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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C11D
審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C11D
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C11D
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C11D
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C11D
管理番号 1346664
審判番号 不服2017-452  
総通号数 229 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-01-12 
確定日 2018-11-26 
事件の表示 特願2015- 7799「有益剤含有デリバリー粒子」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 6月18日出願公開、特開2015-110790〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2007年11月20日〔パリ条約による優先権主張外国庁受理2006年11月22日(US)米国、及び2006年11月30日(US)米国〕を国際出願日とする特願2009-536351号の一部を、平成27年1月19日に新たな特許出願として出願したと称するものであって、
平成27年1月22日付けで翻訳文の提出がなされ、平成27年2月10日付けで上申書の提出とともに手続補正がなされ、
平成27年12月1日付けの拒絶理由通知に対して、平成28年6月3日付けで意見書の提出とともに手続補正がなされ、
平成28年9月9日付けの拒絶査定に対して、平成29年1月29日付けで審判請求がなされ、
平成29年6月20日付けの拒絶理由通知に対して、平成29年12月20日付けで意見書の提出とともに手続補正がなされ、
平成30年2月19日付けの拒絶理由通知(最後)に対して、平成30年5月18日付けで意見書の提出とともに手続補正がなされたものである。

第2 平成30年5月18日付け手続補正についての補正の却下の決定
〔補正の却下の決定の結論〕
平成30年5月18日付け手続補正を却下する。

〔理由〕
1.補正の内容
平成30年5月18日付け手続補正(以下「第4回目の手続補正」という。)は、
補正前の請求項1における「コア材料及び前記コア材料を少なくとも部分的に囲む壁材料を含む1つ以上の有益剤含有デリバリー粒子を含む粒子組成物を含む消費者製品であって、
前記有益剤は香料組成物を含み、
消費者製品の総質量重量に基づいて、0.001%?25%の前記粒子組成物を含み、 前記粒子の総体積分率は100%であり、前記粒子は、
(a)0.25MPa?0.75MPaの体積加重破壊強度を有する、体積分率で5%?50%の1型粒子であって、90重量%の第1香料組成物のコア材料と10重量%のメラミン系ポリ尿素の壁材料からなる1型粒子と、
(b)0.8MPa?1.8MPaの体積加重破壊強度を有する、体積分率で5%?50%の2型粒子であって、80重量%の第2香料組成物のコア材料と20重量%の尿素系ポリ尿素の壁材料からなる2型粒子と、
(c)2MPa?5MPaの体積加重破壊強度を有する、体積分率で5%?90%の3型粒子であって、85重量%の第3香料組成物のコア材料と15重量%のメラミン系ポリ尿素の壁材料からなる3型粒子と、
(d)5MPa?16MPaの体積加重破壊強度を有する、体積分率で5%?50%の4型粒子であって、80?85重量%の第4香料組成物のコア材料と15?20重量%のメラミンホルムアルデヒドの壁材料からなる4型粒子、とを含んでなり、
前記1型、2型、3型および4型の各粒子の体積分率の合計は常に100%になるように各粒子の配合量が調整されてなり、
前記消費者製品は、界面活性剤、カチオン性ポリマーおよびそれらの混合物からなる群から選ばれた成分を含み、
前記消費者製品が、布地ケアに関する製品から選択される、ことを特徴とする、消費者製品。」との記載を、
補正後の請求項1における「コア材料及び前記コア材料を少なくとも部分的に囲む壁材料を含む1つ以上の有益剤含有デリバリー粒子を含む粒子組成物を含む布地ケア製品であって、
前記有益剤は香料組成物を含み、
布地ケア製品の総質量重量に基づいて、0.001%?25%の前記粒子組成物を含み、 前記粒子の総体積分率は100%であり、前記粒子は、
(a)0.25MPa?0.75MPaの体積加重破壊強度を有する、体積分率で5%?25%の1型粒子であって、90重量%の第1香料組成物のコア材料と10重量%のメラミン系ポリ尿素の壁材料からなる1型粒子と、
(b)0.8MPa?1.8MPaの体積加重破壊強度を有する、体積分率で5%?25%の2型粒子であって、80重量%の第2香料組成物のコア材料と20重量%の尿素系ポリ尿素の壁材料からなる2型粒子と、
(c)2MPa?5MPaの体積加重破壊強度を有する、体積分率で5%?25%の3型粒子であって、85重量%の第3香料組成物のコア材料と15重量%のメラミン系ポリ尿素の壁材料からなる3型粒子と、
(d)5MPa?16MPaの体積加重破壊強度を有する、体積分率で5%?25%の4型粒子であって、80?85重量%の第4香料組成物のコア材料と15?20重量%のメラミン系ポリ尿素の壁材料からなる4型粒子、とを含んでなり、
前記布地ケア製品は、界面活性剤、カチオン性ポリマーおよびそれらの混合物からなる群から選ばれた成分を含むことを特徴とする、布地ケア製品。」との記載に改める補正を含むものである。

2.補正の適否
(1)変更補正
上記請求項1についての補正は、補正前の請求項1における「(d)…コア材料と15?20重量%のメラミンホルムアルデヒドの壁材料からなる4型粒子」という発明特定事項を、補正後の請求項1において「(d)…コア材料と15?20重量%のメラミン系ポリ尿素の壁材料からなる4型粒子」に改める補正(以下「変更補正」という。)を含むものである。
そして、補正後の発明特定事項にある「メラミン系ポリ尿素」という事項は、補正前の発明特定事項にある「メラミンホルムアルデヒド」という事項の下位概念にあるものではないので、当該「変更補正」は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮(第三十6条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」を目的とするものに該当するとはいえない。
また、当該「変更補正」が、同1号に掲げる「第三十6条第5項に規定する請求項の削除」、同3号に掲げる「誤記の訂正」、又は同4号に掲げる「明りようでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)」を目的とするものに該当しないことは明らかである。
したがって、当該「変更補正」は、特許法第17条の2第5項に規定する目的要件を満たしていない。

(2)削除補正
上記請求項1についての補正は、補正前の請求項1における「4型粒子、とを含んでなり、」との記載に続く「前記1型、2型、3型および4型の各粒子の体積分率の合計は常に100%になるように各粒子の配合量が調整されてなり、」という発明特定事項を削除する補正(以下「削除補正」という。)を含むものである。
そして、補正前の請求項1の記載から当該「前記1型、2型、3型および4型の各粒子の体積分率の合計は常に100%になるように各粒子の配合量が調整されてなり、」という事項が削除されることにより、補正前の請求項1の範囲に含まれなかった「前記1型、2型、3型および4型の各粒子の体積分率の合計」が100%未満である場合のものが補正後の請求項1の範囲に含まれることになるので、当該「削除補正」が、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮(第三十6条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」を目的とするものに該当するとはいえない。
また、当該「削除補正」が、同1号に掲げる「第三十6条第5項に規定する請求項の削除」、同3号に掲げる「誤記の訂正」、又は同4号に掲げる「明りようでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)」を目的とするものに該当しないことは明らかである。
したがって、当該「削除補正」は、特許法第17条の2第5項に規定する目的要件を満たしていない。

(3)審判請求人の主張について
平成30年5月18日付けの意見書の第2頁第4?5行において、審判請求人は「今回の補正はいずれも、明細書の記載に基づいて、特許請求の範囲の記載に対して限定的減縮補正を行うものであり、適法なものと思料いたします。」と主張している。
しかしながら、上記『2.(1)及び(2)』の項に示したように、上記「変更補正」及び「削除補正」が、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮(第三十6条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」を目的とするものに該当するとはいえないから、審判請求人の上記主張は採用できない。

3.補正の却下の決定のむすび
以上総括するに、上記請求項1についての補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反したものであるから、その余のことを検討するまでもなく、第4回目の手続補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記〔補正の却下の決定の結論〕のとおり、決定する。

第3 本願発明
第4回目の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?9に係る発明は、平成29年12月20日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるとおりのものと認める。

第4 平成30年2月19日付けの拒絶理由通知の概要
平成30年2月19日付け拒絶理由通知(以下「先の拒絶理由通知」という。)には、理由1?4として、次の理由が示されている。
◆理由1(新規事項):平成29年12月20日付けでした手続補正は、下記の点で願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
◆理由2(進歩性):本願の請求項1?9に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
◆理由3(実施可能要件):本願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
◆理由4(サポート要件):本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。

また、先の拒絶理由通知の「記」には、次の旨の指摘がなされている。
◆理由1(新規事項)について『平成29年12月20日付けの手続補正…は、本願請求項1の記載に「(d)5MPa?16MPaの体積加重破壊強度を有する、体積分率で5%?50%の4型粒子であって、80?85重量%の第4香料組成物のコア材料と15?20重量%のメラミンホルムアルデヒドの壁材料からなる4型粒子、とを含んでなり」という事項を導入する補正を含むもので…本願当初明細書のその他の記載や技術事項に照らしても、上記事項が記載ないし示唆されていたものとは認められない。』との指摘。
◆理由2(進歩性)について『刊行物1:特表2010-509447号公報…本願請求項1に係る発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。』との指摘。
◆理由3(実施可能要件)及び理由4(サポート要件)について『(1)…本願請求項1に記載された「(d)5MPa?16MPaの体積加重破壊強度を有する、体積分率で5%?50%の4型粒子であって、80?85重量%の第4香料組成物のコア材料と15?20重量%のメラミンホルムアルデヒドの壁材料からなる4型粒子、とを含んでなり」という発明特定事項について、…実施例1?7の具体例のカプセルは…要件を満たすものとして記載されているものではない。してみると、本願明細書の発明の詳細な説明は、本願請求項1?7及び9に記載された…「物の発明」について、当業者がその物を作れるように記載されているとはいえず、本願請求項8に記載された…「方法の発明」について、当業者がその方法を使用できるように記載されているとはいえず、当該「(d)…からなる4型粒子」を含んでなる「消費者製品」に関する本願請求項1?9に係る発明が、発明の詳細な説明に実質的に記載されているとは認められない。』との指摘。
◆理由3(実施可能要件)について『(2)…これら実施例8?10の具体例においては、本願発明の「1型、2型、3型および4型の各粒子」を具体的にどのような「配合量」で「調整」することで本願発明の「消費者製品」を製造できるのか明らかにされていない。…本願出願時の技術常識を参酌したとしても、本願発明の「1型、2型、3型および4型の各粒子」の「配合量」の「調整」を、過度の試行錯誤を要することなく当業者が実施できるとは認められない。』との指摘。
◆理由4(サポート要件)について『(3)…本願明細書の発明の詳細な説明には、本願請求項1?9に係る発明が「改善された有益剤のデリバリー効率」の提供という課題を解決できると当業者が認識できる程度の具体的な試験結果による裏付けがなく、そのような試験結果による裏付けがなくとも、本願請求項1?9に記載された発明特定事項を満たすことにより、上記「改善された有益剤のデリバリー効率」の提供という課題を解決できると当業者が認識できるような作用機序についての説明もなく、そのような記載や示唆がなくとも、当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できるような技術常識の存在も見当たらない。』との指摘。

第5 当審の判断
1.理由1(新規事項)について
平成29年12月20日付けの手続補正(以下「第3回目の手続補正」という。)は、本願請求項1の記載に「(d)5MPa?16MPaの体積加重破壊強度を有する、体積分率で5%?50%の4型粒子であって、80?85重量%の第4香料組成物のコア材料と15?20重量%のメラミンホルムアルデヒドの壁材料からなる4型粒子、とを含んでなり」という事項を導入する補正を含むものである。
しかしながら、本願当初明細書の段落0016?0018には、有益剤含有デリバリー粒子の「体積加重破壊強度」や「核型の粒子の体積重量」の組成についての記載がなされているものの、上記「4型粒子」が「メラミンホルムアルデヒドの壁材料」からなることについての記載がなく、
同段落0025には、有用な壁材料として「ホルムアルデヒドで架橋されたメラミン」などが例示されるも、当該メラミン類が「4型粒子」に適したものであることについての記載がなく、
同段落0073の「実施例1:80重量%コア/20重量%壁、尿素系ポリ尿素カプセル」は、本願請求項1の(b)の「2型粒子」に対応し、
同段落0075の「実施例2:85重量%コア/15重量%壁、メラミン系ポリ尿素カプセル」は、本願請求項1の(c)の「3型粒子」に対応し、
同段落0079の「実施例3:90重量%コア/10重量%壁、メラミン系ポリ尿素カプセル」は、本願請求項1の(a)の「1型粒子」に対応し、
同段落0083の「実施例4:80重量%コア/20重量%壁、メラミン系ポリ尿素カプセル」は、その壁材料が「メラミンホルムアルデヒドの壁材料」と異なる「メラミン系ポリ尿素カプセル」であることから、本願請求項1の(d)の「4型粒子」に対応せず、
同段落0087の「実施例5:85重量%コア/15重量%壁、メラミン系ポリ尿素カプセル」も、その壁材料が「メラミンホルムアルデヒドの壁材料」と異なる「メラミン系ポリ尿素カプセル」であることから、本願請求項1の(d)の「4型粒子」に対応せず、
同段落0091の「実施例6:80重量%コア/20重量%壁、メラミンホルムアルデヒドカプセル」は、本願請求項1に規定された「(d)5MPa?16MPaの体積加重破壊強度を有する」という事項を満たすものとして記載されていないことから、本願請求項1の(d)の「4型粒子」に対応せず、
同段落0093の「実施例7:80重量%コア/20重量%壁、メラミンホルムアルデヒドカプセル」も、本願請求項1に規定された「(d)5MPa?16MPaの体積加重破壊強度を有する」という事項を満たすものとして記載されていないことから、本願請求項1の(d)の「4型粒子」に対応しない。
また、本願当初明細書のその他の記載や技術事項に照らしても、上記事項が記載ないし示唆されていたものとは認められない。
このため、上記補正が『当業者によって、明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり、補正が、このようにして導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである』とはいえない。
したがって、第3回目の手続補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてするものとはいえないので、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

2.理由2(進歩性)について
(1)分割要件について
本願は、2007年11月20日〔パリ条約による優先権主張外国庁受理2006年11月22日(US)米国、及び2006年11月30日(US)米国〕を国際出願日とする特願2009-536351号(以下「親出願」という。)の一部を、平成27年1月19日に新たな特許出願とした出願である。
そして、本願請求項1に係る発明は、上記『第5 1.理由1(新規事項)について』の項に示したとおり「(d)5MPa?16MPaの体積加重破壊強度を有する、体積分率で5%?50%の4型粒子であって、80?85重量%の第4香料組成物のコア材料と15?20重量%のメラミンホルムアルデヒドの壁材料からなる4型粒子、とを含んでなり」という事項を発明特定事項として含むものである。
これに対して、親出願の出願当初明細書等には、(d)の「4型粒子」として「メラミンホルムアルデヒドの壁材料」からなるものについての記載がないので、本願請求項1に係る発明が、親出願の出願当初明細書等に記載された事項の範囲内であるということはできない。
したがって、本願は、親出願の一部を新たに特許出願とするものではないから、その出願日は平成27年1月19日となり、パリ条約による優先権の主張を伴う親出願についての優先権の主張の効果は認められない。

(2)刊行物1の記載事項
先の拒絶理由において「刊行物1」として引用した本願の出願日前に頒布された刊行物である「特表2010-509447号公報」には、次の記載がある。

摘記1a:請求項1、6及び8に記載された発明
「【請求項1】コア材料及び前記コア材料を少なくとも部分的に囲む壁材料を含む1つ以上の粒子を含む粒子組成物を含む消費者製品であって、前記粒子が1型粒子、2型粒子、3型粒子、4型粒子、及びこれらの混合物からなる群から選択される消費者製品。…
【請求項6】前記コア材料が香料組成物を含み、前記粒子が粒子の総重量に基づいて、20重量%?95重量%、好ましくは50重量%?90重量%、より好ましくは70重量%?85重量%、最も好ましくは80重量%?85重量%の前記香料組成物を含む、請求項1?5のいずれか一項に記載の消費者製品。…
【請求項8】消費者製品の総質量重量に基づいて、0.001重量%?25重量%、好ましくは0.001重量%?10重量%、より好ましくは0.01重量%?3重量%の粒子組成物を含み、前記粒子の前記総体積重量が100%であり、各型の粒子の体積重量が、
a.)1型粒子:0%?100%、好ましくは5%?50%、より好ましくは5%?25%;
b.)2型粒子:0%?100%、好ましくは5%?50%、より好ましくは5%?25%;
c.)3型粒子:0%?100%、好ましくは5%?90%、より好ましくは5%?25%;及び
d.)4型粒子:0%?100%、好ましくは5%?50%、より好ましくは5%?25%;
であり、前記1、2、3、及び4型有益剤含有デリバリー粒子の百分率の合計が常に100%であるという条件を有し、前記消費者製品が、界面活性剤、カチオン性ポリマー、及びこれらの混合物からなる群から選択される材料を任意で含む、請求項1?7のいずれか一項に記載の消費者製品。」

摘記1b:デリバリー粒子の体積加重破壊強度と布地ケア組成物
「【0016】有益剤含有デリバリー粒子
本出願人らは、効果的及び効率的な有益剤デリバリーを達成するという問題が、コア材料と、コア材料を少なくとも部分的に囲む壁材料と、物理的及び化学的特性の特定の組み合わせと、を有する有益剤含有デリバリー粒子が採用されるときに、経済的な方式で解決できることを発見した。かかる物理的及び化学的特性は体積加重破壊強度により定義される。デリバリー有効性及び効率性は、各用途について挙げられた以下の体積加重破壊強度を有する粒子を選択することにより、更に調整することができる:
1.)1型有益剤含有デリバリー粒子(1型粒子)。かかる粒子は、有益剤(例えば香り)が洗浄溶液に/から所望されるときに採用され得る。かかる粒子は、約0.8MPa未満、約0.8MPa?約0.1MPa、又は更には約0.75MPa?約0.25MPaの体積加重破壊強度を有してもよい。
2.)2型有益剤含有デリバリー粒子(2型粒子)。かかる粒子は、有益剤(例えば香り)が濡れた部位から所望されるときに採用され得る。かかる粒子は、約0.5MPa?約2MPa、約0.8MPa?約1.8MPa、又は更には約1MPa?約1.7MPaの体積加重破壊強度を有してもよい。
3.)3型有益剤含有デリバリー粒子(3型粒子)。かかる粒子は、有益剤(例えば香り)がかかる粒子に接触した後で乾燥された乾いた部位から所望されるときに採用され得る。かかる粒子は、約1.5MPa又は更には2MPa?約5MPa、約1.5MPa又は更には2MPa?約5MPa、又は約1.5MPa又は更には2MPa?約4MPa、あるいは約1.5MPa又は更には2MPa?約3MPaの体積加重破壊強度を有してもよい。
4.)4型有益剤含有デリバリー粒子(4型粒子)。かかる粒子は、有益剤(例えば香り)が、ある部位がかかる粒子に接触した後で、着用/使用の間、かかる部位から所望されるときに採用され得る。かかる粒子は、約5MPa?約16MPa、約5MPa?約9MPa、又は更には約6MPa?約8MPaの体積加重破壊強度を有してもよい。…
【0022】1つの態様では、布地ケア組成物の総質量重量に基づいて、約0.005%?約10%、約0.01%?約3%、又は約0.1%?約1%の前述した粒子組成物を含む布地ケア組成物が開示される。」

摘記1c:有用な壁材料
「【0025】有用な壁材料には、ポリエチレン、ポリアミド、ポリスチレン、ポリイソプレン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアクリレート、ポリ尿素、ポリウレタン、ポリオレフィン、多糖、エポキシ樹脂、ビニルポリマー、及びこれらの混合物からなる群から選択される材料が挙げられる。1つの態様では、有用な壁材料は、デリバリー効果を得られるように、コア材料に対して、及び有益剤含有デリバリー粒子が採用される環境中の物質に対して十分に不透過性である材料を包含する。好適な不透過性壁材料には、1つ以上のアミンと1つ以上のアルデヒドとの反応生成物、例えば、ホルムアルデヒド又はグルテルアルデヒド(gluteraldehyde)と架橋した尿素、ホルムアルデヒドと架橋したメラミン、任意にグルテルアルデヒドと架橋したゼラチン-ポリリン酸塩コアセルベート、ゼラチン-アラビアゴムコアセルベート、架橋シリコーン流体、ポリイソシアネートと反応したポリアミン、並びにこれらの混合物からなる群から選択される材料が挙げられる。1つの態様では、壁材料は、ホルムアルデヒドで架橋されたメラミンを含む。」

摘記1d:実施例1?7のマイクロカプセル
「【0073】実施例1:80重量%コア/20重量%壁、尿素系ポリ尿素カプセル…
【0074】体積平均破壊強度破壊(…)は、1.5MPaと求められる。
【0075】実施例2:85重量%コア/15重量%壁、メラミン系ポリ尿素カプセル…
【0078】体積平均破壊強度破壊(…)は、3.3MPaと求められる。
【0079】実施例3:90重量%コア/10重量%壁、メラミン系ポリ尿素カプセル…
【0082】体積平均破壊強度破壊(…)は、0.5MPaと求められる。
【0083】実施例4:80重量%コア/20重量%壁、メラミン系ポリ尿素カプセル…
【0086】体積平均破壊強度破壊(…)は、9.5MPaと求められる。
【0087】実施例5:85重量%コア/15重量%壁、メラミン系ポリ尿素カプセル…
【0090】体積平均破壊強度破壊(…)は、15.1MPaと求められる。
【0091】実施例6:80重量%コア/20重量%壁、メラミンホルムアルデヒドカプセル…
【0093】実施例7:80重量%コア/20重量%壁、メラミンホルムアルデヒドカプセル」

(3)刊1発明
摘記1aの請求項1を引用する請求項6を引用する請求項8の記載、摘記1bの1型粒子?4型粒子の体積加重破壊強度と布地ケア組成物についての記載、並びに摘記1dの実施例1?4の記載からみて、刊行物1には、
『コア材料及び前記コア材料を少なくとも部分的に囲む壁材料を含む1つ以上の粒子を含む粒子組成物を含む消費者製品であって、
前記コア材料が香料組成物を含み、前記粒子が粒子の総重量に基づいて、20重量%?95重量%の前記香料組成物を含み、
消費者製品の態様が布地ケア組成物である場合に、布地ケア組成物の総質量重量に基づいて、約0.005%?約10%の前述した粒子組成物を含み、
前記粒子の前記総体積重量が100%であり、各型の粒子の体積重量が、
(a)1型粒子(体積平均破壊強度破壊が0.5MPaの90重量%コア/10重量%壁、メラミン系ポリ尿素カプセル):5%?50%;
(b.)2型粒子(体積平均破壊強度破壊が1.5MPaの80重量%コア/20重量%壁、尿素系ポリ尿素カプセル):5%?50%;
(c)3型粒子(体積平均破壊強度破壊が3.3MPaの85重量%コア/15重量%壁、メラミン系ポリ尿素カプセル):5%?90%;及び
(d)4型粒子(体積平均破壊強度破壊が9.5MPaの80重量%コア/20重量%壁、メラミン系ポリ尿素カプセル):5%?50%;
であり、前記1、2、3、及び4型有益剤含有デリバリー粒子の百分率の合計が常に100%であるという条件を有し、前記消費者製品が、界面活性剤、カチオン性ポリマー、及びこれらの混合物からなる群から選択される材料を任意で含む、消費者製品。』についての発明(以下「刊1発明」という。)が記載されているといえる。

(4)対比
本願請求項1に係る発明と刊1発明とを対比すると、両者は『コア材料及び前記コア材料を少なくとも部分的に囲む壁材料を含む1つ以上の有益剤含有デリバリー粒子を含む粒子組成物を含む消費者製品であって、
前記有益剤は香料組成物を含み、
消費者製品の総質量重量に基づいて、0.001%?25%の前記粒子組成物を含み、
前記粒子の総体積分率は100%であり、前記粒子は、
(a)0.25MPa?0.75MPaの体積加重破壊強度を有する、体積分率で5%?50%の1型粒子であって、90重量%の第1香料組成物のコア材料と10重量%のメラミン系ポリ尿素の壁材料からなる1型粒子と、
(b)0.8MPa?1.8MPaの体積加重破壊強度を有する、体積分率で5%?50%の2型粒子であって、80重量%の第2香料組成物のコア材料と20重量%の尿素系ポリ尿素の壁材料からなる2型粒子と、
(c)2MPa?5MPaの体積加重破壊強度を有する、体積分率で5%?90%の3型粒子であって、85重量%の第3香料組成物のコア材料と15重量%のメラミン系ポリ尿素の壁材料からなる3型粒子と、
(d)5MPa?16MPaの体積加重破壊強度を有する、体積分率で5%?50%の4型粒子であって、80?85重量%の第4香料組成物のコア材料と15?20重量%の壁材料からなる4型粒子、とを含んでなり、
前記1型、2型、3型および4型の各粒子の体積分率の合計は常に100%になるように各粒子の配合量が調整されてなり、
前記消費者製品は、界面活性剤、カチオン性ポリマーおよびそれらの混合物からなる群から選ばれた成分を含み、
前記消費者製品が、布地ケアに関する製品から選択される、消費者製品。』に関するものである点において一致し、次の〔相違点α〕において相違する。

〔相違点α〕4型粒子の壁材料が、本願請求項1に係る発明においては「メラミンホルムアルデヒド」であるのに対して、刊1発明においては「メラミン系ポリ尿素カプセル」である点。

(5)判断
上記〔相違点α〕について検討する。
刊行物1の段落0091(摘記1d)には、実施例6として「80重量%コア/20重量%壁、メラミンホルムアルデヒドカプセル」が記載され、同段落0025(摘記1c)には「好適な不透過性壁材料には…ホルムアルデヒドと架橋したメラミン…が挙げられる。」と記載されているところ、壁材料の種類を刊行物1において「好適」なものとして記載されている「ホルムアルデヒドと架橋したメラミン」である「メラミンホルムアルデヒド」にしてみることには強い動機付けがあるといえるから、刊1発明の4型粒子に用いられる壁材料の種類を「メラミン系ポリ尿素カプセル」から「メラミンホルムアルデヒドカプセル」に置き換えてみることに、格別の創意工夫を要したとは認められない。
そして、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願請求項1に記載された発明特定事項を満たす実施例についての記載がなく、本願請求項1に記載された(d)のカプセルを用いることの効果を裏付ける試験結果が見当たらないので、本願請求項1に係る発明に格別の効果があるとは認められない。
したがって、本願請求項1に係る発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3.理由3(実施可能要件)及び理由4(サポート要件)について
(1)本願発明の(d)の4型粒子について
本願請求項1に記載された「(d)5MPa?16MPaの体積加重破壊強度を有する、体積分率で5%?50%の4型粒子であって、80?85重量%の第4香料組成物のコア材料と15?20重量%のメラミンホルムアルデヒドの壁材料からなる4型粒子、とを含んでなり」という発明特定事項について、
本願明細書の段落0073?0093に記載された実施例1?7の具体例のカプセルは、本願請求項1に記載された(d)の「メラミンホルムアルデヒドの壁材料」からなる「5MPa?16MPaの体積加重破壊強度」を有する「4型粒子」の要件を満たすものとして記載されているものではない。
してみると、本願明細書の発明の詳細な説明は、本願請求項1及びその従属項に記載された(d)の4型粒子を必須材料として含む「消費者製品」及び「布地」という「物の発明」について、当業者がその物を作れるように記載されているとはいえない。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本願請求項1及びその従属項に係る発明を実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載しているものではないから、特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。
また、本願請求項1?9の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に実質的に記載されているものではないから、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。

(2)本願発明「各粒子の配合量」について
ア.本願請求項1に記載された「前記1型、2型、3型および4型の各粒子の体積分率の合計は常に100%になるように各粒子の配合量が調整されてなり」という発明特定事項について、本願明細書の段落0094?0096には、次の記載がある。
「【0094】実施例8
マイクロカプセルを含有する製品処方の非限定例を次の表に要約する。


^(*)実施例1?7に提供されたマイクロカプセルの好適な組み合わせ。
【0095】実施例9:ドライ洗濯処方におけるマイクロカプセル

^(*)35%活性スラリーとして添加されるマイクロカプセル。コア/壁の割合は、80/20?90/10の範囲であることができ、平均粒子直径は5μm?50μmの範囲であることができる。
【0096】実施例10:液体洗濯処方(HDL)

^(*)本明細書の教示に従う香料マイクロカプセル」

イ.すなわち、本願明細書の発明の詳細な説明には、実施例8として「実施例1?7に提供されたマイクロカプセルの好適な組み合わせ」としての「マイクロカプセル」を含有する「製品処方」の非限定例、実施例9として「コア/壁の割合」が「80/20?90/10の範囲」であることができる「香料マイクロカプセル」を用いた「ドライ洗濯処方」の例、並びに実施例10として「本明細書の教示に従う香料マイクロカプセル」を用いた「液体洗濯処方(HDL)」の例が記載されているものの、本願発明の「1型、2型、3型および4型の各粒子」を具体的にどのような「配合量」で「調整」することで本願発明の「消費者製品」を製造できるのか明らかにされていない。
このため、本願明細書の発明の詳細な説明の記載によっては、本願請求項1及びその従属項に係る発明をどのようにすれば実施できるかを見いだすために「当業者に期待し得る程度を越える試行錯誤、複雑高度な実験等をする必要」があるものと認められる。

ウ.また、例えば、特開2004-2672号公報(参考例A)の段落0002及び0004の「有益試薬の使用環境への調節された放出をデリバリー…する組成物…を提供することは、しばしば望ましいことである。特に織物ケア用途においては…デリバリーの有効性を改善することが求められている。…しかしながら、特に織物洗濯用途に関する多くの制限を受ける。…織物洗濯系のような複雑な系において活性成分の放出を正確に調節するのは、困難である。」との記載、
特開2007-525553号公報(参考例B)の段落0001、0004及び0006の「洗いプロセスの異なるサイクルに異なる組成物を放出するように構成された…洗浄組成物に関する。…香料は、漂白剤系の酸化作用によって迅速に不活性かされる場合があり、…活性剤の送達を…遅延することが極めて望ましい。…しかし、…従来技術…は、活性物質類放出を効果的に制御しない場合が多い。」との記載、並びに
特開昭63-137746号公報(参考例C)の第2頁左上欄第1?15行の「容易に崩壊して有効成分を放出しうるマイクロカプセル…は…香料…などの封入材として広く利用されている。…特に芯物質を放出する時間やタイミング、場所、あるいはその放出量などを所望どおりにコントロールする芯物質の放出条件の制御は、マイクロカプセルを利用する上において極めて重要な機能である。」との記載にあるように、
本願出願時の技術水準において、有益試薬/活性成分(香料)の放出を正確に制御することは困難であるというのが、当業者における一般認識になっていたものと解される。
このため、本願出願時の技術常識を参酌したとしても、本願発明の「1型、2型、3型および4型の各粒子」の「配合量」の「調整」を、過度の試行錯誤を要することなく当業者が実施できるとは認められない。

エ.この点に関して、平成30年5月18日付けの意見書の第3頁第9?12及び40?44行において、審判請求人は「本願発明は、構成成分間において目に見えない予測が不可能な化学反応等が関与しているような構成を必須要件とする発明ではなく、粒子の機械的特性である体積加重破壊強度に着目してなされたものであります。…上記ご引用の参考例A、BおよびCは、いずれも構成成分のイオン強度等の化学的特性、溶解特性、膨潤特性、あるいはpH感受性等の化学的メカニズムを関与させる発明であり、したがって、これら参考例記載の発明は、上述しましたように、粒子の機械的特性たる複数種類の体積加重破壊強度を組み合わせた本願発明の実施可能要件を否定する根拠とはなり得ないものと思料いたします。」と主張している。
しかしながら、本願明細書の段落0016の「効果的及び効率的な有益剤デリバリーを達成するという問題が、コア材料と、コア材料を少なくとも部分的に囲む壁材料と、物理的及び化学的特性の特定の組み合わせと、を有する有益剤含有デリバリー粒子が採用されるときに、経済的な方式で解決できることを発見した。かかる物理的及び化学的特性は体積加重破壊強度により定義される。」との記載にあるように、デリバリー粒子の体積加重破壊強度は、物理的特性のみならず、化学的特性も関与するものであるから、本願発明の「1型、2型、3型および4型の各粒子」の具体的な実施条件が明らかにされていない本願明細書の発明の詳細な説明の記載によっては、本願請求項1及びその従属項に係る発明を過度の試行錯誤を要することなく当業者が実施できるとは認められない。

オ.したがって、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本願請求項1及びその従属項に係る発明を実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載しているものではないから、特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。

(3)本願請求項1?9に係る発明のサポート要件
ア.一般に『特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり,明細書のサポート要件の存在は,特許出願人…が証明責任を負うと解するのが相当である。…当然のことながら,その数式の示す範囲が単なる憶測ではなく,実験結果に裏付けられたものであることを明らかにしなければならないという趣旨を含むものである。』とされている〔平成17年(行ケ)10042号判決参照。〕。

イ.そして、本願明細書の段落0003の「改善された有益剤のデリバリー効率を提供する有益剤含有デリバリー粒子が必要とされている。」との記載を含む発明の詳細な説明の全体の記載からみて、本願請求項1及びその従属項に係る発明の解決しようとする課題は『改善された有益剤(香料組成物)のデリバリー効率を提供する有益剤含有デリバリー粒子を含む粒子組成物を含む消費者製品(布地ケアに関する製品)の提供、並びに当該消費者製品を用いた方法及び布地の提供』にあるものと認められる。

ウ.これに対して、本願明細書の段落0073?0093に記載された実施例1?7は、有益剤含有デリバリー粒子そのものに関するものであり、それら粒子を組み合わせて粒子組成物に関する実施例は、同段落0094?0096に記載された実施例8?10のみであるといえるが、それらの具体例においては、その配合処方に用いられている「マイクロカプセル」の詳細が明らかにされていないので、実施例8?10の具体例で用いられている「マイクロカプセル」が、本願請求項1に記載された所定の「有益材含有デリバリー粒子を含む粒子組成物」の具体例に相当すると直ちに認めることができない。
そして、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願請求項1及びその従属項に係る発明が「改善された有益剤のデリバリー効率」の提供という課題を解決できると当業者が認識できる程度の具体的な試験結果による裏付けがない。
また、上記参考例Aの「織物洗濯系のような複雑な系において活性成分の放出を正確に調節するのは、困難である」との記載、上記参考例Bの「活性物質類放出を効果的に制御しない場合が多い」との記載、及び上記参考例Cの「芯物質を放出する時間やタイミング」や「放出量」などを「所望どおりにコントロール」することが難しいという旨の記載にあるように、理論上は「活性成分の放出を効果的に制御」できるとしていても、実際上は「所望どおりにコントロール」することが困難であるというのが、本願出願時の技術水準における当業者の通常の認識になっていたものと解されるので、本願明細書の発明の詳細な説明に試験結果による裏付けの記載や示唆がなくとも、当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できると認めることはできない。

エ.この点に関して、平成30年5月18日付けの意見書の第4頁第43行?第5頁第1行において、審判請求人は「0.25MPa?0.75MPaの体積破壊強度を有する粒子(1型)は、洗浄段階において破壊されてその内容物である香料を放出し、0.8?1.8MPaの体積破壊強度を有する粒子(2型)は、洗浄段階においては破壊されず、その後濡れた布地を処理している間に破壊されて香料を放出し、2?5MPaの体積破壊強度を有する粒子(3型)は、軽い摩擦または乾燥した布地を処理している間に破壊されて香料を放出し、5?16MPaの体積破壊強度を有する粒子(4型)は、強い摩擦または乾燥した布地の長期の使用の間に破壊されて香料を放出する」という作用機序についての説明をしている。
しかしながら、本願明細書の発明の詳細な説明には、このような作用機序についての説明がなされておらず、本願請求項1に記載された所定の「粒子組成物」について、その1型粒子が「洗浄段階」において破壊されて所定の香料を放出し、その2型粒子が「布地処理段階」において破壊されて所定の香料を放出し、その3型粒子が「乾燥処理段階」において破壊されて所定の香料を放出し、その4型粒子が「布地の長期の使用の間」において破壊されて所定の香料を放出するという作用機序の放出プロファイルの達成を裏付ける試験結果も示されていない。
このため、上記意見書の作用機序についての主張を斟酌しても、試験結果による具体的な裏付けを欠く本願請求項1及びその従属項に係る発明の全てが、当該発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲にあるとは認められない。

オ.以上総括するに、本願明細書の発明の詳細な説明の記載によっては、本願請求項1及びその従属項に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められない。
したがって、本願請求項1及びその従属項の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものではないから、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。

第6 むすび
以上のとおり、第3回目の手続補正が特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないこと、本願請求項1に係る発明が同法第29条第2項の規定により特許をすることができないものであること、並びに本願が同法第36条第4項第1号及び第6号に規定する要件を満たしていないことから、その余のことを検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-06-29 
結審通知日 2018-07-03 
審決日 2018-07-17 
出願番号 特願2015-7799(P2015-7799)
審決分類 P 1 8・ 55- WZ (C11D)
P 1 8・ 536- WZ (C11D)
P 1 8・ 572- WZ (C11D)
P 1 8・ 537- WZ (C11D)
P 1 8・ 121- WZ (C11D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 恵理  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 原 賢一
木村 敏康
発明の名称 有益剤含有デリバリー粒子  
代理人 佐藤 泰和  
代理人 中村 行孝  
代理人 出口 智也  
代理人 永井 浩之  
代理人 朝倉 悟  
代理人 小島 一真  

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