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審決分類 |
審判 判定 同一 属さない(申立て成立) A44C |
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管理番号 | 1346806 |
判定請求番号 | 判定2018-600016 |
総通号数 | 229 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許判定公報 |
発行日 | 2019-01-25 |
種別 | 判定 |
判定請求日 | 2018-04-12 |
確定日 | 2018-11-30 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第5867915号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 |
結論 | (イ)号図面及びその説明書に示す「身飾品」は、特許第5867915号発明の技術的範囲に属しない。 |
理由 |
第1 請求の趣旨 本件判定請求の趣旨は、イ号物件説明書に示す身飾品(以下、「イ号物件」という。)は、特許第5867915号(以下、「本件特許」という。)の請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明1」という。)及び請求項2に係る発明(以下、「本件特許発明2」という。)の技術的範囲に属さない、との判定を求めるものと認める(当審注:判定請求書の請求の趣旨の欄には、「イ号物件説明書に示す構成は、特許第5867915号の技術範囲に属さない、との判定を求める。」と記載されているところ、「第5867915号」は、請求の理由における本件特許発明1及び2の説明等の記載からみて、「特許第5867915号の請求項1及び請求項2に係る発明」の趣旨であると判断し、請求人に確認の上、上記のとおり認定した。)。 第2 手続の経緯 本件特許は、2011年(平成23年)7月21日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。 平成27年 6月25日付け:拒絶理由通知書 平成27年 8月27日 :意見書、補正書の提出 平成27年 9月10日付け:拒絶理由(最後の拒絶理由)通知書 平成27年11月13日 :意見書、補正書の提出 平成27年12月 1日付け:特許査定 平成28年 1月15日 :特許権の登録 平成30年 4月12日 :判定請求書の提出 平成30年 7月13日付け:判定請求書副本の送達通知 上記判定請求書副本の送達通知を行い、請求人の判定請求に対して期間を指定して答弁書を提出する機会を与えたが、被請求人からは応答がなかった。 第3 本件特許発明 1 本件特許発明1及び2 本件特許発明1及び2は、本件特許明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、「本件特許明細書等」という。)の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものであり、これを符号を付して構成要件に分説すると、次のとおりである。 (本件特許発明1) 「A1-1 第1の丸カンと第2の丸カンとを有する本体と、 A1-2 前記第1の丸カンと係合する第3の丸カンと前記第2の丸カンと係合する第4の丸カンとで宝石を挟み込んで掴む宝石収容部と を有する身飾品であって、 B1 前記第3の丸カンと前記第4の丸カンとを結ぶ直線を回転の中心として前記宝石収容部が揺動するように、前記第1の丸カンの内周面と前記第3の丸カンの内周面とが係合すると共に、前記第2の丸カンの内周面と前記第4の丸カンの内周面とが係合し、 C1 前記第3の丸カンおよび前記第4の丸カンの内周をなす円を含む平面が重力方向と平行の姿勢である場合に、前記第1の丸カンと前記第3の丸カンとの第1の係合位置および前記第2の丸カンと前記第4の丸カンとの第2の係合位置は、重力方向において、前記第3の丸カンおよび前記第4の丸カンの前記円の中心に対して上側、且つ前記円の最上端部より下側に位置している D1 身飾品。」(以下、分説した構成要件を「構成要件A1-1」等という。) (本件特許発明2) 「A2-1 第1の丸カンと第2の丸カンとを有する本体と、 A2-2 前記第1の丸カンと係合する第3の丸カンと前記第2の丸カンと係合する第4の丸カンとで宝石を挟み込んで掴む宝石収容部と を有する身飾品であって、 B2 前記第3の丸カンと前記第4の丸カンとを結ぶ直線を回転の中心として前記宝石収容部が揺動するように、前記第1の丸カンの内周面と前記第3の丸カンの内周面とが係合すると共に、前記第2の丸カンの内周面と前記第4の丸カンの内周面とが係合し、 C2 前記第1の丸カンおよび前記第2の丸カンの内周をなす円を含む平面が重力方向と平行の姿勢である場合に、前記第1の丸カンと前記第3の丸カンとの第1の係合位置および前記第2の丸カンと前記第4の丸カンとの第2の係合位置は、重力方向において、前記第1の丸カンおよび前記第2の丸カンの前記円の中心に対して下側、且つ前記円の最下端部より上側に位置している D2 身飾品。」(以下、分説した構成要件を「構成要件A2-1」等という。) 2 本件特許明細書等の記載 本件特許明細書等の発明の詳細な説明には、本件特許発明が解決しようとする作用効果及び実施形態について、次の記載がある。 「【0005】 本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、宝石が揺動する構造の身飾品において、宝石を固定する爪と、その周囲に位置する宝石支持部等との距離を短くした場合でも、爪と宝石支持部等とが接触することを回避でき、デザインの自由度が高く、かつ使用する地金の量を減らすことができる身飾品を提供することを目的とする。」 「【0012】 <第1実施形態> 図1は本発明の実施形態の指輪1の平面図、図2は図1に示す指輪1の側面図である。図3は、図1に示す指輪1の宝石支持部10bに宝石30が支持される機構を側面側から示す図である。 図1に示すように、指輪1は、指が挿入される指輪本体10aと、宝石30が揺動可能に取り付けられる宝石支持部10bとを有する。 【0013】 図4(A)は、図1に示す宝石30が装着される取り付け部40を宝石支持部10bに連結する構造を説明するための平面図、図4(B)はその側面図である。 【0014】 図1?図4に示すように、取り付け部40の一部が、爪401,403となって、取り付け部40に収容された宝石30を両側から固定している。爪401と403は、宝石30を対向する2箇所から挟み込んで取り付け部40に固定する。 【0015】 取り付け部40の爪401,403の根元付近には、丸カン51,53が接合されている。丸カン51,53は、レーザー等によるろう付けによって取り付け部40に接合されてもよい。 丸カン51,53は、図4(B)に示すように、側面側から環状の開口部が見える姿勢で取り付け部40に接合されている。 図1、図3および図4に示すように、指輪1では、爪401,403が丸カン51,53に非常に近接して位置する。 【0016】 また、図1および図4に示すように、指輪1の宝石支持部10bには、側面側から見て宝石支持部10bに形成された開口部10b1の内周の相互に対向する位置に丸カン71,73が設けられている。 丸カン71は丸カン51と連結し、丸カン73は丸カン53と連結している。これらの丸カン同士は点で接触している。 指輪1が丸カン71と丸カン73とを結ぶ直線上に、丸カン51,53および爪401,403が位置している。 【0017】 指輪1では、ユーザの指に装着されると、指の動きに応じて丸カン51,53が、丸カン71,73に対して揺動し、これにより宝石30が取り付け部40と一体となって揺動する。 【0018】 指輪1では、丸カン71,73を結ぶ線上に爪401,403が位置し、かつ、爪401,403が丸カン51,53に非常に近接して位置する。 そのため、宝石30が取り付け部40に固定された状態で揺動すると、平面方向から見て、当該揺動が行われる回転軸上に爪401,403が位置する。すなわち、爪401,403は、開口部10b1の内周に対して遠近する方向には殆ど動かない。 そのため、爪401,403が開口部10b1の内周に接触することを回避できる。すなわち、爪401,403を開口部10b1の内周に対しての従来に比べて近づけることができ、デザインの自由度が高め、かつ使用する地金の量を減らすことができる。」 「【0019】 <第2実施形態> 図5(A)は本発明の第2実施形態において、図1に示す宝石30が装着される取り付け部40を宝石支持部10bに連結する構造を説明するための平面図、図5(B)はその側面図である。 図5(A),(B)に示すように、本実施形態では、丸カン51,53は、平面方向から見て環状の開口部が見える姿勢で取り付け部40に取り付けられている。 本実施形態によっても、第1実施形態と同様の効果が得られる。」 第4 イ号物件 1 判定請求書及びイ号物件説明書におけるイ号物件の説明 判定請求書の記載によれば、イ号物件の構成は、イ号物件説明書に記載されたとおりであって、以下のように分説することができる。(なお、判定請求書に用いられる「A○1(○の中にアラビア数字の1)」等は、「a-1」等のように表記する。)。 「a-1 左右一対の軸受け凹部を配置した枠状の本体と、 a-2 左右一対の軸受け凹部と係合する左右一対のアーム及び当該アームを左右両側に突設し、かつ宝石を支持する容器状の宝石収容部と を有する身飾品であって、 b 左右一対のアーム部は、上方に屈曲したのち水平方向に延長され、かつ延長端部には下向きにピポット状の支軸が前記宝石収容部が当該支軸の先端を中心として、揺動するように、前記凹部の下側面に当接しており、 c 宝石収容部及び宝石の重心は、前記ピポット状の支軸の先端よりも下方に位置している d 身飾品。」 なお、上記したとおり、被請求人に答弁を求めたが応答がなかった。 第5 判断 1 構成要件の充足性について (1)本件特許発明1について ア 構成要件A1-1及びA1-2について 構成要件A1-1における「本体」は、「第1の丸カン」と「第2の丸カン」とを有するのに対し、イ号物件における「本体」は、軸受け凹部が配置されているものの丸カンを有していないことから、イ号物件における構成a-1は、本件特許発明1における構成要件A1-1を充足しない。 構成要件A1-2における「宝石収容部」は、第1の丸カンと係合する「第3の丸カン」と、第2の丸カンと係合する「第4の丸カン」とで宝石を挟み込んで掴むものであるのに対し、イ号物件における「宝石収容部」は、「アームを左右両側に突設し、かつ宝石を支持する」ものであって、宝石を挟み込むための丸カンを有していないことから、イ号物件における構成a-2は、本件特許発明1における構成要件A1-2を充足しない。 イ 構成要件B1について 構成要件A1-1及びA1-2にあるように、第1ないし第4の丸カンを有することを前提とし、構成要件B1は、「前記第3の丸カンと前記第4の丸カンとを結ぶ直線を回転の中心として前記宝石収容部が揺動するように、前記第1の丸カンの内周面と前記第3の丸カンの内周面とが係合すると共に、前記第2の丸カンの内周面と前記第4の丸カンの内周面とが係合」するものである。一方、イ号物件の構成bは、「左右一対のアーム部は、上方に屈曲したのち水平方向に延長され、かつ延長端部には下向きにピポット状の支軸が前記宝石収容部が当該支軸の先端を中心として、揺動するように、前記凹部の下側面に当接して」いるものであって、左右一対のアーム部の支軸の先端を中心として宝石収容部が揺動するものであり、また、上記アで述べたように、イ号物件における「本体」及び「宝石収容部」は丸カンを有しておらず、当然丸カンが係合することもないことから、本件特許発明1の構成要件B1のように、第3の丸カンと第4の丸カンとを結ぶ直線を回転の中心として宝石収容部が揺動するように、第1の丸カンの内周面と第3の丸カンの内周面とが係合すると共に、第2の丸カンの内周面と第4の丸カンの内周面とが係合するものではなく、イ号物件における構成bは、本件特許発明1における構成要件B1を充足しない。 ウ 構成要件C1について 構成要件A1-1及びA1-2にあるように、第1ないし第4の丸カンを有することを前提とし、構成要件C1は、「前記第3の丸カンおよび前記第4の丸カンの内周をなす円を含む平面が重力方向と平行の姿勢である場合に、前記第1の丸カンと前記第3の丸カンとの第1の係合位置および前記第2の丸カンと前記第4の丸カンとの第2の係合位置は、重力方向において、前記第3の丸カンおよび前記第4の丸カンの前記円の中心に対して上側、且つ前記円の最上端部より下側に位置している」ものである。一方、イ号物件の構成cは、「宝石収容部及び宝石の重心は、前記ピポット状の支軸の先端よりも下方に位置している」ものであって、上記アで述べたように、イ号物件における「本体」及び「宝石収容部」は丸カンを有しておらず、当然、第1の丸カンと第3の丸カンの係合位置も、第2の丸カンと第4の丸カンの係合位置も存在しないから、本件特許発明1の構成要件C1のように、第1の丸カンと第3の丸カンの係合位置及び第2の丸カンと第4の丸カンの係合位置を、重力方向において、第3の丸カン及び第4の丸カンの円の中心に対して上側、且つ前記円の最上端部より下側に位置するようにするものではなく、イ号物件における構成cは、本件特許発明1における構成要件C1を充足しない。 エ 構成要件D1について イ号物件の構成dは、身飾品であるから、本件特許発明1の構成要件D1を充足する。 オ 本件特許発明1における構成要件の充足についてのまとめ 以上のとおりであるから、イ号物件は、本件特許発明1の構成要件A1-1ないしC1を充足しない。 (2)本件特許発明2について ア 構成要件A2-1ないしB2について 本件特許発明2の構成要件A2-1ないしB2は、本件特許発明1の構成要件A1-1ないしB1と同一であるから、上記(1)ア及びイと同一の理由により、イ号物件における構成a-1ないしbは、本件特許発明2における構成要件A2-1ないしB2を充足しない。 イ 構成要件C2について 構成要件A2-1及びA2-2にあるように、第1ないし第4の丸カンを有することを前提とし、構成要件C2は、「前記第1の丸カンおよび前記第2の丸カンの内周をなす円を含む平面が重力方向と平行の姿勢である場合に、前記第1の丸カンと前記第3の丸カンとの第1の係合位置および前記第2の丸カンと前記第4の丸カンとの第2の係合位置は、重力方向において、前記第1の丸カンおよび前記第2の丸カンの前記円の中心に対して下側、且つ前記円の最下端部より上側に位置している」ものである。一方、イ号物件の構成cは、「宝石収容部及び宝石の重心は、前記ピポット状の支軸の先端よりも下方に位置している」ものであって、上記(1)アで述べたように、イ号物件における「本体」及び「宝石収容部」は丸カンを有しておらず、当然、第1の丸カンと第3の丸カンの係合位置も、第2の丸カンと第4の丸カンの係合位置も存在しないから、本件特許発明2の構成要件C2のように、第1の丸カンと第3の丸カンの係合位置及び第2の丸カンと第4の丸カンの係合位置を、重力方向において、第1の丸カンおよび第2の丸カンの円の中心に対して下側、且つ前記円の最下端部より上側に位置するようにするものではなく、イ号物件における構成cは、本件特許発明2における構成要件C2を充足しない。 ウ 構成要件D2について イ号物件の構成dは、身飾品であるから、本件特許発明2の構成要件D2を充足する。 エ 本件特許発明2における構成要件の充足についてのまとめ 以上のとおりであるから、イ号物件は、本件特許発明2の構成要件A2-1ないしC2を充足しない。 2 均等論について 均等論適用の可否については、最高裁判決(最高裁平成10年2月24日第三小法廷判決、最高裁平成6年(オ)1083号)において、次の5つの要件が判示されている。 「特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存在する場合であっても、 (第一要件)その部分が特許発明の本質的部分ではなく、 (第二要件)その部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって、 (第三要件)このように置き換えることに、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が、対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり、 (第四要件)対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれからその出願時に容易に推考できたものではなく、かつ、 (第五要件)対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは、 その対象製品等は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である。」 以下、事案に鑑み、上記5つの要件のうち、第一要件及び第五要件について検討する。 (1)本件特許発明1について ア 第一要件について 本件特許明細書等の記載からみて、本件特許発明1が解決しようとする課題は、段落【0005】に記載された「宝石が揺動する構造の身飾品において、宝石を固定する爪と、その周囲に位置する宝石支持部等との距離を短くした場合でも、爪と宝石支持部等とが接触することを回避でき、デザインの自由度が高く、かつ使用する地金の量を減らすことができる身飾品を提供すること」であると認められる。 また、本件の特許請求の範囲は、平成27年8月27日及び平成27年11月13日の手続補正により補正されていることから、本件特許発明1の本質的部分を認定するにあたり、本件特許明細書等の記載に加えて、本件特許の審査経過についても検討する。 本件特許の審査の経緯については、上記「第2 手続の経緯」に記載したとおりである。 そして、平成27年11月13日提出の意見書には以下の点が記載されている(下線は当審で付した。)。 (a)「2.3 本願請求項の発明の特徴 本願請求項1の発明は、以下の構成を有しています。 (構成1) 第1の丸カンと第2の丸カンとを有する本体と、 (構成2) 前記第1の丸カンと係合する第3の丸カンと前記第2の丸カンと係合する第4の丸カンとで宝石を挟み込んで掴む宝石収容部とを有する身飾品であって、 (構成3) 前記第3の丸カンと前記第4の丸カンとを結ぶ直線を回転の中心として前記宝石収容部が揺動するように、前記第1の丸カンの内周面と前記第3の丸カンの内周面とが係合すると共に、前記第2の丸カンの内周面と前記第4の丸カンの内周面とが係合し、 (構成4) 前記第3の丸カンおよび前記第4の丸カンの内周をなす円を含む平面が重力方向と平行の姿勢である場合に、前記第1の丸カンと前記第3の丸カンとの第1の係合位置および前記第2の丸カンと前記第4の丸カンとの第2の係合位置は、重力方向において、前記第3の丸カンおよび前記第4の丸カンの前記円の中心に対して上側、且つ前記円の最上端部より下側に位置している 身飾品。 また、本願請求項2の発明は、以下の構成を有しています。 (構成11) 第1の丸カン(71)と第2の丸カン(73)とを有する本体(10)と、 (構成12) 前記第1の丸カンと係合する第3の丸カン(51)と前記第2の丸カンと係合する第4の丸カン(53)とで宝石を挟み込んで掴む宝石収容部と を有する身飾品であって、 (構成13) 前記第3の丸カンと前記第4の丸カンとを結ぶ直線を回転の中心として前記宝石収容部が揺動するように、前記第1の丸カンの内周面と前記第3の丸カンの内周面とが係合すると共に、前記第2の丸カンの内周面と前記第4の丸カンの内周面とが係合し、 (構成14) 前記第1の丸カンおよび前記第2の丸カンの内周をなす円を含む平面が重力方向と平行の姿勢である場合に、前記第1の丸カンと前記第3の丸カンとの第1の係合位置および前記第2の丸カンと前記第4の丸カンとの第2の係合位置は、重力方向において、前記第1の丸カンおよび前記第2の丸カンの前記円の中心に対して下側、且つ前記円の最下端部より上側に位置している 身飾品。 (特徴) 本願請求項1,2の発明は、上記(構成4),(構成5),(構成14),(構成15)により、前記第1の丸カンおよび前記第2の丸カンと、前記第3の丸カンおよび前記第4の丸カンとの、前記直交する方向の移動距離を、前記丸カンの内径より小さくできます。 そのため、宝石の上記直交する方向の動作を小さくでき、上記宝石の美観に強い影響を与える上記直線を中心とした揺動をスムーズに行わせることができます。また、宝石を本体で覆うような設計思想の場合に、上記直交する方向のサイズを小さくできます。」 (当審注:本願請求項1、2の発明に「(構成5)」及び「(構成15)」は存在しないことから、「(構成4),(構成5),(構成14),(構成15)」との記載は「(構成3),(構成4),(構成13),(構成14)」の誤記であると解される。) 上記(a)には「本願請求項1の発明」により「宝石の上記直交する方向(当審注:本件特許明細書等の図3における図面の上下方向)の動作を小さくでき、上記宝石の美観に強い影響を与える上記直線(当審注:第3の丸カンと第4の丸カンとを結ぶ直線)を中心とした揺動をスムーズに行わせることができます。また、宝石を本体で覆うような設計思想の場合に、上記直交する方向のサイズを小さくできます。」との課題を解決できることが記載されている。 そして、上記(a)における「本願請求項1の発明」は、上記意見書と同日に提出された手続補正書により補正されたものであって、その後、本件特許出願は、平成27年12月1日付けで特許査定がされたものである。 してみると、本件特許発明1は、段落【0005】に記載の「宝石が揺動する構造の身飾品において、宝石を固定する爪と、その周囲に位置する宝石支持部等との距離を短くした場合でも、爪と宝石支持部等とが接触することを回避でき、デザインの自由度が高く、かつ使用する地金の量を減らすことができる身飾品を提供すること」との上記課題に加えて、特に、宝石の第3の丸カンと第4の丸カンとを結ぶ直線と直交する方向の動作を小さくでき、前記宝石の美観に強い影響を与える第3の丸カンと第4の丸カンとを結ぶ直線を中心とした揺動をスムーズに行わせることができ、また、宝石を本体で覆うような設計思想の場合に、前記直交する方向のサイズを小さくできる、との課題を解決しようとするものであると認められる。 そして、上記1(1)イ及びウにおいて検討したように、本件特許発明1の構成要件B1及びC1は、イ号物件の構成b、cと異なる部分であるところ、宝石の第3の丸カンと第4の丸カンとを結ぶ直線と直交する方向の動作を小さくでき、前記宝石の美観に強い影響を与える第3の丸カンと第4の丸カンとを結ぶ直線を中心とした揺動をスムーズに行わせることができ、また、宝石を本体で覆うような設計思想の場合に、前記直交する方向のサイズを小さくできる、との課題は、本件特許発明1の構成要件B1及びC1により解決されるものである。 してみると、構成要件B1及びC1は、本件特許発明1特有の課題解決のための本質的部分ということができる。 したがって、イ号物件は、第一要件を満たさない。 イ 第五要件について イ号物件が本件特許発明1の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たる等の特段の事情がないかを検討するために、本件特許の審査経過について検討する。 本件特許の審査経過をみると、本件特許における願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「最初の本件発明1」という。)に対し、平成27年6月25日付けの拒絶理由通知書により、引用文献1(国際公開第03/077699号)により新規性及び進歩性を有しないとの拒絶理由が通知されたところ、この拒絶理由に対して、平成27年8月27日の手続補正により、最初の本件発明1の「本体」との発明特定事項を「第1の丸カンと第2の丸カンとを有する本体」との発明特定事項とし、「2か所から宝石を挟み込んで掴む一対の掴み部材を備えた宝石収容部」との発明特定事項を「前記第1の丸カンと係合する第3の丸カンと前記第2の丸カンと係合する第4の丸カンとで宝石を挟み込んで掴む宝石収容部」との発明特定事項にすることを含む補正がされた。その後さらに、平成27年9月10日付けで拒絶理由が通知され、この拒絶理由に対し、平成27年11月13日に意見書及び補正書が提出されたが、上記「第1の丸カンと第2の丸カンとを有する本体」及び「前記第1の丸カンと係合する第3の丸カンと前記第2の丸カンと係合する第4の丸カンとで宝石を挟み込んで掴む宝石収容部」との発明特定事項は補正されることなく、平成27年12月1日付けで特許査定がされたものである。 そして、本件特許発明1は、平成27年8月27日の手続補正により補正された「第1の丸カンと第2の丸カンとを有する本体」(構成要件A1-1)、及び、「前記第1の丸カンと係合する第3の丸カンと前記第2の丸カンと係合する第4の丸カンとで宝石を挟み込んで掴む宝石収容部」(構成要件A1-2)を含むものであるから、上記審査経過に鑑みれば、かかる「第1の丸カンと第2の丸カンとを有する本体」及び「前記第1の丸カンと係合する第3の丸カンと前記第2の丸カンと係合する第4の丸カンとで宝石を挟み込んで掴む宝石収容部」を備えないイ号物件は本件特許発明1の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たる。 したがって、イ号物件は本件特許発明1の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たり、第五要件を満たさない。 ウ 本件特許発明1における均等論についてのまとめ 上記のとおり、イ号物件は、均等の第一要件および第五要件を充足しないから、第二要件ないし第四要件について検討するまでもなく、イ号物件は本件特許発明1の均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するとはいえない。 (2)本件特許発明2について ア 第一要件について 上記(1)ア(a)には「本願請求項2の発明」により「宝石の上記直交する方向(当審注:本件特許明細書等の図3における図面の上下方向)の動作を小さくでき、上記宝石の美観に強い影響を与える上記直線(当審注:第3の丸カンと第4の丸カンとを結ぶ直線)を中心とした揺動をスムーズに行わせることができます。また、宝石を本体で覆うような設計思想の場合に、上記直交する方向のサイズを小さくできます。」との課題を解決できることが記載されている。 そして、上記(1)ア(a)における「本願請求項2の発明」は、上記意見書と同日に提出された手続補正書による手続補正により補正されたものであって、その後、本件特許出願は、平成27年12月1日付けで特許査定がされたものである。 してみると、本件特許発明2は、段落【0005】に記載の「宝石が揺動する構造の身飾品において、宝石を固定する爪と、その周囲に位置する宝石支持部等との距離を短くした場合でも、爪と宝石支持部等とが接触することを回避でき、デザインの自由度が高く、かつ使用する地金の量を減らすことができる身飾品を提供すること」との上記課題に加えて、特に、宝石の第3の丸カンと第4の丸カンとを結ぶ直線と直交する方向の動作を小さくでき、前記宝石の美観に強い影響を与える第3の丸カンと第4の丸カンとを結ぶ直線を中心とした揺動をスムーズに行わせることができ、また、宝石を本体で覆うような設計思想の場合に、前記直交する方向のサイズを小さくできる、との課題を解決しようとするものであると認められる。 そして、上記1(2)ア及びイにおいて検討したように、本件特許発明2の構成要件B2及びC2は、イ号物件の構成b、cと異なる部分であるところ、宝石の第3の丸カンと第4の丸カンとを結ぶ直線と直交する方向の動作を小さくでき、前記宝石の美観に強い影響を与える第3の丸カンと第4の丸カンとを結ぶ直線を中心とした揺動をスムーズに行わせることができ、また、宝石を本体で覆うような設計思想の場合に、前記直交する方向のサイズを小さくできる、との課題は、本件特許発明2の構成要件B2及びC2により解決されるものである。 してみると、構成要件B2及びC2は、本件特許発明2特有の課題解決のための本質的部分ということができる。 したがって、イ号物件は、第一要件を満たさない。 イ 第五要件について 上記(1)イで述べたように、最初の本件発明1に対し、平成27年6月25日付けの拒絶理由通知書により、引用文献1(国際公開第03/077699号)により新規性及び進歩性を有しないとの拒絶理由が通知されたところ、この拒絶理由に対して、平成27年8月27日の手続補正により、最初の本件発明1の「本体」との発明特定事項を「第1の丸カンと第2の丸カンとを有する本体」との発明特定事項とし、「2か所から宝石を挟み込んで掴む一対の掴み部材を備えた宝石収容部」との発明特定事項を「前記第1の丸カンと係合する第3の丸カンと前記第2の丸カンと係合する第4の丸カンとで宝石を挟み込んで掴む宝石収容部」との発明特定事項にすることを含む補正がされた。その後さらに、平成27年9月10日付けで拒絶理由が通知され、この拒絶理由に対し、平成27年11月13日に意見書及び補正書が提出されたが、上記「第1の丸カンと第2の丸カンとを有する本体」及び「前記第1の丸カンと係合する第3の丸カンと前記第2の丸カンと係合する第4の丸カンとで宝石を挟み込んで掴む宝石収容部」との発明特定事項は補正されることなく、平成27年12月1日付けで特許査定がされたものである。 そして、本件特許発明2は、平成27年8月27日の手続補正により補正された「第1の丸カンと第2の丸カンとを有する本体」(構成要件A2-1)、及び、「前記第1の丸カンと係合する第3の丸カンと前記第2の丸カンと係合する第4の丸カンとで宝石を挟み込んで掴む宝石収容部」(構成要件A2-2)を含むものであるから、上記審査経過に鑑みれば、かかる「第1の丸カンと第2の丸カンとを有する本体」及び「前記第1の丸カンと係合する第3の丸カンと前記第2の丸カンと係合する第4の丸カンとで宝石を挟み込んで掴む宝石収容部」を備えないイ号物件は本件特許発明2の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たる。 したがって、イ号物件は本件特許発明2の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たり、第五要件を満たさない。 ウ 本件特許発明2における均等論についてのまとめ 上記のとおり、イ号物件は、均等の第一要件および第五要件を充足しないから、第二要件ないし第四要件について検討するまでもなく、イ号物件は本件特許発明2の均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するとはいえない。 3.まとめ 以上のとおり、イ号物件は、本件特許発明1の構成要件A1-1ないしC1及び本件特許発明2の構成要件A2-1ないしC2を充足しておらず、また、均等なものともいえないから、本件特許発明1及び2の技術的範囲に属するものとはいえない。 第6 むすび 以上のとおり、イ号物件は、本件特許発明1及び2の技術的範囲に属しない。 よって、結論のとおり判定する。 |
判定日 | 2018-11-20 |
出願番号 | 特願2011-159791(P2011-159791) |
審決分類 |
P
1
2・
1-
ZA
(A44C)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 大瀬 円 |
特許庁審判長 |
佐々木 芳枝 |
特許庁審判官 |
長馬 望 山村 和人 |
登録日 | 2016-01-15 |
登録番号 | 特許第5867915号(P5867915) |
発明の名称 | 身飾品 |
代理人 | 赤尾 直人 |
代理人 | 小林 均 |
代理人 | 内田 清 |
代理人 | 赤尾 直人 |
代理人 | 内田 清 |
代理人 | 林 司 |