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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
管理番号 1346792
異議申立番号 異議2018-700752  
総通号数 229 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-01-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-09-14 
確定日 2018-12-03 
異議申立件数
事件の表示 特許第6295382号発明「絶縁放熱基板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6295382号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯

本件特許第6295382号に係る出願は、平成29年2月23日に出願され、平成30年2月23日にその発明について特許権の設定登録がなされ、同年3月14日に特許掲載公報が発行されたものであって、手続の概要は以下のとおりである。

特許異議申立(全請求項 廣瀬妙子):平成30年 9月14日

2.申立理由の概要

本件特許の全請求項に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、若しくは、甲第1号証に記載された発明及び周知技術(周知例:甲第2及び3号証)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

甲第1号証:特開2004-172182号公報
甲第2号証:特開2006-228918号公報
甲第3号証:特開2011-119584号公報

3.本件特許発明

本件特許の請求項1ないし5に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明5」という。)は、特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
セラミックス基板と、該セラミックス基板の少なくとも一方の主表面上に接合された導体層とを有する絶縁放熱基板であって、
前記導体層は上面と、前記セラミックス基板に接合する下面と、上面及び下面を連結する側面とを有し、
導体層とセラミックス基板を導体層の平面視輪郭の接線に対する法線方向及び厚み方向の両方に平行な断面で観察したとき、
前記上面の先端は前記下面の先端よりも導体層の前記法線方向に後退しており、
前記側面は前記上面の先端よりも導体層の前記法線方向に後退した箇所を有する内側に窪んだ湾曲線状の輪郭を有しており、
前記上面と前記側面の連結部は、前記上面の先端に内接し、且つ、前記上面及び前記側面の内側に形成することのできる円の最大半径Rが平均で0.1μm≦R≦5μmとなるような丸み形状を有する、
絶縁放熱基板。
【請求項2】
導体層とセラミックス基板を導体層の前記法線方向及び厚み方向の両方に平行な断面で観察したとき、前記上面の先端への前記下面の先端からの導体層の前記法線方向の平均距離L1、及び導体層の平均厚みDが、1≦D/L1≦50の関係を満たす請求項1に記載の絶縁放熱基板。
【請求項3】
導体層とセラミックス基板を導体層の前記法線方向及び厚み方向の両方に平行な断面で観察したとき、前記側面における導体層の前記法線方向に最も後退した箇所への前記上面の先端からの導体層の前記法線方向の平均距離L2、及び導体層の平均厚みDが、1≦D/L2≦20の関係を満たす請求項1又は2に記載の絶縁放熱基板。
【請求項4】
導体層とセラミックス基板を導体層の前記法線方向及び厚み方向の両方に平行な断面で観察したとき、前記上面の先端への前記下面の先端からの導体層の前記法線方向への平均距離L1、前記側面における導体層の前記法線方向に最も後退した箇所への前記上面の先端からの導体層の前記法線方向の平均距離L2、及び導体層の平均厚みDが、1≦D/(L1+L2)≦15の関係を満たす請求項1?3の何れか一項に記載の絶縁放熱基板。
【請求項5】
導体層とセラミックス基板を導体層の前記法線方向及び厚み方向の両方に平行な断面で観察したとき、前記上面は前記上面の先端に近づくに従って下方に傾斜する部位を有し、且つ、該部位の前記法線方向の長さは平均で300μm以下である請求項1?4の何れか一項に記載の絶縁放熱基板。」

4.甲第1号証

甲第1号証には、「回路基板」について、以下の記載がある。(下線は当審で付加した。)

(1)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高耐電圧の回路基板及びその製造方法に関する。」

(2)「【0002】
【従来の技術】
従来、パワーモジュール等に利用される回路基板は、セラミックス基板として、アルミナ、ベリリア、窒化ケイ素、窒化アルミニウム等の材質を、熱伝導率、コスト、安全性等から選択し、それにCu、Al等の材質の金属回路や放熱板を厚付けして用いられてきた。この回路基板は、樹脂基板や樹脂層を絶縁材とする金属基板に対し、高い絶縁性が安定して得られる点が特長である。」

(3)「【0010】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照しながら、更に詳しく本発明について説明する。図1は、本発明の回路基板の形状を説明するための回路基板端部断面の図面代用走査型電子顕微鏡写真であり、図2は従来品のそれである。」

(4)「【0011】
本発明の回路基板は、セラミックス基板と金属回路とが接合層を介して接合された構造を基本としている。金属回路を形成させた反対面には金属放熱板を形成させた構造のものや、金属回路又は金属放熱板に更にNiめっきが施されているものをも本発明が対象としている。このような回路基板には、その形状、材質等において多くの市販品と先行技術文献があるが、本発明においては特に限定はなく、いずれも使用可能である。まず、これについて概説する。」

(5)「【0022】
金属回路のパターントップのコーナー部(図1のCで示される部分)の形状は、そのRサイズが10?100μm、好ましくは40?80μmであることが必要である。Rが大きいほど放電が起こりにくくなるが、100μmをこえると金属回路に実装部品を半田付けする際に、部品が傾くなどの支障を来す。また、Rサイズが10μm未満では、高電圧を印加すると放電する。コーナー部の形状は、パターンエッチング後に更にパターン表面をエッチングすることによって調整することができる。」

(6)「【0031】
接合体から金属回路を形成するには、接合体の金属板にエッチングレジストを塗布しエッチングする。エッチングレジストとしては、紫外線硬化型や熱硬化型が用いられる。また、エッチング液としては、金属が銅であるときには、塩化第2鉄溶液、塩化第2銅液、硫酸、過酸化水素水等の溶液が使用される。好ましくは、塩化第2鉄溶液、塩化第2銅溶液である。」

(7)「【0039】
(略)
(2)金属回路の断面形状:回路基板を樹脂包埋してから観察部位を切断・研磨し、走査型電子顕微鏡写真を撮影し、金属回路からのはみ出し長さ(a部)、パターントップのせり出し長さ(b部)、パターントップのコーナー部(c部)のRサイズについて、いずれも最小値を測定した。図1に、実施例3の写真、図2に比較例1の写真を示す。
(略)」

(8)【0040】の表1には、比較例1の金属回路の断面形状としてのc部のRが8μmであることが記載されている。

上記摘示事項及び図面の記載から以下のことがいえる。

(a)甲第1号証には、「回路基板」が記載されている(摘示事項(1))。

(b)比較例1における金属回路は、上面と、セラミックス基板に接合する下面と、上面及び下面を連結する側面とを有する(図2)。

(c)比較例1における金属回路は、上面の先端が下面の先端よりも後退している(図2)。

(d)比較例1における金属回路は、せり出し部bを有し、側面が内側に窪んだ湾曲線状の輪郭を有する(図2)。

(e)比較例1の金属回路の断面形状としてのパターントップのコーナー部(c部)のRサイズが8μmである(摘示事項(7)、表1)。

以上を総合勘案すると、甲第1号証には、次の発明(以下「甲第1号証発明」という。)が記載されているものと認める。

「セラミックス基板と、セラミックス基板に接合された金属回路とを有する回路基板であって、
金属回路は、上面と、セラミックス基板に接合する下面と、上面及び下面を連結する側面とを有し、
上面の先端が下面の先端よりも後退しており、
せり出し部bを有し、側面が内側に窪んだ湾曲線状の輪郭を有し、
断面形状としてのパターントップのコーナー部(c部)のRサイズが8μmである回路基板。」

5.対比

そこで、本件特許発明1と甲第1号証発明とを対比する。

(1)絶縁放熱基板
甲第1号証発明の「回路基板」は、セラミックス基板と、セラミックス基板に接合された金属回路とを有する。また、甲第1号証発明の「金属回路」は、「導体層」といえる。そして、セラミックス基板は、高い熱伝導率と絶縁性を有するから、甲第1号証発明の「回路基板」は、「絶縁放熱基板」といえる。
したがって、本件特許発明1と甲第1号証発明とは、「セラミックス基板と、該セラミックス基板の少なくとも一方の主表面上に接合された導体層とを有する絶縁放熱基板であ」る点で一致する。

(2)導体層
甲第1号証発明の「金属回路」は、上面と、セラミックス基板に接合する下面と、上面及び下面を連結する側面とを有する。
したがって、本件特許発明1と甲第1号証発明とは、「前記導体層は上面と、前記セラミックス基板に接合する下面と、上面及び下面を連結する側面とを有」する点で一致する。

(3)導体層とセラミックス基板を観察する断面
「導体層とセラミックス基板を観察する断面」について、本件特許発明1は、「導体層の平面視輪郭の接線に対する法線方向及び厚み方向の両方に平行な断面」であるのに対し、甲第1号証発明は、明示的な特定がない点で相違する。

(4)上面の先端及び下面の先端
甲第1号証発明の「金属回路」は、上面の先端が下面の先端よりも後退している。
したがって、本件特許発明1と甲第1号証発明とは、「前記上面の先端は前記下面の先端よりも後退して」いる点で一致する。

(5)側面
甲第1号証発明の「金属回路」は、せり出し部bを有し、側面が内側に窪んだ湾曲線状の輪郭を有する。
したがって、本件特許発明1と甲第1号証発明とは、「前記側面は前記上面の先端よりも後退した箇所を有する内側に窪んだ湾曲線状の輪郭を有して」いる点で一致する。

(6)上面と側面の連結部
甲第1号証発明の「パターントップのコーナー部(c部)」は「上面と側面の連結部」といえる。また、甲第1号証発明の「金属回路」は、断面形状としてのパターントップのコーナー部(c部)のRサイズが8μmである。
したがって、本件特許発明1と甲第1号証発明とは、「前記上面と前記側面の連結部は、丸み形状を有する」点で一致する。
もっとも、「上面と側面の連結部が有する丸み形状」について、甲第1号証発明は、「前記上面の先端に内接し、且つ、前記上面及び前記側面の内側に形成することのできる円の最大半径Rが平均で0.1μm≦R≦5μmとなるような丸み形状」であるのに対し、甲第1号証発明は、「断面形状としてのパターントップのコーナー部(c部)のRサイズが8μmである」点で相違する。
なお、異議申立人は、「図1において40μmのa部とc部とを対比したとき、53μmであるc部のRサイズが曲率半径ではなくc部の長さを示していることは明らかです。」と主張している(異議申立書8頁)が、該主張の根拠を図1の記載に認めることはできないし、「Rサイズ」のRは、物品の角部を円弧状に仕上げるときの該円弧の半径を意味するという技術常識とも相容れない。
さらに、異議申立人は、該主張に基づいて、図2のc部の内接円の半径を3.8μmと算出している(異議申立書12頁)が、該主張に根拠がない以上、該算出値にも根拠がないから、上記相違点の認定を左右するものではない。

そうすると、本件特許発明1と甲第1号証発明とは、次の点で一致する。

<一致点>

「セラミックス基板と、該セラミックス基板の少なくとも一方の主表面上に接合された導体層とを有する絶縁放熱基板であって、
前記導体層は上面と、前記セラミックス基板に接合する下面と、上面及び下面を連結する側面とを有し、
導体層とセラミックス基板を断面で観察したとき、
前記上面の先端は前記下面の先端よりも後退しており、
前記側面は前記上面の先端よりも後退した箇所を有する内側に窪んだ湾曲線状の輪郭を有しており、
前記上面と前記側面の連結部は、丸み形状を有する、
絶縁放熱基板。」の点。

そして、次の点で相違する。

<相違点>

(1)「導体層とセラミックス基板を観察する断面」について、本件特許発明1は、「導体層の平面視輪郭の接線に対する法線方向及び厚み方向の両方に平行な断面」であるのに対し、甲第1号証発明は、明示的な特定がない点。

(2)「上面と側面の連結部が有する丸み形状」について、本件特許発明1は、「前記上面の先端に内接し、且つ、前記上面及び前記側面の内側に形成することのできる円の最大半径Rが平均で0.1μm≦R≦5μmとなるような丸み形状」であるのに対し、甲第1号証発明は、「断面形状としてのパターントップのコーナー部(c部)のRサイズが8μmである」点。

6.判断

そこで、上記相違点について検討する。

相違点(1)について
甲第1号証に記載された比較例1において、金属回路とセラミックス基板の断面を観察して、金属回路からのはみ出し長さ(a部)、パターントップのせり出し長さ(b部)、パターントップのコーナー部(c部)のRサイズを測定する場合に、「金属回路の平面視輪郭の接線に対する法線方向及び厚み方向の両方に平行な断面」で観察することは技術常識である。
したがって、「導体層とセラミックス基板を観察する断面」について、本件特許発明1の「導体層の平面視輪郭の接線に対する法線方向及び厚み方向の両方に平行な断面」と、甲第1号証発明の「断面」との間に実質的な相違はない。

相違点(2)について
甲第1号証発明の「断面形状としてのパターントップのコーナー部(c部)のRサイズが8μmである」とは、断面形状としてのパターントップのコーナー部(c部)が半径8μmの円弧状であることを意味し、該円弧は、本件特許発明1でいう「上面の先端に内接し、且つ、上面及び側面の内側に形成することのできる円」のうち半径が最大の円の一部(円弧)といえるから、甲第1号証発明の「パターントップのコーナー部(c部)」は、「上面の先端に内接し、且つ、上面及び側面の内側に形成することのできる円の最大半径Rが8μmとなるような丸み形状」を有することになる。
しかしながら、甲第1号証には、パターントップのせり出し部をなくし、パターントップのコーナー部のRサイズを10?100μmにすること(【請求項1】)は記載されているものの、パターントップのコーナー部のRサイズを0.1?5μmにすることを示唆する記載はない。
また、側面が上面の先端よりも導体層の法線方向に後退した箇所を有する内側に窪んだ湾曲線状の輪郭を形成することが周知技術であることを示すために引用された甲第2号証、及び、導体パターン部材の表面と側面との稜線部に、側面から表面に沿う方向に突出するフランジ状突起が設けられていることが周知技術であることを示すために引用された甲第3号証のいずれにも、パターントップのコーナー部のRサイズを0.1?5μmにすることを示唆する記載はない。
したがって、甲第1号証発明において、パターントップのコーナー部のRサイズを0.1?5μmにする動機付けは見当たらず、本件特許発明1は、甲第1号証発明に基づいて、若しくは、甲第1号証発明及び周知技術(周知例:甲第2及び3号証)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

本件特許発明2ないし5は、本件特許発明1の発明特定事項をすべて含みさらに発明特定事項を付加したものであるから、上記本件特許発明1についての判断と同様の理由により、本件特許発明2ないし5は、甲第1号証発明に基づいて、若しくは、甲第1号証発明及び周知技術(周知例:甲第2及び3号証)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

7.むすび

以上のとおりであるから、申立理由及び証拠によっては、請求項1ないし5に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、ほかに請求項1ないし5に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-11-19 
出願番号 特願2018-501387(P2018-501387)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 豊島 洋介  
特許庁審判長 國分 直樹
特許庁審判官 井上 信一
関谷 隆一
登録日 2018-02-23 
登録番号 特許第6295382号(P6295382)
権利者 日本碍子株式会社
発明の名称 絶縁放熱基板  
代理人 アクシス国際特許業務法人  

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