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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12N
管理番号 1346619
審判番号 不服2016-13985  
総通号数 229 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-09-16 
確定日 2018-11-28 
事件の表示 特願2014-185624「抗メソテリン免疫複合体およびその使用」拒絶査定不服審判事件〔平成27年3月5日出願公開、特開2015-42174〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22年4月16日(パリ条約による優先権主張 2009年4月29日 (EP)欧州特許庁)を国際出願日とする特願2012-507621号の一部を平成26年9月11日に新たな特許出願としたものであって、以降の手続の経緯は以下のとおりである。
平成27年10月 7日付け 拒絶理由通知書
平成28年 4月19日 意見書・手続補正書
平成28年 5月16日付け 拒絶査定
平成28年 9月16日 審判請求書・手続補正書
平成29年 9月 7日付け 拒絶理由通知書
平成30年 3月 9日 意見書

第2 本願発明
本願の請求項1ないし6に係る発明は、平成28年9月16日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明は、以下のとおりである。
「【請求項1】 細胞傷害剤およびメソテリン(配列番号36)に特異的な抗原結合領域を含むヒトもしくはヒト化抗体またはその機能的フラグメントを含む免疫複合体であって、抗体またはその機能的フラグメントが、メソテリンへの結合において、癌抗原125(CA125)と競合しない、免疫複合体。」(以下、この発明を「本願発明」という。)

第3 拒絶の理由
平成29年9月7日付けの当審が通知した拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、この出願の優先権主張日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、という理由を含むものである。

引用例6:国際公開第2009/045957号

第4 引用例の記載及び引用発明
1 引用例6の記載
引用例6には、以下の事項が記載されている。(引用例6は英語で記載されているため当審による日本語訳で示す。下線は当審で付与した。)
(1) Summary(発明の概要)
ア 「本開示は、メソテリンに特異的に結合し、ヒトメソテリンへの高い結合親和性、メソテリン発現細胞での内在化、CA125へのメソテリンの結合の阻害及び/又は抗体依存性細胞毒性(ADCC)の媒介といった望ましい特性を有する、特にヒトの、単離されたモノクローナル抗体を提供する。」(2ページ14?18行)
イ 「本開示は、パートナー分子に結合した、本開示の抗体又はその抗原結合部分を含む免疫複合体も提供する。」(5ページ13?15行)

(2) Detailed Description of this Disclosure(この開示の詳細な説明)
ア 「『ヒトメソテリン』という用語は、Genbankアクセッション番号NP_005814を有するヒトメソテリンの完全なアミノ酸配列の様な、ヒト配列のメソテリンをさす。」(10ページ1?4行)
イ Cytotoxins as Partner Molecules(パートナー分子としての細胞毒素)
「一つの態様において、本発明は、細胞毒素、薬剤(例えば、免疫阻害剤)又は放射性毒素のようなパートナー分子と複合化した抗体を特徴づける。このような複合体は『免疫毒素』とも称される。細胞毒素又は細胞傷害剤は、細胞に対して有害な(例えば細胞を殺す)任意の薬剤を含む。
…本発明の抗体に複合化されうるパートナー分子の他の好ましい例は、カリケアマイシン、マイタンシン及びオーリスタチン、並びにそれらの誘導体を含む。」(77ページ2?21行)

(3) Example 1(実施例1 メソテリンタンパク質に対するヒトモノクローナル抗体の作製)
ア 「ヒトの抗体遺伝子を発現するトランスジェニックマウスを用いて、以下のように抗メソテリンヒトモノクローナル抗体を作製した。
抗原
免疫用の抗原としてメソテリンの可溶性融合タンパク質を使用した。可溶性融合タンパク質は、C末端にHisタグを連結したメソテリンの40kDの部分(天然のメソテリンにおいてGPI結合を介して膜に会合する部分)である。」(106ページ8?14行)
イ 「10の抗体を選択し、in vitroで産生され、精製されたクローン抗体を用いて、それらの特徴を確認した。3つの抗体、3C10(…)、6A4(…)及び7B1(…)を配列決定とさらなる解析のために選択した。」(109ページ16?20行)

(4) Example 2(実施例2 抗体3C10、6A4及び7B1の構造的特性の解析)
「7B1のV_(H)のヌクレオチド配列及びアミノ酸配列を、それぞれ図3A並びに配列番号27及び21に示す。7B1のV_(L)のヌクレオチド配列及びアミノ酸配列を、それぞれ図3B並びに配列番号30及び24に示す。」(111ページ1?4行)

(5) Example 3(実施例3 メソテリンモノクローナル抗体の結合特性の解析)
ア 「この実施例では、フローサイトメトリーによってmAb 3C10、6A4及び7B1の細胞表面のメソテリンへの結合を調べた。さらに、BIACOREによってメソテリンへの結合動態を分析した。」(112ページ12?14行)
イ フローサイトメトリー試験
「…結果は、3つのモノクローナル抗体すべてが細胞表面のヒトメソテリンに効果的に結合することを示す。」(113ページ2?4行)
ウ BIACORE解析
「…3C10,6A4及び7B1についてのBIAcoreの結果は、3つの抗体すべてが高い親和性でヒトメソテリンと結合することが可能であるというフローサイトメトリーの結果を裏付けている。」(113ページ21?23行)

(6) Example 6(実施例6 抗メソテリンmAbによるメソテリンのCA125への結合の阻害)
「メソテリンのCA125への結合を阻害する抗メソテリン抗体の能力を調べるために、in vitro異種細胞付着アッセイを行った。このアッセイでは、OVCAR3細胞(CA125を発現する卵巣癌細胞株)の、細胞表面にメソテリンを発現するように形質移入されたCHO細胞(CHO-メソテリン)への付着を阻害する抗体の能力を調べた。OVCAR3細胞(詳しくは実施例3に記載)のCHO-メソテリン細胞への付着は、メソテリンとCA125の相互作用によるものである。
メソテリンとCA125の相互作用の抗体による阻害を調べるために、アッセイの24時間前に、96穴プレートにウエル当たり4×10^(4)個/200μLの密度でOVCAR細胞を入れ、サブコンフルーエントな培養物を得た。24時間後、培地を取り除き、1%ウシ血清アルブミン(BSA)を含有する新鮮な培地を加えて10μg/mLの抗体(3C10、7B1、6A4、アイソタイプ対照又は抗体なし)をウエルに加えた。37℃、5%CO_(2)で、細胞を30分間インキュベートした。CHO-S(親型細胞)及びCHO-メソテリン細胞をカルセインAM(細胞6×10^(6)個/mLに対し5μM)と共に30分インキュベートし、培地で洗浄し、OVCARの培養物に加え、37℃で60分間インキュベートした。
インキュベートに続き、試料をPBSで4回洗浄して非付着細胞を取り除いた。各ウエルに100μLのPBSを加え、494nm/517nmにてシナジーHT蛍光リーダーでプレートを読み取ることによって付着した細胞を測定した。
結果を図8に示す。抗体の非存在下ではOVCAR3細胞はCHO-メソテリン細胞に付着したが、細胞表面にメソテリンを発現しないCHO-S細胞(対照)には付着しなかった。さらに、3C10 mAb又は6A4 mAbの存在下では、細胞の付着が、対照抗体(DT)と比較して、それぞれ68.7%又は84.8%阻害された。これとは対照的に、7B1 mAbがメソテリンとCA125の相互作用を阻害する能力を示さなかったということは、7B1が結合するメソテリン上のエピトープ(これは3C10及び6A4のエピトープとは異なる)はメソテリンとCA125が相互作用する領域をブロックしないことを示している。」(118ページ9行?119ページ3行)

(7) Example 8(実施例8 抗メソテリンmAb 6A4によるin vivoでの腫瘍の増殖の阻害)
「この実施例では、裸の抗体又は細胞毒素複合体としてのいずれかの6A4 mAbの、in vivoマウスモデルでの腫瘍の増殖を阻害する能力を調べた。本明細書では、6A4の細胞毒素複合体は6A4-サイトトキシンAと呼び、サイトトキシンAに結合した6A4抗体のことである。サイトトキシンA細胞毒素とその調製は、国際公開第2008/083312号に記載されており、その全体の内容は参照として本明細書に援用される。6A4-サイトトキシンA複合体は以下のように調製された。」(120ページ11?17行)

(8) What is claimed:(特許請求の範囲)
ア 「1. 単離されたヒトモノクローナル抗体又はその抗原結合部分であって、ヒトメソテリンに結合し、以下の特性のうちの少なくとも1つを示す、抗体。
(a)1×10^(-8)M以下のK_(D)でヒトメソテリンに結合する、
(b)メソテリン発現細胞で内在化される、
(c)卵巣癌抗原CA125へのメソテリンの結合を阻害する、
(d)メソテリン発現細胞に対し抗体依存性細胞毒性(ADCC)を示す、又は
(e)サイトトキシンに結合した場合、in vivoでメソテリン発現細胞の増殖を阻害する。」
イ 「22. 請求項1に記載の抗体又はその抗原結合部分、及びパートナー分子とを含み、前記パートナー分子が治療剤である、抗体パートナー分子複合体。」
ウ 「24. 前記治療剤が細胞毒素である、請求項22に記載の抗体パートナー分子複合体。」
エ 「33. メソテリン発現腫瘍細胞と、請求項22に記載の抗体パートナー分子複合体とを接触させて、それにより、メソテリン腫瘍細胞の増殖を阻害する工程を含む、メソテリン発現腫瘍細胞の増殖を阻害する方法。」

2 引用発明
上記引用例6の記載より、引用例6には、次の発明が記載されているものと認められる。
「細胞毒素、並びに、配列番号21で示されるV_(H)のアミノ酸配列及び配列番号24で示されるV_(L)のアミノ酸配列を有する、メソテリンに特異的に結合するモノクローナル抗体7B1又はその抗原結合部分を含む免疫複合体であって、モノクローナル抗体7B1又はその抗原結合部分が結合するメソテリン上のエピトープは、メソテリンとCA125が相互作用する領域をブロックしない、抗体パートナー分子複合体。」(以下、この抗体パートナー分子複合体を「引用発明」という。)

第5 本願発明と引用発明の対比・判断
1 対比・判断
本願発明と引用発明を対比すると、引用発明の細胞毒素は、上記第4の1(2)イのとおり、細胞に対して有害な任意の薬剤で、細胞傷害剤とも言い換えることができるものである。また、引用発明で、「モノクローナル抗体7B1抗体又はその抗原結合部分が結合するメソテリン上のエピトープは、メソテリンとCA125が相互作用する領域をブロックしない」ということは、本願発明における、「抗体又はその機能的フラグメントが、メソテリンへの結合において、癌抗原125(CA125)と競合しない」と同義である。そして、本願発明のメソテリンは配列番号36で示されるアミノ酸配列を有するところ、このアミノ酸配列は、引用例6に記載されたヒトメソテリンのアミノ酸配列(Genbankアクセッション番号NP_005814で示されるアミノ酸配列)のC末端部分と同一であり、また、本願明細書には「提供される免疫複合体の抗体部分は、メソテリン前駆体ポリペプチド(配列番号36)の40kDaのC末端ドメイン(本明細書においてメソテリンと称する)と特異的に免疫反応性である。」と記載されている(段落【0039】)ところ、引用例6においても、抗体を作製する際に使用したヒトメソテリンは、メソテリンの可溶性部分であって40kDaの部分である(前記第4の1(3)ア)ことから、本願発明のメソテリンと引用発明のメソテリンに相違点はない。
そうしてみると、本願発明と引用発明に相違点はない。

2 審判請求人の主張について
(1) 請求人は、引用例6には、モノクローナル抗体7B1がメソテリンへの結合においてCA125と競合しないことを直接示すデータは記載されておらず、引用例6における「7B1が結合するメソテリン上のエピトープはメソテリンとCA125が相互作用する領域をブロックしないことを示している」という記載も、試験データの解釈について、引用例6の発明者が示す一つの提案に過ぎいないと主張する。
しかし、引用例6では、実施例6(前記第4の1(6))として記述された実験の結果、7B1がメソテリンとCA125の相互作用を阻害しなかったことに基づいて、「7B1が結合するメソテリン上のエピトープはメソテリンとCA125が相互作用する領域をブロックしない」と述べており、斯かる解釈は妥当なものと認められるところ、請求人は、引用例6の記載が誤りであることを示す合理的な根拠を提示していないので、請求人の主張を採用することはできない。
(2) 請求人は、引用例6には、メソテリンへの結合において、CA125と競合しない抗体を含む免疫複合体は具体的には開示されていないと主張する。
しかし、引用例6の特許請求の範囲には、請求項1に記載の抗体又はその抗原結合部分、及びパートナー分子とを含み、前記パートナー分子が細胞毒素である、抗体パートナー分子複合体が、請求項24として記載されている(前記第4の1(8)ウ)し、発明の概要の項にも、「本開示は、パートナー分子に結合した、本開示の抗体又はその抗原結合部分を含む免疫複合体も提供する。」(前記第4の1(1)イ)と、特許請求の範囲では抗体パートナー分子複合体と表現していたものを、「免疫複合体」と言い換えて記載している。さらに、引用例6の実施例8では、抗体と細胞毒素の複合体が調製され、その細胞増殖阻害能が試験されている(前記第4の1(7))ように、本願の優先権主張日において、抗体を細胞毒素と共に複合体化することは周知の事項であった。そうしてみると、当業者であれば、前記第4の1に摘記した引用例6の記載に当該周知技術を参酌することにより、前記第4の2で述べた引用発明を導き出すことが可能であって、引用例6に、メソテリンへの結合においてCA125と競合しない抗体を含む免疫複合体の具体例の記載がないとしても、そのことを理由として、上記引用発明が引用例6に記載された発明ではないということはできない。
(3) 請求人は、前記第4の1(1)アの発明の概要の記載を根拠に、引用例6は、メソテリンへの結合においてCA125と競合する抗体を提供することを目的としているもので、抗体7B1をさらに免疫複合体として提供することが具体的に開示されているということはできないとも主張する。しかし、例えば、前記第4の1(8)アで示した特許請求の範囲の請求項1では、「卵巣癌抗原CA125へのメソテリンの結合を阻害する」点は、ヒトメソテリンに結合するモノクローナル抗体又はその抗原結合部分の有する特性として特定されたものの中の1つとして記載されているように、引用例6は、必ずしも、メソテリンへの結合においてCA125と競合する抗体のみを提供することを目的とするものではなく、請求人の主張には理由がない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用例6に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-06-29 
結審通知日 2018-07-03 
審決日 2018-07-17 
出願番号 特願2014-185624(P2014-185624)
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大久保 智之  
特許庁審判長 大宅 郁治
特許庁審判官 高堀 栄二
松浦 安紀子
発明の名称 抗メソテリン免疫複合体およびその使用  
代理人 青木 孝博  
代理人 安藤 健司  
代理人 岩瀬 吉和  
代理人 五味渕 琢也  
代理人 城山 康文  
代理人 市川 英彦  
代理人 金山 賢教  
代理人 小野 誠  
代理人 櫻田 芳恵  
代理人 重森 一輝  
代理人 川嵜 洋祐  
代理人 今藤 敏和  
代理人 坪倉 道明  

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