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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B
管理番号 1346335
審判番号 不服2018-2209  
総通号数 229 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-02-16 
確定日 2018-12-06 
事件の表示 特願2016-166135「シームレス計器群」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 3月 2日出願公開,特開2017- 45059,請求項の数(10)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本件拒絶査定不服審判事件に係る出願(以下,「本件出願」という。)は,平成28年8月26日(パリ条約による優先権主張2015年8月27日,米国)の出願であって,平成29年6月2日付けで拒絶理由が通知され,同年9月12日に意見書及び手続補正書が提出されたが,同年10月4日付けで拒絶査定(以下,「原査定」という。)がなされた。
本件拒絶査定不服審判は,これを不服として,平成30年2月16日に請求されたものである。


第2 本件出願の請求項1ないし10に係る発明
本件出願の請求項1ないし10に係る発明は,平成29年9月12日提出の手続補正書によって補正された請求項1ないし10に記載された事項によって特定されるものと認められるところ,当該請求項1ないし10の記載は次のとおりである。

「【請求項1】
計器群であって,
デジタルディスプレイレンダラを介して提供される情報に応答して光を照射するように構成されるディスプレイと,
前記ディスプレイの表面上に適用される第1の反射防止(AR)フィルムまたはコーティングと,
当該計器群を見る人に光を照射することを可能にする開口部を有するアップリケ層と,
前記ディスプレイに面する前記アップリケ層の表面に適用される第2のARフィルムと
を備え,
前記アップリケ層は,前記開口部に近い前記アップリケの一部の上のフェードパターンを含み,
前記フェードパターンは,半正弦波パターンによって設けられている
ることを特徴とする計器群。
【請求項2】
前記第1のARフィルムと前記第2のARフィルムとの間のエアギャップ
をさらに備える
ことを特徴とする請求項1に記載の計器群。
【請求項3】
前記アップリケ層の表面上に設けられる,または,色素を介してアップリケ基板材料に埋め込まれる,中性濃度(ND)フィルタ
をさらに備える
ことを特徴とする請求項2に記載の計器群。
【請求項4】
前記第1または第2のARフィルムは,Motheyeフィルムである
ことを特徴とする請求項3に記載の計器群。
【請求項5】
前記NDフィルタは,25%より大きい中性濃度率によって定義される
ことを特徴とする請求項3に記載の計器群。
【請求項6】
計器群であって,
デジタルディスプレイレンダラを介して提供される情報に応答して光を照射するように構成されるディスプレイと,
当該計器群を見る人に光を照射することを可能にする開口部を有するアップリケ層と,
前記ディスプレイに向く前記アップリケ層の表面に適用されるARフィルムと
を備え,
前記ディスプレイには,平滑な表面が設けられており,
前記アップリケ層は,前記開口部に近い前記アップリケの一部の上のフェードパターンを含み,
前記フェードパターンは,半正弦波パターンによって設けられている
ことを特徴とする計器群。
【請求項7】
前記アップリケ層上の前記AR層と前記ディスプレイ上の別のAR層との間のエアギャップ
をさらに備える
ことを特徴とする請求項6に記載の計器群。
【請求項8】
前記ディスプレイの方を向いていない前記アップリケ層の表面に設けられる中性濃度(ND)フィルタ
をさらに備える
ことを特徴とする請求項7に記載の計器群。
【請求項9】
前記ARフィルムは,平滑タイプである,
ことを特徴とする請求項8に記載の計器群。
【請求項10】
前記NDフィルタは,25%より大きい中性濃度率によって定義される,
ことを特徴とする請求項8に記載の計器群。」(以下,請求項1ないし10に係る発明をそれぞれ「本件発明1」ないし「本件発明10」といい,これらを総称して「本件発明」ということがある。)


第3 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由は,概略次のとおりである。

本件出願の請求項1ないし10に係る発明は,その優先権主張の日より前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて,その優先権主張の日より前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特表2008-544464号公報
引用文献2:国際公開第2014/112525号
引用文献3:特開平7-186778号公報
引用文献4:特開2006-231736号公報(周知例)
引用文献5:特開2011-137753号公報(周知例)


第4 原査定の拒絶の理由についての判断
1 引用例
(1)引用文献1
ア 引用文献1の記載
引用文献1(特表2008-544464号公報)は,本件出願の優先権主張の日より前に頒布された刊行物であるところ,当該引用文献1には次の記載がある。(下線は,後述する引用発明の認定に特に関係する箇所を示す。)
(ア) 「【背景技術】
【0002】
本発明は車両の計器表示装置に係る。
【0003】
車両用ダッシュパネルは通常,車両のダッシュボード上にあり,速度計,タコメータ,エンジン状態指示器,ABSブレーキ指示器及び車両の動作状態をモニターするための他の装置を含む。ダッシュパネルは表示マークを含んでおり,各マークを照らすための照明手段を含むことがある。例えば,ABSブレーキマークは車両がABSブレーキ作用を受けている時照明される。通常,かかる照明はダッシュボードの各指示器を照明する個々のランプにより施される。しかしながら,個々のランプは有意な空間を占有し,各ランプに電流を供給する高電圧回路を必要とする。高電圧はさらに電気ショックに対する保護のための絶縁を必要とするから,ダッシュパネルのコスト及びサイズが増加する。
【0004】
近年,ダッシュパネルの各表示マークを直接照明するための導光手段の利用が一般的となっている。しかしながら,個々のマークがそれぞれ別個に照明されるように各マークにそれ自体の導光手段と光源を設ける必要がある。典型的なダッシュパネルにはかかる照明を必要とする多数の別個の指示器がある。各指示器に関連する導光手段をダッシュパネルに一度に1つずつ組み込む必要があるが,これは面倒である。従って,ダッシュパネルに導光手段をそれぞれ組み込むには多くの時間と作業が必要となる。
【0005】
加えて,ダイヤルのような計器表示装置の既存の導光手段にはダイアルアップリケを用いる必要がある。このダイアルアップリケは,速度計の目盛のハッシュマーク,目盛の数字,車両表示器及び他のマークのような計器表示マークを有する薄いプラスチックである。大多数のダイアルアップリケは照明される部分を除き不透明である。速度計の目盛のための導光手段のような,ダイアルアップリケと共用される導光手段は,マークだけでなくてダイアルアップリケの大きな部分を照明する。従って,既存の計器表示装置は照明エネルギーを浪費する。
【0006】
従って,既存の照明システムの複雑さ,非効率性及び大型化を回避する薄型ダッシュパネルが求められている。
【発明の概要】
【0007】
本発明の実施例による計器表示装置は,選択的に発光する光源と,光源からの光を受ける導光手段とを有する。1またはそれ以上の光学的被覆層は導光手段上に位置する。導光手段は第1の屈折率を有し,光学的被覆層は導光手段の第1の屈折率よりも大きい第2の屈折率を有する。光学的被覆層は周囲光によるグレアを減少させ,導光手段の光透過性能を改善する。
【0008】
本発明の実施例による方法は,1またはそれ以上の光学的被覆層を導光手段上に配置するステップを含む。導光手段は第1の屈折率を有し,光学的被覆層は導光手段の第1の屈折率よりも大きい第2の屈折率を有する。
【0009】
別例による計器表示装置は,選択的に発光する光源と,光源からの光を受ける導光手段とを有する。複数の不透明な光学的被覆層が導光手段上に位置し,光の損失を阻止する。例えば,不透明な光学的被覆層は白色ペイント,黒色ペイント及び灰色ペイントを含む。」

(イ) 「【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は,自動車のダッシュパネルのような計器表示装置の一例10を示す展開図である。背部カバー12は指針16の駆動装置14を支持する。印刷回路板である制御ユニット18は発光ダイオードのセット20を有し,それらのダイオードは公知の態様で種々の車両状態に応答するように制御ユニット18により制御される。発光ダイオード20は光ハウジング22を貫通して突出し,光を導光手段24へ供給する。発光ダイオード20からの光は導光手段24を照明する。
【0011】
液晶表示器25も計器表示装置10に付随して設けられているが,これは1つの導光手段24により照明される。ダイアルアップリケ27は所望のグラフィックスを提供するために導光手段24と協働して用いられる。マスク26及びフロントレンズ28は背部カバー12へ公知の態様で固定され,例えば埃や破片から計器表示装置10が保護されるようにする。
【0012】
図示の例の導光手段24は,それぞれ燃料レベルインジケータ,エンジン光インジケータまたは他の公知の車両表示マークのような1またはそれ以上の計器表示マーク30を有する。各導光手段24は,所望の計器表示マーク30が適当な車両状態に応じて照明されるように個々に光を受ける。
【0013】
図2は,1つの計器表示マーク30を照明するために1つの発光ダイオード20から光を受ける1つの導光手段24の一部を示す単純化した概略断面図である。光は,或る特定の屈折率を有する公知の透明または半透明材料で作られた導光手段24を透過する。屈折率はある物質中の光の速度に対する真空中の光の速度の比率であることが知られている。
【0014】
導光手段24はフロントレンズ28の方へ向いた前方表面32aと,フロントレンズ28から離れる方向に向いた後方表面32bとを有する。この例では,光学的被覆層42(即ち,反射防止膜)は前方表面32aと後方の表面32bとの上にある。例えば,光学的被覆層42は導光手段24上に公知の態様で塗布または蒸着されたものである。光学的被覆層42は透明または半透明の光学的被覆材料で形成されており,導光手段24よりも大きい屈折率を有する。一例として,導光手段24は屈折率が約1.5と1.6の間のアクリルまたはポリカーボネイトのような公知のプラスチック材料より成る。図示の例では,計器表示マーク30が後方表面32b上にある。光学的被覆層42は,以下に述べるように,周囲光の反射を減少する機能と,導光手段24の光損失を減少する機能との二重の機能を有する。別例として,光学的被覆層42を前方表面32aまたは後方表面32bの一方のみの上に設ける。
【0015】
図示の例において,発光ダイオード20からの光44aは導光手段24内を,導光手段24の前方表面32aと,光学的被覆層42との間の界面へ角度αで伝播する。この例では,光44aの一部44bは前方表面32aで内部反射して導光手段24内を引き続き伝播する。光44aのうちの別の部分44cは内部反射せずに光学的被覆層42内を角度αとは異なる角度βで(即ち,導光手段24と光学的被覆層42との間の屈折率の違いにより異なる)伝播する。光44aの一部44cは光学的被覆層42の外側表面の方へ伝播し,導光手段24内へ内部反射する。かくして,光学的被覆層42は光44aの一部44cが導光手段24から漏出するのを阻止することにより導光手段24の光損失を減少させる。
【0016】
角度α及びβは,n_(1)及びn_(2)がそれぞれ導光手段24及び光学的被覆層42の屈折率であるとして,式n_(1)・sinα=1及びsinβ=(n_(1)/n_(2))・sinαを用いて公知の態様で決定される。
【0017】
図示の例において,光学的被覆層42は光学的被覆層42に対して鉛直方向で反射する周囲光も減少させる。これにより,反射する周囲光による干渉が少なく,計器表示マーク30を視認できるという利点が得られる。例えば,周囲光54aは導光手段24及び光学的被覆層42に対して鉛直方向に伝播する。周囲光54aの一部54bは光学的被覆層42の表面で反射してフロントレンズ28の方へ(即ち,見るものの方へ)進む。周囲光54aの別部分54cは光学的被覆層42を伝播し導光手段24の前方表面32aで反射する。この例では,光の反射部分54b及び54cは少なくとも一部が位相が異なるため公知の態様で互いに打ち消すように干渉し,反射光が減少する。
【0018】
一例として,光学的被覆層42は,互いに打ち消す干渉作用を最大にし,表面に鉛直な反射光を最小にするために所望の厚さdとなるように,導光手段24上に付着させる。さらに別例では,光学的被覆層42の厚さは,n_(1)は導光手段24の屈折率,n_(2)は光学的被覆層42の屈折率,λは周囲光の波長であるとすると,d=λ/(4n_(2)),n_(2)=(n_(1)+1)/2に応じて決まる。」

(ウ) 「【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】計器表示装置の実施例を示す展開図である。
【図2】計器表示装置内の導光手段及び光学的被覆層の一部を示す概略図である。
・・・(中略)・・・
【図1】

【図2】



イ 引用文献1に記載された発明
引用文献1の図1から,背部カバー12,4つの駆動装置14,制御ユニット18,光ハウジング22,導光手段24,液晶表示器25,ダイアルアップリケ27,4つの指針16,フロントレンズ28を有するマスク26が,計器表示装置10の背面側からこの順で設けられていること,及び,液晶表示器25が,速度計のような一つの計器部位の下側の位置に,当該計器部位よりも小さなサイズで設けられていることを看取でき,図2から,導光手段24の後方表面32b上に存在する光学的被覆層42の背面側表面に,計器表示マーク30が形成されていること,及び,導光手段24が側面側から発光ダイオード20からの光を受けるように構成されていることを看取でき,また,前記ア(イ)で摘記した記載中の【0011】に記載された「ダイアルアップリケ27」は,前記ア(ア)で摘記した記載中の【0005】に記載された「大多数のダイアルアップリケ」と同様に,照明される部分を除き不透明であることは自明であるから,前記ア(ア)ないし(ウ)で摘記した記載から,引用文献1に,次の発明が記載されていると認められる。

「背部カバー12と,
前記背部カバー12により支持された4つの駆動装置14と,
発光ダイオード20のセットを有する印刷回路板である制御ユニット18であって,前記発光ダイオード20を種々の車両状態に応答するように制御する制御ユニット18と,
前記発光ダイオード20が貫通して突出するように設けられた光ハウジング22と,
それぞれ燃料レベルインジケータ,エンジン光インジケータまたは他の公知の車両表示マークのような1またはそれ以上の計器表示マーク30を有し,所望の計器表示マーク30が適当な車両状態に応じて照明されるように個々に側面側から前記発光ダイオード20からの光を受けるよう構成された複数の導光手段24と,
前記複数の導光手段24のうちの1つにより照明される液晶表示器25と,
所望のグラフィックスを提供するために前記導光手段24と協働して用いられ,照明される部分を除き不透明であるダイアルアップリケ27と,
前記4つの駆動装置14によりそれぞれ駆動される4つの指針16と,
フロントレンズ28を有するマスク26であって,前記背部カバー12へ固定され,埃や破片から計器表示装置10が保護されるようにするマスク26と,
が,背面側からこの順で設けられた計器表示装置10であって,
前記液晶表示器25は,速度計のような一つの計器部位の下側の位置に,当該計器部位よりも小さなサイズで設けられ,
前記導光手段24における前記フロントレンズ28の方へ向いた前方表面32aと,前記フロントレンズ28から離れる方向に向いた後方表面32bの双方には,前記導光手段24の屈折よりも大きい屈折率を有する光学的被覆層42が塗布又は蒸着され,前記後方表面32b上に塗布又は蒸着された前記光学的被覆層42の背面側表面には,前記計器表示マーク30が形成されており,両表面に形成された前記光学的被覆層42は,鉛直方向で反射する周囲光の反射を減少する機能と,導光手段24内を伝播する発光ダイオード20からの光44aの一部44cが導光手段24から漏出するのを阻止することにより導光手段24の光損失を減少させる機能との二重の機能を有している,
自動車のダッシュパネルの計器表示装置10。」(以下,「引用発明」という。)

(2)引用文献2
ア 引用文献2の記載
引用文献2(国際公開第2014/112525号)は,本件出願の優先権主張の日より前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであるところ,当該引用文献2には次の記載がある。(下線は,後述する引用文献2記載技術の認定に特に関係する箇所を示す。)
(ア) 「背景技術
[0002]図39は,従来の一般的な表示装置の電源オン時の表示状態及び電源オフ時の表示状態を示す説明図である。図39に示すように,電源オン状態の表示装置101では,表示領域Aに画像が表示され,表示領域Aの外周にある,額縁又はベゼルと呼ばれる領域(額縁領域B)は,表示に寄与しない。一方,電源オフ状態の表示装置102では,表示領域Aに画像は表示されず,額縁領域Bは表示に寄与しないままである。
[0003]このような従来の一般的な表示装置は,電源オフ状態等の非表示時には,画面が黒色又は灰色になるだけであるため何ら利用者の役に立たない。そればかりか,特にデジタルサイネージやテレビ受像機のようにサイズが大きく可搬性の低い表示装置の場合,非表示時であっても表示時と同じ設置スペースを占有するため,利用者にとっては単なる障害物ともなり得る。すなわち,従来の一般的な表示装置は,表示時にしかその存在価値が認められないものであった。
[0004]これに対して,表示装置の前面にハーフミラープレートを設けることで,非表示時にはミラーとして利用できるミラーディスプレイが提案されている(例えば,特許文献1?4参照。)ミラーディスプレイによれば,本来の目的である表示以外に,ミラーとしての使用が可能である。すなわち,ミラーディスプレイでは,表示装置から表示光が出射しているとき,及び,表示装置から表示光が出射している領域において,表示光による表示が行われ,一方,表示装置から表示光が出射していないとき,及び,表示装置から表示光が出射していない領域において,外光を反射することによりミラーとして使用される。
[0005]このようなミラーディスプレイにおいて,ミラーモード時にミラー面として機能する領域であるミラー領域の一部に額縁領域を含めれば,ミラーモードのミラー領域をディスプレイモードの表示領域よりも大面積にすることができるので,額縁領域を有効活用してミラーとしての実用性を高めることができる。また,額縁領域にミラーとしての機能を付与することでディスプレイモード時のデザイン性が高まることがある。
・・・(中略)・・・
発明が解決しようとする課題
[0007]しかしながら,ミラー領域を表示領域よりも広くした構成では,ミラーモード時に額縁領域と表示領域との間の境界線が視認されてしまい,デザイン性を低下させてしまうため,改善の余地があった。
[0008]本発明は,上記現状に鑑みてなされたものであり,ミラーモード時に額縁領域と表示領域との間の境界線が視認されることを防止し,デザイン性を向上させたミラーディスプレイ,そのミラーディスプレイに用いられるハーフミラープレート,及び,そのミラーディスプレイを用いた電子機器を提供することを目的とするものである。
課題を解決するための手段
[0009]本発明者らは,ミラーディスプレイについて鋭意検討する中で,ミラーモード時に額縁領域と表示領域との間の境界線が視認されないようにすることにより,ミラーディスプレイのデザイン性を向上でき,多様な用途においてミラーディスプレイを活用できることに着目した。
[0010]そこで,本発明者らは,ミラーモード時に額縁領域と表示領域との間の境界線が視認されないようにする方法について種々検討した結果,反射率調整部材を設ける方法に想到した。これにより,本発明者らは,上記課題をみごとに解決することができることに想到し,本発明に到達した。
[0011]すなわち,本発明の一態様は,ハーフミラー層を有するハーフミラープレートと,上記ハーフミラープレートの裏側に配置された表示装置と,を有するミラーディスプレイであって,上記表示装置は,表示パネルと,上記表示パネルの周囲を保持する額縁部材と,を有し,上記ミラーディスプレイは,上記ハーフミラー層と上記表示パネルが対向する表示領域の反射率と,上記ハーフミラー層と上記額縁部材が対向する額縁領域の反射率と,を一致させる反射率調整部材を有するミラーディスプレイである。」

(イ) 「[0175](実施例35)
実施例35は,液晶表示装置,ハーフミラー層としての反射型偏光板,及び,反射率調整部材としてのグラデーションフィルタ及び黒アクリル板を備えたミラーディスプレイに関し,実施例31との違いは,反射率調整部材として,黒アクリル板17に加えて,グラデーションフィルタを用いたことである。図34は,実施例35のミラーディスプレイの構成を示す断面模式図である。図34に示すように,実施例35のミラーディスプレイは,背面側から観察者側に向かって順に,液晶表示装置5e,空気層6a及びハーフミラープレート7sを備え,ハーフミラープレート7sは,液晶パネル11aの表示領域と重ならない領域(ミラーディスプレイの額縁領域B)に,空気層6bを介して,反射率調整部材として,グラデーションフィルタ30及び黒アクリル板17を配置した。すなわち,反射型偏光板13aの背面側に,空気層6bを介してグラデーションフィルタ30が配置され,更にグラデーションフィルタ30の背面側に,空気層を介して黒アクリル板17が配置された。
[0176]グラデーションフィルタとは,光透過率がある区間内で連続的に変化するように調整された光学フィルタのことである。本実施例のグラデーションフィルタ30は,額縁領域B側から表示領域A側に向かって透過率が連続的に増大するように構成されており,グラデーションフィルタ30の端部はミラーディスプレイの表示領域Aの端部と重なり合っている。図35は,実施例35で用いられたグラデーションフィルタの光透過率を図34中の位置に関係付けて示したグラフである。図35に示したように,位置(a)から位置(b)までの区間では透過率がほぼ0%,位置(b)から位置(c)にかけて透過率が連続的に増大し,位置(c)で透過率が約92%になるように調整してある。
[0177]グラデーションフィルタ30は,厚み100μmの透明PETフィルムに,上記のようなグラデーションパターンを印刷して作製された。
[0178]なお,本実施例ではグラデーションフィルタ30を黒アクリル板17の上方に空気層を介して配置したが,黒アクリル板17上に粘着剤や接着剤を介して貼り合せるように配置したり,黒アクリル板17を省略しても同じ効果が得られる。
[0179]本実施例のミラーディスプレイにおけるディスプレイモードとミラーモードの動作原理は実施例31と同様であるので重複する部分は説明を省略する。
[0180]実施例31の構成では,グラデーションフィルタ30がない状態で,表示領域Aと額縁領域Bの境界線が視認されにくいように表示領域Aと額縁領域Bの反射率を設定していたが,特に液晶表示装置5eがローカルディミングバックライトを備えていない場合には,液晶表示装置5eの電源をオンの状態で利用者がミラーモードを選択した際,表示領域Aには液晶表示装置5eからの漏れ光が存在するため,表示領域Aのミラーモードの明るさは,反射率5.6%という値から予想されるものよりも更に明るくなる。すなわち,液晶表示装置5eの電源がオフの状態でミラーモードを動作させている際には表示領域Aと額縁領域Bの境界線が視認されにくくなるように表示領域A及び額縁領域Bの反射率が設定されていたにも関わらず,液晶表示装置5eの電源がオンの状態でミラーモードを動作させている際には境界線が見えやすくなってしまう。それに対し,本実施例の構成では,表示領域Aと額縁領域Bの境界線をぼかす効果のあるグラデーションフィルタ30が設けられているので,明確な境界線が視認されることはない。本実施例では,透過率が変化する区間の長さに相当する位置(b)と位置(c)の間隔を50mmに設定した。その最適値は液晶表示装置の画面サイズ等により異なるが,一般に10mm以上が好ましく,30mm以上であることがより好ましく,50mm以上であることが更に好ましい。」

(ウ) 「符号の説明
[0309]・・・(中略)・・・
6a,6b:空気層
・・・(中略)・・・7s,7t,7u:ハーフミラープレート
8:ベゼル
9a:バックライト
・・・(中略)・・・
10a,10b,・・・(中略)・・・10f:吸収型偏光板
11a:液晶パネル
・・・(中略)・・・
12:ガラス板
13a・・・(中略)・・・:反射型偏光板
・・・(中略)・・・14e,14f:反射防止膜
・・・(中略)・・・
17:黒アクリル板
・・・(中略)・・・
30:グラデーションフィルタ
・・・(中略)・・・
101:電源オン状態の表示装置
102:電源オフ状態の表示装置」

(エ) 「[図34]

[図35]

・・・(中略)・・・
[図39]



イ 引用文献2に記載された技術事項
前記ア(ア)ないし(エ)で摘記した記載から,引用文献2に次の技術事項が記載されていると認められる。

「液晶表示装置5eの前面に反射型偏光板13aを備えるハーフミラープレート7sを設けることで,非表示時にはミラーとして利用できるようにしたミラーディスプレイにおいて,
前記反射型偏光板13aの背面側に,空気層6bを介して,額縁領域B側から表示領域A側に向かって透過率が連続的に増大するように構成されたグラデーションフィルタ30を配置することによって,ミラーモード時に額縁領域と表示領域との間の境界線が明確に視認されないようにする技術。」(以下,「引用文献2記載技術」という。)

2 本件発明1について
(1)対比
ア 引用発明の「計器表示装置10」は,4つの指針16によりそれぞれ状態が表示される少なくとも4つの計器部位を有しており,「計器群」といえるから,本件発明1の「計器群」に相当する。

イ 引用発明の「液晶表示器25」が,入力される情報に基づいて各画素をオン・オフ等して,「液晶表示器25」を照明する導光手段24のうちの1つからの光を通過・遮断等することで,画像を表示するディスプレイである。
しかるに,「液晶表示器25」に入力される情報が,デジタルディスプレイレンダラを介して提供される情報であることは,当業者における技術常識であるから,入力される情報に基づいて各画素をオン・オフ等して,「液晶表示器25」を照明する導光手段24のうちの1つからの光を通過させることを,「デジタルディスプレイレンダラを介して提供される情報に応答して光を照射する」ことということができる。
したがって,引用発明の「液晶表示器25」は,本件発明1の「デジタルディスプレイレンダラを介して提供される情報に応答して光を照射するように構成されるディスプレイ」に相当する。

ウ 引用発明の「ダイアルアップリケ27」は,照明される部分を除き不透明であるから,「計器表示装置10」(本件発明1の「計器群」に相当する。)を見る人に光を照射することを可能にする光透過部を有しているといえるところ,本件発明1の「開口部」も,「計器群」を見る人に光を照射することを可能にする光透過部ということができる。
したがって,引用発明の「ダイアルアップリケ27」は,本件発明の「アップリケ層」と,「計器群を見る人に光を照射することを可能にする光透過部を有するアップリケ層」である点で,共通する。

エ 前記アないしウに照らせば,本件発明1と引用発明は,
「計器群であって,
デジタルディスプレイレンダラを介して提供される情報に応答して光を照射するように構成されるディスプレイと,
当該計器群を見る人に光を照射することを可能にする光透過部を有するアップリケ層と
を備える計器群。」
である点で一致し,次の点で相違する。

相違点1:
本件発明1は,ディスプレイの表面上に適用される第1の反射防止(AR)フィルムまたはコーティングを備えているのに対して,
引用発明は,液晶表示器25の表面に,反射防止フィルム又はコーティングを設けていない点。

相違点2:
本件発明1では,「アップリケ層」が有する「光透過部」が開口部であるのに対して,
引用発明では,「ダイアルアップリケ27」が有する「光透過部」が開口部であるのか否かは定かでない点。

相違点3:
本件発明1は,「ディスプレイ」に面する「アップリケ層」の表面に適用される第2のARフィルムを備えているのに対して,
引用発明は,「液晶表示器25」に面する「ダイアルアップリケ27」の表面にARフィルムを設けていない点。

相違点4:
本件発明1の「アップリケ層」は,「開口部」に近いアップリケの一部の上のフェードパターンを含み,当該フェードパターンは,半正弦波パターンによって設けられているのに対して,
引用発明の「ダイアルアップリケ27」は,フェードパターンを有していない点。

(2)判断
事案に鑑みて,まず相違点4について判断する。
ア 自動車のダッシュパネルの計器表示装置10である引用発明において,速度計のような一つの計器部位の下側の位置に,当該計器部位よりも小さなサイズで設けられる液晶表示器25を,「非表示時にはミラーとして利用できるようにしたミラーディスプレイ」として構成しても,ミラーとして何かの訳に立つとはおよそ考えられないから,引用発明に,引用文献2記載技術を適用することに,動機付けが存在するとは言い難い。
また,このことを措くとして,仮に,引用発明に引用文献2記載技術を適用したとしても,当該構成の変更後の引用発明は,液晶表示器25の視認側に,反射型偏光板を備えるハーフミラープレートを設け,当該反射型偏光板と液晶表示器25との間に,液晶表示器25の額縁領域側から表示領域側に向かって透過率が連続的に増大するように構成されたグラデーションフィルタを配置した構成になるだけであって,「ダイアルアップリケ27」の不透明部と光透過部の境界に,フェードパターンを形成したものにはならないし,ましてや,当該フェードパターンが半正弦波パターンとなることもない。
そうすると,引用発明において,「ダイアルアップリケ27」の不透明部と光透過部の境界を明確に視認できないようにするために,「ダイアルアップリケ27」に引用文献2記載技術を適用して,その不透明部と光透過部の間に,グラデーションフィルタと同様のパターンを形成することとし,さらに,当該パターンとして半正弦波パターンを採用して,相違点4に係る本件発明1の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,たとえ当業者といえども,格別の創意工夫を要するものといわざるを得ない。
したがって,引用文献2記載技術の存在をもってしても,引用発明を,相違点4に係る本件発明1の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることが,当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

イ また,原査定で引用された引用文献3ないし5を含め,計器表示装置において,アップリケ層の開口部の周辺にフェードパターンを設け,開口部の輪郭を視認しにくくする技術が,本件出願の優先権主張の日より前に知られていたことを示す証拠も見当たらない。

ウ そして,本件発明1は,相違点4に係る本件発明1の発明特定事項を具備することで,シームレスに表示されるという本件明細書(【0005】,【0006】等)に記載された技術上の効果を奏するものと認められる。

エ 以上のとおりであるから,他の相違点の容易想到性について判断するまでもなく,本件発明1は,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3 本件発明2ないし10について
請求項2ないし5は,請求項1の記載を引用する形式で記載されたものであって,本件発明2ないし5は,本件発明1の発明特定事項を全て有し,これに限定を加えたものに該当するところ,前記2(2)で述べたとおり,本件発明1が,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでない以上,本件発明2ないし5も,同様の理由で,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
請求項6には,相違点4に係る本件発明1の発明特定事項と同じ発明特定事項が記載されているから,本件発明6と引用発明とは,少なくとも相違点4と同様の点で相違するところ,前記2(2)で述べたのと同様の理由で,本件発明6は,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
請求項7ないし10は,請求項6の記載を引用する形式で記載されたものであって,本件発明7ないし10は,本件発明6の発明特定事項を全て有し,これに限定を加えたものに該当するところ,前述したとおり,本件発明6が,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでない以上,本件発明7ないし10も,同様の理由で,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。


第5 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本件出願を拒絶することはできない。
また,他に本件出願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-11-26 
出願番号 特願2016-166135(P2016-166135)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 井上 徹  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 清水 康司
関根 洋之
発明の名称 シームレス計器群  
代理人 弟子丸 健  
代理人 西島 孝喜  
代理人 倉澤 伊知郎  
代理人 松下 満  

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