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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1346343
審判番号 不服2017-10021  
総通号数 229 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-07-06 
確定日 2018-11-15 
事件の表示 特願2014-126312「新規TAA変種に基づく新たな融合分子」拒絶査定不服審判事件〔平成26年12月25日出願公開、特開2014-239682〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2007年(平成19年)12月21日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2006年12月22日、米国)を国際出願日とする出願の一部を平成26年6月19日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成28年 7月27日付け:拒絶理由通知書
平成28年11月 4日 :意見書、手続補正書の提出
平成29年 2月28日付け:拒絶査定
平成29年 7月 6日 :審判請求書、手続補正書の提出


第2 平成29年7月6日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成29年7月6日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.本件補正について
(1)本件補正後の特許請求の範囲
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線は補正箇所を示す。)。
「【請求項1】
ヒト顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)と結合された、新規ヒトCAIX変種を含む融合タンパク質を含む構築物であって、該融合タンパク質がSEQ ID NO:8のアミノ酸配列を有する、構築物。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、平成28年11月4日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)またはサイトカインと結合された、新規CAIX変種を含む構築物であって、新規CAIX変種がSEQ ID NO:1のアミノ酸配列を有する、構築物。」

2 補正の適否
本件補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)またはサイトカイン」について、「サイトカイン」との選択肢を削除した上で、「顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)」について、上記のとおり、「ヒト」に由来するとの限定を付加するものである。
また、本件補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「新規CAIX変種」について、上記のとおり、「ヒト」に由来するとの限定を付加するものである。
さらに、本件補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「構築物」について、「顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)またはサイトカインと結合された」、「SEQ ID NO:1のアミノ酸配列を有する」「新規CAIX変種」を含むとされていたところを、上記のとおり、「SEQ ID NO:8のアミノ酸配列を有する」「融合タンパク質」を含むとするものである。ここで、本願配列表のSEQ ID NO:1及びSEQ ID NO:4のアミノ酸配列からみて、SEQ ID NO:8のアミノ酸配列は、そのN末端からC末端にかけて、順に、ヒトGM-CSFに対応するSEQ ID NO:4のアミノ酸配列、「LysLeu」なるアミノ酸配列、及び新規ヒトCAIX変種に対応するSEQ ID NO:1のアミノ酸配列からなるものである。そして、本願明細書の【0024】及び【0092】の記載からみて、上記「LysLeu」なるアミノ酸配列はペプチドリンカーに対応するものであるといえる。
そうすると、本件補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「構築物」について、補正前の請求項1に記載された「新規CAIX変種」部分のみならず、その余の部分についても、アミノ酸配列による限定を付加するものであるといえる。
以上からみて、本件補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項について、限定を付加するものであるといえる。
そして、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるから、本件補正は、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、前記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に頒布された引用文献である、「Cancer Res., 2001, Vol.61, No.21, p.7925-7933」(以下「引用文献1」という。)には、以下の記載がある。

(ア-1)「HLA-A2-制限CTLエピトープを含む広く発現しているRCC TAAは、最近初めて同定され、RCC細胞株からクローニングされた。このRCC関連膜貫通タンパク質は、G250と名付けられたが、MN/CAIXと同一であることが証明されており、最初に子宮頸癌で同定された細胞接着分子で、炭酸脱水活性を有する。」(7925頁右欄21?26行)

(ア-2)「それ故、我々は、G250と、機能的DCsを産生させるための免疫調節性因子であるGM-CSFとからなるキメラタンパク質は、どちらか一方の薬剤のみの使用と比べて、ワクチン能力を増加させるのではと仮定した。」(7925頁右欄34?37行)

(ア-3)「これらの結果は、GM-CSF-G250融合タンパク質が、免疫調節性DCsを活性化し、また、Tヘルパー細胞に支持された、G250を標的とするCD8^(+)媒介性の抗腫瘍反応を誘導する能力を有する、強力な免疫刺激剤であることを示す。これらの知見は、進行腎臓癌の患者の治療のための腫瘍ワクチンとしてのGM-CSF-G250融合タンパク質の使用のための重要な意味をもつであろう。」(7925頁左欄下から6行?下から1行)

(ア-4)「pVL1393ベクターにおけるGM-CSF-G250融合遺伝子のクローニング。 プラスミドp91023(B)-GM-CSF(・・・)をEcoRIで消化し、完全長GM-CSFcDNAを含む0.8kb断片を用いて、5’側にEcoRI部位を、また、3’側にGM-CSFのストップコドンと置き換えたNotI部位を隣接する機能的エピトープを含む、0.4kbのGM-CSFフラグメントをDNA PCRにより調製した。このPCR産物由来のGM-CSFフラグメントを、バキュロウイルストランスファーベクターpVL1393(・・・)のポリヘドリン遺伝子座におけるEcoRI及びBglII部位にサブクローニングした。同様に、開始コドン除去後のG250の5’フランキング領域に、NotI部位とそれに続く2つのArgをコードする6塩基のリンカーを含む、完全長G250cDNA(1.6kb)をPCRによって増幅するために、pBM20CMVG250(・・・)が用いられた。G250の3’フランキング領域は、6つのHisと、それに続く終止コドン及びBglIIをコードするよう設計された。・・・既にGM-CSFを含むベクターpVL1393、及びG250のPCR増幅産物の両方をNotI及びBglIIで切り出した。G250フラグメントとこのベクターとを16℃で3時間かけて連結し・・・た。」(7926頁左欄24?42行。下線は当審による。)

(ア-5)「バキュロウイルス感染Sf9細胞からのGM-CSF-G250融合タンパク質の生成。 『材料及び方法』に記載されているように、バキュロウイルス発現技術及び6xHisアフィニティー精製システムを用いて、GM-CSF-G250融合タンパク質を生成した。」(7927頁左欄35?38行)

(ア-6)「精製GM-CSF-G250融合タンパク質はGM-CSF生物活性を保持した。」(7927頁右欄3行)

イ 引用文献2
原査定の拒絶の理由で参照された、本願の優先日前に頒布された引用文献である、特表2002-515848号公報(以下「引用文献2」という。)には、以下のとおり、図1a?cとして、MNcDNAの全長塩基配列、及びMNタンパク質の全長アミノ酸配列が記載されている。

(イ-1)「



ウ 引用文献3
周知技術を示すために新たに引用する、本願の優先日前に頒布された引用文献である、特表平1-502196号号公報(以下「引用文献3」という。)には、第1表として、ヒトGM-CSFの全長アミノ酸配列が記載されている(当審注 配列の摘記は省略する。)。


エ 引用文献4
同じく、周知技術を示すために新たに引用する、本願の優先日前に頒布された引用文献である、米国特許公開第2005/0282280号明細書(以下「引用文献4」という。)には、配列番号6として、ヒトGM-CSFの全長アミノ酸配列が記載されている(当審注 配列の摘記は省略する。)。

オ 引用文献5
同じく、周知技術を示すために新たに引用する、本願の優先日前に頒布された引用文献である、米国特許公開第2006/0057127号明細書(2006年(平成18年)3月16日発行。以下「引用文献5」という。)には、表6において、配列番号3として、ヒトGM-CSFの全長アミノ酸配列が記載されている(当審注 配列の摘記は省略する。)。

カ 引用文献6
新たに引用する、本願の優先日前に頒布された引用文献である、特表2001-526532号公報には、以下の記載がある。

(カ-1)「この最終的に加工された構造体(ODAR-Fc/pCEP4)は、アミノ末端からカルボキシ末端までを含む融合蛋白をコードする:
OPGシグナルペプチド(アミノ酸1?21)-リンカー(LysLeu)-ODAR(アミノ酸27?211)-リンカー(AlaAla)-ヒトIgG Fc。」(143頁下から4行?144頁1行。下線は当審による。)

(3)引用発明
摘記事項(ア-5)からみて、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「GM-CSF-G250融合タンパク質。」

(4)対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。
摘記事項(ア-1)からみて、引用文献1に記載される「G250」と「MN」と「CAIX」とは同一物質の別名であることが理解できる。
そこで、本件補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明のG250と、本件補正発明の新規ヒトCAIX変種とは、いずれもCAIXに関連するタンパク質である点で共通するから、両者は、「顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)と結合された、CAIXに関連するタンパク質を含む融合タンパク質を含む構築物」である点で一致する。
一方、本件補正発明では、CAIXに関連するタンパクが新規ヒトCAIX変種であり、これを含む融合タンパク質がSEQ ID NO:8のアミノ酸配列を有するものと特定されているのに対し、引用発明では、融合タンパク質のアミノ酸配列について特定されていない点で相違する(以下「相違点1」という。)。

(5)判断
前記2冒頭で検討したとおり、本願配列表のSEQ ID NO:8のアミノ酸配列は、そのN末端からC末端にかけて、順に、ヒトGM-CSFに対応するSEQ ID NO:4のアミノ酸配列、ペプチドリンカーに対応する「LysLeu」なるアミノ酸配列、及び新規ヒトCAIX変種に対応するSEQ ID NO:1のアミノ酸配列からなるものである。
そうすると、本件補正発明の融合タンパク質が、SEQ ID NO:8のアミノ酸配列を有するものと特定されている点については、そのN末端からC末端にかけて、ヒトGM-CSFに対応するSEQ ID NO:4のアミノ酸配列、ペプチドリンカーに対応する「LysLeu」なるアミノ酸配列、及び新規ヒトCAIX変種に対応するSEQ ID NO:1のアミノ酸配列を有するものと特定されていると換言することができる。
ここで、摘記事項(ア-4)からみて、引用発明は、GM-CSFとG250とが「ArgArg」なるアミノ酸配列を有するリンカーで結ばれているといえるから、この点も考慮すると、前記相違点1は、以下の相違点ア?相違点ウに分けることができるといえる。

(相違点ア) 該融合タンパク質のN末端側が、本件補正発明では、SEQ ID NO:4のアミノ酸配列を有するヒトGM-CSFと特定されているのに対し、引用発明では、GM-CSFと特定されているに留まる点。

(相違点イ) 該融合タンパク質のC末端側が、本件補正発明では、SEQ ID NO:1のアミノ酸配列を有する新規ヒトCAIX変種と特定されているのに対し、引用発明では、G250と特定されているに留まる点。

(相違点ウ) 該融合タンパク質のN末端側とC末端側を結ぶペプチドリンカーが、本件補正発明では、「LysLeu」なるアミノ酸配列を有するものと特定されているのに対し、引用発明では、「ArgArg」なるアミノ酸配列を有するものと特定されている点。

そこで、上記相違点ア?相違点ウについて、順に検討する。

ア 相違点アについて
前記(2)ウ?オからみて、ヒトGM-CSFは、そのアミノ酸配列とともに、本願優先日当時、当業者に周知であったといえる。そして、該アミノ酸配列は、本願配列表のSEQ ID NO:4のアミノ酸配列に相当するものである。
また、摘記事項(ア-2)及び(ア-3)からみて、引用文献1に記載された技術が、進行腎臓癌の患者すなわちヒトの治療のためのワクチンを指向していることは明らかである。
そうすると、引用発明のGM-CSFがヒトGM-CSFであることは引用文献1に記載されているに等しい事項であるといえるから、引用発明の融合タンパク質のN末端側のアミノ酸配列は、本願配列表のSEQ ID NO:4のアミノ酸配列を有するといえる。
また、仮に、記載されているに等しいとまではいえないとしても、引用発明のGM-CSFとして、ヒトGM-CSFを採用し、その結果、引用発明の融合タンパク質のN末端側のアミノ酸配列を、本願配列表のSEQ ID NO:4のアミノ酸配列を有するものとすることは当業者が容易に想到しうることである。

イ 相違点イについて
摘記事項(イ-1)のとおり、引用文献2には、MNタンパク質の全長のアミノ酸配列が示されているところ、前記(4)で検討したとおり、「G250」と「MN」と「CAIX」とは同一物質であるから、引用発明の融合タンパク質において、「G250」に由来する部分は、摘記事項(イ-1)に示されるアミノ酸配列を有するものといえる。
そして、本願配列表のSEQ ID NO:1のアミノ酸配列と、摘記事項(イ-1)に示されるアミノ酸配列とを比較すると、いずれも459アミノ酸からなるものであるところ、121位及び374位のアミノ酸が、前者はそれぞれGly(1文字表記でG。以下同様。)及びSer(S)であるのに対し、後者はそれぞれAsp(D)及びAsn(N)である点でのみ相違する。すなわち、両者は、459アミノ酸残基中121位と374位の2アミノ酸のみ異なる、99.5%の配列同一性を有する、ヒト由来遺伝子によってコードされるタンパク質であるといえる。
ここで、摘記事項(ア-1)からみて、引用文献1には、G250が腎細胞癌(RCC)で発現していることが示されている。また、一般に、遺伝子の塩基配列には、同一生物由来の同一遺伝子であっても、遺伝子を取得した個体に依存する個体差があり、それ故に、該遺伝子がコードするアミノ酸配列にも個体差があり得ることは本願優先日当時の当業者の技術常識である。そうすると、複数の腎細胞癌患者の癌組織を調査することにより、新たなG250を同定取得し、それを引用発明のG250として使用することは当業者が容易に想到しうることである。
また、前記アで検討したとおり、引用文献1に記載された技術が、進行腎臓癌の患者の治療のためのワクチンを指向していることは明らかであるところ、本願優先日当時の技術常識からみて、459ものアミノ酸数を有するタンパク質において、数個程度のアミノ酸置換では、該タンパク質が本来有する免疫原性を損なう蓋然性は低いといえるから、引用発明のG250について、数個程度のアミノ酸置換を施すことは当業者が必要に応じて適宜なし得ることといえ、そのようにして調製されたものを引用発明のG250として使用することも当業者が容易に想到しうることである。
そして、本願配列表のSEQ ID NO:1のアミノ酸配列を有する新規ヒトCAIX変種は、上記のようにして取得あるいは調製しうるものの一つに過ぎないというべきである。

ここで、請求人は、審判請求書において、要するに、本件補正発明の新規ヒトCAIX変種は、野生型CAIXと比べて、D121G及びN374Sのアミノ酸置換を含むところ、121位は予測MHCクラスII結合サイトである予測エピトープ領域内にあること(審判請求書に添付した甲1号証(Int. J. Cancer, 2002, Vol.100, p.441-444)の表1)、及び374位も予測されたHLA-A2.1結合モチーフ内にあること(審判請求書に添付した甲2号証(Cancer Res., 1999, Vol.59, p.5554-5559)の表1)から、121位での酸性アミノ酸(D)から脂肪族アミノ酸(G)への非保存的置換、及び374位でのアミドアミノ酸(N)から脂肪族ヒドロキシルアミノ酸(S)への非保存的置換は、いずれも、野生型CAIXと比べて、MHCクラスII結合サイト及びHLA-A2.1結合モチーフの提示並びに免疫原性を変更すると当業者は予測し、当業者は、これらD121GおよびN374S変異を有する新規ヒトCAIX変種が、その免疫原性を維持することについて合理的な成功の期待を得ることはなく、また、GM-CSFとの融合タンパク質において、この新規ヒトCAIX変種を用いようとすることはなく、さらに、本件補正発明に係る新規ヒトCAIX変種を含む融合タンパク質が、インビボにおいて抗原提示細胞を感作でき、又は免疫応答を誘導することができることについて、合理的な成功の期待を得ることはなかったと主張する。
しかし、甲2号証には、CAIXの254位?262位のペプチドのみがCTLを誘導する旨が記載されており(5554頁要旨の下から7?5行、5556頁左欄の下から9?5行)、また、甲1号証にも同様の記載がある(441頁左欄の下から14?11行)から、当業者が、甲1号証及び甲2号証の記載に接したとしても、野生型CAIXの121位がMHCクラスII結合サイトのエピトープ領域内にあるとか、374位がHLA-A2.1結合モチーフ内にあるなどと理解することはないというべきである。加えて、上記のとおり、本願優先日当時の技術常識からみて、459ものアミノ酸数を有するタンパク質において、数個程度のアミノ酸置換では、該タンパク質が本来有する免疫原性を損なう蓋然性は低いといえるのである。そうすると、むしろ当業者は、これらの位置における非保存的なアミノ酸置換によっても、野生型CAIXの免疫原性は維持されると予測することが自然であるというべきであるから、請求人の上記主張を採用することはできない。

ウ 相違点ウについて
ペプチドリンカーのアミノ酸配列を好適化することは当業者が必要に応じて適宜なし得ることであるから、より好適なものとするために、引用発明のペプチドリンカーのアミノ酸配列を変更することは当業者が必要に応じて適宜なし得ることである。そして、「LysLeu」なるアミノ酸配列を有するペプチドリンカーも、上記のような好適化により調製しうるものの一つに過ぎないというべきである。
さらにいえば、摘記事項(カ-1)からみて、引用文献6には「LysLeu」なるアミノ酸配列を有するペプチドリンカーが記載されているから、引用発明の「ArgArg」なるアミノ酸配列に換えて、該「LysLeu」なるアミノ酸配列を有するペプチドリンカーを採用することも当業者が容易に想到しうることである。

エ 本件補正発明の効果について
摘記事項(ア-3)及び(ア-6)からみて、引用文献1には、GM-CSF-G250融合タンパク質が、GM-CSF活性を保持し、免疫調節性DCsを活性化し、G250すなわちCAIXを標的とするCD8^(+)媒介性の抗腫瘍反応を誘導する能力を有することが記載されているといえるから、当業者は、引用発明が、腫瘍ワクチンとして一定程度の効果を有するであろうことを推認できるといえる。
その一方で、本願明細書には、SEQ ID NO:8のアミノ酸配列を有する融合タンパク質のワクチンとしての効果を推認できる具体的な実験データなどは記載されてない。また、本願明細書には、SEQ ID NO:1のアミノ酸配列を有する新規ヒトCAIX変種が、引用文献1に記載のCAIXと比較して、そのワクチンとしての効果などに違いがあることを推認できる具体的な実験データなども記載されてない。
そうすると、本件補正発明に、引用発明と比較した顕著な効果を見出すことはできず、したがって、本件補正発明は、当業者が予測できない顕著な効果を奏するものとはいえない。

オ 小括
以上のとおりであるから、本件補正発明は、引用文献1に記載された事項、引用文献3?5に記載されるような本願優先日前の周知技術、及び引用文献6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
したがって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、前記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。


第3 本願発明について
1 本願発明
平成29年7月6日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成28年11月4日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?25に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定における拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用文献1:Cancer Res., 2001, Vol.61, No.21, p.7925-7933

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及びその記載事項は、前記第2[理由]2(2)アに記載したとおりである。
また、原査定の拒絶の理由で参照された引用文献2及びその記載事項は、前記第2[理由]2(2)イに記載したとおりである。
そして、引用文献1には、前記第2[理由]2(3)に記載の引用発明が記載されていると認められる。

4 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
前記第2[理由]2(4)で検討したとおり、引用発明のG250と、本願発明の新規CAIX変種とは、いずれもCAIXに関連するタンパク質である点で共通するから、両者は、「顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)と結合された、CAIXに関連するタンパク質を含む構築物」である点で一致する。
一方、CAIXに関連するタンパク質が、本願発明では、SEQ ID NO:1のアミノ酸配列を有する新規CAIX変種と特定されているのに対し、引用発明では、G250と特定されているに留まる点で相違する(以下「相違点A」という。)。

5 判断
上記相違点Aは、前記第2[理由]2(5)に記載の相違点イに相当するものといえる。
そうすると、前記第2[理由]2(5)イで検討したとおり、複数の腎細胞癌患者の癌組織を調査することにより、新たなG250を同定取得し、それを引用発明のG250として使用することや、引用発明のG250に数個程度のアミノ酸置換を施して調製されたものを引用発明のG250として使用することは、当業者が容易に想到しうることであり、そして、本願配列表のSEQ ID NO:1のアミノ酸配列を有する新規CAIX変種は、上記のようにして取得あるいは調製しうるものの一つに過ぎないというべきである。
また、前記第2[理由]2(5)エで検討したとおり、本願発明に、引用発明と比較した顕著な効果を見出すことはできず、したがって、本願発明は、当業者が予測できない顕著な効果を奏するものとはいえない。
以上のとおりであるから、本願発明は、引用文献1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。


第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-06-20 
結審通知日 2018-06-21 
審決日 2018-07-04 
出願番号 特願2014-126312(P2014-126312)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C12N)
P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 西村 亜希子  
特許庁審判長 中島 庸子
特許庁審判官 山中 隆幸
小暮 道明
発明の名称 新規TAA変種に基づく新たな融合分子  
代理人 大関 雅人  
代理人 小林 智彦  
代理人 刑部 俊  
代理人 清水 初志  
代理人 佐藤 利光  
代理人 井上 隆一  
代理人 川本 和弥  
代理人 山口 裕孝  
代理人 春名 雅夫  
代理人 新見 浩一  

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