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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B05D
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B05D
審判 全部申し立て 2項進歩性  B05D
管理番号 1345884
異議申立番号 異議2018-700129  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-02-15 
確定日 2018-11-01 
異議申立件数
事件の表示 特許第6180678号発明「多彩模様の塗装方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6180678号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6180678号の請求項1に係る特許についての出願は、平成29年6月7日の出願(優先日:平成28年6月15日、日本)であり、平成29年7月28日にその特許権の設定登録がされ、同年8月16日にその特許掲載公報が発行され、平成30年2月15日に、その特許について特許異議申立人笠原 佳代子(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがなされ、同年5月31日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年7月31日に特許権者より意見書が提出されたものである。


第2 本件発明

本件の請求項1に係る発明(以下、請求項1に係る発明を「本件発明」という。)の記載は、次のとおりである。

「【請求項1】
下地塗料を塗装面全体へ塗布した後、該下地塗料とは異なる色の上塗り塗料を塗り残しが散在するように部分的に塗り重ねて、積層多彩模様を形成したうえで、
さらに、平均粒度が0.1?2.0mmの扁平状着色物を、該扁平状着色物配合前の塗料100重量部に対して0.05?2.0重量部含有するクリヤー塗料を、前記塗装面全体へ重ね塗りする、多彩模様の塗装方法。」


第3 平成30年5月31日付けで通知した取消理由の概要

標記取消理由の概要は、以下のとおりである。

本件発明は、下記甲第1号証(以下、甲各号証を「甲1」などという。)に記載された発明であるか、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものである。
そうすると、本件発明の特許は、特許法第29条第1項又は同法同条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである(以下、特許法第29条第1項第3号に関する理由及び特許法第29条第2項に関する理由を「取消理由1」及び「取消理由2」という)。

なお、上記取消理由1は、特許異議の申立理由のうち、甲1を主引例とする本件発明に対する新規性欠如に関する理由と同趣旨である。



甲1:特開2012-217893号公報


第4 取消理由1及び2に関する当審の判断

1 甲1に記載の事項

甲1には、次の記載がある。なお、下線は、当審が付与したものであり、以下、同様である。

(1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の上に、着色塗膜、及び透明塗膜が積層された塗膜積層体であって、
当該着色塗膜は、その表面形状に凹凸を有するものであり、
当該透明塗膜は、鱗片状光輝性粒子が散在した透明塗膜であり、
当該鱗片状光輝性粒子の平均粒子径は、前記着色塗膜における輪郭曲線要素の平均長さよりも小さいことを特徴とする塗膜積層体。
【請求項2】
前記透明塗膜は、鱗片状光輝性粒子が散在した、親水性透明塗膜である請求項1記載の塗膜積層体。
【請求項3】
前記着色塗膜は、着色骨材が透明樹脂で固定化されたものである請求項1記載の塗膜積層体。
【請求項4】
前記着色塗膜は、着色骨材、及び透光性骨材が、透明樹脂で固定化されたものである請求項1記載の塗膜積層体。
【請求項5】
前記着色塗膜は、着色骨材、透光性骨材、及び鱗片状光輝性粒子が、透明樹脂で固定化されたものである請求項1記載の塗膜積層体。
【請求項6】
前記着色塗膜は、目地溝で区画されている請求項1記載の塗膜積層体。
【請求項7】
前記着色塗膜は、目地溝で区画されており、
当該目地溝表面における輪郭曲線要素の平均高さは、前記着色塗膜における輪郭曲線要素の平均高さよりも低く、
当該目地溝表面には、前記着色塗膜上に積層されたものと同一の透明塗膜が設けられている請求項1記載の塗膜積層体。」

(2)「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたもので、観察角度が変わっても十分な光輝性が感じられる塗膜積層体を得ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の特徴を有する塗膜積層体に関するものである。
1.基材の上に、着色塗膜、及び透明塗膜が積層された塗膜積層体であって、
当該着色塗膜は、その表面形状に凹凸を有するものであり、
当該透明塗膜は、鱗片状光輝性粒子が散在した透明塗膜であり、
当該鱗片状光輝性粒子の平均粒子径は、前記着色塗膜における輪郭曲線要素の平均長さよりも小さいことを特徴とする塗膜積層体。
2.前記透明塗膜は、鱗片状光輝性粒子が散在した、親水性透明塗膜である1.記載の塗膜積層体。
3.前記着色塗膜は、着色骨材が透明樹脂で固定化されたものである1.記載の塗膜積層体。
4.前記着色塗膜は、着色骨材、及び透光性骨材が、透明樹脂で固定化されたものである1.記載の塗膜積層体。
5.前記着色塗膜は、着色骨材、透光性骨材、及び鱗片状光輝性粒子が、透明樹脂で固定化されたものである1.記載の塗膜積層体。
6.前記着色塗膜は、目地溝で区画されている1.記載の塗膜積層体。
7.前記着色塗膜は、目地溝で区画されており、
当該目地溝表面における輪郭曲線要素の平均高さは、前記着色塗膜における輪郭曲線要素の平均高さよりも低く、
当該目地溝表面には、前記着色塗膜上に積層されたものと同一の透明塗膜が設けられている1.記載の塗膜積層体。
【発明の効果】
【0006】
上記1.の積層体は、様々な観察角度において、十分な光輝性を有するものである。
上記2.の積層体では、上記効果が発揮されると共に、透明塗膜の親水性によって、塗膜の汚染が抑制される。特に、塗膜の凹部における汚染物質の堆積が抑制される。よって、上記2.の積層体では、長期にわたり、初期の光輝性を保持することができる。
上記3.の積層体では、着色骨材の作用によって、本発明に適した表面凹凸が着色塗膜に形成され、上記効果を安定して得ることができる。また、着色骨材の色調を適宜設定することにより、各種自然石調の意匠を表現することができる。さらに、上記3.の積層体では、透明塗膜中の鱗片状光輝性粒子の作用によって、着色塗膜が濡れ色になり難く、意匠性が向上する。
上記4.の積層体では、上記効果に加え、鱗片状光輝性粒子と透光性骨材の相乗作用によって、塗膜に深み感が付与され、意匠性が一層向上する。
上記5.の積層体では、上記効果に加え、着色塗膜及び透明塗膜の両方における鱗片状光輝性粒子の作用によって、光輝性が高まり、意匠性が一層向上する。
上記6.の積層体では、上記効果に加え、着色塗膜が目地溝で区画されていることによって、着色塗膜の領域における光輝性が際立ち、意匠性が一層向上する。
上記7.の積層体では、上記効果に加え、目地溝にも光輝性が付与され、全体的な意匠性が向上する。しかも、目地溝の光輝性は、着色塗膜の領域における光輝性よりも控え目であるため、着色塗膜と目地溝のコントラストが鮮明となる。」

(3)「【0009】
本発明塗膜積層体の一例を図1に示す。
基材1は、建築物、土木構造物等に適用可能なものであればよい。基材1としては、例えば、コンクリート、モルタル、サイディングボード、押出成形板、石膏ボード、パーライト板、合板、プラスチック板、金属板、木工板、ガラス、煉瓦、陶磁器タイル等が挙げられる。これら基材は、何らかの表面処理(フィラー処理、サーフェーサー処理、シーラー処理等)が施されたものや、予め着色されたものでもよく、既に塗膜が形成されたものや、壁紙が貼り付けられたものであってもよい。
【0010】
基材1の上には、着色塗膜2が積層される。この着色塗膜2は、その表面形状に凹凸を有するものである。このような凹凸表面形状の形態は、輪郭曲線要素によって表すことができる。
輪郭曲線要素は、「山とそれに隣り合う谷からなる曲線部分」であり、JIS B0601:2001に規定されている。図2にその概略図を示す。このうち、wが輪郭曲線要素の長さであり、hが輪郭曲線要素の高さである。輪郭曲線要素の平均長さはwの平均値であり、平均高さはhの平均値である。
【0011】
着色塗膜2としては、着色骨材が透明樹脂で固定化されたものが好適である。このような着色塗膜2では、着色骨材の作用によって、着色塗膜2の表面に所望の凹凸を付与することができる。凹凸表面形状は、着色骨材の粒径、含有比率、あるいは塗料の粘性等を適宜設定することで調整できる。また、着色骨材の色調を適宜設定することにより、各種自然石調の意匠を表現することができる。
・・・
【0015】
着色塗膜2としては、上記成分に加え、さらに鱗片状光輝性粒子を有するものが好適である。このような着色塗膜2では、着色塗膜2及び透明塗膜3の両方に存在する鱗片状光輝性粒子の作用によって、光輝性が高まり、意匠性が一層向上する。
鱗片状光輝性粒子としては、例えば、アルミニウムフレーク顔料、金属酸化物被覆マイカ顔料、金属酸化物被覆アルミナフレーク顔料、金属酸化物被覆シリカフレーク顔料、金属酸化物被覆ガラスフレーク顔料、ステンレスフレーク顔料、ホログラム顔料、金属蒸着高分子フィルムの破砕品等が挙げられる。鱗片状光輝性粒子の平均粒子径は、好ましくは1?1000μm、より好ましくは5?600μmである。なお、鱗片状光輝性粒子の平均粒子径は、鱗片状光輝性粒子を水平面に安定に静置させ、上から観察したときの長径の平均値である。
・・・
【0017】
着色塗膜2の上には、鱗片状光輝性粒子31が散在した透明塗膜3が積層される。本発明では、このような着色塗膜2と透明塗膜3の積層によって、様々な観察角度において、十分な光輝性が発揮される。
本発明において、着色塗膜2は、その表面形状に凹凸を有するものである。そして、透明塗膜3中の鱗片状光輝性粒子31は、着色塗膜2の輪郭曲線要素の平均長さよりも小さい。これにより、着色塗膜2の上に、様々な方向に向いた鱗片状光輝性粒子31が配置され、本発明の効果が発揮される。
鱗片状光輝性粒子31としては、着色塗膜2と同様のものが使用できる。」

(4)「【0021】
図2は、着色塗膜2が、目地溝4で区画された態様である。図2のような態様では、着色塗膜2が目地溝4を介して不連続となる。このような目地溝4を設けることにより、着色塗膜2の領域における光輝性が際立ち、意匠性が一層向上する。
目地溝4は、目地型枠、目地棒等の目地材を用いて形成できる。例えば、基材1に対し、目地材の貼着、着色塗料の塗装、目地材の除去、透明塗料の塗装を順に行うことによって形成できる。目地材の形状、幅等は、所望の目地模様に応じて適宜設定すればよい。」


(5)「【実施例】
【0023】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより明確にする。
【0024】
アクリル樹脂エマルション(固形分50重量%)200重量部に対し、粒子径0.1?2mmの着色骨材混合物を380重量部、造膜助剤18重量部、増粘剤5重量部、消泡剤3重量部を常法により均一に混合して、着色塗料Aを製造した。
また、アクリル樹脂エマルション(固形分50重量%)200重量部に対し、平均粒子径0.2mmの鱗片状光輝性粒子2重量部、造膜助剤18重量部、消泡剤1重量部を常法により均一に混合して、透明塗料Bを製造した。
【0025】
基材として、予め黒色下塗材を塗装したスレート板を用意した。この基材の全面に、棒状目地材(目地幅10mm、高さ5mm、ポリエチレン製)を粘着剤にて格子状に貼着した。この基材に対し、着色塗料Aを塗付け量1.0kg/m^(2)で吹き付け塗装後、棒状目地材を除去し、24時間乾燥した。次に、透明塗料Bを塗付け量0.2kg/m^(2)で全面に吹き付け塗装し、24時間乾燥した。
なお、着色塗料Aによって形成された着色塗膜は、表面に凹凸を有し、その輪郭曲線要素の平均長さは3mm、輪郭曲線要素の平均高さは1mmであった。目地溝部分における輪郭曲線要素の平均高さは0.1mmであった。
以上の方法で得られた塗膜は、どの角度から観察しても光輝性を示した。また、着色塗膜と目地溝とのコントラストも鮮明であった。」

2 刊行物に記載の発明

甲1には、上記1(5)の段落【0024】及び【0025】に、予め黒色下塗材を塗装したスレート板の全面に棒状目地材を格子状に貼着し、着色塗料Aを吹付塗装後、棒状目地材を除去し、透明塗料Bを全面に吹付塗装する塗装方法の例が記載されている。また、アクリル樹脂エマルション(固形分50重量%)200重量部に対し、平均粒子径0.2mmの鱗片状光輝性粒子2重量部、造膜助剤18重量部、消泡剤1重量部を混合した透明塗料Bは、鱗片状光輝性粒子配合前の量(219重量部=アクリル樹脂エマルション(固形分50重量%)200重量部+造膜助剤18重量部+消泡剤1重量部)と鱗片状光輝性粒子2重量部とから算出すると、該鱗片状光輝性粒子配合前の塗料100重量部に対して、鱗片状光輝性粒子を0.9重量部含有するといえる。
そうすると、甲1には、以下の発明が記載されているといえる。

「黒色下塗材をスレート板へ塗布した後、このスレート板の全面に棒状目地材を格子状に貼着し、着色塗料Aを吹付塗装して、棒状目地材を除去したうえで、
さらに、平均粒子径0.2mmの鱗片状光輝性粒子を、該鱗片状光輝性粒子配合前の塗料100重量部に対して0.9重量部含有する透明塗料Bを、前記スレート板全面に吹付塗装する、塗装方法。」(以下、「甲1発明」という。)

3 本件発明と甲1発明との対比・判断

(1)本件発明と甲1発明との一致点・相違点

本件発明と甲1発明を対比する。

甲1発明の「スレート板」は、本件明細書の段落【0029】からみて、本件発明の「塗装面」に相当し、甲1発明の「黒色下塗材」は、基材であるスレート板に予め塗布するものであるから、本件発明の「下地塗料」に相当するといえる。また、甲1発明の「着色塗料A」は、予め下塗材で塗装された塗装面に塗装するものであるから、本件発明の「上塗り塗料」に相当するといえる。さらに、甲1発明の「このスレート板の全面に棒状目地材を格子状に貼着し、着色塗料Aを吹付塗装して、棒状目地材を除去した」工程は、棒状目地材を格子状に貼着していることから、下塗材が塗布されたスレート板に着色塗料Aで塗られている箇所と塗られていない箇所が存在しているといった、部分的に塗り重ねられ、塗り残しが格子パターンとして存在することとなるので、本件発明の「上塗り塗料を塗り残しが存在するように部分的に塗り重ねて、積層を形成した」工程に相当するといえる。そして、甲1発明の「透明塗料B」は、本件発明の「クリヤー塗料」に相当し、甲1発明の「スレート板全面に吹付塗装する」工程は、本件発明の「塗装面全体へ重ね塗りする」工程に相当し、甲1発明の「鱗片状」は、厚みが少ない扁平状を示すことは明らかであるから、本件発明の「扁平状」に相当するといえ、甲1発明の「塗装方法」は、当該塗装方法によって得られた製品は、光輝性が際立ち、意匠性が一層向上する旨記載されているし(上記1(4))、棒状目地材を用いて、スレート板に模様を形成しているといえること(上記1(5))から、当該塗装方法は、「模様の塗装方法」といえ、かつ、下塗材と着色塗料Aとで「積層模様を形成した」といえる。
そうすると、本件発明と甲1発明とは、「下地塗料を塗装面へ塗布した後、上塗り塗料を塗り残しが存在するように部分的に塗り重ねて、積層模様を形成したうえで、
さらに、所定の大きさの扁平状粒子を、該扁平状粒子配合前の塗料100重量部に対して0.9重量部含有するクリヤー塗料を、前記塗装面全面へ重ね塗りする、模様の塗装方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

【相違点1】上塗り塗料において、本件発明は、「下地塗料とは異なる色の上塗り塗料を塗り残しが散在するように部分的に塗り重ねて、積層多彩模様を形成した」と特定するのに対して、甲1発明は、そのような特定がない点。

【相違点2】扁平状粒子において、本件発明は、「平均粒度が0.1?2.0mmの扁平状着色物」であるのに対して、甲1発明は、「平均粒子径0.2mmの扁平状光輝性粒子」である点。

(2)相違点に関する判断

【相違点1】について検討する。

まず、甲1発明における「黒色下塗材をスレート板へ塗布した後、このスレート板の全面に棒状目地材を格子状に貼着し、着色塗料Aを吹付塗装して、棒状目地材を除去」することで得られたものが、結果として、「塗り残しが散在」するように着色塗料Aを「部分的に塗り重ね」た構成といえるかについて検討する。

いわゆるマスキング作用を利用して、棒状目地材を格子状に貼着すると、格子状に並べた棒状目地材から成る塗り残しは、縦横に交差する格子状の連続した形状となる。他方、一般に「散在」という用語は、「あちこちに散らばってあること」(広辞苑 第六版参照)、すなわち、不連続に配置されていることという意味を有する。そうすると、甲1発明の「黒色下塗材をスレート板へ塗布した後、このスレート板の全面に棒状目地材を格子状に貼着し、着色塗料Aを吹付塗装して、棒状目地材を除去」することで得られたものは、「塗り残しが散在」するように着色塗料Aを「部分的に塗り重ね」た構成とはならない。

よって、上記【相違点1】は、実質的な相違点である。

したがって、本件発明1は、甲1発明、すなわち甲1に記載された発明であるとはいえない。

さらに、上記【相違点1】が、当業者が容易に想到し得るものであるのか否かについて、特に、甲1発明において、目地材を基材上で散在、つまり、本件明細書の段落【0033】に記載のように、疎らに(不連続に)配置することが容易想到かについて、以下検討する。
目地材の配置に関し、甲1の請求項6,7には、着色塗膜が目地溝で区画されていること、また、段落【0021】には、「図2は、着色塗膜2が、目地溝4で区画された態様である。図2のような態様では、着色塗膜2が目地溝4を介して不連続となる。このような目地溝4を設けることにより、着色塗膜2の領域における光輝性が際立ち、意匠性が一層向上する。
目地溝4は、目地型枠、目地棒等の目地材を用いて形成できる。例えば、基材1に対し、目地材の貼着、着色塗料の塗装、目地材の除去、透明塗料の塗装を順に行うことによって形成できる。目地材の形状、幅等は、所望の目地模様に応じて適宜設定すればよい。」との記載があり、さらに、段落【0025】には、具体的な実施例として、棒状目地材を格子状に基材に貼着する旨記載されている。

甲1の段落【0021】には、目地溝で区画された態様として、「着色塗膜」が目地溝を介して不連続となることが記載されており、その他の態様について記載されていないことから、目地材を基材上であちこちに散らばらせて(散在して)、不連続に配置することは甲1には記載されていないといえる。またそもそも「目地」とは、何かと何かを接合する際にその間をつなぐ時にできるつぎめを示すものであるから、甲1発明の「目地溝」は連続した境界線を形成していると解される。
そして、甲2?甲4を参酌しても、目地材を基材上で散在して(不連続に)配置することは記載されておらず、甲1において、当該配置を採用することは、当業者にとって容易になし得ることではない。
そうすると、本件発明は、甲1発明及び甲1に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。


第5 取消理由で採用しなかった申立理由

異議申立人は、申立理由として、本件発明に対する、甲2を主引例とし、甲3,4を副引例とする特許法第29条第2項及び同法第36条第6項第2号違反についても主張することから、以下に検討する。

甲第2号証:特開2008-266911号公報
甲第3号証:特開2005-200487号公報
甲第4号証:特開平3-21610号公報

1 甲2を主引例とする特許法第29条第2項違反について

甲2の請求項1には、「既存コンクリート面に、下塗り塗料として、耐候性、耐防水性のある塗料で、かつコンクリート面色に近似調色した淡色の前記塗料を、又通常に使用される粘性度の前記塗料を、既存コンクリート全面に塗布する。この塗料が、まだ乾かない状態に、下塗り塗料色より濃い色の同種粘性の塗料にて、模様付けをして、更に、まだ乾かない状態に、前記下塗り塗料を薄い層に上塗りすることを特徴とする、打放しコンクリート等の多彩模様を塗装形成する工法。」が記載されており、段落【0010】には、「シーラー又はプライマーを塗布後、下塗り塗装を行う。下塗り塗装に使用する塗料は希釈し過ぎない通常使用される粘性度の各種エマルション系塗料が適性である。前記適正な種類の塗料にて既存コンクリート色の近似色に調色した塗料をコンクリート全面に塗装用刷毛ローラーにて下塗りし、まだ乾かない塗装面に、下塗り塗料より濃い色の通常使用される模様用塗料を凸凹のある立方体合成スポンジにて、叩くように模様を付けたり、又は凸凹のある合成スポンジローラーにて部分的に転がすように模様を塗工した後、まだ乾かないうちに、下塗り用塗料を薄塗り積装して上塗り塗装を施す。ここまでの塗装が完全に乾燥後、耐候性・耐防水性を高めるために、艶消しのクリヤー塗料を塗工する。」旨記載されている。

してみれば、甲2には、「既存コンクリート面に、下塗り塗料を全面に塗布し、下塗り塗料色より濃い色の塗料にて模様付けをして、下塗り塗料を薄塗り積装して上塗り塗装を施した後に、クリヤー塗料を塗工する工法。」の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されており、本件発明と甲2発明とは、少なくとも以下の点で相違する。

【相違点3】多彩模様の塗装方法において、本件発明は「積層多彩模様を形成」したうえで、「クリヤー塗料を(前記)塗装面全体に重ね塗り」するのに対して、甲2発明は、「模様付けをして、下塗り塗料を薄塗り積装して上塗り塗装を施した後に、クリヤー塗料を塗工する」工程を含む点。

上記相違点3を検討するに、本件発明は、クリヤー塗料を塗装面全体へ重ね塗りする前に、積層多彩模様の上に、何らかの層を形成するものではない。
他方、甲2発明は、模様付けをして、クリヤー塗料を塗工(クリヤー塗料を塗装面全体に重ね塗り)する前に、下塗り塗料を薄塗り積装して上塗り塗装を施す工程を必須の構成とするものである。そうすると、甲2発明において、上記工程を除くことには阻害事由があるというべきである。

よって、甲2発明を相違点3に係る本件発明の構成を備えたものとすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。この点は、甲3,4の記載を参酌しても、同様である。

したがって、本件発明は、甲2発明、甲2に記載された事項及び甲3,4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2 特許法第36条第6項第2号違反について

異議申立人は、特許異議申立書の第7頁において、「本件の請求項1に係る特許発明の構成C3の「前記塗装面全体へ重ね塗りする」とは、「下地塗料を塗装面全体へ塗装する前」の「塗装面全体」に重ね塗りすることを指す(前者)のか、それとも、「下地塗料とは異なる色の上塗り塗料を塗り残しが散在するように部分的に塗り重ねて、積層多彩模様を形成した後」の「積層多彩模様を形成した後」の「塗装面全体」に重ね塗りすることを指す(後者)のか、不明確である。」旨主張する。

しかしながら、本件発明の「下地塗料を塗装面全体へ塗布した後、該下地塗料とは異なる色の上塗り塗料を塗り残しが散在するように部分的に塗り重ねて、積層多彩模様を形成したうえで、さらに、・・・クリヤー塗料を、前記塗装面全体へ重ね塗りする」という記載からみて、上記構成C3の「前記塗装面全体へ重ね塗りする」が、後者の「下地塗料とは異なる色の上塗り塗料を塗り残しが散在するように部分的に塗り重ねて、積層多彩模様を形成した後」の「積層多彩模様を形成した後」の「塗装面全体」に重ね塗りすることを指すことは明らかであるから、請求項1の記載が不明確であるとはいえない。


第6 むすび

上記「第4」ないし「第5」で検討したとおり、本件発明の特許は、特許法第29条第1項及び同法同条第2項の規定に違反してされたものであるということはできず、同法第113条第2号に該当するものではなく、また、同法第36条第6項の規定に違反してされたものであるということはできず、同法第113条第4項に該当するものではないから、上記取消理由1,2及び上記申立理由によっては、本件発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり、決定する。
 
異議決定日 2018-10-24 
出願番号 特願2017-112299(P2017-112299)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (B05D)
P 1 651・ 121- Y (B05D)
P 1 651・ 537- Y (B05D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 増永 淳司  
特許庁審判長 須藤 康洋
特許庁審判官 渕野 留香
阪▲崎▼ 裕美
登録日 2017-07-28 
登録番号 特許第6180678号(P6180678)
権利者 スズカファイン株式会社
発明の名称 多彩模様の塗装方法  
代理人 伊藤 寿浩  

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