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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1346666
審判番号 不服2017-3474  
総通号数 229 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-03-08 
確定日 2018-11-27 
事件の表示 特願2015-239173「反射防止フィルムおよびこれを備えた有機発光装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 6月20日出願公開,特開2016-110152〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本件拒絶査定不服審判事件に係る出願(以下,「本件出願」という。)は,平成27年12月8日(パリ条約による優先権主張2014年12月8日 韓国,2015年12月3日 韓国)の出願であって,平成28年5月25日に手続補正書が提出され,同年7月12日付けで拒絶理由が通知され,同年10月17日に意見書及び手続補正書が提出されたが,同年12月2日付けで拒絶査定がなされたものである。
本件拒絶査定不服審判は,これを不服として,平成29年3月8日に請求されたものであって,本件審判の請求と同時に手続補正書が提出され,当審において,平成30年1月4日付けで拒絶理由が通知され,同年5月7日に意見書及び手続補正書(以下,当該手続補正書による補正を「本件補正」という。)が提出された。


2 請求項1に係る発明
(1) 本件出願の請求項1ないし10に係る発明は,本件補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項によって特定されるものと認められるところ,請求項1の記載は次のとおりである。

「偏光子と,
前記偏光子の一面に位置し,互いに反対側に位置する第1面と第2面とを有する液晶層を含む補償フィルムと,
を含み,
前記液晶層は,異色性色素を含んでおらず,
前記液晶層は,前記液晶層の表面に対して厚さ方向に向かって斜めに傾いた配向を有する液晶を含み,
前記液晶層の表面に対する前記液晶の傾斜角は,前記第1面から前記第2面まで前記液晶層の厚さ方向に沿って次第に大きくなり,
前記液晶層の表面に対する前記液晶の最大傾斜角は,35度?65度であり,
前記液晶層の450nmおよび550nm波長に対する面内位相差R_(e)は,下記関係式1bを満たす反射防止フィルム。
[関係式1b]
0.75≦R_(e)(450nm)/R_(e)(550nm)≦0.90
前記関係式1aにおいて,
R_(e)(450nm)は,450nm波長の入射光に対する前記液晶層の面内位相差であり,
R_(e)(550nm)は,550nm波長の入射光に対する前記液晶層の面内位相差である。」(請求項1では,面内位相差を表す記号について,「R_(e)」と「Re」が混在して用いられているが,「R_(e)」に統一した。以下,当該請求項1に係る発明を「本件発明」という。)

(2) なお,前記(1)で摘記した請求項1の記載中の「異色性色素」なる文言は,本件発明が属する技術分野において通常用いられる技術用語でないが,平成30年5月7日提出の意見書において請求人が「請求項に係る発明が先願1に記載の引用発明と重なるために29条の2に該当するおそれがある場合に,その重なりのみを除く補正です。」と主張しており,先願1(平成30年1月4日付けで通知された拒絶理由で引用された「特願2014-024505号(国際公開第2015/122387号)」)の出願当初明細書に「二色性色素」を含む液晶層に係る発明が記載されていること等を参酌すると,「二色性色素」を指すものと解するのが相当である。


3 当審において通知された拒絶理由の概要
当審において平成30年1月4日付けで請求項1(本件補正前の請求項1)に係る発明に関して通知された拒絶理由は,概略次の理由(以下,当該理由のうち,実施可能要件違反を「当審拒絶理由1」といい,進歩性欠如を「当審拒絶理由2」という。)を含んでいる。
(1)当審拒絶理由1(実施可能要件違反)
本件明細書の発明の詳細な説明は,当業者が請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから,本件出願は,発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。

(2)当審拒絶理由2(進歩性欠如)
請求項1に係る発明は,引用文献2に記載された発明及び技術常識に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,同法29条2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献2:国際公開第2007/142037号
引用文献3:特開2014-224926号公報(技術常識を示す文献)
引用文献4:特開2014-186351号公報(技術常識を示す文献)
引用文献5:特開2007-2208号公報(技術常識を示す文献)


4 当審拒絶理由1(実施可能要件違反)についての判断
(1)本件発明の発明特定事項
本件発明は,次の発明特定事項を有している。

発明特定事項1:
液晶層が,液晶層の表面に対して厚さ方向に向かって斜めに傾いた配向を有する液晶を含み,液晶層の表面に対する液晶の傾斜角が,第1面から第2面まで液晶層の厚さ方向に沿って次第に大きくなり,液晶層の表面に対する液晶の最大傾斜角が,35度?65度であること。

発明特定事項2:
液晶層の450nmおよび550nm波長に対する面内位相差R_(e)が,[関係式1b]「0.75≦R_(e)(450nm)/R_(e)(550nm)≦0.90」を満たすこと。

(2)本件明細書及び図面の記載
前記発明特定事項1及び2に関して,本件明細書及び図面には,次の記載がある。
ア 「【0026】
図1は,一具現例に係る反射防止フィルムを示す断面図である。
・・・(中略)・・・
【0035】
液晶層150は,表面に対して斜めに傾いた配向を有する複数の液晶150aを含む。ここで,液晶層150の表面に対して斜めに傾くことは,液晶層150の長さ方向(面方向)に対して垂直にまたは平行に配向されないことをいい,各液晶150aは,液晶層150の表面に対して0度より大きく?90度未満の角度で傾いている。
【0036】
液晶層150の表面に対して液晶150aが傾いた角度(以下,「傾斜角(tilt angle)」という)は,液晶層150の厚さ方向に沿って変わり,例えば,液晶150aの傾斜角は,液晶層150の厚さ方向に沿って次第に変わる。
【0037】
液晶層150は上部から下部にいくほど傾斜角が大きくなる構造,即ち,下部傾斜(bottom tilt)構造であり,例えば,液晶層150が配向膜140と接している第1面と空気と接している第2面とを有すると,液晶150aの傾斜角は,第1面から第2面まで次第に大きくなる。
【0038】
例えば,液晶層150の第1面の液晶150aの傾斜角θ_(1)は,配向膜140によるプレチルト角度であり,例えば,約0度より大きく20度以下である。前記範囲内で,例えば約0度より大きく15度以下であり,例えば約0度より大きく10度以下であり,例えば約0度より大きく5度以下であり,約2度?5度である。
【0039】
液晶層150の第2面の液晶150aの傾斜角θ_(2)は,最大傾斜角であり,例えば約15度?80度である。当該最大傾斜角は,前記範囲内で,例えば約30度?75度であり,前記範囲内で,例えば約35度?75度であり,前記範囲内で,例えば約35度?70度であり,前記範囲内で,例えば約35度?65度であり,前記範囲内で,例えば約40度?60度である。」

イ 「【0040】
液晶層150は,例えば550nm未満の短波長領域で逆波長分散位相遅延を有する。当該位相遅延は,基準波長に対する面内位相差R_(e)で表され,面内位相差R_(e)は,R_(e)=(n_(x)-n_(y))dで表される。ここでn_(x)は,液晶層150の面内屈折率が最も大きい方向(以下,「遅相軸(slow axis)」という)における屈折率であり,n_(y)は,液晶層150の面内屈折率が最も小さい方向(以下,「進相軸(fast axis)」という)における屈折率であり,dは,液晶層150の厚さである。
【0041】
短波長領域における位相遅延は,例えば450nmおよび550nm波長に対する面内位相差R_(e)の比率で表され,液晶層150は,例えば下記関係式1を満たす。
[関係式1]
0.7≦R_(e)(450nm)/R_(e)(550nm)<1.0
前記関係式1において,
R_(e)(450nm)は,450nm波長の入射光に対する面内位相差であり,
R_(e)(550nm)は,550nm波長の入射光に対する面内位相差である。
【0042】
一例として,短波長領域における液晶層150の位相遅延は,例えば下記関係式1aを満たす。
[関係式1a]
0.72≦R_(e)(450nm)/R_(e)(550nm)≦0.92
【0043】
一例として,短波長領域における液晶層150の位相遅延は,例えば下記関係式1bを満たす。
[関係式1b]
0.75≦R_(e)(450nm)/R_(e)(550nm)≦0.90
【0044】
一例として,短波長領域における液晶層150の位相遅延は,例えば下記関係式1cを満たす。
[関係式1c]
0.80≦R_(e)(450nm)/R_(e)(550nm)≦0.85」

ウ 「【0047】
このように斜めに傾いた複数の液晶150aを含み,液晶層150の厚さ方向に沿って液晶150aの傾斜角が変わることにより,全ての方向で円偏光効果を同一に具現することができ,これにより,正面だけでなく側面でも外光反射を効果的に防止することができ,側面視認性を向上させることができる。」

エ 「【0048】
液晶150aは,一方向に伸びた棒(rod)状であり,例えばモノマー,オリゴマーまたは重合体である。液晶150aは,例えば陽または陰の複屈折値Δnを有する。
【0049】
液晶150aは,反応性メソゲン(reactive mesogen)液晶であり,例えば一つ以上のメソゲンモイエティ(mesogenic moiety)と一つ以上の重合性作用基を有する。当該反応性メソゲン液晶は,例えば一つ以上の重合性作用基を有する棒状の芳香族誘導体,プロピレングリコール1-メチル,プロピレングリコール2-アセテートおよびP^(1)-A^(1)-(Z^(1)-A^(2))_(n)-P^(2)で表される化合物(ここで,P^(1)とP^(2)は,重合性作用基で,それぞれ独立してアクリレート(acrylate),メタクリレート(methacrylate),アクリロイル(acryloyl),ビニル(vinyl),ビニルオキシ(vinyloxy),エポキシ(epoxy)またはこれらの組み合わせを含み,A^(1)およびA^(2)は,それぞれ独立して1,4-フェニレン(1,4-phenylene),ナフタレン(naphthalene)-2,6-ジイル(diyl)基またはこれらの組み合わせを含み,Z^(1)は,単結合,-COO-,-OCO-またはこれらの組み合わせを含み,nは,0,1または2である)のうち少なくとも一つを含むが,これに限定されない。
【0050】
液晶150aは,熱硬化性液晶または光硬化性液晶であり,例えば,液晶150aは光硬化性液晶である。液晶150aが光硬化性液晶である場合,光は,約250nm?400nm波長の紫外光である。
【0051】
一例として,液晶150aは,歌曲性液晶(cross-linkable liquid crystals)(審決注:「cross-linkable liquid crystals」という英語の名称からみて,「歌曲性液晶」は誤記であり,正しくは「架橋性液晶」と解される。)であり,例えば,下記の化学式1A?1Fのいずれか一つで表される化合物である。
[化学式1A]
【化1】

[化学式1B]
【化2】

[化学式1C]
【化3】

[化学式1D]
【化4】

[化学式1E]
【化5】

[化学式1F]
【化6】

前記化学式1A?1Fにおいて,m’は,4?12の整数であり,pは,2?12の整数である。
【0052】
一例として,液晶150aは,下記の化学式2Aで表される化合物である。
[化学式2A]
【化7】

前記化学式2Aにおいて,nは,2?10の整数である。
【0053】
一例として,液晶150aは,下記の化学式3A?3Eのいずれか一つで表される化合物である。
[化学式3A]
【化8】

[化学式3B]
【化9】

[化学式3C]
【化10】

[化学式3D]
【化11】

[化学式3E]
【化12】

【0054】
一例として,液晶150aは,下記の化学式4Aまたは4Bで表される化合物である。
[化学式4A]
【化13】

[化学式4B]
【化14】

【0055】
液晶層150は,1種または2種以上の液晶150aを含む。
【0056】
液晶層150は,上述した液晶150aを含む組成物から形成され,当該組成物は,液晶150a以外に反応開始剤,界面活性剤,溶解補助剤および/または分散剤のような各種添加剤と溶媒を含む。当該組成物は,例えば,スピンコーティング,スリットコーティングおよび/またはインクジェットのような溶液工程により塗布することができ,液晶層150の屈折率などを考慮して厚さを調節することができる。」

オ 「【0062】
図2は,他の具現例に係る反射防止フィルムを示す断面図である。
・・・(中略)・・・
【0064】
しかし,本具現例に係る反射防止フィルムは,前述した具現例に係る反射防止フィルムと異なり,液晶層150の液晶150aが下部から上部にいくほど傾斜角が大きくなる構造,即ち上部傾斜(top tilt)構造である。すなわち,液晶層150が配向膜140と接している第1面と偏光子110側に位置する第2面とを有すると,液晶150aの傾斜角は,第1面から第2面まで次第に大きくなる。
【0065】
例えば,液晶層150の第1面の液晶150aの傾斜角θ_(1)は,配向膜140によるプレチルト角度であり,例えば約0度より大きく20度以下である。前記範囲内で,例えば約0度より大きく15度以下であり,例えば約0度より大きく10度以下であり,例えば0度より大きく5度以下であり,約2度?5度である。
【0066】
液晶層150の第2面の液晶150aの傾斜角θ_(2)は,最大傾斜角であり,例えば約15度?80度である。当該最大傾斜角は,前記範囲内で,例えば約30度?75度であり,前記範囲内で,例えば約35度?75度であり,前記範囲内で,約35度?70度であり,前記範囲内で,約35度?65度であり,前記範囲内で,例えば約40度?60度である。」

カ 「【0087】
以下,実施例を通して上述した具現例をさらに詳しく説明する。但し,下記の実施例は,単に説明の目的のためのものであり,本発明の範囲を制限するものではない。
【0088】
〔シミュレーション評価〕
[実施例1]
シミュレーション評価(LCD master(Shintech社))のために,偏光板,液晶層を含む補償フィルム(R_(e)=138nm)および反射板が順次に配置された構造を設定する。ここで,補償フィルムの液晶層は,上部から下部にいくほど傾斜角が大きくなる構造(下部傾斜:bottom tilt,図1)であり,最小傾斜角(上部傾斜角)3度,最大傾斜角(下部傾斜角)37度,およびその間で傾斜角が次第に変わる構造に設定する。補償フィルムの液晶層の波長分散性(R_(e)(450nm)/R_(e)(550nm),WD)は,0.82である。軸の角度は,偏光板90度,補償フィルム45度に設定する。
【0089】
[実施例2]
補償フィルム(R_(e)=138nm)の液晶層で液晶の最大傾斜角(下部傾斜角)を45度に設定したことを除いては,実施例1と同様な方法でシミュレーション条件を設定する。
【0090】
[実施例3]
補償フィルム(R_(e)=138nm)の液晶層で液晶の最大傾斜角(下部傾斜角)を65度に設定したことを除いては,実施例1と同様な方法でシミュレーション条件を設定する。
【0091】
[実施例4]
補償フィルム(R_(e)=138nm)の液晶層は,下部から上部にいくほど傾斜角が大きくなる構造(上部傾斜:top tilt,図2)であり,液晶の最大傾斜角(上部傾斜角)を65度に設定したことを除いては,実施例1と同様な方法でシミュレーション条件を設定する。
【0092】
[実施例5]
補償フィルム(R_(e)=138nm)の液晶層で液晶の最大傾斜角(下部傾斜角)を75度に設定したことを除いては,実施例1と同様な方法でシミュレーション条件を設定する。
【0093】
[実施例6]
補償フィルム(R_(e)=138nm)の液晶層で液晶の最大傾斜角(下部傾斜角)を30度に設定したことを除いては,実施例1と同様な方法でシミュレーション条件を設定する。
【0094】
[実施例7]
補償フィルム(R_(e)=138nm)の液晶層は,下部から上部にいくほど傾斜角が大きくなる構造(上部傾斜:top tilt,図2)とし,液晶の最大傾斜角(上部傾斜角)を37度に設定したことを除いては,実施例1と同様な方法でシミュレーション条件を設定する。
【0095】
[実施例8]
補償フィルム(R_(e)=138nm)の液晶層は,下部から上部にいくほど傾斜角が大きくなる構造(上部傾斜:top tilt,図2)とし,液晶の最大傾斜角(上部傾斜角)を45度に設定したことを除いては,実施例1と同様な方法でシミュレーション条件を設定する。
【0096】
[実施例9]
補償フィルム(R_(e)=138nm)の液晶層は,下部から上部にいくほど傾斜角が大きくなる構造(上部傾斜:top tilt,図2)とし,液晶の最大傾斜角(上部傾斜角)を78度に設定したことを除いては,実施例1と同様な方法でシミュレーション条件を設定する。
【0097】
[実施例10]
補償フィルム(R_(e)=138nm)の液晶層は,下部から上部にいくほど傾斜角が大きくなる構造(上部傾斜:top tilt,図2)とし,液晶の最大傾斜角(上部傾斜角)を18度に設定したことを除いては,実施例1と同様な方法でシミュレーション条件を設定する。
【0098】
[実施例11]
補償フィルム(R_(e)=138nm)の液晶層は,下部から上部にいくほど傾斜角が大きくなる構造(上部傾斜:top tilt,図2)とし,液晶の最大傾斜角(上部傾斜角)を45度とし,補償フィルムの液晶層の波長分散性(R_(e)(450nm)/R_(e)(550nm),WD)を0.90に設定したことを除いては,実施例1と同様な方法でシミュレーション条件を設定する。
【0099】
[実施例12]
補償フィルム(R_(e)=140nm)の液晶層は,下部から上部にいくほど傾斜角が大きくなる構造(上部傾斜:top tilt,図2)とし,液晶の最大傾斜角(上部傾斜角)を45度とし,補償フィルムの液晶層の波長分散性(R_(e)(450nm)/R_(e)(550nm),WD)を0.75に設定したことを除いては,実施例1と同様な方法でシミュレーション条件を設定する。
【0100】
[比較例1]
補償フィルム(R_(e)=138nm)の液晶層が傾斜角0度(Aプレート)である複数の液晶を含むように設定したことを除いては,実施例1と同様な方法でシミュレーション条件を設定する。
【0101】
[比較例2]
補償フィルム(R_(e)=138nm)の液晶層が傾斜角0度(Aプレート)である複数の液晶を含み,波長分散性(R_(e)(450nm)/R_(e)(550nm),WD)を0.90に設定したことを除いては,実施例1と同様な方法でシミュレーション条件を設定する。
【0102】
[比較例3]
補償フィルム(R_(e)=140nm)の液晶層が傾斜角0度(Aプレート)である複数の液晶を含み,波長分散性(R_(e)(450nm)/R_(e)(550nm),WD)を0.75に設定したことを除いては,実施例1と同様な方法でシミュレーション条件を設定する。
【0103】
[比較例4]
補償フィルム(R_(e)=138nm)の液晶層で液晶の最大傾斜角(上部傾斜角)を45度とし,波長分散性(R_(e)(450nm)/R_(e)(550nm),WD)を1.1に設定したことを除いては,実施例1と同様な方法でシミュレーション条件を設定する。
【0104】
[比較例5]
補償フィルム(R_(e)=138nm)の液晶層は,下部から上部にいくほど傾斜角が大きくなる構造(上部傾斜:top tilt,図2)とし,液晶の最大傾斜角(上部傾斜角)を45度とし,波長分散性(R_(e)(450nm)/R_(e)(550nm),WD)を1.1に設定したことを除いては,実施例1と同様な方法でシミュレーション条件を設定する。
【0105】
[比較例6]
補償フィルム(R_(e)=138nm)の液晶層で液晶の最大傾斜角(上部傾斜角)を45度とし,波長分散性(R_(e)(450nm)/R_(e)(550nm),WD)を0.65に設定したことを除いては,実施例1と同様な方法でシミュレーション条件を設定する。
【0106】
[比較例7]
補償フィルム(R_(e)=138nm)の液晶層は,下部から上部にいくほど傾斜角が大きくなる構造(上部傾斜:top tilt,図2)とし,液晶の最大傾斜角(上部傾斜角)を13度に設定したことを除いては,実施例1と同様な方法でシミュレーション条件を設定する。
【0107】
[比較例8]
補償フィルム(R_(e)=138nm)の液晶層は,下部から上部にいくほど傾斜角が大きくなる構造(上部傾斜:top tilt,図2)とし,液晶の最大傾斜角(上部傾斜角)を83度に設定したことを除いては,実施例1と同様な方法でシミュレーション条件を設定する。
【0108】
[比較例9]
補償フィルム(R_(e)=138nm)の液晶層で液晶の最大傾斜角(上部傾斜角)を90度に設定したことを除いては,実施例1と同様な方法でシミュレーション条件を設定する。
【0109】
[比較例10]
補償フィルム(R_(e)=138nm)の液晶層は,下部から上部にいくほど傾斜角が大きくなる構造(上部傾斜:top tilt,図2)とし,液晶の最大傾斜角(上部傾斜角)を90度に設定したことを除いては,実施例1と同様な方法でシミュレーション条件を設定する。
【0110】
〔評価〕
[評価1]
実施例1?12と比較例1?10に係る反射防止フィルムの側面における反射率および色ずれ程度を評価する。
【0111】
反射率および色ずれ程度は,LCD master(Shintech社)を使用してシミュレーションする。
【0112】
結果は,表1および図6?図8を参照して説明する。
【0113】
図6は,実施例1?8と比較例1,9および10に係る反射防止フィルムで液晶の最大傾斜角と側面(60度)における色ずれ程度の関係を示すグラフであり,図7は,実施例2に係る反射防止フィルムで全ての方向に対して視野角による反射率を示すグラフであり,図8は,比較例1に係る反射防止フィルムで全ての方向に対して視野角による反射率を示すグラフである。
【0114】
【表1】

【0115】
表1および図6を参照すると,実施例1?12に係る反射防止フィルムは,比較例1?10に係る反射防止フィルムと比較して,側面(60度)で色ずれ程度が非常に低くなることが分かる。
【0116】
また,図7および図8を参照すると,実施例2に係る反射防止フィルムは,比較例1に係る反射防止フィルムと比較して全ての方向(0度?360度)で反射率が低いことが分かる。
【0117】
これより,実施例1?12に係る反射防止フィルムは,側面から視認性を向上させることができることが分かる。」

キ 「【図6】

【図7】

【図8】



(3)本件発明の実施可能性について
ア 前記(2)ア及びオで摘記した記載には,発明特定事項1に対応する事項が記載され,前記(2)ウで摘記した記載からは,発明特定事項1を具備することで,側面での外光反射(斜め方向から入射した外光の反射のことと解される。)を効果的に防止でき,側面視認性(斜め方向から見たときの視認性のことと解される。)が向上するという効果が得られることを理解することができる。
また,前記(2)イで摘記した記載には,発明特定事項2に対応する事項が記載されており,技術常識からは,発明特定事項2を具備することによって,光学特性(反射率等)の波長依存性を小さくできることを理解することができる。
さらに,前記(2)カ及びキで摘記した記載からは,Shintech社製「LCD master」により,偏光板,液晶層を含む補償フィルム及び反射板が順次に配置された構造を,液晶の最大傾斜角や「R_(e)(450nm)/R_(e)(550nm)」等のパラメータを変化させて,シミュレーション評価すると,「側面60度」における「反射率(%)」及び「色ずれ(Δa*b*)」に関して,発明特定事項1及び発明特定事項2を具備する液晶層を用いた円偏光板(実施例1ないし4,7,8,11,12)が,発明特定事項1及び発明特定事項2の少なくとも一方を具備していない液晶層を用いた円偏光板(実施例5,6,9,10,比較例1ないし10)よりも,概ね良好な結果を示すことを把握できる。
しかしながら,これら前記(2)アないしウ及びオないしキで摘記した記載からは,発明特定事項1及び発明特定事項2を具備する液晶層をどのように実施(製造等)するのかを理解することはできない。

イ 前記(2)エで摘記した記載中の【0049】には,液晶層に用いる液晶の例示として,一つ以上の重合性作用基を有する棒状の芳香族誘導体,プロピレングリコール1-メチル,プロピレングリコール2-アセテート及びP^(1)-A^(1)-(Z^(1)-A^(2))_(n)-P^(2)で表される化合物(各記号の定義については省略した。)のうち少なくとも一つを含むという構造を有する「反応性メソゲン液晶」(当該文言は通常用いられる技術用語ではないが,前後の記載からみて,いわゆる重合性液晶のことと解される。)が挙げられている。
しかしながら,【0049】に記載された構造を有するからといって,必ず発明特定事項2のような逆波長分散の液晶となるわけではなく(却って,当該構成を有する液晶の大多数は正分散となるはずである。),かつ,発明特定事項1のような配向をする液晶となるわけでもないことは,技術的に明らかであるから,【0049】に記載された構造を有する「反応性メソゲン液晶」を用いれば,自ずと発明特定事項1及び発明特定事項2を具備する液晶層が実施できるというものではない。
したがって,前記(2)エで摘記した記載中の【0049】からは,発明特定事項1及び発明特定事項2を具備する液晶層をどのように実施するのかを理解することはできない。

ウ(ア) 前記(2)エで摘記した記載中の【0051】ないし【0054】には,液晶層に用いる液晶の具体例として,化学式1Aないし1F,2A,3Aないし3E,4A,4Bで表される化合物(以下,「例示化合物」という。)が挙げられている。そして,各化学式で表された構造をみれば,「R_(e)(450nm)/R_(e)(550nm)」の具体的数値は別として各例示化合物がある程度の逆波長分散性を有していると当業者が推測することまでは可能といえるかもしれない。

(イ) しかしながら,本件明細書等には,各例示化合物を用いて液晶層を形成したときに,各例示化合物の最大傾斜角がそれぞれどのような値となるのかについての開示は,一切ない。また,各例示化合物の第2面における最大傾斜角を制御する手段についても,説明されていない。
そればかりか,そもそも,本件明細書の発明の詳細な説明には,液晶の最大傾斜角について,発明特定事項1の「35度?65度」という数値範囲とともに,「15度?80度」,「30度?75度」,「35度?75度」,「35度?70度」という,発明特定事項1の前記数値範囲とは異なる範囲を含む数値範囲が並列して記載されているのであって(【0039】,【0066】),このような本件明細書の発明の詳細な説明等の記載からは,当業者といえども,各例示化合物の中に,発明特定事項1の液晶の配向の状態を実現できるものが存在するのか,また,存在するとして,各例示化合物のいずれのものが発明特定事項1の液晶の配向の状態を実現できるものであるのかを,認識することができない。
そして,各例示化合物の最大傾斜角の値や,各例示化合物の第2面における最大傾斜角をそれぞれ発明特定事項1の「35度?65度」という数値範囲内に制御する手段が,本件出願の出願時における技術常識であったとも認められない。

(ウ) また,本件明細書の発明の詳細な説明には,各例示化合物が発明特定事項1の液晶の配向の状態となるように液晶層を形成したときに,各液晶層の「R_(e)(450nm)/R_(e)(550nm)」がそれぞれどのような値となるのかについての開示は,一切ない。
そればかりか,本件明細書の発明の詳細な説明には,液晶層の「R_(e)(450nm)/R_(e)(550nm)」について,発明特定事項2の[関係式1b]における0.75以上0.90以下という数値範囲とともに,[関係式1]における0.7以上1.0未満,[関係式1a]における0.72以上0.92以下という,発明特定事項2の[関係式1b]における前記数値範囲とは異なる範囲を含む数値範囲が並列して記載されているのであって(【0041】ないし【0043】),このような本件明細書の発明の詳細な説明等の記載からは,当業者といえども,各例示化合物の中に,発明特定事項2の液晶層の逆波長分散性を実現できるものが存在するのか,また,存在するとして,各例示化合物のいずれが発明特定事項2の液晶層の逆波長分散性を実現できるものであるのかを,認識することができない。
そして,各例示化合物が発明特定事項1の液晶の配向の状態となるように液晶層を形成したときの,各液晶層の「R_(e)(450nm)/R_(e)(550nm)」の値が,本件出願の出願時における技術常識であったとも認められない。

エ さらに,本件明細書等のその他の箇所にも,発明特定事項1及び発明特定事項2を具備する液晶層を実施する手段は記載されておらず,そのような手段が本件出願の出願時における技術常識であったとも認められない。

オ 以上のような本件明細書等の記載と本件出願の出願時における技術常識とに基づいて,発明特定事項1及び発明特定事項2を具備する液晶層を当業者が実施する場合,各例示化合物に対して,第2面における最大傾斜角を制御することのできる適宜の手段(技術常識となっているもの)を講じて,それぞれ液晶層を形成し,当該各液晶層中の各例示化合物の第2面における最大傾斜角と液晶層の「R_(e)(450nm)」及び「R_(e)(550nm)」とを測定するという作業を繰り返し行うことによって,第2面における各例示化合物の最大傾斜角を「35度?65度」という数値範囲内に調整でき,かつ,液晶層の「R_(e)(450nm)/R_(e)(550nm)」が[関係式1b]を満足する,各例示化合物と適宜の手段の組合せを見いだすことが必要になる。このような作業は,当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤,複雑高度な実験等というほかない。
したがって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者が本件発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。

カ 請求人は,平成30年5月7日提出の意見書において,
「様々な方法で液晶層の液晶の最大傾斜角を調節することが可能であり,これは当業者の技術常識で十分実現することができるものと思料いたします。・・・(中略)・・・例えば,液晶層の第2面(最大傾斜角の側の面)の傾斜角は,一例として界面活性剤を用いて表面の特性を制御して実現することができ,これは当業者の技術常識で十分に実現できるものです。例えば,配向膜の上に液晶と界面活性剤が含まれた液晶溶液を塗布して放置すると,表面エネルギーが高い界面活性剤が表面に位置し,液晶層の表面特性を制御し,これによって液晶層の表面に近い液晶の立つ角度を制御することができます。これによって,第1面の液晶と第2面の液晶の間に位置した液晶は第1面の液晶から第2面の液晶まで次第に配列され得,そのような液晶の配列を硬化することによって,下記のようにハイブリッド液晶の配列を実現することができます。従って,当業者であれば発明特定事項1に係る液晶の傾斜角を十分実現することができるものと思料いたします。」
などと主張する。
仮に,界面活性剤を用いることにより,液晶の最大傾斜角を調整できることが,本件出願の出願時における技術常識であったのだとしても,各例示化合物について,その最大傾斜角をそれぞれ発明特定事項1の「35度?65度」という数値範囲内に調整できる具体的な界面活性剤が,本件出願の出願時における技術常識であったわけではない。また,各例示化合物を用い,発明特定事項1を具備するよう構成した液晶層の「R_(e)(450nm)/R_(e)(550nm)」の値が,本件出願の出願時における技術常識であったとも認められない。
したがって,仮に,界面活性剤を用いることにより,第2面における液晶の最大傾斜角を調整できることが,本件出願の出願時に当業者における技術常識であったとしても,発明特定事項1及び発明特定事項2を具備する液晶層を実施できる例示化合物と界面活性剤との組合せを見いだすために,当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤,複雑高度な実験等をする必要があることに変わりはない。
よって,前記請求人の主張は採用できない。

(4)小括
以上のとおりであるから,本件明細書の発明の詳細な説明は,特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。


5 当審拒絶理由2(進歩性欠如)についての判断
(1) 引用例
ア 引用文献2の記載
当審拒絶理由2で引用された引用文献2(国際公開第2007/142037号)は,本件出願の優先権主張の日(以下,「本件優先日」という。)より前に,電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであるところ,当該引用文献2には次の記載がある。(下線部は,後述する引用発明の認定に特に関係する箇所を示す。)
(ア) 「[技術分野]
本発明は,ツイストネマチック配向構造またはハイブリッドネマチック配向構造を固定化した液晶層を有する光学異方素子からなる楕円偏光板およびその製造方法に関する。さらに本発明は,前記楕円偏光板を用いた液晶表示装置及びエレクトロルミネッセンス表示装置に関する。

[背景技術]
・・・(中略)・・・
液晶表示装置は,薄型軽量,低消費電力という利点を有するが,例えば・・・(中略)・・・TN型液晶表示装置においては特に透過モードにおいて,液晶分子の持つ屈折率異方性のために斜めから見た時に表示コントラストが低下する,表示色が変化する,あるいは階調が反転するなどの視野角の問題が避けられずその改善が望まれているなど,表示性能の優れた液晶表示装置は未だ十分に実現されていないのが現状である。
・・・(中略)・・・
また,TN型液晶表示装置の視野角特性を解決させる方法として,従来,TNモード(液晶のねじれ角90度)を用いた透過型液晶表示装置では,光学補償フイルムを液晶セルと上下偏光板の間に配置する提案がなされ,実用化されている。例えば,ディスコチック液晶をハイブリッド配向させた光学補償フィルムを液晶セルと上下偏光板の間に配置した構成,また液晶性高分子をハイブリッドネマチック配向させた光学補償フィルムを液晶セルと上下偏光板の間に配置した構成などが挙げられる(特許文献5?7)。
また半透過反射型液晶表示装置においては,透過モードにおいて,表示原理的に1枚または複数枚の1軸性位相差フィルムと偏光板からなる円偏光板を,液晶セルの上下に配置させる必要がある。
この半透過反射型液晶表示装置の透過モードの視野角拡大には液晶セルとバックライトの間に配置された円偏光板にネマチックハイブリッド配向させた光学補償フィルムを用いる方法が提案されている(特許文献8)。
光学特性の高機能化の一方で,sTN型液晶表示装置と同様,近年大幅に普及している携帯電話や携帯型情報端末機器に代表されるように,薄型化・軽量化の要望も非常に高まっている。それに伴い,表示装置に用いられる光学フィルムについても,薄型化・軽量化が切望されている。・・・(中略)・・・
前記光学素子を積層する場合,支持基板フィルムのない場合は取り扱い性,耐久性等に不安がある。一方,偏光素子を有する1つの支持基板フィルム上に直接,光学素子を積層できれば,粘・接着剤層を省略することにより一層の薄型化が図れる他,耐久性等においても非常に優れたフィルムが達成できるが,該光学素子を積層するため工業的な製造方法については未確立であった。」(明細書1ページ4行ないし3ページ下から3行)

(イ) 「[発明の開示]
本発明の目的は,楕円偏光板の層構造を簡略化することによって,厚みが抑えられ,高温,高湿条件下においても剥がれなどの不具合が生じることがなく,さらには光学異方素子の配向軸角度を偏光板の吸収軸に対して任意に設定して,長尺フィルム形態から連続的に貼り合わせ可能な楕円偏光板と,その製造方法並びにそれを使用した液晶表示装置およびエレクトロルミネッセンス表示装置を提供することにある。

すなわち本発明は,透光性保護フィルム,偏光素子および光学異方素子とが,この順に積層されている楕円偏光板であって,該光学異方素子が少なくとも正の一軸性を示す液晶性組成物を液晶状態においてツイストネマチック配向またはハイブリッドネマチック配向させた後,該配向を固定化した液晶層を含むことを特徴とする楕円偏光板,に関する。」(明細書4ページ8ないし19行)

(ウ) 「[発明の効果]
本発明の楕円偏光板は,光学異方素子と偏光素子との貼り合わせ工程において,光学異方素子層に損傷が起こり難く,光学異方素子の接着性に優れる。さらに楕円偏光板を構成するラミネ一ト層の数が少ないために,耐久性試験において界面で剥がれや泡の発生がない。偏光素子との貼り合わせ工程においても,長尺フィルム形態で貼合することができるために,従来法より貼合工程が合理化できる利点がある。」(明細書5ページ16ないし下から5行)

(エ) 「[発明を実施するための最良の形態]
以下,本発明を詳述する。
本発明では,光学異方素子を偏光素子に直接あるいは接着剤を介して接着することにより楕円偏光板を製造する。そうすることによって,従来のような偏光素子の両側がトリァセチルセルロースフィルム等の光学用フィルムで保護された偏光板に光学異方素子を貼合した楕円偏光板よりも層数を減らすことができる。その結果として,楕円偏光板の総厚を薄く出来るとともに,熱あるいは湿度による各層の伸縮挙動の違いに起因する収縮ひずみの影響が小さくなり,貼り合わせた界面での剥がれ等の不具合をなくすことが可能である。
本発明で得られる楕円偏光板の層構成は,以下のような(I)または(II)のいずれかの構成からなり,必要に応じて透光性オーバーコート層等の部材が更に追加されるが,これらに本発明において正の一軸性を示す液晶性組成物を液晶状態においてツイストネマチック配向またはハイブリッドネマチック配向させ,該配向を固定化した液晶層からなる光学異方素子を使用する点を除いては特に制限は無い。厚みの薄い楕円偏光板を得ると言う点では,(I)または(II)のいずれの構成を用いても構わない。
(I)透光性保護フィルム/接着剤層1/偏光素子/接着剤層2/光学異方素子
(II)透光性保護フィルム/接着剤層1/偏光素子/光学異方素子」(明細書5ページ下から4行ないし6ページ14行)

(オ) 「まず本発明に用いられる液晶性組成物について説明する。
本発明の楕円偏光板に使用される光学異方素子は,少なくとも光学的に正の一軸性を示す液晶性組成物を液晶状態においてツイストネマチック配向またはハイブリッドネマチック配向させた後,該配向を固定化した液晶層を含むものである。具体的には,配向基板上で配向させた液晶性高分子を主とする液晶性組成物をガラス転移温度(Tg)以下に冷却し,配向を固定化することによって得ることができる。そのような液晶性組成物は,光学的に正の一軸性を示す液晶性高分子を主体とした液晶性高分子組成物からなり,液晶性高分子としては,溶融時に液晶性を示すサーモトロピック液晶ポリマーが用いられる。使用されるサーモトロピック液晶ポリマーは,溶融状態(液晶状態)からTg以下に冷却しても液晶相の分子配列状態が保持されることが必要である。
液晶性高分子の溶融時の液晶相は,スメクチック,ネマチック,ツイストネマチック,コレステリックなどのいずれの分子配列構造であってもよく,さらに配向基板付近及び空気界面付近ではそれぞれホモジニアス配向及びホメオトロピック配向状態であり,液晶性高分子の平均のダイレクターがフィルムの法線方向から傾斜しているいわゆるハイブリッド配向であってもよい。
・・・(中略)・・・
液晶性組成物のTgは,配向固定化後の配向安定性に影響を及ぼすため,室温以上であることが好ましく,さらに50℃以上であることが好ましい。Tgは,液晶性組成物に用いられる液晶性高分子や低分子液晶,カイラル剤や必要により各種の化合物等により調整できるが,前記のような架橋手段によってよい。
前記の必要により添加される各種の化合物としては,本発明に使用される液晶性組成物の配向を阻害せず,本発明の目的を逸脱しない化合物であればよく,液晶性組成物の層の形成を均一にならしめるためのレベリング剤,界面活性剤,安定剤を挙げることができる。」(明細書6ページ16行ないし8ページ末行)

(カ) 「次に配向基板について説明する。
配向基板としては,・・・(中略)・・・高分子フィルムを使用することができる。また,高分子フィルムの表面に液晶性組成物の配向を制御するために,ポリビニルアルコールやポリイミド誘導体等の樹脂からなる有機薄膜を形成してもよい。前記高分子フィルムは,ラビング処理などの配向処理が施されて配向基板に供せられる。
上記のように,配向基板上に液晶性組成物を配向させるには通常ラビング処理が施される。ラビング処理は,長尺の配向基板のMD方向に対して所定の任意の角度で行うことができる。MD方向に対するラビング方向の角度は,光学異方素子の機能に応じて適宜設定されるが,色補償板としての機能が要求される場合は,通常,MD方向に対して斜め方向にラビングされるのが好ましい。斜め方向の角度としては,一45度?+45度の範囲が好ましい。」(明細書9ページ1ないし18行)

(キ) 「液晶性組成物を配向基板のラビング処理面に展開し液晶性組成物の層を形成する方法としては,例えば,液晶性組成物を適宜の溶剤に溶解させ塗布・乾燥させる方法,あるいは,Tダイなどにより直接液晶性組成物を溶融押し出しする方法などが挙げられる。膜厚の均一性などの点からは,溶液塗布して乾燥する方法が適当である。・・・(中略)・・・
塗布後,適宜な乾燥方法により溶剤を除去した後,所定温度で所定時間加熱して液晶性組成物をツイストネマチック配向またはハイブリッドネマチック配向させた後,Tg以下に冷却するか,あるいは用いた液晶性組成物に適した方法,例えば,光照射およびZまたは加熱処理で反応(硬化)を行い,該配向を固定化することにより配向構造が固定化された液晶性組成物層を形成することができる。」(明細書9ページ25行ないし10ページ6行)

(ク) 「本発明の楕円偏光板に使用される光学異方素子は,ツイストネマチック配向またはハイブリッドネマチック配向の液晶配向構造が固定化された液晶層を含む。
・・・(中略)・・・
ハイブリッドネマチック配向液晶層は,液晶性組成物が液晶状態において形成した平均チルト角が5°?45°のハイブリッドネマチック配向構造を固定化したハイブリッドネマチック配向液晶層を少なくとも含む層である。
ここで,本発明で言うハイブリッドネマチック配向とは,液晶分子がハイブリッドネマチック配向しており,このときの液晶分子のダイレクターと液晶層平面のなす角が該層上面と下面とで異なった配向形態を言う。したがって,上面界面近傍と下面界面近傍とで該ダイレクターと該層平面との成す角度が異なつていることから,該層の上面と下面との間では該角度が連続的に変化しているものといえる。
またハイブリッドネマチック配向状態を固定化したハイブリッドネマチック配向液晶層は,液晶分子のダイレクターが当該層の膜厚方向すベての場所において異なる角度を向いている。したがって当該層は,層という構造体として見た場合,もはや光軸は存在しない。
また本発明でいう平均チルト角とは,ハイブリッドネマチック配向液晶層の膜厚方向における液晶分子のダイレクターとハイブリッドネマチック配向液晶層平面との成す角度の平均値を意味するものである。本発明に供されるハイブリッドネマチック配向液晶層は,該層の一方の界面付近ではダイレクターと層平面との成す角度が,絶対値として通常25?90度,好ましくは35?85度,さらに好ましくは45?80度の角度をなしており,当該面の反対においては,絶対値として通常0?20度,好ましくは0?10度の角度を成しており,その平均チルト角は,絶対値として通常5?45度,好ましくは15?43度,さらに好ましくは25?40度である。平均チルト角が上記範囲から外れた場合,斜め方向から見た場合のコントラストの低下等の恐れがあり望ましくない。なお平均チルト角は,クリスタルローテーション法を応用して求めることができる。」(明細書10ページ23行ないし12ページ24行)

(ケ) 「本発明の液晶表示装置におけるハイブリッドネマチック配向液晶層の具体的な配置条件について説明するが,より具体的な配置条件を説明するにあたり,図1?3を用いてハイブリッドネマチック配向液晶層の上下,該液晶層のチルト方向および液晶セル層のプレチルト方向をそれぞれ以下に定義する。
まずハイブリッドネマチック配向液晶層からなる光学異方素子の上下を,該光学異方素子を構成するハイブリッドネマチック界面近傍における液晶分子ダイレクタ一と当該液晶層平面との成す角度によってそれぞれ定義すると,液晶分子のダイレクターと前記液晶層平面との成す角度が鋭角側で25?90度の角度を成している面をb面とし,該角度が鋭角側で0?20度の角度を成している面をc面とする。
この光学異方素子のb面から液晶層を通してc面を見た場合,液晶分子ダイレクタ一とダイレクターのc面への投影成分が成す角度が鋭角となる方向で,かつ投影成分と平行な方向をハイブリッドネマチック配向液晶層のチルト方向と定義する(図1及び図2)。」(明細書13ページ14ないし下から4行)

(コ) 「本発明に使用できる偏光素子は,特に制限されず,各種のものを使用できる。・・・(中略)・・・これらのなかでもポリビニルアルコール系フィルムを延伸して二色性材料(沃素,染料)を吸着・配向したものが好適に用いられる。偏光素子の厚さも特に制限されないが,5?50μm程度が一般的である。
・・・(中略)・・・
偏光素子の一方の面に設けられる透光性保護フィルムとしては,光学的に等方なフィルムが好ましく,・・・(中略)・・・楕円偏光板とした場合の平面性,耐熱性や耐湿性などからトリアセチルセルロース,シクロオレフイン系ポリマーが好ましい。透光性保護フィルムの厚さは,一般には1?100μmが好ましく,特に5?50μmとするのが好ましい。」(明細書15ページ下から5行ないし16ページ24行)

(サ) 「次に,本発明の楕円偏光板を適用する有機エレクトロルミネセンス表示装置(有機EL表示装置)について説明する。
一般に,有機EL表示装置は,透明基板上に透明電極と有機発光層と金属電極とを順に積層して発光体(有機エレクトロルミネセンス発光体)を形成している。・・・(中略)・・・
このような構成の有機EL表示装置において,有機発光層は,厚さ10nm程度ときわめて薄い膜で形成されている。このため,有機発光層も透明電極と同様,光をほぼ完全に透過する。その結果,非発光時に透明基板の表面から入射し,透明電極と有機発光層とを透過して金属電極で反射した光が,再び透明基板の表面側へと出るため,外部から視認したとき,有機EL表示装置の表示面が鏡面のように見える。
電圧の印加によって発光する有機発光層の表面側に透明電極を備えるとともに,有機発光層の裏面側に金属電極を備えてなる有機エレクトロルミネセンス発光体を含む有機EL表示装置において,透明電極の表面側に偏光板を設けるとともに,これら透明電極と偏光板との間に位相差板を設けることができる。
位相差板および偏光板は,外部から入射して金属電極で反射してきた光を偏光する作用を有するため,その偏光作用によって金属電極の鏡面を外部から視認させないという効果がある。特に,位相差板を1/4波長板で構成し,かつ偏光板と位相差板との偏光方向のなす角をπ/4に調整すれば,金属電極の鏡面を完全に遮蔽することができる。
すなわち,この有機EL表示装置に入射する外部光は,偏光板により直線偏光成分のみが透過する。この直線偏光は位相差板により一般に楕円偏光となるが,とくに位相差板が1/4波長板でしかも偏光板と位相差板との偏光方向のなす角がπ/4のときには円偏光となる。
この円偏光は,透明基板,透明電極,有機薄膜を透過し,金属電極で反射して,再び有機薄膜,透明電極,透明基板を透過して,位相差板に再び直線偏光となる。そして,この直線偏光は,偏光板の偏光方向と直交しているので,偏光板を透過できない。その結果,金属電極の鏡面を完全に遮蔽することができる。
本発明の楕円偏光板を有機EL表示装置に適用する場合は,前記記載の通り,外部光の反射を防止するため,観察者から見て,有機EL表示装置の観察者側(前方側)配置した方が良い。」(明細書24ページ18行ないし26ページ4行)

(シ) 「<実施例1>
(積層体Aの作製)
TACフィルム(40μm,富士写真フィルム社製)を室温で,2質量%の水酸化カリウム水溶液中に5分間浸漬して鹸化処理を行い,流水中で洗浄した後乾燥させた。延伸したポリビニルアルコールに沃素を吸着させた偏光素子の一方の面に,接着剤層1としてアクリル系接着剤を用いて,験化したTACフィルムを貼り合わせ,積層体Aを作製した。総膜厚は約65μmであり,通常のもの(105μm)よりも薄くすることが出来た。
・・・(中略)・・・
<実施例7>
(液晶性高分子溶液C,積層体Pの作製)
6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸100mmo1,テレフタル酸100mmo1,クロロヒドロキノン50mmo1,tert-ブチルカテコール50mmo1,および無水酢酸600mmo1を用いて窒素雰囲気下で,140℃で2時間アセチル化反応を行った。引き続き270℃で2時間,280℃で2時間,300℃で2時間重合を行った。次に得られた反応生成物をテトラクロロエタンに溶解したのち,メタノールで再沈殿を行って精製し,液晶性ポリエステル(ポリマー1)40.0gを得た。この液晶性ポリエステルの対数粘度は0.35(dl/g),液晶相としてネマチック相をもち,等方相-液晶相転移温度は300℃以上,ガラス転移点は135℃であった。
ポリマー1の8質量%のγ-ブチロラクトン溶液(液晶性高分子溶液C)を調製した。
650mm幅,厚み100μmの長尺のPEEKフィルムを搬送しながら,レーヨン布を巻き付けた150mmφのラビングロールを斜めに設定し,高速で回転させることにより連続的にラビングを行い,ラビング角度45°の配向基板フイルムを得た。ここで,ラビング角度はラビング面を上からみたときにMD方向から反時計回り方向の角度とする。液晶性高分子溶液Cを,前記配向基板フィルム上に,ダイコーターを用いて連続的に塗布・乾燥した後,150℃×10分間加熱処理をして液晶性高分子を配向させ,次いで室温に冷却して配向を固定化して,液晶性高分子層とPEEKフィルムとからなる積層体Pを得た。得られた積層体Pの厚みは0.6μmであった。
配向基板として用いたPEEKフィルムは大きな複屈折を有するため,積層体Pの形態では液晶性高分子層の光学パラメータの測定が困難なため,トリアセチルセルロース(TAC)フィルム上に次のようにして液晶性高分子層を転写した。
すなわち,PEEKフィルム上の液晶性高分子層上に,光学用の紫外線硬化型接着剤を5μm厚となるように塗布し,TACフィルム(40μm厚,富士写真フィルム社製)でラミネートして,TACフィルム側から紫外線を照射して接着剤を硬化させた後,PEEKフィルムを剥離し,液晶性高分子層/接着剤層/TACフィルムからなる積層体を得た。得られた積層体について王子計測機器(株)製自動複屈折計KOBRA21ADHによりパラメータ測定した結果,この液晶性高分子層は,ハイブリッドネマチック配向構造を形成しており,当該層のΔndは90nm,平均チルト角は28度であった。
(楕円偏光板Qの作製)
積層体Pの液晶性高分子層(光学異方素子)上に市販のUV硬化型接着剤(UV-3400,東亞合成(株)製)を5μmの厚さに接着剤層2として塗布し,この上に実施例1で作製した積層体Aの偏光素子側をラミネ一トし,約600mJのUV照射により該接着剤層2を硬化させた。この後,PEEKフィルム/光学異方/接着剤層2/偏光素子/接着剤層1/TACフィルムが一体となった積層体からPEEKフィルムを剥離することにより光学異方素子を積層体A上に転写し,TACフィルム/接着剤層1/偏光素子/接着剤層2/光学異方素子からなる楕円偏光板Qを得た。該楕円偏光板Qの総厚みは,75μmであった。
この楕円偏光板Qを光学検査したところ,シミや傷などの損傷は見られなかった。この楕円偏光板Qの光学異方素子側をアクリル系粘着剤を介してガラス板に貼り付け,60℃90%RHの恒温恒湿槽に入れ,500時間経過後に取り出して観察したところ,剥がれや泡の発生などの異常は一切認められなかった。」(明細書27ページ4行ないし34ページ末行)

(ス) 「[図面の簡単な説明]
図1は,液晶分子のチルト角及びツイスト角を説明するための概念図である。
図2は,光学異方素子を構成する液晶性フィルムの配向構造の概念図である。」(明細書38ページ4ないし6行)

(セ) 「

」(図面1/4ページ)

イ 引用文献2に記載された発明
前記ア(サ)で摘記した記載中の「位相差板」が,前記ア(エ)で摘記した記載中の「光学異方素子」を指していることが,技術的にみて明らかである。また,前記ア(サ)で摘記した記載中の「位相差板を1/4波長板で構成し,かつ偏光板と位相差板との偏光方向のなす角をπ/4に調整」した「楕円偏光板」とは,「円偏光板」にほかならない。さらに,前記ア(セ)に示した図2から,液晶分子のダイレクターと液晶層平面のなす角が,b面とc面との間のどの厚さの位置でも,0ないし90度の範囲にあること,すなわち,液晶分子のダイレクターと液晶層平面のなす角が同じ符号を有していることが看取される。
したがって,前記ア(ア)ないし(セ)で摘記した記載から,引用文献2に次の発明が記載されていると認められる。

「透光性保護フィルム/接着剤層1/偏光素子/接着剤層2/光学異方素子なる層構成を有し,
前記透光性保護フィルムは,トリアセチルセルロース又はシクロオレフイン系ポリマーにより形成され,
前記偏光素子は,ポリビニルアルコール系フィルムを延伸して二色性材料を吸着・配向したものであり,
前記光学異方性素子は,液晶層を含み,当該液晶層は,光学的に正の一軸性を示す液晶性組成物を配向基板のラビング処理面に塗布して乾燥し,ハイブリッドネマチック配向させた後,該配向を固定化することにより形成されたものであり,前記ハイブリッドネマチック配向とは,液晶分子のダイレクターと液晶層平面のなす角が,前記液晶層の上面と下面とで異なり,前記液晶層の上面と下面との間では連続的に変化している配向状態のことであり,
前記液晶層の一方の面付近では,前記液晶分子のダイレクターと前記液晶層平面とのなす角度が45?80度であり,当該面の反対においては0?10度であり,
前記光学異方素子を1/4波長板として構成し,前記偏光素子と前記1/4波長板との偏光方向のなす角をπ/4とした,
有機エレクトロルミネセンス表示装置において,外部光の反射を防止するために用いられる円偏光板。」(以下,当該発明を「引用発明」という。)

(2)対比
ア 引用発明の「偏光素子」,「液晶層」,「光学異方素子」,「液晶分子」及び「液晶分子のダイレクターと液晶層平面のなす角」は,その作用,機能等からみて,本件発明の「偏光子」,「液晶層」,「補償フィルム」,「液晶」及び「『液晶層の表面に対する』『液晶の傾斜角』」にそれぞれ対応する。

イ 引用発明は,その層構成中に,「偏光素子」(本件発明の「偏光子」に対応する。以下,「(2)対比」欄において,引用発明の構成を囲む「」に続く()中の文言は,当該引用発明の構成に対応する本件発明の発明特定事項を指す。)と,「光学異方素子」(補償フィルム)とを含んでいる。
また,引用発明の「光学異方素子」は,「液晶層」(液晶層)を含んでおり,当該「液晶層」の上面及び下面は「互いに反対側に位置する第1面と第2面」といえる。
したがって,引用発明は,本件発明の「偏光子と,前記偏光子の一面に位置し,互いに反対側に位置する第1面と第2面とを有する液晶層を含む補償フィルムと,を含」むという発明特定事項に相当する構成を具備している。

ウ 引用発明において,「液晶層」(液晶層)中の「液晶分子」(液晶)は,ハイブリッドネマチック配向をしている(すなわち,「ダイレクターと液晶層平面のなす角」(液晶層の表面に対する液晶の傾斜角)が「液晶層の上面と下面」(第1面と第2面)とで異なり,液晶層の上面と下面との間では連続的に変化している)から,「液晶層」の表面に対して厚さ方向に向かって斜めに傾いた光軸を有している。
また,引用発明の「液晶層」の一方の面すなわち「上面及び下面のうちの一方の面」付近では,「液晶分子のダイレクターと液晶層平面とのなす角度」(液晶層の表面に対する液晶の傾斜角)が45?80度であり,当該面の反対すなわち「他方の面」においては0?10度であり,両者の間で連続的に変化しているから,前記「上面及び下面のうちの一方の面」を「第1面」と,前記「他方の面」を「第2面」とすると,「液晶分子のダイレクターと液晶層平面とのなす角度」(液晶層の表面に対する液晶の傾斜角)が,「第1面」から「第2面」まで「液晶層」(液晶層)の厚さ方向に沿って次第に大きくなっているといえる。
したがって,引用発明の「液晶層」は,本件発明の「液晶層」に係る「液晶層の表面に対して厚さ方向に向かって斜めに傾いた光軸を有する液晶を含み,液晶層の表面に対する液晶の傾斜角は,第1面から第2面まで液晶層の厚さ方向に沿って次第に大きくな」るという発明特定事項に相当する構成を具備している。

エ 引用発明の「円偏光板」は,有機エレクトロルミネセンス表示装置において,外部光の反射を防止するために用いられるものであるから,「反射防止フィルム」といえる。
したがって,引用発明と本件発明は,「反射防止フィルム」である点で一致する。

オ 前記アないしエに照らせば,本件発明と引用発明は,
「偏光子と,
前記偏光子の一面に位置し,互いに反対側に位置する第1面と第2面とを有する液晶層を含む補償フィルムと,
を含み,
前記液晶層は,前記液晶層の表面に対して厚さ方向に向かって斜めに傾いた配向を有する液晶を含み,
前記液晶層の表面に対する前記液晶の傾斜角は,前記第1面から前記第2面まで前記液晶層の厚さ方向に沿って次第に大きくなる反射防止フィルム。」
である点で一致し,次の点で一応相違する,又は相違する。

相違点1:
本件発明では,「液晶層」が「異色性色素」を含んでいないのに対して,
引用発明では,「液晶層」が「異色性色素」を含んでいないことは特定されていない点。

相違点2:
本件発明では,「液晶層の表面に対する液晶の最大傾斜角」が,35度?65度であるのに対して,
引用発明では,「液晶分子のダイレクターと液晶層平面とのなす角度」の「最大値」が,45?80度である点。

相違点3:
本件発明では,液晶層の450nmおよび550nm波長に対する面内位相差R_(e)が,「0.75≦R_(e)(450nm)/R_(e)(550nm)≦0.90」なる関係式1bを満たすのに対して,
引用発明では,そのような構成を有することは特定されていない点。

(3)相違点1について
引用文献2には,「液晶層」が「二色性色素」を含んで構成されることは,記載も示唆もされていない。
また,引用文献2に記載された「液晶層」が,たとえ引用文献2に明記がなくとも,「二色性色素」を含んで構成されていると解するのが自然であるような技術常識が,本件優先日当時に存在していたとも認められない。
そうしてみると,引用文献2の記載及び技術常識を勘案しても,引用発明の「液晶層」が「異色性色素」を含んでいるとは考えられないから,相違点1は実質的な相違点でない。

(4)相違点2について
引用発明の「液晶分子のダイレクターと液晶層平面とのなす角度」の「最大値」は「45?80度」である。そして,引用発明に接した当業者ならば,そこから,最大値が45?80度の範囲内の所定値である引用発明(例:最大値が数値範囲の下限である「45度」の引用発明)を理解可能であり,そのような引用発明は,本件発明の「35度?65度」という範囲を満たすことになる。
したがって,相違点2は実質的な相違点でない。
あるいは,引用発明において,「液晶分子のダイレクターと液晶層平面とのなす角度」の「最大値」を「45?80度」という範囲の中のいかなる値に設定するのかは,当業者が適宜決定すれば足りる設計上の事項にすぎないというべきである。そして,前記「45?80度」という範囲の中の「45度ないし65度」という本件発明の数値範囲と重複する範囲内の値に設定した引用発明が,「65度ないし80度」という範囲内の値に設定した引用発明と比べて,異質な効果や格別顕著な効果を有しているとは認められない。したがって,引用発明において,「液晶分子のダイレクターと液晶層平面とのなす角度」の「最大値」として「45度ないし65度」という範囲内の適宜値を選択すること,すなわち,引用発明を,相違点2に係る本件発明の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,当業者が適宜なし得たことである。

(5)相違点3について
ア 位相差板の面内位相差R_(e)には波長依存性があるため,所定の波長において所望の位相差を与えるものであっても,異なる波長において与える位相差が所望の値になるとは限らないことから,広い波長範囲において,所望の位相差を与えることのできる広帯域位相差板とするには,「R_(e)(450nm)/R_(e)(550nm)」の値を約0.82(≒450/550)にできるだけ近いものとする必要があることは,当業者における技術常識である(例:引用文献3の【0009】等。引用文献4の【0008】,【0025】,【0026】等。引用文献5の【0057】等。)。

イ 引用発明は,有機エレクトロルミネセンス表示装置において,外部光の反射を防止するために用いられる円偏光板であって,反射防止の対象となる外部光は,特定の波長のものだけではなく,様々な波長の光(一般的には可視光全域)が含まれることが想定されること,及び,このような様々な波長の光を含む外光に対して引用発明が良好な反射防止機能を発揮するには,光学異方素子を,広い波長範囲において面内位相差が1/4波長となる広帯域1/4波長板とする必要があることは,当業者に自明である。
そうすると,様々な波長の光を含む外光に対して良好な反射防止機能を発揮させるために,引用発明において,適宜の手段を講じて,液晶層の「R_(e)(450nm)/R_(e)(550nm)」の値を約0.82に近くなるよう構成すること,すなわち,引用発明を,相違点3に係る本件発明の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,前記アで述べた技術常識に基づいて,当業者が容易に想到し得たことである。

ウ 請求人は,平成30年5月7日提出の意見書において,
「引用発明3には,陽の複屈折性を示すポリマーAと陰の複屈折性を示す材料Bが混合された延伸フィルムにおいて,陽の複屈折性を示すポリマーAと陰の複屈折性材料Bの混合比などを調節して逆波長分散性を実現する構成が開示されています。即ち,引用発明3に開示された主要構成は,互いに異なる複屈折を有する高分子Aと液晶物質Bを含むものであり,液晶物質Bの組成比率は高分子Aよりはるかに少ないので,延伸高分子フィルムの本質は『高分子フィルム』であり,『液晶層』ではありません。従って,引用発明3に開示された延伸高分子フィルムを引用発明2の『ネマチックハイブリッド配向の液晶層」と組み合わせる動機付けが存在しません。すなわち,引用発明3は互いに相反する複屈折性を有するポリマーAと材料Bの混合比などを調節して逆波長分散性を実現する延伸高分子フィルムに関するものであり,これから液晶層の傾斜角度を次第に変化させて逆波長分散を実現する本願発明と相違しています。・・・(中略)・・・
引用発明4は,延伸された高分子フィルムを含む位相差フィルムに関する発明であり,引用発明4に開示された高分子フィルムを引用発明2の『ネマチックハイブリッド配向の液晶層』と組み合わせる動機付けが存在しません。・・・(中略)・・・
引用発明5は,重合性化合物に由来する構造単位と棒状重合性液晶化合物に由来する構造単位を含有するポリマーで構成される光学フィルムに関する発明であり,重合性化合物に由来する構造単位と棒状重合性液晶化合物に由来する構造単位の混合量を調節して逆波長分散を実現する構成が開示されています。したがって,引用発明5に開示された光学フィルムを引用発明2の『ネマチックハイブリッド配向の液晶層』と組み合わせる動機付けが存在しません。」
などと主張する。
当審拒絶理由2において,引用文献3ないし5は,前記アで認定した技術常識(広帯域位相差板とするには,「R_(e)(450nm)/R_(e)(550nm)」の値を約0.82(≒450/550)にできるだけ近いものとする必要があること)を示すための例示文献として引用されたものであって,引用発明と組み合わせる逆波長分散性を実現する手段を開示する副引用例として引用されたものではない。したがって,前記請求人の主張は,当審拒絶理由2において,引用文献3ないし5が示された趣旨を正解しないものである。
また,このことを措くとしても,次のとおり,各文献に記載された逆波長分散性の実現手段は,引用発明において適用することのできないものとは認められない。
まず,引用文献3に記載された逆波長分散性の実現手段は,延伸方向に対して正の複屈折性を示すポリマーAと,延伸方向に対して負の複屈折性を示すポリマーBとを用いてフィルムを形成し,当該フィルムを延伸することによって,逆波長分散性を発現させるというものであるが,液晶分子を用いた場合においても,配向方向(ラビング方向)に対して正の複屈折性を有する液晶分子と,配向方向に対して負の複屈折性を有する液晶分子とをブレンドして,液晶層を形成することにより,逆波長分散性を発現させることができることは,当業者に自明である。したがって,引用発明において,様々な波長の光を含む外光に対して良好な反射防止機能を発揮させるために,引用文献3に記載された手段を適用すること,すなわち,液晶層を形成するための液晶性組成物に含有させるハイブリッドネマチック配向する液晶として,配向方向(ラビング方向)に対して正の複屈折性を有する液晶分子と,配向方向に対して負の複屈折性を有する液晶分子とをブレンドして,逆波長分散性を発現させることは,当業者が容易に容易に想到し得たことである。
また,引用文献4に記載された逆波長分散性の実現手段は,逆波長分散性を有するポリマー(具体的には,【0048】に示された一般式(I)で表される繰り返し単位を有する重合体)を用いてフィルムを形成し,当該フィルムを延伸することによって,逆波長分散性を発現させるというものであるが,引用発明において,様々な波長の光を含む外光に対して良好な反射防止機能を発揮させるために,引用文献4に記載された手段を適用すること,すなわち,液晶層を形成するための液晶性組成物に含有させるハイブリッドネマチック配向する液晶として,逆波長分散性を有する液晶分子を用いて,逆波長分散性の液晶層とすることは,当業者が容易に容易に想到し得たことである。
さらに,引用文献5に記載された逆波長分散性の実現手段は,請求項1に示された式(1)で表される重合性化合物と,棒状重合性液晶化合物とを含有する組成物を配向膜上に塗布し,重合させることによって,逆波長分散性の光学フィルムを得るというものであるが,引用発明において,様々な波長の光を含む外光に対して良好な反射防止機能を発揮させるために,引用文献5に記載された手段を適用すること,すなわち,液晶層を形成するための液晶性組成物に,ハイブリッドネマチック配向する液晶ととともに式(1)で表される重合性化合物を含有させて,逆波長分散性の液晶層とすることは,当業者が容易に容易に想到し得たことである。
以上のとおりであるから,前記請求人の主張は採用できない。

(6)効果について
本件発明が有する効果は,引用文献2の記載及び技術常識に基づいて,当業者が予測できた程度のものである。

(7)小括
前記(2)ないし(6)のとおり,本件発明は,引用発明及び技術常識に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。


6 むすび
本件出願は,発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。
また,本件発明は,引用発明及び技術常識に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本件出願は,同法29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-06-25 
結審通知日 2018-07-02 
審決日 2018-07-13 
出願番号 特願2015-239173(P2015-239173)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (G02B)
P 1 8・ 121- WZ (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉川 陽吾  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 清水 康司
関根 洋之
発明の名称 反射防止フィルムおよびこれを備えた有機発光装置  
代理人 実広 信哉  
代理人 崔 允辰  
代理人 阿部 達彦  
代理人 木内 敬二  
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