ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 B32B 審判 全部申し立て 2項進歩性 B32B |
---|---|
管理番号 | 1345890 |
異議申立番号 | 異議2018-700549 |
総通号数 | 228 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-12-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-07-09 |
確定日 | 2018-11-08 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6274298号発明「蒸着ポリエステルフィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6274298号の請求項に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第6274298号(以下「本件特許」という。)の請求項1?5に係る特許についての出願は、2015年(平成27年)5月15日(優先権主張 平成26年5月30日)を国際出願日とする特願2015-526073号の一部を平成28年12月14日に新たな特許出願としたものであって、平成30年1月19日にその特許権の設定登録がされ(平成30年2月7日特許掲載公報発行)、その後、平成30年7月9日に特許異議申立人特許業務法人朝比奈特許事務所(以下「異議申立人」という。)より請求項1?5に係る特許に対して特許異議の申立てがされたものである。 2.本件発明 本件特許の請求項1?5に係る発明(以下「本件発明1?5」という。)は、特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 【請求項1】 厚みが5?20μmの二軸延伸ポリエステルフィルムの少なくとも片面に蒸着層を有する蒸着ポリエステルフィルムであって、酸素透過量が20ml/m^(2)・day・MPa以下、かつ水蒸気透過量が、2.0g/m^(2)/day以下であると共に、該二軸延伸ポリエステルフィルムが下記要件(1)?(4)をすべて満たすことを特徴とする蒸着ポリエステルフィルム。 (1)フィルム全幅において、長手方向の屈折率Nxと幅方向の屈折率Nyとの差(Nx-Ny)が-0.030以上0.015以下の範囲内であること (2)フィルム全幅において、150℃で30分間熱処理したときの熱収縮率が長手方向で0.8%以上2.0%以下、幅方向で-0.5%以上1.0%以下の範囲内であること (3)フィルム幅方向に対して、配向角の変化量が1mあたり0°以上20°以下であること (4)フィルム幅方向に対して、150℃で30分間熱処理したとき、長手方向に対して、時計回り方向を正方向として+45°方向の熱収縮率と-45°方向の熱収縮率との差(斜め熱収縮率差)のフィルム幅方向に対する変化量が1mあたり0%以上0.25%以下であること ここで、要件(1)?(4)における試料の採取位置は、全幅に対して中央位置および中央位置から両端に向かって500mm毎の間隔の位置とし、両端近傍にて500mm間隔を確保できない場合、採取可能な端位置とする。 また、要件(1)及び(2)では、各測定位置データの最大値及び最小値が範囲内にあり、要件(3)及び(4)は隣接する2点の試料採取位置間の各変化量の最大値が範囲内にあることを要件とする。 【請求項2】 蒸着層が金属または金属酸化物からなることを特徴とする請求項1に記載の蒸着ポリエステルフィルム。 【請求項3】 蒸着層が金属酸化物からなり、前記金属酸化物が酸化アルミニウム、酸化珪素、またはそれらの混合物からなることを特徴とする請求項1または2に記載の蒸着ポリエステルフィルム。 【請求項4】 フィルム全幅が1500mm以上であることを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載の蒸着ポリエステルフィルム。 【請求項5】 前記二軸延伸ポリエステルフィルムに粒子が含有されていることを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載の蒸着ポリエステルフィルム。 3.申立理由の概要 申立人は、甲第1号証?甲第3号証(以下「甲1」?「甲3」という。)を提出し、下記の理由を申立てている。 [理由1]本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号の規定に違反するものであり、本件発明1?5に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 本件特許の請求項1には、蒸着ポリエステルフィルム中の二軸延伸ポリエステルフィルムが、要件(1)?(4)を具備するということが記載されているのに対して、発明の詳細な説明には、蒸着前の二軸延伸ポリエステルフィルムが、要件(1)?(4)を具備するということが開示されているのみであるから、本件発明1?5は発明の詳細な説明に記載されたものではない。 [理由2]本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号の規定に違反するものであり、本件発明1?5に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 請求項1には、完成品(蒸着ポリエステルフィルム)に関する物性と、中間製品(二軸延伸ポリエステルフィルム)に関する物性が同時に特定されており、これらの発明特定事項同士の関係が整合していない。 また、中間製品の物性を特定しても、完成品である本件発明1?5の発明特定事項にはならない。 [理由3]本件発明1?5は、その優先日前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反するものであり、本件特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 甲1:特開2007-301878号公報 甲2:特開平09-295345号公報 甲3:特開昭59-169818号公報 本件発明1?5は、甲1に記載された発明及び甲2?3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.当審の判断 (1)申立ての理由1について 本件特許の請求項1には、「厚みが5?20μmの二軸延伸ポリエステルフィルムの少なくとも片面に蒸着層を有する蒸着ポリエステルフィルムであって、・・・該二軸延伸ポリエステルフィルムが下記要件(1)?(4)をすべて満たすことを特徴とする蒸着ポリエステルフィルム。・・・」と記載されている。 かかる記載からは、「該二軸延伸ポリエステルフィルムが下記要件(1)?(4)をすべて満たす」ということが、蒸着層を蒸着される前の二軸延伸ポリエステルフィルムにおいて、「下記要件(1)?(4)をすべて満たす」ということを意味しているようにも、蒸着層を蒸着されて蒸着ポリエステルフィルムとなった後、蒸着ポリエステルフィルム中の二軸延伸ポリエステルフィルムの部分において、「下記要件(1)?(4)をすべて満たす」ということを意味しているようにも、解釈できる。 この点、本件特許の明細書の段落【0024】?【0027】には、「本発明の基材となるポリエステルフィルム」が、要件(1)?(4)の各々を満たすということが記載されている。 また、同段落【0057】には、「[実施例1]・・・そして、耳部をトリミングし、コロナ放電処理を経てロール状に巻取ることで、厚み12μm、ロール幅6300mmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムのマスターロールを得た。得られたフィルムの屈折率、熱収縮率および配向角をそれぞれ測定した。また、得られたマスターロールは各2200mm幅にスリットし、蒸着加工用フィルムロールを得た。上記で得られた蒸着加工用フィルムロールのコロナ処理面に、無機薄膜層として、酸化アルミニウムの無機酸化物層を電子ビーム蒸着法で形成した。・・・」と記載されており、同段落【0068】には、その測定結果が要件(1)?(4)の各々を満たすということが記載されている。 これらの記載から、発明の詳細な説明には、専ら蒸着層を蒸着される前のフィルムにおいて、要件(1)?(4)の各々を満たすということが記載されていると解される。 よって、発明の詳細な説明の記載を参酌して、本件特許の請求項1の上記記載は、蒸着層を蒸着される前の二軸延伸ポリエステルフィルムにおいて、「下記要件(1)?(4)をすべて満たす」ということを意味していると解釈するのが相当であるところ、本件発明1は発明の詳細な説明に記載されたものであるといえる。そして、請求項1を直接または間接的に引用する本件発明2?5も同様に、発明の詳細な説明に記載されたものであるといえる。 したがって、本件発明1?5に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してなされたものではなく、特許法第113条第4号に該当せず、取り消すべきものではない。 (2)申立ての理由2について 上記(1)申立ての理由1において述べたとおり、本件特許の請求項1の「厚みが5?20μmの二軸延伸ポリエステルフィルムの少なくとも片面に蒸着層を有する蒸着ポリエステルフィルムであって、・・・該二軸延伸ポリエステルフィルムが下記要件(1)?(4)をすべて満たすことを特徴とする蒸着ポリエステルフィルム。・・・」との記載は、蒸着層を蒸着される前の二軸延伸ポリエステルフィルム、すなわち中間製品の物性に関する発明特定事項であると解される。 また、本件特許の請求項1の「厚みが5?20μmの二軸延伸ポリエステルフィルムの少なくとも片面に蒸着層を有する蒸着ポリエステルフィルムであって、酸素透過量が20ml/m^(2)・day・MPa以下、かつ水蒸気透過量が、2.0g/m^(2)/day以下である」との記載は、蒸着層を蒸着した後の蒸着ポリエステルフィルム、すなわち完成品の物性に関する発明特定事項であると解される。 本件特許の請求項1は、中間製品の物性に関する発明特定事項と完成品の物性に関する発明特定事項を含むことにより、中間製品の物性を特定し、さらに完成品の物性を特定するものであって、その記載のとおり意味が明確である。よって、本件発明1は明確である。そして、請求項1を直接または間接的に引用する本件発明2?5も同様に、明確である。 したがって、本件発明1?5に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反してなされたものではなく、特許法第113条第4号に該当せず、取り消すべきものではない。 (3)申立ての理由3について ア.刊行物の記載 (ア)甲1の記載 甲1には図面と共に以下の記載がある。 (a)「【請求項1】 二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの表面上に、少なくとも無機酸化物からなる蒸着薄膜層を設けた透明蒸着フィルムであって、 前記フィルムは、分子配向が最長となる軸方向と、前記フィルムの縦延伸方向とで作られる配向角が70°?90°であることを特徴とする透明蒸着フィルム。」 (b)「【請求項2】 前記無機酸化物は、酸化アルミニウムまたは酸化珪素であることを特徴とする請求項1記載の透明蒸着フィルム。」 (c)「【0034】 前記ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)層の厚さは、物性面、加工性を考慮すると、3?200μmの範囲であることが好ましく、6?30μmがより好ましい。」 (d)「【図2】 」 上記(d)の記載より、ポリエチレンテレフタレートフィルム層の片面に蒸着薄膜層が設けられていると解される。 したがって、甲1には以下の発明が記載されている(以下「甲1発明」という。)。 「厚みが6?30μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの少なくとも片面に蒸着薄膜層を有する透明蒸着フィルム。」 (イ)甲2の記載 甲2には以下の記載がある。 (a)「【請求項1】 フィルム幅方向に1m長の間の主配向軸の向きの分布が0°以上10°以下であることを特徴とする二軸配向ポリエステルフィルム。」 (b)「【0015】また、このポリエステルの中には、公知の各種添加剤、例えば、酸化防止剤、帯電防止剤、結晶核剤、また、フィルムに易滑性を付与するために無機粒子、有機粒子などが添加されていてもよい。」 (c)「【0036】(4)熱収縮率 フィルムを幅10mm、長さ220mmにサンプリングし、フィルム上に間隔約200mmの点を2点マーキングする。この2点の間隔を正確に測定し、L0(mm)とする。次に、150℃に加熱された熱風オーブン中に、このサンプルを30分間放置後、取り出して室温になるまで放置する。サンプルが完全に冷めたら、先程の2点の間隔を再度測定し、L(mm)とする。ここで、熱収縮率を、熱収縮率(%)=[(L_(0)-L)/L_(0)]×100とした。」 (d)「【0040】実施例1 ポリエチレンテレフタレート(極限粘度0.65、ガラス転移点78℃、昇温結晶化開始温度151℃、融点257℃)のペレットを180℃で3時間真空乾燥した後に、270℃?290℃に加熱された押出機に供給し、ペレットを溶融し、フィルタを通して異物を除去後、1m幅のTダイよりシート状に成形した。さらにこのフイルムを表面温度25℃に冷却されたキャスティングドラム上に静電気力で密着固化し、未延伸フイルム得た。 【0041】この未延伸フィルムを、速度20m/分でリニアモータ方式でクリップを駆動する同時二軸延伸可能なテンタに導き、フィルム両端部をクリップで把持しながら、85℃に加熱した熱風雰囲気の予熱工程で予熱後、95℃に加熱された延伸工程で一段階に縦方向4.0倍、横方向4.0倍延伸した。 【0042】その後テンタ内でクリップに把持したまま、50℃の冷風を吹き付けながらフィルム温度65℃まで冷却し、引き続いて220℃の熱風雰囲気下で熱処理を行い、縦方向に2%、横方向に2%のリラックス処理を行った後、均一に徐冷後、室温まで冷やして巻き取り、厚み12μmの二軸配向フイルムを得た。」 (e)「【0054】 【表1】 」 上記(e)の記載より、実施例1の「熱収縮率(%)」は、長手方向(MD)が0.2、幅方向(TD)が0.3である。 したがって、甲2には以下の事項が記載されている(以下「甲2事項」という。)。 「フィルム幅方向に1m長の間の主配向軸の向きの分布が0°以上10°以下で、粒子が添加されていてもよく、150℃に加熱された熱風オーブン中に30分間放置した後の熱収縮率が長手方向0.2%、幅方向0.3%であることを特徴とする二軸配向ポリエステルフィルム。」 (ウ)甲3の記載 甲3には以下の記載がある。 (a)「(1)熱可塑性樹脂からなり、配向角の変化が幅1mの範囲内において10°以内である二軸配向フィルム。」(第1ページ左下欄第5行?第7行) (b)「本発明における熱可塑性樹脂とは、周知の熱可塑性樹脂で具体的にはポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリビニール等があげられる。なお、これらの樹脂の中ではポリエステルが好ましい。」(第2ページ左上欄第20行?右上欄第4行) (c)「実施例1 未延伸のポリエチレンテレフタレートフィルムを縦3.3倍、横3.3倍に二軸延伸を行った後、第2図に示した装置を使って熱処理を行った。 加熱ロール温度 210℃ 冷却ロール温度 50℃ 二軸延伸フィルム厚み 50μ 二軸延伸フィルムの幅 1950mm」(第3ページ右下欄第14行?第4ページ左上欄第1行) したがって、甲3には以下の事項が記載されている(以下「甲3事項」という。)。 「ポリエステル樹脂からなり、幅が1950mmであり、配向角の変化が幅1mの範囲内において10°以内である二軸配向フィルム。」 イ.本件発明1について (ア)本件発明1は、上記2.に示したとおりのものである。 (イ)本件発明1と甲1発明を対比すると、以下のとおりとなる。 ポリエチレンテレフタレートはポリエステルの一種であるから、甲1発明の「二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」は、本件発明1の「二軸延伸ポリエステルフィルム」に相当する。 甲1発明の「蒸着薄膜層」は、薄膜からなる蒸着層であるから、本件発明1の「蒸着層」に相当する。 よって、本件発明1と甲1発明は、以下の構成において一致する。 「二軸延伸ポリエステルフィルムの少なくとも片面に蒸着層を有する蒸着ポリエステルフィルム。」 そして、本件発明1と甲1発明は、以下の点で相違する。 ・相違点1 蒸着ポリエステルフィルムの厚みについて、本件発明1は「5?20μm」であるのに対して、甲1発明は「6?30μm」である点。 ・相違点2 蒸着ポリエステルフィルムの物性について、本件発明1は「酸素透過量が20ml/m^(2)・day・MPa以下、かつ水蒸気透過量が、2.0g/m^(2)/day以下である」のに対して、甲1発明は、酸素透過量及び水蒸気透過量が不明である点。 ・相違点3 二軸延伸ポリエステルフィルムの物性について、本件発明1は「(1)フィルム全幅において、長手方向の屈折率Nxと幅方向の屈折率Nyとの差(Nx-Ny)が-0.030以上0.015以下の範囲内である」のに対して、甲1発明は当該要件(1)を満たすか否かが不明である点。 ・相違点4 二軸延伸ポリエステルフィルムの物性について、本件発明1は「(2)フィルム全幅において、150℃で30分間熱処理したときの熱収縮率が長手方向で0.8%以上2.0%以下、幅方向で-0.5%以上1.0%以下の範囲内である」のに対して、甲1発明は当該要件(2)を満たすか否かが不明である点。 ・相違点5 二軸延伸ポリエステルフィルムの物性について、本件発明1は「(3)フィルム幅方向に対して、配向角の変化量が1mあたり0°以上20°以下である」のに対して、甲1発明は当該要件(3)を満たすか否かが不明である点。 ・相違点6 二軸延伸ポリエステルフィルムの物性について、本件発明1は「(4)フィルム幅方向に対して、150℃で30分間熱処理したとき、長手方向に対して、時計回り方向を正方向として+45°方向の熱収縮率と-45°方向の熱収縮率との差(斜め熱収縮率差)のフィルム幅方向に対する変化量が1mあたり0%以上0.25%以下である」のに対して、甲1発明は当該要件(4)を満たすか否かが不明である点。 (ウ)まず、上記相違点3について検討する。 甲1には、フィルム全幅における長手方向の屈折率Nxと幅方向の屈折率Nyとの差(Nx-Ny)をどのような範囲にするかについて、記載も示唆もされておらず、これを-0.030以上0.015以下の範囲内とすることの動機付けは見当たらない。 一方で、本件発明1は、これを-0.030以上0.015以下にすることにより、「良好な配向バランスが得られ、蒸着加工時の張力における変形やシワの発生がなく、安定した蒸着薄膜が形成され、ガスバリア性の優れた蒸着ポリエステルフィルムが得られる」(本件明細書の段落【0024】を参照。)という、顕著な効果をもたらすものである。 この点、異議申立人は、「二軸延伸されたフィルム上に安定した蒸着薄膜を形成するために、屈折率のばらつきを小さくすることは、蒸着フィルムの技術分野において当然に考慮されるべき課題である。」と主張している(特許異議申立書第16?17ページ<構成要件1Eについて>を参照。)。 しかし、フィルム全幅における長手方向の屈折率Nxと幅方向の屈折率Nyとの差(Nx-Ny)を具体的にどのような範囲にすべきかを示す証拠は、示されていない。 仮に、蒸着フィルムの技術分野において、屈折率のばらつきを小さくするということが、当業者にとって当然考慮されるべき課題であったとしても、製造容易性を考慮しながらも安定した蒸着薄膜を形成するために、Nx-Nyをどのような範囲まで許容するかということは、当業者にとって想到容易であるとはいえない。 (エ)次に、上記相違点4について検討する。 甲1には、フィルム全幅における150℃で30分間熱処理したときの熱収縮率をどのような範囲にするかについて、記載も示唆もされておらず、これを長手方向で0.8%以上2.0%以下、幅方向で-0.5%以上1.0%以下とすることの動機付けは見当たらない。 一方で、本件発明1は、これを長手方向で0.8%以上2.0%以下、幅方向で-0.5%以上1.0%以下にすることにより、「蒸着加工時において、熱に対する寸法安定性が得られ、熱による変形やシワの発生がなく、安定した蒸着薄膜が形成され、ガスバリア性の優れた蒸着ポリエステルフィルムが得られる」(本件明細書の段落【0025】を参照。)という、顕著な効果をもたらすものである。 この点、異議申立人は、熱収縮率のばらつきを小さくすることは、蒸着フィルムの技術分野において当然に考慮されるべき課題であると主張している(特許異議申立書第17ページ<構成要件1Fについて>を参照。)。 しかし、蒸着フィルムの技術分野において、熱収縮率のばらつきを小さくするということが、当業者にとって当然考慮されるべき課題であったとしても、製造容易性を考慮しながらも安定した蒸着薄膜を形成するために、熱収縮率をどのような範囲までを許容するかは、当業者にとって想到容易であるとはいえない。 さらに、異議申立人は、甲1発明に甲2事項を適用することによっても、相違点4の構成が想到容易であると主張している(特許異議申立書第17ページ<構成要件1Fについて>を参照。)。 しかし、甲2には、蒸着フィルムとした場合に安定した蒸着薄膜を形成するために、熱収縮率をどの程度にするかということは、記載も示唆もされていない。 (オ)続いて、上記相違点5について検討する。 甲1には、フィルム幅方向に対して、配向角の変化量をどのような範囲にするかについて、記載も示唆もされておらず、これを1mあたり0°以上20°以下とすることの動機付けは見当たらない。 一方で、本件発明1は、これを1mあたり0°以上20°以下にすることにより、「広幅のロールを使用した場合、蒸着加工時において、走行性悪化や斜めにシワが発生し易く、部分的に蒸着薄膜のムラや抜けが生じ、ガスバリア性が悪化する」という問題や、「フィルム全幅におけるNx-Nyのバラツキも大きくなる」という問題を解消する(本件明細書の段落【0026】を参照。)という、顕著な効果をもたらすものである。 この点、異議申立人は、配向角のばらつきを小さくすることは、蒸着フィルムの技術分野において当然に考慮されるべき課題であると主張している(特許異議申立書第17?18ページ<構成要件1Gについて>を参照。)。 しかし、蒸着フィルムの技術分野において、配向角のばらつきを小さくするということが、当業者にとって当然考慮されるべき課題であったとしても、製造容易性を考慮しながらも安定した蒸着薄膜を形成するために、フィルム幅方向に対する配向角の変化量をどのような範囲まで許容するかは、当業者にとって想到容易であるとはいえない。 さらに、異議申立人は、甲1発明に甲3事項を適用することによっても、相違点5の構成が想到容易であると主張している(特許異議申立書第17?18ページ<構成要件1Gについて>を参照。)。 しかし、甲3には、蒸着フィルムとした場合に安定した蒸着薄膜を形成するために、フィルム幅方向に対する配向角をどの程度にするかということは、記載も示唆もされていない。 (カ)さらに、上記相違点6について検討する。 甲1には、フィルム幅方向に対して、150℃で30分間熱処理したとき、長手方向に対して、時計回り方向を正方向として+45°方向の熱収縮率と-45°方向の熱収縮率との差(斜め熱収縮率差)のフィルム幅方向に対する変化量をどのような範囲にするかについて、記載も示唆もされておらず、これを1mあたり0%以上0.25%以下の範囲内とすることの動機付けは見当たらない。 一方で、本件発明1は、これを1mあたり0%以上0.25%以下にすることにより、「広幅のロールを使用した場合、走行性悪化やシワが発生し易く、部分的に蒸着薄膜のムラや抜けが生じ、ガスバリア性が悪化する」という問題や、「フィルム全幅における長手方向と幅方向の熱収縮率のバラツキも大きくなる」という問題を解消する(本件明細書の段落【0027】を参照。)という、顕著な効果をもたらすものである。 この点、異議申立人は、熱収縮率差のばらつきを小さくすることは、蒸着フィルムの技術分野において当然に考慮されるべき課題であると主張している(特許異議申立書第18?19ページ<構成要件1Hについて>を参照。)。 しかし、フィルム幅方向に対して、150℃で30分間熱処理したとき、長手方向に対して、時計回り方向を正方向として+45°方向の熱収縮率と-45°方向の熱収縮率との差(斜め熱収縮率差)のフィルム幅方向に対する変化量を具体的にどのような範囲にすべきかを示す証拠は、示されていない。 仮に、蒸着フィルムの技術分野において、熱収縮率差のばらつきを小さくするということが、当業者にとって当然考慮されるべき課題であったとしても、製造容易性を考慮しながらも安定した蒸着薄膜を形成するために、熱収縮率差をどのような範囲まで許容するかということは、当業者にとって想到容易であるとはいえない。 (キ)上記(ウ)?(カ)より、少なくとも、相違点3?6に係る構成は、甲1発明及び甲2?3事項から当業者が想到容易であるとはいえない。 したがって、本件発明1は、甲1発明及び甲2?3事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ.本件発明2?5について 本件発明2?5は、請求項1を直接または間接的に引用し、本件発明1からさらに発明特定事項を追加するものである。 そして、上記イ.で述べた通り、本件発明1は、甲1発明及び甲2?3記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明2?5もまた、甲1発明及び甲2?3記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 エ.小括 以上のとおり、本件発明1?5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではなく、特許法第113条第2号に該当せず、取り消すべきものではない。 5.むすび したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1?5に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2018-10-31 |
出願番号 | 特願2016-242228(P2016-242228) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(B32B)
P 1 651・ 537- Y (B32B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 鏡 宣宏 |
特許庁審判長 |
井上 茂夫 |
特許庁審判官 |
千壽 哲郎 竹下 晋司 |
登録日 | 2018-01-19 |
登録番号 | 特許第6274298号(P6274298) |
権利者 | 東洋紡株式会社 |
発明の名称 | 蒸着ポリエステルフィルム |