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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1346296
審判番号 不服2017-8695  
総通号数 229 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-06-14 
確定日 2018-11-14 
事件の表示 特願2014-514829「回折格子を生産する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年12月13日国際公開,WO2012/169889,平成26年 8月21日国内公表,特表2014-520285〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本件拒絶査定不服審判事件に係る出願(以下,「本件出願」という。)は,2012年6月7日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年6月8日,欧州特許庁)を国際出願日とする外国語特許出願であって,平成26年2月4日に国際出願日における明細書,請求の範囲及び図面の翻訳文が提出され,平成28年3月30日付けで拒絶理由が通知され,同年9月1日に意見書及び手続補正書が提出されたが,平成29年2月9日付けで拒絶査定(以下,「原査定」という。)がなされた。
本件拒絶査定不服審判は,これを不服として,同年6月14日に請求されたものである。


2 本件出願の請求項1に係る発明
本件出願の請求項1ないし9に係る発明は,平成28年9月1日提出の手続補正書によって補正された請求の範囲の翻訳文の請求項1ないし9に記載された事項によって特定されるものと認められるところ,請求項1の記載は次のとおりである。

「マスタ格子(1200)または該マスタ格子(1200)のレプリカ格子(150)に,特定の入射角(θ_(i))により投射する特定の波長(λ)の光を回折する,該マスタ格子(1200)を製造する方法であって,該マスタ格子(1200)は,前記マスタ格子(1200)の平面(200’)に沿って平行に延びる溝(1210)の配列を含み,前記溝(1210)同士は,格子周期(d)の分だけ離されており,前記溝(1210)は,平らな界面(601’,602’)を備える三角形のプロファイルを含み,前記界面のうちの1つ(601’)は,前記平面(200’)に対してブレーズ角(θ_(b))をなし,前記方法は,
-実質的に単結晶の材料を含むウエハ(1250)を準備するステップであって,前記材料は,第1(111a),第2(111b),および第3(100)結晶面を有し,前記第1(111a)および第2(111b)結晶面は,交角(α’)で互いに交差し,前記ウエハ(1250)は,前記第1結晶面(111a)に対して前記ブレーズ角(θ_(b))と等しい切断角を有するウエハ表面(200’)に沿って切断される,前記ステップと,
-前記ウエハ表面(200’)の複数部分に,平行ストリップ(1211)のパターンで,耐エッチング材料(1201)を施すステップであって,前記ストリップ(1211)の中央同士は,前記格子周期(d)の分だけ離されており,前記ウエハ表面(200’)の露出部分が,前記ストリップ(1211)間に形成される,前記ステップと,
-前記露出部分に前記溝(1210)を形成するために,前記第1および第2結晶面(111a,111b)の法線方向よりも前記第3結晶面(100)の法線方向においてより速くエッチングする異方性エッチングプロセス(1202)を,前記ウエハ表面(200’)に施すステップであって,前記溝の前記平らな界面は,前記第1および第2結晶面(111a,111b)に沿って形成される,前記ステップと,
を含み,前記方法は,
-所与の前記格子周期(d)およびブレーズ角(θ_(b))に関し,前記光の所望の回折効率(η)の関数として,前記ウエハ表面(200’)に対する前記溝(1210)の波形振幅(A)を計算するステップと,
-前記耐エッチング材料(1201)を施す前記ステップにおいて,隣接するストリップの露出した端部から前記ウエハ表面(200’)へと延在し,前記計算された波形振幅(A)と等しい深さにおいて前記交角(α’)で互いに交差する,前記平らな界面(601’,602’)により前記溝(1210)が形成されるように,前記ストリップ(1211)の線幅(W)を制御するステップと,
をさらに含む,方法。」(以下,当該請求項1に係る発明を「本件発明」という。)


3 原査定の拒絶の理由の概要
(1) 本件発明に対する原査定の拒絶の理由(以下,「査定理由」という。)は,概略,次のとおりである。

本件発明は,引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

(2) 査定理由で引用された引用例は,次のとおりである。
引用文献1:特開2000-89011号公報
引用文献2:米国特許出願公開第2003/0016449号明細書


4 引用例
(1)引用文献1
ア 引用文献1の記載
引用文献1(特開2000-89011号公報)は,本件出願の優先権主張の日(以下,「本件優先日」という。)より前に頒布された刊行物であるところ,当該引用文献1には次の記載がある。(下線は,後述する「引用発明」の認定に特に関係する箇所を示す。)
(ア) 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,回折格子に関し,特に写真平版技術により製造された回折格子に関する。
【0002】
【従来の技術】レーザーは,例えば研究,開発,製造,医学,通信,及び消費者製品等の多くの用途を有する。・・・(中略)・・・例えば,レーザーは,集積回路製造のため,深紫外線(DUV)(約180?280nm)写真平版に使用され,それによりレーザーのより短い波長を活用することにより小さい構造を生じることができるようにする。・・・(中略)・・・写真平版にレーザーが使用されるとき,レーザーからの光の波長帯域を比較的狭くして,マスキング層上の光の焦点合わせに悪影響を及ぼす波長の変化を最小限にして,写真平版の特徴である品質と鮮明さに作用するようにするのが好ましい。
【0003】レーザーのスペクトルを狭くする最も普通の方法の1つは,回折格子をレーザーキャビティ自体の一部として使用するか,又は特定の好ましい又は好ましくない波長を濾波することである。全ての異なる種類の回折格子の中で,エシェル格子,即ちエシェルが,エキシマレーザーでスペクトルを狭くするのに特に有用である。一般に,エシェルは,高回折角度と高次元スペクトルで使用される粗いが正確に刻線された格子である。一般的な溝の本数は,316本/mm又はそれ以下である。エシェルの特別な性質は,高分散であり小型で高スループットのシステムができ,ある大きさの格子としては高分解能であり,また損傷に抵抗性があることである。さらに,それらはブレーズの方向から遠くではめったに使用されないので,その効率は大きいスペクトル範囲で比較的高い。図1は,リトロー構成のエシェル格子の断面図である。格子100は平行な溝110を備え,該溝はそれぞれ2つのファセットを有し,溝の間隔はdである。ファセット120は,格子の平面に対してブレーズ角θで位置する。入射角αが回折角βと等しいとき,入射光130は,ある回折次数140(即ち,m次)で,光源に向かって戻るように伝播する。リトロー構成は回折の最大効率と対応し,次式により示される。

ここに,λは入射光の波長である。例えば,エキシマレーザーで約248nm,α=β=θ=78.80°で使用するのに好適なエシェルは,m=79次の回折ビームでは溝間隔d=10μmである。
【0004】エシェルの他の特徴は,そのλ/mで与えられるフリースペクトル範囲(FSR)であり,これは隣接する次数の(例えば,mとm+1次)重なり合いが起こらない波長範囲である。従って,上述の例では,エシェルのFSRは約3.14nmである。自由スペクトル範囲が,エシェルに特に重要な概念であるのは,高次数において対応する短い自由スペクトル範囲で動作するからである。分解能は,格子が(例えば,光源を分光的に持て,又はレーザーのゲイン特性内の)隣接するスペクトル線を分離する能力を示すエシェルの他の重要な性質である。リトロー構成で取り付けられた格子では,分解能Rは次式で与えられる。

ここにWは,溝間隔dに溝数Mをかけたもの,即ちWは格子の幅である。この関係を与えられると,高分解能を得ようとすると,非常に広い格子が必要であることは明らかである。
【0005】回折格子特にエシェルを製造する1つの伝統的な方法は,好適な基板上にアルミニウム又は金の薄い層等を形成した良い光学表面上に刻線機械で一連の溝を描く即ち刻線することである。しかし,格子の刻線には多くの困難がある。エシェルは,刻線するのがもっとも難しい格子と考えられているのは,回折角が高いため特別の刻線の正確さが必要であるが,機械の負荷が高く粗い溝の間隔で行わなければならないからである。高効率を保証するため,溝は,一貫して均一で正確な形状でなければならない。高屈折次数で使用するには,ピークの回折エネルギーを1つのブレーズの次数に集中させようとするなら,ブレーズの表面はナノメートルの公差で平らでなければならない。溝は又,平行で均一な間隔をあけて刻線しなければならない。溝の密度(例えば,溝/mm)が分散を決め,溝の位置の正確さがスペクトル像の品質を決めるからである。さらに,エシェルは,一般に他の回折格子より深い溝を有し(例えば,大きいブレーズ角のため),そのため金属コーティングを厚くしなければならず,その結果エシェルの平面の均一性に影響を及ぼす。このようのエシェルを製造するのに使用される刻線機械は,複雑な機械的装置で,遅く使用が難しいので,格子が非常に高価で製造に長時間かかる。
【0006】他の技術は,いわゆるホログラフィー格子を製造する。2つの単色のコヒーレントビームにより生じる干渉パターンを使用して,基板上のフォトレジスト膜を露光する。露光後,フォトレジストを現像して,基板をエッチングする。ホログラフィー格子は,比較的製造が容易であるが,このような格子に所望のブレーズ角でエッチングするのは容易でなく,寸法が100mmを超える高品質のホログラフィー格子を製造するのは非常に難しい。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】従って,比較的製作が容易で従来の格子製造方法と比較して迅速で安価に製作できる大きく高品質の回折格子特にエシェルを得られることが望ましい。
【0008】
【課題を解決するための手段】注意深く形成されたブレーズ角と欠陥のない反射表面を有する大きく高品質の回折格子が,写真平版又は微小機械加工技術を使用して,特別に方向付けた基板上に製作できることが分かった。表面が基板のある結晶面に対して分かった角度である単結晶基板を選択することにより,基板の異方性エッチングにより,特定の結晶面に対応する反射表面を有する回折格子の溝を形成できる。基板の表面と特定の結晶面の間の角度により,回折格子のブレーズ角が決まる。従って,例えばレーザー装置に使用する,又はレプリカ格子の製造においてマスター格子として使用する大きい高品質の回折格子を製作することができる。
・・・(中略)・・・
【0010】本発明のさらに他の局面では,回折格子を製作する方法が開示される。上面をゆする単結晶基板が設けられる。上面は,基板の第1結晶面との間にブレーズ角を形成するような向きである。フォトレジスト層が基板上に形成される。フォトレジスト層は,露光され現像されて,複数のほぼ平行なマスク形態を形成する。基板を第1腐食液で第3結晶面に沿って選択エッチングして,複数の溝を形成し,各溝は,2つの隣接するマスク形態の間に形成され,第1ファセットと第2ファセットとを有する。第1ファセットは第1結晶面とほぼ同一平面であり,第2ファセットは第2結晶面とほぼ同一平面である。マスク形態は,除去される。
・・・(中略)・・・
【0015】ここに記述した回折格子と回折格子の製作方法から,幾つかの利点が得られる。例えば直径300mmのシリコンウェハー等の大きな基板を使用して,大きな格子を製造することができる。複数の格子を結合することにより,更に大きい格子を製造することができる。格子を迅速で安価に製造できる・・・(中略)・・・レプリカの格子は,エッチングに使用するマスクによる欠陥等のマスター格子の欠陥を最小にするようにマスター格子から製造することができる。」

(イ) 「【0016】
【発明の実施の形態及び実施例】・・・(中略)・・・
【0017】ある用途で,例えば所望のブレーズ角の格子を製作する場合,シリコンをある結晶面に沿って他の面より急速にエッチングすることが有益である。この異方性エッチングにより,エッチングを著しく遅くし,又はシリコン中に特定の形状又は構造をエッチングすることができる。シリコンのダイヤモンドラチスでは,(111)面(又は{111}面と呼ばれるそれと同等の面)は,(100)面より稠密に充填されている。その結果,(111)方向面のエッチング速度は,(100)方向より遅いと予想される。1つの共通のシリコンの異方性湿式腐食液は,水酸化カリウム(KOH)とイソプロピルアルコールの混合物である。この腐食液のエッチング速度は,(111)面に沿ってより(100)面に沿って100倍速い。
【0018】ファセットが相互に所望の角度をなす溝を有する回折格子をエッチングするためには,単結晶基板の結晶面の相対的角度と,回折格子の面,例えば基板の面に対するこれらの面の方向との両方を考慮して,単結晶基板を注意深く選択しなければならない。図2は,単結晶シリコン200のブールを示す。・・・(中略)・・・シリコンブール200は,(100)面をブールの長さ方向(即ち,成長方向)に直角にして成長し,これは,半導体製造に共通な方向である。その結果,ブールから成長軸に直角に切出されたウェハーは,(100)方向の表面を有する。・・・(中略)・・・上述したように,{111}面の異方性エッチングを利用するためには,エッチングするウェハーは,(100)面の直角に対して角度φでブールから切出さし,続くエッチングで所望角度の格子溝のファセットの形態を生じるようにしなければならない。例えば,基板ウェハーの面即ち表面に対して78.81°の角度(即ち,格子のブレーズ角)で,異方性エッチングを使用して格子溝のファセットを製作するためには,表面と1つの{111}面との角度が78.81°になるように,基板ウェハーをブールから切出さなければならない。従って,基板300は,(100)面,矢印220で示す方向の直角に対して角度φ=24.07°でブール200から切出さなければならない(なぜなら,(111)面は(100)面と54.74°の角度を形成するからである)。次に基板300は,両面を研磨して均一な厚さで平坦(例えば,5μmより小さい平坦度)にすることを含む通常のウェハー製造プロセスを行う。
【0019】図3Aは,それぞれ302,304,306で示す{100}面と2つの{111}面の位置を含む基板300の断面を示す。基板300はまた,酸化層310を備える。・・・(中略)・・・
【0020】図3Bは,複数のフォトレジストマスクの形態320を示す。フォトレジストマスク形態320は,基板にフォトレジストの層をコーティングし,フォトレジストを例えば密着焼付技術又は直接書込みを使用してフォトマスクを通して露光し,フォトレジストを現像し,必要に応じてフォトレジストを硬化(例えば,加熱乾燥)することにより形成される。フォトマスクは,例えば電子ビームにより生じることができ,複数の平行なストライプを有する。ストライプの幅が,エッチングマスクの幅を形成し,ストライプのピッチ(即ち,1つのストライプの開始端部と次のストライプの開始端部の間の距離)が,最終的な溝の間隔dに関連する。例えば,ストライプの幅は約3μmで,ピッチは約12μmとすることができる。
【0021】次に,酸化層310が等方的にエッチングされ,フォトレジストマスク形態320は除去され,図3Cに示すように,複数の酸化物ハードマスク形態330を残す。図3Dは,{100}面が他の結晶面より急速にエッチングされる基板300の異方性エッチングの結果を示す。それぞれ複数のファセット342と344を有する複数の溝340が形成される。ここに示す例では,両方のファセットは{100}面(審決注:「{100}面」は誤記であり,正しくは{111}面と解される。)であり,ファセット間の角度は,単結晶シリコンの{100}面(審決注:「{100}面」は誤記であり,正しくは{111}面と解される。)の間の固有の角度により形成される。酸化物ハードマスク形態330は除去され,基板は洗浄され,図3Eに示すように,DUV光線に対して高反射率の真空蒸着アルミニウム等の反射材料のコーティング350が,エッチングされた基板表面上に形成される。・・・(中略)・・・
【0022】隣接する溝340間の頂端部の平面360は,溝をエッチングするのに使用したマスクによる。平面360は,入射光がファセット342等のブレーズのファセットから反射しないようにするので,一般に好ましくない。・・・(中略)・・・図4A?Eに示すように,格子のレプリカを作ることにより,平面をなくすことができる。
【0023】レプリカ格子の製作は,格子400等のマスター格子で始まる。格子400は図3Eの格子に似ているが,反射コーティング350は形成されず,分離混合物410の薄膜が格子の上に形成される。・・・(中略)・・・複製プロセスのこの点で,反射コーティングを形成することはできず,その代わりレプリカ格子がマスター格子から分離した後反射コーティングを加えることができる。次に,図4Cに示すように,樹脂430を使用してコーティングしたマスター格子400をレプリカ基板440に結合し,樹脂を重合させる。・・・(中略)・・・図4Dは,樹脂430が十分に硬化した後にマスター格子をレプリカから分離することを示す。・・・(中略)・・・レプリカ格子450・・・(中略)・・・マスター格子の各溝の底部でファセットが合うので,レプリカ格子の溝間の頂端部460は一般に鋭いエッジとなり,図3Eに示す平面360はない。」

(ウ) 「【図面の簡単な説明】
【図1】 リトロー構成のエシェル格子の幾何学的形態を示す。
【図2】 回折格子の基板がシリコンのブールからどのように切断されるかを示す。
【図3A】 回折格子製作プロセスの各点における回折格子の断面図。
【図3B】 回折格子製作プロセスの各点における回折格子の断面図。
【図3C】 回折格子製作プロセスの各点における回折格子の断面図。
【図3D】 回折格子製作プロセスの各点における回折格子の断面図。
・・・(中略)・・・。
【図4A】 図3A-3Eの回折格子又は同様の回折格子から形成されたレプリカ回折格子の断面図。
・・・(中略)・・・
【図4C】 図3A-3Eの回折格子又は同様の回折格子から形成されたレプリカ回折格子の断面図。
【図4D】 図3A-3Eの回折格子又は同様の回折格子から形成されたレプリカ回折格子の断面図。
【図4E】 図3A-3Eの回折格子又は同様の回折格子から形成されたレ
プリカ回折格子の断面図。
・・・(中略)・・・
【図1】

【図2】

【図3A】

【図3B】

【図3C】

【図3D】

・・・(中略)・・・
【図4A】

・・・(中略)・・・
【図4C】

【図4D】

【図4E】



イ 引用文献1に記載された発明
前記ア(ア)ないし(ウ)で摘記した引用文献1の記載から,【0023】に記載された複製プロセスによりレプリカ格子450を製作する際に用いるマスター格子400を製作する方法の発明を把握することができる。
しかるに,【0021】に記載された,酸化層310を等方的にエッチングするという工程において,フォトレジストマスク形態320がマスクとして用いられていることは当業者に自明である。また,【0018】の「基板ウェハーの面即ち表面に対して78.81°の角度(即ち,格子のブレーズ角)で,異方性エッチングを使用して格子溝のファセットを製作するためには,表面と1つの{111}面との角度が78.81°になるように,基板ウェハーをブールから切出さなければならない。」との記載,及び,【0020】の「ストライプのピッチ(即ち,1つのストライプの開始端部と次のストライプの開始端部の間の距離)が,最終的な溝の間隔dに関連する。」との記載は,それぞれ,前記レプリカ格子450のブレーズ角θが基板を切り出す際の表面と1つの{111}面との角度と等しくなること,及び,前記レプリカ格子450の溝の間隔dがストライプのピッチと等しくなることを説明するものにほかならない。そして,【0018】に記載された「78.81°」という「格子のブレーズ角」の値が,【0003】に記載された,入射光としてエキシマレーザー(波長約248nm)を用いる「リトロー構成」のエシェル格子のブレーズ角θの「78.80°」という値と略一致することから,前記発明により製作したマスター格子400を用いて作成したレプリカ格子450が,波長λ(約248nm)の入射光に対して,入射角α=回折角β=ブレーズ角θ(=78.81°)で使用されるリトロー構成の回折格子として機能することを理解できる。
したがって,前述した,レプリカ格子450を製作する際に用いるマスター格子400の製作方法の発明の構成は,次のとおりである。(なお,便宜上,当該製作方法の発明の各工程を,「第1工程」ないし「第6工程」と表現した。また,【0018】では,符号「200」に関して,「単結晶シリコン200のブール」,「シリコンブール200」,「ブール200」なる記載が存在しており,統一して用いられていないが,「ブール」を表す符号として表現した。)

「溝の間隔がdの平行な溝を備え,当該溝はそれぞれ2つのファセットを有しており,ブレーズ角がθであり,波長λの入射光に対して,入射角α=回折角β=ブレーズ角θで使用されるリトロー構成の回折格子として機能するレプリカ格子450を製作する際に用いるマスター格子400の製作方法であって,
(111)面と同等の面を{111}面と表現すると,基板300の表面と1つの{111}面との角度が前記ブレーズ角θになるように,基板300を単結晶シリコンのブール200から切出す第1工程と,
前記基板300の両面を研磨して均一な厚さで平坦にすることを含む通常のウェハー製造プロセスを行う第2工程と,
前記基板300にフォトレジストの層をコーティングし,当該フォトレジストをフォトマスクを通して露光し,現像することで,幅が一定でピッチが前記溝の間隔dと等しい平行なストライプを有するフォトレジストマスク形態320を形成する第3工程と,
前記フォトレジストマスク形態320をマスクとして前記基板300が備える酸化層310を等方的にエッチングした後,前記フォトレジストマスク形態320を除去して,複数の酸化物ハードマスク形態330を残す第4工程と,
シリコンのエッチング速度が(111)面に沿ってより(100)面に沿って100倍速い水酸化カリウム(KOH)とイソプロピルアルコールの混合物を異方性湿式腐食液として用いて,前記酸化物ハードマスク形態330をマスクとして,前記基板300を異方性エッチングすることにより,それぞれファセット342と344を有する複数の溝340を前記基板300に形成する第5工程と,
前記酸化物ハードマスク形態330を除去する第6工程と,
を有し,
当該製作方法によって製作されたマスター格子400は,当該マスター格子400上に分離混合物410の薄膜を形成し,樹脂430を使用してコーティングした前記マスター格子400をレプリカ基板440に結合し,前記樹脂430を重合させて十分に硬化し,前記マスター格子450を分離した後に,反射コーティングを加えるという複製プロセスによって,前記レプリカ格子450を製作することができる,
マスター格子400の製作方法。」(以下,「引用発明」という。)

(2)引用文献2
ア 引用文献2の記載
引用文献2(米国特許出願公開第2003/0016449号明細書)は,本件優先日より前に頒布された刊行物であるところ,当該引用文献2には次の記載がある。(下線は,後述する「引用文献2記載事項」の認定に特に関係する箇所を示す。)
(ア) 「BACKGROUND OF THE INVENTION
[0001] This application relates generally to a method and apparatus for diffracting light, and more specifically to a diffraction grating useful in various applications, such as optical telecommunications, that require high diffraction efficiency in multiple polarization orientations.
・・・(中略)・・・
[0004]・・・(中略)・・・However, reflective diffraction gratings tend to exhibit greater polarization sensitivity and since the polarization of optical signals often fluctuates in optical communication systems, this sensitivity may result in large variations in transmission efficiency. Loss of information is possible unless compensating amplification of the signals is used to maintain adequate signal-to-noise ratios. Although polarization sensitivity may generally be mitigated by increasing the grating pitch of the reflective grating, limitations on the desired wavelength dispersion for signals at optical telecommunication wavelengths preclude an increase in grating pitch sufficient to achieve high diffraction efficiency in all polarization directions.
[0005] It is thus desirable to provide a diffraction grating that can achieve high diffraction efficiency without significant polarization sensitivity when used at optical telecommunication wavelengths.

SUMMARY OF THE INVENTION
[0006] Embodiments of the present invention provide such a diffraction grating, achieving high diffraction efficiency in all polarization states when used for diffraction of an optical signal at telecommunications wavelengths. The diffraction grating in such embodiments includes a plurality of spaced triangular protrusions on a substrate in which reflective faces are blazed at angles θ_(b) that are substantially different from the Littrow condition.
[0007] Thus, in one embodiment of the invention, the diffraction grating is configured to diffract an optical signal of wavelength λ. It has a substrate and a plurality of reflective faces oriented at respective blaze angles θ_(b) spaced along the substrate surface at a grating density l/d. The blaze angles θ_(b) substantially differ from the Littrow condition sin θ_(b)=λ/2d. Each of these reflective faces is supported by a support wall that is connected with the substrate surface such that the optical signal is reflected essentially only off the reflective faces and not off the support walls. Since the optical signal is reflected off the reflective faces but not the support walls, the diffraction efficiency of certain polarization states is improved.」
(日本語訳)
「発明の背景
[0001] 本出願は,一般に,光を回折するための方法及び装置に関し,より詳細には,複数の偏光方向で高い回折効率を必要とする光通信などの様々な用途に有用な回折格子に関する。
・・・(中略)・・・
[0004]・・・(中略)・・・しかし,反射回折格子はより大きな偏光感度を示す傾向があり,光通信システムでは光信号の偏光がしばしば変動するので,この感度は伝送効率の大きな変動をもたらすことがある。十分な信号対雑音比を維持するために信号の補償増幅を使用しない限り,情報の損失があり得る。偏光感度は,一般に,反射格子の格子間隔を増加させることによって緩和することができるが,光通信波長における信号の所望の波長分散が制限されているゆえに,全ての偏光方向において高い回折効率を達成するのに十分なだけ格子間隔を増加させることが出来なくなっている。
[0005] したがって,光通信波長で使用される場合に大きな偏光感度を伴わずに高い回折効率を達成することができる回折格子を提供することが望ましい。

発明の概要
[0006] 本発明の実施形態は,通信波長における光信号の回折に使用される場合に,すべての偏光状態において高い回折効率を達成するこのような回折格子を提供する。このような実施形態における回折格子は,反射面がリトロー条件とは実質的に異なる角度θ_(b)でブレーズされた基板上に複数の互いに離隔した三角形の突起を含む。
[0007] したがって,本発明の一実施形態では,回折格子は,波長λの光信号を回折するように構成される。回折格子は基板と,基板表面に沿って格子密度1/dで離間したそれぞれのブレーズ角θ_(b)で配向された複数の反射面とを有する。ブレーズ角θ_(b)は,リトロー条件sinθ_(b)=λ/2dとは実質的に異なる。これらの反射面の各々は,光信号が実質的に反射面からのみ反射され,支持壁から反射されないように,基板表面に接続された支持壁によって支持される。光信号は反射面で反射されるが,支持壁では反射されないので,特定の偏光状態の回折効率が改善される。」

(イ) 「BRIEF DESCRIPTION OF THE DRAWINGS
[0010]・・・(中略)・・・
[0011] FIG.1(a) illustrates a right-apex-angle diffraction grating;
・・・(中略)・・・
[0013] FIG.1(c) illustrates a the shape of a diffraction grating according to a truncated-sawtooth embodiment of the invention;
・・・(中略)・・・
[0015] FIG.3 shows results of numerical simulations of diffraction efficiency profiles for a truncated-sawtooth embodiment in S and P polarization configurations;
・・・(中略)・・・
[0017] FIG.4(b) shows numerical results for the efficiency in S and P polarization configurations for a truncated sawtooth grating as a function of blaze angle;
・・・(中略)・・・
[0019] FIG.6 shows the variation in efficiency in S and P polarization configurations for a full-sawtooth grating as a function of the angle of incidence of the optical signal;
[0020] FIG.7(a) shows results of numerical simulations of diffraction efficiency for a truncated-sawtooth embodiment in an S polarization configuration as a function of triangle groove height;
[0021] FIG.7(b) shows results of numerical simulations of diffraction efficiency for a truncated-sawtooth embodiment in a P polarization configuration as a function of triangle groove height;」
(日本語訳)
「図面の簡単な説明
[0010]・・・(中略)・・・
[0011] 図1(a)は,右頂角回折格子を示す。
・・・(中略)・・・
[0013] 図1(c)は,本発明の切頭型鋸歯の実施形態による回折格子の形状を示す。
・・・(中略)・・・
[0017] 図4(b)は,ブレーズ角の関数として切頭型鋸歯格子のS偏光及びP偏光構成における効率の数値結果を示す。
・・・(中略)・・・
[0019] 図6は,光信号の入射角の関数としての全鋸歯格子のS偏光及びP偏光構成における効率の変化を示す。
[0020] 図7(a)は,三角溝の高さの関数としてのS偏光構成における切頭型鋸歯の実施形態の回折効率の数値シミュレーションの結果を示す。
[0021] 図7(b)は,三角溝の高さの関数としてのP偏光構成における切頭型鋸歯の実施形態の回折効率の数値シミュレーションの結果を示す。」

(ウ) 「DESCRIPTION OF THE SPECIFIC EMBODIMENTS
[0024] 1. Introduction
[0025] The following description sets forth embodiments of a diffraction grating that simultaneously achieves high efficiency in multiple polarization states for a high groove density at optical telecommunications wavelengths.・・・(中略)・・・
[0027] 2. Diffraction of Optical Signals
[0028] Demultiplexing of an optical signal that contains a plurality of signals at different wavelengths may be accomplished with a diffraction grating with appropriately sized and shaped diffraction grooves. An example of such a demultiplexing diffraction grating is illustrated in FIG.1(a). When illuminated at an angle α from the normal, the grating 100 directs light with wavelength λ toward angle β in accordance with the formula
mλ=d (sinα±sinβ),
[0029] where m is an integral order of interference and d is the grating period. The manner in which incident light will be distributed among the various orders of interference depends on the shape and orientation of the groove sides and on the relation of wavelength to groove separation. When d<≒(審決注:「」の下に波線が付された記号(近似的不等号)を「<≒」と表記した。以下,同様。)λ, diffraction effects predominate in controlling the intensity distribution among orders, but when dλ, optical reflection from the sides of the grooves is more strongly involved.
[0030]・・・(中略)・・・For high dispersion with operational wavelengths in the range 1530-1570 nm, commonly used in optical telecommunications applications, a line density (=1/d) between about 700 and 1100 faces/mm is desirable.・・・(中略)・・・In general, a blazed grating has been understood to refer to one in which the grooves of the diffraction grating are controlled so that the reflective faces 112 form one side of right-apex triangles 110 , inclined to the substrate surface with an acute blaze angle θ_(b). Obtuse apex angles up to ?110° are sometimes present in blazed holographic gratings.
[0031] High efficiency is achieved when blazed grating groove profiles are prepared in the Littrow configuration, in which incident and diffracted rays are autocollimated so that α=β=θ_(b). In this Littrow configuration, the diffraction equation for blaze angle θ_(b) thus takes the simple form
sinθ_(b)= mλ/2d.
[0032] For a Littrow grating with line density 1/d≒(審決注:等号の上に波線が付された記号(ニアリーイコール)を「≒」と表記した。以下,同様。)900 faces/mm, the preferred blaze angle at telecommunications wavelengths is θ_(b)≒44.2° (i.e. the blaze wavelength in first order is λ_(b)=2d sinθ_(b)≒1550 nm). With this configuration, however, significant differences are found in the reflection efficiencies for different polarization states. In particular, the diffraction efficiency for an S polarization state (also described as a TM polarization state), in which the electric field is polarized orthogonal to the grating grooves, is 90%. Typically, however, there is only 30-50% efficiency for a P polarization state (also described as a TE polarization state), in which the electric field is polarized parallel to the grating grooves. This relatively poor diffraction efficiency for the P polarization state is a consequence of boundary conditions imposed on the electric field as it propagates parallel to the groove edge in the grating.
[0033] 3. High-Efficiency Polarization-Independent Reflective Diffraction Grating
・・・(中略)・・・
[0037] A second set of embodiments of the invention (referred to herein as the truncated-sawtooth embodiments) is illustrated in FIG.1(c). In these embodiments, the steep notch of the full-sawtooth embodiments is eliminated. In the particular truncated-sawtooth embodiment illustrated in FIG.1(c), the diffraction grating 200 includes a plurality of reflective faces 212 each oriented at blaze angle θ_(b) with respect to a surface of the substrate 220 . Each such reflective face 212 is supported by a support wall 214 that is substantially normally connected with the surface of the substrate. Accordingly, the diffraction grating 200 has a configuration that uses multiple right-base triangles 210 , thereby sharing the advantage of the full-sawtooth configuration in which the normal orientation of the support walls 214 mitigates boundary effects for P-polarized light as the electric field of the light passes the apex of one triangle 210 and reflects off an adjacent reflective surface 212 . More generally, the support walls 214 connect with the substrate 170 non-normally, preferably forming an obtuse angle so that the characteristic of limiting reflection of incident light essentially only off the reflective faces 162 and not off the support walls 164 is maintained.
[0038] While the full-sawtooth embodiments had no exposure of the substrate 170 at the base of the triangles 160 , the truncated-sawtooth embodiments permit such exposure. In particular, surface portions 216 of the substrate 220 are exposed. The effect of permitting such exposure allows reduced altitude of right triangles 210 . It is evident, however, that the full-sawtooth configuration is a limiting case of the truncated-sawtooth configuration as the altitude of the triangles is increased. For a grating density 1/d=900 faces/mm, this limit is approached with a triangle altitude of approximately 1635 nm.
[0039] In one truncated-sawtooth embodiment, illustrated in FIG.1(c), each of the reflective faces 212 is equally spaced along the surface of the substrate 220 . In alternative embodiments such spacing may be irregular. Also, FIG.1(c) shows each reflective face 212 extending through substantially half of the spacing period, although other fractions of the spacing period may also be used. In the illustrated embodiment, the blaze angle θ_(b) is also preferably in the range 50-70°, most preferably in the range 50-60°. At optical telecommunications wavelengths, 1530-1570 nm, with a grating density 1/d=900 faces/mm, this is preferably θ_(b)=55.8°. Again, this optimal blaze angle corresponds to the angle at which the product of diffraction efficiencies in the S and P polarization configurations is maximized, as discussed in the context of FIG.4(b) below. As for the embodiment illustrated in FIG.1(b), the maximal efficiency for the grating is achieved substantially away from Littrow conditions since this blaze angle is essentially different from φ≡sin^(-1)λ/2d (=43.5-45.0°), the angle of incidence at which the grating efficiency is maximized. Also, as for the first embodiment, the substrate 220 is shown to be flat only for illustrative purposes. More generally, the invention includes the use of a curved substrate.
[0040] Additionally, various reflective materials may be used and may be differently applied in various embodiments. For example, in one embodiment, the entire diffraction grating 200 is coated with gold. In alternative embodiments, different reflective coatings, such as aluminum, are used.
[0041] 4. Diffraction Efficiency of the Specific Embodiments
[0042] Various properties of the embodiments described above may be understood by examining the diffraction efficiency achieved by the gratings in various circumstances. The diffraction efficiency of a diffraction grating is generally a function of the wavelength of the optical signal to be diffracted, and is defined as the ratio of the energy of the diffracted wave to the energy of the incident wave: ε=E_(out)/E_(in). As a rough approximation, for Littrow gratings the maximum efficiency is expected at the blaze wavelength λ_(b) with a 50% reduction at 0.7%b(審決注:「%b」は誤記であり,正しくは「λ_(b)」と解される。) and 1.8 λ_(b). For telecommunications applications the range in wavelengths, 1530-1570 nm (i.e. 1550±1.3%), is considerably more narrow so that only relatively small variations in efficiency are expected as a function of wavelength. Furthermore, the efficiency in higher orders is expected to follow the general shape of the first-order efficiency curve, although the maximum efficiency generally decreases for each such higher order.
[0043] Accordingly, FIG.2 shows the results of calculations of a diffraction efficiency profile in both the S and P polarization configurations for the diffraction grating shown in FIG.1(b) over a wavelength range of 1530-1570 nm. A similar plot is produced in FIG.3 for the diffraction grating shown in FIG.1(c). To evaluate the level of uncertainty of the results, the calculations were performed with two commercially available software packages: G-Solver (solid lines) and PC-Grate (dashed lines). For the calculations discussed below, PC-Grate and G-Solver have generally agreed within about 3% efficiencies, without any observable trend of one estimating higher efficiencies than the other.
[0044] Over the entire optical telecommunications wavelength range, the diffraction efficiency exceeds 85% for both S and P polarizations for both the illustrated full-sawtooth and truncated-sawtooth configurations, with approximately less than a ±2% variation over the wavelength range for any given polarization. The explicit comparison of the two numerical packages in FIGS. 2 and 3 highlights their close agreement, with differences no greater than about 3%. Considering the wavelength range of interest and both numerical programs, it can be seen that the invention produces a high diffraction efficiency that is substantially independent of polarization. For the particular full-sawtooth embodiment illustrated in FIG.1(b), that polarization-independent efficiency is 90±4%. The efficiency is even greater for a truncated-sawtooth embodiment with θ_(b=)55.8° and triangle altitude (height of support wall 214) equal to 1310 nm. In that embodiment, the efficiency is 94±4%, i.e. greater than 90% everywhere.
[0045] In FIG.4(a) and FIG.4(b), an illustration is made of how the numerically calculated diffraction efficiency is used to determine the optimal blaze angle. For the full-sawtooth embodiment, for example, FIG.4(a) shows the variation in efficiency for both the S and P polarization configurations as a function of blaze angle as calculated with the G-Solver package. For these calculations, a grating density 1/d=900 faces/mm was used with an angle of incidence for a 1550-nm optical signal of φ=45°. As described above, this particular incident angle φ is approximately the angle dictated by the Littrow condition. The optimal blaze angle is the angle where the curves for the S and P polarization intersect, i.e. where the product of the two efficiencies is maximized. For the full-sawtooth embodiment, this is seen to occur at θ_(b)=54.0°. Similarly, FIG.4(b) shows the efficiencies for S and P polarizations for a truncated-sawtooth embodiment with triangles having an altitude equal to 80% of the maximum possible altitude. Again, the calculations were performed for a grating with grating density 1/d=900 faces/mm and a 1550-nm optical signal incident at φ=45°. For this grating, the curves cross at the optimal blaze angle θ_(b)=55.8°.
・・・(中略)・・・
[0047] The effect of moving the incident angle away from the Littrow condition is illustrated in FIG.6 . The results of calculations for a full-sawtooth grating using the G-Solver package are shown. The diffraction efficiency was calculated in both S and P polarization configurations for an optical signal with wavelength λ=1550 nm onto a grating blazed at θ_(b)=54.0° with grating density 1/d=900 faces/mm. The preferred incident angle defined by the Littrow condition is φ=44.2°. While the S-polarization efficiency varies little around this angle, dipping even slightly, the P-polarization efficiency shows a clearly defined maximum at this angle such that the total efficiency is maximized at this incident angle. Although not shown, similar results are also obtained when a truncated-sawtooth grating is used with its optimal blaze angle.
[0048] The variation in efficiency for the truncated-sawtooth embodiments for the S and P polarization states is shown respectively in FIGS. 7(a) and 7(b) as a function of the height of support wall 214 . The illustrated results were calculated for a blaze angle θ_(b)=55.8° for light incident at φ=45° with PC-Grate, although similar results are obtained with the G-Solver package. As can be readily seen, the S-polarization efficiency has two local maxima and the P-polarization efficiency exhibits asymptotic behavior. Accordingly, the preferred triangle altitude for the truncated-sawtooth configuration is at the second peak in the S-polarization efficiency, i.e. near 1310 nm.」
(日本語訳)
「実施形態の説明
[0024] 1.序
[0025] 以下の説明は,光通信波長における高い溝密度について複数の偏光状態において高い効率を同時に達成する回折格子の実施形態を示す。・・・(中略)・・・
[0027] 2.光信号の回折
[0028] 異なる波長の複数の信号を含む光信号の逆多重化は,適切な寸法かつ形状の回折溝を有する回折格子によって達成することができる。そのような逆多重化回折格子の一例を図1(a)に示す。法線から角度αで照射されると,回折格子100は,波長λの光を以下の式に従って角度βに向ける。
mλ=d(sinα±sinβ)
[0029] mは整数の干渉次数であり,dは格子周期である。入射光が様々な干渉次数に配分される様態は,溝の側面の形状と方向,及び波長と溝の分離の関係に依存する。d<≒λの場合,次数間の強度分布を制御する際に回折効果が支配的であるが,d>λの場合には,溝の側面からの光学反射がより強く関与する。
[0030]・・・(中略)・・・光通信用途で一般的に使用される1530?1570nm範囲の動作波長を有する高分散のためには,約700?1100面/mmの線密度(=1/d)が望ましい。・・・(中略)・・・一般的に,ブレーズ型回折格子は,反射面112が基板の表面に対して鋭角ブレーズ角θ_(b)で傾斜した右頂点三角形110の一側面を形成するように回折格子の溝が制御されるものを指すと理解されている。ブレーズ型ホログラフィック格子には,?110°までの頂角が存在することがある。
[0031] 入射光線と回折光線が自動コリメートされてα=β=θ_(b)になるブレーズ型格子溝プロファイルをリトロー構成で作成すると高い効率が達成される。このリトロー構成では,ブレーズ角θ_(b)の回折方程式は以下の単純な形式をとる。
sinθ_(b)=mλ/2d
[0032] ライン密度が1/d≒900面/mmのリトロー格子の場合,電気通信波長における好ましいブレーズ角は,θ_(b)≒44.2゜である(すなわち,1次のブレーズ波長はλ_(b)=2dsinθ_(b)≒1550nmである)。しかし,この構成では,異なる偏光状態の反射効率に大きな違いが見られる。特に,電界が格子溝に直交するように偏光されるS偏光状態(TM偏光状態とも呼ばれる)の回折効率は>90%である。しかし典型的には,電場が格子溝に平行に偏光されるP偏光状態(TE偏光状態とも呼ばれる)については30?50%の効率しかない。P偏光状態に対するこの比較的低い回折効率は,格子内の溝の縁部に平行に伝搬する際に電界に課される境界条件の結果である。
[0033] 3. 高効率偏光非依存反射回折格子
・・・(中略)・・・
[0037] 本発明の第2の実施形態の組(本明細書では,「切頭型鋸歯」の実施形態と呼ばれる)が図1(c)に示される。これらの実施形態では,全鋸歯実施形態の急峻な刻み目は除かれている。図1(c)に示される特定の切頭型鋸歯の実施形態では,回折格子200は,基板220の表面に対してブレーズ角θ_(b)でそれぞれ配向された複数の反射面212を含む。このような反射面212の各々は,基板の表面と実質的に垂直に接続された支持壁214により支持される。したがって,回折格子200は,複数の直角三角形210を使用する構成を有し,それにより全鋸歯構成の利点を共有しているが,そこでは,光の電界が1つの三角形210の頂点を通過して隣接する反射面212で反射する際にP偏光の光に対する境界効果を支持壁214の向きが低減している。より一般的には,支持壁214は基板170と非垂直に接続し,好ましくは鈍角を形成して,それによって,支持面164からではなく反射面162のみからに入射光の反射を制限する特性が維持される。
[0038] 全鋸歯の実施形態は,三角形160の基部で基板170を露出させていないが,切頭型鋸歯の実施形態は,そのような露出を可能にしている。特に,基板220の表面部分216が露出されている。このような露出を許容する効果は,直角三角形210の高さの減少を可能にする。しかし,三角形の高さが増加するにつれ全鋸歯の構成は切頭型鋸歯構成を限定するものであることは明らかである。格子密度1/d=900面/mmの場合,約1635nmの三角形の高さでこの限界に近づける。
[0039] 図1(c)に示す1つの切頭型鋸歯実施形態では,反射面212の各々は,基板220の表面に沿って等間隔に配置されている。別の実施形態では,このような間隔は不規則であってもよい。また,図1(c)は,間隔周期の実質的に半分を通って延びる各反射面212を示しているが,間隔周期の他の部分も使用することができる。図示の実施形態では,ブレーズ角θ_(b)は,好ましくは50?70°の範囲内,最も好ましくは50?60°の範囲内にある。1/d=900面/mmの格子密度を有する1530?1570nmの光通信波長では,これはθ_(b)=55.8°であることが好ましい。ここでも,この最適なブレーズ角は,以下の図4(b)の設定で説明しているように,S偏光及びP偏光構成における回折効率の積が最大化される角度に対応する。図1(b)の実施形態に関しては,このブレーズ角は,格子効率が最大化する入射角であるφ≡sin^(-1)λ/2d(=43.5-45.0°)とは本質的に異なるので,格子の最大効率はリトロー条件から実質的に離れて達成される。また,第1の実施形態と同様に,基板220は,説明目的で平坦に示されているに過ぎない。より一般的には,本発明は湾曲した基板の使用を含む。
[0040] さらに,様々な反射材料が使用されてもよく,様々な実施形態において異なって適用されてもよい。例えば,一実施形態では,回折格子200全体が金でコーティングされる。代替実施形態では,アルミニウム等の異なる反射コーティングが使用される。
[0041] 4.実施形態の回折効率
[0042] 上述した実施形態の様々な特性は,様々な状況で格子によって達成される回折効率を検討することにより理解可能である。回折格子の回折効率は,一般に,回折される光信号の波長の関数であり,入射波のエネルギーに対する回折波のエネルギーの比,ε=E_(out)/E_(in)として定義される。概算として,リトロー格子の場合,ブレーズ波長λ_(b)で0.7λ_(b)と1.8λ_(b)で50%の減少で最大効率が見込まれる。電気通信用途では,波長1530?1570nm(すなわち1550±1.3%)の範囲が相当より狭く,波長の関数として効率の比較的小さな変動しか予想されない。さらに,高次の効率は一般に一次効率曲線の一般的な形状に従うことが予想されるが,最大の効率は一般にそのような高次の次数ごとに減少する。
[0043] 図2は,1530?1570nmの波長範囲にわたって図1(b)に示されている回折格子のS偏光及びP偏光構成の両方における回折効率プロファイルの計算結果を示す。図1(c)に示す回折格子について,同様なプロットを図3に作成した。結果の不確実性のレベルを評価するために,G-Solver(実線)とPC-Grate(破線)の2つの市販ソフトウェアパッケージを使用して計算を行った。以下に述べる計算では,PC-GrateとG-Solverは共に約3%の効率をほぼ示し,どちらかがより高い効率を推定するような傾向は見られなかった。
[0044] 光通信の波長範囲全体にわたって,回折効率は,図示の全鋸歯及び切頭型鋸歯の両方について,S偏光及びP偏光の両方について85%を超え,任意の所与の偏光について波長範囲にわたってほぼ±2%未満の変動がある。図2及び図3の2つの数値パッケージの明示的な比較では,差は3%を超えず,どちらも近い数値を示していることが分かる。対象の波長範囲及び両方の数値プログラムを考慮すると,本発明は実質的に偏光に依存しない高い回折効率を生じることが分かる。図1(b)に示す特定の全鋸歯の実施形態では,偏光非依存効率は90±4%である。θ_(b)=55.8°及び三角形高さ(支持壁214の高さ)が1310nmに等しい切頭型鋸歯の実施形態では,効率はさらに高くなる。その実施形態では,効率は94±4%,すなわち,どこでも90%を超える。
[0045] 図4(a)と図4(b)には,数値的に計算された回折効率を用いて最適なブレーズ角を決定する方法が示されている。例えば,全鋸歯の実施形態では,図4(a)は,G-Solverパッケージで計算されたブレーズ角の関数としてのS偏光及びP偏光構成両方の効率の変化を示す。これらの計算のために,1550nmの光信号に対してφ=45°の入射角で格子密度1/d=900面/mmを使用した。上述したように,この特定の入射角φは,ほぼリトロー条件によって決定される角度である。最適なブレーズ角は,S偏光及びP偏光の曲線が交差する角度,すなわち2つの効率の積が最大になる角度である。全鋸歯の実施形態では,これはθ_(b)=54.0°で生じることがわかる。同様に,図4(b)は,可能な最大高さの80%に等しい高さの三角形を持つ切頭型鋸歯の実施形態のS偏光及びP偏光の効率を示す。ここでも,格子密度1/d=900面/mm及びφ=45°で入射する1550nmの光信号を用いて計算を行った。この格子の場合,曲線は最適ブレーズ角θ_(b)=55.8°で交差する。
・・・(中略)・・・
[0047] リトロー条件から入射角を移動させる効果を図6に示す。全鋸歯格子についてのG-Solverパッケージを用いた計算結果を示す。回折効率は,S偏光及びP偏光構成の両方で,格子密度1/d=900面/mmでθ_(b)=54.0°でブレーズされた格子に対する波長λ=1550nmの光信号について,回折効率が計算された。リトロー条件によって定義される好ましい入射角はφ=44.2°である。S偏光効率はこの角度近辺ではほとんど変化せず,少し降下するだけであるが,P偏光効率はこの角度で明確に定義された最大値を示し,したがって,この入射角で全体の効率が最大になる。不図示だが,切頭型鋸歯格子が最適ブレーズ角で使用される場合にも同様の結果が得られる。
[0048] S偏光状態及びP偏光状態についての切頭型円錐形の実施形態の効率の変化は,支持壁214の高さの関数として,図7(a)及び図7(b)にそれぞれ示されている。図示の結果は,PC-Grateを用いてφ=45°で入射する光に対してブレーズ角θ_(b)=55.8°で計算されたが,同様な結果はG-Solverパッケージでも得られる。容易に見てとれるが,S偏光効率は2つの極大値を有し,P偏光効率は漸近挙動を示す。したがって,切頭型鋸歯形状の好ましい三角形の高さは,S偏光効率の第2のピーク,すなわち1310nm付近にある。」

(エ) 図1(a),図1(c),図4(b),図6,図7(a),図7(b)は次のとおりである。なお,[0047]の記載等からみて,図6に付されている「Truncated Sawtooth Grating」(切頭型鋸歯格子)との表示は誤記であり,正しくは「Full Sawtooth Grating」(全鋸歯格子)と解される。






イ 引用文献2に記載された技術事項
[0028]等に記載された「角度α」及び「角度β」がそれぞれ「入射角」及び「回折角」を指しており,[0031]に記載された「入射光線と回折光線が自動コリメートされてα=β=θ_(b)」になる「リトロー構成」が,「入射角α=回折角β=ブレーズ角θ_(b)になるリトロー構成」を指していることは当業者に自明である。
また,[0048]に記載された「S偏光効率は2つの極大値を有し,P偏光効率は漸近挙動を示す。したがって,切頭型鋸歯形状の好ましい三角形の高さは,S偏光効率の第2のピーク,すなわち1310nm付近にある。」とは,全体の回折効率が最大になる支持壁214の高さが1310nm付近にあり,当該支持壁214の高さが好ましいことを説明したものと理解される。
したがって,前記ア(ア)ないし(エ)で摘記した記載から,図1(c)に示される切頭型鋸歯の実施形態に関して次の技術事項を把握することができる。(なお,便宜上,[0047]に記載された方法により求められる入射角を「最適入射角」と表現し,[0048]に記載された方法により求められる支持壁214の高さを「支持壁214の最適高さ」と表現した。)

「基板220の表面に対してブレーズ角θ_(b)でそれぞれ配向され,基板220の表面に沿って格子周期dで等間隔に配置された複数の反射面212と,基板220の表面と実質的に垂直に接続され,前記反射面212の各々を支持する複数の支持壁214とによって,複数の直角三角形210が形成され,当該直角三角形210の基部でそれぞれ前記基板220の表面部分216が露出された切頭型鋸歯形状を有するブレーズ型回折格子において,
入射角α=回折角β=ブレーズ角θ_(b)になるリトロー構成では,S偏光とP偏光の回折効率が大きく違うことがあり,また,入射角φや支持壁214の高さによって回折効率が変化するところ,
S偏光とP偏光の回折効率を同一にする最適ブレーズ角は,ブレーズ角の関数としてのS偏光及びP偏光の回折効率を,それぞれG-SolverやPC-Grateといった市販ソフトウェアパッケージを使用して計算し,得られたブレーズ角の関数としてのS偏光の回折効率の曲線とP偏光の回折効率の曲線とが交差するブレーズ角として,求めることができ,
回折効率を最大とする最適入射角は,入射角の関数としてのS偏光及びP偏光の回折効率を,それぞれ前記市販ソフトウェアパッケージを使用して計算し,得られた入射角の関数としてのS偏光及びP偏光の回折効率から全体の回折効率が最大となる入射角として,求めることができ,
回折効率を最大とする支持壁214の最適高さは,支持壁214の高さの関数としてのS偏光及びP偏光の回折効率を,それぞれ前記市販ソフトウェアパッケージを使用して計算し,得られた支持壁214の高さの関数としてのS偏光及びP偏光の回折効率から全体の回折効率が最大となる支持壁214の高さとして,求めることができること。」(以下,「引用文献2記載事項」という。)

5 判断
(1)対比
ア それぞれの機能等からみて,引用発明の「マスター格子400」,「レプリカ格子450」,「入射角α」,「波長λの入射光」,「基板300の表面」,「溝340」,「溝の間隔d」,「ファセット342,344」,「ブレーズ角θ」,「基板300」,「(100)面」及び「酸化物ハードマスク形態330」は,本件発明の「マスタ格子(1200)」,「レプリカ格子(150)」,「特定の入射角(θ_(i))」,「特定の波長(λ)の光」,「『平面(200’)』,『ウエハ表面(200’)』」,「溝(1210)」,「格子周期(d)」,「界面(601’,602’)」,「ブレーズ角(θ_(b))」,「ウエハ(1250)」,「第3(100)結晶面」及び「耐エッチング材料(1201)」にそれぞれ対応する。

イ 引用発明によって製作される「マスター格子400」を用いて製作される「レプリカ格子450」は,「波長λの入射光」に対して,「入射角α=回折角β=ブレーズ角θで使用されるリトロー構成の回折格子」として機能するものである。そうしてみると,引用発明の「レプリカ格子450」は,「マスター格子400」(本件発明の「マスタ格子(1200)」に対応する。以下,「5 判断」欄において,引用発明の構成を囲む「」に続く()中の文言は,当該引用発明の構成に対応する本件発明の発明特定事項を指す。)の「レプリカ格子450」(レプリカ格子(150))であり,「入射角α」(特定の入射角(θ_(i)))により投射する「波長λの入射光」(特定の波長(λ)の光)を回折する,といえる。
そして,引用発明は,当該「レプリカ格子450」(レプリカ格子(150))を製作する際に用いる「マスター格子400」(マスタ格子(1200))の製作方法である。
したがって,引用発明は,「マスタ格子(1200)または該マスタ格子(1200)のレプリカ格子(150)に,特定の入射角(θ_(i))により投射する特定の波長(λ)の光を回折する,該マスタ格子(1200)を製造する方法であ」るという本件発明の発明特定事項に相当する構成を具備している。

ウ 引用発明によって製作される「マスター格子400」(マスタ格子(1200))は,それぞれ「ファセット342と344」(界面(601’,602’))を有する複数の「溝340」(溝(1210))が「基板300の表面」(平面(200’))に形成されたものである。また,引用発明の各工程や技術常識からみて,前記複数の「溝340」が,「基板300の表面」に沿って平行に延びる「溝340」の配列となっていること,前記「溝340」同士がレプリカ格子450における「溝の間隔d」(格子周期(d))の分だけ離されていること,前記「ファセット342,344」が平らであって,「溝340」が当該「ファセット342,344」を備える三角形のプロファイルを含むこと,及び前記「ファセット342,344」の一方と「基板300の表面」とがなす角度がレプリカ格子450における「ブレーズ角θ」(ブレーズ角(θ_(b)))と同一の角度であることが当業者に自明である。
したがって,引用発明によって製作される「マスター格子400」は,本件発明によって製造される「マスタ格子(1200)」に係る「マスタ格子(1200)の平面(200’)に沿って平行に延びる溝(1210)の配列を含み,前記溝(1210)同士は,格子周期(d)の分だけ離されており,前記溝(1210)は,平らな界面(601’,602’)を備える三角形のプロファイルを含み,前記界面のうちの1つ(601’)は,前記平面(200’)に対してブレーズ角(θ_(b))をな」すとの発明特定事項に相当する構成を具備している。

エ 引用発明の第1工程は,「基板300」(ウエハ(1250))を単結晶シリコンのブール200から切出す工程であって,前記「基板300」が実質的に単結晶の材料を含むことは明らかであるから,引用発明の第1工程は,実質的に単結晶の材料を含む「基板300」(ウエハ(1250))を準備するステップであるといえる。
また,シリコンの結晶面に関する技術常識を考慮すると,引用発明の第1工程において切出される「基板300」を構成する材料(単結晶シリコン)は,本件発明の「第1(111a),第2(111b),および第3(100)結晶面を有し,前記第1(111a)および第2(111b)結晶面は,交角(α’)で互いに交差」するという本件発明の「ウエハ(1250)」の「材料」に係る発明特定事項に相当する構成を具備している。
さらに,引用発明の第1工程では,「基板300の表面」(ウエハ表面(200’))と1つの{111}面との角度がレプリカ格子450の「ブレーズ角θ」(ブレーズ角(θ_(b)))と等しくなるように,「基板300」(ウエハ(1250))を単結晶シリコンのブール200から切出すものである。
以上より,引用発明の第1工程は,本件発明の「実質的に単結晶の材料を含むウエハ(1250)を準備するステップであって,前記材料は,第1(111a),第2(111b),および第3(100)結晶面を有し,前記第1(111a)および第2(111b)結晶面は,交角(α’)で互いに交差し,前記ウエハ(1250)は,前記第1結晶面(111a)に対して前記ブレーズ角(θ_(b))と等しい切断角を有するウエハ表面(200’)に沿って切断される,前記ステップ」に相当する。

オ 引用発明の第4工程は,基板300上に複数の「酸化物ハードマスク形態330」(耐エッチング材料(1201))を残す工程である。また,,当該「酸化物ハードマスク形態330」が,幅が一定でピッチがレプリカ格子450の「溝の間隔d」(格子周期(d))と等しい複数の平行なストライプのパターンを有していることは,第3工程及び第4工程からみて当業者に自明である。また,第5工程において,隣接する「酸化物ハードマスク形態330」の間の基板300を異方性エッチングして,溝340を形成しているのだから,第4工程により形成された複数の「酸化物ハードマスク形態330」(耐エッチング材料(1201))の間に「基板300の表面」(ウエハ表面(200’))の露出部分が形成されていることは明らかである。
したがって,引用発明の第4工程は,本件発明の「ウエハ表面(200’)の複数部分に,平行ストリップ(1211)のパターンで,耐エッチング材料(1201)を施すステップであって,前記ストリップ(1211)の中央同士は,前記格子周期(d)の分だけ離されており,前記ウエハ表面(200’)の露出部分が,前記ストリップ(1211)間に形成される,前記ステップ」に相当する。

カ 引用発明の第5工程は,シリコンのエッチング速度が(111)面に沿ってより「(100)面」(第3(100)結晶面)に沿って100倍速い水酸化カリウム(KOH)とイソプロピルアルコールの混合物を異方性湿式腐食液として用いて,前記「酸化物ハードマスク形態330」(耐エッチング材料(1201))をマスクとして,隣接する「酸化物ハードマスク形態330」の間の前記「基板300」(基板300)を異方性エッチングすることにより,それぞれ「ファセット342と344」(界面(601’,602’))を有する複数の「溝340」(溝(1210))を前記「基板300の表面」(ウエハ表面(200’))に形成する工程である。そうしてみると,複数の「溝340」を隣接する「酸化物ハードマスク形態330」の間の「基板300の表面」に形成することが,本件発明における「露出部分に溝(1210)を形成する」ことに相当し,「シリコンのエッチング速度が(111)面に沿ってより(100)面に沿って100倍速い水酸化カリウム(KOH)とイソプロピルアルコールの混合物」を異方性湿式腐食液として用いて,「基板300」を異方性エッチングすることが,本件発明における「第1および第2結晶面(111a,111b)の法線方向よりも第3結晶面(100)の法線方向においてより速くエッチングする異方性エッチングプロセス(1202)を,ウエハ表面(200’)に施す」ことに相当する。また,引用発明の第5工程により形成される「溝340」(溝(1210))のそれぞれが有する「ファセット342と344」(界面(601’,602’))が「2つの{111}面」(第1および第2結晶面(111a,111b))に沿って形成されることは,技術的にみて明らかである。
したがって,引用発明の第5工程は,本件発明の「露出部分に溝(1210)を形成するために,第1および第2結晶面(111a,111b)の法線方向よりも第3結晶面(100)の法線方向においてより速くエッチングする異方性エッチングプロセス(1202)を,ウエハ表面(200’)に施すステップであって,前記溝の平らな界面は,前記第1および第2結晶面(111a,111b)に沿って形成される,前記ステップ」に相当する。

キ 前記アないしカに照らせば,本件発明と引用発明は,
「マスタ格子(1200)または該マスタ格子(1200)のレプリカ格子(150)に,特定の入射角(θ_(i))により投射する特定の波長(λ)の光を回折する,該マスタ格子(1200)を製造する方法であって,該マスタ格子(1200)は,前記マスタ格子(1200)の平面(200’)に沿って平行に延びる溝(1210)の配列を含み,前記溝(1210)同士は,格子周期(d)の分だけ離されており,前記溝(1210)は,平らな界面(601’,602’)を備える三角形のプロファイルを含み,前記界面のうちの1つ(601’)は,前記平面(200’)に対してブレーズ角(θ_(b))をなし,前記方法は,
-実質的に単結晶の材料を含むウエハ(1250)を準備するステップであって,前記材料は,第1(111a),第2(111b),および第3(100)結晶面を有し,前記第1(111a)および第2(111b)結晶面は,交角(α’)で互いに交差し,前記ウエハ(1250)は,前記第1結晶面(111a)に対して前記ブレーズ角(θ_(b))と等しい切断角を有するウエハ表面(200’)に沿って切断される,前記ステップと,
-前記ウエハ表面(200’)の複数部分に,平行ストリップ(1211)のパターンで,耐エッチング材料(1201)を施すステップであって,前記ストリップ(1211)の中央同士は,前記格子周期(d)の分だけ離されており,前記ウエハ表面(200’)の露出部分が,前記ストリップ(1211)間に形成される,前記ステップと,
-前記露出部分に前記溝(1210)を形成するために,前記第1および第2結晶面(111a,111b)の法線方向よりも前記第3結晶面(100)の法線方向においてより速くエッチングする異方性エッチングプロセス(1202)を,前記ウエハ表面(200’)に施すステップであって,前記溝の前記平らな界面は,前記第1および第2結晶面(111a,111b)に沿って形成される,前記ステップと,
を含む,方法。」
である点で一致し,次の点で相違する。

相違点1:
本件発明は,「所与の格子周期(d)およびブレーズ角(θ_(b))に関し,光の所望の回折効率(η)の関数として,ウエハ表面(200’)に対する溝(1210)の波形振幅(A)を計算するステップ」を含むのに対して,
引用発明は,そのようなステップを含むことは特定されていない点。

相違点2:
本件発明は,「耐エッチング材料(1201)を施すステップにおいて,隣接するストリップの露出した端部からウエハ表面(200’)へと延在し,計算された波形振幅(A)と等しい深さにおいて交角(α’)で互いに交差する,平らな界面(601’,602’)により溝(1210)が形成されるように,ストリップ(1211)の線幅(W)を制御するステップ」を含むのに対して,
引用発明では,そのようなステップを含むことは特定されていない点。

(2)相違点1の判断
ア 引用発明により製作されるマスター格子400を用いて製作されるレプリカ格子450は,溝の間隔がdである平行な溝を備え,当該溝はそれぞれ2つのファセットを有しており,ブレーズ角がθであり,波長λの入射光に対して,入射角α=回折角β=ブレーズ角θで使用されるリトロー構成の回折格子として機能するところ,当該リトロー構成の回折格子においても,「引用文献2記載事項」における「切頭型鋸歯形状を有するブレーズ型回折格子」と同様に,隣接する溝間に形成される格子(突起)の高さによって回折効率が変化することは,引用文献2の記載に接した当業者が容易に理解できることがらである。
そうすると,引用発明において,レプリカ格子450の回折効率をより大きなものとするために,レプリカ格子450の格子(突起)の高さに関して引用文献2記載事項における,格子(支持壁214)の最適高さを求める方法を適用して,レプリカ格子450について,格子(突起)の高さの関数としてのS偏光及びP偏光の回折効率を,それぞれG-SolverやPC-Grateといった市販ソフトウェアパッケージを使用して計算し,得られた格子(突起)の高さの関数としてのS偏光及びP偏光の回折効率から全体の回折効率が最大となる格子(突起)の最適高さを求め,レプリカ格子450の格子(突起)の高さが当該最適高さとなるように,引用発明によって製作するマスター格子400の溝340の深さを前記最適高さに設定することは,引用文献2の記載に接した当業者が容易になし得たことというほかない。

イ ここで,引用文献2記載事項において,「支持壁214の高さの関数としてのS偏光及びP偏光の回折効率を,それぞれ」「市販ソフトウェアパッケージを使用して計算」する際に,格子周期(又は格子密度),ブレーズ角,入射光の波長,入射角等のパラメータ値が必要になることは,引用文献2の記載や技術常識等から自明である(引用文献2の[0048]には,格子(突起)の高さの関数としてのS偏光及びP偏光の回折効率を計算するに際して,入射角をリトロー条件によって決定される角度である45°とし,ブレーズ角を最適ブレーズ角である55.8°としたことが記載され,図7(a)及び図7(b)には,入射光の波長が1530nm及び1570nmでの回折効率が示されている。また,[0048]には,計算に用いた格子周期又は格子密度の値について明記されていないものの,[0045]及び[0047]には,ブレーズ角の関数としてのS偏光及びP偏光の回折効率,並びに入射角の関数としてのS偏光及びP偏光の回折効率を計算するに際して,格子密度を900面/mmとしたことが記載されていること,さらに,図7(a)及び図7(b)に示された回折効率のグラフにおいて,支持壁の高さの最大値が約1550nmであって,底面の長さが格子周期d(約1.11μm)より少しだけ小さい支持壁(底面の長さが約1.05μmの支持壁)までがグラフに示されていること等からみて,格子(突起)の高さの関数としてのS偏光及びP偏光の回折効率を計算するに際しても,格子密度1/dを900面/mmとしたものと推察される。)。したがって,前記アで述べた構成の変更を行った引用発明において,「レプリカ格子450について,格子(突起)の高さの関数としてのS偏光及びP偏光の回折効率を,それぞれG-SolverやPC-Grateといった市販ソフトウェアパッケージを使用して計算」することは,所与の格子周期(リトロー構成におけるdという値),所与のブレーズ角(リトロー構成におけるθという値,又は引用文献2記載事項を適用することにより求められる最適ブレーズ角),所与の入射光の波長(リトロー構成におけるλという値),所与の入射角(リトロー構成におけるθという値,又は引用文献2記載事項を適用することにより求められる最適入射角)等に関して,格子(突起)の高さの関数としてのS偏光及びP偏光の回折効率を計算することにほかならない。
また,前記アで述べた構成の変更を行った引用発明において,最大となる全体の回折効率を「光の所望の回折効率」ということができ,また,求められた最適高さはマスター格子400の溝340の深さとして設定されるのであるから,当該最適高さを「マスター格子400の溝340の深さの最適値」ということができる。したがって,前記アで述べた構成の変更を行った引用発明において,「格子(突起)の高さの関数としてのS偏光及びP偏光の回折効率を,それぞれG-SolverやPC-Grateといった市販ソフトウェアパッケージを使用して計算し,得られた格子(突起)の高さの関数としてのS偏光及びP偏光の回折効率から全体の回折効率が最大となる格子(突起)の最適高さを求め」ることは,「光の所望の回折効率の関数として,マスター格子400の溝340の深さの最適値を計算する」ことといえる。しかるに,「マスター格子400の溝340の深さの最適値」は,相違点1に係る本件発明の「ウエハ表面(200’)に対する溝(1210)の波形振幅(A)」に相当する。
以上によれば,前記アで述べた構成の変更を行った引用発明,すなわち,レプリカ格子450の格子(突起)の高さに関して引用文献2記載事項における支持壁214の最適高さの求め方を適用して,レプリカ格子450について,格子(突起)の高さの関数としてのS偏光及びP偏光の回折効率を,それぞれG-SolverやPC-Grateといった市販ソフトウェアパッケージを使用して計算し,得られた格子(突起)の高さの関数としてのS偏光及びP偏光の回折効率から全体の回折効率が最大となる格子(突起)の最適高さを求め,レプリカ格子450の格子(突起)の高さが当該最適高さとなるように,引用発明によって製作するマスター格子400の溝340の深さを前記最適高さに設定するよう構成した引用発明は,「所与の格子周期(d)およびブレーズ角(θ_(b))に関し,光の所望の回折効率(η)の関数として,ウエハ表面(200’)に対する溝(1210)の波形振幅(A)を計算するステップ」を含むという相違点1に係る本件発明の発明特定事項を具備している。

ウ 前記ア及びイのとおりであるから,引用発明を,相違点1に係る本件発明の発明特定事項を具備したものとすることは,引用文献2記載事項に基づいて,当業者が容易に想到し得たことである。

(3)相違点2の判断
引用発明において,製作するマスター格子400の溝340の深さが,「隣接する酸化物ハードマスク形態330の間の基板300の露出幅」によって定まることは,当業者における技術常識である。そして,前記(2)アで述べた構成の変更を行った引用発明において,前記(2)イで述べた「所与の格子周期(リトロー構成におけるdという値)」という条件の下で,当該「隣接する酸化物ハードマスク形態330の間の基板300の露出幅」を変更するには,第4工程によって形成される酸化物ハードマスク形態330の幅(すなわち,第3工程において形成するフォトレジストマスク形態320のストライプの幅)を変更するしかないことは,当業者に自明である。
また,引用発明によって形成される溝340において,2つのファセット342及び344がなす角度は,単結晶シリコンにおける2つの{111}面の間の固有の角度(交角(α’))である。
そうすると,引用発明において,前記(2)アで述べた構成の変更を行う際には,当然,第3工程において,隣接するストリップの露出した端部から基板300の表面へと延在し,計算された「格子(突起)の最適高さ」と等しい深さにおいて交角(α’)で互いに交差する,2つのファセットにより溝が形成されるように,フォトレジストマスク形態320のストライプの幅を制御することとなる。すなわち,引用発明において,前記(2)アで述べた構成の変更を行う際には,当然,相違点2に係る本件発明の発明特定事項のように構成することとなる。

(4)効果について
本件発明の効果は,引用文献1及び引用文献2の記載に基づいて,当業者が予測できた程度のものである。

(5)請求人の主張について
審判請求書において,請求人は,「引用文献2の図7(a)から明らかなように,S偏光の回折効率は,2つのピーク値を有し,引用文献2の図7(b)から明らかなように,P偏光の回折効率は,ピーク値に向かって漸近する。さらに,引用文献2においては,S偏光およびP偏光のそれぞれの回折効率のピーク値における支持壁214の高さを採用して本願発明1の『溝(A)の振幅波形』を定めているにすぎず,S偏光およびP偏光のそれぞれの所望の回折効率から支持壁214(本件発明の『溝(A)の振幅波形』)を算出していることは開示されていない。また,引用文献2においては,本願の図9に示すように,無偏光の回折効率についての計算結果は記載されていない。」などと主張する。
そこで検討すると,引用文献2の[0048]には,「S偏光効率は2つの極大値を有し,P偏光効率は漸近挙動を示す。したがって,切頭型鋸歯形状の好ましい三角形の高さは,S偏光効率の第2のピーク,すなわち1310nm付近にある。」と記載されているが,当該記載は,2つの極大値を有するS偏光における回折効率と,漸近挙動を示すP偏光における回折効率とから把握される全体の回折効率,すなわち,無偏光(無偏光の光が,S偏光成分1/2とP偏光成分1/2とで構成されることは,技術常識である。)における回折効率が最大となるのが,2つのピークのうち大きい値を有する第2のピークの位置であり,当該第2のピークの三角形の高さが「好ましい三角形の高さ」(引用文献2記載事項における「最適高さ」)であることを説明したものと解するのが自然であって,請求人が主張するような「S偏光およびP偏光のそれぞれの回折効率のピーク値における支持壁214の高さ」を採用したものと解することはできない。
また,このことを措くとして,本件出願の請求項8には,
「前記波形振幅(A)は、所望の回折効率に従って設定され、前記投射光のTE偏光状態と、TM偏光状態とが、前記波形振幅(A)の関数として回折効率において達成可能な最大差を有する、請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の方法。」
と記載されていて,当該請求項8の記載によれば,本件発明の「前記光の所望の回折効率(η)の関数として,前記ウエハ表面(200’)に対する前記溝(1210)の波形振幅(A)を計算するステップ」に,TE偏光の回折効率とTM偏光の回折効率との差が最大となるような波形振幅(A)を計算する態様のステップも包含されることは明らかである。しかるに,当該態様では,無偏光の回折効率を計算することは必要とされないのだから,本件発明が,無偏光の回折効率を計算することを必須の構成としていることを前提とした請求人の前記主張は,そもそも,その前提において誤りがある。
したがって,請求人の主張は採用できない。

(6)まとめ
以上のとおりであるから,本件発明は,引用発明及び引用文献2記載事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。


6 むすび
本件出願の請求項1に係る発明は,引用発明及び引用文献2記載事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本件出願は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-06-13 
結審通知日 2018-06-19 
審決日 2018-07-03 
出願番号 特願2014-514829(P2014-514829)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福村 拓最首 祐樹  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 清水 康司
河原 正
発明の名称 回折格子を生産する方法  
代理人 特許業務法人 武和国際特許事務所  
代理人 特許業務法人 武和国際特許事務所  

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