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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01B
管理番号 1345878
異議申立番号 異議2018-700319  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-04-18 
確定日 2018-11-02 
異議申立件数
事件の表示 特許第6213447号発明「ハーネス」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6213447号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6213447号の請求項1に係る特許についての出願は、平成26年10月31日に特許出願され、平成29年9月29日にその特許権の設定登録がされ、同年10月18日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、平成30年4月18日に特許異議申立人 白澤 哲明により特許異議の申立てがされ、当審において、同年7月23日付けで取消理由を通知し、同年9月25日付けで意見書が提出されたものである。

第2 本件発明
特許第6213447号の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
少なくともABSセンサ用ケーブル及びパーキングブレーキ用ケーブルをシース内部に収容するハーネスであって、
前記シースの端部において前記ABSセンサ用ケーブルと前記パーキングブレーキ用ケーブルとを分岐させて引き出し方向を固定するとともに前記シースの端部の止水を行う止水部と、前記ABSセンサ用ケーブル及び前記パーキングブレーキ用ケーブルの分岐部位とは反対側においてブラケットを取り付けるブラケット取付部とをウレタンにより一体成形してなることを特徴とするハーネス。」

第3 取消理由の概要
当審において、平成30年7月23日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。

1.取消理由1(進歩性)について
請求項1に係る発明は、下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術事項並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

記(引用文献一覧)
1.国際公開第2014/103499号(甲第1号証)
2.実願昭50-067526号(実開昭51-146383号)のマイクロフィルム(甲第4号証)
3.特開平6-267336号公報(甲第6号証:周知技術を示す文献)
4.特開2014-167929号公報(周知技術を示す文献)

第4 引用文献の記載
1.引用文献1
当審の取消理由に引用された引用文献1(国際公開第2014/103499号)には、「車輪速センサ及びワイヤハーネス」に関して、以下の事項が図面と共に記載されている。(なお、下線は当審で付与した。)

(1)「[0002]
従来、車輌には例えばABS(Anti-lock Brake System)などの車輌制御のために、車輪速センサが搭載されている。車輪速センサは、車輪と共に回転するロータに対向して設けられ、ロータの回転による磁束変量を検出し、検出結果に応じた電気信号を出力する。車輪速センサには、磁束変量を電気信号に変換する磁電変換子(例えばホールIC(Integrated Circuit)などのセンサ部品)が用いられる。」

(2)「[0007]
一方、近年の車輌においては、搭載される電子部品の数が増加する傾向にあり、車輌内に配される電線又はワイヤハーネス等の数も増大している。このため多数の電線を束ねて1本のワイヤハーネスとすることが望まれている。ただし、車輪速センサに接続される2本の電線を含むワイヤハーネスに、更に別の電線を束ねて1本のワイヤハーネスとした場合、別の電線には別の電子部品を接続する必要がある。このためワイヤハーネスの端部近傍などにおいては、ワイヤハーネスを被覆している合成樹脂を取り除き、ワイヤハーネス内の複数の電線を分岐させてホールIC及び電子部品に接続しなければならない。」

(3)「[0036]
ワイヤハーネス7は、一端に車輪速センサ1が接続された2本の電線7aと、その他の複数の電線7bとを束ねて樹脂被覆などを行うことにより、1本のワイヤとしたものである。その他の電線7bは、車輪速センサ1の近傍に配置された他の電子部品などに接続される。他の電子部品として、例えば電動パーキングブレーキの制御機器などを電線7bに接続する構成としてよい。ワイヤハーネス7の両端部では、樹脂被覆が除去されて電線7a及び7bが露出している。露出した電線7a及び7bの一端には上記のように車輪速センサ1及び他の電子部品などが接続され、他端にはコネクタ8が接続されている。コネクタ8は、車輌に搭載された制御装置などに接続するためのものである。」

したがって、上記(1)ないし(3)の記載事項及び図面の記載を総合勘案すると、引用文献1は、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。

「ABSの車輪制御のための車輪速センサに接続した電線及び電動パーキングブレーキの制御機器に接続した電線を合成樹脂で被覆したワイヤハーネスであって、ワイヤハーネスの端部近傍において、被覆している合成樹脂を取り除き、ワイヤハーネス内の複数の電線を分岐させたワイヤハーネス。」

2.引用文献2
当審の取消理由に引用された引用文献2(実願昭50-067526号(実開昭51-146383号)のマイクロフィルム)には、「ケーブル」に関して、以下の事項が図面と共に記載されている。(なお、下線は当審で付与した。)

(1)「これを添付図面に於て説明するに、1は幹線ケーブル、2は分岐線ケーブルにして両者は電気的に接続されている。
3は接続された外周を覆う様にして設けられたモールド部であり、このケーブルはいわゆる分岐線付きケーブルである。
4はモールド部3の一部分より成るモールド保護部にして、ケーブル取付金具(図示せず)に合致する様な形状に成形されており、この上からケーブル取付金具を造営材に固定させる場合確実に且つ、ケーブル線心に損傷を与えることなく固定できるものである。
モールド保護部4の製造はモールド成形金型に加工を加え、ケーブル分岐部のモールド部3の成形時に一括してモールドすれば良いもので、簡単に製造することができるものである。」(第2頁第11行-第3頁第6行)

(2)「又、モールド保護部はモールド成形であるため寸法精度が良いと共にケーブルシースに完全に接着するため、ケーブル取付金具の取付作業が容易であり、ケーブル線心に損傷を与えることもない。」(第4頁第7行-第10行)

したがって、上記(1)ないし(2)の記載事項及び図面の事項を総合勘案すると、引用文献2には、次の事項が記載されている。

ア.幹線ケーブル1と分岐線ケーブル2とが電気的に接続されたケーブルにおいて、モールド部3を電気的に接続された両ケーブルの外周を覆うようにして設けること。

イ.ケーブル取付金具に合致する様な形状のモールド保護部4を、モールド部3の一部分として、成形時に一括してモールドすること。

ウ.モールド成形にすることで、モールド保護部4がケーブルシースに完全に接着すること。

第5 当審の判断
1.取消理由通知に記載した取消理由1(進歩性)について
本件発明と引用発明1とを対比する。
(1)引用発明1の「ワイヤーハーネス」、「ABSの車輪制御のための車輪速センサに接続した電線」、「電動パーキングブレーキの制御機器に接続した電線」は、それぞれ本件発明の「ハーネス」、「ABSセンサ用ケーブル」、「パーキングブレーキ用ケーブル」に相当する。
また、引用発明1の「合成樹脂」は、2本の電線を被膜して、その合成樹脂内部に2本の電線を収容していることは明らかであるから、本願発明の「シース」に相当する。
したがって、本願発明と引用発明1とは、「少なくともABSセンサ用ケーブル及びパーキングブレーキ用ケーブルをシース内部に収容するハーネス」である点で共通する。

(2)引用発明1の「ワイヤハーネスの端部近傍」は、被覆している合成樹脂を取り除き、ワイヤハーネス内の複数の電線を分岐させる部分であるから、本願発明の「シースの端部」に相当する。
したがって、本願発明と引用発明1とは、「シースの端部において前記ABSセンサ用ケーブルと前記パーキングブレーキ用ケーブルとを分岐させ」る点で共通する。

以上のことから、本件発明と引用発明1との一致点及び相違点は、次のとおりである。

<一致点>
「少なくともABSセンサ用ケーブル及びパーキングブレーキ用ケーブルをシース内部に収容するハーネスであって、
前記シースの端部において前記ABSセンサ用ケーブルと前記パーキングブレーキ用ケーブルとを分岐させたハーネス。」

<相違点1>
本件発明は、「シースの端部において前記ABSセンサ用ケーブルと前記パーキングブレーキ用ケーブルとを分岐させて引き出し方向を固定するとともに前記シースの端部の止水を行う止水部」を備えているのに対し、引用発明1はそのような止水部を備えていない点。

<相違点2>
本件発明は、「ABSセンサ用ケーブル及び前記パーキングブレーキ用ケーブルの分岐部位とは反対側においてブラケットを取り付けるブラケット取付部」を備えているのに対し、引用発明1はそのようなブラケット取付部を備えていない点。

<相違点3>
本件発明は、「止水部」と「ブラケット取付部」とを「ウレタンにより一体成形してなる」のに対し、引用発明1はそのような事項は特定されていない点。

まず、上記相違点1について検討する。
上記「第4」「2.」の「ア.」で説示したとおり、引用文献2には、幹線ケーブル1と分岐線ケーブル2とが電気的に接続されたケーブルにおいて、モールド部3を電気的に接続された両ケーブルの外周を覆うようにして設けることが記載されている。
ここで、幹線ケーブル1と分岐線ケーブル2とは電気的に接続されていることからみて、幹線ケーブル1及び分岐線ケーブル2は、それぞれのケーブルの絶縁被膜から金属線が露出しており、その金属線同士を剥き出しの状態で電気的に接続していると解される。そして、モールド部3は、少なくとも、上記両ケーブルを覆うようにして設けられたものであるから、その剥き出し状態の金属線を保護するためのものと認められる。
一方、引用発明1は、ABSの車輪制御のための車輪速センサに接続した電線及び電動パーキングブレーキの制御機器に接続した電線を合成樹脂で被覆したワイヤハーネスであって、ワイヤハーネスの端部近傍において、被覆している合成樹脂を取り除き、ワイヤハーネス内の複数の電線を分岐させたものであるが、それらの電線を分岐させている部分は、単に各電線を分岐させるだけであって、分岐のために各電線の金属線を剥き出し状態にするものではない。
してみれば、引用発明1のABSの車輪制御のための車輪速センサに接続した電線及び電動パーキングブレーキの制御機器に接続した電線を分岐している部分については、金属線を剥き出し状態としていないから、その分岐している部分の外周を、引用文献2に記載のモールド部で覆う必要はないから、引用発明1に引用文献2に記載の技術事項を適用する動機付けは存在しない。
また、取消理由通知で周知技術として引用した引用文献3及び引用文献4にも、上記相違点1に係る事項は記載されていない。
したがって、上記相違点2,3について検討するまでもなく、本件発明は、引用発明1及び引用文献2に記載の技術事項並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

2.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)特許法第29条第2項(進歩性)について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、請求項1に係る発明は、甲第2号証(特開平4-065080号公報)に記載された発明に、甲第1号証(引用文献1)、甲第4号証(引用文献2)、及び甲第6号証(特開平6-267336号公報)に記載の技術事項を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものである旨を主張している。
そこで、上記主張について以下に検討する。

ア.甲第2号証(特開平4-065080号公報)の記載
甲第2号証(以下、「甲2」という。)には、「組電線」に関して、以下の事項が図面とともに記載されている。(なお、下線は当審で付与した。)

(ア)「たとえば、パーソナルコンピュータの外部記憶手段として半導体記憶回路を収容したICカードを使用する場合には、ICカード書込読出装置を外付けにして使用することが行なわれているが、ICカード書込読出装置は、小形化を図るため、通常電源回路が内蔵されておらず、外部から低電圧の直流電力の供給を受けて作動するように構成されている。」(第1頁左下欄第18行-右下欄第5行)

(イ)「第1図は本発明の一実施例を示すものであって、図中符号1は、組ケーブルで、第2図に示したように信号伝送路を構成する信号線2と電力伝送路を構成する電力供給線3とを並行に沿わせ、これらの外周を被覆4により一本のケーブルに纒め上げられている。この組ケーブルは所用の長さに切断された上、一端には信号ピンと電源ピンを同一の基台に配列してなるコネクタ5を固定し(第3図イ)、信号線は信号ピンS、S、S…に、また電力供給線3は電源ピンP、Pに接続されている。また他端側は、接続される機器11と電源コンセント12(第4図)との距離を賄う程度の長さとなるように、被覆4を剥離して信号線2と電力供給線3を露出させ、信号線2にはコネクタ6を(第3図ロ)、また電力供給線3には電源アダプタ7が接続固定されている。
8は、剥離部1aに固着されたモールド部材で、電力供給線3を信号線2に対して適当な角度θに折曲げて、この角度を保持するように電力供給線3、信号線2、及び被覆4を一体的に固定している。」(第2頁右上欄第4行-左下欄第4行)

(ウ)「なお、この実施例においてはICカード書込読出装置に適用する場合に例を採って説明したが、モデム等の外部からの電力供給を受け、信号を入出力する他の電子機器に適用しても同様の作用を奏することは明らかである。」(第2頁右下欄第7行-第11行

(エ)「このような接続形態をとると、外付けとなるICカード書込読出装置10の周辺は、一本のケーブル1により接続されているので、ICカード書込読出装10を単体として移動可能な状態で載置しても、信号線、及び電力供給線を一本のケーブルとしで引回せるので取扱いが楽であるばかりでなく、ケーブルの本数か少ないため見栄えも良い。」(第2頁左下欄第15行-右下欄第2行)

第1図からみて、剥離部1aは被膜4の端部に位置する。

したがって、上記(ア)ないし(エ)の記載事項及び図面の事項を総合勘案すると、甲2には、次の発明(以下、「甲2発明」という)が記載されている。

「パーソナルコンピュータに外付けされている電子機器に接続されている組ケーブル1であって、信号伝送路を構成する信号線2及び電力伝送路を構成する電力供給線3の外周を、被覆4により一本のケーブルに纏め上げ、その一端にはコネクタ5を固定するとともに、他端側は、前記被覆4を剥離して前記信号線2と前記電力供給線3を露出させ、前記信号線2にはコネクタ6を、前記電力供給線3には電源アダプタ7を固定し、前記被膜4の端部に位置する剥離部1aにおいて、前記電力供給線3を前記信号線2に対して角度θに折曲げて、この角度を保持するように前記電力供給線3、前記信号線2及び前記被覆4を、モールド部材8で一体的に固定した組ケーブル1。」

イ.対比・判断
本件発明と甲2発明とを比較する。

a.甲2発明の「被覆4」は、本件発明の「シース」に相当する。また、甲2発明の「信号線2」及び「電力供給線3」はケーブルということができるから、本件発明と甲2発明は、2本のケーブルを「シース内部に収容する」点で共通する。
ただし、シース内部に収容する2本のケーブルが、本件発明では、「ABSセンサ用ケーブル」及び「パーキングブレーキ用ケーブル」であるのに対し、甲2発明では、パーソナルコンピュータと外付けされている電子機器とを接続する「信号伝送路を構成する信号線2」及び外付けされている電子機器への「電力伝送路を構成する電力供給線3」である点で相違する。

b.甲2発明の「組ケーブル1」は、2本のケーブルをシース内部に収容してまとめたものでもあるから、「ハーネス」といえる。

c.甲2発明の「剥離部1a」は、被覆4の端部に位置するから、本件発明の「シースの端部」に相当する。

d.甲2発明の「モールド部材8」は、剥離部1aにおいて、電力供給線3を信号線2に対して角度θに折曲げて、この角度を保持するように前記電力供給線3、前記信号線2及び被覆4を一体的に固定しているから、本件発明の「止水部」と甲2発明の「モールド部材8」とは、シースの端部において2本のケーブルを分岐させて引き出し方向を固定する部材である点で共通する。
ただし、本件発明の「止水部」は、「シースの端部の止水を行う」のに対し、甲2発明の「モールド部材8」は、止水について特定されていない点で相違する。

e.本件発明は、「ABSセンサ用ケーブル及び前記パーキングブレーキ用ケーブルの分岐部位とは反対側においてブラケットを取り付けるブラケット取付部」を備えているのに対し、甲2発明はそのようなブラケット取付部を備えていない点で相違する。

f.本件発明は、「止水部」と「ブラケット取付部」とを「ウレタンにより一体成形してなる」のに対し、甲2発明はそのような事項は特定されていない点で相違する。

以上のことから、本件発明と甲2発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

<一致点>
2本のケーブルをシース内部に収容するハーネスであって、
前記シースの端部において前記2本のケーブルを分岐させて引き出し方向を固定する部材を有するハーネス。

<相違点1>
シース内部に収容する2本のケーブルが、本件発明では、「ABSセンサ用ケーブル」及び「パーキングブレーキ用ケーブル」であるのに対し、甲2発明では、パーソナルコンピュータと外付けされている電子機器とを接続する「信号伝送路を構成する信号線2」及び外付けされている電子機器への「電力伝送路を構成する電力供給線3」である点で相違する。

<相違点2>
2本のケーブルを分岐させて引き出し方向を固定する部材が、本件発明においては、「シースの端部の止水を行う」のに対し、甲2発明においては、止水について特定されていない点。

<相違点3>
本件発明は、「ABSセンサ用ケーブル及び前記パーキングブレーキ用ケーブルの分岐部位とは反対側においてブラケットを取り付けるブラケット取付部」を備えているのに対し、甲2発明はそのようなブラケット取付部を備えていない点。

<相違点4>
本件発明は、「止水部」と「ブラケット取付部」とを「ウレタンにより一体成形してなる」のに対し、甲2発明はそのような事項は特定されていない点。

上記相違点1について検討する。
甲2発明の組ケーブルは、パーソナルコンピュータに外付けされている電子機器に接続されるものであり、その信号線2はパーソナルコンピュータと外付けされている電子機器とを接続する信号伝送路を構成するものであり、その電力供給線3は外付けされている電子機器への電力伝送路を構成するものである。
一方、甲第1号証(引用文献1)には、上記「第4」「1.」で述べたとおり、ABSの車輪制御のための車輪速センサに接続した電線及び電動パーキングブレーキの制御機器に接続した電線を合成樹脂で被覆したワイヤハーネスであって、ワイヤハーネスの端部近傍において、被覆している合成樹脂を取り除き、ワイヤハーネス内の複数の電線を分岐させたワイヤハーネスが記載されているが、当該ワイヤーハーネスは、甲2発明の組ケーブルとは技術分野及び用途が全く異なるものである。
また、甲第1号証に記載のワイヤーハーネスが解決しようとする課題は、車輌内に配されることを前提として、内部への水分の侵入を防止することであるのに対し、甲2発明が解決しようとする課題は、パーソナルコンピュータとそれに外付けされている電子機器との間のケーブルの引き回しを簡素化することであって、防水という課題については何ら記載がなく、さらに、パーソナルコンピュータが通常は屋内で用いられることを勘案すると、防水という課題が自明であるともいえないから、解決しようとする課題も共通しない。したがって、甲2発明の「信号伝送路を構成する信号線2」及び「電力伝送路を構成する電力供給線3」を、「ABSセンサ用ケーブル」及び「パーキングブレーキ用ケーブル」に代える動機付けは、存在しない。
よって、上記相違点2,3,4について検討するまでもなく、本件発明は、甲2発明及び甲第1号証、甲第4号証,甲第6号証に記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

2.特許法第36条第6項第2号(明確性)について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、本件特許の請求項1には、「ABSセンサ用ケーブル及び前記パーキングブレーキ用ケーブルの分岐部位とは反対側においてブラケットを取り付けるブラケット取付部」と記載されているが、「『分岐部位とは反対側』とは、如何なる位置や方向を意味するのか本件特許明細書等を参酌しても必ずしも明らかではな」く、したがって、本件特許請求の範囲には、特許を受けようとする発明が明確に記載されていない旨を主張している。
しかしながら、「ABSセンサ用ケーブル及び前記パーキングブレーキ用ケーブルの分岐部位」という記載から見て、当該分岐部位は、シース端部より先のシースに覆われていない部分であって、上記両ケーブルを分岐させて引き出している部分のことであるから、その「分岐部位とは反対側」とは、「前記ABSセンサ用ケーブルと前記パーキングブレーキ用ケーブル」がシースに覆われている側であることは明らかである。
したがって、「分岐部位とは反対側」が、「如何なる位置や方向を意味するのか」明らかでないということはできないから、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。

第6 むすび
したがって、請求項1に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-10-24 
出願番号 特願2014-223663(P2014-223663)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (H01B)
P 1 651・ 121- Y (H01B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 石坂 知樹  
特許庁審判長 國分 直樹
特許庁審判官 鈴木 圭一郎
山澤 宏
登録日 2017-09-29 
登録番号 特許第6213447号(P6213447)
権利者 住友電装株式会社
発明の名称 ハーネス  
代理人 恩田 博宣  
代理人 恩田 誠  

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