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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C04B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C04B
審判 全部申し立て 判示事項別分類コード:857  C04B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C04B
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  C04B
審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  C04B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C04B
管理番号 1346753
異議申立番号 異議2017-701080  
総通号数 229 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-01-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-11-16 
確定日 2018-10-19 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6130767号発明「高炉スラグ細骨材を用いて耐凍害性を向上したモルタルまたはコンクリート用組成物およびそれを成形してなる成形品ならびに成形品の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6130767号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。 特許第6130767号の請求項5ないし7に係る特許を維持する。 特許第6130767号の請求項1ないし4に係る特許についての特許異議申立を却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6130767号の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成25年10月11日に出願されたものであって、平成29年4月21日に特許の設定登録がされ(特許掲載公報発行日 平成29年5月17日)たものであり、その後の経緯は以下のとおりである。

平成29年11月16日付け 特許異議の申し立て(全請求項について)
特許異議申立人 末吉 直子
(甲第1ないし5号証を提出)
平成30年 1月16日付け 取消理由通知
平成30年 3月14日付け 意見書の提出(特許権者)
(乙第1ないし6号証を提出)
平成30年 5月 7日付け 取消理由通知(決定の予告)
平成30年 7月 9日付け 訂正請求書及び意見書の提出(特許権者)
(乙第7ないし9号証を提出)
平成30年 8月17日付け 意見書の提出(異議申立人)

第2 訂正請求について
平成30年7月9日付け訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)が認められるかについて検討する。

1.訂正の内容
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1ないし4を削除する。

(2)訂正事項2
訂正前の特許請求の範囲の請求項5に、
「【請求項5】 請求項1または2に記載のモルタルまたはコンクリート用組成物を成形し、蒸気養生して成形品を製造することを特徴とする成形品の製造方法。」
とあるのを、下線部を訂正して、
「【請求項5】
非晶質な高炉スラグ細骨材を含む細骨材と、結合材と、水とを含有し、結合材に対する水の質量比が0.25?0.40であり、乾燥収縮低減剤および平均粒径6μm以下の高炉急冷スラグ微粉末を含まないとともに超硬練りコンクリートでない有スランプのモルタルまたはコンクリート用組成物を成形し、蒸気養生して耐凍害性に優れた成形品を製造する方法であって、
JIS A 1148に記載の凍結融解試験方法に基づく凍結融解試験であって供試体を浸漬させる溶液の濃度が質量比で10%の塩水である凍結融解試験による、前記モルタルまたはコンクリート用組成物により蒸気養生を経て作製したモルタルまたはコンクリート供試体における所定の凍結融解サイクルでの相対動弾性係数または耐久性指数は、前記モルタルまたはコンクリート用組成物とは細骨材が砕砂を含み高炉スラグ細骨材を含まないことのみが異なる組成物により作製したモルタルまたはコンクリート供試体における前記所定の凍結融解サイクルでの相対動弾性係数または耐久性指数に比べて大きく、耐凍害性に優れることを特徴とする成形品の製造方法。
」とする。

(3)訂正事項3
訂正後に、
「【請求項6】
前記モルタルまたはコンクリート用組成物に空気を連行する性能を有する剤を添加せずに成形し、蒸気養生して成形品を製造することを特徴とする請求項5に記載の成形品の製造方法。」
を追加する。

(4)訂正事項4
訂正後に、
「【請求項7】
前記モルタルまたはコンクリート用組成物を成形し、蒸気養生して成形品を製造される製品が、塩分環境下の凍害に対する抵抗性を有するものであることを特徴とする請求項5又は6に記載の成形品の製造方法。」
を追加する。

2.訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1ないし4を削除するものだから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、特許法120条の5第2項ただし書第1号の規定に適合するものである。
また、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、新規事項の追加として許されないものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。
さらに、訂正事項1は、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないので、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。

(2)訂正事項2について
(2-1)訂正の目的
ア)訂正事項2は、訂正前の請求項5が訂正前の請求項1又は2を引用する記載であるところ、請求項2を引用しないものとした上で、請求項1を引用するものについて請求項間の引用関係を解消して独立形式へ改めるための訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正である。
イ)また、訂正事項2は、訂正前の請求項1に記載されていた、
「高炉スラグ細骨材を含む細骨材と、結合材と、水とを含有し、乾燥収縮低減剤および平均粒径6μm以下の高炉急冷スラグ微粉末を含まないモルタルまたはコンクリート用組成物」を、
訂正後に「非晶質な高炉スラグ細骨材を含む細骨材と、結合材と、水とを含有し、結合材に対する水の質量比が0.25?0.40であり、乾燥収縮低減剤および平均粒径6μm以下の高炉急冷スラグ微粉末を含まないとともに超硬練りコンクリートでない有スランプのモルタルまたはコンクリート用組成物」とするものであり、この訂正は、訂正後の請求項5に係る発明における「モルタルまたはコンクリート用組成物」をより具体的に特定し限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、特許法120条の5第2項ただし書第1号の規定に適合するものである。
ウ)また、訂正事項2は、訂正前の請求項5に記載されていた、
「モルタルまたはコンクリート用組成物を成形し、蒸気養生して成形品を製造する」を、
訂正後に「モルタルまたはコンクリート用組成物を成形し、蒸気養生して耐凍害性に優れた成形品を製造する」とするものであり、この訂正は、訂正後の請求項5に係る発明における「成形品」をより具体的に特定し限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、特許法120条の5第2項ただし書第1号の規定に適合するものである。
エ)また、訂正事項2は、訂正前の請求項1に記載されていた、
「JIS A 1148に記載の凍結融解試験方法に基づく凍結融解試験であって供試体を浸漬させる溶液の濃度が質量比で10%の塩水である凍結融解試験による、前記モルタルまたはコンクリート用組成物により作製したモルタルまたはコンクリート供試体における所定の凍結融解サイクルでの相対動弾性係数または耐久性指数は、前記モルタルまたはコンクリート用組成物とは細骨材が砕砂を含み高炉スラグ細骨材を含まないことのみが異なるモルタルまたはコンクリート用組成物により作製したモルタルまたはコンクリート供試体における前記所定の凍結融解サイクルでの相対動弾性係数または耐久性指数に比べて大きく、耐凍害性に優れる」を、
訂正後に「JIS A 1148に記載の凍結融解試験方法に基づく凍結融解試験であって供試体を浸漬させる溶液の濃度が質量比で10%の塩水である凍結融解試験による、前記モルタルまたはコンクリート用組成物により蒸気養生を経て作製したモルタルまたはコンクリート供試体における所定の凍結融解サイクルでの相対動弾性係数または耐久性指数は、前記モルタルまたはコンクリート用組成物とは細骨材が砕砂を含み高炉スラグ細骨材を含まないことのみが異なる組成物により作製したモルタルまたはコンクリート供試体における前記所定の凍結融解サイクルでの相対動弾性係数または耐久性指数に比べて大きく、耐凍害性に優れる」とするものであり、この訂正は、訂正後の請求項5に係る発明における「モルタルまたはコンクリート供試体」を「蒸気養生を経て」作成されることを具体的に特定し限定するものであるから、特許請求の範囲を減縮するものである。
オ)また、訂正前の請求項1の「高炉スラグ細骨材を含まないことのみが異なるコンクリート用組成物により作製したモルタルまたはコンクリート供試体」を、訂正後に「高炉スラグ細骨材を含まないことのみが異なる組成物により作製したモルタルまたはコンクリート供試体」と、記載の重複を避けて「コンクリート用」を削除することで、「モルタルまたはコンクリート」との不整合を解消するから、明瞭でない記載を釈明するものである。
カ)したがって、訂正事項2は、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、特許法120条の5第2項ただし書第1号及び同第3号の規定に適合するものである。

(2-2)特許請求の範囲の拡張変更の存否
訂正事項2は、上記(2-1)から明らかなように、請求項間の引用関係を解消して独立形式へ改めると共に、「成形品の製造方法」を具体的に特定し、記載を明瞭にするものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないので、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。

(2-3)新規事項の追加について
ア)本件特許明細書【0021】には「高炉スラグ細骨材は、非晶質な高炉スラグ細骨材である。」と記載され、同【0054】には「水結合材比(W/B)が25%?65%の範囲であれば、耐凍害性により一層優れたモルタルまたはコンクリートが得られる。」と記載され、【図6】【図7】には、それぞれ「W/B=25%」「W/B=40%」の場合について、共に「蒸気養生」された「BFS(高炉スラグ細骨材)」を用いる「コンクリート供試体」は「相対動弾性係数(%)」がサイクル数が300回になっても略100%で維持されて、細骨材に砕砂を用いたものよりも耐凍害性に優れることがみてとれる。
また、本件特許明細書【0016】等には、本件発明が「耐凍害性に優れる」ことが記載されているものであり、また、【図6】【図7】には、それぞれ「W/B=25%」「W/B=40%」の場合について、本件発明で製造された「供試体」は共に「蒸気養生」されたものであることが記載されているものである。
イ)異議申立人は、平成30年7月9日付け意見書において、上記(2-1)イ)の「超硬練りコンクリートでない有スランプのモルタルまたはコンクリート用組成物」について、本件発明で製造される「モルタルまたはコンクリート用組成物」は「超硬練りコンクリートでない有スランプのモルタルまたはコンクリート用組成物」であるということは本件特許明細書に明示がなく、新規事項である旨主張している。
イ-1)そこで、本件発明で製造される「モルタルまたはコンクリート用組成物」を「超硬練りコンクリートでない有スランプのモルタルまたはコンクリート用組成物」であると訂正することで、新たな技術的意味が生じるか否かについて検討する。
そもそも本件特許明細書には、次のイ-2)で述べる理由により「超硬練りコンクリート」について記載されておらず、通常のコンクリートについて記載されていたといえるから、「モルタルまたはコンクリート用組成物」を、通常のコンクリートを意味する「超硬練りコンクリートでない有スランプのモルタルまたはコンクリート用組成物」に訂正しても、当該訂正により何らの新たな技術的な意味を生じさせるものではないといえる。
イ-2)本件特許明細書に記載されているのは通常のコンクリートであるといえる理由について以下に述べる。
i)当審で調査した追加文献(下記参照)には、
「近年、ダム、舗装を初めとし、大規模橋梁基礎、工場製品などに、スランプ0cmの極めて硬いコンクリート(以下、超硬練りコンクリートと称す)が多用されている。超硬練りコンクリートの品質は、通常のコンクリートよりもコンクリート中の空隙の程度に影響されやすく、配合に支配されるコンシステンシーあるいは締固め性と締固め条件が複雑に関係し合う。すなわち、コンクリートには振動・加圧に適合する硬さあるいは即時脱型後の変形抵抗性と、密実性を得るための柔らかさの両性質が求められる。」
(追加文献 29頁左欄「1.委員会活動の概要」)
と記載されている。
この記載から、「超硬練りコンクリート」とするためには、「配合に支配されるコンシステンシーあるいは締固め性と締固め条件が複雑に関係し合う」ので、「配合に支配されるコンシステンシーあるいは締固め性」と、締固め条件とが必要であるといえるところ、本件特許明細書には、締固めについて特に記載は無く、また、締固めて「超硬練りコンクリート」とすることを示唆する記載も見いだせないから、本件特許明細書には「超硬練りコンクリート」ではなく、通常のコンクリートについて記載されていたものといえる。
ii)また、本件発明では「結合材に対する水の質量比が0.25?0.40」であるのに対して、後述する甲第1号証に記載の「超硬練りコンクリート」の「水結合材比W/C(%)」(「結合材に対する水の質量比」に相当する)は「46?66%」(表3)であるから、本件発明の方が、「超硬練りコンクリート」である甲第1号証に記載の技術手段よりも水の量が少ないから、本件発明も「超硬練りコンクリート」ではないのかという疑念が生ずる。
しかし、上記追加文献の記載から、「超硬練りコンクリート」であるには、コンクリートの配合組成等に加えて締固め条件も必要であるのだから、締固め条件の記載がなく締固めされているとまではいえない本件発明において、「結合材に対する水の質量比」が小さいことのみをもって、「超硬練りコンクリート」であるものとはいえないといえる。
イ-3)以上から、本件発明は「超硬練りコンクリート」に関するものではなく、「スランプ0cm」ではない通常のコンクリートに関するものであるといえるから、これを同じく通常のコンクリートを意味する「超硬練りコンクリートでなく有スランプ」であると訂正しても、新たな技術的意味を生じさせるものではないので、新たな技術的事項を導入するものとはいえず、当該訂正は新規事項を追加するものとはいえない。

(追加文献)委員会報告「超硬練りコンクリート研究委員会報告」、国府勝郎ら、コンクリート工学年次論文報告集、Vol.20、No.1、1998、29-38頁

ウ)さらに、訂正前の請求項1に「高炉スラグ細骨材を含まないことのみが異なるコンクリート用組成物により作製したモルタルまたはコンクリート供試体」とあるのを、訂正後に「高炉スラグ細骨材を含まないことのみが異なる組成物により作製したモルタルまたはコンクリート供試体」と訂正するのは、記載の重複を避けて「コンクリート用」を削除することで、「モルタルまたはコンクリート」との不整合を解消するもので、訂正前後の意味は同じである。
エ)以上から、上記(2-1)イ)ウ)エ)について、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、新規事項でないものといえる
したがって、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、新規事項として許されないものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項5を減縮した訂正後の請求項5をさらに引用し、その上で「モルタルまたはコンクリート組成物」に「前記」が付与され、「成形品」の形成に「蒸気養生」するという限定が付与されたものだから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、特許法120条の5第2項ただし書第1号の規定に適合するものである。
また、訂正事項3は、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないので、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。
さらに、訂正事項3は、【図6】【図7】に、それぞれ「W/B=25%」「W/B=40%」の場合について、本件発明で製造された「供試体」(「成形品」)は共に「蒸気養生」されたものであることが記載されていることから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、新規事項として許されないものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。

(4)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正前の請求項5を減縮した訂正後の請求項5を引用するか又は同訂正後の請求項5を引用する請求項6をさらに引用し、その上で「モルタルまたはコンクリート組成物」に「前記」が付与され、「製品」が「塩分環境下の凍害に対する抵抗性を有するものである」ことの限定が付与されたものだから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、特許法120条の5第2項ただし書第1号の規定に適合するものである。
また、訂正事項4は、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないので、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。
さらに、訂正事項4は、本件特許明細書【0012】に「また、本発明に係る他のモルタルまたはコンクリート用組成物は、上述した発明において、前記モルタルまたはコンクリート用組成物を成形してなる成形品が、塩分環境下の凍害に対する抵抗性を有するものであることを特徴とする。」ことが記載されているから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、新規事項として許されないものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。

(5)一群の請求項について
訂正前の請求項1?5について、請求項2?5はそれぞれ請求項1を引用しているものであって、訂正事項によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1?5に対応する訂正後の請求項1?7は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

3.訂正請求についての結言
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、
請求項1?4について特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものであり、
請求項5について特許法第120条の5第2項ただし書き第1、3及び4号に掲げる事項を目的とするものであり、
請求項6、7について特許法第120条の5第2項ただし書き第1、3号に掲げる事項を目的とするものであり、
かつ、同条第4項及び第9項において準用する同法第126条第5、6項の規定に適合する。
よって、訂正後の請求項1ないし7について訂正を認める。

第3 本件発明について
本件訂正請求が認められたので、本件の請求項1ないし4に係る発明は削除され、本件の請求項5ないし7に係る発明は、それぞれ、訂正された特許請求の範囲の請求項5ないし7に記載されたものであり、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項に係る発明は以下のとおりのものである。
以下、請求項の順に「本件訂正発明5」ないし「本件訂正発明7」といい、全体を総称して「本件訂正発明」という。

【請求項1】?【請求項4】
削除
【請求項5】
非晶質な高炉スラグ細骨材を含む細骨材と、結合材と、水とを含有し、結合材に対する水の質量比が0.25?0.40であり、乾燥収縮低減剤および平均粒径6μm以下の高炉急冷スラグ微粉末を含まないとともに超硬練りコンクリートでない有スランプのモルタルまたはコンクリート用組成物を成形し、蒸気養生して耐凍害性に優れた成形品を製造する方法であって、
JIS A 1148に記載の凍結融解試験方法に基づく凍結融解試験であって供試体を浸漬させる溶液の濃度が質量比で10%の塩水である凍結融解試験による、前記モルタルまたはコンクリート用組成物により蒸気養生を経て作製したモルタルまたはコンクリート供試体における所定の凍結融解サイクルでの相対動弾性係数または耐久性指数は、前記モルタルまたはコンクリート用組成物とは細骨材が砕砂を含み高炉スラグ細骨材を含まないことのみが異なる組成物により作製したモルタルまたはコンクリート供試体における前記所定の凍結融解サイクルでの相対動弾性係数または耐久性指数に比べて大きく、耐凍害性に優れることを特徴とする成形品の製造方法。
【請求項6】
前記モルタルまたはコンクリート用組成物に空気を連行する性能を有する剤を添加せずに成形し、蒸気養生して成形品を製造することを特徴とする請求項5に記載の成形品の製造方法。
【請求項7】
前記モルタルまたはコンクリート用組成物を成形し、蒸気養生して成形品を製造される製品が、塩分環境下の凍害に対する抵抗性を有するものであることを特徴とする請求項5又は6に記載の成形品の製造方法。

第4 異議申立理由及び平成30年1月16日付け取消理由の概要
特許異議申立人は、異議申立理由として以下で示す理由1ないし7を主張し、本件特許は取り消されるべき旨を申立てた。
当審は、下記異議申立理由を検討した結果、理由1ないし5を取消理由として通知した。
以下、訂正前の発明を「本件発明1?5」とする。

<理由>
理由1.本件発明1について
(A)本件発明1に係る特許は、同発明が、甲第1号証に記載された発明であるので、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものに対してされたものであるから、取り消されるべきものである。
(B)また、本件発明1に係る特許は、同発明が、甲第2号証ないし甲第4号証の記載を踏まえれば、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに対してされたものであるから、取り消されるべきものである。

理由2.本件発明2について
(A)本件発明2に係る特許は、同発明が、甲第1号証に記載された発明であるので、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものに対してされたものであるから、取り消されるべきものである。
(B)また、本件発明2に係る特許は、同発明が、甲第2号証ないし甲第4号証の記載を踏まえれば、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに対してされたものであるから、取り消されるべきものである。

理由3.本件発明3について
(A)本件発明3に係る特許は、同発明が、甲第1号証に記載された発明であるので、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものに対してされたものであるから、取り消されるべきものである。
(B)また、本件発明3に係る特許は、同発明が、甲第2号証ないし甲第4号証の記載を踏まえれば、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに対してされたものであるから、取り消されるべきものである。

理由4.本件発明4について
(A)本件発明4に係る特許は、同発明が、甲第1号証に記載された発明であるので、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものに対してされたものであるから、取り消されるべきものである。
(B)また、本件発明4に係る特許は、同発明が、甲第2号証ないし甲第4号証の記載を踏まえれば、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに対してされたものであるから、取り消されるべきものである。

理由5.本件発明5について
本件発明5に係る特許は、同発明が、甲第2号証ないし甲第5号証の記載を踏まえれば、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに対してされたものであるから、取り消されるべきものである。

理由6.本件発明1ないし5について(明確性要件違反)
(1)本件発明1において、比較される「供試体」に係る「組成物」の「砕砂」の物性(平均粒径、比重、含有量等)が特定されていないから、「前記モルタルまたはコンクリート用組成物とは細骨材が砕砂を含み高炉スラグ細骨材を含まないことのみが異なるモルタルまたはコンクリート用組成物により作製したモルタルまたはコンクリート供試体における前記所定の凍結融解サイクルでの相対動弾性係数または耐久性指数」が明確に理解できず、「比べて大きく」についても同様であるので、本件発明1は明確でない。
本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2ないし5についても同様である。
したがって、本件特許は、本件発明1ないし5が明確でないので、特許法第36条第6項第2号の規定に適合しないものに対してされたものであるから、取り消されるべきものである。
(2)本件発明2において、「抵抗性」の程度が不明であり、本件発明2は明確でない。
本件発明2を引用する本件発明3ないし5についても同様である。
したがって、本件特許は、本件発明2ないし5が明確でないので、特許法第36条第6項第2号の規定に適合しないものに対してされたものであるから、取り消されるべきものである。

理由7.本件発明1ないし5(サポート要件違反 及び 実施可能要件違反)
本件発明の解決すべき課題は「高炉スラグ細骨材を用いて耐凍害性を向上したモルタルまたはコンクリート用組成物およびそれを成形してなる成形品ならびに成形品の製造方法を提供すること」(【0010】)である。
しかしながら、特許明細書及び図面には「前記モルタルまたはコンクリート用組成物とは細骨材が砕砂を含み高炉スラグ細骨材を含まないことのみが異なるモルタルまたはコンクリート用組成物により作製したモルタルまたはコンクリート供試体における前記所定の凍結融解サイクルでの相対動弾性係数または耐久性指数に比べて大き」い、「高炉スラグ細骨材を含む細骨材と、結合材と、水とを含有し、乾燥収縮低減剤および平均粒径6μm以下の高炉急冷スラグ微粉末を含まないモルタルまたはコンクリート用組成物」、特に「乾燥収縮低減剤および平均粒径6μm以下の高炉急冷スラグ微粉末を含まない」点について、製造方法や使用について具体的に記載されていない。
したがって、本件発明1は特許明細書及び図面に記載されておらず、また、特許明細書及び図面の記載は、当業者が本件発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでない。
本件発明1を引用する本件発明2ないし5についても同様である。
よって、本件特許は、本件発明1ないし5が特許明細書及び図面に記載されていないので、特許法第36条第6項第1号の規定に適合しないものに対してされたものであり、また、特許明細書及び図面の記載は、当業者が本件発明1ないし5の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないので、特許法第36条第4項第1号の規定に適合しないものに対してされたものであり、取り消されるべきものである。

<証拠(異議申立人提出)>
甲第1号証:高炉スラグ細骨材を用いた超硬練りコンクリートの凍結融解に対する抵抗性、川崎道夫外2名、セメント技術年報35、社団法人セメント協会、昭和56年12月10日、309-313頁

甲第2号証:高炉スラグ骨材コンクリートの凍結融解に対する抵抗性、田中弘 外1名、第32回年次学術講演会 講演概要集 第5部、社団法人土木学会、昭和52年9月10日、112-113頁

甲第3号証:高炉水砕砂を用いた超硬ねりコンクリートに関する研究、川崎道夫外2名、第35回年次学術講演会 講演概要集 第5部、社団法人土木学会、昭和55年9月1日、213-214頁

甲第4号証:コンクリートの凍害に及ぼす凍結防止剤の影響、板橋洋房 外1名、コンクリート工学 年次論文報告集、Vol.16,No.1,1994、社団法人日本コンクリート工学協会、1994年6月3日、555-560頁

甲第5号証:セメントの常識、社団法人セメント協会、2009年12月、41-42頁

<証拠(特許権者提出)>
以下に、特許権者が平成30年3月14日付けで提出した意見書に添付された乙第1ないし6号証、及び、平成30年7月9日付けで提出した意見書に添付された乙第7ないし9号証を記す。

乙第1号証:塩分環境下でBFSを用いたコンクリートおよびモルタルの凍害性が向上する理由、本件発明の発明者である綾野克紀が作成した資料、平成30年1月26日

乙第2号証:コンクリート技術の要点’03、日本コンクリート工学会、2003年9月17日、91-92頁

乙第3号証:転圧コンクリートの凍結融解抵抗性に関する研究、葛 拓造 外2名、コンクリート工学年次論文報告集 12-1 1990、697-702頁及び要旨の記載された頁

乙第4号証:凍害と塩害の複合劣化作用がコンクリートの耐久性に及ぼす影響、竹田宣典 外1名、コンクリート工学年次論文集、vol.23、No.2、2001、427-432頁及び要旨の記載された頁

乙第5号証:コンクリート構造物の凍害劣化要因の検討、草間祥吾 外3名、国立研究開発法人土木研究所、寒地土木研究所月報第659号、2008年4月10日、27-31頁

乙第6号証:なぜ、塩化物水溶液はコンクリートの凍害劣化を促進させるのか?、材料研究室、北海道開発土木研究所月報、No.582、2001年11月、31-34頁

乙第7号証:コンクリートの凍結融解抵抗性に関するデータベースの構築とその利用、庄谷征美ら、土木学会東北支部技術研究発表会講演概要集(平成18年度)、2007年3月3日

乙第8号証:コンクリートの耐凍害性に及ぼす骨材の影響に関する研究、袴田豊、岩手大学大学院工学研究科博士論文、2008年3月1日発行、43-45頁

乙第9号証:コンクリート技士研修テキスト、社団法人日本コンクリート工学協会、平成21年6月15日発行、株式会社技報堂、79頁

第5 取消理由について
上記のとおり取消理由を通知したところ、特許権者は訂正請求せずに意見書のみを提出したが、同意見書によっても、本件発明1ないし5に係る特許は、その発明が依然として上記の取消理由のうち理由1ないし5を有すると判断し、さらに取消理由(決定の予告)を通知したところ、本件発明は、本件訂正請求により本件訂正発明5ないし7に訂正された。
そこで、同取消理由により依然として本件訂正発明5ないし7は特許を受けられないものか否か以下に検討する。
ここで、上記取消理由1ないし4は、対象となる請求項が削除されたので、以下では、取消理由5について検討する。

1.本件訂正発明5について
1-1.甲第1号証の記載事項
(ア)「高炉スラグ細骨材を用いたコンクリートにおいて、凍結融解に対する抵抗性がすぐれているという1,2の報告がある。しかしこのような傾向が国産高炉スラグ細骨材全般について認められるかどうか明らかでない。本研究においては国産の8種の高炉スラグ材骨材と、比較のための川砂および砕砂を用いた超硬練りコンクリートの凍結融解試験を行った。超硬練りコンクリートを実験の対象とした理由は一般にプレキャストコンクリートにおいては製造上または外観上、AE剤の使用が困難な場合が多いので、AE剤を用いずに耐久的なコンクリートを造るための一方法として、高炉スラグ細骨材の利用を考えたものである。」(「1.まえがき」309頁左欄4-15行)
(イ)「セメントは日本社製通常ポルトランドセメントを使用した。・・・高炉スラグ細骨材はN社製の水砕砂5種、風砕砂1種、S社製の水砕砂2種およびK社製の水砕砂1種とした。また比較のために富士川産川砂および美山産砕砂も用いた。これらの細骨材の物理的性質および粒子形状を表2に示す。・・・粗骨材は・・・使用した。」(「2.使用材料」309頁左欄17-31行)及び「表3 コンクリートの配合」(310頁左欄)

(ウ)「空練りを1分、注水後3分間練り混ぜを行い、排出したコンクリートを・・・1層に詰め・・・振動締固めを行った。この10秒間のうち5秒間は加圧装置により1kg/cm^(2)の加圧を併用した。締固め後・・・圧縮強度試験用供試体とした。残余のコンクリートを同様の方法で・・・型わくに詰め・・・凍結融解試験用供試体とした。養生は20℃の水中とし、材令14日において圧縮強度試験および凍結融解試験を行った。」(「4.1 供試体の製造および養生」310頁左欄下から20-9行)
(エ)「凍結融解試験は、ASTM C-666 ”Resistance of Concrete Specimens to Rapid Freezing and Thawing in Water”に従い、凍結温度-17.8℃、融解温度4.4℃とし、1日7サイクルの割合で行い、30サイクル毎に供試体の相対動弾性係数および重量の測定を行った。また耐久性指数は次式により求めた。
DF=PN/M
ここに、DF:供試体の耐久性指数(%)
P:Nサイクルにおける相対動弾性係数(%)
N:Pが60%に達したときのサイクル数または300サイクル、この両者のうち小なるもの
M:300サイクル」(「4.3 凍結融解試験方法」310頁右欄4-17行)
(オ)「細骨材40%および50%ともに凍結融解抵抗性は図4、図5に示す通り細骨材の品質により3群に分けられる。すなわち細骨材率40%においては川砂、砕砂および風砕砂を用いた場合(I群)の凍結融解抵抗性は小さく、20?25サイクルにおいて相対動弾性係数は60%に達している。これに対し水砕砂を用いた場合は、凍結融解抵抗性が大となり、大部分(II群)は60?150サイクルにおいて相対動弾性係数が60%に達し、特に強いもの(III群)は300サイクルにおいてもなお相対動弾性係数は65%以上となっている。細骨材率50%の場合においても同様な傾向を示し、川砂および砕砂を用いた(I群)の凍結融解抵抗性は小さく25?40サイクルにおいて相対動弾性係数は60%に達している。これに対し水砕砂および風砕砂を用いた場合は凍結融解抵抗性が大となり、大部分(II群)は70?100サイクルにおいて相対動弾性係数が60%に達し、一部強いもの(III群)は140?160サイクルにおいて相対動弾性係数が60%に達する。」(「5.試験結果」310頁右欄下から7行-311頁右欄2行)
(カ)「以上のようにAE剤を用いないコンクリートにおいて高炉スラグ細骨材を用いたコンクリートの凍結融解抵抗性は、川砂および砕砂を用いたものに比べて相当にすぐれている。・・・表4において、気泡間隔係数が小となる程凍結融解抵抗性が大となっている。」(「5.試験結果」311頁右欄5-11行)
(キ)「図8より細骨材の扁平度が超硬練りコンクリートの気泡間隔係数、ひいては耐久性指数に影響するように思われるが、なお十分に検討する必要があり、現在練り混ぜ過程、振動締固め過程における、これら高炉スラグ細骨材の特性による気泡発生機構について検討を進めている。」(「5.試験結果」311頁右欄最下行-312頁左欄4行)

1-2.甲第1号証に記載された発明
i)甲第1号証の記載事項(ア)には、「AE剤を用いずに耐久的なコンクリートを造るため」に、AE剤を用いにくい典型例としての「プレキャストコンクリート」の「超硬練りコンクリート」において、その組成として「高炉スラグ細骨材」を用いたコンクリート用組成物に対する「凍結融解に対する抵抗性」を実験して調べたことが記載されている。
ii)同(イ)には、実験には、「通常ポルトランドセメント」と「粗骨材」に、「高炉スラグ細骨材」の「水砕砂」又は「風砕砂」を用い、比較対象として「砕砂」又は「川砂」を用いたコンクリート用組成物を使用することが記載されている。
また、異議申立人は平成30年8月17日付け意見書4頁の「イ 発明特定事項B(結合材に対する水の質量比)について」で「甲第1号証の表3「コンクリートの配合」によれば、甲第1号証に記載の発明における水結合材比W/C(結合材に対する水の質量比に相当)の値は訂正後の範囲(0.25?0.40)から外れている。」と記載し、上記(イ)の表3から、上記コンクリート用組成物の「W/C(%)」である水結合材比は「46?66%」であることを認めている。
iii)同(ウ)には、材料を練り混ぜてコンクリート用組成物となして、「振動締固め」において「加圧」して「凍結融解試験用供試体」という成形品を水中養生して製作したことが記載されている。
iv)同(エ)には、「凍結融解試験」は「ASTM C-666」に従い、「凍結融解試験用供試体」の「相対動弾性係数」と「耐久性指数」を計測したことが記載されている。
v)同(オ)(カ)には、「相対動弾性係数」の変化から「凍結融解抵抗性」の程度を調べた結果として、「高炉スラグ細骨材を用いたコンクリートの凍結融解抵抗性は、川砂および砕砂を用いたものに比べて相当にすぐれている」ことが記載されており、また、同(エ)から「相対動弾性係数」に比例する「耐久性指数」についても同様にすぐれているものといえる。
vi)以上から、本件訂正発明5の記載に則して整理すれば、甲第1号証には、
「高炉スラグ細骨材の水砕砂と、通常ポルトランドセメントと、水と、粗骨材とを含有し、水結合材比W/Cが46?66%である超硬練りコンクリート用組成物を成形し、水中養生して耐凍害性に優れる成形品を製造する方法であって、
ASTM C-666に記載の凍結融解試験方法に基づく凍結融解試験であって、前記超硬練りコンクリート用組成物により水中養生を経て作製した凍結融解試験用供試体における所定の凍結融解サイクルでの相対動弾性係数または耐久性指数は、前記超硬練りコンクリート用組成物とは細骨材が砕砂を含み高炉スラグ細骨材の水砕砂を含まないことのみが異なる組成物により作製した凍結融解試験用供試体における前記所定の凍結融解サイクルでの相対動弾性係数または耐久性指数に比べて大きい、超硬練りコンクリート用組成物である耐凍害性に優れる成形品の製造方法。」(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

1-3.本件訂正発明5と引用発明との対比
i)本件特許明細書【0021】には「高炉スラグ細骨材は、非晶質な高炉スラグ細骨材である。非晶質な高炉スラグ細骨材としては、例えば、高炉スラグを水で急冷した高炉水砕スラグを軽破砕し、固結防止剤を添加したものを用いることができる。高炉水砕スラグの製造において急冷される直前の溶融高炉スラグの温度は1400度?1500度であり、急冷することにより結晶への原子配列が行われないまま固結してガラス質(非結晶)となる。」と記載されており、引用発明の「高炉スラグ細骨材の水砕砂」は本件訂正発明5の「非晶質な高炉スラグ細骨材」に相当する。
ii)引用発明の「通常ポルトランドセメント」は、本件訂正発明5の「結合材」に相当する。また、引用発明の「凍結融解試験用供試体」は本件訂正発明5の「コンクリート供試体」に相当する。
iii)「凍結融解試験方法」について、「ASTM C-666」は「JIS A1148 A法」と同等の試験方法であるので、引用発明の「ASTM C-666に記載の凍結融解試験方法」は、本件訂正発明5の「JIS A 1148に記載の凍結融解試験方法」に相当する。
また、「ASTM C-666」及び「JIS A1148 A法」は、真水に供試体を浸漬する試験であり、塩水中に浸漬する試験ではない。
iv)上記甲第1号証の記載事項(イ)(ウ)から、引用発明の「コンクリート用組成物」は「乾燥収縮低減剤」を含むものではないから、本件訂正発明5の「乾燥収縮低減剤」を「含まない」ことに相当する。
v)また、同(イ)の「表2」から、引用発明の「高炉スラグ細骨材の水砕砂」の粒径は明らかでない。
しかし、コンクリートの細骨材として用いられる粒径は0.15ないし5mm程度であることは技術常識であり、引用発明の「高炉スラグ細骨材の水砕砂」もコンクリートの細骨材として用いられるものであって、甲第1号証にはそれ以上の微粉砕、分級したものであるとの記載も示唆も無く、またそうすることの必要性もないから、引用発明の「高炉スラグ細骨材の水砕砂」は、粒径が0.15ないし5mm程度であると認められる。
すると、引用発明は「平均粒径6μm以下の高炉急冷スラグ微粉末を含まない」ものといえるので、これは本件訂正発明5の「平均粒径6μm以下の高炉急冷スラグ微粉末を含まない」ことに相当する。
vi)本件訂正発明5の「結合材に対する水の質量比が0.25?0.40」と引用発明の「水結合材比W/Cが46?66%」とは、「水結合材比W/C」は「結合材に対する水の質量比」に相当するので、本件訂正発明5と引用発明とは、「結合材に対する水の質量比」が特定の値を採る点で一致する。
vii)本件訂正発明5の「超硬練りコンクリートでない有スランプのモルタルまたはコンクリート用組成物」と引用発明の「超硬練りコンクリート用組成物」とは、「コンクリート用組成物」である点で一致する。
viii)本件訂正発明5の「蒸気養生」と引用発明の「水中養生」とは、「養生」する点で一致する。
ix)以上から、本件訂正発明5と引用発明とは、
「非晶質な高炉スラグ細骨材を含む細骨材と、結合材と、水とを含有し、結合材に対する水の質量比が特定値であり、乾燥収縮低減剤および平均粒径6μm以下の高炉急冷スラグ微粉末を含まないコンクリート用組成物を成形し、養生して耐凍害性に優れた成形品を製造する方法であって、
JIS A 1148に記載の凍結融解試験方法に基づく凍結融解試験による前記コンクリート用組成物により養生を経て作製したコンクリート供試体における所定の凍結融解サイクルでの相対動弾性係数または耐久性指数は、前記コンクリート用組成物とは細骨材が砕砂を含み高炉スラグ細骨材を含まないことのみが異なる組成物により作製したコンクリート供試体における前記所定の凍結融解サイクルでの相対動弾性係数または耐久性指数に比べて大きく、耐凍害性に優れる、成形品の製造方法。」の点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)「結合材に対する水の質量比」について、本件訂正発明5では同比が「0.25?0.40」(25?40%)であるのに対して、引用発明では「46?66%」である点。

(相違点2)「コンクリート用組成物」について、本件訂正発明5では「超硬練りコンクリートでない有スランプのモルタルまたはコンクリート用組成物」であるのに対して、引用発明では「超硬練りコンクリート用組成物」である点。

(相違点3)「養生」の手段について、本件訂正発明5では「蒸気養生」であるのに対して、引用発明では「水中養生」である点。

(相違点4)「凍結融解試験」において、本件訂正発明5では「供試体を浸漬させる溶液の濃度が質量比で10%の塩水である」のに対して、引用発明では「真水」に供試体を浸漬させるものである点。

1-4.相違点の検討
事案に鑑み相違点4について検討する。
i)コンクリートの「耐凍害性」を検討するのに「凍結融解試験」で「塩水」を用いた場合について言及するのは甲第4号証、乙第4号証、乙第5号証である。
甲第4号証には、同号証の「図-3」?「図-5」から、コンクリート構造物の「凍結融解試験」(ASTM C-666(A)法)で「真水」と「3%NaCl溶液」とを用いて実験したところ、「3%NaCl溶液」の方が「質量減少率」が大きくなっており、「耐凍害性」は、「3%NaCl溶液」を用いた場合の方が「真水」を用いた場合よりも厳しい条件であることが理解される。
乙第4号証には、同号証の「図-3 相対動弾性係数の変化(実験I)」「図-4 質量減少率の変化(実験I)」から、コンクリート構造物の「凍結融解試験」を「水道水」と「海水」とを用いて実験したところ、「海水」の方が「相対動弾性係数」の減少も「質量減少率」も大きくなっており、「耐凍害性」は、「海水」を用いた場合の方が「水道水」を用いた場合よりも厳しい条件であることが理解される。
乙第5号証には、「b)塩分(海水・凍結防止剤) 塩分の影響に関する知見の概要を表-2に示す。何れの論文においても、塩分が作用する環境下では凍害が促され、特にスケーリングが生じやすいことが述べられていた。」(28頁左欄下から7?3行)と記載され、「耐凍害性」にとって塩水は厳しい条件であることが理解される。
以上から、「耐凍害性」にとって塩水は厳しい条件であることは技術常識であることが窺われる。
ii)しかるに、引用発明における「凍結融解試験」の条件は塩水ではなく、「ASTM C-666」に沿った「真水」であり、引用発明は「真水」で「凍結融解試験」が行われた場合に本件訂正発明5と同様に「耐凍害性」に優れるというにすぎず、上記i)から「耐凍害性」にとってより厳しい条件である「塩水」に対する「耐凍害性」を検討したものではない。
そして、「真水」について「耐凍害性」が認められるからといって、「耐凍害性」にとってより厳しい条件である「塩水」に対しても同様に「耐凍害性」が認められるであろうことは予測可能とはいえない。
まして、本件訂正発明5の「塩水」はその濃度が「10%」であり、海水がNaCl濃度で3%程度であることを考慮すれば、「真水」について「耐凍害性」が認められることから、「10%」の濃度の塩水についても「耐凍害性」が認められることは到底予測できるものではない。
iii)そうすると、相違点4に係る特定事項を容易に想到し得るものとはいえない。

1-5.本件訂正発明5についての結言
以上から、他の相違点について検討するまでもなく、本件訂正発明5に係る特許は、同発明が甲第2号証ないし甲第4号証の記載を踏まえて甲第1号証に記載された発明から容易に発明をすることができたものでないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに対してされたものでないから、取り消されるべきものでない。

2.本件訂正発明6,7について
本件訂正発明6は本件訂正発明5を引用し、本件訂正発明7は本件訂正発明5又は6を引用するから、本件訂正発明6及び7についての特許は、本件訂正発明5と同様の理由により、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものに対してされたものでないから、取り消されるべきものでない。

第6 取消理由として通知しなかった異議申立理由について
1.理由6(本件訂正発明5、7)(明確性要件違反)について
(1)について
i)上記「第4 理由6」の(1)には、本件訂正発明5において、比較される「供試体」に係る「組成物」の「砕砂」の物性(平均粒径、比重、含有量等)が特定されておらず、本件訂正発明5は明確でない旨指摘されている。
ii)しかしながら、コンクリートの細骨材として用いられる「砕砂」については、例えば「JIS A 5005」等に規定されるものが知られており、本件訂正発明5においても、当該JISで規定されるものが用いられているとみるのが妥当である。
iii)そして、本件訂正発明5は、「JIS A 1148に記載の凍結融解試験方法に基づく凍結融解試験」において、「高炉スラグ細骨材」を含むコンクリートと、「砕砂」を含むコンクリートとの対比試験を行うものだから、「砕砂」の含有量は「高炉スラグ細骨材」と同じ含有量に設定するものといえる。
iv)以上から、本件訂正発明5において、比較される「供試体」に係る「組成物」の「砕砂」の物性(平均粒径、比重、含有量等)は当業者にとって周知慣用のものであるということができ、本件訂正発明5が明確でないとはいえない。
本件訂正発明5を直接又は間接的に引用する本件訂正発明6及び7についても同様である。

(2)について
i)上記「第4 理由6」の(2)には、本件訂正発明7における「抵抗性」の程度が不明であり、本件訂正発明7は明確でない旨指摘されている。
ii)本件特許明細書【0019】には、「高炉スラグ細骨材を含む細骨材と、セメントを含む結合材と、水とを含有するモルタルまたはコンクリート用組成物・・・により作製したモルタルまたはコンクリート供試体に対するJIS A 1148:2010「コンクリートの凍結融解試験方法」に記載の凍結融解試験方法に基づく凍結融解試験における所定の凍結融解サイクル(例えば、凍結融解サイクル300回)での相対動弾性係数または耐久性指数は、高炉スラグ細骨材を含まない細骨材と、セメントを含む結合材と、水とからなる組成物により作製したモルタルまたはコンクリート供試体に対する前記凍結融解試験における前記所定の凍結融解サイクルでの相対動弾性係数または耐久性指数に比べて大きく、凍結融解抵抗性(耐凍害性)に優れるものである。」との記載がある。
ii)すると、本件訂正発明7の「塩分環境下の凍害に対する抵抗性」の程度は、上記「試験」を塩分環境下で行った結果について、細骨材のみ「高炉スラグ細骨材を含まない細骨材(砕砂を含む細骨材)」とした「モルタルまたはコンクリート供試体」のそれと比較して「大きい」ということをもって「抵抗性」があると判断するものといえる。
iii)したがって、本件訂正発明7における「抵抗性」の程度が不明であり、本件訂正発明7は明確でないとはいえない。
以上から、理由6は本件特許の取消理由とならない。

2.理由7(本件訂正発明5ないし7)(サポート要件違反 及び 実施可能性要件違反)について
i)上記「第4 理由7」には、本件訂正発明5における「乾燥収縮低減剤および平均粒径6μm以下の高炉急冷スラグ微粉末を含まない」点について、本件特許明細書に具体的な記載が無く、本件訂正発明5は、サポート要件に違反し、また、実施不能である旨指摘されている。
ii)上記の点について検討するに、上記「第5 1.1-3.v)」でみたように、コンクリートの細骨材として用いられる粒径は0.15ないし5mm(150?5000μm)程度であることは技術常識であり、本件発明においても、細骨材としてして当然に当該粒径のものが用いられているといえるので、そもそも「平均粒径6μm以下の高炉急冷スラグ微粉末」は含まれないものと認められる。
また、「乾燥収縮低減剤」はコンクリートの乾燥収縮を低減させる添加剤であるが、本件訂正発明5は「耐凍害性」に優れる「コンクリート組成物」の成形品の製造方法」であり、そもそも「乾燥収縮低減剤」の使用は本件特許明細書に記載の無いものである。
iii)それゆえ、本件特許明細書に「乾燥収縮低減剤および平均粒径6μm以下の高炉急冷スラグ微粉末」についての記載が見いだせないからといって、本件訂正発明5は、サポート要件に違反し、また、実施不能であるということにならない。
本件訂正発明5を直接又は間接的に引用する本件訂正発明6及び7についても同様である。

以上から、理由7は本件特許の取消理由とならない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、通知した取消理由及びその余の特許異議申立理由によっては、請求項5ないし7に係る特許は取り消すことはできない。
また、他に請求項5ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
請求項1ないし4に係る特許異議申立は、対象請求項が存在しなくなったので却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(削除)
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】
非晶質な高炉スラグ細骨材を含む細骨材と、結合材と、水とを含有し、結合材に対する水の質量比が0.25?0.40であり、乾燥収縮低減剤および平均粒径6μm以下の高炉急冷スラグ微粉末を含まないとともに超硬練りコンクリートでない有スランプのモルタルまたはコンクリート用組成物を成形し、蒸気養生して耐凍害性に優れた成形品を製造する方法であって、
JIS A 1148に記載の凍結融解試験方法に基づく凍結融解試験であって供試体を浸漬させる溶液の濃度が質量比で10%の塩水である凍結融解試験による、前記モルタルまたはコンクリート用組成物により蒸気養生を経て作製したモルタルまたはコンクリート供試体における所定の凍結融解サイクルでの相対動弾性係数または耐久性指数は、前記モルタルまたはコンクリート用組成物とは細骨材が砕砂を含み高炉スラグ細骨材を含まないことのみが異なる組成物により作製したモルタルまたはコンクリート供試体における前記所定の凍結融解サイクルでの相対動弾性係数または耐久性指数に比べて大きく、耐凍害性に優れることを特徴とする成形品の製造方法。
【請求項6】
前記モルタルまたはコンクリート用組成物に空気を連行する性能を有する剤を添加せずに成形し、蒸気養生して成形品を製造することを特徴とする請求項5に記載の成形品の製造方法。
【請求項7】
前記モルタルまたはコンクリート用組成物を成形し、蒸気養生して製造される成形品が、塩分環境下の凍害に対する抵抗性を有するものであることを特徴とする請求項5または6に記載の成形品の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-10-11 
出願番号 特願2013-213973(P2013-213973)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C04B)
P 1 651・ 121- YAA (C04B)
P 1 651・ 536- YAA (C04B)
P 1 651・ 851- YAA (C04B)
P 1 651・ 857- YAA (C04B)
P 1 651・ 853- YAA (C04B)
P 1 651・ 113- YAA (C04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 岡田 隆介  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 中澤 登
山崎 直也
登録日 2017-04-21 
登録番号 特許第6130767号(P6130767)
権利者 ランデス株式会社
発明の名称 高炉スラグ細骨材を用いて耐凍害性を向上したモルタルまたはコンクリート用組成物およびそれを成形してなる成形品ならびに成形品の製造方法  
代理人 特許業務法人酒井国際特許事務所  
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