・・バインダー樹脂としては、熱硬化性樹脂、電離放射線硬化性樹脂など使用可能であり、単独の樹脂を用いても良く、複数の樹脂を混合して用いても良い。熱硬化性樹脂としては、例えば、熱硬化型アクリル樹脂、熱硬化型ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、熱硬化型ポリエステル樹脂等の樹脂を挙げることができる。電離放射線硬化性樹脂としては、特に紫外線硬化性樹脂が好適に用いられ、アクリル系紫外線硬化性樹脂、アクリルウレタン系紫外線硬化性樹脂、ポリエステルアクリレート系紫外線硬化性樹脂、エポキシアクリレート系紫外線硬化性樹脂、及びポリオールアクリレート系紫外線硬化性樹脂等が例示できる。必要に応じて光重合開始剤を添加してもよい。」
・「【0032】
本発明者らは、上述のフィルム体6についてのサンプルを作成して、厚み0.7mmのガラス板に貼り付けたものを、液晶表示装置(電源はOFFの状態)のディスプレイ部上に、突部62aを液晶表示装置側にして設置し、所謂ウォーターマークが発現するか否かの確認試験を行った。
【0033】
作成したサンプルは、5種類(サンプル1?サンプル5)である。個々のサンプルについて説明すると、まず、サンプル1は、厚み50μmのPET製のフィルム基材61の一方面に、突部形成用の微粒子を含有しないハードコート材を3.0μmの厚み(硬化後の厚み)でバーコーターを用いて形成した。ハードコート材は、アクリル系紫外線硬化性樹脂(100重量部)、光重合開始剤(4重量部)を所定量の有機溶剤(メチルエチルケトン(MEK)及びメチルイソブチルケトン(MIBK)を混合した溶剤)に溶解させて作成した。ここで、アクリル系紫外線硬化性樹脂としては、ペンタエリスリトールトリアクリレートを使用した。また、光重合開始剤としては、BASF社のイルガキュア184を使用した。なお、フィルム基材61の一方面にハードコート材を塗工した後、60度?100度の温度範囲で2分間熱風乾燥させ、乾燥工程終了後に、紫外線を照射することによりハードコート材を硬化させた。紫外線の積算光量は、400mJ/cm^(2)である。
【0034】
サンプル2については、サンプル1におけるハードコート材に、突部形成用の微粒子を含有させて作成した。ハードコート材に含有される微粒子は、平均粒径が0.1μmであるシリカフィラーを用いた。また、この微粒子は、アクリル系紫外線硬化性樹脂(バインダー樹脂成分):100重量部に対して、5重量部となるように、アクリル系紫外線硬化性樹脂に含有した。サンプル2については、平均粒径が0.1μmの微粒子を、上述のように、アクリル系紫外線硬化性樹脂:100重量部に対して、5重量部となるように追加した以外は、サンプル1と同様にして形成した。なお、微粒子を含有するハードコート材により形成される層が、突部形成層62に相当する。
【0035】
サンプル3については、サンプル1におけるハードコート材に、突部形成用の微粒子および分散剤を含有させて作成した。ハードコート材に含有される微粒子は、平均粒径が2μmであるシリカフィラーを用いた。また、この微粒子は、アクリル系紫外線硬化性樹脂(バインダー樹脂成分):100重量部に対して、3重量部となるように、アクリル系紫外線硬化性樹脂に含有した。分散剤は、シリコーン系分散剤をアクリル系紫外線硬化性樹脂:100重量部に対して、0.3重量部となるように、アクリル系紫外線硬化性樹脂に含有した。なお、サンプル3については、上述のように、アクリル系紫外線硬化性樹脂:100重量部に対して、平均粒径が2μmの微粒子を3重量部、シリコーン系分散剤をアクリル系紫外線硬化性樹脂:100重量部に対して、0.3重量部となるように追加した以外は、サンプル1と同様にして形成した。なお、微粒子を含有するハードコート材により形成される層が、突部形成層62に相当する。
【0036】
サンプル4については、サンプル1におけるハードコート材に、突部形成用の微粒子を含有させて作成した。ハードコート材に含有される微粒子は、平均粒径が2μmであるシリカフィラーを用いた。また、この微粒子は、アクリル系紫外線硬化性樹脂(バインダー樹脂成分):100重量部に対して、4重量部となるように、アクリル系紫外線硬化性樹脂に含有した。なお、サンプル4については、平均粒径が2μmの微粒子を、上述のように、アクリル系紫外線硬化性樹脂:100重量部に対して、4重量部となるように追加した以外は、サンプル1と同様にして形成した。なお、微粒子を含有するハードコート材により形成される層が、突部形成層62に相当する。
【0037】
サンプル5については、サンプル1におけるハードコート材に、突部形成用の微粒子を含有させて作成した。ハードコート材に含有される微粒子は、平均粒径が2μmであるシリカフィラーを用いた。また、この微粒子は、アクリル系紫外線硬化性樹脂(バインダー樹脂成分):100重量部に対して、6重量部となるように、アクリル系紫外線硬化性樹脂に含有した。なお、サンプル5については、平均粒径が2μmの微粒子を、上述のように、アクリル系紫外線硬化性樹脂:100重量部に対して、6重量部となるように追加した以外は、サンプル1と同様にして形成した。なお、微粒子を含有するハードコート材により形成される層が、突部形成層62に相当する。」
イ 前記「ア」の記載事項をみても、ハードコート材として、ウレタン(メタ)アクリレートと前記「特定の光重合開始剤」を含有する活性エネルギー線硬化型樹脂組成物を用いることについての記載は認められない。また、前記「第5 3(2)イ」のとおり、特許異議申立人が平成30年7月18日に提出した意見書に添付された参考資料を参酌しても、ハードコート材(ハードコート層形成用材料)として、ウレタン(メタ)アクリレートと「特定の光重合開始剤」の両者を含有する活性エネルギー線硬化型樹脂組成物が、周知・慣用の技術的事項であるとまで認めることはできない。
ウ そうすると、前記相違点(iv)に係る技術的事項は、甲2明細書等に記載された事項であるとも、周知・慣用技術であるということはできないから、当該技術的事項を具備する本件発明1は、「甲2記載のフィルム体」と同一ないし実質同一のものとはいえない。

4 本件発明3?11について
本件発明3?11も、前記相違点(iv)に係る技術的事項を具備することから、本件発明3?11も同様の理由により、甲2明細書等に記載された発明と同一ないし実質同一であるということはできない。

5 小括
以上のとおりであるから、本件発明1、3?11に係る特許を、取消理由2を理由に取り消すことはできない。

第7 平成30年4月11日付け取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由(進歩性)について

特許異議申立人は、前記取消理由1、2のほかに、設定登録時の請求項1、3?11に係る発明に対して、以下のとおり、特許法第29条第2項所定の規定違反を主張する。
・(進歩性)設定登録時の請求項1、3?11に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明及び周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
・刊行物:特開2012-92236号公報(以下「甲3」という。)
・周知技術に関する文献:
特開2007-152937号公報(以下「甲4」という。)
国際公開第2012/077806号(以下「甲5」という。)
国際公開第2012/0026446号(以下「甲6」という。)
特開2005-71123号公報(以下「甲7」という。)
特開2007-163971号公報(以下「甲8」という。)
特開2009-245935号公報(以下「甲9」という。)
特開2012-66481号公報(以下「甲10」という。)
特開2008-95064号公報(以下「甲11」という。)
特開2012-173627号公報(以下「甲12」という。)
そこで、当該特許異議申立理由(進歩性)について検討する。
当該特許異議申立理由(進歩性)は、設定登録時の請求項1、3?11に係る発明を対象とし、同請求項2に係る発明については対象外であったところ、本件訂正により、本件発明1、3?11は、いずれも同請求項2に係る発明の発明特定事項、すなわち、ハードコート層が平均粒径0.5μm以下の無機粒子を含有する点を具備するものとなった。
そして、特許異議申立人が主引例として提示している甲3には、当該発明特定事項についての記載はなく、また、特許異議申立人が周知文献として提示している甲4?12にも、甲3に記載された発明において当該発明特定事項を適用することが容易想到の技術的事項であると認めるに足りる記載は見当たらない。
したがって、本件発明1、3?11は、上記甲3に記載された発明及び甲4?12に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできないから、本件発明1、3?11に係る特許を、当該特許異議申立理由(進歩性)を理由に取り消すことはできない。

第8 結び

以上の検討のとおり、前記取消理由1、2及び特許異議申立理由(進歩性)はいずれも理由がないから、これらの理由により、本件発明1、3?11に係る特許(請求項1、3?11に係る特許)を取り消すことはできない。 また、ほかにこれらの特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件訂正により請求項2は削除されたため、当該請求項2に係る特許についての特許異議の申立ては却下する。
よって、前記結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム基材の一方の面にハードコート層を有し、もう一方の面に粘着剤層が設けられた保護粘着フィルムであって、前記ハードコート層表面の表面粗さSRaが1?15nmであり、前記ハードコート層が平均粒径0.5μm以下の無機粒子を含有し、前記ハードコート層を形成するハードコート剤がウレタン(メタ)アクリレート、及び、ベンゾフェノン、ベンジル、ミヒラーケトン、チオキサントン、アントラキノン、ベンゾイン、ジアルコキシアセトフェノン、アシルオキシムエステル、ベンジルケタール及びハロゲノケトンからなる群より選ばれる光重合開始剤を含有する活性エネルギー線硬化型樹脂組成物であり、波長380?780nmの光透過率が90%以上、ヘイズが1以下であることを特徴とする保護粘着フィルム。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
前記ハードコート層の厚みが1?10μmである請求項1に記載の保護粘着フィルム。
【請求項4】
タッチパネルの画像表示装置の表層と対向して配置される用途に使用する請求項1又は3に記載の保護粘着フィルム。
【請求項5】
前記画像表示装置が表層に偏光フィルムが設けられた画像表示装置である請求項4に記載の保護粘着フィルム。
【請求項6】
画像表示装置の上部に設けられるスクリーンパネルであって、透明パネルの一面に、請求項1、3?5のいずれかに記載の保護粘着フィルムが貼付されたスクリーンパネル。
【請求項7】
画像表示部の大きさが対角7インチ以上であり、総厚みが2.0mm以下である請求項6に記載のスクリーンパネル。
【請求項8】
透明パネルの一面に導電層を有する請求項6又は7に記載のスクリーンパネル。
【請求項9】
透明パネルがガラスまたはプラスチックである請求項6?8のいずれかに記載のスクリーンパネル。
【請求項10】
請求項6?9のいずれかに記載のスクリーンパネルと、画像表示装置とを有し、前記スクリーンパネルに貼付された保護粘着フィルムのハードコート層表面と、画像表示装置の表層とが対向して配置されていることを特徴とするタッチパネル。
【請求項11】
前記画像表示装置が表層に偏光フィルムが設けられた画像表示装置である請求項10に記載のタッチパネル。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-09-18 
出願番号 特願2013-1966(P2013-1966)
審決分類 P 1 651・ 16- YAA (C09J)
P 1 651・ 121- YAA (C09J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 菅野 芳男  
特許庁審判長 國島 明弘
特許庁審判官 日比野 隆治
井上 能宏
登録日 2017-02-24 
登録番号 特許第6094226号(P6094226)
権利者 DIC株式会社
発明の名称 保護粘着フィルム、スクリーンパネル及びタッチパネル  
代理人 河野 通洋  
代理人 小川 眞治  
代理人 河野 通洋  
代理人 小川 眞治  

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