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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 B65D |
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管理番号 | 1346779 |
異議申立番号 | 異議2018-700227 |
総通号数 | 229 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-01-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-03-16 |
確定日 | 2018-11-08 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6205461号発明「缶蓋」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6205461号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕ついて訂正することを認める。 特許第6205461号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6205461号の請求項1及び2に係る特許についての出願は、平成23年9月21日に出願された特願2012-535055号の一部を、平成28年6月16日(優先権主張 平成22年9月22日)に新たな特許出願(特願2016-120013号)として出願したものであって、平成29年9月8日にその特許権の設定登録がされ、平成29年9月27日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、平成30年3月16日に特許異議申立人太田千香子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、平成30年7月12日付けで取消理由を通知した。特許権者は、その指定期間内である平成30年9月12日に意見書の提出及び訂正の請求を行い、その訂正の請求に対して、申立人は、平成30年10月12日に意見書を提出した。 第2 訂正の適否についての判断 上記平成30年9月12日付けの訂正請求を、以下「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。 1. 訂正の内容 本件訂正の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、次のとおりである。 (1)訂正事項1-1 本件特許請求の範囲の請求項1に、 「タブが取り付けられるパネル部の外周縁に、上方に向けた環状凹部を形成するカウンターシンク部が連続して形成されるとともに、該カウンターシンク部の外周縁から上方に向かうにしたがって漸次拡径するチャック壁部が形成され、該チャック壁部から半径方向外方に広がるショルダー部を介して外周縁部を下方かつ半径方向内方に向けて折り返してなるカール部が連続形成された缶蓋において、前記ショルダー部は上方に向けて凸となる円弧状に湾曲形成されるとともに、」という記載があるのを、 「タブが取り付けられるパネル部の外周縁に、上方に向けた環状凹部を形成するカウンターシンク部が連続して形成されるとともに、該カウンターシンク部の外周縁から上方に向かうにしたがって漸次拡径するチャック壁部が形成され、該チャック壁部から半径方向外方に広がるショルダー部を介して外周縁部を下方かつ半径方向内方に向けて折り返してなるカール部が連続形成された缶蓋において、板厚が0.240mm以下で、前記カール部の最外径が62.4mm以下であり、前記ショルダー部は上方に向けて凸となる円弧状に湾曲形成されるとともに、」と訂正する。 (2)訂正事項1-2 本件特許請求の範囲の請求項1に、 「かつ、前記ショルダー部からカール部にかけた部分の頂点からパネル部表面までの鉛直方向寸法をパネル深さとしたときの前記パネル部の外径に対する前記パネル深さの比率が10.17%以上でかつ缶蓋の全体高さが7.2mm以下であり、缶体に巻き締めたときの巻き締め部の最外径D2に対する前記パネル部の外径D1の比が0.69?0.84であることを特徴とする缶蓋。」という記載があるのを、 「かつ、前記ショルダー部からカール部にかけた部分の頂点からパネル部表面までの鉛直方向寸法をパネル深さとしたときの前記パネル部の外径が48.9mm以下、前記パネル部の外径に対する前記パネル深さの比率が10.17%以上でかつ缶蓋の全体高さが7.2mm以下であり、缶体に巻き締めたときの巻き締め部の最外径D2に対する前記パネル部の外径D1の比が0.69?0.84であることを特徴とする缶蓋。」と訂正する。 (3)訂正事項2-1 本件明細書の段落【0006】に、 「本発明の缶蓋は、タブが取り付けられるパネル部の外周縁に、上方に向けた環状凹部を形成するカウンターシンク部が連続して形成されるとともに、該カウンターシンク部の外周縁から上方に向かうにしたがって漸次拡径するチャック壁部が形成され、該チャック壁部から半径方向外方に広がるショルダー部を介して外周縁部を下方かつ半径方向内方に向けて折り返してなるカール部が連続形成された缶蓋において、前記ショルダー部は上方に向けて凸となる円弧状に湾曲形成されるとともに、」という記載があるのを、 「本発明の缶蓋は、タブが取り付けられるパネル部の外周縁に、上方に向けた環状凹部を形成するカウンターシンク部が連続して形成されるとともに、該カウンターシンク部の外周縁から上方に向かうにしたがって漸次拡径するチャック壁部が形成され、該チャック壁部から半径方向外方に広がるショルダー部を介して外周縁部を下方かつ半径方向内方に向けて折り返してなるカール部が連続形成された缶蓋において、板厚が0.240mm以下で、前記カール部の最外径が62.4mm以下であり、前記ショルダー部は上方に向けて凸となる円弧状に湾曲形成されるとともに、」と訂正する。 (4)訂正事項2-2 本件明細書の段落【0006】に、 「かつ、前記ショルダー部からカール部にかけた部分の頂点からパネル部表面までの鉛直方向寸法をパネル深さとしたときの前記パネル部の外径に対する前記パネル深さの比率が10.17%以上でかつ缶蓋の全体高さが7.2mm以下であり、缶体に巻き締めたときの巻き締め部の最外径D2に対する前記パネル部の外径D1の比が0.69?0.84であることを特徴とする。」という記載があるのを、 「かつ、前記ショルダー部からカール部にかけた部分の頂点からパネル部表面までの鉛直方向寸法をパネル深さとしたときの前記パネル部の外径が48.9mm以下、前記パネル部の外径に対する前記パネル深さの比率が10.17%以上でかつ缶蓋の全体高さが7.2mm以下であり、缶体に巻き締めたときの巻き締め部の最外径D2に対する前記パネル部の外径D1の比が0.69?0.84であることを特徴とする。」と訂正する。 2. 一群の請求項、訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)一群の請求項 本件訂正前の請求項2は、請求項1を引用するものであるから、請求項2は、請求項1についての訂正に連動して訂正されるものであるから、訂正事項1-1及び1-2は、一群の請求項〔1、2〕に対して請求されたものである。また、明細書についてする訂正事項2-1及び2-2は、一群の請求項〔1、2〕について請求されたものである。 (2)訂正事項1-1について 訂正事項1-1は、本件訂正前の請求項1に記載された「缶蓋」について、「板厚が0.240mm以下で、前記カール部の最外径が62.4mm以下」との事項を付加し、構成を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 以下に示した、本件特許明細書の段落【0026】の【表1】、段落【0027】の【表2】及び段落【0028】の【表3】には、それぞれ公称径204、202及び206の缶蓋の試料について、振動漏れ試験及び耐圧試験の結果が良品とされ、かつ、缶蓋の全体の高さが7.2mm以内のものを、「判定」において「○」と記載されている。(段落【0023】、【0025】) そして、その判定が「○」とされたものの板厚をみると、最大値は、0.24mmである。また、本件特許明細書段落【0017】に「カール部8の最外径が62.0?62.4mm」という記載がある。そうすると、訂正事項1-1は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内でしたものである。そして、訂正事項1-1が、特許請求の範囲の拡張・変更するものではないことは明らかである。 段落【0026】の【表1】 段落【0027】の【表2】 段落【0028】の【表3】 (3)訂正事項1-2について 訂正事項1-2は、本件訂正前の請求項2に記載された「缶蓋」の「パネル部」について、「前記パネル部の外径が48.9mm以下」との事項を付加し、構成を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 上記(1)に示した【表1】?【表3】に記載された判定をみると、「○」とされたものパネル部の外径のうち、最大値は、「48.9mm」である。そうすると、訂正事項1-2は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内でしたものである。そして、訂正事項1-2が、特許請求の範囲の拡張・変更するものではないことは明らかである。 (4)訂正事項2-1及び2-2について 訂正事項2-1及び2-2は、それぞれ訂正事項1-1及び1-2により訂正された本件特許請求の範囲の記載と整合するように、本件特許明細書の記載を訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定された明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。 したがって、上記(1)及び(2)から、訂正事項2-1及び2-2は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内でしたものであり、特許請求の範囲の拡張・変更するものではないことは明らかである。 さらに、本件特許明細書の段落【0006】には、請求項1に対応する構成が記載されているから、訂正事項2-1及び2-2による明細書の訂正に係る請求項は請求項1である。よって、請求項1を含む一群の請求項である請求項〔1、2〕のすべてが訂正事項2-1及び2-2の対象となる。 3.訂正の適否についての小括 訂正事項1-1及び1-2、並びに、訂正事項2-1及び2-2からなる訂正は、上記2.に示したとおりのものであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、特許法第120条の5第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第4?6項の規定に適合する。 したがって、本件特許明細書及び特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正することを認める。 第3 訂正後の本件発明 本件訂正により訂正された請求項1及び2に係る発明(以下、「本件発明1」等という。)は、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1及び2に記載した事項により特定される、次のとおりのものである。 「【請求項1】 タブが取り付けられるパネル部の外周縁に、上方に向けた環状凹部を形成するカウンターシンク部が連続して形成されるとともに、該カウンターシンク部の外周縁から上方に向かうにしたがって漸次拡径するチャック壁部が形成され、該チャック壁部から半径方向外方に広がるショルダー部を介して外周縁部を下方かつ半径方向内方に向けて折り返してなるカール部が連続形成された缶蓋において、板厚が0.240mm以下で、前記カール部の最外径が62.4mm以下であり、前記ショルダー部は上方に向けて凸となる円弧状に湾曲形成されるとともに、前記チャック壁部は、半径方向内方に向けて凸となる第1湾曲部と、半径方向外方に向けて凸となる第2湾曲部とが前記カウンターシンク部の外周縁から前記ショルダー部の内周縁にかけて順に形成され、前記第1湾曲部外面の曲率半径が1.2mm?4.0mm、前記第2湾曲部外面の曲率半径が0.6mm?3.0mm、前記ショルダー部外面と前記第1湾曲部外面との共通接線が前記パネル部外面となす角度が55°?70°とされ、前記共通接線から前記第2湾曲部外面までの最大距離が0.3mm?0.6mmとされ、前記第2湾曲部外面と前記カウンターシンク部の内底面との共通接線から前記第1湾曲部外面までの最大距離が0.4mm?0.7mmとされ、前記カウンターシンク部の内底面の曲率半径が0.75mm以下であり、かつ、前記ショルダー部からカール部にかけた部分の頂点からパネル部表面までの鉛直方向寸法をパネル深さとしたときの前記パネル部の外径が48.9mm以下、前記パネル部の外径に対する前記パネル深さの比率が10.17%以上でかつ缶蓋の全体高さが7.2mm以下であり、缶体に巻き締めたときの巻き締め部の最外径D2に対する前記パネル部の外径D1の比が0.69?0.84であることを特徴とする缶蓋。 【請求項2】 前記パネル部から前記カウンターシンク部に至るコーナー部は、前記パネル部に隣接状態の内側屈曲部と、前記カウンターシンク部の内側壁部に隣接状態の外側屈曲部と、これら両屈曲部の間を連結する傾斜部とから構成されていることを特徴とする請求項1記載の缶蓋。」 第4 取消理由通知に記載した取消理由について 1. 取消理由の概要 本件訂正前の請求項1及び2に係る特許に対して、特許権者に通知した平成30年7月12日付け取消理由通知の要旨は、次のとおりである。なお、申立人が特許異議申立書に記載した全ての取消理由が通知された。 【理由1】 本件出願の下記の請求項1及び2に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1及び2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。 (なお、申立人が特許異議申立書に添付して提出した甲第1号証等を、以下「甲1」等という。また、「甲1」に記載された発明あるいは事項を、それぞれ、「甲1発明」、「甲1事項」という。) 記 (1) 請求項1に係る発明について 本件特許の請求項1に係る発明は、甲1発明から当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 (2) 請求項2に係る発明について 本件特許の請求項2に係る発明は、甲1発明及び甲2事項から当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 <刊 行 物 一 覧> 甲1:特許第4388726号公報 甲2:特表2007-526859号公報 2. 刊行物の記載 甲1には、段落【0021】の【表1】、【0023】の記載があり、それらを総合すると、甲1には、以下の甲1発明が記載されている。 「タブが取り付けられるセンターパネル2の外周縁に、上方に向けた環状凹部を形成する強化環状溝3が連続して形成されるとともに、該強化環状溝3の外周縁から上方に向かうにしたがって漸次拡径するチャックウォール4が形成され、チャックウォール4から半径方向外方に広がるカール部5の内方を介して外周縁部を下方に向けて折り返してなるカール部5の外方が連続形成された缶蓋において、 板厚が0.25mmであり、 前記カール部の最外径が67.5mmであり、 前記カール部5の内方は上方に向けて凸となる円弧状に湾曲形成されるとともに、前記チャックウォール4は、半径方向内方に向けて凸となる湾曲部17と、半径方向外方に向けて凸となる湾曲部18とが前記強化環状溝3の外周縁から前記カール部5の内方の内周縁にかけて順に形成され、 前記湾曲部17の曲率半径が2.1mm、 前記湾曲部18の曲率半径が0.65mm、 前記強化環状溝3の内底面の曲率半径が0.52mmであり、 かつ、前記カール部5の内方からカール部5の外方にかけた部分の頂点からセンターパネル2までの鉛直方向寸法をパネル深さとしたときの前記パネル部の外径が51.98mmであり、 前記センターパネル2の外径に対する前記パネル深さの比率が10.42%で、 かつ缶蓋の全体高さが7.09mmである、 缶蓋」 3. 当審の判断 本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1、2に係る発明を、以下「本件発明1」等という。 (1)本件発明1について ア.対比 本件発明1と甲1発明とを対比すると、少なくとも以下の点で両者は相違する。 <相違点1> 本件発明1は、「D:前記ショルダー部外面と前記第1湾曲部外面との共通接線が前記パネル部外面となす角度が55°?70°」であるのに対し、甲1発明がそのようなものであるかが明らかではない点。 <相違点2> 本件発明1は、「E:前記共通接線から前記第2湾曲部外面までの最大距離が0.3mm?0.6mm」であるのに対し、甲1発明がそのようなものであるかが明らかではない点。 <相違点3> 本件発明1は、「F:前記第2湾曲部外面と前記カウンターシンク部の内底面との共通接線から前記第1湾曲部外面までの最大距離が0.4mm?0.7mm」とされているのに対し、甲1発明がそのようなものであるかが明らかではない点。 <相違点4> 本件発明1は、「缶体に巻き締めたときの巻き締め部の最外径D2に対する前記パネル部の外径D1の比が0.69?0.84である」のに対し、甲1発明がそのようなものであるかが明らかではない点。 <相違点5> 本件発明1は「板厚が0.240mm以下」であるのに対して、甲1発明では0.25mmである点。 <相違点6> 本件発明1は、「カール部の最外径が62.4mm以下」であるのに対して、甲1発明は67.5mmである点。 <相違点7> 本件発明1は「パネル部の外径が48.9mm以下」であるのに対して、甲1発明がそのようなものであるか特定されていない点。 イ.判断 本件訂正後の特許明細書には、以下の記載がある。 「【発明が解決しようとする課題】 【0004】 ・・・内容物が充填された缶は、殺菌のため熱処理された後、複数本ずつカートンに詰められた状態で各地に輸送されるが、その熱処理時に内圧が高まることにより、缶蓋中央のパネル部が膨出する現象が生じる。その膨出により、缶蓋のタブが缶の上端よりも突出する状態になると、タブを外力から保護できなくなるので、不良品(いわゆるバルジ不良)として処分される。また、パネル部がさらに膨出すると、カウンターシンク部が反転するバックリング現象が生じる場合もある。そのようなバルジ不良やバックリングとなるほどの膨出が生じない場合でも、カートンに詰められて長距離輸送される際に、その振動によりタブがカートンに接触するなどの原因で漏れが生じるおそれがある。 また一方では、材料コストの低減のため、缶蓋の板厚を薄肉化することも求められており、このため、さらなる耐圧性の向上が求められている。 【0005】 本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、耐圧性を高めて、バルジ不良や輸送時の漏えいの発生を防止することができる缶蓋を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0006】 本発明の缶蓋は、タブが取り付けられるパネル部の外周縁に、上方に向けた環状凹部を形成するカウンターシンク部が連続して形成されるとともに、該カウンターシンク部の外周縁から上方に向かうにしたがって漸次拡径するチャック壁部が形成され、該チャック壁部から半径方向外方に広がるショルダー部を介して外周縁部を下方かつ半径方向内方に向けて折り返してなるカール部が連続形成された缶蓋において、板厚が0.240mm以下で、前記カール部の最外径が62.4mm以下であり、前記ショルダー部は上方に向けて凸となる円弧状に湾曲形成されるとともに、前記ショルダー部は上方に向けて凸となる円弧状に湾曲形成されるとともに、前記チャック壁部は、半径方向内方に向けて凸となる第1湾曲部と、半径方向外方に向けて凸となる第2湾曲部とが前記カウンターシンク部の外周縁から前記ショルダー部の内周縁にかけて順に形成され、前記第1湾曲部外面の曲率半径が1.2mm?4.0mm、前記第2湾曲部外面の曲率半径が0.6mm?3.0mm、前記ショルダー部外面と前記第1湾曲部外面との共通接線が前記パネル部外面となす角度が55°?70°とされ、前記共通接線から前記第2湾曲部外面までの最大距離が0.3mm?0.6mmとされ、前記第2湾曲部外面と前記カウンターシンク部の内底面との共通接線から前記第1湾曲部外面までの最大距離が0.4mm?0.7mmとされ、前記カウンターシンク部の内底面の曲率半径が0.75mm以下であり、かつ、前記ショルダー部からカール部にかけた部分の頂点からパネル部表面までの鉛直方向寸法をパネル深さとしたときの前記パネル部の外径が48.9mm以下、前記パネル部の外径に対する前記パネル深さの比率が10.17%以上でかつ缶蓋の全体高さが7.2mm以下であり、缶体に巻き締めたときの巻き締め部の最外径D2に対する前記パネル部の外径D1の比が0.69?0.84であることを特徴とする。 【0007】 つまり、タブが缶の上端より上方に突出するのは、パネル部が上方に持ち上がるように変位することによるものであり、したがって、このパネル部の変位を抑制することにより、バルジ不良や輸送時の漏れを防止することができる。このため、本発明の缶蓋では、カウンターシンク部の内底面の曲率半径を0.75mm以下と小さくして、カウンターシンク部の変形強度を高めることにより、カウンターシンク部を起点とするパネル部の変位を抑制するとともに、パネル部の外径とパネル深さとの比率を10.17%以上とすることにより、パネル部の外径に対するパネル深さを比較的大きい設計として、パネル部が膨出してもタブが缶の上端から突出しにくくした。その効果を得るには10.17%以上必要であるが、缶蓋の全体高さが7.2mmを超えると、充填時の缶蓋供給の際にトラブルが発生したり、充填速度の高速化を妨げるなどの不都合が生じる。 また、チャック壁部については、半径方向内方に凸となる第1湾曲部と半径方向外方に凸となる第2湾曲部とにより、内圧が作用すると、湾曲部の曲率を拡大又は縮小することによって変形を吸収して、パネル部の膨出やバックリングの発生を防止することができる。 【0008】 また、本発明の缶蓋において、前記パネル部から前記カウンターシンク部に至るコーナー部は、前記パネル部に隣接状態の内側屈曲部と、前記カウンターシンク部の内側壁部に隣接状態の外側屈曲部と、これら両屈曲部の間を連結する傾斜部とから構成されているとよい。 コーナー部に傾斜部を有する分、パネル部の外周縁がカウンターシンク部から離間させられる。したがって、カウンターシンク部及びその外側のチャック壁部の形状、寸法を変えることなく、パネル部の外径を小さくすることができ、パネル部の膨出をさらに抑制することができる。 【発明の効果】 【0009】 本発明の缶蓋によれば、カウンターシンク部の曲率半径を小さくして、カウンターシンク部の変形強度を高めることにより、カウンターシンク部を起点とするパネル部の変位を抑制するとともに、パネル部の外径に対するパネル深さを比較的大きい設計としてタブが缶の上端から突出しにくくしている。また、チャック壁に半径方向内方に凸となる第1湾曲部と半径方向外方に凸となる第2湾曲部とを設けたことにより、内圧に対する変形を吸収することができる。これらの相乗作用により、耐圧性を高めて、バルジ不良やバックリング、輸送時の漏えいの発生を防止することができる。」 そうすると、本件発明1は、内容物が充填された缶が、殺菌のため熱処理時に内圧が高まることにより、缶蓋中央のパネル部が膨出し、缶蓋のタブが缶の上端よりも突出する状態になると、不良品(いわゆるバルジ不良)として処分されたり、また、パネル部がさらに膨出すると、カウンターシンク部が反転するバックリング現象が生じる場合があり、さらに、そのようなバルジ不良やバックリングに匹敵するほどの膨出が生じない場合でも、カートンに詰められて長距離輸送される際に、その振動によりタブがカートンに接触するなどの原因で漏れが生じるおそれがあるといった問題点を、缶蓋の板厚を薄肉化しコストを削減しつつ、解決しようとしたものである。(段落【0004】) そのために、本件発明1は、上記相違点1?4に係る構成を含む特定事項を備えたものであり、カウンターシンク部の外周縁からショルダー部の内周縁までの間のチャック壁部を第1湾曲部と第2湾曲部とにより構成し、それぞれの曲率半径、特定の共通接線からの深さ、上記の角度を規定し、これに加えて、パネル部の外径、パネル部の外径に対するパネル深さの比率、缶蓋の全体高さ、巻き締め部の最外径に対するパネル部の外径の比をそれぞれ規定することで、カウンターシンク部の曲率半径を小さくして、カウンターシンク部の変形強度を高めることにより、カウンターシンク部を起点とするパネル部の変位を抑制するとともに、パネル部の外径に対するパネル深さを比較的大きい設計としてタブが缶の上端から突出しにくくしている。また、チャック壁に半径方向内方に凸となる第1湾曲部と半径方向外方に凸となる第2湾曲部とを設けたことにより、内圧に対する変形を吸収することができる。これらの相乗作用により、耐圧性を高めて、バルジ不良やバックリング、輸送時の漏えいの発生を防止することができる。さらに、上記相違点5?7に係る構成を本件発明1は備えるから、上記相乗効果を発揮しつつも、板厚が薄く、カール部の最外径やパネル部の外径が小さい缶蓋、すなわち、材料コストが削減でき、カール部の最外径やパネル部の外径が小さい小型軽量の缶蓋が提供できるとの、格別な作用効果を奏する。 一方、甲1には、甲1発明が相違点1?7を備えることについて記載もないし示唆する記載もない。そもそも、甲1には、缶の内圧上昇時に、センターパネル2に取り付けたタブが缶の上端から突出することの記載もないし示唆する記載もない。 また、甲2にも、缶蓋において上記相違点1?7に係る構成を備えることは記載されていないし、甲1発明が上記相違点1-7に係る構成を備えるべきものであることを示唆する記載もない。 以上のとおりであるから、甲1発明について、上記相違点1?7における本件発明1に係る構成を備えたものとすることは、当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。 したがって、本件発明1は、甲1発明及び甲2事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえない。 なお、申立人は、平成30年10月12日付け意見書の「3.意見の内容」において、相違点5?7に係る構成は甲2に記載された事項であるから、本件発明1は、甲1発明に甲2事項を適用することで、当業者が容易に発明をすることができたものである旨、主張する。 しかし、甲2事項には、相違点5?7に係る甲1発明の構成が記載されていたとしても、相違点5?7に係る構成を備えることで、上記本件発明1が奏する格別な作用効果を生じせしめるとの技術的思想までもが記載されてはいないし、かつ、示唆する記載もないから、甲2事項のうち、上記構成のみを取り出して甲1発明に適用しようとすることの動機付けは、甲1発明にはなく、上記申立人の意見を採用することはできない。 (2)本件発明2について 本件発明2は、本件発明1を引用するものである。そうすると、上記(1)で示したように本件発明1は、甲1発明及び甲2事項から当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1の特定事項の全てを包含し、さらに限定された本件発明2も、甲1発明及び甲2事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえない。 (3)小括 上記(1)及び(2)に示したように、本件発明1及び2は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえないから、それらの特許は、特許法第113条第2号に該当することを理由として、取り消すことはできない。 第5 むすび 以上のとおりであるから、本件発明1及び2に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由によっては、取り消すことができない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 缶蓋 【技術分野】 【0001】 本発明は、飲料用缶に用いられる缶蓋に係り、特に、内圧が作用する陽圧缶に用いられる缶蓋に関する。 本願は、2010年9月22日に出願された特願2010-212852号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。 【背景技術】 【0002】 内容物としてビールや炭酸飲料等の発泡性飲料を充填する場合、あるいは、お茶やコーヒー等の非発泡性飲料でも充填時に液体窒素が封入される場合など、密封した後に内圧が作用する、いわゆる陽圧缶では、その内圧に耐え得る強度を有することが要求される。例えば、缶蓋の耐圧強度を高めるために、カウンターシンク部の幅を小さくしたり、チャック壁部の形状を工夫したりするなど、種々の提案がなされている。 特許文献1記載の缶蓋は、鉛直方向に対するチャック壁部の傾斜角度を大きくして、カウンターシンク部の直径を小さくするとともに、そのカウンターシンク部の幅を狭くした形状とされている。 また、特許文献2記載の缶蓋は、チャック壁部を複数の湾曲部の連続形状とするとともに、カウンターシンク部の内側のパネル部との間のコーナー部を大きく傾斜させることにより、パネル部の直径を小さくした形状とされている。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0003】 【特許文献1】特許第3809190号公報 【特許文献2】特表2007-526859号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0004】 ところで、内容物が充填された缶は、殺菌のため熱処理された後、複数本ずつカートンに詰められた状態で各地に輸送されるが、その熱処理時に内圧が高まることにより、缶蓋中央のパネル部が膨出する現象が生じる。その膨出により、缶蓋のタブが缶の上端よりも突出する状態になると、タブを外力から保護できなくなるので、不良品(いわゆるバルジ不良)として処分される。また、パネル部がさらに膨出すると、カウンターシンク部が反転するバックリング現象が生じる場合もある。そのようなバルジ不良やバックリングとなるほどの膨出が生じない場合でも、カートンに詰められて長距離輸送される際に、その振動によりタブがカートンに接触するなどの原因で漏れが生じるおそれがある。 また一方では、材料コストの低減のため、缶蓋の板厚を薄肉化することも求められており、このため、さらなる耐圧性の向上が求められている。 【0005】 本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、耐圧性を高めて、バルジ不良や輸送時の漏えいの発生を防止することができる缶蓋を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0006】 本発明の缶蓋は、タブが取り付けられるパネル部の外周縁に、上方に向けた環状凹部を形成するカウンターシンク部が連続して形成されるとともに、該カウンターシンク部の外周縁から上方に向かうにしたがって漸次拡径するチャック壁部が形成され、該チャック壁部から半径方向外方に広がるショルダー部を介して外周縁部を下方かつ半径方向内方に向けて折り返してなるカール部が連続形成された缶蓋において、板厚が0.240mm以下で、前記カール部の最外径が62.4mm以下であり、前記ショルダー部は上方に向けて凸となる円弧状に湾曲形成されるとともに、前記チャック壁部は、半径方向内方に向けて凸となる第1湾曲部と、半径方向外方に向けて凸となる第2湾曲部とが前記カウンターシンク部の外周縁から前記ショルダー部の内周縁にかけて順に形成され、前記第1湾曲部外面の曲率半径が1.2mm?4.0mm、前記第2湾曲部外面の曲率半径が0.6mm?3.0mm、前記ショルダー部外面と前記第1湾曲部外面との共通接線が前記パネル部外面となす角度が55°?70°とされ、前記共通接線から前記第2湾曲部外面までの最大距離が0.3mm?0.6mmとされ、前記第2湾曲部外面と前記カウンターシンク部の内底面との共通接線から前記第1湾曲部外面までの最大距離が0.4mm?0.7mmとされ、前記カウンターシンク部の内底面の曲率半径が0.75mm以下であり、かつ、前記ショルダー部からカール部にかけた部分の頂点からパネル部表面までの鉛直方向寸法をパネル深さとしたときの前記パネル部の外径が48.9mm以下、前記パネル部の外径に対する前記パネル深さの比率が10.17%以上でかつ缶蓋の全体高さが7.2mm以下であり、缶体に巻き締めたときの巻き締め部の最外径D2に対する前記パネル部の外径D1の比が0.69?0.84であることを特徴とする。 【0007】 つまり、タブが缶の上端より上方に突出するのは、パネル部が上方に持ち上がるように変位することによるものであり、したがって、このパネル部の変位を抑制することにより、バルジ不良や輸送時の漏れを防止することができる。このため、本発明の缶蓋では、カウンターシンク部の内底面の曲率半径を0.75mm以下と小さくして、カウンターシンク部の変形強度を高めることにより、カウンターシンク部を起点とするパネル部の変位を抑制するとともに、パネル部の外径とパネル深さとの比率を10.17%以上とすることにより、パネル部の外径に対するパネル深さを比較的大きい設計として、パネル部が膨出してもタブが缶の上端から突出しにくくした。その効果を得るには10.17%以上必要であるが、缶蓋の全体高さが7.2mmを超えると、充填時の缶蓋供給の際にトラブルが発生したり、充填速度の高速化を妨げるなどの不都合が生じる。 また、チャック壁部については、半径方向内方に凸となる第1湾曲部と半径方向外方に凸となる第2湾曲部とにより、内圧が作用すると、湾曲部の曲率を拡大又は縮小することによって変形を吸収して、パネル部の膨出やバックリングの発生を防止することができる。 【0008】 また、本発明の缶蓋において、前記パネル部から前記カウンターシンク部に至るコーナー部は、前記パネル部に隣接状態の内側屈曲部と、前記カウンターシンク部の内側壁部に隣接状態の外側屈曲部と、これら両屈曲部の間を連結する傾斜部とから構成されているとよい。 コーナー部に傾斜部を有する分、パネル部の外周縁がカウンターシンク部から離間させられる。したがって、カウンターシンク部及びその外側のチャック壁部の形状、寸法を変えることなく、パネル部の外径を小さくすることができ、パネル部の膨出をさらに抑制することができる。 【発明の効果】 【0009】 本発明の缶蓋によれば、カウンターシンク部の曲率半径を小さくして、カウンターシンク部の変形強度を高めることにより、カウンターシンク部を起点とするパネル部の変位を抑制するとともに、パネル部の外径に対するパネル深さを比較的大きい設計としてタブが缶の上端から突出しにくくしている。また、チャック壁に半径方向内方に凸となる第1湾曲部と半径方向外方に凸となる第2湾曲部とを設けたことにより、内圧に対する変形を吸収することができる。これらの相乗作用により、耐圧性を高めて、バルジ不良やバックリング、輸送時の漏えいの発生を防止することができる。 【図面の簡単な説明】 【0010】 【図1】本発明の実施形態における缶蓋の要部の縦断面図である。 【図2】図1における缶蓋を缶体に巻き締めた状態を示す縦断面図である。 【図3】缶蓋の振動漏れ試験を実施する際のカートンの積載状態を示すモデル図である。 【発明を実施するための形態】 【0011】 以下、本発明に係る缶蓋の実施形態を図面を参照しながら説明する。 この実施形態の缶蓋1は、図1及び図2に示すように、その中央部分に配置される円板状をなすパネル部2と、パネル部2の外周縁からコーナー部3を介して連続し下方に向けた環状凹部4を形成するカウンターシンク部5と、カウンターシンク部5の外周縁から上方に向けてほぼ拡径しながら延在するチャック壁部6と、チャック壁部6の外周縁から連なるショルダー部7と、ショルダー部7に連続するカール部8とから構成されている。 【0012】 パネル部2は、全体としては円板状に形成され、その中心にタブが取り付けられるとともに、上面に、このタブを起こすことによって開口され飲み口となるスコア及びそのスコアの周辺を補強するビード、タブを起こす際の指掛け部を形成するための凹部等(いずれも図示略)が形成されていることにより、若干の凹凸が形成される。 【0013】 パネル部2とカウンターシンク部5との間のコーナー部3は、パネル部2の外周縁に連なる上向き凸状の内側屈曲部11と、カウンターシンク部5の内側壁部12に連なる上向き凸状の外側屈曲部13と、これら両屈曲部11,13の間を連結する傾斜部14とが連続して形成された形状とされている。 【0014】 カウンターシンク部5では、コーナー部3に連なる内側壁部12が鉛直下方に向かうに従ってわずかに拡径するように延びており、その内側壁部12の下縁から内側湾曲部15及びその外側に外側湾曲部16が連続している。これら湾曲部15,16は、カウンターシンク部5の底部を半分ずつ形成するように、内側湾曲部15は、下方かつ半径方向内方に向けて凸となる形状とされ、外側湾曲部16は、下方かつ半径方向外方に向けて凸となる形状とされている。そして、その外側湾曲部16から上方に向けて若干拡径しながら外側壁部17が延びており、これら内側壁部12、内側湾曲部15、外側湾曲部16、外側壁部17によってほぼU字状の断面のカウンターシンク部5が構成されている。 この場合、内側湾曲部15及び外側湾曲部16とも、その内周面の曲率半径R1,R2はほぼ同じ寸法に形成されている。また、内側壁部12及び外側壁部17が下方に向かうにしたがって徐々に接近するように傾斜していることにより、環状凹部4は、下方に向かうにしたがって徐々に幅が狭くなっている。 【0015】 チャック壁部6は、カウンターシンク部5の外側壁部17の上端縁に連続し半径方向内方に向けて凸となるように湾曲した第1湾曲部18と、第1湾曲部18の上端縁に連続し半径方向外方に向けて凸となるように湾曲した第2湾曲部19とからなる形状とされており、これら第1湾曲部18及び第2湾曲部19の連続形状により、全体としては上方に向けて拡径する形状とされている。 ショルダー部7は、チャック壁部6の第2湾曲部19の上端縁(外周縁)に連続し、上方に向けて凸となるように湾曲しながら拡径して半径方向外方に延びている。この場合、チャック壁部6の第2湾曲部19は、その内周面(缶蓋1としては外面)を斜め上方に向けた状態に湾曲していることから、全体としては下方から上方に向かうにしたがって漸次拡径する形状とされており、この第2湾曲部19に連続するショルダー部7も下方から上方に向けて拡径している。 カール部8は、ショルダー部7の外周縁に連続して半径方向外方に延在し、その外周縁部を下方かつ半径方向内方に向けて折り返してなる形状とされている。 【0016】 一方、この缶蓋1が巻き締められる缶体21は、有底筒状の胴部(図示略)から縮径したネック部22の上端に、屈曲部23を介して外向きのフランジ部24が連続して形成された形状とされている。 この缶体21に缶蓋1が被せられると、缶体21の屈曲部23に缶蓋1のショルダー部7における外周面(缶蓋1としては内面)側の凹面が対向するように配置され、フランジ部24の上面にショルダー部7からカール部8にかけた裏面が対向して配置される。そして、その状態で、缶蓋1のカール部8を缶体21のフランジ部24と一体に巻き込みながら円周方向に沿って巻き締めると、カール部8の巻き込み部の中に折り返された状態のフランジ部24が入り込んで缶蓋1と缶体21とが相互に相手を挟み込んでなる二重巻き締め部25が形成される。 【0017】 このように構成される缶蓋1において、公称径が204(缶体21に缶蓋1を巻き締めた後の巻き締め部25の最外径D2が56.5?56.7mm、巻き締め前の缶蓋1のカール部8の最外径が62.0?62.4mm)の場合、パネル部2の外径D1は、40.0?48.69mmとされ、パネル深さPは、4.25?5.05mmとされる。パネル深さPとは、缶蓋1を缶体21に巻き締める前のショルダー部7からカール部8にかけた部分の頂点からパネル部2表面までの鉛直方向寸法をいう。また、カウンターシンク部5の内底面を形成している両湾曲部15,16の曲率半径(缶蓋1としての外面側の曲率半径)R1,R2は、両方とも0.15?0.75mmとされる。その範囲であれば、両湾曲部15,16とも同じ曲率半径としてもよいし、異なる曲率半径としてもよい。 また、第1湾曲部18外面の曲率半径R3は1.2mm?4.0mm、第2湾曲部19外面の曲率半径R4は0.6mm?3.0mmに設定される。また、ショルダー部7外面の曲率半径R5は1.2mm?4.0mmに設定される。そして、ショルダー部7外面と第1湾曲部18外面との共通接線Aがパネル部2外面となす角度θが55°?70°とされ、共通接線Aから第2湾曲部19外面までの最大距離L1が0.3mm?0.6mmとされる。また、第2湾曲19部外面とカウンターシンク部5の内底面における外側湾曲部16との共通接線Bから第1湾曲部18外面までの最大距離L2が0.4mm?0.7mmとされている。 【0018】 公称径が202(巻き締め部25の最外径D2が53.6?54.4mm、巻き締め前の缶蓋1のカール部8の最外径が59.2?59.6mm)の場合は、パネル部2の外径D1は、38.0?46.36mmとされ、パネル深さPは、3.8?4.79mmとされる。カウンターシンク部5の内底面における両湾曲部15,16の曲率半径R1,R2は、204の場合と同様、両方とも0.15?0.75mmとされる。また、ショルダー部7外面の曲率半径R5、ショルダー部7外面と第1湾曲部18外面との共通接線Aがパネル部2外面となす角度θ、共通接線Aから第2湾曲部19外面までの最大距離L1、第2湾曲部19外面とカウンターシンク部5の内底面における外側湾曲部16との共通接線Bから第1湾曲部18外面までの最大距離L2も204の場合と同様の寸法設定とされる。 【0019】 公称径が206(巻き締めた後の巻き締め部25の最外径D2が59.2?59.4mm、巻き締め前の缶蓋1のカール部8の最外径が64.5?64.9mm)の場合は、パネル部2の外径D1は、42.0?48.9mmとされ、パネル深さPは、4.3?5.05mmとされる。カウンターシンク部5の内底面における両湾曲部15,16の曲率半径R1,R2は、両方とも0.15?0.75mmとされる。ショルダー部7外面の曲率半径R5、ショルダー部7外面と第1湾曲部18外面との共通接線Aがパネル部2外面となす角度θ、共通接線Aから第2湾曲部19外面までの最大距離L1、第2湾曲部19外面とカウンターシンク部5の内底面における外側湾曲部16との共通接線Bから第1湾曲部18外面までの最大距離L2も204の場合と同様の寸法設定とされる。 【0020】 いずれの場合も、内圧によってパネル部2が図1の鎖線で示すようにわずかに膨出するが、その膨出変形によってタブが缶の上端面から突出しないようにするためには、パネル部2の外径D1に対するパネル深さPの比率(P/D1)が重要な要因であり、これを10.17%以上とすることが好ましい。10.17%未満の場合は、内圧によってパネル部2が膨出したときに、タブの一部が缶の上端から突出し易く、一方、この比率(P/D1)が大きくなり過ぎることにより、缶蓋1の全体高さhが7.2mmを超えると、巻き締め機において缶体21に缶蓋1を供給するときのパスラインを高さが大きくなった分、調整する必要があるとともに、供給時にジャム発生などの不都合が生じ易く、また、缶体21の上方に送られた缶蓋1が缶体21のフランジ部24に載置されるまでのストロークも大きくなり、その分、高速充填を妨げるおそれがある。したがって、この缶蓋1の全体高さhは7.2mm以内が好ましい。 【0021】 また、チャック壁部6が第1湾曲部18及び第2湾曲部19により構成されているため、外力が加わった場合においても、各湾曲部18,19の曲率が拡大または縮小することで外力による変形を吸収し、缶蓋1の変形を抑制することが可能になり、パネル部2の膨出、又はバックリングの発生を抑えることができる。 特に、缶蓋1が膨出変形し、カウンターシンク部5が反転しようとした場合に、第1湾曲部18外面の曲率半径R3が1.2mm?4.0mm、第2湾曲部19外面の曲率半径R4が0.6mm?3.0mmに設定されているため、バックリング時の応力集中を避けることができる。第1湾曲部18の曲率半径R3が1.2mm未満、あるいは第2湾曲部19の曲率半径R4が0.6mm未満であると、バックリング強度が高まり、バックリングは起こりにくくなるが、湾曲部形成のためのプレス加工が厳しくなるとともに、万一バックリングした場合に応力集中し易く、このため亀裂が入り易く、内容物が漏出するおそれがある。一方、第1湾曲部18の曲率半径R3が4.0mmを超え、あるいは第2湾曲部19の曲率半径R4が3.0mmを超えると、バックリング時の衝撃を緩衝するためのバネ作用が低下してしまう。 また、第1湾曲部18及び第2湾曲部19が交互に逆方向に湾曲しているため、これら湾曲部18,19が缶の半径方向内方あるいは半径方向外方のいずれに変形しても、弾性変形によるバネ作用によって、変形を吸収することができ、膨出変形又はバックリングが生じにくくなる。また、仮に、缶内圧が上昇し、カウンターシンク部5が反転した場合においても、その変形速度を両湾曲部18,19の弾性により緩和させながら変形し、すなわち、この部分に作用するエネルギーを緩和させることが可能になり、亀裂が発生することを抑制することができ、内容物の漏出を抑えることが可能なる。 【0022】 この場合、ショルダー部7外面と第1湾曲部18外面との共通接線Aがパネル部2外面となす角度θが55°?70°としたが、この角度θが小さいと、パネル部2が小径となって耐圧強度は高まるが、パネル部2の径が小さくなり、小径となったパネル部2に設けた飲み口も同様に小さくなり、内容物の注ぎ性が著しく低下する。また、角度θが大きいと、パネル部2の径が大きくなり、耐圧強度の低下を招く。したがって、この角度θは、55°?70°が好ましい。 また、共通接線Aから第2湾曲部19外面までの最大距離L1が0.3mm?0.6mmとしたが、この距離L1が大きいとパネル部2の膨出は小さくなるが、バックリング強度は低下する。距離L1が小さいと缶体21との隙間が大きくなって密封性を損なうおそれがある。このため、距離L1は0.3mm?0.6mmとするのがよい。 さらに、第2湾曲19部外面とカウンターシンク部5の内底面における外側湾曲部16との共通接線Bから第1湾曲部18外面までの最大距離L2は0.4mm?0.7mmとしたが、この距離L2が小さいと耐圧強度が低下し、大きいとカウンターシンク部5を狭めることになって巻き締め不良となり易い。このため、この距離L2は0.4mm?0.7mmとするのがよい。 【0023】 次に、このように構成した缶蓋1について、そのパネル部2の外径D1、パネル深さP等の各部寸法を変えた種々のサンプルを作成し、振動漏れ試験、耐圧試験等を実施した。 使用した缶蓋及び缶体は、その公称径が204、202、206の三種類とした。缶蓋の板厚Tは、204の場合が0.215?0.230mm、202の場合が0.215?0.230mm、206の場合が0.215?0.250mmとした。カウンターシンク部5の内底面の曲率半径は、内側湾曲部も外側湾曲部も同じ曲率半径としたので、各表ではRとして統一した。また、第1湾曲部の曲率半径R3、第2湾曲部の曲率半径R4、ショルダー部の曲率半径R5、共通接線Aの角度θ、共通接線Aからの最大距離L1、共通接線Bからの最大距離L2は、前述した数値範囲内のものとした。 表1は公称径204、表2が公称径202、表3が公称径206の場合をそれぞれ示している。 【0024】 振動漏れ試験は、株式会社振研製の三方向同時振動試験装置を用い、図3に示すように、内容物を充填した缶31を24缶カートン32に入れ、その上にダミー用の缶33を入れたカートン34を2ケース載せ、さらにその上に錘35を載せた状態とする。これらカートン32,34は、24個並べた缶を周回するように組み立てられており、その周回方向には一箇所にのみ折り込み部32a,34aが形成される。そして、各カートン32,34の折り込み部32a,34aを同じ方向に合わせた状態に配置する。錘35は、51kg、振動数は10Hz、振幅は5mm、振動方向は上下方向のみとし、5分毎に漏れ発生を確認し、カートン32内のいずれかの缶31で漏れが生じた時間により評価した。30分以上漏れが発生しなかったものを良品とする。図3の符号36はカートン32,34の周囲に配置されるガイドである。 【0025】 耐圧試験は、空の缶体に缶蓋を巻き締めた状態とし、缶体を中間部で切断した後、有限会社フローリスエンタープライズ製の耐圧試験装置を使用し、100kPa/30秒の昇圧速度で水圧をかけて、缶蓋の一部が部分的に突出する角出しと呼ばれるバックリング現象やスコア割れが生じたときの圧力を測定した。570kPaまでバックリングやスコア割れが生じなかったものを良品とする。 総合判定は、これら振動漏れ試験及び耐圧試験で良品とされ、かつ、缶蓋の全体高さが7.2mm以内のものを○、これらのうちのいずれかの基準を満たさなかったものを×とした。 【0026】 【表1】 【0027】 【表2】 【0028】 【表3】 【0029】 これらの結果から明らかなように、パネル部2の外径D1に対するパネル深さPの比率(P/D1)が10.17%以上である缶蓋においては、振動漏れ試験でも30分以上という基準を満たしており、また、耐圧試験においても良好な耐圧性を発揮し、さらに缶蓋の全体高さが7.2mm以下に抑えられていると、充填時のトラブル発生や充填速度低下を招くおそれはない。 【0030】 なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能である。 例えば、パネル部とカウンターシンク部との間のコーナー部を二つの屈曲部の間に傾斜部を形成した形状としたが、パネル部とカウンターシンク部の内側壁部との間を一つの曲率半径の屈曲部で連続させた形状としてもよい。 【産業上の利用可能性】 【0031】 本発明の缶蓋は、飲料用缶、特に内圧が作用する陽圧缶に好適に用いられる。 【符号の説明】 【0032】 1 缶蓋 2 パネル部 3 コーナー部 4 環状凹部 5 カウンターシンク部 6 チャック壁部 7 ショルダー部 8 カール部 11 内側屈曲部 12 内側壁部 13 外側屈曲部 14 傾斜部 15 内側湾曲部 16 外側湾曲部 17 外側壁部 18 第1湾曲部 19 第2湾曲部 21 缶体 22 ネック部 23 屈曲部 24 フランジ部 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 タブが取り付けられるパネル部の外周縁に、上方に向けた環状凹部を形成するカウンターシンク部が連続して形成されるとともに、該カウンターシンク部の外周縁から上方に向かうにしたがって漸次拡径するチャック壁部が形成され、該チャック壁部から半径方向外方に広がるショルダー部を介して外周縁部を下方かつ半径方向内方に向けて折り返してなるカール部が連続形成された缶蓋において、板厚が0.240mm以下で、前記カール部の最外径が62.4mm以下であり、前記ショルダー部は上方に向けて凸となる円弧状に湾曲形成されるとともに、前記チャック壁部は、半径方向内方に向けて凸となる第1湾曲部と、半径方向外方に向けて凸となる第2湾曲部とが前記カウンターシンク部の外周縁から前記ショルダー部の内周縁にかけて順に形成され、前記第1湾曲部外面の曲率半径が1.2mm?4.0mm、前記第2湾曲部外面の曲率半径が0.6mm?3.0mm、前記ショルダー部外面と前記第1湾曲部外面との共通接線が前記パネル部外面となす角度が55°?70°とされ、前記共通接線から前記第2湾曲部外面までの最大距離が0.3mm?0.6mmとされ、前記第2湾曲部外面と前記カウンターシンク部の内底面との共通接線から前記第1湾曲部外面までの最大距離が0.4mm?0.7mmとされ、前記カウンターシンク部の内底面の曲率半径が0.75mm以下であり、かつ、前記ショルダー部からカール部にかけた部分の頂点からパネル部表面までの鉛直方向寸法をパネル深さとしたときの前記パネル部の外径が48.9mm以下、前記パネル部の外径に対する前記パネル深さの比率が10.17%以上でかつ缶蓋の全体高さが7.2mm以下であり、缶体に巻き締めたときの巻き締め部の最外径D2に対する前記パネル部の外径D1の比が0.69?0.84であることを特徴とする缶蓋。 【請求項2】 前記パネル部から前記カウンターシンク部に至るコーナー部は、前記パネル部に隣接状態の内側屈曲部と、前記カウンターシンク部の内側壁部に隣接状態の外側屈曲部と、これら両屈曲部の間を連結する傾斜部とから構成されていることを特徴とする請求項1記載の缶蓋。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2018-10-31 |
出願番号 | 特願2016-120013(P2016-120013) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(B65D)
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最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 植前 津子 |
特許庁審判長 |
渡邊 豊英 |
特許庁審判官 |
竹下 晋司 久保 克彦 |
登録日 | 2017-09-08 |
登録番号 | 特許第6205461号(P6205461) |
権利者 | ユニバーサル製缶株式会社 コンテナ・ディベロップメント・リミテッド |
発明の名称 | 缶蓋 |
代理人 | 青山 正和 |
代理人 | 青山 正和 |
代理人 | 青山 正和 |