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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
管理番号 1346750
異議申立番号 異議2017-700821  
総通号数 229 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-01-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-08-31 
確定日 2018-10-22 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6087625号発明「ビールテイスト飲料の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6087625号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕、〔8-10〕について訂正することを認める。 特許第6087625号の請求項1、4、6?8に係る特許を維持する。 特許第6087625号の請求項2、3、5、9、10に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6087625号の請求項1?10に係る特許についての出願は、平成24年12月28日に特許出願され、平成29年2月10日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、平成29年8月31日に特許異議申立人中川賢治により特許異議の申立てがなされ、当審において平成29年10月27日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年12月28日に意見書の提出がされ、その後、当審において平成30年2月28日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である平成30年5月1日に意見書の提出及び訂正の請求がされ、当該訂正の請求に対して特許法第120条の5第5項の規定により特許異議申立人に期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、意見書の提出はなかった。その後、当審において平成30年7月23日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である平成30年9月11日に意見書の提出及び訂正の請求がされたものである。


第2 訂正の請求についての判断
1 訂正の内容
平成30年9月11日の訂正請求書による訂正の請求は、「特許第6087625号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?10について訂正することを求める。」ものであり、その訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである。
なお、本件訂正の請求により、平成30年5月1日の訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。

(訂正事項1)
特許請求の範囲の請求項1に「ホップ由来成分を含むビールテイスト飲料の製造方法であって、消泡剤を添加する工程を含み、
ここで、ビールテイスト飲料の可溶性固形分濃度が0.1?5.0度であり、アルコール度数が0.01%未満である、
前記製造方法。」とあるのを、「ホップ由来成分を含むビールテイスト飲料の製造方法であって、消泡剤を添加する工程を含み、
ここで、前記ビールテイスト飲料は、可溶性固形分濃度が0.1?3.0度であり、アルコール度数が0.01%未満であり、糖類の量が飲料100gあたり0.5g未満であり、
消泡剤が親油性乳化剤と親水性乳化剤を用いてO/W乳化した乳化剤製剤であり、消泡剤の添加濃度が50?500ppmである、
前記製造方法。」に訂正する。
(訂正事項2)
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(訂正事項3)
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(訂正事項4)
特許請求の範囲の請求項4の「消泡剤を、ホップ抽出物を含む麦汁に添加する、請求項1?3のいずれか一項記載の製造方法。」とあるのを、「消泡剤をホップ抽出物を含む麦汁に添加する、請求項1記載の製造方法。」に訂正する。
(訂正事項5)
特許請求の範囲の請求項5を削除する。
(訂正事項6)
特許請求の範囲の請求項6の「ビールテイスト飲料に含まれるα酸量が0.002?7ppmである、請求項1?5のいずれか一項に記載の製造方法。」とあるのを、「ビールテイスト飲料に含まれるα酸量が0.002?7ppmである、請求項1または4に記載の製造方法。」に訂正する。
(訂正事項7)
特許請求の範囲の請求項7に「ビールテイスト飲料に含まれるα酸量が0.1?4ppmである、請求項1?6のいずれか一項に記載の製造方法。」とあるのを、「ビールテイスト飲料に含まれるα酸量が0.1?4ppmである、請求項1、4、または6に記載の製造方法。」に訂正する。
(訂正事項8)
特許請求の範囲の請求項8に「ビールテイスト飲料のボディ感増強方法であって、ホップ由来成分を含むビールテイスト飲料の製造過程において消泡剤を添加する工程を含み、
ここで、ビールテイスト飲料の可溶性固形分濃度が0.1?5.0度であり、アルコール度数が0.01%未満である、
前記方法。」とあるのを、「ビールテイスト飲料のボディ感増強方法であって、ホップ由来成分を含むビールテイスト飲料の製造過程において消泡剤を添加する工程を含み、
ここで、ビールテイスト飲料は、可溶性固形分濃度が0.1?3.0度であり、アルコール度数が0.01%未満であり、糖類の量が飲料100gあたり0.5g未満であり、
消泡剤が親油性乳化剤と親水性乳化剤を用いてO/W乳化した乳化剤製剤であり、消泡剤の添加濃度が50?500ppmである、
前記方法。」に訂正する。
(訂正事項9)
特許請求の範囲の請求項9を削除する。
(訂正事項10)
特許請求の範囲の請求項10を削除する。

2 訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
上記訂正事項1は、ビールテイスト飲料の可溶性固形分濃度について、訂正前の「0.1?5.0度」から、訂正後の「0.1?3.0度」へと、その範囲を狭め、糖類の量について、「飲料100gあたり0.5g未満」のものに限定し、消泡剤について、「親油性乳化剤と親水性乳化剤を用いてO/W乳化した乳化剤製剤であり、消泡剤の添加濃度が50?500ppmである」ことを限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項1は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項1は、訂正前の請求項3に「消泡剤が親油性乳化剤と親水性乳化剤を用いてO/W乳化した乳化剤製剤である」、請求項5に「ビールテイスト飲料の可溶性固形分濃度が0.1?3.0度である」、本件特許明細書の段落【0019】に「例えば、「糖類ゼロ」との表示は、飲料に含まれる糖類(単糖類又は二糖類であって、糖アルコールでないもの)の量が、飲料100gあたり0.5g未満のものに対して付されるものである。」、及び段落【0025】に「消泡剤の添加濃度は、消泡効果を発揮できる量であれば特に限定されず、目的の飲料の設計品質に応じて自由に設定することができる。例えば添加する対象の原料液に対して50?1000ppm、好ましくは100?500ppm、さらに好ましくは100?300ppmである。」と記載されているから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的
上記訂正事項2は、請求項2を削除するものであるから、 特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項2は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項2は、上記アのとおりであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。

(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的
上記訂正事項3は、請求項3を削除するものであるから、 特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項3は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項3は、上記アのとおりであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。

(4)訂正事項4について
ア 訂正の目的
上記訂正事項4は、上記訂正事項2及び3に伴い、訂正前の請求項4から請求項2及び3を引用するものを削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項4は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項4は、上記アのとおりであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。

(5)訂正事項5について
ア 訂正の目的
上記訂正事項5は、請求項5を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項5は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項5は、上記アのとおりであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。

(6)訂正事項6及び7について
ア 訂正の目的
上記訂正事項6及び7は、上記訂正事項2、3及び5に伴い、訂正前の請求項6及び7から請求項2、3及び5を引用するものを削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項6及び7は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項6及び7は、上記アのとおりであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。

(7)訂正事項8について
ア 訂正の目的
上記訂正事項8は、ビールテイスト飲料の可溶性固形分濃度について、訂正前の「0.1?5.0度」から、訂正後の「0.1?3.0度」へと、その範囲を狭め、糖類の量について、「飲料100gあたり0.5g未満」のものに限定し、消泡剤について、「親油性乳化剤と親水性乳化剤を用いてO/W乳化した乳化剤製剤であり、消泡剤の添加濃度が50?500ppmである」ことを限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項8は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項8は、訂正前の請求項3に「消泡剤が親油性乳化剤と親水性乳化剤を用いてO/W乳化した乳化剤製剤である」、請求項5に「ビールテイスト飲料の可溶性固形分濃度が0.1?3.0度である」、本件特許明細書の段落【0019】に「例えば、「糖類ゼロ」との表示は、飲料に含まれる糖類(単糖類又は二糖類であって、糖アルコールでないもの)の量が、飲料100gあたり0.5g未満のものに対して付されるものである。」、及び段落【0025】に「消泡剤の添加濃度は、消泡効果を発揮できる量であれば特に限定されず、目的の飲料の設計品質に応じて自由に設定することができる。例えば添加する対象の原料液に対して50?1000ppm、好ましくは100?500ppm、さらに好ましくは100?300ppmである。」と記載されているから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。

(8)訂正事項9について
ア 訂正の目的
上記訂正事項9は、請求項9を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項9は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項9は、上記アのとおりであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。

(9)訂正事項10について
ア 訂正の目的
上記訂正事項10は、請求項10を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項10は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項10は、上記アのとおりであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。

(10)一群の請求項について
訂正前の請求項1?7は、請求項2?7が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、訂正前において一群の請求項に該当するものである。
また、訂正前の請求項8?10は、請求項9及び10が、訂正の請求の対象である請求項8の記載を引用する関係にあるから、訂正前において一群の請求項に該当するものである。
したがって、本件訂正の請求は、一群の請求項ごとにされたものである。

以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?7〕、〔8?10〕についての訂正を認める。


第3 本件特許発明
上記のとおり本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1、4、6?8に係る発明(以下「本件発明1、4、6?8」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1、4、6?8に記載された以下の事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】 ホップ由来成分を含むビールテイスト飲料の製造方法であって、消泡剤を添加する工程を含み、
ここで、前記ビールテイスト飲料は、可溶性固形分濃度が0.1?3.0度であり、アルコール度数が0.01%未満であり、糖類の量が飲料100gあたり0.5g未満であり、
消泡剤が親油性乳化剤と親水性乳化剤を用いてO/W乳化した乳化剤製剤であり、消泡剤の添加濃度が50?500ppmである、
前記製造方法。
【請求項4】 消泡剤をホップ抽出物を含む麦汁に添加する、請求項1記載の製造方法。
【請求項6】 ビールテイスト飲料に含まれるα酸量が0.002?7ppmである、請求項1または4に記載の製造方法。
【請求項7】 ビールテイスト飲料に含まれるα酸量が0.1?4ppmである、請求項1、4、または6に記載の製造方法。
【請求項8】 ビールテイスト飲料のボディ感増強方法であって、ホップ由来成分を含むビールテイスト飲料の製造過程において消泡剤を添加する工程を含み、
ここで、ビールテイスト飲料は、可溶性固形分濃度が0.1?3.0度であり、アルコール度数が0.01%未満であり、糖類の量が飲料100gあたり0.5g未満であり、
消泡剤が親油性乳化剤と親水性乳化剤を用いてO/W乳化した乳化剤製剤であり、消泡剤の添加濃度が50?500ppmである、
前記方法。」


第4 当審の判断
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1?10に係る特許に対して平成29年10月27日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

請求項1、4、6?8に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、甲第1?8号証に記載の事項、及び出願時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、請求項1、4、6?8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

甲第1号証:国際公開第2009/133391号及び抄訳
甲第2号証:加藤 友治、「食品分野における界面活性剤」、オレオサイエンス、2001年、第1巻、第10号、p.1013?1019
甲第3号証:前田 祥貴、高瀬 嘉彦、「水分散性消泡剤『アワブレーク』の効果」、月刊フードケミカル、2010年、Vol.26、No.11、p.67?70
甲第4号証:橋本 直樹、「ビールのはなし Part2 -おいしさの科学」、技報堂出版株式会社、1998年4月5日、p.113?123
甲第5号証:Ron Siebel、「- Non-Alcoholic Beer - The Beverage of the 1990s」、Brewers Digest、1990年3月、p.13?17及び抄訳
甲第6号証:吉田 重厚、「第1章 ビールの一般成分」、日本醸造協会雑誌、1976年、第71巻、第7号、p.505?510
甲第7号証:宮地 秀夫、「ビール醸造技術」、株式会社食品産業新聞社、1999年12月28日、p.268?274、283
甲第8号証:国際公開第2011/145671号
甲第9号証:特開2003-250503号公報

2 取消理由についての判断
ア 甲1号証記載の発明
甲第1号証には、以下の記載がある
(ア)「The present invention relates to improvements in or relating to beer. In particular the present invention relates to the controlling of foaming and/or control of carbon dioxide in beer,during filling of beer containers and/or during dispensing.」(1頁3?7行、当審訳:本発明は、ビールの改良に関する。特に、本発明は、ビール容器の充填中及び/又は分注中に、発泡及び/又はビール中の二酸化炭素を制御することに関する。)
(イ)「There is a need for foam control in beer, and a particular need to control foaming in beer during filling of containers. The overall filling process is significantly retarded by the time it takes for a foam to collapse before filling may continue to the required volume. A solution to this problem will thus improve the throughput of beer through filling stations in the manufacturing process.
A further problem associated with excessive foaming is excessive loss of carbon dioxide during filling. It is undesirable, from a product quality, efficiency and environmental viewpoint, to release carbon dioxide into the environment. However some breweries have sought to recover carbon dioxide from the fermentation process and use it to carbonate the beer.
A yet further problem is the loss of the contribution to taste provided by carbon dioxide, particularly in respect of more carbonated beers such as lagers. If excessive carbon dioxide is lost from the beer there may be a marked deterioration in its drinking quality.」(2頁2?23行、当審訳:ビールにおいては泡を制御する必要があり、特に、容器の充填中におけるビールの発泡を制御する必要がある。全体的な充填プロセスは、泡が崩壊してから必要な容量に達するまで充填にかかる時間によって著しく遅れる。この問題に対する解決策は、製造工程における充填ステーションによるビールの処理量を向上させることになる。
過度の発泡に関連するさらなる問題は、充填中の二酸化炭素の過剰な損失である。二酸化炭素を環境に放出することは、製品の品質、効率及び環境の観点から望ましくない。しかし、いくつかの醸造所は、発酵プロセスから二酸化炭素を回復させて、ビールを炭酸化するためにそれを使用しようとしている。
さらに別の問題は、特にラガーのような炭酸のより強いビールに関して、二酸化炭素によってもたらされる味への寄与の喪失である。過剰な二酸化炭素がビールから失われた場合、飲料の質が著しく低下する可能性がある。)
(ウ)「In accordance with a first aspect of the present invention, there is provided a beer comprising a foam control agent and/or a carbondioxide control agent, the control agent comprising: a polyoxyethylene sorbitan fatty acid ester; a sorbitan fatty acid ester; or a polyethylene glycol(PEG)fatty acid ester.」(3頁25?30行、当審訳:本発明の第1の態様によれば、発泡制御剤及び/又は二酸化炭素制御剤を含むビールが提供される。前記制御剤は、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、又はポリエチレングリコール(PEG)脂肪酸エステルからなる。)
(エ)「The addition of such foam control agents has a remarkable effect in relation to foam control, when a beer is delivered to a container,whether the container be a can or bottle in a filling plant, or a drinking vessel such as a glass or cup. Foaming is significantly reduced. It appears to be the case with many beers that excessive foam is inhibited, and any foam head which is produced is more coarse and collapses more quickly. Consequently there arise the advantages that less carbon dioxide is lost into the atmosphere during filling giving economic and environmental benefit;and less carbon dioxide escapes from the beverage when it is poured into a drinking vessel(thereby giving better drinking quality). A further advantage of embodiments of the invention may be that carbon dioxide can be retained for longer in the beer in a container which has been opened. The familiar problem of beer, especially bottled or canned beer, going″flat″after pouring may thereby be ameliorated, in such embodiments.」(3頁32行?4頁17行、当審訳:このような発泡制御剤の添加は、ビールが容器に供給されるとき、容器が充填プラントの缶又は瓶であろうと、ガラス又はカップのような飲料容器であろうと、泡制御に関して顕著な効果を有する。発泡は著しく減少する。多くのビールでは、明らかに、過剰な泡が抑制され、生成されるフォームヘッドがより粗くなり、より迅速に崩壊する。その結果、充填中に大気中に失われる二酸化炭素が少なくなり、経済的及び環境的利益をもたらすという利点が生じる。飲料容器に注がれるときに飲料から逃げる二酸化炭素の量が少なくなる(それによって飲料の品質が向上する)。本発明の実施形態の更なる利点は、開放された容器内でビール中に二酸化炭素をより長く保持することができることである。このような実施形態では、注入後に「フラット」になるという、ビール、特にボトル又は缶ビールのよく知られた問題が改善される。)
(オ)「The beer may be non-alcoholic, but is typically alcoholic with an alcohol content no more than 12% ABV, where ABV mean alcohol by volume, as commonly understood in the art.」(4頁23?26行、当審訳:ビールは、ノンアルコールであってもよいが、典型的にはアルコール濃度が12%ABV未満であるアルコール飲料である。 ABVは、当業界で一般的に理解されているように、体積基準のアルコール量を意味する。)
(カ)「Preferably the control agent is added to the beer or to a precursor thereof; for example, a pre-fermentation liquor. The control agent may itself be a liquid at ambient temperature, or it may be liquefiable, for example by heating it in order to melt it, or by dissolving or dispersing it in a liquid carrier.」(11頁22?27行、当審訳:好ましくは、制御剤は、ビール又はその前駆体に添加される。例えば、発酵前の液である。制御剤は、それ自体、周囲温度で液体であってもよく、例えば、溶融させるために加熱することによって、又は液体担体中に溶解若しくは分散させることによって、液化可能であってもよい。)
(キ)「Experiments to assess foaming properties were carried out upon beer employing commercially available Polysorbate 65(HLB 10.5;sold under the trade mark Kotilen S/3), otherwise known as Polyoxyethylene(20)sorbitan tristearate, as the control agent. The beer employed in this example was ″biere blonde″(exclusive to Tesco, a UK supermarket)-French lager (2.8% ABV).」(13頁18?24行目、当審訳:発泡特性を評価するための実験は、市販のポリソルベート65(HLB10.5;商品名Kotilen S / 3で販売)、又はポリオキシエチレン(20)ソルビタントリステアレートとして制御剤として使用されたビールで行った。この例で使用されたビールは、フランスのラガー(2.8%ABV)である『ピエールブロンド』(英国のスーパーであるテスコ専用)であった。)

甲第1号証の上記記載を総合すると、甲第1号証には以下の発明(以下「甲1発明」という。)が、記載されている。

「ビール又はその前駆体、例えば、発酵前の液に、発泡制御剤を添加するビールの製造方法。」

イ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、
甲1発明の「ビール」は、本件特許明細書の【0010】の「ビールを始めとするビールテイスト飲料」との記載に照らして、本件発明1の「ビールテイスト飲料」に相当し、後者の「ビールの製造方法」は前者の「ビールテイスト飲料の製造方法」に相当する。
また、甲1発明の「発泡制御剤」は、その作用から本件発明1の「消泡剤」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。

<一致点>
「ビールテイスト飲料の製造方法であって、消泡剤を添加する工程を含む前記製造方法。」

<相違点1>
ビールテイスト飲料について、本件発明1は、「ホップ由来成分を含む」のに対して、甲1発明は、ホップ由来成分を含むか不明である点。
<相違点2>
ビールテイスト飲料について、本件発明1では、「可溶性固形分濃度が0.1?3.0度であり、アルコール度数が0.01%未満であり、糖類の量が飲料100gあたり0.5g未満であ」るのに対して、甲1発明では、可溶性固形分濃度、アルコール度数及び糖類の量が不明である点。
<相違点3>
消泡剤について、本件発明1は、「親油性乳化剤と親水性乳化剤を用いてO/W乳化した乳化剤製剤であり、消泡剤の添加濃度が50?500ppmである」のに対して、甲1発明は、そのように特定されていない点。

(イ)判断
上記相違点について検討する。
<相違点2について>
甲第5号証の「Table IV」の「Real Extra、%」の欄に、「Near Beer」が「4.35」、「Reagular Beer」が「3.68」と記載されており、甲第6号証の第2表の「最終エキス」「真正%」の欄に「3.42」、「3.23」、「3.60」と記載されているところ、甲第6号証の「真正エキス」は、蒸留液及び残液の比重から求める正規の方法や屈折計での屈折度から求めるとの記載(508頁右欄下から2行?509頁左欄10行)を参照すると、甲第5、6号証には、可溶性固形分濃度が3.23?4.35のビールテイスト飲料が記載されているといえる。
そして、甲第1号証には、ビールがノンアルコールでもよいことが記載されている(上記(オ))が、可溶性固形分濃度が0.1?3.0度であるビールテイスト飲料及び糖類の量が飲料100gあたり0.5g未満であるビールテイスト飲料は、甲第2?9号証に何ら示されておらず、甲1発明において、可溶性固形分濃度が0.1?3.0度、糖類の量が飲料100gあたり0.5g未満とする動機付けは存在しない。

したがって、甲1発明において、上記相違点2に係る本件発明1の事項とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえず、本件発明1が、甲1発明、甲第1?8号証に記載の事項、及び出願時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ 本件発明4、6、7について
本件発明4、6、7は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに特定されたものであるから、上記イと同様の理由により、甲1発明、甲第1?8号証に記載の事項、及び出願時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

エ 本件発明8について
(ア)対比
本件発明8の「ビールテイスト飲料のボディ感増強方法」とは、苦味成分であるα酸やイソα酸を残存させる製造方法である(本件特許明細書【0022】、【0026】、【0027】)。
そして、甲第4号証(117頁)に記載されているように、泡の表面にイソフムロン(イソα酸)等が含まれることが知られているから、甲1発明の発泡制御剤を添加することで発泡を制御する製造方法は、泡によるα酸やイソα酸の除去を行わない製造方法といえるから、ビールテイスト飲料のボディ感増強方法と表現できるものである。
そうすると、本件発明8と甲1発明とは、以下の点で一致し、上記イ(ア)の相違点1?3で相違する。

<一致点>
「ビールテイスト飲料のボディ感増強方法であって、消泡剤を添加する工程を含む前記方法。」

(イ)判断
相違点2は、上記イ(イ)と同じ理由により、当業者が容易に想到し得たとはいえないから、本件発明8は、甲1発明、甲第1?8号証に記載の事項、及び出願時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3.平成30年7月23日付け取消理由(決定の予告)で通知した新たな取消理由
(1)新たな取消理由の概略
平成30年7月23日付け取消理由(決定の予告)で通知した新たな取消理由の要旨は、次のとおりである。

請求項2及び9の「アワブレークG-109」は、その成分は不明である。

(2)判断
請求項2及び9は、本件訂正により削除されたから、当該取消理由は解消された。

4.むすび
上記のとおり、本件発明1、4、6?8は、甲第1号証に記載された発明、甲第1?8号証記載の事項、及び出願時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、請求項1、4、6?8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。


第5 むすび
以上のとおり、本件発明1、4、6?8に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件発明1、4、6?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項2、3、5、9、10に係る特許は、本件訂正により削除されたため、本件特許の請求項2、3、5、9、10に対して特許異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 ホップ由来成分を含むビールテイスト飲料の製造方法であって、消泡剤を添加する工程を含み、
ここで、前記ビールテイスト飲料は、可溶性固形分濃度が0.1?3.0度であり、アルコール度数が0.01%未満であり、糖類の量が飲料100gあたり0.5g未満であり、
消泡剤が親油性乳化剤と親水性乳化剤を用いてO/W乳化した乳化剤製剤であり、消泡剤の添加濃度が50?500ppmである、
前記製造方法。
【請求項2】 (削除)
【請求項3】 (削除)
【請求項4】 消泡剤をホップ抽出物を含む麦汁に添加する、請求項1記載の製造方法。
【請求項5】 (削除)
【請求項6】 ビールテイスト飲料に含まれるα酸量が0.002?7ppmである、請求項1または4に記載の製造方法。
【請求項7】 ビールテイスト飲料に含まれるα酸量が0.1?4ppmである、請求項1、4、または6に記載の製造方法。
【請求項8】 ビールテイスト飲料のボディ感増強方法であって、ホップ由来成分を含むビールテイスト飲料の製造過程において消泡剤を添加する工程を含み、
ここで、ビールテイスト飲料は、可溶性固形分濃度が0.1?3.0度であり、アルコール度数が0.01%未満であり、糖類の量が飲料100gあたり0.5g未満であり、
消泡剤が親油性乳化剤と親水性乳化剤を用いてO/W乳化した乳化剤製剤であり、消泡剤の添加濃度が50?500ppmである、
前記方法。
【請求項9】 (削除)
【請求項10】 (削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-10-12 
出願番号 特願2012-288667(P2012-288667)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (A23L)
P 1 651・ 537- YAA (A23L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 川合 理恵  
特許庁審判長 山崎 勝司
特許庁審判官 佐々木 正章
莊司 英史
登録日 2017-02-10 
登録番号 特許第6087625号(P6087625)
権利者 サントリーホールディングス株式会社
発明の名称 ビールテイスト飲料の製造方法  
代理人 小林 泰  
代理人 星野 修  
代理人 富田 博行  
代理人 山本 修  
代理人 星野 修  
代理人 山本 修  
代理人 小野 新次郎  
代理人 小林 泰  
代理人 富田 博行  
代理人 小野 新次郎  

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