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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B23K
審判 全部申し立て 2項進歩性  B23K
管理番号 1346783
異議申立番号 異議2018-700396  
総通号数 229 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-01-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-05-14 
確定日 2018-11-30 
異議申立件数
事件の表示 特許第6229813号発明「はんだ付け用フラックス及びソルダペースト」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6229813号の請求項1?4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6229813号(以下「本件特許」という。)の請求項1?4に係る特許についての出願(特願2017-136138)は、平成29年 7月12日の出願であって、平成29年10月27日にその特許権の設定登録がされ、同年11月15日付け特許掲載公報が発行されたものである。
その後、平成30年 5月14日に、本件特許について、特許異議申立人伊藤茂(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年 7月26日付けで、当審より取消理由が通知され、同年 9月28日に特許権者より意見書が提出され、同年10月18日付けで、当審より特許権者に対して審尋が通知され、同年11月12日に特許権者より回答書が提出されたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?4に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明4」という。)は、特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
多糖類、変性多糖類または多糖類から変性多糖類へ変性途中の未完全変性多糖類のうちの1種以上からなるナノファイバーを、フラックス全量に対して50wt ppm以上3000wt ppm以下含有する
ことを特徴とするはんだ付け用フラックス。
【請求項2】
多糖類、変性多糖類または多糖類から変性多糖類へ変性途中の未完全変性多糖類のうちの1種以上からなるナノファイバーを、フラックス全量に対して100wt ppm以上500wt ppm以下含有する
ことを特徴とする請求項1に記載のはんだ付け用フラックス。
【請求項3】
多糖類、変性多糖類または多糖類から変性多糖類へ変性途中の未完全変性多糖類のうちの1種以上からなるナノファイバーは、セルロース、リグノセルロース、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、マレイン酸変性セルロース、キチン、キトサンの何れか、または2つ以上の組み合わせからなるナノファイバーである
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のはんだ付け用フラックス。
【請求項4】
請求項1?請求項3の何れかに記載のはんだ付け用フラックスと、金属粉を含むことを特徴とするソルダペースト。」

第3 特許異議申立理由、取消理由の概要
1 特許異議申立理由の概要
申立人は、証拠として甲第1号証?甲第10号証を提出し、以下の理由により、請求項1?4に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
(1)申立理由1
請求項1?4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2号証?甲第10号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

(2)申立理由2
請求項1?4に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、請求項1?4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してなされたものである。

[証拠方法]
甲第1号証:特開2012-144388号公報
甲第2号証:特開2005-21974号公報
甲第3号証:特開2002-263884号公報
甲第4号証:マエコウ「セルロースナノファイバーの特徴・用途・課題とは?高強度の微細繊維は夢の新素材だった。」、[online]、2016年9月19日、[2018年2月7日検索]、インターネット<URL:http://www.maekawa-koichiro.com/entry/2016/09/19/151500>
甲第5号証:河崎雅行「セルロースナノファイバーの実用化に向けた検討-機能性添加剤の開発-」紙パルプ技協誌、2016年4月、第70巻第4号、第374頁?第378頁
甲第6号証:「セルロースナノファイバー関連サンプル提供企業一覧」2017年3月13日、部素材産業-CNF研究会(近畿経済産業局・(地独)京都市産業技術研究所)
甲第7号証:「【CNF】王子ホールディングス、CNF増粘剤「アウロ・ヴィスコ」を2017年4月より販売」[online]、平成29年4月、加工技術研究会、[2018年1月17日検索]、インターネット<URL:http://www.ctiweb.co.jp/jp/news/products-news/537-cnf-cnf-2017-4.html>
甲第8号証:「パルプの解繊と表面修飾をワンステップで同時処理 CNFを不織布へ積層、高空孔率フィルターに」コンバーテック2017年2月号、株式会社 加工技術研究会 発行、2017年2月15日、第28頁?第29頁
甲第9号証:後居洋介「TEMPO酸化セルロースナノファイバーの増粘剤としての特徴と実用化」Cellulose Commun. セルロース学会、平成28年12月1日、Vol.23,No.4,p187-189
甲第10号証:特開2016-193876号公報
以下、それぞれ「甲1」?「甲10」という。

2 取消理由の概要
平成30年 7月26日付け取消理由の概要は、次のとおりである。

(1)取消理由1
請求項1?4に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、請求項1?4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してなされたものである。

なお、取消理由1は、申立理由2を採用したものである。

第4 当審の判断
1 取消理由1 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
以下、この観点から検討する。

ア 発明が解決しようとする課題
発明の詳細な説明の記載(【0009】)によれば、本願の解決しようとする課題(以下、単に「課題」という。)は、「フラックス残渣への影響を抑制して加熱ダレの抑制効果が得られるはんだ付け用フラックス、及び、このはんだ付け用フラックスと金属粉を含むソルダペーストを提供すること」である。なお、下線は当審が付与した。以下同様。

イ 本件発明1が課題を解決し得るかについて
(ア)発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
「【実施例】
【0038】
以下の表1に示す組成で実施例と比較例のはんだ付け用フラックスを調合し、このはんだ付け用フラックスを使用してソルダペーストを調合して、加熱ダレについて検証した。なお。表1における組成率はwt(重量)%である。
【0039】
多糖類、変性多糖類または未完全変性多糖類のうちの1種以上からなるナノファイバーとして、実施例ではセルロースナノファイバーを使用した。多糖類であるセルロースは、木材、綿等の植物由来が一般的な物質である。セルロースは、天然高分子鎖がまとまってナノファイバーを形成し、更にこれが集合して繊維を形成している。セルロースナノファイバーは植物繊維由来であることから、生産・廃棄に関する環境負荷が小さい。
【0040】
セルロースナノファイバーは、取り扱いの容易性から、一般工業用のセルロースナノファイバーとして市販されているものを使用する。セルロースナノファイバーの市販品の具体例として、第一工業製薬株式会社製レオクリスタ1-2SPが挙げられる。
【0041】
セルロースナノファイバーの市販品は、セルロースナノファイバーを溶剤中に分散させてゲル化した形態で提供される。このように、多糖類、変性多糖類または未完全変性多糖類のうちの1種以上からなるナノファイバーを溶剤中に分散させてゲル化したものを、ナノファイバー組成物とも称す。表1においては、セルロースナノファイバーの含有量と、セルロースナノファイバーをゲル化した状態とする溶剤及び水についても含有量を開示している。【0042】
なお、実施例で使用されるセルロースナノファイバーは、ナノファイバー組成物がセルロースナノファイバー、溶剤及び水からなり、ナノファイバー組成物の全量を100重量部とした場合、セルロースナノファイバーを2wt%、溶剤を1wt%、水を97wt%含む。
【0043】
また、フラックス組成物は、実施例では、フラックス組成物の全量を100重量部とした場合、有機酸を6wt%、アミンを1wt%、アマイド系チキソ剤を23wt%、溶剤を70wt%含む。
【0044】
はんだ付け用フラックスにおけるセルロースナノファイバーの含有量は、ナノファイバー組成物とフラックス組成物を合わせた全量を100重量部とした場合の割合である。
【0045】
また、ソルダペースト中の金属粉は、Agが3.0質量%、Cuが0.5質量%、残部がSnであるSn-Ag-Cu系のはんだ合金であり、粒径はφ20?38μmである。更に、ソルダペーストは、はんだ付け用フラックスが11.5wt%、金属粉が88.5wt%である。
【0046】
<加熱ダレの評価>
(1)検証方法
加熱ダレ試験はJIS Z 3284-3図6に記載の所定のパターンでソルダペースト印刷部が形成されたステンレス製メタルマスクを使用して銅板にソルダペーストを印刷し、メタルマスクを取り除いた後、150℃/10minの加熱処理を行いソルダペーストの加熱ダレ性を数値化する。メタルマスクの厚みは0.2mm、ソルダペースト印刷部は四角形の開口で、大きさは3.0×1.5mmとなっている。ソルダペースト印刷部は、同じ大きさの複数の開口が間隔を異ならせて並び、開口の間隔Lは0.2-0.3-0.4-0.5-0.6-0.7-0.8-0.9-1.0-1.1-1.2mmとなっている。
【0047】
(2)判定基準
図1は、加熱ダレの試験結果を示す説明図である。上述した所定の間隔で印刷されたソルダペーストが、加熱後に一体とならない最小間隔L1で加熱ダレを判定した。なお、図1(a)は、セルロースナノファイバーの含有量が100wt ppm、図1(b)は、セルロースナノファイバーの含有量が2000wt ppm、図1(c)は、セルロースナノファイバーの含有量が0wt ppmの場合である。
○〇:加熱ダレの試験結果が0.6mm以下
〇:加熱ダレの試験結果が1.0mm以下
×:加熱ダレの試験結果が1.0mmを超える
【0048】
【表1】



「【0051】
また、セルロースナノファイバーを0.5wt%(=5000wt ppm)含む比較例2では、加熱ダレを抑制することができなかった。」

(イ)上記表1の記載によれば、実施例1?実施例6については、加熱ダレ試験の結果が【0047】で定義された「○」又は「○○」となっており、上記アの課題を解決しているといえる。
ここで、実施例1?実施例6は、「セルロースナノファイバー」として、市販品の「第一工業製薬株式会社製レオクリスタ1-2SP」を用いて、フラックス全量に対して、当該セルロースナノファイバーを50wt ppm?3000wt ppm含有させているものと認められる。

(ウ)特許権者は、平成30年 9月28日付けで、意見書及び乙第1号証として実験成績証明書を提出した。
上記実験成績証明書の実験2の記載より、「(株)スギノマシン」製の品名「BiNFi-sキチン」であるキチンナノファイバーを使用した場合には、フラックス全量に対して、当該キチンナノファイバーを50wt ppm?3000wt ppm含有した場合に、「加熱ダレを抑制」するという課題を解決し得ることを理解することができる。
また、上記実験成績証明書の実験1の記載より、以下の4種類の多糖類ナノファイバーを、フラックス全量に対して、200ppm含有した場合に、「加熱ダレを抑制」するという課題を解決し得ることを理解することができる。
(実験1で用いられた多糖類ナノファイバー)
・「(株)スギノマシン」の品名「BiNFi-s CMC」である「カルボキシメチルセルロースナノファイバー」
・「(株)マリンナノファイバー」の品名「マリンナノファイバーキチン」である「キチンナノファイバー」
・「(株)マリンナノファイバー」の品名「マリンナノファイバー部分加水分解キチン」である「キトサンナノファイバー」
・「(株)スギノマシン」の品名「BiNFi-s セルロース」である「セルロースナノファイバー」

(エ)また、特許権者は、平成30年11月12日付けで、回答書及び乙2号証として実験成績証明書を提出した。
上記実験成績証明書の実験3の記載より、「(株)マリンナノファイバー」製の品名「マリンナノファイバー部分加水分解キチン」であるキトサンナノファイバーを使用した場合には、フラックス全量に対して、当該キトサンナノファイバーを50 ppm及び3000 ppm含有した場合に、「加熱ダレを抑制」するという課題を解決し得ることを理解することができる。
また、上記実験成績証明書の実験4の記載より、「(株)スギノマシン」製の品名「BiNFi-s CMC」である「カルボキシメチルセルロースナノファイバー」を使用した場合には、フラックス全量に対して、当該カルボキシメチルセルロースナノファイバーを50 ppm及び3000 ppm含有した場合に、「加熱ダレを抑制」するという課題を解決し得ることを理解することができる。

(オ)さらに、特許権者は、平成30年11月12付け回答書において、本件発明1の「多糖類、変性多糖類または多糖類から変性多糖類へ変性途中の未完全変性多糖類のうちの1種以上からなるナノファイバーを、フラックス全量に対して50wt ppm以上3000wt ppm以下含有」することによって、「加熱ダレを抑制する」という課題を解決し得る、作用機序について、概略以下のように説明した。

(カ)「セルローナノファイバーは、セルロースと比較して直径が小さく1?100nm程度であり、溶媒中で3次元網目構造を形成します。
このようなセルロースナノファイバーを含むフラックスを用いたソルダペーストでは、セルロースナノファイバーの3次元網目構造が、加熱されることで粘度が低下するフラックス中の溶剤を保持することによって、フラックス中の活性剤成分が流れる範囲を規制し、その結果、はんだの加熱ダレを抑制すると考えられます。
但し、フラックス中のセルロースナノファイバーが少ない場合には、フラックス中の溶剤を保持する3次元網目構造が少ないことによって、フラックス中の溶剤を保持する能力が低く、フラックス中の活性剤成分が流れる範囲を十分に規制できず、その結果、はんだの加熱ダレを抑制するという作用が発揮されにくいと考えられます。
一方、フラックス中のセルロースナノファイバーが多い場合、フラックス中の溶剤を保持する3次元網目構造が多くなることによって、フラックス中の溶剤を保持する能力が高くなり、フラックス中の活性剤成分が流れる範囲を十分に規制でき、その結果、はんだの加熱ダレを抑制するという作用が得られると考えられます。
しかし、フラックス中のセルロースナノファイバーが過剰になると、セルロースナノファイバーが凝集します。これは、分離していた主鎖間の疎水性部分で分子間の非共有性相互作用が働きやすくなり、主鎖間の疎水性部分が非共有性相互作用により再結合するためであると考えられます。
セルロースナノファイバーが凝集すると、3次元網目構造が密な部分と粗な部分が生じるため、フラックス中の溶剤を保持する能力が高い部分と低い部分が混在し、はんだの加熱ダレを抑制するという作用が発揮されにくくなると考えられます。
親水性を持つ側鎖がカルボキシメチル基(-CH_(2)-COOH)であるカルボキシメチルセルロース、ヒドロキシ基(-OH)であるヒドロキシアルキルセルロース及びリグノセルロース、マレイン酸ハーフエステル基(-COC=C-COOH)であるマレイン酸変性セルロース、アミノ基(-NH_(2))であるキトサンにおいても同様に、フラックス中のナノファイバーが過剰になると、ナノファイバーが凝集し、3次元網目構造が密な部分と粗な部分が生じます。キチンについては、極性の高い側鎖のアミド基(-C=O-NH)が水素結合を形成する点を除いて同様の作用機序と考えられます。
従って、フラックス中に添加されるナノファイバーの量が適正な範囲であれば、ナノファイバーの3次元網目構造によりはんだの加熱ダレを抑制する作用を発揮すること、フラックス中のナノファイバーが過剰になると、ナノファイバーが凝集することで、はんだの加熱ダレを抑制するという作用が発揮されにくくなることは、各ナノファイバーに共通する作用機序であ」る。

(キ)そして、上記(カ)の作用機序の説明は、上記(ア)の発明の詳細な説明の記載、上記(ウ)の乙第1号証の記載内容、上記(エ)の乙第2号証の記載内容とも整合している。

(ク)上記(カ)(キ)より、フラックス中の適量のセルロースナノファイバーが、3次元網目構造を形成し、当該3次元網目構造が、フラックス中の溶剤を保持することによって、加熱ダレを抑制するという作用機序を理解することができ、当該作用機序は、セルロースナノファイバーに限らず、セルロースナノファイバーと主鎖が共通の構造を持つ多糖類ナノファイバーであれば、同様の作用機序を奏することが理解できる。
また、上記作用機序は、上記(ア)、(ウ)、(エ)でも裏付けられる。 以上のとおり、特定のセルロースナノファイバーに限らず、「多糖類、変性多糖類または多糖類から変性多糖類へ変性途中の未完全変性多糖類のうちの1種以上からなるナノファイバーを、フラックス全量に対して50wt ppm以上3000wt ppm以下含有」することによって、「加熱ダレを抑制する」という課題を解決し得ることが理解できる。

ウ 本件発明2?本件発明4について
本件発明2?本件発明4は、請求項1を引用するものであって、「多糖類、変性多糖類または多糖類から変性多糖類へ変性途中の未完全変性多糖類のうちの1種以上からなるナノファイバーを、フラックス全量に対して50wt ppm以上3000wt ppm以下含有」するとの特定事項を備えるものであるから、「加熱ダレを抑制する」という課題を解決し得ることが理解できる。

エ したがって、本件発明1?4は、いずれも、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。

2 取消理由に採用しなかった申立理由1(特許法第29条第2項)について
2-1 各甲号証の記載事項
1 甲1について
(1)甲1の記載事項
甲1には、以下の事項が記載されている(当審注:下線は、当審が付与した。以下、同様。)。
「【請求項1】
表面炭素が酸処理されたCNTが濃度0.1wt%以下で分散している溶液であって、チキソ性発現度を、上記CNT濃度をC、チキソ指数をTIとして(TI-1)/Cの式で表した場合において、上記チキソ性発現度が6.0以上でCNTが単離分散している、ことを特徴とするCNT単離分散液。」

「【0009】
そこで、本発明では、CNT濃度が低濃度でも十分大きいチキソ性を発現できるCNT単離分散液を提供するものである。」

「【発明の効果】
【0013】
本発明では、CNT濃度が0.1wt%以下の低濃度でありながらマトリクスの物性に影響しないような所望のチキソ性発現度に制御されたCNT単離分散液を提供することができる。」

「【0017】
実施形態のCNT単離分散液は、表面炭素が酸処理されたCNTが濃度0.1wt%以下で分散している溶液であって、チキソ性発現度を、上記CNT濃度をC、チキソ指数をTIとして(TI-1)/Cの式で表した場合において、上記チキソ性発現度が6.0以上でCNTが単離分散している。そして、上記CNTは好ましくは、CNT平均長が3-8μmである。
【0018】
このようなCNT単離分散液はCNTの濃度が低濃度でありながらチキソ性発現度が極めて大きく、そのため、マトリクスの物性を損なうことなく、チキソ性の付与が可能となり、具体的用途としては半田フラックス、接着剤(2液型やシーラント)、塗料など、幅広い分野に応用することができる。」

「【0021】
実施形態のCNT単離分散液中のCNTは溶液中に少量添加されているだけであるにもかかわらずチキソ性を発現することができるのは、その表面炭素が酸処理されていることによる。このようなCNTの製法を第1、第2製法として以下に説明する。」

「【0049】
なお、実施形態では固形分としてはCNTであったが、CNT以外の固形分としてはカーボンナノファイバー、炭素繊維、炭素フィブリル等の炭素系の材料を例示することができる。」

(2)甲1に記載された発明
上記【0009】によれば、甲1に記載された発明が解決しようとする課題は、「CNT濃度が低濃度でも十分大きいチキソ性を発現できるCNT単離分散液を提供する」ことである。
そして、上記【0049】には、CNT以外の固形分としてカーボンナノファイバー、炭素繊維、炭素フィブリル等の炭素系の材料が例示されているが、甲1の上記課題及び(1)に記載された事項を総合すると、甲1に記載された発明は、「CNT単離分散液」であるといえるから、以下の発明が記載されていると認められる。

(甲1発明)
「表面炭素が酸処理されたCNTが濃度0.1wt%以下で分散している、CNT単離分散液を含む、半田フラックス。」

2 甲2について
甲2には、以下の事項が記載されている。なお、「・・・」は省略を表す。以下同様。
「【請求項1】
キトサンを含有することを特徴とする無鉛ハンダ接合用フラックス。
・・・
【請求項4】
請求項1?3のいずれかに記載の無鉛ハンダ接合用フラックスと、無鉛ハンダ粉末とを含有することを特徴とするソルダーペースト。
【請求項5】
前記無鉛ハンダ粉末は、錫-亜鉛合金ハンダ粉末である請求項4に記載のソルダーペースト。」

「【0031】
又、本発明のソルダーペーストは、ハンダ粉末を調製し、別途調製された上記フラックス、つまり、キトサンを含有するフラックスと混合することにより調製される。ハンダ粉末は、溶融したハンダ合金を粒状化して調製され、例えば、錫-亜鉛ハンダ粉末は、溶融した錫-亜鉛合金を調製して粒状化する。・・・」

3 甲3について
(1)甲3の記載事項
甲3には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】 樹脂成分、活性剤、チキソトロピック剤、pH調節剤および溶剤を含むハンダ付け用フラックスにおいて、pHを4?9.5の範囲内とし、チキソトロピック剤低減剤としてカルボン酸アミドを用いたことを特徴とするハンダ付け用フラックス。」

「【請求項6】 チキソトロピック剤低減剤として、カルボン酸アミドを0.1?20質量%を配合した請求項1ないし5のいずれか1項に記載のハンダ付け用フラックス。」

「【0014】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記の問題点の解決を目的とし、Zn系のハンダにおいてもハンダペーストとして長期の保存が可能であり、チキソトロピック剤の含有量を減じて吸湿性を抑制し、それでも同等以上のチキソトロピック性を保持するとともに使用までの保存安定性に優れ、リフロー時の加熱ダレが少なく、印刷後時間経過に伴う粘着性の低下やハンダボールの増加の少ないハンダペーストの提供、更にこのハンダペーストを用いることにより、ハンダ付け性に優れたハンダ付け方法、及び接合信頼性の高い接合物を提供することを目的とする。」

「【0024】チキソトロピック剤の減少量は、フラックスの配合により異なるが、鋭意検討した結果、初期の添加量の半分までの低減は可能であることがわかった。カルボン酸アミドの添加量を増大するほど、チキソトロピック剤の減少量を増大でき、カルボン酸アミド添加量が0.1?20質量%、好ましくは0.5?10質量%、より好ましくは2?7%で効果が認められる。」

(2)甲3に記載された発明
上記(1)によれば、甲3には、以下の発明が記載されていると認められる。

(甲3発明)
「樹脂成分、活性剤、チキソトロピック剤、pH調節剤および溶剤を含むハンダ付け用フラックスにおいて、pHを4?9.5の範囲内とし、チキソトロピック剤低減剤としてカルボン酸アミドを0.1?20質量%配合したハンダ付け用フラックス。」

4 甲4について
甲4には、以下の事項が記載されている。
「セルロースナノファイバーにはチクソ性がある。」
「チクソ性なんて言葉をマエ☆コウはサイエンスZEROで初めて聞きました。
高い粘度の状態のものに一定の力を加えることでその粘度状態が低くなっていき、そして力を加えることをやめると再び高い粘度状態に元通りになる。
このような性質を「チクソ性がある」
と言います。」

5 甲5について
甲5には、以下の事項が記載されている。
「CNFは水中で分散すると特異的なレオロジ挙動を示す。静置している状態では粘度が高く、せん断速度が速くなると粘度が下がり流動性を示す、高いチキソ性を有している。これは分子レベルで溶解している高分子溶液とは異なり、繊維状のCNFは水中で3次元網目構造を形成するためと考えられ、キサタンガムやCMCに比べて顕著である。このようなチキソ性は、TEMPO酸化とCM化の化学変性の差よりもCNFの長さによる影響が大きく、繊維長の長い(アスペクト比の大きい)CNF分散液ほどチキソ性を強く示す(図7)。」(377頁第10行?第19行)

6 甲6について
甲6には、以下の事項が記載されている。
「セルロースナノファイバー関連サンプル提供企業一覧」(表題)
「王子ホールディングス(株)」の製品について、「チキソトロピック性に優れる」(特徴・セールスポイントの欄)
「第一工業製薬(株)」の製品「<水系>」「レオクリスタ」について、
「繊維幅:4?10nm」(特徴・繊維の欄)、
「TEMPO触媒酸化法による業界最高レベルの細くて均一な繊維幅」(特徴・セールスポイントの欄)、
「高い増粘・チクソ性、ゲルのミスト可能」(特徴・セールスポイントの欄)、
「高い乳化・分散安定性」(特徴・セールスポイントの欄)、
「化粧品、トイレタリー、塗料、色剤、農業・園芸用薬剤、電子材料、セラミックス、樹脂など」(特徴・想定用途の欄)

7 甲7について
甲7には、以下の事項が記載されている。
「【CNF】王子ホールディングス、CNF増粘剤「アウロ・ヴィスコ」を2017年4月より販売」
「また、静止状態では高粘度だが、撹拌などの力を加えることによってサラサラになるという「チキソ性」を有しているのも特徴。いったん低下した粘度は、一定時間放置することによって元の粘度まで回復するので、使用するときはサラサラで使いやすく、乾くとしっかり固着する性質が求められる用途に対して優れた素材。」

8 甲8について
甲8には、以下の事項が記載されている。
「第一工業製薬(レオクリスタ事業部:大阪市中央区、・・・)は、自社のCNF「レオクリスタ」をスプレーができるように加工したゲルスプレー・・・」(第29頁中段第8行?第12行)
「このレオクリスタはチクソ性が高いため、スプレー容器の中ではゲル状であっても、せん断力をかけると一気に粘度が下がる。」(第29頁中段第18行?第21行)

9 甲9について
甲9には、以下の事項が記載されている。
「TOCNF水分散物はせん断速度の増加に伴い粘度が低下する典型的な擬塑性流動を示す。すなわち、TOCNF水分散物は静置時には高い粘度を示すが、流動時には極端に粘度が低下する。さらに、このせん断による粘度の低下度合いが他の増粘剤と比較して激しいため、スプレー噴霧が可能なゲルといったユニークな剤型を調整することができる(Fig.1)。」(第187頁右欄第21行?第188頁左欄第5行)

10 甲10について
甲10には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
有機質繊維を含有する医科歯科用硬化性組成物。
【請求項2】
有機質繊維がセルロースナノファイバー、キチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバーである事を特徴とする請求項1記載の医科歯科用硬化性組成物。」

「【0007】
本発明は、非常に高い機械的強度、靭性、チキソ性及び耐久性を有する新規な医科歯科用硬化性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者等の鋭意検討の結果、医科歯科用硬化性組成物に有機繊維を含有させる事で非常に高い機械的強度、靭性、チキソ性及び耐久性を与えられる事を発見し本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0009】
有機繊維を含有させた医科歯科用硬化性組成物は、非常に高い機械的強度、靭性、チキソ性及び耐久性を示した。この効果は従来技術であるシランカップリング剤にて処理された無機充填剤のみを含有する医科歯科用硬化性組成物では到底なしえない効果を示した。」

「【0064】
・・・つまり、本発明の有機質繊維を含む医科歯科用硬化性組成物は、極少量の有機質繊維の添加で著しいチキソ性が得られる事を示している。以上の評価試験結果より明らかなように、従来技術では達し得なかった高い機械的強度、耐久性およびチキソ性を有する医科歯科用硬化性組成物の提供が可能となった。」

2-2 対比・判断
ア 本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「半田フラックス」は、本件発明1の「半田付け用フラックス」に相当する。
よって、両者は、少なくとも以下の点で相違する。

相違点1:本件発明1は、「多糖類、変性多糖類または多糖類から変性多糖類へ変性途中の未完全変性多糖類のうちの1種以上からなるナノファイバーを、フラックス全量に対して50wt ppm以上3000wt ppm以下含有する」のに対し、甲1発明は、「表面炭素が酸処理されたCNTが濃度0.1wt%以下で分散している、CNT単離分散液を含む」点。

イ 上記相違点1について検討するに、甲1発明は、「CNT単離分散液」において、「CNT濃度が低濃度でも十分大きいチキソ性を発現できるCNT単離分散液を提供する」との課題を解決しようとするものであって、そもそも「CNT」を、「CNT」以外のものに置き換える動機付けがないから、「CNT」を「多糖類、変性多糖類または多糖類から変性多糖類へ変性途中の未完全変性多糖類のうちの1種以上からなるナノファイバー」に置き換えることは、当業者にとって容易とはいえないし、ましてや、その含有量を「フラックス全量に対して50wt ppm以上3000wt ppm以下」とすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

ウ 甲2には、「キトサンを含有する」「無鉛ハンダ接合用フラックス」及び当該「フラックス」と「無鉛ハンダ粉末」とを含有する「ソルダーペースト」が記載されているが、上記「キトサン」が「ナノファイバー」状態のものであるとの記載も示唆もないから、仮に甲1発明において、「CNT」を甲2に記載される「キトサン」に置き換えたとしても、甲2の「キトサン」は、「キトサンナノファイバー」ではないから、「多糖類、変性多糖類または多糖類から変性多糖類へ変性途中の未完全変性多糖類のうちの1種以上からなるナノファイバー」に該当せず、本件発明1とはならない。

エ 甲3には、「多糖類、変性多糖類または多糖類から変性多糖類へ変性途中の未完全変性多糖類のうちの1種以上からなるナノファイバー」について記載も示唆もない。

オ また、甲4?甲10には、セルロースナノファイバーがチキソ性を具えることが記載されているものの、上記イの検討のとおり、甲1発明において、「CNT」をセルロースナノファイバーに置き換えることは、当業者にとって容易とはいえない。

カ 仮に、甲1発明において、「CNT」を、甲4?甲10に記載される「セルロースナノファイバー」に置き換える動機があるとしても、甲4?甲10のいずれにも「セルロースナノファイバー」を「ハンダ付け用フラックス」に適用することについて記載も示唆もされていないため、「セルロースナノファイバー」が適用された甲1発明の「半田フラックス」が「加熱ダレを抑制する(【0015】)」という効果を奏することは、当業者といえども、甲1?甲10に記載された事項から予測できるものでもない。

キ なお、甲3に記載された発明を主引用発明として検討するとしても、甲3には、「チキソトロピック性を保持」して「リフロー時の加熱ダレ」を少なくするハンダペーストの提供を目的として、「ハンダ付け用フラックス」において「カルボン酸アミド」を適量用いることが記載されているのみで、「セルロースナノファイバー」が加熱ダレを抑制できることは、いずれの各甲号証に記載も示唆もないから、上記甲3発明の「カルボン酸アミド」に代えて甲4?甲10に記載の「セルロースナノファイバー」を適用する動機付けはなく、その効果も予測できるものではない。

ク よって、本件発明1は、甲1発明と、甲3に記載された事項、周知技術(甲4?甲10)とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、甲3発明と、周知技術(甲4?甲10)を組合わせても、本件発明1に想到し得るものではない。

ケ また、本件発明2?4は、請求項1を引用するものであるから、同様に、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第5 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-11-22 
出願番号 特願2017-136138(P2017-136138)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B23K)
P 1 651・ 537- Y (B23K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 川村 裕二  
特許庁審判長 中澤 登
特許庁審判官 結城 佐織
池渕 立
登録日 2017-10-27 
登録番号 特許第6229813号(P6229813)
権利者 千住金属工業株式会社
発明の名称 はんだ付け用フラックス及びソルダペースト  
代理人 特許業務法人山口国際特許事務所  
代理人 海老 裕介  

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