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審決分類 審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  C08L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
管理番号 1346769
異議申立番号 異議2017-700536  
総通号数 229 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-01-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-05-30 
確定日 2018-11-02 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6033786号発明「湿潤地面上で改良されたグリップ性を有するタイヤトレッド」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6033786号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-16〕について訂正することを認める。 特許第6033786号の請求項1ないし16に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6033786号は、平成28年11月4日に設定登録され、同年11月30日に特許公報が発行され、その後、請求項1?9に係る特許に対して、平成29年5月30日に特許異議申立人 家田亘久(以下、「申立人A」という。)から、同年5月30日に特許異議申立人 松山徳子(以下、「申立人B」という。)から、それぞれ特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がなされたものである。そして、その後の経緯は以下のとおりである。

平成29年 7月27日付け:取消理由の通知、及び、審尋
同年10月30日 :訂正の請求及び意見書の提出(特許権者)
同年12月14日 :意見書の提出(申立人A)
同年12月18日 :意見書の提出(申立人B)
平成30年 1月29日付け:取消理由の通知<決定の予告>
同年 5月16日 :訂正の請求及び意見書の提出(特許権者)
同年 7月20日 :意見書の提出(申立人A)
同年 7月23日 :意見書の提出(申立人B)

第2 訂正の可否
1 訂正の内容
平成30年5月16日付け訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は次のとおりである。なお、訂正前の請求項1?9は一群の請求項である。(平成29年10月30日付けの訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。)
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の
「トレッドが、少なくとも下記を含むゴム組成物を含むことを特徴とするタイヤ:
・50?100phrの、スチレンとブタジエンをベースとするコポリマー;
・任意構成成分としての、0?50phrの他のジエンエラストマー:
・100?150phrの、シリカである補強用無機充填剤;
・下記を含む可塑化系:
・10phrと60phrの間の含有量Aに従う、20℃よりも高いTgを有する熱可塑性炭化水素樹脂;
・10phrと60phrの間の含有量Bに従う液体可塑剤;
・50phrと100phrの間の総含有量A+B。」を、
「トレッドが、少なくとも下記を含むゴム組成物を含むことを特徴とするタイヤ:
・50?100phrの、スチレンとブタジエンをベースとするコポリマー;
・任意構成成分としての、0?50phrの他のジエンエラストマー:
・100phrよりも多く150phr以下の、シリカである補強用無機充填剤;
・下記を含む可塑化系:
・10phrと60phrの間の含有量Aに従う、20℃よりも高いTgを有する熱可塑性炭化水素樹脂;
・10phrと60phrの間の含有量Bに従う液体可塑剤;
・50phrと100phrの間の総含有量A+B;
・シリカの質量に対する(A+B)の質量比が、35%と70%の間;
であって、前記ゴム組成物が、カーボンブラックを含まない、あるいは、10phrよりも少ない量のカーボンブラックをさらに含むタイヤ。」に訂正する。
請求項1を直接又は間接的に引用している訂正前の請求項2ないし9(訂正後の請求項2ないし16)についても同様の訂正をする。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2の
「スチレンとブタジエンをベースとする前記コポリマーが、スチレン/ブタジエンコポリマーである、請求項1記載のタイヤ。」を、
「スチレンとブタジエンをベースとする前記コポリマーが、スチレン/ブタジエンコポリマーであり、
前記熱可塑性炭化水素樹脂が、テルペンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂、C_(5)留分のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、C_(9)留分のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、およびこれらの樹脂の混合物からなる群から選ばれ、
前記液体可塑剤が、DAE (留出物芳香族系抽出物)オイル、TDAE(処理留出物芳香族系抽出物)オイル、RAE (残留芳香族抽出物)オイル、TRAE (処理残留芳香族抽出物)オイルおよびSRAE (安全残留芳香族抽出物)オイル、植物油、およびこれらの化合物の混合物からなる群から選ばれる、
請求項1記載のタイヤ。」に訂正する。
請求項2を直接又は間接的に引用している訂正前の請求項3ないし9(訂正後の請求項3ないし9)についても同様の訂正をする。

(3)訂正事項3及び4
特許請求の範囲の請求項3の
「前記他のジエンエラストマーが、ポリブタジエン、天然ゴム、合成ポリイソプレン、ブタジエンコポリマー、イソプレンコポリマーおよびこれらのエラストマーの混合物からなる群から選ばれる、請求項1または2記載のタイヤ。」を、
「前記他のジエンエラストマーが、ポリブタジエン、天然ゴム、合成ポリイソプレン、ブタジエンコポリマー、イソプレンコポリマーおよびこれらのエラストマーの混合物からなる群から選ばれ、
前記熱可塑性炭化水素樹脂が、ポリリモネン樹脂、リモネン/スチレンコポリマー樹脂、リモネン/(D)CPDコポリマー樹脂、(D)CPD/C_(5)留分コポリマー樹脂、(D)CPD/C_(9)留分コポリマー樹脂、C_(5)留分/スチレンコポリマー樹脂、C_(5)留分/C_(9)留分コポリマー樹脂、およびこれらの混合物からなる群から選ばれ、
前記液体可塑剤が、TDAE(処理留出物芳香族系抽出物)オイル、植物油およびこれらの混合物からなる群から選ばれる、
請求項2記載のタイヤ。」(新請求項3)、並びに、
「前記他のジエンエラストマーが、ポリブタジエン、天然ゴム、合成ポリイソプレン、ブタジエンコポリマー、イソプレンコポリマーおよびこれらのエラストマーの混合物からなる群から選ばれ、
前記熱可塑性炭化水素樹脂が、ポリリモネン樹脂、C_(5)留分/C_(9)留分コポリマー樹脂、およびこれらの混合物からなる群から選ばれ、
前記液体可塑剤が、TDAE(処理留出物芳香族系抽出物)オイル、ヒマワリ油およびこれらの混合物からなる群から選ばれる、
請求項1記載のタイヤ。」(新請求項10)に訂正する。
請求項3を直接又は間接的に引用している訂正前の請求項4ないし9(訂正後の請求項4ないし9)についても同様の訂正をする。

(4)訂正事項5?10
上記(3)に示すように、訂正前の請求項1に従属する訂正前の請求項3に従属していた、訂正前の請求項4?9に関し、下記のように請求項11?16と訂正する。
「【請求項11】
前記他のジエンエラストマーが、ポリブタジエンである、請求項10記載のタイヤ。
【請求項12】
前記他のジエンエラストマーが、天然ゴムまたは合成ポリイソプレンである、請求項10記載のタイヤ。
【請求項13】
スチレンとブタジエンをベースとする前記コポリマーの含有量が、60?100phrの範囲内である、請求項10?12のいずれか1項記載のタイヤ。
【請求項14】
補強用無機充填剤の含有量が、110?140phrの範囲内である、請求項10?13のいずれか1項記載のタイヤ。
【請求項15】
Aが10phrと50phrの間の量であり、Bが10phrと50phrの間の量である、請求項10?14のいずれか1項記載のタイヤ。
【請求項16】
A+Bが、50phrと80phrの間の量である、請求項10?15のいずれか1項記載のタイヤ。」

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1において、シリカである補強用無機充填剤の配合量を、訂正前の「100?150phr」から、「100phrよりも多く150phr以下」に限定し、訂正前のゴム組成物について、カーボンブラックを含まない、あるいは、10phrよりも少ない量のカーボンブラックをさらに含むものに限定し、さらに、シリカの質量に対する(A+B)の質量比を「35%と70%の間」に限定することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1は、本件特許明細書の段落【0032】、【0033】、【0042】の記載に基づくものであるから、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項2について、「熱可塑性炭化水素樹脂」を、「テルペンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂、C_(5)留分のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、C_(9)留分のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、およびこれらの樹脂の混合物からなる群から選ばれ」るものに限定し、「液体可塑剤」を、「DAE (留出物芳香族系抽出物)オイル、TDAE(処理留出物芳香族系抽出物)オイル、RAE (残留芳香族抽出物)オイル、TRAE (処理残留芳香族抽出物)オイルおよびSRAE (安全残留芳香族抽出物)オイル、植物油、およびこれらの化合物の混合物からなる群から選ばれ」るものに限定することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項2は、本件特許明細書の段落【0049】、【0055】の記載に基づくものであるから、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項3及び4について
訂正事項3は、訂正前の請求項3のうち、請求項2を引用する部分について、「熱可塑性炭化水素樹脂」を、「ポリリモネン樹脂、リモネン/スチレンコポリマー樹脂、リモネン/(D)CPDコポリマー樹脂、(D)CPD/C_(5)留分コポリマー樹脂、(D)CPD/C_(9)留分コポリマー樹脂、C_(5)留分/スチレンコポリマー樹脂、C_(5)留分/C_(9)留分コポリマー樹脂、およびこれらの混合物からなる群から選ばれ」るものに限定し、「液体可塑剤」を、「TDAE(処理留出物芳香族系抽出物)オイル、植物油およびこれらの混合物からなる群から選ばれ」るものに限定するものである。
訂正事項4は、訂正前の請求項3のうち、請求項1を引用する部分について、「熱可塑性炭化水素樹脂」を、「ポリリモネン樹脂、C_(5)留分/C_(9)留分コポリマー樹脂、およびこれらの混合物からなる群から選ばれ」るものに限定し、「液体可塑剤」を、「TDAE(処理留出物芳香族系抽出物)オイル、ヒマワリ油およびこれらの混合物からなる群から選ばれ」るものに限定するものである。
訂正事項3及び4を併せて考慮すれば、訂正前の請求項3について、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、これらの訂正事項3及び4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項3は、本件特許明細書の段落【0049】、【0055】の記載に基づくものであり、訂正事項4は、本件特許明細書の段落【0049】、【0055】、並びに、段落【0088】、【0090】の実施例の記載に基づくものであるから、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)訂正事項5?10について
訂正事項5?10は、訂正前の請求項1に従属する訂正前の請求項3が新請求項10に訂正されたことに伴い、訂正前の請求項1に従属する訂正前の請求項3に従属していた、訂正前の請求項4?9に関し、新たに訂正後の請求項1に従属する訂正後の請求項10に従属させるべく訂正したものである。
訂正事項5?10は、訂正事項1と併せて考慮すれば、訂正前の請求項3について、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、これらの訂正事項5?10は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、本件訂正を認める。

第3 本件訂正後の請求項1?16に係る発明
本件訂正により訂正された訂正請求項1?16に係る発明(以下、「本件訂正発明1」等という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?16に記載された以下の事項によって特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
トレッドが、少なくとも下記を含むゴム組成物を含むことを特徴とするタイヤ:
・50?100phrの、スチレンとブタジエンをベースとするコポリマー;
・任意構成成分としての、0?50phrの他のジエンエラストマー:
・100phrよりも多く150phr以下の、シリカである補強用無機充填剤;
・下記を含む可塑化系:
・10phrと60phrの間の含有量Aに従う、20℃よりも高いTgを有する熱可塑性炭化水素樹脂;
・10phrと60phrの間の含有量Bに従う液体可塑剤;
・50phrと100phrの間の総含有量A+B;
・シリカの質量に対する(A+B)の質量比が、35%と70%の間;
であって、前記ゴム組成物が、カーボンブラックを含まない、あるいは、10phrよりも少ない量のカーボンブラックをさらに含むタイヤ。
【請求項2】
スチレンとブタジエンをベースとする前記コポリマーが、スチレン/ブタジエンコポリマーであり、
前記熱可塑性炭化水素樹脂が、テルペンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂、C_(5)留分のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、C_(9)留分のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、およびこれらの樹脂の混合物からなる群から選ばれ、
前記液体可塑剤が、DAE (留出物芳香族系抽出物)オイル、TDAE(処理留出物芳香族系抽出物)オイル、RAE (残留芳香族抽出物)オイル、TRAE (処理残留芳香族抽出物)オイルおよびSRAE (安全残留芳香族抽出物)オイル、植物油、およびこれらの化合物の混合物からなる群から選ばれる、
請求項1記載のタイヤ。
【請求項3】
前記他のジエンエラストマーが、ポリブタジエン、天然ゴム、合成ポリイソプレン、ブタジエンコポリマー、イソプレンコポリマーおよびこれらのエラストマーの混合物からなる群から選ばれ、
前記熱可塑性炭化水素樹脂が、ポリリモネン樹脂、リモネン/スチレンコポリマー樹脂、リモネン/(D)CPDコポリマー樹脂、(D)CPD/C_(5)留分コポリマー樹脂、(D)CPD/C_(9)留分コポリマー樹脂、C_(5)留分/スチレンコポリマー樹脂、C_(5)留分/C_(9)留分コポリマー樹脂、およびこれらの混合物からなる群から選ばれ、
前記液体可塑剤が、TDAE(処理留出物芳香族系抽出物)オイル、植物油およびこれらの混合物からなる群から選ばれる、
請求項2記載のタイヤ。
【請求項4】
前記他のジエンエラストマーが、ポリブタジエンである、請求項3記載のタイヤ。
【請求項5】
前記他のジエンエラストマーが、天然ゴムまたは合成ポリイソプレンである、請求項3記載のタイヤ。
【請求項6】
スチレンとブタジエンをベースとする前記コポリマーの含有量が、60?100phrの範囲内である、請求項1?5のいずれか1項記載のタイヤ。
【請求項7】
補強用無機充填剤の含有量が、110?140phrの範囲内である、請求項1?6のいずれか1項記載のタイヤ。
【請求項8】
Aが10phrと50phrの間の量であり、Bが10phrと50phrの間の量である、請求項1?7のいずれか1項記載のタイヤ。
【請求項9】
A+Bが、50phrと80phrの間の量である、請求項1?8のいずれか1項記載のタイヤ。
【請求項10】
前記他のジエンエラストマーが、ポリブタジエン、天然ゴム、合成ポリイソプレン、ブタジエンコポリマー、イソプレンコポリマーおよびこれらのエラストマーの混合物からなる群から選ばれ、
前記熱可塑性炭化水素樹脂が、ポリリモネン樹脂、C_(5)留分/C_(9)留分コポリマー樹脂、およびこれらの混合物からなる群から選ばれ、
前記液体可塑剤が、TDAE(処理留出物芳香族系抽出物)オイル、ヒマワリ油およびこれらの混合物からなる群から選ばれる、
請求項1記載のタイヤ。
【請求項11】
前記他のジエンエラストマーが、ポリブタジエンである、請求項10記載のタイヤ。
【請求項12】
前記他のジエンエラストマーが、天然ゴムまたは合成ポリイソプレンである、請求項10記載のタイヤ。
【請求項13】
スチレンとブタジエンをベースとする前記コポリマーの含有量が、60?100phrの範囲内である、請求項10?12のいずれか1項記載のタイヤ。
【請求項14】
補強用無機充填剤の含有量が、110?140phrの範囲内である、請求項10?13のいずれか1項記載のタイヤ。
【請求項15】
Aが10phrと50phrの間の量であり、Bが10phrと50phrの間の量である、請求項10?14のいずれか1項記載のタイヤ。
【請求項16】
A+Bが、50phrと80phrの間の量である、請求項10?15のいずれか1項記載のタイヤ。」

第4 取消理由通知について
1 取消理由通知の概要
当審は平成30年1月29日付け取消理由通知<決定の予告>において、概要以下のとおりの取消理由を通知した。
「本件訂正発明1ないし12に係る特許は、特許請求の範囲の記載が同法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取消理由3により取り消すべきものであると判断する。」
ここで、上記「取消理由3」とは、平成29年7月27日付けで通知した以下の取消理由であり、「本件訂正発明1ないし12」とは、平成29年10月30日付けの訂正の請求で訂正された請求項1ないし12に係る発明である。
「(理由3)本件特許は、特許請求の範囲の記載が…、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。」

2 「取消理由3」について
(1)本件訂正発明1について
ア 本件特許明細書の「調査研究の継続中に、本出願法人は、特定の可塑化系と組合せた、50?100phrの含有量に従うスチレンとブタジエンをベースとするコポリマーと、特に高含有量の補強用無機充填剤との使用が、低転がり抵抗性を有するこれらのタイヤの湿潤グリップ性能をさらに改良することを可能にすることを見出した。」(段落【0005】)との記載からみて、本件訂正発明1ないし12の解決しようとする課題は、「低転がり抵抗性を有するこれらのタイヤの湿潤グリップ性能をさらに改良すること」にあると認められる。

イ また、本件特許明細書の段落【0041】?【0061】には、請求項1で特定される、「20℃よりも高いTgを有する熱可塑性炭化水素樹脂」及び「液体可塑剤」に関して、以下のとおり記載されている。
「【0041】
I‐3. 可塑化系
本発明に従うタイヤのトレッドのゴム組成物のもう1つの本質的特徴は、一方の10phrと60phrの間の含有量Aに従う、20℃よりも高いTgを有する熱可塑性炭化水素樹脂と、他方の10phrと60phrの間の含有量Bに従う液体可塑剤とを含む特定の可塑化系を含むことである;総含有量A+Bは、50phrよりも多いことを理解されたい。好ましくは、含有量Aは10phrと50phrの間の量であり、含有量Bは、10phrと50phrの間の量である。
【0042】
もう1つの好ましい実施態様によれば、総含有量A+Bは、50phrと100phrの間、より好ましくは50phrと80phrの間、特に50phrと70phrの間の量である。
本発明のもう1つの特定の実施態様によれば、A対Bの比は、1:5と5:1の間(即ち、0.2と5.0の間)、より好ましくは1:4と4:1の間(即ち、0.25と4.0の間)の比である。
さらにまた、好ましくは、(A+B)対補強用無機充填剤、特にシリカの質量の質量による比は、35%と70%の間、より好ましくは40%?60%の範囲内である。
【0043】
“樹脂”なる名称は、本特許出願においては、定義によれば、オイルのような液体可塑剤化合物とは対照的に、周囲温度(23℃)において固体である化合物に対して使用される。
【0044】
炭化水素樹脂は、炭素と水素を本質的にベースとするが他のタイプの原子も含み得る当業者にとって周知のポリマーであり、特に、ポリマーマトリックス中で可塑剤または粘着付与剤として使用し得る。炭化水素樹脂は、使用する含有量において、真の希釈剤として作用するように、意図するポリマー組成物と本来混和性(即ち、相溶性)である。炭化水素樹脂は、例えば、R. Mildenberg、M. ZanderおよびG. Collin (New York, VCH, 1997, ISBN 3‐527‐28617‐9)による“Hydrocarbon Resins”と題した著作物に記載されており、その第5章は、炭化水素樹脂の特にゴムタイヤ分野の用途に当てられている(5.5. "Rubber Tires and Mechanical Goods")。炭化水素樹脂は、脂肪族、脂環式、芳香族、水素化芳香族であり得、或いは脂肪族/芳香族タイプ、即ち、脂肪族および/または芳香族モノマーをベースとし得る。炭化水素樹脂は、石油系(その場合、石油樹脂の名称で知られている)または石油系でない天然または合成樹脂であり得る。炭化水素樹脂のTgは、好ましくは0℃よりも高く、特に20℃よりも高い(通常は30℃と95℃の間)。
【0045】
また、知られているとおり、これらの炭化水素樹脂は、これらの樹脂が加熱したときに軟化し、従って、成形することができる点で、熱可塑性樹脂とも説明し得る。また、炭化水素樹脂は、軟化点または軟化温度によっても定義し得る。炭化水素樹脂の軟化点は、一般に、そのTg値よりも約50?60℃高い。軟化点は、規格ISO4625 (環球法)に従って測定する。マクロ構造(Mw、MnおよびPI)は、立体排除クロマトグラフィー(SEC)によって下記で説明するようにして測定する。
【0046】
注釈すれば、SEC分析は、例えば、溶液中の巨大分子を、それら分子のサイズに従い、多孔質ゲルを充填したカラムによって分離することからなる;巨大分子は、それら分子の流体力学的容積に従い分離し、最大嵩だか物が最初に溶出する。分析すべきサンプルを、前もって、適切な溶媒、即ち、テトラヒドロフラン中に、1g/リットルの濃度で単純に溶解する。その後、溶液を、0.45μmの有孔度を有するフィルターにより、装置に注入する前に濾過する。使用する装置は、例えば、以下の条件に従う“Waters Alliance”クロマトグラフィー系である:溶出溶媒:テトラヒドロフラン;温度:35℃;濃度:1g/リットル;流量:1ml/分;注入容量:100μl;ポリスチレン標準によるムーア較正;直列の3本“Waters”カラムセット(“Styragel HR4E”、“Styragel HR1”および“Styragel HR 0.5”);操作用ソフトウェア(例えば、“Waters Millenium”)を備え得る示差屈折計(例えば、“Waters 2410”)による検出。
【0047】
ムーア較正は、低PI (1.2よりも低い)を有し、既知のモル質量を有し、分析すべき質量範囲に亘る1連の市販ポリスチレン標準によって実施する。質量平均モル質量(Mw)、数平均モル質量(Mn)および多分散性指数(PI = Mw/Mn)を、記録したデータ(モル質量の質量による分布曲線)から推定する。本特許出願において示されたモル質量についての全ての値を、ポリスチレン標準によって描いた較正曲線と対比する。
【0048】
本発明の好ましい実施態様によれば、炭化水素樹脂は、下記の特徴の少なくともいずれか1つ、より好ましくは全てを有する:
・25℃よりも高い(特に30℃と100℃の間の)、より好ましくは30℃より高い(特に30℃と95℃の間の)Tg;
・50℃よりも高い(特に50℃と150℃の間の)軟化点;
・400g/モルと2000g/モルの間、好ましくは500g/モルと1500g/モルの間の数平均モル質量(Mn);
・3よりも低い、好ましくは2よりも低い多分散性指数(PI) (注釈:PI = Mw/Mn;Mwは質量平均モル質量である)。
【0049】
そのような炭化水素樹脂の例としては、シクロペンタジエン(CPDと略記する)のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、ジシクロペンタジエン(DCPDと略記する)のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、テルペンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂、C_(5)留分のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、C_(9)留分のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、α‐メチルスチレンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂およびこれらの樹脂の混合物からなる群から選ばれる炭化水素樹脂を挙げることができる。上記のコポリマー樹脂のうちでは、さらに詳細には、(D)CPD/ビニル芳香族コポリマー樹脂、(D)CPD/テルペンコポリマー樹脂、テルペン/フェノールコポリマー樹脂、(D)CPD/C_(5)留分コポリマー樹脂、(D)CPD/C_(9)留分コポリマー樹脂、テルペン/ビニル芳香族コポリマー樹脂、テルペン/フェノールコポリマー樹脂、C_(5)留分/ビニル芳香族コポリマー樹脂、およびこれらの樹脂の混合物から選ばれるコポリマー樹脂を挙げることができる。
【0050】
用語“テルペン”は、この場合、知られている通り、アルファ‐ピネンモノマー、ベータ‐ピネンモノマーおよびリモネンモノマーを包含する。好ましくは、リモネンモノマーを使用する;この化合物は、知られている通り、3種の可能性ある異性体の形で存在する:L‐リモネン(左旋性鏡像体)、D‐リモネン(右旋性鏡像体)或いはジペンテン、即ち、右旋性鏡像体と左旋性鏡像体のラセミ体混合物。ビニル芳香族モノマーとして適するのは、例えば、スチレン、α‐メチルスチレン、オルソ‐メチルスチレン、メタ‐メチルスチレン、パラ‐メチルスチレン、ビニルトルエン、パラ(tert‐ブチル)スチレン、メトキシスチレン、クロロスチレン、ヒドロキシスチレン、ビニルメシチレン、ジビニルベンゼン、ビニルナフタレンおよびC_(9)留分(または、より一般的にはC_(8)?C_(10)留分)に由来する任意のビニル芳香族モノマーである。
【0051】
さら具体的には、(D)CPDホモポリマー樹脂、(D)CPD/スチレンコポリマー樹脂、ポリリモネン樹脂、リモネン/スチレンコポリマー樹脂、リモネン/(D)CPDコポリマー樹脂、C_(5)留分/スチレンコポリマー樹脂、C_(5)留分/C_(9)留分コポリマー樹脂、およびこれらの樹脂の混合物からなる群から選ばれる樹脂を挙げることができる。
【0052】
上記樹脂は、全て当業者にとって周知であり、商業的に入手可能であって、例えば、ポリリモネン樹脂に関しては、DRT社から品名Dercolyteとして販売されており;C_(5)留分/スチレン樹脂またはC_(5)留分/C_(9)留分樹脂に関しては、Neville Chemical Company社から品名Super Nevtacとして、またはKolon社から品名“Hikorez”として、またはExxon Mobil社から品名Escorezとして;或いは、Struktol社から品名40 MSまたは60 NS(芳香族および/または脂肪族樹脂の混合物)として販売されている。
【0053】
さらにまた、上記可塑化系は、液体(23℃において)である可塑剤を含む;この可塑剤の役割は、エラストマーおよび補強用充填剤を希釈することによってマトリックスを軟質化させることである;そのTgは、好ましくは-20℃よりも低く、より好ましくは-40℃よりも低い。
【0054】
芳香族性または非芳香族性いずれかの任意の増量剤オイル、ジエンエラストマーに対するその可塑化特性について知られている任意の液体可塑剤を使用し得る。周囲温度(23℃)において、これらの可塑剤またはこれらのオイル類は、おおよそ粘稠であり、特に周囲温度において本来固体である可塑化用炭化水素樹脂と対比して液体(即ち、注釈すれば、最終的にその容器の形を取る能力を有する物質)である。
【0055】
液体ジエンポリマー、ポリオレフィンオイル、ナフテン系オイル、パラフィン系オイル、DAE (留出物芳香族系抽出物(Distillate Aromatic Extract))オイル、MES (中度抽出溶媒和物(Medium Extracted Solvate))オイル、TDAE(処理留出物芳香族系抽出物(Treated Distillate Aromatic Extract))オイル、RAE (残留芳香族抽出物(Residual Aromatic Extract))オイル、TRAE (処理残留芳香族抽出物(Treated Residual Aromatic Extract))オイルおよびSRAE (安全残留芳香族抽出物(Safety Residual Aromatic Extract))オイル、鉱油、植物油、エーテル可塑剤、エステル可塑剤、ホスフェート可塑剤、スルホネート可塑剤およびこれらの化合物の混合物からなる群から選ばれる液体可塑剤は、特に適している。より好ましい実施態様によれば、液体可塑剤は、MESオイル、TDAEオイル、ナフテン系オイル、植物油およびこれらオイル類の混合物からなる群から選ばれる。
【0056】
本発明の好ましい実施態様によれば、液体可塑剤、特に、石油は、非芳香族タイプである。液体可塑剤は、その液体可塑剤が、可塑剤の総質量に対して、3質量%未満の多環式芳香族化合物の含有量(IP 346法に従うDMSO中での抽出物によって測定した)を有する場合に、非芳香族として説明される。従って、好ましくは、MESオイル、TDAEオイル、ナフテン系オイル(低または高粘度を有し、特に、水素化または非水素化物)、パラフィン系オイルおよびこれらのオイルの混合物からなる群から選ばれる液体可塑剤を使用し得る。また、低含有量の多環式化合物を含むRAEオイル、TRAEオイル、SRAEオイルまたはこれらのオイルの混合物も、石油として適している。
【0057】
もう1つの特定の実施態様によれば、液体可塑剤は、テルペン誘導体である;特に、例えば、Yasuhara社からの製品Dimaroneを挙げることができる。
【0058】
また、オレフィン類またはジエン類の重合から得られる液体ポリマー、例えば、ポリブテン類;ポリジエン類、特に、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ブタジエンとイソプレンのコポリマー、ブタジエンまたはイソプレンとスチレンのコポリマー;およびこれら液体ポリマーの混合物からなる群から選ばれる液体ポリマーも適している。そのような液体ポリマーの数平均モル質量は、好ましくは500g/モル?50000g/モル、より好ましくは1000g/モル?10000g/モルの範囲内である。特に、例えば、Sartomer社からのRicon製品を挙げることができる。
【0059】
本発明のもう1つの好ましい実施態様によれば、液体可塑剤は、植物油である。好ましくは、アマニ油、ベニバナ油、ダイズ油、トウモロコシ油、綿実油、ナタネ油、ヒマシ油、キリ油、マツ油、ヒマワリ油、ヤシ油、オリーブ油、ココナツ油、ピーナツ油およびグレープシードオイル、並びにこれらのオイルの混合物からなる群から選ばれるオイル、特に、ヒマワリ油を使用する。この植物油、特に、ヒマワリ油は、より好ましくは、オレイン酸リッチのオイルである、即ち、この植物油に由来する脂肪酸(数種存在する場合は、脂肪酸全体)は、オレイン酸を、少なくとも60%に等しい質量画分で、さらにより好ましくは少なくとも70%に等しい、特に少なくとも80%に等しい質量画分で含む。
【0060】
本発明のもう1つの特定の実施態様によれば、上記液体可塑剤はエーテルである;例えば、ポリエチレングリコールまたはポリプロピレングリコールを挙げることができる。
【0061】
また、エステル可塑剤、ホスフェート可塑剤、スルホネート可塑剤およびこれらの化合物の混合物からなる群から選ばれる液体可塑剤も適する。カルボン酸、リン酸またはスルホン酸の各トリエステルおよびこれらのトリエステルの混合物からなる群から選ばれるトリエステルは、特に適している。カルボン酸エステル可塑剤の例としては、特に、トリメリテート、ピロメリテート、フタレート、1,2‐シクロヘキサンジカルボキシレート、アジペート、アゼレート、セバケート、グリセリントリエステルおよびこれらの化合物の混合物からなる群から選ばれる化合物を挙げることができる。トリエステルのうちでは、特に、好ましくは、不飽和C_(18)脂肪酸、即ち、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸およびこれらの酸の混合物からなる群から選ばれる脂肪酸から主として(50質量%よりも多く、より好ましくは80質量%よりも多くにおいて)なるグリセリントリエステルを挙げることができる;さらに好ましくは、合成または天然由来のいずれであれ、使用する脂肪酸は、60質量%よりも多くにおいて、さらにより好ましくは70質量%よりも多くにおいてオレイン酸からなる;天然または合成由来の、高含有量のオレイン酸を含むそのようなトリエステル(トリオレート)は、周知である;そのようなトリエステルは、例えば出願WO 02/088238号において、タイヤトレッドにおける可塑剤として説明されている。ホスフェート可塑剤としては、例えば、12個と30個の間の炭素原子を含むホスフェート可塑剤、例えば、リン酸トリオクチルを挙げることができる。」

ウ さらに、本件特許明細書の実施例及び比較例(段落【0073】?【0091】)においては、以下のとおり記載されている。
「【0073】
II. 本発明の実施例
II‐1. 組成物の製造
以下の試験を次の方法で実施する:エラストマー、シリカ、カップリング剤、可塑剤、さらにまた、加硫系を除いた各種他の成分を、初期容器温度が約60℃である密閉ミキサーに連続して導入する(最終充填率:約70容量%)。その後、熱機械的加工(非生産段階)を1工程で実施する;この段階は、165℃の最高“落下”温度に達するまで合計で5分間続く。そのようにして得られた混合物を回収し、冷却し、その後、イオウとスルフェンアミドタイプの促進剤を23℃のミキサー(ホモ・フィニッシャー)内で混入し、全てを適切な時間(例えば、5?12分間)混合する(生産段階)。
【0074】
最後に、上記組成物を乗用車タイヤ用のトレッドの形に押出加工して、以下の項で示すようにして試験する。
【0075】
II‐2. タイヤにおける試験
試験A
この第1試験の必要条件として、2通りのゴム組成物(以下、A‐1およびA‐2で示す)を製造した;これら組成物の配合は、下記の表1に示しており、種々の成分の含有量を、phr (総エラストマーの100質量部当りの質量部)で表している。
【0076】
対照組成物(A‐1)は、当業者等にとって周知の配合を有し、低転がり抵抗性を有する“グリーンタイヤ”用の通常の組成物であり、合成BRとSBRエラストマー(上記特許EP 0 778 311号に記載されているようなシラノール官能化溶液SBR)とのブレンドをベースとし、85phrの補強用無機充填剤(シリカ)、カップリング剤を、さらに、可塑化系として、一方の15phrの液体可塑剤(植物油)および他方の10phrの熱可塑性樹脂(C_(5)/C_(9)コポリマー樹脂)を含む;従って、この対照組成物においては、可塑剤の合計量は25phrに等しい。
【0077】
本発明に従う組成物(A‐2)は、その補強用無機充填剤含有量を100phrよりも多い値まで有意に増大させていることおよび本発明に従う上記組成物が、一方の33phrの液体可塑剤 (植物油+TDAEオイル)と、他方の20phrの熱可塑性樹脂(C_(5)/C_(9)樹脂)を含むことの違いを別にすれば、対照組成物(A‐1)と同一である;従って、本発明に従うこの組成物においては、50phrよりも多い可塑化系の総量(A+B)は、対照組成物に対して極めて著しく増大させている。
【0078】
これらの組成物A‐1およびA‐2を、225/55R16の寸法を有し、通常通りに製造し、それらトレッドの構成ゴム組成物は別として全ての点で同一である、それぞれP‐1 (対照タイヤ)およびP‐2 (本発明に従うタイヤ)で表示するラジアルカーカス乗用車タイヤ用のトレッドとして使用する。
各タイヤを、ABSシステムを備えたBMW型式で且つ“530”モデルの自動車に、公称膨張圧下に、前後輪に装着する。
【0079】
その後、各タイヤを、噴霧地面(アスファルトコンクリート)上での急ブレーキ操作中に80km/時から10kg/時に至るのに必要な距離を測定することからなる10℃の湿潤地面上での制動試験に供する。任意に100に設定した対照の値よりも高い値が、改良された結果、即ち、より短い制動距離を示す。
【0080】
得られた結果は、下記の表2に示している。予期に反して、湿潤地面上での制動性能は、ほぼ10%、極めて著しく改良されていることが判明している:この結果は、この試験において、ほぼ4メートル短縮された、従って、全く有意な制動距離に相当する。
【0081】
試験B
この第2試験の必要条件として、2通りの他のゴム組成物(B‐1およびB‐2で示す)を製造した;これら組成物の配合は、下記の表3に示している。
【0082】
対照組成物(B‐1)は、低転がり抵抗性を有する“グリーンタイヤ”用のもう1つの通常の組成物であり、BRとSBRをベースとし、80phrのシリカ、カップリング剤、さらに、可塑剤として、15phrの液体可塑剤(MESオイル)と20phrの熱可塑性樹脂(ポリリモネン樹脂)を含む;即ち、35phrに等しい可塑剤総量A+B)。一方、本発明に従う組成物(B‐2)は、100phrのSBRコポリマー(WO 2009/133068号に従って、溶液中で調製し、アルコキシシランで官能化したSBR)を使用する;さらに、本発明に従う組成物は、対照組成物B‐1と、100phrよりも多いその高い補強用無機充填剤含有量および対照組成物(B‐1)に対して極めて著しく増大させた(実質的に2倍に)可塑化系総量(A+B)において異なっている。
【0083】
これらの組成物B‐1およびB‐2を、205/55 R16の寸法を有し、通常通りに製造し、それらトレッドの構成ゴム組成物は別として全ての点で同一である、それぞれP‐1 (対照タイヤ)およびP‐2 (本発明に従うタイヤ)で表示するラジアルカーカス乗用車タイヤ用のトレッドとして使用する。
上記のようにして、各タイヤを、ABSシステムを備えたVolkswagen型式で且つ“Golf 6”モデルの自動車に、公称膨張圧下に、前後輪に装着する。
【0084】
各タイヤを、車両が、極めて多くのカーブを有し且つ噴霧して地面を湿潤に保ったサーキットを速度制限条件下に走行するのに必要とする最短時間を測定することからなるもう1つの湿潤グリップ試験に供する。任意に100に設定した対照の値よりも高い値が、改良された結果、即ち、より短い走行時間を示す。
【0085】
また、転がり抵抗性も、ISO 87‐67 (1992年)の方法に従い、回転ドラム上で測定する。任意に100に設定した対照の値よりも高い値が、改良された結果、即ち、より低い転がり抵抗性を示す。
得られた試験の結果は、下記の表4に示している。
【0086】
驚くべきことに、本発明のタイヤ(P‐2)は、湿潤グリップ性能を、対照タイヤ(P‐1)と対比して5%短縮した走行時間(即ち、およそ100秒かかるサーキット1周における5秒の短縮)でもって、極めて実質的に改良することを可能にすることが判明している;このことは、そのような試験においては極めて有意である。さらにまた、特筆すべきは、この結果が転がり抵抗性を悪化させることなく得られていることに注目されたい。
【0087】
結論として、本発明に従うタイヤは、特に、特段に高い含有量の補強用無機充填剤と可塑化系を組合せている本発明に従うタイヤのトレッドの特定の配合によって大いに改良されている湿潤グリップ性能を示している。
【0088】
表1

(1) 4%の1,2‐単位および93%のシス‐1,4‐単位を含むBR (Tg = -106℃);
(2) SBR:44%のスチレン単位および41%のブタジエン成分の1,2‐単位を含む溶液SBR (シラノール官能化) (Tg = -12℃);
(3) Rhodia社からのZeosil 1165MPシリカ(HDSタイプ);
(4) TESPTカップリング剤 (Degussa社からのSi69);
(5) ASTM級N234 (Cabot社);
(6) TDAEオイル (Klaus Dahleke社からのVivatec 500);
(7) 85質量%のオレイン酸を含むヒマワリ油 (Novance社からのLubrirob Tod 1880);
(8) C_(5)/C_(9)樹脂 (Exxon社からのEscorez ECR‐373);
(9) Flexsys社からのN‐(1,3‐ジメチルブチル)‐N'‐フェニル‐p‐フェニレンジアミン;
(10) ジフェニルグアニジン (Flexsys社からのPerkacit DPG);
(11) N‐ジシクロヘキシル‐2‐ベンゾチアゾールスルフェンアミド (Flexsys社からの“Santocure CBS”)。
【0089】
表2

【0090】
表3

(1) 4%の1,2‐単位および93%のシス‐1,4‐単位を含むBR (Tg = -106℃);
(2) 25%のスチレン単位および58%のブタジエン成分の1,2‐単位を含む溶液SBR (Tg = -24℃);
(3) 27%のスチレン単位および24%のブタジエン成分の1,2‐単位を含む溶液SBR (アルコキシシラン官能化) (Tg = -48℃);
(4) Rhodia社からのZeosil 1165MPシリカ(HDSタイプ);
(5) TESPTカップリング剤 (Degussa社からのSi69);
(6) ASTM級N234 (Cabot社);
(7) MESオイル (Shell社からのCatenex SNR);
(8) 85質量%のオレイン酸を含むヒマワリ油 (Novance社からのLubrirob Tod 1880);
(9) ポリリモネン樹脂 (DRT社からのDercolyte L120);
(10) N‐(1,3‐ジメチルブチル)‐N'‐フェニル‐p‐フェニレンジアミン(Flexsys社);
(11) ジフェニルグアニジン (Flexsys社からのPerkacit DPG);
(12) N‐ジシクロヘキシル‐2‐ベンゾチアゾールスルフェンアミド (Flexsys社からの“Santocure CBS”)。
【0091】
表4



エ 当審は、上記取消理由通知<決定の予告>において、以下のとおり説示した。
「…本件特許明細書には、具体的な実施例A-2として、SBRを80重量部及びBRを20重量部、液体可塑剤としてTDAEオイルを8重量部、及びヒマワリ油を25重量部、Tgが20℃より高い熱可塑性炭化水素樹脂として、C_(5)/C_(9)樹脂を20重量部含む組成物、また、実施例B-2として、SBRが100重量部、液体可塑剤としてヒマワリ油が15重量部、Tgが20℃より高い熱可塑性炭化水素樹脂として、ポリリモネン樹脂を45重量部含む組成物が記載されている。
また、本件特許明細書には、Tgが20℃より高い熱可塑性炭化水素樹脂として使用可能な成分、液体可塑剤として使用可能な成分が種々列挙されてはいるが、実施例において、湿潤グリップ性の向上が確認されているのは、Tgが20℃より高い熱可塑性炭化水素樹脂として、C_(5)/C_(9)樹脂又はポリリモネン樹脂を使用し、液体可塑剤として、TDAEオイル又はヒマワリ油を使用した例のみである。

…少なくとも、本件特許明細書において実施例として用いられたC_(5)/C_(9)樹脂又はポリリモネン樹脂と、本件特許明細書の段落【0049】において例示される樹脂以外の、Tgが20℃より高い熱可塑性炭化水素樹脂については、製品に配合された際の転がり抵抗や湿潤グリップ性能を含む製品が有する物性の点で、何らかの共通する性質を有するとは到底認めがたい。

…少なくとも、本件特許明細書において実施例として用いられたTDAEオイル又はヒマワリ油と、本件特許明細書の段落【0055】において例示される液体可塑剤以外の液体可塑剤については、製品に配合された際の転がり抵抗や湿潤グリップ性能を含む製品が有する物性の点で、何らかの共通する性質を有するとは到底認めがたい。

さらに、本件特許明細書の発明の詳細な説明において、本件特許明細書の実施例で使用されている物質と、それ以外の物質とが同様に本件訂正発明1の課題を解決できるとする作用、機序等が説明・記載されているわけでもなく、またそれが当該技術分野での常識であるとも認めることができない。

…そうすると、本件訂正発明1は、Tgが20℃より高い熱可塑性炭化水素樹脂及び液体可塑剤として幅広い物質を包含するものであるが、このような本件訂正発明1の広範な範囲についてまで、本件訂正発明1の課題を解決できると当業者が認識できるとはいえないから、本件訂正発明1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものを超えて特許を請求するものである。」

オ これに対し、本件訂正発明1は、「シリカである補強用無機充填剤」を「100phrよりも多く150phr以下」、「可塑化系」における熱可塑性炭化水素樹脂と液体可塑剤の総含有量「A+B」について「シリカの質量に対する(A+B)の質量比が、35%と70%の間」と規定された。
そして、上記アで述べたように、本件訂正発明1が解決しようとする課題は、「低転がり抵抗性を有するこれらのタイヤの湿潤グリップ性能をさらに改良すること」にあると認められるところ、表2及び4に示されるように、両規定を満たす実施例A-2及びB-2は、両規定を満たさない実施例A-1やシリカの含有量のみ満たす実施例B-1に対して、「湿潤地面上での制動性」や「湿潤グリップ性」といった「タイヤの湿潤グリップ性能をさらに改良すること」(段落【0005】)が達成され、転がり抵抗性を悪化させていないことが見て取れる。

カ そうすると、本件訂正発明1に関し、Tgが20℃より高い熱可塑性炭化水素樹脂及び液体可塑剤として幅広い物質を包含するものであると解しても、「シリカである補強用無機充填剤」を「100phrよりも多く150phr以下」、「可塑化系」における熱可塑性炭化水素樹脂と液体可塑剤の総含有量「A+B」について「シリカの質量に対する(A+B)の質量比が、35%と70%の間」と限定することにより、本件訂正発明1は、その課題を解決できると当業者が認識できるものと認められる。
したがって、本件訂正発明1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものを超えて特許を請求するものであるとはいえない。

(2)本件訂正発明2ないし16について
本件訂正発明2ないし16は、直接又は間接的に本件請求項1を引用してなるものであり、本件訂正発明1と同様に、その課題を解決できると当業者が認識できるものと認められる。
したがって、本件訂正発明2ないし16に係る発明においても、発明の詳細な説明に記載したものを超えて特許を請求するものであるとはいえない。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正発明1ないし16に係る本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものであるとはいえず、上記「取消理由3」には理由がない。

第5 異議申立ての理由についての検討
1 申立人Aの異議申立ての理由について
申立人Aの異議申立ての理由は、概要以下のとおりである。
・申立ての理由1
請求項1、2、6?9に係る発明は、下記甲第1号証に記載された発明であるから、請求項1、2、6?9に係る特許は特許法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。
・申立ての理由2
請求項1?9に係る発明は、下記甲第1、4ないし6号証に記載された発明に基づいて、それぞれ当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?9に係る特許は特許法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。
・申立ての理由3
請求項1?9に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号の規定により取り消すべきものである。
<証拠方法>(甲第2号証は、本件出願の優先権主張日後に公開された。)
甲第1号証:特開2010-126672号公報
甲第2号証:特開2011-122057号公報
甲第3号証:「高度水添テルペンフェノール樹脂の電子材料用途への応用」
日本ゴム協会誌、2007、80(1)、p19-24
甲第4号証:特表2010-526923号公報
甲第5号証:特表2010-514861号公報
甲第6号証:特表2010-514860号公報

以下、申立人A提出の甲第1号証を「甲a1」という。その余の申立人A提出の甲各号証も同様である。

2 申立人Aの異議申立ての理由1、2について
(1)甲a1の記載事項
ア「【請求項1】
ガラス転移温度が-20℃を超え-5℃以下であるスチレンブタジエンゴムを少なくとも1種含むスチレンブタジエンゴム100重量部に対し、数平均分子量が20,000?60,000であるポリイソプレンを10?50重量部、軟化点が80?130℃である芳香族変性テルペン樹脂を5?30重量部、窒素吸着比表面積が250?450m^(2)/gであるカーボンブラックを10?50重量部、シリカを80?150重量部配合すると共に、前記カーボンブラックとシリカとの合計量を100?170重量部にしたタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項2】
前記スチレンブタジエンゴムが2種以上のスチレンブタジエンゴムからなり、前記2種以上のスチレンブタジエンゴムのガラス転移温度の平均が-20℃を超え-5℃以下である請求項1に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物を使用した空気入りタイヤ。」

イ「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、低温下におけるウェットグリップ性能及び走行初期のウェットグリップ性能とその持続性とを両立するようにしたタイヤトレッド用ゴム組成物を提供することにある。」

ウ「【0015】
本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物は、微小粒径のカーボンブラックを配合することにより、低温下におけるウェットグリップ性能及び走行初期のウェットグリップ性能とその持続性とを両立する。本発明で使用するカーボンブラックは、窒素吸着比表面積(N_(2)SA)が250?450m^(2)/g、好ましくは300?400m^(2)/g、より好ましくは350?400m^(2)/gである。カーボンブラックの窒素吸着比表面積が250m^(2)/g未満の場合には、充分なウェットグリップ性能が得られない。カーボンブラックの窒素吸着比表面積が450m^(2)/gを超えると低温下におけるウェットグリップ性能及び走行初期のウェットグリップ性能が悪化する。また、ゴム粘度が高くなり加工性が悪化する。カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N_(2)SA)は、JIS K6217-2に準拠して求めるものとする。
【0016】
本発明において、カーボンブラックの配合量は、スチレンブタジエンゴム100重量部に対し10?50重量部、好ましくは20?40重量部である。カーボンブラックの配合量が10重量部未満の場合には、ウェットグリップ性能を充分に高くすることができない。また、ゴム剛性が不足する。カーボンブラックの配合量が50重量部を超えると、ウェットグリップ性能の持続性が低下する。」

エ「【0036】
【表2】


【0038】
なお、表1,2,3において使用した原材料の種類を下記に示す。
SBR1:スチレンブタジエンゴム、ガラス転移温度-31℃(旭化成社製タフデン 3335、SBR100重量部に対しアロマオイル37.5重量部添加の油展品)
SBR2:スチレンブタジエンゴム、ガラス転移温度-18℃(旭化成社製タフデン 4350、SBR100重量部に対しアロマオイル50重量部添加の油展品)
SBR3:スチレンブタジエンゴム、ガラス転移温度-6℃(日本ゼオン社製NIPOL NS412、SBR100重量部に対しアロマオイル50重量部添加の油展品)

シリカ:デグッサ社製7000GR
シランカップリング剤:デグッサ社製Si69
ポリイソプレン1:ポリイソプレン、数平均分子量54,000(クラレ社製液状ポリイソプレンゴム LIR-50)
ポリイソプレン2:ポリイソプレン、数平均分子量28,000(クラレ社製液状ポリイソプレンゴム LIR-30)
樹脂1:芳香族変性テルペン樹脂、軟化点85℃(ヤスハラケミカル社製YSレジン TO85)
樹脂2:テルペンフェノール樹脂、軟化点145℃(ヤスハラケミカル社製YSレジン T145)
アロマオイル:三共油化工業社製A/O MIX
…」

(2)甲a2の記載事項
ア「【0044】

・芳香族変性テルペン樹脂2:スチレン変性テルペン樹脂、ヤスハラケミカル社製YSレジンTO-085、ガラス転移温度25℃、水酸基価3KOHmg/g
…」

(3)甲a3の記載事項
ア「テルペン樹脂を大別すると,テルペンモノマーの単独重合体であるポリテルペン樹脂,テルペンモノマーと芳香族モノマーを共重合させて得る芳香族変性テルペン樹脂,テルペンモノマーとフェノール類を反応させて成るテルペンフェノール樹脂,さらにポリテルペン樹脂や芳香族変性テルペン樹脂を水素添加して得る水添テルペン樹脂の4種類に分類される.各種テルペン樹脂の推定構造を図2に示す.」(20頁左欄6?12行)

(4)甲a4の記載事項
ア「【0005】
研究開発において、本発明者らは、炭化水素樹脂とMESオイルとの組合せと比較して、タイヤの湿潤グリップ性を、そのタイヤの耐摩耗性に悪影響を及ぼすことなくさらに増進させるのを可能にする可塑化用炭化水素樹脂をベースとする新規な可塑剤系を見出した。」

イ「【0029】
要するに、本発明に従う組成物のジエンエラストマーは、好ましくは…、ブタジエンコポリマー類…およびこれらエラストマー類の混合物からなる高不飽和ジエンエラストマーの群から選択する。そのようなコポリマー類は、さらに好ましくは、ブタジエン/スチレンコポリマー(SBR)類…からなる群から選択する。

【0042】
好ましくは、補強用充填剤全体(カーボンブラックおよび/またはシリカのような補強用無機充填剤)の量は、20?200pce、より好ましくは30?150pceであり、…。
本発明の好ましい実施態様によれば、30?150pce、より好ましくは50?120pceの無機充填剤、特にシリカおよび任意構成成分としてのカーボンブラックを含む補強用充填剤を使用する;カーボンブラックは、存在する場合、好ましくは20pce未満、より好ましくは10pce未満(例えば、0.1?10pce)の量で使用する。

【0049】
II‐3. 可塑剤系
本発明のゴム組成物は、以下で詳述するように、Tgが0℃よりも高い少なくとも1種の可塑化用炭化水素樹脂と式(I)で表されるフタル酸ジエステルとを含む可塑剤系を使用するという本質的な特徴を有する。

【0053】
好ましくは、可塑化用炭化水素樹脂は、下記の特徴の少なくとも1つ、より好ましくは全部を示す:
・20℃よりも高いTg;
・400?2000g/モルの数平均分子量(Mn);
・3よりも低い多分散性指数(PI) (注:PI = Mw/Mn;Mwは質量平均分子量)。

【0057】
さらに特に好ましい実施態様によれば、上記可塑化用炭化水素樹脂は、(D)CPDホモポリマー樹脂、(D)CPD/スチレンコポリマー樹脂、ポリリモネン樹脂、リモネン/スチレンコポリマー樹脂、リモネン/(D)CPDコポリマー樹脂、C5留分/スチレンコポリマー樹脂、C5留分/C9留分コポリマー樹脂、およびこれらの樹脂の混合物からなる群から選ばれる。

【0059】
炭化水素樹脂の量は、好ましくは、5?60pceである。上記下限値よりも低いと、目標とする技術的効果が不適切であることが判明し得ており、一方、60pceよりも多いと、生状態の組成物の混合装置に対しての粘着性が、ある場合には、工業的見地から全く許容し得なくなり得る。これらの理由により、炭化水素樹脂の量は、より好ましくは5?40pce、さらにより好ましくは10?30pceである。

【0066】
本発明のゴム組成物においては、フタル酸エステルの量は、好ましくは、5?60pceである。上記下限値よりも低いと、目標とする技術的効果が不適切であることが判明し得ており、一方、60pceよりも多いと、本発明の組成物をこれらタイヤのトレッドに使用する場合、タイヤのグリップ性低下のリスクが存在する。これらの理由により、フタル酸エステルの量は、より好ましくは5?40pce、さらにより好ましくは10?30pceである。
本発明のゴム組成物中の本発明に従う可塑剤系の全体量に関しては、その量は、好ましくは10?100pce、より好ましくは20?80pce (特に20?50pce)である。」

ウ「【実施例】

【0078】
試験する2種の組成物は、第1の可塑剤としての同一の可塑化用炭化水素樹脂(ポリリモネン)と第2の可塑剤としての2種の他のタイプの化合物とを組合せて含む使用する可塑剤系以外は同一である。
‐組成物C‐1:ポリリモネン樹脂+MESオイル;
‐組成物C‐2:ポリリモネン樹脂+フタル酸ジエステル。

【0083】
表1

(1) 25%のスチレン、64%の1,2‐ポリブタジエン単位および25%のトランス‐1,4‐ポリブタジエン単位を含むSSBR (Tg = -18℃);
(2) 4.3%の1,2‐、2.7%のトランス‐1,4‐、93%のシス‐1,4‐を含むBR (Tg = -106℃);
(3) Rhodia社からのシリカ“Zeosil 1165MP”、“HDS”タイプ (BETおよびCTAB:約160 m^(2)/g);
(4) カップリング剤TESPT (Degussa社からの“Si69”);
(5) カーボンブラックN234 (ASTM級);
(6) ポリリモネン樹脂(DRT社からの“Dercolyte L120”);
(7) MESオイル (Shell社からのCatenex SNR);
(8) フタル酸ジイソノニル(Exxon Mobil社からの“Jayflex DINP”;
(9) ジフェニルグアニジン (Flexsys社からの“Perkacit DPG”);
(10) N‐(1,3‐ジメチルブチル)‐N‐フェニル‐パラ‐フェニレンジアミン (Flexsys社からの“Santoflex 6‐PPD”);
(11) CBS (Flexsys社からの“Santocure)」

(5)甲a5の記載事項
ア「【0004】
実際上、研究の継続中に、本出願法人は、炭化水素樹脂とMESオイルとの組合せと比較して、タイヤの耐摩耗性をタイヤの湿潤グリップ性に悪影響を与えることなくさらに改良するのを可能にする、可塑化用炭化水素樹脂をベースとする新規な可塑化系を見出した。
従って、本発明の第1の主題は、少なくとも1種のジエンエラストマー、1種の補強用充填剤および1種の可塑化系を含むゴム組成物であり、上記可塑化系が、組合せて、下記を含むことを特徴とする:
‐ガラス転移温度(Tg)が0℃よりも高い可塑化用炭化水素樹脂;および、
‐下記の式(I)に相応するトリ-またはピロメリット酸エステル:
【0005】
【化1】

(式中、R基は、同一または異なるものであって、炭化水素基を示し;R'基は、水素またはCOOR基を示す)。」

イ「【0023】
要するに、本発明に従う組成物のジエンエラストマーは、好ましくは…、ブタジエンコポリマー類…およびこれらエラストマー類のブレンドからなる高不飽和ジエンエラストマーの群から選択する。そのようなコポリマー類は、さらに好ましくは、ブタジエン/スチレンコポリマー(SBR)類…からなる群から選択する。

【0035】
好ましくは、補強用充填剤全体(カーボンブラックおよび/またはシリカのような補強用無機充填剤)の量は、20?200pce、より好ましくは30?150pceであり…。
【0036】
本発明の好ましい実施態様によれば、30?150pce、より好ましくは50?120pceの無機充填剤、とりわけシリカおよび任意構成成分としてのカーボンブラックを含む補強用充填剤を使用する;カーボンブラックは、存在する場合、好ましくは20pce未満、より好ましくは10pce未満(例えば、0.1?10pce)の量で使用する。

【0044】
II-3. 可塑化系
本発明のゴム組成物は、下記で詳述するように、Tgが0℃よりも高い可塑化用炭化水素樹脂と式(I)に相応するトリ-またはピロメリット酸エステルとを組合せて含む可塑化系を使用するという本質的な特徴を有する。

【0048】
好ましくは、可塑化用炭化水素樹脂は、下記の特徴の少なくとも1つ、より好ましくは全部を示す:
・20℃よりの高いTg;
・400?2000g/モルの数平均分子量(Mn);
・3よりも低い多分散性指数(PI) (注:PI = Mw/Mn;Mwは質量平均分子量)。

【0053】
さらにとりわけ好ましい実施態様によれば、上記可塑化用炭化水素樹脂は、(D)CPDホモポリマー樹脂、(D)CPD/スチレンコポリマー樹脂、ポリリモネン樹脂、リモネン/スチレンコポリマー樹脂、リモネン/(D)CPDコポリマー樹脂、C5留分/スチレンコポリマー樹脂、C5留分/C9留分コポリマー樹脂、およびこれらの樹脂のブレンドからなる群から選ばれる。

【0055】
炭化水素樹脂の量は、好ましくは、5?60pceである。上記下限値よりも低いと、目標とする技術的効果が不適切であることが判明し得ており、一方、60pceよりも多いと、生状態の組成物の粘着性が、混合装置に対して、ある場合には、工業的見地から全く許容し得なくなり得る。これらの理由により、炭化水素樹脂の量は、より好ましくは5?40pce、さらにより好ましくは10?30pceである。

【0065】
本発明のゴム組成物においては、トリ-またはピロメリテートの量は、好ましくは、5?60pceである。上記下限値よりも低いと、目標とする技術的効果が不適切であることが判明し得ており、一方、60pceよりも多いと、本発明の組成物をこれらタイヤトレッドに使用する場合、タイヤのグリップ性低下のリスクが存在する。これらの理由により、トリ-またはピロメリテートの量は、より好ましくは5?40pce、さらにより好ましくは10?30pceである。
【0066】
本発明のゴム組成物中の本発明に従う可塑化系の全体量に関しては、その量は、好ましくは10?100pce、より好ましくは20?80pce(とりわけ20?50pce)である。
本項において説明したトリ-またはピロメリテートは、全て周囲温度(23℃)において液体である。トリ-またはピロメリテートは、典型的には、-80℃よりも低いTgを示す。従って、本発明の特定の実施態様によれば、トリ-またはピロメリテートは、本発明のゴム組成物中に存在するジエンエラストマーの増量オイルとして全部または一部使用し得る。

ウ「【実施例】

【0077】
試験する2種の組成物は、第1の可塑剤としての同一の可塑化用炭化水素樹脂(ポリリモネン)と第2の可塑剤としての2つの他のタイプの化合物とを組合せて含む使用可塑化系以外は同一である。
‐組成物C-1:ポリリモネン樹脂+MESオイル;
‐組成物C-2:ポリリモネン樹脂+トリメリテート。

【0083】
表1

(1) 25%のスチレン、64%の1,2-ポリブタジエン単位および25%のトランス-1,4-ポリブタジエン単位を含むSSBR (Tg = -18℃);
(2) 4.3%の1,2-、2.7%のトランス-1,4-、93%のシス-1,4-を含むBR (Tg = -106℃);
(3) Rhodia社からのシリカ“Zeosil 1165MP”、“HDS”タイプ (BETおよびCTAB:約160 m^(2)/g);
(4) カップリング剤 TESPT (Rhodia社からの“Si69”);
(5) カーボンブラックN234 (ASTM級);
(6) ポリリモネン樹脂(DRT社からの“Dercolyte L120”)
(7) MESオイル (Shell社からのCatenex SNR);
(8) トリメリット酸トリオクチル(Lonza社からの“Diplast TM/ST”);
(9) ジフェニルグアニジン (Flexsys社からの“Perkacit DPG”)
(10) N-(1,3-ジメチルブチル)-N-フェニル-パラ-フェニレンジアミン (Flexsys社からの“Santoflex 6-PPD”);
(11) CBS (Flexsys社からの“Santocure)」

(6)甲a6の記載事項
ア「【0004】
実際上、研究の継続中に、本出願法人は、炭化水素樹脂とMESオイルとの組合せと比較して耐摩耗性のさらなる改良を可能にするのみならず、炭化水素樹脂とグリセリン脂肪酸トリエステルとのような組合せと比較してもこれらタイヤの湿潤グリップ性を増進させる可塑化用炭化水素樹脂をベースとする新規な可塑化系を見出した。
従って、本発明の第1の主題は、ゴム組成物を含むタイヤトレッドであり、上記組成物は、少なくとも1種のジエンエラストマー、1種の補強用充填剤および1種の可塑化系を含み、上記可塑化系が、組合せて、下記を含むことを特徴とする:
‐ガラス転移温度(Tg)が0℃よりも高い可塑化用炭化水素樹脂;および、
‐下記の式(I)で表されるカルボン酸ジエステル:
R-O-OC-(CH_(2))_(n)-CO-O-R
(式中、nは、1?15の範囲内に含まれ;R基は、同一または異なるものであって、炭化水素基を示す)。」

イ「【0020】
要するに、本発明に従うトレッドの組成物のジエンエラストマーは、好ましくは…、ブタジエンコポリマー類…およびこれらエラストマー類の混合物からなる高不飽和ジエンエラストマーの群から選択する。そのようなコポリマー類は、さらに好ましくは、ブタジエン/スチレンコポリマー(SBR)類…からなる群から選択する。

【0025】
II-2. 補強用充填剤
タイヤ類の製造において使用することのできるゴム組成物を補強するその能力について知られている任意のタイプの補強用充填剤、例えば、カーボンブラックのような有機充填剤、シリカのような補強用無機充填剤、またはこれら2つのタイプの充填剤のブレンド、とりわけカーボンブラックとシリカとのブレンドを使用することができる。

【0028】
好ましくは、補強用充填剤全体(カーボンブラックおよび/またはシリカのような補強用無機充填剤)の量は、20?200pce、より好ましくは30?150pceであり…。
本発明の好ましい実施態様によれば、30?150pce、より好ましくは50?120pceの無機充填剤、とりわけシリカおよび任意構成成分としてのカーボンブラックを含む補強用充填剤を使用する;カーボンブラックは、存在する場合、好ましくは20pce未満、より好ましくは10pce未満(例えば、0.1?10pce)の量で使用する。

【0033】
II-3. 可塑化系
本発明に従うトレッドのゴム組成物は、下記で詳述するように、Tgが0℃よりも高い可塑化用炭化水素樹脂と式(I)で表されるカルボン酸ジエステルとを組合せて含む可塑化系を使用するという本質的な特徴を有する。

【0036】
好ましくは、可塑化用炭化水素樹脂は、下記の特徴の少なくとも1つ、より好ましくは全部を示す:
・20℃よりの高いTg;
・400?2000g/モルの数平均分子量(Mn);
・3よりも低い多分散性指数(PI) (注:PI = Mw/Mn;Mwは質量平均分子量)。

【0039】

さらにとりわけ好ましい実施態様によれば、上記可塑化用炭化水素樹脂は、(D)CPDホモポリマー樹脂、(D)CPD/スチレンコポリマー樹脂、ポリリモネン樹脂、リモネン/スチレンコポリマー樹脂、リモネン/(D)CPDコポリマー樹脂、C5留分/スチレンコポリマー樹脂、C5留分/C9留分コポリマー樹脂、およびこれらの樹脂の混合物からなる群から選ばれる。
【0040】

炭化水素樹脂の量は、好ましくは、5?60pceである。上記下限値よりも低いと、目標とする技術的効果が不適切であることが判明し得ており、一方、60pceよりも多いと、生状態の組成物の粘着性が、混合装置に対して、ある場合には、工業的見地から全く許容し得なくなり得る。これらの理由により、炭化水素樹脂の量は、より好ましくは5?40pce、さらにより好ましくは10?30pceである。

【0045】
本発明のトレッドのゴム組成物においては、カルボン酸ジエステルの量は、好ましくは、好ましくは、5?60pceである。この下限値よりも低いと、目標とする技術的効果が不適切であることが判明し得ており、一方、60pceよりも多いと、グリップ性低下のリスクが存在する。これらの理由により、ジエステルの量は、より好ましくは5?40pce、さらにより好ましくは10?30pceである。
本発明のトレッドにおける可塑化系の全体量に関しては、その量は、好ましくは10?100pce、より好ましくは20?80pce (とりわけ20?50pce)である。
…」

ウ「【実施例】

【0054】
試験する3種の組成物は、第1の可塑剤としての同一の可塑化用炭化水素樹脂(ポリリモネン)と第2の可塑剤としての各種タイプの化合物とを組合せて含む使用可塑化系以外は同一である。
‐組成物C-1:ポリリモネン樹脂+MESオイル;
‐組成物C-2:ポリリモネン樹脂+ヒマワリ油;
‐組成物C-3:ポリリモネン樹脂+カルボン酸ジエステル。

【0060】
表1

(1) 25%のスチレン、64%の1,2-ポリブタジエン単位および25%のトランス-1,4-ポリブタジエン単位を含むSSBR (Tg = -18℃);
(2) 4.3%の1,2-、2.7%のトランス-1,4-、93%のシス-1,4-を含むBR (Tg = -106℃);
(3) Rhodia社からのシリカ“Zeosil 1165MP”、“HDS”タイプ (BETおよびCTAB:約160 m^(2)/g);
(4) カップリング剤TESPT (Rhodia社からの“Si69”);
(5) カーボンブラックN234 (ASTM級);
(6) ポリリモネン樹脂(DRT社からの“Dercolyte L120”
(7) MESオイル (Shell社からのCatenex SNR);
(8) グリセリントリオレート(85質量%のオレイン酸を含むヒマワリ油;Novance社からの“Lubrirob Tod 1880”);
(9) アジピン酸ジイソデシル(Exxon Mobil社からの“Jayflex DIDA”
(10) ジフェニルグアニジン (Flexsys社からの“Perkacit DPG”)
(11) N-(1,3-ジメチルブチル)-N-フェニル-パラ-フェニレンジアミン (Flexsys社からの“Santoflex 6-PPD”);
(12) CBS (Flexsys社からの“Santocure)」

(7)対比・判断
ア 甲a1に記載された発明(甲a1発明)
上記(1)アの記載からみて、甲a1には以下の甲a1発明が記載されているといえる。
「ガラス転移温度が-20℃を超え-5℃以下であるスチレンブタジエンゴムを少なくとも1種含むスチレンブタジエンゴム100重量部に対し、数平均分子量が20,000?60,000であるポリイソプレンを10?50重量部、軟化点が80?130℃である芳香族変性テルペン樹脂を5?30重量部、窒素吸着比表面積が250?450m^(2)/gであるカーボンブラックを10?50重量部、シリカを80?150重量部配合すると共に、前記カーボンブラックとシリカとの合計量を100?170重量部にしたタイヤトレッド用ゴム組成物を使用した空気入りタイヤ。」

イ 本件訂正発明1と甲a1発明との対比・判断
(ア)甲a1発明の「スチレンブタジエンゴム100重量部」、「シリカ」、「軟化点が80から130℃である芳香族変性テルペン樹脂」はそれぞれ、本件訂正発明1における「100phrの、スチレンとブタジエンをベースとするコポリマー」、「シリカである補強用無機充填剤」、「熱可塑性炭化水素樹脂」に相当する。また、甲a1発明の数平均分子量が20,000?60,000の数値範囲にあるポリイソプレンは、上記(1)エ(【0038】)の記載からみて、液状であるといえるから、甲a1発明における「数平均分子量が20,000?60,000であるポリイソプレン」は、本件訂正発明1おける「液体可塑剤」に相当する。
甲a1発明のシリカの配合量と本件訂正発明1のシリカの配合量は、「100phrよりも多く150phr以下」とする数値範囲で、甲a1発明の芳香族変性テルペン樹脂の配合量と本件訂正発明1の熱可塑性炭化水素樹脂の配合量は、「10phrと30phrの間」とする数値範囲で、甲a1発明の数平均分子量が20,000?60,000であるポリイソプレンの配合量と本件訂正発明1の液体可塑剤の配合量は、「10phrと50phrの間」とする数値範囲で、それぞれ重複一致する。
そうすると、本件訂正発明1と甲a1発明とは以下の点で一致する。
「トレッドが、少なくとも下記を含むゴム組成物を含むことを特徴とするタイヤ:
・100phrの、スチレンとブタジエンをベースとするコポリマー;
・任意構成成分としての、0phrの他のジエンエラストマー:
・100phrよりも多く150phr以下の、シリカである補強用無機充填剤;
・下記を含む可塑化系:
・10phrと30phrの間の含有量Aに従う、熱可塑性炭化水素樹脂;
・10phrと50phrの間の含有量Bに従う液体可塑剤。」
そして、両者は以下の点で相違する。
<相違点a1>
本件訂正発明1の熱可塑性炭化水素樹脂は、「20℃よりも高いTgを有する」と特定されているのに対し、甲a1発明では、そのような特定はなされていない点。
<相違点a2>
本件訂正発明1では、可塑化系の総含有量A+Bに関し、「50phrと100phrの間」と特定されているのに対し、甲a1発明では、そのような特定はなされていない点。
<相違点a3>
本件訂正発明1では、上記A+Bに関し、「シリカの質量に対する(A+B)の質量比が、35%と70%の間」と特定されているのに対し、甲a1発明では、そのような特定はなされていない点。
<相違点a4>
本件訂正発明1のゴム組成物は、「カーボンブラックを含まない、あるいは、10phrよりも少ない量のカーボンブラックをさらに含む」と特定されているのに対し、甲a1発明では、「スチレンブタジエンゴム100重量部に対し、…カーボンブラックを10?50重量部」とする点。

相違点a4について検討する。

(イ)上記アで認定したとおり、甲a1発明に係る「ガラス転移温度が-20℃を超え-5℃以下であるスチレンブタジエンゴムを少なくとも1種含むスチレンブタジエンゴム100重量部」及び「数平均分子量が20,000?60,000であるポリイソプレンを10?50重量部」というゴム成分を含有するゴム組成物は、「カーボンブラックを10?50重量部」配合したものである。このカーボンブラックの配合量を「含まない、あるいは、10phrよりも少ない量」と解することはできず、相違点a4は実質的な相違点であるから、その余の相違点を検討するまでもなく、本件訂正発明1は甲a1発明と同一であるとはいえない。

(ウ)甲a4?6(甲a4:【0042】、甲a5:【0035】?【0036】、甲a6:【0028】)には、補強用充填剤として「カーボンブラック」又は「シリカ」が用いられ、カーボンブラックは「存在する場合、…より好ましくは10pce未満」の量で使用することが記載されている。(審決注:「pce」は本件訂正発明の「phr」と同義と認める。)しかし、このような記載があっても、「カーボンブラックを10?50重量部」と規定し、「カーボンブラックの配合量が10重量部未満の場合には、ウェットグリップ性能を充分に高くすることができない。また、ゴム剛性が不足する。」(上記(1)ウ【0016】)と認識する甲a1発明において、カーボンブラックの配合量を「含まない、あるいは、10phrよりも少ない量」としうる根拠を見いだすことはできない。
他の如何なる甲号証の記載からも、甲a1発明において、カーボンブラックの配合量を「含まない、あるいは、10phrよりも少ない量」とすることを想起することはできない。
このため、その余の相違点について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲a1発明及び甲a2?6の記載事項から当業者が容易になし得たものとはいえない。

(エ)なお、申立人Aは、平成30年7月20日付け意見書において、「本件訂正発明は、参考資料1(審決注:特開2006-83393号公報)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。」と主張するが、この主張は時宜を逸したものである。また、同意見書において、「本件訂正発明1に係る材料の組み合わせ及び量は、本件訂正発明1の出願時よりも前に公開されている参考資料1に既に記載されている。…本件訂正発明1が進歩性を有するものではない。」とも主張するが、そもそも参考資料1には、本件訂正発明1における「熱可塑性炭化水素樹脂」に相当する成分(「粘着付与樹脂」)の配合量や、「シリカの質量に対する(A+B)の質量比」に相当する配合量についての記載はなく、この主張は失当である。
したがって、申立人Aの上記主張は採用しない。

ウ 本件訂正発明2?16についての検討
本件訂正発明2?16は、本件訂正発明1を更に限定するものである。
そして、上記イで検討したことと同様の理由で、本件発明2?16は、甲A1発明と同一であるとも、甲a1発明及び甲a2?6の記載事項から当業者が容易になし得たものともいえない。

(8)まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正発明1?16に係る特許は、いずれも特許法第29条に違反してされたものとはいえず、上記申立ての理由1、2には理由がない。

3 申立人Aの異議申立ての理由3について
(1)申立人Aの異議申立ての理由3の概要
申立人Aは、異議申立書32頁において、大旨以下のとおり主張する。
「本件発明の課題を解決するために使用される、『熱可塑性炭化水素樹脂』としては、実施例には、C5/C9樹脂及びポリリモネン樹脂のみが記載されている。
しかし、請求項1には、これらを上位概念化した『20℃よりも高いTgを有する熱可塑性炭化水素樹脂』が記載されているのみであり、実質的に使用される物質名が具体的に特定されていない。
請求項1?9に係る発明の広範な範囲まで、本願発明の効果が発揮されるとまでは認められず、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし、一般化できるとはいえない。」

(2)検討
ア 本件訂正発明1は、「シリカである補強用無機充填剤」を「100phrよりも多く150phr以下」、「可塑化系」における熱可塑性炭化水素樹脂と液体可塑剤の総含有量「A+B」について「シリカの質量に対する(A+B)の質量比が、35%と70%の間」と規定された。
そして、上記第4の2(1)で検討したとおりであるから、本件訂正発明1に係る発明は、その課題を解決できると当業者が認識できるものと認められる。

イ 申立人Aは、平成30年7月20日付け意見書において、「製品の転がり抵抗やウェットグリップ性能は、『Tgのみ』ならず、可塑剤系が有する『Tg以外の物性』も影響することが、出願時の技術常識である。…乙第8号証には、ありとあらゆる可塑化系が乙第8号証に記載されている特性を有するという記載はない。そのため、乙第8号証の記載に基づいて、本件訂正発明1の範囲まで、本件特許明細書において開示された内容を拡張ないし一般化できるものではない。」(同意見書3頁3?11行)と主張する。
しかし、「製品の転がり抵抗やウェットグリップ性能は、『Tgのみ』ならず、可塑剤系が有する『Tg以外の物性』も影響することが、出願時の技術常識である。」であることの根拠を申立人Aは明らかにしておらず、このような「技術常識」を勘案することができない。そして、上記第4の2(1)オに示したとおり、本件訂正発明1において「シリカである補強用無機充填剤」が「100phrよりも多く150phr以下」、「可塑化系」における熱可塑性炭化水素樹脂と液体可塑剤の総含有量「A+B」が「シリカの質量に対する(A+B)の質量比が、35%と70%の間」と規定されたことにより、「タイヤの湿潤グリップ性能をさらに改良すること」が達成され、転がり抵抗性を悪化させていないことが明らかであるから、殊更「Tg以外の物性」について勘案することを要するとまではいえない。
したがって、申立人Aの上記主張は採用しない。

ウ 本件訂正発明2ないし16は、直接又は間接的に本件請求項1を引用してなるものであり、本件訂正発明1と同様に、その課題を解決できると当業者が認識できるものと認められる。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正発明1?16に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものであるとはいえず、上記申立ての理由3には理由がない。

4 申立人Bの異議申立ての理由について
申立人Bの異議申立ての理由は、概要以下のとおりである。
・申立ての理由1
請求項1?9に係る発明は、下記甲第1-1号証?甲第1-5号証に記載された発明であるから、請求項1?9に係る特許は特許法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。
・申立ての理由2
請求項1?9に係る発明は、下記甲第1-1号証?甲第1-5号証、甲第2-1号証?甲第2-5号証、甲第3-1号証?甲第3-10号証、甲第4-1号証?甲第4-44号証、甲第5-1号証、甲第6-1号証?甲第6-40号証、甲第7-1号証?甲第7-5号証に記載された発明に基づいて、それぞれ当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?9に係る特許は特許法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。
・申立ての理由3
請求項1?9に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号の規定により取り消すべきものである。
・申立ての理由4
請求項1?9に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号の規定により取り消すべきものである。
<証拠方法>
甲第1-1号証:特開2010-168491号公報
甲第1-2号証:特開2009-102506号公報
甲第1-3号証:特開平9-136996号公報
甲第1-4号証:特開平11-29656号公報
甲第1-5号証:特開2009-166519号公報
甲第2-1号証:特開2010-126672号公報
甲第2-2号証:特開2008-184505号公報
甲第2-3号証:特開2007-277307号公報
甲第2-4号証:特開平9-208748号公報
甲第2-5号証:特開2009-114262号公報
甲第3-1号証:特表平10-501291号公報
甲第3-2号証:特表2006-528253号公報
甲第3-3号証:特表2005-534759号公報
甲第3-4号証:特表2004-519551号公報
甲第3-5号証:特表2004-518807号公報
甲第3-6号証:特開2009-120845号公報
甲第3-7号証:欧州特許公開公報第1911797号
甲第3-8号証:特表2009-504810号公報
甲第3-9号証:国際公開第2009/133068号
甲第3-10号証:特表2010-525087号公報
甲第4-1号証:国際公開第2010/009850号
甲第4-2号証:特開平7-90124号公報
甲第4-3号証:特開2006-249230号公報
甲第4-4号証:特表2004-518806号公報
甲第4-5号証:特表2005-537369号公報
甲第4-6号証:特開平10-204216号公報
甲第4-7号証:特開平9-143312号公報
甲第4-8号証:特開平7-70370号公報
甲第4-9号証:特開平5-214170号公報
甲第4-10号証:特開昭60-179434号公報
甲第4-11号証:特開昭55-60539号公報
甲第4-12号証:特開2010-241965号公報
甲第4-13号証:特開2010-235663号公報
甲第4-14号証:特開2009-62485号公報
甲第4-15号証:特開2008-231209号公報
甲第4-16号証:特開2008-214590号公報
甲第4-17号証:特開2008-208265号公報
甲第4-18号証:特開2008-189725号公報
甲第4-19号証:特開2008-174696号公報
甲第4-20号証:特開2008-174688号公報
甲第4-21号証:特開2008-169298号公報
甲第4-22号証:特開2003-253051号公報
甲第4-23号証:特開2002-226629号公報
甲第4-24号証:特開2001-98036号公報
甲第4-25号証:特開2001-89597号公報
甲第4-26号証:特開2001-26622号公報
甲第4-27号証:特開2000-344839号公報
甲第4-28号証:特開2000-239448号公報
甲第4-29号証:特開2000-233454号公報
甲第4-30号証:特開2000-230080号公報
甲第4-31号証:特開2000-204274号公報
甲第4-32号証:特開2000-52707号公報
甲第4-33号証:国際公開第2009/125747号
甲第4-34号証:欧州特許公開公報第1829934号
甲第4-35号証:欧州特許公開公報第1227125号
甲第4-36号証:特開2008-174664号公報
甲第4-37号証:特開2008-1747号公報
甲第4-38号証:特開2005-307166号公報
甲第4-39号証:特開2002-20542号公報
甲第4-40号証:特開2000-256515号公報
甲第4-41号証:特開2004-137463号公報
甲第4-42号証:特開2005-220251号公報
甲第4-43号証:特開2006-282830号公報
甲第4-44号証:特開2006-124601号公報
甲第5-1号証:独国特許出願公開第102008026351号
甲第6-1号証:特開2009-263587号公報
甲第6-2号証:特開平11-228647号公報
甲第6-3号証:特開2001-11240号公報
甲第6-4号証:特開2002-114874号公報
甲第6-5号証:特開2007-262206号公報
甲第6-6号証:国際公開第2010/116988号
甲第6-7号証:特開2007-70451号公報
甲第6-8号証:特開2007-77374号公報
甲第6-9号証:特公昭59-15940号公報
甲第6-10号証:特開平10-237224号公報
甲第6-11号証:特開平10-53003号公報
甲第6-12号証:特開平6-240052号公報
甲第6-13号証:特開平6-248117号公報
甲第6-14号証:特開2008-1900号公報
甲第6-15号証:特表2008-525537号公報
甲第6-16号証:特開2010-209174号公報
甲第6-17号証:特開2010-116557号公報
甲第6-18号証:欧州特許公開公報第1676882号
甲第6-19号証:欧州特許公開公報第1818188号
甲第6-20号証:欧州特許公開公報第2239296号
甲第6-21号証:米国特許出願公開第2010/0292366号
甲第6-22号証:特開平9-165471号公報
甲第6-23号証:特開2009-114427号公報
甲第6-24号証:米国特許第7259205号明細書
甲第6-25号証:特表2007-522299号公報
甲第6-26号証:欧州特許公開公報第1400560号
甲第6-27号証:国際公開第2005/085343号
甲第6-28号証:特開平9-208632号公報
甲第6-29号証:特開2010-155935号公報
甲第6-30号証:特開2010-229253号公報
甲第6-31号証:特開2010-59398号公報
甲第6-32号証:特開2005-263905号公報
甲第6-33号証:特開2007-161819号公報
甲第6-34号証:特開昭63-314255号公報
甲第6-35号証:特開平7-133377号公報
甲第6-36号証:特開2008-274207号公報
甲第6-37号証:欧州特許公開公報第2204406号
甲第6-38号証:特開2001-348461号公報
甲第6-39号証:特開2007-321046号公報
甲第6-40号証:独国特許出願公開第102008037593号
甲第7-1号証:特開平11-49894号公報
甲第7-2号証:特開2005-213508号公報
甲第7-3号証:特表2010-514860号公報
甲第7-4号証:特表2010-514861号公報
甲第7-5号証:特表2010-522800号公報

以下、申立人B提出の甲第1-1号証を「甲b1-1」という。その余の申立人B提出の甲各号証も同様である。

5 申立人Bの異議申立ての理由1について
(1)甲b1-1?甲b1-5の記載事項
甲b1-1?甲b1-5には、申立書12頁16行?26頁1行に示されるとおりの記載がある。そして、甲b1-1及び甲b1-3?甲b1-5の何れにも、「ゴム組成物が、カーボンブラックを含まない、あるいは、10phrよりも少ない量のカーボンブラックをさらに含む」とする記載はない。
また、甲b1-2【請求項1】には、「ガラス転移温度が-40℃以上の溶液重合スチレンブタジエンゴムを50重量部以上含むジエン系ゴム成分100重量部に対して、…カーボンブラックを0?100重量部…を配合してなることを特徴とするタイヤ用ゴム組成物。」との記載はあるが、「シリカである補強用無機充填剤」や、本件訂正発明1の「熱可塑性炭化水素樹脂」及び「液体可塑剤」に相当する、「樹脂-2:住友ベークライト(株)製シリコーン変性フェノール樹脂『スミライトレジンPR-54529』」及び「オイル:ジャパンエナジー(株)製『JOMOプロセスNC-140』」が含まれるタイヤ用ゴム組成物は、カーボンブラックを20phr含むことが記載されている(実施例)。
そうすると、本件訂正発明1と甲b1-1?甲b1-5に記載された発明とは、少なくとも以下の点で相違する。
<相違点b1>
本件訂正発明1は「ゴム組成物が、カーボンブラックを含まない、あるいは、10phrよりも少ない量のカーボンブラックをさらに含む」ものであるのに対し、甲b1-1?甲b1-5に記載された発明では、ゴム組成物におけるカーボンブラックの配合量を「含まない、あるいは、10phrよりも少ない量」とするような特定はなされていない点。

(2)検討
ア 甲b1-1?甲b1-5の何れにおいても、記載された発明に係るゴム組成物においてカーボンブラックの配合量を「含まない、あるいは、10phrよりも少ない量」と解される根拠を見いだすことはできない。このため、本件訂正発明1は、甲b1-1?甲b1-5に記載された発明とはいえない。

イ そして、本件訂正発明2?16は、本件訂正発明1を更に限定するものであり、上記アで検討したことと同様の理由で、本件発明2?16は、甲b1-1?甲b1-5に記載された発明とはいえない。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正発明1?16に係る特許は、いずれも特許法第29条第1項第3号に該当するものとはいえず、上記申立ての理由1には理由がない。

6 申立人Bの異議申立ての理由2について
(1)本件訂正発明1についての検討
申立人Bの異議申立ての理由2は、大略、甲b1-1?甲b1-5を主引用例とするもの、甲b2-1?甲b2-5を主引用例とするもの、甲b3-1?甲b3-10を主引用例とするもの、甲b5-1を主引用例とするもの、甲b6-7を主引用例とするもの、甲b6-18を主引用例とするもの、甲b6-20を主引用例とするものと解されるところ、下記のとおり、
・甲b1-1?甲b2-5を主引用例とするもの
・甲b3-1?甲b3-10を主引用例とするもの
・甲b5-1、甲b6-7、甲b6-18、甲b6-20を主引用例とするもの
に分けて検討する。

ア 甲b1-1?甲b2-5を主引用例とする申立理由について
(ア)甲b2-1?甲b2-5には、申立書26頁2行?44頁20行に示されるとおりの記載がある。そして、甲b2-1?甲b2-4の何れにも、「ゴム組成物が、カーボンブラックを含まない、あるいは、10phrよりも少ない量のカーボンブラックをさらに含む」とする記載はない。また、甲b2-5【0029】には、「補強剤としてカーボンブラックを原料ゴム成分100質量部に対して50質量部以下で含有することが好ましい。…カーボンブラックの該配合量は、さらに30質量部以下以下であることが好ましい。」との記載はあるが、続いて「一方、良好な機械強度と調製時の良好な加工性とを両立させる点では、カーボンブラックの配合量が、原料ゴム成分100質量部に対して10質量部以上であることが好ましい。」との記載がある。

(イ)そうすると、甲b1-1?甲b1-5と同様、本件訂正発明1と甲b2-1?甲b2-5に記載された発明とは、少なくとも上記5(1)の相違点b1で相違する。

(ウ)そして、甲b1-1?甲b2-5に記載された発明において、係るゴム組成物のカーボンブラックの配合量を「含まない、あるいは、10phrよりも少ない量」となしうる記載ないし示唆は、何れの甲b各号証からも見いだすことはできない。このため、本件訂正発明1は、甲b1-1?甲b2-5に記載された発明から容易になし得たものとはいえない。

イ 甲b3-1?甲b3-10を主引用例とする申立理由について
(ア)甲b3-1?甲b3-10には、申立書44頁21行?67頁末行に示されるとおりの記載がある。そして、甲b3-1?甲b3-10の何れにも、熱可塑性炭化水素樹脂と液体可塑剤の総含有量を「50phrと100phrの間」としつつ、「シリカである補強用無機充填剤」の配合量を「100phrよりも多く150phr以下」とする記載はない。

(イ)そうすると、本件訂正発明1と甲b3-1?甲b3-10に記載された発明とは、少なくとも以下の点で相違する。
<相違点b2>
本件訂正発明1は、係るゴム組成物において、熱可塑性炭化水素樹脂と液体可塑剤の総含有量を「50phrと100phrの間」としつつ、「シリカである補強用無機充填剤」の配合量を「100phrよりも多く150phr以下」であるのに対し、甲b3-1?甲b3-10に記載された発明では、熱可塑性炭化水素樹脂、液体可塑剤、シリカの配合量についてそのような特定はなされていない点。

(ウ)そして、甲b3-1?甲b3-10に記載された発明において、係るゴム組成物の熱可塑性炭化水素樹脂と液体可塑剤の総含有量を「50phrと100phrの間」とし、「シリカである補強用無機充填剤」の配合量を「100phrよりも多く150phr以下」となしうる記載ないし示唆は、何れの甲b各号証からも見いだすことはできない。このため、本件訂正発明1は、甲b3-1?甲b3-10に記載された発明から容易になし得たものとはいえない。

ウ 甲b5-1、甲b6-7、甲b6-18、甲b6-20を主引用例とする申立理由について
(ア)甲b5-1、甲b6-7、甲b6-18、甲b6-20には、申立書155頁1行?157頁6行、161頁14行?163頁1行、171頁下から2行?175頁末行、177頁5行?179頁5行に示されるとおりの記載がある。そして、甲b5-1、甲b6-7、甲b6-18、甲b6-20の何れにも、係るゴム組成物において、可塑化系に「熱可塑性炭化水素樹脂」を用いることの記載はない。

(イ)そうすると本件訂正発明1と甲b5-1、甲b6-7、甲b6-18、甲b6-20の各々に記載された発明とは、少なくとも以下の点で相違する。
<相違点b3>
本件訂正発明1は、係るゴム組成物において、可塑化系に「10phrと60phrの間の含有量Aに従う、20℃よりも高いTgを有する熱可塑性炭化水素樹脂」を用いるのに対し、甲b5-1、甲b6-7、甲b6-18、甲b6-20の各々に記載された発明では、「熱可塑性炭化水素樹脂」の含有量とTgについてそのような特定はなされていない点。

(ウ)そして、甲b5-1、甲b6-7、甲b6-18、甲b6-20に記載された発明において、係るゴム組成物の可塑化系に「10phrと60phrの間の含有量Aに従う、20℃よりも高いTgを有する熱可塑性炭化水素樹脂」を用いようとする記載ないし示唆は、何れの甲b各号証からも見いだすことはできない。このため、本件訂正発明1は、甲b5-1、甲b6-7、甲b6-18、甲b6-20に記載された発明から容易になし得たものとはいえない。

(2)本件訂正発明2?16についての検討
本件訂正発明2?16は、本件訂正発明1を更に限定するものである。
そして、上記(1)で検討したことと同様の理由で、本件発明2?16は、甲b各号証の何れの記載事項から当業者が容易になし得たものともいえない。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正発明1?16に係る特許は、特許法第29条第2項に違反してされたものとはいえず、上記申立ての理由2には理由がない。

7 申立人Bの異議申立ての理由3について
(1)申立人Bの異議申立ての理由3の概要
申立人Bは、異議申立書259?260頁において、大旨以下のとおり主張する。
「本件特許明細書の発明の詳細な説明に具体的に記載されている特定の実施例の場合においては、本件特許に係る発明の解決課題…が解決されると当業者は認識することができても、第2ジエンエラストマーを必須成分としておらず、ポリリモネン樹脂以外の多数の20℃より高いTgを有する炭化水素樹脂を包含し、MESオイルとヒマワリ油以外の全く異なる性質の液体可塑剤を包含するという極めて広範な現在の特許請求の範囲に係る全ての場合において、本件特許に係る発明の解決課題を解決できると当業者が認識することができるとは認められない。
したがって、本件特許の請求項1及び同項を引用する請求項2ないし9に係る発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものではない。」

(2)検討
ア 本件訂正発明1は、「シリカである補強用無機充填剤」を「100phrよりも多く150phr以下」、「可塑化系」における熱可塑性炭化水素樹脂と液体可塑剤の総含有量「A+B」について「シリカの質量に対する(A+B)の質量比が、35%と70%の間」と規定された。
そして、上記第4の2(1)で検討したとおりであるから、本件訂正発明1に係る発明は、その課題を解決できると当業者が認識できるものと認められる。

イ 申立人Bは、平成30年7月23日付け意見書において、
「『20℃よりも高いTgを有する熱可塑性炭化水素樹脂』及び『液体可塑剤』として幅広い物質を包含し、さらに、これらについて幅広い組合せを包含する本件訂正発明1に対して、本件明細書に十分な数の実施例が記載されているとは言えず、このような広範な範囲についてまで本件明細書に記載の課題を解決できると当業者が認識できるとはいえない。
…『スチレンとブタジエンをベースとするコポリマー』として、シラノール官能化SBR、アルコキシシラン官能化SBRという特定のSBRを用いた場合に良好な性能が得られたとしても、他のSBRをも包含する本件訂正発明1の広範な範囲についてまで本件特許発明の課題を解決できると当業者が認識できるとはいえない。本件訂正発明1は、発明の詳細な説明に記載したものを超えて特許を請求するものである。」(同意見書13頁22行?14頁17行)と主張する。
しかし、上記第4の2(1)オに示したとおり、本件訂正発明1において「シリカである補強用無機充填剤」が「100phrよりも多く150phr以下」、「可塑化系」における熱可塑性炭化水素樹脂と液体可塑剤の総含有量「A+B」が「シリカの質量に対する(A+B)の質量比が、35%と70%の間」と規定されたことにより、「タイヤの湿潤グリップ性能をさらに改良すること」が達成され、転がり抵抗性を悪化させていないことが明らかであるから、「熱可塑性炭化水素樹脂」及び「液体可塑剤」、「スチレンとブタジエンをベースとするコポリマー」と規定されていても、その規定をもって「発明の詳細な説明に記載したものを超えて特許を請求するもの」とまではいえない。
したがって、申立人Bの上記主張は採用しない。

ウ 本件訂正発明2ないし16は、直接又は間接的に本件請求項1を引用してなるものであり、本件訂正発明1と同様に、その課題を解決できると当業者が認識できるものと認められる。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正発明1?16に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものであるとはいえず、上記申立ての理由3には理由がない。

8 申立人Bの異議申立ての理由4について
(1)申立人Bの異議申立ての理由4の概要
申立人Bは、異議申立書260?261頁において、以下のとおり主張する。
「本件請求項1で『20℃よりも高いTgを有する熱可塑性炭化水素樹脂』が記載されているが、出願時の当該技術分野における技術常識に基づいても、『20℃よりも高いTgを有する熱可塑性炭化水素樹脂』が如何なる化合物をその範疇に含むのか把握することができない。よって、本件請求項1及びこれを引用する本件請求項2?9に係る発明は明確でない。」

(2)検討
本件特許明細書の段落【0045】?【0052】には、上記第4の2(1)イに示すとおりの記載があり、「20℃よりも高いTgを有する熱可塑性炭化水素樹脂」に関し、Tgの測定方法が明確に記載されており、また、係る熱可塑性炭化水素樹脂が具体的に列記されている。
そうすると、当業者は、上記の記載を参考にして、「20℃よりも高いTgを有する熱可塑性炭化水素樹脂」が如何なる化合物であるか、明確に理解しうるものといえる。
また、本件訂正発明2ないし16は、直接又は間接的に本件請求項1を引用してなるものであり、本件訂正発明1と同様に、明確であるといえる。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正発明1?16に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものであるとはいえず、上記申立ての理由4には理由がない。

9 異議申立ての理由についてのまとめ
したがって、本件訂正発明1?16に係る特許は、申立人AないしBが主張する異議申立ての理由によっては、これを取り消すことはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、異議申立ての理由及び当審からの取消理由によっては、請求項1?16に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?16に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッドが、少なくとも下記を含むゴム組成物を含むことを特徴とするタイヤ:
・50?100phrの、スチレンとブタジエンをベースとするコポリマー;
・任意構成成分としての、0?50phrの他のジエンエラストマー:
・100phrよりも多く150phr以下の、シリカである補強用無機充填剤;
・下記を含む可塑化系:
・10phrと60phrの間の含有量Aに従う、20℃よりも高いTgを有する熱可塑性炭化水素樹脂;
・10phrと60phrの間の含有量Bに従う液体可塑剤;
・50phrと100phrの間の総含有量A+B;
・シリカの質量に対する(A+B)の質量比が、35%と70%の間;
であって、前記ゴム組成物が、カーボンブラックを含まない、あるいは、10phrよりも少ない量のカーボンブラックをさらに含むタイヤ。
【請求項2】
スチレンとブタジエンをベースとする前記コポリマーが、スチレン/ブタジエンコポリマーであり、
前記熱可塑性炭化水素樹脂が、テルペンのホモポリマーまたはコポリマー樹脂、C_(5)留分のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、C_(9)留分のホモポリマーまたはコポリマー樹脂、およびこれらの樹脂の混合物からなる群から選ばれ、
前記液体可塑剤が、DAE(留出物芳香族系抽出物)オイル、TDAE(処理留出物芳香族系抽出物)オイル、RAE(残留芳香族抽出物)オイル、TRAE(処理残留芳香族抽出物)オイル、SRAE(安全残留芳香族抽出物)オイル、植物油、およびこれらの化合物の混合物からなる群から選ばれる、
請求項1記載のタイヤ。
【請求項3】
前記他のジエンエラストマーが、ポリブタジエン、天然ゴム、合成ポリイソプレン、ブタジエンコポリマー、イソプレンコポリマーおよびこれらのエラストマーの混合物からなる群から選ばれ、
前記熱可塑性炭化水素樹脂が、ポリリモネン樹脂、リモネン/スチレンコポリマー樹脂、リモネン/(D)CPDコポリマー樹脂、(D)CPD/C_(5)留分コポリマー樹脂、(D)CPD/C_(9)留分コポリマー樹脂、C_(5)留分/スチレンコポリマー樹脂、C_(5)留分/C_(9)留分コポリマー樹脂、およびこれらの混合物からなる群から選ばれ、
前記液体可塑剤が、TDAE(処理留出物芳香族系抽出物)オイル、植物油およびこれらの混合物からなる群から選ばれる、
請求項2記載のタイヤ。
【請求項4】
前記他のジエンエラストマーが、ポリブタジエンである、請求項3記載のタイヤ。
【請求項5】
前記他のジエンエラストマーが、天然ゴムまたは合成ポリイソプレンである、請求項3記載のタイヤ。
【請求項6】
スチレンとブタジエンをベースとする前記コポリマーの含有量が、60?100phrの範囲内である、請求項1?5のいずれか1項記載のタイヤ。
【請求項7】
補強用無機充填剤の含有量が、110?140phrの範囲内である、請求項1?6のいずれか1項記載のタイヤ。
【請求項8】
Aが10phrと50phrの間の量であり、Bが10phrと50phrの間の量である、請求項1?7のいずれか1項記載のタイヤ。
【請求項9】
A+Bが、50phrと80phrの間の量である、請求項1?8のいずれか1項記載のタイヤ。
【請求項10】
前記他のジエンエラストマーが、ポリブタジエン、天然ゴム、合成ポリイソプレン、ブタジエンコポリマー、イソプレンコポリマーおよびこれらのエラストマーの混合物からなる群から選ばれ、
前記熱可塑性炭化水素樹脂が、ポリリモネン樹脂、C_(5)留分/C_(9)留分コポリマー樹脂、およびこれらの混合物からなる群から選ばれ、
前記液体可塑剤が、TDAE(処理留出物芳香族系抽出物)オイル、ヒマワリ油およびこれらの混合物からなる群から選ばれる、
請求項1記載のタイヤ。
【請求項11】
前記他のジエンエラストマーが、ポリブタジエンである、請求項10記載のタイヤ。
【請求項12】
前記他のジエンエラストマーが、天然ゴムまたは合成ポリイソプレンである、請求項10記載のタイヤ。
【請求項13】
スチレンとブタジエンをベースとする前記コポリマーの含有量が、60?100phrの範囲内である、請求項10?12のいずれか1項記載のタイヤ。
【請求項14】
補強用無機充填剤の含有量が、110?140phrの範囲内である、請求項10?13のいずれか1項記載のタイヤ。
【請求項15】
Aが10phrと50phrの間の量であり、Bが10phrと50phrの間の量である、請求項10?14のいずれか1項記載のタイヤ。
【請求項16】
A+Bが、50phrと80phrの間の量である、請求項10?15のいずれか1項記載のタイヤ。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-10-25 
出願番号 特願2013-540362(P2013-540362)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C08L)
P 1 651・ 121- YAA (C08L)
P 1 651・ 536- YAA (C08L)
P 1 651・ 851- YAA (C08L)
P 1 651・ 113- YAA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 前田 孝泰久保 道弘今井 督  
特許庁審判長 近野 光知
特許庁審判官 海老原 えい子
大熊 幸治
登録日 2016-11-04 
登録番号 特許第6033786号(P6033786)
権利者 ミシュラン ルシェルシュ エ テクニーク ソシエテ アノニム カンパニー ジェネラレ デ エスタブリシュメンツ ミシュラン
発明の名称 湿潤地面上で改良されたグリップ性を有するタイヤトレッド  
代理人 市川 さつき  
代理人 弟子丸 健  
代理人 岩澤 朋之  
代理人 弟子丸 健  
代理人 箱田 篤  
代理人 服部 博信  
代理人 浅井 賢治  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 浅井 賢治  
代理人 箱田 篤  
代理人 市川 さつき  
代理人 ▲吉▼田 和彦  
代理人 市川 さつき  
代理人 岩澤 朋之  
代理人 浅井 賢治  
代理人 服部 博信  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 弟子丸 健  
代理人 ▲吉▼田 和彦  
代理人 山崎 一夫  
代理人 箱田 篤  
代理人 服部 博信  
代理人 山崎 一夫  
代理人 岩澤 朋之  
代理人 ▲吉▼田 和彦  
代理人 山崎 一夫  
代理人 田中 伸一郎  

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