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審決分類 審判 査定不服 特29条の2 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1346560
審判番号 不服2017-11045  
総通号数 229 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-07-25 
確定日 2018-12-19 
事件の表示 特願2012-209469「半導体ウエハ加工用粘着シート用粘着剤組成物および該粘着剤組成物を用いた粘着シート」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 4月10日出願公開,特開2014- 63951,請求項の数(5)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成24年9月24日の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。
平成28年 6月13日 拒絶理由通知
平成28年 8月 9日 意見書提出
平成28年11月 1日 拒絶理由通知
平成29年 1月 6日 意見書提出
平成29年 4月18日 拒絶査定(以下,「原査定」という。)
平成29年 7月25日 審判請求
平成30年 7月30日 拒絶理由通知(以下,「当審拒絶理由通知」という。)
平成30年 9月26日 意見書提出・手続補正

第2 本願発明
本願請求項1-5に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」-「本願発明5」という。)は,平成30年9月26日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-5に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1-本願発明5は以下のとおりの発明である。
「 【請求項1】
ウレタン結合を有する(メタ)アクリル系ポリマー,および,ウレタン化反応の触媒としてのジルコニウム,チタン,および,アルミニウムから選択される少なくとも1種の金属の錯体を含む,半導体ウエハ加工用粘着シート用粘着剤組成物であって,
該(メタ)アクリル系ポリマーが,2以上の水酸基を側鎖に有する(メタ)アクリル系ポリマーとイソシアネート基を有する化合物とを重合することにより得られるポリマーである,粘着剤組成物。
【請求項2】
前記金属の錯体が,ジルコニウム,チタン,および,アルミニウムから選択される少なくとも1種の金属と,アセチルアセトンまたは2つの電子求引基がいずれもカルボニル基である活性メチレン化合物とがキレート化した金属錯体である,請求項1に記載の粘着剤組成物。
【請求項3】
前記金属の錯体の使用量が重合反応に用いるポリマー成分および/またはモノマー成分の合計100重量部に対し,0.0001重量部?1重量部である,請求項1または2に記載の粘着剤組成物。
【請求項4】
前記イソシアネート基を有する化合物が重合性不飽和結合基をさらに有する,請求項1から3のいずれかに記載の粘着剤組成物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の粘着剤組成物を用いた,半導体ウエハ加工用粘着シート。」

第3 先願及び先願発明
1 先願1の記載
当審拒絶理由通知に引用された先願1(特願2012-84376号(特開2012-216842号)の出願当初明細書及び図面には,次の事項が記載されている。(下線は当審で付加した。以下同じ。)
「【技術分野】
【0001】
本発明は,ダイシングテープに関する。特に,本発明は,半導体ウエハなどを素子小片に切断分離(ダイシング)する際に,当該半導体ウエハなどの被切断体を固定するために用いる半導体ウエハダイシングテープに関する。
また本発明は,ダイシングテープを用いた半導体ウエハ加工方法に関する。」

「【0004】
しかし,特許文献1に記載の再剥離用粘着シートのように,低分子量成分の含有量を少なくしても,汚染物を十分低減することは困難である。また,本発明者らは,特許文献2記載のダイシング用粘着テープを用いて,ダイシング工程及びピックアップ工程を行い,半導体チップを製造する実験を行った。その結果,本発明者らは,単にポリアルキレングリコール類又はその誘導体を粘着剤層中に含む樹脂組成物を使用しただけでは,低分子量のポリアルキレングリコールが,半導体ウエハに移行し,ダイシング工程を終了後,得られた半導体チップをピックアップする際に,被着体表面である半導体チップに有機物汚染が生じる場合が多いことを見出した。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は,ダイシング工程後のピックアップ工程において,薄型の半導体チップを効率よくピックアップでき,ピックアップされた半導体チップ表面への汚染物の付着を著しく低減できるダイシングテープ及びそのダイシングテープを用いた半導体ウエハ加工方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは,上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果,基材樹脂フィルムの少なくとも一方の面に放射線硬化性の粘着剤層が形成されたダイシングテープであって,該粘着剤層が,主鎖に対して水酸基が結合されたアクリル重合体と,分子内に水酸基を3つ以上有するポリエーテルポリオールが,架橋剤としてポリイソシアネートを用いて架橋されてなるダイシングテープが,薄型の半導体チップを効率よくピックアップでき,ピックアップされた半導体チップ表面への汚染物の付着を著しく低減できることを見出した。
本発明はこの知見に基づきなされたものである。」

「【0014】
2.放射線硬化性の粘着剤層
本発明のダイシングテープにおいて,基材樹脂フィルムの少なくとも一方の面に設けられた放射線硬化性の粘着剤層は,主鎖に対して水酸基が結合されたアクリル重合体と,分子内に水酸基を3つ以上有するポリエーテルポリオールが,架橋剤としてポリイソシアネートを用いて架橋されてなるものである。
【0015】
(A)主鎖に対して水酸基が結合されたアクリル重合体
放射線硬化性粘着剤層は,主鎖に対して水酸基が結合されたアクリル重合体(A)を含む。アクリル重合体(A)は,水酸基価が15?60の場合は,放射線照射後の粘着力を減少させることによりピックアップミスの危険性をさらに低減することができるので好ましい。また,アクリル重合体(A1)は,水酸基価が15?60が好ましい。ここで水酸基価はJIS K 0070に記載のピリジン-無水酢酸によるアセチル化法で測定された値をいう。上記アクリル重合体(A)の水酸基価を適切な範囲内とすることにより,ポリエーテルポリオールが架橋剤のポリイソシアネートを介してアクリル重合体と結合し,半導体チップへのポリエーテルポリオールの移行を抑制し,被着体表面の汚染を著しく低減することができる。
【0016】
アクリル重合体(A)としては,(メタ)アクリル酸エステル成分をモノマー主成分(重合体中の質量%が50%を越える)とし,該(メタ)アクリル酸エステル成分に対して,共重合が可能で分子内に水酸基を有するモノマー(水酸基含有モノマー)成分とを共重合したものなどが挙げられる。本明細書において,(メタ)アクリル酸エステルとは,アクリル酸エステルとメタクリル酸エステルの両者を含む。
【0017】
アクリル重合体(A)において,モノマー主成分としての(メタ)アクリル酸エステル成分としては,例えば,(メタ)アクリル酸メチル,(メタ)アクリル酸エチル,(メタ)アクリル酸プロピル,(メタ)アクリル酸イソプロピル,(メタ)アクリル酸ブチル,(メタ)アクリル酸イソブチル,(メタ)アクリル酸s-ブチル,(メタ)アクリル酸t-ブチル,(メタ)アクリル酸ペンチル,(メタ)アクリル酸ヘキシル,(メタ)アクリル酸ヘプチル,(メタ)アクリル酸オクチル,(メタ)アクリル酸イソオクチル,(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル,(メタ)アクリル酸ノニル,(メタ)アクリル酸イソノニル,(メタ)アクリル酸デシル,(メタ)アクリル酸イソデシル,(メタ)アクリル酸ウンデシル,(メタ)アクリル酸ドデシル,(メタ)アクリル酸トリデシル,(メタ)アクリル酸テトラデシル,(メタ)アクリル酸ペンタデシル,(メタ)アクリル酸ヘキサデシル,(メタ)アクリル酸ヘプタデシル,(メタ)アクリル酸オクタデシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等の(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル;(メタ)アクリル酸フェニル等の(メタ)アクリル酸アリールエステルなどが挙げられる。(メタ)アクリル酸エステルは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
アクリル重合体(A)は,架橋剤のポリイソシアネート(C)とウレタン結合を介して,ポリエーテルポリオール(B)と反応させるとともに,架橋剤で架橋させて質量平均分子量(Mw)を高めるために,主鎖に対して,水酸基が結合されていることが必要である。主鎖に対して水酸基が結合されたアクリル重合体(A)は,前記(メタ)アクリル酸エステルに対して共重合が可能であり,かつ水酸基を有するモノマーを共重合することによって得ることができる。(メタ)アクリル酸エステルに対して共重合が可能であり,かつ水酸基を有するモノマーとしては,2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルレート,2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリルレート,4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリルレート,6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリルレート,ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート,ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート,グリセリンモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。」

「【0025】
(B)分子内に水酸基を3つ以上有するポリエーテルポリオール
分子内に水酸基を3つ以上有するポリエーテルポリオール(B)としては,分子内に水酸基を3つ以上有するものであれば特に制限されず,従来のポリエーテルポリオールの中から適宜選択することができる。ポリエーテルポリオールが分子内に3つ以上の水酸基を有することで,ポリエーテルポリオールの水酸基と後述のポリイソシアネート架橋剤との反応により,ポリエーテルポリオールが架橋構造中に取り込まれる。これにより,主鎖に対して水酸基が結合されたアクリル重合体(A)と,ウレタン架橋を介して結合しやすくなり,ポリエーテルポリオールが被着体界面へ移行し,被着体表面を汚染することを防ぐことができる。
分子内に水酸基を3つ以上有するポリエーテルポリオールとしては,分子内に水酸基を3つ有する,ポリオキシエチレン-グリセリルエーテル(例えば,日油株式会社製ユニオールG-450,ユニオールG-750等)やポリオキシプロピレン-グリセリルエーテル(例えば,日油株式会社製ユニオールTG-330,TG-1000,TG-2000,TG-3000,TG-4000,旭硝子株式会社製エクセノール3030,5030,プレミノールS3006,プレミノールS3011等),分子内に水酸基を4つ有する,ポリオキシプロピレン-ジグリセリルエーテル(例えば,日油株式会社製ユニルーブDGP-700,DGP-700F等),分子内に水酸基を6つ有する,ポリオキシプロピレン-ソルビット(例えば,日油株式会社製ユニオールHS-1600D等),または,分子内に10?14個の水酸基を有する多官能ポリエーテルポリオール(例えば,DIC株式会社製プライアデックHBP-100等)が挙げられる。」

「【0028】
(D)放射線硬化性化合物
粘着剤層には,放射線硬化性化合物を含ませることにより,放射線硬化性とすることができる。放射線硬化性化合物としては,炭素-炭素二重結合を含有する基(「炭素-炭素二重結合含有基」と称する場合がある)などの放射線硬化性(放射線の照射による重合性)の官能基を有する化合物であれば特に制限されず,モノマー成分,オリゴマー成分のいずれであってもよい。具体的には,放射線硬化性成分としては,例えば,トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート,ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート,テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート,1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート,ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート,ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート,グリセリンジ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸と,多価アルコールとのエステル化物;エステルアクリレートオリゴマー;2-プロペニル-ジ-3-ブテニルシアヌレート等の炭素-炭素二重結合含有基を有しているシアヌレート系化合物;トリス(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレート,トリス(2-メタクリロキシエチル)イソシアヌレート,2-ヒドロキシエチルビス(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレート,ビス(2-アクリロキシエチル)2-[(5-アクリロキシヘキシル)-オキシ]エチルイソシアヌレート,トリス(1,3-ジアクリロキシ-2-プロピル-オキシカルボニルアミノ-n-ヘキシル)イソシアヌレート,トリス(1-アクリロキシエチル-3-メタクリロキシ-2-プロピル-オキシカルボニルアミノ-n-ヘキシル)イソシアヌレート,トリス(4-アクリロキシ-n-ブチル)イソシアヌレート等の炭素-炭素二重結合含有基を有しているイソシアヌレート系化合物などが挙げられる。放射線硬化性成分としては,分子中に,炭素-炭素二重結合含有基を,平均2個以上含んでいるものを好適に用いることができる。
放射線硬化性成分の粘度は,特に制限されない。放射線硬化性成分は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
放射線硬化性成分の配合量は,特に制限されるものではないが,ピックアップ時,すなわち,放射線照射後の引き剥がし粘着力を低下させることを考慮すると,放射線硬化性粘着剤組成物中の固形分全量に対して10質量%以上,好ましくは20?60質量%,さらに好ましくは25?55質量%となる割合であることが望ましい。」

「【0030】
(F)有機金属化合物
放射線硬化性粘着剤層中に,有機金属化合物を含有させることが好ましい。特に有機ジルコニウム,有機チタンの各アルコキシドやキレートはそれ自身が架橋剤として作用すると共に,エステル化触媒,およびウレタン化触媒として作用し,ポリエーテルポリオールを架橋構造中に取り込み,ポリエーテルポリオールが半導体ウェハ表面へ移行し,ウエハ表面を汚染することを防ぐのに効果的である。
これらの化合物は,下記一般式(I),(IIA)または(IIB)で表される。
【0031】
【化1】(省略)
【0032】
式中,MはTiまたはZrを表し,Rはアルキル基を表し,Lは中心金属と5員環構造で配位する有機残基を表す。
Rは,炭素数1?12のアルキル基が好ましく,例えばメチル,エチル,n-プロピル,イソプロピル,n-ブチル,n-オクチル,2-エチルヘキシルが挙げられる。
Lは,β-ジケトン,ケトエステル,ヒドロキシアミネート,ジオレート,ヒドロキシアシレートの有機残基(部分構造)を表す。-O-L-O→で表される部分の配位子としては,例えばアセチルアセトン,アセト酢酸エチル,オクチレングリコール,トリエタノールアミン,乳酸が挙げられる。
【0033】
有機チタン化合物は,アルコキシドとしては,TA-10,TA-22,TA-25,TA-30(いずれも商品名:マツモトファインケミカル(株)製),キレートとしては,TC-100,TC-200,TC-300,TC-310,TC-315,TC-401,TC-750(いずれも商品名:マツモトファインケミカル(株)製)が挙げられる。
【0034】
有機ジルコニウム化合物は,アルコキシドとしては,ZA-40,ZA-65(いずれも商品名:マツモトファインケミカル(株)製),キレートとしては,ZC-150,ZC-540,ZC-570,ZC-580,ZC-700,ZB-126(いずれも商品名:マツモトファインケミカル(株)製)が挙げられる。有機金属化合物は,単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
有機金属化合物の配合量としては,分子内に放射線硬化性炭素-炭素二重結合を有し,主鎖に対して水酸基が結合されたアクリル重合体(A1)100質量部に対して0.0005?10質量部,好ましくは0.001?1質量部の範囲から適宜選択することができる。有機金属化合物の配合量が少なすぎると,架橋剤,エステル化触媒,ウレタン化触媒としての十分な効果を得ることができず,配合量が多すぎると,粘着剤のポットライフが短くなり,粘着テープの製造が困難となる。」

2 先願発明1
前記1より,先願1の出願当初明細書及び図面には,次の発明(以下,「先願発明1」という。)が記載されていると認められる。
「架橋剤のポリイソシアネート(C)とウレタン結合を介して,ポリエーテルポリオール(B)と反応したアクリル重合体(A),及び,ウレタン化触媒として作用する有機ジルコニウム,有機チタンのキレートを含む,半導体ウエハダイシングテープの放射線硬化性の粘着剤層は,主鎖に対して水酸基が結合されたアクリル重合体と,分子内に水酸基を3つ以上有するポリエーテルポリオールが,架橋剤としてポリイソシアネートを用いて架橋されてなるもの。」

第4 引用文献及び引用発明
1 引用文献1について
(1)引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2012-180494号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審で付加した。以下同じ。)
「【技術分野】
【0001】
本発明は,自発巻回性粘着シート及び切断体の製造方法に関し,より詳細には,熱等により主収縮軸方向へ端部から自発的に巻回して筒状巻回体を形成し得る自発巻回性粘着シート及びこれを用いた切断体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年,半導体用材料に対する薄型化,軽量化の要望が一層高まっており,半導体用シリコンウェハについては,厚みを100μm以下の薄膜ウェハが使用されている。
このような薄膜ウェハは,非常に脆くて割れやすく,ダイシング等の製造工程時において,仮固定するため又は回路形成面の保護もしくは汚染防止のために粘着シートを貼着する方法が採用されている。このようなシートとして,例えば,収縮性フィルムの一表面上に積層された接着剤層及び剛性フィルム層からなる積層シートの上に,UV硬化型粘着剤層を形成した自発巻回性粘着シートが提案されている(例えば,特許文献1)。
この自発巻回性粘着シートは,例えば,ダイシング前に半導体ウェハに貼着され,ダイシング後にUVを照射して粘着剤層の粘着力を低減させ,次いで加熱することにより,自発的に筒状巻回体に変形して半導体ウェハから剥離することができる。これによって,シート剥離の作業時間を短縮させることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-194819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし,従来の自発巻回性粘着シートにおいては,その性能が十分ではなく,積層シートと粘着剤層との間で部分的に剥離(投錨破壊)が生じることがあり,被着体に糊残りが発生することがあった。
本発明は,上記課題に鑑みなされたものであり,巻回による迅速な剥離を可能としながら,かつ糊残りを発生させない自発巻回性粘着シート及びこれを利用した切断体の製造方法を提供することを目的とする。」

「【発明の効果】
【0009】
本発明によれば,巻回による迅速な剥離を可能としながら,かつ糊残りを発生させない自発巻回性粘着シートを実現することができる。
また,この自発巻回性粘着シートを利用して切断体を製造することにより,効率的に切断体を得ることが可能となる。」

「【0014】
本発明の自発巻回性粘着シート10は,図1に示すように,主として,収縮性フィルム層2と,接着剤層3と,剛性フィルム層4とがこの順に積層された自発巻回性積層シートと,粘着剤層6とを備え,剛性フィルム層4と粘着剤層6との間に,両者に接触して,有機コーティング層5が配置されている。自発巻回性粘着シート10は,被着体7に,粘着剤層6を貼着することによって使用される。
自発巻回性積層シートは,収縮性フィルム層の収縮によって,粘着シートの収縮方向を調整することができる。例えば,一軸方向への収縮によって,一軸方向への巻回を実現することができ,速やかに筒状巻回体を形成することにより,粘着シートを被着体から極めて容易にかつ綺麗に剥離することができる。」

「【0048】
(粘着剤層)
本発明の粘着シートにおける粘着剤層は,被着体に貼着可能な粘着性を有しており,所定の役割が終了した後に,例えば,低粘着化処理で粘着性を低下又は消失させることができる再剥離性の粘着剤層であることが適している。
【0049】
このような再剥離性の粘着剤層は,公知の再剥離性粘着シートの粘着剤層と同様の構成を利用することができる。
自己巻回性の観点から,シリコンミラーウェハに対する粘着剤層の粘着力(25℃,180°ピール剥離,引張り速度300mm/分)は,1.0N/10mm以上(特に,1.5N/10mm以上),18N/10mm以下(特に,12N/10mm以下)であることが適している。粘着剤層の粘着力は,当初,貼着時又は剥離前等において,このような値を示しても,粘着剤層を低粘着化処理,例えば,エネルギー線照射した後に,後述する所定の値以下となるものであればよい。
【0050】
このような観点から,粘着剤層を構成する粘着剤としては,特に,エネルギー線硬化型粘着剤であることが好ましい。
エネルギー線硬化型粘着剤は,初期には比較的高い粘着性を有し,赤外線,可視光線,紫外線,X線,電子線等のエネルギー線,特に,紫外線の照射により硬化して,3次元網目構造を形成して高弾性化する材料を用いることが好ましい。
なお,エネルギー線硬化型粘着剤では,上述した粘着力は,エネルギー線照射前の値であることが適しており,エネルギー線照射後は,6.5N/10mm以下となることが好ましく,6.0N/10mm以下となることがより好ましい。
また,エネルギー線硬化型粘着剤は,エネルギー線照射前の値にかかわらず,エネルギー線照射後において,ヤング率が,80℃において,0.4?75MPaとなるものが好ましく,1?25MPaとなるものがより好ましい。
エネルギー線硬化後の粘着剤層のヤング率(80℃)は,例えば,以下の方法によって測定することができる。
引張り試験機として島津社製オートグラフAG-1kNG(加温フード付き)を用いた。長さ50mm×幅10mmに切り取ったエネルギー線照射後の粘着剤層をチャック間距離10mmで取り付けた。加温フードにより80℃の雰囲気にした後,引張り速度5mm/分で試料を引張り,応力-歪み相関の測定値を得た。歪が0.2%と0.45%の2点について荷重を求めヤング率を得た。
【0051】
エネルギー線硬化型粘着剤は,エネルギー線による硬化性を付与するためのエネルギー線反応性官能基を化学修飾した化合物,エネルギー線硬化性化合物又はエネルギー線硬化性樹脂等を含有する。
従って,エネルギー線硬化型粘着剤は,エネルギー線反応性官能基で化学的に修飾された母剤(粘着剤)を用いるか,エネルギー線硬化性化合物又はエネルギー線硬化性樹脂を母剤中に配合した組成物により構成されるものが好ましい。
【0052】
前記母剤としては,従来公知の感圧性接着剤又は粘着剤等の粘着物質を使用することができる。
例えば,天然ゴム,ポリイソブチレンゴム,スチレン・ブタジエンゴム,スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体ゴム,再生ゴム,ブチルゴム,ポリイソブチレンゴム,NBR等のゴム系ポリマーをベースポリマーに用いたゴム系粘着剤;シリコーン系粘着剤;アクリル系粘着剤等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも,アクリル系粘着剤が好ましい。
【0053】
アクリル系粘着剤としては,例えば(メタ)アクリル酸メチル,(メタ)アクリル酸エチル,(メタ)アクリル酸ブチル,(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル,(メタ)アクリル酸オクチル等のC1?C20アルキル(メタ)アクリル酸等の単独又は共重合体;これらアルキル(メタ)アクリル酸と他の共重合性モノマーとの共重合体等のアクリル系重合体をベースポリマーに用いたアクリル系粘着剤等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
他の共重合性モノマーとしては,例えば,アクリル酸,メタクリル酸,イタコン酸,フマル酸,無水マレイン酸等のカルボキシル基又は酸無水物基含有モノマー;(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル等のヒドロキシル基含有モノマー;(メタ)アクリル酸モルホリル等のアミノ基含有モノマー;(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有モノマー,酢酸ビニル,アセトニトリル等が挙げられる。
【0054】
化学修飾に用いられるエネルギー線反応性官能基としては,例えば,アクリロイル基,メタクリロイル基,ビニル基,アリル基,アセチレン基等の炭素-炭素多重結合を有する官能基等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの官能基は,エネルギー線の照射により炭素-炭素多重結合が開裂してラジカルを生成し,このラジカルが架橋点となって3次元網目構造を形成することができる。
なかでも,(メタ)アクリロイル基は,エネルギー線に対して比較的高反応性を示し,多様なアクリル系粘着剤から選択して組み合わせて使用することができる等,反応性,作業性の観点で好ましい。
【0055】
エネルギー線反応性官能基で化学的に修飾された母剤の代表的な例としては,ヒドロキシル基及び/又はカルボキシル基等の反応性官能基を含む単量体[例えば,(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル,(メタ)アクリル酸等]を(メタ)アクリル酸アルキルエステルと共重合させた反応性官能基含有アクリル系重合体に,分子内に前記反応性官能基と反応する基(イソシアネート基,エポキシ基等)及びエネルギー線反応性官能基(アクリロイル基,メタクリロイル基等)を有する化合物[例えば,(メタ)アクリロイルオキシエチレンイソシアネート等]を反応させて得られる重合体が挙げられる。
前記反応性官能基含有アクリル系重合体における反応性官能基を含む単量体の割合は,全単量体に対して,例えば5?40重量%,好ましくは10?30重量%である。
【0056】
分子内に前記反応性官能基と反応する基及びエネルギー線反応性官能基を有する化合物の使用量は,前記反応性官能基含有アクリル系重合体と反応させる際,反応性官能基含有アクリル系重合体中の反応性官能基(ヒドロキシル基,カルボキシル基等)に対して,例えば,20?100モル%,好ましくは40?95モル%である。また,分子内に前記反応性官能基と反応する基及びエネルギー線反応性官能基を有する化合物と反応性官能基含有アクリル系重合体中の反応性官能基との(付加)反応を促進するために,有機スズ,有機ジルコニウムなどの有機金属系化合物やアミン系化合物などの触媒を添加してもよい。」

「【0061】
エネルギー線硬化型粘着剤としては,前記アクリル系重合体又はエネルギー線反応性官能基で化学的に修飾されたアクリル系重合体(側鎖にエネルギー線反応性官能基が導入されたアクリル系重合体)と前記エネルギー線硬化性化合物(炭素-炭素二重結合を2つ以上有する化合物等)との組み合わせからなるものが特に好ましい。
このような組み合わせは,エネルギー線に対して比較的高い反応性を示し,多様なアクリル系粘着剤から選択できるため,反応性や作業性の観点から好ましい。
【0062】
このような組み合わせの具体例として,側鎖にエネルギー線反応性官能基が導入されたアクリル系重合体と,炭素-炭素二重結合を有する官能基(特に,(メタ)アクリロイル基)を2つ以上有する化合物との組み合わせ等が挙げられる。このような組み合わせとしては,特開2003-292916号公報等に開示のものを利用できる。
【0063】
側鎖にエネルギー線反応性官能基が導入されたアクリル系重合体は,例えば,側鎖に水酸基を含むアクリル系重合体に,2-イソシアナトエチルアクリレート,2-イソシアナトエチルメタクリリレート等のイソシアネート化合物を,ウレタン結合を介して結合する方法等を用いて製造することができる。」

(2)引用発明1
前記(1)より,引用文献1には,次の発明(以下,「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「分子内に反応性官能基と反応する基及びエネルギー線反応性官能基を有する化合物と反応性官能基含有アクリル系重合体中の反応性官能基との(付加)反応を促進するために,有機スズ,有機ジルコニウムなどの有機金属系化合物の触媒を添加した半導体用シリコンウェハの製造工程時に貼着する粘着シート用エネルギー線硬化型粘着剤であって,
側鎖に水酸基を含むアクリル系重合体に,イソシアネート化合物を,ウレタン結合を介して結合する側鎖にエネルギー線反応性官能基が導入されたアクリル系重合体である,エネルギー線硬化型粘着剤。」

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開2012-1647号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。
「【技術分野】
【0001】
本発明は,光学部材用粘着剤に関するものである。より詳細には液晶表示装置の液晶セルなどの光学部品に,偏光板や位相差板などの光学部材を貼り付けるために用いるアクリル系粘着剤組成物,粘着テープ,光学用粘着テープ及び光学用部材に関するものである。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は,耐久性,加工性及び粘着シート促進後の耐久性を有すること,具体的には,長時間高温下の使用によっても安定に作用し,泡の発生,ハガレの状況が発生しないこと,離型フィルムを剥離後,部材同士を貼り合せ,貼り直しをする際に部材への糊残りがないこと(リワーク性及び剥離性が良好であること),ITO耐劣化性であること(以上は耐久性),裁断した端面の粘着テープの糸曳きや粘着剤の移行がないこと(なきわかれ現象),両側の離型フィルムを剥離後,23℃ 50%Rh下で酢酸エチルに72時間浸漬後取り出し,120℃ 時間熱風循環乾燥機にて乾燥後,高ゲル分率化していること(以上は加工性),使用条件下にトンネル現象を起こさないこと,全光線透過率及びヘイズ値が維持されていること,使用条件下に色差が生じないこと(以上は粘着シート促進後の耐久性を有すること)を有する光学用アクリル系粘着剤組成物を提供することである。」

「【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は以下に述べるアクリル系粘着剤組成物である。
(メタ)アクリル酸の炭素数4?12のアルキルエステルモノマー50?90質量%,
(メタ)アクリル酸の脂環式アルキルエステルモノマー3?10質量%,
(メタ)アクリル酸のヒドロキシルアルキルエステルモノマー0.1?1.0質量%,
及び(メタ)アクリル酸の炭素数1?3のアルキルエステルモノマー3?10質量%(合計100質量%)からなる共重合体(共重合体中にはヒドロキシル基を含有するが,カルボキシル基を含有せず,重量平均分子量は70万?120万である)並びに架橋剤及び架橋助剤からなることを特徴とするアクリル系粘着剤組成物。」

「【0028】
本発明の共重合体には架橋剤を添加し,共重合体を架橋した状態として粘着剤とする。
架橋剤は共重合体に含まれる水酸基と反応する化合物を用いる。架橋剤には,イソシアネート系架橋剤を用い,架橋助剤として金属キレート系化合物を併用することが好ましい。
この架橋剤と架橋助剤用いると,耐久性,リワーク性及び粘着テープの経時安定性に優れた粘着テープが得ることができる。
【0029】
前記イソシアネート系架橋剤は,前記共重合体に含まれる,水酸基と架橋反応するものである。具体的には,トリレンジイソシアネート,キシレンジイソシアネート,ヘキサメチレンジイソシアネート,イソホロンジイソシアネート及びこれらから変性されたプレポリマーなどを挙げることができる。これらの群より選ばれる少なくとも一種を使用することができる。イソシアネート系架橋剤は,上記共重合体100質量部に対して0.02?1質量部使用することが好ましく,特に好ましくは,0.05?0.2質量部である。これらは公知物質であり市販のものを購入して用いることができる。たとえば,タケネートD-110N:三井化学社製イソシアネート系架橋剤,タケネートD-160N:三井化学社製イソシアネート系架橋剤を用いることができる。
【0030】
本発明で架橋助剤として用いる金属キレート系化合物とは,前記イソシアネート系架橋剤の加熱架橋時に架橋反応を促進させるものであり,水酸基のような架橋点が少ない場合も,得られた粘着剤層は高ゲル分率化が可能となり,打痕の発生を抑制でき,表面が平滑な粘着テープを作製可能となる。具体的にはアセチルアセトン金属キレート化合物が好ましい。金属にはニッケル,クロム,鉄,チタン,亜鉛,コバルト,マンガン,銅,スズ,またはジルコニウム等を含む。
具体的な金属キレート系化合物には,アルミニウムトリスアセチルアセトナート,第二鉄トリスアセチルアセトナート,ジルコニウムトリスアセチルアセトナート,チタントリスアセチルアセトナートなどを挙げることができる。金属キレート系化合物にはこれらの群より選ばれる少なくとも一種類を使用することができる。
この金属キレート系化合物は,上記共重合体100質量部に対して0.5?5.0質量部を使用することが好ましく,特に好ましくは,0.8?2.5質量部である。これらは公知物質であり市販のものを購入して用いることができる。たとえば,たとえば,アルミキレートA(w):川研ケミカル社製金属キレート系化合物を挙げることができる。
本金属キレート系化合物をイソシアネート系架橋剤と併用することにより,金属キレート系化合物が大気中の水分と反応し,さらには離型フィルム上のシリコーンと反応することにより,離型フィルムへの適度な密着性向上,なきわかれ現象及びトンネル現象を抑制することが可能となる。更に,高ゲル分率化を達成でき,打痕の発生を抑制でき,表面が平滑な粘着テープを作製可能となる。」

3 引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3(国際公開第2009/063912号)には,図面とともに次の事項が記載されている。
「技術分野
【0001】 本発明は,ウレタン(メタ)アクリレートを含む硬化型組成物に関し,特に活性エネルギー線硬化型組成物に関する。又,本発明は,ウレタン(メタ)アクリレートの製造方法にも関する。
背景技術
【0002】 アクリレート又はメタクリレート〔以下,本明細書では,「(メタ)アクリレート」と表す〕は,紫外線や電子線等の活性エネルギー線の照射や加熱により硬化するため,活性エネルギー線硬化型組成物や熱硬化型組成物の配合成分として用いられる。具体的には,コーティング剤,インキ,接着剤,レジスト及び成形材料等の各種工業用途に用いられている。」

「発明が解決しようとする課題
【0009】 本発明は,有機スズ触媒を使用することなく,優れた反応活性を有する触媒を用いてウレタン(メタ)アクリレートを製造する方法を提供することを目的とする。また,該方法で製造されたウレタン(メタ)アクリレート及び水酸基含有(メタ)アクリレートを含む硬化型組成物であって,該組成物の減粘や着色を抑制することができる硬化型組成物を提供することを目的とする。」

「【0011】 そこで,ウレタン(メタ)アクリレートの製造において,エステル交換反応を発生させないか又は当該エステル交換反応の発生が少ない触媒を使用して製造したウレタン(メタ)アクリレートを使用すれば,組成物の減粘を抑制できる上,前記した有機スズ触媒の問題をも回避できるのではないかとの着想のもと鋭意検討を行った。
その結果,有機スズ化合物を含まない特定の金属化合物を触媒として使用して製造されたウレタン(メタ)アクリレートを配合した硬化型組成物が,組成物の経時的な減粘及び着色を抑制できることを見出し,本発明を完成した。
即ち,本発明は,(A)ウレタン(メタ)アクリレート及び(B)水酸基含有(メタ)アクリレートを含有し,下記一般式(1)で表される金属化合物を組成物中に0.01?700ppm含有する硬化型組成物等に関する。
M(X)n ・・・(1)
〔式(1)において,MはFe,Ru又はZrを表し,Xはβ-ジケトン,ハロゲン原子,アシルオキシ基又はアルコキシ基を表し,nは2?4の整数を表す。〕
発明の効果
【0012】 本発明の製造方法によれば,有機スズ触媒を使用することなく,優れた反応活性を有する触媒(特に,Fe,Ru又はZrを含む金属化合物)を用いて高い反応率でウレタン(メタ)アクリレートを製造することができ,特に鉄β-ジケトン錯体触媒を使用した製造方法は,有機スズ触媒を使用した製造方法より優れた反応性を有する。
また,該方法で製造されたウレタン(メタ)アクリレートと,水酸基含有(メタ)アクリレートとを含む硬化型組成物は,経時的な減粘や着色等の問題を抑制できる。」

第5 対比及び判断
1 本願発明1について
(1)本願発明1と先願発明1との対比
ア 先願発明1の「架橋剤のポリイソシアネート(C)とウレタン結合を介して,ポリエーテルポリオール(B)と反応したアクリル重合体(A)」は,本願発明1の「ウレタン結合を有する(メタ)アクリル系ポリマー」に相当する。
イ 先願発明1の「ウレタン化触媒として作用する有機ジルコニウム,有機チタンのキレート」は,本願発明1の「ウレタン化反応の触媒としてのジルコニウム,チタン」「から選択される少なくとも1種の金属の錯体」に相当する。
ウ 先願発明1の「半導体ウエハダイシングテープの放射線硬化性の粘着剤層」は,本願発明1の「半導体ウエハ加工用粘着シート」に相当する。
エ 先願発明1の「主鎖に対して水酸基が結合されたアクリル重合体」と,「分子内に水酸基を3つ以上有するポリエーテルポリオール」と「架橋剤として」の「ポリイソシアネート」は,本願発明1の「粘着剤組成物」に相当する。
オ 先願発明1の「主鎖に対して水酸基が結合されたアクリル重合体と,分子内に水酸基を3つ以上有するポリエーテルポリオールが,架橋剤としてポリイソシアネートを用いて架橋されてなるもの」は,本願発明1の「該(メタ)アクリル系ポリマーが,」「水酸基を」「有する(メタ)アクリル系ポリマーとイソシアネート基を有する化合物とを重合することにより得られるポリマー」に相当する。
カ すると,本願発明1と先願発明1とは,下記キの点で一致し,下記クの点で相違する。

キ 一致点
「ウレタン結合を有する(メタ)アクリル系ポリマー,および,ウレタン化反応の触媒としてのジルコニウム,チタンから選択される少なくとも1種の金属の錯体を含む,半導体ウエハ加工用粘着シート用粘着剤組成物であって,
該(メタ)アクリル系ポリマーが,水酸基を有する(メタ)アクリル系ポリマーとイソシアネート基を有する化合物とを重合することにより得られるポリマーである,粘着剤組成物。」

ク 相違点
(ア)相違点1
本願発明1のウレタン化反応の触媒は,「ジルコニウム,チタン,および,アルミニウム」から選択される少なくとも1種の金属の錯体であるのに対し,先願発明1のウレタン化反応の触媒は,「ジルコニウム,チタン」から選択される少なくとも1種の金属の錯体である点。
(イ)相違点2
本願発明1の(メタ)アクリル系ポリマーは,水酸基を「2以上」「側鎖に」有するものであるのに対し,先願発明1の(メタ)アクリル系ポリマーは,水酸基を「主鎖に」有するものである点。

(2)相違点1,2についての判断
相違点1,2について検討する。
先願1の出願当初明細書には,「本発明は,ダイシング工程後のピックアップ工程において,薄型の半導体チップを効率よくピックアップでき,ピックアップされた半導体チップ表面への汚染物の付着を著しく低減できるダイシングテープ及びそのダイシングテープを用いた半導体ウエハ加工方法を提供すること」(第3の1【0006】)が発明の課題であり,「有機ジルコニウム,有機チタンの各アルコキシドやキレートはそれ自身が架橋剤として作用すると共に,エステル化触媒,およびウレタン化触媒として作用し,ポリエーテルポリオールを架橋構造中に取り込み,ポリエーテルポリオールが半導体ウェハ表面へ移行し,ウエハ表面を汚染することを防ぐ」(第3の1【0030】)ことは記載されているとはいえ,本願の課題である「半導体ウエハへの金属汚染の発生を防止可能な半導体ウエハ加工用粘着シート用粘着剤組成物を提供する」(本願明細書【0005】)ことを認識しておらず,本願発明1と引用発明1とは,発明の課題が異なるものであり,仮に相違点1,2の構成を,先願発明1に採用した際には,「粘着剤組成物がジルコニウム,チタン,および,アルミニウムから選択される少なくとも1種の金属の錯体を触媒として用いて得られるウレタン結合を有する(メタ)アクリル系ポリマーを含むことにより,調製後も粘着剤組成物に含まれる金属錯体の半導体ウエハへの拡散を防止することができ,金属錯体による半導体ウエハの金属汚染を防止し得る。」(本願明細書【0007】)という新たな効果を奏するものとなる。
よって,相違点1,2は,課題解決における具体化手段における微差(周知技術,慣用技術の付加,削除,転換等であって新たな効果を奏するものではないもの)とはいえないから,本願発明1は,先願発明1と実質同一ではない。

(3)まとめ
したがって,本願発明1は,先願1の出願当初明細書及び図面に記載された発明と同一ではない。

(4)本願発明1と引用発明1との対比
ア 引用発明1の「ウレタン結合を介して結合する側鎖にエネルギー線反応性官能基が導入されたアクリル系重合体」は,本願発明1の「ウレタン結合を有する(メタ)アクリル系ポリマー」の一種である。
イ 引用発明1の「有機スズ,有機ジルコニウムなどの有機金属系化合物の触媒」は,「分子内に反応性官能基と反応する基及びエネルギー線反応性官能基を有する化合物と反応性官能基含有アクリル系重合体中の反応性官能基との(付加)反応を促進するため」のものであり,具体的には,「反応性官能基」であるアクリル系重合体の側鎖の「水酸基」と,「分子内に反応性官能基と反応する基」を有する「化合物」である「イソシアネート化合物」と(付加)反応を促進するものと認められる。
ここで,ウレタン化反応は,イソシアネートと水酸基を反応させることを含むことは周知の事項である。
よって,引用発明1の「有機スズ,有機ジルコニウムなどの有機金属系化合物の触媒」は,本願発明1の「ウレタン化反応の触媒」に相当する。
ウ 引用発明1の「半導体用シリコンウェハの製造工程時に貼着する粘着シート用エネルギー線硬化型粘着剤」は,本願発明1の「半導体ウエハ加工用粘着シート用粘着剤組成物」の一種である。
エ 引用発明1の「側鎖に水酸基を含むアクリル系重合体」は,本願発明1の「2以上の水酸基を側鎖に有する(メタ)アクリル系ポリマー」と,「水酸基を側鎖に有する(メタ)アクリル系ポリマー」である点で共通する。
オ 引用発明1の「イソシアネート化合物」は,本願発明1の「イソシアネート基を有する化合物」に相当する。
カ 引用発明1の「側鎖に水酸基を含むアクリル系重合体に,イソシアネート化合物を,ウレタン結合を介して結合する」「アクリル系重合体」は,本願発明1の「水酸基を側鎖に有する(メタ)アクリル系ポリマーとイソシアネート基を有する化合物とを重合することにより得られるポリマー」に相当する。
キ 引用発明1の「エネルギー線硬化型粘着剤」は,本願発明1の「粘着剤組成物」の一種である。
ク すると,本願発明1と引用発明1とは,下記ケの点で一致し,下記コの点で相違する。

ケ 一致点
「ウレタン結合を有する(メタ)アクリル系ポリマー,および,ウレタン化反応の触媒としてのジルコニウムの金属の錯体を含む,半導体ウエハ加工用粘着シート用粘着剤組成物であって,
該(メタ)アクリル系ポリマーが,水酸基を側鎖に有する(メタ)アクリル系ポリマーとイソシアネート基を有する化合物とを重合することにより得られるポリマーである,粘着剤組成物。」

コ 相違点
(ア)相違点3
本願発明1の「ウレタン化反応の触媒」が「ジルコニウム,チタン,および,アルミニウムから選択される少なくとも1種の金属の錯体」であるのに対して,引用発明1のウレタン化反応の触媒が「有機スズ,有機ジルコニウムなどの有機金属系化合物」である点。
(イ)相違点4
本願発明1の(メタ)アクリル系ポリマーが「2以上の」水酸基を側鎖に有するのに対して,引用発明1では,側鎖の水酸基の数が記載されていない点。

(5)相違点3についての判断
相違点3について検討する。
引用文献1には,「本発明は,上記課題に鑑みなされたものであり,巻回による迅速な剥離を可能としながら,かつ糊残りを発生させない自発巻回性粘着シート及びこれを利用した切断体の製造方法を提供することを目的とする。」(第4の1(1)【0004】)こと,引用文献2には,「本発明は,耐久性,加工性及び粘着シート促進後の耐久性を有すること,具体的には,長時間高温下の使用によっても安定に作用し,泡の発生,ハガレの状況が発生しないこと,離型フィルムを剥離後,部材同士を貼り合せ,貼り直しをする際に部材への糊残りがないこと(リワーク性及び剥離性が良好であること),ITO耐劣化性であること(以上は耐久性),裁断した端面の粘着テープの糸曳きや粘着剤の移行がないこと(なきわかれ現象),両側の離型フィルムを剥離後,23℃ 50%Rh下で酢酸エチルに72時間浸漬後取り出し,120℃ 時間熱風循環乾燥機にて乾燥後,高ゲル分率化していること(以上は加工性),使用条件下にトンネル現象を起こさないこと,全光線透過率及びヘイズ値が維持されていること,使用条件下に色差が生じないこと(以上は粘着シート促進後の耐久性を有すること)を有する光学用アクリル系粘着剤組成物を提供すること」(第4の2【0015】),引用文献3には,「本発明は,有機スズ触媒を使用することなく,優れた反応活性を有する触媒を用いてウレタン(メタ)アクリレートを製造する方法を提供することを目的とする。また,該方法で製造されたウレタン(メタ)アクリレート及び水酸基含有(メタ)アクリレートを含む硬化型組成物であって,該組成物の減粘や着色を抑制することができる硬化型組成物を提供することを目的とする。」こと(第4の3【0009】)は記載されているとはいえ,引用文献1-3に記載された発明は,本願の課題である「半導体ウエハへの金属汚染の発生を防止可能な半導体ウエハ加工用粘着シート用粘着剤組成物を提供する」(【0005】)ことを認識しておらず,引用発明1において,ウレタン化反応の触媒を,ジルコニウム,チタン,および,アルミニウムから選択される少なくとも1種の金属の錯体とする動機付けがない。
そして,本願発明1は,相違点3に係る構成を備えることによって,「粘着剤組成物がジルコニウム,チタン,および,アルミニウムから選択される少なくとも1種の金属の錯体を触媒として用いて得られるウレタン結合を有する(メタ)アクリル系ポリマーを含むことにより,調製後も粘着剤組成物に含まれる金属錯体の半導体ウエハへの拡散を防止することができ,金属錯体による半導体ウエハの金属汚染を防止し得る。」(本願明細書【0007】)という格別の効果を奏すると認められる。

(6)まとめ
したがって,本願発明1は,引用文献1-3に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものではない。

2 本願発明2-5について
(1)本願発明2-5は,本願発明1の発明特定事項をすべて含むものであるから,本願発明1と同じ理由により,先願1の出願当初明細書及び図面に記載された発明と同一ではない。
(2)本願発明2-5は,本願発明1の発明特定事項をすべて含むものであるから,本願発明1と同じ理由により,引用文献1-3に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものではない。

第6 原査定について
原査定は,補正前の請求項1-6に係る発明ついて,引用文献1-3に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。
しかしながら,平成30年9月26日付け手続補正により補正された請求項1-5に記載された発明は,上述のとおり,引用文献1-3に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものではない。したがって,原査定を維持することはできない。

第7 当審拒絶理由について
1 特許法第36条第6項第2号について
当審では,補正前の請求項1-6に係る発明は,明確でないとの拒絶の理由を通知しているが,平成30年9月26日付けの補正において,この拒絶の理由は解消した。
2 特許法第36条第6項第1号について
当審では,補正前の請求項1-6に係る発明は,発明の詳細な説明に記載されていないとの拒絶の理由を通知しているが,平成30年9月26日付けの補正において,この拒絶の理由は解消した。
3 特許法第29条の2について
当審では,補正前の請求項1-3,5-6に係る発明は,先願1の出願当初明細書及び図面に記載された発明であるとの拒絶の理由を通知しているが,上記のとおり,先願1の出願当初明細書及び図面に記載された発明と同一ではないから,この拒絶の理由は解消した。

第8 むすび
以上のとおり,本願発明1-5は,当業者が引用文献1-3に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-12-05 
出願番号 特願2012-209469(P2012-209469)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (H01L)
P 1 8・ 121- WY (H01L)
P 1 8・ 16- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 宮久保 博幸  
特許庁審判長 深沢 正志
特許庁審判官 加藤 浩一
河合 俊英
発明の名称 半導体ウエハ加工用粘着シート用粘着剤組成物および該粘着剤組成物を用いた粘着シート  
代理人 籾井 孝文  

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