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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て成立) A44C
管理番号 1346807
判定請求番号 判定2018-600014  
総通号数 229 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2019-01-25 
種別 判定 
判定請求日 2018-04-12 
確定日 2018-11-30 
事件の表示 上記当事者間の特許第5379324号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 (イ)号図面及びその説明書に示す「身飾品」は、特許第5379324号発明の技術的範囲に属しない。 
理由 第1 請求の趣旨
本件判定請求の趣旨は、イ号物件説明書に示す身飾品(以下、「イ号物件」という。)は、特許第5379324号(以下、「本件特許」という。)の請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明」という。)の技術的範囲に属さない、との判定を求めるものと認める(当審注:判定請求書の請求の趣旨の欄には、「イ号物件説明書に示す構成、特許第5379324号の技術範囲に属さない、との判定を求める。」と記載されているところ、「第5379324号」は、請求の理由における本件特許発明の説明等の記載からみて、特許第5379324号の請求項1に係る発明」の趣旨であると判断し、請求人に確認の上、上記のとおり認定した。)。

第2 手続の経緯
本件特許発明に係る出願は、2011年(平成23年)4月22日(優先権主張2010年(平成22年)12月20日 日本国)を国際出願日とする特許出願である特願2012-549593号の一部を平成25年4月23日に新たな特許出願としたものであって、平成25年10月4日に特許権の設定登録がされたものである。
その後、平成30年4月12日に本件判定が請求され、平成30年7月13日付けで被請求人に判定請求書副本を送付し、期間を指定して答弁書を提出する機会を与えたが、被請求人からは応答がなかった。

第3 本件特許発明
1 本件特許発明
本件特許発明は、本件特許明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、「本件特許明細書等」という。)の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであり、これを符号を付して構成要件に分説すると、次のとおりである。
「A-1 複数の装飾物と、
A-2 前記複数の装飾物に対して距離を隔てて設けられた枠組部材と、
A-3 前記複数の装飾物の各々に対応して設けられ、対応する前記装飾物が振動に応じて揺動するように、当該対応する前記装飾物の重心に対して上方位置で当該装飾物と前記枠組部材とをそれぞれ係合させる複数の前記係合部と
を有する身飾品であって、
B-1 前記係合部の各々は、
当該係合部に対応する前記装飾物の中心に対して上下方向と直交する左右方向の左側に設けられ第1のリング部と、
B-2 当該装飾物の中心に対して右側に設けられ第2のリング部と、
B-3 前記枠組部材の前記第1のリング部の側に設けられ、前記第1のリング部とつながれた第3のリング部と、
B-4 前記枠組部材の前記第2のリング部の側に設けられ、前記第2のリング部とつながれた第4のリング部とを有し、
C 前記複数の係合部は、前記枠組部材の上下方向、もしくは左右方向の相互に異なる位置で当該係合部に対応する前記装飾物を支持し、
前記複数の係合部は、当該係合部に対応した前記装飾物と当該係合部とが係合する位置から当該装飾物の重心までの上下方向の距離が相互に異なる
D 身飾品。」(以下、分説した構成要件を「構成要件A-1」等という。 なお、判定請求書において、構成要件B-4における「第4のリング部とを有し」(下線は当審による)に関して、特許公報に「第4のリング部と有し」とあるのを誤記と解して上記のように認定し、同様に、構成要件Cにおける「当該係合部に対応した前記装飾物」(下線は当審による)に関して、特許公報に「当該係合部に対応した前記装飾部」とあるのを誤記と解して上記のように認定しており、被請求人に答弁を求めたが、これに関して応答がなかったため、当審においても判定請求書と同様に上記のとおり認定した。)

2 本件特許明細書等の記載
本件特許明細書等の発明の詳細な説明には、本件特許発明が解決しようとする課題、作用効果及び実施形態について、次の記載がある。

「【0004】
ところで、ダイヤモンドを支持したペンダント等で、そのダイヤモンドを揺動させようとした場合に、上述した従来技術をそのまま用いると、ダイヤモンドのテーブル面が正面を向かないという問題がある。
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、着用時にダイヤモンド等の宝石をそのテーブル面が正面を向く状態(すなわち、上下方向と略直交する方向を向いた状態)で、動きに応じて宝石が揺動するように支持する構造の身飾品において、宝石をそのテーブル面が正面(外側)を向いた姿勢で安定して支持できる身飾品を提供することにある。」

「【0023】
例えば、図7に示すように、宝石部5,6,7の支持部材14の回転棒24a,24bの位置を、下方の宝石部になるに従って、重心より上方でより重心に近い位置を通るように構成してもよい。また、上述したように重心に対して上方ではなく、左右位置の相互に異なる位置で支持してもよい。
これにより、宝石部5,6,7の揺動のパターンを微妙にずらすことができ、新たな美観を生じさせることができる。」

「【0025】
また、上述したように回転軸の代わりに、丸カンを使用して、枠組部材と繋ぐ構造にしてもよい。
例えば、図8に示すように、枠組部材10に丸カン251を固定し、この丸カン251に宝石部5に固定された丸カン212やその他の部材を係合させる構造にしてもよい。
さらに、上述した枠組部材の凹部は、丸カンに対応した環状部材を用いてもよい。」

第4 イ号物件
1 判定請求書及びイ号物件説明書におけるイ号物件の説明
判定請求書の記載によれば、イ号物件の構成は、イ号物件説明書に記載されたとおりであって、以下のように分説することができる。(なお、判定請求書に用いられる「A○1(○の中にアラビア数字の1)」等は、「a-1」等のように表記する。)。

「a-1 宝石及び当該宝石を収容している容器状の器具からなる1個の装飾物と、
a-2 前記1個の装飾物及び当該装飾物に対して上側及び両側に配置され、かつ距離を隔てて設けられた枠組部材と、
a-3 前記1個の装飾物に対応して設けられ、対応する前記装飾物が振動に応じて揺動するように、当該対応する前記装飾物の重心に対して上方位置にて当該装飾物と前記枠組部材とを相互に係合させる一対のアーム部と
を有する身飾品であって、
b 前記アーム部は、装飾物の両側から水平方向に突設され、かつ所定の位置にて上側に屈曲したうえで、更に水平方向に延設され、延設された端部は下向きにてピボット状を形成している支軸を有しており、
c 前記一対のアーム部のピボット状の支軸が、前記枠組部材の凹部の下側面における特定の位置にて当接することによって、アーム部は装飾物を支持しており、かつ装飾物とアーム部とが係合する位置と当該装飾物の重心までの上下方向の距離は特定している
d 身飾品。」

なお、上記したとおり、被請求人に答弁を求めたが応答がなかった。

第5 判断
1 構成要件の充足性について
(1)構成要件A-1ないしA-3について
構成要件A-1は、「複数の装飾物」であるのに対し、イ号物件における「1個の装飾物」であるからイ号物件における構成a-1は、本件特許発明における構成要件A-1を充足しない。
構成要件A-2における「枠組部材」は複数の装飾物に対して設けられるものであるのに対し、イ号物件における「枠組部材」は1個の装飾物に対して設けられるものであるから、イ号物件における構成a-2は、本件特許発明における構成要件A-2を充足しない。
構成要件A-3における「複数の係合部」は、複数の装飾物の各々に対応して設けられるものであるのに対し、イ号物件における「一対のアーム部」は1個の装飾物に対応して設けられるものであるから、イ号物件における構成a-3は、本件特許発明における構成要件A-3を充足しない。

(2)構成要件B-1ないしB-4について
構成要件B-1ないしB-4において、係合部の各々は当該係合部に対応する第1ないし第4の「リング部」を有しているのに対し、イ号物件の構成bにおけるアーム部は、「装飾物の両側から水平方向に突設され、かつ所定の位置にて上側に屈曲したうえで、更に水平方向に延設され、延設された端部は下向きにてピボット状を形成している支軸を有して」いるものであって、本件特許発明の構成要件B-1ないしB-4のようなリング部を有しているものではないから、イ号物件における構成bは、本件特許発明における構成要件B-1ないしB-4を充足しない。

(3)構成要件Cについて
構成要件A-3にあるように、係合部は、複数の装飾物に対応して複数設けられることを前提としているところ、構成要件Cは、「複数の係合部は、枠組部材の上下方向、もしくは左右方向の相互に異なる位置で当該係合部に対応する装飾物を支持し、複数の係合部は、当該係合部に対応した装飾物と当該係合部とが係合する位置から当該装飾物の重心までの上下方向の距離が相互に異なる」ものであるが、イ号物件の構成cは、「一対のアーム部のピボット状の支軸が、前記枠組部材の凹部の下側面における特定の位置にて当接することによって、アーム部は装飾物を支持しており、かつ装飾物とアーム部とが係合する位置と当該装飾物の重心までの上下方向の距離は特定している」ものであって、構成a-3にあるように、アーム部は、1個の装飾物に対応して、一対設けられるものであるから、本件特許発明の構成要件Cのように、係合部は、複数の装飾物に対応して複数設けられることを前提とし、複数の係合部を、枠組部材に対する位置が相互に異なるものとしたり、対応する装飾物の重心までの距離を相互に異なるものとしたものではないから、イ号物件における構成cは、本件特許発明における構成要件Cを充足しない。

(4)構成要件Dについて
イ号物件の構成dは、身飾品であるから、本件特許発明の構成要件Dを充足する。

(5)構成要件の充足についてのまとめ
以上のとおりであるから、イ号物件は、本件特許発明の構成要件A-1ないしCを充足しない。

2 均等論について
均等論適用の可否については、最高裁判決(最高裁平成10年2月24日第三小法廷判決、最高裁平成6年(オ)1083号)において、次の5つの要件が判示されている。

「特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存在する場合であっても、

(第一要件)その部分が特許発明の本質的部分ではなく、

(第二要件)その部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって、

(第三要件)このように置き換えることに、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が、対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり、

(第四要件)対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれからその出願時に容易に推考できたものではなく、かつ、

(第五要件)対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは、

その対象製品等は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である。」

以下、事案に鑑み、上記5つの要件のうち、第一要件及び第二要件について検討する。

(1)第一要件について
特許発明における本質的部分に関して、知財高裁判決(平成30年6月19日判決言渡、平成29年(ネ)第10096号)において、以下のように判示されている。
「特許発明における本質的部分とは、当該特許発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴部分であると解すべきである。そして、上記本質的部分は、特許請求の範囲及び明細書の記載に基づいて、特許発明の課題及び解決手段とその作用効果を把握した上で、特許発明の特許請求の範囲の記載のうち、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が何であるかを確定することによって認定されるべきである。・・・ただし、明細書に従来技術が解決できなかった課題として記載されているところが、出願時の従来技術に照らして客観的に見て不十分な場合には、明細書に記載されていない従来技術も参酌して、当該特許発明の従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分として認定すべきである。」
本件特許明細書に記載された本件特許発明が解決しようとする課題は、段落【0005】に記載された「着用時にダイヤモンド等の宝石をそのテーブル面が正面を向く状態(すなわち、上下方向と略直交する方向を向いた状態)で、動きに応じて宝石が揺動するように支持する構造の身飾品において、宝石をそのテーブル面が正面(外側)を向いた姿勢で安定して支持できる身飾品を提供すること」であるところ、かかる課題は、平成25年7月23日付けで通知された拒絶理由に引用された引用文献である特開平11-56422号公報に記載された発明(以下、「引用発明」という。)によって既に解決されている。
そうすると、本件特許明細書に従来技術が解決できなかった課題として記載されているところが、出願時の従来技術に照らして客観的にみて不十分であるから、本件特許発明の本質的部分は、本件特許明細書の記載に加えて、上記引用発明も参酌して認定されるべきである。
本件特許発明は、平成25年8月12日付けでされた手続補正により、補正前の請求項1に係る発明に、本件特許発明の構成要件Cが付加されることにより、上記引用発明との差異が明確になり、特許査定がされたものである。
そして、構成要件Cを含む本件特許発明は、本件特許明細書等に記載された複数の実施例のうち、段落【0023】及び図7に記載された複数の宝石部5,6,7を備えた実施形態において、支持部材14の回転棒24a,24bを、段落【0025】及び図8に記載された丸カン251及び丸カン212に置き換えた実施形態であるといえ、段落【0023】には「宝石部5,6,7(複数の装飾物)の揺動のパターンを微妙にずらすことができ、新たな美観を生じさせることができる。」との記載がある。
そうすると、上記1(3)において検討したように、本件特許発明の構成要件Cは、イ号物件の構成cと異なる部分であるところ、本件特許発明の構成要件Cにより「宝石部5,6,7(複数の装飾物)の揺動のパターンを微妙にずらすことができ、新たな美観を生じさせることができる」という上記引用発明に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分ということができる。
したがって、イ号物件は、第一要件を満たさない。

(2)第二要件について
上記(1)で検討したように、本件特許発明は、構成要件Cの「複数の係合部は、枠組部材の上下方向、もしくは左右方向の相互に異なる位置で当該係合部に対応する装飾物を支持し、複数の係合部は、当該係合部に対応した装飾物と当該係合部とが係合する位置から当該装飾物の重心までの上下方向の距離が相互に異なる」ことにより、「宝石部5,6,7(複数の装飾物)の揺動のパターンを微妙にずらすことができ、新たな美観を生じさせること」という目的を達成し、作用効果を奏するものである。
一方、イ号物件の構成cにおいては、一対のアーム部のピボット状の支軸が、枠組み体の凹部の下側面における特定の位置にて当接することによって、アーム部は装飾物を支持しており、かつ装飾物とアーム部とが係合する位置と当該装飾物の重心までの上下方向の距離は特定しているものであるから、装飾物の揺動パターンを微妙にずらすことができ、新たな美観を生じさせるという作用効果を奏しない。
そうすると、構成要件Cに代えて、イ号物件の構成cを採用することにより、本件特許発明の目的を達成し、同一の作用効果を奏するものであるとはいえないから、イ号物件は、第二要件を満たさない。

(3)均等論についてのまとめ
上記のとおり、イ号物件は、均等の第一要件および第二要件を充足しないから、第三要件ないし第五要件について検討するまでもなく、イ号物件は本件特許発明の均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するとはいえない。

3.まとめ
以上のとおり、イ号物件は、本件特許発明の構成要件A-1ないしCを充足しておらず、また、均等なものともいえないから、本件特許発明の技術的範囲に属するものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、イ号物件は、本件特許発明の技術的範囲に属しない。
よって、結論のとおり判定する。
 
判定日 2018-11-20 
出願番号 特願2013-90055(P2013-90055)
審決分類 P 1 2・ 1- ZA (A44C)
最終処分 成立  
特許庁審判長 藤井 昇
特許庁審判官 佐々木 芳枝
長馬 望
登録日 2013-10-04 
登録番号 特許第5379324号(P5379324)
発明の名称 身飾品  
代理人 内田 清  
代理人 内田 清  
代理人 赤尾 直人  
代理人 小林 均  
代理人 林 司  
代理人 赤尾 直人  

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