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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
管理番号 1346787
異議申立番号 異議2018-700739  
総通号数 229 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-01-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-09-11 
確定日 2018-11-30 
異議申立件数
事件の表示 特許第6291539号発明「ソフトカプセル及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6291539号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6291539号の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成22年6月16日に出願された特願2015-103806号の一部を、平成28年8月24日に新たな特許出願としたものであって、平成30年2月16日にその特許権の設定登録がされ、平成30年3月14日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、平成30年9月12日に特許異議申立人栗暢行(以下「異議申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。

2 本件発明
特許第6291539号の請求項1?5に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。(以下、請求項の順に「本件発明1」?「本件発明5」といい、まとめて「本件発明」ともいう。)

「【請求項1】
カプセル内容物がシームレスソフトカプセル皮膜内に充填されたシームレスソフトカプセルの、滴下法による製造方法であって、
前記製造方法における、前記シームレスソフトカプセル皮膜の調製方法が、
前記シームレスソフトカプセル皮膜の組成物となるカラギナンを酸性pH調整剤によって分解する工程Aと、
その分解を中和剤によって停止する工程Bと、
分解停止後の、カラギナンを少なくとも有する前記シームレスソフトカプセル皮膜の組成物を、前記カプセル内容物と共に、滴下法に供する工程Cと
を備え、
前記滴下法に供する前記シームレスソフトカプセル皮膜の組成物の75℃における粘度が、前記分解する工程及び前記停止する工程により、30?150mPa・sに調整されており、
前記シームレスソフトカプセル皮膜の組成物におけるカラギナンの含有率を50%以上とし、
前記カラギナンが少なくともκカラギナンを含み、
製造されるシームレスソフトカプセルの皮膜率を7?15%に調整し、
前記シームレスソフトカプセル皮膜の硬度を5?40Nに調整することを特徴とする、
前記シームレスソフトカプセルの製造方法。
【請求項2】
シームレスソフトカプセル皮膜の厚さが40μm以下である請求項1に記載のシームレスソフトカプセルの製造方法。
【請求項3】
シームレスソフトカプセルの直径が0.5?15mmである請求項1又は2に記載のシームレスソフトカプセルの製造方法。
【請求項4】
シームレスソフトカプセル皮膜の組成物が、さらに可塑剤、アルギン酸塩類、糖類、デキストリン類、でん粉、加工でん粉の少なくともいずれかを有する請求項1?3のいずれかに記載のシームレスソフトカプセルの製造方法。
【請求項5】
アルギン酸塩類の含有率が、カラギナンの50%以下である請求項4に記載のシームレスソフトカプセルの製造方法。」

3 特許異議の申立ての理由の概要
異議申立人は、本件特許明細書(以下「本件明細書」という。)の発明の詳細な説明は、本件発明1?5を当業者が実施できるように記載されておらず、本件発明1?5に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである旨主張する。

4 当審の判断
(1)本件明細書の発明の詳細な説明の記載
本件明細書の発明の詳細な説明には、おおむね次のとおりの記載がある。

ア「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、カプセル皮膜の組成物におけるカラギナンの含有率を高くして硬度を維持する反面、カラギナンによる増粘効果やゲル化速度を緩和して、カプセルの製造性を安定させ、保存性や、乾燥後における手指での割れやすさや、割れる際の音や感触などの付加価値を得られるソフトカプセルと、その製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のソフトカプセルは、カプセル皮膜の組成物に、カラギナンと、酸性pH調整剤、中和剤とを少なくとも有することを特徴とする。
【0010】
ここで、カプセル皮膜の組成物に、可塑剤、アルギン酸塩類、糖類、デキストリン類、でん粉、加工でん粉のいずれかを含有させてもよい。
例えば、可塑剤は、成形性の向上、アルギン酸塩類は、湿度に対する耐久性の向上に寄与する。なお、アルギン酸塩類は、ただ単に添加するのみでもかまわないが、カルシウムイオンを含む水溶液中でゲル化処理を施してもよい。
【0011】
カラギナンとして、酸性pH調整剤による分解で粘度の調整されたものを用いて、成形性の向上に寄与させてもよい。
【0012】
カプセル皮膜の組成物におけるカラギナンの含有率は、50%以上、好ましくは70%以上としてもよい。なお、この含有率は、水分を除いての値である。
【0013】
皮膜率は、5?20%、好ましくは7?15%としてもよい。なお、この皮膜率は、カプセル全体に占めるカプセル皮膜の質量の割合である。
【0014】
カプセル皮膜の厚さは、40μm以下、好ましくは30μm以下としてもよい。
【0015】
カプセル皮膜の硬度は、5?40Nとするのが好ましい。5Nより小さいと、製造工程中に不都合が生じやすく、40Nを超えると、指でつぶす場合に困難性が高まるからである。より好ましくは10?20Nとしてもよい。なお、この場合の硬度測定は、一般的な「木屋式硬度計」を使用できる。「木屋式硬度計」は、試料を試料台の上に置き、上方から円柱形の加圧子を徐々に降ろし、破裂したときの圧力を記録するものである。本発明における検討では、「(株)藤原製作所製、木屋式デジタル硬度計KHT-20N型」を使用した。この装置は、円筒状の加圧子が電動で一定速度で降りるタイプで、昇降速度1mm/秒、加圧面の直径5mm、試料台の直径25mmというものである。
【0016】
カプセルの直径は、0.5?15mmが好ましい。直径0.5mmより小さいと、指でつぶすために掴むことが困難となる。直径15mmを超えると、内容量が大きくなり、指でつぶした際に周囲を汚染するおそれがある。より好ましくは1?8mmとしてもよい。
【0017】
カプセルとしては、シームレスカプセルに有用に適用できる。
シームレスカプセルは、例えば、従来公知の滴下法によって製造できる。滴下法の典型例は、同心二重ノズルを用いて、外側ノズルからはゲル化剤水溶液等を含む皮膜液を、内側ノズルからは内容物を、各々同時に二重液滴として、皮膜液がゲル化する液の中へ滴下し、外側の皮膜液をゲル化、硬化させてカプセル皮膜とし、継目の無いシームレスカプセルとする製法である。液中硬化法やオリフィス法とも呼ばれることがある。二重ノズルの代わりに三重以上の多重ノズルを用いることも可能である。
【0018】
アルギン酸塩類の含有率をカラギナンの50%以下として、過剰な粘度を抑制してもよい。

【0020】
本発明のソフトカプセルの製造方法は、その皮膜の調製方法において、カプセル皮膜の組成物となるカラギナンを酸性pH調整剤によって分解する工程と、その分解を中和剤によって停止する工程とを備えることを特徴とする。すなわち、酸による分解で、分子量と粘度を低減させ、アルカリによる中和で分解を停止させて、所望の粘度に設定させられる。
【0021】
ここで、カラギナンを分解する程度を、カプセルの内容物に応じ、好ましい粘度までに調整してもよい。この場合の好ましい粘度とは、30?150mPa・s、より好ましくは50?100mPa・sである。なお、粘度測定は、「(株)トキメック製、C型粘度計・CVR-20」で液温75℃にて、100mPa・s以下の場合はロータNo.0を使用し、100mPa・sを超えるときはロータNo.1を使用して測定できる。
【0022】
カプセル皮膜の組成物としてアルギン酸塩類を加え、アルギン酸塩類は、カルシウムイオンを含むゲル化助剤水溶液中でゲル化処理し、耐湿性に寄与させてもよい。」

イ「【発明の効果】
【0024】
本発明によると、カラギナンを、酸性pH調整剤によって分解すると共に、その分解を中和剤によって停止させて、所望の粘度に調整できる。また、カラギナンによるゲル化速度も緩和し、カプセルの製造性を安定させられる。カラギナンの含有率を高くして硬度を維持することができ、手指で割れやすく、割れる際の音や感触などの付加価値も提供可能である。」

ウ「【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に、本発明の実施形態を、表1?8に示す実施例を基に説明する。なお、実施形態は下記の例示に限らず、本発明の趣旨から逸脱しない範囲で、前記文献など従来公知の技術を用いて適宜設計変更可能である。
本発明者は、ソフトカプセルの製造にあたって、カラギナンを酸で処理することで有用な結果が得られた知見を基に、本発明に至った。
【0026】
本発明によるソフトカプセルは、カプセル皮膜の組成物に、カラギナンと、酸性pH調整剤、中和剤とを少なくとも有する。
主成分のカラギナンは、κ,ι,λ等のタイプや原料などによって細分類され得るが、基本的にはこれらの内、κタイプが必須であり、ι,λはいずれも適宜利用可能である。
また、例えば日本の食品衛生法では、食品添加物として使用できるカラギナンとして、精製カラギナン・加工ユーケマ藻類・ユーケマ藻類が規定されているが、これらのいずれも使用可能であり、食品添加物としての利用は提供先となる各国の法規による。
従来技術では、ゼラチンを主成分とするものが多いが、カラギナンを主成分とするものには、付着性の低さや、湿度による影響が少ないなどの利点がある。
【0027】
一方、カラギナンには、増粘効果が高くゲル化が速い特徴があるので、含有率を高くすると、射出ノズル付近で固化してしまったり真球性が劣化したりするなど、カプセルの成形が困難になる。逆に、含有率を低くすると、皮膜固形分が減少し、カプセル強度が下がり、乾燥工程に耐えられないなどの難点が生じてしまう。また一般に、皮膜率が低いと、カプセルの成形が困難になる。
それに対し、本発明では、無機酸・有機酸のいずれか一方または両方と、各種カチオンを含有させることで、カラギナンに起因する問題点を改善し、しかも、得られたカプセルは、湿度条件によらずに硬さが一定の硬度40N以下であり、手指で簡単に割ることができ、カプセルが割れるときに生じるパチンという音及び感触が心地よいものとなった。また、略球形のシームレスカプセルが得られるので、美観の点でも好ましい成形が容易である。
【0028】
カプセル皮膜の組成物におけるカラギナンの含有率は、50%以上、好ましくは70%以上にする。また、皮膜率は、5?20%、好ましくは7?15%の低さにする。
このように低い皮膜率であっても、乾燥工程や輸送過程においても、破裂や変形のない良好なカプセルが得られた。
また、製造性や割れやすさなどの点から、カプセル皮膜の硬度は、5?40N、好ましくは10?20N、カプセル皮膜の厚さは、40μm以下、好ましくは30μm以下、掴みやすさや内容量などの点から、カプセルの直径は、0.5?15mm、好ましくは1?8mmであることが好適である。
【0029】
ソフトカプセルの製造には、カプセル皮膜の組成物となるカラギナンを酸性pH調整剤によって分解する工程と、その分解を中和剤によって停止する工程とを含む。すなわち、酸による分解で、分子量と粘度を低減させ、アルカリによる中和で分解を停止させて、所望の粘度に設定する。
カラギナンを分解する程度は、カプセルの内容物との兼ね合いなどによって、好ましい粘度までに調整する。
【0030】
酸性pH調整剤としては、クエン酸や、リンゴ酸、酢酸、ギ酸、シュウ酸、乳酸、フィチン酸、塩酸など、弱酸・強酸、有機酸・無機酸は勿論、リン酸水素一カリウムなど、中性域の液を酸性域に変えられるものであれば何でも使用可能である。
【0031】
中和剤としては、使用する酸性pH調整剤に対応させたアルカリが使用でき、例えば、リン酸水素2カリウムや、クエン酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなど、酸性域の液を中和できるものであれば何でも使用可能である。
【0032】
通常は、成形性の向上のために、可塑剤を加える。好適な可塑剤としては、グリセリンや、ポリエチレングリコール、…などが挙げられる。
【0033】
また、湿度に対する耐久性を向上させるために、アルギン酸塩類を含んでいてもよい。アルギン酸塩類としては、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウムなどが挙げられる。

【0037】
アルギン酸塩類を配合する分量は特に限定されないが、カラギナンの50%以下の質量であることが好ましい。アルギン酸塩類の含有量が多過ぎると、粘度が増し、カプセルの成形性に影響を及ぼすことがあり得る。

【0039】
また、割れやすさの調整のために、基剤として、デキストリン類や、でん粉、加工でん粉などを加えてもよい。逆に、デキストリン類や、でん粉、加工でん粉を一切加えなくてもよい。」

エ「【実施例】
【0063】
(実施例1)
表1は、本発明による実施例のカプセル皮膜の組成を示す表である。
【0064】
【表1】


【0065】
カプセル内容物としてl-メントール30%MCT溶液を、皮膜率8.0%、皮膜厚25.0μm、直径4mmのカプセルに充填してシームレスカプセルを製造した。ただし、本実施例では、カルシウム処理によりアルギン酸ナトリウムをアルギン酸カルシウムに置換する処理を行っていない。
乾燥後の硬度を測定すると、15N((株)藤原製作所製 木屋式デジタル硬度計KHT-20N型、サンプル数20)であった。
得られたソフトカプセルを、乾燥後にタバコフィルターに埋設したところ、手指で容易にパチンと音を立てて割れ、カプセルが割れる音と感触を楽しめた。またメントールの爽快な香りも楽しめた。
更に、高湿条件下での安定性のテストとして、カプセルをフィルターに埋設したタバコを、25℃85%RHの環境下に10分間放置後、同様のテストをしたところ、前記とほぼ同様の結果が得られた。」

(2)技術常識について
本件出願日当時、カラギナンをクエン酸や酢酸等で酸性条件として加水分解し、その後カセイソーダ等で中和する手法(必要ならば、特開平3-170406号公報;3頁左欄6行?右欄5行,実施例1)、及び、滴下法によるシームレスソフトカプセルの製造方法(必要ならば、特開2002-360665号公報;【0037】)は、それぞれ当業界において技術常識となっていた。

(3)本件発明1について
ア 上記(1)のとおり、本件明細書の発明の詳細な説明には、
(i)カラギナンには、増粘効果が高くゲル化が早い特徴があるので、含有率を高くすると、射出ノズル付近で固化したりするなど、カプセルの成形が困難になるところ、カラギナンを酸性pH調整剤によって分解する工程と、その分解を中和剤によって停止する工程(以下「工程A・B」ということがある。)により、カラギナンの分子量を低減させて、所望の粘度に設定でき、また、カラギナンによるゲル化速度も緩和し、カプセルの製造性を安定させられること(【0020】、【0024】、【0027】、【0029】)、
(ii)カラギナンを分解する程度を、カプセルの内容物に応じ、好ましい粘度である30?150mPa・sまでに調整してもよく、アルギン酸塩類の含有率をカラギナンの50%以下として過剰な粘度を抑制してもよいこと(【0018】、【0021】、【0029】、【0037】)、
(iii)酸性pH調整剤としては、クエン酸や、リンゴ酸、酢酸など、中性域の液を酸性域に変えられるものであれば何でも使用可能であり、中和剤としては、使用する酸性pH調整剤に対応させたアルカリが使用でき、例えば、リン酸水素2カリウムなど、酸性域の液を中和できるものであれば何でも使用可能であること(【0030】、【0031】)、
(iv)カプセル皮膜の組成物における主成分のカラギナンの含有率(水分を除いての値)は50%以上にし、カラギナンはκタイプが必須で、ι,λはいずれも適宜利用可能であり、カラギナン以外に、成形性向上のための可塑剤、湿度に対する耐久性を向上させるためのアルギン酸塩類、割れやすさの調整のためのデキストリン類等が使用可能であること(【0012】、【0018】、【0022】、【0026】、【0028】、【0032】、【0033】、【0039】)、
(v)シームレスカプセルは、例えば、従来公知の滴下法によって製造でき、滴下法の典型例は、同心二重ノズルを用いて、外側ノズルからはゲル化剤水溶液等を含む皮膜液を、内側ノズルからは内容物を、各々同時に二重液滴として、皮膜液がゲル化する液の中へ滴下し、外側の皮膜液をゲル化、硬化させてカプセル皮膜とし、継目の無いシームレスカプセルとする製法であること(【0017】)、
(vi)カプセル全体に占めるカプセル皮膜の質量の割合であるカプセルの皮膜率は、好ましくは7?15%の低さにすること(【0013】)、
(vii)製造性や割れやすさなどの点から、カプセル皮膜の硬度は5?40N、カプセル皮膜の厚さは40μm以下であること、また、掴みやすさや内容量などの点から、カプセルの直径は0.5?15mmであることが好適であること(【0028】)、
(viii)実施例1において、表1に示されたカプセル皮膜の組成を有し、皮膜率8.0%、皮膜厚25.0μm、直径4mm、硬度15Nであり、カプセル内容物としてl-メントール30%MCT溶液を充填したシームレスカプセルを製造したこと(【0063】?【0065】)、
が記載されている。

イ 他方、本件明細書の発明の詳細な説明には、工程A・Bの具体的な条件は記載されておらず、工程Cの滴下法は典型例の概要が記載されるのみであって、実施例1においても、製造されたカプセル皮膜の組成やカプセルの硬度等の物性について記載はあるものの、工程A・Bにおいてどのような条件(時間・温度等)を用いてカラギナンを分解したか、そしてどのような粘度のカプセル組成物として、具体的にどのような滴下法(工程C)を採用してカプセルを製造したのかという、製造工程に関する具体的な記載はない。

ウ しかしながら、上記(2)のとおり、本件出願日当時、工程A・Bに相当する「カラギナンをクエン酸や酢酸等で酸性条件として加水分解し、その後カセイソーダ等で中和する手法」、及び、工程Cに相当する「滴下法によるシームレスソフトカプセルの製造方法」は、それぞれ当業界において技術常識となっていた。また、カラギナンを加水分解すれば、分子量が小さくなり、それに伴い粘度が低下することは、当業者において自明な事項である。
加えて、本件明細書に「アルギン酸塩類の含有率をカラギナンの50%以下として過剰な粘度を抑制してもよい」(【0018】)と記載されているように、カラギナン以外の成分の種類や含有量を調節することによって、カプセル皮膜の組成物の粘度をある程度調節することは当業者がなし得る技術的事項の範囲内であるといえる。
したがって、本件出願日当時の技術常識に照らせば、本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて、工程A・Bによりカラギナンを分解して、分子量を小さくし粘度を低下させ、加えて、カラギナン以外の成分の種類や含有量を適宜調節して、カプセル皮膜の組成物の75℃における粘度を30?150mP・sの範囲に調整し、工程Cによりシームレスカプセルを製造することは、当業者が過度な試行錯誤なく行うことができるものといえる。
また、その際に、本件明細書の【0028】を参考に、カプセル皮膜の厚さやカプセルの直径等を考慮しつつ、カプセルの皮膜率を7?15%、カプセル皮膜の硬度を5?40Nに調整することも、当業者がなし得るものといえる。
そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件出願日当時の技術常識に照らし、当業者が本件発明1に係る方法を実施することができる程度に、明確かつ十分に記載されているものということができる。

(4)本願発明2?5について
本件発明2?5は、本件発明1を直接的又は間接的に引用するものであり、本件発明2は「シームレスソフトカプセル皮膜の厚さが40μm以下である」こと、本件発明3は「シームレスソフトカプセルの直径が0.5?15mmであること」、本件発明4は、「シームレスソフトカプセル皮膜の組成物が、さらに可塑剤、アルギン酸塩類、糖類、デキストリン類、でん粉、加工でん粉の少なくともいずれかを有する」こと、本件発明5は「アルギン酸塩類の含有率が、カラギナンの50%以下である」こと、をそれぞれ特定するものである。
本件発明2?5において特定された事項は、いずれも当業者が過度な試行錯誤なくなし得る事項にすぎない。
したがって、本件発明1と同様な理由により、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件出願日当時の技術常識に照らし、当業者が本件発明2?5に係る方法を実施することができる程度に、明確かつ十分に記載されているものということができる。

(5)異議申立人の主張について
ア 異議申立人は、発明の詳細な説明には、具体的にどのような温度で、どの程度の時間用いることで、カラギナンを所定の粘度に調整して、ゲル化速度を緩和する「工程A・B」を構成できるものであるのか全く記載がなく、こうした事項は本件出願日当時の技術常識であるとも認められず、また、カラギナンについては、「工程A・B」によりその粘度は調整できるものであるとしても、その余を含み得るシームレスソフトカプセル皮膜の組成物の75℃における粘度についてどのように調整するものであるか、全く記載も示唆もないから、発明の詳細な説明は、本件発明1?5を当業者が実施できるように記載されていない旨を主張する。
確かに、工程A・Bにおける具体的な条件と、当該条件によって得られるカラギナンの粘度の数値との間の直接的な関係までは、技術常識となっていなかったといえる。
しかし、上記(2)のとおり、本件出願日当時に技術常識となっていた手法である工程A・Bを用いて、カラギナンの分子量を小さくして粘度を低下させ、加えて、実施例1の表1のカプセル皮膜の組成を参考に、カラギナン以外の成分の種類や含有量を適宜調節して、カプセル皮膜の組成物の75℃における粘度を30?150mP・sの範囲に調整することに、ある程度の試行錯誤は必要であるとはいえるものの、その試行錯誤が当業者に期待し得る以上の過度なものであるということはできない。
したがって、異議申立人の上記主張は採用できない。

イ 異議申立人は、発明の詳細な説明の記載からは、κカラギナンが必須の原材料であることは理解できるものの、原材料としてのカラギナンにおけるκカラギナンの含有量も不明であるから、結局いかなるカラギナンを用いるものであるのか何ら具体的に認識できるものではない旨を主張する。
しかし、本願明細書の【0026】には、κタイプ以外に、ιやλがいずれも適宜利用可能であると記載され、ιやλタイプの性質も広く知られている(必要ならば、SEN'I GAKKAISHI(繊維と工業),2009年,VOl.65,No.11,P-412(10)?P-421(19))。
したがって、カラギナンにおけるκカラギナンの含有量や、κ以外のカラギナンを何にするか等については、当業者が必要に応じて適宜設定可能な事項にすぎない。
したがって、異議申立人の上記主張は、実施可能要件に関する上記判断には影響しない。

ウ 異議申立人は、平成29年9月20日提出の意見書で出願人(特許権者)が主張する、カラギナン溶液を用いることもカラギナン溶液の粘度についても、発明の詳細な説明には記載がない旨を主張する。
しかし、上記意見書における主張にかかわらず、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を充足することは上記のとおりである。

エ 異議申立人は、本件発明に係る製造方法における工程A・B及び工程Cについて、発明の詳細な説明における記載はすべて一般的な記載に留まり、具体的な工程を認識させる技術的事項が記載されたものではなく、いかに当業者といえども具体的な工程を認識できないまま、それぞれの工程を実施するのに必要な具体的な条件・態様について適宜設定できるものではない旨を主張する。
しかしながら、本件出願日当時、上記(2)のとおり、工程A・B及び工程Cは、それぞれ当業界において技術常識となっていたのであるから、本件明細書の発明の詳細な説明に各工程について詳細に記載されていなくても、各工程を実施するための条件・態様は、当業者が適宜設定し得るものといえる。

5 むすび
以上のとおり、本件発明1?5についての特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないから、特許異議の申立ての理由によっては、本件発明1?5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-11-20 
出願番号 特願2016-163208(P2016-163208)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 澤田 浩平  
特許庁審判長 滝口 尚良
特許庁審判官 穴吹 智子
藤原 浩子
登録日 2018-02-16 
登録番号 特許第6291539号(P6291539)
権利者 富士カプセル株式会社
発明の名称 ソフトカプセル及びその製造方法  
代理人 小澤 誠次  
代理人 東海 裕作  
代理人 園元 修一  
代理人 山内 正子  
代理人 堀内 真  
代理人 廣田 雅紀  
代理人 松田 一弘  
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