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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1346633
審判番号 不服2017-12138  
総通号数 229 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-08-15 
確定日 2018-11-28 
事件の表示 特願2015-516039「顕微鏡のための直交光ビーム分割」拒絶査定不服審判事件〔平成25年12月12日国際公開、WO2013/184355、平成27年 7月16日国内公表、特表2015-520419〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年(平成25年)5月22日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年6月7日、米国)を国際出願日とする出願であって、その後の手続の経緯は次のとおりである。
平成29年 1月16日 拒絶理由通知(同年1月24日発送)
平成29年 4月19日 意見書、補正書
平成29年 5月26日 拒絶査定(同年5月30日発送)
平成29年 8月15日 審判請求書

第2 本願発明
本願の請求項に係る発明は、平成29年4月19日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明は次のとおりのものである(以下「本願発明」という。)。
「 第1のαビームスプリッタモジュールおよびα整列線に沿って前記第1のαビームスプリッタモジュールと整列する第2のαビームスプリッタモジュールを備える、αビームスプリッタセットであって、
前記第1のαビームスプリッタモジュールは、
第1の光学経路に沿って移動する第1のαビームを受信し、
前記第1のαビームを、前記第1の光学経路に沿って伝送される第1の出力ビームおよび前記α整列線に実質的に平行して方向付けられるα分割ビームに分割するように構成され、
前記第2のαビームスプリッタモジュールは、
第2の光学経路に沿って移動する第2のαビームを受信し、
前記α整列線に実質的に平行する第3のα光学経路に沿って移動する第3のαビームを受信し、
前記第2の光学経路に沿って、第2の出力ビームとして前記第2のαビームおよび前記第3のαビームを伝送するように構成される、αビームスプリッタセットと、
第1のβビームスプリッタモジュールおよびβ整列線に沿って前記第1のβビームスプリッタモジュールと整列する第2のβビームスプリッタモジュールを備える、βビームスプリッタセットであって、各βビームスプリッタモジュールは、
前記第1の出力ビームまたは前記第2の出力ビームを受信し、
前記受信した出力ビームを、第1のβ分割ビームおよび第2のβ分割ビームに分割し、
前記受信した出力ビームの前記光学経路に沿って、前記第1のβ分割ビームを伝送し、
前記β整列線および前記受信した出力ビームの前記光学経路によって画定される平面に実質的に直交するβ光学経路に沿って、前記第2のβ分割ビームを方向付けるように構成される、βビームスプリッタセットと、を備える、システム。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願の請求項1ないし8に係る発明は、本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である、下記の引用文献2及び1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献2:特開2002-311336号公報
引用文献1:特開2002-287037号公報

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献2
(1)引用文献2の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である引用文献2(特開2002-311336号公報)には、次の記載がある(下線は審決で付した。以下同じ。)。

ア 「【請求項1】 主対物レンズと、左側及び右側主光路と、主観察ポートとを有し、少なくとも1つの該主光路に1つの差込入射ビームスプリッタ及び少なくとも1つの分離射出ビームスプリッタが配属され、
さらに付加情報差込入射用の該差込入射ビームスプリッタに前置される物体情報遮断用の少なくとも1つの第一切換可能遮光器を有するステレオ顕微鏡において、
少なくとも1つの主光路(2a、2b)に、少なくとも1つの第二切換可能遮光器(18a、18b)が、分離射出ビームスプリッタ(12a、12b)と主観察ポート(21a、21b)との間に配属されること、及び 前記主光路(2a、2b)の各々に、差込入射ビームスプリッタ(11a、11b)が配されることを特徴とするステレオ顕微鏡。
【請求項2】前記差込入射ビームスプリッタ(11a、11b)の各々と前記主対物レンズ(10)との間、及び前記分離射出ビームスプリッタ(12a、12b)の各々と前記主観察ポート(21a、21b)との間には、それぞれ第一又は第二切換可能遮光器(17a、17b、18a、18b)が配属されることを特徴とする請求項1に記載のステレオ顕微鏡。
【請求項3】少なくとも1つの副観察ポート(20a、20b)を有し、
少なくとも1つの分離射出ビームスプリッタ(12a、12b)と前記副観察ポート(20a、20b)との間に、第三切換可能遮光器(19a、19b)が配属されることを特徴とする請求項1又は2に記載のステレオ顕微鏡。
………
【請求項5】主光路(2a、2b)毎に少なくとも2つの副観察ポート(20a、20b)を有し、
該副観察ポート(20a、20b)は、前記主光路(2a、2b)に関し、同一のラジアル面に位置すること、前記分離射出ビームスプリッタ(12a、12b)は、分離射出画像情報を前記副観察ポート(20a、20b)の一方又は他方へ選択的に導入するために、回動可能であることを特徴とする請求項3又は4に記載のステレオ顕微鏡。」

イ 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、不所望の観察画像チャンネルを選択的に切換えるため、ステレオ顕微鏡の一又は複数の観察光路へ付加データを組み込むための遮光器により制御されるステレオ顕微鏡に関し、とりわけ、主対物レンズと、左側及び右側主光路と、主観察ポートを有し、少なくとも1つの該主光路に1つの差込入射ビームスプリッタ及び少なくとも1つの分離射出ビームスプリッタが配属され、さらに付加情報入力用の該差込入射ビームスプリッタに前置される物体情報遮断用の少なくとも1つの第一切換可能遮光器を有するステレオ顕微鏡に関する。」

ウ 「【0006】手術顕微鏡の場合、基本的に、その機能の観点から、3つの相異なる観察ないし利用方法に区別することができる(以下の例の説明のために、図5?7を参照する。これらは、従来技術の顕微鏡位置を表している)。
【0007】これら各図では、参照符号は、各図に亘って、模式的に示された人ないし対象を意味する: 患者(物体)42、(手術顕微鏡の)光学系支持体45、外科医(主観察者)41、アシスタント40、左側光路及び右側光路の観察ポート21a、21b、ステレオ的(ステレオスコピック)観察用観察ポート(アシスタント用接眼レンズ)20a、20b(図5)、単眼的(モノスコピック)観察用右側光路観察ポート(アシスタント用接眼レンズ)20b(図6)、単眼的観察用左側光路観察ポート(アシスタント用接眼レンズ)20a(図7)。
【0008】1) 外科医(主観察者)は、基本的に(というより殆ど専ら)、観察ポート21a、21bをステレオスコピックに利用し、一般的に、差込入射の態様・時点について並びに付加情報を重畳するか重畳しないかの問題について決定を下す。2a) アシスタントは、殆ど専ら右側観察ポート20a(例えば図6)か、左側観察ポート20b(例えば図7)を、単眼的に使用する。この際アシスタントは、外科医41及び顕微鏡に直角に位置する(例えば開頭術の場合)。2b) 或いは、図5(例えば背部手術)に示されるようにアシスタント40が外科医41に対向視かつ顕微鏡の後方に位置する場合、観察ポート(ないし光路)20a、20bはステレオスコピックに使用される;3) 観察者グループは、顕微鏡の脇に位置するか、或いは更に手術室の外部に位置し、本質的に、手術室の内部又は外部にあるモニタで、外科医(主観察者)41によって視認され、かつ顕微鏡を介しては直接には全く視えず、ビデオ撮影の観察を介して観察が行われる情報を見る。
【0009】上記1)の「観察者」のケースでは、唯一の画像チャンネル中の付加情報に基づいて2つの接眼レンズをステレオスコピックに覗き込む場合、とりわけ例えば当該画像チャンネルへのビデオデータの差込入射によるデータ置換をする場合、外科医41は、2つの相異なる画像情報(第二の画像チャンネルと比べて)を使用することができるが、これは(外科医に)混乱を引き起こし得る。」

エ 「【0010】
【発明が解決しようとする課題】それゆえ、本発明の課題は、上述の不利を除去し、観察手段の柔軟性を向上させることであり、好ましくは、それらをできるだけ付加的な差込入射装置を用いずに、即ち、付加的な光路及び物理的構造を大きくする措置を用いずに行うことである。」

オ 「【0012】
【発明の実施の形態】以下に、本発明の好ましい実施の形態を示すが、それらは各従属請求項の対象でもある。ステレオ顕微鏡は、更に、差込入射ビームスプリッタの各々と主対物レンズとの間、及び分離射出ビームスプリッタの各々と主観察ポート(Beobachtungsausgang)との間に、それぞれ第一又は第二切換可能遮光器が配属されることが好ましい。
………
【0017】とりわけ主光路毎に少なくとも2つの副観察ポートが設けられているステレオ顕微鏡の場合、つまりとりわけ柔軟に使用可能な手術顕微鏡の場合、これら(副)観察ポートが、主光路に関し同一のラジアル面(Radialebene)に、即ち例えば一方の観察ポートが分離射出ビームスプリッタの横に、他方の観察ポートが分離射出ビームスプリッタの後方に(即ち、互いに90°ずらされて)位置し、及び分離射出ビームスプリッタが、分離射出画像情報を前記副観察ポートの一方又は他方へ選択的に導入するために、回動可能であれば有利である。」

カ 「【0026】
【実施例】本発明の実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、特許請求の範囲に付した図面参照符号は、発明の理解の容易化のためであって、本発明を図示の態様に限定することを意図しない。また、以下の実施例も、発明の理解の容易化のためのものであり、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲において当業者により実施可能な置換・変更形態等を含むことも言わずもがなである。
【0027】図1では、ディスプレイ16は、付加情報(一又は複数)3のための光路に沿って、(結像)光学系15及び切換可能プリズム14(左側又は右側光路への切換投射が可能)を介し、付加情報が付加された画像を右側光路2bへ投射している。ビームスプリッタ11bを介して、この情報は、物体(観察対象)1の画像と重畳し、任意的な画像センサ13bへ導かれると共に、引き続く観察光路へと導かれる。
………
【0030】アシスタント用観察ポートも同様に、外科的処置(手術の種類)に応じて、側方の2つのモノスコピックな観察ポートへか、或いは後方のステレオスコピックな観察ポートへと切換えられることができる。
【0031】例えば頭部の手術の場合は、左脇に配置するアシスタント40は、観察ポート20aを介して物体情報をモノスコピックに見るが、付加情報は見ない。右脇に配置するアシスタント40は、モノスコピックに、観察ポート20bを介して外科医41と同様付加情報のみを見る。
【0032】例えば背部の手術の場合、アシスタント40は、観察ポート20a、20bを介して2つの情報をステレオスコピックに見る。そのため、アシスタント40は、内容の異なる2つの情報も見る。
………
【0034】図3には、左側光路に付加情報が差込入射され、かつ外科医用光路21a、21bで遮光器が開かれている様子が示されている。」

キ 「【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のステレオ顕微鏡における遮光器の位置の一例。
………
【図3】本発明のステレオ顕微鏡における遮光器の位置の一例。
………
【図5】観察されるべき患者に対する、外科医とアシスタントの既知のポジションの一例。
【図6】観察されるべき患者に対する、外科医とアシスタントの既知のポジションの一例。
【図7】観察されるべき患者に対する、外科医とアシスタントの既知のポジションの一例。
【符号の説明】
1 物体(患者)
2a 主光路=物体光、左側光路
2b 主光路=物体光、右側光路
3 付加情報用差込入射光路
10 主対物レンズ
11a 左側光路、ビデオ及び付加情報用の差込入射ビームスプリッタ
11b 右側光路、ビデオ及び付加情報用の差込入射ビームスプリッタ
12a 左側光路、1及び2観察者用分離射出ビームスプリッタ
12b 右側光路、1及び2観察者用分離射出ビームスプリッタ
13a 左側光路用ビデオ画像センサ
13b 右側光路用ビデオ画像センサ
14 (切換可能)偏向プリズム(付加情報光路用)
15 ディスプレイ16用の結像光学系
16 付加情報用ディスプレイ
17a 左側光路において物体光を遮光するための切換可能第一遮光器
17b 右側光路において物体光を遮光するための切換可能第一遮光器
18a 左側光路において物体光を遮光するための切換可能第二遮光器
18b 右側光路において物体光を遮光するための切換可能第二遮光器
19a 左側アシスタント用光路において物体光を遮光するための切換可能第三遮光器
19b 右側アシスタント用光路において物体光を遮光するための切換可能第三遮光器
20a 観察者(40)のためのモノスコピックな副観察ポート(アシスタント用観察ポート)、左側
20b 観察者(40)のためのモノスコピックな副観察ポート(アシスタント用観察ポート)、右側
21a 外科医(主観察者)のステレオ観察用の主観察光路の左側光路
21b 外科医(主観察者)のステレオ観察用の主観察光路の右側光路
30 遮光器コントローラ(遮光器の位置ないし状態を検出するため及び/又は遮光器を制御するための)
31 記憶装置及びユーザセットアップを有するデータタイプ情報コントローラ
32 (プリズムの位置ないし状態を検出するため及び/又はプリズムを制御するための)回転プリズムの制御・検出ユニット
40 アシスタント
41 外科医
42 患者
45 光学系支持体」

ク 図1及び図3は次のものである。
【図1】

【図3】


ケ 上記ア及びカの記載、及び、入射光の一部を反射し一部を透過するというビームスプリッタの機能を踏まえて図1及び図3をみると、次の事項が看取できる。
(ア)主対物レンズ10と、左側主光路2a及び右側主光路2bと、主観察ポート21a及び21bとを有し、左側主光路2aに付加情報差込入射用の差込入射ビームスプリッタ11a、分離射出ビームスプリッタ12aが配属され、右側主光路2bに付加情報差込入射用の差込入射ビームスプリッタ11b、分離射出ビームスプリッタ12bが配属されること。
(イ)差込入射ビームスプリッタ11a及び差込入射ビームスプリッタ11bに前置される物体情報遮断用の第一切換可能遮光器17a及び第一切換可能遮光器17bを有すること。
(ウ)左側主光路2aに第二切換可能遮光器18aが、分離射出ビームスプリッタ12aと主観察ポート21aとの間に配属され、右側主光路2bに第二切換可能遮光器18bが、分離射出ビームスプリッタ12bと主観察ポート21bとの間に配属されること。
(エ)主対物レンズ10を経て左側主光路2a及び右側主光路2bへ入射する物体(観察対象)1の画像は、差込入射ビームスプリッタ11a及び差込入射ビームスプリッタ11bを透過して分離射出ビームスプリッタ12a及び分離射出ビームスプリッタ12bへと導かれる画像と、差込入射ビームスプリッタ11a及び差込入射ビームスプリッタ11bにより反射され、画像センサ13a又は画像センサ13bへ導かれる画像に分割されること。
(オ)ディスプレイ16は、付加情報3のための光路に沿って、(結像)光学系15を介し、更に左側主光路2a又は右側主光路2bへの切換投射が可能な切換可能プリズム14を介し、付加情報3が付加された画像を左側主光路2a又は右側光路2bへ投射し、付加情報3が付加された画像は差込入射ビームスプリッタ11a又は差込入射ビームスプリッタ11bを透過して、画像センサ13a又は画像センサ13bへ導かれると画像と、差込入射ビームスプリッタ11a又は差込入射ビームスプリッタ11bにより反射され、引き続く分離射出ビームスプリッタ12a又は分離射出ビームスプリッタ12bへと導かれる画像に分割されること。
(カ)差込入射ビームスプリッタ11a及び差込入射ビームスプリッタ11bから分離射出ビームスプリッタ12a及び分離射出ビームスプリッタ12bへと導かれた付加情報3が付加された画像及び/又は物体(観察対象)1の画像は、分離射出ビームスプリッタ12a及び分離射出ビームスプリッタ12bを透過して主観察ポート21a、21bへ導かれる画像と、分離射出ビームスプリッタ12a及び分離射出ビームスプリッタ12bにより反射されアシスタント用観察ポート20a、20bに導かれ画像に分割されること。

コ 図5ないし図7は次のものである。
【図5】

【図6】

【図7】


(2)上記(1)によると、引用文献2には、請求項1に係る発明の実施例として次の発明が記載されていると認められる(以下「引用発明」という。)。
「 主対物レンズ10と、左側主光路2a及び右側主光路2bと、主観察ポート21a及び21bとを有し、左側主光路2aに付加情報差込入射用の差込入射ビームスプリッタ11a、分離射出ビームスプリッタ12aが配属され、右側主光路2bに付加情報差込入射用の差込入射ビームスプリッタ11b、分離射出ビームスプリッタ12bが配属され、
差込入射ビームスプリッタ11a及び差込入射ビームスプリッタ11bに前置される物体情報遮断用の第一切換可能遮光器17a及び第一切換可能遮光器17bを有するステレオ顕微鏡において、
左側主光路2aに第二切換可能遮光器18aが、分離射出ビームスプリッタ12aと主観察ポート21aとの間に配属され、右側主光路2bに第二切換可能遮光器18bが、分離射出ビームスプリッタ12bと主観察ポート21bとの間に配属され、
主対物レンズ10を経て左側主光路2a及び右側主光路2bへ入射する物体(観察対象)1の画像は、差込入射ビームスプリッタ11a及び差込入射ビームスプリッタ11bを透過して分離射出ビームスプリッタ12a及び分離射出ビームスプリッタ12bへと導かれる画像と、差込入射ビームスプリッタ11a及び差込入射ビームスプリッタ11bにより反射され、画像センサ13a又は画像センサ13bへ導かれる画像に分割され、
ディスプレイ16は、付加情報3のための光路に沿って、(結像)光学系15を介し、更に左側主光路2a又は右側主光路2bへの切換投射が可能な切換可能プリズム14を介し、付加情報3が付加された画像を左側主光路2a又は右側光路2bへ投射し、付加情報3が付加された画像は差込入射ビームスプリッタ11a又は差込入射ビームスプリッタ11bを透過して、画像センサ13a又は画像センサ13bへ導かれると画像と、差込入射ビームスプリッタ11a又は差込入射ビームスプリッタ11bにより反射され、引き続く分離射出ビームスプリッタ12a又は分離射出ビームスプリッタ12bへと導かれる画像に分割され、
差込入射ビームスプリッタ11a及び差込入射ビームスプリッタ11bから分離射出ビームスプリッタ12a及び分離射出ビームスプリッタ12bへと導かれた付加情報3が付加された画像及び/又は物体(観察対象)1の画像は、分離射出ビームスプリッタ12a及び分離射出ビームスプリッタ12bを透過して主観察ポート21a、21bへ導かれる画像と、分離射出ビームスプリッタ12a及び分離射出ビームスプリッタ12bにより反射されアシスタント用観察ポート20a、20bに導かれる画像に分割され、
アシスタント用観察ポートは、外科的処置(手術の種類)に応じて、側方の2つのモノスコピックな観察ポート20a、20bへか、或いは後方のステレオスコピックな観察ポート20a、20bへと切換えられることができる、ステレオ顕微鏡。」

2 引用文献1
(1)引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である引用文献1(特開2002-287037号公報)には、次の記載がある。

ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、少なくとも1つの双眼視検部を備えた光学器械であって、少なくとも1つの双眼光路の両チャネル内にビームスプリッターが設けられ、ビームスプリッターが、光路の一部を撮影モジュール等へ反射させる機能、および(または)、表示モジュールから提供されるデータまたは画像を視検部の方向においてそれぞれのチャネル内へ反射させる機能を有している前記光学器械に関するものである。」

イ 「【0017】
【発明の実施の形態】次に、本発明を、普遍的な適用性を限定することなく、(一部のみを)図示した立体顕微鏡の光路を用いて説明する。なお、図1と図2においては同一の部材または要素には同一の符号を付したので、少なくとも部分的には個々の部材を新たに説明することはしない。
【0018】図1は、立体顕微鏡の双眼光路内に取り付けられるビームスプリッタープリズムまたはビームスプリッターキューブの光路斜視図である。図中αまたはβは、左側の光路lまたは右側の光路r内に取り付けられるビームスプリッターキューブである。顕微鏡から来るビームaまたはb(実線と破線で示した)は、図1では見えないビームスプリッターキューブαまたはβの(下部の)面11にあたってビームスプリッターキューブ内へ侵入し、ビームスプリッターキューブαまたはβのそれぞれのスプリッター反射面1により、この面1の構成またはコーティングにより設定された比率(たとえば50:50)に応じて分割される。90゜転向した成分a’またはb’(破線で示した)は、図1では同様に見えない(背面側の)面12を通ってビームスプリッターキューブから出て、たとえば、図1には図示しなかったビデオユニット、写真機等の撮影モジュールによって撮影される。面1を透過する成分(実線で示した)は、ビームスプリッターキューブの(上部の)面13から出て、立体顕微鏡の通常のごとく構成された構成要素(図示せず)を通過し、観察者により知覚される。………」

ウ 図1は次のものである。
【図1】


(2)引用文献1に記載の技術
上記(1)によると、引用文献1には、立体顕微鏡に関し、次の事項が記載されていると認められる(以下「引用文献1技術」という。)。
「ビームaまたはbは、左側の光路l内に取り付けられるビームスプリッターキューブαまたは右側の光路r内に取り付けられるビームスプリッターキューブβの下部の面11にあたってビームスプリッターキューブαまたはβ内へ侵入し、ビームスプリッターキューブαまたはβのそれぞれのスプリッター反射面1により分割され、90゜転向した成分a’またはb’が背面側の面12を通ってビームスプリッターキューブαまたはβから出て、面1を透過する成分は、ビームスプリッターキューブαまたはβの上部の面13から出ること。」

第5 対比
本願発明と引用発明とを対比する。

1 αビームスプリッタセット
引用発明の「差込入射ビームスプリッタ11a」は、「左側主光路2a」に「配属され」、「主対物レンズ10を経て左側主光路2a」「へ入射する物体(観察対象)1の画像は」、「差込入射ビームスプリッタ11a」を「透過して」、「左側主光路2a」に「配属され」る「分離射出ビームスプリッタ12a」「へと導かれる画像と」、「差込入射ビームスプリッタ11a」「により反射され、画像センサ13a」「へ導かれる画像に分割され」る。また、引用発明の「差込入射ビームスプリッタ11a」は、「付加情報3のための光路に沿って、(結像)光学系15を介し、更に」「切換可能プリズム14を介し」、「左側主光路2a」「へ投射」された「付加情報3が付加された画像」を、「差込入射ビームスプリッタ11a」「を透過して、画像センサ13a」「へ導かれると画像と」、「差込入射ビームスプリッタ11a」「により反射され」、「引き続く分離射出ビームスプリッタ12a」「へと導かれる画像に分割」する。
同様に、引用発明の「差込入射ビームスプリッタ11b」は、「右側主光路2b」に「配属され」、「主対物レンズ10を経て」「右側主光路2bへ入射する物体(観察対象)1の画像は」、「差込入射ビームスプリッタ11bを透過して」、「右側主光路2b」に「配属され」る「分離射出ビームスプリッタ12bへと導かれる画像と」、「差込入射ビームスプリッタ11bにより反射され」、「画像センサ13bへ導かれる画像に分割され」る。また、引用発明の「差込入射ビームスプリッタ11b」は、「付加情報3のための光路に沿って、(結像)光学系15を介し、更に」「切換可能プリズム14を介し」、「右側主光路2bへ投射」された「付加情報3が付加された画像」を、「差込入射ビームスプリッタ11bを透過して」、「画像センサ13bへ導かれると画像と」、「差込入射ビームスプリッタ11bにより反射され」、「引き続く」「分離射出ビームスプリッタ12bへと導かれる画像に分割」する。
そして、引用発明の「物体(観察対象)1の画像」及び「付加情報3が付加された画像」は、技術的にみて、光線すなわちビームであることは明らかである。
また、引用発明の「差込入射ビームスプリッタ11a」と「差込入射ビームスプリッタ11b」は、それぞれステレオ顕微鏡の左側主光路2a及び右側主光路2bにおいて、一対で機能を果たすものである。
そうすると、その機能からみて、引用発明の「差込入射ビームスプリッタ11a」及び「差込入射ビームスプリッタ11b」のいずれか一方が、本願発明の「第1のαビームスプリッタモジュール」及び「第2のαビームスプリッタモジュール」のいずれか一方に相当し、引用発明の「差込入射ビームスプリッタ11a」及び「差込入射ビームスプリッタ11b」の他方が、本願発明の「第1のαビームスプリッタモジュール」及び「第2のαビームスプリッタモジュール」の他方に相当する。そして、引用発明の「差込入射ビームスプリッタ11a」及び「差込入射ビームスプリッタ11b」は、一対で本願発明の「αビームスプリッタセット」に相当する。なお、以下便宜上、引用発明の「差込入射ビームスプリッタ11a」が本願発明の「第1のαビームスプリッタモジュール」に相当し、引用発明の「差込入射ビームスプリッタ11b」が本願発明の「第2のαビームスプリッタモジュール」に相当するものとして、本願発明と引用発明のその他の構成について対比する。
引用発明の「左側主光路2a」及び「右側主光路2b」は、その機能からみて、本願発明の「第1の光学経路」及び「第2の光学経路」にそれぞれ相当し、以下同様に、「『左側主光路2a』『へ入射する物体(観察対象)1の画像』」は、「第1の光学経路に沿って移動する第1のαビーム」に、「右側主光路2bへ入射する物体(観察対象)1の画像」は、「第2の光学経路に沿って移動する第2のαビーム」に、「『差込入射ビームスプリッタ11a』『を透過して』『左側主光路2aに』『配属され』た『分離射出ビームスプリッタ12a』『へと導かれる画像』」は、「前記第1の光学経路に沿って伝送される第1の出力ビーム」に、「『差込入射ビームスプリッタ11bを透過して』『右側主光路2bに』『配属され』た『分離射出ビームスプリッタ12b』へ『画像』」を導くことは、「前記第2の光学経路に沿って、第2の出力ビームとして前記第2のαビーム」「を伝送する」ことに、それぞれ相当する。
引用発明の「『差込入射ビームスプリッタ11a』『により反射され、画像センサ13a』『へ導かれる画像』」と本願発明の「前記α整列線に実質的に平行して方向付けられるα分割ビーム」は、技術的にみて、「(第1のαビームを分割した)α分割ビーム」である点で共通する。
引用発明の「『付加情報3のための光路に沿って、(結像)光学系15』『切換可能プリズム14を介し』、『右側光路2bへ投射』された『付加情報3が付加された画像』」と本願発明の「前記α整列線に実質的に平行する第3のα光学経路に沿って移動する第3のαビーム」は、「(第1の光学経路及び第2の光学経路とは異なる)第3の光学経路に沿って移動する(第1のαビーム及び第2のαビームとは異なる)第3のαビーム」である点で共通する。また、引用発明の「『付加情報3が付加された画像は』『差込入射ビームスプリッタ11bにより反射され、引き続く』『分離射出ビームスプリッタ12bへと導かれる画像に分割され』る」と本願発明の「前記第2の光学経路に沿って」、「前記第3のαビームを伝送する」は、「前記第2の光学経路に沿って、前記第3のαビームを伝送する」点で共通する。
してみると、本願発明と引用発明は、「第1のαビームスプリッタモジュールおよび第2のαビームスプリッタモジュールを備える、αビームスプリッタセットであって、前記第1のαビームスプリッタモジュールは、第1の光学経路に沿って移動する第1のαビームを受信し、前記第1のαビームを、前記第1の光学経路に沿って伝送される第1の出力ビームおよびα分割ビームに分割するように構成され、前記第2のαビームスプリッタモジュールは、第2の光学経路に沿って移動する第2のαビームを受信し、第3の光学経路に沿って移動する第3のαビームを受信し、前記第2の光学経路に沿って、第2の出力ビームとして前記第2のαビームおよび前記第3のαビームを伝送するように構成される、αビームスプリッタセット」を備える点で共通する。

2 βビームスプリッタセット
引用発明の「分離射出ビームスプリッタ12a」は、「左側主光路2aに」「配属され」、「差込入射ビームスプリッタ11a」から「導かれた付加情報3が付加された画像及び/又は物体(観察対象)1の画像は、分離射出ビームスプリッタ12a」「を透過して主観察ポート21a」「へ導かれる画像と、分離射出ビームスプリッタ12a」「により反射されアシスタント用観察ポート20a」「に導かれ画像に分割され」る。
同様に、引用発明の「分離射出ビームスプリッタ12b」は、「右側主光路2bに」「配属され」、「差込入射ビームスプリッタ11b」から「導かれた付加情報3が付加された画像及び/又は物体(観察対象)1の画像は」、「分離射出ビームスプリッタ12bを透過して主観察ポート」「21bへ導かれる画像と」、「分離射出ビームスプリッタ12bにより反射されアシスタント用観察ポート」「20bに導かれ画像に分割され」る。
そして、引用発明の「分離射出ビームスプリッタ12a」と「分離射出ビームスプリッタ12b」は、それぞれステレオ顕微鏡の左側主光路2a及び右側主光路2bにおいて、一対で機能を果たすものである。
そうすると、その機能からみて、引用発明の「分離射出ビームスプリッタ12a」及び「分離射出ビームスプリッタ12b」は、本願発明の「第1のβビームスプリッタモジュール」及び「第2のβビームスプリッタモジュール」にそれぞれ相当し、引用発明の「分離射出ビームスプリッタ12a」及び「分離射出ビームスプリッタ12b」は、一対で本願発明の「βビームスプリッタセット」に相当する。
引用発明の「分離射出ビームスプリッタ12a及び分離射出ビームスプリッタ12bを透過して主観察ポート21a、21bへ導かれる画像」は、本願発明の「第1のβ分割ビーム」に相当する。
引用発明の「差込入射ビームスプリッタ11a及び差込入射ビームスプリッタ11bから分離射出ビームスプリッタ12a及び分離射出ビームスプリッタ12bへと導かれた付加情報3が付加された画像及び/又は物体(観察対象)1の画像は」、「分離射出ビームスプリッタ12a及び分離射出ビームスプリッタ12bにより反射されアシスタント用観察ポート20a、20bに導かれる」ことと、本願発明の「前記第1の出力ビームまたは前記第2の出力ビームを受信し」、「前記受信した出力ビームを」、「第2のβ分割ビームに分割」することは、技術的にみて、「受信した第1の出力ビームまたは第2の出力ビームの反射ビーム」を「第2のβ分割ビームに分割する」点で共通する。
してみると、本願発明と引用発明は、「第1のβビームスプリッタモジュールおよび第2のβビームスプリッタモジュールを備える、βビームスプリッタセットであって、各βビームスプリッタモジュールは、前記第1の出力ビームまたは前記第2の出力ビームを受信し、前記受信した出力ビームを、第1のβ分割ビームおよび第2のβ分割ビームに分割し、前記受信した出力ビームの前記光学経路に沿って、前記第1のβ分割ビームを伝送するように構成される、βビームスプリッタセット」を備える点で共通する。
また、引用発明の「ステレオ顕微鏡」は、その構成全体からみて、本願発明の「システム」に相当する。

3 一致点
上記1及び2によると、本願発明と引用発明は次の点で一致する。
「 第1のαビームスプリッタモジュールおよび第2のαビームスプリッタモジュールを備える、αビームスプリッタセットであって、
前記第1のαビームスプリッタモジュールは、
第1の光学経路に沿って移動する第1のαビームを受信し、
前記第1のαビームを、前記第1の光学経路に沿って伝送される第1の出力ビームおよびα分割ビームに分割するように構成され、
前記第2のαビームスプリッタモジュールは、
第2の光学経路に沿って移動する第2のαビームを受信し、
第3のα光学経路に沿って移動する第3のαビームを受信し、
前記第2の光学経路に沿って、第2の出力ビームとして前記第2のαビームおよび前記第3のαビームを伝送するように構成される、αビームスプリッタセットと、
第1のβビームスプリッタモジュールおよび第2のβビームスプリッタモジュールを備える、βビームスプリッタセットであって、各βビームスプリッタモジュールは、
前記第1の出力ビームまたは前記第2の出力ビームを受信し、
前記受信した出力ビームを、第1のβ分割ビームおよび第2のβ分割ビームに分割し、
前記受信した出力ビームの前記光学経路に沿って、前記第1のβ分割ビームを伝送するように構成される、βビームスプリッタセットと、を備える、システム。」

4 相違点
他方、本願発明と引用発明は次の点で相違する。

(1)相違点1
本願発明では、第2のαビームスプリッタモジュールは、α整列線に沿って第1のαビームスプリッタモジュールと整列し、第2のβビームスプリッタモジュールは、β整列線に沿って第1のβビームスプリッタモジュールと整列するのに対し、引用発明では、差込入射ビームスプリッタ11aと差込入射ビームスプリッタ11bが整列しているか否か不明であり、分離射出ビームスプリッタ12aと分離射出ビームスプリッタ12bが整列しているか否かも不明である点。

(2)相違点2
本願発明では、α分割ビームは、α整列線に実質的に平行して方向付けられ、第3のαビームは、α整列線に実質的に平行する第3のα光学経路に沿って移動するのに対し、引用発明では、差込入射ビームスプリッタ11aより反射され、画像センサ13aへ導かれる画像の左側主光路2aに対する方向が不明であり、切換可能プリズム14を介し右側主光路2bへ投射される、付加情報3が付加された画像の右側主光路2bに対する方向も不明である点

(3)相違点3
本願発明では、βビームスプリッタセットは、β整列線および受信した出力ビームの光学経路によって画定される平面に実質的に直交するβ光学経路に沿って、第2のβ分割ビームを方向付けるように構成されるのに対し、引用発明では、分離射出ビームスプリッタ12a及び分離射出ビームスプリッタ12bにより反射される画像は、アシスタント用観察ポート20a、20bに導かれ、アシスタント用観察ポートは、外科的処置(手術の種類)に応じて、側方の2つのモノスコピックな観察ポート20a、20bへか、或いは後方のステレオスコピックな観察ポート20a、20bへと切換えられることができる点。

第6 判断
1 相違点1及び2について
上記相違点1及び2について併せて検討する。
顕微鏡の光学系において、ビームスプリッターとして、同一形状の2つの直角プリズムの一方の斜面に半透反射膜を蒸着し、斜面同士を接合してなるビームスプリッターキューブ(キューブ型ビームスプリッター)を用いることは、例えば引用文献1に記載のように周知技術である(上記第4、2を参照。)。
また、引用発明のステレオ顕微鏡のような左右の光路を有する光学機器において、左右の光路にそれぞれ配置される一対のビームスプリッターや画像センサ等の要素を左右対称に配置することは、設計上の常套手段である。
上記事項に加え、引用文献2には明示の記載はないものの、図1や図3の記載からは差込入射ビームスプリッタ11a、11b、分離射出ビームスプリッタ12a、12bがビームスプリッターキューブであり、それらが左右対称に配置されていることが伺えることをも踏まえると、上記周知技術及び常套手段に係る構成は、引用発明が実質的に備えているものである。そして、そのような引用発明においては、差込入射ビームスプリッタ11aと差込入射ビームスプリッタ11bは整列線(α整列線)に沿って整列し、分離射出ビームスプリッタ12aも同様に分離射出ビームスプリッタ12b整列線(β整列線)に沿って整列する。また、そのような引用発明においては、差込入射ビームスプリッタ11aより反射され、画像センサ13aへ導かれる画像の方向は、左側主光路2aに対して90°、すなわちα整列線に実質的に平行して方向付けられ、切換可能プリズム14を介し右側光路2bへ投射される、付加情報3が付加された画像の方向は、右側主光路2bに対して90°、すなわちα整列線に実質的に平行である。よって、上記相違点1及び2は実質的な相違点ではない。
また、仮に上記相違点1及び2が実質的な相違点であったとしても、上記周知技術及び常套手段に照らし、引用発明において上記相違点1及び2に係る本願発明の構成を採用することは、当業者が適宜なし得た設計的事項である。

2 相違点3について
(1)引用文献1には、上記引用文献1技術が記載されているところ、引用文献技術1と引用発明は、共にステレオ顕微鏡の技術に属するものである。 引用文献技術1の「左側の光路l」、「右側の光路r」、「ビームスプリッターキューブα」、「ビームスプリッターキューブβ」、「ビームaまたはb」及び「成分a’またはb’」は、本願発明の「第1の光学経路」、「第2の光学経路」、「第1のβビームスプリッタモジュール」、「第2のβビームスプリッタモジュール」、「第1の出力ビームまたは第2の出力ビーム」及び「第2のβ分割ビーム」にそれぞれ対応づけることができる。そして、引用文献1技術において、「ビームaまたはbは、左側の光路l内に取り付けられるビームスプリッターキューブαまたは右側の光路r内に取り付けられるビームスプリッターキューブβの下部の面11にあたってビームスプリッターキューブαまたはβ内へ侵入し、ビームスプリッターキューブαまたはβのそれぞれのスプリッター反射面1により分割され、90゜転向した成分a’またはb’が背面側の面12を通ってビームスプリッターキューブαまたはβから出」ることは、本願発明の「前記β整列線および前記受信した出力ビームの前記光学経路によって画定される平面に実質的に直交するβ光学経路に沿って、前記第2のβ分割ビームを方向付ける」ことに相当する。
(2)引用文献2には、段落【0017】に「主光路毎に少なくとも2つの副観察ポートが設けられているステレオ顕微鏡の場合、つまりとりわけ柔軟に使用可能な手術顕微鏡の場合、これら(副)観察ポートが、主光路に関し同一のラジアル面(Radialebene)に、即ち例えば一方の観察ポートが分離射出ビームスプリッタの横に、他方の観察ポートが分離射出ビームスプリッタの後方に(即ち、互いに90°ずらされて)位置し、及び分離射出ビームスプリッタが、分離射出画像情報を前記副観察ポートの一方又は他方へ選択的に導入するために、回動可能であれば有利である。」(請求項5にも同様の記載がある。)と記載されている。また、段落【0008】には、「……図5(例えば背部手術)に示されるようにアシスタント40が外科医41に対向視かつ顕微鏡の後方に位置する場合、観察ポート(ないし光路)20a、20bはステレオスコピックに使用される……」と記載されている。
(3)引用発明においては、アシスタント用観察ポートが後方のステレオスコピックな観察ポート20a、20bへと切換えられた際に、如何にして画像がアシスタント用観察ポート20a、20bに導かれるかは特定されていない。しかし、上記1の周知技術及び常套手段に係る構成を備える引用発明において、引用文献1技術及び引用文献2の段落【0017】等の記載に照らし、一方の観察ポートを分離射出ビームスプリッタ12a、12bの横に、他方の観察ポートが分離射出ビームスプリッタ12a、12bの後方に設けるとともに、分離射出ビームスプリッタ12a、12bを回動可能とし、アシスタントが外科医に対向視かつ顕微鏡の後方に位置する場合に、分離射出ビームスプリッタ12a、12bを回動して、整列線及び左側主光路2a及び右側主光路2bによって画定される平面に実質的に直交する光路に沿って、分離射出ビームスプリッタ12a及び分離射出ビームスプリッタ12bにより反射される画像を方向付けるよう構成することにより、画像を後方に位置するステレオスコピックな観察ポート20a、20bへと導くこと、すなわち上記相違点3に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

3 本願発明の効果について
本願発明によってもたらされる効果を全体としてみても、引用発明及び周知技術から当業者が当然に予測できる程度のものであって、格別顕著なものとはいえない。

4 請求人の主張について
請求人は審判請求書において、顕微鏡の後方のアシスタントに物体画像を提供するときには分離射出ビームスプリッタ12a、12bが用いられない蓋然性が高いから、引用文献1に記載された技術的手段を引用文献2に記載されたステレオ顕微鏡に適用して、引用文献2に記載の分離射出ビームスプリッタ12a、12bを本願発明のように構成した場合、外科医およびアシスタントに物体情報を提供することができない旨主張する(8頁6ないし12行)。
しかし、上記2のとおりであって、請求人の主張は採用できない。

5 小括
よって、本願発明は、当業者が引用発明及び周知技術に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明(本願の請求項1に係る発明)は特許を受けることができないから、請求項2ないし8に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-06-28 
結審通知日 2018-07-03 
審決日 2018-07-17 
出願番号 特願2015-516039(P2015-516039)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 植野 孝郎  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 中田 誠
関根 洋之
発明の名称 顕微鏡のための直交光ビーム分割  
代理人 青木 篤  
代理人 大橋 康史  
代理人 三橋 真二  
代理人 利根 勇基  
代理人 伊藤 健太郎  

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