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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B22F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B22F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B22F
審判 全部申し立て 2項進歩性  B22F
管理番号 1346748
異議申立番号 異議2018-700226  
総通号数 229 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-01-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-03-15 
確定日 2018-10-18 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6197718号発明「鉄系粉末混合物、同鉄系粉末混合物から得られる鉄系焼結体、及び同鉄系焼結体から得られる鉄系部品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6197718号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正することを認める。 特許第6197718号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6197718号(以下、「本件特許」という。)の請求項1、2に係る特許についての出願は、平成26年 3月25日を出願日とし、平成29年 9月 1日にその特許権の設定登録がなされ、同年 9月20日に特許掲載公報が発行された。
その後、平成30年3月15日に特許異議申立人豊田敦子により請求項1、2に係る特許に対し特許異議の申立てがされ、同年3月20日に特許異議申立人ホガナス アクチボラグ(パブル)により請求項1、2に係る特許に対し特許異議の申立てがされた。
以下、特許異議申立人豊田敦子を「申立人A」といい、申立人Aが提出した特許異議申立書を「異議申立書A」という。
また、特許異議申立人ホガナス アクチボラグ(パブル)を「申立人B」といい、申立人Bが提出した特許異議申立書を「異議申立書B」という。

その後の経緯は以下のとおりである。
平成30年 6月18日付け 取消理由通知
同年 7月13日付け 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
同年 8月21日付け 異議申立人Aによる意見書の提出
同年 9月12日付け 異議申立人Bによる意見書の提出

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
平成30年 7月13日付けの訂正請求書(以下、「本件訂正請求書」という。)による訂正(以下、「本件訂正」という)の請求は、特許請求の範囲の訂正を請求するものであって、その内容は、以下の訂正事項1のとおりである(下線は、訂正箇所を示すために、当審にて付したものである。)。

・訂正事項1
請求項1の末尾に
「含有する鉄系粉末混合物。」
とあるのを、
「含有する、焼結によって鉄系焼結体を得るための鉄系粉末混合物。」
に訂正する。
請求項1を引用する請求項2についても同様に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1による訂正は、本件訂正前の請求項1に記載されていた「鉄系粉末混合物」に関し、その用途を「焼結によって鉄系焼結体を得るための」との記載によって限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(2) 訂正事項1による訂正は、本件特許の願書に添付した明細書(以下、図面も含め、「本件明細書」という。)の、例えば段落【0008】の「本発明に係る鉄系粉末混合物は、同鉄系粉末混合物を焼結することによって得られる鉄系焼結体及び同鉄系焼結体を塑性加工することによって得られる鉄系部品のヤング率を、被削性の悪化を伴わずに向上させることができる。」との記載に照らせば、訂正事項1は、本件明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、新規事項の追加には該当しない。

(3) 訂正事項1による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことが明らかである。

3 一群の請求項
本件訂正前の請求項1、2について、請求項2は請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、本件訂正は、一群の請求項である請求項1、2について請求されている。

4 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正を認める


第3 本件特許発明
上記のとおり本件訂正は認められるから、特許第6197718号の特許に係る請求項1、2に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」、「本件特許発明2」という)は、訂正特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。なお、訂正箇所に下線を付した。

「【請求項1】
1μm以上且つ20μm以下の粒径を有する鉄系粉末を1質量%以上且つ35質量%以下、
20μmを超え且つ45μm以下の粒径を有する鉄系粉末を17質量%以上且つ26質量%以下、
45μmを超え且つ75μm以下の粒径を有する鉄系粉末を18質量%以上且つ27質量%以下、
75μmを超え且つ106μm以下の粒径を有する鉄系粉末を13質量%以上且つ20質量%以下、
106μmを超え且つ150μm以下の粒径を有する鉄系粉末を12質量%以上且つ19質量%以下、及び
150μmを超え且つ210μm以下の粒径を有する鉄系粉末を4質量%以上且つ6質量%以下、
含有する、焼結によって鉄系焼結体を得るための鉄系粉末混合物。
【請求項2】
請求項1に記載の鉄系粉末混合物からなる鉄系焼結体を鍛造することによって得られる鉄系部品。」

なお、以下においては、便宜的に、請求項1において特定される六種類の鉄系粉末に関する発明特定事項を、それぞれ「構成A」?「構成F」ということがある。
すなわち、
構成A:「1μm以上且つ20μm以下の粒径を有する鉄系粉末を1質量%以上且つ35質量%以下」
構成B:「20μmを超え且つ45μm以下の粒径を有する鉄系粉末を17質量%以上且つ26質量%以下」
構成C:「45μmを超え且つ75μm以下の粒径を有する鉄系粉末を18質量%以上且つ27質量%以下」
構成D:「75μmを超え且つ106μm以下の粒径を有する鉄系粉末を13質量%以上且つ20質量%以下」
構成E:「106μmを超え且つ150μm以下の粒径を有する鉄系粉末を12質量%以上且つ19質量%以下」
構成F:「150μmを超え且つ210μm以下の粒径を有する鉄系粉末を4質量%以上且つ6質量%以下」
ということがある。
また、各構成に係る粉末を、それぞれ「粉末A」?「粉末F」ということがある。例えば、「粉末A」は、「1μm以上且つ20μm以下の粒径を有する鉄系粉末」を意味する用語として使用することがある。


第4 特許異議の申立てについて
1 申立理由の概要
(1) 申立人Aは甲第1号証?甲第7号証を提出し、また、申立人Bは甲第1号証?甲第7号証を証拠として提出した。
以下においては、申立人Aが提出した甲第1号証?甲第7号証をそれぞれ「甲A1」?「甲A7」といい、申立人Bが提出した甲第1号証?甲第7号証をそれぞれ「甲B1」?「甲B7」という(なお、甲A7は、本件特許の特許掲載公報であって、申立人Aにより複数の箇所に下線が付されたものである。)。

(2) 申立人Aの主張した申立理由の要旨
ア 本件訂正前の請求項1、2に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、同特許は取り消されるべきものである。
イ 本件訂正前の請求項1、2に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、同特許は取り消されるべきものである。
ウ 本件訂正前の請求項1、2に係る発明は、甲A1?甲A6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該発明に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、同特許は取り消されるべきものである。

(3) 申立人Bの主張した申立理由の要旨
ア 本件訂正前の請求項1、2に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、同特許は取り消されるべきものである。
イ 本件訂正前の請求項1、2に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、同特許は取り消されるべきものである。
ウ 甲B1を主たる引用例として、本件訂正前の請求項1、2に係る発明は、甲B1に記載された発明であるか、甲B1に記載された発明に基づいて又は甲B1?甲B7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該発明に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、同特許は取り消されるべきものである。
エ 甲B4を主たる引用例として、本件訂正前の請求項1、2に係る発明は、甲B4に記載された発明であるか、甲B4に記載された発明に基づいて又は甲B1?甲B7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該発明に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであり、同法113条第2号に該当し、同特許は取り消されるべきものである。

[証拠方法]
甲A1:特開平10-317090号公報
甲A2:特開昭61-23702号公報
甲A3:特開平6-2007号公報
甲A4:特開2008-231538号公報
甲A5:特開2012-122127号公報
甲A6:特開2004-18953号公報
甲A7:特許第6197718号公報(本件特許の特許掲載公報)
甲B1:特開昭61-23702号公報
甲B2:JIP REDUCED IRON POWDERS ATOMIZED IRON AND STEEL POWDERS(JFEスチール株式会社発行のカタログ) 2004年3月
甲B3:ATOMIZED STEEL POWDER(株式会社神戸製鋼所発行のカタログ 2000年10月)
甲B4:米国特許第5516483号明細書
甲B5:マイケル・アンダーソン博士(ホガナス アクチボラグ 研究開発プロジェクトマネージャー)による、米国特許第5516483号明細書の図8に与える情報に基づく粒径成分の統計的解析を示す、解析報告書
甲B6:特表平9-511546号公報
甲B7:廣瀬 徳豊 外4名 「焼結鉄の弾性率およびポアソン比におよぼす気孔特性の影響」、「粉体および粉末冶金」 第45巻第10号 第920頁?第925頁 1998年10月15日


2 取消理由通知書に記載した取消理由の概要
当審においては、本件訂正前の請求項1に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであると判断し、取消理由を通知した。その詳細と当審の判断については、他の記載不備とともに、後記3(2)カにて記載する。


3 記載不備に関する当審の判断
前記1(2)ア、イ及び前記1(3)ア、イのとおり、申立人A及び申立人Bの両者は、本件訂正前の請求項1、2に係る特許が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(以下、「サポート要件」ということがある。)を満たしていない特許出願に対してされたものであることと、特許法第36条第4項第1号に規定する要件(以下、「実施可能要件」ということがある。)を満たしていない特許出願に対してされたものであることを主張している。
また、前記2のとおり、当審においては、本件訂正前の請求項1に係る特許が、サポート要件を満たしていない特許出願に対してされたものであると判断し、取消理由を通知している。
そこで、当欄においては、以下のとおりの内容を記載する。
(1):サポート要件及び実施可能要件の判断の根拠となる本件明細書の記載を抽出する。
(2):サポート要件についての当審の判断を記載する。具体的には、ア?オでサポート要件について本件特許発明1、2が満足するかを判断し、その後、カで取消理由通知書に記載した取消理由では特許を取り消せない理由を記載し、その後キで各申立人が主張する申立理由では特許を取り消せない理由を記載する。
(3):実施可能要件についての当審の判断を記載する。具体的には、ア?エで実施可能要件について本件特許発明1、2が満足するかを判断し、その後オで各申立人が主張する申立理由では特許を取り消せない理由を記載する。
(4):記載不備に関する当審の判断のまとめを記載する。

(1) 本件明細書の発明の詳細な説明及び図面には、以下の記載がある(下線は当審による。「・・・」により記載の省略を示す。以下同様である。)。
ア 「【0006】
・・・塑性加工によって鉄系焼結体から得られる鉄系部品のヤング率を被削性の悪化を伴わずに向上させることができる技術は未だ確立されていない。
【0007】
そこで、本発明者は、鋭意研究の結果、鉄系焼結体の平均断面空孔数及び密度を特定の範囲に収めることにより、同鉄系焼結体のみならず、同鉄系焼結体を塑性加工することによって得られる鉄系部品においても、被削性の悪化を招く高ヤング率材料を配合すること無くヤング率を向上させることができることを見出した。更に、本発明者は、特定の粒度分布を有する鉄系粉末混合物を焼結することにより、上記「特定の範囲の平均断面空孔数及び密度を有する鉄系焼結体」を得ることができることを見出した。
【0008】
かかる点に鑑み、本発明に係る鉄系粉末混合物は、1μm以上且つ20μm以下の粒径を有する鉄系粉末を1質量%以上且つ35質量%以下含有する鉄系粉末混合物である。このような粒度分布を有する鉄系粉末混合物を焼結することによって得られる鉄系焼結体は、従来技術に係る同様の鉄系焼結体と比較して、より高いヤング率を有する。更に、このような鉄系焼結体を塑性加工することによって得られる鉄系部品は、従来技術に係る同様の鉄系部品と比較して、より高いヤング率を有する。即ち、本発明に係る鉄系粉末混合物は、同鉄系粉末混合物を焼結することによって得られる鉄系焼結体及び同鉄系焼結体を塑性加工することによって得られる鉄系部品のヤング率を、被削性の悪化を伴わずに向上させることができる。」

イ 「【0012】
前述したように、本発明によれば、鉄系焼結体の平均断面空孔数及び密度を特定の範囲に収めることにより、同鉄系焼結体のみならず、同鉄系焼結体を塑性加工することによって得られる鉄系部品においても、被削性の悪化を伴わずにヤング率を向上させることができる。更に、このような特定の範囲の平均断面空孔数及び密度を有する鉄系焼結体は、特定の粒度分布を有する鉄系粉末混合物を焼結することによって得ることができる。本発明を実施するための幾つかの形態につき、以下に詳しく説明する。
【0013】
先ず、本発明の第1の実施形態(以降、「第1形態」と称される場合がある)に係る鉄系粉末混合物は、1μm以上且つ20μm以下の粒径を有する鉄系粉末を1質量%以上且つ35質量%以下含有する鉄系粉末混合物である。
【0014】
上記鉄系粉末混合物を構成する鉄系粉末は、鉄を主成分とする粉末である限り、特に限定されない。・・・加えて、1μm以上且つ20μm以下の粒径を有する鉄系粉末もまた、鉄を主成分とする粉末である限り、特に限定されない。・・・尚、本明細書において、1μm以上且つ20μm以下の粒径を有する鉄系粉末は、以降「超微粉」と称される場合がある。
【0015】
上記のように、第1形態に係る鉄系粉末混合物は、1μm以上且つ20μm以下の粒径を有する鉄系粉末(超微粉)を1質量%以上且つ35質量%以下(所定量)含有する。詳しくは後述するように、このように所定量の超微粉を含有する第1形態に係る鉄系粉末混合物を焼結することによって得られる鉄系焼結体は、所定量の超微粉を含有しない従来技術に係る鉄系粉末混合物を焼結することによって得られる鉄系焼結体と比較して、同じ密度であっても、より高いヤング率を有する。更に、第1形態に係る鉄系粉末混合物から得られる鉄系焼結体を塑性加工することによって得られる鉄系部品は、従来技術に係る同様の鉄系粉末混合物から得られる鉄系焼結体を塑性加工することによって得られる鉄系部品と比較して、より高いヤング率を有する。
【0016】
超微粉の含有率が1質量%未満であると、超微粉の配合によるヤング率の向上効果が不十分となるので望ましくない。一方、超微粉の含有率が35質量%を超えると、超微粉の配合により、結果として得られる鉄系焼結体の内部に形成される空孔の大きさが増大し、且つ同空孔の数が減少する。その結果、同鉄系焼結体及び/又は同鉄系焼結体を塑性加工することによって得られる鉄系部品のヤング率が却って低下するので望ましくない。
【0017】
即ち、第1形態に係る鉄系粉末混合物によれば、高ヤング率材料を配合すること無く(即ち、被削性の悪化を招くこと無く)、鉄系粉末混合物を焼結することによって得られる鉄系焼結体のヤング率を向上させることができる。加えて、第1形態に係る鉄系粉末混合物によれば、高ヤング率材料を配合すること無く(即ち、被削性の悪化を招くこと無く)、鉄系粉末混合物から得られる鉄系焼結体を塑性加工することによって得られる鉄系部品のヤング率を向上させることができる。」

ウ 「【0018】
ここで、上記につき、添付図面を参照しながら更に詳しく説明する。図1の(a)は従来技術に係る鉄系粉末混合物から得られた焼結体の断面の光学顕微鏡写真であり、図1の(b)は第1形態に係る鉄系粉末混合物から得られた焼結体の断面の光学顕微鏡写真である。より具体的には、図1の(a)に示されている焼結体に対応する従来技術に係る鉄系粉末混合物は、0.8%の炭素及び2%の銅を含有する鉄系粉末を含んでなる混合物である。一方、図1の(b)に示されている焼結体に対応する第1形態に係る鉄系粉末混合物は、上記従来技術に係る鉄系粉末混合物と同様の鉄系粉末混合物に、超微粉(1μm以上且つ20μm以下の粒径を有する鉄系粉末)を所定量(混合物全体に対して1質量%以上且つ35質量%)配合してなる混合物である。従来技術に係る焼結体(a)及び第1形態に対応する焼結体(b)は何れも、それぞれに対応する鉄系粉末混合物を8t/cm^(2)の圧力下で成形し、1150℃の温度において焼結させることによって製造した。
・・・
【0020】
上記のように、所定量の超微粉を含有する第1形態に係る鉄系粉末混合物から得られた焼結体(b)は、従来技術に係る焼結体(a)と比較して、同じ密度であるものの、断面における空孔が小さく且つその数が多い。これは、図2に示されているように、従来技術に係る焼結体(a)においては鉄系粉末の間に比較的大きい空孔が存在するのに対し、第1形態に対応する焼結体(b)においては、このような比較的大きい空孔が超微粉によって分断され、より小さい空孔がより多く形成されるためであると考えられる。
【0021】
上記のように、より小さい空孔がより多く形成された第1形態に対応する焼結体(b)は、従来技術に係る焼結体(a)と比較して、同じ密度であっても、より高いヤング率を有する。図3は、図1に示されている焼結体(a)及び(b)のヤング率を表す棒グラフである。図3に示されているように、焼結体(a)及び(b)は同じ密度を有するにも拘わらず、より小さい空孔がより多く形成された第1形態に対応する焼結体(b)は、従来技術に係る焼結体(a)より高いヤング率を呈する。
【0022】
更に、第1形態に対応する焼結体(b)を塑性加工することによって得られる鉄系部品は、従来技術に係る焼結体(a)を塑性加工することによって得られる鉄系部品と比較して、より高いヤング率を有する。図4は、鍛造前の焼結体における平均断面空孔数と鍛造後の密度との関係を表す模式的なグラフである。この例においては、種々の平均断面空孔数を有する鉄系焼結体を、7t/cm2の面圧下、1150℃における鍛造処理に付した。図4に示されているように、鍛造前の密度が同じであっても、鍛造前の焼結体における平均断面空孔数が多くなるほど、鍛造後の密度もより高くなる。同じ密度であるにも拘わらず鍛造前の焼結体における平均断面空孔数が多いということは、上述したように、個々の空孔が小さいことを意味する。従って、図4に示されている鍛造前の焼結体における平均断面空孔数と鍛造後の密度関係との関係は、個々の空孔が小さいほど、例えば鍛造等の塑性加工に付された際に空孔が潰れ易いことを表していると考えられる。
【0023】
一般に、上記のような焼結体を塑性加工することによって得られる部品のヤング率は、その密度が高いほど高い傾向がある。即ち、塑性加工前の焼結体の内部に形成された空孔が小さく、塑性加工時に潰れ易いほど、塑性加工後の部品のヤング率が大きくなる傾向がある。即ち、塑性加工前の焼結体の平均断面空孔数が多いほど、塑性加工後の部品のヤング率が大きくなる傾向がある。」
「【図2】


「【図3】


「【図4】



エ 「【0024】
ところで、以上説明してきたような超微粉の配合によるヤング率の向上効果は、前述したように、超微粉の含有率によって変化する。例えば、図5には、超微粉の含有率に対する焼結体のヤング率の変化を表す模式的なグラフが示されている。上述した第1形態に係る鉄系粉末混合物における超微粉(1μm以上且つ20μm以下の粒径を有する鉄系粉末)の好ましい含有率の範囲(1質量%以上且つ35質量%以下)は、図5のグラフにおける範囲(P)に該当する。本発明者は、種々の圧力(8t/cm^(2)及び9t/cm^(2))及び温度(1150℃及び1250℃)にて成形及び焼結された焼結体について検討した結果、この超微粉の好ましい含有率の範囲(P)の中でも範囲(Q)においては、より高いヤング率が達成されることを見出した。
【0025】
即ち、図5のグラフにおける範囲(Q)は、第1形態に係る鉄系粉末混合物における超微粉の含有率のより好ましい範囲であると言うことができる。従って、第1形態の1つの変形例は、1μm以上且つ20μm以下の粒径を有する鉄系粉末を10質量%以上且つ27質量%以下含有する鉄系粉末混合物である。これにより、当該変形例に係る鉄系粉末混合物によれば、被削性の悪化を招くこと無く、鉄系粉末混合物を焼結することによって得られる鉄系焼結体のヤング率を更に向上させることができる。加えて、当該変形例に係る鉄系粉末混合物によれば、被削性の悪化を招くこと無く、鉄系粉末混合物から得られる鉄系焼結体を塑性加工することによって得られる鉄系部品のヤング率を更に向上させることができる。」
「【図5】



オ 「【0026】
ところで、本発明者は、所定量の超微粉の配合によるヤング率の向上効果の大きさが、鉄系粉末混合物を構成する超微粉以外の鉄系粉末の粒度分布によって異なることを見出した。このことを、図6を参照しながら詳しく説明する。図6は、鉄系粉末混合物における超微粉以外の鉄系粉末の粒度分布によって超微粉の配合によるヤング率の向上効果の大きさが異なることを示す模式的なグラフである。図6の右側に示されているように、20μmを超え且つ45μm以下の粒径を有する鉄系粉末(微粉)のみに所定量の超微粉を配合しても焼結体のヤング率の向上効果は小さい。しかしながら、図6の左側に示されているように、微粉から粗粉(150μmを超え且つ210μm以下の粒径を有する鉄系粉末)までの種々の粒径を有する鉄系粉末を所定の比率にて配合した鉄系粉末混合物に所定量の超微粉を配合すると、著しく大きいヤング率の向上効果を得ることができる。
【0027】 そこで、本発明者は、鋭意研究の結果、特定の粒度分布(配合比)を有する鉄系粉末混合物において、所定量の超微粉の配合によるヤング率の向上効果をより大きくすることができることを見出した。具体的には、鉄系粉末混合物において、所定量(1質量%以上且つ35質量%以下、より好ましくは10質量%以上且つ27質量%以下)の超微粉(1μm以上且つ20μm以下の粒径を有する鉄系粉末)以外の鉄系粉末が特定の粒度分布となるように配合されている場合に、より大きいヤング率の向上効果を得ることができる。
【0028】即ち、本発明の第2の実施形態(以降、「第2形態」と称される場合がある)に係る鉄系粉末混合物は、1μm以上且つ20μm以下の粒径を有する鉄系粉末を1質量%以上且つ35質量%以下含有する鉄系粉末混合物であって、
20μmを超え且つ45μm以下の粒径を有する鉄系粉末を17質量%以上且つ26質量%以下、
45μmを超え且つ75μm以下の粒径を有する鉄系粉末を18質量%以上且つ27質量%以下、
75μmを超え且つ106μm以下の粒径を有する鉄系粉末を13質量%以上且つ20質量%以下、
106μmを超え且つ150μm以下の粒径を有する鉄系粉末を12質量%以上且つ19質量%以下、及び
150μmを超え且つ210μm以下の粒径を有する鉄系粉末を4質量%以上且つ6質量%以下、 含有する鉄系粉末混合物である。
【0029】
図7は、本発明の第2の実施形態(第2形態)に係る鉄系粉末混合物の粒径分布を示す模式的なグラフである。図7によって示されている粒度分布の範囲に入るように各種鉄系粉末成分を配合することにより、当該鉄系粉末混合物を焼結することによって得られる鉄系焼結体のヤング率を大幅に向上させることができる。更に、このようにヤング率が大幅に向上された鉄系焼結体を塑性加工することによって得られる鉄系部品のヤング率もまた大幅に向上させることができる。」
「【図6】


「【図7】



(2) 本件特許発明1、2のサポート要件について
ア 特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断される。

イ 本件特許発明が解決しようとする課題(以下、「本件課題」という)について
前記(1)アによれば、本件課題は、「鉄系粉末混合物を焼結することによって得られる鉄系焼結体及び同鉄系焼結体を塑性加工することによって得られる鉄系部品のヤング率を、被削性の悪化を伴わずに向上させること」であるといえる。

ウ 発明の詳細な説明の記載により当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲について
(ア) 「本発明の第1の実施形態」と称される態様に関し、前記(1)イ?エによれば、発明の詳細な説明には、鉄系粉末混合物において、超微粉(1μm以上且つ20μm以下の粒径を有する鉄系粉末)を所定量(混合物全体に対して1質量%以上且つ35質量%)配合するものとすることで、得られる鉄系焼結体のヤング率が、所定量の「超微粉」を配合しない場合に比較して、向上することが記載されている。
特に、所定量の超微粉の配合によりヤング率が向上することの作用機序に関して、前記(1)ウのうち段落【0020】?【0021】によれば、従来技術に係る焼結体(a)においては鉄系粉末の間に比較的大きい空孔が存在するのに対し、「本発明の第1の実施形態」に対応する焼結体(b)においては、このような比較的大きい空孔が超微粉によって分断され、より小さい空孔がより多く形成されることになり、同じ密度であっても、より高いヤング率を有すると記載されている。そして、前記(1)ウのうち図3は、焼結体(a)及び焼結体(b)のヤング率を表す棒グラフであるところ、焼結体(a)と焼結体(b)は同じ密度を有するにもかかわらず、より小さい空孔がより多く形成された第1形態に対応する焼結体(b)は焼結体(a)より高いヤング率を有するものであることを見て取れる。
また、所定量の超微粉を配合することによりヤング率が向上することの実験的な裏付けに関して、図5には、種々の圧力(8t/cm^(2)及び9t/cm^(2))と、温度(1150℃及び1250℃)にて成形及び焼結された焼結体に関し、超微粉の含有率と焼結体のヤング率の変化を表す模式的なグラフが示されており、超微粉の含有率が1質量%以上且つ35質量%以下においては、超微粉の含有率が0質量%である場合に比較して、ヤング率が向上していることを見て取れる。

(イ) 「本発明の第2の実施形態」と称される態様に関し、前記(1)オによれば、所定量の超微粉の配合によるヤング率の向上効果の大きさが、鉄系粉末混合物を構成する超微粉以外の鉄系粉末の粒度分布によって異なるものであることが記載されている。
具体的には、[20μmを超え且つ45μm以下の粒径を有する鉄系粉末(微粉)のみに所定量の超微粉を配合した鉄系粉末混合物]、及び[微粉から粗粉(150μmを超え且つ210μm以下の粒径を有する鉄系粉末)までの種々の粒径を有する鉄系粉末を所定の比率にて配合した鉄系粉末混合物に所定量の超微粉を配合した鉄系粉末混合物]の両方について、得られる鉄系焼結体のヤング率が、「超微粉」を配合しない場合に比較して、向上することが記載されている。
そして、上記[微粉から粗粉(150μmを超え且つ210μm以下の粒径を有する鉄系粉末)までの種々の粒径を有する鉄系粉末を所定の比率にて配合した鉄系粉末混合物に所定量の超微粉を配合した鉄系粉末混合物]の場合のヤング率の向上効果は、上記[20μmを超え且つ45μm以下の粒径を有する鉄系粉末(微粉)のみに所定量の超微粉を配合した鉄系粉末混合物]の場合のヤング率の向上効果に比較して、大きいものである。

(ウ) したがって、発明の詳細な説明の記載によれば、当業者は、鉄系粉末混合物に所定量(混合物全体に対して1質量%以上且つ35質量%)の超微粉(1μm以上且つ20μm以下の粒径を有する鉄系粉末)を配合することで、所定量の超微粉を配合しない場合に比較して、被削性の悪化を招く高ヤング率材料を配合しなくとも、当該鉄系粉末混合物を焼結することによって得られる鉄系焼結体及び当該鉄系焼結体を塑性加工(鍛造処理)することによって得られる鉄系部品のヤング率が向上し、本件課題を解決するものと認識する。
そして、発明の詳細な説明の、特に「本発明の第2の実施形態」に関する記載によれば、微粉(20μmを超え且つ45μm以下の粒径を有する鉄系粉末)から粗粉(150μmを超え且つ210μm以下の粒径を有する鉄系粉末)までの種々の粒径を有する鉄系粉末に対し、所定量の「超微粉」を配合した鉄系粉末混合物を焼結して得られる鉄系焼結体は、ヤング率が向上して本件課題を解決できるだけでなく、微粉(20μmを超え且つ45μm以下の粒径を有する鉄系粉末)である鉄系粉末に対し所定量の「超微粉」を配合した鉄系粉末混合物を焼結して得られる鉄系焼結体に比較して、より大きくヤング率が向上するという効果を得られることがあることも認識する。

エ 本件特許発明1及び2が、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件課題を課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否について
(ア) 本件特許発明1は、前記第3に示したとおりのものであって、「鉄系粉末混合物」であって、「1μm以上且つ20μm以下の粒径を有する鉄系粉末を1質量%以上且つ35質量%以下」含有するものであるとともに、「焼結によって鉄系焼結体を得るための」ものである。
そうすると、上記ウ(ウ)の検討に照らし、本件特許発明1は、所定量の「1μm以上且つ20μm以下の粒径を有する鉄系粉末」を含有しない場合に比較して、当該鉄系粉末混合物を焼結することによって得られる鉄系焼結体及び当該鉄系焼結体を塑性加工(鍛造処理)することによって得られる鉄系部品のヤング率が向上して本件課題を解決するものと認められるから、本件特許発明1は、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲のものである。

(イ) また、本件特許発明2は、前記第3に示したとおりのものであり、「請求項1に記載の鉄系粉末混合物からなる鉄系焼結体を鍛造することによって得られる鉄系部品である」から、本件特許発明2も、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲のものである。

オ 小括
以上の検討より、本件特許発明1、2は、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、発明の詳細な説明に記載されたものであり、サポート要件を満たすものといえる。

カ 取消理由通知書に記載した取消理由では特許を取り消せない理由
(ア) 取消理由通知では、本件訂正前の請求項1に係る発明は「粉末A」?「粉末F」を所定の量含有する「鉄系粉末混合物」であるところ、「鉄系粉末混合物」の用途に関し何ら特定をしていないから、当該「鉄系粉末混合物」は、焼結させない用途に適用される場合があり得るが、焼結させない用途に適用される「鉄系粉末混合物」は、「鉄系焼結体」とは何ら関係のないものであるから、「鉄系粉末混合物を焼結することによって得られる鉄系焼結体」のヤング率を向上させることはできず、本件課題を解決できるものではないとして、本件訂正前の請求項1に係る発明は発明の詳細な説明に記載されたものではないと判断した。

(イ) これに対し、本件訂正により、本件特許発明1においては、「鉄系粉末混合物」が、「焼結によって鉄系焼結体を得るための」ものであるとして、その用途が限定されて訂正された。したがって、本件特許発明1の「鉄系粉末混合物」は、焼結させない用途に適用される場合が排除されたから、取消理由通知書に記載した取消理由は、理由がない。

キ 異議申立人が主張する申立理由では特許を取り消せない理由
(ア) 申立人Aによるサポート要件違反の申立て1(異議申立書Aの第17頁第1行?第26頁第7行)
a この申立ては、以下の三つの事項を理由として、発明の詳細な説明には、本件特許発明1が構成A?構成Fを備えることによって「鉄系部品のヤング率を被削性の悪化を伴わずに向上させる」という発明の課題を解決できることが記載されているとはいえない、と主張するものである。
(a) 図6の左側の高いグラフにおいて、粉末A?粉末Fの含有率が不明であり、粉末B?粉末Fの粒径を有する鉄系粉末に粉末Aを混合した場合に、粉末Aの含有率が「1質量%以上且つ35質量%以下」の全ての範囲で、図6の左側の高いグラフのように、ヤング率が顕著に向上するとはいえない。
(b) 本件特許発明1の粉末B?粉末Fの含有率の下限及び上限を特定した理由は全く記載されておらず、このような特定により、鉄系焼結体のヤング率が向上するかどうか明らかでない。
(c) 図7に関し「図7によって示されている粒度分布の範囲に入るように各種鉄系粉末成分を配合することにより、当該鉄系粉末混合物を焼結することによって得られる鉄系焼結体のヤング率を大幅に向上させることができる。更に、このようにヤング率が大幅に向上された鉄系焼結体を塑性加工することによって得られる鉄系部品のヤング率もまた大幅に向上させることができる。」(段落【0029】)と記載されているが、粉末A?粉末Fを具体的にどのような含有率で配合すれば、鉄系焼結体のヤング率を大幅に向上させることができるか明らかではない。

b この主張について検討する。
申立人Aが主張するとおり、著しく大きいヤング率の向上を示している図6の左側のグラフにおいて、粉末A?粉末Fの含有率は不明であるため、本件特許発明1の全ての範囲において、図6の左側のグラフに示されているような、著しく大きいヤング率の向上効果が得られるかどうかは不明である。
しかしながら、上記イで示したとおり、本件課題は、「鉄系粉末混合物を焼結することによって得られる鉄系焼結体及び同鉄系焼結体を塑性加工することによって得られる鉄系部品のヤング率を、被削性の悪化を伴わずに向上させること」であって、ヤング率の向上の程度を顕著なものとすることまでが、本件課題の解決において求められているものではない。
そして、発明の詳細な説明においては、本件特許発明1の全ての範囲において、ヤング率が顕著に向上することが裏付けられているとまでは断言できないものの、上記ウ(ア)に示したとおり、発明の詳細な説明には、粉末Aが「1質量%以上且つ35質量%以下」の量だけ配合されることによるヤング率が向上することの作用機序及び実験的な裏付けが記載されていることに鑑みれば、粉末B?粉末Fが本件特許発明1の規定通りに含まれる鉄系粉末混合物において、粉末Aが本件特許発明1の規定通りに含まれる場合は、粉末Aが本件特許発明1の規定通りに含まれない場合に比較して、焼結体において比較的大きい空孔が分断されてより小さい空孔がより多く形成されることになり、ヤング率は一定程度向上するものと当業者は認識できる。
また、異議申立書Aの全体を参照しても、当業者がそのように認識することを妨げる具体的な根拠(例えば、本件特許発明1の規定通りに粉末B?粉末Fを含む鉄系粉末混合物において、粉末Aが本件特許発明1の規定通りに含まれる場合に、粉末Aが本件特許発明1の規定通りに含まれない場合に比較して、焼結体のヤング率がむしろ低下することを示す実験結果など)は示されていない。
そうすると、本件特許発明1は、その全ての範囲において、粉末Aが本件特許発明1の規定通りに含まれない場合に比較して、ヤング率が一定程度向上し、本件課題を解決するものであり、サポート要件を満たすものといえる。

c よって、この申立てに係る主張には理由がない。


(イ) 申立人Aによるサポート要件違反の申立て2(異議申立書Aの第26頁第8行?第29頁第10行)
a 申立人Aは、「鉄系粉末混合物」の用途に関し、本件特許発明1では、単に「鉄系粉末混合物」と特定されているだけで、この「鉄系粉末混合物」が、「鉄系焼結体を鍛造することによって得られる鉄系部品用」であることが特定されていないから、請求項に係る発明は、発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えているので、サポート要件を満たさない旨を主張する。

b しかしながら、上記イで示したとおり、本件課題は、「鉄系粉末混合物を焼結することによって得られる鉄系焼結体及び同鉄系焼結体を塑性加工することによって得られる鉄系部品のヤング率を、被削性の悪化を伴わずに向上させること」である。つまり、本件課題において、ヤング率を向上させる対象は、「鉄系焼結体を組成加工(鍛造)することによって得られる鉄系部品」だけでなく、「鉄系焼結体」そのものも含まれている。

c したがって、本件特許発明1の「鉄系粉末混合物」の用途が、「鉄系焼結体を鍛造することによって得られる鉄系部品用」であることが特定されていないとしても、サポート要件を満たすものといえる。

d なお、本件特許発明1の「鉄系粉末混合物」の用途については、本件訂正によって、「焼結によって鉄系焼結体を得るための」ものであることが明らかになり、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲内のものとなっている。

e よって、この申立てに係る主張には理由がない。


(ウ) 申立人Bによるサポート要件違反の申立て1(異議申立書Bの第33頁第12行?第36頁第1行)
a 申立人Bの主張は、結局のところ、上記(ア)で検討した申立人Aの主張と同様の趣旨と認められるところ、上記(ア)で示したとおり、申立人Bのこの申立てに係る主張については、理由がない。

b なお、異議申立書Bに記載された内容のうち、特に第34頁第12行?第23行において、申立人Bは、粉末B?粉末Fを全て含有する鉄系粉末は、甲B2や甲B3のようなカタログに多数記載されており周知慣用されたものであり、そのような鉄系粉末に、粉末A(超微粉(1μm以上且つ20μm以下の粒径を有する鉄系粉末))を添加することも、甲B1や甲B4に示すように従来技術に属するものであるところ、本件特許の主張するヤング率の向上効果は、そのような従来技術との比較において実証されるべきものであると主張している。
この主張は、要するに、本件特許発明が解決しようとする課題が「甲B1?甲B4に記載の従来技術に比較してヤング率を向上させること」であると認定すべきという趣旨であると認められる。
しかしながら、サポート要件の適否は、特許請求の範囲と発明の詳細な説明の記載に関する問題であるから、その判断は、第一次的にはこれらの記載に基づいてなされるべきであり、課題の認定、抽出に関しても、例外的な事情(発明の詳細な説明に課題に関する記載が全くない等)がある場合でない限りは同様であるといえる。したがって、出願時の技術水準等は、飽くまでその記載内容を理解するために補助的に参酌されるべき事項にすぎず、課題を抽出するための事項として扱われるべきものではないものと解される(知的財産高等裁判所判決 平成30年5月24日言渡(平成29年(行ケ)第10129号))。
そして、甲B1?甲B4に記載の事項は、本件明細書の発明の詳細な説明中で言及されていないものであるから、本件特許発明が解決しようとする課題を認定するにあたり、そのような、発明の詳細な説明に言及のない従来技術を取り込んで、「甲B1?甲B4に記載の従来技術に比較してヤング率を向上させること」という課題を認定することは妥当であるとはいえない。
そのため、本件明細書の発明の詳細な説明において、本件特許発明1、2の全範囲にわたって甲B1?甲B4に記載の従来技術に比較してヤング率が向上していることが実証されていなかったとしても、サポート要件違反であるとまではいえないし、本件特許発明1、2がサポート要件に適合することは、上記ア?オにて既に検討したとおりである。
したがって、この主張は採用できない。

(エ) 申立人Bによるサポート要件違反の申立て2(異議申立書Bの第36頁第2行?第37頁第2行)
a 申立人Bは、本件特許発明2の「鉄系粉末混合物からなる鉄系焼結体」について、「鉄系粉末混合物」は焼結前の粉体であるのに対し、「鉄系焼結体」は焼結プロセスを経て粉末粒子同士が結合したものであるところ、「鉄系粉末混合物からなる鉄系焼結体」は、発明の詳細な説明に記載されていない、と主張する。

b しかしながら、技術常識によれば、「鉄系焼結体」という用語自体は、申立人Bがいうとおり、焼結プロセスを経て、粉末粒子同士が結合したものであると解される。

c また、本件明細書においては、「鉄系粉末混合物から得られる鉄系焼結体」との記載や「鉄系粉末混合物を焼結することによって得られる鉄系焼結体」との記載が数多く存在している。例えば前記(1)アの段落【0008】、前記(1)イの段落【0015】、【0017】、前記(1)エの段落【0025】、前記(1)オの段落【0029】等が挙げられる。
そうすると、本件明細書には、専ら、「鉄系焼結体」が、「鉄系粉末混合物から得られる」ものであるか、「鉄系粉末混合物を焼結することによって得られる」ものであると記載されているといえる。

d 上記b の技術常識を踏まえた検討と、上記c の本件明細書の記載とを総合すると、本件特許発明2の「鉄系粉末混合物からなる鉄系焼結体」との記載は、当該「鉄系粉末混合物」を構成する粉末粒子が焼結により結合して鉄系焼結体となったもの、を意味すると解釈するのが合理的であり、同発明は、サポート要件を満たすものであるといえる。

e よって、この申立てに係る主張には理由がない。


(3) 本件特許発明1、2の実施可能要件について
ア 本件特許発明1、2はいずれも物の発明である。物の発明における実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について、明細書の発明の詳細な説明が、特許法第36条第4項第1号の規定を満たすか否か(すなわち、実施可能要件を充足するか否か)は、当業者が、明細書の発明の詳細な説明と出願時の技術常識とに基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度の記載があるか否かによって判断される。

イ 本件特許発明1は、所定の「粒径」を有する「鉄系粉末」である「粉末A」?「粉末F」を、所定の含有率で含有する「鉄系粉末混合物」である。
前記(1)イによれば、発明の詳細な説明の段落【0014】には「上記鉄系粉末混合物を構成する鉄系粉末は、鉄を主成分とする粉末である限り、特に限定されない」と記載されており、本件特許の出願時の技術常識に基づけば、鉄を主成分とし、粒径が「粉末A」?「粉末F」の範囲の粉末である「鉄系粉末」は、製造又は購入することができるものと認められる。
そして、例えばJIS Z 8801-1:2006に規定される試験用ふるいを利用して、粉末の分級を行うこと自体は、本件特許の出願時の技術常識であるから、上記のとおり製造又は購入した「鉄系粉末」に対し、分級を行うことで、所定の「粒径」を有する「粉末A」?「粉末F」を得ることができると認められる。
そうすると、本件特許発明1の「鉄系粉末混合物」は、当業者が、明細書の発明の詳細な説明と出願時の技術常識とに基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造することができる。

ウ また、本件特許発明1の「鉄系粉末混合物」を、焼結して鉄系焼結体を得ることや、鉄系焼結体を鍛造することによって、例えば自動車部品である鉄系部品を得ることは、発明の詳細な説明の記載と、粉末冶金に関する本件特許の出願時の技術常識に基づき、当業者が通常行い得ることである。
したがって、本件特許発明1の「鉄系粉末混合物」は、当業者が、明細書の発明の詳細な説明と出願時の技術常識とに基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を使用することができるし、本件特許発明2の「請求項1に記載の鉄系粉末混合物からなる鉄系焼結体を鍛造することによって得られる鉄系部品」を製造し、使用することができる.

エ 小括
以上の検討より、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件特許発明1、2を実施することができる程度に、明確かつ十分に記載されたものであり、実施可能要件を満たすものといえる。

オ 異議申立人が主張する申立理由では特許を取り消せない理由
(ア) 申立人Aによる実施可能要件違反の申立て(異議申立書Aの第29頁第10行?第31頁最終行)
a 申立人Aは、20μmを超える粒径を有する鉄系粉末の含有率を、それぞれどの程度にし、これに超微粉をどの程度の割合で混合して、どのような条件で成形及び焼結すれば、ヤング率が向上し本件特許発明に含まれるのか、また、どのような条件で成形及び焼結した場合には、ヤング率が向上せず本件特許発明に含まれないのか、試行錯誤を繰り返さなければならないと主張する。

b しかしながら、本件特許発明1においては、粉末A?粉末Fの含有率が明示的に特定されているから、当業者は、本件特許発明1を実施するにあたり、20μmを超える粒径を有する鉄系粉末の含有率をどの程度にし、これに超微粉をどの程度の割合で混合するかは、何らの試行錯誤を要することなく把握することができる。
また、本件特許発明1は、「ヤング率」に関する発明特定事項を備えないものであるから、本件特許発明1の実施にあたって、どのような条件で成形及び焼結すればヤング率が向上するかの試行錯誤が要求されるものではない。
そして、上記ア?エで検討したとおり、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件特許発明1、2を実施することができる程度に、明確かつ十分に記載されたものであり、実施可能要件を満たすものである。

c よって、この申立てに係る主張には理由がない。

d なお、前記(2)ウ(ウ)でも指摘したとおり、前記(1)イ?オの発明の詳細な説明の記載によれば、当業者は、鉄系粉末混合物に所定量(混合物全体に対して1質量%以上且つ35質量%)の超微粉(1μm以上且つ20μm以下の粒径を有する鉄系粉末)を配合することで、所定量の超微粉を配合しない場合に比較して、被削性の悪化を招く高ヤング率材料を配合しなくとも、当該鉄系粉末混合物を焼結することによって得られる鉄系焼結体及び当該鉄系焼結体を塑性加工(鍛造処理)することによって得られる鉄系部品のヤング率が向上し、本件課題を解決するものと認識するものである。
そのため、成形及び焼結の条件については、従来と比べ特段の配慮を要するものではなく、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤が求められるとまではいえないことも付記する。

(イ) 申立人Bによる実施可能要件違反の申立て(異議申立書Bの第31頁下から第5行?第33頁第11行)
a 申立人Bは、本件特許発明1に規定される特定の粒度分布を有する鉄系粉末混合物を入手または製造する方法についての記載が、発明の詳細な説明に欠けていることを主張している。

b しかしながら、上記イでも指摘したとおり、粒径が「粉末A」?「粉末F」の範囲にある「鉄系粉末」は、製造又は購入することができるし、製造又は購入した「鉄系粉末」に対し、例えばJIS Z 8801-1に規定される試験用ふるいを利用して分級を行うことで、所定の「粒径」を有する「粉末A」?「粉末F」を得ることができると認められるから、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件特許発明1、2を実施することができる程度に、明確かつ十分に記載されたものであり、実施可能要件を満たすものといえる。

c よって、この申立てに係る主張には理由がない。

(4) 記載不備に関する当審の判断のまとめ
以上の検討のとおり、取消理由通知書に記載した取消理由では特許を取り消すことはできず、また、申立人A及び申立人Bによる記載不備に関する申立理由では、特許を取り消すことはできない。


4 新規性進歩性に関する当審の判断
申立人A及び申立人Bにより主張された新規性進歩性に関する申立理由をまとめると、概略、以下のとおりである。
・甲A1を主たる引用例として、本件特許発明1、2は、甲A1?甲A6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
・甲B1を主たる引用例として、本件特許発明1、2は、甲B1に記載された発明であるか、甲B1に記載された発明に基づいて又は甲B1?甲B7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである
・甲B4を主たる引用例として、本件特許発明1、2は、甲B4に記載された発明であるか、甲B4に記載された発明に基づいて又は甲B1?甲B7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
そこで、当欄においては、以下のとおりの内容を記載する。
(1):甲A1を主たる引用例とした場合の、本件特許発明1、2の進歩性について
(2):甲B1を主たる引用例とした場合の、本件特許発明1、2の新規性進歩性について
(3):甲B4を主たる引用例とした場合の、本件特許発明1、2の新規性進歩性について
(4):新規性進歩性に関する当審の判断のまとめ
なお、以下においては、「質量%」という単位と「重量%」という単位が意味する内容が同一であることが当業者の技術常識であることを踏まえて判断を行う。

(1) 甲A1を主たる引用例とした場合の、本件特許発明1、2の進歩性について
ア 甲A1(特開平10-317090号公報)には、以下の記載がある。
「【請求項1】 鉄(Fe)が90重量%以上である鉄合金粉末材料にカーボン粉末材料を配合し、圧縮成形と焼結により形成される密度7.4g/cm^(3)以上の鉄合金焼結体部品において、断面空孔数率(個/mm^(2))が2000以上、最大空孔径(μm)が60以下であることを特徴とする鉄合金焼結体部品。」

「【0004】近年の自動車や産業機械の軽量化及び高性能化のニーズを受けて、特に疲労強度(ある物質に、一定回数の周期的応力をかけたときに、破壊がおこるまでに抗しうる最大の応力)の高い鉄合金焼結体部品が必要とされている。通常、焼結体の標準的工程は、「(粉末材料)圧縮→焼結→(寸法)矯正圧縮→熱処理」であリ、合金成分や熱処理方法の改善によって、鉄合金焼結体部品の静的強度、例えば引張り強度や抗折強度は溶製鋼部品に比肩し得る迄になったが、空孔率(全体積中での空孔の占める比率)で数パーセントの空孔が存在することが主な原因で、鉄合金焼結体部品の疲労強度は劣っている。
【0005】そこで従来は、空孔率を減少させることによる疲労強度向上の対策として、以下の3つの加工方法が開発されてきた。
・・・
【0007】
【発明が解決しようとする課題】・・・
【0011】・・・そこで、本発明は、空孔径、及び単位断面積に存在する空孔の数(以下断面空孔数率と言う)に着目して、それらを制御することにより疲労強度の向上を図ることを特徴とする。」

「【0012】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するため、断面空孔数率を増加させ、併せて、空孔の最大径を小さくすること、すなわち、本発明の鉄合金焼結体部品の断面空孔数率が2000個/mm^(2)以上、最大空孔径が60μm以下とした。そして、ビッカース硬度が、表面から少なくとも深さ1mm以下が700以上で深さ1mmを越すと450以上、結晶組織が、体積比で15%以下の面心立方格子で残部は体心立方格子であることを特徴とする。」

「【0018】ところで、焼結体の空孔は、使用する合金粉末の成形圧縮時に粒子の間で生じるものを起源としている。焼結体の空孔の大きさは使用する合金粉末の粒径と正の相関関係、すなわち、大きい粒径の合金粉末を使用した場合は、小さい粒径の合金粉末を使用した場合より、大きい空孔を生じる。
【0019】焼結体の空孔の数は使用する合金粉末の粒径と逆の相関関係、すなわち、大きい粒径の合金粉末を使用した場合は、小さい粒径の合金粉末を使用した場合より、空孔の数は少なくなる。従って、同じ程度の密度で作製した焼結体では、使用する合金粉末が微粉化するに従って、小さい空孔径の空孔が、多く存在することになる。
【0020】焼結体部品における疲労亀裂の発生点は空孔径の大きさで決定され、空孔の数で決定されるのではないので、同じ程度の密度なら、より細かい微粉を用いた焼結体の方が、疲労強度の高いものを得ることができる。」

「【0025】更に発明の具体的な実施例を以下に示す。
【実施例】Fe-0.5%Ni-1%Mo鉄合金粉末(%は、重量%)の粒径180μm以上を重量%で4%、同150μm以上を重量%で10%、同106μm以上を重量%で20%、同75μm以上を重量%で23%、同63μm以上を重量%で12%、同45μm以上を重量%で16%、同45μm以下を重量%で15%の割合で混合した粉末材料Aとして表1に示す。
【0026】また、同じ鉄合金粉末で粒径31μm以下を重量%で1.7%、同22μm以下を重量%で10.8%、同16μm以下を重量%で20.3%、同粒径が11μm以下を重量%で25.9%、同7.8μm以下を重量%で29.8%、同3.9μm以下を重量%で9.5%、同2.8μm以下を重量%で2.0%の割合で混合した粉末材料Bとして表2に示す。なお、鉄合金粉末は溶湯からの急冷速度を変えたアトマイズ法により各々作製した。
【0027】また、鉄合金粉末材料に配合するカーボン粉末材料は、粉末の粒径44μm以上を重量%で4.6%、同25μm以上を重量%で21.0%、同16μm以上を重量%で24.7%、同10μm以上を重量%で20.5%、5μm以上を重量%で17.7%、同5μm以下を重量%11.5%の割合で混合したものを用い、これを表3に示す。なお、表1?表3の粒径を示す数字の前に示す+は、それ以上で、同じく-はそれ未満を示している。
【0028】
【表1】


【0029】
【表2】


【0030】上記の粉末材料Aと粉末材料Bの両者を表4に示すように、粉末材料Bが0%で粉末材料Aが100%、粉末材料Bが32%で粉末材料Aが68%、粉末材料Bが64%で粉末材料Aが36%、粉末材料Bが100%で粉末材料Aが0%である4種の重量比で配合した鉄合金粉末材料に、表3に示す粉末粒径と重量%の関係を有するカーボン粉末材料及び重量比にして0.5%の固形ワックス潤滑剤とを混合した後、7t/cm^(2)の圧力で圧粉し、高さ85mm、縦15mm、横15mmの直方成形体を作製した。
【0031】
【表3】

【0032】
【表4】

【0033】その直方成形体を600℃水素雰囲気で脱潤滑剤を行い、続いて820℃、600Torr減圧窒素雰囲気で30分の仮焼結を行って仮焼結体を作製し、その後7?9t/cm^(2)の範囲の圧力で再圧縮を行った。続いて1300℃、600Torrの減圧窒素雰囲気中で1時間の本焼結を行った。
・・・
【0046】以上のことをまとめて示したものが表4である。(なお、コア部炭素濃度は、浸炭前の炭素濃度を示し、浸炭部炭素濃度は、前記回転曲げ疲労試験片の直径6mm試験部の平均炭素濃度を示している。)これから判るように、断面空孔数率が2000個/mm^(2)以上、最大空孔径が60μm以下において、疲労限は610MPa以上という非常に高い値で、良好な疲労強度を示している。」

イ 甲A1の表1に記載された「粉末材料Bが32%で粉末材料Aが68%」である場合の「鉄合金粉末材料」に着目し、粉末材料Bの各粉末の含有率に0.32を掛け、粉末材料Aの各粉末の含有率に0.68を掛けて計算をすると、甲A1には、以下の表に示す粉末材料Aと粉末材料Bとが配合された、焼結によって焼結体を得るための鉄合金粉末材料が記載されている。


なお、甲A1の段落【0027】の「表1?表3の粒径を示す数字の前に示す+は、それ以上で、同じく-はそれ未満を示している。」との記載によれば、表1の「-45」は45μm未満を意味することになるが、この場合、段落【0025】には「同45μm以下を重量%で15%の割合で混合した」との記載と整合しない。
そこで、技術常識を考慮し、+はそのサイズのふるいを通過せず、-はそのサイズのふるいを通過することを意味するとして、表1及び表2を解釈する。
具体的には、例えば「-45」は目開き45μmのふるいを通過するから「45μm以下」を意味すると解釈し、また、「+45」は目開き45μmのふるいを通過しないから「45μmを超える」を意味すると解釈する。
なお、上記技術常識については、例えば、特開平8-225517号公報の段落【0022】の「数値表示はメッシュサイズを意味する(即ち、-60/+100とは、銀針状結晶が60メッシュの篩を通過ししかし100メッシュの篩に保持されたことを意味する)」との記載を参照されたい。
そして、上記の表にある粉末材料Aと粉末材料Bの混合粉末を、粒径の小さい順に記述するとともに、「2.8を超え3.9以下」(3.0重量%)、「3.9を超え7.8以下」(9.5重量%)、「7.8を超え11以下」(8.3重量%)、「11を超え16以下」(6.5重量%)を「2.8を超え16以下」(27.3重量%)にまとめ、「45を超え63以下」(10.9重量%)及び「63を超え75以下」(8.2重量%)を「45を超え75以下」(19.1重量%)にまとめると、甲A1には、以下の「引用発明1」が記載されていると認められる。

[引用発明1]
「2.8μm以下の粒径を有する鉄合金粉末を0.6重量%、
2.8μmを超えて16μm以下の粒径を有する鉄合金粉末を27.3重量%、
16μmを超えて22μm以下の粒径を有する鉄合金粉末を3.5重量%、
22μmを超えて31μm以下の粒径を有する鉄合金粉末を0.5重量%、
45μm以下の粒径を有する鉄合金粉末を10.2重量%
45μmを超えて75μm以下の粒径を有する鉄合金粉末を19.1重量%、
75μmを超えて106μm以下の粒径を有する鉄合金粉末を15.6重量%、
106μmを超えて150μm以下の粒径を有する鉄合金粉末を13.6重量%、
150μmを超えて180μm以下の粒径を有する鉄合金粉末を6.8重量%、及び
180μmを超える粒径を有する鉄合金粉末を2.7重量%、
含有する、焼結によって焼結体を得るための鉄合金粉末材料。」

ウ 甲A2(特開昭61-23702号公報)には、以下の記載がある。
「この場合、通常の焼結用金属粉末(特に噴霧法によって得られた粉末)は、粒径1?20μの微細粉を含んでいないか、或いは含んでいたとしても量が少ない場合が多く、このようなときには粒径1?20μの微細粉を別途準備してから混合し使用するのが良い。」(第4頁右上欄下から第9行?第4行)

エ 甲A3(特開平6-2007号公報)には、以下の記載がある。
「【0015】(2) 粒度構成:-60/+83メッシュを5%以下、-83/+100 メッシュ4%以上10%以下、-100 /+140 メッシュを10%以上25%以下、330 メッシュ通過分を10%以上30%以下と定めたのは以下の理由による。大きさの上限を60メッシュ以下と定めたのは、60メッシュを通過しない粗粒が混入していると圧縮成形品の均質性が損なわれ、かつ強度上の欠陥原因を内包するので好ましくない。
【0016】また、本発明らの各種実験結果から、粗粒分はその特性として中密且つ不規則形状を示しており、また結晶粒度も大きく軟らかいが為、圧縮性の向上に有効であることを見いだした。-60/+83メッシュを5%以下としたのは、該粒度範囲のものは圧縮性向上の為には有効であるが5%を超えて混在しているときは成形品尖端部等にカケが発生して欠落した場合に、強度上の欠陥原因となり、また製品内部において均質性を低下させ強度上の欠陥原因となるので好ましくない。
【0017】-80/+100 メッシュを4%以上としたのは、4%未満では圧縮向上の効果が充分得られず、また10%以下としたのは粗粒粉が多くなりすぎて強度上の欠陥原因となるためである。-100 /+140 メッシュについても同様で、10%以上としたのは、10%未満では圧縮性向上の効果が不十分で、25%以下としたのは粗粒粉が多くなりすぎると強度欠陥原因を内包する恐れが出てくるためである。
【0018】また、微粉である-330 メッシュ通過分を10%以上30%以下としたのは、10%未満の場合は、焼結性が良好で従って焼結強度を向上せしめる微粉が少なくなりすぎる為に強度の劣化をきたすからである。30%以下としたのは、微粉が多くなると圧縮性が低下して本発明の圧縮性向上の目的からはずれるためである。」

オ 判断
(ア) 本件特許発明1と、引用発明1とを対比すると、引用発明1の「鉄合金粉末」及び「焼結によって焼結体を得るための鉄合金粉末材料」は、それぞれ、本件特許発明1の「鉄系粉末」及び「焼結によって鉄系焼結体を得るための鉄系粉末混合物」に相当する。
以下のa ?f において、本件特許発明1の各「鉄系粉末」と、引用発明1の各「鉄合金粉末」との対応関係について検討する。
a 本件特許発明1における「構成A」:「1μm以上且つ20μm以下の粒径を有する鉄系粉末を1質量%以上且つ35質量%以下」について
引用発明1における「2.8μm以下の粒径を有する鉄合金粉末を0.6重量%」との事項に含まれる粉末のうち、粒径1μm以上のものは、本件特許発明1の「粉末A」に該当する。
引用発明1における「2.8μmを超えて16μm以下の粒径を有する鉄合金粉末を27.3重量%」との事項に含まれる粉末の全てが、本件特許発明1の「粉末A」に該当する。
引用発明1における「16μmを超えて22μm以下の粒径を有する鉄合金粉末を3.5重量%」との事項に含まれる粉末のうち、粒径20μm以下のものは、本件特許発明1の「粉末A」に該当する。
そのため、引用発明1において、本件特許発明1の「粉末A」に該当するものの含有率は、27.3重量%?31.4重量%の範囲内のいずれかの数値となる。
すると、引用発明1の「2.8μm以下の粒径を有する鉄合金粉末を0.6重量%」、「2.8μmを超えて16μm以下の粒径を有する鉄合金粉末を27.3重量%」、及び「16μmを超えて22μm以下の粒径を有する鉄合金粉末を3.5重量%」「含有する」、という事項は、「1μm以上20μm以下の粒径を有する鉄合金粉末を27.3重量%?31.4重量%」「含有する」、という事項に言い換えることができる。
したがって、引用発明1は、本件特許発明1の「構成A」:「1μm以上且つ20μm以下の粒径を有する鉄系粉末を1質量%以上且つ35質量%以下」に該当する事項を備える。

b 本件特許発明1における「構成B」:「20μmを超え且つ45μm以下の粒径を有する鉄系粉末を17質量%以上且つ26質量%以下」について
引用発明1における「16μmを超えて22μm以下の粒径を有する鉄合金粉末を3.5重量%」との事項に含まれる粉末のうち、粒径20μmを超えるものは、本件特許発明1の「粉末B」に該当する。
引用発明1における「22μmを超えて31μm以下の粒径を有する鉄合金粉末を0.5重量%」との事項に含まれる粉末の全てが、本件特許発明1の「粉末B」に該当する。
引用発明1における「45μm以下の粒径を有する鉄合金粉末を10.2重量%」との事項に含まれる粉末において、甲A2の「この場合、通常の焼結用金属粉末(特に噴霧法によって得られた粉末)は、粒径1?20μの微細粉を含んでいないか、或いは含んでいたとしても量が少ない場合が多く、このようなときには粒径1?20μの微細粉を別途準備してから混合し使用するのが良い。」との記載を考慮すると、粒径20μm以下の粉末は実質的に含まれていないと認められるから、引用発明1の当該事項に含まれる粉末の全てが、本件特許発明1の「粉末B」に該当する。
そのため、引用発明1において、本件特許発明1の「粉末B」に該当するものの含有率は、10.7重量%?14.2重量%の範囲内のいずれかの数値となる。
すると、引用発明1の「16μmを超えて22μm以下の粒径を有する鉄合金粉末を3.5重量%」、「22μmを超えて31μm以下の粒径を有する鉄合金粉末を0.5重量%」、及び「45μm以下の粒径を有する鉄合金粉末を10.2重量%」「含有する」という事項は、「20μmを超え且つ45μm以下の粒径を有する鉄合金粉末を10.7重量%?14.2重量%」「含有する」、という事項に言い換えることができる。

c 本件特許発明1における「構成C」:「45μmを超え且つ75μm以下の粒径を有する鉄系粉末を18質量%以上且つ27質量%以下」について
引用発明1における「45μmを超えて75μm以下の粒径を有する鉄合金粉末を19.1重量%」との事項に含まれる粉末の全てが、本件特許発明1の「粉末C」に該当する。
そのため、引用発明1において、本件特許発明1の「粉末C」に該当するものの含有率は、19.1重量%である。
したがって、引用発明1は、本件特許発明1の「構成C」:「45μmを超え且つ75μm以下の粒径を有する鉄系粉末を18質量%以上且つ27質量%以下」に該当する事項を備える。

d 本件特許発明1における「構成D」:「75μmを超え且つ106μm以下の粒径を有する鉄系粉末を13質量%以上且つ20質量%以下」について
引用発明1における「75μmを超えて106μm以下の粒径を有する鉄合金粉末を15.6重量%」との事項に含まれる粉末の全てが、本件特許発明1の「粉末D」に該当する。
そのため、引用発明1において、本件特許発明1の「粉末D」に該当するものの含有率は、15.6重量%である。
したがって、引用発明1は、本件特許発明1の「構成D」:「75μmを超え且つ106μm以下の粒径を有する鉄系粉末を13質量%以上且つ20質量%以下」に該当する事項を備える。

e 本件特許発明1における「構成E」:「106μmを超え且つ150μm以下の粒径を有する鉄系粉末を12質量%以上且つ19質量%以下」について
引用発明1における「106μmを超えて150μm以下の粒径を有する鉄合金粉末を13.6重量%」との事項に含まれる粉末の全てが、本件特許発明1の「粉末E」に該当する。
そのため、引用発明1において、本件特許発明1の「粉末E」に該当するものの含有率は、13.6重量%である。したがって、引用発明1は、本件特許発明1の「構成E」:「106μmを超え且つ150μm以下の粒径を有する鉄系粉末を12質量%以上且つ19質量%以下」に該当する事項を備える。

f 本件特許発明1における「構成F」:「150μmを超え且つ210μm以下の粒径を有する鉄系粉末を4質量%以上且つ6質量%以下」について
引用発明1における「150μmを超えて180μm以下の粒径を有する鉄合金粉末を6.8重量%」との事項に含まれる粉末の全てが、本件特許発明1の「粉末F」に該当する。
引用発明1における「180μmを超える粒径を有する鉄合金粉末を2.7重量%」との事項に含まれる粉末のうち、粒径210μm以下のものは、本件特許発明1の「粉末F」に該当する。
そのため、引用発明1において、本件特許発明1の「粉末F」に該当するものの含有率は、6.8重量%?9.5重量%の範囲内のいずれかの数値となる。
すると、引用発明1の「150μmを超えて180μm以下の粒径を有する鉄合金粉末を6.8重量%」及び「180μmを超える粒径を有する鉄合金粉末を2.7重量%」「含有する」という事項は、「150μmを超え且つ210μm以下の粒径を有する鉄合金粉末を6.8重量%?9.5重量%」「含有する」という事項に言い換えることができる。

(イ) 上記の対応関係を表示すると、以下の表のとおりである。


したがって、本件特許発明1と、引用発明1とは、「粉末B」と「粉末F」の含有率の点でのみ相違し、他の点で一致する。
すなわち、本件特許発明1と、引用発明1との相違点は、以下のとおりである。
(相違点1)
「20μmを超え且つ45μm以下の粒径を有する鉄系粉末」(「粉末B」)の含有率が、本件特許発明1では「17質量%以上且つ26質量%以下」であるのに対し、引用発明1では「10.7重量%?14.2重量%」の範囲内のいずれかの数値である点

(相違点2)
「150μmを超え且つ210μm以下の粒径を有する鉄系粉末」(「粉末F」)の含有率が、本件特許発明1では「4質量%以上且つ6質量%以下」であるのに対し、引用発明1では「6.8重量%?9.5重量%」の範囲内のいずれかの数値である点

(ウ) 相違点1についての検討
a 事案に鑑み、相違点1に関し、甲A1の記載に照らして検討する。
甲A1の段落【0033】には、粉末材料Aと、粉末材料Aよりも微粉である粉末材料Bとの混合物を焼結することが記載されている。表4及び段落【0046】によれば、引用発明1である「粉末材料A68% 粉末材料B32%」の粉末を用いて、得られた焼結体は、疲労限が610MPa以上となっておらず、甲A1の課題である疲労強度の向上を図れないものである一方、「粉末材料A36% 粉末材料B64%」の粉末を用いて、得られた焼結体は、疲労源が610Paとなっており疲労強度が向上したものとなっている。
そうすると、当業者が、引用発明1である「粉末材料A68% 粉末材料B32%」の粉末に対し変更を加える際には、甲A1の課題である疲労強度の向上を考慮し、粉末材料Aを減少させ粉末材料Bを増加させようとすることが合理的であるから、引用発明1である「粉末材料A68% 粉末材料B32%」の粉末に対し、本件特許発明1とするために、粉末材料Aを増加させ粉末材料Bを減少させようとすることには、阻害要因があると認められる。
したがって、相違点1に係る構成である「20μmを超え且つ45μm以下の粒径を有する鉄系粉末」(「粉末B」)は、主に粉末材料Aに含まれるものであって、粉末材料Bには含まれないか極めてその含有量が少ない(上記イを参照)から、引用発明1において、主に粉末材料Aに含まれる粉末である「20μmを超え且つ45μm以下の粒径を有する鉄系粉末」(「粉末B」)を増加させて相違点1に係る構成を想到することは、上記阻害要因の存在に照らし、当業者が容易になし得たことではない。

b 申立人Aは、相違点1に関して、甲A3を引用し、引用発明1と甲A3に記載された発明とは、鉄系粉末の焼結体を向上させるという課題が共通するから、この課題を解決するために、引用発明1における「20μmを超え且つ45μm以下の粒径を有する鉄系粉末」の粉末の含有率を「10.7重量%?14.2重量%」から増加させ「17質量%以上且つ26質量%以下」とすることは、当業者が容易になし得るものであると主張している(異議申立書Aの第52頁第1行?第53頁最終行)。
しかしながら、引用発明1の課題は、甲A1によれば、疲労強度の向上という事項である一方、上記主張に関連し甲A3に記載されている事項は「微粉である-330 メッシュ通過分を10%以上30%以下としたのは、10%未満の場合は、焼結性が良好で従って焼結強度を向上せしめる微粉が少なくなりすぎる為に強度の劣化をきたすからである。」(段落【0018】)という事項である。そして、甲A1に記載の「疲労強度」という事項と、甲A3に記載の「焼結強度」という事項は、同じ意味とは認められないから、引用発明1と甲A3に記載された発明の課題が共通しているとはいえない。
したがって、引用発明1と甲A3に記載された発明が、鉄系粉末の焼結体を向上させるという課題が共通しているという事項を前提とする上記主張は、前提において正しいとはいえないので、採用できない。

c また、相違点1に関し、相違点2や一致点と関連させて更に検討する。
引用発明1においては、ある粉末の含有率が減少すれば、他の粉末の含有率が増加するから、本件特許発明1の容易想到性については、含有率に関する相違点1と2の容易想到性を独立して検討するだけでは足りない。
このことを踏まえると、仮に、引用発明1における「粉末B」の含有率を10.7重量%?14.2重量%から増加させて「17質量%以上且つ26質量%以下」となるような変更を行って相違点1に係る構成を得ることや、引用発明1における「粉末F」の含有率を6.8重量%?9.5重量%から減少させて「4質量%以上且つ6質量%以下」となるような変更を行って相違点2に係る構成を得ることについて、それぞれ単独で当業者が容易に想到し得る事項であったとしても、「粉末B」の含有率の変動に伴い「粉末F」の含有率は変動するから、本件特許発明1を容易に想到し得たというためには、相違点1に係る構成を得ることと同時に相違点2に係る構成を得るような変更を当業者が容易に想到し得る必要があるが、数値上、そのような変更が必ず実現するとまではいえず、また、証拠上、そのような変更が容易であったといえる根拠を見いだすことはできない。。
また、仮に、引用発明1において、相違点1に係る構成を得ることと同時に相違点2に係る構成を得るような変更を行うことが、当業者が容易に想到し得る事項であったとしても、相違点1、2に係る粉末である「粉末B」及び「粉末F」の含有率の変動に伴い、一致点に係る他の粉末(「粉末A」、「粉末C」、「粉末D」、「粉末E」)の含有率は変動するから、上記の変更を行う場合に、同時に当該他の粉末(「粉末A」、「粉末C」、「粉末D」、「粉末E」)の含有率が本件特許発明1で規定する数値範囲内にとどまり一致点が維持できるとは限らない。
そして、異議申立書Aの記載、各甲号証、及び技術常識を考慮したとしても、引用発明1において、相違点1に係る構成と、相違点2に係る構成を得るとともに、同時に、他の粉末の含有率の変動を、本件特許発明1で規定する数値範囲内にとどめて一致点が維持できるようにすることについて、当業者が容易に想到し得たといえる根拠を見いだすことはできないから、相違点2及び一致点を考慮した場合に、相違点1に係る構成を想到することは、当業者が容易になし得たことではない。

(エ) 相違点1についての検討のまとめ
上記(ウ)a 及びb の検討より、引用発明1において、「粉末B」に関する相違点1に係る構成を当業者が容易に想到し得たとはいえない。
また、上記(ウ)c の検討より、相違点2及び一致点を考慮した場合に、引用発明1において、「粉末B」に関する相違点1に係る構成を当業者が容易に想到し得たとはいえない。

カ 小括
以上から、相違点2についてさらに検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲A1を主たる引用例として、当業者が容易に発明を発明をすることができたものではない。
同様にして、本件特許発明1を引用する本件特許発明2についても、甲A1を主たる引用例として、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2) 甲B1を主たる引用例とした場合の、本件特許発明1、2の新規性進歩性について
ア 甲B1(特開昭61-23702号公報)には、以下の記載がある。
「<産業上の利用分野>
この発明は、焼結性と圧縮性が特に優れた鉄系部品製造用粉末冶金原料粉に係り、特に機械部品の製造に適用するに好適な鉄系焼結部品製造用原料粉末に関するものである。」(第1頁右側欄第6行?第10行)

「<実施例>
まず、焼結体が第1表に示されるような化学成分組成となる粉末であつて、かつ第2表に示される如き粒度構成に調整した粉末P1?P12を用意した。なお、粉末P9?P12は従来の鋼粉である。
これらの鋼粉について、焼結性(焼結体密度)と圧縮性(5t/cm^(2))の圧縮条件での圧粉体密度)を測定し、得られた結果も第2表に併せて示した。




イ 甲B1の第2表の「P5粉末」に着目すれば、甲B1には、以下の「引用発明2」が記載されていると認められる。
[引用発明2]
「1?20μmの粒径を有する鋼粉を10.3重量%、20超?100μmの粒径を有する鋼粉を71.6重量%、100超?500μmの粒径を有する鋼粉を18.1重量%含有する、鉄系焼結部品製造用原料粉末。」

ウ 甲B2には、以下の記載がある。



」(第8頁?第9頁)




」(第10頁?第11頁)

エ 甲B3には、以下の記載がある。


」(第9頁?第10頁)

オ 判断
(ア) 本件特許発明1と、引用発明2とを対比すると、引用発明2の「鋼粉」及び「鉄系焼結部品製造用原料粉末」は、それぞれ、本件特許発明1の「鉄系粉末」及び「焼結によって鉄系焼結体を得るための鉄系粉末混合物」に相当する。
引用発明2における「1?20μmの粒径を有する鋼粉を10.3重量%」との事項に含まれる粉末の全てが、本件特許発明1の「粉末A」に該当するから、引用発明2は、本件特許発明1の「構成A」:「1μm以上且つ20μm以下の粒径を有する鉄系粉末を1質量%以上且つ35質量%以下」に該当する事項を備える。
引用発明2の「20超?100μmの粒径を有する鋼粉を71.6重量%」との事項に含まれる粉末は、本件特許発明1の「粉末B」、「粉末C」及び「粉末D」を合わせたものに該当する。
引用発明2の「100超?500μmの粒径を有する鋼粉を18.1重量%」との事項に含まれる粉末のうち、粒径106μm以下のものは、本件特許発明1の「粉末D」に該当する。
引用発明2の「100超?500μmの粒径を有する鋼粉を18.1重量%」との事項に含まれる粉末のうち、粒径106μmを超え、210μm以下のものは、本件特許発明1の「粉末E」及び「粉末F」を合わせたものに該当する。

(イ) したがって、本件特許発明1と、引用発明2とは、以下の点で一致し、少なくとも以下の相違点3で相違する。
(一致点)
「 1μm以上且つ20μm以下の粒径を有する鉄系粉末を1質量%以上且つ35質量%含有し、
20μmを超え且つ45μm以下の粒径を有する鉄系粉末、
45μmを超え且つ75μm以下の粒径を有する鉄系粉末、
75μmを超え且つ106μm以下の粒径を有する鉄系粉末、
106μmを超え且つ150μm以下の粒径を有する鉄系粉末、及び
150μmを超え且つ210μm以下の粒径を有する鉄系粉末、
を含有する、焼結によって鉄系焼結体を得るための鉄系粉末混合物。」
(相違点3)
「20μmを超え且つ45μm以下の粒径を有する鉄系粉末」(「粉末B」)、「45μmを超え且つ75μm以下の粒径を有する鉄系粉末」(「粉末C」)、「75μmを超え且つ106μm以下の粒径を有する鉄系粉末」(「粉末D」)の含有率が、本件特許発明1では、それぞれ「17質量%以上且つ26質量%以下」、「18質量%以上且つ27質量%以下」、「13質量%以上且つ20質量%以下」であるのに対し、引用発明2では、それらの合計の含有率が少なくとも71.6重量%であるものの、「粉末B」、「粉末C」及び「粉末D」に該当する鋼粉のそれぞれの含有率は明らかではない点

(ウ) 相違点3についての検討
a 甲B1の全体を参照しても、引用発明2において、「71.6重量%」の「20超?100μmの粒径を有する鋼粉」のうち、「20μmを超え且つ45μm以下の粒径を有する鉄系粉末」(「粉末B」)が実際にどの程度含有されているか、また、「45μmを超え且つ75μm以下の粒径を有する鉄系粉末」(「粉末C」)が実際にどの程度含有されているか、また「75μmを超え且つ106μm以下の粒径を有する鉄系粉末」(「粉末D」)が実際にどの程度含有されているか、に関し、記載も示唆もないから、相違点3が実質的なものであることは明らかである。

b そして、甲B1の全体を参照しても、引用発明2の「20超?100μmの粒径を有する鋼粉を71.6重量%」との事項に含まれる粉末を、「20μmを超え且つ45μm以下の粒径を有する鉄系粉末」(「粉末B」)、「45μmを超え且つ75μm以下の粒径を有する鉄系粉末」(「粉末C」)、「75μmを超え且つ106μm以下の粒径を有する鉄系粉末」(「粉末D」)という三種類に分類することについて記載も示唆もなく、他の各甲号証や技術常識を考慮したとしても、そのような分類を行う必然性は何ら見いだせない。
仮にそのような分類を行うことができたとしても、各粉末の含有率の数値を本件特許発明1の範囲内とするための具体的な指針は何ら見いだせない。
したがって、引用発明2において、「粉末B」、「粉末C」及び「粉末D」に該当する鋼粉のそれぞれの含有率を、本件特許発明1の範囲内のものとすることは、当業者が容易になし得たことではない。

c なお、申立人Bは、甲B2や甲B3が、当該技術分野において最も一般的な鉄粉のカタログであり、各種グレードの鉄粉の標準的な粒度分布についての規格が記載されているとした上で、本件特許発明1の「粉末A」以外の成分の粒度分布、すなわち、「粉末B」?「粉末F」の含有量は、それぞれ甲B2及び甲B3の粒度分布(規格)中の対応する粒径の成分の含有量の大半と重複し、或いはその範囲内に収まるものであるから、本件特許発明1の「粉末A」以外の成分の含有率は、周知慣用技術そのもの、或いは周知慣用技術の範囲内において設計事項に過ぎない最適化を図ったものに過ぎず、本件特許発明1は、甲B1に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであると主張している(異議申立書Bの第17頁第16行?第18頁第10行)。
確かに、甲B2や甲B3は、それぞれJFE株式会社と株式会社神戸製鋼所の鉄粉に関するカタログであり、一般的な鉄粉のカタログであるといえる。
しかしながら、甲B2や甲B3においては、各鉄粉の含有率は、本件特許発明1に規定される数値範囲に比較して、極めて広範なものとなっている。
例えば、甲B2において、粉末冶金用である「JIP 240M」について注目すると、粒度分布に関し、「-45」(μm)は「5?25」%であり、本件特許発明1の「20μmを超え且つ45μm以下の粒径を有する鉄系粉末を17質量%以上且つ26質量%以下」との事項に比較して広範な含有率の範囲が記載されている。
また、「+45」(μm)は「5?30」%であり、「+63」(μm)は「≦25」%であるから、これも、本件特許発明1の「45μmを超え且つ75μm以下の粒径を有する鉄系粉末を18質量%以上且つ27質量%以下」との事項に比較して広範な含有率の範囲が記載されている。
さらに、「+75」(μm)は「20?50」%であるから、これもまた、本件特許発明1の「75μmを超え且つ106μm以下の粒径を有する鉄系粉末を13質量%以上且つ20質量%以下」との事項に比較して広範な含有率の範囲が記載されている。
そのため、当業者が、甲B2や甲B3を参照したとしても、引用発明2において、「粉末B」、「粉末C」及び「粉末D」に該当する鋼粉のそれぞれの含有率を、本件特許発明1の範囲内のものとするための具体的な指針にはなり得ない。


(エ) 相違点3についての検討のまとめ
上記(ウ)a の検討より、相違点3は実質的なものである。
また、上記(ウ)b 及びc の検討より、引用発明2において、相違点3に係る構成を当業者が容易に想到し得たとはいえない。

カ 小括
以上から、本件特許発明1と引用発明2との間には相違点3が存在することによって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲B1に記載された発明ではないし、甲B1を主たる引用例として、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
同様にして、本件特許発明1を引用する本件特許発明2は、甲B1に記載された発明ではないし、甲B1を主たる引用例として、当業者が容易に発明をすることができたものではない。


(3) 甲B4を主たる引用例とした場合の、本件特許発明1、2の新規性進歩性について
ア 甲B4(米国特許第5516483号明細書)には、以下の記載がある(摘示の直後に付加した和訳は、当審によるものである。)。
「This invention relates to a method or press of forming a sintered article of powder metal having a high density and in particular relates to a process of forming a sintered article of powder metal by blending combinations of finely ground ferro alloys with elemental iron powder and other additives and then high temperature sintering of the article in a reducing atmosphere to produce sintered parts having a high density. 」(第1欄第5行?第12行)
(本発明は、高密度を有する粉末金属の焼結品の製造方法に関し、特に微粉砕フェロアロイと元素鉄粉末及び他の添加物との組み合わせをブレンドし、次いでブレンド物を還元雰囲気中で高温焼結し、高密度を有する焼結部品を製造する、粉末金属の焼結品の製造方法に関する。)

「It is an object of this invention to provide an improved process for producing sintered articles having improved dynamic strength characteristics and an accurate method to control same. 」(第2欄第55行?第57行)
(本発明の目的は、動的強度特定の改善された焼結品及びその特性を調節するための正確な方法を提供することである。)

「In particular, good results have been obtained by utilizing a particle size for ferro manganese with a D_(50) of 10 microns and D_(90) of 30 microns. Moreover, particularly good results have been obtained by using a mean particle size of D_(50) of 10 microns and a D_(90) of 30 microns for the ferro molybdenum. The ferro phosphorous may be purchased or produced in the jet mill having a D_(50) of 8 microns and D_(100) of 25 microns.」(第7欄第1行?第8行)
(特に、良好な結果は、10ミクロンのD_(50)と30ミクロンのD_(90)の粒径のフェロマンガンを利用する場合に観察されている。更に、特に良好な結果は、10ミクロンのD_(50)と30ミクロンのD_(90)の平均粒径のフェロモリブデンを利用する場合に観察されている。フェロ燐は、購入してもよく、或いはジェットミルで、8ミクロンのD_(50)と25ミクロンのD_(100)を製造してもよい。)

「Such ferro alloys are admixed with the base iron powder of a particular particle size distribution as shown in FIG. 8. In particular FIG. 8 illustrates that the base iron powder has a D_(50) of 76 microns, D_(90) of 147 microns and D_(10) of 16 microns. 」(第7欄第12行?第16行)
(これらのフェロアロイは、図8で示される特定の粒径分布の基体鉄粉末と混合される。特に、図8は、基体鉄粉末が、76ミクロンのD_(50)、147ミクロンのD_(90)及び16ミクロンのD_(10)を有することを例示する。)

「The ferro alloys referred to above admixed with the base iron powder is then compacted by conventional pressing methods to a minimum of 6.5 g/cc. Sintering then occurs in a vacuum, or in a vacuum under partial backfill (ie. bleed in argon or nitrogen), or pure hydrogen, or a mixture of H_(2) /N_(2) at a temperature of 1300℃ to 1380℃.」(第7欄第17行?第22行)
(基体鉄粉末と混合される上記のフェロアロイは、次いで通常の圧縮方法で、最小6.5g/ccまで緻密化される。次いで、焼結は、真空で、又は一部置き換え(すなわち、アルゴン又は窒素を流入させる)真空中で、又は純水素で、又はH_(2)/N_(2)の混合物中で、1300℃?1380℃の温度で起こる。






イ 甲B5は、甲B4のFigure 8に記載の鉄粉の粒度分布の解析報告書とされており、以下のとおりのものである。




ウ 甲B5の「Table.1 Estimated powder size fractions」に示された粒径分布に基づき、甲B4のFigure 8には、以下の「引用発明3」が記載されていると認められる。
[引用発明3]
「粒径1?20μmの鉄粉を12.7%、
粒径20?45μmの鉄粉を16.7%、
粒径45?75μmの鉄粉を20.0%、
粒径75?106μmの鉄粉を17.6%、
粒径106?150μmの鉄粉を23.4%、
粒径150?210μmの鉄粉を5.1%、
含有する、焼結によって焼結体を得るための鉄粉末。」

エ 判断
(ア) 引用発明3の含有率の単位が質量%であるか否かについては、甲B5からは明らかではないものの、甲B4の図8に D[v, 0.5] なる記載があり、技術常識に照らし、この「v」がvolumeすなわち体積を意味するものであると解されることに鑑みると、引用発明3の含有率は、体積基準の数値であると認められる。そして、引用発明3の鉄粉末を構成する各粒子は、全て同じ材料(鉄)であるから、体積比と質量比は同じである。ゆえに、引用発明3の含有率の数値は、「質量%」を意味するとして取り扱うことができる。
そして、本件特許発明1と、引用発明3とを対比すると、引用発明3の「鉄粉」及び「焼結によって焼結体を得るための鉄粉末」は、それぞれ、本件特許発明1の本件特許発明1の「鉄系粉末」及び「焼結によって鉄系焼結体を得るための鉄系粉末混合物」に相当する。

(イ) 本件特許発明1と、引用発明3との対応関係を表示すると、以下の表のとおりである。


したがって、本件特許発明1と、引用発明3とは、「粉末B」と「粉末E」の含有率の点でのみ相違し、他の点で一致する。
すなわち、本件特許発明1と、引用発明3との相違点は、以下のとおりである。
(相違点4)
「20μmを超え且つ45μm以下の粒径を有する鉄系粉末」(「粉末B」)の含有率が、本件特許発明1では「17質量%以上且つ26質量%以下」であるのに対し、引用発明3では16.7質量%である点

(相違点5)
「106μmを超え且つ150μm以下の粒径を有する鉄系粉末」(「粉末E」)の含有率が、本件特許発明1では「12質量%以上且つ19質量%以下」であるのに対し、引用発明3では23.4質量%である点

(ウ) 相違点についての検討
a 相違点4については、引用発明3の16.7質量%という数値は、本件特許発明1の「17質量%以上且つ26質量%以下」という数値範囲に入っていないから、相違点4が実質的なものであることは明らかである。
同様に、相違点5についても、引用発明3の23.4質量%という数値は、本件特許発明1の「12質量%以上且つ19質量%以下」という数値範囲に入っていないから、相違点5が実質的なものであることは明らかである。

b ここで、甲B4の第7欄第1行?第8行、第12行?第16行によれば、引用発明3の「鉄粉末」は、「10ミクロンのD_(50)と30ミクロンのD_(90)の粒径のフェロマンガン」のような「フェロアロイ」と混合されて使われるものであって、単独で使われるものではない。
そして、この「フェロアロイ」は、その「D_(50)」が10μmであることと「D_(90)」が30μmであることとを踏まえると、「20μmを超え且つ45μm以下の粒径を有する鉄系粉末」(「粉末B」)に該当する粉末を含むが、「106μmを超え且つ150μm以下の粒径を有する鉄系粉末」(「粉末E」)に該当する粉末を含まないものである。
したがって、前記「フェロアロイ」が混合された後の引用発明3は、「20μmを超え且つ45μm以下の粒径を有する鉄系粉末」(「粉末B」)に該当する粉末の含有率は16.7質量%から増加し、かつ、引用発明3の「106μmを超え且つ150μm以下の粒径を有する鉄系粉末」(「粉末E」)に該当する粉末の含有率は23.4質量%から減少する蓋然性は高いものといえる。
しかしながら、当該「フェロアロイ」の混合量は、甲B4の全体を参照しても不明であるから、「フェロアロイ」が添加された後の引用発明3の粉末における「粉末B」及び「粉末E」の含有率を特定することができない。
したがって、「フェロアロイ」の混合を考慮したとしても、相違点4及び相違点5は実質的なものである。

c また、「フェロアロイ」の混合量が不明であることから、「フェロアロイ」を添加することによって、相違点4及び相違点5に係る構成を当業者が容易に想到し得たともいうことができない。

d なお、申立人Bは、前記(2)オ(ウ)c と同様の主張を、甲B4を主たる引用例とした場合においても行っている。すなわち、申立人Bは、甲B2や甲B3が、当該技術分野において最も一般的な鉄粉のカタログであり、各種グレードの鉄粉の標準的な粒度分布についての規格が記載されているとした上で、本件特許発明1の「粉末A」以外の成分の粒度分布、すなわち、「粉末B」?「粉末F」の含有量は、それぞれ甲B2及び甲B3の粒度分布(規格)中の対応する粒径の成分の含有量の大半と重複し、或いはその範囲内に収まるものであるから、本件特許発明1の「粉末A」以外の成分の含有率は、周知慣用技術そのもの、或いは周知慣用技術の範囲内において設計事項に過ぎない最適化を図ったものに過ぎず、本件特許発明1は、甲B4に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであると主張している(異議申立書Bの第26頁第17行?第27頁第12行)。
しかしながら、前記(2)オ(ウ)c で検討したとおり、甲B2や甲B3においては、各鉄粉の含有率は、本件特許発明1に規定される数値範囲に比較して、極めて広範なものとなっている。
そのため、当業者が、甲B2や甲B3を参照したとしても、引用発明3において、「粉末B」及び「粉末E」のそれぞれの含有率を、本件特許発明1の範囲内のものとするための具体的な指針にはなり得ない。

(エ) 相違点についての検討のまとめ
上記(ウ)a 及びb の検討より、相違点4及び相違点5は実質的なものである。
また、上記(ウ)c 及びd の検討より、引用発明3において、相違点4及び相違点5に係る構成を当業者が容易に想到し得たとはいえない。

オ 小括
以上から、本件特許発明1は甲B4に記載された発明ではないし、甲B4を主たる引用例として、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
同様にして、本件特許発明1を引用する本件特許発明2は、甲B4に記載された発明ではないし、甲B4を主たる引用例として、当業者が容易に発明をすることができたものではない。


(4) 新規性進歩性に関する当審の判断のまとめ
以上の検討のとおり、申立人A及び申立人Bによる新規性進歩性に関する申立理由では、特許を取り消すことはできない。


第5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知書に記載した取消理由、並びに異議申立書A及び異議申立書Bに記載した特許異議申立理由によっては、請求項1、2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1、2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1μm以上且つ20μm以下の粒径を有する鉄系粉末を1質量%以上且つ35質量%以下、
20μmを超え且つ45μm以下の粒径を有する鉄系粉末を17質量%以上且つ26質量%以下、
45μmを超え且つ75μm以下の粒径を有する鉄系粉末を18質量%以上且つ27質量%以下、
75μmを超え且つ106μm以下の粒径を有する鉄系粉末を13質量%以上且つ20質量%以下、
106μmを超え且つ150μm以下の粒径を有する鉄系粉末を12質量%以上且つ19質量%以下、及び
150μmを超え且つ210μm以下の粒径を有する鉄系粉末を4質量%以上且つ6質量%以下、
含有する、焼結によって鉄系焼結体を得るための鉄系粉末混合物。
【請求項2】
請求項1に記載の鉄系粉末混合物からなる鉄系焼結体を鍛造することによって得られる鉄系部品。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-10-10 
出願番号 特願2014-61613(P2014-61613)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (B22F)
P 1 651・ 113- YAA (B22F)
P 1 651・ 121- YAA (B22F)
P 1 651・ 537- YAA (B22F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 米田 健志  
特許庁審判長 中澤 登
特許庁審判官 ▲辻▼ 弘輔
長谷山 健
登録日 2017-09-01 
登録番号 特許第6197718号(P6197718)
権利者 トヨタ自動車株式会社
発明の名称 鉄系粉末混合物、同鉄系粉末混合物から得られる鉄系焼結体、及び同鉄系焼結体から得られる鉄系部品  
代理人 上村 陽一郎  
代理人 特許業務法人プロスペック特許事務所  
代理人 特許業務法人プロスペック特許事務所  

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