• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G05D
管理番号 1346315
審判番号 不服2018-7574  
総通号数 229 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-06-04 
確定日 2018-11-12 
事件の表示 特願2015-205775「磁気マーカ及び磁気マーカ検出システム」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 4月27日出願公開、特開2017- 78909〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年10月19日の出願であって、平成28年12月20日付けで拒絶理由通知がされ、平成29年2月20日付けで手続補正がなされ、、同年8月1日付けで拒絶理由通知がされ、同年9月28日付けで手続補正なされたが、平成30年2月27日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年6月4日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。


第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成29年9月28日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された、次のとおりのものと認める。

「【請求項1】
車両の底面側に取り付けられた磁気センサで検出できるように路面に敷設され、運転者の運転を支援するための車両側の運転支援制御を実現するための磁気マーカであって、
磁気マーカの表面の磁束密度Gsが40ミリテスラ(400ガウス)以下であり、かつ、
磁気マーカの表面を基準とした高さ250mmの位置における磁束密度Ghが0.5マイクロテスラ(5ミリガウス)以上であることを特徴とする磁気マーカ。」


第3 引用文献
(1)引用文献1・引用発明
本願の出願日前に日本国内において頒布され、原査定の拒絶の理由に引用文献として引用された特開2008-47148号公報(以下、「引用文献1」という。)には、「交通支承面での使用に適する順応性磁気製品」に関し、次の技術事項が記載されている。(下線部は、当審により付加した。以下、同じ。)

ア.「【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気製品に、特に、その上で車両又はその他の可動性物体を動かすために車道、倉庫床等に適用し得る製品に関する。」

イ.「【0018】
したがって、本発明の一局面は、以下の:
a)有機結合剤(好ましくは未架橋エラストマー前駆体、熱可塑性ポリマー(さらに好ましくは延性熱可塑性ポリマー)、及びこれらの組合せから成る群から選択される材料を含む);並びに
b)有機結合剤中に分散され、残留的に磁化され、センサーに感知されるに十分な磁場(特定の適用により1つ又はそれ以上)を生じるのに十分な量で存在して、当該製品に対して動く可動物を誘導及び/又は制御することができる多数の磁性粒子
を含む順応性磁気(好ましくはシート様)製品である。本明細書中で定義するように、可動物なる用語は、人により制御される乗物;種々の活動に関与する人;養殖場動物;ペット;消防士;移動ロボット等が挙げられ、磁気センサーを装備したものはすべて、磁気信号又は本発明の順応性磁気製品からの信号を検出して信号(単数又は複数)を聴覚、触覚、視覚的又はその他の警告及び/又は制御信号に変換する能力を有する。」

ウ.「【0021】
本発明の順応性磁気製品(好ましくは粘着テープの形態の)は、好ましくは本製品の磁性粒子が、典型的には道路上6 ?12インチ(15?30cm)に位置して車両に取付けられたセンサーにより検出できる磁場を生じるよう配向し得るように、永久磁化粒子を含有する順応性磁気層を含む。本発明の製品は、好ましくは製品の正中線から24インチ(61cm)まで外側寄りに少なくとも10ミリガウスの磁場を生じる。本明細書中の実施例の項に記載した試験において、本発明の製品の一実施態様が本発明の製品の正中線から約 2メーター(m)外側寄りに少なくとも10ミリガウスの磁場を生じることが意外にも判明した。典型的な製品の幅は約1cm?50cm、好ましくは5?20cmの範囲に及び、典型的な製品の厚さは約0.1cm?約1.0cm、好ましくは約0.1 ?0.2cmの範囲に及ぶが、しかしその他の多数の製品形状も考えられ、必要な形状は製品の特定の用途に大きく左右される。
【0022】
車両を制御及び/又は誘導する場合、本発明の製品は、道路の表面に載せられても道路の溝に入れられてもよい。後者の実施態様では、表面が「新鮮な」(即ち未だ温かい)アスファルト表面である場合、あるいは新たに堆積された又は未硬化コンクリート混合物である場合は、本発明の製品は最初に新鮮なアスファルト又は未硬化コンクリートの上面に置き、その後、ローラーのようなあらゆる適切な手段を用いて表面を実質的に同一平面に押し下げる。」

エ.「【0126】
VIII.可動物ガイダンスシステム
前記のように、本発明はさらに、倉庫等を通る、道路上の可動物をガイドするためのシステムを包含する。本発明のシステムの主要成分は、本発明の順応性磁気製品、製品から磁場を検出するための少なくとも1つのセンサー、及びセンサーからの信号を受容して可動物に警報を発するか又は警告する指示器である。人が運転する車両をガイドする際に用いるのに適した本発明の典型的外側位置指示器システムを、図8に示す(本発明の製品は図示していない)。
【0127】
A.センサー
本発明の製品からの磁気信号をさらに別の信号処理に適した電圧又は電流に変換するために、多数のセンサー及び変換器が利用できる。フラックスゲート磁力計は高感度であるが、しかしこれに用いるには遅く且つ経費が掛かりすぎる。ホール効果センサーは迅速で、コンパクト且つ廉価であるが、しかしおそらく十分な感受性を有さない。近年、経済的なソリッドステート磁気抵抗性(MR)センサーが利用できるようになったが、これは、米国特許第号及び第号に開示されているように、10ミリガウス以下の(0.01ミリガウス未満の感受性を有する)磁場を迅速且つ正確に測定し得る一方、消費電力は1ミリワットに満たない。スチール強化バー、その他の車両等により生じる磁気「ノイズ」からのガイダンス信号を識別するに際して、潜在的問題が存在する。10ミリガウス信号は約500ミリガウスという地球の磁場と比較して小さい。しかしながら、本発明の製品を規則的に交替する信号パターンで磁化する場合には、磁気信号は車両の速度に比例した振動数を有して周期的である。次いで、現代の信号処理法を用いて、ノイズから公知の振動数での信号を抽出し得る。」

オ.「【0132】
実施例1
商品名SCOTCHLANE 620シリーズ(Minnesota Mining and Manufacturing Co.,St.Paul,MN(「3M」)から入手可能)で公知の舗道マーキングテープ 4.0×0.060 インチ(10.2×0.15cm)を、同一幅及び厚みの、商品名PLASTIFORM B-1033型可撓性磁気ストリップ(Arnold Engineering,Norfolk, Nebraska)で公知の市販の可撓性磁性材料に積層することにより、試験ストリップを作った。B-1033物質は、約2500ガウスの残留磁化(Br)を有するニトリルゴム結合剤中で垂直に配向されるバリウムフェライト粒子で構成された。バリウムフェライトの配向は、機械的圧延法によりなし遂げた(圧延済の物質をArnold Engineeringから購入した)。0.15 cm 厚の全体を完全に磁化された10.2 cm 幅の材料のロールを各々長さ約61 cm の切片に切断した。他の切片はすべて交替する磁界パターンを示すよう逆向きにした。次にストリップを舗道マーキングテープの連続切片の下側に積層させた。積層ストリップの下側に接着剤を被覆して、アスファルト道路試験切片への付着を促した。車両のフロントバンパーの中央に載せた磁力計が直接磁気ストリップ物質上にくるように、本発明の物質をレーンの中央に置いた。次いで、MRセンサーを約23cmの高さに固定してストリップに沿って動かして、磁場プロフィールを記録した。磁気ストリップに対する実際の横方向の偏りの記録により算定された偏り(磁気)対実際(ビデオ)の比較がなされるように、ビデオカメラを載せた。車両内部では、データ獲得システムを用いて磁力計出力の3軸、並びにビデオシステムからの同期信号を記録した。」

上記アないしオの記載から、引用文献1の「順応性磁気製品」には以下の事項が記載されている。

・上記ウの段落【0021】には、磁性粒子が、典型的には道路上6 ?12インチ(15?30cm)に位置して車両に取付けられたセンサーにより検出できる磁場を生じるよう配向し得るように、永久磁化粒子を含有する順応性磁気層を含む順応性磁気製品が記載されている。また、段落【0022】には、車両を制御及び/又は誘導する場合、順応性磁気製品は、道路の溝に入れられる、ことが記載されている。
したがって、引用文献1には、磁性粒子が、道路上6?12インチ(15?30cm)に位置して車両に取付けられたセンサーにより検出できる磁場を生じるよう配向し得るように、永久磁化粒子を含有する順応性磁気層を含む、車両を制御及び/又は誘導するために道路の溝に入れられる順応性磁気製品、が記載されているといえる。

・上記エの段落【0127】によれば、センサーが、ソリッドステート磁気抵抗性(MR)センサーであって、10ミリガウス以下の(0.01ミリガウス未満の感受性を有する)磁場を迅速且つ正確に測定し得るものである、ことが記載されている。

・上記オによれば、試験ストリップは、幅10.2cm、厚み0.15cmの舗道マーキングテープの下に、同じ幅、厚さの可撓性磁気ストリップを積層したものであって、長さは61cmである、ことが記載されている。ここで、試験ストリップとは順応性磁気製品を指すものである。
したがって、引用文献1には、順応性磁気製品は、幅10.2cm、厚み0.3cm、長さ61cmである、ことが記載されているといえる。

したがって、上記摘示事項及び図面を総合勘案すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「磁性粒子が、道路上6?12インチ(15?30cm)に位置して車両に取付けられたセンサーにより検出できる磁場を生じるよう配向し得るように、永久磁化粒子を含有する順応性磁気層を含む、車両を制御及び/又は誘導するために道路の溝に入れられる順応性磁気製品において、
該順応性磁気製品は、幅10.2cm、厚み0.3cm、長さ61cmであって、
前記センサーが、ソリッドステート磁気抵抗性(MR)センサーであって、10ミリガウス以下の(0.01ミリガウス未満の感受性を有する)磁場を迅速且つ正確に測定し得るものである、
順応性磁気製品。」

(2)引用文献2
本願の出願日前に日本国内において頒布され、原査定の拒絶の理由に引用文献として引用された特公昭51-26590号公報(以下、「引用文献2」という。)には、次の技術事項が記載されている。

ア.「本発明は、各種の道路上の広範な種類の交通形式を制御するのに適用される。本明細書の目的に対しては、道路という用語は、その上を車両が進行するすべての地上表面、すなわち市街、高速道路、自動車路、駐車地区、空港滑走路、ビルディング内の廊下または広場などを含んでいる。これらを総括して、かかる道路に本発明の新規設備をする利点は、道路上を進行する車両に制御情報をあたえるように磁石を商業的に実用することについて技術に著しい進歩をしたことである。車両内の進行制御装置、例えば運転者に情報を提供する可視または可聴装置、或はそれらの車両を自動的に操作する機構などを動作することによって、本発明の適用は道路交通を一層便利かつ安全にするであろう。」(3段落32行?4段落8行)

イ.「磁束センサに対する最も標準的な高さは、10in(25cm)であるが、表面を平滑にした道路の表面に近く下降されるように車の可動支持部に取付けても差支ない。一般には、同一極性の部片は、約3ないし20in(7.5ないし50cm)間隔に離して置かれるであろう。
設置された磁界が、少なくも2ガウス、好適には少なくも10ガウスの強さを道路表面において持っているならば、本発明の道路進行車両上の磁束センサに適当な電気信号が生ずるであろう。」(8段落3?12行)

ウ.「本発明は、本発明の道路を使用した誤進路警告装置の下記実施例によって更に例示される。プラスチフォーム印(plastiform brand)磁石の3in幅、24in長、1/4in厚(7.5cm幅、60cm長、0.6cm厚)の薄板が、第1図および第2図に例示した仕方でアスファルト道路内の横方向溝に縁を合わせて埋設された。

・・・中略・・・

この磁石は、道路表面において500ガウスを超える磁界を示し、道路上10in(25cm)において約0.5ガウスの磁界を示す。」(8段落43行?9段落26行)

したがって、上記引用文献2には次の技術事項(以下、「引用文献2記載の技術事項」という。)が記載されていると認められる。

「道路上を進行する車両に制御情報をあたえため道路内の横方向溝に縁を合わせて埋設される磁石が、7.5cm幅、60cm長、0.6cm厚の薄板であって、道路表面においては500ガウスの磁界を示し、車両に磁束センサが取り付けられる最も標準的な高さである道路上10in(25cm)においては約0.5ガウスの磁界を示すこと。」



第4 対比
本願発明と引用発明とを対比する。

ア.引用発明の「ソリッドステート磁気抵抗性(MR)センサー」は、本願発明の「磁気センサ」に相当する。
そして、引用発明の「順応性磁気製品」は、車両に取付けられたセンサーにより検出し、車両を制御及び/又は誘導するために道路の溝に入れられるものである。また、車両の前記「センサー」は、道路上6 ?12インチ(15?30cm)に位置し、道路面上の順応性磁気製品を検出するものであるから、車両の底面側に取り付けられているものと認められる。
したがって、引用発明の「磁性粒子が、道路上6 ?12インチ(15?30cm)に位置して車両に取付けられたセンサーにより検出できる磁場を生じるよう配向する永久磁化粒子を含有する順応性磁気層を含む、車両を制御及び/又は誘導するために道路の表面に載せられた順応性磁気製品」は、本願発明の「車両の底面側に取り付けられた磁気センサで検出できるように路面に敷設され、運転者の運転を支援するための車両側の運転支援制御を実現するための磁気マーカ」に相当する。

イ.引用発明においては「センサー」は、道路上6 ?12インチ(15?30cm)の範囲の位置において、順応性磁気製品からの10ミリガウスの磁場を測定するものであり、その範囲内の道路上25cm(250mm)の位置においても10ミリガウスの磁場を検出するものである。してみると、引用発明の「順応性磁気製品」は道路上25cm(250mm)の位置において磁束密度が10ミリガウス(5ミリガウス以上)の磁場を形成しているものと認められる。
したがって、引用発明の「前記センサーが、ソリッドステート磁気抵抗性(MR)センサーであって、10ミリガウス以下の(0.01ミリガウス未満の感受性を有する)磁場を迅速且つ正確に測定し得るものである、順応性磁気製品」は、本願発明の「磁気マーカの表面を基準とした高さ250mmの位置における磁束密度Ghが0.5マイクロテスラ(5ミリガウス)以上であること」に含まれるものである。

ただし、本願発明では、「磁気マーカの表面の磁束密度Gsが40ミリテスラ(400ガウス)以下であ」るのに対して、引用発明では、その旨の特定がされていない点で相違する。

そうすると、本願発明と引用発明とは次の点で一致ないし相違するものと認められる。

(一致点)
「車両の底面側に取り付けられた磁気センサで検出できるように路面に敷設され、運転者の運転を支援するための車両側の運転支援制御を実現するための磁気マーカであって、
磁気マーカの表面を基準とした高さ250mmの位置における磁束密度Ghが0.5マイクロテスラ(5ミリガウス)以上である磁気マーカ。」

(相違点)
本願発明では、「磁気マーカの表面の磁束密度Gsが40ミリテスラ(400ガウス)以下であ」るのに対して、引用発明では、その旨の特定がされていない点。

第5 判断
そこで、上記相違点について検討する。
引用文献2(上記「第3(2)」を参照)には、「道路上を進行する車両に制御情報をあたえ、道路内の横方向溝に縁を合わせて埋設される磁石が、7.5cm幅、60cm長、0.6cm厚の薄板であって、道路表面においては500ガウスの磁界を示し、車両に磁束センサが取り付けられる最も標準的な高さである道路上10in(25cm)においては約0.5ガウス(500ミリガウス)の磁界を示す」ことが記載れている。つまり、道路と磁束センサとでは磁束密度が1000倍違うものである。
そうすると、2つの磁気マーカの表面の磁束密度が、道路上250mmの位置における磁束密度の大きさに単純には比例しないとしても、引用文献2に記載された道路と道路上250mmの位置とでは磁束密度が1000倍違うことを参酌すれば、引用発明は道路表面の磁束密度が10ガウス(10ミリガウス×1000)近傍になるから、引用発明の順応性磁気製品の道路上における表面の磁束密度を400ガウス以下とすることは容易になし得た事項である。
なお、引用発明の順応性磁気製品と引用文献2に記載の磁石は、いずれも、車の制御用に道路に設けられるものであって、著しく大きさがことなるものではない。
したがって、引用発明における、道路上250mmの位置において10ミリガウスを示す順応性磁気製品において引用文献2記載の技術事項を参酌して、道路上にある順応性磁気製品の表面の磁束密度を400ガウス以下に調整することは、当業者が容易に想到し得たことである。

また、本願発明の効果も、引用発明、引用文献2に記載された技術事項から想到される構成から当業者が予想できる範囲のものである。


第6 むすび
以上のとおりであって、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-09-11 
結審通知日 2018-09-18 
審決日 2018-10-02 
出願番号 特願2015-205775(P2015-205775)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G05D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐久 聖子馬場 慎  
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 関谷 隆一
山澤 宏
発明の名称 磁気マーカ及び磁気マーカ検出システム  
代理人 大池 達也  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ