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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B60C
管理番号 1345873
異議申立番号 異議2018-700591  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-07-18 
確定日 2018-10-25 
異議申立件数
事件の表示 特許第6271258号発明「空気入りタイヤ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6271258号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許6271258号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成26年1月10日の出願であって、平成30年1月12日にその特許権の設定登録(請求項の数5)がされ、同年1月31日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年7月18日に特許異議申立人 山内 生平(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし5に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
その外面がトレッド面をなすトレッドと、それぞれがこのトレッドの端から半径方向略内向きに延びる一対のサイドウォールと、それぞれがこのサイドウォールよりも半径方向内側に位置する一対のビードと、上記トレッド及び上記サイドウォールの内側に沿って一方のビードと他方のビードとの間に架け渡されたカーカスとを備えており、
上記ビードがコアを備えており、
上記コアが、周方向に巻回された非伸縮性ワイヤを備えており、
上記コアを周方向に垂直な面で切った断面において、上記ワイヤの断面が略軸方向に並べられた列が二列以上積層されており、
上記列のうち、半径方向において最も内側に位置する列が第一列とされ、内側から二番目に位置する列が第二列とされたとき、この第一列の中に存在するワイヤの断面の数がこの第二列の中に存在するワイヤの断面の数よりも少なく、
上記第二列の内側端が、上記第一列の内側端より引いたこの列の延在方向に垂直な線よりも軸方向において内側に位置しており、
上記コアを周方向に垂直な面で切った断面おいて、コアの底辺とビードベースラインとのなす角度が2°以上9°以下であり、
上記第二列の中に存在するワイヤの断面のうち、軸方向において最も内側に位置する断面が基準断面とされ、この基準断面の軸方向内側端から引いた半径方向に延びる接線がVLとされ、この接線VLと上記カーカスの半径方向内側面との交点がP1とされ、この接線VLと上記ビードの部分の底との交点がP2とされたとき、この交点P1とこの交点P2との距離Tが3.1mm以上4.0mm以下であり、
上記コアの断面中に位置する全てのワイヤの断面の面積の合計が、13.6mm^(2)以上18.1mm^(2)以下である空気入りタイヤ。
【請求項2】
上記コアを周方向に垂直な面で切った断面おいて、上記列が三列以上積層されており、これらの列のうち、半径方向において最も外側に位置する列の中に存在するワイヤの断面の数が、その一つ内側に位置する列の中に存在するワイヤの断面の数よりも少なくされている請求項1に記載のタイヤ。
【請求項3】
上記コアの断面の外形が八角形である請求項1又は2に記載のタイヤ。
【請求項4】
上記ワイヤの断面の形状が略軸方向に長い楕円である請求項1から3のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項5】
上記楕円の長径がr1とされ、短径がr2とされたとき、この楕円の扁平率(r2/r1)が0.6以上0.8以下である請求項4に記載のタイヤ。」

第3 特許異議申立書に記載した理由の概要
平成30年7月18日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した理由の概要は次のとおりである。

1 申立理由(甲第1号証を主引用文献とする進歩性)
本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、下記の本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

2 証拠方法
甲第1号証:特開平07-001925号公報
甲第2号証:特開2005-178668号公報
甲第3号証:特開平07-205618号公報
甲第4号証:特開平08-118924号公報
甲第5号証:特開平10-053011号公報
甲第6号証:特表2015-516911号公報
甲第7号証:特開2001-233023号公報
甲第8号証:特公昭57-039965号公報
甲第9号証:特開2004-058823号公報
なお、文献名等の表記は概略特許異議申立書の記載に従った。以下、順に「甲1」のようにいう。

第4 申立理由についての当審の判断
1 甲1ないし9の記載事項等
(1)甲1の記載事項等
ア 甲1の記載事項
甲1には、次の記載(以下、総称して「甲1の記載事項」という。)がある。

・「【請求項1】 互いに積重なり合うように配置した複数のワイヤ層を有するリング状のゴム引きされたビードコア(1)と、ビードコア(1)に隣接してサイドウォール(3)の方向に延在すると共に、エラストマー材料からなるビードエイペックス(2)とを備える自動車用タイヤのビード構造において、
ビードコア(1)を単一ワイヤ(4)から巻回し、又、互いに積重なり合うワイヤ層(5,6,7)の少なくとも2層において、互いに並置されたワイヤ巻線の数が異なり、更に、ビードエイペックス(2)の側に位置する第1ワイヤ層(7)のワイヤ巻線の数を、第1ワイヤ層(7)のタイヤ半径方向の真下に位置する第2ワイヤ層(6)のワイヤ巻線の数よりも少なくとも1本少なくする一方、ビードエイペックス(2)を、第1ワイヤ層(7)と第2ワイヤ層(6)のワイヤ巻線の上に適合した形状で載置した自動車用タイヤのビード構造。
・・・(略)・・・
【請求項8】 環状面(8)が、関連するタイヤ軸心に対して約5°の傾斜角度を有する請求項7に記載の自動車用タイヤのビード構造。」

・「【0008】
【実施例】以下に、本発明の実施例を図面を参照して説明する。図1は、ビードコアと、ビードコアからサイドウォール3の方向に延在すると共にエラストマー材料からなるビードエイペックス2を備える本発明の第1実施例にかかるビード構造を有する自動車用タイヤのビード部の概略を示す。
【0009】ビードコア1は、単一ワイヤ4から巻回されると共に、互いに積重なり合うように配置したタイヤ半径方向下方に位置する第3ワイヤ層5、タイヤ半径方向の中間に位置する第2ワイヤ層6とタイヤ半径方向上方に位置する第1ワイヤ層7、即ち、ビードエイペックス2の側のワイヤ層を有する。このような構成のビードコア1は、公知の手法でゴム材料に埋め込まれて、大略非弾性のリングを形成する。
【0010】第3ワイヤ層5は、図示の例では、互いに並置された4本のワイヤ巻線から成り、第2ワイヤ層6は互いに並置された5本のワイヤ巻線を有し、又、第1ワイヤ層7は互いに並置された2本のワイヤ巻線から成る。この時、第1ワイヤ層7の2本のワイヤ巻線がタイヤの軸方向内側に配置されるように、単一ワイヤ4が巻回される。第1ワイヤ層7のワイヤ巻線の数は、そのタイヤ半径方向の真下に位置する第2ワイヤ層6のワイヤ巻線の数よりも少なくとも1本、好ましくは2本少なくする必要がある。ビードエイペックス2は、第1ワイヤ層7と第2ワイヤ層6のワイヤ巻線の上に適合した形状で載置される。即ち、ビードエイペックス2は、第1ワイヤ層7の2本のワイヤ巻線の片側に被さると共に、第2ワイヤ層6に支持される。
【0011】ビードコア1を巻回するのに使用される単一ワイヤ4の直径は、1mmより大きく、更に、乗用車用タイヤに使用される時、好ましくは1mmから1.5mmまでの範囲内の例えば、1.4mmである。これにより、コスト削減と共に、20%の重量低減が達成される。この直径の単一ワイヤ4の使用は、タイヤの一様性に対し何らの悪影響も及ぼさない。何故なら、単一ワイヤ4の巻回により、帯状材が巻回された従来のビードコアのようにビードコアの全幅を延在する継目が全く発生せず、互いに対向するか又は好ましくは、互いに真向かいに対向するワイヤ両端が存在するだけだからである。第1ワイヤ層7を単に2本のワイヤ巻線で形成することで、断面が非対称の構成が得られ、この構成により、ビードコアの装着において、どちらがビードコアの内側でどちらがビードコアの外側であるかを即座に見分けることが可能となる。これは、関連する傾斜したリム座面に適合して、半径方向で内側に、タイヤ軸心に対して例えば、タイヤ軸方向内側へ行くに従って、タイヤ半径方向内側に傾くように5°の傾斜を有する円錐状の環状面8が形成されるように巻回されるビードコアにおいて、重要な意義がある。このように形成されたビードコアは、環状面8の傾斜がビード底部の傾斜と同方向に延在するようにタイヤに装着しなければならない。何故なら、そうすれば、リムへの必要な一様な接触圧が保証されるからである。」

・「【0014】図2は、第1ワイヤ層7の2本のワイヤ巻線をタイヤの外側に配置した、図1の第1実施例の変形例を示す。図2において、第3ワイヤ層5は3本のワイヤ巻線を有する一方、第2ワイヤ層6は4本のワイヤ巻線を有する。ビードコア1の構成に非対称性をもたらす第1ワイヤ層7のワイヤ巻線の上記配置により、タイヤの走行状態を適当に制御できる。図2は、更に、ワイヤ層毎に異なる数のワイヤ巻線を有する本発明にかかるビード構造の構成の原則が実現可能であり、通常の場合、ビードコア1が大略六角形の断面形状を有することを明らかにする。
【0015】図3は、本発明の第2実施例にかかるビード構造を示す。図3において、第3ワイヤ層5、即ち、半径方向で内側に位置するワイヤ層と単に1本のワイヤ巻線から成る第1ワイヤ層7の間に、2個のタイヤ半径方向の中間に位置するワイヤ層6,6'が形成されている。第3ワイヤ層5は3本のワイヤ巻線を有する。又、2層の中間ワイヤ層6,6'の内、第1ワイヤ層7の真下に位置する第2ワイヤ層6が3本のワイヤ巻線を有する一方、第3ワイヤ層5の真上に位置するワイヤ層6'が4本のワイヤ巻線を有する。単一のワイヤ巻線から成る第1ワイヤ層7はタイヤの軸方向内側に配置される一方、ビードエイペックス2は、第1ワイヤ巻線7とその真下に位置する第2ワイヤ層6のワイヤ巻線の上に適合した形状で載置される。即ち、ビードエイペックス2は、第1ワイヤ層7の1本のワイヤ巻線の片側に被さると共に、第1ワイヤ層7の真下に位置する第2ワイヤ層6に支持される。
【0016】図4は、図3の第2実施例の変形例を示す。図4において、単一のワイヤ巻線から成る第1ワイヤ層7が、タイヤの軸方向外側に配置されている一方、ビードエイペックス2は、第1ワイヤ層7の両側を抱持すると共に、第1ワイヤ層7の真下に位置する第2ワイヤ層6に支持される。」

・「



イ 甲1発明
甲1の記載事項、特に実施例に関する記載を整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

「サイドウォールと、ビード部とを備えており、
ビード部がビードコア1を備えており、
ビードコア1が、周方向に巻回された単一ワイヤ4を備えており、
ビードコア1を周方向に垂直な面で切った断面において、単一ワイヤ4の断面が略軸方向に並べられたワイヤ層が二列以上積層されており、
ワイヤ層のうち、半径方向において最も内側に位置するワイヤ層が第3ワイヤ層5とされ、内側から二番目に位置するワイヤ層が第2ワイヤ層6とされたとき、この第3ワイヤ層5の中に存在する単一ワイヤ4の断面の数がこの第2ワイヤ層6の中に存在する単一ワイヤ4の断面の数より小さく、
第2のワイヤ層6の内側端が、第3ワイヤ層5の内側端より引いたこの列の延在方向に垂直な線よりも軸方向において内側に位置しており、
ビードコア1を周方向に垂直な面で切った断面において、環状面8と関連するタイヤ軸心とのなす角度が約5°の傾斜角度を有し、
ビードコア1の断面中に位置する11本又は9本の単一ワイヤ4の直径は、1mmから1.5mmである乗用車用空気入りタイヤ。」

(2)甲2の記載事項
甲2には、次の記載(以下、総称して「甲2の記載事項」という。)がある。

・「【0011】
以下、本発明の実施の一形態を、図示例とともに説明する。
図1において、ランフラットタイヤ1は、トレッド部2からサイドウォール部3をへてビード部4のビードコア5に至るカーカス6と、トレッド部2の内方かつ前記カーカス6の半径方向外側に配されるベルト層7と、前記サイドウォール部3に配されかつタイヤの空気抜けの際の荷重支持機能を受け持つサイド補強ゴム層11とを含んで構成される。」

・「【0018】
そして本実施形態のランフラットタイヤ1では、耐リム外れ性能を高めるために、図2に拡大して示すように、ビード部4を以下の如く構成している。
【0019】
まず第1として、ビードコア5を、タイヤ子午線断面において、リムシート側となる下の長辺Y1と、半径方向外方側となる上の長辺Y2と、トウ側、ヒール側となる側の短辺X1、X2とが、それぞれ80?100°好ましくは83?97の交わり角で交わる横長偏平の断面略矩形形状で形成している。
【0020】
このとき、前記下の長辺Y1を、タイヤ軸方向線に対しタイヤ軸方向内側に向かってタイヤ半径方向内方に10±5°の角度αで傾斜させるとともに、前記上、下の長辺Y1、Y2の長さを平均する長辺平均値Y0と、短辺X1、X2の短辺平均値X0との比(長辺平均値Y0/短辺平均値X0)を1.5?3.0に設定している。なお便宜上、前記長辺Y1の傾斜の向きを、便宜上、下傾斜という場合がある。このようなビードコア5は、1本のビードワイヤを多列多段に螺旋巻きする所謂シングルワインド方式によって形成することができる。」

・「【0028】
又本例では、リムとの嵌合力を確実に確保するために、ビードコア5の断面中心(図心)を通る半径方向線上における前記下の長辺Y1とビード底面Sbとの間のコア下厚さTbを2.0?4.0mmの範囲に規制している。このコア下厚さTbが2.0mm未満では、嵌合力によってコア下部分でクラック等の損傷が発生しやすく、又4.0mmを越えると、嵌合力が低下する傾向を招く。」

・「



(3)甲3の記載事項
甲3には、次の記載(以下、総称して「甲3の記載事項」という。)がある。

・「【請求項1】 トレッド部の両側で連なる一対のサイドウォール部の内周に夫々形成された一対のビード部を備えた小型乗用車用空気入りタイヤにおいて、(イ)上記ビード部のビードコアが、ゴムで被覆された円形断面ワイヤを螺旋状に旋回し束ねることによって形成されるモノストランドよりなるビードコアであって、その断面は3?20本のワイヤで形成される最密ユニットであり、(ロ)上記ワイヤの直径(D)が1.2?2.2mmであり、かつ隣接する上記ワイヤの中心間距離(H)の上記ワイヤ直径(D)に対する比(H/D)が1.01?1.20であり、(ハ)上記ビードコアの断面形状が、ビードベース面側から2段目の列のワイヤ数をN(2)本としたときN(2)=N(1)+1となることによって形成される形状であることを特徴とする小型乗用車用空気入りタイヤ。
【請求項2】 上記ビードコアの断面が、7本のワイヤよりなる最密構造の正六角形部分を有する請求項1記載の小型乗用車用空気入りタイヤ。」

・「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、タイヤのビード部構造を改良することで操縦安定性の改善された小型乗用車用空気入りタイヤに関するものである。」

・「【0005】そこで本発明の目的は、かかる従来のビードコアによるタイヤ周方向および径方向の均一性の乱れを抑えることで操縦安定性の改善を図った小型乗用車用空気入りタイヤを提供することにある。」

・「



(4)甲4の記載事項
甲4には、次の記載(以下、総称して「甲4の記載事項」という。)がある。

・「【請求項1】 トレッド部の両側で連なる一対のサイドウォール部の内周に夫々形成された一対のビード部を備えた小型乗用車用空気入りタイヤにおいて、
(イ)上記ビード部のビードコアが、ゴムで被覆された円形断面ワイヤを螺旋状に旋回し束ねることによって形成されるモノストランドビードコアであって、その断面は3?10本のワイヤで形成される最密ユニットであり、
(ロ)上記ワイヤの直径(D)が1.2?2.2mmであり、かつ隣接する上記ワイヤの中心間距離(H)の上記ワイヤ直径(D)に対する比(H/D)が1.01?1.2であり、
(ハ)上記ワイヤの巻始端と巻終端との重なり長さL(mm)が次式、
L≧4.0×10×πr^(2)(f/A)
(式中、rはワイヤ断面の半径(mm)、fはワイヤの抗張力(kgf/mm^(2))およびAは被覆ゴムからのワイヤの引き抜き力(kgf)を示す)で表される関係を満足することを特徴とする小型乗用車用空気入りタイヤ。」

・「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、タイヤのビード部に起因するタイヤの破壊圧(タイヤの安全率)の低下を招くことなく、タイヤのビード部構造を改良することで操縦安定性を改善し、かつ余分なビードワイヤの使用を抑えてコストの低減および生産効率の向上を図った小型乗用車用空気入りタイヤに関するものである。」

・「【0007】そこで本発明の目的は、かかる従来のビードコアによる問題点を解決し、タイヤの破壊圧(タイヤの安全率)の低下を招くことなく、ビードコアによるタイヤ周方向および径方向の均一性の乱れを抑えることで操縦安定性を改善し、かつ余分なビードワイヤの使用を抑えてコストの低減および生産効率の向上を可能にする小型乗用車用空気入りタイヤを提供することにある。」

・「



(5)甲5の記載事項
甲5には、次の記載(以下、総称して「甲5の記載事項」という。)がある。

・「【0007】
【発明の実施の形態】以下、この発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1、2において、21は空気入りラジアルタイヤであり、このタイヤ21はリング状をしたビードコア22がそれぞれ埋設された一対のビード部23と、これらビード部23から略半径方向外側に向かってそれぞれ延びる一対のサイドウォール部24と、これらサイドウォール部24の半径方向外端同士を連ねるトレッド部25とを備えている。そして、このタイヤ21は前記ビードコア22間をトロイダル状に延びてサイドウォール部24、トレッド部25を補強するカーカス層28を有し、このカーカス層28の両端部はビードコア22の回りを囲みながら軸方向内側から軸方向外側に向かって巻き上げられている。」

・「【0008】ここで、前記ビードコア22は、周囲が被覆ゴム37で被覆された断面円形のスチール製ビードワイヤー38を互いに密着させながら一方に伸びるようにしてコイル状に巻き付け、その後、その外側に内側および隣接するビードワイヤー38に密着させながら他方に伸びるようにしてコイル状に巻き付け、さらに、その外側に内側および隣接するビードワイヤー38に密着させながら一方に伸びるようにしてコイル状に、合計3層巻き付けて構成している。この結果、各ビードコア22は円周方向に延びるビードワイヤー38と、該ビードワイヤー38を被覆する被覆ゴム37から構成されるが、このとき、前記ビードワイヤー38は線材としては1本であっても、円周方向に直交する縦断面で数えると、複数のn本、この実施形態では内側から1層目が2本、2層目が3本、3層目が4本、4層目が3本であるため、合計12本存在することになる。」

・「【0010】
【実施例】次に、試験結果を説明する。この試験に当たっては、図3と同様のビードコアを有する従来タイヤ1、2と、図2と同様のビードコアを有する供試タイヤ1?8および比較タイヤ1?5とを準備した。ここで、各タイヤのビードコア構造、EIの値、内側ゴムチェーファー(従来タイヤではゴムチェーファー)のゴム硬度(度)、切断伸度(%)を以下の表1に示すが、この表1においてはビード構造の上段にビードコアを構成するビードワイヤーの直径(mm)を、下段にビードコアの縦断面におけるビードワイヤーの本数を記載している。なお、前記ビードワイヤーの本数が25であるときには、図7に示すように、5本並べられたビードワイヤーを5重に巻き付けて構成しており、30であるときには、5本並べられたビードワイヤーを6重に巻き付けて構成しており、また、12であるときには、図2に示すように、内側から1層目に2本、2層目に3本、3層目に4本、4層目に3本のビードワイヤーを、18であるときには、図3に示すように、1層目に3本、2層目に4本、3層目に5本、4層目に6本のビードワイヤーを、14であるときには、内側から1層目に2本、2層目に3本、3層目に4本、4層目に5本のビードワイヤーを、7であるときには、内側から1層目に2本、2層目に3本、3層目に2本のビードワイヤーをそれぞれ配置している。
【表1】
・・・(略)・・・
また、前述の各タイヤはサイズが205/65 R15であり、これら各タイヤが装着される標準リムは15×51/2 J(リム径は15インチであるため、値Fは1.82となる)であった。次に、これら各タイヤを乗用車に装着し、専門のドライバーにより操安性(操縦安定性)、乗り心地性(振動乗り心地性)のフィーリング試験を行ったが、その試験結果を前記表1に示す。」

・「【0012】
【発明の効果】以上説明したように、この発明によれば、内径の異なるタイヤであっても、操縦安定性、振動乗り心地性の向上および転がり抵抗の低減を図ることができる。」

・「



(6)甲6の記載事項
甲6には、次の記載(以下、総称して「甲6の記載事項」という。)がある。

・「【請求項1】
半径方向内側に開口したトーラスの形態をしていて内壁及び外壁を有するタイヤであって、前記内壁は、気密層で少なくとも部分的に覆われ、前記タイヤは、クラウンと、2つのサイドウォールと、2つのビードと、クラウン補強材と、前記2つのビード内に繋留されると共に少なくとも前記ビードから前記クラウンまで延びるカーカス補強材とを有する、タイヤにおいて、
前記気密層は、セルフシール製品の層で少なくとも部分的に覆われ、各ビードは、環状補強構造体を有し、前記環状補強構造体は、単一の金属細線の数個の巻回体を有し、前記巻回体は、六角形断面を形成するよう数個の半径方向に重ね合わされた層の状態をなして軸方向に並置されている、タイヤ。
・・・(略)・・・
【請求項3】
前記半径方向に重ね合わされた層は、3‐4‐5‐4‐3形態をなして配置されている、請求項1又は2記載のタイヤ。
【請求項4】
前記半径方向に重ね合わされた層は、3‐4‐3‐2形態をなして配置されている、請求項1又は2記載のタイヤ。
・・・(略)・・・
【請求項7】
前記金属細線は、直径が1.0?1.6mm、好ましくは1.5?1.6mmの円形断面を有する、請求項5記載のタイヤ。」

・「【0048】
本発明は、特に、乗用車型の自動車及びSUV(スポーツユーティリティビークル)及びバンに取り付けられるようになったタイヤに関する。」

・「



(7)甲7の記載事項
甲7には、次の記載(以下、総称して「甲7の記載事項」という。)がある。

・「【請求項1】 少なくとも一対のビードコア間に跨がってトロイド状をなすカーカスのクラウン部外周に、タイヤ赤道面に対して傾斜して延びる複数本のコードまたはフィラメントを配列した1層の傾斜ベルト層と、この傾斜ベルト層上に位置し、タイヤ赤道面に対して実質状平行に複数本のコードを配列した少なくとも1層の周方向ベルト層とを備えた空気入りラジアルタイヤにおいて、前記ビードコアを構成するビードワイヤの総断面積が12?56mm^(2)であることを特徴とする空気入りラジアルタイヤ。」

・「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は空気入りタイヤに係り、コーナリング性に優れ、さらに高速耐久性についても優れる空気入りラジアルタイヤ、特に、軽量化を主目的とした乗用車用に適した空気入りラジアルタイヤに関する。」

・「【0014】そこで、本発明に係る空気入りラジアルタイヤでは、ビードコアを構成するビードワイヤの総断面積(ビードワイヤ1本の線径×本数)を12mm^(2)以上とすることによってビード部の拘束力を向上させ、所定のビードアンシーティング抵抗を確保した。したがって、大きな横力が作用したときにも、ビード部にリムを確実に保持させることができる。」

(8)甲8の記載事項
甲8には、次の記載(以下、総称して「甲8の記載事項」という。)がある。

・「本発明の目的を達成するための実施例について第1図?第5図により説明すると、先ず第1図のビードワイヤー1は3本の硬鋼線W1,W2,W3が並列配置されて引出され、ゴム押出機を通過することによってゴム被覆されて巻取機の巻取りフォーマ-の外周面上に連続的に積層巻回されたものであるが、第1層T1は円形断面の硬鋼線W1,W2,W3の並列配置とし、第2層T2及び第3層T3は第1層T1より幅広となるように硬鋼線W1,W2,W3を上下方向から押出して、所望長さの平行部を上下両面に対向して設けたほぼ偏平断面の並列配置とし第4層T4は第1層T1と同じく円形断面の硬鋼線W1,W2,W3の並列配置としたものである。」

・「



(9)甲9の記載事項
甲9には、次の記載(以下、総称して「甲9の記載事項」という。)がある。

・「【請求項1】
トレッド部の両端部に連なる一対のサイドウォール部の内周に夫々形成された一対のビード部を備えた空気入りタイヤにおいて、前記ビード部に、フィラメントを螺旋状に旋回し束ねることによって形成されたモノストランドビードコアが埋設されてなり、前記フィラメントの断面形状が、タイヤ径方向の高さ(a)とタイヤ幅方向の幅(b)との偏平比(b/a)が1.2以上である偏平形状であることを特徴とする空気入りタイヤ。
・・・(略)・・・
【請求項4】
前記フィラメントの断面形状が楕円である請求項1?3のうちいずれか一項記載の空気入りタイヤ。」

・「【0021】
本発明においては、かかるビードコア3を構成するフィラメントの断面が偏平形状であり、その高さ(タイヤ径方向)(a)と幅(タイヤ幅方向)(b)との偏平比(b/a)が1.2以上である。この偏平比は、好ましくは1.5?6、より好ましくは1.5?4である。この偏平比が1.2未満であると、互いのフィラメントの拘束力が十分に大きくならず、一方、6を超えると、カーカスプライコード端部の巻付け固定およびホイールリムとの嵌め合い確保の面から好まし
くない。
【0022】
前記高さ(a)は、好ましくは1?5mm、より好ましくは1.5?3mmであり、一方、幅(b)は、好ましくは1.2mm以上、より好ましくは2?6mmである。高さ(a)および幅(b)が上記好適範囲内のときに本発明の所望の効果が良好に得られるとともに、ビードコアとしてのカーカスプライコード端部の巻付け固定およびホイールリムとの嵌め合いも良好に行われる。」

・「



2 本件特許発明1について
(1)対比
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明における「ビード部」は本件特許発明1における「ビード」に相当し、以下、同様に、「ビードコア1」は「コア」に、「単一ワイヤ」は「非伸縮性ワイヤ」に、「ワイヤ層」は「列」に、「第3ワイヤ層5」は「第一列」に、「第2ワイヤ層6」は「第二列」に、「環状面8と関連するタイヤ軸心とのなす角度」は「コアの底辺とビードベースラインとのなす角度」に、それぞれ相当する。
また、「約5°」は「2°以上9°以下」の範囲内の値である。
したがって、両者は次の点で一致する。
「サイドウォールと、ビードとを備えており、
上記ビードがコアを備えており、
上記コアが、周方向に巻回された非伸縮性ワイヤを備えており、
上記コアを周方向に垂直な面で切った断面において、上記ワイヤの断面が略軸方向に並べられた列が二列以上積層されており、
上記列のうち、半径方向において最も内側に位置する列が第一列とされ、内側から二番目に位置する列が第二列とされたとき、この第一列の中に存在するワイヤの断面の数がこの第二列の中に存在するワイヤの断面の数よりも少なく、
上記第二列の内側端が、上記第一列の内側端より引いたこの列の延在方向に垂直な線よりも軸方向において内側に位置しており、
上記コアを周方向に垂直な面で切った断面おいて、コアの底辺とビードベースラインとのなす角度が2°以上9°以下である空気入りタイヤ。」

そして、両者は次の点で相違する。
ア 相違点1
「ビード」に関し、本件特許発明1においては、「その外面がトレッド面をなすトレッドと、それぞれがこのトレッドの端から半径方向略内向きに延びる一対のサイドウォールと、それぞれがこのサイドウォールよりも半径方向内側に位置する一対のビード」であるのに対し、甲1発明においては、ビードとトレッドの関係が不明である点。

イ 相違点2
「カーカス」に関し、本件特許発明1においては、「上記トレッド及び上記サイドウォールの内側に沿って一方のビードと他方のビードとの間に架け渡されたカーカス」を備えているのに対し、甲1発明においては、ビードとカーカスの関係が不明である点。

ウ 相違点3
本件特許発明1においては、「上記第二列の中に存在するワイヤの断面のうち、軸方向において最も内側に位置する断面が基準断面とされ、この基準断面の軸方向内側端から引いた半径方向に延びる接線がVLとされ、この接線VLと上記カーカスの半径方向内側面との交点がP1とされ、この接線VLと上記ビードの部分の底との交点がP2とされたとき、この交点P1とこの交点P2との距離Tが3.1mm以上4.0mm以下」であるのに対し、甲1発明においては、距離Tについて不明である点。

エ 相違点4
本件特許発明1においては、「上記コアの断面中に位置する全てのワイヤの断面の面積の合計が、13.6mm^(2)以上18.1mm^(2)以下」であるのに対し、甲1発明においては、ワイヤの断面の面積の合計が不明である点。

(2)判断
事案に鑑み、まず、相違点3及び4について検討する。
ア 相違点3について
甲1ないし9の記載事項は、上記のとおりであって、相違点3に係る発明特定事項である「距離T」に着目し、その値をどのようにするかについて、甲1ないし9には記載も示唆もされていない。
また、相違点3に係る発明特定事項である「距離T」を何らかの目的のために調整することが当業者の技術常識であったともいえない。
してみると、甲1発明において、「距離T」が何らかの値を有しているものであるといえるとしても、その値を変更することが設計的事項であるとはいえず、まして、その値を「3.1mm以上4.0mm以下」の範囲内の値とする動機付けがあるとはいえない。
したがって、甲1発明及び甲1ないし9の記載事項に基づいて、相違点3に係る発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
そして、本件特許明細書の記載(特に【0047】、【0051】及び【表1】ないし【表4】)によると、本件特許発明1は、「距離T」を「3.1mm以上4.0mm以下」の範囲内の値とすることにより、「締め付け力勾配」を小さくすることができるという甲1ないし9の記載からは予測できない格別顕著な効果を奏するものである。
なお、特許異議申立人は,甲1の図1又は2から、距離Tに相当する部分は単一ワイヤ4の直径の4倍である点が看取でき、単一ワイヤ4の直径を1mmである場合には、甲1発明における距離Tは約4mmである旨及び甲2の図2から、距離Tに相当する部分の距離が「コア厚さTb」と同一又は近似する点が看取できる旨主張するが、甲1及び2は、特許出願の公開公報であるところ、特許出願の図面は、発明の内容を理解しやすくするため明細書の補助として使用されるものであって、発明の構成を特徴付ける部分が容易に理解できるように概略を示すことで足り、寸法、形状や比例関係は必ずしも正確に示されるものではないから(知財高裁判決平成24年(行ケ)10356号)、当該主張は採用できない。また、下記相違点4に関する検討において特許異議申立人が採用した単一ワイヤ4の直径は1.3mm又は1.4mmであり、その場合には、甲1発明における距離Tは5.2mm又は5.6mmとなり、「3.1mm以上4.0mm以下」の範囲から外れることから、相違点3に関する検討の際に、単一ワイヤ4の直径を1mmとすることは、相違点3に係る発明特定事項を満たすように、採用する数値を都合良く選択するものであり、この点からも当該主張は採用できない。

イ 相違点4について
甲1ないし9の記載事項は、上記のとおりであって、相違点4に係る発明特定事項である「全てのワイヤの断面の面積の合計」に着目し、その値をどのようにするかについて、甲1ないし9には記載も示唆もされていない。
してみると、甲1発明において、「全てのワイヤの断面の面積の合計」の値を変更することが設計的事項であるとしても、その値を「13.6mm^(2)以上18.1mm^(2)以下」の範囲内の値とする動機付けがあるとはいえない。
したがって、甲1発明及び甲1ないし9の記載事項に基づいて、相違点4に係る発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
そして、本件特許明細書の記載(特に【0052】及び【表1】ないし【表4】)によると、本件特許発明1は、「全てのワイヤの断面の面積の合計」を「13.6mm^(2)以上18.1mm^(2)以下」の範囲内の値とすることで、「締め付け力勾配」を小さくすることができるという甲1ないし9の記載からは予測できない格別顕著な効果を奏するものである。
なお、特許異議申立人は、甲1及び3ないし7に「全てのワイヤの断面の面積の合計」を本件特許発明1で特定される範囲内の値とすることが記載されている旨主張するが、当該主張は、相違点4に係る発明特定事項を満たすように、ワイヤの本数及び直径を都合良く選択した計算結果に基づくものであるから、採用できない。

ウ まとめ
したがって、相違点1及び2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明、すなわち甲第1号証に記載された発明及び甲1ないし9の記載事項、すなわち甲第1ないし9号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3 本件特許発明2ないし5について
本件特許発明2ないし5に係る発明は、請求項1を直接又は間接的に引用し、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲第1号証に記載された発明及び甲第1ないし9号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第5 結語
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠方法によっては、本件特許の請求項1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-10-16 
出願番号 特願2014-2851(P2014-2851)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B60C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 市村 脩平  
特許庁審判長 大島 祥吾
特許庁審判官 阪▲崎▼ 裕美
加藤 友也
登録日 2018-01-12 
登録番号 特許第6271258号(P6271258)
権利者 住友ゴム工業株式会社
発明の名称 空気入りタイヤ  
代理人 岡 憲吾  
代理人 特許業務法人 有古特許事務所  
代理人 住友 教郎  
代理人 笠川 寛  
代理人 室橋 克義  
代理人 染矢 啓  

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