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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1346685
審判番号 不服2017-11097  
総通号数 229 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-01-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-07-26 
確定日 2018-11-29 
事件の表示 特願2015-557326「薄膜太陽電池パネル及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年11月13日国際公開、WO2014/180281、平成28年 4月21日国内公表、特表2016-511940〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014年5月4日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2013年5月7日、中国)を国際出願日とする出願であって、主な手続の経緯は以下のとおりである。

平成27年 8月17日:出願審査請求書の提出
平成28年 7月28日:拒絶理由通知(8月10日発送)
同年11月 8日:手続補正書・意見書の提出
平成29年 3月23日:拒絶査定(4月18日送達。以下「原査定」
という。)
同年 7月26日:審判請求書・手続補正書の提出

第2 平成29年7月26日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成29年7月26日付け手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[補正却下の決定の理由]
1 補正内容
本件補正は、特許請求の範囲についてするものであり、その特許請求の範囲の請求項1については、
本件補正前(平成28年11月8日付け手続補正後のもの)に、
「基板、前記基板上に配置される第1電極、前記第1電極上に配置される光電変換層、前記光電変換層上に配置される第2電極を備える薄膜太陽電池パネルであって、ゲート電極を更に備え、前記基板は超薄ガラス基板であり、前記超薄ガラス基板の厚さが0.35?1mmであり、前記超薄ガラス基板は湾曲性を有して、最小の曲率半径が10cm以下にでき、前記第1電極は連続的に前記基板に形成され、前記超薄ガラス基板の曲率半径は30cmより大きく、前記薄膜太陽電池パネルは自動車、船舶又は建築物に用いられることを特徴とする薄膜太陽電池パネル。」とあったものを、

「基板、前記基板上に配置される第1電極、前記第1電極上に配置される光電変換層、前記光電変換層上に配置される第2電極を備える薄膜太陽電池パネルであって、ゲート電極を更に備え、前記基板は超薄ガラス基板であり、前記超薄ガラス基板の厚さが0.35?1mmであり、前記超薄ガラス基板は湾曲性を有して、最小の曲率半径が10cm以下にでき、前記第1電極は連続的に前記基板に形成され、前記超薄ガラス基板の曲率半径は30cmより大きく、前記薄膜太陽電池パネルは自動車、船舶又は建築物に用いられ、
前記薄膜太陽電池パネルは自動車の天窓に用いられ、前記基板の曲率半径は1mより大きく、
前記薄膜太陽電池パネルは船舶又は建築物に用いられ、前記基板の曲率半径は30cmより大きい特徴とする薄膜太陽電池パネル。」と補正する内容を含むものである(下線は、請求人が手続補正書において付したものである。)。

2 補正目的
上記「1」の補正内容は、本件補正前の請求項1に係る発明の「薄膜太陽電池パネル」が適用される対象物の一つである「自動車」について、「自動車の天窓」であると限定するするとともに、その曲率半径を「1mより大きく」と限定するものであり、その補正前後で、発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であることから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
よって、本件補正後の請求項1についての補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものと認められることから、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)について、これが特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か)を、以下に検討する。

3 独立特許要件
(1)本願補正発明
本願補正発明は、上記「第2 1」に記載したとおりである。

(2)引用文献に記載の事項
原査定の拒絶の理由において引用文献1として引用された、特開昭62-5671号公報(1987年1月12日公開。以下「引用文献」という。)には、図とともに以下の記載がある(下線は、当審で付した。以下同じ。)。

ア 「2.特許請求の範囲
(1)互いに平行な平坦面を有する透光性のガラス基板を用意し、その一方の平坦面に膜状の光電変換素子を形成した後、上記ガラス基板を接着シートを挾んで該ガラス基板よりも機械的強度の大きい透光性受光板の曲面に対峙せしめ、これらを減圧状態下に保持し、上記ガラス基板を湾曲せしめて上記受光板の曲面に上記接着シートを挾んで当接せしめたことを特徴とする光起電力装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
(イ) 産業上の利用分野
本発明は光エネルギを直接電気エネルギに変換する光起電力装置の製造方法に関し、本発明により製造された光起電力装置は例えば自動車のサンルーフに取り付けられる。」(第1頁左欄)

イ 「(ヘ)実施例
第1図は本発明製造方法を説明するための分解断面図、第2図は完成状態の断面図、第3図は完成状態の要部拡大断面図であって、(1)は互いに平行な平坦面(1a)(1b)を有し予め一方の平坦面(1b)に膜状の光電変換素子(2)(2)・・・が形成された透光性のガラス基板で、該ガラス基板(1)は通常の窓用の所謂青板ガラス(ソーダ石灰ガラス)からなり、例えば0.2mm?2.0mm程度の板厚を備えている。(3)は第1図に於いて接着シート(4a)を挾んでその一方の曲面(3b)が対峙した透光性受光板で、平面にして40cm?90cm×80cm?180cm程度の面積を備え、その周囲や全体に50mm?10^(5)mm程度の曲率半径を持つ曲面(3a)(3b)が形成された例えば自動車用のサンルーフ或いはムーンルーフであり、上記ガラス基板(1)よりも機械的強度が大きくなるべく材料や板厚が選択されている。上述の如く透光性受光板(3)の好ましい実施例である自動車用のサンルーフ或いはムーンルーフにあっては強化ガラスやポリカーボネート、アクリル等から曲面状に成型されている。(5)は上記受光板(3)の他方の主面(3a)を受光面とした場合、ガラス基板(1)の一方の主面(1b)に支持された光電変換素子(2)(2)・・・の背面側を保護する保護フィルムで、該保護フィルム(5)も第1図に示す如く接着シート(4b)を挾んでガラス基板(1)の一方の主面(1b)と対峙する。(6)は光電変換素子(2)(2)・・・の光電変換出力、即ち光起電力を外部に導出するための端子ボックスで、一対のリード線(7a)(7b)が延出している。
而して、第1図に示した如く透光性受光板(3)の凹状曲面(3b)側に、その曲面(3b)側に位置する接着シート(4a)が先ずその曲面(3b)に沿って敷設せしめられる。次いで、ガラス基板(1)が受光板(3)の凹状曲面(3b)に積み重ねられるが、ガラス基板(1)は柔軟性を備えていないために、その平坦面(1a)は受光板(3)の凹状曲面(3b)に沿って敷設された接着シート(4a)と当接することなくその曲率に応じた空隙を形成した状態で対峙することとなる。そして、光電変換素子(2)(2)・・・が形成されたガラス基板(1)の一方の主面(1a)上に接着シート(4b)及び保護フィルム(5)が順次積層され、端子ボックス(6)が光電変換素子(2)(2)・・・と電気的に結線される。
この様にして電気的結線が終了すると、これら積層体を柔軟な袋状体に収納し、該袋状体の開孔部分から内部を10Torr以下の減圧状態に保持すべく排気する。斯る排気が進行すると、袋状体の内部はその外周方向から大気圧による圧迫を受けるために、機械的強度の小さいガラス基板(1)が受光板(3)の凹状曲面(3b)との間に形成した空隙を縮減すべく湾曲変形し、最終的に上記受光板(3)の凹状曲面(3b)とガラス基板(1)は接着シート(4a)を挾んで綿密に当接する。
……
本発明光起電力装置の製造方法に於ける光電変換素子(2)(2)・・・の好適な実施例は、第3図に拡大して示す如くガラス基板(1)の一方の主面(1b)側から酸化スズ、酸化インジウムスズに代表される透光性導電酸化物(TCO)の第1電極膜(8)と、その内部に膜面に平行な半導体接合を備えたシリコン化合物ガスを原料ガスとするプラズマCVD法や光CVD法により形成されたアモルファスシリコン系の半導体光活性層(9)と、アルミニウム、銀、TCO/銀等の第2電極膜(10)と、の積層体からなり、それら光電変換素子(2)(2)…は一定間隔を隔てて整列配置されると共に、それらの隣接間隔部に於いて相隣り合う第1電極膜(8)と第2電極膜(10)とが電気的に結合されている。」(第2頁左下欄ないし第3頁右下欄)

ウ 「(ト)発明の効果
本発明光起電力装置の製造方法は以上の説明から明らかな如く、膜状の光電変換素子を予め透光性の平坦面に形成した後、その平坦なガラス基板を透光性受光板の曲面に対峙せしめ、それらを減圧状態下に保持することによって、上記受光板に比して機械的強度の小さいガラス基板は該受光板の曲面に沿って湾曲し、ガラス基板と受光板は両者の間に介在せしめられていた接着シートにより一体的に結合することができるので、電気的特性、耐候性、製造歩留まり、プロセスコスト等で優れ既に実用化されている平坦なガラス基板を膜状光電変換素子の支持基板として用いることができ、実用化が極めて難しかった曲面を持つ光起電力装置の製造を容易に実現せしめることができる。」(第3頁右下欄)

エ 第1図ないし第3図は、以下のものである。


(3)引用文献に記載された発明
ア 上記(2)アの記載からして、引用文献には、
「互いに平行な平坦面を有する透光性のガラス基板を用意し、その一方の平坦面に膜状の光電変換素子を形成した後、上記ガラス基板を接着シートを挾んで該ガラス基板よりも機械的強度の大きい自動車のサンルーフの曲面に対峙せしめ、これらを減圧状態下に保持し、上記ガラス基板を湾曲せしめて上記受光板の曲面に上記接着シートを挾んで当接せしめたことを特徴とする光起電力装置の製造方法。」が記載されているものと認められる。

イ 上記(2)イ及びウの記載を踏まえて、第1図ないし第3図を見ると、以下のことが理解できる。

(ア)上記アの「互いに平行な平坦面を有する透光性のガラス基板」は、
「互いに平行な平坦面(1a)(1b)を有する、0.2mm?2.0mm程度の板厚を備えた透光性のガラス基板(1)」であること。

(イ)上記アの「一方の平坦面」は、「一方の平坦面(1b)」であること。

(ウ)上記アの「膜状の光電変換素子」は、
ガラス基板(1)の一方の平坦面(1b)側に、一定間隔を隔てて整列配置された、透光性導電酸化物(TCO)の第1電極膜(8)と、アモルファスシリコン系の半導体光活性層(9)と第2電極膜(10)と、の積層体からなり、それらの隣接間隔部に於いて相隣り合う第1電極膜(8)と第2電極膜(10)とが電気的に結合されていること。

(エ)上記アの「自動車のサンルーフ」は、
「平面にして40cm?90cm×80cm?180cm程度の面積を備え、その周囲や中央領域に50mm?10^(5)mm程度(なお、以下「50mm?100m程度」と表記する。)の曲率半径を持つ曲面(3a)(3b)が形成された自動車用のサンルーフ(3)」であること。

(オ)光起電力を外部に導出するための端子ボックス(6)が光電変換素子(2)と電気的に結線されていること。

ウ 上記ア及びイによれば、引用文献には、次の工程を含む「光起電力装置の製造方法」が記載されているものと認められる。

「互いに平行な平坦面(1a)(1b)を有する、0.2mm?2.0mm程度の板厚を備えた透光性のガラス基板(1)を用意する工程と、
一方の平坦面(1b)側に、透光性導電酸化物(TCO)の第1電極膜(8)と、アモルファスシリコン系の半導体光活性層(9)と第2電極膜(10)と、の積層体である膜状の光電変換素子(2)を一定間隔を隔てて形成する工程と、
上記ガラス基板(1)を接着シートで挾んで、平面にして40cm?90cm×80cm?180cm程度の面積を備え、その周囲や中央領域に50mm?100m程度の曲率半径を持つ曲面(3a)(3b)が形成された自動車用のサンルーフ(3)の曲面に対峙せしめ、これらを減圧状態下に保持し、上記ガラス基板(1)を湾曲せしめて上記自動車用のサンルーフ(3)の曲面に上記接着シートを当接する工程と、
光起電力を外部に導出するための端子ボックス(6)を上記光電変換素子(2)と電気的に結線する工程と、を含む、
光起電力装置の製造方法。」

エ 上記アないしウを総合すると、引用文献には、次の「光起電力装置」(以下「引用発明」という。)記載されているものと認められる。

「互いに平行な平坦面(1a)(1b)を有する、0.2mm?2.0mm程度の板厚を備えた透光性のガラス基板(1)と、
上記ガラス基板(1)の一方の平坦面(1b)側に、一定間隔を隔てて整列配置された、透光性導電酸化物(TCO)の第1電極膜(8)と、アモルファスシリコン系の半導体光活性層(9)と第2電極膜(10)と、の積層体からなり、それらの隣接間隔部に於いて相隣り合う第1電極膜(8)と第2電極膜(10)とが電気的に結合されている膜状の光電変換素子(2)と、
平面にして40cm?90cm×80cm?180cm程度の面積を備え、その周囲や中央領域に50mm?100m程度の曲率半径を持つ曲面(3a)(3b)が形成された自動車用のサンルーフ(3)と、
上記光電変換素子(2)と電気的に結線された光起電力を外部に導出するための端子ボックス(6)と、を備え、
上記ガラス基板(1)を湾曲せしめて上記自動車用のサンルーフ(3)の曲面に接着した、光起電力装置。」

(4)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「透光性のガラス基板(1)」は、本願補正発明の「基板」に相当し、
以下、同様に、
「第1電極膜(8)」は、「基板上に配置される第1電極」に、
「アモルファスシリコン系の半導体光活性層(9)」は、「第1電極上に配置される光電変換層」に、
「第2電極膜(10)」は、「光電変換層上に配置される第2電極」に、それぞれ、相当する。

そうすると、引用発明の「光起電力装置」における、「透光性のガラス基板(1)」、「第1電極膜(8)」、「アモルファスシリコン系の半導体光活性層(9)」及び「第2電極膜(10)」を組合わせたもの(以下、「引用発明」と区別するために、便宜上、「引用発明A」という。)は、本願補正発明の「薄膜太陽電池パネル」に相当する。

また、引用発明Aの「透光性のガラス基板(1)」は、「『周囲や中央領域に50mm?100m程度の曲率半径を持つ曲面(3a)(3b)が形成された』自動車用のサンルーフ(3)」の曲面に湾曲して接着されるものであるから、「湾曲性を有して、最小の曲率半径が10cm以下にでき」るものであるといえる。

よって、本願補正発明と引用発明Aとは、
「基板、前記基板上に配置される第1電極、前記第1電極上に配置される光電変換層、前記光電変換層上に配置される第2電極を備える薄膜太陽電池パネルであって、前記基板は超薄ガラス基板であり、前記超薄ガラス基板の厚さが所定範囲内であり、前記超薄ガラス基板は湾曲性を有して、最小の曲率半径が10cm以下にできる」点で一致する。

イ 引用発明Aの「膜状の光電変換素子(2)」は、ガラス基板(1)の一方の平坦面(1b)側に、一定間隔を隔てて整列配置したものであるから、引用発明Aの「第1電極膜(8)」は、ガラス基板(1)上に一定間隔を隔てて形成されているものと解される。
そうすると、本願補正発明と引用発明Aとは、「第1電極は基板に形成され」ている点で一致する。

ウ また、本願補正発明と引用発明Aとは、
「超薄ガラス基板の曲率半径はBであり、薄膜太陽電池パネルは自動車に用いられ、
前記薄膜太陽電池パネルは自動車の天窓に用いられ、前記基板の曲率半径はCである」点で一致する。

エ 以上のことから、本願補正発明と引用発明Aとは、以下の点で一致する。
<一致点>
「基板、前記基板上に配置される第1電極、前記第1電極上に配置される光電変換層、前記光電変換層上に配置される第2電極を備える薄膜太陽電池パネルであって、
前記基板は超薄ガラス基板であり、前記超薄ガラス基板の厚さが所定範囲内であり、前記超薄ガラス基板は湾曲性を有して、最小の曲率半径が10cm以下にでき、前記第1電極は前記基板に形成され、前記超薄ガラス基板の曲率半径はBであり、前記薄膜太陽電池パネルは自動車に用いられ、
前記薄膜太陽電池パネルは自動車の天窓に用いられ、前記基板の曲率半径はCである、薄膜太陽電池パネル。」

オ 一方、両者は、以下の点で相違する。
<相違点1>
本願補正発明は、「ゲート電極を更に備え」たものであるのに対して、
引用発明Aは、「光起電力を外部に導出するための端子ボックス(6)」を備えているものの、ゲート電極を更に備えているか否か不明である点。

<相違点2>
第1電極に関して、
本願補正発明は、「連続的に(超薄ガラス)基板に形成され」たものであるのに対して、
引用発明Aは、ガラス基板(1)上に一定間隔を隔てて形成され、連続的にガラス基板(1)に形成されたものではない点。

<相違点3>
(超薄ガラス基板の厚さである)所定範囲内に関して、
本願補正発明は、「0.35?1mm」であるのに対して、
引用発明Aは、「0.2mm?2.0mm程度」ではあるものの、「0.35?1mm」であるか否か不明である点。

<相違点4>
(超薄ガラス基板の曲率半径である)B及びCに関して、
本願補正発明は、「30cmより大きく」及び「1mより大きい」のに対して、
引用発明Aは、周囲や中央領域に50mm?100m程度の曲率半径を持つ曲面(3a)(3b)が形成されたものであって、すべての領域(周囲及び中央領域)が1mより大きい曲率半径の曲面で形成されたものではない点。

(5)判断
ア 上記<相違点1>について検討する。
(ア)ゲート電極に関して、本願明細書には、以下の記載がある。

「【0012】
好ましくは、上記薄膜太陽電池パネルは自動車の天窓に用いられ、上記薄膜太陽電池パネルの上記ゲート電極は自動車電源及びその負荷に導線によって接続され、上記負荷はキャリッジ内のファン、照明灯、電子娯楽システムを含む。」

「【0023】
図1は本発明にかかる薄膜太陽電池パネルの好ましい実施形態を示す模式図である。図1を参照して、上記薄膜太陽電池パネルを説明する。基板10、基板上に配置される第1電極20、上記第1電極上に配置される光電変換層30、及び上記光電変換層30上に配置される第2電極40を備え、上記第2電極上にゲート電極50を更に備える。」

上記記載からして、
「ゲート電極」は、「光電変換層上に配置される第2電極」上に設けられた電極であって、自動車電源及び負荷に導線によって電気的に接続されているものと認められる。

(イ)一方、引用発明の「端子ボックス(6)」は、「光起電力を外部に導出(供給)」するためのものであるから、引用発明Aにおいて、「第2電極膜(10)」上にゲート電極を設け、導線によって自動車電源及び負荷と電気的に接続することは、当業者が用途に応じて適宜なし得たことである。
また、仮に、「ゲート電極」が、「ゲート機能」を備えたものであるとしても、当業者が必要に応じて適宜なし得た設計事項である(例えば、特開平10-125359号公報の図3を参照。)。

(ウ)よって、引用発明Aにおいて、上記<相違点1>に係る本願補正発明の構成を採用することは、当業者が容易になし得たことである。

イ 上記<相違点2>について検討する。
(ア)引用発明Aにおいては、第1電極膜(8)と第2電極膜(10)とが電気的に結合され、いわゆる、直列接続となっているものの、太陽電池において、「(複数の)光電変換素子」を直列接続するか並列接続するかは、当業者が適宜決め得ることであり、引用発明Aの「(複数の)光電変換素子」を並列接続するために、引用発明Aの「第1電極膜(8)」を連続的にガラス基板(1)に形成することは、当業者が容易になし得たことである。

(イ)よって、引用発明Aにおいて、上記<相違点2>に係る本願補正発明の構成を採用することは、当業者が容易になし得たことである。

ウ 上記<相違点3>及び<相違点4>について検討する。
(ア)ガラス基板の板厚が厚いほど湾曲し難く(重く、強く)なり、薄いほど湾曲し易く(軽く、弱く)なることは、当業者にとって明らかである(例えば、下記の文献を参照。)。

特開2011-23701号公報(【0044】)
特解2011-16705号公報(【0040】)
特開2008-282783号公報(【0013】)
実願昭61-74771号(実開昭62-186447号)のマイクロフィルム(第4頁上段)

(イ)そして、引用発明においては、「透光性のガラス基板(1)」を湾曲せしめて「自動車用のサンルーフ(3)」の曲面に接着させる必要のあるところ、引用発明Aの「透光性のガラス基板(1)」の具体的な板厚は、当業者が引用発明を実施する際に、「自動車用のサンルーフ(3)」の具体的な曲面形状(デザイン)に応じて適宜定めるべき事項であって、例えば、「50m以上の曲率半径を持つ曲面が形成された自動車用のサンルーフ」と「0.8mm程度の板厚を備えた透光性のガラス基板(1)」とを接着させることに何ら困難性は認められない。

(ウ)よって、引用発明Aにおいて、上記<相違点3>及び<相違点4>に係る本願補正発明の構成を採用することは、当業者が容易になし得たことである。

エ 判断についてのまとめ
以上のとおりであるから、引用発明Aにおいて、上記<相違点1>ないし<相違点4>に係る本願補正発明の構成を採用することは、当業者が容易になし得たことである。
そして、本願補正発明の奏する効果は、引用発明Aの奏する効果から予測し得る範囲内のものであり、上記<相違点1>ないし<相違点4>を総合判断しても、本願補正発明は、当業者が容易に発明することができたものであるというほかない。
よって、本願補正発明は、当業者が引用発明Aに基づいて容易に発明することができたものである。

(6)審判請求書における主張
請求人は、審判請求書(第4頁下段ないし第5頁上段)において、以下のように主張していることから、この点について検討する。

「一方、引用刊行物では、ガラス基板の曲率半径及び厚さの関係からガラス基板の厚さを決めるという技術的思想が開示されていないので、当然、使用目的から最適の薄膜太陽電池パネルのガラス基板の曲率半径及び厚さを得ることはできない。」

本願補正発明の「超薄ガラス基板」は、曲率半径100m以上の、ほぼ平坦(フラット)と思われる超薄ガラス基板を包含するものであるから、本願補正発明は、曲率半径の観点からだけではなく、強度や重量等の観点から、厚みを「0.35?1mm」に設定した「薄膜太陽電池パネル」であってもよいものと認められる。
また、自動車の天窓(サンルーフ)の曲面に太陽電池パネルを取り付ける際に、太陽電池パネルを構成するガラス基板を薄くする必要があることは、上記「実願昭61-74771号(実開昭62-186447号)のマイクロフィルム」等に記載されているように、本願の優先日時点でよく知られていることである。
よって、請求人の上記主張は、上記「(5)判断」の判断を左右するものではない。

(7)独立特許要件についてのまとめ
本願補正発明は、当業者が引用発明Aに基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 補正却下の決定の理由のむすび
上記「3」のとおり、本願補正発明は特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反する。
したがって、本件補正は、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたため、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記「第2 1」にて本件補正前の請求項1として記載したとおりのものである。

2 引用文献
引用文献及びその記載事項は、前記「第2 3(1)」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願補正発明は、前記「第2 2」に記載したとおり、本願発明を限定したものに相当する。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに限定を付加したものに相当する本願補正発明が前記「第2 3」で検討したとおり、当業者が引用発明Aに基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、当業者が引用発明Aに基づいて容易に発明をすることができたものである。
したがって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

4 むすび
以上のとおりであるから、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-06-27 
結審通知日 2018-07-03 
審決日 2018-07-17 
出願番号 特願2015-557326(P2015-557326)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 嵯峨根 多美森江 健蔵  
特許庁審判長 恩田 春香
特許庁審判官 星野 浩一
村井 友和
発明の名称 薄膜太陽電池パネル及びその製造方法  
代理人 中尾 洋之  
代理人 舛谷 威志  

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