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審決分類 審判 査定不服 特29条の2 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1346668
審判番号 不服2017-5157  
総通号数 229 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-04-11 
確定日 2018-11-27 
事件の表示 特願2015-239174「反射防止フィルムおよびこれを備えた有機発光装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 6月20日出願公開,特開2016-110153〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本件拒絶査定不服審判事件に係る出願(以下,「本件出願」という。)は,平成27年12月8日(パリ条約による優先権主張2014年12月8日 韓国)の出願であって,平成28年5月25日に手続補正書が提出され,同年7月12日付けで拒絶理由が通知され,同年10月17日に意見書及び手続補正書が提出されたが,同年12月2日付けで拒絶査定がなされたものである。
本件拒絶査定不服審判は,これを不服として,平成29年4月11日に請求されたものであって,本件審判の請求と同時に手続補正書が提出され,当審において,平成30年2月1日付けで拒絶理由が通知され,同年5月7日に意見書が提出された。


2 請求項1に係る発明
(1) 本件出願の請求項1ないし7に係る発明は,平成29年4月11日提出の手続補正書による補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項によって特定されるものと認められるところ,請求項1の記載は次のとおりである。

「偏光子と,
前記偏光子の一面に位置し,互いに反対側に位置する第1面と第2面とを有する液晶層を含む補償フィルムと,
を含み,
前記液晶層は,前記液晶層の表面に対して厚さ方向に向かって斜めに傾いた光軸を有する液晶を含み,
前記液晶層の表面に対する前記液晶の傾斜角は,前記第1面から前記第2面まで前記液晶層の厚さ方向に沿って次第に大きくなり,
前記液晶層の450nm,550nmおよび650nm波長に対する面内位相差(R_(e))は,下記関係式1及び2aを満たす反射防止フィルムであって,
前記反射防止フィルムの正面から60度側面方向で観察される前記反射防止フィルムの色ずれは,7.0未満であり,
前記反射防止フィルムは,前記反射防止フィルムの正面から60度側面方向で測定された反射率が1.0%以下である有機発光装置用反射防止フィルム。
[関係式1]
R_(e)(450nm)<R_(e)(550nm)≦R_(e)(650nm)
[関係式2a]
0.72≦R_(e)(450nm)/R_(e)(550nm)≦0.92
前記関係式1及び2aにおいて,
R_(e)(450nm)は,450nm波長の入射光に対する面内位相差であり,
R_(e)(550nm)は,550nm波長の入射光に対する面内位相差であり,
R_(e)(650nm)は,650nm波長の入射光に対する面内位相差である。」(請求項1では,面内位相差を表す記号について,「R_(e)」と「Re」が混在して用いられているが,「R_(e)」に統一した。以下,当該請求項1に係る発明を「本件発明」という。)

(2) なお,前記(1)で摘記した請求項1の「偏光子の一面に位置」する「補償フィルム」との表現は,本件明細書の「層,膜,領域,板などの部分が他の部分の「上」にあるという場合,これは,他の部分の「直上」にある場合だけでなく,その中間にさらに他の部分がある場合も含む。反対に,ある部分が他の部分の「直上」にあるという場合,中間に他の部分がないことを意味する。」(【0029】)という記載を参酌すると,補償フィルムが偏光子の一面と直接接するものだけでなく,補償フィルムと偏光子との間に他の部分が存在するものも包含すると解するのが相当である。
また,「正面から60度側面方向」なる文言については,本件明細書及び図面の全記載,並びに当該文言の明確性要件違反を指摘した平成30年2月1日付けで通知された拒絶理由に対する,同年5月7日提出の意見書(以下,単に「意見書」という。)における請求人の主張等を参酌すると,「フィルム面の法線(垂線)とのなす角が60度となる方向」を指すものと解するのが相当である。
また,「反射防止フィルムの正面から60度側面方向で観察される前記反射防止フィルムの色ずれ」という文言については,当該文言の明確性要件違反を指摘した平成30年2月1日付けで通知された拒絶理由に対して,請求人は,意見書で何ら釈明していないものの,本件明細書の【0070】及び【0084】に「外光反射による色ずれ」と記載されていることや,意見書における「反射防止フィルムの正面から60度側面方向で測定された反射率」についての釈明を参酌すると,「フィルム面の法線(垂線)とのなす角が60度となる方向から入射した入射光(外光)が,反射防止フィルムを通過し,反射面において反射し,再度反射防止フィルムを通過して出射光として出射するときに,フィルム面の法線(垂線)とのなす角が60度となる方向で観察される反射光の入射光に対する色ずれ(Δa*b*)を,全方位角(360度)で平均した値」を指すものと解するのが相当である。
さらに,「反射防止フィルムの正面から60度側面方向で測定された反射率」という文言については,本件明細書及び図面の全記載,並びに当該文言の明確性要件違反を指摘した平成30年2月1日付けで通知された拒絶理由に対する意見書での請求人の主張を参酌すると,「フィルム面の法線(垂線)とのなす角が60度となる方向から入射した入射光(外光)が,反射防止フィルムを通過し,反射面において反射し,再度反射防止フィルムを通過して出射光として出射するときに,フィルム面の法線(垂線)とのなす角が60度となる方向で測定される反射率を,全方位角(360度)で平均した値」を指すものと解するのが相当である。

3 当審において通知された拒絶理由の概要
当審において平成30年2月1日付けで請求項1に係る発明に関して通知された拒絶理由は,概略次の理由(以下,当該理由のうち,実施可能要件違反を「当審拒絶理由1」といい,先願1を引用例とする拡大先願同一(その1)を「当審拒絶理由2」といい,先願2を引用例とする拡大先願同一(その2)を「当審拒絶理由3」といい,進歩性欠如を「当審拒絶理由4」という。)を含んでいる。
(1)当審拒絶理由1(実施可能要件違反)
本件明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから,本件出願は,発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。

(2)当審拒絶理由2(拡大先願同一(その1))
本件発明は,その優先権主張の日(以下,「本件優先日」という。)より前の特許出願であって,本件優先日より後に出願公開(特許法41条3項及び184条の15第2項の規定により,当該特許出願を優先権主張の基礎とした国際出願(PCT/JP2015/053538)の国際公開がされた時に,当該特許出願の出願公開がされたものとみなされる。)がされた先願1の願書に最初に添付された明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された発明であって,当該先願1を優先権主張の基礎とした国際出願(PCT/JP2015/053538)の願書に最初に添付された明細書,特許請求の範囲又は図面にも記載されている発明と同一であるから,特許法29条の2の規定により,特許を受けることができない。

先願1:特願2014-024505号(国際公開第2015/122387号)

(3)当審拒絶理由3(拡大先願同一(その2))
本件発明は,本件優先日より前の特許出願であって,本件優先日より後に出願公開がされた先願2の願書に最初に添付された明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であるから,特許法29条の2の規定により,特許を受けることができない。

先願2:特願2014-35265号(特開2015-161714号)

(4)当審拒絶理由4(進歩性欠如)
本件発明は,引用文献1に記載された発明及び周知の事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,同法29条2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:国際公開第2007/142037号
引用文献2:特開2014-215360号公報(周知例)
引用文献3:特開2014-203069号公報(周知例)
引用文献4:国際公開第2014/068893号(周知例)


4 当審拒絶理由1(実施可能要件違反)についての判断
(1)本件発明の発明特定事項
本件発明は,次の発明特定事項を有している。

発明特定事項1:
反射防止フィルムの正面から60度側面方向で観察される前記反射防止フィルムの色ずれが,7.0未満であること。

発明特定事項2:
反射防止フィルムの正面から60度側面方向で測定された反射率が1.0%以下であること。

(2)発明特定事項1及び2に関する本件明細書及び図面の記載
前記発明特定事項1及び2に関して,本件明細書及び図面には,次の記載がある。
ア 「【0050】
このように斜めに傾いた複数の液晶150aを含み,液晶層150の厚さ方向に沿って液晶150aの傾斜角が変わることにより,全ての方向で円偏光効果を同一に具現することができ,これにより,正面だけでなく側面でも外光反射を効果的に防止することができ,側面視認性を向上させることができる。」

イ 「【0068】
図3は,一具現例に係る反射防止フィルムの視野角の改善原理を示す概略図である。
【0069】
図3を参照すると,外光は,補償フィルム120を通過して表示パネル40に到達する第1光路(first optical path)OP1と,表示パネル40で反射して再び補償フィルム120を通過する第2光路(second optical path)OP2とを経て,第1光路OP1と第2光路OP2を通じて偏光方向が変わった光は,偏光子110を通過できず外光反射防止効果を有する。
【0070】
このとき,表示パネル40を境界として第1光路OP1と第2光路OP2が実質的に鏡像(mirror image)を形成する。これにより,補償フィルム120は,一方向に傾いて傾斜配向した液晶を含むが,外光が互いに反対方向である第1光路OP1と第2光路OP2とを順次に通過しながら,第1光路OP1に位置する液晶150aaの傾斜配向と,第2光路OP2に位置する液晶150abの傾斜配向とを合わせて位相差を調整する。従って,全ての方向で実質的に同一の反射防止効果を表すことができ,これにより,正面だけでなく側面からも外光反射による色ずれ(color shift)を効果的に防止することができ,側面視認性を向上させることができる。
【0071】
当該側面視認性は,側面における反射率および色ずれ程度で表現する。例えば,側面60度で反射防止フィルムの反射率は,約1.5%以下であり,前記範囲内で約1.2%以下であり,前記範囲内で約1.0%以下である。例えば,側面60度で反射防止フィルムの色ずれは,約7.0未満であり,前記範囲内で約6.0以下であり,前記範囲内で約5.0以下である。」

ウ 「【0084】
また,反射防止フィルム100は,前述したように,全ての方向で実質的に同一の反射防止効果を表すので,正面だけでなく側面からも外光反射による色ずれを効果的に防止することができ,側面視認性を向上させることができる。」

エ 「【0085】
以下,実施例を通して上述した具現例をさらに詳しく説明する。但し,下記の実施例は,単に説明の目的のためのものであり,本発明の範囲を制限するものではない。
【0086】
〔シミュレーション評価〕
[実施例1]
シミュレーション評価(LCD master(Shintech社))のために,偏光板,液晶層を含む補償フィルム(R_(e2)=138nm)および反射板が順次に配置された構造を設定する。ここで,補償フィルムの液晶層は,上部から下部にいくほど傾斜角が大きくなる構造(ボトムチルト:bottom tilt)であり,最小傾斜角(上部傾斜角)3度,最大傾斜角(下部傾斜角)37度,およびその間で傾斜角が次第に変わる構造に設定する。軸の角度は,偏光板90度,補償フィルム45度に設定する。
【0087】
[実施例2]
液晶層で液晶の最大傾斜角(下部傾斜角)を45度に設定したことを除いては,実施例1と同様な方法でシミュレーション条件を設定する。
【0088】
[実施例3]
液晶層で液晶の最大傾斜角(下部傾斜角)を65度に設定したことを除いては,実施例1と同様な方法でシミュレーション条件を設定する。
【0089】
[実施例4]
補償フィルムの液晶層は,下部から上部にいくほど傾斜角が大きくなる構造(トップチルト:top tilt)であり,液晶の最大傾斜角(上部傾斜角)を65度に設定したことを除いては,実施例1と同様な方法でシミュレーション条件を設定する。
【0090】
[実施例5]
液晶層で液晶の最大傾斜角(下部傾斜角)を75度に設定したことを除いては,実施例1と同様な方法でシミュレーション条件を設定する。
【0091】
[実施例6]
液晶層で液晶の最大傾斜角(下部傾斜角)を30度に設定したことを除いては,実施例1と同様な方法でシミュレーション条件を設定する。
【0092】
[比較例1]
補償フィルムの液晶層が傾斜角0度(Aプレート)である複数の液晶を含むように設定したことを除いては,実施例1と同様な方法でシミュレーション条件を設定する。
【0093】
[比較例2]
補償フィルムが二層の液晶層を含み,一つの液晶層は傾斜角0度(Aプレート)である複数の液晶を含み,他の一つの液晶層は傾斜角90度(Cプレート)である複数の液晶を含むように設定したことを除いては,実施例1と同様な方法でシミュレーション条件を設定する。
【0094】
〔評価〕
[評価1]
実施例1?6と比較例1,2に係る反射防止フィルムの正面および側面における反射率および色ずれ程度を評価する。
【0095】
反射率および色ずれ程度は,LCD master(Shintech社)を使用してシミュレーションする。
【0096】
結果は,表1および図5?図8を参照して説明する。
【0097】
図5は,実施例1?6と比較例1,2に係る反射防止フィルムで液晶の最大傾斜角と側面(60度)における色ずれ程度の関係を示すグラフであり,図6は,実施例2に係る反射防止フィルムで全ての方向に対して視野角による反射率を示すグラフであり,図7は,比較例1に係る反射防止フィルムで全ての方向に対して視野角による反射率を示すグラフであり,図8は,比較例2に係る反射防止フィルムで全ての方向に対して視野角による反射率を示すグラフである。
【0098】
【表1】

【0099】
表1および図5を参照すると,実施例1?6に係る反射防止フィルムは,比較例1に係る反射防止フィルムと比較して,側面(60度)で色ずれ程度が非常に低くなることが分かる。また,実施例1?6に係る反射防止フィルムは,単一層の補償フィルムを使用したが,二重層の補償フィルムを使用した比較例2に係る反射防止フィルムと比較して同等であるか,それより向上した色ずれを示すことが分かる。
【0100】
また,図6?図8を参照すると,実施例2に係る反射防止フィルムは,比較例1,2に係る反射防止フィルムと比較して全ての方向(0度?360度)で反射率が低いことが分かる。
【0101】
これより,実施例1?6に係る反射防止フィルムは,厚さを増やすことなく側面から視認性を向上させることができることが分かる。」

オ 「【図3】

・・・(中略)・・・
【図6】

【図7】

【図8】



(3)本件発明の実施可能性について
ア 前記(2)アないしウで摘記した記載及び前記(2)オで摘記した記載中の図3には,液晶が傾斜配向し,かつ,その傾斜角が補償フィルム120(液晶層)の第1面から第2面まで補償フィルム120の厚さ方向に沿って次第に大きくなっていることで,入射した外光が補償フィルム120を通過する光路上で,傾斜配向した液晶によって与えられる位相差が,異なる入射角の場合でも実質的に同一の値に調整され,これによって,斜め方向から観察される色ずれの発生や反射率の増加を抑制できるという効果が得られるという作用機序が説明されているところ,当該作用機序からは,発明特定事項1及び発明特定事項2が,液晶の傾斜角の変化によって実現されることを理解できる。
そして,前記(2)エで摘記した記載及び前記(2)オで摘記した記載中の図6ないし8からは,Shintech社製「LCD master」により,偏光板,液晶層を含む補償フィルム及び反射板が順次に配置された構造を,液晶の最小傾斜角を3度とし,最大傾斜角を変化させて,シミュレーション評価すると,最大傾斜角が30度ないし65度の場合(実施例1ないし4,6)に,「側面60度」における「反射率(%)」及び「色ずれ(Δa*b*)」が発明特定事項1及び発明特定事項2を満足することを把握できる。
そうすると,発明特定事項1及び2を満足する反射防止フィルムは,少なくとも,補償フィルムが含む液晶層中の液晶について,「液晶層の表面に対して厚さ方向に向かって斜めに傾いた光軸を有」し,その傾斜角を,「第1面から第2面まで液晶層の厚さ方向に沿って次第に大きくな」るようにする(以下,便宜上「液晶層中の液晶について,液晶層の表面に対して厚さ方向に向かって斜めに傾いた光軸を有し,その傾斜角を,第1面から第2面まで液晶層の厚さ方向に沿って次第に大きくなる」構成を「ハイブリッド配向」という。)とともに,最小傾斜角を3度とし,最大傾斜角を30度ないし65度の範囲内に設定すること(あるいは,それに加えて,液晶層の面内位相差(R_(e))を関係式1及び2aを満たすよう構成すること)で,実施(製造等)できると理解することが可能である。
しかしながら,前記(2)アないしエで摘記した記載からは,最小傾斜角が3度で最大傾斜角が30度ないし65度の「ハイブリッド配向」をどのように実施するのかを把握することはできない。
そこで,最小傾斜角が3度で最大傾斜角が30度ないし65度の「ハイブリッド配向」をどのように実施するのかが,本件明細書等の他の記載や本件出願の出願時における技術常識に基づいて,当業者が理解できるのかについて,さらに検討を進める。

イ 最小傾斜角が3度で最大傾斜角が30度ないし65度の「ハイブリッド配向」に関して,本件明細書及び図面には,次の記載がある。
(ア) 「【0040】
液晶層150は,表面に対して斜めに傾いた複数の液晶150aを含む。ここで,液晶層150の表面に対して斜めに傾くことは,液晶150aの長さ方向(長軸方向)が液晶層150の表面に対して垂直にまたは平行に配向されないことをいい,各液晶150aの長さ方向は,液晶層150の表面に対して0度より大きく90度未満の角度で傾いている。
【0041】
液晶層150の表面に対して液晶150aが傾いた角度(以下,「傾斜角(tilt angle)」という)は,液晶層150の厚さ方向に沿って変わり,例えば,液晶150aの傾斜角は,液晶層150の厚さ方向に沿って次第に変わる。
【0042】
一例として,液晶層150が配向膜140と接している第1面と空気と接している第2面とを有すると,液晶150aの傾斜角は,第1面から第2面まで次第に大きくなる。
【0043】
例えば,第1面の液晶150aの傾斜角θ_(1)は,配向膜140によるプレチルト角であり,例えば,約0度より大きく5度以下である。前記範囲内で,例えば約2度?5度である。
【0044】
第2面の液晶150aの傾斜角θ_(2)は,最大傾斜角であり,例えば約30度?75度である。当該最大傾斜角は,前記範囲内で,例えば約35度?70度であり,前記範囲内で,例えば約40度?60度である。」

(イ) 「【0051】
液晶150aは,一方向に伸びた棒(rod)状であり,例えばモノマー,オリゴマーまたは重合体である。液晶150aは,例えば陽または陰の複屈折値Δnを有する。複屈折値Δnは,液晶150aの傾いた方向に対して垂直に進行する光の屈折率neから液晶150aの傾いた方向に対して平行に進行する光の屈折率noを引いた値である。
【0052】
液晶150aは,反応性メソゲン(reactive mesogen)液晶であり,例えば一つ以上のメソゲンモイエティ(mesogenic moiety)と一つ以上の重合性作用基を有する。当該反応性メソゲン液晶は,例えば一つ以上の重合性作用基を有する棒状の芳香族誘導体,プロピレングリコール1-メチル,プロピレングリコール2-アセテートおよびP^(1)-A^(1)-(Z^(1)-A^(2))_(n)-P^(2)で表される化合物(ここで,P^(1)とP^(2)は,重合性作用基で,それぞれ独立してアクリレート(acrylate),メタクリレート(methacrylate),アクリロイル(acryloyl),ビニル(vinyl),ビニルオキシ(vinyloxy),エポキシ(epoxy)またはこれらの組み合わせを含み,A^(1)およびA^(2)は,それぞれ独立して1,4-フェニレン(1,4-phenylene),ナフタレン(naphthalene)-2,6-ジイル(diyl)基またはこれらの組み合わせを含み,Z^(1)は,単結合,-COO-,-OCO-またはこれらの組み合わせを含み,nは,0,1または2である)のうち少なくとも一つを含むが,これに限定されない。
【0053】
液晶150aは,熱硬化性液晶または光硬化性液晶であり,例えば,液晶150aは光硬化性液晶である。液晶150aが光硬化性液晶である場合,光は,約250nm?400nm波長の紫外光である。
【0054】
一例として,液晶150aは,架橋性液晶(cross-linkable liquid crystals)であり,例えば,下記の化学式1A?1Fのいずれか一つで表される化合物である。
[化学式1A]
【化1】

[化学式1B]
【化2】

[化学式1C]
【化3】

[化学式1D]
【化4】

[化学式1E]
【化5】

[化学式1F]
【化6】

【0055】
前記化学式1A?1Fにおいて,m’は,4?12の整数であり,pは,2?12の整数である。
【0056】
一例として,液晶150aは,下記の化学式2Aで表される化合物である。
[化学式2A]
【化7】

前記化学式2Aにおいて,nは,2?10の整数である。
【0057】
一例として,液晶150aは,下記の化学式3A?3Eのいずれか一つで表される化合物である。
[化学式3A]
【化8】

[化学式3B]
【化9】

[化学式3C]
【化10】

[化学式3D]
【化11】

[化学式3E]
【化12】

【0058】
一例として,液晶150aは,下記の化学式4Aまたは4Bで表される化合物である。
[化学式4A]
【化13】

[化学式4B]
【化14】

【0059】
液晶層150は,1種または2種以上の液晶150aを含む。
【0060】
液晶層150は,上述した液晶150aを含む組成物から形成され,当該組成物は,液晶150a以外に反応開始剤,界面活性剤,溶解補助剤および/または分散剤のような各種添加剤と溶媒を含む。当該組成物は,例えば,スピンコーティング,スリットコーティングおよび/またはインクジェットのような溶液工程により塗布することができ,液晶層150の屈折率などを考慮して厚さを調節することができる。」

ウ 前記イ(ア)で摘記した記載には,液晶層中の液晶について,「ハイブリッド配向」とすること,及び最小傾斜角及び最大傾斜角を所定の範囲とすることが記載されているが,どのようにすれば,それらの構成が実施できるのかについては,説明されていない。

エ 前記イ(イ)で摘記した記載中の【0052】には,液晶層に用いる液晶の例示として,一つ以上の重合性作用基を有する棒状の芳香族誘導体,プロピレングリコール1-メチル,プロピレングリコール2-アセテート及びP^(1)-A^(1)-(Z^(1)-A^(2))_(n)-P^(2)で表される化合物(各記号の定義については省略した。)のうち少なくとも一つを含むという構造を有する「反応性メソゲン液晶」(当該文言は通常用いられる技術用語ではないが,前後の記載からみて,いわゆる重合性液晶のことと解される。)が挙げられている。
しかしながら,【0052】に記載された構造を有するからといって,必ず,最小傾斜角が3度で最大傾斜角が30度ないし65度の「ハイブリッド配向」をするわけではないことは,技術的に明らかであるから,【0052】に記載された構造を有する「反応性メソゲン液晶」を用いれば,最小傾斜角が3度で最大傾斜角が30度ないし65度の「ハイブリッド配向」を有する液晶層が実施できるというものではない。
したがって,前記イ(イ)で摘記した記載中の【0052】からは,最小傾斜角が3度で最大傾斜角が30度ないし65度の「ハイブリッド配向」を有する液晶層をどのように実施するのかを理解することはできない。

オ 前記イ(イ)で摘記した記載中の【0054】ないし【0058】には,液晶層に用いる液晶の具体例として,化学式1Aないし1F,2A,3Aないし3E,4A,4Bで表される化合物(以下,「例示化合物」という。)が挙げられている。
しかしながら,本件明細書等には,各例示化合物を用いて液晶層を形成したときに,各例示化合物の最小傾斜角及び最大傾斜角がそれぞれどのような値となるのかについての開示は,一切ない。また,各例示化合物の最小傾斜角及び最大傾斜角をそれぞれ制御する手段についても,説明されていない。
そればかりか,そもそも,前記イ(ア)で摘記した記載中には,液晶の最小傾斜角及び最大傾斜角について,「3度」及び「30度ないし65度」とは異なる範囲をも含む数値範囲が複数例示されているのであって,このような本件明細書等の記載からは,当業者といえども,各例示化合物の中に,最小傾斜角が3度で最大傾斜角が30度ないし65度の「ハイブリッド配向」を実現できるもの(あるいは,最小傾斜角が3度で最大傾斜角が30度ないし65度ではなくとも,発明特定事項1及び2を満足するような「ハイブリッド配向」を実現できるもの)が存在するのか,また,存在するとして,各例示化合物のいずれのものが最小傾斜角が3度で最大傾斜角が30度ないし65度の「ハイブリッド配向」を実現できるものなのかを,認識することができない。
そして,各例示化合物の最小傾斜角及び最大傾斜角の値や,各例示化合物の最小傾斜角及び最大傾斜角をそれぞれ「3度」及び「30度ないし65度」という数値範囲内に制御する手段が,本件出願の出願時の技術常識であったとも認められない。

カ さらに,本件明細書等のその他の箇所にも,最小傾斜角が3度で最大傾斜角が30度ないし65度の「ハイブリッド配向」(あるいは,最小傾斜角が3度で最大傾斜角が30度ないし65度ではなくとも,発明特定事項1及び2を満足するような「ハイブリッド配向」)を有する液晶層を実施する手段は記載されておらず,そのような手段が本件出願の出願時に当業者における技術常識であったとも認められない。

キ 以上のような本件明細書等の記載と本件出願の出願時における技術常識とに基づいて,発明特定事項1及び発明特定事項2を具備する液晶層を当業者が実施する場合,各例示化合物に対して,最小傾斜角及び最大傾斜角をそれぞれ制御することのできる適宜の手段(技術常識となっているもの)を講じて,液晶層を形成し,当該各液晶層中の各例示化合物の最小傾斜角及び最大傾斜角を測定するという作業を繰り返し行うことによって,最小傾斜角を3度とし,最大傾斜角を30度ないし65度という数値範囲内に調整できる,各例示化合物と各適宜の手段の組合せを見いだすことが必要になる。このような作業は,当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤,複雑高度な実験等というほかない。
したがって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者が本件発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。

ク 請求人は,平成30年5月7日提出の意見書において,
「様々な方法で液晶層の液晶の最大傾斜角を調節することが可能であり,これは当業者の技術常識で十分実現することができるものと思料いたします。
例えば,液晶層の第1面(傾斜角が小さい側の面)の傾斜角は配向膜のラビング(rubbing)などによるプレチルト角度で実現できるものであり,最小傾斜角を3度とすることは,当業者の技術常識で十分に実現できるものです。
また例えば,液晶層の第2面(最大傾斜角の側の面)の傾斜角は,一例として界面活性剤を用いて表面の特性を制御して実現することができ,これは当業者の技術常識で十分に実現できるものです。例えば,配向膜の上に液晶と界面活性剤が含まれた液晶溶液を塗布して放置すると,表面エネルギーが高い界面活性剤が表面に位置し,液晶層の表面特性を制御し,これによって液晶層の表面に近い液晶の立つ角度を制御することができます。これによって,第1面の液晶と第2面の液晶の間に位置した液晶は第1面の液晶から第2面の液晶まで次第に配列され得,そのような液晶の配列を硬化することによって,下記のようにハイブリッド液晶の配列を実現することができます。このように,最大傾斜角を30ないし65度とすることは,当業者の技術常識で十分に実現できるものです。」
などと主張する。
しかしながら,各例示化合物に対して,どのような手段を用いれば,最小傾斜角(プレチルト角)をそれぞれ3度とすることができるのかが,本件明細書等に開示されておらず,本件出願の出願時における技術常識であったとも認められないことは,前記ウで述べたとおりである。したがって,各例示化合物について最小傾斜角を3度とするような手段を見いだすことは,当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤,複雑高度な実験等をする必要があるから,最小傾斜角を3度とすることに関して実施可能要件に違反しない旨の請求人の主張は,採用できない。
また,30度ないし65度という最大傾斜角の実現手段についての請求人の主張については,仮に,界面活性剤を用いることにより,最大傾斜角を調整できることが,本件出願の出願時における技術常識であったのだとしても,各例示化合物について,それらの最大傾斜角をそれぞれ30度ないし65度という数値範囲内に調整できる具体的な界面活性剤との組合せが,本件出願の出願時における技術常識であったわけではない。したがって,各例示化合物について,最大傾斜角を30度ないし65度とするような界面活性剤との組合せを見いだすためは,当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤,複雑高度な実験等をする必要があるから,最大傾斜角を30度ないし65度とすることに関して実施可能要件に違反しない旨の請求人の主張も,採用できない。

(4)小括
以上のとおりであるから,本件明細書の発明の詳細な説明は,特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。


5 当審拒絶理由2(拡大先願同一(その1))についての判断
(1)先願1
ア 先願1の願書に最初に添付された明細書,特許請求の範囲及び図面の記載
当審拒絶理由2で引用された先願1(特願2014-024505号(国際公開第2015/122387号))は,本件優先日より前に出願され,本件優先日より後に出願公開がされた特許出願であって,本件出願の発明者は先願1の発明者と同一ではなく,本件出願の出願の時において,本件出願の出願人が先願1の出願人とも同一でない。
しかるに,先願1の願書に最初に添付された明細書,特許請求の範囲及び図面(以下,「当初明細書等」という。)には次の記載があり,かつ,異なる表現を用いた部分はあるものの当該記載と同一内容の記載が,先願1を優先権主張の基礎とした国際出願(PCT/JP2015/053538)の当初明細書等にもある。(なお,各摘記の末尾に付した()中の記載は,国際出願(PCT/JP2015/053538)の当初明細書等における同一内容の記載の段落番号等を示す。)
(ア) 「【技術分野】
【0001】
本発明は,・・・(中略)・・・位相差板,およびそれを用いた楕円偏光板・・・(中略)・・・に関する。
【背景技術】
【0002】
位相差板は,偏光(直線偏光,円偏光,楕円偏光)を得るために用いられる光学要素であり,・・・(中略)・・・偏光板と1/4波長板とを組み合わせた有機EL表示装置用反射防止フィルム・・・(中略)・・・等,多くの用途で用いられる。位相差板は,無機材料(方解石,雲母,水晶)を薄く切り出した板や固有複屈折率が高い高分子フィルムを延伸したフィルム,棒状あるいは円盤状液晶材料を液晶状態において配向固定化したフィルムが用いられている。
・・・(中略)・・・
【0004】
位相差板は,特定波長の光(単色光)に対して,必要な光学的機能を示すように設計されることが普通であるが,上記した・・・(中略)・・・有機EL表示装置用反射防止フィルムにおいて用いられる1/4波長板は,可視光領域である測定波長(λとする)400?700nm・・・(中略)・・・において直線偏光を円偏光に,円偏光を直線偏光に変換する作用を有する必要がある。これを位相差板一枚で実現しようとすると,測定波長400?700nm・・・(中略)・・・において位相差が測定波長の1/4波長,すなわちλ/4(nm)となることがその位相差板の理想である。
【0005】
一般に1/4波長板としては,上記した位相差板材料等が用いられるが,これらの材料は位相差に波長分散性(波長依存性)がある。ここで,測定波長が短波長ほど大きく,長波長ほど小さくなる分散特性を「正の分散」,測定波長が短波長ほど小さく,長波長ほど大きくなる分散特性を「負の分散」と定義する。図1に,測定波長550nmでの複屈折値(Δn(550nm))を1として規格化した可視光領域での各波長における複屈折(Δn(λ))の波長分散特性を示す。一般に高分子フィルムの複屈折は,図1の実線に示すように,測定波長が短波長ほど大きく,長波長ほど小さくなる。すなわち,「正の分散」特性を有する。それに対し,前記した理想的な1/4波長板は,図1の点線に示すように,複屈折が測定波長に対し比例関係にあるため,測定波長が長いほど複屈折が大きくなる「負の分散」特性を有する。従って,高分子フィルム1枚だけで測定波長λ=400?700nmにおいて理想的な「負の分散」特性を得ることは困難であり,一般の高分子フィルムからなる「正の分散」特性を有する位相差板を可視光域の光が混在している白色光に使用すると,各波長での偏光状態の分布が生じ,有色の偏光が生じてしまう。
・・・(中略)・・・
【0014】
・・・(中略)・・・また,上述の円偏光板は広い波長領域で1/4波長板を達成することにより,円偏光板の法線方向から入射する光においては,理想に近い円偏光を得ることが出来るが,斜め方向から入射する光においては,円偏光から大きく外れた楕円偏光に変換され,・・・(中略)・・・有機EL表示装置における反射防止膜では斜め方向での光漏れを発生させるおそれがある。
・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は,上記現状に鑑みてなされたものであり,・・・(中略)・・・透過率低下を最小限に抑えつつ,所望の複屈折波長分散特性を有する位相差板,及びそれを用いた楕円偏光板・・・(中略)・・・を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果,・・・(中略)・・・複屈折Δnが,可視光領域のある波長領域において,測定波長が長いほど大きくなる「負の分散」特性を有するネマチックハイブリッド配向・・・(中略)・・・した新規な位相差板を見出した。・・・(中略)・・・
【0018】
[1]複屈折Δnが,可視光領域において,測定波長が長いほど大きくなる「負の分散」特性を有する位相差板であって,前記位相差板が重合性液晶化合物と少なくとも1種類以上の二色性色素から構成され,ネマチックハイブリッド配向・・・(中略)・・・した液晶フィルムからなることを特徴とする位相差板。
・・・(中略)・・・
[5]特定波長における位相差板の法線方向でのリターデーションの比が,下記式(1)および(2)を満足することを特徴とする前記[1]?[4]のいずれかに記載の位相差板。
0.80<Δn・d(500)/Δn・d(550)<1.00 (1)
1.00<Δn・d(600)/Δn・d(550)<1.15 (2)
(ここで,リターデーションとは,複屈折Δnと位相差板の膜厚dの積で表され,Δn・d(500),Δn・d(550),Δn・d(600)は,それぞれ波長500nm,550nm,600nmにおける位相差板のリターデーションである。)
・・・(中略)・・・
【0021】
・・・(中略)・・・[10]前記[1]?[9]のいずれかに記載の位相差板と偏光板を貼り合わせたことを特徴とする楕円偏光板。・・・(中略)・・・
【発明の効果】
【0022】
・・・(中略)・・・。そのような液晶配向構造と複屈折波長分散性を有し,かつ,測定波長550nmにおける位相差を1/4波長にした位相差板は,正面及び斜め方向において広い波長領域において円偏光を直線偏光に,直線偏光を円偏光に変換する位相差板として機能するので,・・・(中略)・・・有機エレクトロルミネセンス表示装置に用いれば,鏡面反射に対する高い防止性能を広視野角において大幅に改善される。」([0001]ないし[0019])

(イ) 「【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】一般的な高分子フィルムと理想の複屈折Δnの波長分散との比較を示す図である。
・・・(中略)・・・
【図14】ネマチックハイブリッド液晶フィルムの配向構造の概念図である。
【図15】液晶分子のチルト角及びツイスト角を説明するための概念図である。
【図16】実施例1,実施例2,実施例3,比較例1,比較例3で作製した液晶フィルムの複屈折Δnの波長分散特性を示す図である。
【図17】実施例1で作製した液晶フィルムを液晶の配向方向に沿って傾けて測定した見かけのリターデーション値の測定結果である。
【図18】実施例1,比較例2,比較例3で作製した円偏光板の層構成を示す図である。
【図19】実施例1で作製した円偏光板を有機EL表示装置に搭載した時の全方位から見たときの反射率の視野角特性を測定した図である。」([0020])

(ウ) 「【0033】
・・・(中略)・・・図14に本発明のネマチックハイブリッド配向構造かなる液晶フィルムの断面構造を示す。ネマチックハイブリッド配向構造を有するフィルムは,重合性液晶化合物のダイレクターがフィルムの膜厚方向のすべての場所において異なる角度を向いている。したがって本発明の位相差板は,フィルムという構造体として見た場合,もはや光軸は存在しない。図15に液晶分子のチルト角,ツイスト角の定義を示す。ここで液晶フィルムのチルト方向(軸)とは,図14に示すようにb面側から液晶フィルムを通してc面を見た際に,液晶分子ダイレクターとダイレクターのc面への投影成分が成す角度が鋭角となる方向で,かつ投影成分と平行な方向をチルト方向(軸)と定義する。
【0034】
前記液晶フィルムにおいて固定化されているネマチックハイブリッド配向構造としては,液晶フィルムの一方のフィルム界面付近において液晶分子のダイレクターとフィルム平面との成す角度が絶対値として通常20゜?90゜,好ましくは30゜?70゜であり,当該フィルム面の反対のフィルム界面付近においては当該角度が絶対値として通常0?50゜,好ましくは0?30゜であることが望ましい。また,当該配向構造における平均チルト角としては,絶対値として通常5゜?40゜,好ましくは10゜?35゜,最も好ましくは15゜?30゜である。平均チルト角が,上記範囲から外れた場合,偏光板と組み合わせて液晶表示装置や有機EL表示装置に備えた際に視野角特性の低下等の恐れがある。ここで平均チルト角とは,液晶フィルムの膜厚方向における液晶分子のダイレクターとフィルム平面との成す角度の平均値を意味するものである。」([0033],[0034])

(エ) 「【0037】
まず,本発明に使用する二色性色素について説明する。
二色性色素とは,分子の長軸方向における吸光度と,短軸方向における吸光度とが異なる性質を有する色素をいう。このような性質を有するものであれば,二色性色素は特に制限されず,染料であっても顔料であってもよい。この染料は複数種用いてもよく,顔料も複数種用いてもよく,染料と顔料とを組み合わせてもよい。更に,このような二色性色素は,重合性官能基を有していてもよく,液晶性を有していてもよい。」([0036])

(オ) 「【0062】
本発明の液晶フィルムからなる位相差板の構成成分である重合性液晶材料について説明する。
このような重合性液晶化合物としては,重合により配向状態を固定化し得る液晶性の化合物であれば特に制限されず,公知の重合性の液晶化合物を適宜利用できる。また,このような重合性液晶化合物としては,基材上においてネマチックハイブリッド配向させて,その配向状態を固定化し得る重合性液晶化合物を用いることが好ましい。更に,このような重合性液晶化合物としては,例えば,低分子の重合性液晶化合物(重合性基を有する液晶性モノマー),高分子の重合性液晶化合物(重合性基を有する液晶性ポリマー),及びこれらの混合物等を適宜利用することができる。」([0060],[0061])

(カ) 「【0076】
また,本発明では,位相差Δn・dが,下記式(1)および(2)を満足する必要がある。
0.80<Δn・d(500)/Δn・d(550)<1.00 (1)
1.00<Δn・d(600)/Δn・d(550)<1.15 (2)
特に,0.80<Δn・d(500)/Δn・d(550)<1.00を満足する方法として,重合性高分子化合物が二種類以上のメソゲン基を有する化合物であり,そのうち少なくとも一つのメソゲン基を液晶層のホモジニアス配向の遅相軸に対して略直交方向に配向させることで,長波長になるほど,位相差が大きくなることが,特開2002-267838号公報や特開2010-31223号公報に記載されている。
ここで,メソゲン(mesogen)基のメソゲンは,中間相(=液晶相)形成分子(「液晶辞典」,日本学術振興会,情報科学用有機材料第142委員会,液晶部会編,1989年)とも称され,液晶性分子構造とほぼ同義である。本発明では,棒状液晶におけるメソゲン基(棒状液晶の液晶性に関する分子構造)を採用することが好ましい。」([0075])

(キ) 「【0126】
本発明の位相差板を適用する有機エレクトロルミネセンス装置(有機EL表示装置)について説明する。・・・(中略)・・・
【0129】
このような構成の有機EL表示装置において,有機発光層は,厚さ10nm程度ときわめて薄い膜で形成されている。このため,有機発光層も透明電極と同様,光をほぼ完全に透過する。その結果,非発光時に透明基板の表面から入射し,透明電極と有機発光層とを透過して金属電極で反射した光が,再び透明基板の表面側へと出るため,外部から視認したとき,有機EL表示装置の表示面が鏡面のように見える。
電圧の印加によって発光する有機発光層の表面側に透明電極を備えるとともに,有機発光層の裏面側に金属電極を備えてなる有機エレクトロルミネセンス発光体を含む有機EL表示装置において,透明電極の表面側に偏光板を設けるとともに,これら透明電極と偏光板との間に位相差板を設けることができる。
【0130】
位相差板および偏光板は,外部から入射して金属電極で反射してきた光を偏光する作用を有するため,その偏光作用によって金属電極の鏡面を外部から視認させないという効果がある。特に,位相差板を1/4波長板で構成し,かつ直線偏光板と位相差板を組み合わせた円偏光板を形成させることにより,金属電極の鏡面を完全に遮蔽することができる。
すなわち,この有機EL表示装置に入射する外部光は,偏光板により直線偏光成分のみが透過する。この直線偏光は位相差板により一般に楕円偏光となるが,とくに位相差板が1/4波長板でしかも偏光板と位相差板との偏光方向のなす角がπ/4のときには円偏光となる。
【0131】
この円偏光は,透明基板,透明電極,有機薄膜を透過し,金属電極で反射して,再び有機薄膜,透明電極,透明基板を透過して,位相差板に再び直線偏光となる。そして,この直線偏光は,偏光板の偏光方向と直交しているので,偏光板を透過できない。その結果,金属電極の鏡面を完全に遮蔽することができる。直線偏光板に1/4波長板を組み合わせた円偏光板を形成させるという点で,前記偏光板の吸収軸と前記1/4波長板の遅相軸とのなす角度をpとしたとき,本発明の位相差板がネマチックハイブリッド配向の場合は,通常40°?50°,好ましくは42?48°,更に好ましくは略45°の範囲である。上記以外の範囲においては,反射防止効果の低下による画質の低下の恐れがある。」([0125]ないし[0130])

(ク) 「【0133】
(実施例1)
〈重合性液晶化合物(A)と二色性色素の混合溶液の調製〉
下記式で表される示される二種類以上のメソゲン基を有する化合物(21)と棒状液晶化合物(22)(審決注:【0134】に示された各化合物の構造式からみて,「二種類以上のメソゲン基を有する化合物(21)」及び「棒状液晶化合物(22)」という記載における()中の符号は誤記であり,正しくはそれぞれ「二種類以上のメソゲン基を有する化合物(22)」及び「棒状液晶化合物(21)」と解される。これ以降の「化合物(21)」及び「棒状液晶化合物(22)」という記載についても同様。)をそれぞれ準備した。なお,化合物(21)と棒状液晶化合物(22)は,特開2002-267838号公報に記載された方法により製造した。
【0134】
【化20】

【0135】
次に,前記化合物(21)2質量%,及び前記棒状液晶化合物(22)17.6質量%の質量比で混合し,第一の混合物(重合性液晶化合物(A)とする)を得た。次いで,前記第一の混合物に対して,二色性色素(長瀬産業社製,G-241,トリスアゾ色素,吸収極大波長560nm)を総量100質量部に対して0.08質量部となる割合で添加し,更に,重合開始剤(スイスのCiba-Geigy社製の商品名「イルガキュア651」,室温(25℃)条件下で固体)を,前記重合性液晶化合物(A)と二色性色素の総量100質量部に対して3質量部となる割合で添加して,前記重合性液晶化合物(A),二色性色素と前記重合開始剤とを混合してなる第二の混合物(固体)を得た。
次いで,前記第二の混合物を,クロロベンゼン(溶媒)中に溶解させて,孔径0.45μmのポリテトラフルオロエチレン製フィルターで不溶分をろ過して,前記重合性液晶化合物(A),二色性色素と重合開始剤と溶媒を含む混合溶液(第三の混合物)を得た。なお,このような第三の混合物の製造に際しては,前記第三の混合物中の溶媒の含有量が67質量%となり,前記重合性液晶化合物(B),二色性色素と前記重合開始剤との総量が33質量%となるようにして溶媒を用いた。
【0136】
〈液晶フィルムの作製〉
配向基板は以下のようにして調製した。厚さ38μmのポリエチレンナフタレートフィルム(帝人(株)製PEN)を15cm角に切り出し,アルキル変性ポリビニルアルコール(PVA:(株)クラレ製,MP-203)の5重量%溶液(溶媒は,水とイソプロピルアルコールの重量比1:1の混合溶媒)をスピンコート法により塗布し,50℃のホットプレートで30分乾燥した後,120℃のオーブンで10分間加熱した。次いで,レーヨンのラビング布でラビングした。得られたPVA層の膜厚は1.2μmであった。ラビング時の周速比(ラビング布の移動速度/基板フィルムの移動速度)は4とした。
【0137】
このようにして得られた配向基板に,上述のようにして得られた前記化合物(21),前記棒状液晶化合物(22),二色性色素と重合開始剤と溶媒を含む混合溶液(第三の混合物)をスピンコート法により塗布(コーティング)して,塗膜(ウエット膜厚:5μm)を形成し,塗膜と配向基板との積層体を得た。
次に,前記塗膜と配向基板の積層体を圧力:1013hPa,温度:72℃から10分かけて62℃まで徐冷し,前記塗膜から溶媒を乾燥除去した(溶媒除去工程)後,室温まで急冷した。
次いで,前記溶媒除去工程により乾燥した後の塗膜に対して,照度:15mW/cm^(2)の高圧水銀ランプを用いて,積算照射量が200mJ/cm^(2)となるようにして,紫外光(ただし,365nmの波長の光を測定した光量)を照射することにより,前記液晶化合物を重合(硬化)して配向状態を固定化し,配向基板上に配向状態が固定化された液晶フィルムが積層された積層体(液晶フィルムと配向基板の積層体)を得た。
【0138】
基板として用いたポリエチレンナフタレートフィルムは大きな複屈折を持ち光学用フィルムとして好ましくないため,得られた配向基板上の光学異方性層を,紫外線硬化型接着剤を介して,トリアセチルセルロース(TAC)フィルム(富士フィルム社製Z-TAC,40um(審決注:「um」は誤記であり,正しくは「μm」と解される。))に転写した。すなわち,ポリエチレンナフタレートフィルム上の硬化した液晶フィルム層の上に,接着剤を5μm厚となるように塗布し,TACフィルムでラミネートして,TACフィルム側から紫外線を照射して接着剤を硬化させた後,配向基板を剥離した。
得られた光学フィルム(液晶フィルム/接着剤層/TACフィルム)を偏光顕微鏡下で観察すると,ディスクリネーションがなくモノドメインの均一な配向であることがわかった。
【0139】
TACフィルムと液晶フィルムの積層体とTACフィルム単体の面内方向のリターデーション(Δnd)の波長分散特性をAxometrix社製の商品名「Axoscan」を用いて測定し,両者の引き算から,液晶フィルム層の複屈折の波長分散特性を測定した。図16に,液晶フィルム層の複屈折の波長分散特性を,表2に光学特性結果をまとめる。550nmでのΔn・dは138nmであり,Δn・d(500)/Δn・d(550)=0.96,Δn・d(600)/Δn・d(550)=1.03であった。
また,得られた光学フィルムをラビング方向(液晶分子の配向方向)に傾けたときのレターデーション(Δnd)を「Axoscan」を用いて測定した。測定結果を図17に示す。図17に示す通り,左右非対称な視野角依存性を持っており,傾斜配向していることが分かった。得られた光学フィルムは,特開平11-194325号公報の実施例に記載された方法により,この液晶フィルムが均一チルト配向ではなく,ネマチックハイブリッド配向フィルムであることを確認した。平均チルト角が34度であった。
【0140】
〈有機ELディスプレイの反射防止性能評価〉
得られた光学フィルムを,市販の偏光板1(住友化学社製SRW062)と,偏光板1の吸収軸2と光学フィルム3内の液晶層4のチルト方向5が45度になるようにアクリル系粘着剤を介して貼り合わせて円偏光板7を作製した。貼り合わせる際,TACフィルム6側が偏光板1と接するように積層させた。偏光板1と光学フィルム3の液晶層4の積層状態での断面構造の概要図を図18に示す。光学フィルム3内の液晶層は,液晶分子がより立ち上がっている面が偏光板1側になり,液晶分子がより寝ている面が偏光板1と反対側になる。
【0141】
得られた円偏光板7を,市販の有機ELディスプレイの有機EL素子の透明ガラス基板上にアクリル系粘着剤を介して貼着し,本発明の有機EL表示装置を作成した。その結果,円偏光板7を配置しない場合に比べ,大幅な外光反射防止効果を発揮し,視認性の優れた有機EL表示装置が得られることが分かった。
また,外光を入射した際の反射率の視野角特性をELDIM社製反射視野角測定装置EZ-CONTRASTにて測定した結果と正面反射率を図19,表2に示す。」([0132]ないし[0140])

(ケ) 「【0153】
【表2】

」([0152])

(コ) 「【図1】

・・・(中略)・・・
【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】

【図19】

」(図1,図14ないし19)

イ 先願1の当初明細書等に記載された発明
【0140】に記載された「液晶層4」が,【0138】等に記載された「液晶フィルム層」のことを指していることは明らかであるから,先願1の当初明細書等には,実施例1に対応する発明として,次の発明が記載されており,当該発明は,先願1を優先権主張の基礎とした国際出願の当初明細書等にも記載されていると認められる。

「下記式で表される二種類以上のメソゲン基を有する化合物(22)及び棒状液晶化合物(21)を,2質量%及び17.6質量%の質量比で混合して第一の混合物とし,当該第一の混合物に対して,長瀬産業社製の二色性色素G-241(トリスアゾ色素,吸収極大波長560nm)を総量100質量部に対して0.08質量部となる割合で添加し,更に,Ciba-Geigy社製の重合開始剤イルガキュア651を,前記第一の混合物と前記二色性色素の総量100質量部に対して3質量部となる割合で添加して第二の混合物とし,当該第二の混合物を,クロロベンゼンに溶解させて,孔径0.45μmのポリテトラフルオロエチレン製フィルターで不溶分をろ過して,第三の混合物を得,
厚さ38μmの帝人(株)製ポリエチレンナフタレートフィルムを15cm角に切り出し,(株)クラレ製のアルキル変性ポリビニルアルコールMP-203の5重量%溶液をスピンコート法により塗布し,50℃のホットプレートで30分乾燥した後,120℃のオーブンで10分間加熱し,次いで,レーヨンのラビング布で周速比(ラビング布の移動速度/基板フィルムの移動速度)を4とするラビングをして,膜厚1.2μmのPVA層を有する配向基板を得,
当該配向基板に前記第三の混合物をスピンコート法により塗布して,ウエット膜厚5μmの塗膜を形成して,塗膜と配向基板との積層体を得,当該積層体を圧力:1013hPa,温度:72℃から10分かけて62℃まで徐冷し,前記塗膜から溶媒を乾燥除去した後,室温まで急冷し,次いで,前記塗膜に対して,照度:15mW/cm^(2)の高圧水銀ランプを用いて,積算照射量が200mJ/cm^(2)となるように紫外光(ただし,365nmの波長の光を測定した光量)を照射することにより,前記液晶化合物を重合して配向状態を固定化し,配向基板上に配向状態が固定化された液晶フィルムが積層された積層体を得,前記液晶フィルム層の上に,接着剤を5μm厚となるように塗布し,厚さ40μmの富士フィルム社製のトリアセチルセルロースフィルムZ-TACでラミネートして,前記トリアセチルセルロースフィルムZ-TAC側から紫外線を照射して接着剤を硬化させた後,配向基板を剥離して,液晶フィルム層/接着剤層/TACフィルムという層構成の光学フィルムを得,
当該光学フィルムと住友化学社製の偏光板SRW062とを,偏光板の吸収軸と光学フィルム内の液晶フィルム層のチルト方向が45度になるように,アクリル系粘着剤によって前記トリアセチルセルロースフィルムZ-TAC側が偏光板と接するように積層して貼り合わせることで作製される,円偏光板であって,
前記液晶フィルム層は,平均チルト角が34度のネマチックハイブリッド配向フィルムであり,その複屈折の波長分散特性が下記[液晶フィルム層の複屈折の波長分散特性を示すグラフ]に示すとおりであり,550nmでのリタデーション(Δnd)は138nmであり,
前記光学フィルムは,ラビング方向(液晶分子の配向方向)に傾けたときのレターデーション(Δnd)が下記[光学フィルムをラビング方向に傾けたときのレターデーション(Δnd)を示すグラフ]に示すとおりである,
有機ELディスプレイの外光反射防止用円偏光板。
[二種類以上のメソゲン基を有する化合物(22)及び棒状液晶化合物(21)の式]

[液晶フィルム層の複屈折の波長分散特性を示すグラフ]

[光学フィルムをラビング方向に傾けたときのレターデーション(Δnd)を示すグラフ]

」(以下,「先願1発明」という。)

(2)対比
ア 先願1発明の「住友化学社製の偏光板SRW062」が,「偏光子」を有する偏光板であることは,当業者に自明である。
また,先願1発明の「光学フィルム」中の「液晶フィルム層」は,その材質からみて,「液晶層」といえるところ,当然「互いに反対側に位置する第1面と第2面とを有」している。
さらに,前記(1)ア(ア)で摘記した先願1の当初明細書等の【0004】,【0005】,【0014】,【0016】の記載等から把握されるように,先願1発明の「光学フィルム」は,その層構成中の「液晶フィルム層」の波長分散特性やネマチックハイブリッド配向構造によって,有色の偏光が生じるのを抑制したり,斜め方向での光漏れの発生を抑制したりする機能を有するものであるから,「補償フィルム」といえる。そして,当該「光学フィルム」は,「偏光子」を有する住友化学社製の偏光板SRW062と貼り合わされているから,「偏光子の一面に位置」している。
したがって,先願1発明は,「偏光子と,前記偏光子の一面に位置し,互いに反対側に位置する第1面と第2面とを有する液晶層を含む補償フィルムと,を含」むという本件発明の発明特定事項に相当する構成を具備している。

イ 先願1発明の「液晶フィルム層」は,形成方法からみて,その主たる形成材料が,「二種類以上のメソゲン基を有する化合物(22)」と「棒状液晶化合物(21)」が共重合した共重合体であるところ,当該共重合体を構成する「二種類以上のメソゲン基を有する化合物(22)」及び「棒状液晶化合物(21)」は,その構造式からみて,いずれも「液晶」である。
そして,先願1発明の「液晶フィルム層は,平均チルト角が34度のネマチックハイブリッド配向フィルムであ」るとの構成は,「液晶」である「二種類以上のメソゲン基を有する化合物(22)」及び「棒状液晶化合物(21)」が,「液晶フィルム層」の表面に対して厚さ方向に向かって斜めに傾いた光軸を有し,「液晶フィルム層」の表面に対する傾斜角が,第1面から第2面まで「液晶フィルム層」の厚さ方向に沿って次第に大きくなっていることにほかならない。
したがって,先願1発明は,「液晶層は,前記液晶層の表面に対して厚さ方向に向かって斜めに傾いた光軸を有する液晶を含み,前記液晶層の表面に対する前記液晶の傾斜角は,前記第1面から前記第2面まで前記液晶層の厚さ方向に沿って次第に大きくな」るという本件発明の発明特定事項に相当する構成を具備している。

ウ 先願1発明の[液晶フィルム層の複屈折の波長分散特性を示すグラフ]から,先願1発明の「液晶フィルム層」の450nm,550nm及び650nm波長に対する面内位相差R_(e)(450nm),R_(e)(550nm)及びR_(e)(650nm)が,本件発明の「R_(e)(450nm)<R_(e)(550nm)≦R_(e)(650nm)」という関係式1,及び「0.72≦R_(e)(450nm)/R_(e)(550nm)≦0.92」という関係式2aを満たしていることが把握される。
また,先願1発明は,「有機ELディスプレイの外光反射防止用円偏光板」であるから,これを「反射防止フィルム」及び,「有機発光装置用反射防止フィルム」ということができる。
したがって,先願1発明は,「液晶層の450nm,550nmおよび650nm波長に対する面内位相差(R_(e))は,関係式1及び2aを満たす反射防止フィルムであ」り,「有機発光装置用反射防止フィルム」であるという本件発明の発明特定事項に相当する構成を具備している。

エ 前記アないしウに照らせば,本件発明と先願1発明は,
「偏光子と,
前記偏光子の一面に位置し,互いに反対側に位置する第1面と第2面とを有する液晶層を含む補償フィルムと,
を含み,
前記液晶層は,前記液晶層の表面に対して厚さ方向に向かって斜めに傾いた光軸を有する液晶を含み,
前記液晶層の表面に対する前記液晶の傾斜角は,前記第1面から前記第2面まで前記液晶層の厚さ方向に沿って次第に大きくなり,
前記液晶層の450nm,550nmおよび650nm波長に対する面内位相差(R_(e))は,下記関係式1及び2aを満たす反射防止フィルムである有機発光装置用反射防止フィルム。
[関係式1]
R_(e)(450nm)<R_(e)(550nm)≦R_(e)(650nm)
[関係式2a]
0.72≦R_(e)(450nm)/R_(e)(550nm)≦0.92
前記関係式1及び2aにおいて,
R_(e)(450nm)は,450nm波長の入射光に対する面内位相差であり,
R_(e)(550nm)は,550nm波長の入射光に対する面内位相差であり,
R_(e)(650nm)は,650nm波長の入射光に対する面内位相差である。」
である点で一致し,次の点で一応相違する。

相違点1:
本件発明では,正面から60度側面方向で観察される色ずれが7.0未満であり,正面から60度側面方向で測定された反射率が1.0%以下であるのに対して,
先願1発明では,正面から60度側面方向で観察される色ずれの値,及び正面から60度側面方向で測定された反射率の値が定かでない点。

(3)相違点1について
ア 先願1発明において,液晶フィルム層は,(株)クラレ製のアルキル変性ポリビニルアルコールMP-203で形成されたPVA層を配向層としたものであり,液晶として専ら棒状液晶化合物を用いたものである。先願1の当初明細書等には,最小傾斜角(プレチルト角)について開示されていないものの,特開2002-207121号公報に記載された,(株)クラレ製のアルキル変性ポリビニルアルコールMP-203で形成された「配向膜A-1」(【0090】)上に形成された棒状液晶化合物「LC-1」(【0097】ないし【0101】)の最小傾斜角(【0107】の【表2】の「配向層界面でのチルト角」の値)を参酌すると,先願1発明の液晶フィルム層の最小傾斜角は1度程度と推認される。また,先願1発明の平均チルト角は34度であるから,最小傾斜角が1度程度であるなら,最大傾斜角は67度程度となるものと推認される。なお,当該推認されるプレチルト角及び最大傾斜角の値は,それぞれ先願1の当初明細書の【0034】に記載された,「0?30゜」及び「30゜?70゜」という好ましいとされた数値範囲とも整合する。

イ 前記アで推認した先願1発明の最小傾斜角及び最大傾斜角の値が,本件明細書の【0088】に記載された「実施例3」の最小傾斜角及び最大傾斜角とほぼ同程度であることからみて,先願1発明の「正面から60度側面方向で観察される色ずれ」及び「正面から60度側面方向で測定された反射率」は,それぞれ本件明細書の【0088】に記載された「実施例3」の「正面から60度側面方向で観察される色ずれ」及び「正面から60度側面方向で測定された反射率」である「4.5」程度及び「0.93%」程度となる蓋然性が高いと認められる。
あるいは,先願1の当初明細書等の【0034】には,液晶フィルムの一方のフィルム界面付近において液晶分子のダイレクターとフィルム平面との成す角度の好ましい範囲が30゜?70゜であり,当該フィルム面の反対のフィルム界面付近においては当該角度が0?30゜であることが記載されているところ,これら好ましい範囲の中でいかなる値とするのかは技術の具体化手段における微差にすぎないというべきである。したがって,先願1発明において,最小傾斜角及び最大傾斜角の値を,それぞれ「3度」及び「30度ないし65度という数値範囲内の値」とすることは,技術の具体化手段における微差にすぎないところ,そのような構成とした先願1発明の「正面から60度側面方向で観察される色ずれ」及び「正面から60度側面方向で測定された反射率」の値は,本件明細書に記載された実施例1ないし4及び6からみて,それぞれ「3.7ないし6.4」程度及び「0.59%ないし0.93%」程度になるものと強く推認される。

ウ 以上のとおり,相違点1は相違点でない,あるいは,優れた視野角特性を得るための具体化手段における微差にすぎない。
したがって,本件発明は,先願1発明と同一あるいは実質的に同一である。

(4)小括
本件発明は,先願1発明と同一あるいは実質的に同一であるから,特許法29条の2の規定により,特許を受けることができない。


6 当審拒絶理由3(拡大先願同一(その2))についての判断
(1)先願2
ア 先願2の当初明細書等の記載
当審拒絶理由3で引用された先願2(特願2014-35265号(特開2015-161714号))は,本件優先日より前に出願され,本件優先日より後に出願公開がされた特許出願であって,本件出願の発明者は先願2の発明者と同一ではなく,本件出願の出願の時において,本件出願の出願人が先願2の出願人とも同一でない。
しかるに,先願2の当初明細書等には次の記載がある。
(ア) 「【技術分野】
【0001】
本発明は,液晶表示装置や有機エレクトロルミネセンス表示装置等に用いられる位相差板,および楕円偏光板,並びにそれを用いた画像表示装置,液晶表示装置,有機エレクトロルミネセンス表示装置等の表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
位相差板は,偏光(直線偏光,円偏光,楕円偏光)を得るために用いられる光学要素であり,・・・(中略)・・・偏光板と1/4波長板とを組み合わせた有機EL表示装置用反射防止フィルム用途・・・(中略)・・・等,多くの用途で用いられる。位相差板は,無機材料(方解石,雲母,水晶)を薄く切り出した板や固有複屈折率が高い高分子フィルムを延伸したフィルム,棒状あるいは円盤状液晶材料を液晶状態において配向固定化したフィルムが用いられている。
・・・(中略)・・・
【0004】
位相差板は,特定波長の光(単色光)に対して,必要な光学的機能を示すように設計されることが普通であるが,上記した・・・(中略)・・・有機EL表示装置用反射防止フィルムにおいて用いられる1/4波長板は,可視光領域である測定波長(λとする)400?700nm,好ましくは400?780nmにおいて直線偏光を円偏光に,円偏光を直線偏光に変換する作用を有する必要がある。これを位相差板一枚で実現しようとすると,測定波長400?700nm,好ましくは400?780nmにおいて位相差が測定波長の1/4波長,すなわちλ/4(nm)となることがその位相差板の理想である。
【0005】
一般に1/4波長板としては,上記した位相差板材料等が用いられるが,これらの材料は位相差に波長分散性(波長依存性)がある。ここで,測定波長が短波長ほど大きく,長波長ほど小さくなる分散特性を「正の分散」,測定波長が短波長ほど小さく,長波長ほど大きくなる分散特性を「負の分散」と定義する。図1に,測定波長550nmでの複屈折値(Δn(550nm))を1として規格化した可視光領域での各波長における複屈折(Δn(λ))の波長分散特性を示す。一般に高分子フィルムの複屈折は,図1の実線に示すように,測定波長が短波長ほど大きく,長波長ほど小さくなる。すなわち,「正の分散」特性を有する。それに対し,前記した理想的な1/4波長板は,図1の点線に示すように,複屈折が測定波長に対し比例関係にあるため,測定波長が長いほど複屈折が大きくなる「負の分散」特性を有する。従って,高分子フィルム1枚だけで測定波長λ=400?700nmにおいて理想的な「負の分散」特性を得ることは困難であり,一般の高分子フィルムからなる「正の分散」特性を有する位相差板を可視光域の光が混在している白色光に使用すると,各波長での偏光状態の分布が生じ,有色の偏光が生じてしまう。
・・・(中略)・・・
【0013】
しかしながら,上述の円偏光板は広い波長領域で1/4波長板を達成することにより,円偏光板の法線方向から入射する光においては,理想に近い円偏光を得ることが出来るが,斜め方向から入射する光においては,円偏光から大きく外れた楕円偏光に変換され,・・・(中略)・・・有機EL表示装置における反射防止膜では斜め方向での光漏れを発生させるおそれがある。・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は,上記現状に鑑みてなされたものであり,フィルム1枚で,所望の複屈折波長分散特性を有する位相差板,及びそれを用いた楕円偏光板,広視野角画像表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果,重合性液晶化合物の複屈折波長分散特性の最適化とフィルム製造条件の最適化を行うことにより,複屈折Δnが,可視光領域のある波長領域において,測定波長が長いほど大きくなる「負の分散」特性を有するネマチックハイブリッド配向構造を固定化した新規な位相差板を見出した。すなわち,本発明は以下のとおりである。
【0017】
[1]複屈折Δnが,可視光領域において,測定波長が長いほど大きくなる「負の分散」特性を有する位相差板であって,前記位相差板がネマチックハイブリッド配向構造を固定化した液晶フィルムからなることを特徴とする位相差板。
・・・(中略)・・・
【0020】
[5]特定波長における位相差板の法線方向でのリターデーションの比が,下記式(1)および(2)を満足することを特徴とする前記[1]?[4]のいずれかに記載の位相差板。
0.80<Δn・d(500)/Δn・d(550)<1.00 (1)
1.00<Δn・d(600)/Δn・d(550)<1.15 (2)
(ここで,リターデーションとは,複屈折Δnと位相差板の膜厚dの積で表され,Δn・d(500),Δn・d(550),Δn・d(600)は,それぞれ波長500nm,550nm,600nmにおける位相差板のリターデーションである。)
【0021】
・・・(中略)・・・[8]前記[1]?[7]のいずれかに記載の位相差板と偏光板を貼り合わせたことを特徴とする楕円偏光板。・・・(中略)・・・
【発明の効果】
【0022】
・・・(中略)・・・そのような液晶配向構造と複屈折波長分散性を有し,かつ,測定波長550nmにおける位相差を1/4波長にした位相差板は,正面及び斜め方向において広い波長領域において円偏光を直線偏光に,直線偏光を円偏光に変換する位相差板として機能するので,液晶表示装置に用いれば,明るさ,コントラスト比等の表示特性が正面及び斜め方向において改善され,有機エレクトロルミネセンス表示装置に用いれば,鏡面反射に対する高い防止性能を広視野角において大幅に改善される。」

(イ) 「【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】一般的な高分子フィルムと理想の複屈折Δnの波長分散との比較を示す図である。
・・・(中略)・・・
【図7】ネマチックハイブリッド液晶フィルムの配向構造の概念図である。
【図8】液晶分子のチルト角及びツイスト角を説明するための概念図である。
【図9】実施例1,実施例2,実施例3,実施例4,比較例1で作製した液晶フィルムの複屈折Δnの波長分散特性を示す図である。
【図10】実施例1で作製した液晶フィルムを液晶の配向方向に沿って傾けて測定した見かけのリターデーション値の測定結果である。
【図11】実施例1,比較例2で作製した円偏光板の層構成を示す図である。
【図12】実施例1で作製した円偏光板を有機EL表示装置に搭載した時の全方位から見たときの反射率の視野角特性を測定した図である。」

(ウ) 「【発明を実施するための形態】
【0024】
以下,本発明を詳細に説明する。
本発明の位相差板は,重合性液晶化合物をネマチックハイブリッド配向構造を固定化した液晶フィルムからなることを特徴とする位相差板であり,複屈折Δnが,可視光領域において,測定波長が長いほど大きくなる「負の分散」特性を有する位相差板である。
【0025】
本発明の位相差板は,複屈折Δnが可視光領域において,測定波長が長いほど大きくなる「負の分散」特性を有する位相差板である。可視光領域とは,一般的に380nm?780nmの領域を表すが,より具体的には,500nm,550nm,600nmにおける高分子フィルムのリターデーションをΔn・d(500),Δn・d(550),Δn・d(600)としたとき,
0.80<Δn・d(500)/Δn・d(550)<1.00 (1)
かつ
1.00<Δn・d(600)/Δn・d(550)<1.15 (2)
であることが好ましい。ここで,リターデーションとは,複屈折Δnと位相差板の膜厚dの積(Δn・d)で表される。・・・(中略)・・・これらの値から外れた場合は,例えば,1/4波長板として使用する場合においては,400?700nmの直線偏光をこのフィルムに入射した際,得られる偏光状態はある特定の波長では完全な円偏光が得られるものの,それ以外の波長では大きく円偏光からずれてしまうといった問題が生じる。
・・・(中略)・・・
【0027】
また,本発明の位相差板は,ネマチックハイブリッド配向構造を固定化した液晶フィルムからなる。図7に本発明のネマチックハイブリッド配向構造かなる液晶フィルムの断面構造を示す。ネマチックハイブリッド配向構造を有するフィルムは,重合性液晶化合物のダイレクターがフィルムの膜厚方向のすべての場所において異なる角度を向いている。したがって本発明の位相差板は,フィルムという構造体として見た場合,もはや光軸は存在しない。図8に液晶分子のチルト角,ツイスト角の定義を示す。ここで液晶フィルムのチルト方向(軸)とは,図7に示すようにb面側から液晶フィルムを通してc面を見た際に,液晶分子ダイレクターとダイレクターのc面への投影成分が成す角度が鋭角となる方向で,かつ投影成分と平行な方向をチルト方向(軸)と定義する。
【0028】
前記液晶フィルムにおいて固定化されているネマチックハイブリッド配向構造としては,液晶フィルムの一方のフィルム界面付近において液晶分子のダイレクターとフィルム平面との成す角度が絶対値として通常20゜?90゜,好ましくは30゜?70゜であり,当該フィルム面の反対のフィルム界面付近においては当該角度が絶対値として通常0゜?50゜,好ましくは0゜?30゜であることが望ましい。また,当該配向構造における平均チルト角としては,絶対値として通常5゜?40゜,好ましくは10゜?35゜,最も好ましくは15゜?30゜である。平均チルト角が,上記範囲から外れた場合,偏光板と組み合わせて液晶表示装置や有機EL表示装置に備えた際に視野角特性の低下等の恐れがある。ここで平均チルト角とは,液晶フィルムの膜厚方向における液晶分子のダイレクターとフィルム平面との成す角度の平均値を意味するものである。
・・・(中略)・・・
【0046】
また,本発明では,位相差Δn・dが,下記式(1)および(2)を満足する必要がある。
0.80<Δn・d(500)/Δn・d(550)<1.00 (1)
1.00<Δn・d(600)/Δn・d(550)<1.15 (2)
特に,0.80<Δn・d(500)/Δn・d(550)<1.00を満足する方法として,重合性高分子化合物が二種類以上のメソゲン基を有する化合物であり,そのうち少なくとも一つのメソゲン基を液晶層のホモジニアス配向の遅相軸に対して略直交方向に配向させることで,長波長になるほど,位相差が大きくなることが,特開2002-267838号公報や特開2010-31223号公報に記載されている。ここで,メソゲン(mesogen)基のメソゲンは,中間相(=液晶相)形成分子(「液晶辞典」,日本学術振興会,情報科学用有機材料第142委員会,液晶部会編,1989年)とも称され,液晶性分子構造とほぼ同義である。本発明では,棒状液晶におけるメソゲン基(棒状液晶の液晶性に関する分子構造)を採用することが好ましい。棒状液晶におけるメソゲン基については,各種文献(例えば,Flussige Kristalle in Tabellen誌,VEB Deutscher Verlag furGrundstoffindustrie, Leipzig(1984年),第2巻)に記載がある。
・・・(中略)・・・
【0058】
次に配向基板について説明する。
配向基板としては,まず平滑な平面を有するものが好ましく,有機高分子材料からなるフィルムやシート,ガラス板,金属板などを挙げることができる。コストや連続生産性の観点からは有機高分子からなる材料を用いることが好ましい。・・・(中略)・・・
【0064】
これらフィルムは製造方法によっては改めて配向能を発現させるための処理を行わなくとも本発明に使用される液晶物質に対して十分な配向能を示すものもあるが,配向能が不十分,または配向能を示さない等の場合には,必要によりこれらのフィルムを適度な加熱下に延伸する,フィルム面をレーヨン布等で一方向に擦るいわゆるラビング処理を行う,フィルム上にポリイミド,ポリビニルアルコール,シランカップリング剤等の公知の配向剤からなる配向膜を設けてラビング処理を行う,フィルム上に光配向膜を塗布し適度な温度で加熱後,直線偏光紫外線を照射して配向膜を形成する,酸化珪素等の斜方蒸着処理,あるいはこれらを適宜組み合わせるなどして配向能を発現させたフィルムを用いても良い。また表面に規則的な微細溝を設けたアルミニウム,鉄,銅などの金属板や各種ガラス板等も配向基板として使用することができる。この中でも,液晶の分野においては,基板に対して布等で擦るラビング処理を行うことが一般的である。ラビング条件を規定する重要な設定値としては周速比がある。これはラビング布をロールに巻きつけて回転させつつ基板を擦る場合の,布の移動速度と基板の移動速度の比を表す。本発明においては,通常周速比が50以下,より好ましくは25以下,特に好ましくは10以下である。周速比が50より大きい場合,ラビングの効果が強すぎて液晶材料が完全に配向しきれず,配向不十分となり特性低下に繋がる恐れがある。
・・・(中略)・・・
【0092】
本発明の位相差板を適用する有機エレクトロルミネセンス装置(有機EL表示装置)について説明する。・・・(中略)・・・
【0095】
このような構成の有機EL表示装置において,有機発光層は,厚さ10nm程度ときわめて薄い膜で形成されている。このため,有機発光層も透明電極と同様,光をほぼ完全に透過する。その結果,非発光時に透明基板の表面から入射し,透明電極と有機発光層とを透過して金属電極で反射した光が,再び透明基板の表面側へと出るため,外部から視認したとき,有機EL表示装置の表示面が鏡面のように見える。
電圧の印加によって発光する有機発光層の表面側に透明電極を備えるとともに,有機発光層の裏面側に金属電極を備えてなる有機エレクトロルミネセンス発光体を含む有機EL表示装置において,透明電極の表面側に偏光板を設けるとともに,これら透明電極と偏光板との間に位相差板を設けることができる。
【0096】
位相差板および偏光板は,外部から入射して金属電極で反射してきた光を偏光する作用を有するため,その偏光作用によって金属電極の鏡面を外部から視認させないという効果がある。特に,位相差板を1/4波長板で構成し,かつ直線偏光板と位相差板を組み合わせた円偏光板を形成させることにより,金属電極の鏡面を完全に遮蔽することができる。
すなわち,この有機EL表示装置に入射する外部光は,偏光板により直線偏光成分のみが透過する。この直線偏光は位相差板により一般に楕円偏光となるが,とくに位相差板が1/4波長板でしかも偏光板と位相差板との偏光方向のなす角がπ/4のときには円偏光となる。
【0097】
この円偏光は,透明基板,透明電極,有機薄膜を透過し,金属電極で反射して,再び有機薄膜,透明電極,透明基板を透過して,位相差板に再び直線偏光となる。そして,この直線偏光は,偏光板の偏光方向と直交しているので,偏光板を透過できない。その結果,金属電極の鏡面を完全に遮蔽することができる。直線偏光板に1/4波長板を組み合わせた円偏光板を形成させるという点で,前記偏光板の吸収軸と前記1/4波長板の遅相軸とのなす角度をpとしたとき,本発明の位相差板がネマチックハイブリッド配向の場合は,通常40°?50°,好ましくは42?48°,更に好ましくは略45°の範囲である。上記以外の範囲においては,反射防止効果の低下による画質の低下の恐れがある。」

(エ) 「 【0099】
(実施例1)
〈重合性液晶化合物(A)の混合溶液の調製〉
下記式で表される示される二種類以上のメソゲン基を有する化合物(21)と棒状液晶化合物(22)(審決注:【0100】に示された各化合物の構造式からみて,「二種類以上のメソゲン基を有する化合物(21)」及び「棒状液晶化合物(22)」という記載における()中の符号は誤記であり,正しくはそれぞれ「二種類以上のメソゲン基を有する化合物(22)」及び「棒状液晶化合物(21)」と解される。これ以降の「化合物(21)」及び「棒状液晶化合物(22)」という記載についても同様。)をそれぞれ準備した。なお,化合物(21)と棒状液晶化合物(22)は,特開2002-267838号公報に記載された方法により製造した。
【0100】
【化3】

【0101】
次に,前記化合物(21)2重量部,及び前記棒状液晶化合物(22)17.6重量部の質量比で混合し,第一の混合物(重合性液晶化合物(A)とする)を得た。次いで,前記第一の混合物に対して,重合開始剤(スイスのCiba-Geigy社製の商品名「イルガキュア651」,室温(25℃)条件下で固体)を,前記重合性液晶化合物(A)の総量100質量部に対して3質量部となる割合で添加して,前記重合性液晶化合物(A)と前記重合開始剤とを混合してなる第二の混合物(固体)を得た。
次いで,前記第二の混合物を,クロロベンゼン(溶媒)中に溶解させて,孔径0.45μmのポリテトラフルオロエチレン製フィルターで不溶分をろ過して,前記重合性液晶化合物(A)と重合開始剤と溶媒を含む混合溶液(第三の混合物)を得た。なお,このような第三の混合物の製造に際しては,前記第三の混合物中の溶媒の含有量が67質量%となり,前記重合性液晶化合物(A)と前記重合開始剤との総量が33質量%となるようにして溶媒を用いた。
【0102】
〈液晶フィルムの作製〉
配向基板は以下のようにして調製した。厚さ38μmのポリエチレンナフタレートフィルム(帝人(株)製PEN)を15cm角に切り出し,アルキル変性ポリビニルアルコール(PVA:(株)クラレ製,MP-203)の5重量%溶液(溶媒は,水とイソプロピルアルコールの重量比1:1の混合溶媒)をスピンコート法により塗布し,50℃のホットプレートで30分乾燥した後,120℃のオーブンで10分間加熱した。次いで,レーヨンのラビング布でラビングした。得られたPVA層の膜厚は1.2μmであった。ラビング時の周速比(ラビング布の移動速度/基板フィルムの移動速度)は4とした。
このようにして得られた配向基板に,上述のようにして得られた前記化合物(21),前記棒状液晶化合物(22)と重合開始剤と溶媒を含む混合溶液(第三の混合物)をスピンコート法により塗布(コーティング)して,塗膜(ウエット膜厚:5μm)を形成し,塗膜と配向基板との積層体を得た。
次に,前記塗膜と配向基板の積層体を圧力:1013hPa,温度:72℃から10分かけて62℃まで徐冷し,前記塗膜から溶媒を乾燥除去した(溶媒除去工程)後,室温まで急冷した。
次いで,前記溶媒除去工程により乾燥した後の塗膜に対して,照度:15mW/cm^(2)の高圧水銀ランプを用いて,積算照射量が200mJ/cm^(2)となるようにして,紫外光(ただし,365nmの波長の光を測定した光量)を照射することにより,前記液晶化合物を重合(硬化)して配向状態を固定化し,配向基板上に配向状態が固定化された液晶フィルムが積層された積層体(液晶フィルムと配向基板の積層体)を得た。
【0103】
基板として用いたポリエチレンナフタレートフィルムは大きな複屈折を持ち光学用フィルムとして好ましくないため,得られた配向基板上の光学異方性層を,紫外線硬化型接着剤を介して,トリアセチルセルロース(TAC)フィルム(富士フィルム社製Z-TAC,40um(審決注:「um」は誤記であり,正しくは「μm」と解される。))に転写した。すなわち,ポリエチレンナフタレートフィルム上の硬化した液晶フィルム層の上に,接着剤を5μm厚となるように塗布し,TACフィルムでラミネートして,TACフィルム側から紫外線を照射して接着剤を硬化させた後,配向基板を剥離した。
得られた光学フィルム(液晶フィルム/接着剤層/TACフィルム)を偏光顕微鏡下で観察すると,ディスクリネーションがなくモノドメインの均一な配向であることがわかった。
【0104】
TACフィルムと液晶フィルムの積層体とTACフィルム単体の面内方向のリターデーション(Δnd)の波長分散特性をAxometrix社製の商品名「Axoscan」を用いて測定し,両者の引き算から,液晶フィルム層の複屈折の波長分散特性を測定した。図9に,液晶フィルム層の複屈折の波長分散特性を,表1に光学特性結果をまとめる。550nmでのΔn・dは138nmであり,Δn・d(500)/Δn・d(550)=0.98,Δn・d(600)/Δn・d(550)=1.01であった。
また,得られた光学フィルムをラビング方向(液晶分子の配向方向)に傾けたときのレターデーション(Δnd)を「Axoscan」を用いて測定した。測定結果を図10に示す。図10に示す通り,左右非対称な視野角依存性を持っており,傾斜配向していることが分かった。得られた光学フィルムは,特開平11-194325号公報の実施例に記載された方法により,この液晶フィルムが均一チルト配向ではなく,ネマチックハイブリッド配向フィルムであることを確認した。平均チルト角が34度であった。
【0105】
〈有機ELディスプレイの反射防止性能評価〉
得られた光学フィルムを,市販の偏光板4(住友化学社製SRW062)と,偏光板4の吸収軸5と光学フィルム6内の液晶層7のチルト方向8が45度になるようにアクリル系粘着剤を介して貼り合わせて円偏光板10を作製した。貼り合わせる際,TACフィルム9側が偏光板4と接するように積層させた。偏光板4と光学フィルム6の液晶層7の積層状態での断面構造の概要図を図11に示す。光学フィルム6内の液晶層は,液晶分子がより立ち上がっている面が偏光板4側になり,液晶分子がより寝ている面が偏光板4と反対側になる。
得られた円偏光板10を,市販の有機ELディスプレイの有機EL素子の透明ガラス基板上にアクリル系粘着剤を介して貼着し,本発明の有機EL表示装置を作成した。その結果,円偏光板10を配置しない場合に比べ,大幅な外光反射防止効果を発揮し,視認性の優れた有機EL表示装置が得られることが分かった。
また,外光を入射した際の反射率の視野角特性をELDIM社製反射視野角測定装置EZ-CONTRASTにて測定した結果と正面反射率を図12,表1に示す。
・・・(中略)・・・
【0115】
【表1】



(オ) 「【図1】

・・・(中略)・・・
【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】



イ 先願2の当初明細書等に記載された発明
【0105】に記載された「液晶層7」が,【0103】等に記載された「液晶フィルム層」のことを指していることは明らかであるから,先願2の当初明細書等には,実施例1に対応する発明として,次の発明が記載されている。

「下記式で表される二種類以上のメソゲン基を有する化合物(22)及び棒状液晶化合物(21)を,2質量%及び17.6質量%の質量比で混合して第一の混合物とし,当該第一の混合物に対して,Ciba-Geigy社製の重合開始剤イルガキュア651を,第一の混合物の総量100質量部に対して3質量部となる割合で添加して第二の混合物とし,当該第二の混合物を,クロロベンゼンに溶解させて,孔径0.45μmのポリテトラフルオロエチレン製フィルターで不溶分をろ過して,第三の混合物を得,
厚さ38μmの帝人(株)製ポリエチレンナフタレートフィルムを15cm角に切り出し,(株)クラレ製のアルキル変性ポリビニルアルコールMP-203の5重量%溶液をスピンコート法により塗布し,50℃のホットプレートで30分乾燥した後,120℃のオーブンで10分間加熱し,次いで,レーヨンのラビング布で周速比(ラビング布の移動速度/基板フィルムの移動速度)を4とするラビングをして,膜厚1.2μmのPVA層を有する配向基板を得,
当該配向基板に前記第三の混合物をスピンコート法により塗布して,ウエット膜厚5μmの塗膜を形成して,塗膜と配向基板との積層体を得,当該積層体を圧力:1013hPa,温度:72℃から10分かけて62℃まで徐冷し,前記塗膜から溶媒を乾燥除去した後,室温まで急冷し,次いで,前記塗膜に対して,照度:15mW/cm^(2)の高圧水銀ランプを用いて,積算照射量が200mJ/cm^(2)となるように紫外光(ただし,365nmの波長の光を測定した光量)を照射することにより,前記液晶化合物を重合して配向状態を固定化し,配向基板上に配向状態が固定化された液晶フィルムが積層された積層体を得,前記液晶フィルム層の上に,接着剤を5μm厚となるように塗布し,厚さ40μmの富士フィルム社製のトリアセチルセルロースフィルムZ-TACでラミネートして,前記トリアセチルセルロースフィルムZ-TAC側から紫外線を照射して接着剤を硬化させた後,配向基板を剥離して,液晶フィルム層/接着剤層/TACフィルムという層構成の光学フィルムを得,
当該光学フィルムと住友化学社製の偏光板SRW062とを,偏光板の吸収軸と光学フィルム内の液晶フィルム層のチルト方向が45度になるように,アクリル系粘着剤によって前記トリアセチルセルロースフィルムZ-TAC側が偏光板と接するように積層して貼り合わせることで作製される,円偏光板であって,
前記液晶フィルム層は,平均チルト角が34度のネマチックハイブリッド配向フィルムであり,その複屈折の波長分散特性が下記[液晶フィルム層の複屈折の波長分散特性を示すグラフ]に示すとおりであり,550nmでのリタデーション(Δnd)は138nmであり,
前記光学フィルムは,ラビング方向(液晶分子の配向方向)に傾けたときのレターデーション(Δnd)が下記[光学フィルムをラビング方向に傾けたときのレターデーション(Δnd)を示すグラフ]に示すとおりである,
有機ELディスプレイの外光反射防止用円偏光板。
[二種類以上のメソゲン基を有する化合物(22)及び棒状液晶化合物(21)の式]

[液晶フィルム層の複屈折の波長分散特性を示すグラフ]

[光学フィルムをラビング方向に傾けたときのレターデーション(Δnd)を示すグラフ]

」(以下,「先願2発明」という。)

(2)対比
ア 先願2発明の「住友化学社製の偏光板SRW062」が,「偏光子」を有する偏光板であることは,当業者に自明である。
また,先願2発明の「光学フィルム」中の「液晶フィルム層」は,その材質からみて,「液晶層」といえるところ,当然「互いに反対側に位置する第1面と第2面とを有」している。
さらに,前記(1)ア(ア)で摘記した先願2の当初明細書等の【0004】,【0005】,【0013】,【0015】の記載等から把握されるように,先願2発明の「光学フィルム」は,その層構成中の「液晶フィルム層」の波長分散特性やネマチックハイブリッド配向構造によって,有色の偏光が生じるのを抑制したり,斜め方向での光漏れの発生を抑制したりする機能を有するものであるから,「補償フィルム」といえる。そして,当該「光学フィルム」は,「偏光子」を有する住友化学社製の偏光板SRW062と貼り合わされているから,「偏光子の一面に位置」している。
したがって,先願2発明は,「偏光子と,前記偏光子の一面に位置し,互いに反対側に位置する第1面と第2面とを有する液晶層を含む補償フィルムと,を含」むという本件発明の発明特定事項に相当する構成を具備している。

イ 先願2発明の「液晶フィルム層」は,形成方法からみて,その主たる形成材料が,「二種類以上のメソゲン基を有する化合物(22)」と「棒状液晶化合物(21)」が共重合した共重合体であるところ,当該共重合体を構成する「二種類以上のメソゲン基を有する化合物(22)」及び「棒状液晶化合物(21)」は,その構造式からみて,いずれも「液晶」である。
そして,先願2発明の「液晶フィルム層は,平均チルト角が34度のネマチックハイブリッド配向フィルムであ」るとの構成は,「液晶」である「二種類以上のメソゲン基を有する化合物(22)」及び「棒状液晶化合物(21)」が,「液晶フィルム層」の表面に対して厚さ方向に向かって斜めに傾いた光軸を有し,「液晶フィルム層」の表面に対する傾斜角が,第1面から第2面まで「液晶フィルム層」の厚さ方向に沿って次第に大きくなっていることにほかならない。
したがって,先願2発明は,「液晶層は,前記液晶層の表面に対して厚さ方向に向かって斜めに傾いた光軸を有する液晶を含み,前記液晶層の表面に対する前記液晶の傾斜角は,前記第1面から前記第2面まで前記液晶層の厚さ方向に沿って次第に大きくな」るという本件発明の発明特定事項に相当する構成を具備している。

ウ 先願2発明の[液晶フィルム層の複屈折の波長分散特性を示すグラフ]から,先願2発明の「液晶フィルム層」の450nm,550nm及び650nm波長に対する面内位相差R_(e)(450nm),R_(e)(550nm)及びR_(e)(650nm)が,本件発明の「R_(e)(450nm)<R_(e)(550nm)≦R_(e)(650nm)」という関係式1,及び「0.72≦R_(e)(450nm)/R_(e)(550nm)≦0.92」という関係式2aを満たしていることが把握される。
また,先願2発明は,「有機ELディスプレイの外光反射防止用円偏光板」であるから,これを「反射防止フィルム」及び,「有機発光装置用反射防止フィルム」ということができる。
したがって,先願2発明は,「液晶層の450nm,550nmおよび650nm波長に対する面内位相差(R_(e))は,関係式1及び2aを満たす反射防止フィルムであ」り,「有機発光装置用反射防止フィルム」であるという本件発明の発明特定事項に相当する構成を具備している。

エ 前記アないしウに照らせば,本件発明と先願2発明は,
「偏光子と,
前記偏光子の一面に位置し,互いに反対側に位置する第1面と第2面とを有する液晶層を含む補償フィルムと,
を含み,
前記液晶層は,前記液晶層の表面に対して厚さ方向に向かって斜めに傾いた光軸を有する液晶を含み,
前記液晶層の表面に対する前記液晶の傾斜角は,前記第1面から前記第2面まで前記液晶層の厚さ方向に沿って次第に大きくなり,
前記液晶層の450nm,550nmおよび650nm波長に対する面内位相差(R_(e))は,下記関係式1及び2aを満たす反射防止フィルムである有機発光装置用反射防止フィルム。
[関係式1]
R_(e)(450nm)<R_(e)(550nm)≦R_(e)(650nm)
[関係式2a]
0.72≦R_(e)(450nm)/R_(e)(550nm)≦0.92
前記関係式1及び2aにおいて,
R_(e)(450nm)は,450nm波長の入射光に対する面内位相差であり,
R_(e)(550nm)は,550nm波長の入射光に対する面内位相差であり,
R_(e)(650nm)は,650nm波長の入射光に対する面内位相差である。」
である点で一致し,次の点で一応相違する。

相違点2:
本件発明では,正面から60度側面方向で観察される色ずれが7.0未満であり,正面から60度側面方向で測定された反射率が1.0%以下であるのに対して,
先願2発明では,正面から60度側面方向で観察される色ずれの値,及び正面から60度側面方向で測定された反射率の値が定かでない点。

(3)相違点2について
ア 先願2発明において,液晶フィルム層は,(株)クラレ製のアルキル変性ポリビニルアルコールMP-203で形成されたPVA層を配向層としたものであり,液晶として専ら棒状液晶化合物を用いたものである。先願2の当初明細書等には,最小傾斜角(プレチルト角)について開示されていないものの,特開2002-207121号公報に記載された,(株)クラレ製のアルキル変性ポリビニルアルコールMP-203で形成された「配向膜A-1」(【0090】)上に形成された棒状液晶化合物「LC-1」(【0097】ないし【0101】)の最小傾斜角(【0107】の【表2】の「配向層界面でのチルト角」の値)を参酌すると,先願2発明の液晶フィルム層の最小傾斜角は1度程度と推認される。また,先願2発明の平均チルト角は34度であるから,最小傾斜角が1度程度であるなら,最大傾斜角は67度程度となるものと推認される。なお,当該推認されるプレチルト角及び最大傾斜角の値は,それぞれ先願2の当初明細書の【0028】に記載された,「0?30゜」及び「30゜?70゜」という好ましいとされた数値範囲とも整合する。

イ 前記アで推認した先願2発明の最小傾斜角及び最大傾斜角の値が,本件明細書の【0088】に記載された「実施例3」の最小傾斜角及び最大傾斜角とほぼ同程度であることからみて,先願2発明の「正面から60度側面方向で観察される色ずれ」及び「正面から60度側面方向で測定された反射率」は,それぞれ本件明細書の【0088】に記載された「実施例3」の「正面から60度側面方向で観察される色ずれ」及び「正面から60度側面方向で測定された反射率」である「4.5」程度及び「0.93%」程度となる蓋然性が高いと認められる。
あるいは,先願2の当初明細書等の【0028】には,液晶フィルムの一方のフィルム界面付近において液晶分子のダイレクターとフィルム平面との成す角度の好ましい範囲が30゜?70゜であり,当該フィルム面の反対のフィルム界面付近においては当該角度が0?30゜であることが記載されているところ,これら好ましい範囲の中でいかなる値とするのかは技術の具体化手段における微差にすぎないというべきであるから,先願2発明において,最小傾斜角及び最大傾斜角の値を,それぞれ「3度」及び「30度ないし65度という数値範囲内の値」とすることは,技術の具体化手段における微差にすぎない。しかるに,そのような構成とした先願2発明の「正面から60度側面方向で観察される色ずれ」及び「正面から60度側面方向で測定された反射率」の値は,本件明細書に記載された実施例1ないし4及び6からみて,それぞれ「3.7ないし6.4」程度及び「0.59%ないし.93%」程度になるものと強く推認される。

ウ 以上のとおり,相違点2は相違点でない,あるいは,優れた視野角特性を得るための具体化手段における微差にすぎない。
したがって,本件発明は,先願2発明と同一あるいは実質的に同一である。

(4)小括
本件発明は,先願2発明と同一あるいは実質的に同一であるから,特許法29条の2の規定により,特許を受けることができない。


7 当審拒絶理由4(進歩性欠如)についての判断
(1) 引用例
ア 引用文献1の記載
当審拒絶理由4で引用された引用文献1(国際公開第2007/142037号)は,本件出願の優先権主張の日(以下,「本件優先日」という。)より前に,電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであるところ,当該引用文献1には次の記載がある。(下線部は,後述する引用文献1発明の認定に特に関係する箇所を示す。)
(ア) 「[技術分野]
本発明は,ツイストネマチック配向構造またはハイブリッドネマチック配向構造を固定化した液晶層を有する光学異方素子からなる楕円偏光板およびその製造方法に関する。さらに本発明は,前記楕円偏光板を用いた液晶表示装置及びエレクトロルミネッセンス表示装置に関する。

[背景技術]
・・・(中略)・・・
液晶表示装置は,薄型軽量,低消費電力という利点を有するが,例えば・・・(中略)・・・TN型液晶表示装置においては特に透過モードにおいて,液晶分子の持つ屈折率異方性のために斜めから見た時に表示コントラストが低下する,表示色が変化する,あるいは階調が反転するなどの視野角の問題が避けられずその改善が望まれているなど,表示性能の優れた液晶表示装置は未だ十分に実現されていないのが現状である。
・・・(中略)・・・
また,TN型液晶表示装置の視野角特性を解決させる方法として,従来,TNモード(液晶のねじれ角90度)を用いた透過型液晶表示装置では,光学補償フイルムを液晶セルと上下偏光板の間に配置する提案がなされ,実用化されている。例えば,ディスコチック液晶をハイブリッド配向させた光学補償フィルムを液晶セルと上下偏光板の間に配置した構成,また液晶性高分子をハイブリッドネマチック配向させた光学補償フィルムを液晶セルと上下偏光板の間に配置した構成などが挙げられる(特許文献5?7)。
また半透過反射型液晶表示装置においては,透過モードにおいて,表示原理的に1枚または複数枚の1軸性位相差フィルムと偏光板からなる円偏光板を,液晶セルの上下に配置させる必要がある。
この半透過反射型液晶表示装置の透過モードの視野角拡大には液晶セルとバックライトの間に配置された円偏光板にネマチックハイブリッド配向させた光学補償フィルムを用いる方法が提案されている(特許文献8)。
光学特性の高機能化の一方で,sTN型液晶表示装置と同様,近年大幅に普及している携帯電話や携帯型情報端末機器に代表されるように,薄型化・軽量化の要望も非常に高まっている。それに伴い,表示装置に用いられる光学フィルムについても,薄型化・軽量化が切望されている。・・・(中略)・・・
前記光学素子を積層する場合,支持基板フィルムのない場合は取り扱い性,耐久性等に不安がある。一方,偏光素子を有する1つの支持基板フィルム上に直接,光学素子を積層できれば,粘・接着剤層を省略することにより一層の薄型化が図れる他,耐久性等においても非常に優れたフィルムが達成できるが,該光学素子を積層するため工業的な製造方法については未確立であった。」(明細書1ページ4行ないし3ページ下から3行)

(イ) 「[発明の開示]
本発明の目的は,楕円偏光板の層構造を簡略化することによって,厚みが抑えられ,高温,高湿条件下においても剥がれなどの不具合が生じることがなく,さらには光学異方素子の配向軸角度を偏光板の吸収軸に対して任意に設定して,長尺フィルム形態から連続的に貼り合わせ可能な楕円偏光板と,その製造方法並びにそれを使用した液晶表示装置およびエレクトロルミネッセンス表示装置を提供することにある。

すなわち本発明は,透光性保護フィルム,偏光素子および光学異方素子とが,この順に積層されている楕円偏光板であって,該光学異方素子が少なくとも正の一軸性を示す液晶性組成物を液晶状態においてツイストネマチック配向またはハイブリッドネマチック配向させた後,該配向を固定化した液晶層を含むことを特徴とする楕円偏光板,に関する。」(明細書4ページ8ないし19行)

(ウ) 「[発明の効果]
本発明の楕円偏光板は,光学異方素子と偏光素子との貼り合わせ工程において,光学異方素子層に損傷が起こり難く,光学異方素子の接着性に優れる。さらに楕円偏光板を構成するラミネ一ト層の数が少ないために,耐久性試験において界面で剥がれや泡の発生がない。偏光素子との貼り合わせ工程においても,長尺フィルム形態で貼合することができるために,従来法より貼合工程が合理化できる利点がある。」(明細書5ページ16ないし下から5行)

(エ) 「[発明を実施するための最良の形態]
以下,本発明を詳述する。
本発明では,光学異方素子を偏光素子に直接あるいは接着剤を介して接着することにより楕円偏光板を製造する。そうすることによって,従来のような偏光素子の両側がトリァセチルセルロースフィルム等の光学用フィルムで保護された偏光板に光学異方素子を貼合した楕円偏光板よりも層数を減らすことができる。その結果として,楕円偏光板の総厚を薄く出来るとともに,熱あるいは湿度による各層の伸縮挙動の違いに起因する収縮ひずみの影響が小さくなり,貼り合わせた界面での剥がれ等の不具合をなくすことが可能である。
本発明で得られる楕円偏光板の層構成は,以下のような(I)または(II)のいずれかの構成からなり,必要に応じて透光性オーバーコート層等の部材が更に追加されるが,これらに本発明において正の一軸性を示す液晶性組成物を液晶状態においてツイストネマチック配向またはハイブリッドネマチック配向させ,該配向を固定化した液晶層からなる光学異方素子を使用する点を除いては特に制限は無い。厚みの薄い楕円偏光板を得ると言う点では,(I)または(II)のいずれの構成を用いても構わない。
(I)透光性保護フィルム/接着剤層1/偏光素子/接着剤層2/光学異方素子
(II)透光性保護フィルム/接着剤層1/偏光素子/光学異方素子」(明細書5ページ下から4行ないし6ページ14行)

(オ) 「まず本発明に用いられる液晶性組成物について説明する。
本発明の楕円偏光板に使用される光学異方素子は,少なくとも光学的に正の一軸性を示す液晶性組成物を液晶状態においてツイストネマチック配向またはハイブリッドネマチック配向させた後,該配向を固定化した液晶層を含むものである。具体的には,配向基板上で配向させた液晶性高分子を主とする液晶性組成物をガラス転移温度(Tg)以下に冷却し,配向を固定化することによって得ることができる。そのような液晶性組成物は,光学的に正の一軸性を示す液晶性高分子を主体とした液晶性高分子組成物からなり,液晶性高分子としては,溶融時に液晶性を示すサーモトロピック液晶ポリマーが用いられる。使用されるサーモトロピック液晶ポリマーは,溶融状態(液晶状態)からTg以下に冷却しても液晶相の分子配列状態が保持されることが必要である。
液晶性高分子の溶融時の液晶相は,スメクチック,ネマチック,ツイストネマチック,コレステリックなどのいずれの分子配列構造であってもよく,さらに配向基板付近及び空気界面付近ではそれぞれホモジニアス配向及びホメオトロピック配向状態であり,液晶性高分子の平均のダイレクターがフィルムの法線方向から傾斜しているいわゆるハイブリッド配向であってもよい。
・・・(中略)・・・
液晶性組成物のTgは,配向固定化後の配向安定性に影響を及ぼすため,室温以上であることが好ましく,さらに50℃以上であることが好ましい。Tgは,液晶性組成物に用いられる液晶性高分子や低分子液晶,カイラル剤や必要により各種の化合物等により調整できるが,前記のような架橋手段によってよい。
前記の必要により添加される各種の化合物としては,本発明に使用される液晶性組成物の配向を阻害せず,本発明の目的を逸脱しない化合物であればよく,液晶性組成物の層の形成を均一にならしめるためのレベリング剤,界面活性剤,安定剤を挙げることができる。」(明細書6ページ16行ないし8ページ末行)

(カ) 「次に配向基板について説明する。
配向基板としては,・・・(中略)・・・高分子フィルムを使用することができる。また,高分子フィルムの表面に液晶性組成物の配向を制御するために,ポリビニルアルコールやポリイミド誘導体等の樹脂からなる有機薄膜を形成してもよい。前記高分子フィルムは,ラビング処理などの配向処理が施されて配向基板に供せられる。
上記のように,配向基板上に液晶性組成物を配向させるには通常ラビング処理が施される。ラビング処理は,長尺の配向基板のMD方向に対して所定の任意の角度で行うことができる。MD方向に対するラビング方向の角度は,光学異方素子の機能に応じて適宜設定されるが,色補償板としての機能が要求される場合は,通常,MD方向に対して斜め方向にラビングされるのが好ましい。斜め方向の角度としては,一45度?+45度の範囲が好ましい。」(明細書9ページ1ないし18行)

(キ) 「液晶性組成物を配向基板のラビング処理面に展開し液晶性組成物の層を形成する方法としては,例えば,液晶性組成物を適宜の溶剤に溶解させ塗布・乾燥させる方法,あるいは,Tダイなどにより直接液晶性組成物を溶融押し出しする方法などが挙げられる。膜厚の均一性などの点からは,溶液塗布して乾燥する方法が適当である。・・・(中略)・・・
塗布後,適宜な乾燥方法により溶剤を除去した後,所定温度で所定時間加熱して液晶性組成物をツイストネマチック配向またはハイブリッドネマチック配向させた後,Tg以下に冷却するか,あるいは用いた液晶性組成物に適した方法,例えば,光照射およびZまたは加熱処理で反応(硬化)を行い,該配向を固定化することにより配向構造が固定化された液晶性組成物層を形成することができる。」(明細書9ページ25行ないし10ページ6行)

(ク) 「本発明の楕円偏光板に使用される光学異方素子は,ツイストネマチック配向またはハイブリッドネマチック配向の液晶配向構造が固定化された液晶層を含む。
・・・(中略)・・・
ハイブリッドネマチック配向液晶層は,液晶性組成物が液晶状態において形成した平均チルト角が5°?45°のハイブリッドネマチック配向構造を固定化したハイブリッドネマチック配向液晶層を少なくとも含む層である。
ここで,本発明で言うハイブリッドネマチック配向とは,液晶分子がハイブリッドネマチック配向しており,このときの液晶分子のダイレクターと液晶層平面のなす角が該層上面と下面とで異なった配向形態を言う。したがって,上面界面近傍と下面界面近傍とで該ダイレクターと該層平面との成す角度が異なつていることから,該層の上面と下面との間では該角度が連続的に変化しているものといえる。
またハイブリッドネマチック配向状態を固定化したハイブリッドネマチック配向液晶層は,液晶分子のダイレクターが当該層の膜厚方向すベての場所において異なる角度を向いている。したがって当該層は,層という構造体として見た場合,もはや光軸は存在しない。
また本発明でいう平均チルト角とは,ハイブリッドネマチック配向液晶層の膜厚方向における液晶分子のダイレクターとハイブリッドネマチック配向液晶層平面との成す角度の平均値を意味するものである。本発明に供されるハイブリッドネマチック配向液晶層は,該層の一方の界面付近ではダイレクターと層平面との成す角度が,絶対値として通常25?90度,好ましくは35?85度,さらに好ましくは45?80度の角度をなしており,当該面の反対においては,絶対値として通常0?20度,好ましくは0?10度の角度を成しており,その平均チルト角は,絶対値として通常5?45度,好ましくは15?43度,さらに好ましくは25?40度である。平均チルト角が上記範囲から外れた場合,斜め方向から見た場合のコントラストの低下等の恐れがあり望ましくない。なお平均チルト角は,クリスタルローテーション法を応用して求めることができる。」(明細書10ページ23行ないし12ページ24行)

(ケ) 「本発明の液晶表示装置におけるハイブリッドネマチック配向液晶層の具体的な配置条件について説明するが,より具体的な配置条件を説明するにあたり,図1?3を用いてハイブリッドネマチック配向液晶層の上下,該液晶層のチルト方向および液晶セル層のプレチルト方向をそれぞれ以下に定義する。
まずハイブリッドネマチック配向液晶層からなる光学異方素子の上下を,該光学異方素子を構成するハイブリッドネマチック界面近傍における液晶分子ダイレクタ一と当該液晶層平面との成す角度によってそれぞれ定義すると,液晶分子のダイレクターと前記液晶層平面との成す角度が鋭角側で25?90度の角度を成している面をb面とし,該角度が鋭角側で0?20度の角度を成している面をc面とする。
この光学異方素子のb面から液晶層を通してc面を見た場合,液晶分子ダイレクタ一とダイレクターのc面への投影成分が成す角度が鋭角となる方向で,かつ投影成分と平行な方向をハイブリッドネマチック配向液晶層のチルト方向と定義する(図1及び図2)。」(明細書13ページ14ないし下から4行)

(コ) 「本発明に使用できる偏光素子は,特に制限されず,各種のものを使用できる。・・・(中略)・・・これらのなかでもポリビニルアルコール系フィルムを延伸して二色性材料(沃素,染料)を吸着・配向したものが好適に用いられる。偏光素子の厚さも特に制限されないが,5?50μm程度が一般的である。
・・・(中略)・・・
偏光素子の一方の面に設けられる透光性保護フィルムとしては,光学的に等方なフィルムが好ましく,・・・(中略)・・・楕円偏光板とした場合の平面性,耐熱性や耐湿性などからトリアセチルセルロース,シクロオレフイン系ポリマーが好ましい。透光性保護フィルムの厚さは,一般には1?100μmが好ましく,特に5?50μmとするのが好ましい。」(明細書15ページ下から5行ないし16ページ24行)

(サ) 「次に,本発明の楕円偏光板を適用する有機エレクトロルミネセンス表示装置(有機EL表示装置)について説明する。
一般に,有機EL表示装置は,透明基板上に透明電極と有機発光層と金属電極とを順に積層して発光体(有機エレクトロルミネセンス発光体)を形成している。・・・(中略)・・・
このような構成の有機EL表示装置において,有機発光層は,厚さ10nm程度ときわめて薄い膜で形成されている。このため,有機発光層も透明電極と同様,光をほぼ完全に透過する。その結果,非発光時に透明基板の表面から入射し,透明電極と有機発光層とを透過して金属電極で反射した光が,再び透明基板の表面側へと出るため,外部から視認したとき,有機EL表示装置の表示面が鏡面のように見える。
電圧の印加によって発光する有機発光層の表面側に透明電極を備えるとともに,有機発光層の裏面側に金属電極を備えてなる有機エレクトロルミネセンス発光体を含む有機EL表示装置において,透明電極の表面側に偏光板を設けるとともに,これら透明電極と偏光板との間に位相差板を設けることができる。
位相差板および偏光板は,外部から入射して金属電極で反射してきた光を偏光する作用を有するため,その偏光作用によって金属電極の鏡面を外部から視認させないという効果がある。特に,位相差板を1/4波長板で構成し,かつ偏光板と位相差板との偏光方向のなす角をπ/4に調整すれば,金属電極の鏡面を完全に遮蔽することができる。
すなわち,この有機EL表示装置に入射する外部光は,偏光板により直線偏光成分のみが透過する。この直線偏光は位相差板により一般に楕円偏光となるが,とくに位相差板が1/4波長板でしかも偏光板と位相差板との偏光方向のなす角がπ/4のときには円偏光となる。
この円偏光は,透明基板,透明電極,有機薄膜を透過し,金属電極で反射して,再び有機薄膜,透明電極,透明基板を透過して,位相差板に再び直線偏光となる。そして,この直線偏光は,偏光板の偏光方向と直交しているので,偏光板を透過できない。その結果,金属電極の鏡面を完全に遮蔽することができる。
本発明の楕円偏光板を有機EL表示装置に適用する場合は,前記記載の通り,外部光の反射を防止するため,観察者から見て,有機EL表示装置の観察者側(前方側)配置した方が良い。」(明細書24ページ18行ないし26ページ4行)

(シ) 「<実施例1>
(積層体Aの作製)
TACフィルム(40μm,富士写真フィルム社製)を室温で,2質量%の水酸化カリウム水溶液中に5分間浸漬して鹸化処理を行い,流水中で洗浄した後乾燥させた。延伸したポリビニルアルコールに沃素を吸着させた偏光素子の一方の面に,接着剤層1としてアクリル系接着剤を用いて,験化したTACフィルムを貼り合わせ,積層体Aを作製した。総膜厚は約65μmであり,通常のもの(105μm)よりも薄くすることが出来た。
・・・(中略)・・・
<実施例7>
(液晶性高分子溶液C,積層体Pの作製)
6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸100mmo1,テレフタル酸100mmo1,クロロヒドロキノン50mmo1,tert-ブチルカテコール50mmo1,および無水酢酸600mmo1を用いて窒素雰囲気下で,140℃で2時間アセチル化反応を行った。引き続き270℃で2時間,280℃で2時間,300℃で2時間重合を行った。次に得られた反応生成物をテトラクロロエタンに溶解したのち,メタノールで再沈殿を行って精製し,液晶性ポリエステル(ポリマー1)40.0gを得た。この液晶性ポリエステルの対数粘度は0.35(dl/g),液晶相としてネマチック相をもち,等方相-液晶相転移温度は300℃以上,ガラス転移点は135℃であった。
ポリマー1の8質量%のγ-ブチロラクトン溶液(液晶性高分子溶液C)を調製した。
650mm幅,厚み100μmの長尺のPEEKフィルムを搬送しながら,レーヨン布を巻き付けた150mmφのラビングロールを斜めに設定し,高速で回転させることにより連続的にラビングを行い,ラビング角度45°の配向基板フイルムを得た。ここで,ラビング角度はラビング面を上からみたときにMD方向から反時計回り方向の角度とする。液晶性高分子溶液Cを,前記配向基板フィルム上に,ダイコーターを用いて連続的に塗布・乾燥した後,150℃×10分間加熱処理をして液晶性高分子を配向させ,次いで室温に冷却して配向を固定化して,液晶性高分子層とPEEKフィルムとからなる積層体Pを得た。得られた積層体Pの厚みは0.6μmであった。
配向基板として用いたPEEKフィルムは大きな複屈折を有するため,積層体Pの形態では液晶性高分子層の光学パラメータの測定が困難なため,トリアセチルセルロース(TAC)フィルム上に次のようにして液晶性高分子層を転写した。
すなわち,PEEKフィルム上の液晶性高分子層上に,光学用の紫外線硬化型接着剤を5μm厚となるように塗布し,TACフィルム(40μm厚,富士写真フィルム社製)でラミネートして,TACフィルム側から紫外線を照射して接着剤を硬化させた後,PEEKフィルムを剥離し,液晶性高分子層/接着剤層/TACフィルムからなる積層体を得た。得られた積層体について王子計測機器(株)製自動複屈折計KOBRA21ADHによりパラメータ測定した結果,この液晶性高分子層は,ハイブリッドネマチック配向構造を形成しており,当該層のΔndは90nm,平均チルト角は28度であった。
(楕円偏光板Qの作製)
積層体Pの液晶性高分子層(光学異方素子)上に市販のUV硬化型接着剤(UV-3400,東亞合成(株)製)を5μmの厚さに接着剤層2として塗布し,この上に実施例1で作製した積層体Aの偏光素子側をラミネ一トし,約600mJのUV照射により該接着剤層2を硬化させた。この後,PEEKフィルム/光学異方/接着剤層2/偏光素子/接着剤層1/TACフィルムが一体となった積層体からPEEKフィルムを剥離することにより光学異方素子を積層体A上に転写し,TACフィルム/接着剤層1/偏光素子/接着剤層2/光学異方素子からなる楕円偏光板Qを得た。該楕円偏光板Qの総厚みは,75μmであった。
この楕円偏光板Qを光学検査したところ,シミや傷などの損傷は見られなかった。この楕円偏光板Qの光学異方素子側をアクリル系粘着剤を介してガラス板に貼り付け,60℃90%RHの恒温恒湿槽に入れ,500時間経過後に取り出して観察したところ,剥がれや泡の発生などの異常は一切認められなかった。」(明細書27ページ4行ないし34ページ末行)

(ス) 「[図面の簡単な説明]
図1は,液晶分子のチルト角及びツイスト角を説明するための概念図である。
図2は,光学異方素子を構成する液晶性フィルムの配向構造の概念図である。」(明細書38ページ4ないし6行)

(セ) 「

」(図面1/4ページ)

イ 引用文献1に記載された発明
前記ア(サ)で摘記した記載中の「位相差板」が,前記ア(エ)で摘記した記載中の「光学異方素子」を指していることが,技術的にみて明らかである。また,前記ア(サ)で摘記した記載中の「位相差板を1/4波長板で構成し,かつ偏光板と位相差板との偏光方向のなす角をπ/4に調整」した「楕円偏光板」とは,「円偏光板」にほかならない。さらに,前記ア(セ)に示した図2から,液晶分子のダイレクターと液晶層平面のなす角が,b面とc面との間のどの厚さの位置でも,0ないし90度の範囲にあること,すなわち,液晶分子のダイレクターと液晶層平面のなす角が同じ符号を有していることが看取される。
したがって,前記ア(ア)ないし(セ)で摘記した記載から,引用文献1に次の発明が記載されていると認められる。

「透光性保護フィルム/接着剤層1/偏光素子/接着剤層2/光学異方素子なる層構成を有し,
前記透光性保護フィルムは,トリアセチルセルロース又はシクロオレフイン系ポリマーにより形成され,
前記偏光素子は,ポリビニルアルコール系フィルムを延伸して二色性材料を吸着・配向したものであり,
前記光学異方性素子は,液晶層を含み,当該液晶層は,光学的に正の一軸性を示す液晶性組成物を配向基板のラビング処理面に塗布して乾燥し,ハイブリッドネマチック配向させた後,該配向を固定化することにより形成されたものであり,前記ハイブリッドネマチック配向とは,液晶分子のダイレクターと液晶層平面のなす角が,前記液晶層の上面と下面とで異なり,前記液晶層の上面と下面との間では連続的に変化している配向状態のことであり,
前記液晶層の一方の面付近では,前記液晶分子のダイレクターと前記液晶層平面とのなす角度が45?80度であり,当該面の反対においては0?10度であり,
前記光学異方素子を1/4波長板として構成し,前記偏光素子と前記1/4波長板との偏光方向のなす角をπ/4とした,
有機エレクトロルミネセンス表示装置において,外部光の反射を防止するために用いられる円偏光板。」(以下,当該発明を「引用文献1発明」という。)

(2)対比
ア 引用文献1発明の「偏光素子」,「液晶層」,「光学異方素子」,「液晶分子」及び「液晶分子のダイレクターと液晶層平面のなす角」は,その作用,機能等からみて,本件発明の「偏光子」,「液晶層」,「補償フィルム」,「液晶」及び「『液晶層の表面に対する』『液晶の傾斜角』」にそれぞれ対応する。

イ 引用文献1発明は,その層構成中に,「偏光素子」(本件発明の「偏光子」に対応する。以下,「(2)対比」欄において,引用文献1発明の構成を囲む「」に続く()中の文言は,当該引用文献1発明の構成に対応する本件発明の発明特定事項を指す。)と,「光学異方素子」(補償フィルム)とを含んでいる。
また,引用文献1発明の「光学異方素子」は,「液晶層」(液晶層)を含んでおり,当該「液晶層」の上面及び下面は「互いに反対側に位置する第1面と第2面」といえる。
したがって,引用文献1発明は,本件発明の「偏光子と,前記偏光子の一面に位置し,互いに反対側に位置する第1面と第2面とを有する液晶層を含む補償フィルムと,を含」むという発明特定事項に相当する構成を具備している。

ウ 引用文献1発明において,「液晶層」(液晶層)中の「液晶分子」(液晶)は,ハイブリッドネマチック配向をしている(すなわち,「ダイレクターと液晶層平面のなす角」(液晶層の表面に対する液晶の傾斜角)が「液晶層の上面と下面」(第1面と第2面)とで異なり,液晶層の上面と下面との間では連続的に変化している)から,「液晶層」の表面に対して厚さ方向に向かって斜めに傾いた光軸を有している。
また,引用文献1発明の「液晶層」の一方の面すなわち「上面及び下面のうちの一方の面」付近では,「液晶分子のダイレクターと液晶層平面とのなす角度」(液晶層の表面に対する液晶の傾斜角)が45?80度であり,当該面の反対すなわち「他方の面」においては0?10度であり,両者の間で連続的に変化しているから,前記「上面及び下面のうちの一方の面」を「第1面」と,前記「他方の面」を「第2面」とすると,「液晶分子のダイレクターと液晶層平面とのなす角度」(液晶層の表面に対する液晶の傾斜角)が,「第1面」から「第2面」まで「液晶層」(液晶層)の厚さ方向に沿って次第に大きくなっているといえる。
したがって,引用文献1発明の「液晶層」は,本件発明の「液晶層」に係る「液晶層の表面に対して厚さ方向に向かって斜めに傾いた光軸を有する液晶を含み,液晶層の表面に対する液晶の傾斜角は,第1面から第2面まで液晶層の厚さ方向に沿って次第に大きくな」るという発明特定事項に相当する構成を具備している。

エ 引用文献1発明の「円偏光板」は,有機エレクトロルミネセンス表示装置において,外部光の反射を防止するために用いられるものであるから,「反射防止フィルム」といえる。
したがって,引用文献1発明と本件発明は,「反射防止フィルム」である点で一致する。

オ 前記アないしエに照らせば,本件発明と引用文献1発明は,
「偏光子と,
前記偏光子の一面に位置し,互いに反対側に位置する第1面と第2面とを有する液晶層を含む補償フィルムと,
を含み,
前記液晶層は,前記液晶層の表面に対して厚さ方向に向かって斜めに傾いた光軸を有する液晶を含み,
前記液晶層の表面に対する前記液晶の傾斜角は,前記第1面から前記第2面まで前記液晶層の厚さ方向に沿って次第に大きくなる反射防止フィルムである有機発光装置用反射防止フィルム。」
である点で一致し,次の点で一応相違する,又は相違する。

相違点3-1:
本件発明では,液晶層の450nm,550nmおよび650nm波長に対する面内位相差(R_(e))が,「R_(e)(450nm)<R_(e)(550nm)≦R_(e)(650nm)」なる関係式1及び「0.72≦R_(e)(450nm)/R_(e)(550nm)≦0.92」なる関係式2aを満たすのに対して,
引用文献1発明では,液晶層がそのような構成を有することは特定されていない点。

相違点3-2:
本件発明では,正面から60度側面方向で観察される色ずれが7.0未満であり,正面から60度側面方向で測定された反射率が1.0%以下であるのに対して,
引用文献1発明では,正面から60度側面方向で観察される色ずれの値,及び正面から60度側面方向で測定された反射率の値が定かでない点。

(3)相違点3-1について
ア 位相差板の面内位相差R_(e)には波長依存性があるため,所定の波長において所望の位相差を与えるものであっても,異なる波長において与える位相差が所望の値になるとは限らないことから,広い波長範囲において,所望の位相差を与えることのできる広帯域位相差板とするには,「R_(e)(450nm)/R_(e)(550nm)」の値を約0.82(≒450/550)にできるだけ近いものとし,「R_(e)(650nm)/R_(e)(550nm)」の値を約1.18(≒650/550)にできるだけ近いものとする必要があることは,当業者における技術常識である(例:引用文献2の【0053】及び【0054】等,引用文献3の【0048】ないし【0054】等,引用文献4の[0059]及び[0060]等。)。

イ 引用文献1発明は,有機エレクトロルミネセンス表示装置において,外部光の反射を防止するために用いられる円偏光板であって,反射防止の対象となる外部光は,特定の波長のものだけではなく,様々な波長の光(一般的には可視光全域)が含まれることが想定されること,及び,このような様々な波長の光を含む外光に対して引用発明が良好な反射防止機能を発揮するには,光学異方素子を,広い波長範囲において面内位相差が1/4波長となる広帯域1/4波長板とする必要があることは,当業者に自明である。
そうすると,様々な波長の光を含む外光に対して良好な反射防止機能を発揮させるために,引用発明において,適宜の手段を講じて,「R_(e)(450nm)/R_(e)(550nm)」の値が約0.82(≒450/550)に近くなり,「R_(e)(650nm)/R_(e)(550nm)」の値が約1.18(≒650/550)に近くなるよう構成すること,すなわち,引用文献1発明を,相違点3-1に係る本件発明の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,前記アで述べた技術常識に基づいて,当業者が容易に想到し得たことである。

(4)相違点3-2について
ア 引用文献1発明において,液晶層の一方の面付近及び当該面の反対においての「液晶分子のダイレクターと前記液晶層平面とのなす角度」を,それぞれ「45?80度」及び「0?10度」という範囲の中のいかなる値に設定するのかは,当業者が適宜決定すれば足りる設計上の事項にすぎないというべきである。
したがって,液晶層の一方の面付近及び当該面の反対においての「液晶分子のダイレクターと前記液晶層平面とのなす角度」として,それぞれ「45ないし65度」という範囲内の値及び「3度」という値を選択することは,当業者が適宜なし得た設計上の事項にすぎない。

イ 前記アで述べた構成の変更を行った引用文献1発明において,「正面から60度側面方向で観察される色ずれ」及び「正面から60度側面方向で測定された反射率」の値は,本件明細書に記載された実施例1ないし4及び6からみて,それぞれ「3.7ないし6.4」程度及び「0.59%ないし.93%」程度になるものと強く推認される。
すなわち,前記アで述べた構成の変更を行った引用文献1発明は,相違点3-2に係る本件発明の発明特定事項を具備することとなる。

(5)効果について
本件発明が有する効果は,引用文献1の記載及び技術常識に基づいて,当業者が予測できた程度のものである。

(6)小括
前記(2)ないし(5)のとおり,本件発明は,引用文献1発明及び技術常識に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。


8 むすび
本件出願は,発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。
また,本件発明は,先願1発明と同一あるいは実質的に同一であり,かつ,先願2発明と同一あるいは実質的に同一であるから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本件出願は,同法29条の2の規定により特許を受けることができない。
さらに,本件発明は,引用文献1発明及び技術常識に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本件出願は,同法29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-06-25 
結審通知日 2018-07-02 
審決日 2018-07-13 
出願番号 特願2015-239174(P2015-239174)
審決分類 P 1 8・ 16- WZ (G02B)
P 1 8・ 536- WZ (G02B)
P 1 8・ 121- WZ (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉川 陽吾  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 清水 康司
関根 洋之
発明の名称 反射防止フィルムおよびこれを備えた有機発光装置  
代理人 崔 允辰  
代理人 実広 信哉  
代理人 阿部 達彦  
代理人 木内 敬二  
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