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審決分類 |
審判 訂正 特許請求の範囲の実質的変更 訂正する C10M 審判 訂正 ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正 訂正する C10M 審判 訂正 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張 訂正する C10M 審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する C10M 審判 訂正 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降) 訂正する C10M 審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する C10M |
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管理番号 | 1346934 |
審判番号 | 訂正2018-390129 |
総通号数 | 230 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-02-22 |
種別 | 訂正の審決 |
審判請求日 | 2018-08-30 |
確定日 | 2018-11-22 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5884628号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 特許第5884628号の明細書、特許請求の範囲及び図面を、本件審判請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲及び図面のとおり訂正することを認める。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件訂正審判に係る特許第5884628号(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成24年5月10日に出願され、その請求項1?2に係る発明について、平成28年2月19日に特許権の設定登録がされたものであり、その後、平成30年8月30日に特許権者日本精工株式会社(以下、「請求人」という。)より、本件特許に対して本件訂正審判の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされたものである。 第2 請求の趣旨、訂正の内容 本件訂正審判の請求の趣旨は、本件特許の明細書、特許請求の範囲及び図面を、本件審判請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲及び図面のとおり訂正することを認める、との審決を求めるというものであり、その訂正事項は以下のとおりである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1の「N-2-エチルヘキシサノイル-L-グルタミン酸ジブチルアミド」との記載を、「N-2-エチルヘキサノイル-L-グルタミン酸ジブチルアミド」に訂正する(請求項1の記載を直接的に引用する請求項2も同様に訂正する)。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1の「前記ゲル化剤の含有量が、基油との合計量に対して8?11質量%であり」との記載を、「前記ゲル化剤の含有量が、基油との合計量に対して8?10質量%であり」に訂正し、同請求項1の「降伏応力が1.1×10^(4)?1.5×10^(4)Paである」との記載を、「降伏応力が1.1×10^(4)?1.3×10^(4)Paである」に訂正する(請求項1の記載を直接的に引用する請求項2も同様に訂正する)。 (3)訂正事項3 明細書の段落[0006]の「N-2-エチルヘキシサノイル-L-グルタミン酸ジブチルアミド」との記載を、「N-2-エチルヘキサノイル-L-グルタミン酸ジブチルアミド」に訂正し、同段落の「前記ゲル化剤の含有量が、基油との合計量に対して8?11質量%であり」との記載を、「前記ゲル化剤の含有量が、基油との合計量に対して8?10質量%であり」に訂正し、同段落の「降伏応力が1.1×10^(4)?1.5×10^(4)Paである」との記載を、「降伏応力が1.1×10^(4)?1.3×10^(4)Paである」に訂正する。 (4)訂正事項4 明細書の段落[0011]の「降伏応力が1.1×10^(4)?1.5×10^(4)Pa」との記載を、「降伏応力が1.1×10^(4)?1.3×10^(4)Pa」に訂正し、明細書の段落[0014]の「基油との合計量に対して8?11質量%」との記載を、「基油との合計量に対して8?10質量%」に訂正する。 (5)訂正事項5 明細書の段落[0012]及び[0014]の「N-2-エチルヘキシサノイル-L-グルタミン酸ジブチルアミド」との記載を、「N-2-エチルヘキサノイル-L-グルタミン酸ジブチルアミド」に訂正し、明細書の段落[0027][表1]中の「N-2-エチルサノイル-L-グルタミン酸ジブチルアミド」との記載を、「N-2-エチルヘキサノイル-L-グルタミン酸ジブチルアミド」に訂正する。 (6)訂正事項6 明細書の段落[0027][表1]中の「実施例3」を「参考例3」に訂正し、明細書の段落[0023]、[0028]、[0029]の「実施例1?3」との記載を、「実施例1、2、参考例3」に訂正する。 (7)訂正事項7 図面の[図2]の「本発明の範囲」について、降伏応力の上限「1.5」を示す矢印、直線、及び説明を、以下に示すように、降伏応力の上限「1.3」を示すものに訂正する。 「 」 第3 当審の判断 1.訂正の目的(特許法第126条第1項)について まず、上記訂正事項1?7に係る本件訂正が、特許法第126条第1項ただし書各号に掲げるいずれの事項を目的とするものか、検討する。 (1)訂正事項1について 訂正前の請求項1には、ゲル化剤の一成分として「N-2-エチルヘキシサノイル-L-グルタミン酸ジブチルアミド」という化合物名が記載されているが、「2-エチルヘキシサノイル」という基が存在しないことは当業者の技術常識に照らして明らかであるから、上記の記載に誤記があることは、それ自体で明らかである。また、本件特許に係る出願の出願日前に、本件発明が属する潤滑剤組成物の技術分野において、「N-2-エチルヘキサノイル-L-グルタミン酸ジブチルアミド」という化合物が、アミノ酸系ゲル化剤の代表的なものとして周知(例えば、特開2011-26432号公報の[0013]、特開2009-114161号公報の[0006]及び国際公開第2013/118921号の[0002]を参照。)であったことを参酌すると、当業者は、上記訂正前の請求項1に記載されたゲル化剤の一成分である化合物が、正しくは「N-2-エチルヘキサノイル-L-グルタミン酸ジブチルアミド」であることを容易に理解する。 そうすると、訂正事項1は、訂正前の請求項1における明らかな誤記を、本来その意であることが明らかな字句に正すものであり、訂正前の記載が当然に訂正後の記載と同一の意味を表示するものと客観的に認められるから、特許法第126条第1項ただし書第2号に規定する誤記の訂正を目的とするものである。 また、訂正事項1による請求項2の訂正は、請求項1の訂正に連動して行われるものであるから、当該訂正も特許法第126条第1項ただし書第2号に規定する誤記の訂正を目的とするものといえる。 (2)訂正事項2について 訂正事項2による請求項1の訂正は、訂正前の請求項1に記載されていた基油との合計量に対するゲル化剤の含有量を「8?11質量%」から「8?10質量%」に減縮し、同降伏応力を「1.1×10^(4)?1.5×10^(4)Pa」から「1.1×10^(4)?1.3×10^(4)Pa」に減縮するものであるから、いずれも特許法第126条第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、訂正事項2による請求項2の訂正は、請求項1の訂正に連動して行われるものであるから、当該訂正も特許法第126条第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。 (3)訂正事項3について 訂正前明細書の段落[0006]には、訂正前請求項1及び2と同じ事項が記載されているところ、訂正事項3は、上記訂正事項1及び2による訂正後の特許請求の範囲と、明細書の段落[0006]の記載とが一致せず不明瞭となることを避けるため、同段落の記載を訂正後の請求項1及び2の記載と整合するように訂正するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 (4)訂正事項4について 訂正前明細書の段落[0011]には、本件発明の潤滑剤組成物について、降伏応力が「1.1×10^(4)?1.5×10^(4)Pa」に調整されていることが記載され、訂正前明細書の段落[0014]には、総ゲル化剤量が「基油との合計量に対して8?11質量%」であることが記載されているところ、訂正事項4は、上記訂正事項2による訂正後の請求項1に記載された降伏応力及び総ゲル化剤量と、明細書の段落[0011]に記載された降伏応力及び段落[0014]に記載された総ゲル化剤量とが一致せず不明瞭となることを避けるため、両段落の記載を訂正後の請求項1の記載と整合するように訂正するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 (5)訂正事項5について 訂正前明細書の段落[0012]及び[0014]には、ゲル化剤の一成分として「N-2-エチルヘキシサノイル-L-グルタミン酸ジブチルアミド」という化合物名が記載され、訂正前明細書の段落[0027][表1]には、「N-2-エチルサノイル-L-グルタミン酸ジブチルアミド」という化合物名が記載されているが、「2-エチルヘキシサノイル」という基及び「2-エチルサノイル」という基がいずれも存在しないことは当業者の技術常識に照らして明らかであるから、上記の記載に誤記があることは、それ自体で明らかである。また、上記第3 1.(1)「訂正事項1について」に記載したように、本件特許に係る出願の出願日前に、本件発明が属する潤滑剤組成物の技術分野において、「N-2-エチルヘキサノイル-L-グルタミン酸ジブチルアミド」という化合物が、アミノ酸系ゲル化剤の代表的なものとして周知であったことを参酌すると、当業者は、上記訂正前の段落[0012]、[0014]及び[0027][表1]に記載されたゲル化剤の一成分である化合物が、いずれも正しくは「N-2-エチルヘキサノイル-L-グルタミン酸ジブチルアミド」であることを容易に理解する。 そうすると、訂正事項5は、訂正前の段落[0012]、[0014]及び[0027][表1]における明らかな誤記を、本来その意であることが明らかな字句に正すものであり、訂正前の記載が当然に訂正後の記載と同一の意味を表示するものと客観的に認められるから、特許法第126条第1項ただし書第2号に規定する誤記の訂正を目的とするものである。 (6)訂正事項6について 訂正前明細書の段落[0027][表1]には、訂正前の請求項1の発明特定事項を充足する実施例1?3が記載されている。特に、実施例3については、訂正前明細書の段落[0023]に、「表1に示すように、基油にゲル化剤または増ちょう剤を配合して潤滑剤組成物を調製した。尚、基油、ゲル化剤及び増ちょう剤の各数値は、基油とゲル化剤との合計量、または基油と増ちょう剤との合計量に対する割合(質量%)である。」と記載されていることを勘案すると、基油とゲル化剤との合計量に対して、ゲル化剤が5.5+5.5=11.0質量%配合された例であり、その降伏応力は1.5×10^(4)Paであることが読み取れる。 ここで、上記訂正事項2による訂正後の請求項1に記載された総ゲル化剤量及び降伏応力は、訂正前よりも数値範囲が減縮され、上記表1に記載された「実施例3」の総ゲル化剤量及び降伏応力を含まないことになるから、当該実施態様を「実施例」と表記することは、訂正後の特許請求の範囲の記載と整合せず不明瞭となる。 訂正事項6による段落[0027][表1]の訂正は、上記のように記載が不明瞭となることを避けるため、訂正事項2による特許請求の範囲の訂正と整合するように、「実施例3」を「参考例3」という表記に訂正するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 訂正事項6による、段落[0023]、[0028]、[0029]の「実施例1?3」との記載を、「実施例1、2、参考例3」とする訂正も、同様に、特許法第126条第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。 (7)訂正事項7について 訂正前の図面[図2]は、訂正前明細書の段落[0009]の記載を参酌すると、「実施例で得られた、降伏応力と相対トルクとの関係を示すグラフである」ところ、当該図2には、訂正前明細書の段落[0027][表1]に記載された実施例1?3及び比較例1?5の降伏応力及び相対トルク値に対応する各点が図示されていることが読み取れる。また、「本発明の範囲」として、訂正前の請求項1に記載された降伏応力の要件(1.1×10^(4)?1.5×10^(4)Pa)を充足する実施例1?3の降伏応力を含む範囲が矢印、直線及び数値で示されており、その上限は実施例3に相当する1.5×10^(4)Paとされている。 ここで、上記訂正事項2による訂正後の請求項1に記載された降伏応力は、訂正前よりも数値範囲が減縮され、上記表1に記載された「実施例3」の降伏応力を含まないことになり、具体的には、上記表1に記載された「実施例2」に対応する1.3×10^(4)Paが上限となるから、図2における「本発明の範囲」は、訂正後の特許請求の範囲の記載と整合せず不明瞭となる。 訂正事項7による図面[図2]の訂正は、上記のように記載が不明瞭となることを避けるため、訂正事項2による特許請求の範囲の訂正と整合するように、降伏応力の上限が1.3×10^(4)Paであることを示すように矢印、直線及び数値の記載を訂正するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 2.新規事項の追加の有無及び特許請求の範囲の拡張又は変更(特許法第126条第5項及び第6項)について (1)訂正事項1について 上記第3 1.(1)「訂正事項1について」に記載したように、訂正事項1による化合物名の訂正は、当業者にとって明らかな誤記を、本来その意であることが明らかな字句に正すものであり、訂正前の記載が当然に訂正後の記載と同一の意味を表示するものと客観的に認められるから、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面に記載した事項の範囲内で行われるものである。また、当該訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。よって、訂正事項1は特許法第126条第5項及び第6項に規定する要件に適合するものである。 さらに、訂正事項1による請求項2の訂正は、請求項1の訂正に連動して行われるものであるから、当該訂正も特許法第126条第5項及び第6項に規定する要件に適合するものである。 (2)訂正事項2について 訂正前明細書の段落[0027][表1]には、実施例1として、ゲル化剤がN-2-エチルサノイル-L-グルタミン酸ジブチルアミド(訂正事項5により「N-2-エチルヘキサノイル-L-グルタミン酸ジブチルアミド」に訂正される。)とジベンジリデンソルビトールとを等量ずつ混合したものであり、基油とゲル化剤との合計量に対して、ゲル化剤が4+4=8質量%配合されており、降伏応力が1.1×10^(4)Paである例と、実施例2として、上記と同じゲル化剤が5+5=10質量%配合されており、降伏応力が1.3×10^(4)Paである例が記載されている。 訂正事項2による訂正後の請求項1に記載されたゲル化剤の含有量及び降伏応力は、上記実施例1を下限とし、上記実施例2を上限とするものであるから、訂正事項2は願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面に記載した事項の範囲内で行われるものである。また、当該訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。よって、訂正事項2は特許法第126条第5項及び第6項に規定する要件に適合するものである。 さらに、訂正事項2による請求項2の訂正は、請求項1の訂正に連動して行われるものであるから、当該訂正も特許法第126条第5項及び第6項に規定する要件に適合するものである。 (3)訂正事項3について 上記第3 1.(3)「訂正事項3について」に記載したとおり、訂正事項3は、訂正事項1及び2による特許請求の範囲の訂正と整合するように、訂正前明細書の段落[0006]の記載を訂正するものである。そこで、訂正事項1及び2についての検討を踏まえると、訂正事項3も願書に(最初に)添付した明細書、特許請求の範囲及び図面に記載した事項の範囲内で行われるものといえる。また、当該訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。よって、訂正事項3は特許法第126条第5項及び第6項に規定する要件に適合するものである。 (4)訂正事項4について 上記第3 1.(4)「訂正事項4について」に記載したとおり、訂正事項4は、訂正事項2による特許請求の範囲の訂正と整合するように、訂正前明細書の段落[0011]及び[0014]の記載を訂正するものである。そこで、訂正事項2についての検討を踏まえると、訂正事項4も願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面に記載した事項の範囲内で行われるものといえる。また、当該訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。よって、訂正事項4は特許法第126条第5項及び第6項に規定する要件に適合するものである。 (5)訂正事項5について 上記第3 1.(5)「訂正事項5について」に記載したように、訂正事項5は、訂正前の段落[0012]、[0014]及び[0027][表1]における化合物名の明らかな誤記を、本来その意であることが明らかな字句に正すものであり、訂正前の記載が当然に訂正後の記載と同一の意味を表示するものと客観的に認められるから、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面に記載した事項の範囲内で行われるものである。また、当該訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。よって、訂正事項5は特許法第126条第5項及び第6項に規定する要件に適合するものである。 (6)訂正事項6について 上記第3 1.(6)「訂正事項6について」に記載したとおり、訂正事項6は、訂正事項2による特許請求の範囲の訂正と整合するように、訂正前明細書の段落[0027][表1]、[0023]、[0028]及び[0029]の記載を訂正するものである。そこで、訂正事項2についての検討を踏まえると、訂正事項6も願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面に記載した事項の範囲内で行われるものといえる。また、当該訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。よって、訂正事項6は特許法第126条第5項及び第6項に規定する要件に適合するものである。 (7)訂正事項7について 上記第3 1.(7)「訂正事項7について」に記載したとおり、訂正事項7は、訂正事項2による特許請求の範囲の訂正と整合するように、訂正前の図面[図2]に示された矢印、直線及び数値の記載を実施例1及び2の記載に基づいて訂正するものである。そこで、訂正事項2についての検討を踏まえると、訂正事項7も願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面に記載した事項の範囲内で行われるものといえる。また、当該訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。よって、訂正事項7は特許法第126条第5項及び第6項に規定する要件に適合するものである。 3.独立特許要件(特許法第126条第7項)について (1)訂正事項1及び5について 上記第3 1.(1)及び同(5)に記載したように、訂正事項1及び5による化合物名の訂正は、いずれも当業者にとって明らかな誤記を、本来その意であることが明らかな字句に正すものであり、訂正前の記載は当然に訂正後の記載と同一の意味を表示するものと客観的に認められるから、訂正により独立特許要件の適否について見直すべき新たな事情は存在しない。また、訂正事項1及び5による訂正により、特許法第36条第4項第1号及び第6項に規定する要件を満たさなくなるものでもないことも明らかである。よって、訂正事項1及び5は、いずれも特許法第126条第7項に規定する要件に適合するものである。 (2)訂正事項2について 上記第3 1.(2)及び同2.(2)に記載したように、訂正事項2による訂正後の特許請求の範囲に記載された事項により特定される請求項1?2に係る発明は、いずれも発明特定事項を訂正前よりも限定するものであるから、独立特許要件の適否について見直すべき新たな事情は存在しない。また、訂正事項2による訂正により、特許法第36条第4項第1号及び第6項に規定する要件を満たさなくなるものでもないことも明らかである。よって、訂正事項2は特許法第126条第7項に規定する要件に適合するものである。 (3)訂正事項3、4、6及び7について 上記第3 1.「訂正の目的(特許法第126条第1項)について」において検討したとおり、これらの訂正事項は、いずれも特許法第126条第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。 なお、本件訂正審判の請求の趣旨は、上記第2のとおりであり、特許権全体に対して訂正審判を請求する場合に該当するから、特許法第126条第3項及び第4項の規定に適合するか否かについての検討は不要である。 第4 むすび 以上のとおり、本件訂正請求に係る訂正事項1?7は、特許法第126条第1項ただし書第1号、第2号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、いずれも同条第5項から第7項に規定する要件に適合するものである。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 潤滑剤組成物及び転がり軸受 【技術分野】 【0001】 本発明は、潤滑剤組成物、並びに前記潤滑剤組成物を封入してなる転がり軸受に関する。 【背景技術】 【0002】 従来から転がり軸受の低トルク化のために、金属石けんやウレア化合物等の増ちょう剤に代えてゲル化剤を用いることが行われている。増ちょう剤の代わりにゲル化剤を用いたゲル化剤系潤滑剤組成物は、せん断力が付与されると容易に油状に流動し、せん断力が付与されなくなると速やかにゲル状に回復するという特性(回復性)がある。また、ゲル化剤系潤滑剤組成物は、増ちょう剤を用いた潤滑剤組成物に比べて、ゲル化剤の使用量を少なくすることができ、転がり抵抗が低減されて低トルクとなる。 【0003】 本出願人も特許文献1において、更なる低トルク化を図るために、アミノ酸系ゲル化剤とベンジリデンソルビトール誘導体とを併用したゲル化剤系潤滑剤組成物を提案している。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0004】 【特許文献1】特開2011-26432号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 しかしながら、更なる検討の結果、ゲル化剤系潤滑剤組成物では、ゲル化剤の降伏応力が小さい(ちょう度が高い)と、特に小径転がり軸受ではグリースが全体的に撹拌されるチャーニング状態となり、低トルクを得にくくなることが判明した。そこで本発明は、ゲル化剤系潤滑剤組成物において、小径転がり軸受でもチャーニング状態になるのを防ぎ、低トルク化を図ることを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0006】 上記目的を達成するために本発明は、下記の潤滑剤組成物及び転がり軸受を提供する。 (1) 基油及びゲル化剤を含有する潤滑剤組成物であって、 ゲル化剤が、N-2-エチルヘキサノイル-L-グルタミン酸ジブチルアミドとジベンジリデンソルビトールとを、等量ずつ混合した混合物であり、 前記ゲル化剤の含有量が、基油との合計量に対して8?10質量%であり、 かつ、降伏応力が1.1×10^(4)?1.3×10^(4)Paであることを特徴とする潤滑剤組成物。 (2)内輪と、外輪と、前記内輪及び前記外輪の間に転動自在に配設された複数の転動体とを備え、上記(1)に記載の潤滑剤組成物を封入したことを特徴とする転がり軸受。 【発明の効果】 【0007】 本発明の潤滑剤組成物は、特定のゲル化剤を含み、降伏応力を特定範囲内としたため、小径転がり軸受でもチャーニング状態になるのを防ぎ、低トルクを得ることができる。 【0008】 また、上記潤滑剤組成物を封入した本発明の転がり軸受も低トルクで、安定した回転性能を有する。 【図面の簡単な説明】 【0009】 【図1】本発明に係る転がり軸受の一例を示す断面図である。 【図2】実施例で得られた、降伏応力と相対トルクとの関係を示すグラフである。 【発明を実施するための形態】 【0010】 以下、本発明に関して詳細に説明する。 【0011】 〔潤滑剤組成物〕 本発明の潤滑剤組成物は、基油及びゲル化剤を含有し、必要に応じて各種添加剤を添加したものである。また、降伏応力が1.1×10^(4)?1.3×10^(4)Paに調整されている。 【0012】 ゲル化剤として、N-2-エチルヘキサノイル-L-グルタミン酸ジブチルアミドとジベンジリデンソルビトールとを併用する。N-2-エチルヘキサノイル-L-グルタミン酸ジブチルアミドとジベンジリデンソルビトールとを併用することにより、それぞれを単独で使用した場合に比べて、初期ちょう度を低くすることができ、転送面に導入されるゲル化剤量を減らすことができ、低トルクを得ることができる。また、併用することにより、回復性がより向上する。 【0014】 N-2-エチルヘキサノイル-L-グルタミン酸ジブチルアミドとジベンジリデンソルビトールとの合計量(総ゲル化剤量)は、基油との合計量に対して8?10質量%である。また、N-2-エチルヘキサノイル-L-グルタミン酸ジブチルアミドとジベンジリデンソルビトールとの混合比率は、併用することによる相乗効果から等量ずつ混合する。 【0015】 金属石けんやウレア化合物等の一般的な増ちょう剤を用いた潤滑剤組成物では、増ちょう剤量を10?30質量%にする必要があるが、アミノ酸系ゲル化剤とベンジリデンソルビトール誘導体とを併用することにより、総ゲル化剤量を10質量%程度、もしくはそれ以下にまで低減することができ、低トルクで、トルクの安定化を図ることができる。 【0016】 降伏応力が小さいと潤滑剤組成物がチャーニング状態となり、低トルクが得られないが、降伏応力を1.1×10^(4)Pa以上に高めることにより、一度転送面から弾かれた潤滑剤組成物が位置決めされて必要以上の潤滑剤組成物が転送面に導入されず、転がり抵抗が減少するチャネリング状態となり、低トルクを得ることができる。但し、降伏応力が1.5×10^(4)Paを超えると、トルクの低減効果が不十分となる。尚、一般的な増ちょう剤を用いて降伏応力を1.1×10^(4)?1.5×10^(4)Paにすると、流動性の低下と転送面に導入される増ちょう剤量が多くなり、低トルクを得ることができない。 【0017】 基油は上記ゲル化剤によりゲル化されるものであれば、特に制限はなく、通常潤滑剤組成物の基油として使用されている油(鉱油系、合成油系または天然油系の潤滑油)は全て使用することができる。具体的には、鉱油系潤滑油としては、鉱油を減圧蒸留、油剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、硫酸洗浄、白土精製、水素化精製等を、適宜組み合わせて精製したもの、合成油系潤滑基油としては、炭化水素系油、芳香族系油、エステル系油、エーテル系油等、前記天然油系潤滑基油としては、牛脂、豚脂、大豆油、菜種油、米ぬか油、ヤシ油、パーム油、パーム核油等の油脂系油またはこれらの水素化物が使用できる。 【0018】 また、低トルクを考慮すると、基油粘度は低い方が有利であり、潤滑性能等を勘案して40℃における動粘度が10?400mm^(2)/sであることが好ましい。 【0019】 潤滑剤組成物には、その各種性能をさらに向上させるため、所望により種々の添加剤を混合してもよい。添加剤としては、アミン系、フェノール系、硫黄系、ジチオリン酸亜鉛、ジチオカルバミン酸亜鉛などの酸化防止剤、スルフォン酸金属塩、エステル系、アミン系、ナフテン酸金属塩、コハク酸誘導体などの防錆剤、リン系、ジチオリン酸亜鉛、有機モリブデンなどの極圧剤、脂肪酸、動植物油などの油性向上剤、ベンゾトリアゾールなどの金属不活性化剤など、潤滑で使用される添加剤を単独又は2種以上混合して用いることができる。尚、これら添加剤の添加量は、本発明の目的を損なわない程度であれば特に限定されるものではない。 【0020】 潤滑剤組成物の製造方法にも制限はなく、例えば、基油に、アミノ酸系ゲル化剤とベンジリデンソルビトール誘導体とを所定量配合し、これらゲル化剤が溶解する温度まで加熱攪拌し、完全に溶解した後、予め冷却しておいたアルミ製パットに流し込むみ、流水で冷却する。そして、ゲル状に固まった潤滑剤組成物を3本ロールにかけて潤滑剤組成物が得られる。尚、添加剤は、予め基油に溶解しておりてもよいし、ゲル化剤とともに配合してもよい。 【0021】 〔転がり軸受〕 本発明の転がり軸受は、上記の潤滑剤組成物が封入される限り、軸受の種類や構造には制限はないが、潤滑剤組成物による低トルク化を促進させるために非接触型シールを備えるものが好ましい。図1は、その一例を示す断面図であるが、図示される玉軸受は、外周面に内輪軌道面1を有する内輪2と、内周面に外輪軌道面3を有する外輪4との間に、転動体として玉5を配設し、保持器7により保持されている。そして、内輪2、外輪4及び玉5で形成される軸受空間に上記の潤滑剤組成物(図示せず)を充填し、非接触型シール6で封止して構成されている。 【実施例】 【0022】 以下に実施例を挙げて更に説明するが、本発明はこれにより何ら制限されるものではない。 【0023】 (実施例1、2、参考例3、比較例1?5) 表1に示すように、基油にゲル化剤または増ちょう剤を配合して潤滑剤組成物を調製した。尚、基油、ゲル化剤及び増ちょう剤の各数値は、基油とゲル化剤との合計量、または基油と増ちょう剤との合計量に対する割合(質量%)である。そして、各潤滑剤組成物について、下記に示す(1)降伏圧力測定、(2)軸受トルク試験、(3)軸受漏洩試験を行った。 【0024】 (1)降伏応力測定 粘弾性体の粘弾性測定に用いられるレオメーターを用い、下記条件にてG″(損失弾性率)>G´(貯蔵弾性率)となるところを降伏応力とした。結果を表1に示す。 ・試験条件 ギャップ:0.1mm 温度:30℃ オシレーションモード:応力掃引 周波数:10Hz 【0025】 (2)軸受トルク試験 下記の条件にて回転開始60分後の動トルクをトルク値とし、一般的な増ちょう剤であるリチウム石けんを用いた比較例1のトルク値を1とする相対トルク値を求めた。尚、試験軸受は小径転がり軸受を想定したものである。結果を表1に示すが、相対トルク値0.7未満を合格とした。また、この相対トルク値と、上記で測定した降伏応力との関係を図1にグラフ化して示す。 ・試験条件 試験軸受:日本精工(株)製転がり軸受「608(内径Φ8mm、外径Φ22mm、幅7mm)」 シール形式:両側鋼板シールド(非接触式) 回転数:1800min^(-1) アキシアル荷重:29.4N 温度:室温 【0026】 (3)軸受漏洩試験 下記の条件にて100時間連続回転させ、回転前後の重量差から潤滑剤組成物の漏洩率を算出した。尚、試験軸受は小径転がり軸受を想定したものである。そして、比較例1の漏洩率を1とする相対漏洩率を求めた。結果を表1に示すが、相対漏洩率1.0以下を合格とした。 ・試験条件 試験軸受:日本精工(株)製転がり軸受「608(内径Φ8mm、外径Φ22mm、幅7mm)」 シール形式:両側鋼板シールド(非接触式) 回転数:15000min^(-1) アキシアル荷重:29.4N 温度:120℃ 【0027】 【表1】 【0028】 表1に示すように、実施例1、2、参考例3は、アミノ酸系ゲル化剤とベンジリデンソルビトール誘導体とを併用し、降伏応力が1.1×10^(4)?1.5×10^(4)Paであるため、チャネリング性が高く、比較例1よりも低トルクであり、更にはグリースの漏洩も少ない。 【0029】 これに対し比較例2、3は、アミノ酸系ゲル化剤とベンジリデンソルビトール誘導体とを併用しているものの、降伏応力が実施例1、2、参考例3よりも低く、2倍以上の高トルクになっている。比較例4は、アミノ酸系ゲル化剤とベンジリデンソルビトール誘導体とを併用しているものの、降伏応力が実施例1、2、参考例3よりも高く、トルクも高くなっている。比較例5は、ベンジリデンソルビトール誘導体の単独使用であり、実施例1、2、参考例3に比べて含有量が多いにもかかわらず降伏応力が低く、トルクも高くなっている。更に、漏洩率も、比較例4を除いて実施例1、2、参考例3に比べて多くなっている。 【符号の説明】 【0030】 2 内輪 4 外輪 5 玉 6 シール 7 保持器 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 基油及びゲル化剤を含有する潤滑剤組成物であって、 ゲル化剤が、N-2-エチルヘキサノイル-L-グルタミン酸ジブチルアミドとジベンジリデンソルビトールとを、等量ずつ混合した混合物であり、 前記ゲル化剤の含有量が、基油との合計量に対して8?10質量%であり、 かつ、降伏応力が1.1×10^(4)?1.3×10^(4)Paであることを特徴とする潤滑剤組成物。 【請求項2】 内輪と、外輪と、前記内輪及び前記外輪の間に転動自在に配設された複数の転動体とを備え、請求項1に記載の潤滑剤組成物を封入したことを特徴とする転がり軸受。 【図面】 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審理終結日 | 2018-10-26 |
結審通知日 | 2018-10-30 |
審決日 | 2018-11-12 |
出願番号 | 特願2012-108714(P2012-108714) |
審決分類 |
P
1
41・
841-
Y
(C10M)
P 1 41・ 855- Y (C10M) P 1 41・ 851- Y (C10M) P 1 41・ 854- Y (C10M) P 1 41・ 852- Y (C10M) P 1 41・ 853- Y (C10M) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 牟田 博一 |
特許庁審判長 |
冨士 良宏 |
特許庁審判官 |
天野 宏樹 日比野 隆治 |
登録日 | 2016-02-19 |
登録番号 | 特許第5884628号(P5884628) |
発明の名称 | 潤滑剤組成物及び転がり軸受 |
代理人 | 松山 美奈子 |
代理人 | 松山 美奈子 |