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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60C
管理番号 1346678
審判番号 不服2017-6349  
総通号数 229 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-05-01 
確定日 2018-11-29 
事件の表示 特願2012-213187号「空気入りタイヤ」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 4月17日出願公開、特開2014- 65437号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願(以下「本願」という。)は、平成24年9月26日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成28年 3月28日付け:拒絶理由通知
同年 6月 2日 :意見書、手続補正書の提出
同年10月31日付け:拒絶理由通知
平成29年 1月10日 :意見書の提出
同年 1月31日付け:拒絶査定
同年 5月 1日 :審判請求書の提出
同年12月21日付け:拒絶理由通知
平成30年 2月26日 :意見書、手続補正書の提出
同年 6月 1日付け:拒絶理由通知(以下「当審拒絶理由通知」
という。)
同年 8月 6日 :意見書、手続補正書の提出

第2 本願発明及び明細書の記載事項
本願請求項1?3に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明3」という。)は、平成30年8月6日に提出された手続補正書に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「 【請求項1】
少なくとも2層のベルト層からなるベルトと、該ベルトのタイヤ径方向外側に、有機繊維コードがゴム被覆されてなる有機繊維コードとゴムとの複合体がタイヤ周方向に螺旋巻きされてなるベルト補強層と、を備える空気入りタイヤにおいて、
前記ベルトを構成するベルト層のうち少なくとも1層が、2本のコアフィラメントを撚り合せることなく並列に配置されたコアと、該コアの周囲に撚り合わされた3本のシースフィラメントと、からなるスチールコードであって、前記コアフィラメントの径をd1、前記シースフィラメントの径をd2としたとき、d1とd2とが下記式(2)、
1.1≦d1/d2<1.7 (2)
で表される関係式を満足するスチールコードがタイヤ幅方向に並置されてコーティングゴム中に埋設されてなり、かつ、
前記ベルト補強層の有機繊維コード1本当たりの総繊度が600?3000dtexであり、タイヤから取り出した前記有機繊維コード1本当たりの3%伸時の引張抵抗度が3?17GPaであり、前記ベルトの最外層ベルト層を構成するスチールコードと、最内層の前記ベルト補強層を構成する有機繊維コードと、の距離が0.1mm以上1.0mm以下であり、前記距離が、スチールコードから最も近い有機繊維コードとの間のベルト層およびベルト補強層の厚み方向の距離であることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記有機繊維コード1本当たりの3%伸時の引張抵抗度が5?12GPaである請求項1記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記コアフィラメントの平均型付け率をH1、前記シースフィラメントの平均型付け率をH2としたとき、前記H1とH2とが下記式(3)、
H1>H2 (3)
で表される関係を満足する請求項1または2記載の空気入りタイヤ。」

また、平成30年8月6日に提出された手続補正書により補正された、本願の明細書における発明の詳細な説明には、次の事項が記載されている(下線は当審で付加した。以下同様。また、以下「A」?「D」の記載事項は、それぞれ「記載事項A」?「記載事項D」という。)。

A「【0002】
近年、環境性能の重要性が増してきており、スチールコードを補強部材として用いるタイヤにおいては軽量化のニーズが高まっている。タイヤの軽量化の手法の1つとして、ベルトトリートのゴムの使用量を少なくし、ベルトを薄くすることを挙げることができる。
【0003】
ベルトトリートのゴム使用量を減らす以外のタイヤ軽量化の手法としては、スチールコードの打込み本数を減らすことが考えられる。しかしながら、スチールコードの打込み本数が少なくなると、ベルトの剛性が低下してしまい、好ましくない。このような状況の中、タイヤの軽量化や耐久性の向上に関して、多くの提案がなされている。例えば、特許文献1ではタイヤの軽量化を目的として、M(M=2?5)+N(N=1?3)構造でかつ、フィラメント本数がM≧Nのスチールコードが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平3-128689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のスチールコードは、スチールコードに対するゴムの浸透性を高めることで耐久性を向上させているが、軽量化については検討されていない。
【0006】
また、2+3構造のスチールコードは、通常、その断面が楕円形であるが、ベルトトリートの製造時にスチールコードが乱れて、スチールコードの長径がタイヤ径方向に向いてしまう場合がある。このようなベルトトリートを、ベルトのタイヤ径方向外側にベルト補強層を有するタイヤに適用すると、ベルトを構成するスチールコードとベルト補強層を構成するコードとの距離が短い部分が生じ、タイヤの耐久性が低下してしまうことがある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、耐久性を維持しつつ、従来よりも軽量化を図った空気入りタイヤを提供することにある。」

B「【0008】
本発明の空気入りタイヤは、少なくとも2層のベルト層からなるベルトと、該ベルトのタイヤ径方向外側に、有機繊維コードがゴム被覆されてなる有機繊維コードとゴムとの複合体がタイヤ周方向に螺旋巻きされてなるベルト補強層と、を備える空気入りタイヤにおいて、
前記ベルトを構成するベルト層のうち少なくとも1層が、2本のコアフィラメントを撚り合せることなく並列に配置されたコアと、該コアの周囲に撚り合わされた3本のシースフィラメントと、からなるスチールコードであって、前記コアフィラメントの径をd1、前記シースフィラメントの径をd2としたとき、d1とd2とが下記式(2)、
1.1≦d1/d2<1.7 (2)
で表される関係式を満足するスチールコードがタイヤ幅方向に並置されてコーティングゴム中に埋設されてなり、かつ、
前記ベルト補強層の有機繊維コード1本当たりの総繊度が600?3000dtexであり、タイヤから取り出した前記有機繊維コード1本当たりの3%伸時の引張抵抗度が3?17GPaであり、前記ベルトの最外層ベルト層を構成するスチールコードと、最内層の前記ベルト補強層を構成する有機繊維コードと、の距離が0.1mm以上1.0mm以下であり、前記距離が、スチールコードから最も近い有機繊維コードとの間のベルト層およびベルト補強層の厚み方向の距離であることを特徴とするものである。ここで、有機繊維コード1本当たりの3%伸時の引張抵抗度は、JIS L 1017に準拠して算出された、20℃における3%伸び時の値である。」

C「【0013】
図2(a)?(c)は、スチールコードの径の断面図であり、(a)は、従来、タイヤのベルトの補強材として用いられてきた1×3構造の断面図であり、(b)は、(a)の1×3構造と同径のスチールフィラメントを用いた2+3構造の断面図であり、(c)は、(a)の1×3構造と同径のスチールフィラメントをコアとし、これよりも小径のシースフィラメントを用いた2+3構造の断面図である。
【0014】
図2の(a)と(b)とを比較すると、(a)のスチールコード10の径と、(b)のスチールコード10の短径はほぼ同等であるが、図2の(b)と(c)とを比較すると、
2+3構造のスチールコード10の短径はシースフィラメント12の径に支配されていることがわかる。すなわち、シースフィラメント12の径d2をコアフィラメント11の径d1よりも小さくすることにより、2+3構造におけるスチールコード10の短径を小さくすることができる。そのため、d1>d2とすることで、従来のスチールコード10と比べて、ベルト層の厚みを薄くすることができる。また、シースフィラメント12としてコアフィラメント11よりも小径のスチールフィラメントを用いることで、スチールの使用量を減らすことができ、タイヤの軽量化を図ることができる。
【0015】
また、本発明のタイヤは、ベルト5のタイヤ径方向外側に、有機繊維コードをゴム被覆した有機繊維コードとゴムとの複合体がタイヤ周方向に螺旋巻きされてなるベルト補強層6を有する。図1に示す例では、ベルト補強層6は、ベルト層5a、5bの両端部Bsを覆っているが、ベルト層5a、5bのタイヤ幅方向全幅を覆う構造であってもよい。また、ベルト補強層6はタイヤ幅方向に連続的に設けられていてもよいが、タイヤ幅方向に断続的に設けられていてもよい。具体的には、ベルト5の全幅を覆うベルト補強層6の中央部Bcのみを、断続的に設けた構造を挙げることができ、例えば、ベルト補強層6の中央部Bcにおけるコードの打込み数と両端部Bsにおけるコードの打込み数を変えることで製造することができる。なお、ベルトの中央部Bcとは、タイヤ幅方向中心線CLを中心とした、トレッド全幅の70%の領域を意味し、ベルトの両端部Bsとは、ベルトの中央部Bcのタイヤ幅方向両外側の各15%の領域を意味する。
【0016】
さらに、図3は、2+3構造のスチールコードを補強材とするベルト5および有機繊維コードを補強材とするベルト補強層6の部分断面図であり、(a)は、ベルト5を構成するスチールコードの長径が全てタイヤ幅方向を向いている場合の部分断面図であり、(b)は、ベルト5を構成するスチールコードの一部の長径がタイヤ径方向を向いている場合の部分断面図である。ベルト5を構成するスチールコード10と、ベルト補強層6を構成する有機繊維コード13と、の距離D1を比較すると、図3(a)および(b)からわかるように、一部のスチールコード10の長径がタイヤ径方向を向いていると、その部分に置ける距離D1が短くなる。
【0017】
そこで、本発明のタイヤにおいては、ベルト補強層6を構成する有機繊維コード13の1本当たりの総繊度を600?3000dtexとすることで、すなわち、比較的径の細い有機繊維コード13を用いることで、ベルトトリートの製造時にスチールコード10の配置が乱れ、長径がタイヤ径方向に向いたとしても、最外層ベルト(図示例では、ベルト層5b)を構成するスチールコード10と、ベルト補強層6を構成する有機繊維コード13と、の距離D1を確保し、局所的なゴムの破壊を防止しタイヤ耐久性を維持している。
なお、有機繊維コード13の1本当たりの総繊度を600?3000dtexとした理由は、軽量化の観点では総繊度が小さいほど効果が大きく、市場耐久性の観点では総繊度が大きいほど効果が大きく、600?3000dtexの範囲の中でより効果的に両性能に対するメリットを享受できるためであり、さらに好適には有機繊維コード13の総繊度は、1000?2800dtexである。
【0018】
さらにまた、本発明のタイヤにおいては、タイヤから取り出したベルト補強層6を構成する有機繊維コード13の1本当たりの3%伸時の引張抵抗度が3?17GPaである。
有機繊維コードの3%伸時の引張抵抗度が3GPa未満であると、タイヤの高速回転時の遠心力により生じるベルト層5a、5bの両端部Bsのせり上がりを、タガ効果によって十分に抑制することができなくなり、タイヤの高速耐久性を十分に高めることができない。一方、有機繊維コード13の3%伸時の引張抵抗度が17GPaより大きくなると、タイヤ転動時に発生する変形に対するエネルギーロスが大きくなり、ベルト補強層6が無い場合、および低剛性のコードをベルト補強層6に用いた場合に比べて、転がり抵抗が大きくなってしまう。また、高速走行時には、トレッドゴムとベルト補強層6との間で剥離が生じ、タイヤの耐久性が低下する場合もあるため、好適には5?12GPaである。
【0019】
本発明のタイヤにおいては、ベルト補強層6の補強材である有機繊維コード13は、上記要件を満足するものであれば、タイヤ用コードとして既知のものを用いることができるが、有機繊維コードとしては、ナイロンまたはポリエチレンテレフタレート(PET)を30%以上含む有機繊維コードを好適に用いることができるが、より好適には、6,6-ナイロン繊維からなるコードを用いることができる。
【0020】
また、図3に示すように、本発明のタイヤにおいては、ベルトの最外層ベルト層(図示例では第2ベルト5b)と、最内層のベルト補強層6を構成する有機繊維コード13と、の距離D1は0.1mm以上であることが好ましい。D1が0.1mm未満であると、長径がタイヤ径方向に向いたスチールコードがある場合、最外層ベルト層5bのスチールコード10とベルト補強層6を構成する有機繊維コード13との距離が短くなって、ベルト端部からの亀裂の伝播に起因する故障に係るベルト端部の耐久性が悪化してしまう場合があり好ましくない。ベルト端部の耐久性およびタイヤの軽量性の観点から、本発明のタイヤにおいては、ベルトの最外層ベルト層5bと、最内層のベルト補強層6を構成する有機繊維コード13と、の距離D1は、好適には、0.2?0.6mmである。
【0021】
また、本発明のタイヤにおいては、ベルト層5a、5bを構成するスチールコード10のコアフィラメントの径d1とシースフィラメントの径d2とが下記式(2)、
1.1≦d1/d2<1.7 (2)、
好適には下記式(4)、
1.1≦d1/d2<1.4 (4)
で表される関係を満足する。図4は、タイヤのベルトの部分断面図であり、(a)は、従来のタイヤであり、(b)は本発明に係るタイヤである。本発明のタイヤにおいては、上記関係を満足することにより、接着耐久性を向上させるとともに、ベルト折れ性も確保することができる。すなわち、d1/d2が1.7以上になると、スチールコード10の曲げがしなやかになり、コアフィラメント11に対する疲労性が低下してしまう。一方、d1/d2が1.1未満になると、第1ベルト層5aのタイヤ径方向内側部および第2ベルト層5bのタイヤ径方向外側部のゲージG1およびG2を確保することができなくなり、接着耐久性が低下してしまう場合がある。好適には、1.1以上1.4未満である。
【0022】
なお、本発明のタイヤに係るスチールコードは、d1>d2であるため、従来のスチールコードと比べて、タイヤ径方向のコード径の増加を抑えることができる。その結果、第1ベルト層5aのスチールコードと第2ベルト層5bのスチールコードとの距離D2を同等に確保してベルト端部耐久性を維持しつつ(図4参照)、第1ベルト層5aのタイヤ径方向内側のゲージG1および第2ベルト層5bのタイヤ径方向外側のゲージG2を厚くすることができる。これにより、ベルト5の接着耐久性を向上させることができる。
・・・
【0028】
さらに、本発明においては、コアフィラメント11の径d1は0.16?0.32mmであり、シースフィラメント12の径d2は0.12?0.29mmであることが好ましい。さらにまた、コアフィラメント11の径d1は0.16?0.32mmであり、かつシースフィラメント12の径d2は0.12?0.29mmであることがより好ましい。フィラメント径が上記範囲を超えると、十分な軽量効果が得られない場合がある。一方、フィラメント径が上記範囲未満であると、ベルト強度不足の懸念がある。
【0029】
図7は、本発明のタイヤの好適な実施の形態に係るベルト層の端部近傍を示す部分断面図である。図示するように、本発明のタイヤにおいては、第2ベルト層5b端部における第1ベルト層5aと第2ベルト層5bとのスチールコード10間のゴム層のゲージH_(E)は、タイヤ中央部におけるゲージH_(C)よりも大きいことが好ましい。好適にはH_(E)はH_(C)の1.3?3.0倍、好ましくは1.8?2.6倍である。ベルト端において厚ゲージのベルト間ゴム15を配置することで、ベルト耐久性をより向上させることができる。この値が1.3倍未満であると、かかる効果を十分に得ることができなく、一方、3.0倍を超えるとタイヤの軽量化が十分とはいえなくなる場合がある。
【0030】
また、本発明のタイヤにおいては、タイヤの軽量化と耐久性の向上の観点から、好適には、ベルト層の厚みt(図示例においては第1ベルト層5a、第2ベルト層5bの厚みt1、t2)は0.85?1.65mm、より好適には0.85?1.00mmである(図7参照)。ベルト層の厚みtが0.85mm未満では、十分な耐久性を得ることができない場合があり、一方、ベルト層の厚みtが1.65mm以上であると、十分な軽量効果を得ることができない場合がある。」

D「【0034】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。
<実施例1?7、比較例1、2および従来例> 下記表1に示す構造のスチールコードをベルト補強材として、また、同表に示す材質の有機繊維コードをベルト補強層の補強材として用いて、タイヤサイズ:205/55R16であって、下記表1に示すベルト補強層の構造を有するタイヤを作製した。ベルトは2枚のベルト層からなり、スチールコードの打込み角度はタイヤ周方向に対して±30°とし、打込み数は37本/50mmとした。また、ベルト補強層は、同表に示す有機繊維コードをゴム被覆したリボン状のストリップ材をタイヤ周方向に螺旋巻きして、タイヤ周方向に対し実質的に平行に配列させて形成した。
【0035】
得られた各タイヤについて、下記の手順に従い、市場耐久性および軽量性(タイヤ重量)について評価を行った。なお、図8は、実施例、比較例および従来例として作製したタイヤのベルト補強層の構造の模式図であり、(a)は、ベルト層5a、5bの両端部Bsを覆うベルト補強層6(打込み数:50本/50mm)を備えた構造であり、(b)は、
ベルト層5a、5bの全幅を覆うベルト補強層6(打込み数:50本/50mm)を備えた構造であり、(c)は、ベルト層5a、5bの全幅を覆う構造であるが、ベルトの中央部Bcは断続的にベルト補強層6に覆われる構造であり、中央部Bcの打込み数は中央部Bc全体の平均で36本/50mm、両側部Bsの打込み数は50本/50mmであり、
(d)は、ベルト補強層を有していない構造である。
【0036】
<軽量性> 得られた各タイヤ1本当たりの重量を測定し、得られた値を従来例のタイヤを100とする指数として表した。数値が小さいほど、軽量性に優れていることを示す。結果を表1に併記する。
【0037】
<市場耐久性> 得られた各タイヤをリムサイズ:6.5J×16のリムに組み付けた後、乗用車に装着した。その後、舗装道路を50000km走行させ後、各タイヤをドラムにて荷重4.5kNの条件にて、時速180kmで回転させ、故障するまでの時間を計測し、タイヤ4本の平均時間を求めた。得られた結果につき、従来例を基準100としたときの指数表示にて示した。数値が大なるほど市場耐久性が良好である。結果を表1に併記する。
【0038】
【表1】


【0039】
表1より本発明のタイヤは、耐久性を維持しつつ、従来よりも軽量化できることが確かめられた。」

E さらに、本願には、以下の図が添付されている。



第3 当審拒絶理由通知の拒絶の理由の概要
当審拒絶理由通知の拒絶の理由は、以下の理由を含むものである。
1 本願は、以下の点で、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
(1)請求項1における「タイヤから取り出した前記有機繊維コード1本当たりの3%伸時の引張抵抗度が3?17GPaである」との記載は明確でない。
2 本願は、以下の点で、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
(1)本願発明1で特定する範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することはできないから、本願発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない。

第4 本願明細書の段落【0008】に記載された「JIS L 1017」について
1 化学繊維タイヤコード試験方法 JIS L 1017:2002
本願出願前に頒布された刊行物である「化学繊維タイヤコード試験方法 JIS L 1017:2002」財団法人日本規格協会、2002年3月20日発行(以下、「刊行物1」という。)には次の事項が記載されている。

(1a)2.引用規格
「次に掲げる規格は,この規格に引用されることによって,この規格の規定の一部を構成する。これらの引用規格は,その最新版(追補を含む。)を適用する。
・・・
JIS L 0208 繊維用語-試験部門」

(1b)3.定義
「この規格で用いる主な用語の定義は,JIS L 0208によるほか次による。」

(1c)6.試料の採取及び準備
「6.1 試料の採取及び準備
6.1 試料の採取 原則として,原糸の場合は,パーン,チーズ又はコーンの糸口から約100mを除いたものを試料とし,コードの場合は,スプール,ボビン又はコーンの糸口から約25mを除いたものを試料とする。
また,すだれ織物の場合は,ロールから長さ50cm以上のタビー付き試料を採取し,さらにこれから任意に小試片を切り取って試料とする。」

(1d)8.5 引張強さ及び伸び率
「8.5 引張強さ及び伸び率 引張強さ及び伸び率の試験は,次のとおりとする。
a) 標準時試験 6.によって採取した試料をより数が変わらないようにして初荷重をかけ,表1の引張条件で試験を行う試料が切断したときの荷重を最小目盛の1/2で測定し,かつ,伸びを0.1cmまで測定し,次の式によって標準時引張強さ及び伸び率を算出する。試験回数は10回とし,その平均値を求め,JIS Z 8401によって小数点以下1けたに丸める。ただし,表1の引張条件によらない場合は,条件を付記する。




(1e)8.8 初期引張抵抗度
「8.8 初期引張抵抗度 初期引張抵抗度の試験は,6.によって採取した試料を8.5a)と同様な方法で試験を行い,図2の荷重-伸長曲線を描き,この図から,原点の近くで伸長変化に対する荷重変化の最大点A(切線角の最大点)を求め,次の式によって初期引張抵抗度を求める。試験回数は10回とし,その平均値を求め,JIS Z 8401によって小数点以下1けたに丸める。


備考1.測定誤差を少なくするために,初期の荷重-伸長曲線のA点におけ
る接線が,伸び軸に対して45°ぐらいになるようにチャートスピ
ードを調節する。
2.初期引張抵抗度と見掛ヤング率との関係は,次の式のとおりである

E’=100×ρ×R_(d)
ここに,E’: 見掛ヤング率(N/mm^(2))
R_(d): 初期引張抵抗度(cN/dtex)
ρ: 繊維の密度(g/cm^(3))
3.試験機は,原則として定速伸長形引張試験機を用い,引張条件を付
記する。ただし,その他の試験機を用いた場合は,試験機の種類及
び引張条件を付記する。」

2 繊維用語-試験部門 JIS L 0208:2006
本願出願前に頒布された刊行物である「繊維用語-試験部門 JIS L 0208:2006」財団法人日本規格協会、2006年10月20日発行(以下、「刊行物2」という。)には次の事項が記載されている。

(2a)3.用語及び定義
「用語及び定義は,次による。
・・・
番号 用語 定義
・・・
228 初期引張り抵抗度 繊維の引張り試験によって求めた荷重伸び曲線
図の原点付近における,こう(勾)配の最大点
に対する荷重を,この点に対する伸びと試料の
長さとの比と,デニール又はテックス方式で表
した繊度との積で除した値。
また,この値と繊維の密度との関係を見掛ヤン
グ率という。」

第5 当審の判断
1 特許法第36条第6項第2号について
(1)請求項1における、「タイヤから取り出した前記有機繊維コード1本当たりの3%伸時の引張抵抗度が3?17GPaである」との記載について、本願発明1が明確であるといえるためには、当該記載が意味する具体的な事物の範囲を当業者が一意に理解できることが必要である。
本願明細書の段落【0008】の「有機繊維コード1本当たりの3%伸時の引張抵抗度は、JIS L 1017に準拠して算出された、20℃における3%伸び時の値である。」(記載事項B)という記載を参照すると、「有機繊維コード1本当たりの3%伸時の引張抵抗度」を「JIS L 1017」に準拠して算出することが記載されているので、以下刊行物1の記載を参照して検討する。

(2)刊行物1に「3%伸時の引張抵抗度」の項目はなく、「引張抵抗度」に関する項目は「8.8 初期引張抵抗度」のみであり、当該項目を参照すると、「初期引張抵抗度」は、「6.によって採取した試料を8.5a)と同様な方法で試験を行い,荷重-伸長曲線を描き,この図から,原点の近くで伸長変化に対する荷重変化の最大点A(切線角の最大点)を求め」、所定の式によって求めるものである(記載事項(1e))ことが記載されているので、本願発明1の「3%伸時の引張抵抗度」は、これと同様に、荷重-伸長曲線を描き、この図から、3%伸び時で伸長変化に対する荷重変化の最大点Aを求め所定の式によって算出するものと理解できる。
ここで、試験の対象とする試料は、「6.によって採取した試料」(記載事項(1e))であるから「6.試料の採取及び準備」を併せて参照すると、「原糸の場合は,パーン,チーズ又はコーンの糸口から約100mを除いたものを試料とし,コードの場合は,スプール,ボビン又はコーンの糸口から約25mを除いたものを試料とする。また,すだれ織物の場合は,ロールから長さ50cm以上のタビー付き試料を採取し,さらにこれから任意に小試片を切り取って試料とする。」(記載事項(1c))と記載されており「原糸」、「コード」及び「すだれ織物」の各場合に分けて規定されているから、請求項1の「有機繊維コード1本当たり」という記載は「コード」の場合の規定にしたがって「有機繊維コード1本」を試験することを意味するものと理解できる。
そうすると、JIS L 1017に準拠して求められる「3%伸時の引張抵抗度」は、「有機繊維コード1本」を試料として、刊行物1の「8.5 引張強さ及び伸び率」のa)(記載事項(1d))と同様な方法で試験を行い、荷重-伸長曲線を描き、この図から、3%伸び時で伸長変化に対する荷重変化の最大点Aを求め「8.8 初期引張抵抗度」本文の所定の式(記載事項(1e))によって算出するものといえる。
したがって、JIS L 1017に準拠して算出される値の単位はcN/dtexであり、その次元は、質量の次元をM、長さの次元をL、時間の次元をTとした場合、L^(2)T^(-2)であると理解できる。

(3)上記(1)で述べたとおり、請求項1には、「タイヤから取り出した前記有機繊維コード1本当たりの3%伸時の引張抵抗度が3?17GPaである」と記載されているので、「タイヤから取り出した前記有機繊維コード1本当たりの3%伸時の引張抵抗度」とその単位として記載されている「GPa」の次元を比較する。
上記(2)を踏まえると、「タイヤから取り出した前記有機繊維コード1本当たりの3%伸時の引張抵抗度」の次元はL^(2)T^(-2)である。一方、「GPa」は圧力又は応力を示す単位であり、力を面積で除したものであるから、技術常識を踏まえると、その次元はML^(-1)T^(-2)であると理解できる。
したがって、両者の次元は整合しないことが明らかである。

(4)さらに、JIS L 1017(刊行物1)の項目「8.8 初期引張抵抗度」(記載事項(1e))の備考2.の「初期引張抵抗度と見掛ヤング率との関係は,次の式のとおりである。E’=100×ρ×R_(d) ここに,E’: 見掛ヤング率(N/mm^(2)) Rd: 初期引張抵抗度(cN/dtex) ρ: 繊維の密度(g/cm^(3))」という記載を参照すると、「GPa」と同様の、圧力又は応力を示す「N/mm^(2)」を単位とする「見掛けヤング率」と「初期引張抵抗度」とが、(無次元数ではない)繊維の密度ρ(次元ML^(-3))を介して等号で結ばれている。そうすると、この点からも、「タイヤから取り出した前記有機繊維コード1本当たりの3%伸時の引張抵抗度」の次元と、圧力又は応力を示す「GPa」の次元とが整合しないことが明らかである。

(5)上記(3)、(4)を踏まえると、請求項1における「タイヤから取り出した前記有機繊維コード1本当たりの3%伸時の引張抵抗度」が「3?17GPa」であるという記載は、どのような事物の範囲を特定しようとするものか把握できない。

(6)上記(5)のとおり、請求項1の「タイヤから取り出した前記有機繊維コード1本当たりの3%伸時の引張抵抗度が3?17GPaである」という記載は明確でないが、刊行物1の「8.8 初期引張抵抗度」(記載事項(1e))には、備考まで含めると、R_(d):初期引張抵抗度(次元L^(2)T^(-2))及びE’:見掛ヤング率(次元ML^(-1)T^(-2))という2種類の値が記載されているので、請求項1の上記記載を善解して、当該記載が意味する具体的な事物の範囲を当業者が一意に理解し得るかどうかをさらに検討する。
刊行物1の「8.8 初期引張抵抗度」(記載事項(1e))に記載された、R_(d):初期引張抵抗度(次元L^(2)T^(-2))及びE’:見掛ヤング率(次元ML^(-1)T^(-2))という2種類の値並びに「引張抵抗度」及び「GPa」という記載の次元の不整合を踏まえると、請求項1の上記記載は、
ア 上記記載における「3?17」という数値がR_(d):初期引張抵抗度にならって(「8.8 初期引張抵抗度」本文の式で)算出される、すなわち、その次元がL^(2)T^(-2)である場合
(ア)「GPa」という記載が「cN/dtex」の誤記であると理解する場合
「タイヤから取り出した前記有機繊維コード1本当たりの3%伸時の引張抵抗度(次元L^(2)T^(-2))が3?17(次元L^(2)T^(-2))cN/dtex(次元L^(2)T^(-2))である」
(イ)「引張抵抗度」という記載が「見掛ヤング率」の誤記であると理解する場合
「タイヤから取り出した前記有機繊維コード1本当たりの3%伸時の見掛ヤング率(次元ML^(-1)T^(-2))が3?17(次元L^(2)T^(-2))×ρ(密度:次元ML^(-3))GPa(次元ML^(-1)T^(-2))である」
イ 上記記載における「3?17」という数値がE’:見掛ヤング率にならって(「8.8 初期引張抵抗度」備考2.の式で)算出される、すなわち、その次元がML^(-1)T^(-2)である場合
(ア)「GPa」という記載が「cN/dtex」の誤記であると理解する場合
「タイヤから取り出した前記有機繊維コード1本当たりの3%伸時の引張抵抗度(次元L^(2)T^(-2))が3?17(次元ML^(-1)T^(-2))/ρ(密度:次元ML^(-3))cN/dtex(次元L^(2)T^(-2))である」
(イ)「引張抵抗度」という記載が「見掛ヤング率」の誤記であると理解する場合
「タイヤから取り出した前記有機繊維コード1本当たりの3%伸時の見掛ヤング率(ML^(-1)T^(-2))が3?17(次元ML^(-1)T^(-2))GPa(次元ML^(-1)T^(-2))である」
のとおり多義的に解釈し得るといえる。
そうすると、上記記載における「3?17」という数値がR_(d):初期引張抵抗度とE’:見掛ヤング率のいずれにならって(要するに、「8.8 初期引張抵抗度」本文の式と備考2.の式のいずれで)算出される値であるのか判然とせず、次元の整合しない「引張抵抗度」と「GPa」という記載のいずれが誤記であるのかも判然としないから、仮に請求項1の上記記載を善解しても、請求項1の上記記載から、当該記載が意味する具体的な事物の範囲を当業者が一意に理解することはできない。

(7)請求人は平成30年8月6日に提出した意見書の「2.(3)(3-1)理由1(特許法第36条第6項第2号)について」で「ここで、本願発明で規定する『有機繊維コード1本当たりの3%伸時の引張抵抗度』は、有機繊維コード1本を試験に供した場合の『3%伸時の見掛ヤング率』と同義であり、見掛ヤング率は、初期引張抵抗度と密度の積で表されます(JIS L 1017の『3.定義」で引用するJIS L 0208の『3.用語及び定義』)の番号228)。
そして、JIS L 1017『化学繊維タイヤコード試験方法』の『8.8 初期引張抵抗度』の備考2に、初期引張抵抗度と見掛ヤング率との関係が記載されています。
E’=100×ρ×Rd
E’:見掛ヤング率(N/mm^(2))
Rd:初期引張抵抗度(cN/dtex)
ρ :比重(g/cm^(3))
よって、「GPa」と「cN/dtex」とは換算可能であり、
左辺の次元は、(ML/T^(2))/L^(2)=ML^(-1)T^(-2)
右辺の次元は、(M/L^(3))(ML/T^(2))/(M/L)=ML^(-1)T^(-2)
であり、次元も一致します。
以上より、『GPaと『cN/dtex』とは次元が一致し、かつ、その換算方法についても、JIS L 1017の8.8の備考2に記載されており、本願[請求項1]で規定する『タイヤから取り出した前記有機繊維コード1本当たりの3%伸時の引張抵抗度が3?17GPa』の意味は、当業者であれば、明確に理解し得るものであると思料致します。
なお、本願発明と同様に、JIS L1017に規定される初期引張抵抗度の測定条件に準拠して測定した初期引張抵抗度の単位を『GPa』とする先行技術文献も存在致します(特開2012-091685号公報、特開2007-118838号公報、特開2001-277820号公報、WO2013/118785)。
また、JIS L 1013『化学繊維フィラメント糸試験方法』に規定される初期引張抵抗度の測定条件に準拠して測定した初期引張抵抗度の単位を『GPa』とする先行技術文献も存在致します(特開2017-206089号公報、特開2017-206088号公報、特開2016-215722号公報、特開2015-002830号公報、特開2012-184521号公報、特開2012-087434号公報)。」と主張するので、以下検討する。

(8)JIS L 1017(刊行物1)を参照すると、刊行物1の項目「8.8 初期引張抵抗度」(記載事項(1e))に、備考2.として、「初期引張抵抗度と見掛ヤング率との関係は,次の式のとおりである。E’=100×ρ×R_(d)」と記載されている。
また、刊行物1の項目「3.定義」(記載事項(1b))に「この規格で用いる主な用語の定義は,JIS L 0208によるほか次による。」と記載されているところ、JIS L 0208(刊行物2)を参照すると、刊行物2の「番号228」(記載事項(2a))には、「初期引張り抵抗度」の定義として、「繊維の引張り試験によって求めた荷重伸び曲線図の原点付近における,こう(勾)配の最大点に対する荷重を,この点に対する伸びと試料の長さとの比と,デニール又はテックス方式で表した繊度との積で除した値。また,この値と繊維の密度との関係を見掛ヤング率という。」と記載されている。
そうすると、刊行物1及び刊行物2の記載から、当業者は、「初期引張抵抗度」と「見掛ヤング率」という用語は、それぞれ異なる定義がなされたものであって、互いに繊維の密度ρ(次元ML^(-3))を介して値が変換されることから、単にその次元や桁数等が異なるのみならず、物理的な意味も異なると理解する。
したがって、JIS L 1017(刊行物1)及びJIS L 0208(刊行物2)の記載から、本願発明1における「引張抵抗度」という用語が「見掛ヤング率」と同義であると当業者が理解できるとはいえないし、本願明細書の段落【0008】の「有機繊維コード1本当たりの3%伸時の引張抵抗度は、JIS L 1017に準拠して算出された、20℃における3%伸び時の値である。」という記載が「見掛ヤング率」にならった(「8.8 初期引張抵抗度」備考2.の式での)算出を意味すると当業者が理解できるともいえない。

(9)また、請求人の挙げる特開2012-91685号公報の段落【0020】には「高弾性有機繊維を含むコードの弾性率としては、引張荷重10N?99N間の弾性率で4.5?18.0GPaの範囲にする。このような弾性率は、JIS L1017に規定される初期引張抵抗度の測定条件に準拠して測定される。」と、特開2007-118838号公報の段落【0014】には「引張弾性率は、繊維コードの初期引張抵抗度をJIS L1017の8.8に準拠して求め、その初期引張抵抗度を単位断面積当たりの弾性率に換算し求める。」と、特開2001-277820号公報の段落【0014】には「『初期引張り抵抗度』は、幅50mm、長さ200mmのゴム被覆コード層を取り出したのち、インストロン引張り試験機を用いて各ゴム被覆コード層の荷重-変位曲線を描かせ、その結果としての、図3に示すようなグラフから、原点の近くでの伸長変化に対する荷重変化の度合い(最大点Aが存在する場合はA)を求め、次式に基づいて得られる値をいうものとした。試験回数は10回とし、その平均値を少数点1桁まで算出した。
初期引張り抵抗度(GPa)=P/(l’/l×d)
ここに、P:接線角の(最大点Aにおける)荷重(N)
l:試験長(mm)
l’:THの長さ(mm)(Hは垂線の足、Tは接線と横軸との交点)
d:50mm×ゴム被覆コード層の厚さ(mm^(2) )」と記載されている。
これらの記載によれば、これらの先行技術文献において、(JIS L 1017に規定される「初期引張抵抗度」とは異なる)「弾性率」及び「引張弾性率」という用語の単位として「GPa」が用いられ、あるいは「初期引張り抵抗度」という用語の意味をJIS L 1017とは異なる定義とした上で、その単位として「GPa」が用いられているといえるから、「引張抵抗度」という用語が「見掛ヤング率」と同義であることが技術常識であるとはいえず、むしろ、「引張抵抗度」と、「ヤング率」、「弾性率」等の用語を明確に使い分けることが技術常識であるとも理解できる。

(10)仮に「GPa」と「cN/dtex」が換算可能であるとしても、上記(6)で述べたとおり、請求項1に記載された「3?17GPa」が、3?17cN/dtex、3?17×ρ GPa、3?17/ρ cN/dtex、3?17GPaのいずれを意味するのか判然としないし、本願明細書には換算に必要とされる繊維の密度ρに関する記載も一切されていない。

(11)上記(6)?(10)を踏まえると、技術常識を参酌しても、本願明細書の記載から、当業者が、本願発明1の「有機繊維コード1本当たりの3%伸時の引張抵抗度が3?17GPa」であることの意味を明確に理解できるとはいえない。
よって、請求人の主張は採用できない。

(12)以上のとおり、本願発明1は明確でない。

2 特許法第36条第6項第1号について
(1)はじめに
特許法第36条第6項は、「第2項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号は、明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって、特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(知財高裁特別部判決平成17年(行ケ)第10042号参照)。
以下、この観点に立って検討する。

(2)検討
本願発明1は「耐久性を維持しつつ、従来よりも軽量化を図った空気入りタイヤを提供する」(記載事項A)という課題を解決するために、発明特定事項として、
(A)「前記コアフィラメントの径をd1、前記シースフィラメントの径をd2としたとき、d1とd2とが下記式(2)、
1.1≦d1/d2<1.7 (2)
で表される関係式を満足」する
(B)「前記ベルト補強層の有機繊維コード1本当たりの総繊度が600?3000dtex」である
(C)「前記ベルトの最外層ベルト層を構成するスチールコードと、最内層の前記ベルト補強層を構成する有機繊維コードと、の距離が0.1mm以上1.0mm以下であり、前記距離が、スチールコードから最も近い有機繊維コードとの間のベルト層およびベルト補強層の厚み方向の距離であ」る
という発明特定事項を特定したものと理解することができる。

(2-1)上記発明特定事項(A)について
ア 上記発明特定事項(A)と対応する本願明細書の段落【0014】には「2+3構造のスチールコード10の短径はシースフィラメント12の径に支配されていることがわかる。すなわち、シースフィラメント12の径d2をコアフィラメント11の径d1よりも小さくすることにより、2+3構造におけるスチールコード10の短径を小さくすることができる。そのため、d1>d2とすることで、従来のスチールコード10と比べて、ベルト層の厚みを薄くすることができる。」と、段落【0021】?【0022】には「本発明のタイヤにおいては、ベルト層5a、5bを構成するスチールコード10のコアフィラメントの径d1とシースフィラメントの径d2とが下記式(2)、1.1≦d1/d2<1.7 (2)・・・で表される関係を満足する。図4は、タイヤのベルトの部分断面図であり、(a)は、従来のタイヤであり、(b)は本発明に係るタイヤである。本発明のタイヤにおいては、上記関係を満足することにより、接着耐久性を向上させるとともに、ベルト折れ性も確保することができる。すなわち、d1/d2が1.7以上になると、スチールコード10の曲げがしなやかになり、コアフィラメント11に対する疲労性が低下してしまう。一方、d1/d2が1.1未満になると、第1ベルト層5aのタイヤ径方向内側部および第2ベルト層5bのタイヤ径方向外側部のゲージG1およびG2を確保することができなくなり、接着耐久性が低下してしまう場合がある。好適には、1.1以上1.4未満である。・・・本発明のタイヤに係るスチールコードは、d1>d2であるため、従来のスチールコードと比べて、タイヤ径方向のコード径の増加を抑えることができる。その結果、第1ベルト層5aのスチールコードと第2ベルト層5bのスチールコードとの距離D2を同等に確保してベルト端部耐久性を維持しつつ(図4参照)、第1ベルト層5aのタイヤ径方向内側のゲージG1および第2ベルト層5bのタイヤ径方向外側のゲージG2を厚くすることができる。これにより、ベルト5の接着耐久性を向上させることができる。」(いずれも記載事項C)と記載され、記載事項Dを参照すると、ベルト層厚が1.41mmであることを前提とした、d1が0.28mm、d2が0.28mm、すなわちd1/d2=1.00のデータ(従来例)と、ベルト層厚が1.01mmであることを前提とした、d1が0.22mm、d2が0.18mm、すなわちd1/d2=1.22のデータ(比較例1、比較例2、実施例1?実施例7)との対比が記載されている。しかしながら、1.1≦d1/d2<1.7であれば、耐久性を維持しつつ、従来よりも軽量化を図れることの理論的な説明は何ら記載されておらず、また、このことが本願出願時の技術常識であったともいえない。
コアフィラメントの径d1及びシースフィラメントの径d2は、段落【0028】で挙げられているような種々の値が存在することは技術常識であり、当業者であれば、各径が異なれば、タイヤ径方向のコード径が異なると理解する。さらに、「第1ベルト層5aのタイヤ径方向内側のゲージG1および第2ベルト層5bのタイヤ径方向外側のゲージG2を厚くすることができる。これにより、ベルト5の接着耐久性を向上させることができる。」(記載事項C)と記載されているが、ベルト層厚も、段落【0030】で挙げられているような種々の値が存在することは技術常識であり、当業者であれば、ベルト層厚が異なれば各ゲージが異なると理解する。
そうすると、ベルト層厚が1.41mmであることを前提とした、d1が0.28mm、d2が0.28mm、すなわちd1/d2=1.00のデータ(従来例)と、ベルト層厚が1.01mmであることを前提とした、d1が0.22mm、d2が0.18mm、すなわちd1/d2=1.22のデータ(比較例1、比較例2、実施例1?実施例7)との対比から、そのコアフィラメントの径d1及びシースフィラメントの径d2並びにベルト層厚にかかわらず、d1/d2が1.1≦d1/d2<1.7を満足しさえすれば、本願の上記課題を解決できると当業者が理解できる程度に記載されているとはいえない。要するに、2+3のコード構造において、d1=0.22、d2=0.18、d1/d2=1.22であるデータしか記載されていないから、1.1≦d1/d2<1.7でありさえすれば、耐久性を維持しつつ、従来よりも軽量化を図れると実験的に理解することもできない。むしろ、本願明細書の段落【0122】の「コアフィラメント11の径d1は0.16?0.32mmであり、シースフィラメント12の径d2は0.12?0.29mmであることが好ましい。さらにまた、コアフィラメント11の径d1は0.16?0.32mmであり、かつシースフィラメント12の径d2は0.12?0.29mmであることがより好ましい。フィラメント径が上記範囲を超えると、十分な軽量効果が得られない場合がある。一方、フィラメント径が上記範囲未満であると、ベルト強度不足の懸念がある。」(記載事項C)という記載等を参照すると、d1、d2が当該好ましい範囲を超えて大きい場合などには、仮に1.1≦d1/d2<1.7を満たしたとしても、「耐久性を維持しつつ、従来よりも軽量化を図」ることができないと理解できる。

イ 請求人は平成30年8月6日に提出した意見書の「2.(3)(3-2)(3-2-1)発明特定事項(A)について」で「本願発明は、少なくとも2層のベルト層からなるベルトと、このベルトのタイヤ径方向外側にベルト補強層とを備えた空気入りタイヤ(以下、タイヤ)であり、ベルトコードとして、2本のコアフィラメントを撚り合せることなく並列に配置されたコアと、このコアの周囲に撚り合わされた3本のシースフィラメントと、からなるスチールコード(以下、2+3構造のスチールコード)を用いています。そして、本願明細書の段落[0013]では、図2(b)、(c)を用いて、コアフィラメントの径が同径の2+3構造のスチールコードの軽量性について説明がなされています。・・・d1が同じであれば、d1=d2のコードよりも、d2<d1のコードを用いた場合の方が、ベルトを構成するスチールコードと、ベルト補強層を構成する有機繊維コードと、の距離D1を変えずにベルト層の厚みを薄くすることができ、タイヤの軽量化につながります(図3)。また、d1が同じであれば、d1=d2のスチールコードよりも、d2<d1のスチールコードを用いた場合の方が、スチールの使用量を減らすことができ、これもまた、タイヤの軽量化に寄与します(本願明細書の段落[0014])。すなわち、従来、ベルトコードとして用いられていた1×3構造のスチールコードを、2+3構造のスチールコードに置き換えるにあたっては、単純に、1×3構造のスチールコードに用いられていたスチールフィラメントと同径のスチールフィラメントを、2+3構造のスチールコードのコアフィラメントおよびシースフィラメントに用いるのではなく、シースフィラメントを細径化、すなわち、d2<d1とすることで、本願発明の課題の一つである「従来よりも軽量化」を実現しています。・・・d1=d2=0.28mmの2+3構造のスチールコードを用いたタイヤとの重量の対比を行うのであれば、d1=0.28mmとし、d2=0.165?0.250mmの2+3構造のスチールコードを用いたタイヤで行うべきと思料致します。」と主張する。
しかしながら、上記アで述べたとおり、本願明細書には、1.1≦d1/d2<1.7でありさえすれば、耐久性を維持しつつ、従来よりも軽量化を図れることの理論的な説明は何ら記載されておらず、むしろd1、d2が上記好ましい範囲を超えて大きい場合などには、仮に1.1≦d1/d2<1.7を満たしたとしても、「耐久性を維持しつつ、従来よりも軽量化を図」ることができないと理解できる記載があり、また、本願明細書には、2+3のコード構造において、d1=0.22mm、d2=0.18mm、すなわちd1/d2=1.22であるデータしか記載されていないのであるから、請求人の上記主張は採用できない。

(2-2)上記発明特定事項(B)について
上記発明特定事項(B)と対応する段落【0017】には、「本発明のタイヤにおいては、ベルト補強層6を構成する有機繊維コード13の1本当たりの総繊度を600?3000dtexとすることで、すなわち、比較的径の細い有機繊維コード13を用いることで、ベルトトリートの製造時にスチールコード10の配置が乱れ、長径がタイヤ径方向に向いたとしても、最外層ベルト(図示例では、ベルト層5b)を構成するスチールコード10と、ベルト補強層6を構成する有機繊維コード13と、の距離D1を確保し、局所的なゴムの破壊を防止しタイヤ耐久性を維持している。・・・有機繊維コード13の1本当たりの総繊度を600?3000dtexとした理由は、軽量化の観点では総繊度が小さいほど効果が大きく、市場耐久性の観点では総繊度が大きいほど効果が大きく、600?3000dtexの範囲の中でより効果的に両性能に対するメリットを享受できるためであり、さらに好適には有機繊維コード13の総繊度は、1000?2800dtexである。」(記載事項C)と記載され、記載事項Dを参照すると、材質がPENである1670dtex/2のデータ(従来例、比較例1)と、材質がナイロンである1400dtex/2のデータ(実施例1、実施例4?7)、材質がPETである1100dtex/2のデータ(実施例2)及び材質がナイロンである1400dtex/1のデータ(実施例3)との対比が記載されている。しかしながら、有機繊維コード1本当たりの総繊度が600?3000dtexであれば、耐久性を維持しつつ、従来よりも軽量化を図れることの理論的な説明は何ら記載されておらず、また、このことが本願出願時の技術常識であったともいえない。
有機繊維コードには、段落【0019】(記載事項C)で挙げられているような種々の材質や、また種々のより方が存在することは技術常識であり、当業者であれば、総繊度が同じであっても、材質やより方が異なれば、有機繊維コードの径が異なると理解する。
そうすると、材質がPENである1670dtex/2のデータ(従来例、比較例1)と、材質がナイロンである1400dtex/2のデータ(実施例1、実施例4?7)、材質がPETである1100dtex/2のデータ(実施例2)及び材質がナイロンである1400dtex/1のデータ(実施例3)の対比とから、ベルト補強層6を構成する有機繊維コード13の1本当たりの総繊度を600?3000dtexを満足しさえすれば、本願の上記課題を解決できると当業者が理解できる程度に記載されているとはいえない。
さらに、上記(2-1)によれば、仮に「前記ベルト補強層の有機繊維コード1本当たりの総繊度が600?3000dtex」を満たしたとしても、d1、d2の値によっては、「耐久性を維持しつつ、従来よりも軽量化を図」ることができないと理解できる。

(2-3)上記発明特定事項(C)について
上記発明特定事項(C)と対応する段落【0020】には、「図3に示すように、本発明のタイヤにおいては、ベルトの最外層ベルト層(図示例では第2ベルト5b)と、最内層のベルト補強層6を構成する有機繊維コード13と、の距離D1は0.1mm以上であることが好ましい。D1が0.1mm未満であると、長径がタイヤ径方向に向いたスチールコードがある場合、最外層ベルト層5bのスチールコード10とベルト補強層6を構成する有機繊維コード13との距離が短くなって、ベルト端部からの亀裂の伝播に起因する故障に係るベルト端部の耐久性が悪化してしまう場合があり好ましくない。ベルト端部の耐久性およびタイヤの軽量性の観点から、本発明のタイヤにおいては、ベルトの最外層ベルト層5bと、最内層のベルト補強層6を構成する有機繊維コード13と、の距離D1は、好適には、0.2?0.6mmである。」(記載事項C)と記載されている。しかしながら、「前記ベルトの最外層ベルト層を構成するスチールコードと、最内層の前記ベルト補強層を構成する有機繊維コードと、の距離」が0.1mm以上1.0mm以下であれば、従来よりも軽量化を図れることの理論的な説明は何ら記載されておらず、また、このことが本願出願時の技術常識であったともいえない。
さらに、上記(2-1)によれば、仮に「前記ベルトの最外層ベルト層を構成するスチールコードと、最内層の前記ベルト補強層を構成する有機繊維コードと、の距離が0.1mm以上1.0mm以下であり、前記距離が、スチールコードから最も近い有機繊維コードとの間のベルト層およびベルト補強層の厚み方向の距離であ」ったとしても、d1、d2の値によっては、「耐久性を維持しつつ、従来よりも軽量化を図」ることができないと理解できる。

(2-4)小括
上記(2-1)?(2-3)を踏まえると、発明特定事項(A)?(C)を特定したとしても、「耐久性を維持しつつ、従来よりも軽量化を図」ること、特に、d1、d2が上記好ましい範囲を超えて大きい場合などには、「従来よりも軽量化を図」ることができないと理解できる。
さらに、本願明細書の段落【0028】?【0030】の「コアフィラメント11の径d1は0.16?0.32mmであり、シースフィラメント12の径d2は0.12?0.29mmであることが好ましい。さらにまた、コアフィラメント11の径d1は0.16?0.32mmであり、かつシースフィラメント12の径d2は0.12?0.29mmであることがより好ましい。フィラメント径が上記範囲を超えると、十分な軽量効果が得られない・・・フィラメント径が上記範囲未満であると、ベルト強度不足の懸念がある。・・・好適にはH_(E)はH_(C)の1.3?3.0倍、好ましくは1.8?2.6倍である。ベルト端において厚ゲージのベルト間ゴム15を配置することで、ベルト耐久性をより向上させることができる。この値が1.3倍未満であると、かかる効果を十分に得ることができなく、一方、3.0倍を超えるとタイヤの軽量化が十分とはいえなくなる場合がある。・・・ベルト層の厚みtが0.85mm未満では、十分な耐久性を得ることができない場合があり、・・・ベルト層の厚みtが1.65mm以上であると、十分な軽量効果を得ることができない」(記載事項C)という記載等を参照すると、発明特定事項(A)?(C)を備えたとしても、ベルト層の厚みtが当該範囲を越えて大きい場合などには「耐久性を維持しつつ、従来よりも軽量化を図」ること、特に「従来よりも軽量化を図」ることができないとも理解できる。
以上から、出願時の技術常識に照らしてみても、本願発明1で特定する範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することはできない。
よって、本願発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない。

(3)むすび
したがって、本願発明1は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

第6 むすび
以上のとおり、本願は、本願発明1について、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
また、本願は、本願発明1について、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
したがって、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-09-28 
結審通知日 2018-10-02 
審決日 2018-10-15 
出願番号 特願2012-213187(P2012-213187)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (B60C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 倉田 和博  
特許庁審判長 和田 雄二
特許庁審判官 氏原 康宏
中田 善邦
発明の名称 空気入りタイヤ  
代理人 本多 一郎  

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