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審決分類 審判 訂正 ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正 訂正する F16J
管理番号 1346222
審判番号 訂正2018-390128  
総通号数 229 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-01-25 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2018-08-31 
確定日 2018-10-18 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5773500号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5773500号の明細書及び特許請求の範囲を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 
理由 1 手続の経緯
本件訂正審判の請求に係る特許第5773500号(以下「本件特許」という。)は、2011年4月19日(優先権主張2010年4月19日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成27年7月10日にその特許権の設定登録がなされたものである。
そして、平成30年8月31日に本件訂正審判の請求がなされたものである。

2 請求の趣旨
本件訂正審判の請求の趣旨は、特許第5773500号の明細書及び特許請求の範囲を、本件審判請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める、との審決を求めるものである。

3 訂正の内容
本件訂正審判に係る訂正の内容は、次のとおりである。(下線部は訂正箇所を示す。)
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「当該オイル戻し溝は、オイルリング軸方向断面において、その外周形状が直線と、当該直線に連続し、且つ、当該コイルエキスパンダ収容凹部から連接する延接曲線とから構成されると共に、」
とあるのを、
「当該オイル戻し溝は、オイルリング軸方向断面において、その外周形状が直線と、当該直線に連続し、且つ、当該コイルエキスパンダ収容凹部から連接する延設曲線とから構成されると共に、」
に訂正する。
請求項1の記載を引用する請求項2?7も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
明細書の段落【0013】に
「・・・当該オイル戻し溝は、オイルリング軸方向断面において、その外周形状が直線と、当該直線に連続し、且つ、当該コイルエキスパンダ収容凹部から連接する延接曲線とから構成されると共に、・・・」
とあるのを、
「・・・当該オイル戻し溝は、オイルリング軸方向断面において、その外周形状が直線と、当該直線に連続し、且つ、当該コイルエキスパンダ収容凹部から連接する延設曲線とから構成されると共に、・・・」
に訂正する。

4 当審の判断
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、請求項1の「延接曲線」との記載を「延設曲線」に訂正するものである。
ここで、「延接曲線」との記載は、訂正前の請求項1を除けば、訂正前の明細書の段落【0013】に記載されており、当該段落は【課題を解決するための手段】として訂正前の請求項1に対応する事項が記載されている段落である。
これに対して、「延設曲線」との記載は、請求項6、明細書の段落【0018】、【0046】及び【0047】に記載されている。
そうすると、訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載されていた「延接曲線」を、請求項6及び明細書中で用いられている「延設曲線」に改めるものであり、訂正の前後において「曲線」の意味を変更するものとも認められないので、特許法第126条第1項ただし書第2号に規定する誤記の訂正を目的とするものといえる。
また、請求項2?7は、請求項1を引用するものであるから、訂正事項1は、請求項2?7についても上記請求項1と同様の訂正を行うものであるところ、当該訂正も、特許法第126条第1項ただし書第2号に規定する誤記の訂正を目的とするものといえる。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か
上記アで述べたとおり、「延設曲線」との記載は、請求項6、明細書の段落【0018】、【0046】及び【0047】に記載されており、訂正事項1は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてする訂正である。
したがって、訂正事項1は、特許法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正か否か
上記アで述べたとおり、訂正事項1は誤記の訂正を目的とするものであり、訂正の前後で特許請求の範囲に記載された発明の拡張又は変更はなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1は、特許法第126条第6項の規定に適合する。
エ 特許出願の際独立して特許を受けることができるか否か
上記アで述べたとおり、訂正事項1は誤記の訂正を目的とするものであり、その訂正による記載が特許法第36条第4項第1号または第6項第1号、第2号の規定に違反するものではなく、他に特許要件の適否について見直すべき新たな事情も存在しないので、特許出願の際独立して特許を受けることができない理由を発見することはできない。
したがって、訂正事項1は、特許法第126条第7項の規定に適合する。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、明細書の段落【0013】の「延接曲線」との記載を「延設曲線」に訂正するものである。
訂正事項2は、訂正事項1に係る訂正に伴い、特許請求の範囲と明細書の発明の詳細な説明の記載との整合を図るためにする訂正であり、訂正事項1と同様に、特許法第126条第1項ただし書第2号に規定する誤記の訂正を目的とするものといえる。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か
上記アで述べたとおり、訂正事項2は、訂正事項1に係る訂正に伴い、特許請求の範囲と明細書の発明の詳細な説明の記載との整合を図るためにする訂正であるので、訂正事項1と同様に、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてする訂正である。
したがって、訂正事項2は、特許法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正か否か
上記アで述べたとおり、訂正事項2は、訂正事項1に係る訂正に伴い、特許請求の範囲と明細書の発明の詳細な説明の記載との整合を図るためにする訂正であるので、訂正事項1と同様に、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項2は、特許法第126条第6項の規定に適合する。
エ 特許出願の際独立して特許を受けることができるか否か
上記アで述べたとおり、訂正事項2は、訂正事項1に係る訂正に伴い、特許請求の範囲と明細書の発明の詳細な説明の記載との整合を図るためにする訂正であるので、訂正事項1と同様に、特許出願の際独立して特許を受けることができない理由を発見することはできない。
したがって、訂正事項2は、特許法第126条第7項の規定に適合する。

5 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正審判の請求に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書第2号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第5項ないし第7項の規定に適合する。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
内燃機関用オイルリング
【技術分野】
【0001】
本件発明は、オイルリング本体とコイルエキスパンダとから成る2ピース構成の内燃機関用オイルリングに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、内燃機関に用いられるピストンリングにおいては、燃費向上の市場要求に伴い、シリンダ内におけるピストンのスムーズな往復運動を実現すべく、シリンダ内壁面に対して低摩擦化を図れるものが求められている。そのため、シリンダ内壁面の余分なエンジンオイルを掻き取り、ピストン裏面に流下させる役割を持つ内燃機関用オイルリングに関しても同様に、シリンダ内壁面との間に生じる摩擦力を低減して燃費の向上を図ると共にオイル消費量の低減を図るべく、オイルリング本体の軸方向幅を薄くする薄幅化技術が追求されている。
【0003】
なお、オイルリングは、薄幅化することでシリンダの内壁面への追従性を向上させ、オイル消費量を削減することができるが、同時にオイルリングの張力が低下し過ぎることによりオイル掻き性能の低下を招くこととなる。このような薄幅化技術に対応した内燃機関用オイルリングとしては、オイルリング本体とコイルエキスパンダとから成る2ピース構成のもの(以下、2ピースオイルリングと称する。)がある。ここで、コイルエキスパンダは、オイルリング本体を径方向外方に押圧付勢することにより、オイルリングのオイル掻き性能を向上させるものである。また、オイルリング本体は、その上側部分及び下側部分を構成する上側レール及び下側レールと、これら各レールと連結するウェブとからなり、当該上側レール及び下側レール各々の外周摺動面が、ピストンが往復動作する際にシリンダ内壁面に対して油膜を介した状態で摺動する。
【0004】
しかし、このような2ピースオイルリングは、コイルエキスパンダがオイルリング本体の内周に密着した状態で配置され、オイルリング本体に形成されているオイル戻し孔を大部分塞いでしまうことで、上側レール及び下側レールにて掻き落としたオイルをすばやくオイルリングの背面側に逃がすことを阻害する恐れがある。なお、2ピースオイルリングは、オイルリング本体に形成されているオイル戻し孔の大きさを大きくし過ぎるとオイルリング本体の強度低下を招く恐れがある。そこで、2ピースオイルリングにおいては、オイルリング軸方向の幅の薄幅化が図られたものでありながらも、シリンダ内壁面の余分なエンジンオイルを掻き取りピストン裏面に流下させる機能を長期間安定して得られ、オイル消費量の低減を図ることができるものが求められてきた。
【0005】
例えば、特許文献1(特開昭61-45172号)には、シリンダ内壁面から過剰のオイルを掻き取るためのコイルエキスパンダ付きオイルリング(所謂2ピースオイルリング)について開示されている。具体的には、特許文献1には、「剛性の塊である上下のサイドレールとこれら両サイドレールを連結する多数のオイル孔を備えた、薄肉ウェブとから構成される断面略I形の鋼製オイル掻きリングを有し、該オイル掻きリングの外周には掻き取ったオイルを受容するための周溝が形成され、他方、内周には、環状のコイルエキスパンダを収容するための周溝が形成され、該コイルエキスパンダは横断面で見て上下のサイドレールと実質上二点のみで接触し、これら接触点以外の部分においてコイルエキスパンダは上記ウェブから隔てられ該ウェブとの間に所定の微小間隙が形成されていることを特徴とするコイルエキスパンダ付オイルリング」が開示されている。
【0006】
また、特許文献2(特開2006-194272号)には、オイルの流通性が改善されるオイルリングに用いられるオイルリング用線材について開示されている。具体的には、特許文献2には、「少なくとも一方から他方にオイルを流通させる貫通油孔を備えた内燃機関等のピストンのオイルリングとして使用される、前記貫通油孔が形成されたオイルリング用線材であって、前記貫通油孔は、前記オイルの流通方向に対し前記貫通油孔の相対する側壁の少なくとも一方が実質的に傾斜したテーパ部を有しているオイルリング用線材」が開示されている。なお、特許文献2のオイルリング用線材は、2ピース型オイルリングとして用いる場合において、一対のフランジ部と当該フランジ部を連結するウエブ部とを有し、当該ウエブ部に貫通油孔が形成されているものが好ましいとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭61-45172号公報
【特許文献2】特開2006-194272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載されたオイルリングは、オイルリング本体とコイルエキスパンダとの間に形成されている隙間を設ける技術が開示されているものの、どの程度の隙間が必要であるのかが明確ではなく、当業者が実施しようとしてもかなりの困難が伴うものである。ちなみに、オイルリング本体とコイルエキスパンダとの間に形成されている隙間が大きくなり過ぎて、オイルリング本体を構成するウェブのオイルリング径方向幅が薄くなると、オイルリング本体の加工の際において変形が起こり易くなる。そして、オイルリング本体に変形が生じると、オイルリングのシリンダ内壁面に対する押圧力が局所的に減少し、オイルの掻き残しが生じてオイル消費量の増大を招き易くなる。更に、オイルリングは、シリンダ内壁面に対する押圧力が局所的に減少することで、オイル上がりが生じてエンジンのシリンダ燃焼室側にオイルが侵入することによって、オイルが一緒に燃焼されて黒煙が発生してしまう場合もある。なお、この問題を解消すべく、オイルリングの張力を高くすると、シリンダ内壁面とオイルリングとの間における摩擦が大きくなり過ぎて、ピストンのスムーズな往復運動を阻害することになる。
【0009】
また、特許文献1のオイルリングは、オイルリング本体の内周側のオイルリング軸方向断面における外周形状が略テーパー形状であるために、コイルエキスパンダと上下のサイドレールとが、実質上二点のみで接触するものである。このように、特許文献1のオイルリングにおいては、当該オイルリング本体と当該コイルエキスパンダとがオイルリング軸方向断面でみたときに二点のみで接触しているため、当該接触部で摩耗の促進を招き易く、オイルリングのシリンダ内壁面に対する押圧力が当該オイルリング周方向でばらつく問題がある。なお、オイルリングの周方向において、シリンダ内壁面に対する押圧力のばらつきが大きくなると、オイルリング外周面とシリンダ内壁面との接触面に高面圧部分が生じて潤滑油膜を切り、双方部材に摩耗が生じることとなり好ましくない。
【0010】
そして、特許文献2に記載されたオイルリング用線材においては、コイルスプリングを、一対のフランジ部と当該フランジ部を連結するウエブ部とで形成されるオイルリング本体内周側の略半円状凹部内に包み込む状態で収容可能な形状を備えているが、当該略半円状凹部とコイルスプリングとの間に隙間の形成がされていない。従って、特許文献2のオイルリング用線材をオイルリングとして用いた場合には、コイルスプリングがオイルリング本体と密着し、オイルリング本体に形成されているオイル戻し孔を大部分塞いでしまうこととなる。その結果、特許文献2のオイルリング用線材を用いたオイルリングでは、オイルリング外周にて掻き落としたオイルをすばやくオイルリングの背面側に逃がすことができなくなり、オイルリングによるオイル掻き落とし機能が低下し、オイル消費量の増大を招いてしまう。そして、当該オイルリング用線材に設けられている貫通油孔に関しては、テーパー部の角度についての開示はあっても貫通油孔の具体的な大きさ(開口幅及び開口高さ)に関しては設定されていない。すなわち、特許文献2のオイルリング用線材をオイルリングとして用いた場合において、例えば当該貫通油孔の開口部の面積が小さい場合には、スラッジにより孔が閉塞する可能性が増大し、オイル消費量の低減を図るのに必ずしも十分であるとは言い難い。
【0011】
以上のことから、本件発明は、シリンダ内壁面の余分なオイルを掻き取り、ピストン裏面に流下させる機能が長期間安定して得られ、内燃機関の駆動時のオイル消費量を確実に低減できる内燃機関用オイルリングの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで、本発明者等は、鋭意研究を行った結果、オイルリング本体の形状を、所定の条件を満たした形状とすることで、上述した課題を解決するに到った。以下、本件発明に関して説明する。
【0013】
本件発明に係る内燃機関用オイルリングは、オイルリング軸方向断面が略I字型のオイルリング本体と当該オイルリング本体内周側に配置されるコイルエキスパンダとからなり、当該オイルリング本体は、シリンダ内壁面を摺動する第1レールと、第2レールと、当該第1レール及び第2レールがシリンダの内壁面より掻き落としたオイルをピストン裏面へ流下させるための複数のオイル戻し孔を備えるウェブとで構成され、当該オイルリング本体は、その内周面に沿って、オイルリング軸方向の断面が略半円状のコイルエキスパンダ収容凹部を備え、更に、当該コイルエキスパンダ収容凹部の内周面には、その内周方向に沿って、掻き落としたオイルをピストン裏面へスムーズに戻すためのオイル戻し溝が形成され、当該オイル戻し溝は、オイルリング軸方向断面において、その外周形状が直線と、当該直線に連続し、且つ、当該コイルエキスパンダ収容凹部から連接する延設曲線とから構成されると共に、当該オイル戻し溝のオイルリング径方向深さをAとし、前記ウェブの当該オイル戻し溝形成前におけるオイルリング径方向幅をBとした場合、A/B=0.05?0.50で、Bが0.3mm以上であることを特徴とする。
【0014】
本件発明に係る内燃機関用オイルリングにおいて、前記オイルリング本体に備わるコイルエキスパンダ収容凹部のオイルリング軸方向断面における曲率半径をr1、前記コイルエキスパンダのオイルリング軸方向断面における曲率半径をr2とした場合、r2/r1=0.8?1.0未満であることが好ましい。
【0015】
本件発明に係る内燃機関用オイルリングにおいて、前記オイルリング本体を構成するウェブに設けるオイル戻し孔は、当該オイルリング本体の円周方向に沿った開口幅が0.5mm?5.0mmであり、且つ、オイルリング軸方向に沿った開口高さが0.2mm?0.8mmであることが好ましい。
【0016】
本件発明に係る内燃機関用オイルリングにおいて、前記オイルリング本体のオイルリング軸方向幅h1は、1.0mm?2.5mmであることが好ましい。
【0017】
本件発明に係る内燃機関用オイルリングにおいて、前記オイルリングのシリンダボア径に対する張力比は、0.05N/mm?0.5N/mmであることが好ましい。
【0018】
本件発明に係る内燃機関用オイルリングにおいて、前記オイルリング本体に形成されるオイル戻し溝の当該オイルリング軸方向断面において構成される曲線は、前記コイルエキスパンダ収容凹部から連接する延設曲線の曲率半径が、0.01?0.30mmであることが好ましい。
【0019】
本件発明に係る内燃機関用オイルリングにおいて、前記オイルリング本体を構成するウェブに備わるオイル戻し孔の当該ウェブの周方向におけるピッチをE、当該オイル戻し孔の当該ウェブの周方向における長さをCとした場合、C/(E-C)=0.1?1.2であることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本件発明に係るオイルリングは、オイルリング本体の形状を本件発明で規定する条件を満足する形状とすることで、ピストン裏面へのオイル戻りがスムーズになり、更に、オイルリングのシリンダ内壁面に対する押圧力のばらつきを長期間安定して抑えることができる。すなわち、本件発明に係るオイルリングを用いることで、主に自動車に使用される内燃機関用のガソリンエンジン、ディーゼルエンジンのオイル消費量を確実に削減できると共に燃費の向上を図ることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本件発明のオイルリング本体と、当該オイルリング本体の内周に配置されるコイルエキスパンダとから構成される2ピースオイルリングの斜視図である。
【図2】本件発明に係る内燃機関用オイルリングをピストンのオイルリング溝に装着した状態を説明するためにピストン軸方向で切断して例示した断面図である。
【図3】本件発明のオイルリング本体の内周側形状を説明するための要部斜視図である。
【図4】本件発明のオイルリング本体に備わるコイルエキスパンダ収容凹部の曲率半径について説明するための要部斜視図である。
【図5】本件発明のオイルリング本体に形成されるオイル戻し溝について、図2に示すオイル戻し溝と異なる形状をオイルリング軸方向で切断して例示した断面図である。
【図6】本件発明のオイルリング本体に備わるオイル戻し孔の形状を説明するためにオイルリング径方向外方からみた要部正面図である。
【図7】本件発明のオイルリング本体の外表面に窒化処理を施した状態をオイルリング軸方向で切断して示した断面図である。
【図8】オイルリング軸方向幅が2.00mmの場合における、オイル戻し溝のオイルリング軸方向断面形状とオイル消費量比との関係を示すグラフである。
【図9】オイルリング軸方向幅が1.50mmの場合における、オイル戻し溝のオイルリング軸方向断面形状とオイル消費量比との関係を示すグラフである。
【図10】オイルリング本体を構成するウェブのオイルリング径方向幅と発生応力との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本件発明に係る内燃機関用オイルリングの好ましい実施の形態について、以下に図を用いて示しながら本件発明をより詳細に説明する。
【0023】
図1は、本件発明のオイルリング本体と、当該オイルリング本体の内周に配置されるコイルエキスパンダとから構成される2ピースオイルリングの斜視図である。図1に示すように、2ピースオイルリング1は、オイルリング本体2と、コイルエキスパンダ3とから構成されている。また、当該オイルリング本体2は、その断面が略I字型のリングであり、合口部2aを備えている。そして、このオイルリング本体2は、上側の第1レール5と、下側の第2レール6と、これらレールを連結してオイルリング本体2の中間部分に位置するウェブ4とが一体化して構成されている。
【0024】
本件発明のオイルリング本体2を構成する第1レール5及び第2レール6は、2ピースオイルリング1の周方向に略円形に形成されている。この第1レール5及び第2レール6の各々の外周摺動面は、シリンダの内壁面と油膜を介して接触し、ピストン軸方向に摺動する。また、ウェブ4は、図1に示すように2ピースオイルリング1の周方向に略円形であって、半径方向に貫通形成されたオイル戻し孔7を備え、且つ、そのオイル戻し孔7が周方向に複数配置されている。そして、図1に示すように、コイルエキスパンダ3は、螺旋状の形態のスプリングを円弧状としたものである。なお、図示はしないが、コイルエキスパンダ3には、当該コイルエキスパンダの合口部を接続し円環状のコイルとするために、当該合口部にジョイント用の芯線が用いられている。
【0025】
図2は、本件発明に係る内燃機関用オイルリングをピストンのオイルリング溝に装着した状態を説明するためにピストン軸方向で切断して例示した断面図である。図2に示すように、オイルリング本体2の内周面には、第1及び第2レール5,6及びウェブ4により、コイルエキスパンダ収容凹部2bが周方向に形成されている。そして、オイルリング本体2の外周面側には、双方の第1及び第2レール5,6及びウェブ4により、オイルリング軸方向断面でみたときに凹字状の外周溝2cが形成されている。
【0026】
また、図2に示すように、本件発明に係る内燃機関用オイルリング1は、コイルエキスパンダ収容凹部2bがオイルリング軸方向断面でみたときに略半円状となっており、コイルエキスパンダ3がオイルリング軸方向断面でみて当該略半円状部内に包み込まれる状態で収容されている。従って、本件発明に係る内燃機関用オイルリング1によれば、オイルリング本体2の内周を円弧形状とした場合に、当該オイルリング本体2とコイルエキスパンダ3との接触面積を大きく確保することができ、シリンダ内壁面21に対する押圧力の安定化を図ることができる。また、本件発明に係る内燃機関用オイルリング1のように、オイルリング本体2の内周を円弧形状とすることで、オイルリングの周方向において、シリンダ内壁面に対する押圧力に局所的なばらつきが生じ難く、オイルの掻き残しが起こり難くなる。
【0027】
ここで、図2を参照しつつ、内燃機関用オイルリング1のオイル掻き落とし機能について、一連の流れを順を追って説明しておく。まず、シリンダ20内をピストン10が往復運動する際に、オイルリング本体2の双方の第1及び第2レール5,6の外周摺動面8,9が、シリンダ20の内壁面21に付着している余分なオイルを掻き落とす。そして、掻き落とされたオイルは、オイルリング本体2の外周溝2c内に一時的に滞留受容された後、オイル戻し孔7を通ってコイルエキスパンダ収容凹部2bに流れる。そして、コイルエキスパンダ収容凹部2bに流されてきたオイルは、オイルリング溝11と連通して設けられているオイルドレイン孔12を通ってピストン10の裏面に流下し、オイルパン(不図示)に戻される。
【0028】
上述した内燃機関用オイルリング1のオイル掻き落とし機能における一連の流れの中の、掻き落としたオイルをオイル戻し孔7を通してコイルエキスパンダ収容凹部2bへ流す際において、本件発明に係る内燃機関用オイルリング1によれば、当該オイルの流れを阻害することがない。これは、本件発明に係る内燃機関用オイルリング1は、オイルリング本体2とコイルエキスパンダ3との間にオイル戻し溝2dを形成することで、オイルリング本体2に形成された当該オイル戻し孔7が塞がれないためである。すなわち、本件発明に係る内燃機関用オイルリング1においては、例えオイルリング本体2のコイルエキスパンダ配置側の形状が略半円状であったとしても、当該オイル戻し溝2dが存在することで、内燃機関用オイルリング1が掻き落としたオイルをすばやくオイルリングの背面側に設けられたオイルドレイン孔12に逃がすことができ、オイル消費量を低減させることが可能となる。
【0029】
更に、本件発明に係る内燃機関用オイルリング1は、オイルリング本体2に形成されるオイル戻し溝2dがオイルリング軸方向断面において、その外周形状が直線と当該直線に連続する曲線とから構成されることによって、オイルリング1により掻き落とされたオイルを当該オイル戻し溝2d内に滞留するのを抑制することができる。従って、本件発明に係る内燃機関用オイルリング1によれば、オイルリング本体2に形成されるオイル戻し溝2dがオイルリング軸方向断面において、その外周形状が直線と当該直線に連続する曲線とから構成されることで、オイルリング1の掻き落としたオイルをすばやくオイルリングの背面側に設けられたオイルドレイン孔12に逃がすことが可能となる。なお、図2に例示するように、本件発明に係る内燃機関用オイルリング1は、当該オイル戻し溝2dにおける、コイルエキスパンダ収容凹部2bの開口縁及びオイル戻し孔7の開口縁を曲面で形成することで、オイルスラッジの滞留を効果的に防止し、また、酸化をも効果的に抑制して、オイル消費量の削減効果を長期間安定して発揮することができることとなる。
【0030】
また、本件発明に係る内燃機関用オイルリング1は、オイルリング本体2に備わるコイルエキスパンダ収容凹部2bにおけるオイル戻し溝2dを除く曲面のオイルリング軸方向断面の曲率半径をr1、コイルエキスパンダ3の外径のオイルリング軸方向断面の曲率半径をr2とした場合、r2/r1=0.8?1.0未満であることが好ましい。
【0031】
図3は、本件発明のオイルリング本体の内周側形状を説明するための要部斜視図である。また、図4は、本件発明のオイルリング本体に備わるコイルエキスパンダ収容凹部の曲率半径について説明するための要部斜視図である。図3には、コイルエキスパンダ3の外径が破線により示されている。図3及び図4に示すように、コイルエキスパンダ収容凹部2bにおけるオイル戻し溝2dを除く曲面のオイルリング軸方向断面の曲率半径をr1、コイルエキスパンダ3の外径のオイルリング軸方向断面の曲率半径をr2とした場合に、r2/r1が0.8?1.0未満の範囲内となることで、当該コイルエキスパンダ3とコイルエキスパンダ収容凹部2bとの接触面積をより広くとることができるようになり、オイルリング1によるシリンダ内壁面への押圧力をリング周方向で安定させることができる。ここで、当該r2/r1が0.8未満の場合、コイルエキスパンダ3の外径が小さいためコイルエキスパンダの外径に対する全長が長くなり、組み合わせるオイルリング1に無理がかかることや、ピストン組付け性の悪化に繋がることが懸念される。更に、この場合、コイルエキスパンダ3の外径が小さくなり過ぎてオイルリング本体のオイル戻し溝2dに当該コイルエキスパンダ3が入り込み、オイルリング本体2とコイルエキスパンダ3との間に十分な隙間を形成できないため、オイルリング1により掻き落とされたオイルが当該オイルリング1の内周側にスムーズに排出されず、オイル消費の増大を招く恐れがある。また、当該r2/r1が1.0以上となる場合、コイルエキスパンダ3がオイルリング本体のコイルエキスパンダ収容凹部2bと干渉したり、当該コイルエキスパンダ収容凹部2bに入らなくなる恐れがある。
【0032】
すなわち、本件発明のオイルリング本体2は、コイルエキスパンダ収容凹部2bにおけるオイル戻し溝2dを除く曲面のオイルリング軸方向断面の曲率半径r1を、コイルエキスパンダ3の外径のオイルリング軸方向断面の曲率半径r2との関係において、本件発明の条件を満足させることで、オイルリングの周方向においてコイルエキスパンダの収容状態が不安定になり難く、オイルリング内周面に摩耗の発生するのを効果的に抑制できる。従って、本件発明に係る内燃機関用オイルリング1によれば、オイルリングの張力をオイル消費量の増大を招かない範囲で極力低めに設定することが可能となり、オイルリングの設計の自由度が大きくなる。
【0033】
また、本件発明に係る内燃機関用オイルリング1において、オイルリング本体2は、オイル戻し溝2dのオイルリング径方向深さをAとし、ウェブ4の当該オイル戻し溝2d形成前におけるオイルリング径方向幅をBとした場合、A/B=0.05?0.50である。
【0034】
図5は、本件発明のオイルリング本体に形成されるオイル戻し溝について、図2に示すオイル戻し溝と異なる形状をオイルリング軸方向で切断して例示した断面図である。図5に示すように、本件発明に係る内燃機関用オイルリング1は、オイルリング本体2が、オイル戻し溝2dのオイルリング径方向深さをAとし、ウェブ4の当該オイル戻し溝2d形成前におけるオイルリング径方向幅(JIS B 8032(1993年)の第21頁表14(X拡大図)において「a13-a4」で表される幅)をBとした場合、A/Bを0.05?0.50の範囲内に設定されることで剛性を確保することができ、また、オイルリング本体2の加工の際に形状にばらつきが生じることなく、製品品質を向上させることができる。なお、図5には、オイル戻し溝2dのオイルリング径方向深さA、及びウェブ4の当該オイル戻し溝2d形成前におけるオイルリング径方向幅Bの、基準となる位置を破線(図中コイルエキスパンダ3の外周との接線)により示している。
【0035】
ここで、本件発明に係る内燃機関用オイルリング1は、オイルリング本体2に形成されるオイル戻し溝2dのオイルリング径方向深さをAとし、ウェブ4の当該オイル戻し溝2d形成前におけるオイルリング径方向幅をBとした場合において、A/Bが0.05未満の場合には、オイル戻し溝2dのオイルリング径方向深さAが当該オイルリング径方向幅Bに対して浅くなり過ぎて、ピストン裏面へのオイル戻し機能を十分に発揮することができない。すなわち、この場合には、オイルリング本体2におけるオイル戻し溝2dの占める割合が小さくなり過ぎるため、当該オイルリング本体2のウェブ4に形成されるオイル戻し孔7がコイルエキスパンダ3によって大きく塞がれてしまい、オイル戻し孔7を通過したオイルがオイルリング本体2の内周側にスムーズに排出されない恐れがある。一方、当該A/Bが0.50を超える場合には、オイル戻し溝2dのオイルリング径方向深さAが当該オイルリング径方向幅Bに対して深くなり過ぎて当該ウェブ4の幅が薄くなるため、オイルリング本体2の加工の際に変形が起こりやすく、また、オイルリング1の耐久性及びオイル掻き機能の低下を招いてしまう。
【0036】
ちなみに、本件発明のオイルリング本体2に形成されるオイル戻し溝2dは、オイルリング径方向深さをAとし、ウェブ4の当該オイル戻し溝2d形成前におけるオイルリング径方向幅をBとした場合、A/Bが0.05程度の極めて浅い深さの溝であってもオイル消費量の削減効果を得ることができる。よって、オイルリングの剛性とオイル消費性能とのバランスを考慮すると、当該A/Bを0.05?0.50の範囲内に設定する。
【0037】
なお、図5に例示するように、本件発明のオイルリング本体2に形成されるオイル戻し溝2dの形状は、図2に示した形状に限定されるものではない。図5に示すオイルリング1の断面図では、図中Gで示す箇所からオイル戻し溝2dの底面に向けて構成される直線が略テーパー形状で形成されている。このように、本件発明に係る内燃機関用オイルリング1は、コイルエキスパンダ収容凹部2bの開口縁の曲面とオイル戻し孔7の開口縁の曲面との間に構成されるオイル戻し溝2dの側壁を、当該コイルエキスパンダ収容凹部2bの開口側に向けて離間するように傾斜して形成することもできる。本件発明に係る内燃機関用オイルリング1は、オイルリング本体2に形成されるオイル戻し溝2dがオイルリング軸方向断面における外周形状を直線と当該直線に連続する曲線とで構成される限り、オイルスラッジの滞留を効果的に防止し、また、酸化をも効果的に抑制して長期間安定してオイル消費量の削減効果を発揮することができる。
【0038】
また、本件発明に係る内燃機関用オイルリング1は、オイルリング本体2を構成するウェブ4のオイル戻し溝2d形成前におけるオイルリング径方向幅Bが0.3mm以上である。
【0039】
図5には、ウェブ4のオイル戻し溝2d形成前におけるオイルリング径方向幅がBにより示されている。ここで、本件発明に係る内燃機関用オイルリング1は、当該ウェブ4の当該オイル戻し溝2d形成前におけるオイルリング径方向幅Bが0.3mm未満となると、当該ウェブ4の幅が薄くなり過ぎてオイルリング本体2の強度が低くなり、オイルリングを内燃機関用として用いた場合に、十分な耐久性を得ることができない。また、当該ウェブ4の幅が薄くなり過ぎると、オイルリング本体2の加工の際に変形が起こりやすく、オイルリング1のオイル掻き機能の安定化を図ることができない。
【0040】
また、本件発明に係る内燃機関用オイルリング1において、オイルリング本体2を構成するウェブ4に設けるオイル戻し孔7は、当該オイルリング本体2の円周方向に沿った開口幅(図6中Cで示す幅)が0.5mm?5.0mm、且つ、オイルリング軸方向に沿った開口高さ(図6中Dで示す高さ)が0.2mm?0.8mmであることが好ましい。
【0041】
図6は、本件発明のオイルリング本体に備わるオイル戻し孔の形状を説明するためにオイルリング径方向外方からみた要部正面図である。図6より、本件発明のオイルリング本体2は、開口幅Cが0.5mmより短いか、又は開口高さDが0.2mmより低い場合には、オイル戻し孔7の開口面積が小さ過ぎて、オイルリング1が掻き落としたオイルを速やかに当該オイルリングの背面側に設けられたオイルドレイン孔12へ排出することができない。また、本件発明のオイルリング本体2は、当該開口幅Cが5.0mmより長いか、又は当該開口高さDが0.8mmより高い場合には、オイル戻し孔7の面積が大き過ぎて、オイルリング本体2の強度が低下し、当該オイルリングを内燃機関用として用いた場合に十分な耐久性を得ることができない。また、当該オイル戻し孔7の面積が大き過ぎると、オイルリング本体2の加工の際に変形が起こりやすく、オイル掻き機能の低下を招いてしまう。なお、当該オイル戻し孔7の形状は、図6に示すような、長方形形状の両端部の開口高さDに相当する辺を一定の曲率半径Rを備える弧状辺として形成したものに限定されない。例えば、オイルリングとしての要求特性を満たす限りにおいて長方形、円形状、楕円形状、開口高さDに相当する辺を曲線形状としたもの等の種々の形状を適宜選択して使用することができる。
【0042】
また、本件発明に係る内燃機関用オイルリング1において、オイルリング本体2のオイルリング軸方向幅(図2中h1で示す幅)は、1.0mm?2.5mmであることが好ましい。
【0043】
ここで、図2に示すように、オイルリング本体2のオイルリング軸方向幅h1が1.0mmよりも薄い場合には、外周摺動面8,9においてシリンダ20の内壁面21に対する接触面積が小さくなると共に、オイルリング本体2の強度の低下を招く恐れがある。またこの場合、オイルリング1は、オイル戻し孔7の開口面積を大きく取ることが出来なくなり、掻き落としたオイルがオイル戻し孔7を通ってオイルリング本体2の外周溝2cから内周側のコイルエキスパンダ収容凹部2bへ流れ難くなるため、結果として、オイル消費量が増大してしまう。そして、内燃機関用オイルリング1のオイルリング本体2のオイルリング軸方向幅h1が2.5mmよりも厚い場合には、オイルリング1の張力を高くしないとオイルリング本体2のシリンダ内壁面21への押圧力が低下するため、オイル消費量が増大してしまう。
【0044】
また、本件発明に係る内燃機関用オイルリング1において、オイルリング1のシリンダボア径に対する張力比は、0.05N/mm?0.5N/mmであることが好ましい。
【0045】
本件発明に係る内燃機関用オイルリング1は、シリンダボア径(図示せず)に対する張力比([オイルリングの張力(N)]/[シリンダボア径(mm)]で算出される値)を0.05N/mm?0.5N/mmに設定している。ここで、シリンダボア径に対する張力比が0.05N/mmよりも小さい場合には、オイルリング本体2の外周摺動面8,9のシリンダ20の内壁面21に対する押圧力が不十分となる。したがってこの場合、当該外周摺動面8,9は余分なオイルを十分に掻き落とすことができず、オイル消費量の増大を招いてしまう。また、シリンダボア径に対する張力比が0.5N/mmよりも大きい場合には、当該外周摺動面8,9のシリンダ20の内壁面21に対する押圧力が大きくなり過ぎて摩擦力が高くなり、燃費の低下を招いてしまう。一般的に、シリンダとオイルリングとの摩擦力は、オイルリングの張力の大きさに比例する傾向にある。
【0046】
また、本件発明に係る内燃機関用オイルリング1において、オイルリング本体2に形成されるオイル戻し溝2dの当該オイルリング軸方向断面において構成される曲線は、コイルエキスパンダ収容凹部2bから連接する延設曲線の曲率半径が、0.01?0.30mmであることが好ましい。
【0047】
図3(a)は、図3においてaで囲まれた箇所を例示している。本件発明のオイルリング本体2に形成されるオイル戻し溝2dの、当該オイルリング軸方向断面において構成される曲線は、コイルエキスパンダ収容凹部2bから連接する延設曲線の曲率半径(図3(a)におけるR)が、0.01?0.30mmであることで、当該延設曲線部分と接触するコイルエキスパンダ3の摩耗損傷を抑制すると共に、オイル消費量の低減を図ることができる。ここで、当該延設曲線の曲率半径Rが0.01mm未満である場合には、コイルエキスパンダ3が摩耗損傷し易くなり、当該コイルエキスパンダの張力が低下するために、オイル消費が多くなると共に、ガスシール性の低下を招いてしまう。また、当該延設曲線の曲率半径Rが0.30mmを超える場合には、当該コイルエキスパンダ3とコイルエキスパンダ収容凹部2bとの接触面積が小さくなり、オイルリング1のシリンダ内壁面21に対する押圧力を安定させることが困難となる。
【0048】
また、本件発明に係る内燃機関用オイルリング1において、オイルリング本体2を構成するウェブ4に備わるオイル戻し孔7の当該ウェブ4の周方向におけるピッチ(図6中Eで示すピッチ)は、3.5mm?10.0mmであることが好ましい。
【0049】
図6には、オイルリング本体2を構成するウェブ4に備わるオイル戻し孔7の当該ウェブ4の周方向におけるピッチがEにより示されている。本件発明に係る内燃機関用オイルリング1は、当該ピッチEが3.5mm?10.0mmの範囲内であることで、オイルリング1の耐久性とオイル消費性能とを共に向上させることができる。ここで、当該ピッチEが3.5mm未満の場合には、ウェブ4におけるオイル戻し孔7の間隔が短か過ぎてオイルリング本体2の強度が弱くなり、オイルリング1の耐久性が劣ることとなり好ましくない。また、当該ピッチEが10.0mmを超える場合には、ウェブ4におけるオイル戻し孔7の間隔が長過ぎて、オイルリング1が掻き落としたオイルをピストン裏側に逃がすことができなくなるためオイル消費の増大を招いてしまう。
【0050】
また、本件発明に係る内燃機関用オイルリング1において、オイルリング本体2を構成するウェブ4に備わるオイル戻し孔7の当該ウェブ4の周方向におけるピッチをE、当該オイル戻し孔の当該ウェブ4の周方向における長さをCとした場合、C/(E-C)=0.1?1.2であることが好ましい。
【0051】
図6には、上述したウェブ4の周方向におけるピッチがEにより示され、また、オイル戻し孔7の当該ウェブ4の周方向における長さがCにより示されている。本件発明に係る内燃機関用オイルリング1は、当該ピッチEと、当該オイル戻し孔7の当該ウェブ4の周方向における長さCとの関係「C/(E-C)」が、0.1?1.2の範囲内であることで、オイルリング1の耐久性とオイル消費性能とを共に向上させる際により安定性を増す。ここで、当該ピッチEと、当該オイル戻し孔の当該ウェブ4の周方向における長さCとの関係「C/(E-C)」が、0.1未満の場合には、ウェブ4におけるオイル戻し孔7の間隔が長くなるため、オイルリング1が掻き落としたオイルをピストン裏側に逃がすことができなくなり、オイル消費の増大を招くこととなる。また、当該ピッチEと、当該オイル戻し孔の当該ウェブ4の周方向における長さCとの関係「C/(E-C)」が、1.2mmを超える場合には、ウェブ4におけるオイル戻し孔7の間隔が短くなるため、オイルリング本体の強度が低下し、オイルリング1の耐久性が劣化する恐れがある。なお、当該「C/(E-C)」は、オイルリング1の耐久性及びオイル消費性能の観点からみて0.2?1.0の範囲内であることがより好ましく、更に好ましくは0.2?0.6の範囲内であることが好ましい。
【0052】
また、本件発明に係る内燃機関用オイルリング1は、オイルリング本体2の外表面に窒化処理を施す際に、窒化層の厚さを150μm以下に設定するのが好ましい。オイルリング本体2は、窒化処理を施すことで外表面を硬化させて耐久性を向上させることができる。これは、最近の自動車用内燃機関の高速、高負荷化により、オイルリング本体2についてもより高い耐摩耗性が要求されている背景があるためである。オイルリング本体2は、その材質に主に鉄鋼材料が用いられ、オイルリング本体2に窒化処理を行うことでクロムや鉄と反応して作られる窒化物からなる極めて硬い窒化層を備えることとなる。すなわち、オイルリング本体2は、その表面に窒化層を形成することで、耐摩耗性及びシリンダに対する耐スカッフ性に優れたものとなり、より過酷な状況下での使用に耐え得る内燃機関用オイルリングを提供することが可能となる。しかし、窒化処理を行うことによって、オイルリング本体2の母材全体が窒化されることとなると、オイルリング本体2は硬くなり過ぎて脆くなり、耐折損性を低下させてしまう。そのため、本件発明のオイルリング本体2に窒化を施す場合には、窒化層の厚さが150μm以下となるように設定することが好ましい。
【0053】
図7は、本件発明のオイルリング本体の外表面に窒化処理を施した状態をオイルリング軸方向で切断して示した断面図である。図7には、オイルリング本体2の外表面に窒化層30の形成されているのが示されている。ここで、図中Fで示す窒化層30の厚さは、150μm以下となるように設定することが好ましい。
【0054】
また、オイルリングの耐久性は、オイルリング外周摺動面とシリンダ内壁面との摩擦力の大きさに影響するため、上述したように、オイルリングの張力の大きさを考慮するが、摺動する金属の組み合わせ方によっても影響を受ける。例えば、摺動する金属の材質をクロム同士やアルミ同士にすると、焼き付きを起こし易くなる。そこで、当該金属の材質を考えた上で、耐摩耗性に優れたコーティングを施すのが一般的であり、オイルリング本体の外表面に窒化処理を施すのも同じ理由によるものである。また同様に、オイルリング外周摺動面には、必要に応じ、クロム窒化物(Cr_(2)N、CrN)からなる皮膜や、クロム窒化物(Cr_(2)N、CrN)とクロム(Cr)の混合物からなるイオンプレーティング皮膜を形成することも耐摩耗性の観点からみるとより好ましい。その他、オイルリング外周摺動面に、クロム-ボロンよりなる窒化物(Cr-B-N)、DLC(ダイヤモンド ライク カーボン)等の皮膜を形成することによってもオイルリングの耐久性の向上を図ることができる。
【0055】
以下、実施例および比較例を示して本件発明を具体的に説明する。なお、本件発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0056】
実施例1では、排気量が2000cc、シリンダボア径が86mmの4気筒ガソリンエンジンの実機試験を行い、オイルリングのコイルエキスパンダ収容凹部の内周面にオイル戻し溝が有るものと無いものとでオイル消費量に違いが生じるか否かについての確認を行った。なお、エンジンの運転条件は、全負荷(WOT)で回転数5000rpmで10時間行った。そして、ピストンリングの組み合わせは、1stリング、2ndリング、オイルリングとした。このときの1stリングは、10Cr鋼からなる軸方向幅(h1)1.2mm、径方向幅(a1)2.9mmのものにガス窒化処理を施したものを用いた。2ndリングは、FC材からなる軸方向幅(h1)1.2mm、径方向幅(a1)3.4mmのものを用いた。
【0057】
なお、念のために1stリングを構成する10Cr鋼及び2ndリングを構成するFC材に関して述べておく。ここで言う10Cr鋼は、炭素0.50質量%、ケイ素0.21質量%、マンガン0.30質量%、クロム10.1質量%、リン0.02質量%、硫黄0.01質量%、残部鉄及び不可避不純物の組成を備え、且つ、ガス窒化処理を施したものである。そして、ここで言うFC材とは、炭素3.41質量%、ケイ素2.05質量%、マンガン0.65質量%、リン0.30質量%、硫黄0.08質量%、クロム0.10質量%、銅0.10質量%、残部鉄及び不可避不純物の組成を備えるFC250材相当のものである。
【0058】
そして、オイルリングは、上述の実施の形態で述べた2ピース構成の内燃機関用オイルリングを使用した。実施例1で用いるオイルリングは、オイルリング本体の軸方向幅(h1)が2.00mm、オイルリング径方向幅(a1)が2.00mm、コイルエキスパンダ配置後のオイルリングのオイルリング径方向幅(a12)が2.74mmに設定されたものである。また、実施例1で用いるオイルリングは、そのコイルエキスパンダ収容凹部に連接して形成されるオイル戻し溝の形状が、オイルリング軸方向断面の外周形状において、直線と当該直線に連続する曲線とから構成されるものであって、当該オイル戻し溝にコイルエキスパンダ収容凹部から連接した延設曲面(曲率半径が0.10mm)を備えたものである。また、実施例1のオイルリングは、当該オイル戻し溝のオイルリング径方向深さをAとし、当該ウェブのオイル戻し溝形成前におけるオイルリング径方向幅をBとした場合、A/Bが0.08となり、当該A/Bが本件発明の条件である0.05?0.50の範囲内となるものである。すなわち、実施例1で用いるオイルリングは、具体的には下記に示す仕様のものである。なお、実施例1で用いるオイルリングのより詳細な設定については、以下の表1に示してある。なお、下記及び以下の表1に示す、オイル戻し溝のオイルリング軸方向幅(X)は、図3においてXで示した幅を言う(以下同様)。
【0059】
オイル戻し溝のオイルリング径方向深さ(A) :0.04mm
ウェブのオイル戻し溝形成前におけるオイルリング径方向幅(B):0.49mm
オイル戻し溝のオイルリング軸方向幅(X) :0.70mm
オイル戻し孔の開口幅(C) :2.00mm
オイル戻し孔の開口高さ(D) :0.50mm
シリンダボア径に対する張力
比 :0.24N/mm
【0060】
また、ここで言うオイルリングを構成するオイルリング本体は、炭素0.70質量%、ケイ素0.25質量%、マンガン0.30質量%、クロム8.0質量%、リン0.02質量%、硫黄0.01質量%、残部鉄及び不可避不純物の組成の所謂8Cr鋼を用いた。なお、ガス窒化処理を施した際に、オイルリング軸方向断面にて外周摺動面の窒化層(図7中Fで示す層)を確認した結果、オイルリング径方向において、厚さ100μmの窒化層が形成されていることを確認した。そして、コイルエキスパンダは、炭素0.55質量%、ケイ素1.41質量%、マンガン0.65質量%、クロム0.68質量%、銅0.06質量%、リン0.01質量%、硫黄0.01質量%、残部鉄及び不可避不純物の組成を備えるSWOSC-V材相当の素材を用いた。
【0061】
実施例1において、オイルリング本体の材質に所謂8Cr鋼を用いたが、通常、車種等によって用いられる材質は使い分けられる。例えば、クロム含有量を増加した10Cr鋼や13Cr鋼、更にクロム含有量を増加した17Cr鋼(SUS440相当)は主にエンジンがより高負荷にさらされるディーゼル車に用いられる。なお、オイルリングの材質としては、今回実施例で用いた8Cr鋼や、上述した10Cr鋼、13Cr鋼及び17Cr鋼の他に、SWRH材等が好適に用いられるが、これらの材質に限定されるものではない。
【0062】
ここで、本件発明のオイルリングに窒化を施した場合、オイルリングにどのような影響を及ぼすかについて簡単に述べておく。例えば、クロム鋼に窒化処理を施すと、窒素原子が表面から鋼中に侵入、拡散して窒化層を形成する。窒化層中の窒化物は、主にクロム、バナジウム、モリブデンとの化合物又は鉄を固溶したそれらの化合物である。鋼中のクロムは、母材中に固溶する他、クロム炭化物として存在するが、炭素よりも窒素との親和力が大きいため、窒化処理により表面から拡散してくる窒素とクロム炭化物が反応してクロム窒化物を生成する。例えば、13Cr鋼や17Cr鋼はクロム含有量が比較的多いため、上述の理由により硬いクロム窒化物が多く分散することで比較的硬度の高い窒化層が得られると共に、優れた耐摩耗性、及び耐スカッフィング性を備える。また窒化処理は、その処理コストが安価であり、クロムめっきに比べて環境へ及ぼす影響も小さい。そして、上述した窒化処理は、その方法として液体窒化(塩浴窒化)法やガス窒化法等が挙げられる。なお、本件発明において窒化処理を施す場合には、安価なガス窒化法を用いることが好ましい。また、オイルリング本体の一部分にのみ窒化層を形成する場合は、オイルリング本体の全面に窒化層を形成した後、後処理により不必要な部分の窒化層を除去する方法や、マスキング処理として、例えば予め窒化層を形成しない部分に窒化防止剤(水ガラスやニッケル-リンめっき等)を付着させ、その後窒化処理を施す方法等により、窒化層を部分的に形成することが可能である。また、窒化層を部分的に形成可能なイオン窒化により形成することもできる。
【0063】
なお、この実施例1では、シリンダボア径に対する張力比を0.24N/mmとしたオイルリングを使用して、オイル消費量の確認を行った。表1には、実施例1のオイル消費量比を、本件発明の条件を満足しないオイルリング(以下に示す比較例2)を用いて実機試験をして得られたオイル消費量を基準「1」として、これに対する相対比で表示している。その結果、実施例1のオイル消費量比は0.78となった。
【実施例2】
【0064】
実施例2では、排気量が1500cc、シリンダボア径が73mmの4気筒ガソリンエンジンの実機試験を行い、オイルリングのコイルエキスパンダ収容凹部の内周面にオイル戻し溝が有るものと無いものとでオイル消費量に違いが生じるか否かについての確認を行った。また、実施例2では、実施例1と同じ駆動条件でエンジンを駆動させて、用いるオイルリング本体の形状等の相違がオイルリングの特性(オイル消費性能)にどのような影響を及ぼすかについて確認を行った。そして、用いるピストンリングは、実施例1と同様に、1stリング、2ndリング、オイルリングとした。このときの1stリングは、実施例1と同様に、10Cr鋼からなる軸方向幅(h1)1.2mm、径方向幅(a1)2.9mmのものにガス窒化処理を施したものを用いた。2ndリングは、実施例1と同様に、FC材からなる軸方向幅(h1)1.2mm、径方向幅(a1)3.4mmのものを用いた。また、実施例2のオイルリングは、実施例1と同様に、2ピース構成の内燃機関用オイルリングを使用した。このときのオイルリングは、実施例1と同様に、オイルリング本体が8Cr鋼からなるものにガス窒化処理を施した(図7中Fで示す窒化層の厚さが100μmに形成されていることを確認)ものを用い、コイルエキスパンダがSWOSC-V材相当材からなるものを用いた。そして、実施例2で用いる1stリング、2ndリング、及びオイルリングの組成は、実施例1と同様とした。但し、実施例2で用いるオイルリングは、その形状に関して実施例1と異なるものを用いた。
【0065】
実施例2で用いるオイルリングは、オイルリング本体の軸方向幅(h1)が1.50mm、オイルリング径方向幅(a1)が1.70mm、コイルエキスパンダ配置後のオイルリングのオイルリング径方向幅(a12)が2.14mmに設定されたものである。また、実施例2で使用するオイルリングは、そのコイルエキスパンダ収容凹部に連接して形成されるオイル戻し溝の形状が、オイルリング軸方向断面の外周形状において、直線と当該直線に連続する曲線とから構成されるものであって、当該オイル戻し溝にコイルエキスパンダ収容凹部から連接した延設曲面(曲率半径が0.09mm)を備えたものものである。また、実施例2のオイルリングは、当該オイル戻し溝のオイルリング径方向深さをAとし、当該ウェブのオイル戻し溝形成前におけるオイルリング径方向幅をBとした場合、A/Bが0.18となり、当該A/Bが本件発明の条件である0.05?0.50の範囲内となるものである。すなわち、実施例2で用いるオイルリングは、具体的には下記に示す仕様のものである。なお、実施例2で用いるオイルリングのより詳細な設定については、以下の表2に示してある。
【0066】
オイル戻し溝のオイルリング径方向深さ(A) :0.09mm
ウェブのオイル戻し溝形成前におけるオイルリング径方向幅(B):0.49mm
オイル戻し溝のオイルリング軸方向幅(X) :0.65mm
オイル戻し孔の開口幅(C) :1.50mm
オイル戻し孔の開口高さ(D) :0.40mm
シリンダボア径に対する張力
比 :0.07N/mm
【0067】
なお、この実施例2では、シリンダボア径に対する張力比を0.07N/mmとしたオイルリングを使用して、オイル消費量の確認を行った。表1には、実施例2のオイル消費量比を、本件発明の条件を満足しないオイルリング(以下に示す比較例4)を用いて実機試験をして得られたオイル消費量を基準「1」として、これに対する相対比で表示している。その結果、実施例2のオイル消費量比は0.85となった。
【実施例3】
【0068】
実施例3では、実施例2と同じエンジンを用い、また、実施例2と同じ駆動条件でエンジンを駆動させて、用いるオイルリング本体の形状等の相違がオイルリングの特性(オイル消費性能)にどのような影響を及ぼすかについて確認を行った。そして、用いるピストンリングは、実施例1及び実施例2と同様に、1stリング、2ndリング、オイルリングとした。このときの1stリングは、実施例1及び実施例2と同様に、10Cr鋼からなる軸方向幅(h1)1.2mm、径方向幅(a1)2.9mmのものにガス窒化処理を施したものを用いた。2ndリングは、実施例1及び実施例2と同様に、FC材からなる軸方向幅(h1)1.2mm、径方向幅(a1)3.4mmのものを用いた。また、実施例3のオイルリングは、実施例1及び実施例2と同様に、2ピース構成の内燃機関用オイルリングを使用した。このときのオイルリングは、実施例1及び実施例2と同様に、オイルリング本体が8Cr鋼からなるものにガス窒化処理を施したもの(図7中Fで示す窒化層の厚さが100μmに形成されていることを確認)を用い、コイルエキスパンダがSWOSC-V材相当材からなるものを用いた。そして、実施例3で用いる1stリング、2ndリング、及びオイルリングの組成は、実施例1及び実施例2と同様とした。但し、実施例3で用いるオイルリングは、その形状に関して実施例1及び実施例2と異なるものを用いた。
【0069】
実施例3で用いるオイルリングは、オイルリング本体の軸方向幅(h1)が1.50mm、オイルリング径方向幅(a1)が1.70mm、コイルエキスパンダ配置後のオイルリングのオイルリング径方向幅(a12)が2.32mmに設定されたものである。また、実施例3で使用するオイルリングは、そのコイルエキスパンダ収容凹部に連接して形成されるオイル戻し溝の形状が、オイルリング軸方向断面の外周形状において、直線と当該直線に連続する曲線とから構成されるものであって、当該オイル戻し溝にコイルエキスパンダ収容凹部から連接した延設曲面(曲率半径が0.09mm)を備えたものものである。また、実施例3のオイルリングは、当該オイル戻し溝のオイルリング径方向深さをAとし、当該ウェブのオイル戻し溝形成前におけるオイルリング径方向幅をBとした場合、A/Bが0.30となり、当該A/Bが本件発明の条件である0.05?0.50の範囲内となるものである。すなわち、実施例3で用いるオイルリングは、具体的には下記に示す仕様のものである。なお、実施例3で用いるオイルリングのより詳細な設定については、以下の表2に示してある。
【0070】
オイル戻し溝のオイルリング径方向深さ(A) :0.17mm
ウェブのオイル戻し溝形成前におけるオイルリング径方向幅(B):0.57mm
オイル戻し溝のオイルリング軸方向幅(X) :0.65mm
オイル戻し孔の開口幅(C) :1.50mm
オイル戻し孔の開口高さ(D) :0.40mm
シリンダボア径に対する張力
比 :0.07N/mm
【0071】
なお、この実施例3では、シリンダボア径に対する張力比を0.07N/mmとしたオイルリングを使用して、オイル消費量の確認を行った。表1には、実施例3のオイル消費量比を、本件発明の条件を満足しないオイルリング(以下に示す比較例4)を用いて実機試験をして得られたオイル消費量を基準「1」として、これに対する相対比で表示している。その結果、実施例3のオイル消費量比は0.85となった。
【比較例】
【0072】
[比較例1]
比較例1は、実施例1との対比用として用いる。比較例1では、実施例1と同じエンジンを用いて、実施例1と同じ駆動条件でエンジンを駆動させてオイル消費量の確認を行った。そして、比較例1のピストンリングは、実施例1と同様に、ピストンリングは、1stリング、2ndリング、オイルリングを組み合わせたものを使用した。ここで、1stリング及び2ndリングは実施例1で使用したものと同様のものである。また、比較例1のオイルリングに関しては、オイルリング本体のオイル戻し溝の形状を除き、実施例1と同じ設定条件のものを用いた。ちなみに、比較例1のオイルリングは、オイルリング本体にオイル戻し溝の形成がされているものの、当該オイル戻し溝にコイルエキスパンダ収容凹部から連接する延設曲面が備わっていないものである。具体的には、比較例1で用いるオイルリングは、下記に示す仕様のものである。なお、比較例1で用いるオイルリングのより詳細な設定については、実施例1と併せて以下の表1に示してある。
【0073】
オイル戻し溝のオイルリング径方向深さ(A) :0.04mm
ウェブのオイル戻し溝形成前におけるオイルリング径方向幅(B):0.49mm
オイル戻し溝のオイルリング軸方向幅(X) :0.70mm
オイル戻し孔の開口幅(C) :2.00mm
オイル戻し孔の開口高さ(D) :0.50mm
シリンダボア径に対する張力
比 :0.24N/mm
【0074】
ここで、比較例1のオイルリングは、オイル戻し溝のオイルリング径方向深さをAとし、ウェブのオイル戻し溝形成前におけるオイルリング径方向幅をBとした場合、A/Bが約0.08となり、当該A/Bが本件発明の条件である0.05?0.50の範囲内となるものである。そして、この比較例1では、実施例1と同様に、シリンダボア径に対する張力比が0.24N/mmのものを用いて、オイル消費量の確認を行った。表1には、本件発明の条件を満足しないオイルリング(以下に示す比較例2)を用いて実機試験をして得られたオイル消費量を基準「1」として、これに対する相対比で表示している。その結果、比較例1のオイル消費量比は0.80となった。
[比較例2]
比較例2は、実施例1との対比用として用いる。比較例2では、実施例1と同じエンジンを用いて、実施例1と同じ駆動条件でエンジンを駆動させてオイル消費量の確認を行った。そして、比較例2のピストンリングは、実施例1と同様に、ピストンリングは、1stリング、2ndリング、オイルリングを組み合わせたものを使用した。ここで、1stリング及び2ndリングは実施例1で使用したものと同様のものである。また、比較例2のオイルリングに関しては、オイルリング本体にオイル戻し溝が形成されていない点を除き、実施例1と同じ設定条件のものを用いた。具体的には、比較例2で用いるオイルリングは、下記に示す仕様のものである。なお、比較例2で用いるオイルリングのより詳細な設定については、実施例1と併せて以下の表1に示してある。
【0075】
オイル戻し溝のオイルリング径方向深さ(A) :0mm
ウェブのオイル戻し溝形成前におけるオイルリング径方向幅(B):0.45mm
オイル戻し溝のオイルリング軸方向幅(X) :0mm
オイル戻し孔の開口幅(C) :2.00mm
オイル戻し孔の開口高さ(D) :0.50mm
シリンダボア径に対する張力比 :0.20N/mm
【0076】
ここで、比較例2のオイルリングは、オイル戻し溝の形状に関し、オイルリング軸方向断面における外周形状が直線のみで構成されているものを用いた。そして、比較例2のオイルリングは、オイル戻し溝のオイルリング径方向深さをAとし、ウェブのオイル戻し溝形成前におけるオイルリング径方向幅をBとした場合、A/Bが0となり、当該A/Bが本件発明の条件である0.05?0.50の範囲外となるものである。そして、この比較例2では、シリンダボア径に対する張力比が0.20N/mmのものを用いてオイル消費量の確認を行った。なお、表1には、上述したように、比較例2のピストンリングの組合せを用いて実機試験をして得られたオイル消費量比を基準「1」として示している。
【0077】
[比較例3]
比較例3は、実施例2及び実施例3との対比用として用いる。比較例3では、実施例2及び実施例3と同じエンジンを用いて、実施例2及び実施例3と同じ駆動条件でエンジンを駆動させてオイル消費量の確認を行った。そして、比較例3のピストンリングは、実施例2及び実施例3と同様に、ピストンリングは、1stリング、2ndリング、オイルリングを組み合わせたものを使用した。ここで、1stリング及び2ndリングは実施例2及び実施例3で使用したものと同様のものである。また、比較例3のオイルリングに関しては、オイルリング本体のオイル戻し溝の形状を除き、実施例2と同じ設定条件のものを用いた。ちなみに、比較例3のオイルリングは、オイルリング本体にオイル戻し溝の形成がされているものの、当該オイル戻し溝にコイルエキスパンダ収容凹部から連接する延設曲面が備わっていないものである。具体的には、比較例3で用いるオイルリングは、下記に示す仕様のものである。なお、比較例3で用いるオイルリングのより詳細な設定については、実施例2及び実施例3と併せて以下の表2に示してある。
【0078】
オイル戻し溝のオイルリング径方向深さ(A) :0.09mm
ウェブのオイル戻し溝形成前におけるオイルリング径方向幅(B):0.49mm
オイル戻し溝のオイルリング軸方向幅(X) :0.65mm
オイル戻し孔の開口幅(C) :1.50mm
オイル戻し孔の開口高さ(D) :0.40mm
シリンダボア径に対する張力
比 :0.07N/mm
【0079】
ここで、比較例3のオイルリングは、オイル戻し溝のオイルリング径方向深さをAとし、ウェブのオイル戻し溝形成前におけるオイルリング径方向幅をBとした場合、A/Bが0となり、当該A/Bが本件発明の条件である0.05?0.50の範囲外となるものである。そして、この比較例3では、実施例2及び実施例3と同様に、シリンダボア径に対する張力比が0.07N/mmのものを用いてオイル消費量の確認を行った。表2には、本件発明の条件を満足しないオイルリング(以下に示す比較例4)を用いて実機試験をして得られたオイル消費量を基準「1」として、これに対する相対比で表示している。その結果、比較例3のオイル消費量比は0.87となった。
【0080】
[比較例4]
比較例4は、実施例2及び実施例3との対比用として用いる。比較例4では、実施例2及び実施例3と同じエンジンを用いて、実施例2及び実施例3と同じ駆動条件でエンジンを駆動させてオイル消費量の確認を行った。そして、比較例4のピストンリングは、実施例2及び実施例3と同様に、ピストンリングは、1stリング、2ndリング、オイルリングを組み合わせたものを使用した。ここで、1stリング及び2ndリングは実施例2及び実施例3で使用したものと同様のものである。また、比較例4のオイルリングに関しては、オイルリング本体にオイル戻し溝が形成されていない点を除き、実施例2と同じ設定条件のものを用いた。具体的には、比較例4で用いるオイルリングは、下記に示す仕様のものである。なお、比較例4で用いるオイルリングのより詳細な設定については、実施例2及び実施例3と併せて以下の表2に示してある。
【0081】
オイル戻し溝のオイルリング径方向深さ(A) :0mm
ウェブのオイル戻し溝形成前におけるオイルリング径方向幅(B):0.49mm
オイル戻し溝のオイルリング軸方向幅(X) :0mm
オイル戻し孔の開口幅(C) :1.50mm
オイル戻し孔の開口高さ(D) :0.40mm
シリンダボア径に対する張力
比 :0.07N/mm
【0082】
ここで、比較例4のオイルリングは、オイル戻し溝のオイルリング径方向深さをAとし、ウェブのオイル戻し溝形成前におけるオイルリング径方向幅をBとした場合、A/Bが0となり、当該A/Bが本件発明の条件である0.05?0.50の範囲外となるものである。そして、この比較例4では、実施例2及び実施例3と同様に、シリンダボア径に対する張力比が0.07N/mmのものを用いてオイル消費量の確認を行った。なお、表2には、上述したように、比較例4のピストンリングの組合せを用いて実機試験をして得られたオイル消費量比を基準「1」として示している。
【0083】
[実施例と比較例との対比]
実施例1と比較例1及び比較例2との対比: 図8は、軸方向幅が2.00mmのオイルリングを用いた場合において、オイル戻し溝のオイルリング軸方向断面形状とオイル消費量比との関係を示すグラフである。図8には、以下の表1に示したオイルリングの形状がそれぞれ異なる、実施例1、比較例1、及び比較例2について、オイル消費量を対比した結果を示している。この図8のオイル消費量比は、比較例2のオイルリング(オイル戻し溝なし)を用いたときのオイル消費量(g/h)の数値を1.00とした場合の比率である。これらの結果を対比可能なように、図8に纏めて示す。図8より、最もオイル消費量の少ない結果となったのが実施例1のオイルリングを用いた場合であり、オイルリング本体に形成されるオイル戻し溝が、コイルエキスパンダ収容凹部から連接した延設曲面(曲率半径が0.10mm)を備えたものである。その次にオイル消費量の少ない結果となったのが比較例1のオイルリングを用いた場合であり、オイルリング本体にオイル戻し溝の形成がされているものの、当該オイル戻し溝にコイルエキスパンダ収容凹部から連接した延設曲面が備わっていないものである。そして、最もオイル消費量が多い結果となったのが比較例2のオイルリングであり、オイル戻し溝の形成されていないものである。
【0084】
【表1】

【0085】
以上の結果より、軸方向幅が2.00mmのオイルリングを用いた場合において、オイルリングは、オイルリング本体にオイル戻し溝を形成することでオイル消費量を大幅に削減することができることが分かった。また、このときに、当該オイル戻し溝のオイルリング径方向深さAが、ウェブのオイル戻し溝形成前におけるオイルリング径方向幅Bとの関係において、本件発明に規定する条件(A/B=0.05?0.50)を満足することで、更にオイル消費量の削減効果の向上が図られることが分かった。また、実施例1と比較例1との対比結果より、オイルリング本体に形成されるオイル戻し溝が、コイルエキスパンダ収容凹部から連接した延設曲面を本件発明に規定する条件の曲率半径(0.01?0.30mm)により備えることが、オイル消費の削減の観点からみてより好ましいことが分かった。
【0086】
実施例2及び実施例3と比較例3及び比較例4との対比: 図9は、軸方向幅が1.50mmのオイルリングを用いた場合において、オイル戻し溝のオイルリング軸方向断面形状とオイル消費量比との関係を示すグラフである。図9には、以下の表2に示したオイルリングの形状がそれぞれ異なる、実施例2、実施例3、比較例3、及び比較例4について、オイル消費量を対比した結果を示している。この図9のオイル消費量比は、比較例4のオイルリング(オイル戻し溝なし)を用いたときのオイル消費量(g/h)の数値を1.00とした場合の比率である。これらの結果を対比可能なように、図9に纏めて示す。図9より、最もオイル消費量の少ない結果となったのが実施例2及び実施例3のオイルリングを用いた場合であり、オイルリング本体に形成されるオイル戻し溝が、コイルエキスパンダ収容凹部から連接した延設曲面(曲率半径が0.09mm)を備えたものである。その次にオイル消費量の少ない結果となったのが比較例3のオイルリングを用いた場合であり、オイルリング本体にオイル戻し溝の形成がされているものの、当該オイル戻し溝にコイルエキスパンダ収容凹部から連接した延設曲面が備わっていないものである。そして、最もオイル消費量が多い結果となったのが比較例4のオイルリングであり、オイル戻し溝の形成されていないものである。
【0087】
【表2】

【0088】
以上の結果より、軸方向幅が1.50mmのオイルリングを用いた場合においても、上述の軸方向幅が2.00mmのオイルリングを用いて試験を行った場合と同様に、オイルリングは、オイルリング本体にオイル戻し溝を形成することでオイル消費量を大幅に削減することができることが分かった。また、このときに、当該オイル戻し溝のオイルリング径方向深さAが、ウェブのオイル戻し溝形成前におけるオイルリング径方向幅Bとの関係において、本件発明に規定する条件(A/B=0.05?0.50)を満足することで、更にオイル消費量の削減効果の向上が図られることが分かった。ここで、当該A/Bが0.18の実施例2と、当該A/Bが0.30の実施例3とは、共にオイル消費量比が0.85であることから、本件発明に規定する条件(A/B=0.05?0.50)を満足する限りにおいて、オイル消費量に及ぼす影響に差が生じないと考えられる。また、実施例2及び実施例3と比較例1との対比結果より、オイルリング本体に形成されるオイル戻し溝が、コイルエキスパンダ収容凹部から連接した延設曲面を本件発明に規定する条件の曲率半径(0.01?0.30mm)により備えることが、オイル消費の削減の観点からみてより好ましいことが分かった。
【0089】
以上において、本件発明に規定する条件を満たした実施例のオイルリングは、当該条件を満たさない比較例のオイルリングと比較してオイル消費量の削減効果が得られることを示したが、オイルリング本体の寸法を本件発明で規定する条件範囲内に設定することが好ましい根拠を、更に以下の確認試験を行うことにより示す。
【0090】
[オイルリング本体を構成するウェブのオイルリング径方向幅に対する発生応力確認試験]
オイルリング本体を構成するウェブのオイルリング径方向幅と発生応力との関係を確認するために、実施例と同じ運転条件でエンジンを稼働させた場合にオイルリングにかかる荷重を想定し、当該荷重をオイルリングに負荷したときに発生する応力σを測定した。具体的には、コイルエキスパンダを配置した状態でオイルリングをシリンダに装着した時に、オイルリング本体を構成するウェブのオイル戻し溝形成前におけるオイルリング径方向幅Bと発生応力との関係を算出した。
【0091】
図10は、オイルリング本体を構成するウェブのオイルリング径方向幅と発生応力との関係を示すグラフである。図10には、上述した応力測定方法に基づいて試験を実施し、オイルリング本体を構成するウェブのオイルリング径方向幅と発生応力との関係についての結果が示してある。図10に示すように、当該ウェブのオイルリング径方向幅が0.06mmのときの発生応力は約550MPa、当該ウェブのオイルリング径方向幅が0.20mmのときの発生応力は約250MPa、当該ウェブのオイルリング径方向幅が0.45mmのときの発生応力は約220MPaとなった。図10には、ここで得られた各データを平滑線でつないだものを示している。
【0092】
内燃機関用オイルリングに必要とされる耐久性を考慮した場合、500MPa以下であることが好ましい。図10より、オイルリング本体に発生する応力が500MPaを超えるのは、オイルリングを構成するウェブのオイルリング径方向幅が約0.08mm未満となるときであることが分かる。この結果より、内燃機関用オイルリングに必要とされる耐久性を考慮すると、オイルリング本体を構成するウェブのオイルリング径方向幅は約0.08mm以上必要であることが分かる。但し、本件発明に係る内燃機関用オイルリングのように、ウェブにオイル戻し溝を形成する形態においては、本件発明に規定する条件「オイル戻し溝のオイルリング径方向深さをAとし、ウェブの当該オイル戻し溝形成前におけるオイルリング径方向幅をBとした場合に、A/B=0.05?0.50」を満足する必要がある。ここで、当該A/Bが0.50の場合を考慮すると、オイルリング本体を構成するウェブのオイル戻し溝形成前におけるオイルリング径方向幅Bは、計算上約0.16mm以上の幅が必要になる。なお、内燃機関用オイルリングは、例えばディーゼルエンジン用オイルリング等のように過酷な条件下での使用を考慮すると、経験的に約350MPa以下であることがより好ましい。図10より、オイルリング本体に発生する応力が350MPaを超えるのは、オイルリングを構成するウェブのオイルリング径方向幅が、約0.15mm未満となるときであることが分かる。ここで、当該A/Bが0.50の場合を考慮すると、ウェブのオイル戻し溝形成前におけるオイルリング径方向幅Bは、計算上約0.30mm以上の幅が必要になる。以上のことから、本件発明に係る内燃機関用オイルリングは、過酷な条件下での使用を考慮すると、オイルリング本体を構成するウェブのオイル戻し溝形成前におけるオイルリング径方向幅Bが、0.30mm以上あることがより好ましい。
【0093】
以上のことから、本件発明に係る内燃機関用オイルリングは、オイルリング本体の内周側に連接して形成するオイル戻し溝をオイルリング軸方向断面でみて、その外周形状が直線と当該直線に連続する曲線とで構成されることで、内燃機関の駆動時のオイル消費量を確実に低減させることができることとなる。また、本件発明に係る内燃機関用オイルリングによれば、当該オイル戻し溝が本件発明に規定する条件を満足する形状となることによって、シリンダ内壁面の余分なオイルを掻き取り、ピストン裏面に流下させる機能を長期間安定して得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本件発明に係る内燃機関用オイルリングは、あらゆる内燃機関に適用可能なものであり、このオイルリングを用いることで、内燃機関の駆動時のオイル消費の低減化、及び、オイルリング自身の耐摩耗性能の向上を図ることができ、また同時に、これら機能を高めるために必要なシリンダ内壁面に対する押圧力の安定化と設計自由度の向上化を図ることができる。従って、自動車用内燃機関に本件発明に係る内燃機関用オイルリングを用いることで、オイル供給頻度の低減と資源の有効利用、環境負荷の低減化が可能となり好ましい。
【符号の説明】
【0095】
1 内燃機関用オイルリング
2 オイルリング本体
2a 合口部
2b コイルエキスパンダ収容凹部
2c 外周溝
2d オイル戻し溝
3 コイルエキスパンダ
4 ウェブ
5 第1レール
6 第2レール
7 オイル戻し孔
10 ピストン
12 オイルドレイン孔
20 シリンダ
21 シリンダ内壁面
A オイル戻し溝のオイルリング径方向深さ
B ウェブの当該オイル戻し溝形成前におけるオイルリング径方向幅
C オイル戻し孔の開口幅
D オイル戻し孔の開口高さ
E オイル戻し孔のピッチ
F 窒化層の厚さ
G オイル戻し溝の曲面
X オイル戻し溝のオイルリング軸方向幅
h1 オイルリング本体の軸方向幅
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイルリング軸方向断面が略I字型のオイルリング本体と当該オイルリング本体内周側に配置されるコイルエキスパンダとからなり、
当該オイルリング本体は、シリンダ内壁面を摺動する第1レールと、第2レールと、当該第1レール及び第2レールがシリンダの内壁面より掻き落としたオイルをピストン裏面へ流下させるための複数のオイル戻し孔を備えるウェブとで構成され、
当該オイルリング本体は、その内周面に沿って、オイルリング軸方向の断面が略半円状のコイルエキスパンダ収容凹部を備え、
更に、当該コイルエキスパンダ収容凹部の内周面には、その内周方向に沿って、掻き落としたオイルをピストン裏面へスムーズに戻すためのオイル戻し溝が形成され、
当該オイル戻し溝は、オイルリング軸方向断面において、その外周形状が直線と、当該直線に連続し、且つ、当該コイルエキスパンダ収容凹部から連接する延設曲線とから構成されると共に、
当該オイル戻し溝のオイルリング径方向深さをAとし、前記ウェブの当該オイル戻し溝形成前におけるオイルリング径方向幅をBとした場合、A/B=0.05?0.50で、Bが0.3mm以上であることを特徴とする内燃機関用オイルリング。
【請求項2】
前記オイルリング本体に備わるコイルエキスパンダ収容凹部のオイルリング軸方向断面における曲率半径をr1、前記コイルエキスパンダのオイルリング軸方向断面における曲率半径をr2とした場合、r2/r1=0.8?1.0未満である請求項1に記載の内燃機関用オイルリング。
【請求項3】
前記オイルリング本体を構成するウェブに設けるオイル戻し孔は、当該オイルリング本体の円周方向に沿った開口幅が0.5mm?5.0mmであり、且つ、オイルリング軸方向に沿った開口高さが0.2mm?0.8mmである請求項1又は請求項2に記載の内燃機関用オイルリング。
【請求項4】
前記オイルリング本体のオイルリング軸方向幅h1は、1.0mm?2.5mmである請求項1?請求項3のいずれかに記載の内燃機関用オイルリング。
【請求項5】
前記オイルリングのシリンダボア径に対する張力比は、0.05N/mm?0.5N/mmである請求項1?請求項4のいずれかに記載の内燃機関用オイルリング。
【請求項6】
前記オイルリング本体に形成されるオイル戻し溝の当該オイルリング軸方向断面において構成される曲線は、前記コイルエキスパンダ収容凹部から連接する延設曲線の曲率半径が、0.01?0.30mmである請求項1?請求項5のいずれかに記載の内燃機関用オイルリング。
【請求項7】
前記オイルリング本体を構成するウェブに備わるオイル戻し孔の当該ウェブの周方向におけるピッチをE、当該オイル戻し孔の当該ウェブの周方向における長さをCとした場合、C/(E-C)=0.1?1.2である請求項1?請求項6のいずれかに記載の内燃機関用オイルリング。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2018-09-26 
結審通知日 2018-09-28 
審決日 2018-10-10 
出願番号 特願2012-511671(P2012-511671)
審決分類 P 1 41・ 852- Y (F16J)
最終処分 成立  
前審関与審査官 中尾 麗  
特許庁審判長 大町 真義
特許庁審判官 小関 峰夫
平田 信勝
登録日 2015-07-10 
登録番号 特許第5773500号(P5773500)
発明の名称 内燃機関用オイルリング  
代理人 柳下 彰彦  
代理人 柳下 彰彦  

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