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審決分類 |
審判 訂正 特許請求の範囲の実質的変更 訂正する F16C 審判 訂正 判示事項別分類コード:857 訂正する F16C 審判 訂正 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張 訂正する F16C 審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する F16C 審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正する F16C 審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する F16C |
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管理番号 | 1346941 |
審判番号 | 訂正2018-390126 |
総通号数 | 230 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-02-22 |
種別 | 訂正の審決 |
審判請求日 | 2018-08-29 |
確定日 | 2018-11-29 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5012498号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 特許第5012498号の明細書及び特許請求の範囲を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 |
理由 |
1 手続の経緯 本件訂正審判の請求に係る特許第5012498号は、平成19年12月27日の出願であって、平成24年6月15日にその特許権の設定登録がなされたものである。 そして、平成30年8月29日に本件訂正審判の請求がなされたものである。 2 請求の趣旨 本件訂正審判の請求の趣旨は、特許第5012498号の明細書及び特許請求の範囲を、本件審判請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正することを認める、との審決を求めるものである。 3 訂正の内容 本件訂正審判に係る訂正の内容は、次のとおりである。(下線部は訂正箇所を示す。) (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1?4、6?8を削除する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項5の「テーパ状または段差状の切欠き」との記載を、「テーパ状の切欠き」とした上で、「請求項1?4のいずれか1項に記載の深溝玉軸受。」とあるうちの請求項1を引用するものについて、独立形式に改め次のようにする。(訂正後の請求項5を直接または間接的に引用する訂正後の請求項10?13においても同様に訂正する。) 「外周面に内輪軌道溝を有する内輪と、内周面に外輪軌道溝を有する外輪と、前記外輪軌道溝と前記内輪軌道溝との間に転動自在に配置された複数の玉と、該複数の玉を円周方向に所定の間隔で保持する保持器と、を有し、軸受内部を潤滑するための潤滑油が、前記玉に対して軸方向一方側から供給され、前記玉に対して軸方向他方側から排出される環境下で使用される深溝玉軸受において、 前記軸方向一方側のみに設けられた、前記外輪の内周面に固定された状態で前記内輪の肩部に向けて延びる環状板をさらに有し、 前記環状板の内周部と前記内輪の外周部との間には、前記軸受内部に前記潤滑油を供給するための環状の開口部が形成され、 前記環状板は、軸受幅寸法内に収まるように配置され、 前記保持器は、円環部及び該円環部の片方の軸方向端面に突設された複数の柱部を有し、該柱部間に形成された球面ポケットに前記玉を収容することで前記玉を円周方向に所定の間隔で保持する樹脂製の冠型保持器であり、 前記冠型保持器の前記円環部は、前記軸方向一方側に向けて配置され、 前記環状板の内周部と対向する前記内輪の肩部にテーパ状の切欠きが設けられていることを特徴とする深溝玉軸受。」 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項5の「テーパ状または段差状の切欠き」との記載を、「テーパ状の切欠き」とした上で、「請求項1?4のいずれか1項に記載の深溝玉軸受。」とあるうちの請求項2を引用するものについて、独立形式に改め、新たに請求項9として次のようにする。(訂正後の請求項9を直接または間接的に引用する訂正後の請求項10?13においても同様に訂正する。) 「外周面に内輪軌道溝を有する内輪と、内周面に外輪軌道溝を有する外輪と、前記外輪軌道溝と前記内輪軌道溝との間に転動自在に配置された複数の玉と、該複数の玉を円周方向に所定の間隔で保持する保持器と、を有し、軸受内部を潤滑するための潤滑油が、前記玉に対して軸方向一方側から供給され、前記玉に対して軸方向他方側から排出される環境下で使用される深溝玉軸受において、 前記軸方向一方側のみに設けられた、前記外輪に固定された状態で前記内輪の肩部に向けて延びる環状板をさらに有し、 該環状板の内周部と前記内輪の外周部との間には、前記軸受内部に前記潤滑油を供給するための環状の開口部が形成され、 前記環状板は、ハウジングに一体に設けられ、 前記保持器は、円環部及び該円環部の片方の軸方向端面に突設された複数の柱部を有し、該柱部間に形成された球面ポケットに前記玉を収容することで前記玉を円周方向に所定の間隔で保持する樹脂製の冠型保持器であり、 前記環状板の内周部と対向する前記内輪の肩部にテーパ状の切欠きが設けられていることを特徴とする深溝玉軸受。」 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項5に「請求項1?4のいずれか1項に記載の深溝玉軸受。」とあるうちの請求項3を引用するものについて、訂正後の請求項5または9を引用する形式に改め、新たな請求項10として次のようにする。 「前記冠型保持器の径方向幅の中央位置が、前記玉の中心よりも軸受の内径側に偏っていることを特徴とする請求項5または9に記載の深溝玉軸受。」 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項5に「請求項1?4のいずれか1項に記載の深溝玉軸受。」とあるうちの請求項4を引用するものについて、訂正後の請求項5、9または10を引用する形式に改め、新たな請求項11として次のようにする。 「前記玉の中心が、前記内輪と外輪の軸方向幅の中心位置よりも、前記軸方向他方側にオフセットされていることを特徴とする請求項5、9又は10のいずれか1項に記載の深溝玉軸受。」 (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項6に「請求項1?5のいずれか1項に記載の深溝玉軸受。」とあるうちの請求項5を引用するものについて、訂正後の請求項5、9?11のいずれか1項を引用する形式に改め、新たな請求項12として次のようにする。 「前記環状板の内周部に、軸受内部側に折り曲げられた折り曲げ壁が設けられていることを特徴とする請求項5、9?11のいずれか1項に記載の深溝玉軸受。」 (7)訂正事項7 特許請求の範囲の請求項7に「請求項1?6のいずれか1項に記載の深溝玉軸受。」とあるうちの請求項5を引用するものについて、訂正後の請求項5、9?12のいずれか1項を引用する形式に改め、新たな請求項13として次のようにする。 「前記保持器の球面ポケットの内周部のエッジに面取りまたは曲面が形成されていることを特徴とする請求項5、9?12のいずれか1項に記載の深溝玉軸受。」 (8)訂正事項8 明細書の段落【0010】を次のようにする。 「前述した目的を達成するために、本発明に係る深溝玉軸受は、下記(1)?(6)を特徴としている。 (1) 外周面に内輪軌道溝を有する内輪と、内周面に外輪軌道溝を有する外輪と、前記外輪軌道溝と前記内輪軌道溝との間に転動自在に配置された複数の玉と、該複数の玉を円周方向に所定の間隔で保持する保持器と、を有し、軸受内部を潤滑するための潤滑油が、前記玉に対して軸方向一方側から供給され、前記玉に対して軸方向他方側から排出される環境下で使用される深溝玉軸受において、 前記軸方向一方側のみに設けられた、前記外輪の内周面に固定された状態で前記内輪の肩部に向けて延びる環状板をさらに有し、 前記環状板の内周部と前記内輪の外周部との間には、前記軸受内部に前記潤滑油を供給するための環状の開口部が形成され、 前記環状板は、軸受幅寸法内に収まるように配置され、 前記保持器は、円環部及び該円環部の片方の軸方向端面に突設された複数の柱部を有し、該柱部間に形成された球面ポケットに前記玉を収容することで前記玉を円周方向に所定の間隔で保持する樹脂製の冠型保持器であり、 前記冠型保持器の前記円環部は、前記軸方向一方側に向けて配置され、前記環状板の内周部と対向する前記内輪の肩部にテーパ状の切欠きが設けられていることを特徴とする深溝玉軸受。 (2) 外周面に内輪軌道溝を有する内輪と、内周面に外輪軌道溝を有する外輪と、前記外輪軌道溝と前記内輪軌道溝との間に転動自在に配置された複数の玉と、該複数の玉を円周方向に所定の間隔で保持する保持器と、を有し、軸受内部を潤滑するための潤滑油が、前記玉に対して軸方向一方側から供給され、前記玉に対して軸方向他方側から排出される環境下で使用される深溝玉軸受において、 前記軸方向一方側のみに設けられた、前記外輪に固定された状態で前記内輪の肩部に向けて延びる環状板をさらに有し、 該環状板の内周部と前記内輪の外周部との間には、前記軸受内部に前記潤滑油を供給するための環状の開口部が形成され、 前記環状板は、ハウジングに一体に設けられ、 前記保持器は、円環部及び該円環部の片方の軸方向端面に突設された複数の柱部を有し、該柱部間に形成された球面ポケットに前記玉を収容することで前記玉を円周方向に所定の間隔で保持する樹脂製の冠型保持器であり、前記環状板の内周部と対向する前記内輪の肩部にテーパ状の切欠きが設けられていることを特徴とする深溝玉軸受。 (3) 前記冠型保持器の径方向幅の中央位置が、前記玉の中心よりも軸受の内径側に偏っていることを特徴とする(1)または(2)に記載の深溝玉軸受。 (4) 前記玉の中心が、前記内輪と外輪の軸方向幅の中心位置よりも、前記軸方向他方側にオフセットされていることを特徴とする(1)?(3)のいずれかに記載の深溝玉軸受。 (5) 前記環状板の内周部に、軸受内部側に折り曲げられた折り曲げ壁が設けられていることを特徴とする(1)?(4)のいずれかに記載の深溝玉軸受。 (6) 前記保持器の球面ポケットの内周部のエッジに面取りまたは曲面が形成されていることを特徴とする(1)?(5)のいずれかに記載の深溝玉軸受。」 (9)訂正事項9 明細書の段落【0015】の「テーパ状または段差状の切欠き」との記載を、「テーパ状の切欠き」とする。 (10)訂正事項10 明細書の段落【0051】の「本発明の深溝玉軸受」との記載を、「深溝玉軸受」とする。 (11)訂正事項11 明細書の段落【0071】【図6】の「本発明の第1」との記載を、「第1」とする。 (12)訂正事項12 明細書の段落【0071】【図8】の「本発明の」との記載を削除する。 (13)訂正事項13 明細書の段落【0071】【図9】の「本発明の第2実施形態」との記載を、「図8」とする。 4 当審の判断 (1)訂正事項1 ア 訂正の目的について 訂正事項1は、特許請求の範囲の請求項1?4、6?8を削除する訂正であり、特許法第126条第1項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものといえる。 イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正か否か 訂正事項1は、特許請求の範囲の請求項1?4、6?8を削除する訂正であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるとともに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。 よって、訂正事項1は、特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 (2)訂正事項2 ア 訂正の目的について 訂正事項2は、 (ア)訂正前の請求項5の「テーパ状または段差状の切欠き」との記載を、「テーパ状の切欠き」とする訂正、 (イ)訂正前の請求項5が請求項1?4のいずれか1項の記載を引用する記載であったものを、請求項2?4を引用しないものとし、請求項1を引用するものについて引用関係を解消して独立形式の請求項へ改めるための訂正、 を含んでいる。 上記(ア)は、択一的記載の要素を削除する訂正であり、特許法第126条第1項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものといえる。 上記(イ)は、特許法第126条第1項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものといえる。 イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正か否か 訂正事項2は、択一的記載の要素を削除するとともに、引用関係を解消する訂正であるので、願書に添付した特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。 よって、訂正事項2は、特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 (3)訂正事項3 ア 訂正の目的について 訂正事項3は、 (ア)訂正前の請求項5の「テーパ状または段差状の切欠き」との記載を、「テーパ状の切欠き」とする訂正、 (イ)訂正前の請求項5が請求項1?4のいずれか1項の記載を引用する記載であったものを、請求項1、3及び4を引用しないものとし、請求項2を引用するものについて引用関係を解消して独立形式の請求項へ改めるための訂正、 を含んでいる。 上記(ア)は、択一的記載の要素を削除する訂正であり、特許法第126条第1項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものといえる。 上記(イ)は、特許法第126条第1項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものといえる。 イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正か否か 訂正事項3は、択一的記載の要素を削除するとともに、引用関係を解消する訂正であるので、願書に添付した特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。 よって、訂正事項3は、特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 (4)訂正事項4 ア 訂正の目的について 訂正事項4は、訂正前の請求項5が請求項1?4のいずれか1項の記載を引用する記載であったものを、請求項1、2及び4を引用しないものとし、請求項3を引用するものについてする訂正であり、実質的に、多数項を引用している請求項の引用請求項数を減少する訂正といえる。 ここで、訂正前の請求項3は、訂正前の請求項1または2を引用するものであるので、訂正前の請求項3を引用する請求項5に係る発明は、訂正前の請求項1、3及び5に記載のすべての事項を含むものと、訂正前の請求項2、3及び5に記載のすべての事項を含むものとが存在していた。 他方で、上記の訂正事項2及び3により、訂正前の請求項1または2を引用する請求項5は、択一的記載の要素を削除する訂正とともに訂正後の請求項5または9となった。 そうすると、訂正事項4は、訂正前の請求項3を引用する請求項5について、訂正事項2及び3による訂正後の請求項5または9を引用して、訂正前の請求項3の内容を記載した請求項とし、引用の関係で請求項番を10と改める訂正であり、訂正事項2及び3に伴いされた訂正ともいえる。 以上を踏まえると、訂正事項4は、特許法第126条第1項ただし書第1号及び第3号に規定する「特許請求の範囲の減縮」及び「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものといえる。 イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正か否か 訂正事項4による訂正後の請求項10は、訂正前の請求項3を引用する請求項5から、択一的記載の要素を削除したものに等しいので、訂正事項4は、願書に添付した特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。 よって、訂正事項4は、特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 (5)訂正事項5 ア 訂正の目的について 訂正事項5は、訂正前の請求項5が請求項1?4のいずれか1項の記載を引用する記載であったものを、請求項1?3を引用しないものとし、請求項4を引用するものについてする訂正であり、実質的に、多数項を引用している請求項の引用請求項数を減少する訂正といえる。 ここで、訂正前の請求項4は、訂正前の請求項1?3のいずれか1項を引用するものであるので、訂正前の請求項4を引用する請求項5に係る発明は、訂正前の請求項1、4及び5に記載のすべての事項を含むもの、訂正前の請求項1、3、4及び5に記載のすべての事項を含むもの、訂正前の請求項2、4及び5に記載のすべての事項を含むもの、及び、訂正前の請求項2、3、4及び5に記載のすべての事項を含むものが存在していた。 他方で、上記の訂正事項2及び3により、訂正前の請求項1または2を引用する請求項5は、択一的記載の要素を削除する訂正とともに訂正後の請求項5または9となり、訂正事項4により、訂正前の請求項3を引用する請求項5は、請求項10となった。 そうすると、訂正事項5は、訂正前の請求項4を引用する請求項5について、訂正事項2、3及び4による訂正後の請求項5、9または10のいずれか1項を引用して、訂正前の請求項4の内容を記載した請求項とし、引用の関係で請求項番を11と改める訂正であり、訂正事項2、3及び4に伴いされた訂正ともいえる。 以上を踏まえると、訂正事項5は、特許法第126条第1項ただし書第1号及び第3号に規定する「特許請求の範囲の減縮」及び「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものといえる。 イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正か否か 訂正事項5による訂正後の請求項11は、訂正前の請求項4を引用する請求項5から、択一的記載の要素を削除したものに等しいので、訂正事項5は、願書に添付した特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。 よって、訂正事項5は、特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 (6)訂正事項6 ア 訂正の目的について 訂正事項6は、訂正前の請求項6が請求項1?5のいずれか1項の記載を引用する記載であったものを、請求項1?4を引用しないものとし、請求項5を引用するものについてする訂正であり、多数項を引用している請求項の引用請求項数を減少する訂正といえる。 また、訂正前の請求項5は訂正前の請求項1?4のいずれか1項を引用するものであったところ、訂正事項2?5により、訂正前の請求項1?4のいずれか1項を引用する請求項5は、択一的記載の要素を削除する訂正とともに、それぞれ訂正後の請求項5、9?11となった。 そうすると、訂正事項6は、訂正前の請求項5を引用する請求項6について、訂正事項2?5による訂正後の請求項5、9?11のいずれか1項を引用し、引用の関係で請求項番を12と改める訂正であり、訂正事項2?5に伴いされた訂正ともいえる。 以上を踏まえると、訂正事項6は、特許法第126条第1項ただし書第1号及び第3号に規定する「特許請求の範囲の減縮」及び「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものといえる。 イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正か否か 訂正事項6による訂正後の請求項12は、訂正前の請求項5を引用する請求項6から、択一的記載の要素を削除したものに等しいので、訂正事項6は、願書に添付した特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。 よって、訂正事項5は、特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 (7)訂正事項7 ア 訂正の目的について 訂正事項7は、訂正前の請求項7が請求項1?6のいずれか1項の記載を引用する記載であったものを、請求項1?4を引用しないものとし、請求項5または請求項5を引用する請求項6のいずれかを引用するものについてする訂正であり、多数項を引用している請求項の引用請求項数を減少する訂正といえる。 また、訂正前の請求項5は訂正前の請求項1?4のいずれか1項を引用するものであったところ、訂正事項2?5により、訂正前の請求項1?4のいずれか1項を引用する請求項5は、択一的記載の要素を削除する訂正とともに、それぞれ訂正後の請求項5、9?11となった。 さらに、訂正前の請求項5を引用する請求項6は、訂正事項6により、訂正後の請求項12となった。 そうすると、訂正事項7は、訂正前の請求項5または請求項5を引用する請求項6のいずれかを引用する請求項7について、訂正事項2?6による訂正後の請求項5、9?12のいずれか1項を引用し、引用の関係で請求項番を13と改める訂正であり、訂正事項2?6に伴いされた訂正ともいえる。 以上を踏まえると、訂正事項7は、特許法第126条第1項ただし書第1号及び第3号に規定する「特許請求の範囲の減縮」及び「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものといえる。 イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正か否か 訂正事項7による訂正後の請求項13は、訂正前の請求項5または請求項5を引用する請求項6のいずれか1項を引用する請求項7から、択一的記載の要素を削除したものに等しいので、訂正事項7は、願書に添付した特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。 よって、訂正事項7は、特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 (8)訂正事項8 ア 訂正の目的について 訂正前の明細書の段落【0010】には、訂正前の特許請求の範囲の請求項1?8に対応する記載がなされていたところ、訂正事項8は、訂正後の請求項5、9?13の記載と整合するよう段落【0010】の記載を訂正するものであり、特許法第126条第1項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものといえる。 イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正か否か 訂正事項8は、明細書の記載を訂正後の特許請求の範囲の記載と整合するようにする訂正であり、その内容は訂正事項1?7と等しいものであるのでその判断と同様に、願書に添付した特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。 よって、訂正事項8は、特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 (9)訂正事項9 ア 訂正の目的について 訂正前の明細書の段落【0015】には【発明の効果】について記載されており、訂正前の特許請求の範囲の請求項5に対応して「テーパ状または段差状の切欠き」との記載がなされていたところ、訂正事項2及び3により、訂正前の請求項5に対応する訂正後の請求項5及び9では「テーパ状の切欠き」に特定されたため、明細書の記載が特許請求の範囲の記載と整合しないものとなった。 訂正事項9は、段落【0015】の前記記載から「または段差状」との記載を削除し、明細書の記載と特許請求の範囲の記載とを整合を図るための訂正であり、特許法第126条第1項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものといえる。 イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正か否か 訂正事項9は、明細書の記載を訂正事項2及び3による訂正後の特許請求の範囲の記載と整合するようにする訂正であり、その内容は訂正事項2及び3と等しいものであるのでその判断と同様に、願書に添付した特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。 よって、訂正事項9は、特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 (10)訂正事項10?13 ア 訂正の目的について (ア)訂正事項10及び11について 訂正前の明細書の段落【0051】には、「図6(a)?(e)は、本発明の深溝玉軸受の第1?第5変形例を示す概略構成図である。」と記載され、段落【0052】?【0054】には、図6(a)?図6(c)にテーパ状の切欠きの代わりに段差状の切欠きを設けた第1?第3変形例が示され、段落【0055】?【0056】には、図6(d)?図6(e)に切欠きを設けない第4?第5変形例が示されている旨記載されている。また、段落【0071】には、【図面の簡単な説明】として、「【図6】(a)?(e)は、本発明の第1?第5変形例に係る深溝玉軸受を示す要部概略断面図である。」と記載されている。 しかしながら、上述のとおり、訂正事項1により、訂正前の特許請求の範囲に記載されていた独立形式の請求項1及び2は削除され、訂正事項2及び3により、訂正前の請求項1及び2を引用する請求項5が新たな独立形式の請求項5及び9とされるとともに、「テーパ状の切欠き」を有すると特定されたため、上記の第1?第5変形例は本件発明に含まれないものとなり、明細書の記載と特許請求の範囲の記載とが不整合を来すことになった。 そこで、訂正事項10は段落【0051】の記載から「本発明の」との記載を削除し、訂正事項11は段落【0071】【図6】の説明から「本発明の」との記載を削除することで、明細書の記載と特許請求の範囲の記載とを整合を図ろうとするものである。 よって、訂正事項10及び11は、特許法第126条第1項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものといえる。 (イ)訂正事項12及び13について 訂正前の明細書の段落【0071】には、【図面の簡単な説明】として、「【図8】本発明の試験1及び試験2に使用される深溝玉軸受の概略断面図である。」及び「【図9】本発明の第2実施形態の軸受における数値限定の意義を検証する第1の試験結果を示すグラフである。」と記載されている。また、明細書の段落【0061】及び【0064】の記載から、【図9】は【図8】に示す深溝玉軸受の試験結果であることが理解できる。 そして、図面の【図8】には、段差状の切欠きを設けたものが記載されているところ、上記(ア)で述べたとおり、訂正後の請求項5及び9に記載された本件発明は「テーパ状の切欠き」を有するものと特定されたため、【図8】に記載のものは本件発明に含まれないものとなった。 そこで、訂正事項12は段落【0071】【図8】の説明から「本発明の」との記載を削除し、訂正事項13は段落【0071】【図9】の説明の「本発明の第2実施形態」を「図8」とすることで、明細書の記載と特許請求の範囲の記載とを整合を図ろうとするものである。 よって、訂正事項12及び13は、特許法第126条第1項ただし書第3号に規定する「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものといえる。 イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正か否か 訂正事項10?13は、明細書の記載を訂正事項1?3による訂正後の特許請求の範囲の記載と整合するようにする訂正であるので、訂正事項2及び3についての判断と同様に、願書に添付した特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではない。 よって、訂正事項10?13は、特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 (11)特許出願の際独立して特許を受けることができるか否か 訂正事項1?7は、特許法第126条第1項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるから、訂正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される請求項5、9?13に係る発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて検討すべきところ、当該発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由を発見しない。 よって、訂正事項1?7は、特許法第126条第7項の規定に適合する。 5 むすび 以上のとおりであるから、本件訂正審判の請求に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第5項ないし第7項の規定に適合する。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 深溝玉軸受 【技術分野】 【0001】 本発明は、深溝玉軸受に関し、特に自動車のトランスミッション等の高速回転で使用される深溝玉軸受に関するものである。 【背景技術】 【0002】 従来の深溝玉軸受は、図11に示すように、外周面に内輪軌道溝101aを有する内輪101と、内周面に外輪軌道溝102aを有する外輪102と、内輪軌道溝101aと外輪軌道溝102aとの間に転動自在に配置された複数の玉103と、円環部104a及び該円環部104aの片方の軸方向端面に突設され、先端に爪部を備えた柱部104bを有し、該柱部104b間に形成された球面ポケット104cに玉103を収容する樹脂製の冠型保持器104と、を有する。玉103は、冠型保持器104によって円周方向に所定の間隔で保持され、保持器104と共に公転する。 【0003】 このような深溝玉軸受は、例えば、自動車の変速機等の回転部に使用される場合、ポンプ等で潤滑油を供給する強制潤滑方式で使用されることが多く、潤滑油は軸受の内部を軸方向に貫通して流れ、変速機ユニット内を潤滑している。 【0004】 ところで、この深溝玉軸受を高速回転させると、遠心力により、図12(a)、(b)に示すように、冠型保持器104の円環部104aを捩れ軸として、柱部104bが外径側に開くため、冠型保持器104の球面ポケット104cの内径側と玉103との接触面圧が増大し、ポケット104cの内径側部分104pが摩耗し、発熱が大きくなるという問題が発生する。 【0005】 また、ポケット104cの内径側部分104pの摩耗が進行すると、冠型保持器104の振れ回りが大きくなり、冠型保持器104が振動したり、また、図13に示すように、冠型保持器104の外径側と外輪102の内周面とが接触して、柱部104bが摩耗し、最悪の場合は保持器104が破損するという問題も発生する。 【0006】 一方、図14に示すように、冠型保持器104の球面ポケット104cの中心Oを冠型保持器104の径方向幅の中心T1よりも外径側に配置、つまり、冠型保持器104の径方向の全幅寸法をQとした場合に、球面ポケット104cの中心Oより外側の幅Q2よりも内側の幅Q1を大きくして、内径側の玉抱え込み量を大きく確保することで、冠型保持器104の外径側への捩れ変形を抑制することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。 【特許文献1】実開平5-34317号公報 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0007】 しかしながら、図14に示した特許文献1の深溝玉軸受において、軸受を高速回転させたときには、球面ポケット104cの内径側が遠心力によって潤滑油不足になることで摩耗し、最終的には捩れ変形を抑えられなくなり、上記した振れ回りによる問題が発生する虞がある。 【0008】 また、冠型保持器104の内周部に潤滑油を供給するため、内輪101側に直接潤滑油ノズルを近づけて配置することが考えられるが、潤滑ノズルが別途必要となるため、設置スペースが必要となるなどのデメリットがある。 【0009】 本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、潤滑ノズル等の余分なスペースやコストのかかる装置を使用せずに、潤滑不足になりやすい箇所に確実に潤滑油を供給することができ、高速回転時にも軸受寿命の長期化を図ることのできる深溝玉軸受を提供することにある。 【課題を解決するための手段】 【0010】 前述した目的を達成するために、本発明に係る深溝玉軸受は、下記(1)?(6)を特徴としている。 (1) 外周面に内輪軌道溝を有する内輪と、内周面に外輪軌道溝を有する外輪と、前記外輪軌道溝と前記内輪軌道溝との間に転動自在に配置された複数の玉と、該複数の玉を円周方向に所定の間隔で保持する保持器と、を有し、軸受内部を潤滑するための潤滑油が、前記玉に対して軸方向一方側から供給され、前記玉に対して軸方向他方側から排出される環境下で使用される深溝玉軸受において、 前記軸方向一方側のみに設けられた、前記外輪の内周面に固定された状態で前記内輪の肩部に向けて延びる環状板をさらに有し、 前記環状板の内周部と前記内輪の外周部との間には、前記軸受内部に前記潤滑油を供給するための環状の開口部が形成され、 前記環状板は、軸受幅寸法内に収まるように配置され、 前記保持器は、円環部及び該円環部の片方の軸方向端面に突設された複数の柱部を有し、該柱部間に形成された球面ポケットに前記玉を収容することで前記玉を円周方向に所定の間隔で保持する樹脂製の冠型保持器であり、 前記冠型保持器の前記円環部は、前記軸方向一方側に向けて配置され、前記環状板の内周部と対向する前記内輪の肩部にテーパ状の切欠きが設けられていることを特徴とする深溝玉軸受。 (2) 外周面に内輪軌道溝を有する内輪と、内周面に外輪軌道溝を有する外輪と、前記外輪軌道溝と前記内輪軌道溝との間に転動自在に配置された複数の玉と、該複数の玉を円周方向に所定の間隔で保持する保持器と、を有し、軸受内部を潤滑するための潤滑油が、前記玉に対して軸方向一方側から供給され、前記玉に対して軸方向他方側から排出される環境下で使用される深溝玉軸受において、 前記軸方向一方側のみに設けられた、前記外輪に固定された状態で前記内輪の肩部に向けて延びる環状板をさらに有し、 該環状板の内周部と前記内輪の外周部との間には、前記軸受内部に前記潤滑油を供給するための環状の開口部が形成され、 前記環状板は、ハウジングに一体に設けられ、 前記保持器は、円環部及び該円環部の片方の軸方向端面に突設された複数の柱部を有し、該柱部間に形成された球面ポケットに前記玉を収容することで前記玉を円周方向に所定の間隔で保持する樹脂製の冠型保持器であり、前記環状板の内周部と対向する前記内輪の肩部にテーパ状の切欠きが設けられることを特徴とする深溝玉軸受。 (3) 前記冠型保持器の径方向幅の中央位置が、前記玉の中心よりも軸受の内径側に偏っていることを特徴とする(1)または(2)に記載の深溝玉軸受。 (4) 前記玉の中心が、前記内輪と外輪の軸方向幅の中心位置よりも、前記軸方向他方側にオフセットされていることを特徴とする(1)?(3)のいずれかに記載の深溝玉軸受。 (5) 前記環状板の内周部に、軸受内部側に折り曲げられた折り曲げ壁が設けられていることを特徴とする(1)?(4)のいずれかに記載の深溝玉軸受。 (6) 前記保持器の球面ポケットの内周部のエッジに面取りまたは曲面が形成されていることを特徴とする(1)?(5)のいずれかに記載の深溝玉軸受。 【発明の効果】 【0011】 上記構成の深溝玉軸受によれば、外輪側に固定された環状板の内周部と内輪の外周部との間の軸方向一方側に、軸受内部に潤滑油を供給するための環状の開口部が形成されているので、その環状の開口部から軸受内部に入り込んだ潤滑油が、保持器の内径側に流入した後に、遠心力によって、玉と保持器の摺動部に流れ込み、さらに遠心力によって流速を増した状態で、開放された内外輪間の軸方向他方側の環状の開口部から軸受外部に排出される。このように、軸受内部に供給された潤滑油が、遠心力によって、保持器の内周側から玉と保持器の摺動部に流れ込むため、潤滑ノズル等の余分なスペースやコストのかかる装置を使用せずに、高速回転時に発生しやすい玉との摺動による保持器の摩耗を抑制することができる。その結果、保持器の振れ回りを防止することができ、軸受の長寿命化を図ることができる。また、遠心力によって流速を増した状態で潤滑油を軸受外部に排出することができるので、潤滑油の入れ替わりを効果的に行うことができ、軸受の温度上昇およびトルク増加を防止することができる。 【0012】 また、樹脂製の冠型保持器は射出成形が可能であるため、大量生産ができ、コストを抑制することができる。なお、冠型保持器は、低トルク化の観点から、玉案内にするのが望ましい。冠型保持器の円環部は、軸方向一方側に向けて配置されているので、この円環部の内周側に沿って潤滑油を玉と保持器の摺動部に流れ込みやすくなる。 【0013】 また、冠型保持器の径方向幅の中央位置を、玉の中心よりも軸受の内径側に偏らせたので、冠型保持器による玉の抱え込み量を増やすことができ、冠型保持器の捩れ変形を抑制することができる。 【0014】 また、玉の中心を軸方向他方側である潤滑油の排出側にオフセットしているので、軸方向一方側である潤滑油の供給側に配置した環状板と玉との間の距離を大きくとることができる。従って、玉と環状板との間隔が開くことにより、潤滑油の供給側を向いた冠型保持器の円環部の軸方向の厚さ、つまり、球面ポケットの底厚を大きくすることができる。その結果、冠型保持器の剛性をアップさせることができ、冠型保持器の振れ回り変形を抑制することができる。 【0015】 また、環状板が配設された側の内輪の肩部に、テーパ状の切欠きが設けられているので、潤滑油の流入する環状の開口部を大きめに確保しつつ、環状板の内径をより小さくすることができる。その結果、保持器の内径側に潤滑油を確実に導入することができ、球面ポケットと玉との摺動部へ潤滑油を導きやすくなる。 【0016】 また、環状板の内周部に軸受内部側に延びる折り曲げ壁があるので、環状板の内周部と内輪の外周部との間に確保された環状の開口部から流入する潤滑油を、遠心力に負けずに、保持器の内周部の方向に積極的に導くことができる。 【0017】 また、保持器の球面ポケットの内周部のエッジに面取りまたは曲面が形成されるので、エッジが玉に接触した場合にも、保持器側の応力集中を緩和することができ、保持器の摩耗を減らすことができる。特に、保持器の内径が小さくなった場合、エッジがシャープになるが、そのエッジに面取りまたは曲面を形成することにより、摩耗の軽減を図ることができる。 【0018】 また、環状板の内径を玉の公転直径以下、より好ましくは、保持器の内径以下としているので、環状板により潤滑油を必要箇所に送り込む性能を向上させることができ、軸受の潤滑状態をよくすることができる。 【0019】 また、内輪の外周部と環状板の内周部との最短距離を玉の直径の9%以上としているので、保持器の振れ回り低減を図ることができる。 【0020】 また、内輪の外周部と環状板の内周部との最短距離を玉の直径の11%以上としているので、より確実に保持器の振れ回りを低減することができる。 【0021】 また、環状板をハウジングと一体に設けたので、部品点数を削減することができる。 【0022】 また、環状板の外周近傍に設けた通孔を設けることで、この通孔を通して、潤滑油が自由に逃げることができるので、軸受内部外周側の潤滑油の交換効率が上がり、発熱防止を図ることができる。 【発明を実施するための最良の形態】 【0023】 以下、本発明の深溝玉軸受に係る好適な実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。 【0024】 <第1実施形態> 【0025】 図1に示すように、この深溝玉軸受は、外周面に内輪軌道溝1aを有する内輪1と、内周面に外輪軌道溝2aを有する外輪2と、内輪軌道溝1aと外輪軌道溝2aとの間に転動自在に配置された複数の玉(鋼球)3と、玉3を円周方向に所定の間隔で保持する樹脂製の冠型保持器4と、内輪1と外輪2の軸方向の一方の端面側に設けられた薄板よりなる環状板5と、を備えている。 【0026】 冠型保持器4は、図2に示すように、円環部4aと、該円環部4aの片方の軸方向端面に突設されて一定間隔で並ぶ複数の柱部4bと、隣接する柱部4b間に確保された球面状内側面を有する球面ポケット4cと、を備えるものであり、玉3を各球面ポケット4cに収容することで、玉3を円周方向に所定の間隔で保持している。 【0027】 冠型保持器4を構成する樹脂の例としては、46ナイロンや66ナイロンなどのポリアミド系樹脂、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェレンサルサイド(PPS)、ポリアミドイミド(PAI)、熱可塑性ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルニトリル(PEN)などが挙げられる。また、上記した樹脂に10?50wt%の繊維状充填材(例えば、ガラス繊維や炭素繊維など)を適宜添加することにより、冠型保持器4の剛性および寸法精度を向上させることができる。 【0028】 また、この冠型保持器4は、好ましくは多点ゲートの射出成形で製作する。そうすれば、冠型保持器4の寸法精度を、1点ゲートのものに比べて向上させることができる。また、多点ゲートで製作することで、ウェルド部を保持器の最弱部位であるポケット底からずらすことができるので、ウェルド部による強度低下を防止できる。 【0029】 この深溝玉軸受は、軸受内部を潤滑するための潤滑油が、玉3に対して軸方向一方側Aから供給され、玉3に対して軸方向他方側Bから排出されるような環境下で使用される。そして、冠型保持器4は、円環部4aを軸方向一方側である潤滑油の供給側Aに向けるように配置されており、供給された潤滑油を円環部4aの内周面に沿って、玉3と保持器4の摺動部に導くことができる。 【0030】 また、外輪2の潤滑油の供給側Aには、環状板5が加締め固定されている。環状板5は、外輪2の外輪軌道溝2aの側方の肩部に形成された係合溝2bに外周端5aを係合させることにより外輪2に固定されており、環状板部5bを内輪1の内輪軌道溝1aの側方の肩部1bに向けて延ばしている。そして、環状板5の内周部5cと内輪1の肩部1bの外周部との間に、潤滑油が供給される環状の開口部10が形成される。 【0031】 この場合、環状板5の内周部5cと対向する内輪1の肩部1bにはテーパ状の切欠き1cが設けられており、テーパ状の切欠き1cの外周面と環状板5の内周部5cとの間に、潤滑油の供給される環状の開口部10が形成される。このテーパ状の切欠き1cは、潤滑油の流入性向上のために、冠型保持器4の球面ポケットの底よりも軸方向内側まで延びている。 【0032】 また、図3(a)に示すように、冠型保持器4の径方向幅の中央位置4hは、玉3の抱きかかえ量を増やすため、玉3の中心Oよりも軸受の内径側に偏っている。このように、保持器4の径方向幅の中心が玉3の中心と一致する場合(図3(b)参照)と比較して、冠型保持器4を内径側に偏在させて、玉3の抱きかかえ量を大きくすると、冠型保持器4が遠心力によって外側に広がるときに、保持器4の内周部のエッジ4eと玉3との径方向隙間e2を、図3(b)の隙間e1より小さくできる。従って、外径側への保持器4の変形を小さく抑えることができ、その結果、図3(b)のように抱え込み量が小さい場合よりも、捩れ変形を抑制でき、保持器4の外輪2との接触を防止できる。 【0033】 また、内輪1の外径面と保持器4の内周部との距離が小さくなることにより、内輪1の外径面が保持器4の回転のガイド作用をなし、保持器4の半径方向のガタを抑制して、保持器4の振れ回りを防止する効果を期待できる。なお、通常回転時には、保持器4は玉案内され、保持器4と内輪1は接触しないため、軸受トルクが増加することがない。また、保持器4に衝撃力などの突発的な力が加わった場合には、保持器4と内輪1が接触する可能性があるが、その場合でも、保持器4が外輪2と接触する場合に比べて、軸受トルクの増加が少なくてすむ。なお、特に衝撃力が作用する条件下で使用される場合には、保持器4の案内を玉案内から内輪案内に変更してもかまわない。 【0034】 さらに、図4(a)に示すように、球面ポケット4cの内周部のエッジ4eには曲面が付けられている。上記したように、保持器4の内径が小さくなると、図4(a)の仮想線のように、球面ポケット4cの内周部のエッジ4eが鋭角的になり、この部分が摩耗しやすくなる。そこで、本実施形態のように、断面曲面状のエッジ4eとすることで、摩耗を防止することができる。なお、図4(b)や図4(c)に示すように、エッジ4eには、面取りが施されてもよく、また、これらの場合、玉3が保持器4に接触しやすい球面ポケット4cの底や爪先端にのみ、部分的に曲面や面取りを設けてもよい。また、図4(c)に示す円筒形状の面取りの場合には、図4(a)や図4(b)に示すような曲面や面取りに比べ、射出成形用の金型の製作が容易であり、コストが抑えられるためより好ましい。 【0035】 また、図1に示すように、本実施形態の深溝玉軸受では、玉3の中心Oが、内輪1と外輪2の軸方向幅の中心位置Lよりも、潤滑油の排出側Bに適当な寸法Fだけオフセットされている。このように玉3の位置を潤滑油の排出側Bにオフセットした場合、潤滑油の供給側Aに配設した環状板5と玉3の間の軸方向距離が開く。従って、その分だけ、冠型保持器4の球面ポケット4cの底厚J(円環部4aの肉厚)を大きく確保することができる。このように、保持器4の球面ポケット4cの底厚Jを増やすと、それだけ冠型保持器4の剛性アップを図ることができ、遠心力による捩れ変形を抑制する効果が高まる。 【0036】 また、本実施形態の深溝玉軸受では、環状板5の内周部に、軸受内部側に折り曲げられた折り曲げ壁5dが設けられている。このように軸受内部側に延びる折り曲げ壁5dを設けると、環状の開口部10から流入した潤滑油が、遠心力により直ぐに外径側に向かわずに、折り曲げ壁5dに誘導されて、冠型保持器4の内周部に向かうようになり、潤滑の必要な部位に積極的に潤滑油を流れ込ませることができる。 【0037】 また、環状板5の内周部5cの内径Dsは、玉3の公転直径PCD以下、より好ましくは、冠型保持器4の内径Dh以下としている。 【0038】 また、環状の開口部10を形成している内輪1の外周部と環状板5の内周部5cとの最短距離yは、玉3の直径Dwの9%以上、より好ましくは11%以上に設定されている。この場合、最短距離yは、環状板5の内径をDs、内輪1の肩部1bの外径をD1とした場合、 y=(Ds-D1)/2 となる。 【0039】 本実施形態の深溝玉軸受によれば、外輪2に固定された環状板5の内周部5cと内輪1の外周部との間の軸方向供給側に、環状の開口部10が形成されているので、その環状の開口部10から軸受内部に潤滑油を導入することができる。そして、軸受内部に入り込んだ潤滑油は、冠型保持器4の内径側に流入した後に、遠心力によって、玉3と保持器4の摺動部に流れ込み、さらに遠心力によって流速を増した状態で、開放された内外輪1、2間の軸方向排出側の環状の開口部から軸受外部に排出される。なお、図1中の矢印は潤滑油の流れを示している。 【0040】 このように、軸受内部に供給された潤滑油が、遠心力によって、冠型保持器4の内径側から玉3と保持器4の摺動部に流れ込むため、潤滑ノズル等の余分なスペースやコストのかかる装置を使用せずに、高速回転時に発生しやすい玉3との摺動による保持器4の摩耗を抑制することができる。その結果、冠型保持器4の振れ回りを防止することができ、軸受の長寿命化を図ることができる。また、遠心力によって流速を増した状態で潤滑油を軸受外部に排出することができるので、潤滑油の入れ替わりを効果的に行うことができ、軸受の温度上昇およびトルク増加を防止することができる。 【0041】 また、樹脂製の冠型保持器4は射出成形が可能であるため、大量生産ができ、コストを抑制しながら、潤滑状態の改善を図ることができる。また、玉案内である冠型保持器4は、低トルク化に寄与することができる。 【0042】 また、環状板5の内径Dsを、冠型保持器4の内径Dh以下とすることで、環状の開口部10から軸受内部に入り込んだ潤滑油が、冠型保持器4の内径側により確実に流入することができる。 【0043】 また、本実施形態の深溝玉軸受によれば、冠型保持器4の径方向幅の中央位置4hを、玉3の中心Oよりも軸受の内径側に偏らせているので、冠型保持器4による玉3の抱え込み量を増やすことができ、冠型保持器4の捩れ変形を抑制することができる。 【0044】 また、玉3の中心Oを潤滑油の排出側Bにオフセットしているので、潤滑油の供給側Aに配置した環状板5と玉3との間の距離を大きくとることができ、玉3と環状板5との間隔が開くことにより、潤滑油の供給側Aを向いた冠型保持器4の円環部4aの軸方向の厚さ、つまり、球面ポケット4cの底厚Jを大きくすることができる。その結果、冠型保持器4の剛性をアップさせることができ、冠型保持器4の振れ回り変形を抑制することができる。 【0045】 また、環状板5が配設された側の内輪1の肩部1bに、テーパ状の切欠き1cを設けているので、潤滑油の流入する環状の開口部10を大きめに確保しつつ、環状板5の内径Dsを小さくすることができる。その結果、冠型保持器4の内径側に潤滑油を確実に導入することができ、球面ポケット4cと玉3との摺動部へ潤滑油を導きやすくなる。 【0046】 また、環状板5の内周部5cに軸受内部側に延びる折り曲げ壁5dを設けているので、環状板5の内周部5cと内輪1の外周部との間に確保された環状の開口部10から流入する潤滑油を、遠心力に負けずに、冠型保持器4の内周部の方向に積極的に導くことができる。 【0047】 また、冠型保持器4の球面ポケット4cの内周部のエッジ4eに面取りまたは曲面が形成されるので、エッジ4eが玉3に接触した場合にも、保持器4側の応力集中を緩和することができ、保持器4の摩耗を減らすことができる。特に、冠型保持器4の内径が小さくなった場合、エッジ4eがシャープになるが、そのエッジ4eに面取りまたは曲面を形成することにより、摩耗の軽減を図ることができる。 【0048】 また、環状板5の内径Dsを玉3の公転直径PCD以下、より好ましくは、冠型保持器の内径以下としているので、環状板5により潤滑油を必要箇所に送り込む性能を向上させることができ、軸受の潤滑状態をよくすることができる。特に、内輪1の外周部と環状板5の内周部5cとの最短距離yを玉3の直径Dwの9%以上とした場合は、冠型保持器4の振れ回り低減を図ることができるし、内輪1の外周部と環状板5の内周部5cとの最短距離yを玉3の直径Dwの11%以上とした場合は、より確実に冠型保持器4の振れ回りを低減することができる。 【0049】 <第2実施形態> 図5は第2実施形態の深溝玉軸受の要部断面図である。 この深溝玉軸受では、外輪2の内周部より内径側の環状板5の外周近傍に、潤滑油の通過を許容する通孔5eが設けられている。このように構成することで、環状板5の外周近傍に設けた通孔5eを通して潤滑油が自由に逃げることができるので、軸受内部外周側の軸受内部の領域Gにおいて、潤滑油の交換効率を上げることができ、その部分の発熱防止を図ることができる。その他の構成及び効果は、第1実施形態のものと同様である。 【0050】 なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。 【0051】 図6(a)?(e)は、深溝玉軸受の第1?第5変形例を示す概略構成図である。なお、これらの構成は、以下に説明する部分を除いて、上記実施形態と同様の構成及び効果を有する。 【0052】 図6(a)の第1変形例に係る深溝玉軸受は、内輪1の肩部1bに、テーパ状の切欠き1cの代わりに、段差状の切欠き1dを設けている。 【0053】 図6(b)の第2変形例に係る深溝玉軸受は、内輪1の肩部1bに、テーパ状の切欠き1cの代わりに、段差状の切欠き1dを設け、折り曲げ壁5dを、冠型保持器4の円環部4aの内周側に入る位置まで延ばしたものである。 【0054】 図6(c)の第3変形例に係る深溝玉軸受は、内輪1の肩部1bに、テーパ状の切欠き1cの代わりに、段差状の切欠き1dを設け、環状体5の内周部5cに折り曲げ壁5dがない構成である。この場合は、折り曲げ壁5dがないので、環状の開口部10から流入した潤滑油が、遠心力によって外径方向に行きがちであるが、環状の開口部10から軸受内部に流入する時点で、潤滑油には運動エネルギーが付与されているので、十分に冠型保持器4の内周部に潤滑油を導くことができる。 【0055】 図6(d)の第4変形例に係る深溝玉軸受は、内輪1の肩部1bに切欠きが無い構成であり、冠型保持器4の内周部と内輪1の外径面が接近する。また、環状体5の内周部5cに折り曲げ壁5dがない構成である。 【0056】 図6(e)の第5変形例に係る深溝玉軸受は、内輪1の肩部1bに切欠き1dが無い構成である。また、冠型保持器4は、保持器4の径方向幅の中心が玉3の中心と一致するものが使用され、冠型保持器4の内周部と内輪1の外径面との接触を抑制している。また、この保持器4を使用することで、環状板5の内径は、保持器4の内径より小さくなり、保持器4の内周側と内輪1との間に潤滑油が通りやすくなる。 【0057】 さらに、図7(a)?(d)は、本発明の深溝玉軸受の第6?第9変形例を示す概略構成図である。例えば、上述した実施形態では、外輪2の肩部に直接、環状板5が取り付けられているが、図7(a)、(b)に示す第6及び第7変形例のように、外輪2の外側面に側板35、45を配設して、その側板35に設けた環状凸部35aや側板45そのものを環状板として用いてもよい。また、図7(c)、(d)に示す第8及び第9変形例のように、外輪2を固定するハウジング50、60に内向きフランジ部55、65を設け、そのフランジ部55に設けた環状凸部35aやフランジ部65そのものを環状板として用いてもよい。 【0058】 このように構成することで、部品点数を削減することができ、また、環状板の外周端を外輪の係合溝に加締める工程も省略でき、コストが削減できる。また、これら第6?第9変形例では、外輪2に環状板が固定される構成と比べて、内輪1と外輪2との間の軸方向一方側にスペースを設けやすく、保持器4の円環部4aを厚くすることができる。 【0059】 さらに、上記実施形態では、環状板として、内輪1の肩部1bの外周面と非接触な遮蔽板が使用されているが、接触シールを使用する場合には、環状板の内周部側に供給孔が設けられてもよい。 【0060】 また、使用される保持器としては、波型プレス保持器や2つの部材を係合してなる組み合わせ型の保持器など、他の保持器にも適用できる。 【実施例】 【0061】 次に、図8に示す深溝玉軸受を用いて、保持器半径方向ガタ測定試験の例について述べる。なお、この深溝玉軸受は、図6(c)に示す第3変形例に係るものと略同様の構成であり、試験1では、内輪1の肩部1bの端部外径D1を変化させ、試験2では、環状板15の内径Dsを変化させている。 【0062】 <試験1> 本試験1では、環状板15の内径Dsを51.8mmに固定し、内輪1の肩部1bの端部外径D1を変化させることにより、y/Dw(隙間/玉径)を変化させ、摩耗量の指針として、新品と比べた保持器半径方向ガタ増加量を調査した。なお、軸受構成及び試験条件は、以下の通りである。 【0063】 <軸受構成> ・ 軸受形式:6909(PCD=56.5mm) ・ 玉径:6.7mm ・ 保持器:球面ポケットを有する冠型保持器 ・ 保持器材料:ガラス繊維25%強化46ナイロン ・ 保持器円環部と環状板の環状板部間の距離Db:1mm ・ 保持器内径Dh:51.8mm <試験条件> ・回転数:30000rpm ・給油温度:120℃ ・潤滑方法VG24の鉱油を強制潤滑給油(0.1L/min) ・荷重:2500N ・試験時間:20Hr 【0064】 結果は、表1及び図9の通りであった。 【0065】 【表1】 【0066】 図9に示した摩耗試験結果により、y/Dwが9%以上となると、深溝玉軸受の振れ回り開始時間の向上がほぼ飽和し、y/Dwが11%以上となると、振れ回り開始時間の向上が完全に飽和することが分かる。これより、y/Dwは9%以上、好ましくは11%以上であると、振れ回り低減に対して大きな効果が得られることが検証された。また、y/Dwが3%以下だと、環状の開口部10が狭すぎて、潤滑油が十分に供給できずに軸受が焼きついた。 【0067】 <試験2> 本試験2では、図8に示すような深溝玉軸受において、内輪1の外径D1を48.4mmに固定し、環状板15の内径Dsを変化させ、摩耗量の指針として、新品と比べた保持器半径方向ガタ増加量を調査した。但し、y/Dwは、常に試験1において飽和領域となる11%以上に設定している。なお、軸受構成及び試験条件は試験1と同様である。 【0068】 結果は、表2及び図10の通りであった。 【0069】 【表2】 【0070】 図10に示した摩耗試験結果により、環状板の内径を軸受PCD以下にし始めた辺りから摩耗量が減少していることが分かる。これは保持器4の間に潤滑油が流入し難くなり、潤滑油の多くが保持器4の内径に流れ始めるからであると考えることができる。この効果は、環状板15の内径Dsを保持器4の内径Dh以下にするとほぼ飽和している。これらのことより、環状板15の内径Dsは、軸受PCD以下、好ましくは保持器4の内径Dh以下にすべきであることが分かる。 【図面の簡単な説明】 【0071】 【図1】本発明の第1実施形態の深溝玉軸受の要部断面図である。 【図2】冠型保持器の構成例を示す斜視図である。 【図3】(a)は、本実施形態の冠型保持器の径方向幅の中心位置が玉の中心より内径側に偏っている場合、(b)は冠型保持器の径方向幅の中心位置が玉の中心に一致する場合をそれぞれ示す図である。 【図4】前記冠型保持器の球面ポケットの内周部のエッジの処理の仕方を示す図で、(a)はエッジに曲面を付けた場合を示す図、(b)はエッジに面取りを施した場合を示す図、(c)はエッジに他の面取りを施した場合を示す図である。 【図5】本発明の第2実施形態の深溝玉軸受の要部断面図である。 【図6】(a)?(e)は、第1?第5変形例に係る深溝玉軸受を示す要部概略断面図である。 【図7】(a)?(d)は、本発明の第6?第9変形例に係る深溝玉軸受を示す要部概略断面図である。 【図8】試験1及び試験2に使用される深溝玉軸受の概略断面図である。 【図9】図8の軸受における数値限定の意義を検証する第1の試験結果を示すグラフである。 【図10】同軸受の第2の試験結果を示すグラフである。 【図11】従来の冠型保持器を有した深溝玉軸受の要部断面図である。 【図12】(a)及び(b)は冠型保持器の問題点の説明のために示す円周方向断面図及び軸方向断面図である。 【図13】冠型保持器が摩耗した場合の問題点を説明するための図である。 【図14】(a)は従来の冠型保持器の例を示す断面図、(b)は外周から見た部分側面図である。 【符号の説明】 【0072】 1 内輪 1a 内輪軌道溝 1b 肩部 1c テーパ状の切欠き 1d 段差状の切欠き 2 外輪 2a 外輪軌道溝 3 玉 4 冠型保持器 4a 円環部 4b 柱部 4c ポケット 4e エッジ 4h 冠型保持器の径方向幅の中心位置 5,35,45,55,65 環状板 5c 内周部 5d 折り曲げ壁 10 環状の開口部 O 玉の中心 L 内輪と外輪の軸方向幅の中心 D1 内輪の外径 Ds 環状板の内径 Dh 冠型保持器の内径 PCD 玉の公転直径 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】(削除) 【請求項2】(削除) 【請求項3】(削除) 【請求項4】(削除) 【請求項5】 外周面に内輪軌道溝を有する内輪と、内周面に外輪軌道溝を有する外輪と、前記外輪軌道溝と前記内輪軌道溝との間に転動自在に配置された複数の玉と、該複数の玉を円周方向に所定の間隔で保持する保持器と、を有し、軸受内部を潤滑するための潤滑油が、前記玉に対して軸方向一方側から供給され、前記玉に対して軸方向他方側から排出される環境下で使用される深溝玉軸受において、 前記軸方向一方側のみに設けられた、前記外輪の内周面に固定された状態で前記内輪の肩部に向けて延びる環状板をさらに有し、 前記環状板の内周部と前記内輪の外周部との間には、前記軸受内部に前記潤滑油を供給するための環状の開口部が形成され、 前記環状板は、軸受幅寸法内に収まるように配置され、 前記保持器は、円環部及び該円環部の片方の軸方向端面に突設された複数の柱部を有し、該柱部間に形成された球面ポケットに前記玉を収容することで前記玉を円周方向に所定の間隔で保持する樹脂製の冠型保持器であり、 前記冠型保持器の前記円環部は、前記軸方向一方側に向けて配置され、 前記環状板の内周部と対向する前記内輪の肩部にテーパ状の切欠きが設けられていることを特徴とする深溝玉軸受。 【請求項6】(削除) 【請求項7】(削除) 【請求項8】(削除) 【請求項9】 外周面に内輪軌道溝を有する内輪と、内周面に外輪軌道溝を有する外輪と、前記外輪軌道溝と前記内輪軌道溝との間に転動自在に配置された複数の玉と、該複数の玉を円周方向に所定の間隔で保持する保持器と、を有し、軸受内部を潤滑するための潤滑油が、前記玉に対して軸方向一方側から供給され、前記玉に対して軸方向他方側から排出される環境下で使用される深溝玉軸受において、 前記軸方向一方側のみに設けられた、前記外輪に固定された状態で前記内輪の肩部に向けて延びる環状板をさらに有し、 該環状板の内周部と前記内輪の外周部との間には、前記軸受内部に前記潤滑油を供給するための環状の開口部が形成され、 前記環状板は、ハウジングに一体に設けられ、 前記保持器は、円環部及び該円環部の片方の軸方向端面に突設された複数の柱部を有し、該柱部間に形成された球面ポケットに前記玉を収容することで前記玉を円周方向に所定の間隔で保持する樹脂製の冠型保持器であり、 前記環状板の内周部と対向する前記内輪の肩部にテーパ状の切欠きが設けられていることを特徴とする深溝玉軸受。 【請求項10】 前記冠型保持器の径方向幅の中央位置が、前記玉の中心よりも軸受の内径側に偏っていることを特徴とする請求項5または9に記載の深溝玉軸受。 【請求項11】 前記玉の中心が、前記内輪と外輪の軸方向幅の中心位置よりも、前記軸方向他方側にオフセットされていることを特徴とする請求項5、9又は10のいずれか1項に記載の深溝玉軸受。 【請求項12】 前記環状板の内周部に、軸受内部側に折り曲げられた折り曲げ壁が設けられていることを特徴とする請求項5、9?11のいずれか1項に記載の深溝玉軸受。 【請求項13】 前記保持器の球面ポケットの内周部のエッジに面取りまたは曲面が形成されていることを特徴とする請求項5、9?12のいずれか1項に記載の深溝玉軸受。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審理終結日 | 2018-11-05 |
結審通知日 | 2018-11-07 |
審決日 | 2018-11-20 |
出願番号 | 特願2007-337771(P2007-337771) |
審決分類 |
P
1
41・
856-
Y
(F16C)
P 1 41・ 851- Y (F16C) P 1 41・ 854- Y (F16C) P 1 41・ 855- Y (F16C) P 1 41・ 853- Y (F16C) P 1 41・ 857- Y (F16C) |
最終処分 | 成立 |
特許庁審判長 |
大町 真義 |
特許庁審判官 |
小関 峰夫 平田 信勝 |
登録日 | 2012-06-15 |
登録番号 | 特許第5012498号(P5012498) |
発明の名称 | 深溝玉軸受 |
代理人 | 松山 美奈子 |
代理人 | 松山 美奈子 |